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事件 平成 14年 (行ケ) 186号 審決取消請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が訂正2001-39195号事件について平成14年3月26日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告らが,訂正審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者:原告ら(原告株式会社長井の旧商号は「株式会社長井芯張工業所」) 発明の名称:「メガネフレーム用モダンの製造方法特許出願日:平成元年7月8日(特願平1-176706号) 設定登録日:平成10年1月9日 特許番号:第2733538号 (1-2) 第1次無効審判(平成10年審判第35199号事件) 無効審判請求人:別紙当事者目録において〔No1〕,〔No2〕,〔No4〕,〔No5〕,〔No7〕ないし〔No15〕と付記した13名の被告補助参加人のほか,Yc〔No3〕,有限会社マルモト総業〔No6〕(その清算人が被告補助参加人〔No6'〕),有限会社オプトピア大越〔No16〕を加えた総数16名。
無効審判請求日:平成10年5月8日(平成10年審判第35199号) 審決日:平成11年7月7日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成11年8月20日(請求人ら) (1-3) 第1次審決取消訴訟(東京高裁平成11年(行ケ)第300号事件) 原告:上記請求人16名のうち,有限会社オプトピア大越〔No16〕を除く15名。
被告:特許権者(本件原告ら) 判決日:平成12年10月23日 主文:「特許庁が平成10年審判第35199号事件について平成11年7月7日にした審決を取り消す。」 上告及び上告受理申立て:平成12年11月10日 結果:上告棄却,不受理(平成13年3月23日書留郵便に付する送達の方法により告知) (1-4) 再開された無効審判(平成10年審判第35199号事件) 審決日:平成13年6月28日 審決で請求人と表示された者:上記〔No1〕ないし〔No16〕の16名。
審決の結論:「特許第2733538号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成13年7月10日(特許権者,本件原告ら) (1-5) 第2次審決取消訴訟(東京高裁平成13年(行ケ)第356号事件) 原告:特許権者(本件原告ら) 被告:上記〔No1〕ないし〔No16〕の16名。
判決期日:平成15年10月16日(本判決と同日) (1-6) 本件訂正審判手続 訂正審判請求人:原告ら 審判請求日:平成13年10月26日(訂正2001-39195号) 審決日:平成14年3月26日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年4月5日(本件原告ら) (2) 本件発明の要旨等 (2-1) 本件訂正審判請求前の請求項の記載(本件発明)【請求項1】メガネフレームのツル先端に挿着されるモダンの製造方法において,所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットし,該金型の開口から加熱した工具を圧入し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜き,ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形することを特徴とするメガネフレーム用モダンの製造方法
(2-2) 本件訂正審判請求に係る請求項の記載(訂正発明)【請求項1】メガネフレームのツルの先端を挿着させるための挿着孔が設けられ該挿着孔はその挿入端側において,断面形状が長円形を呈する如く拡大されてなるモダンの製造方法において,所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを一定温度に加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットし,該金型の開口から,前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された,ツル先端部形状と同一形状を成す工具を,その先端側から順次前記モダンに圧入して前記挿着孔の周辺を可塑化しながら進行せしめ,前記挿入端側を可塑化状態で拡大させて圧入を完了し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜いて,該挿入端側が断面形状が長円形を呈する如く拡大され,且つ内周面が滑らかな光沢面状を呈する前記挿着孔を成形することを特徴とするメガネフレーム用モダンの製造方法
(3) 審決の理由 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。要するに,@本件訂正には,特許請求の範囲第1項を「前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された,ツル先端部形状と同一形状を成す工具を」と訂正する点を含むが,これは,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず,新規事項の追加に該当するので,当該訂正は認められない,A訂正発明は,刊行物1(特開昭49-122352号公報,本訴甲6),刊行物2(特公昭50-28181号公報,本訴甲7)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は認められない,というものである。 2 原告らの主張(審決取消事由)の要点 (1) 取消事由1(新規事項に関する認定判断の誤り) (1-1) 本件発明に関する特許公報(甲2)4欄41〜43行に,「成形孔であるため工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる」と記載されている。
また,同欄30〜33行に,「工具6を圧入するに際し,該工具6はヒータ7により加熱されて高温状態でモダン1の挿入端4から圧入され,所定形状の挿着孔3が成形され」と記載されるとともに,同欄36〜37行に,「工具6は高温加熱されてモダンに圧入されるため,成形された挿着孔3の周辺は可塑化状態にあり」と記載されている。
したがって,前記4欄41〜43行に記載の「成形孔」における「成形」が,前記同欄30〜31行における「成形」及び前記同欄36〜37行における「成形」を指すことが明らかであり,また後者の「成形」は,前記同欄30〜33行の記載から,「高温状態に加熱された工具を圧入したことによる成形」を意味することが明らかである。
このようなことから,訂正発明における「挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面状である」ための理由が,工具の高温状態の加熱に起因することは,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるといえる。
そして,工具の高温状態の加熱の程度は,特許公報(甲2)4欄36〜39行における「工具6は,高温加熱されてモダンに圧入されるため,成形された挿着孔3の周辺は可塑化状態にあり,圧入後直ちに工具6を引き抜くならば成形された挿着孔3の形状が変形したり,時には崩れてしまう」との記載及び同欄42〜44行の「成形孔であるため,工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる」との記載から明らかなように,「挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように挿着孔3の周辺を可塑化状態となし得る高温加熱の状態」を意味するものである。そしてその工具の加熱温度は,同欄43〜46行における「工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間はモダン1の材質や挿着孔3の大きさ・形状によって左右される条件である」との記載から,モダン1の材質や挿着孔3の大きさ形状に応じて設定されるのが明らかである。
(1-2) また,特許公報(甲2)6欄4行における「成形孔」の「成形」も,前記と同様の理由によって,「挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように挿着孔3の周辺を可塑化状態となし得る高温加熱状態の工具を圧入したことによる成形」を意味することが明らかである。
審決は,「ドリル加工による切削孔でない,成形孔であるから,挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面となり,挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さいとしか読み取れない」と認定しているが,「成形孔」を前記のように理解すれば,「ドリル加工による切削孔でない,成形孔,即ち,挿着孔の内周面が滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように挿着孔3の周辺を可塑化状態となし得る高温加熱状態の工具を圧入したことによる成形孔であるから,挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面となり,挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さい」と合理的に読み取れるのである。
それゆえ,「挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面である」ための理由として,加熱温度との関係を述べた本件訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,新規事項の追加に該当しない。
したがって本件訂正は認められるべきものであって,審決は,新規事項に関する判断に誤りがあることは明らかであり,取り消されるべきものである。
(2) 取消事由2(独立特許要件に関する認定判断の誤り) (2-1) 第2の課題に関する判断の誤り 本件発明の第2の課題とは,「モダンは,ツルの先端部に挿着された後,その先端が例えば第1図のように適度に曲げられて耳掛部が形成される(甲2,特許公報4欄5〜6行)」ものであることにかんがみ,その曲げる際に,挿着孔の内周面に亀裂が発生してモダンの強度を弱めたり,その亀裂部分でモダンが折損する等の損傷を未然に回避できる挿着孔を形成することにある。
この点につき,審決は,「なお,審判請求人は,本件発明の第2の課題について主張しているが,本件特許掲載公報には,本件発明の第2の課題に関する記載は見いだせず,単に,本件発明の実施例として,『該モダン1はツル2の先端部に同図のように挿着され,挿着後その先端は適度に曲げられる』との記載があるだけであるから,当該主張は意味がない。」と認定している。
しかし,審決の認定は,誤りである。本件特許公報(甲2)の6欄4〜8行に,「モダンの挿着孔は成形孔であって,ドリル加工による切削孔でないため,非円形の挿着孔を得ることが出来ることは勿論であるが,挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さく,そのため光の乱反射は発生せず,透明度が向上する」と記載されている。ここには,本件発明によって得られた挿着孔の内周面の面粗度が,ドリル加工による場合に比べて非常に小さいことが記載されているのであり,反対解釈として,ドリル加工では面粗度が非常に大きかったことが明らかにされている。挿着孔の内周面の面粗度が大きいと,前記第2の課題で主張したように,「モダンが,ツルの先端部に挿着された後,その先端が例えば第1図のように適度に曲げられて耳掛部が形成されたとき,挿着孔の内周面に亀裂が発生してモダンの強度を弱めたりその亀裂部分でモダンが折損する等の損傷を受けること」は明らかなことである。
この点は,陳述書(甲5)によれば一層明確である。
第2の課題は,モダン製造の分野において,長年にわたり重要な課題の一つであり,本件発明にも存したといえる。よって,第2の課題に関連する原告らの主張は,意味のあるものである。
そして,本件訂正による構成を含む本件発明の独特の構成を採用する結果,製造されたモダンをツルの先端部に挿着し,その後,その先端を適度に曲げて耳掛部を形成するときに,薄肉で強度的に弱い挿入端側をも含めて,挿着孔の内周面に亀裂を発生させたりモダンの折損を招くことなく曲げ加工を施すことができるという顕著な作用効果を奏し,前記第2の課題を解決できるのである。
(2-2) 相違点Aに関する認定の誤り 審決は,相違点Aとして,「本件請求項1に係る発明では,挿着孔がその挿入端側において,断面形状が長円形を呈する如く拡大されてなるのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような記載が無い点」と認定した上,その検討において,「挿着孔がその挿入端側において拡大されてなることは,従来周知の技術手段にすぎない。また,…長円は,ごく一般的な形状の一にすぎず,単なる形状の限定にすぎないし,眼鏡のツルないしテンプルの断面形状を,長円ないしこれに類似した形状とすることは,従来周知である。」と認定している。
しかしながら,訂正発明において,「挿着孔がその挿入端側において,断面形状が長円形を呈する如く拡大されてなる」の内容は,「挿着孔が,その挿入端側が断面形状が長円形を呈する如く拡大され,且つ内周面が滑らかな光沢面状を呈する」ものであり,「内周面が滑らかな光沢面状を呈する挿着孔」については,引用文献には何ら記載されておらず,決して周知の技術手段であるとはいえない。
なお,訂正発明は,挿着孔の内周面を滑らかな光沢面状に形成するのが目的であるから,挿着孔が断面長円形であることと,挿着孔の内周面が滑らかな光沢面状であることとは,一体に考えるのが妥当である。
(2-3) 相違点Bに関する認定判断の誤り 審決は,相違点Bとして,「本件請求項1に係る発明では,所定のプラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し,該モダンを一定温度に加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットしたのに対して,刊行物1に記載された発明では,湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入した点」と認定した上,その検討として,@「刊行物2には,あらかじめ加熱されたプラスチック・テンプル7を固定下型8と可動上型9との間に載置する旨の記載があり,加熱温度を一定温度とするようなことは,当業者が適宜決定できる設計的事項であり,プラスチック・テンプル7は,何等かの手段でプラスチック材料から製作されるものであるから,…相違点Bの構成は,刊行物2に開示されている。」とした上,A「刊行物1及び刊行物2は,同一技術分野に属するものであるから,刊行物1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型穴(1a)内の充填物に換えて,刊行物2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは,当業者なら容易に推考できたものと認められる。」と認定判断した。
しかしながら,上記Aの認定判断は,刊行物1に係る「成形」技術と刊行物2に係る「加工」技術とを混同したことに起因するものであって,刊行物1及び刊行物2は,仮に同一技術分野に属するとしても,「刊行物1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型穴(1a)内の充填物に換えて,刊行物2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは,当業者なら容易に推考できたもの」とはいえない。
訂正発明の特徴は,「挿着孔の内面の成形」に存する。一方,刊行物2に記載されているのは,芯金を挿入するシューティング加工である。このような加工技術は,樹脂成形における製品の「成形」とは,全く別異の技術であり,「成形技術」ではない。刊行物2に係るシューティング加工は,芯金の埋め込みを目的としている(引抜きを予定していない。)もので,あくまでも「加工」なのであり,金型にセットされる「プラスチック製材料」に対して,所定温度による塑性変形に基づく「孔の内面成形を行う」という技術認識が全く存在しない。
また,審決の上記@の「プラスチック・テンプル7は何等かの手段でプラスチック材料から製作されるものであるから,訂正明細書の請求項1に係る発明の相違点Bの構成は,刊行物2に記載されている。」との認定は,プラスチック成形技術においては,「孔の内面を成形するとの究極目的」に照らしてみると,当業者であれば「発想し得ない」仮定であるといえる。つまり,何のために「射出成形」の金型内に「プラスチック製板材又は棒材を切断,切削及び研削等の加工を施したもの」をセットするのかという,技術者としての当然の疑問が生ずるのである。
以上のように,上記審決の認定判断は誤っている。
(2-4) 相違点Cに関する認定判断の誤り 審決は,相違点Cとして,「本件請求項1に係る発明では,該金型の開口から,前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された,ツル先端部形状と同一形状をなす工具を,その先端側から順次前記モダンに圧入して前記挿着孔の周辺を可塑化しながら進行せしめ,前記挿入端側を可塑化状態で拡大させて圧入を完了し,圧入後一定時間保持した後,該工具を引き抜いて,該挿入端側が断面形状が長円形を呈する如く拡大され,且つ内周面が滑らかな光沢面状を呈する前記挿着孔を成形するのに対して,刊行物1に記載された発明では,通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く点」と認定した上,その検討として,「挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された工具は,従来周知の技術手段にすぎない。さらに,当該工具を先端側から順次圧入するのは当然であり,工具の進行に伴って,工具が新たに接触する挿着孔の周辺を可塑化状態となすのは,ごく自然なことである。」と認定判断している。
しかしながら,訂正発明においては,工具の加熱温度は,挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱されたものであり,単なる「挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された工具」ではない。
この点について,審決は,上記説示に続いて,「刊行物1の芯型(4)は,型穴(1a)内に挿入され,冷却硬化した後引き抜くのであるから,技術常識上,表面が滑らかに仕上げ加工されているといえ,そうであれば,引き抜いた後には,内周面が滑らかな光沢面状を呈する,芯型(4)と同じ断面形状の挿着孔が成形される。してみれば,工具の温度を『挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された,ツル先端部形状と同一形状を成す』ものとすることは,当業者が適宜なし得る設計的な事項にすぎない。」と認定している。
しかし,刊行物1においては,芯型が加熱されているとはどこにも記載されていない。したって,審決の認定には大きな飛躍があり不当である。
3 被告及び補助参加人らの主張の要点 (1) 取消事由1(新規事項に関する認定判断の誤り)に対して 審決の新規事項に関する認定判断に誤りはない。
原告らが指摘する特許公報(甲2)の文章中には,工具の温度と「装着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる」ことの関係について直接的記載はない。工具の温度自体についても,特許公報4欄43〜46行に「ここで,工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間はモダン1の材質や装着孔3の大きさ・形状によって左右される条件であって,その都度最適条件に定めなければならない」との記載があるが,ここでも,工具の温度と「装着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる」こととの関係は何ら記載されていない。
逆に,特許公報の「(効果)」の欄には「モダンの挿着孔は成形孔であって,ドリル加工による切削孔でないため,…挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さく,そのため光の乱反射は発生せず,透明度が向上する。従来の切削孔では,光の乱反射によって白っぽくなり,モダンの外観を損なっていた。」(6欄)と記載されており,特許公報の記載によれば,工具の加熱温度は,工具の圧入の条件として定まるものである。一方,モダンの装着孔が成形孔であってドリル加工による切削孔ではないために,装着孔の内周面の面粗度は非常に小さく,そのため光の乱反射は発生せず,透明度が向上させる効果が得られるが,工具の加熱温度が当該効果を得られるための条件として定められるものでないことは明らかである。
原告らの主張は,各所の記載を無理に結合して,そのような解釈ができるとするものであって失当である。仮に,原告らが主張するような解釈が可能であったとしても,そのことが,特許公報の記載から直接的,かつ一義的に導かれる事項ではない。
(2) 取消事由2(独立特許要件に関する認定判断の誤り)に対して (2-1) 第2の課題に関する判断の点 特許公報(甲2)には,原告らの主張する第2の課題に関する記載は見いだせず,単に,本件発明の実施例として,「該モダン1はツル2の先端部に同図のように挿着され,挿着後その先端は適度に曲げられる。」(4欄)との記載があるだけであるから,当該主張は意味がない。
(2-2) 相違点Aに関する認定の点 挿着孔が断面長円形であることと,挿着孔の内周面が滑らかな光沢面状であることとは,関係がない。それゆえ,前者の内容が後者を含むものであるという,原告らの主張は,当を得ない。
審決は,前者について判断したのであるから,後者について,周知文献に記載がないという,原告らの主張は当を得ない。
(2-3) 相違点Bに関する認定判断の点 審決の判断は,本件特許第2733538号の無効審判請求に対する審決についてなされた東京高裁平成11年(行ケ)第300号審決取消請求事件における平成12年10月23日言渡しの判決に沿ったものであり,誤りはない。
(2-4) 相違点Cに関する認定判断の点 審決は,工具の加熱温度と,挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈するごとく形成できることとを分けて記載している。これは,特許公報には,両者間の関係について具体的な記載がないからである。つまり,審決は,前者に対しては,挿着孔の周辺を可塑化状態とする高温に加熱することは周知であると述べ,後者に対しては,工具表面が滑らかに仕上げ加工されていれば,挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈するごとく形成できると述べている。
刊行物1において,芯型4が加熱されるとの記載はないが,芯型4は,未だ軟かい半熔融樹脂内に挿入されるのであるから,挿入が円滑にできるためには,その樹脂の温度と極端に離れているはずはないから,相当程度の高温状態にあるといえる。そして,一定時間挿入状態を保持し,半熔融樹脂が冷却して硬化し,挿着孔が成形された後に引き抜かれた後でも,芯型4は,高温状態にあるといえる。また,この種の成形装置は,繰り返し連続運転されるものであるから,芯型4は,常に高温状態にあるといえる。
してみれば,この相当程度の高温を,従来周知の加熱温度として,相違点Cの構成を推考することは,当業者が適宜なし得る設計的な事項にすぎないとした審決に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(新規事項に関する認定判断の誤り)について (1) 原告らは,訂正発明における「挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面状である」ための理由が,工具の高温状態の加熱に起因することは,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるといえると主張するので,本件発明に関する特許公報(甲2)の記載を精査しつつ,取消事由の主張の当否を検討する。
(2) 特許公報(甲2)の「(従来技術)」(1欄〜3欄)の項においては,切削孔加工であるドリル加工では,形成できる挿着孔の形状が円形断面に制約されること,ドリル加工によらない射出成形で,モダン自体の成形時に,挿着孔自体をも同時に成形する場合には,単調な単一色のモダンしか得られず,特別な色彩や模様を形成したモダンを成形することは不可能であることなどが指摘されており,それらをまとめて,「上述のごとくドリル加工ではその挿着孔形状が制約され,又加熱してツル先端を圧入してしまったのでは,前記のようにツルの2次加工が出来ないといった問題が残されてしまう。」(3欄23〜26行)と記載されている。
そして,「(本発明の目的)」の項においては,これらの問題点を解決するモダンを製造する方法を提供すると記載されている(3欄27〜32行)。
また,「(本発明の構成)」の項においては,「本発明が対象とするモダンは射出成形によって形成されるものではなく,板材や棒材を切断したり,切削又は研削,さらに研磨等の作業工程を経て作られる。材質としてはセルロイドやアセチルセルロース等のプラスチック材が用いられ,所定の外形寸法に加工されたモダンは一定温度に加熱されて該モダン外周を安全に拘束するためのキャビティを形成した金型内にセットされる。この場合,ツルの挿着口となる挿入端のみ開放されていて,該挿入端からツル先端部と同一形状の工具が圧入されて挿着孔を成形する。圧入される上記工具は加熱され,高温状態で圧入し,一定時間その状態で保持し,冷却して硬化する。硬化したところで工具はモダンから引き抜かれ,金型から取り外される訳であるが,このように工具の圧入で成形される挿着孔は工具形状と同一孔が成形され,多角形断面の孔は勿論,位置によって断面形状・大きさの異なる孔であっても成形可能である。」(3欄34〜49行)と記載されており,「高温状態に加熱された工具を圧入したことによる成形」であって,工具形状と同一形状の孔が成形されるために,断面形状あるいは大きさの異なる各種形状の孔が成形可能であることが,本件発明の特徴として記載されている。
ところで,以上の記載部分においては,本件発明により形成される挿着孔が,「高温状態に加熱された工具を圧入したことによる成形」で形成されるとの記載があるのみで,挿着孔の内面形状がいかなるものであるかは,何らの記載も示唆もされていない。
(3) 特許公報(甲2)の記載を更に検討すると,「(実施例)」の項において,「工具6は高温加熱されてモダンに圧入されるため,成形された挿着孔3の周辺は可塑化状態にあり,圧入後直ちに工具6を引き抜くならば成形された挿着孔3の形状が変形したり,時には崩れてしまう。したがって一定温度に低下し,成形された挿着孔3が硬化した後でなければ工具6は引き抜かれない。勿論,成形孔であるため工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる。ここで,工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間はモダン1の材質や挿着孔3の大きさ・形状によって左右される条件であって,その都度最適条件を定めなければならない。さらに上記第1図の挿着孔3の形状は単なる1例で,その他あらゆる断面の挿着孔3の成形をも可能とする。」(4欄36〜48行)と記載されている。ここでは,圧入した工具6は直ちには引き抜かれず,一定温度に低下して初めて工具6を引き抜くことの理由が説明されるとともに,工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間が,モダン1の材質や挿着孔3の大きさ・形状によって左右される条件であって,その都度最適条件が定められなければならないことが指摘されている。
上記の記載においては,「高温状態に加熱された工具を圧入したことによる成形」を用いることと,「挿着孔の内周面は滑らかで,光沢面状となる」ことが記載されてはいる。しかしながら,「工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで,光沢面状となる」理由としては,その直前に「勿論,成形孔であるため」との記載があって,「勿論」との語が用いられていること,及び「成形孔であるため」とのみ記載され,例えば,「本件発明による高温状態に加熱された工具を圧入したことによる成形孔であるため」などのような限定がされていないことに照らせば,上記記載は,成形技術の一般的技術常識からみて,「成形」であるがゆえに,挿着孔内周面の「滑らかさ」,「光沢面状」が得られるとの記載であると解釈されるのであって,本件発明における高温状態に加熱された工具を圧入するということのために「挿着孔の内周面は滑らかで,光沢面状となる」という記載であると解することはできない。
そして,以上の記載が示しているのは,工具6を挿入する際には,モダンを可塑化状態とすべく高温加熱されること,圧入後に直ちに工具を引き抜くと,結果として挿着孔が変形あるいは崩れるので,所定保持時間をおいて,モダン1の冷却を待って引き抜くようにすべきことまでであって,工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間の「最適条件」(4欄43〜46行)が,「挿着孔の内周面は滑らかで,光沢面状となる」ことの条件を決定するものと解し得るものとはいえない。
(4) 次に,特許公報(甲2)の「(効果)」の項において,「モダンの挿着孔は成形孔であって,ドリル加工による切削孔でないため,非円形の挿着孔を得ることが出来ることは勿論であるが,挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さく,そのため光の乱反射は発生せず,透明度が向上する。」(6欄4〜8行)との記載がある。
しかし,これに続いて「従来の切削孔では,光の乱反射によって白っぽくなり,モダンの外観を損なっていた。」(6欄8〜9行)との記載があることからすれば,前者の記載は,後者の「従来の切削孔」との対比として説明されるものであると解される。
(5) 以上のとおり,特許公報(甲2)には,本件発明が,「成形孔であるから,挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面となる」こと,従来の切削孔と対比した場合に,本件発明が,「挿着孔の面粗度は非常に小さい」ことが記載されているにとどまり,訂正発明における「挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面状である」ための理由が工具の高温状態の加熱に起因することについては,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるとはいえない。
したがって,審決が,「挿着孔の内周面が滑らかで,光沢面である」ための理由として,加熱温度との関係を述べた本件訂正は新規事項の追加に該当するものと認定判断したことは,正当であって,誤りがあるとはいえず,原告ら主張の審決取消事由1は理由がない。
2 結論 以上のとおり,本件訂正は,新規事項の追加に該当するものであるから,独立特許要件に関する審決の判断に対して主張された審決取消事由について判断するまでもなく,本件訂正審判の請求を成り立たないとした審決は是認し得るものであることが明らかである。
よって,原告らの請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】当事者目録原告株式会社長井原告Xb上記両名訴訟代理人弁護士藤井健夫,弁理士岡本清一郎,平崎彦治被告特許庁長官今井康夫指定代理人大野克人,林栄二,鹿股俊雄,大橋信彦被告補助参加人Ya〔No1〕被告補助参加人Yb〔No2〕被告補助参加人Yd〔No4〕被告補助参加人有限会社マスダオプチカル〔No5〕被告補助参加人Yf〔No6’〕被告補助参加人Yg〔No7〕被告補助参加人Yh〔No8〕被告補助参加人Yi〔No9〕被告補助参加人Yj〔No10〕被告補助参加人株式会社松浦眼鏡所〔No11〕被告補助参加人プラス・ジャック株式会社〔No12〕被告補助参加人山崎工業株式会社〔No13〕被告補助参加人有限会社田島プラスチック〔No14〕被告補助参加人Yo〔No15〕上記14名訴訟代理人弁護士金井和夫,金井亨,弁理士戸川公二【別紙】審決の理由訂正2001-39195号事件,平成14年3月26日付け審決(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1特許第2733538号(平成1年7月8日特許出願、平成10年1月9日設定登録)に関する本件審判請求の要旨は、明細書を、請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
そこで、訂正の適否について、以下に検討する。
1)新規事項について特許権者が求めている訂正は、以下のaを含むものである。
a、特許請求の範囲第1項を「・・・、前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された、ツル先端部形状と同一形状を成す工具を、・・・」と訂正する。
しかし、「挿着孔の内周面が滑らかで、光沢面である」ことに関しては、「圧入後直ちに工具6を引き抜くならば成形された挿着孔3の形状が変形したり、時には崩れてしまう。したがって一定温度に低下し、成形された挿着孔3が硬化した後でなければ工具6は引き抜かれない。勿論、成形孔であるため工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで、光沢面状となる。」(特許掲載公報第4欄第37〜43行)及び「一方、モダンの挿着孔は成形孔であって、ドリル加工による切削孔でないため、非円形の挿着孔を得ることが出来ることは勿論であるが、挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さく、そのため光の乱反射は発生せず、透明度が向上する。」(特許掲載公報第6欄第4〜8行)との記載が見出されるだけであり、
ドリル加工による切削孔でない、成形孔であるから、挿着孔の内周面が滑らかで、
光沢面となり、挿着孔の内周面の面粗度は非常に小さいとしか読みとれない。
それゆえ、「装着孔の内周面が滑らかで、光沢面である」ための理由として、加熱温度との関係を述べた、上記aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に該当する。
以上のとおりであるから、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、
特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
2)独立特許要件についてa、訂正明細書の請求項1に係る発明訂正明細書の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次の事項により特定されるとおりのものである。
「メガネフレームのツルの先端を挿着させるための挿着孔が設けられ該挿着孔はその挿入端側において、断面形状が長円形を呈する如く拡大されてなるモダンの製造方法において、所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを一定温度に加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットし、該金型の開口から、前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された、ツル先端部形状と同一形状を成す工具を、その先端側から順次前記モダンに圧入して前記挿着孔の周辺を可塑化しながら進行せしめ、前記挿入端側を可塑化状態で拡大させて圧入を完了し、圧入後一定時間保持した後、該工具を引き抜いて、該挿入端側が断面形状が長円形を呈する如く拡大され、且つ内周面が滑らかな光沢面状を呈する前記挿着孔を成形することを特徴とするメガネフレーム用モダンの製造方法。」b、引用刊行物記載の発明刊行物1:特開昭49-122352号公報刊行物2:特公昭50-28181号公報刊行物3:特公昭40-5907号公報刊行物4:実公昭40-7342号公報刊行物5:実願昭61-37182号(実開昭62-149017号)のマイクロフイルム刊行物1には、「湯口を製品の根本部にあらしめた成型用金型内に予じめ芯型を挿入することなく先づ熔融樹脂を成型金型の根本部から注入し、注入終了の直後未だ冷却固化しない間に芯孔型を差し込んで芯孔を成型させるようにしたことを特徴とする眼鏡の蔓先片成形方法。」(特許請求の範囲第1項)、「本発明は第1図に示す如き金縁眼鏡等における蔓片(S)の先端に差込まれる蔓先片(T)を透明合成樹脂材で成形する方法及び装置に関するものである。」(第1頁左欄末行〜右欄第2行)及び「第2図に示すように先づ金型本体(1)に湯口型(2)を合せて型締めし、次いで摺合せ弁(3)を摺動させて湯口型(2)の通孔(2b)を閉鎖した状態のもとで湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入したる後、摺合せ弁(3)を逆に摺動させて通孔(2b)を開口し次に通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜くようにするのである。すると芯型(4)は、型穴(1a)内に充填され、未だ軟かい半熔融樹脂内に挿入されるのであるから従来の如き噴射熔融樹脂の流れの影響を受けることなく、従って彎曲したり或いは振動したりすることはないのであり成型品に同芯状の中空部が形成されるに於いて空気泡が混入することがなくなるから丈夫で美麗な半製製品が極めて容易且つ確実に得られるようになったのである。」(第2頁左上欄末行〜右上欄第15行)との記載があり、結局、蔓片Sの先端を挿着させるための芯孔が設けられてなる蔓先片Tの製造方法において、湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入したる後、通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く蔓先片Tの製造方法、が開示されている。
刊行物2には、「更に固定台2の前部に芯金1を挿入するプラスチック・テンプル7を配置する手段としてプラスチック・テンプル7を挿入自在に載置する固定下型8、この下型8と着脱自在に嵌合して下型8に載置したプラスチック・テンプルを自在に押圧する可動上型9の上面に取りつけた可動上型9を強弱二段の力で押圧する第一段シリンダー10と第二段シリンダー11を設けた構成よりなるものである。芯金1は一般にその先端が鋭角形状で、その先端につづく前部部分1aは幅狭く厚い丸棒状であり、中央部から後部にかけての後部部分1bは幅広く扁平な平板状よりなるものであり、その後端にレンズ部分と回動自在にビス止めする芯金コマ12を設けている。」(第3欄第42行〜第4欄第12行)、「芯金1をプラスチック・テンプル7へ容易に挿入できるように予め適当な温度に加熱するためのヒーター14を設けている。該ヒーターは例えば透明なアセテートからなるテンプルに芯金を挿入する場合は芯金を200度Cに、不透明なアセテートからなるテンプルに挿入する場合は芯金を120度Cに加熱できるように調節可能なものである。」(第4欄第19〜26行)、「例えばテンプルの素材が透明もしくは不透明なアセテートあるいはニトレイトの場合は120〜130度Cにあらかじめ加熱されており、」(第5欄第37〜40行)、及び「予め加熱したプラスチック・テンプルを固定下型に載置してのち、上記下型と着脱自在に嵌合する可動上型を上記プラスチック・テンプルの上から押えてのち強弱二段の力で押圧するシリンダーなどの押圧手段の弱い力で上記上型をプラスチック・テンプルに押圧して、プラスチック・テンプルの外周面を上下型で冷却しながらプラスチック・テンプルの一端より中心部へ予め加熱した棒状の芯金をシリンダーなどの挿込手段で挿し込み、つぎに芯金がプラスチック・テンプルの中へ挿し込まれた後は上記押圧手段の強い力で可動上型をプラスチック・テンプルに押圧してプラスチック・テンプルを整形するようにした眼鏡のつるの芯金挿入方法。」(特許請求の範囲1)との記載がある。
刊行物3には、「予熱された芯15」(第1頁右欄第8行)との記載があり、刊行物4には、「予熱された芯17」(第1頁右欄第1行)との記載があり、刊行物5には、その図面からみて、テンプル芯孔2の挿入端側が拡大された構成が窺える。
c、対比・判断<訂正明細書の請求項1に係る発明>訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、
前者の「メガネフレームのツル」、「挿着孔」、「モダン」、「1対の金型」、
「金型の開口」、「工具」は、夫々後者の「蔓片S」、「芯孔」、「蔓先片T」、
「金型本体1」、「通孔2b」、「芯型4」に相当するから、両者は、メガネフレームのツルの先端を挿着させるための挿着孔が設けられてなるモダンの製造方法で一致し、
A本件請求項1に係る発明では、挿着孔がその挿入端側において、断面形状が長円形を呈する如く拡大されてなるのに対して、刊行物1に記載された発明では、そのような記載が無い点、
B本件請求項1に係る発明では、所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを一定温度に加熱して1対の金型から成るキャビティ内にセットしたのに対して、刊行物1に記載された発明では、湯道(2a)を介して型穴(1a)内に熱可塑性熔融樹脂を注入した点、
C本件請求項1に係る発明では、該金型の開口から、前記挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された、ツル先端部形状と同一形状をなす工具を、その先端側から順次前記モダンに圧入して前記挿着孔の周辺を可塑化しながら進行せしめ、前記挿入端側を可塑化状態で拡大させて圧入を完了し、圧入後一定時間保持した後、該工具を引き抜いて、該挿入端側が断面形状が長円形を呈する如く拡大され、且つ内周面が滑らかな光沢面状を呈する前記挿着孔を成形するのに対して、刊行物1に記載された発明では、通孔(2b)を介して芯型(4)を摺動させて型穴(1a)内に挿入し冷却硬化させた後引き抜く点で相違している。
そこで、相違点Aについて検討するに、挿着孔がその挿入端側において拡大されてなることは、従来周知(例えば、上記刊行物2、上記刊行物5、実願昭61-106110号<実開昭63-11617号>のマイクロフイルム、実願昭60-40390号<実開昭61-157922号>のマイクロフイルム、実願昭57-156785号<実開昭59-60630号>のマイクロフイルム、実願昭52-170243号<実開昭54-95261号>のマイクロフイルム等を参照。)の技術手段にすぎない。
また、広辞苑等によると「長円→楕円」と記載されているから、長円は、極、一般的な形状の一に過ぎず、単なる形状の限定に過ぎないし、眼鏡のツルないしテンプルの断面形状を、長円ないしこれに類似した形状とすることは、従来周知(例えば、特開昭63-115127号公報、実願昭57-151148号<実開昭59-55726号>のマイクロフイルム、特開昭58-111917号公報、特開昭60-201942号公報等を参照。)である。
次に、相違点Bについて検討するに、刊行物2には、あらかじめ加熱されたプラスチック・テンプル7を固定下型8と可動上型9との間に載置する旨の記載があり、加熱温度を一定温度とするようなことは、当業者が適宜決定できる設計的な事項であり、プラスチック・テンプル7は、何等かの手段でプラスチック材料から製作されるものであるから、訂正明細書の請求項1に係る発明の相違点Bの構成は、
刊行物2に開示されている。
そして、刊行物1及び刊行物2は、同一技術分野に属するものであるから、刊行物1の熱可塑性熔融樹脂を注入した型穴(1a)内の充填物に換えて、刊行物2に開示されたプラスチック・テンプル7を適用することは、当業者なら容易に推考できたものと認められる。
最後に、相違点Cについて検討するに、挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された工具は、従来周知(例えば、上記刊行物2、上記刊行物3、上記刊行物4等を参照。)の技術手段に過ぎない。
さらに、当該工具を先端側から順次圧入するのは当然であり、工具の進行に伴って、工具が新たに接触する挿着孔の周辺を可塑化状態となすのは、極、自然なことである。
また、刊行物1の芯型(4)は、型穴(1a)内に挿入され、冷却硬化した後引き抜くのであるから、技術常識上、表面が滑らかに仕上げ加工されていると言え、
そうであれば、引き抜いた後には、内周面が滑らかな光沢面状を呈する、芯型(4)と同じ断面形状の挿着孔が成形される。
してみれば、工具の温度を「挿着孔の内周面を滑らかで光沢面状を呈する如く形成できるように前記挿着孔の周辺を可塑化状態となし得る高温に加熱された、ツル先端部形状と同一形状を成す」ものとすることは、当業者が適宜なし得る設計的な事項に過ぎない。
それゆえ、訂正明細書の請求項1に係る発明は刊行物1、刊行物2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に推考できたものである。
なお、審判請求人は、本件発明の第2の課題(審判請求書第12頁)について主張しているが、本件特許掲載公報には、本件発明の第2の課題に関する記載は見いだせず、単に、本件発明の実施例として、「該モダン1はツル2の先端部に同図のように挿着され、挿着後その先端は適度に曲げられる。」(第4欄第4〜6行)との記載があるだけであるから、当該主張は意味がない。
d、むすびしたがって、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1、刊行物2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記訂正は、平成六年法改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
平成14年3月26日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利