関連審決 | 無効2000-35429 訂正2001-39190 |
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関連ワード | 創作性(創作) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 慣用技術 / 実質的に同一 / 特許出願日 / 容易に想到(容易想到性) / 設定登録 / 審判制度 / 拒絶理由通知 / 訂正審判 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
288号
審決取消請求事件
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原告 株式会社シクソン 訴訟代理人弁理士 林孝吉 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 鈴木公子,田中弘満,大野克人,林栄二,大橋信彦 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/10/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2001-39190号事件について平成14年4月24日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
原告は,後記本件発明の特許権者であるが,後記のとおり,住商鉄鋼販売株式会社から本件特許について無効審判を請求され(無効2000-35429号事件),本件発明についての特許を無効とする旨の審決がされたため,この審決の取消しを求めて審決取消訴訟を提起(東京高裁平成13年(行ケ)第306号事件)するとともに,本件訂正審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めて本訴を提起したものである。 なお,本判決においては,審決,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。 1 前提となる事実等 (1) 手続の経緯等 (1-1) 本件特許 特許権者:株式会社シクソン(原告) 発明の名称:「プレハブ建造物」 特許出願日:平成2年11月20日 設定登録日:平成11年11月19日 特許番号:第3004046号 (1-2) 無効審判手続及び審決取消訴訟(別件) 無効審判請求日:平成12年8月9日(無効2000-35429号) 無効審判請求人:住商鉄鋼販売株式会社 審決日:平成13年6月5日 審決の結論:「特許第3004046号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成13年6月16日(原告に対し) 審決取消訴訟提起:平成13年7月12日(東京高裁平成13年(行ケ)第306号事件) (1-3) 本件訂正審判手続 審判請求日:平成13年10月22日(訂正2001-39190号) 審決日:平成14年4月24日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年5月8日(原告に対し) (2) 本件訂正審判請求に係る請求項の記載(下線部分が訂正による追加部分である。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「訂正発明1」などという。) 【請求項1】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記GRC パネル は構造体 を兼ね,且つ,その 厚みを 大きくして 断熱性及 び遮音性 が向上 するように 形成 され ,更に,該GRC パネル にはその 四隅 に夫々切欠部 が設けられ ,該切欠部 にスリーブナット を,該スリーブナット の雌螺子孔 が開放 するようにして 埋設し,一方 ,前記プレハブ建造物の基礎と,該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該ベースプレートには,前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも,前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられている前記スリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し,更に,隣接する双方のGRCパネルに設けた前記スリーブナットが埋設 されている 前記切欠部 に側面 プレート を係合 し,該スリーブナット に該側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。 【請求項2】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記GRC パネル は構造体 を兼ね,且つ,その 厚みを 大きくして 断熱性及 び遮音性 が向上 するように 形成 され ,更に,該GRC パネル にはその 四隅 に夫々切欠部 が設けられ ,該切欠部 にスリーブナット を,該スリーブナット の雌螺子孔 が開放 するようにして 埋設し,一方 ,前記プレハブ建造物の角部における基礎と,隣接の壁用のGRCパネルの下端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,更に,該ベースプレートには,前記建造物の角部の基礎に設けられているアンカーボルトを挿入するためのボルト孔が設けられており,更に,前記側面プレートにも,建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の下端部に設けられた前記スリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し,更に,建造物の角部に配設される角部用のGRCパネル及び該GRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の接合部位に設けた前記スリーブナットが 埋設 されている 前記切欠部 に側面 プレート を係合し,該スリーブナット に該側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。 【請求項3】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記GRC パネル は構造体 を兼ね,且つ,その 厚みを 大きくして 断熱性及 び遮音性 が向上 するように 形成 され ,更に,該GRC パネル にはその 四隅 に夫々切欠部 が設けられ ,該切欠部 にスリーブナット を,該スリーブナット の雌螺子孔 が開放 するようにして 埋設し,一方 ,前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,且つ,該ベースプレートには前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルに設けられている前記スリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられている前記スリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており,前記屋根用のGRC パネル に設けられている 前記切欠部 にベースプレート を係合 し,前記壁用 のGRC パネル に設けられている 前記切欠部 に側面 プレート を係合 し,前記屋根用のGRCパネル及び壁用のGRCパネルに夫々設けられている前記スリーブナットに,該スリーブナットに夫々対峙して設けられている前記ボルト孔からボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。 【請求項4】セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記GRC パネル は構造体 を兼ね,且つ,その 厚みを 大きくして 断熱性及 び遮音性 が向上 するように 形成 され ,更に,該GRC パネル にはその 四隅 に夫々切欠部 が設けられ ,該切欠部 にスリーブナット を,該スリーブナット の雌螺子孔 が開放 するようにして 埋設し,一方 ,前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,且つ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,更に,該ベースプレートには前記建造物の角部における屋根用GRCパネルに設けられた前記スリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿されており,更に,前記側面プレートにも,建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられた前記スリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており,前記角部における屋根用のGRCパネルに設けられている前記切欠部にベースプレートを係合し,前記角部用のGRC パネル 及び之に隣接 する 壁用 のGRC パネル の夫々の上端部 に設けられている前記切欠部 に側面 プレート を係合 し,前記各 スリーブナット に之と対峙 する 前記各ボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。 (3) 審決の理由 (3-1) 審決は,本件訂正につき,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書き及び2項の規定に適合するとした上で,独立特許要件の検討に入った。 (3-1-1) 審決は,まず,引用刊行物及びそれに記載された技術事項を認定したが,そのうち,刊行物1(「積算資料」1990年11月号,グラビア広告8〜9頁,1990年11月1日,財団法人経済調査会発行。本訴甲5)の記載内容に関する認定は,次のとおりである。 『トヨタハウス株式会社の「GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステム」についての広告であって,「F.S.T.ユニパネルシステムは,時代のニーズから生まれた,RC・ブロックに代わる,ニューテクノロジーのコンクリートパネル工法。」(8頁5〜9行),「日本建築センター評定No.BCJ-LC-330」(同頁13行)と記載され,また,「断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルは,抜群の耐久性・耐衝撃性を持ち,しかも軽量,スピーディな施工でメンテナンスも容易です。」(同頁右欄1〜3行),「スピーディな施工 設置は効率のよいパネル工法ですから,わずか3週間というスピーディな工期で,工費も削減できます。」(同頁右欄14〜16行)と記載され,また,プレハブ建造物を構成するGRCパネルの一部切欠斜視図を示す「構造図」(9頁)には,GRCにより断熱材を密閉した構造が記載されている。 さらに,GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図(同8頁)には,屋根と隣接するパネルとの取付部分(無効審判請求人が付した符号A,C部分参照)においては,取り付け金物を介して取り付け,その取り付け金物は少なくとも長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して屋根と隣接するパネルとを接合して組み立てるものであることが認められ,また,基礎と隣接するパネルとの取付部分(無効審判請求人が付した符号B部分参照)においては,取り付け金物を抜き出して明示していないが,前記屋根と隣接するパネルとの取り付け構造からみて,取り付け金物を介するものであることは明らかであり,その取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して基礎と隣接するパネルとを接合して組み立てるものであることが認められる。(以下,無効審判請求人が付した符号A〜C部分は,それぞれ,単に「A〜C部分」という) そして,取り付け金物の取付態様は次のとおりである。 (A)屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとの接合(A部分参照) プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと,直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,ベースプレートは,屋根用のGRCパネルに設けられている切欠部に係合し,側面プレートは,隣接する壁用のGRCパネル双方の接合部位に設けられている切欠部に係合し,該接合部位に対峙する個所に孔が開穿され,該孔から接合部材を挿入して隣接する壁用のGRCパネル双方を接合すること。 (B)基礎と直線状に立設された壁用のGRCパネルとの接合(B部分参照) プレハブ建造物の基礎と,基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形状のベースプレートと,ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,ベースプレートには孔が開穿されており,側面プレートは,隣接する壁用のGRCパネル双方の接合部位に設けられている切欠部に係合し,該接合部位に対峙する個所に孔が開穿され,該孔から接合部材を挿入して隣接する壁用のGRCパネル双方を接合すること。 (C)屋根用のGRCパネルと角部用のGRCパネル及び隣接の壁用のGRCパネルの上端部との接合(C部分参照) プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,角部用のGRCパネル及び隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,取り付け金物は長方形のベースプレートと,ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,ベースプレートは,屋根用のGRCパネルに設けられている切欠部に係合し,接合部材がベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルを接合し,側面プレートは,隣接する壁用のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,該接合部位に対峙する個所に孔が開穿され,該孔から接合部材を挿入して壁用のGRCパネルを接合すること(これらの技術事項は,A部分の取付態様,及び,C部分の角部用及び隣接の壁用のGRCパネル上端から取り付け金物に相当する部材が突出し,かつ,部材に上向き態様の2本の接合部材が付属していることから自明)。』 (3-1-2) 審決は,刊行物2(「日経アーキテクチユア」1989年8月21日号,第123頁,1989年8月21日,日経BP社発行。本訴甲6)の記載内容に関して次のとおり認定した。 『トヨタハウス株式会社のGRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステムについての広告が記載され,123頁には,GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図として,刊行物1の一部展開斜視図と同一内容の図面が記載されている。』 (3-1-3) 審決は,続いて,刊行物3(特公昭61-32471号公報。本訴甲7),刊行物4(実願昭56-143018号(実開昭58-61826号)のマイクロフィルム。本訴甲8),刊行物5(特開昭51-49516号公報。本訴甲9),刊行物6(実願昭51-93845号(実開昭53-13310号)のマイクロフィルム。本訴甲10)の各記載内容について認定した。 (3-2) その上で審決は,「対比・判断」に入り,訂正発明1につき,次のように認定判断した。 (3-2-1) 訂正発明1とこれに対応する刊行物1,2に係る発明(引用発明B)との一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の基礎と,該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該ベースプレートには,孔が開穿されており,さらに,前記側面プレートにも,前記隣接する壁用のGRCパネル双方の接合部位と対峙する個所に孔が開穿されており,該側面プレートが隣接する双方のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,該側面プレートに設けた孔から接合部材を挿入して隣接する壁用のGRCパネル双方を接合したプレハブ建造物,である点。』 (3-2-2) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(a) 訂正発明1が,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Bでは,断熱材の材料を開示するものではない点。 相違点(b) 訂正発明1が,GRCパネルは構造体を兼ね,かつ,その厚みを大きくして断熱性及び遮音性が向上するように形成されているのに対し,引用発明Bでは,GRCパネルを用いたパネル工法であるもののその厚みや断熱性及び遮音性について開示するものではない点。 相違点(c) 訂正発明1が,ベースプレートの孔は隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのものであって,基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するものであるのに対して,引用発明Bでは,接合部材をベースプレートの孔を介して基礎に挿入して接合している点。 相違点(d) 訂正発明1が,側面プレートの孔はボルト孔であって,壁用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Bでは,側面プレートの孔に挿入される接合部材はボルトであるとまではいえず,したがって,壁用のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するものであるかどうか不明である点。』 (3-2-3) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(a)については,刊行物3,4に記載されているように,建築材料の断熱材として,発泡スチロールやウレタンホーム等の有機質系の発泡体は周知であるから,引用発明Bの断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いることは,当業者であれば容易に採用し得ることである。 相違点(b)については,引用発明BにはGRCパネルを用いたパネル工法によるプレハブ建造物が開示されており,しかも,該パネル工法によるプレハブ建造物は柱梁材などの軸組構造を採用せずGRCパネルのみで自立するように構成されていることから,該GRCパネルも構造体を兼ねていることは自明であり,また,訂正発明1において「GRCパネルの…厚みを大きくして断熱性及び遮音性が向上するように形成」との具体的構成については定かでないが,引用発明BのGRCパネルも構造体を兼ね,かつ,内部に断熱材を密閉している以上,相応の厚みがあり,かつ,断熱性及び遮音性も向上するように形成されているものと思量されるから,該相違点(b)は実質的な差異ではない。 相違点(c)については,構造体として用いる壁用のGRCパネルを基礎に埋設されているアンカーボルトに取り付け金物を用いて直接に結合することは,例えば,実願昭56-97529号(実開昭58-2203号)のマイクロフィルム(以下,「周知例1」という),実願昭60-139104号(実開昭62-50245号)のマイクロフィルム(以下,「周知例2」という)等に示されているように従来から周知の技術であるから,引用発明Bの接合部材に代えてアンカーボルトを用い,ベースプレートの孔にアンカーボルトを挿通してナットにて緊締するようにすることは,当業者が容易になし得ることである。 相違点(d)については,刊行物5,6に記載されているように,コンクリートパネルの接合手段として,パネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であり,側面プレートを介して壁用のGRCパネルを接合するに際して,該パネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることである。』 (3-3) 審決は,訂正発明3につき,次のように認定判断した。 (3-3-1) 訂正発明3とこれに対応する刊行物1,2に係る発明(引用発明A)との一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,かつ,前記側面プレートに前記隣接する壁用のGRCパネル双方の接合部位と対峙する個所に孔が開穿されており,該ベースプレートを屋根用のGRCパネルに設けられている切欠部に係合し,該側面プレートを隣接する双方のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,該側面プレートの隣接する双方の壁用のGRCパネルの接合部位にそれぞれ対峙して設けられている前記孔から接合部材を挿入して接合したプレハブ建造物,である点。』 (3-3-2) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(e) 訂正発明3が,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Aでは,断熱材の材料を開示するものではない点。 相違点(f) 訂正発明3が,GRCパネルは構造体を兼ね,かつ,その厚みを大きくして断熱性及び遮音性が向上するように形成されているのに対し,引用発明Aでは,GRCパネルを用いたパネル工法であるもののその厚みや断熱性及び遮音性について開示するものではない点。 相違点(g) 訂正発明3が,ベースプレートには,屋根用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿され,ボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Aでは,ベースプレートには孔が示されておらず,接合部材も明示されていない点。 相違点(h) 訂正発明3が,側面プレートの孔はボルト孔であって,壁用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Aでは,側面プレートの孔に挿入される接合部材がボルトであるとまではいえず,したがって,壁用のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するものであるかどうか不明である点。』 (3-3-3) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(e)については,…「相違点(a)」についての判断で述べたと同じ理由で,当業者が容易に採用し得ることである。 相違点(f)については,…「相違点(b)」についての判断で述べたと同じ理由で,実質的な差異ではない。 相違点(g)については,刊行物1,2に記載された斜視図のC部分を参照すると,ベースプレートに孔が記載されていないものの屋根用のGRCパネルに対応する個所に設けた部材に上向き態様の2本の接合部材が付属していることからみて,ベースプレートを介して接合部材を挿通して接合することは明かであり,しかも,…「相違点(d)」についての判断で述べたように,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であるから,引用発明Aにおいても,屋根用のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,ベースプレートのスリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し,切欠部に係合したベースプレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者が容易になし得ることである。 相違点(h)については,上記したように,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは従来から周知慣用の技術であるから,側面プレートを介して壁用のGRCパネルを接合するに際して,該パネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることである。』 (3-4) 審決は,訂正発明4につき,次のように認定判断した。 (3-4-1) 訂正発明4とこれに対応する刊行物1,2に係る発明(引用発明C)との一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物において,前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと,隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,前記側面プレートには孔が開穿され,該ベースプレートを屋根用のGRCパネルに設けられている切欠部に係合し,ベースプレートを介して屋根用のGRCパネルに接合部材を挿入して接合し,該側面プレートを隣接する双方のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,該孔より接合部材を挿入して接合したプレハブ建造物,である点』 (3-4-2) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(i) 訂正発明4が,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Cでは,断熱材の材料を開示するものではない点。 相違点(j) 訂正発明4が,GRCパネルは構造体を兼ねかつその厚みを大きくして断熱性及び遮音性が向上するように形成されているのに対し,引用発明Cでは,GRCパネルを用いたパネル工法であるもののその厚みや断熱性及び遮音性について開示するものではない点。 相違点(k) 訂正発明4が,ベースプレートに建造物の角部における屋根用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿され,ボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,ベースプレートには孔が開示されておらず,接合部材も明示されていない点。 相違点(l) 訂正発明4が,側面プレートの孔はボルト孔であって,建造物の角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,側面プレートの孔に挿入される接合部材がボルトであるとまではいえず,したがって,GRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に埋設されたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するものであるかどうか不明である点。』 (3-4-3) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(i)については,…「相違点(a)」についての判断で述べたと同じ理由で,当業者が容易に採用し得ることである。 相違点(j)については,…「相違点(b)」についての判断で述べたと同じ理由で,実質的な差異ではない。 相違点(k)については,…「相違点(d)」についての判断で述べたように,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位に設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であるから,引用発明Cにおいても,屋根用のGRCパネルと壁用のGRCパネルとを接合するために,ベースプレートに隣接する屋根用のGRCパネルの接合部位に設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,ベースプレートのスリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し,切欠部に係合したベースプレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者が容易になし得ることである。 相違点(l)については,上記したように,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位に設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であるから,側面プレートを介して壁用のGRCパネルを接合するために,壁用パネルの接合部位に設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることであり,建造物の角部であっても,角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには,それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから,引用発明Cについても,側面プレートに角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの接合部位に設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,側面プレートのスリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締することは,当業者が容易になし得ることと認められる。』 (3-5) 審決は,訂正発明2につき,次のように認定判断した。 (3-5-1) 訂正発明2と前記引用発明Cとの一致点についての審決の認定 『セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって,該GRCパネル内に断熱材を密閉し,該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て,前記プレハブ建造物の角部における構造部材と,隣接する壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって,該取り付け金物は長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り,さらに,前記側面プレートには孔が開穿され,該側面プレートを壁用のGRCパネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,該側面プレートに設けた孔から接合部材を挿入して接合したプレハブ建造物,である点』 (3-5-2) 上記両者の相違点についての審決の認定 『相違点(m) 訂正発明2が,断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して,引用発明Cでは,断熱材の材料を開示するものではない点。 相違点(n) 訂正発明2が,GRCパネルは構造体を兼ね,かつ,その厚みを大きくして断熱性及び遮音性が向上するように形成されているのに対し,引用発明Cでは,GRCパネルを用いたパネル工法であるもののその厚みや断熱性及び遮音性について開示するものではない点。 相違点(o) 訂正発明2が,角部における構造部材は基礎であり,取り付け金物は基礎と隣接するパネルの下端部とを接合するのに対して,引用発明Cの構造部材は屋根(屋根用のGRCパネル)であり,取り付け金物は屋根と隣接する壁用のGRCパネルの上端部とを接合している点。 相違点(p) 訂正発明2が,ベースプレートの孔は隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の角部の基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するものであるのに対して,引用発明Cでは,接合部材が取り付け金物のベースプレートを介して接合している点。 相違点(q) 訂正発明2が,側面プレートの孔はボルト孔であって,建造物の角部用のGRCパネル及びこれに隣接する壁用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して,引用発明Cでは,側面プレートに孔が開穿され,対応するパネルに接合部材を挿通して接合していることが認められるが,具体的な接合手段については不明である点。』 (3-5-3) 上記相違点についての審決の判断 『相違点(m)については,…「相違点(a)」についての判断で述べたと同じ理由で,当業者が容易に採用し得ることである。 相違点(n)については,…「相違点(b)」についての判断で述べたと同じ理由で,実質的な差異ではない。 相違点(o)については,刊行物1,2は,(B)基礎と直線状に立設された壁用パネルとの接合(B部分参照),(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接した壁用パネルの上端部との接合(C部分参照)の各々に使用される取り付け金物を開示するから,基礎と角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても,刊行物1,2に接する当業者に対して,同様の取り付け金具により接合し組み立てることを示唆するものと認められ,引用発明Cの取り付け金具を基礎に対して使用するようなことは,当業者が容易に想到し得ることにすぎない。 相違点(p)については,…「相違点(c)」についての判断で述べたと同じ理由で,引用発明Cの接合部材に代えてアンカーボルトを用い,ベースプレートの孔にアンカーボルトを挿通してナットにて緊締するようにすることは,当業者が容易になし得ることである。 相違点(q)については,…「相違点(d)」についての判断で述べたように,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であるから,取り付け金物を介してパネルを接合するに際して,パネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,これにボルトを螺入して緊締するようなことは,当業者であれば容易になし得ることであり,建造物の角部において角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには,それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから,引用発明Cについても,角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの接合部位である四隅にそれぞれ設けられた切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,側面プレートにボルトを挿通するためのボルト孔を開穿し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締することは,当業者が容易になし得ることと認められる。』 (3-6) 審決は,原告の審判手続における種々の主張を排斥した上,上記判断をふまえ,訂正発明1〜4は,いずも刊行物1,2に記載された発明と従来周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であると判断し,これを理由に本件訂正を認めることができないと結論付けた。 2 原告の主張(審決取消事由)の要点 (1) 刊行物1及び2に記載された技術事項の認定の誤り 審決は,前記1(3-1-1)のように刊行物1に記載された技術事項の認定をした(刊行物2も同じと認定した〔(3-1-2)〕。)が,誤っている。 通常の知識を有する当業者が,訂正発明についての予備知識が一切ない状態で刊行物1(甲5)又は刊行物2(甲6)のアイソメ図(アイソメトリック図。甲5の3枚目,甲6の4枚目に記載された一部展開斜視図。以下,審決の用語例に従い「斜視図」という。なお,同図面中には,手書きで,一部分を楕円形状の線で囲み,これに引き出し線を付して,「A」「B」「C」と記載されているが,これらは,審判の過程で説明用に追加記載されたものである。)で,「A」「C」など記載していない状態のものを一見して,屋根と隣接するパネルとの取付部分(審決のいう符号A及びCの部分)が取り付け金物を介して取り付けられる,すなわち,その部材が取り付け金物であると直ちに認定することはできない。仮止め用の治具であるかもしれないのである。上記刊行物には,組立てについての詳細な説明は一切記載されていないのであり,斜視図を見て,訂正発明の組立て並びにこの組立てに用いられる各治具の構成及び作用効果を当業者が容易に想到することは決してできない。 仮に,斜視図中に前記取り付け金物が図示されていると認定し得るとしても,取り付け金物のベースプレートには孔が開穿されていないので,孔から接合部材を挿入して屋根とパネルとを接合して組み立てることはできない。 また,通常の知識を有する当業者が,本件特許公報を読んで知得した予備知識を有することなく,かつ,その他の図面の提示も一切なく,また,何らの説明も受けずして,前記符号を付さない状態の前記斜視図を一見して,基礎と隣接するパネルとの接合部(審決のいう符号B部分)が,屋根とパネルとの取付構造からみて,長方形状のベースプレートと,該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートから成る取り付け金物を介して取り付けたものと断ずることはできない。 屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとの接合(審決のいう符号A部分)については,取り付け金物に相当するものは,位置ずれしないようにするための仮止め手段であるかもしれないのであり,いわんやベースプレートに孔が開穿されていない状態では接合部材を挿入して屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用パネルとを接合することはできない。また,上記斜視図のA部分を一見したとき,壁用のGRCパネルの角部に切欠部の存在を確認することはできないのであり,また,前述したように,ベースプレートに孔が開穿されていない以上,該孔に接合部材を挿入して屋根用のGRCパネルと隣接して立設されている壁用のGRCパネルとを接合することは不可能である。審決の上記認定中,(A)のような認定はできない。 基礎と基礎上に直線上に立設された壁用のGRCパネルとの接合(審決のいう符号B部分)については,前述したように審決のいう取り付け金物に相当するものは,位置ずれしないように仮止め手段として用いられるものであるかもしれず,かつ,ベースプレートに孔が開穿されているかどうかについても全く不明であるばかりでなく,側面プレートは隣接する壁用のGRCパネル双方の接合部位に切欠部が設けられているかどうかも全く不明なのであるから,審決の上記認定中,(B)の認定には無理がある。 屋根用のGRCパネルと角部用のGRCパネル及び隣接の壁用のGRCパネルの上端部との接合(審決のいう符号C部分)については,前述したように直ちにこれを取り付け金物と認定し難く,取り付け金物であると認定できると仮定したとしても,取り付け金物のベースプレートには孔が開穿されていないのであり,2本の接合部材がどのようにしてベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルと接合するのか全く不明である。さらに,前記斜視図のC部分を通常の知識を有する当業者が一見したとき,屋根用のGRCパネルと角部用のGRCパネル及び該角部用のGRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルとがどのようにして結合されるかについての組立て上の詳細(図面及び説明)が一切示されていないのであって,なぜ,角部用のGRCパネルであると認定できるのかも不明であり,各GRCパネルの角部には同図を見る限り前記切欠部の存在を確認することはできないのであるから,審決の上記認定中,(C)の認定には無理がある。 (2) 訂正発明1について 審決は,前記1(3-2-3)のように判断するが,相違点(b),(c),(d)の判断につき誤りがある。 (2-1) 相違点(b)についての判断の誤り 刊行物1(甲5)刊行物2(甲6)の図面には柱,梁等が図示されておらず,斜視図についての組立て等に関する具体的説明もなく,この種のプレハブ建造物においては,GRCパネル自体を構造体として構築したものは,現実の業界においてはほとんど存在していない。よって,本件特許公報を読んで熟知した後知恵が全くない状態で,しかも,高度の技術的知識を有するのではなく,通常の知識を有する当業者が,上記のような斜視図を見て,GRCパネル自体が構造体を兼ねていると直ちに判断できるとは考えにくい。 (2-2) 相違点(c)についての判断の誤り 審決は,周知例1(実願昭56-97529号(実開昭58-2203号)のマイクロフィルム,甲11)及び周知例2(実願昭60-139104号(実開昭62-50245号)のマイクロフィルム,甲12)を挙げて判断する。 しかし,周知例1は,下方のパネルを個々に前記額縁に設け凹所を介してアンカー及びナットにて固定するものであり,隣接する左右のパネルは該額縁に設けた前記凹所に開穿されたボルト孔にボルトを挿通して緊締するものであり,訂正発明1のGRCパネル及びその固定手段とは本質的な差異を有するものであり,また,周知例1のパネル自体は,構造体を兼ねるものであるとは考えにくく,構造体はこのパネルの内側に突設されている前記額縁によって構成されているものと考えられる。この周知例1の前記構成をもって訂正発明の基礎上に固定される手段が周知慣用の手段であると断ずることはできない。 また,周知例2の地下収納庫は,訂正発明1のプレハブ建造物とは本質的に相違しているのであり,周知例2によって,訂正発明1の結合方式が周知慣用手段であるとは断じ難い。 なお,原告は,上記周知例1,2について意見聴取の機会を与えられていないので,特許法165条違反の疑いがある。 (2-3) 相違点(d)についての判断の誤り 刊行物5(甲9)に開示されている構造物の結合構造は,各部が相互に有機的に結合して一体的構造を構成しているのであり,みだりに取拾選択して「コンクリートパネルの接合手段」として,パネルの接合部位に設けられている切欠部に雌螺子部が開放するようにして埋設されたスリーブナットにボルトを螺入して緊締することのみを抽出し,このことをもって周知慣用の手段であると断ずることはできない。 刊行物6(甲10)には,訂正発明1のように基礎上に建造されるプレハブ建造物自体については一切開示されていないのであり,かつ,刊行物6には基礎上に立設されるパネル双方の結合状態,あるいは角部におけるパネル双方の結合状態についての開示もなく,さらに,どのようにして基礎上に構造体としてのGRCパネルを組み立てるかについて,全く開示も示唆もされていない。また,刊行物6の凹部は,訂正発明1の切欠部とは本質的に相違しており,刊行物6に開示されたプレキャストコンクリート部材の接合装置は,各部が有機的に一体的に結合されて成るものであるから,刊行物5についてと同様に,みだりに構成を取拾選択すべきではない。 通常の知識を有する当業者が,事前に訂正発明1について一切予備知識を有することなく,刊行物1,2の斜視図を一見して,直ちに,壁用のGRCパネルの四隅に切欠部が設けられているなどの点について,正確に知得することはできない。 (3) 訂正発明3について 審決は,前記1(3-3-3)のように判断するが,相違点(f),(g),(h)の判断につき誤りがある。 (3-1) 相違点(f)についての判断の誤り 相違点(b)についての主張と同一の理由により,相違点(f)についての審決の判断は誤りである。 (3-2) 相違点(g)についての判断の誤り 審決は,引用発明A(斜視図のA部分)を認定するに,斜視図のC部分についての構成を推定し,この推定に基づいてA部分についての認定をした。これは,A部分には,認定の基礎となる構成を一義的,直接的に考定し得るに足る構成が開示されていないことを意味するものであり,A部分についての認定自体も本件特許公報を読んで熟知した結果による推測にすぎない。 また,審決は,刊行物5,6をもって,コンクリートパネルの接合手段としてパネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来からの周知慣用の技術であるとしているが,相違点(d)について主張したのと同じ理由により,これらをもって,周知慣用の技術と断ずることはできない。 (3-3) 相違点(h)についての判断の誤り 審決は,ここでも,刊行物5,6をもって,上記と同じ周知慣用技術を認定しているが,相違点(d)について主張したように,この認定判断は誤りである。 (4) 訂正発明4について 審決は,前記1(3-4-3)のように判断するが,相違点(j),(k),(l)の判断につき誤りがある。 (4-1) 相違点(j)についての判断の誤り 相違点(b)についての主張と同一の理由により,相違点(j)についての審決の判断は誤りである。 (4-2) 相違点(k)についての判断の誤り 相違点(d)について主張したように,刊行物5,6をもって審決のいう周知慣用の技術と断ずることはできないので,相違点(k)についての判断も誤りである。 (4-3) 相違点(l)についての判断の誤り 相違点(d)について主張したように,刊行物5,6をもって審決のいう周知慣用の技術と断ずることはできないので,相違点(l)についての判断も誤りである。 (5) 訂正発明2について 審決は,前記1(3-5-3)のように判断するが誤りである。 (5-1) 審決は,訂正発明2に対応する引用発明は直接に認定せず,前記引用発明Cとの対比をし,さらに相違点(o)のような判断をしている。しかしながら,訂正発明2に対応する引用発明の部分はすべて被蔽されており,一義的,直接的あるいは間接的にも全く開示されていないのであり,引用発明C及びBにも,訂正発明2に対応するものについての示唆も全くない。 (5-2) そうでないとしても,相違点(n)についての審決の判断は,相違点(b)についての主張と同一の理由により,誤っている。 (5-3) 相違点(p)についての審決の判断は,相違点(c)についての主張と同じ理由により,誤っている。 (5-4) 相違点(q)についての審決の判断は,相違点(d)についての主張と同じ理由により,誤っている。 (6) 審決が引用した刊行物1,2(甲5,6)は,審査時における拒絶理由通知に引用された参考資料に掲載されている図面及び文言と実質的に同一である。さらに,刊行物3(甲7)も審査時における拒絶理由通知に引用された引用例と同じ公報である。また,刊行物4(甲8)は,刊行物3と同じことを立証するために提示されたものである。そして,刊行物5(甲9),同6(甲10),周知例1(甲11)及び同2(甲12)は,審決が認定したように周知慣用の技術であるとすれば,本来,訂正拒絶の理由として提示する必要もないものであることを考慮すれば,これらは,審査時において拒絶理由通知にて引用された引用例と実質的に同一であるということができる。 特許法159条2項の規定は,査定系の審判事件において,査定の理由と異なる拒絶理由を発見したとき,査定系審判において改めて同法50条の規定が準用され,査定の理由と異なる理由を発見して拒絶をすべき審決をしようとするときには,審判請求人に対して拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定している。この規定を反対解釈すれば,査定の理由と同一理由によって拒絶理由を通知することはできないことを意味するものである。本件は,訂正審判であるから事案が異なるとしても,特許法159条2項の規定は,本件についても類推適用されてしかるべきものである。 原告は,平成11年3月3日(発送日)付けで拒絶理由通知に接し,補正をしたところ,拒絶理由は克服され,平成11年10月27日(送達日)付けで特許査定され,平成11年11月19日付けで設定登録されたものである。 このように,前記甲各号証は,審査時において引用された引用文献と実質的に同一であり,審査官が認定した通常の知識を有する当業者は,これらの引用文献によってしては,訂正前の本件発明もその創作性を否定することができなかったので,特許査定に到ったのである。いわんや,本件訂正発明1〜4の創作性は当然に肯定されてしかるべきものである。 3 被告の主張の骨子 刊行物1及び2に記載された技術事項についての審決の認定に誤りはない。 訂正発明1に関する相違点(b),(c),(d),訂正発明3に関する相違点(f),(g),(h),訂正発明4に関する相違点(j),(k),(l)についての審決の各判断に誤りはなく,訂正発明2に関しても,相違点(n),(p),(q)についての判断を含め,審決の認定判断に誤りはない。 原告の前記2(6)の法的主張については争う。 |
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当裁判所の判断
1 刊行物1及び2に記載された技術事項の認定の誤りについて (1) 刊行物1の斜視図及びその説明文と刊行物2の斜視図及びその説明文とは,基本的に同一内容のものであると認められる。以下,審決に従い,刊行物1に従って判示するが,特に断らない限り,刊行物2に関しても同様である(斜視図については,刊行物2の方が大きく見やすいので,適宜引用する。)。 刊行物1(甲5)の3枚目及び4枚目によれば,その記載は,トヨタハウス株式会社の「GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステム」についての広告であって,「F.S.T.ユニパネルシステムは,時代のニーズから生まれた,RC・ブロックに代わる,ニューテクノロジーのコンクリートパネル工法。」,「日本建築センター評定No.BCJ-LC-330」と記載され,また,「断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルは,抜群の耐久性・耐衝撃性を持ち,しかも軽量,スピーディな施工でメンテナンスも容易です。」,「スピーディな施工 設置は効率のよいパネル工法ですから,わずか3週間というスピーディな工期で,工費も削減できます。」と記載され,また,プレハブ建造物を構成するGRCパネルの一部切欠斜視図を示す「構造図」には,GRCにより断熱材を密閉した構造が記載されていることが認められる(以上の認定については原告も争わない。)。 刊行物2(甲6)4枚目にも,同様の広告が記載され,「小規模建築物でパネル式コンクリート造(工期短縮)」,「GRCダブルスキンパネル(断熱効果抜群)」などの記載があることが認められる。 訂正発明の属する技術分野の当業者が,以上の刊行物1,2に記載の説明文とともに刊行物1の斜視図を見た場合,同図面は,上記のような断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルをパネル工法で組み立てたほぼ完成された状態のプレハブ建造物を示しており,このうち斜視図の右半分において建造物が完成された状態を示している一方で,斜視図の左半分において,プレハブ建造物の一部を分解した状態を表すことによって,屋根用パネルと壁用パネルとの接合部分及び基礎と壁用パネルとの接合部分の状況等がわかるように表示したものであることを理解し得るものと認められる。 (2) 上記斜視図からパネルとパネルを取り付けるための部材(取付部材)の取り付け態様をみると,次のように認定判断することができる。 (2-1) 斜視図のうち,A部分をみると,屋根用パネルと隣接する壁用パネルとの取付部分に介在する,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成る取付部材が図示されている。斜視図中のC部分をみると,屋根用パネルと隣接するパネルとの取付部分に介在する,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り,かつ,中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成された取付部材が図示されている。一方,斜視図のB部分をみると,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの取付部分における取付部材が(A部分やC部分のように)抜き出して図示されてはいないが,前記A及びCの取付部分に設けられた取付部材と同様に,B部分においても,直交する2面すなわち基礎面とこれに隣接する壁用パネルの内側面に,それぞれ接合部材を挿入することが図示されている(刊行物2の斜視図も参照)ことからすると,当業者であれば,A部分と同様に,長方形状のベースプレートとそのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成る取付部材が使われていることを理解し得るものと認められる。 (2-2) A部分の取付部材につき,2本の横向きの接合部材が,C部分の取付部材につき,2本の上向きの接合部材及び1本の横向きの接合部材が,B部分の取付部材につき,2本の横向きの接合部材及び2本の下向きの接合部材が,それぞれ図示されている。 (2-3) A部分及びB部分の各取付部材の側面プレートには,隣接する壁用パネル双方の接合部位に対峙する箇所に孔が図示されており,C部分の取付部材の側面プレートには,一方の壁用パネルの接合部位に対峙する箇所に孔が図示されている(刊行物2の斜視図も参照)。 (2-4) 上記(2-2),(2-3)のとおり,斜視図では,すべての取付部材のプレートに孔が表示されているわけではなく,すべての取付部材のプレートに向かって接合部材が表示されているわけではない。しかし,A部分の取付部材の側面プレート,B部分の取付部材の側面プレート及びC部分の取付部材の一方の側面プレートにおいて,孔と接合部材とが表示されていることからすれば,当業者は,これらのA,B,C部分の接合部材は,いずれも取付部材に設けられた孔に挿入され,取付部材を介して,パネルとパネルを接合して組み立てるものであることを理解できるものと認められる。そうすると,当業者は,取付部材のプレートに向かって接合部材のみが表示されているC部分の取付部材のベースプレート及びB部分の取付部材のベースプレートにも孔を設けるものであること,さらに,C部分の取付部材のベースプレートと同様に,A部分の取付部材のベースプレートにも孔を設けるものであること,C部分の取付部材における側面プレートの形状にも照らし,L字状の他方の側面プレートにも孔を設けるものであることを理解し得るものと認められる。 (2-5) 斜視図のA部分及びその付近をみると,屋根用パネルと壁用パネルとの取付部分における屋根用パネル側の隅の部分に,切欠部があることが図示されており,その切欠部が取付部材のベースプレートの半分を覆う形で係合している状態が図示されている(刊行物2の斜視図も参照)。そして,A部分及びC部分では,隣接する壁用パネル及び角部用のパネルの各上端から取付部材が突出している状態が図示されている(刊行物2の斜視図も参照)。これらのことから,当業者は,壁用パネルとの取付部分における屋根用パネル側の隅と,プレハブ建造物の角部における屋根用パネル側とにそれぞれ切欠部が形成され,その切欠部に取付部材のベースプレートが係合していることを理解し得るものと認められる。また,斜視図のA部分では,取付部材の側面プレートが壁用パネルの内側の表面よりも窪んだ位置に取り付けられていることが図示されていることから(刊行物2の斜視図も参照),当業者は,屋根用パネルと壁用パネルとの取付部分における壁用パネル側の各隅の部分にも,切欠部が設けられ,その切欠部に側面プレートが係合していることを理解することができるものと認められる。 一方,斜視図のB部分をみると,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの取付部分における取付部材が(A部分やC部分のように)抜き出して図示されてはいないが,ベースプレート,側面プレート及びその孔並びに接合部材については,前記のとおりであるから,当業者であれば,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの接合は,A部分と同様に,長方形状のベースプレートと,そのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,側面プレートに隣接する壁用パネルの接合部位に対峙する箇所に孔が設けられ,ベースプレートにも孔が設けられた取付部材を用い,その部材を隣接する壁用パネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,孔から接合部材を挿入して接合されるものであることを理解し得るものと認められる。 (3) 以上のことからすれば,斜視図のA,B及びC部分の取付部分に設けられた取付部材は,各部分におけるパネルとパネル,又はパネルと基礎とを接合し組み立ててプレハブ構造物を完成させるために用いられるものであって,一般に取付部材として金属が慣用されていることをも考慮すると,その各取付部材は「取り付け金物」ということができる。そして,前記斜視図は,右半分に完成部分が示され,左半分に一部を分解した状態を表すことで接合部分の詳細が示されているのであり,左半分の部分が仮止めの状態を分解して示したものであるとみることはできない。 したがって,前記各取付部材が「単なる仮止め用の治具」であるとは認められない。よって,取付部材が仮止め用の治具かもしれず,「取り付け金物」であると直ちに認定することができないとの原告の主張は,採用することができない。 そして,当業者は,前記のとおり,A,B,C各部分の取付部材の各ベースプレートにも孔を設けるものであることを理解し得るのであるから,ベースプレートに孔が開穿されていないとする原告の主張は,採用し得ない。 また,当業者は,前記のとおり,GRCパネルの角部(隅)に切欠部が設けられ,その切欠部にプレートが係合していることを理解することができるものと認められるのであるから,切欠部の存在を確認することができないなどとする原告の主張も採用の限りではない。 審決における刊行物1及び2に記載された技術事項の認定は,是認し得るものであって,原告が主張するような誤りがあるとはいえない。 2 訂正発明1について (1) 相違点(b)についての判断の誤りについて 前記1で判示したとおり,当業者は,刊行物1及び2から,前認定の内容,構成を理解し得るものであることが認められる。これに照らせば,審決が相違点(b)の判断として説示したところは是認し得るものである。相違点(b)についての判断に関する原告の主張は,採用することができない。 (2) 相違点(c)についての判断の誤りについて 周知例1(甲11)の各パネルが四辺の内側に突設された額縁を備えるものであっても,当該額縁は,パネルと一体としてガラス繊維混入軽量コンクリートにより成形されているので,額縁を含むパネル全体が構造体を兼ねるものと理解することができる。よって,周知例1において,構造体として用いる壁用のGRCパネルを基礎に埋設されているアンカーボルトに取り付け金物を用いて直接に結合することが示されていると認定することは相当である。 同様に,周知例2(甲12)においても,上記と同旨のことが示されているものと認められる。 したがって,周知例1及び2に示されているように,構造体として用いる壁用のGRCパネルを基礎に埋設されているアンカーボルトに取り付け金物を用いて直接に結合することは,従来から周知の技術であるとした審決の認定判断に誤りはない。 そして,このような周知の技術を引用発明Bのようなプレハブ建造物に適用することを妨げる技術的な理由は見いだせないから,引用発明Bの接合部材に代えてアンカーボルトを用い,ベースプレートの孔にアンカーボルトを挿通してナットにて緊締するようにすることは,当業者が容易になし得ることである。これと同旨の審決の判断に誤りはない。 相違点(c)についての判断に関する原告の主張は,採用することができない。 なお,原告は,上記周知例1,2について意見聴取の機会を与えられていないので,特許法165条違反の疑いがあるとも主張する。しかし,これらは,従来周知の技術を裏付けるための例示として説示されたものであって,原告主張の違法があるとはいえない。なお,原告は,前記のとおり,別の取消事由の主張において,「周知例1,2は,周知慣用の技術であるとすれば,本来,訂正拒絶の理由として提示する必要もないものである」旨を自認しているところである。 (3) 相違点(d)についての判断の誤りについて 刊行物5(甲9)によれば,プレハブ建造物におけるコンクリートパネル状部材の接合手段として,パネル状部材の接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設された雌螺子部材とボルトとを用いるという技術思想が示されていることが認められる。そして,その技術思想と,コンクリートパネル状部材の接合手段として,長孔を備えた継手板とボルト挿通用偏心孔を有する段付き座金7を使用する技術事項との間に,不可分一体の関係があるとは認められない。したがって,審決が,コンクリートパネル状部材の接合手段として,上記の雌螺子部材とボルトとを用いることを独立した技術思想として把握したことに誤りはない。 また,刊行物6(甲10)によれば,コンクリートパネル状部材の接合手段として,コンクリートパネル状部材の接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたナットとボルトとを用いるという技術思想が示されていることが認められる。そして,その技術思想と,上記ナットを主鈑(1)の背面に固着するという技術事項との間に,不可分一体の関係があるとは認められない。したがって,審決が,コンクリートパネル状部材の接合手段として,上記のナットとボルトとを用いることを独立した技術思想として把握したことに誤りはない。 したがって,コンクリートパネルの接合手段として,パネルの接合部位に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにして埋設されたスリーブナットとボルトとによるものは,従来から周知慣用の技術であるとした審決の認定判断に誤りはない。 そして,前記1で認定したとおり,当業者は,刊行物1の斜視図(刊行物2の斜視図も参照)のA部分から,屋根用パネルと壁用パネルとの取付部分における壁用パネル側の上部の両隅の部分に切欠部が設けられ,その切欠部に側面プレートが係合していることを理解することができること,また,当業者は,同斜視図のB部分から,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの接合は,A部分と同様の取付部材を用い,A部分と同様に,その取付部材を壁用パネルの下部の両隅の部分に設けられている切欠部に係合し,孔から接合部材を挿入して接合されるものであることを理解し得ることが認められる。 そうすると,引用発明Bにおいて,側面プレートを介して壁用のGRCパネルを接合するに際して,そのパネルの接合部位(四隅)に設けられている切欠部にその雌螺子孔が開放するようにしてスリーブナットを埋設し,切欠部に係合した側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締することは,当業者であれば容易になし得ることといえる。これと同旨の審決の判断に誤りはない。 相違点(d)についての判断に関する原告の主張は,採用することができない。 3 訂正発明3について (1) 相違点(f)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(b)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(1))のとおりである。 (2) 相違点(g)についての判断の誤りについて この点に関する原告の主張が採用することができないことは,既に判示したところ(特に1,2(3))から明らかである。 (3) 相違点(h)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(d)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(3))のとおりである。 4 訂正発明4について (1) 相違点(j)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(b)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(1))のとおりである。 (2) 相違点(k)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(d)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(3))のとおりである。 (3) 相違点(l)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(d)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(3))のとおりである。 5 訂正発明2について (5-1) 確かに,訂正発明2は,角部における基礎と,角部用のパネル及び壁用パネルとを接合して組み立てるものであるのに対し,引用発明Cは,角部における屋根用パネルと,角部用のパネル及び壁用パネルとを接合して組み立てるものである。しかし,両者は,同じ角部に関するものとして共通点があり,かつ,審決は,両者の相違点を相違点(o),(p)などと認定した上で,各相違点につき判断したことが明らかである。したがって,審決が引用発明Cとの対比判断をしたこと自体に違法があるわけではない。 そして,前判示(特に1)のとおり,刊行物1,2によれば,当業者は,斜視図のC部分においては,取り付け金物における側面プレート,L字状の他方の側面プレート及びベースプレートのいずれにも孔が設けられ,これらの孔から接合部材を挿入し,取り付け金物を介して,角部における屋根用パネルと角部用のパネル及び隣接の壁用パネルとを接合して組み立てるものであることを理解することができるものと認められ,B部分においては,基礎とこれに隣接する壁用パネルとの接合が,長方形状のベースプレートと,そのベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り,側面プレートに隣接する壁用パネルの接合部位に対峙する箇所に孔が設けられ,ベースプレートにも孔が設けられた取り付け金物を用い,この取り付け金物を隣接する壁用パネルの接合部位に設けられている切欠部に係合し,孔から接合部材を挿入して接合されるものであることを理解し得るものと認められる。そうすると,当業者は,これらのB,C部分の取り付け金物の開示から,角部における基礎と,角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても,同様の取り付け金具により接合し組み立てることを理解し得るものと認められる。したがって,引用発明Cの取り付け金具を基礎に対して使用するようなことは,当業者が容易に想到し得るとした審決の相違点(o)についての判断は,是認し得るものである。 (5-2) 相違点(n)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(b)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(1))のとおりである。 (5-3) 相違点(p)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(c)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(2))のとおりである。 (5-4) 相違点(q)についての判断の誤りについて 原告は,相違点(d)についての主張と同一の理由を主張するが,これが採用し得ないことは,前判示(特に2(3))のとおりである。 6 原告は,前記第2,2(6)において,審決で引用された刊行物は審査段階での拒絶理由通知書にて引用されたものと実質的に同一であり,補正により,拒絶理由は克服され,特許査定がされたのであって,このように審査官の認定では,上記文献によっては,訂正前の本件発明の進歩性を否定し得ずに特許査定に到ったのであるから,いわんや,本件訂正発明1〜4の進歩性は,当然に肯定されてしかるべきものであるとの主張をする。 しかし,刊行物1(甲5),刊行物2(甲6)と甲4に添付の参考資料2,3(審査段階における拒絶理由通知書に引用された文献)とを対比すると,前二者と後二者は,別の文献であることは明らかである。この点をおくとしても,たとえ原告主張の事情があったにせよ,審査官による特許査定に際しての判断が無効審判又は訂正審判を担当する合議体の判断を拘束する理由はないばかりか,前判示のとおりの理由があるのであるから,訂正発明1ないし4が独立特許要件を満さないと審決が判断しても,何ら違法ではない。 また,原告は,特許法159条2項の類推適用を主張するが,その趣旨,根拠は必ずしも明確でない。その主張は,審査において,ある刊行物が拒絶理由通知書に引用され,これに対する補正等の結果,特許査定がされた場合には,後に同じ刊行物を引用例として,当該特許を無効とする審決又は訂正発明が独立特許要件を欠くとの審決をすることは許されないとの趣旨をいうもののように解されるが,そうであれば,審判制度の趣旨に合致しない独自の見解であって,採用することができない。その他,原告の主張を善解しつつ検討しても,本件訂正審判の過程における拒絶理由通知を含む手続に審決を取り消すべき事由があるとは認められない。 7 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |