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関連審決 異議2000-72035
関連ワード 共同開発 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  置き換え /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 /  国際公開 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 71号 特許取消決定取消請求事件
原告A
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 山本春樹、佐藤秀一、武井袈裟彦、小林信雄、高橋泰 史、 大橋信彦、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
特許庁が異議2000-72035号事件について平成13年1月11日にした決定のうち「特許第2992578号の請求項1、2、4ないし8に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が特許権者である本件特許第2992578号(発明の名称「エネルギー貯蔵装置」)は、特許法41条に基づく優先権主張(優先日、平成2年7月8日特願平2-180299号、平成2年8月27日特願平2-224585号)を伴って、平成2年11月28日に特許出願され、平成11年10月22日に設定登録がされた。
本件特許の請求項1ないし8について異議の申立てがされ(異議2000-72035号事件)、原告は、平成12年12月6日に訂正請求をしたが、特許庁は、
平成13年1月11日、「訂正を認める。特許第2992578号の請求項1、
2、4ないし8に係る特許を取り消す。同請求項3に係る特許を維持する。」との決定をし、平成13年1月29日、その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の要旨 平成12年12月6日付けの訂正請求により訂正された特許請求の範囲の記載によれば、本件特許の各請求項に係る発明の要旨は以下のとおりである(各請求項に係る発明を請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、本件発明1ないし8を併せて「本件発明」という。)。
【請求項1】内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相(la)を結晶内に有する酸化物高温超電導体(1・1’・26a・26b)を収納配列する断熱容器(4・4’)と、 この断熱容器(4・4’)内を前記酸化物高温超電導体(1・1’・26a・26b)の臨界温度以下に保持するための冷媒を冷却する冷却装置(7)と、 同心円状の磁力線分布を有する磁石(3・17・17’・27a・27b・28a・28b・28c・28d)及びこの磁石(3・17・17’・27a・27b・28a・28b・28c・28d)に取り付け慣性力を高める重量物(2・16)を有する回転体(13・18)と、 少なくとも前記断熱容器(4・4’)を収納するとともに前記回転体(13・18)を回転自在に収納し、内部を減圧装置(8)によって高真空状態に保持する真空槽(6)と、 この真空槽(6)内の回転体(13・18)へ外部エネルギーにより回転力を付して回転体(13・18)の永続的な回転運動を行わしめ前記外部エネルギーを回転エネルギーとして貯蔵するとともに、その回転体(13・18)の回転エネルギーを外部へ取出す入出力装置(10・11)と を備えたことを特徴とするエネルギー貯蔵装置。 【請求項2】断熱容器(4・4’)内の酸化物高温超電導体(1・1’)に対向配置して回転体(18)に設けた磁石(17)により形成する磁界の磁気勾配が高まるように前記磁石(17)が配設される回転体(18)の半径方向について各磁石(17a・17b・17c・17d)を細分割したことを特徴とする請求項1に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項3】断熱容器(4)内に収容する酸化物高温超電導体(26a・26b)が互いに異なる半径で形成され、かつ互いに異なる半径で多数層に形成された各磁石(27a・27b・)間に前記酸化物高温超電導体(26a・26b)が配設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項4】磁石(3)が円盤状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項5】磁石(17・17’・28a・28b・28c)がリング状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項6】同心円状の磁力線分布を有する磁石として永久磁石(3・17・17’・28a・28b・28c)を用いたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項7】冷媒として液体窒素(5)を使用し、断熱容器(4・4’)内を少なくとも前記酸化物高温超電導体(1・1’・26a・26b)の臨界温度以下であって、液体窒素の沸点以下に保持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。 【請求項8】冷媒として液体ヘリウム(29)を使用し、断熱容器(4・4’)内を少なくとも前記酸化物高温超電導体(1・1’・26a・26b)の臨界温度以下であって、液体ヘリウムの沸点以下に保持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエネルギー貯蔵装置。」 3 決定の理由の要旨 決定は、本件発明1、2、4ないし8は、刊行物1(実願昭57-152156号(実開昭59-58227号)のマイクロフィルム、甲4)及び刊行物2(国際公開第90/3524号パンフレット(1990)、甲3参照)記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである、とした。その判断の理由の要旨は以下のとおりである(決定書の「理由」欄の「X.比較・検討」の記載を一部表記を改めたほかはそのまま引用する。ただし、特許が維持された本件発明3(請求項3に係る発明)についての判断部分は除く。) [本件発明1について] 本件発明1と、刊行物1記載の発明とを比較すると、一致点・相違点は次とおりである。
・一致点 刊行物1記載の発明において、「回転体」は、「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」からなる磁気軸受けによって、磁力を作用させ、事実上、空中に浮遊させられている(上記摘記した刊行物1の7頁1〜6行)。一方、本件発明1においては、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」と「同心円状の磁力線分布を有する磁石」からなる磁気軸受けによって、空中に浮遊させられている。したがって、両者の発明は、 「超電導部材を収納配列する断熱容器と、 この断熱容器内を前記超電導部材の臨界温度以下に保持するための冷媒を冷却する冷却装置と、 超電導部材との間で磁気的な力を発生する部材及びこの部材に取り付け慣性力を高める重量物を有する回転体と、 少なくとも前記断熱容器を収納するとともに前記回転体を回転自在に収納し、内部を減圧装置によって高真空状態に保持する真空槽と、 この真空槽内の回転体へ外部エネルギーにより回転力を付して回転体の永続的な回転運動を行わしめ前記外部エネルギーを回転エネルギーとして貯蔵するとともに、その回転体の回転エネルギーを外部へ取出す入出力装置と を備えたエネルギー貯蔵装置」 ・相違点 「超電導部材」として、本件発明1では「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「固定側超電導コイル」である。「超電導部材との間で磁気的な力を発生する部材」として、請求項1発明では「同心円状の磁力線分布を有する磁石」であるのに対し、刊行物1記載の発明では「回転側超電導コイル」である。
・相違点の検討 上記した相違点は、超伝導体を利用した磁気軸受けの構造にあるが、[刊行物2記載の発明]の項で示したように、相違点に相当する磁気軸受けが明確に記載されており、しかも上記摘記した刊行物2の3頁23〜33行の「はずみ車」がエネルギー貯蔵用のフライホールと同様のものであることも明らかであるから、本件発明1は、刊行物1記載の発明中の磁気軸受けを、刊行物2記載の発明で置き換えた程度のものにすぎず、また、そのことによって、格別な効果を奏するに至ったものとも認められない。したがって、本件発明1は、刊行物1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。なお、この点について、平成12年12月6日付け特許異議意見書において、特許権者は、刊行物2に記載の発明ではマイスナー効果によって磁気回転子を浮揚させるだけであり、本件発明のピン止め効果あるいはフィッシング効果によるものと異なり、容易に発明できない旨主張しているが、[刊行物2記載の発明]において摘記した5頁4〜14行、7頁15〜18行、13頁15〜14頁11行、14頁22行〜15頁19行の記載事項、FIG.2A〜D、FIG.3A〜D、及びFIG.4のプロットは、明らかに、刊行物2記載の発明において、ピン止め効果あるいはフィッシング効果が利用されていることを示しており、また、刊行物2記載の発明において利用した浮揚力がベアリングとして利用し得ること自体、本件出願以前に、周知であったことが、例えば、
平成2年6月19、20日発行の日経産業新聞「実用化への前進 高温超伝導磁石(上)(下)」等(特許異議申立人提出の甲6の1、2)で明らかでもあるから、
そのような主張を採用することはできない。
[本件発明2について] 本件発明2の構成については、刊行物2に明らかに記載されているから、[本件発明1について]に記載したのと同様の理由で、当業者が容易に発明できたものである。
[本件発明4について] 本件発明4の構成については、上記刊行物2のFIG.3A、FIG.3Cに明らかに記載されているから、[本件発明1について]に記載したのと同様の理由で、当業者が容易に発明できたものである。
[本件発明5について] 本件発明5の構成については、上記刊行物2に明らかに記載されているから、
[本件発明1について]に記載したのと同様の理由で、当業者が容易に発明できたものである。
[本件発明6について] 本件発明6の構成については、上記刊行物2に明らかに記載されているから、
[本件発明1について]、[本件発明4について]に記載したのと同様の理由で、
当業者が容易に発明できたものである。
[本件発明7について] 本件発明7の構成については、上記摘記した刊行物2第12頁17〜21行に明らかに記載されているから、[本件発明1について]に記載したのと同様の理由で、当業者が容易に発明できたものである。
[本件発明8について] 超伝導において、より低い冷媒を用いた方がよいのは技術的に自明のことであるから、冷媒としての液体ヘリウムの使用は単なる設計事項であり、また、「断熱容器内を少なくとも前記酸化物高温超伝導体の臨海温度以下であって、液体ヘリウムの沸点以下に保持すること」は、液体ヘリウムの使用に際して当然の事項でしかないから、本件発明8の構成については、上記[本件発明1について]に記載したのと同様の理由で、当業者が容易に発明できたものである。
原告の主張の要点
決定は、刊行物に記載された事項の認定を誤っているばかりでなく、相違点の認定も、進歩性の判断もことごとく誤っているから、取り消されるべきである。
1 刊行物1に記載された発明の認定の誤り(取消事由1) 決定は、刊行物1に、「固定側超電導コイルを収納配列する断熱容器と、この断熱容器内を前記固定側超電導コイルの臨界温度以下に保持するための冷媒を冷却する冷却装置と、
回転側超電導コイル及びこの回転側超電導コイルに取り付け慣性力を高める重量物を有する回転体と、少なくとも前記断熱容器を収納するとともに前記回転体を回転自在に収納し、内部を減圧装置によって高真空状態に保持する真空槽と、この真空槽内の回転体へ外部エネルギーにより回転力を付して回転体の永続的な回転運動を行わしめ前記外部エネルギーを回転エネルギーとして貯蔵するとともに、その回転体の回転エネルギーを外部へ取出す入出力装置とを備えたエネルギー貯蔵装置」(決定の5頁32行〜6頁3行)が記載されていると認定しているが、誤りである。 (1) 刊行物1の「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」からなる磁気軸受けは、ただ単に荷重を支えているだけのもので、機械式のガイド軸受け、
制御用磁気発生装置が必要なものであるから、これらの構成を含めて、刊行物1記載の発明を認定すべきである。
(2) 機械式のガイド軸受け、制御用磁気発生装置の構成を含めると、刊行物1記載の発明は、回転により摩擦抵抗が発生し、「回転体の永続的な回転運動を行わ」せることはできない。したがって、「回転体の永続的な回転運動」を認定している点でも、決定の認定は誤りである。
(3) さらに、刊行物1には、「冷媒を冷却する冷却装置」は開示されておらず、開示されているものは、ヘリウムガスを液化装置で液化し、液体ヘリウムを製造する機械である「ヘリウム液化機」にすぎない。この点でも決定の認定は、誤りである。
2 一致点の認定の誤り、相違点の看過(取消事由2) (1) 上記1のとおり刊行物1の認定に誤りがあるから、本件発明と刊行物1記載の発明との一致点に関する決定の認定は誤りである。
(2) 決定は、刊行物1に記載されている事項の認定を誤ったことにより、以下のアないしウの相違点を看過している。 ア 磁気軸受けに関して、本件発明1では、ピン止め力のみを使用した高温超電導磁気軸受けを使用しているので、フライホイールが浮上すると共に固定され、
無抵抗で回転し、「機械式のガイド軸受け」や「制御用磁気発生装置」(制御用磁気軸受け)が不要であるのに対し、刊行物1記載の発明では、「機械式のガイド軸受け」や「制御用磁気発生装置」が必要なものである点。
イ 本件発明1の本質的部分は、フライホイール装置などの回転装置には必ず必要であった「機械式の軸受け」を最初から省いた構成にしていることにあり、
「機械式の軸受け」がないので、無接触、無抵抗の永続的回転機構を実現し、フライホイールを永続的に回転させるのに対し、刊行物1のフライホイール装置では、
機械式ラジアル軸受けやガイド軸受けが上下に設けられてあるうえ、制御用磁気発生装置を使用しているので、機械的ロスや電気的ロスが発生して永続的には回転できないものである点。
ウ 本件発明1では、「冷媒を冷却する冷却装置」を備えるのに対し、刊行物1のフライホイール装置では、「ヘリウム液化機」を備えている点。
3 進歩性の判断の誤り(取消事由3) (1) 決定は、刊行物2に、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体、及び、同心円状の磁力線分布を有する磁石とを備えた超電導体軸受け」(決定の7頁33行〜36行)が開示されていると認定しているが、この認定は誤っており、この誤った認定に基づいて、相違点の判断を行ったものである。
ア 超伝導体について 刊行物2に記載された超電導体は、本件発明の超電導体と、物理原理が異なる物質である。決定は、作用・効果の相違を誤認したものである。
すなわち、刊行物2に記載されたものは、1:2:3の1相しか持たない構成の酸化物高温超電導体であるので、刊行物2に2相構成の「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」が開示されているということはできない。
刊行物2に記載された酸化物高温超電導体の製法では、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する」ものは製造することができない(銀又は酸化銀を混入する旨記載されているが、できない。)。また、刊行物2記載の発明がされた1988年(昭和63年)当初には、
不純物が混入された酸化物高温超電導体は発見されていない。本件発明1のMPMG法(211相の導入)は、その後に開発されたものである。
イ 同心円状の磁力線分布を有する磁石について刊行物2の発明の軸受けシステムは、マイスナー効果で浮揚させ、横ずれ防止にはピン止め効果との記述はあるが、磁気回転子が回転することによって、磁場が変化することを必要とするため、
回転摩擦が発生し、「永続的」には回転しない。事実、刊行物2のFIG.4のグラフでも、磁気回転子が回転することによって、トルクの変化が記載されている。
一方、本件発明1においては、同心円状の磁力線分布を有する磁石を使用するので、磁石が回転しても「トルク変化」は発生せず、「永続的」に回転させることができ、この点で本件発明1の軸受けシステムは、刊行物2のものと異なる。
刊行物2に同心的五極組磁石(同心的な五つの交互の磁極環を持った5磁極組磁石)の磁石の形状だけが同じものが一部存在しても、その目的・原理・作用・効果が異なる以上、「同心円状の磁力線分布を有する磁石が開示されている」ということはできない。
(2) 決定は、「本件発明1は、刊行物1記載の発明中の磁気軸受けを、刊行物2記載の発明で置き換えた程度のものにすぎず、また、そのことによって格別な効果を奏するに至ったものとも認められない。」とするが、誤りである。
ア 刊行物1記載の発明中の磁気軸受けを刊行物2記載の発明で置き換えても、機械式軸受けがあり、置き換えた超電導磁気軸受けシステムでは、重量物のフライホイールを回転させることができない。そのうえ、たとえ浮上効果を向上させ得たとしても、刊行物2記載の発明を応用した超電導体の物理的浮上の原理は、
「回転することによって磁界の変化を必要とする」もので、抵抗があり永続的回転は不可能な磁気軸受けとなる。決定は、当業者が置き換えを発想することすら困難な発明を引用したものである。
イ さらに、刊行物2記載の発明では、「上に上げる力」を、マイスナー効果によって生成しているのに対し、本件発明1では、ピン止め力で生成しており、しかもマイスナー効果を利用して浮上させた超電導磁気軸受けを使用していないことも明らかにしている。そして、この「上に上げる力」の差によって、本件発明1は、@大きい力で軸受けを浮上させる、A吊り下げる、Bラジアル軸受けとして使用できる、C回転しても摩擦をゼロにできる、という格別な効果を奏する。したがって、本件発明1が、刊行物1記載の発明中の磁気軸受けを刊行物2記載の発明で置き換えた程度のものにすぎないという決定の判断は、誤りである。
(3) 決定は、「また、刊行物2記載の発明において利用されている酸化物高温超電導体のピン止め効果あるいはフイッシング効果を利用されている酸化物高温超電導体のピン止め効果あるいはフイッシング効果を利用した浮揚力がベアリングとして利用しうること自体、本件出願以前に、周知であったことが、例えば、平成2年6月19、20日発行の日経産業新聞「実用化への前進 高温超電導磁石(上)(下)」等で明らかでもあるから、そのような主張を採用する事はできない。」としているが、上記文献には、本件発明の要旨、構成に関して周知であるとの記載はなく、単に応用が期待できると記載されているにすぎない。
4 本件発明2、4ないし8の進歩性判断の誤り(取消事由4) (1) 上記のとおり、本件発明1に進歩性がないとした判断が誤りである以上、本件発明1をさらに限定した本件発明2、4ないし8に進歩性がないとの判断も誤りである。
(2) さらに、本件発明2、4ないし8についての各々の判断も、以下のアないしカのとおり誤っている。
ア 本件発明2について 決定は、本件発明2の構成が刊行物2に明らかに記載されているとするが、「半径方向について各磁石を細分割」すれば、「同心的5磁極磁石」になるものではない。本件特許は、「半径方向に細分化」すれば、どのようにしても「磁場の磁気勾配が急峻化する」と記載しているのである。だから、本件発明2の磁石の構成は刊行物2のFIG.2Cに限らないのである。本件発明2は、「磁気勾配の急峻化」を要件としているものであるが、刊行物2には、この磁場の磁気勾配の急峻化の記載はない。刊行物2のものは、磁界の磁気勾配を急峻化するために、そのような形状、構造になったわけではなく、目的が異なるのである。「磁気勾配の急峻化」を示唆する記載は、刊行物2にはなく、本件発明2とは、目的・思想が異なる。よって、本件発明2についての決定の判断は、誤りである。
イ 本件発明4について 決定は、本件発明4の構成が刊行物2のFIG.3A、 FIG.3Cに明らかに記載されているとするが、誤りである。FIG.3A、FIG.3Cの形状は平たいドーナツ状であり、外周は円形ではあるが円盤ではない。
ウ 本件発明5について 決定は、本件発明5の構成が刊行物2に明らかに記載されている、とするが、誤りである。刊行物2には、請求項18において、磁気回転子が平たいドーナツ状の形状をしていると記載されているだけであり、本件発明のリング状とは差異がある。
エ 本件発明6 決定は、本件発明6の構成が刊行物2に明らかに記載されている、とするが、誤りである。同心円状の磁力線分布を有する磁石の意味は、同心円状の磁力線分布を有する磁石の回転中心軸を中心に磁石を回転させても、超電導体に対して、磁場が変化しないことにあり、このことは、刊行物2には記載されていない。
オ 本件発明7 決定は、本件発明7の構成が刊行物2の12頁17〜21行に明らかに記載されている、とするが、本件発明7は、酸化物高温超電導体の臨界温度以下であって液体窒素の沸点以下に保持することを特徴としており、冷媒を冷却する冷却装置を使って冷媒を強制的に冷却することにより、ピン止め力(浮揚力)を2〜10倍向上させることができるようにし、これにより格段の効果を示すことを発明の目的としているのであるから、異議の決定は誤りである。
カ 本件発明8 決定は、より低い冷媒を用いた方がよいのは技術的に自明のことであるとするが、低い冷媒をより低くすることで超電導性能の向上に顕著な効果をもたらすものであるから、決定は誤りである。
被告の反論の要点
1 刊行物1の認定の誤り(取消事由1)に対して 刊行物1記載の磁気軸受けは、磁力で荷重を支える点に1つの特徴がある。決定は、その特徴点を摘記しただけのことであり、磁気軸受けの要素として「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」があることを記載したにすぎない。したがって、認定に誤りはない。
また、「永続的」という語は、単に永く続くことを意味し、技術的には、エネルギー貯蔵をする期間内において回転体の回転が継続し、その回転エネルギーを外に取り出せるという程度の意味であるから、決定の認定に誤りはない。
刊行物1には、「ヘリウム液化機」が示されており、この「ヘリウム液化機」が冷媒を冷却していることは明らかである。つまり、超電導状態を実現するための冷却装置は、明らかに開示されている。
2 一致点の認定誤り、相違点の看過(取消事由2)に対して (1) 上記1のとおり、刊行物1の発明の認定に誤りがないから、一致点の認定についても誤りはない。
(2) 原告は、本件発明1は、ピン止め力のみを使用した高温超電導磁気軸受けを使用しているので、フライホイールが浮上すると共に固定され、無抵抗で回転し、
「機械式のガイド軸受け」や「制御用磁気発生装置」(制御用磁気軸受け)が不要である旨と主張しているが、請求項1には「ピン止め力を発生させる不純物相(la)を結晶内に有する酸化物高温超電導体(1・1’・26a・26b)」との記載があるだけで、「ピン止め力のみを使用した高温超電導磁気軸受け」に相当する記載はないから、原告の主張は請求項の記載に基づかない主張であって、失当である。
なお、決定は、刊行物1記載の発明中の磁気軸受けの特徴を端的に表すという点で「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」を摘記し、これらを本件発明1における「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」と「同心円状の磁力線分布を有する磁石」とに対応させたのであり、そのことに問題はなく、相違点の認定に誤りはない。
3 進歩性の判断の誤り(取消事由3)に対して (1) 刊行物2には、「第2種超電導体について、磁束の浸入やピン止めは不純物の選択的使用によって改善されることができ・・・」と記載されているから、刊行物2記載の発明において、内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させるために不純物相を導入する方がよいことは歴然とした記載事項である。
なお、刊行物2に記載された単なる具体例である特定の製法において「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する」ものを製造することが困難であるとしても、ピン止め力を上げるための不純物相の導入を特に意図していない具体例を理由にピン止め力の改善に関する技術的事項自体を否定するのは、全くの筋違いである。本件特許出願当時、当業者であれば、刊行物2の上記記載によって、内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させるために不純物相を導入する方がよいことは、当然理解できることであり、これを否定する理由は何ら存在しない。
さらにいえば、高温酸化物超電導体の内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させるために、不純物相を結晶内に導入すること自体も、本件出願日当時、既に周知の技術事項(例えば、「応用物理ハンドブック」平成2年3月30日発行(乙1)、日経産業新聞平成2年6月19、20日掲載の記事「実用化へ前進 高温超伝導磁石(乙2、3)、四國新聞平成2年5月25日掲載の記事「金魚鉢が浮いた 世界最高の磁界発生 高温超伝導体を共同開発 リニアなど実用化へ可能性」(乙4))である。そのことは、本件明細書に酸化物高温超電導体の具体的な組成や製法が微塵も記載されてないこと、すなわち開示するまでもないほど当業者に自明であったことからしても明らかである。
したがって、刊行物2に、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体、及び、同心円状の磁力線分布を有する磁石とを備えた超電導体軸受け」の発明が記載されているとした異議の決定における認定に、何ら誤りはない。
(2) 原告は、刊行物2のFIG.4には、磁気回転子が回転する際にトルク変化のあることが示されていると主張する。しかし、刊行物2記載の実験U、実験Vによれば、本件発明に酷似した同心円状の磁力線分布を有する磁石を有する回転体(刊行物2のFIG.2Cに示されるもの。)のトルク特性は、FIG.4の実験3であり、実験2との比較をすれば明らかなようにトルク変化はほとんどないから、応用概念が異なるとの主張は、失当である。
原告は、刊行物2記載の発明では、マイスナー効果のみで浮上させ、本件発明1では、ピン止め力のみで浮上させているかのように主張し、それにより異議の決定の相違点の検討が誤っているとしているが、上記したように、刊行物2においても、ピン止め力は明らかに存在し、一方、請求項1の記載のどこを見ても、ピン止め力のみの「のみ」に相当する記載はないから、この主張も、刊行物2の記載及び本件請求項1の記載に基づかない主張にすぎない。
仮に本件発明1がピン止め力を重視したものであったと解釈するにしても、酸化物高温超電導体のピン止め力を利用した浮揚力を利用した磁気軸受け自体が少なくとも本件出願時点で既に周知(例えば、乙2ないし4)であるから、本件発明1が刊行物1、2記載の発明に基づいて容易になし得ることは明白である。原告が格別なものと主張する4つの効果も周知技術から明らかであるから、格別なものということはできない。
いずれにしても、刊行物2記載の発明では、ピン止め力が明らかに発生しており、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体、及び、同心円状の磁力線分布を有する磁石とを備えた超電導体軸受け」の発明が記載されているということができるから、刊行物1記載の発明中の軸受けを刊行物2記載の軸受けで置き換えれば本件発明1の構成となることは、明白である。
(3) なお、決定で「フィッシング効果が利用されている」と記載したのは、吊り下がるほどの顕在化した力が存在していることを意味したのではなく、そういう力が少なくとも一部に存在していることが当然の結論として得られるという程度の意味で、ピン止め力と略同義の意味で用いている。いずれにしても、請求項1にはフィッシング力に関した記載はないから、この点は決定の結論に影響するものではない。
4 取消事由4(請求項2、4ないし8記載の発明の相違点(進歩性)の判断の誤り) 本件発明2、4ないし8は、本件発明1をさらに技術的に具体化限定しているものの、それらの具体化限定した点については、決定で言及しており、本件発明1についての判断に誤りがない以上、決定の認定、判断に誤りはない。
なお、本件発明2について、決定は、本件発明2の磁石の具体的構造(決定では「構成」と記載)が刊行物2に示されている(FIG.2C、FIG.3Cのもの)と認定している。本件発明2の構成は、刊行物2に示された磁石を実質において含むものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1に記載された発明の認定の誤り)について (1) 原告は、決定が刊行物1(甲4)に記載された発明について、@「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」の他に刊行物1記載の発明で必要な機械式のガイド軸受けや制御用磁気発生装置を含めて構成を認定していない点、A「回転体の永続的な回転運動を行わしめ」と認定した点、B「冷媒を冷却する冷却機」と認定した点が誤りである旨主張する。
(2) 刊行物1の実用新案登録請求の範囲には、「ハウジングの内部に円板状のフライホールを磁気軸受けにより回転自在に配設したフライホール装置において、フライホールに対する前記磁気軸受けの作用力方向に対し逆向きに作用する小容量の制御用磁気発生装置を設けたことを特徴とするフライホール装置。」と記載されており、この記載から、刊行物1に記載された発明は、磁力で荷重を支える点に1つの特徴を有することが明らかである。決定は、本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比するに当たり、刊行物1に記載された発明も「磁気軸受け」を要素とするものであることを指摘する趣旨で、同発明の磁気気軸受けの具体的構成要素として「固定側超電導コイル」と「回転側超電導コイル」を挙げているにすぎない。
そして、両発明の共通点(一致点)を認定する上で、機械式のガイド軸受けや制御用磁気発生装置等まで含めて刊行物1記載の発明を認定する必要はないというべきであるから、決定が、本件発明1と刊行物1記載の発明との対比に当たり、機械式のガイド軸受けや制御用磁気発生装置まで含めて刊行物1記載の発明を認定しなかったことは、誤りではない(刊行物1記載の発明につき、機械式のガイド軸受けを含めて構成を認定しても、刊行物1記載の発明と本件発明1とが「磁気軸受け」を有するという点において共通することに変わりはないし、「超伝導部材との間で磁気的な力を発生する部材及びこの部材に取り付け慣性力を高める重量物を有する回転体」が真空槽内に「回転自在」に収納されているという決定における一致点の認定が左右されるものでもない。)。
(3) 原告は、「永続的」という語が回転による摩擦抵抗が全くない状態における回転運動の継続性を意味するという趣旨の主張をするが、「永続的」が原告主張の意味であることを示す記載は本件明細書中には存在しない。「永続的」という語は、広辞苑第5版に「ながつづきするさま」と説明されているように、単に長く続くことを意味し、技術的には、エネルギー貯蔵をする期間内において回転体の回転が継続し、その回転エネルギーを外に取り出せるという程度の意味と解される。
一方、刊行物1の考案の技術的背景とその問題点の欄には、「この種の装置では上記の変換効率を高めて、貯蔵される回転エネルギを出来るだけ有効に利用することが重要となり、そのためにはエネルギ損失の大部分を占める上記の軸受け摩擦損・風損の低減が有効である。一般に、この軸受け摩擦損の低減にはフライホイールに対向して電磁石を配設し、その磁気吸引力によりフライホイールの大部分の重量を支持する。いわゆる磁気軸受けを用いる方法がとられる。さらに、フライホイールのケーシング内を真空にして、風損を無視しうる範囲内に押える方法もとられる。」と記載されており、刊行物1記載のフライホイールも軸受け摩擦損・風損が大幅に低減されたものということができるから、回転が長続きするという意味での回転体の永続的な回転運動がなされるものと認められる。
したがって、刊行物1記載の発明においても「回転体の永続的な回転運動を行わしめ」るものであるとした決定の認定に誤りはなく、この点に関する原告の主張は採用することができない。
(4) 刊行物1には、考案の実施例に「ヘリウム液化機」を用いることが記載されている。ヘリウム液化機は、冷媒であるヘリウムガス(例えば、20℃(絶対温度で293K))から熱を奪って、液化するまで(約4Kまで)冷却し、液体ヘリウムを得る機器であることは技術常識であるから、この「ヘリウム液化機」が冷媒を冷却していることは明らかである。したがって、刊行物1に「冷媒を冷却する冷却機」が開示されているとした決定の認定に誤りはない。
(5) 以上、いずれの点からも、決定における刊行物1記載の発明の認定に誤りがあるという原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り、相違点の看過)について (1) 上記取消理由1のとおり刊行物1の認定に誤りはないから、誤りがあることを前提として一致点認定の誤りをいう原告の主張は、理由がない。
(2) 原告が相違点と主張する点(アないしウ)について検討する。
ア 原告は、本件発明1は、ピン止め力のみを使用した高温超伝導磁気軸受けを使用することが特徴であり、そのため、機械式のガイド軸受けや制御用磁気発生装置が不要である点で刊行物1記載の発明と異なる旨主張する。
しかし、発明の要旨とする構成は、請求項の記載に基づいて決まるものであるところ、本件特許の請求項1には、ピン止め力のみを使用した高温超伝導磁気軸受けを使用することも、機械式のガイド軸受けや制御用磁気発生装置が不要であることも記載されてはおらず、原告が本件発明1の特徴であるとする上記の点が請求項1の記載から明白であるということもできない。
したがって、この点に関する原告の主張は、本件発明1の構成に基づかない主張であって、採用することができない。
イ 原告は、本件発明1は、「機械式の軸受け」を最初から省いた構成にしたことにより無接触、無抵抗の「永続的」回転機構を実現している点で刊行物1記載の発明と相違する旨主張する。
しかし、刊行物1記載の発明も、本件発明1と同様に、「回転体へ外部エネルギーにより回転力を付して回転体の永続的な回転運動を行わ」せるものといえることは、前認定のとおりである。しかも、機械式の軸受けを最初から省いた構成とすることについては、請求項1に記載されているものではないから、原告の主張は、請求項の記載によって特定される本件発明1の構成に基づく主張ではなく、これを採用することはできない。
ウ 原告は、「冷媒を冷却する冷却装置」を相違点として主張するが、この点については、前記1(4)に認定判断したとおりであって、原告の主張は採用することができない。
エ 以上、いずれの点からも決定に相違点を看過した誤りがあるという原告の主張は理由がない。
3 進歩性の判断の誤り(取消事由3)について (1) 原告は、刊行物2に「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体、及び、同心円状の磁力線分布を有する磁石とを備えた超電導体軸受け」(決定の7頁33行〜36行)の発明が開示されているとの決定の認定は誤りであるから、これを前提とした相違点の判断も誤りであると主張する。
(2) そこで、刊行物2(その和文公表公報が甲3として提出されており、同公表公報が刊行物2と同一内容であることは原告において争いがない。)の内容を検討すると、刊行物2には、下記のアないしサの記載があることが認められる。
ア「発明の概論 ・・・軸受システムには軸受と回転子とによって定義された界面がある。軸受と回転子とによって定義された界面に発生する摩擦係数を最小限にすることが軸受システムの一つの重要な目的である。この方法で、軸受の寿命は長くされることができ、且つ軸受システムは所望の動作能力を維持することができる。同時に、軸受に対する回転子の運動を所望の方向に束縛して、十分の軸受システム安定性を維持することが目的である。」 イ「発明の要約 ・・・私は、超伝導材料及び磁石を利用して、実質上摩擦のない、すなわち摩擦係数が上述の値よりはるかに小さい、軸受システムを構成する新しい方法を現在発見している。この新しい軸受システムは、
a)超伝導体軸受、及び b)軸受に対して浮揚して運動することができるように配置され得る磁気回転子であって、回転子が浮揚させられているときに軸受と回転子との間に発生される磁界が、回転子の運動方向における磁界の変化が軸受によって検出されたときに相対的な最小値であり且つ他のすべての方向における磁界の変化が軸受によって検出されたときにこの最小値より相対的に大きいようになっている、前記の磁気回転子、
を備えている。
別の態様においては、この発明は軸受システムからなっていて、このシステムは、
a)Y-Ba-Cu酸化物組成物からなる超伝導体軸受、及び b)軸受に対して浮揚して運動することができるように配置されることができ、
且つ少なくとも二つの磁極対を備えている磁気回転子、からなっている。」 ウ 「定義されたような軸受システムは多くの用途を持っており、通常の軸受システムに比べて別格の利点を提供する。これは次の理由のために真実である。この発明はマイスナー効果を利用している。すなわち、超伝導体軸受と磁気回転子との間に発生された誘起反発力磁界又は放出磁界が存在する。そして、これは上に定義されたような磁界変化と共に利用されて、回転子の非常に高い回転速度、例えば少なくとも300000rpmの回転速度においてさえも超伝導体軸受に対する磁気回転子の極めて安定な浮揚を与えることができる。更に、回転の運動方向において超伝導体軸受と磁気回転子との間に発生した磁界は、実質上摩擦のない、すなわち、超伝導体と磁気回転子とによって定義された界面に発生する摩擦係数がほぼ零である、軸受システムを提供するのに役立つ。私は、私の軸受システムが非常に低い回転雑音、及びほとんど零の外部振動伝達の両方を実現することができることを見いだした。同時に、軸受システムは少なくとも一つの自由度を示すことができる。」 エ 「磁気回転子の採択実施例は適当に図形化された磁極形態を有する磁気回転子を使用することを含んでいる。例えば、この発明の一態様においては、磁気回転子は、nが少なくとも2である場合、n磁極対形態からなることが望ましい。望ましくは、磁気回転子は「パイ形」円板の形状をしており、従って交互の北極-南極磁化を持ったnのパイくさび形を定義することができる。又、例えば、磁気回転子は方形の形状をしていて、方形磁気回転子における交互の列が北極-南極磁化に当てられてもよい。別の例として、磁気回転子は同心的な交互の磁化を有する環の形状をしていてもよい。」 オ 「一般に、軸受システムのスチフネスKは超伝導体軸受上で浮揚している磁気回転子の運動の際に経験される。ステフネスKは超伝導体軸受の材料及び微小構造特性、並びに磁気回転子に付与された磁極図形によって決定されることができる。特に、理論づけされていることであるが、スチフネスは、超伝導体軸受が単に磁気回転子を反発する(マイスナー効果)だけでなく、磁束の部分透過のために超伝導体に発生した磁界線を実際に突き通して、超伝導体軸受に対して磁気回転子を「揺りかご支持」することに関連がある。そして、この揺りかご支持作用は軸受システムのスチフネスに対応している。」 カ 「種類T及び種類Uの両超伝導体について、浮揚応用のための臨界磁化磁界(種類TについてはHc、種類UについてはHc1)が幾分低く、典型的には数百エルステッド未満である。従って、この発明においては、超伝導体軸受は、Hc2がHc1よりはるかに高くなり得るので、種類U超伝導体からなることが望ましい。更に、種類U超伝導体は、この超伝導体内の磁束浸透及び突通しが浮揚現象における横方向安定性を生じさせるものと考えられ、且つこの能力は種類1超伝導体には欠如していることがあるので、採択される。種類T及び種類U超伝導体について、磁束浸透及び突通しは不純物の選択的使用、例えば、Y-Ba-CU酸化物からなる種類U超伝導体への銀又は酸化銀不純物組成物の添加によって改善されることかできる。」 キ 「1-2-3 Y-Ba-Cu酸化物(及びBi又はTi含有Cu酸化物)超伝導体粉末を調製するために使用され得る好適な方法が次に開示される。・・・この方法によって調製された標本はすべて単一相であり、典型的には交流及び直流磁化率によって決定されるような90〜95Kの温度(オンセット)を示す。」 ク 「継続して、上に要約されたように、この発明の軸受システムは、超伝導体軸受に対して浮揚して運動することができるように配置され得る磁気回転子を含んでいる。磁気回転子は任意の永久磁石材料又は電磁石からなることができる。磁気回転子は永久磁石、特に、希土類及び遷移金属に基づいた「超磁石」からなることが望ましいけれども、通常のフェライト又はアルニコ磁石を使用することもできる。」 ケ 「例 超伝導体軸受及び磁気回転子を備えた軸受システムが次の方法で作られた。
超伝導体軸受 超伝導体軸受は上の開示事項に従って準備された。超伝導体軸受は高温度の種類U超伝導セラミック材料YBa2Cu 3O 7からなっていた。・・・超伝導体抽受は直径おおよそ29o及び厚さ4.5oのディスクの形状をしていた。中心においておおよそ0.7oの深さになる、わずかな湾曲を持っていた。そのような湾曲形状が、これの上方で浮揚し且つその凹面に面している磁気回転子の横方向安定性を高めることが理論づけされた。
磁気回転子 図2に示されたように四つの磁気回転子が準備された。磁気回転子のそれぞれはNd-Fe-B合金、及びそれらの厚さに沿っての磁化層からなっていた。磁気回転子1、2及び3は平たいドーナツの形状に作られた、エポキシ樹脂接着のNd-Fe-B等方性磁石であった。この平たいド-ナツは20.5oの外径、8.7oの内径、及び1.7oの厚さを持っていた。・・・三つの磁石のそれぞれは異なった磁極形態で磁化された。第1磁石(図2A)は一方の面に北極(N)及び反対の面に南極(S)を有する二極磁石であった。第2磁石(図2B)はド-ナツの中心において約45°の角度に対する八つの交互の磁極セクタを持った8磁極組磁石であった。第3磁石(図2C)は、互いに且つ磁石の境界に対して同心的な五つの交互の磁極環を持った5磁極組磁石であった。」 コ 「実験V 次に、同心的五磁極組磁石からなる第3磁気回転子が超伝導体軸受の上方3oに配置された。図4は、この磁気回転子が、その幾何学的な軸の周りに回転したときに、最小のトルクを経験したことを示している。実験Vは、この発明の軸受システムの要件、すなわち、回転子の運動方向における磁界の変化が軸受によって検出されたときに相対的最小値であり、且つ、他のすべての方向における磁界の変化が軸受によって検出されたときにこの最小値より相対的に大きいこと、を説明するのに役立つ。言い換えると、軸受のどの任意に選ばれた位置においても、回転子から発生する磁界線の対称性は、軸受によって検出されたときに、回転子の角運動の過程中、時間的に、実質上不変である。従って、軸受は磁束における相対的最小変化を検出する。これは、回転子の回転方向における最小の軸受システムスティフネスと相関がある。更に、回転子/軸受がなんらかの他の相対的運動を与えられたならば、軸受は、この軸受のどの任意の位置おいても、前述の最小値より量的に大きい正味の磁束を検出する。そして、この最後の状況は、より大きいスティフネスを持った軸受システムと相関があり、従って、所望の方向だけにおいて、回転子の運動を制約する。」 サ 「実験の解析 この発明の軸受システムは超伝導体軸受と磁気回転子との間に発生する磁界が「発明の要約」において上に定義されたように変化することを必要とする。実験が示唆したことであるが、磁界変化は非対称的な磁界形態によって実現されることができるが、対称的な磁界形態によっては認められるほどには発生し得ない。特に、実験T、V及びWにおいて使用された磁極図形の幾何学的形状は回転子の運動方向に対称的磁界形態を誘起したが、実験Uにおいて使用された磁極図形の幾何学的形状は回転子の運動方向に非対称的磁界形態を誘起した。言い換えると、超伝導体軸受は磁(束)界の認められるほどの変化を見なかったが、又超伝導体軸受内の閉込め磁束線は、対称的な幾何形状においてはそれを取り出すための認められるほどの力を経験しなかった。この「ピニング・ポテンシャル」はステフネス及び復元力の原因であると理論づけされたので、実験T、V及びWはこれらの場合の磁気回転子の回転/並進に抵抗する認められるほどのトルク/力を明示しなかった。しかしながら、鋭い対照において、非対称的磁極図形幾何形状を使用した実験Uは超伝導体軸受と磁気回転子との間の磁界の所要の変化を誘起した。従って、実験Uは大いに認められるほどのトルク曲線を発生した。」 (3) 上記各記載(ア〜サ)によれば、刊行物2には、Y-Ba-Cu酸化物組成物からなる超伝導体軸受及び軸受に対して浮揚して運動することができるように配置されることができ、かつ、少なくとも二つの磁極対を備えている磁気回転子、からなっている軸受システムが記載されており(前記(2)の記載イ)、@この軸受システムの磁気回転子は、例えば「パイ形」円板の形状又は同心的な交互の磁化を有する環の形状でよいこと(同記載エ、図3A、B、C)、A軸受システムのスチフネスは、超伝導体軸受が単に磁気回転子を反発する(マイスナー効果)だけでなく、
磁束の部分透過のために超伝導体に発生した磁界線を実際に突き通して、超伝導体軸受に対して磁気回転子を「揺りかご支持」することが関連していること(記載オ)、B種類U超伝導体について、磁束浸透及び突通しは不純物の選択的使用、例えば、Y-Ba-Cu酸化物からなる種類U超伝導体への銀又は酸化銀不純物組成物の添加によって改善されることかできること(記載カ)、C磁気回転子は任意の永久磁石材料からなること(記載ク)、D実験Vは、この発明の軸受システムは、
軸受のどの任意に選ばれた位置においても、回転子から発生する磁界線の対称性が回転子の角運動の過程中、時間的に、実質的不変であり、所望の方向だけに回転子の運動を制約されること(記載コ)が開示されている。
したがって、刊行物2には、内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物を結晶内に有する酸化物高温超電導体、及び、同心円状の磁力線分布を有する磁石を備えた超電導体軸受が記載されているということができる。
(4) 「ピン止め力を発生させる不純物相」について なお、原告の主張にかんがみ、酸化物高温超伝導体における「ピン止め力を発生させる不純物相」に関して特に補足すると、次のとおりである。
ア 本件特許明細書(甲2)には、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」について、発明の詳細な説明中に、「回転体が超電導状態にある酸化物高温超電導体の大きなピン止め力(フィッシング効果)によって高真空中の真空槽内で空中に浮上することができ、かつその酸化物高温超電導体の各ピン止め中心に拘束された状態でそこを貫通する磁石の各磁力線の磁界分布が同心円状になっており」(5欄22行〜6欄5行)、「次に、本発明に係る第1実施例の酸化物高温超電導体1の作用について説明を行う。第2図の超電導体による磁力線ピン止め図に示すように、酸化物高温超電導体1は永久磁石3等を近づけると、磁力線14が超電導体1の内部に入り込み、超電導結晶内にある不純物相1aによって磁力線14がピンを刺すようにピン止め固定される、所謂ピン止め効果によりその位置に拘束される。そしてこのピン止めされた状態にある磁力線14が逆に永久磁石3に対してピン止め力として働き、例えばその永久磁石3がこの超電導体中の磁力線14に変化を与えるような動作を行う場合にはこれを妨げる力が働き、つまり磁石を近付けた場合には反発力、遠ざけた場合には吸引力が働くのである。」(7欄2行〜14行)と記載がされているにとどまり、具体的な酸化物高温超電導体の物質名は挙げられておらず、
また、不純物相について何ら限定はされていない。
イ ところで、@第2種酸化物高温超電導体の実例としてYBa2Cu 3O 7があること、A第2種超電導体のピン止めが有効なのは、コヒーレンス長ξ程度の不純物、空格子点、粒界、晶壁、転位、析出相等の不均質点であること、また、BYBa2Cu 3O 7の結晶内に絶縁層のY 2BaCuO 5の微結晶(211相)を分散析出させ、ピン止め中心を積極的に取り入れることは、超電導体分野における技術常識と認められる(@ABについて「応用物理ハンドブック」応用物理学会編、丸善株式会社平成2年3月30日発行145〜151頁(乙1)、Bについて四国電力株式会社・株式会社四国総合研究所第27回研究発表会予稿集(送変電部門)1〜6頁(1990年5月31日開催)の「改良溶融法による高温超電導体の特性試験について」(乙6)及び「低温工学Vol.25、No.2」平成2年4月発行の「溶融法によるYBaCuOの合成と臨界電流特性」(乙7))。
また、C酸化物高温超電導体のピン止め力を利用した磁気軸受けは、金魚鉢を浮かせることができること、Dピン止め点を含んだ超電導体にマイスナー効果の限界を超える磁場を加えると、磁場が磁束線として超電導体に侵入し、この磁束線はピン止め点に捕らえられるので、先に入った磁束線をビン止め点から外さない限り、
次の磁束線が中へ入っていけないことになり、結局、マイスー効果に似た磁場が排除される効果がピン止め点の存在で生まれることになること、しかも、マイスナー効果と違って、磁束線が一部ピン止め点で捕らえられているため、横にずれ落ちたりしないことは、周知の技術事項(乙2ないし4)であると認められる。
以上のように、酸化物高温超電導体のピン止め中心に不純物を含み得ることは技術常識と認められるところ、不純物が酸化物高温超電導体の結晶の内部で何らかの相の状態をとることは普通に考えられるから、これらのことを踏まえて刊行物2を検討すれば、刊行物2には、「内部に侵入する磁力線を拘束・保持してピン止め力を発生させる不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体」が開示されていると認めることが相当である。
また、本件発明の超電導体と刊行物2記載の発明の超電導体は、ともに不純物相を結晶内に有する酸化物高温超電導体であることにおいて共通し、その効果についても、表現は異なるが(本件発明では「ピン止め効果」、刊行物2では「揺りかご支持」という表現が用いられている。)、磁石を浮揚させ、横ずれさせないという同じ効果を実現しているものであるから、刊行物2発明の超電導体が、本件発明の超電導体と動作原理の異なる物質であるということはできない。
上記技術常識に基づけば、刊行物1に記載されている発明の磁気軸受けに代えて同一技術分野に属する刊行物2に記載された発明の磁気軸受けを用いる際に、超電導体のピン止め中心に析出相を用いる技術を加えることは、当業者が容易に推考し得たものと認められる。
(5) 進歩性の判断の誤り(取消事由3)に関する原告のその余の主張について ア 原告は、刊行物2発明の磁気回転子は、本件発明の磁石と異なり磁場(磁界と同義)の変化を必要としており、刊行物2図4においても磁気回転子の回転によりトルクの変化が示されているから、本件発明の磁石と異なると主張する。しかし、刊行物2の磁気回転子も、本件発明の磁石と同一の形状をしており、磁石の配置も変わらず、磁力線分布に影響を与える他の要因が存在するとも認められないから、本件発明と同一の「同心円状の磁力線分布を有する磁石」であることが明らかである。刊行物2の図4の実験結果も刊行2記載の磁気回転子と本件発明の磁石が異なることを示すものとはいえない。
イ さらに、原告は、刊行物2記載の発明ではマイスナー効果によって浮上させる力を生成しているのに対し、本件発明1ではピン止め力で生成しており、これによって、本件発明は、@大きい力で軸受けを浮上させる、A吊り下げる、Bラジアル軸受けとして使用できる、C回転しても摩擦がゼロにできる、という格別な効果を奏すると主張する。
しかしながら、本件発明は、特許請求の範囲において、「浮上させる力」について何ら限定をしていないから、原告の上記主張は、その前提において既に失当である。また、前記認定の技術常識及び周知事項を参照すれば、刊行物1に記載されている発明の磁気軸受けに換え、同一技術分野に属する刊行物2に記載された発明の磁気軸受けを用いる際に、超電導体のピン止め中心に析出相を用い「上に上げる力」を強めることの効果は予想できるから、原告の主張する効果が予想外の格別な効果ということはできない。
(6) まとめ 以上のとおりであるから、決定が、本件発明1と刊行物1記載の発明の相違点に関して検討した結果、「本件発明1は刊行物1記載の発明中の磁気軸受けを、刊行物2記載の発明で置き換えた程度のものにすぎず、また、そのことによって格別の効果を奏するに至ったものとも認められない」と判断したことに誤りはない。
4 取消事由4(本件発明2、4ないし8の進歩性についての判断の誤り)について (1) 上記1ないし3に示したとおり、本件発明1の進歩性についての決定の判断に誤りはないから、本件発明1に進歩性があるとの前提に立って本件発明2、4ないし8の進歩性を主張する原告の主張は、前提を欠くものであって、理由がない。
(2) 以下、本件発明2、4ないし8について個別に検討する。
ア 本件発明2について 刊行物2のFIG.2C、FIG.3Cに記載された同心的五磁極組磁石は、その図面に記載された構造から見て、技術常識参酌すれば、その磁場の磁気勾配が高まる構成をしており、その回転体の半径方向について磁石を細分化しているものであると認められる。
原告は、本件発明2は、磁気勾配を急峻化したもので、磁界の磁気勾配が大きくなればよいのであるから、刊行物2記載の構造に限るものではない、と主張するが、この主張自体、刊行物2に記載された同心的五磁極組磁石が、本件発明2の磁石の一態様に相当すること認めているものである。
よって、刊行物2に「磁気勾配が高まるように・・・各磁石を細分割した」磁石が記載されていないとする原告の主張は、理由がない。
イ 本件発明4について 原告は、刊行物2のFIG.3A、FIG.3Cの形状は、平たいドーナツ状であり、外周は円形ではあるが円盤ではないから、円盤状に形成された磁石が明らかに記載されているとした決定は誤りであると主張する。しかしながら、図3A、図3Cを注目すれば、平たいドーナッツの形状とも見ることはできるが、一般に、この形状を円盤状でありその中心部に穴がある形状ということができる。また、刊行物2の要約の部分において、「望ましくは、磁気回転子は「パイ形」円板の形状をしており、」と記載されている(前記3(2)エ)ことからも、円盤状と認定したことに誤りがあるとはいえない。原告の主張は理由がない。
ウ 本件発明5について 原告は、刊行物2には請求項18に、磁気回転子が平たいドーナツ状の形状をしていると記載されているだけであり、本件発明のリング状と類似しているが、差異がある旨主張している。
しかしながら、刊行物2には、FIG.2C、FIG.3Cの記載や「別の例として、磁気回転子は同心的な交互の磁化を有する環の形状をしていてもよい」、
「第3磁石は(図2C)は、互いに且つ磁石の境界に対して同心的な五つの交互の磁極環を持った5磁極組磁石であった。」とリング状(環状)を示す記載が認められるから、原告の上記主張は、理由がない。
エ 本件発明6について 原告は、同心円状の磁力線分布を有する磁石の意味は、同心円状の磁力線分布を有する磁石の回転中心軸を中心に磁石を回転させても、超電導体に対して、磁場が変化しないことを意味し、このことは、刊行物2に記載されていない旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、同心円状の磁力線分布を有する磁石は刊行物2に記載されており、また、永久磁石を用いることも刊行物2に記載されているから、
原告の主張は、理由がない。
オ 本件発明7について 原告は、酸化物高温超電導体の臨界温度以下であって、液体窒素の沸点以下に保持することを特徴としており、冷媒を冷却する冷却装置を使って、あくまでも、冷媒を強制的に冷却することにより、ピン止め力(浮揚力)を2〜10倍向上させることができるように技術的解決をした発明であり、このことも格段の効果を示すことを発明の目的としている旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書の請求項7には、酸化物高温超電導体の臨界温度以下であって、液体窒素の沸点以下に保持することを特徴とするという記載があるだけであって、発明の詳細な説明中に記載されている「ピン止め力(浮揚力)を2〜10倍向上させる」ための条件である、温度を60K程度に下げることについては、なんら限定して記載されていない。よって、原告の主張は、請求項7の記載に基づかない主張であって、採用することはできない。
カ 本件発明8について 原告は、より低い冷媒を用いるという単なる設計的事項よりも、より低い冷媒をより低くすることが超電導性能の向上に顕著な効果をもたらすものである旨、主張している。
しかしながら、超電導物質を冷媒である液体ヘリウムを使用して、液体ヘリウムの沸点に保持し、超伝導状態とすることは、技術常識であり、酸化物高温超電導体も超伝導物質であるから、冷媒として液体ヘリウムを使用することを設計的事項とすることは誤りとはいえないことは明らかである。また、原告の主張である液体ヘリウムの沸点以下に保持することによる超電導性能の向上に顕著な効果については、本件特許明細書に何ら記載されておらず、原告の主張は、本件特許明細書の記載に基づかない主張であり、認められない。
(3) 以上のとおり、本件発明2、4ないし8についての相違点と進歩性の判断が誤りであるという原告の主張は、いずれも理由がない。
5 結論 原告主張の取消事由は、いずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利