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関連審決 審判1999-13444
関連ワード 加工方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  技術常識 /  優先権 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 263号 審決取消請求事件
原告 ミクロンテクノロジー インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 秋元輝雄
同 加藤宗和
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 影山秀一
同 中西一友
同 池田正人
同 高木進
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第13444号事件について平成13年12月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1992年(平成4年)10月14日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,平成5年10月13日,名称を「集積回路のリードを成形するための方法と装置」とする発明につき特許出願(特願平6-509622号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成11年5月7日に拒絶査定を受けたので,同年8月23日,これに対する不服の審判を請求し,平成11年審判第13444号事件として特許庁に係属した。
特許庁は,同事件について審理した結果,平成13年12月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成14年1月21日,原告に送達された。
2 本件出願の願書に添付した明細書(平成13年10月10日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の要旨 突出しているリードが共通面に位置する複数の集積回路(注,「蕗」とあるのは「路」の誤記と認める。)(ICs )のリードを成形する方法であって,リード(14)の少なくとも1つの近端が一対の保持する手段(9,10)によって集積回路(IC)から或る距離をおいてクランプされる方法において,リードの少なくとも1つの先端近傍は,そのリードが共通面(21)に位置する時点で,一対のジョウ(18,19)によって完全にクランプされ,そしてそのリードの先端は,前記ジョウ(18,19)によってクランプされたまま前記共通面(21)に対し垂直に延びる面に位置した前記保持する手段(9)の緩やかに湾曲する曲面部(15)にそって動かされ,それぞれのリードが位置決めされ,そして一方のジョウ(18)の先端部に前記曲面部(15)に対応して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面(26)は,前記リード(14)を前記曲面部(15)に押し付けて前記リード(14)を湾曲させることを特徴とする方法。
(以下,上記発明を「本願発明1」という。) 3 審決の理由 審決は,本願発明1は,実願昭63-96095号のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明1と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点1の判断を誤った(取消事由2)結果,本願発明1の容易想到性を誤って肯定したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は,本願発明1と引用発明は,「突出しているリードが共通面に位置する複数の集積回路のリードを成形する方法であって,リードの少なくとも1つの近端が一対の保持する手段によって集積回路からある距離をおいてクランプされる方法において,リードの少なくとも一つの先端近傍は,そのリードが共通面に位置する時点で,一対のジョウによって完全にクランプされ,そしてそのリードの先端は,前記ジョウによってクランプされたまま前記共通面に対し垂直に延びる面に位置した前記保持する手段の面部にそって動かされ,それぞれのリードが位置決めされ,そして一方のジョウの先端部に前記面部に対応して形成された曲げ面は,前記リードを前記面部に押し付けて前記リードを湾曲させる方法」(審決謄本4頁第1段落)で一致すると認定しているが,誤りである。
(1) 審決は,引用例(甲11)の記載事項として,「引用例には,・・・同一平面を保ちつつ動くリードを曲げパンチ13と可動ダイ25とで挟み込みながら曲線斜面に沿って移動させてリードの曲げ加工を行うことによって,パンチがリードの肩(注,「型」とあるのは「肩」の誤記と認める。)の部分に当ることがなく,また成形過程においてもリードとパンチ及びダイ間で擦りがない・・・」(審決謄本3頁(1-5)の次の段落)と認定しているが,引用例には,上記「同一平面を保ちつつ動くリード」に対応する記載がなく,また,引用例の「・・・可動ダイ25,25がダイプレート22に形成した曲線斜面27に沿って移動し・・・」(6頁第1段落)との記載からも明らかなように,「曲線斜面に沿って移動」するのは,リードではなく,可動ダイであるから,審決の引用発明の認定に誤りがある。
(2) 本願発明1の「リードが共通面(21)に位置する時点で」とは,一対のジョウでリードをクランプする際に,リードが曲げられていないことを意味し,「完全にクランプされ」及び「リードの先端は,前記ジョウ(18,19)によってクランプされたまま」とは,本件明細書(甲2添付)の「曲げ操作がリード端部を確実に保持するクランピングツールによって行われるから,ツールとリードの間には移動も,相対運動も摩擦もない」(3頁15行目〜17行目)との記載からも明らかなとおり,ジョウとリードとの擦りが全くないリードの曲げ操作を意味し,本願発明1においては,リードから錫が擦り取られることがない。これに対し,引用発明では,曲げパンチ13がリードを押し下げて,初期のリード面(本願発明1の共通面(21)に相当)より下で,可動ダイ25の上端に押し付け,可動ダイは,ダイの側面にバネで支持されているのみであり,曲げパンチの下降に対応して他動的に移動するにすぎず,曲げパンチ13と可動ダイ25でリードを挟み込みながら,可動ダイが曲線斜面に沿って移動する。ここで,「ながら」とは,性質の異なる動作を併行して行うことを表すから,引用発明では,「挟み込み」と「移動」とを併行して行っているのであり,「挟み込み」及び「移動」は第3図の状態において完了するものと解され,可動ダイ25が本願発明1における「完全にクランプ」した状態であるということはできない。したがって,引用発明は,本願発明1の「リードが共通面に位置する時点で」クランプされる構成を採っておらず,また,「リードを完全にクランプし」,その後に「クランプされたままリードを移動する」という要件を開示も示唆もしていないから,これらを両発明の一致点とした審決の認定は,誤りである。
(3) 被告は,電気部品のリードの曲げ成形の技術分野における本件出願前の技術水準を立証するために,乙1〜4を提出するが,乙1,2は,単に引用例の記載内容を理解するために参酌するにとどまらず,本願発明1の容易想到性の根拠として用いられ,新たな拒絶理由を示すこととなるから,審決取消訴訟において提出が許されないばかりでなく,乙2は,引用例の公開日(平成2年2月6日)よりも後の出願(同月22日)に係るものである。また,乙1は,少なくとも引用発明の必須の要件である「曲げパンチが閉方向に回動する際に案内となる斜面を形成した案内板」及び「ダイの側面にバネを介して保持された可動ダイ」の構成を欠いている点で,乙2は,少なくとも引用発明の必須の要件である「曲げパンチが軸支されている」,「曲げパンチが閉方向に回動する際に案内となる斜面を形成した案内板」,「ダイの側面にバネを介して保持された可動ダイ」及び「可動ダイが曲線斜面に沿って移動可能」を欠いている点で,それぞれ引用発明とは課題解決手段が相違するから,これらの記載を参酌して引用発明を解釈したり,引用発明の記載に換えたり,あるいは引用発明の記載を補ったりすることは相当ではない。乙3は,引用例の出願日(昭和63年7月20日)よりも後の出願(同年10月28日)に係るものであるから,引用例の解釈に際して参酌することは相当ではない。
(4) 本願発明1では,本件明細書及び図1のとおり,ジョウ19に対するスプリング17及びジョウ18に対するスプリング23は,それぞれジョウ18をスプリング23を介して矢印22の方向に作動したときに,ジョウ19がこれに対抗してリード14の先端近傍を完全にクランプするようにリード面に垂直方向の力を与える機能を有している。これに対し,引用発明では,引用例の実用新案登録請求の範囲の「ダイの側面にバネを介して保持され」との記載及び第2図,第3図の図示から明らかなように,バネ24は可動ダイ25をダイプレート22の側面に押し付けるためのものであり,曲げパンチが上方からリードに接触してこれを下方に押し下げるまでは,可動ダイの上面にリードが接触することはなく,ましてリードの先端近傍を上下から完全にクランプする力が生じないことは明らかである。
(5) また,曲げパンチ及び可動ダイがリードに接するべき各平面が異なる運動をすることから,リード成形の最初の段階において,曲げパンチと可動ダイによって「リードの先端近傍が完全にクランプ」されることはあり得ないし,「リードの先端はジョウによってクランプされたまま」動かされることもあり得ない。引用発明においては,曲げパンチ,リード,可動ダイの相対的な位置の移動が避けられない構造であることから,リード面の擦れが生じないとはいえない。
被告は,引用例の〔考案の効果〕の記載から,引用発明では,曲げパンチと可動ダイによってリードは「完全にクランプ」され,さらに「リードの先端は,曲げパンチと可動ダイによってクランプされたまま」動かされているといえると主張する。しかし,引用例の記載によれば,曲げパンチ(13)は,第1図に示すように軸28に軸支されており,軸28を中心として傾斜面26に沿って下降しながら閉方向に回動するから,その先端においてリードと接触する二つの平面も回動するのに対し,可動ダイ25は,曲線斜面27に沿って下方に移動するから,その上面のリードと接する平面は回動をすることなく下方に移動する。
(6) さらに,引用発明においては,可動ダイはバネを介してダイの側面に保持されているから,可動ダイが曲線斜面に沿って移動する際に,そのバネには下向きの力とそれに直交する方向の力が働くバネの軸がずれる。リード成形を多数回繰り返して行う際にバネがそのような動きをすれば,バネの寿命が短くなることは容易に理解できる。その結果,引用発明の装置は,本願発明1より好ましくない装置になる。
また,引用例の〔考案の効果〕の欄には,引用発明によって得られる効果が正しく記載されておらず,引用発明の構造の装置及び方法においては,たとえ従来技術より優れていたとしても,リード面の擦りが避けられないのに対し,本願発明1によれば,リードの擦れや,リード端部の位置ずれが生じない。このような作用効果の相違は,発明の構成要件の相違に基づくものである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り) 審決は,相違点1として認定した「本願発明1では,保持する手段に設けられた面部は緩やかに湾曲する曲面部であり,またジョウの先端部に形成された曲げ面は,前記曲面部に対応して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面となっているのに対し,引用発明においてはその点の明記がない点」(審決謄本4頁第2段落)について,「リードと接触して折り曲げを行う治具の面に曲率を設けて加工することは,当該技術分野における常套手段である・・・ことからすると,上記の緩やかに湾曲する曲面部,及び緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面とすることは当業者が容易になし得た程度である・・・したがって,相違点1は,当業者が適宜なし得る設計的事項である」(同頁〈判断〉「相違点1について」)と判断するが,誤りである。
(1) 審決が常とう手段として挙げた特開平2-79455号公報(甲12)は,圧縮成形によるリードの曲げ加工方法に関するものであり,リードの先端部を二つのジョウで完全にクランプして,リードを曲げる本願発明1の方法とは全く異なる方法である。また,特開平2-143551号公報(甲13)の方法によれば,切曲パンチ27はリード203の表面を擦って下降してリードを曲げているが,本願発明1では,ジョウ(18,19)はリードの表面を擦らないし,擦ることによる不利益も生じないから,甲13の方法は,リードの先端部を二つのジョウで完全にクランプして,リードを曲げる本願発明の方法とは全く異なる。したがって,甲12,13の方法を本願発明1に適用することはできない。
(2) 甲12,13が開示する圧縮成形においては,リード面の擦れによる傷,錫の擦り取れ,クラック等が生じ,これを解決することが本願発明1の課題である。本願発明1における「保持する手段に設けられた面部は緩やかに湾曲する曲面部であり,またジョウの先端部に形成された曲げ面は,曲面部に対して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面」という曲面部及び曲げ面の形状の奏する作用効果は,圧縮成形におけるパンチとダイの形状によるものと著しく異なる。本願発明1におけるジョウ18,19は,甲12,甲13における圧縮パンチに相当するものではなく,特許請求の範囲の記載のとおり,リードの先端近傍を完全にクランプし,リードの先端はクランプされたまま,緩やかに湾曲する曲面部(15)にそって動かされ,それぞれのリードが位置決めされ,一方のジョウ(18)の先端部に前記曲面部(15)に対応して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面(26)は,前記リードを前記曲面部(15)に押し付けて前記リード(14)を湾曲させるものである。この際に,本件明細書(甲2添付)に記載のとおり,「リードは,最初から曲げ面26にぴったり寄り添い続け,該曲げ面は,曲げ加工の終期において,曲げマトリックス9の補足的曲げ型15へとリードを押しこみ(図4),これによって作動機構31により,この時点で凹部15へ曲げ面26がさらに押し込まれる」(9頁11行目〜15行目)ものであって,この一連の工程においては,甲12,13記載のような,パンチとダイの組合せから成る圧縮成形の常とう手段を使用しているとはいえない。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告が主張する引用例の「同一平面を保ちつつ動くリード」との記載事項は,審決の摘記した「上型の曲げパンチと下型の可動ダイでリードを挟み込みながら成形するため,従来の成形型のように曲げパンチがリードの肩の部分に当ることがなく,また成形過程においてもリードとパンチ及びダイ間で擦りがない」との記載事項(1-4)を,リードの状態という観点から表現し直したものにすぎない。すなわち,引用例に記載される半導体装置のリード成形装置においては,リードは,上型の曲げパンチと下型の可動ダイで挟み込まれ,リードと曲げパンチ及び可動ダイ間では擦りが生じないのであるから,曲げパンチ及び可動ダイ間の間隙に挟み込まれたリードは,曲げパンチ及び可動ダイに対して,それらの位置関係を崩すことなく動くことになる。したがって,表現内容にあいまいなところがあったにしても,「同一平面を保ちつつ動くリード」が引用例に記載されているとした審決の認定に誤りはない。また,「曲線斜面に沿って移動させ」との記載は,審決の摘記した引用例の記載事項(1-1)及び(1-3)からも明らかなように,可動ダイが曲線斜面に沿って移動することを表現したものであり,「曲線斜面に沿って移動させ」との記載は,移動させる対象物である「可動ダイ」を,単に,省略して記載したものであって,リードそれ自体が「曲線斜面に沿って移動させ」られると認定しているわけではないから,審決の認定に誤りはない。
(2) 本件出願時における技術水準を示すものとして提出した乙1〜4によれば,ダイスとポンチを用いて行われる電気部品のリードの曲げ成形の技術分野において,リードとダイス及びポンチとの相対的な動きにより,リードがしごかれ,摩擦接触を受け,あるいは,こすられることにより,リードには擦り傷が残る,メッキが剥離する,ダイス及びポンチに剥離した金属が付着する等の問題点が生ずることは,従来技術の問題点として当業者に認識されていた。乙1,2からも明らかなように,曲げパンチと可動ダイを用いてリードの曲げ成形を行う技術においては,リードが共通面に位置する時点で,曲げパンチと可動ダイとによってリードが完全にクランプされ,少なくともリードが挟み込まれた面については,曲げパンチ-可動ダイ-リードがそれらの位置関係を崩すことなく,ほぼ同一の平面状態を保ちつつ移動させられることは,本件出願時において当業者が通常行うところであり,技術常識である。そうすると,引用発明も,乙1〜4に示される周知の技術課題を解決するための,曲げパンチと可動ダイを用いたリードの曲げ成形方法であるから,乙1,2に示される上記技術常識参酌すれば,引用例に明示はないとしても,これに接する当業者は,曲げパンチと可動ダイで挟み込まれたリードは,リードが共通面に位置する時点で,曲げパンチと可動ダイとによって「完全にクランプ」され,しかも,曲げパンチ及び可動ダイに対して,それらの位置関係を崩すことなく「同一平面を保ちつつ動く」ものと理解することがごく自然である。したがって,「同一平面を保ちつつ動くリード」との表現にあいまいなところがあったとしても,審決のした引用発明の認定に誤りがあるとはいえない。
(3) 審決が引用例の記載事項(1-4)として摘記した「成形過程においてもリードとパンチ及びダイ間で擦りがないため,曲げコーナー部分のクラック,リード面の擦り傷,半田クズ等の不良の発生を防ぎ,品質向上に大きく寄与することができる効果がある」との,リードの成形過程(挟み込みあるいは曲げ操作)に関する記載によれば,引用発明において,リードとパンチ及びダイ間で擦りがないことによってリード面の擦り傷等が発生しないことが明らかにされているのであるから,引用発明における挟み込みあるいは曲げ操作は,原告のいう「ジョウとリードとの擦りが全くないリードの曲げ操作」に相当し,引用発明における成形過程では,本願発明1と同様のクランプが行われている。すなわち,引用発明においては,曲げパンチと可動ダイとによって,リードは,初期のリード面(本願発明1でいう共通面(21)に相当)に位置する時点で「完全にクランプ」され,さらに,「リードの先端は,曲げパンチと可動ダイによってクランプされたまま」動かされている。引用発明における,ダイの側面にバネで支持され他動的に移動するという可動ダイの動作は,本願発明1におけるジョウ19の動作と,何ら異なるものではないから,引用発明では,「リードを完全にクランプし」た状態ではない,あるいは,「クランプされたままリードを移動する」ことにならない旨の原告の主張は,その根拠を欠くものというべきである。また,審決が摘記した引用例の記載事項(1-3)の「常時バネ14により押拡げられている曲げパンチ13,13は案内板20に接触し傾斜面26に沿って徐々に下降していき,バネ24にてダイプレート側面に位置している可動ダイ25,25とでリード2を挟み込み,さらに回動下降動作を続ける曲げパンチ13,13の動きに合わせて動く可動ダイ25,25がダイプレート22に形成した曲線斜面27に沿って移動し,ダイ23の側面に接触した時点でリードの曲げが完了する」との記載からすれば,引用発明においても,曲げパンチと可動ダイによってリードを挟み込んだ後に,曲げ加工がされることは明らかである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について 審決は,相違点1に係る「保持する手段に設けられた面部は緩やかに湾曲する曲面部であり,またジョウの先端部に形成された曲げ面は,曲面部に対応して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面」という構成の容易想到性の判断に当たり,その曲面部及び曲げ面の形状が本件出願時に当業者に広く知られていた常とう手段であるという事実を明らかにするために,甲12,13を例示したものであり,その容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決のした引用発明の認定の誤りを主張するが,審決は,引用発明の認定に際して,引用例(甲11)の実用新案登録請求の範囲の記載事項(1-1)のほか,考案の詳細な説明の〔考案が解決しようとする課題〕 中の記載事項(1-2),〔実施例〕中の記載事項(1-3),〔考案の効果〕(注,「発明の効果」とあるのは「考案の効果」の誤記と認める。)中の記載事項(1-4)及び第2図の図示(1-5)を摘記しており,これらの事実自体は,当事者間に争いがない。上記摘記箇所には,リードの動きに関して,上記(1-1)に「曲げパンチの回動に同期して形成すべきリードを挟み込みながら曲線斜面に沿って移動可能な可動ダイ」(審決謄本2頁24行目〜26行目)と記載され,上記(1-3)に「曲げパンチ13,13は案内板20に接触し傾斜面26に沿って徐々に下降していき,バネ24にてダイプレート側面に位置している可動ダイ25,25とでリード2を挟み込み,さらに回動下降動作を続ける曲げパンチ13,13の動きに合せて動く可動ダイ25,25がダイプレート22に形成した曲線斜面27に沿って移動し,ダイ23の側面に接触した時点でリードの曲げ加工が完了する」(同頁7行目〜12行目)と記載されている。確かに,審決が引用例の記載事項のまとめの箇所(同3頁(1-5)の次の段落)に摘記した「同一平面を保ちつつ動くリード」との記載それ自体は,原告主張のように,上記(1-1)〜(1-5)中にはなく,その認定の根拠も明確ではないが,引用例のリードの動きは,上記(1-1)〜(1-5)において当事者間に争いがない事実として認定されているから,「同一平面を保ちつつ動くリード」との認定は上記摘記されたリードの動きを認定したものと解した上,本願発明1と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点1の判断の誤りの存否について検討すれば足り,独立の審決取消事由と解する必要はない。
なお,原告は,引用例において「曲線斜面に沿って移動」するのはリードでなく,可動ダイであるから,審決の引用発明の認定に誤りがあると主張するが,引用例の記載に照らせば,「曲線斜面に沿って移動」するのは可動ダイであり,可動ダイの移動に伴ってリードが移動することは明らかであるから,この点を明確にしなかったからといって審決の認定に誤りがあるとはいえない。
(2) 原告は,引用発明では,曲げパンチ13がリードを押し下げて,初期のリード面(本願発明1の共通面(21)に相当)より下で,可動ダイ25の上端に押し付け,可動ダイは,ダイの側面にバネで支持されているのみであり,曲げパンチの下降に対応して他動的に移動するにすぎず,曲げパンチ13と可動ダイ25でリードを挟み込みながら,可動ダイが曲線斜面に沿って移動するものであって,「挟み込み」と「移動」とを併行して行っているのであり,「挟み込み」及び「移動」は第3図の状態において完了するものであるから,可動ダイ25が本願発明1における「完全にクランプ」した状態であるということはできないとし,引用発明は,本願発明1の「リードが共通面に位置する時点で」クランプされる構成を採っておらず,また,「リードを完全にクランプし」,その後に「クランプされたままリードを移動する」という要件を開示も示唆もしていないとして,これらを両発明の一致点とした審決の認定の誤りを主張する。
ア まず,引用発明について検討すると,審決が摘記した引用例の記載事項(1-1)には,「曲げパンチの回動に同期して形成すべきリードを挟み込みながら曲線斜面に沿って移動可能な可動ダイ」と,記載事項(1-3)には,「曲げパンチ13,13は案内板20に接触し傾斜面26に沿って徐々に下降していき,バネ24にてダイプレート側面に位置している可動ダイ25,25とでリード2を挟み込み,さらに回動下降動作を続ける曲げパンチ13,13の動きに合せて動く可動ダイ25,25がダイプレート22に形成した曲線斜面27に沿って移動し,ダイ23の側面に接触した時点でリードの曲げ加工が完了する」と,記載事項(1-4)には,「上型の曲げパンチと下型の可動ダイ(注,「可動台」とあるのは「可動ダイ」の誤記と認める。)でリード1を挟み込みながら成形するため,・・・成形過程においてもリードとパンチ及びダイ間で擦りがないため,曲げコーナー部分のクラック,リード面の擦り傷,半田クズ等の不良の発生を防ぎ,品質向上に大きく寄与する」と記載されている。
これらの記載,特に,上記(1-3)によれば,引用例には,半導体装置のリード成形装置において,曲げパンチ13が下降して可動ダイ25とでリード2を挟み込む動作と,リードを挟み込んだ状態で,更に回動下降動作を続ける曲げパンチと可動ダイとが同期して動くことにより,リードの曲げ加工を行い,これを完了する動作が開示されているものと認められる。
イ 次に,引用例の頒布当時(平成2年2月6日公開)における技術水準について見ると,乙2(特開平3-244148号公報)には,「ICは,プレス加工の前に,保護のためリードに柔らかい錫やハンダメッキすることがある。これを曲げ加工すると,リードの表面が柔らかいため,金型によって点aとcに打痕と擦傷,面bとcに擦傷とメッキ剥離を生じる欠点があった」(1頁右下欄「(B)従来の技術」第2段落),「金型にこの柔らかい金属が焼き付くように付着し,ひどいときには拾数分で金型使用不可能となる欠点があった」(2頁左上欄第2段落),「この発明の効果を説明すると,金型内に半製品のICを挿入し,ICのリードを曲げ加工するため,上型を次第に圧下していくと,先ず可動式ストリッパーGが下型Jやワーク@のリードに当たって止まる。この時,リードAをパンチBと受けダイCで挟んだ状態になる。さらに,上型が圧下すると,ワークのリードAをパンチBと受けダイCで挟んだ状態のまま,上型のパンチBのカム機構F1,H 1と下型の受けダイIとのカム機構K1,N 1とがそれぞれ滑動し,塑製加工の軌道(第1図のE参照)に沿ってカム滑動し,確実にZ曲げ加工が終了する」(2頁右下欄「(E)発明の効果」第1段落〜3頁左上欄第1段落),「この発明の金型でZ曲げ加工すると,リードの先端を挟んだパンチと可動式受ダイが,塑製加工の軌道に沿って滑動する。これで,リードを引っ張ることもなく,擦ることもなく,リードを曲げ加工することができ,きれいな製品ができる」(3頁左上欄第2段落)と記載されている。また,乙3(特開平2-119251号公報)には,「従来のガルウィングタイプのリード成形方法では,ガルウィング形に曲げられたリード表面には,曲げパンチのこすりによるめっきの剥離又はめっき傷,めっきひげの発生で,リードが短絡するという問題点があった」(2頁左上欄〔発明が解決しようとする課題〕),「この発明に係わる半導体装置のリード成形方法は,リード成形をする際にローラーを用いることによって,リード表面をこすることなくリード形状をもったパンチにそってローラーが回転しながらリード成形を行うようにしたものである」(2頁右上欄〔課題を解決するための手段〕)と記載されている。さらに,乙4(実願昭60-28829号(実開昭61-144656号)のマイクロフィルム)には,「上記のようなリード曲げ成形はリードが曲げ成形される時に曲げパンチや曲げローラがリードの外面を擦る。・・・またリードの半田メッキが曲げパンチや曲げローラに付着し,蓄積されてリード曲げ精度が悪くなる原因となることや,曲げパンチや曲げローラが摩耗し易くて装置の保守,点検を頻繁に行う必要があった」(5頁第3段落),「本考案は,・・・一方の支持台のリード挟持部近傍を中心に回動可能かつリード導出方向に伸びるレバーと,レバーを回動させる手段とを具備した装置にて上記問題点を解決するようにしたものである」(5頁最終段落〜6頁第1段落)と記載されている。
これらの記載によれば,リードの曲げ加工を行うリード成形装置において,曲げ加工時に曲げパンチ等でリード表面を擦るような方法を行えば,曲げパンチ等にリード表面の錫が付着し,加工精度の低下や曲げパンチ等の摩耗を引き起こし,曲げパンチの交換やクリーニングを行わなければならなかったこと,曲げパンチ等がリード表面を擦ることがないように,リードの初期位置でリードを挟み込んだり,ローラーや回動するレバーを用いることが,引用例の頒布当時の技術水準であったということができる。
ウ この点について,原告は,乙1,2は,単に引用例の記載内容を理解するために参酌するにとどまらず,本願発明1の容易想到性の根拠として用いられ,新たな拒絶理由を示すこととなるから,審決取消訴訟において提出が許されないばかりでなく,乙2は引用例の公開日(平成2年2月6日)よりも後の出願(同月22日)に係るものであり,乙3は引用例の出願日(昭和63年7月20日)よりも後の出願(同年10月28日)に係るものであるから,引用例の記載事項の解釈においてこれを参酌することは相当でないと主張する。
しかしながら,刊行物に記載された発明の認定に際しては,その頒布当時における技術水準を参酌すべきことは当然であり,当該技術水準の確定のために,審決取消訴訟において新たに提出された他の刊行物の記載を参酌することも許容されることはもちろん,引用例の公開前の出願に係る乙3はもとより,引用例の公開時とほぼ同時期の出願に係る乙2も,引用例の頒布当時における技術水準を推認させるものとして参酌することは許されるというべきである。なお,原告は,乙2は,引用発明と課題解決手段が相違するものであるから,その記載を参酌して引用発明を解釈することはできないとも主張するが,課題解決手段に相違する部分があったとしても,これを参酌することが許されないと解すべき理由はなく,乙2により,「リードの初期位置でリードを挟み込む」という動作がリード面を擦ることなく曲げ加工を行うための技術水準であることを示すものとして参酌することは妨げられないから,原告の主張は失当である。
エ そうすると,審決の摘記した引用例の上記記載事項に引用例の頒布当時の上記技術水準を参酌すれば,引用例に接する当業者は,引用発明は,曲げパンチがリード表面を擦ることがないように曲げパンチと可動ダイでリードを挟み込むものであって,リードの初期位置,すなわち,リードが共通面に位置する時点においてリードの先端部を挟み込み,挟み込んだ状態で曲げ加工を完了する構成を採る半導体装置のリード成形装置であると認識,理解するものと認められる。したがって,引用発明では,可動ダイはダイの側面にバネで支持されているのみであり,曲げパンチの下降に対応して他動的に移動するにすぎず,曲げパンチ13と可動ダイ25でリードを挟み込みながら,可動ダイが曲線斜面に沿って移動するから,引用例は,本願発明1の「リードを完全にクランプし」,その後に「クランプされたままリードを移動する」という要件を開示も示唆もしていないとする原告の主張は,採用することができない。
(3) また,原告は,引用発明においては,バネ24は可動ダイ25をダイプレート22の側面に押し付けるためのものであり,曲げパンチが上方からリードに接触してこれを下方に押し下げるまでは,可動ダイの上面にリードが接触することはなく,ましてリードの先端近傍を上下から完全にクランプする力が生じないと主張する。
しかしながら,バネ24に関して,引用例(甲11)には,「ダイ(23)の側面にバネ(24)を介して保持され・・・移動可能な可動ダイ」(実用新案登録請求の範囲,4頁第1段落,5頁第2段落),及び「バネ24にてダイプレート側面に位置している可動ダイ25,25」(6頁第1段落)との記載はあるが,原告が主張するように,「バネ24は可動ダイ25をダイプレート22の側面に押し付けるためのもの」である旨の記載はない。仮に,バネ24に原告主張の作用があるとしても,引用例の「ダイの側面にバネを介して保持され,かつ前記曲げパンチの回動に同期して成形すべきリードを挟み込みながら曲線斜面に沿って移動可能な可動ダイ」との記載からは,バネ24は,曲げパンチと可動ダイがリードを挟み込んで曲げ加工を行うときに,リードを挟み込んで保持するためにあると解するのが合理的であり,リードが「完全にクランプ」されるとの認定を左右するものではないから,原告の主張は採用の限りではない。
(4) 原告は,曲げパンチ及び可動ダイがリードに接するべき各平面が異なる運動をすることから,リード成形の最初の段階において,曲げパンチと可動ダイによって「リードの先端近傍が完全にクランプ」されることはあり得ないし,「リードの先端はジョウによってクランプされたまま」動かされることもあり得ない旨,引用発明においては,曲げパンチ,リード,可動ダイの相対的な位置の移動が避けられない構造であることから,リード面の擦れが生じないとはいえない旨主張する。
確かに,原告が主張するように,曲げパンチ13は第1図に示すように軸28に軸支されており,軸28を中心として傾斜面26に沿って下降しながら閉方向に回動するから,その先端においてリードと接触する曲げパンチの二つの平面も回動し,一方,可動ダイ25は曲線斜面27に沿って移動可能である。可動ダイの25の上面の動きについては明確に記載されていないが,仮に,可動ダイ25の上面が曲線斜面27に沿って平行移動するとすれば,曲げパンチ及び可動ダイがリードに接するべき各平面が異なる運動をすることとなる。しかしながら,そのような動きをするからといって,リード成形の最初の段階において,曲げパンチと可動ダイによって「リードの先端近傍が完全にクランプ」されることはあり得ないとまではいえず,また,「リードの先端はジョウによってクランプされたまま」動かされることはあり得ないともいえない。上記認定のとおり,引用発明は,曲げパンチ13と可動ダイ25によってリードを挟み込み,挟み込んだ状態で曲げパンチ13と可動ダイを移動させることによってリードと曲げパンチ等との擦りが生じないようにするものである。また,可動ダイは,「ダイの側面にバネを介して保持され,かつ前記曲げパンチの回動に同期して成形すべきリードを挟み込みながら曲線斜面に沿って移動可能」なものである。原告が主張するように,曲げパンチ13の2つの面と可動ダイ25の上面が上記のように動くとしても,曲げパンチ13の2つの面で形成される凸部と,可動ダイ25の上面のダイ側端部とによってリードが共通面に位置する時点で挟み込まれ,曲げパンチ13が案内板の傾斜面26に沿って回動するのに同期して,可動ダイ25がダイプレート22の曲線斜面27に沿って回動し,曲げパンチの凸部と可動ダイの上面端部とがリードを挟み込んだ状態で回動し,可動ダイ27がダイ23の側面に接触した時点でリードの曲げ加工が完了するものであると解することができる。また,曲げパンチの凸部と可動ダイの上面端部とで挟み込まれるリードの部位は,本願発明1の「前記共通面(21)に対し垂直に延びる面に位置した前記保持する手段(9)の緩やかに湾曲する曲面部(15)にそって動かされ,それぞれのリードが位置決めされ」との構成にあるように,リードの先端を動かして位置決めするものであるから,リードの先端近傍と認めて妨げはない。
そうすると,引用発明において,曲げパンチの二つの面と可動ダイの上面とが原告の主張するような運動をするとしても,リード成形の最初の段階においてリードの先端近傍が完全に挟み込まれ,挟み込まれたままリードの先端が移動し,リード面の擦れが生じないと認定することができるから,原告の主張は採用することができない。
(5) 原告は,引用発明では,可動ダイはバネを介してダイの側面に保持されているから,可動ダイが曲線斜面に沿って移動する際に,そのバネには下向きの力とそれに直交する方向の力が働くバネの軸がずれるから,バネの寿命が短くなり,本願発明1より好ましくない装置になるとして,本願発明1の効果を主張するが,可動ダイを保持するバネの配置及び構造は,本願発明1と引用発明との相違点を構成するものではないから,本願発明1の格別な効果とすることはできない。
また,原告は,引用例の〔考案の効果〕の欄は,引用発明によって得られる効果が正しく記載されておらず,引用発明ではリード面の擦りが避けられないのに対し,本願発明1ではリードの擦りやリード端部の位置ずれが生じないのであるから,効果の相違があるとも主張するが,引用発明においてもリードの擦りが生じないという効果を奏するのであり,引用例にはそのような効果を発生する構成が記載されているのであるから,原告の主張は採用することができない。
(6) したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について 原告は,審決が常とう手段を示すものとして挙げる甲12,13は,いずれも圧縮成形に係るものであって,リードの先端部を二つのジョウで完全にクランプしてリードを曲げる本願発明1の方法とは全く異なるものであり,本願発明1における曲面部及び曲げ面の形状の奏する作用効果は,圧縮成形におけるパンチとダイの形状によるものと著しく異なり,一連の工程において,甲12,13のような,パンチとダイの組合せから成る圧縮成形の常とう手段を使用しているとはいえないから,甲12,13の方法を本願発明1に適用することはできないと主張する。
しかしながら,審決は,相違点1に係る「保持する手段に設けられた面部は緩やかに湾曲する曲面部であり,またジョウの先端部に形成された曲げ面は,前記曲面部に対応して緩やかに湾曲する形状に形成された曲げ面となっている」との構成について,圧縮成形の常とう手段を開示している甲12,13を引用し,容易想到性の判断をしたものである。甲12,13が圧縮成形の技術に係るものであるとしても,曲率を設けた面で挟んで成形する手段という点で本願発明1と同一の技術であるから,当業者が適宜し得る設計的事項であるとした審決の判断に誤りはない。
したがって,原告の取消事由2の主張は,審決を正解しないでこれを論難するものにすぎず,採用することができない。
3 以上のとおり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男