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事件 平成 13年 (行ケ) 306号 審決取消請求事件
原告 株式会社シクソン
訴訟代理人弁理士 林孝吉
被告 住商鉄鋼販売株式会社
訴訟代理人弁理士 芳村武彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2000-35429号事件について平成13年6月5日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件発明についての特許を無効とする旨の審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
なお,本判決においては,審決,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
1 前提となる事実等 (1) 手続の経緯等 (1-1) 本件特許 特許権者:株式会社シクソン(原告) 発明の名称:「プレハブ建造物」 特許出願日:平成2年11月20日 設定登録日:平成11年11月19日 特許番号:第3004046号 (1-2) 本件手続 無効審判請求日:平成12年8月9日(無効2000-35429号) 審決日:平成13年6月5日 審決の結論:「特許第3004046号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成13年6月16日(原告に対し) (1-3) 訂正審判手続及び審決取消訴訟(別件) 原告は,本訴提起後の平成13年10月22日に訂正審判の請求(訂正2001-39190号)をしたところ,平成14年4月24日付けで,審判請求不成立の審決がされたため(審決謄本は平成14年5月8日原告に送達),平成14年6月6日,同審決についても審決取消訴訟を提起した(東京高裁平成14年(行ケ)第288号事件)。
(2) 本件発明の要旨(以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。) 【請求項1】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の基礎と,該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該ベースプレートには,前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも,前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し,更に,隣接する双方のGRCパネルに設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項2】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の角部における基礎と,隣接の壁用のGRCパネルの下端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,更に,該ベースプレートには,前記建造物の角部の基礎に設けられているアンカーボルトを挿入するためのボルト孔が設けられており,更に,前記側面プレートにも,建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の下端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し,更に,建造物の角部に配設される角部用のGRCパネル及び該GRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の接合部位に設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項3】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,且つ,該ベースプレートには前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルに設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,前記屋根用のGRCパネル及び壁用のGRCパネルに夫々設けられている前記スリーブナットに,該スリーブナットに夫々対峙して設けられている前記ボルト孔からボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項4】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,更に,該ベースプレートには前記建造物の角部における屋根用GRCパネルに設けられたスリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも,建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。」 (3) 審決の理由 (3-1) 審決は,理由の4項において,引用例の記載内容を認定した。
(3-1-1) 引用例1(「積算資料」1990年11月号,グラビア広告8〜9頁,1990年11月1日,財団法人経済調査会発行。審判甲1,本訴甲3)の記載内容に関する審決の認定は,次のとおりである。
『トヨタハウス株式会社の「GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステム」についての広告であって,「F.S.T.ユニパネルシステムは,時代のニーズから生まれた,RC・ブロックに代わる,ニューテクノロジーのコンクリートパネル工法。」(8頁5〜9行),「日本建築センター評定No.BCJ-LC-330」(同13行)と記載され,また,「断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルは,抜群の耐久性・耐衝撃性を持ち,しかも軽量,スピーディな施工でメンテナンスも容易です。」(同頁右欄1〜3行),「スピーディな施工 装置は効率のよいパネル工法ですから,わずか3週間というスピーディな工期で,工費も削減できます。」(同頁右欄11〜13行)と記載されている。
また,「構造図」(9頁)として,プレハブ建造物を構成するGRCパネルの一部切欠斜視図が記載され,GRCにより断熱材を密閉した構造が記載されている。
さらに,GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図(同8頁)が記載され,屋根と隣接するパネルとの取付部分(請求人が付した符号A及びC部分)においては,取り付け金物を介して取り付けるもので,その取り付け金物は少なくとも長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して屋根とパネルを接合して組み立てることが認められる。
基礎と隣接するパネルとの取付部分(請求人が付した符号B部分)においては,取り付け金物を抜き出して明示する記載はないが,屋根とパネルとの取り付け構造からみて取り付け金物を介するものであることは明らかで,その取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して基礎とパネルを接合して組み立てることが認められる。
取り付け金物の取り付け態様は次のとおりである。
(A)屋根用パネルと直線状に隣接した壁用パネルとの相互接合(請求人が付した符号A部分) プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,側面プレートには隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿され,該孔から接合部材を挿入して接合すること。
(B)基礎と直線状に立設された壁用のGRCパネルとの接合(請求人が付した符号B部分) プレハブ建造物の基礎と,基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形状のベースプレートと,ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,ベースプレートには孔が開穿されており,さらに,前記側面プレートにも,前記隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿されており,隣接する双方のGRCパネルに側面プレートに設けた孔より接合部材を挿入して接合すること。
(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接の壁用パネルの上端部との接合(請求人が付した符号C部分) プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形のベースプレートと,ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,側面プレートには隣接する壁用のGRCパネルの一方と対峙する個所に孔が開穿され,該孔より接合部材を挿入して壁用のGRCパネルを接合し,2本の接合部材がベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルを接合すること。』 (3-1-2) 審決は,引用例2(「日経アーキテクチユア」1989年8月21日号,第123頁,1989年8月21日,日経BP社発行。審判甲2,本訴甲4)の記載内容に関して次のとおり認定した。
『トヨタハウス株式会社のGRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステムについての広告が記載され,123頁には,GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図として,甲第1号証の図面と同じ図面が記載されている。』 (3-1-3) 審決は,続いて,引用例3(特公昭61-32471号公報。審判甲3,本訴甲5)の記載内容について次のとおり認定した。
『「多孔質系下地材にガラス繊維強化セメント層が積層されてなる複合板をコンクリート壁の少なくとも片面に固着すべく,該複合板のガラス繊維強化セメント層をコンクリート壁の表面材となるように,配筋を介して該複合板を締付金具で固定した後コンクリートを打設して養生硬化することを特徴とする断熱性コンクリート壁の施工方法。」(特許請求の範囲) 「本発明に使用する複合板を構成する多孔質系下地材とは発泡スチロール,ポリウレタンフォーム等の有機系多孔質材,石膏ボード,石膏ラスボード,ケイ酸カルシウム板,炭酸マグネシウム板,気泡コンクリート,軽量コンクリート,ロックウール,グラスウール,岩綿保温板,パーライト板,石綿パーライト板,或はシラスパルーン,アルミニウム粉末等を混入せしめたセメント質板等の無機系多孔質或は木毛セメント板,木片セメント板,木毛木片セメント板等の木質系セメント板等である。
該多孔質系下地材のうち特に発泡スチロール及びポリウレタンフォームは軽量にして優れた断熱性を有しており好適である。」(3欄2〜15行)』 (3-2) その上で審決は,「対比・判断」に入り,本件発明1につき,次のように認定判断した。
(3-2-1) 審決による引用例1,2の内容のまとめ 『引用例1及び引用例2には,GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステムについて記載され,同一のプレハブ建造物の一部展開斜視図が記載されている。
そして,プレハブ建造物を構成するGRCパネルは,断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたパネルであり,プレハブ建造物は,基礎と該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを取り付け金物によって接合して組み立てたものであることが認められる(請求人の付した符号B部分参照)。』 (3-2-2) 本件発明1とこれに対応する引用例1,2に係る発明(引用発明B)との一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物において,前記プレハブ建造物の基礎と,該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該ベースプレートには孔が開穿されており,さらに,前記側面プレートにも,前記隣接する壁用のGRCパネル双方と対峙する個所に孔が開穿されており,隣接する双方のGRCパネルに前記側面プレートに設けた孔より接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物,で一致(する)』 (3-2-3) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(1) 本件発明1は,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Bは断熱材の材料を開示するものではない点。
相違点(2) 本件発明1のベースプレートの孔は,隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのものであり,基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するものであるのに対して,引用発明Bは,接合部材をベースプレートの孔を介して基礎に挿入して接合する点。
相違点(3) 本件発明1の側面プレートの孔はボルト孔であって,GRCパネルに設けたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Bの取り付け金物の孔に挿入される接合部材はボルトであるとまではいえず,したがって,GRCパネルに設けたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するものであるかどうか不明である点。』 (3-2-4) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(1)については,引用例3に記載されているように,建築材料の断熱材として,発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体は周知であるから,引用発明1の断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いることは,当業者であれば容易に選択し得ることにすぎない。
相違点(2)については,基礎と壁との接合に際して,基礎に設けられたアンカーボルトを用いることも周知慣用の手段であるから,引用発明Bの接合部材に代えてアンカーボルトを用い,取り付け金物の孔に該アンカーボルトを挿通してナットにて緊締して接合することは,当業者が容易になし得ることである。
相違点(3)については,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であり,取り付け金物を介してパネルを接合するに際して,パネルにスリーブナットを設け,取り付け金物の孔を介してボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることである。』 (3-3) 審決は,本件発明3につき,次のように認定判断した。
(3-3-1) 審決による引用例1,2の内容のまとめ 『引用例1及び2の斜視図には,プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを取り付け金物によって接合して組み立てたプレハブ建造物が記載され(請求人が付した符号A部分),該取り付け金物は,長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,側面プレートには隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿され,該孔から接合部材を挿入して接合するものである。』 (3-3-2) 本件発明3とこれに対応する引用例1,2に係る発明(引用発明A)との一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物において,前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,前記側面プレートに前記隣接する壁用のGRCパネルに対峙する個所に孔が開穿されており,壁用のGRCパネルにそれぞれ対峙して設けられている前記孔から接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物,で一致(する)』 (3-3-3) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(1) 本件発明3は,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Aは断熱材の材料を特定していない点。
相違点(2) 本件発明3の取り付け金物のベースプレートには,隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルに設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Aの取り付け金物のベースプレートには孔が示されておらず,接合部材も明示されていない点。
相違点(3) 本件発明3は,隣接する壁用のGRCパネル双方にスリーブナットを設け,スリーブナットにそれぞれ対峙して設けられている側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Aでは,接合部材がボルトであるかどうか不明であり,パネルにスリーブナットを設けているかどう不明である点。』 (3-3-4) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(1)については,本件発明1について述べたと同じ理由で,当業者が容易に採用し得ることである。
相違点(2)については,引用例1及び2に記載された斜視図の請求人が付した符号C部分には,取り付け金物のベースプレートに孔が記載されていないものの,屋根用のGRCパネルに対応する個所にベースプレートを介して接合部材を挿通して接合することが記載されており,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用の技術であるから,引用発明Aにおいても,屋根用のパネルにスリーブナットを設け,取り付け金物の該スリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し,該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(3)については,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから,取り付け金物を介して壁用パネルを接合するに際して,壁用パネルにスリーブナットを設け,取り付け金物の孔をボルト孔としてボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることである。』 (3-4) 審決は,本件発明4につき,次のように認定判断した。
(3-4-1) 審決による引用例1,2の内容のまとめ 『引用例1及び2の斜視図(請求人が付した符号C部分)には,プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを取り付け金物によって接合して組み立てたプレハブ建造物であって,プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを相互に接合するための取り付け金物は長方形のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成され,この取り付け金物は側面プレートに孔を開穿し,該孔に接合部材を挿入して接合するプレハブ建造物が記載されている。』 (3-4-2) 本件発明4とこれに対応する引用例1,2に係る発明(引用発明C)との一致点についての審決の認定 『「セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物において,前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,ベースプレートを介して接合部材を挿入して接合し,側面プレートには孔が開穿され,該孔より接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物,で一致(する)』 (3-4-3) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(1) 本件発明4は,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Cは断熱材の材料を特定していない点。
相違点(2) 本件発明4の取り付け金物のベースプレートには,前記建造物の角部における屋根用GRCパネルに設けられたスリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿されており,前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,取り付け金物のベースプレートにはボルト孔の明示はないが,接合部材がベースプレートを挿通して屋根用パネルを接合している点 相違点(3) 本件発明4の取り付け金物の側面プレートには,建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルのそれぞれの上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿され,前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,取り付け金物の側面プレートに孔が開穿され,接合部材を該孔を挿通して対応するパネルを接合している点』 (3-4-4) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(1)については,本件発明1について述べたと同じ理由で,当業者が容易になし得ることである。
相違点(2)については,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから,引用発明Cにおいても,屋根用のパネルと壁用のパネルとを接合するために,取り付け金物のベースプレートに隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルにスリーブナットを設け,ベースプレートに該スリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し,該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(3)については,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから,取り付け金物を介してパネルを接合するに際して,パネルに設けられるスリーブナットを用い,取り付け金物の孔にボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることであり,建造物の角部であって,角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには,それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから,引用発明Cについても,取り付け金物の側面プレートに,建造物の角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿し,前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締することは,当業者が容易になし得ることと認められる。』 (3-5) 審決は,本件発明2につき,次のように認定判断した。
(3-5-1) 本件発明2と前記引用発明Cとの一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物において,前記プレハブ建造物の角部における構造部材と,隣接の壁用のGRCパネルの端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,該取り付け金物を介して接合部材により接合することを特徴とするプレハブ建造物,で一致(する)』 (3-5-2) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(1) 本件発明2は,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Cは断熱材の材料を特定していない点。
相違点(2) 本件発明2の角部における構造部材は基礎であり,取り付け金物は隣接するパネルの下端部を接合するのに対して,引用発明Cの構造部材は屋根であり,取り付け金物は隣接するパネルの上端部を接合する点 相違点(3) 本件発明2の取り付け金物のベースプレートには,建造物の角部の基礎に設けられているアンカーボルトを挿入するためのボルト孔が設けられ,前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するのに対して,引用発明Cでは,接合部材が取り付け金物のベースプレートを介して接合している点 相違点(4) 本件発明2の取り付け金物の側面プレートには,建造物の角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の下端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,建造物の角部に配設される角部用のGRCパネル及び該GRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルのそれぞれの接合部位に設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,取り付け金物の側面プレートに孔が開穿され,対応するパネルに接合部材を挿通して接合していることが認められるが,具体的な接合手段については不明である点』 (3-5-3) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(1)については,本件発明1について述べたと同じ理由で,当業者が容易になし得ることである。
相違点(2)については,引用例1及び2は,(B)基礎と直線状に立設された壁用パネルとの接合(請求人が付した符号B部分),(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接した壁用パネルの上端部との接合(請求人が付した符号C部分)の各々に使用される取り付け金物を開示するから,基礎と角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても,引用例1及び2に接する当業者に対して,同様の取り付け金具により接合し組み立てることを示唆するものと認められ,引用発明Cの取り付け金具を基礎に対して使用するようなことは,当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
相違点(3)については,基礎と壁との接合に際して基礎に設けられたアンカーボルトを用いることは周知慣用の手段であるから,接合部材に代えてアンカーボルトを用い,取り付け金物の孔に該アンカーボルトを挿通してナットにて緊締して接合することは,当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(4)については,パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから,取り付け金物を介してパネルを接合するに際して,パネルにスリーブナットを設け,これにボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることであり,建造物の角部であって,角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには,それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから,取り付け金物の側面プレートにも,建造物の角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネルのそれぞれの上端部にスリーブナットを設け,側面プレートにボルトを挿通するためのボルト孔を開穿し,該ボルト孔よりボルトを螺入して緊締することは,当業者が容易になし得ることと認められる。』 (3-6) 審決は,原告の審判手続における主張を排斥した上,上記判断をふまえ,本件発明1〜4は,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであると結論付けた。
2 原告の主張(審決取消事由)の要点 (1) 引用例1及び2に記載された技術事項の認定の誤り 審決は,引用例1(甲3)及び2(甲4)に記載された技術事項を,前記1(3)の(3-1-1)ないし(3-1-3),(3-2-1),(3-3-1)及び(3-4-1)のように認定したが,誤っている。
審決は,「屋根と隣接するパネルとの取付部分(請求人が付した符号A及びC部分)においては,取り付け金物を介して取り付けるもので」と認定するが,これは単に位置決めのための治具であるかもしれないのであり,引用例1,2の図面(甲3の3枚目,甲4の4枚目に記載された一部展開斜視図。以下,「斜視図」という。なお,同図面中には,手書きで,一部分を楕円形状の線で囲み,これに引き出し線を付して,「A」「B」「C」と記載されているが,これらは,審判の過程で説明用に追加記載されたものである。)に徴して,直ちに屋根と隣接するパネルとの取付部分の「取り付け金物」であると断定することはできない。また,「取り付け金物」を斜視図中のA及びC部分の記載に徴して認定できるとしても,その取り付け金物のベースプレートには孔が開穿されていないのであり,「孔から接合部材を挿入して屋根とパネルを接合して組み立てる」と認めた審決は,本件特許公報を読んで熟知した後知恵に基づく推測である。
また,審決は,「基礎と隣接する……認められる。」と認定するが,前記符号B,A,Cを付さない状態の斜視図に徴し,何らの説明も受けず,かつ,その他の図面を提示されないで,直ちに基礎と隣接するパネルとの取付部分が屋根とパネルとの取付構造からみて,長方形状のベースプレートと,そのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートから成る取り付け金物を介して取り付けたものと断ずることはできない。この点も前記後知恵に基づく推測である。
審決は,(A)の項において,屋根用パネルと直線状に隣接した壁用パネルとを相互に接合するために取り付け金物が用いられるように認定しているが,この取り付け金物に相当するものは,位置ずれしないように仮止め手段として用いられるものであるかもしれないのであり,いわんや,ベースプレートに孔が開穿されていない状態では,接合部材を挿入して屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用パネルとを接合することはできないのであり,この点も前記後知恵に基づく推測である。
審決は,(B)の項において,プレハブ建造物の基礎と基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するために取り付け金物が用いられるように認定しているが,これも位置ずれしないように仮止め手段として用いられるものであるかもしれないのであり,当業者といえどもこの図面を見て様々の不明な点が生じるのが自然である。しかし,審決は,単に斜視図を見て,取り付け金物を用い,該取り付け金物のベースプレートと側面プレートにそれぞれ設けられている孔より接合部材を挿入して,プレハブ建造物の基礎と基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合していると認定したことは,前記後知恵に基づく推測である。
審決は,(C)の項において,屋根用パネルと角部用パネル及び隣接の壁用パネルの上端部との接合に際し,単に前記図面を見て長方形状のベースプレートと,ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,中央部で直角に折曲された平面視L字状に形成された取り付け金物を用い,側面プレートには隣接する壁用のGRCパネルの一方と対峙する個所に孔が開穿され,該孔より接合部材を挿入して壁用のGRCパネルを接合し,2本の接合部材がベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルを接合すると認定している。しかし,取り付け金物と仮定したとしても,その取り付け金物のベースプレートには孔が開穿されていないのであり,2本の接合部材がどのようにしてベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルと接合するのか全く不明である。この認定も前記後知恵に基づく推測である。
(2) 本件発明1の進歩性についての認定判断の誤り (2-1) 本件発明1とこれに対応する引用例1,2に係る発明(引用発明B)との一致点についての前記審決の認定は,誤りである。すなわち,前記(1)と同様の理由により,当業者が前記斜視図を見て双方の発明が直ちに一致すると認定することは極めて困難である。
(2-2) 建物において基礎に埋設されているアンカーボルトを用いる場合は,通常,基礎上に下段通り柱を載設し,そして,該下段通り柱に前記アンカーボルトを挿通して固設し,さらに,その下段通り柱上に縦柱,間柱及びその間に壁材が組み込まれる。したがって,基礎に設けられているアンカーボルトを用いて基礎上に直接に壁材を連結することは,周知慣用の手段であるとはいえない。よって,基礎と壁との接合に際し,引用発明Bの接合部材に代えてアンカーボルトを用い,取り付け金物の孔に該アンカーボルトを挿通してナットにて緊締して接合することは当業者が容易になし得ることであるとした,相違点(2)についての審決の判断は,前記後知恵に基づく推測である。
(2-3) ボルトとスリーブナットとを結合することは周知慣用手段であるとしても,特にプレハブ建造物において,パネルにスリーブナットを埋設し,本件発明1のように取り付け金物に設けた孔からボルトを挿通して緊締することまでも,周知慣用手段と断ずることはできない。相違点(3)についての審決の前記判断も前記後知恵に基づく推測である。
(3) 本件発明3の進歩性についての認定判断の誤り 審決は,相違点(2),(3)について,前記のとおり判断し,当業者であれば容易になし得ることであるとしたが,前述したように本件特許公報を読んで熟知した後知恵に基づいた推測である。
(4) 本件発明4の進歩性についての認定判断の誤り (4-1) 本件発明4とこれに対応する引用例1,2記載の発明(引用発明C)との一致点についての前記審決の認定は,前述したように単なる推測である。すなわち,「プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを取り付け金物によって接合して組み立てたプレハブ建造物である」と認定した点には,当業者が容易に認定できるのか疑義がある。
また,相違点(2)の認定のうち,「引用発明Cでは,取り付け金物のベースプレートにはボルト孔の明示はないが,接合部材がベースプレートを挿通して屋根用パネルを接合している」と認定した点にも,同様の疑義がある。
(4-2) 審決が相違点(2),(3)について,当業者が容易になし得ることと認められると判断した点も,大いに疑義が生じる。接合手段としてボルトとスリーブナットとは周知慣用手段であるとしても,引用発明Cにおいて屋根用のパネルと壁用のパネルとを接合するために取り付け金物のベースプレートに隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルにスリーブナットを設けることが,当業者であるならば直ちに想到し得るものとは断じ得ない。すなわち,斜視図によってこのようなスリーブナットの埋設及びそのスリーブナットとボルトとの結合が当業者であるならば容易に想到し得るものであるかどうか疑問であり,本来,このようなプレハブ建造物の壁部材にスリーブナットを埋め込むようなことは常套手段として知られていない。さらに,建造物の角部であって,角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネル並びに屋根用のGRCパネルの相互間の接合手段が,斜視図を当業者が見て容易に認識し得るものであると断ずることはできない。
(5) 本件発明2の進歩性についての認定判断の誤り (5-1) 本件発明2と引用発明Cとの一致点についての審決の前記認定は,前述した理由により,当業者が容易に認定することはできないものである。
さらに,審決の相違点(3)の認定として,「引用発明Cでは,接合部材が取り付け金物のベースプレートを介して接合している点」としているが,引用発明Cでは取り付け金物のベースプレートに孔が開穿されていないにもかかわらず,接合部材がどのようにして建造物の角部における屋根用のGRCパネルと接合するのかが極めて不明である。
(5-2) 審決は,相違点(2)についての判断において,「引用例1及び2は,(B)基礎と直線状に当接された壁用パネルとの接合(請求人が付した符号B部分),(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接した壁用パネルの上端部との接合(請求人が付した符号C部分)の各々に使用される取り付け金物を開示しているから,基礎と角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても引用例1及び2に接する当業者に対して,同様の取り付け金物を基礎に対して使用することを示唆するものと認められる」としている部分がある。しかし,このような示唆に関する文言は全くなく,かつ,引用例1,2の斜視図におけるB部分及びC部分を当業者が見て,容易に前記認定が可能であるかについては,大いに疑義が生じる。いわんや,同斜視図には,角部における基礎上に立設されるであろうと思われる角部用の壁用パネル及びこれに隣接すると推定される壁用パネルとの接合手段について一切開示されていない。
相違点(3)についての審決の前記判断は,論理が飛躍しており,この点も前記後知恵に基づく単なる推測である。すなわち,基礎に対して壁を直接に接合することは周知慣用の手段であるとはいえず,通常は,基礎に埋設されているアンカーボルトに挿通して該基礎に固定されるものは下段通り柱であるのであり,この種建造物においては,基礎に埋設されたアンカーボルトに壁を直接に取り付けることが,たとえ取り付け金物を利用するとしても,これをもって周知慣用の手段であるとは断じ難い。いわんや,引用例1,2の斜視図には,アンカーボルトが埋設されているという記載は全くなく,審決は単なる推定による認定にすぎない。さらに,壁用のパネルにスリーブナットを埋設する構成等についても,これを認定し得るに足る記載は前記斜視図には一切開示されていないのであり,この点に関連する審決の認定も単なる推測である。
結局,本件発明1〜4を引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるかどうかは,この技術の分野に属する通常の知識を有する者が,引用例1,2の斜視図を見て容易に本件発明1〜4を想到し得るかどうかが問題であるところ,一般には,前記斜視図のみを提示されても,当業者といえども,取り付け金物の構成並びに基礎及び壁用のGRCパネルとの相互関係,又は屋根用のGRCパネル又は角部用のGRCパネル等との具体的接合状態等を詳細に説明を受けて初めて,前記斜視図によって本件発明1〜4を理解し得るのである。
(6) 審決が引用した引用例1(甲3),引用例2(甲4)は,審査時において拒絶理由通知書(甲7)に引用された証拠に掲載されている図面及び文言と実質的に同一である。さらに,引用例3(甲5)も,審査時において拒絶理由通知書にて引用されたのと同一の公報であって,審査済みである。原告は,平成11年3月3日(送達日)付けで前記拒絶理由通知書に接し,そして,本件特許公報(甲6)記載のとおり補正したところ,拒絶理由は克服され,平成11年10月27日(送達日)付けで特許査定され,同年11月19日付けで登録されたものである。
このように,本件発明は,審査官といえども,上記各引用文献によって創作性を否定することができなかったので,特許査定に到ったのであり,このような審査の経緯に徴しても,審査済みの上記書証(甲3ないし5)によって本件発明を無効とする審決は,事実誤認の違法が存在するものと断ぜざるを得ない。
3 被告の主張の要旨 (1) 引用例1及び2に記載された技術事項の認定の誤りに対して 原告の主張は,出願当時の技術水準や引用例1(甲3)の記載を無視したものであり,首肯できない。当業者が引用例1の斜視図を見れば,審決が指摘するそれぞれの箇所に,審決が認定した構造を有する取り付け金物が開示されていることを直ちに認識できるものであり,審決の認定が正当であることは明白である。
なお,本件特許の出願当時の技術水準として,GRCパネル等を使用する建造物のパネル工法において,パネルを基礎に埋め込んだアンカーボルトに取り付け金物を介してナットにて緊結すること(乙4,5),及びパネルの接合をパネルにスリーブナットを設け,取り付け金物の孔を介してボルトを螺入して緊締することにより行うこと(乙6,7)は,周知慣用の技術であった。そもそも,パネル工法とは,アンカーボルト,スリーブナット,ボルト等を使用し,取り付け金物を介して基礎等と壁面パネルや,隣接するパネル同士等を接合することにより建造物を構築するものであるから,これらのことが周知慣用の技術であることは当然のことである。
(2) 本件発明1の進歩性についての認定判断の誤りに対して 原告の主張は,出願当時の技術水準や引用例1(甲3)の記載を無視したものであり,首肯できない。
また,相違点(2)についての審決の判断を非難する原告の主張は誤りである。基礎上に下段通り柱を載設し,そして,該下段通り柱に基礎に埋設されたアンカーボルトを挿通して固設し,さらに,その下段通り柱上に縦柱,間柱及びその間に壁材を組み込む工法は,在来工法における手法である。このような手法は,アンカーボルト,スリーブナット,ボルト等を使用し,取り付け金物を介して基礎等と壁面パネルや隣接するパネル同士等を接合することによりプレハブ建造物を構築するパネル工法とは関係のないものである。乙4,5にもみられるように,GRC等のコンクリート系パネルを使用したパネル工法において,パネルを基礎に埋め込んだアンカーボルトに取り付け金物を介してナットにて緊結することは,周知の慣用手段にすぎず,審決の判断は正当である。
原告は,相違点(3)についての審決の判断も非難するが,プレハブ建造物において,GRC等のコンクリートパネル中にスリーブナットを埋設し,取り付け金物に設けた孔からボルトを挿入して螺合することにより緊結することは,乙6,7にもみられるように周知慣用の技術であるから,原告の主張は,本件出願当時の技術水準を無視したものであり,首肯できない。
(3) 本件発明3の進歩性についての認定判断の誤りに対して 原告の主張は,出願当時の技術水準や引用例1,2の記載を無視したものであり,首肯できない。審決に原告の主張するような違法な点はない。
(4) 本件発明4の進歩性についての認定判断の誤りに対して 原告の主張は,いずれも,前記のとおり,本件出願当時の技術水準や引用例の記載を無視したものであり,首肯できない。
(5) 本件発明2の進歩性についての認定判断の誤りに対して 原告は,一致点及び相違点(3)の認定の一部につき,審決を非難するが,前同様,本件出願当時の技術水準や引用例の記載を無視したものであり,首肯できない。また,引用例1,2に記載された斜視図のC部分には,平面視L字状の取り付け金物を一点鎖線で抜き出して明示した部分に,ボルト様接合部材を上向きに挿入することが点線によって示されている。そして,同図の上部の右側から中央部にかけて計4枚の屋根用パネル(内1枚は,上方に抜き出して記載されている。)を載置し,接合することが示されており,当業者であれば直ちに接合部材が取り付け金物のベースプレートを介して,屋根用パネルを接合するものであることを認識することができる。したがって,審決の認定は正当であり,原告の主張には首肯できない。
原告は,相違点(2)についての判断に関しても審決を非難する。しかし,引用例1,2には,取り付け金物自体としては同じ構成を有する金物を,符号Aで表示した部分ではプレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと壁用のGRCパネルとを相互に接合するために使用し,符号Bで表示した部分ではプレハブ建造物の基礎と壁用のGRCパネルとを接合するために使用している。すなわち,引用例1,2には,プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物を,プレハブ建造物の基礎と壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物として転用することが図中に開示されているのである。してみれば,審決が認定したように引用例1,2は,符号C部分の屋根用パネルと角部用パネル及び隣接した壁用パネルの上端部との接合に使用される取り付け金物を,基礎と角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても使用することを示唆するものである。したがって,審決の認定及び判断は正当である。
原告は,相違点(3)についての判断に関しても,審決を非難する。しかし,既に説明したように,基礎に埋設されているアンカーボルトに下段通り柱を挿通して該基礎に固定する手法は,プレハブ建造物におけるパネル工法とは関係のない,在来工法の技術である。そして,プレハブ建造物のパネル工法において,GRC等のコンクリートパネルを基礎に埋め込んだアンカーボルトに取り付け金物を介してナットにて緊結すること,及びパネルの接合を取り付け金物を介してボルトとパネルに埋め込んだスリーブナットにより行うことは,既に説明したように,周知の慣用手段にすぎず,審決の判断は正当である。
原告は,「一般には,前記斜視図のみの提示をされても,当業者といえども,取り付け金物の構成並びに基礎及び壁用のGRCパネルとの相互関係,又は屋根用のGRCパネル又は角部用のGRCパネル等との具体的接合状態等を詳細に説明を受けて初めて,前記斜視図によって本件発明1〜4を理解し得る」などと主張するが,この主張は,プレハブ建造物におけるパネル工法の基本原理や,本件出願当時の技術水準を全く無視した主張であり,首肯できない。審決は,パネル工法の基本原理や本件出願当時の技術水準に基づいて,各引用例の記載事項を認定して,本件発明1〜4の進歩性を否定したものであり,原告が主張するような違法な点はない。
(6) 原告のいう審査官が拒絶理由通知に引用した甲8,9は,引用例1ないし3(甲3ないし5)とは全く異なる刊行物であり,その記載内容も異なる(甲8には斜視図すら存在しない。)。原告の主張が誤りであることは明白である。
当裁判所の判断
1 引用例1及び2に記載された技術事項の認定の誤りについて 原告は,引用例1(甲3)及び2(甲4)に記載された技術事項に関する審決の認定が誤りであると主張するので,以下,検討する。
(1) 引用例1の斜視図及びその説明文と引用例2の斜視図及びその説明文とは,基本的に同一内容のものであると認められる。以下,引用例1に従って判示するが,特に断らない限り,引用例2に関しても同様である(斜視図については,引用例2の方が大きく見やすいので,適宜引用する。)。
引用例1(甲3)の3枚目及び4枚目によれば,その記載は,トヨタハウス株式会社の「GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステム」についての広告であって,「F.S.T.ユニパネルシステムは,時代のニーズから生まれた,RC・ブロックに代わる,ニューテクノロジーのコンクリートパネル工法。」,「日本建築センター評定No.BCJ-LC-330」と記載され,また,「断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルは,抜群の耐久性・耐衝撃性を持ち,しかも軽量,スピーディな施工でメンテナンスも容易です。」,「スピーディな施工 設置は効率のよいパネル工法ですから,わずか3週間というスピーディな工期で,工費も削減できます。」と記載され,また,プレハブ建造物を構成するGRCパネルの一部切欠斜視図を示す「構造図」には,GRCにより断熱材を密閉した構造が記載されていることが認められる(以上の認定については原告も争わない。)。
引用例2(甲4)4枚目にも,同様の広告が記載され,「小規模建築物でパネル式コンクリート造(工期短縮)」,「GRCダブルスキンパネル(断熱効果抜群)」などの記載があることが認められる。
本件発明の属する技術分野の当業者が,以上の引用例1,2に記載の説明文とともに引用例1の斜視図を見た場合,同図面は,上記のような断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルをパネル工法で組み立てたほぼ完成された状態のプレハブ建造物を示しており,このうち斜視図の右半分において建造物が完成された状態を示している一方で,斜視図の左半分において,プレハブ建造物の一部を分解した状態を表すことによって,屋根用パネルと壁用パネルとの接合部分及び基礎と壁用パネルとの接合部分の状況等がわかるように表示したものであることを理解し得るものと認められる。
(2) 上記斜視図からパネルとパネルを取り付けるための部材(取付部材)の取り付け態様をみると,次のように認定判断することができる。
(2-1) 斜視図のうち,A部分をみると,屋根用パネルと隣接する壁用パネルとの取付部分に介在する,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成る取付部材が図示されている。斜視図中のC部分をみると,屋根用パネルと隣接するパネルとの取付部分に介在する,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成された取付部材が図示されている。一方,斜視図のB部分をみると,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの取付部分における取付部材が(A部分やC部分のように)抜き出して図示されてはいないが,前記A及びCの取付部分に設けられた取付部材と同様に,B部分においても,直交する2面すなわち基礎面とこれに隣接する壁用パネルの内側面に,それぞれ接合部材を挿入することが図示されている(引用例2の斜視図も参照)ことからすると,当業者であれば,A部分と同様に,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成る取付部材が使われていることを理解し得るものと認められる。
(2-2) A部分の取付部材につき,2本の横向きの接合部材が,C部分の取付部材につき,2本の上向きの接合部材及び1本の横向きの接合部材が,B部分の取付部材につき,2本の横向きの接合部材及び2本の下向きの接合部材が,それぞれ図示されている。
(2-3) A部分及びB部分の各取付部材の側面プレートには,隣接する壁用パネル双方の接合部位に対峙する箇所に孔が図示されており,C部分の取付部材の側面プレートには,一方の壁用パネルの接合部位に対峙する箇所に孔が図示されている(引用例2の斜視図も参照)。
(2-4) 上記(2-2),(2-3)のとおり,斜視図では,すべての取付部材のプレートに孔が表示されているわけではなく,すべての取付部材のプレートに向かって接合部材が表示されているわけではない。しかし,A部分の取付部材の側面プレート,B部分の取付部材の側面プレート及びC部分の取付部材の一方の側面プレートにおいて,孔と接合部材とが表示されていることからすれば,当業者は,これらのA,B,C部分の接合部材は,いずれも取付部材に設けられた孔に挿入され,取付部材を介して,パネルとパネルを接合して組み立てるものであることを理解できるものと認められる。そうすると,当業者は,取付部材のプレートに向かって接合部材のみが表示されているC部分の取付部材のベースプレート及びB部分の取付部材のベースプレートにも孔を設けるものであること,さらに,C部分の取付部材のベースプレートと同様に,A部分の取付部材のベースプレートにも孔を設けるものであること,C部分の取付部材における側面プレートの形状にも照らし,L字状の他方の側面プレートにも孔を設けるものであることを理解し得るものと認められる。
(3) 以上のことからすれば,斜視図のA,B及びC部分の取付部分に設けられた取付部材は,各部分におけるパネルとパネル,又はパネルと基礎とを接合し組み立ててプレハブ構造物を完成させるために用いられるものであって,一般に取付部材として金属が慣用されていることをも考慮すると,その各取付部材は「取り付け金物」ということができる。そして,前記斜視図は,右半分に完成部分が示され,左半分に一部を分解した状態を表すことで接合部分の詳細が示されているのであり,左半分の部分が仮止めの状態を分解して示したものであるとみることはできない。
したがって,前記各取付部材が単なる位置決めのための治具や仮止めの手段であるとは認められない。よって,取付部材が単なる位置決めのための治具ないし仮止めの手段であるかもしれず,「取り付け金物」であると断定することはできないとの原告の主張は,採用することができない。
そして,当業者は,前記のとおり,A,B,C各部分の取付部材の各ベースプレートにも孔を設けるものであることを理解し得るのであるから,ベースプレートに孔が開穿されていないとする原告の主張は,採用し得ない。
その他,原告の主張を検討しても,審決における引用例1及び2に記載された技術事項の認定は,是認し得るものであって,原告主張の誤りがあるとはいえない。
2 本件発明1の進歩性についての認定判断の誤りについて (1) 原告は,本件発明1と引用例1,2記載の引用発明Bとの一致点についての審決の認定に誤りがあると主張する。しかし,原告の主張は,審決における引用例1及び2に記載された技術事項の認定に誤りがあることを理由とするものであるから,前記1に判示したところによれば,原告の主張は前提を欠くものであって,採用し得ない。
(2) 原告は,相違点(2),(3)についての審決の判断が後知恵に基づく推測であると主張する。
検討するに,GRCパネルを用いた建造物を構築することに関するものであることが明らかな乙4には,「GRC版部取付詳細図」において,基礎に設けたアンカーボルトに対して,GRCライニング板に取り付けられたL字型ステンレス部材をナットで取り付ける構成が記載されている。また,乙5の「詳細図」における「1階マリオンパネル・ファスナー(下部MJ-UG)」及び「1階スパンドレルパネル・ファスナー(下部SJ-UG)」には,「アンカーボルト」を用いてパネルを取り付ける構成が明示されている。
さらに,乙6の「図-10 取付縦断面詳細図」の「A-A断面図」及び「ファスナー立面図」には,GRCパネルを躯体へ取り付けるものではあるが,GRC等のコンクリートパネルの中にスリーブナットを埋設し,取り付け金物に設けた孔からボルトを挿入して螺合する取付手法が開示されている。また,乙7においても,同様にスリーブナットを用いた取付手法が開示されている。
以上によれば,GRCパネルの接合手段として,「アンカーボルト,取り付け金物及びナットにより基礎と結合すること」,「ボルトとスリーブナットとで結合すること」は,乙4〜7にもあるように周知慣用手段であると認められる。
なお,原告は,「建物において基礎に埋設されているアンカーボルトを用いる場合は,通常,基礎上に下段通り柱を載設し,そして,該下段通り柱に前記アンカーボルトを挿通して固設し,さらに,その下段通り柱上に縦柱,間柱及びその間に壁材が組み込まれる。」と主張するが,この手法はパネル以外に骨格としての柱を必要とする従来工法に係るものであって,本件発明1の前提と異なることは明らかである。
以上のように,GRCパネルを用いた施工手法における接合手段を開示する乙4〜7が存在しており,これらの接合手段を当業者が想定することは,格段困難なこととはいえない。
よって,審決が相違点(2),(3)について,いずれも当業者であれば容易になし得ることであるとした判断に誤りはなく,後知恵に基づく推測であるとの原告の主張は,採用し得ない。
3 本件発明3の進歩性についての認定判断の誤りについて 原告の主張は,前記1,2で検討した主張と同旨のことを理由に,相違点(2),(3)についての審決の判断が後知恵に基づく推測であると主張する。しかし,前記1,2で判示したように,この主張もまた採用することができない。
4 本件発明4の進歩性についての認定判断の誤りについて (1) 原告は,本件発明4と引用例1,2記載の引用発明Cとの一致点についての認定及び相違点(2)の認定の一部に疑義があると主張する。しかし,原告の主張は,審決における引用例1及び2に記載された技術事項の認定に誤りがあることを理由とするものと解されるのであり,前記1に判示したところによれば,原告の主張は前提を欠くものであって,採用し得ない。
(2) 原告は,相違点(2),(3)についての判断にも大いに疑義が生じると主張する。その主張内容は,引用例1及び2に記載された技術事項の認定の点及び前記2(2)で検討した点に関して主張したところと実質的に同旨のものと解される。したがって,前判示のように,この原告の主張もまた採用の限りではない。
5 本件発明2の進歩性についての認定判断の誤りについて (1) 原告は,本件発明2と引用例1,2記載の引用発明Cとの一致点についての認定及び相違点(3)についての認定の一部を誤りであると主張する。しかし,この主張についても,審決における引用例1及び2に記載された技術事項の認定に関するものなど,既に判示したところに照らし,採用することができない。
(2) 原告は,相違点(2)についての判断の誤りの理由として,引用例1,2の斜視図には,角部における基礎上に立設されるであろうと思われる角部用の壁用パネル及びこれに隣接すると推定される壁用パネルとの接合手段について一切開示されていないと主張する。
確かに,引用例1,2の斜視図には,角部における基礎と,角部用の壁用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部とを接合するための取付部材は,図示されていない。しかし,前判示(特に1)のとおり,引用例1,2によれば,当業者は,斜視図のC部分においては,取り付け金物における側面プレート,L字状の他方の側面プレート及びベースプレートのいずれにも孔が設けられ,これらの孔から接合部材を挿入し,取り付け金物を介して,角部における屋根用パネルと角部用のパネル及び隣接の壁用パネルとを接合して組み立てるものであることを理解することができるものと認められ,一方,B部分においては,取り付け金物における側面プレート及びベースプレートのいずれにも孔が設けられ,これらの孔から接合部材を挿入し,取り付け金物を介して,基礎と直線状に立設された壁用パネルとを接合して組み立てるものであることを理解することができるものと認められる。そうすると,当業者は,これらのB,C部分の取り付け金物の開示から,角部における基礎と,角部用の壁用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても,同様の取り付け金具により接合し組み立てることを理解し得るものと認められる。
したがって,引用発明Cの取り付け金具を基礎に対して使用するようなことは当業者が容易に想到し得るとした審決の相違点(2)についての判断は,是認し得るものである。
(3) 原告は,上記のほか,相違点(2),(3)についての判断が後知恵に基づく単なる推測であるなどと主張する。しかし,これら原告の主張も,既に検討した主張と実質的に同旨のものに帰するものと解される。したがって,前判示に照らし,これらの原告の主張もまた採用することができない。
6 原告は,審決に記載された引用例は審査段階での拒絶理由通知書にて引用されたものと実質的に同じであって,補正により,拒絶理由は克服され,特許査定がされたとの経緯に徴し,上記引用例で本件発明を無効とする審決は,事実誤認であるとの趣旨を主張する。
検討するに,そもそも,引用例1(甲3),引用例2(甲4)と審査段階における拒絶理由通知書に引用されたという甲8,甲9とを対比すると,前二者と後二者は,別の文献であることは明らかである。この点をおくとしても,たとえ原告主張の事情があったにせよ,審査官による特許査定に際しての判断が無効審判を担当する合議体の判断を拘束する理由はないばかりか,前判示のとおりの理由があるのであるから,本件発明1ないし4が進歩性を有しないと審決が判断しても,何ら違法ではない。その他,本件審判手続をみても,原告主張の違法があるとは認められない。
7 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利