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関連審決 異議2001-72040
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  作用の共通性 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 492号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社中部コーポレーション
訴訟代理人弁護士 高橋譲二
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 橋本康重
同 久保克彦
同 大野克人
同 小曳満昭
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2001-72040号事件について平成14年7月25日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「無煙ロースタ」とする特許第3129193号発明(平成8年5月9日出願,平成12年11月17日設定登録。以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許の特許権者である。その後,本件発明の請求項1ないし4に係る特許につき特許異議の申立てがされ,この申立ては,異議2001-72040号事件として特許庁に係属した。特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成14年7月25日,「特許第3129193号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年9月2日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨(以下,【請求項1】〜【請求項4】に係る発明を,それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」という。) 【請求項1】テーブル(10)に嵌め込んだ外釜(16)の中に,バーナ(32)を支持するための内釜(26)を係止させるとともに,前記バーナの発熱部(2)を上方に突出させることが可能なバーナ露出筒(44)を中央部に有する水槽(36)を前記内釜に係止させてなる無煙ロースタにおいて,前記水槽,内釜及び外釜のそれぞれの側壁(4,5,6)に透孔(56,58,60)を設けて,それらの透孔を通して前記発熱部からの紫外線(52)を前記外釜の外方に取り出すとともに,前記外釜の外方であって前記テーブルの下方位置に紫外線を反射する反射板(54)を設けて,その反射板からの紫外線を前記下方位置に設けた紫外線センサ(62)に感知させるようにしたことを特徴とする無煙ロースタ。
【請求項2】前記反射板(54)は,前記紫外線センサと独立してテーブルの下方位置に設けられている請求項1記載の無煙ロースタ。
【請求項3】テーブル(10)に嵌め込んだ外釜(16)の中に,バーナ(32)を支持するための内釜(26)を係止させるとともに,前記バーナの発熱部(2)を上方に突出させることが可能なバーナ露出筒(44)を中央部に有する水槽(36)を前記内釜に係止させてなる無煙ロースタにおいて,前記水槽,内釜及び外釜のそれぞれの側壁(4,5,6)に透孔(56,58,60)を設けて,それらの透孔を通して前記発熱部から紫外線(52)を前記外釜の外方に取り出すとともに,前記外釜の外方であって前記テーブルの下方位置に紫外線を反射する反射板(54)を設けて,その反射板からの紫外線を前記下方位置に設けた紫外線センサ(62)に感知させるようにし,さらに前記紫外線センサからの電気信号を処理する電子回路の基盤(3)を前記テーブルを支承する支持フレーム(8)に対して下向きに,かつ前記テーブルと独立して固定させたことを特徴とする無煙ロースタ。
【請求項4】前記反射板(54)は,前記紫外線センサと独立してテーブルの下方位置に設けられている請求項3記載の無煙ロースタ。
3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明1及び本件発明2は,実公平7-22598号公報(審判甲1・本訴甲4,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物発明1」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明3及び本件発明4は,刊行物発明1,特開平4-325126号公報(審判甲4・本訴甲7)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当し取り消されるべきものとした。
原告主張の決定取消事由
1 本件決定は,周知技術の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と刊行物発明1との相違点の判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由1(周知技術の認定の誤り) (1) 刊行物2記載の技術の認定の誤り 本件決定は,「本件発明1は,外釜の外方であってテーブルの下方位置に紫外線を反射する反射板を設けて,その反射板からの紫外線を感知させるようにしているのに対し,刊行物1に記載されたもの(注,刊行物発明1)は,発熱部からの紫外線を,反射板を介することなく直接感知させるようにしている点」(決定謄本3頁第2段落)を「相違点ア」と認定した上,相違点アに係る本件発明1の構成の一部を具備する周知技術として,「近代食堂=別冊 焼肉店 第2集」(平成6年9月25日旭屋出版発行,審判甲2・本訴甲5,以下「刊行物2」という。)を挙げる(同頁3-3)。しかしながら,刊行物2に紹介されている鏡は,ガスノズルの場合と同じで,垂れてきた汚れでくもるというのであるから,汚れが落下するような,燃焼部の直下,すなわちバーナに近接する位置にある。バーナに近接する位置に鏡を設置する目的は,炎を直接感知させるほか,鏡の反射光を加えることでセンサに可能な限り多量の炎光を感知させることにある。また,刊行物2のロースタは,センサで火力調節を行うものであり,火炎の存否を確認するものではない。
したがって,刊行物2のセンサは,本件発明1のように,炎光の存在自体の検知を目的とするものではない。
(2) 刊行物3記載の技術の認定の誤り 本件決定は,同様に,相違点アに係る本件発明1の構成の一部を具備する周知技術として,実公昭45-20680号公報(審判甲8・本訴甲11,以下「刊行物3」という。)を挙げるが(決定謄本3〜4頁3-3),刊行物3の考案(以下「刊行物考案3」という。)は,本来外部から見えない光を感知するために鏡を用いて外部へ光を導くものである。本件発明1は,外部から極めて容易に視認できる光について,あえて反射板を用いてその進路を変え,センサへと導き,設計の自由度の増大と誤作動の抑制という二つの作用効果を奏するもので,刊行物3記載の技術とは異なる。
3 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 容易想到性の判断の誤り 本件決定は,「相違点アに係る本件発明1の構成は,かかる周知技術(注,刊行物2及び刊行物3記載の周知技術)に基づいて当業者が容易に想到できたものである」(決定謄本4頁第2段落)と判断するが,誤りである。刊行物2及び刊行物3は,いずれも,本件発明1と課題及び作用の共通性に欠け,これら刊行物記載の技術から相違点アに係る本件発明1の構成に想到することは容易ではない。
刊行物発明1が紫外線の受光位置を直線位置に制限したのは,受光センサの機能を十分発揮させるとともに,洗浄のための各構成部品の脱着を容易にするものであるから,ここにいうセンサの位置は限定的なものにならざるを得ず,受光センサを配置する位置について自由度を増して設計上の便宜を図るという具体的解決課題を提供することはあっても,反射板を設置するという具体的解決手段に想到することには結び付かない。また,刊行物1に記載された従来技術が炎を感知するのに特段支障がない以上,センサの設置場所が制限されるという課題の存在が自明ということはできない。
(2) 顕著な作用効果の看過 本件発明1は,反射板を設けることによってセンサを配置する位置の自由度を増し,設計上の便宜を図るという課題を解決するから,当業者の予測し得ない顕著な作用効果を奏するというべきである。
(3) 本件発明2〜本件発明4 上記のとおり,相違点アに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到し得ないのであるから,同様に,刊行物1との相違点アを有する本件発明2〜本件発明4も,当業者にとって容易に発明をすることができたということはできない。
被告の主張
1 本件決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の決定取消事由は理由がない。
2 取消事由1(周知技術の認定の誤り)について (1) 刊行物2記載の技術の認定について 刊行物2には,鏡が汚れの落下する位置にあることを示す記載はない。また,刊行物2の鏡が炎の量を反射により増幅させて光量を検知することにあるとしても,刊行物2記載のように,火力調節をセンサで行うタイプのロースタにおいて,ガスの炎を鏡に映し,火力調節の際にガスの炎の存否を確認することは,有害なガスを安全に使用するための当然の事項であるから,そのような機能を有することは,当業者の技術常識である。そうすると,刊行物2記載の鏡が火力の調節だけでなく,炎の存在自体を検知する目的においても用いられていることは自明である。
(2) 刊行物3記載の技術の認定について 刊行物3には,ガス器具において点火状態を外部から確認する際,反射鏡を設けることにより,従来と異なる方向からも確認し得るようにした技術が記載されている。刊行物3では,人の視認方向が問題とされ,本件発明1では,紫外線センサが感知し得る方向が問題とされる点で異なるが,いずれも,光を受ける場所を遮蔽物等で遮られない場所に制限することで共通する。
3 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 容易想到性の判断について 点火状態を確認するために光を受ける場所が制限されるという課題につき,反射鏡を用いて解決することにおいて,刊行物考案3と本件発明1は共通しており,刊行物2記載のロースタの鏡も,同様の作用を奏する。刊行物1に記載されたロースタの炎を感知する紫外線センサの設置場所が制限されるという課題は当業者に自明であり,刊行物発明1及び刊行物2記載の事項は,ともにロースタという同一の技術分野に属し,また,刊行物考案3はガス炊飯器に係るものであるが,熱源にガスを用いる調理具として共通するものであるから,これらを刊行物発明1に適用することは容易である。
(2) 本件発明2〜本件発明4について 相違点アに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到し得るのであるから,この容易想到性が否定されることを前提とする,本件発明2〜本件発明4に係る原告の主張は,その前提を欠く。
当裁判所の判断
1 取消事由1(周知技術の認定の誤り)について (1) 刊行物2記載の技術の認定の誤り 刊行物2(甲5)には,「火力調節をセンサーで行なうタイプのロースターも登場しているが・・・ガスの炎を鏡に映して火力を調節するのだが・・・たれてきた汚れで鏡がくもり,せっかくのセンサーも用をなさないばかりか,着火しないこともある。・・・使用頻度にもよるが,2年に1回は大がかりな掃除を実施することをおすすめする」(210頁第4段落)との記載があり,ここに紹介されている鏡は,原告が主張するように,汚れが落下するような,バーナに近接する位置にあると解される。しかしながら,本件決定は,刊行物2により,「ガスの炎を鏡に映して火力を調節するセンサーを備えたロースターが,本件出願前に一般の焼肉店等で用いられていた」(決定謄本3頁3-3)という事実を認定しているにすぎず,鏡がどのような位置に設置されていたかは,本件決定の認定するところではない。
また,原告は,刊行物2の鏡がバーナに近接する位置に設置されていることを前提に,その目的は,炎を直接感知させるほか,鏡の反射光を加えることでセンサに可能な限り多量の炎光を感知させることにあると主張する。しかしながら,本件決定が刊行物2の鏡の設置目的をガスの炎を映すことであると認定するにすぎないことは上記のとおりである上,原告自身,鏡の目的が炎を直接感知させることを含むものであると自認している。
さらに,原告は,刊行物2のロースタがセンサで火力調節を行うものであり火炎の存否を確認するものではないとも主張するが,この点についても,本件決定が「火力を調節するセンサー」と認定するにすぎないことは,上記のとおりである。
(2) 刊行物3記載の技術の認定の誤り 原告は,刊行物考案3が,本来外部から見えない光を感知するために鏡を用いて外部へ光を導くものであると主張する。しかしながら,本件決定は,刊行物3により,「ロースタ等のガス器具の炎から光線を反射板により反射させ,この反射光線を人が視認したり又はセンサーが受けること」(決定謄本4頁第2段落)が周知技術であると認定したにすぎず,炎からの光線が本来外部から見えない光であるかどうかについては,何ら認定するものではない。したがって,本来外部から見えない光かどうかは,刊行物3に係る本件決定の認定とは次元を異にするものであり,原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 容易想到性の判断の誤り 反射板ないし鏡を用いることにより,点火状態を確認するための光を受ける場所をより自由に設けるという点において,刊行物2記載のロースタの鏡及び刊行物考案3は,本件発明1と課題を共通する。また,刊行物発明1及び刊行物2記載の事項は,ともにロースタという全く同一の技術分野に属し,刊行物考案3はガス炊飯器に係り,熱源にガスを用いる調理具として,ロースタに極めて近接する技術分野のものである。したがって,これらの技術事項を,ロースタに係る技術である刊行物発明1に適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものというべきである。
原告は,刊行物2及び刊行物3が,いずれも,本件発明1と課題及び作用の共通性を欠き,これら刊行物記載の技術から相違点アに係る本件発明1の構成に想到することは容易ではないと主張する。しかしながら,上記のとおり,刊行物発明1,刊行物2記載のロースタ及び刊行物考案3は,互いに技術分野を同一とするか,又は極めて近接するものであるから,これらの技術事項を相互に適用することを阻害する特段の事情のない限り,その適用は当業者にとって容易であるというべきである。原告の主張する課題及び作用の相違というのは,刊行物発明1については,反射板を設置するという具体的解決手段を示唆しないこと,刊行物2については,鏡の設置目的が鏡の反射光を加えることでセンサに可能な限り多量の炎光を感知させるものであること,刊行物考案3については,光が本来外部から容易に視認し得ることなど,いずれも技術的思想の細部にわたる事項であって,刊行物2記載のロースタ及び刊行物考案3を刊行物発明1に適用するについて,特段の阻害要因となるものとはいえない。
(2) 顕著な作用効果の看過 原告の主張する本件発明1の作用効果は,反射板を設けることによってセンサを配置する位置の自由度を増し設計上の便宜を図るというものであって,刊行物2記載のロースタ及び刊行物考案3を刊行物発明1に適用することによって当業者が予測し得る範囲のものであるから,本件発明1の進歩性を左右するような顕著な作用効果ということはできない。
(3) 本件発明2〜本件発明4 相違点アに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到し得るのであるから,この容易想到性が否定されることを前提とする,本件発明2〜本件発明4に係る原告の主張は,その前提を欠く。
3 以上のとおりであるから,原告主張の本件決定取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男