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事件 平成 15年 (ネ) 1901号 特許権等に基づく侵害差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社スノウチ
訴訟代理人弁護士 武田正彦
補佐人弁理士 滝口昌司
同 中里浩一
同 川崎仁
被控訴人 栄豊物産株式会社
訴訟代理人弁護士 小林政明
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決中,控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,原判決別紙物件目録記載のイ号ないしチ号製品を,製造,販売してはならない。
(2) 控訴人は,その所有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。
(3) 控訴人は,被控訴人に対し,289万8715円及びこれに対する平成11年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,後記の実用新案権及び2件の特許権を有する被控訴人(原審原告)が,控訴人(原審被告)が製造,販売している原判決別紙物件目録記載のイ号ないしヌ号の各製品は,上記実用新案権又は特許権の技術的範囲に属し,その製造,販売により被控訴人の実用新案権及び特許権が侵害されているとして,控訴人に対し,製造,販売の差止め及び製品の廃棄並びに損害賠償を求めた事案であり,上記の全製品について,製造,販売の差止め及び製品の廃棄を認め,損害賠償請求を一部認容した原判決に対し,控訴人がその敗訴部分の取消しを求めて控訴した。
本件の前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実」及び「2 争点」並びに「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりである(ただし,原判決17頁16行目の「図る」を「測る」に改める。)から,これを引用する。
1 控訴人の主張 (1) ロ号製品について 本件考案の溶接用エンドタブは,抜け落ち防止用脚部を設けたことを特徴とするものであるが,ロ号製品は,イ号製品とは形状が異なり,ルートギャップ部が存在しないから,ロ号製品をT継手に用いても,そもそもタブと母材との間に間隙を生じることはない。したがって,ロ号製品の脚部は抜け落ち防止のために設けられたものではなく,タブの位置決め及びタブを積み重ねて固定することを目的として設けられたものであるといえるから,ロ号製品は考案構成要件Cを充足せず,本件考案の技術的範囲に属さない。
被控訴人は,ロ号製品に係る公開特許公報(甲38)の記載からも,ロ号製品の脚部が抜け落ち防止効果を有することは明らかである旨主張するが,甲38において抜け落ち防止を目的とすると記載しているのは,従来製品においては脚部が存在しなかったため,裏当金の上に載置しても正しい位置からズレ易く,そのため隙間を生じ,その隙間から抜け落ちが生じやすかったところ,ロ号製品では脚部を設け,それにより裏当金と嵌合可能にしたので,正しい位置からズレることはなく,そのため隙間を生じないので抜け落ちが生じないとする趣旨であるから,ロ号製品の技術的思想は,本件考案のものとは全く異なるというべきである。
(2) ニ号ないしト号製品について 本件特許発明1-1の溶接用セラミックエンドタブは,溶融物から発生するガスを放出するため,タブの下部にガス抜き用の切り欠きを設けたことを特徴とするものであるが,そもそも,溶融金属は粘性が高く,かつ,凝固が早いから,溶融金属内に発生するガスは,浮力によって上方に移動することはあっても,金属内を横又は下方に向かって移動して,タブ底部に設けられた切り欠きを通って外部に放出されることはない。あくまで,ニ号ないしト号製品に設けられた切り欠きは,シールドガスを放出するためのものであって,溶融物から発生するガスを放出するためのものではないから,ニ号ないしト号製品は構成要件1Bを充足せず,本件発明1-1の技術的範囲に属さない。
なお,上記のとおり,本件特許発明1-1の切り欠きは,溶融金属から発生したガスを放出するとの目的を果たし得ないものであるから,本件特許発明1-1は,所望の目的を達成し得ない発明,すなわち,実施不能又は発明未完成のものであるといわなければならない。
(3) チ号製品について 本件特許発明1-3の溶接用セラミックエンドタブは,溶融物から発生するガスを放出するため,タブの平坦面にガスを逃がすためのテーパーを付したことを特徴とするものであるが,上記(2)と同様の理由により,溶融金属内に発生するガスがタブの平坦面のテーパーを伝わって外部に逃げることは起こり得ない。あくまで,チ号製品の平坦面に付されたテーパーは,溶接後,柱母材に向かって広がる溶接端部ビードを確保するためのものであって,溶融物から発生するガスを放出するためのものではないから,チ号製品は構成要件3Bを充足せず,本件発明1-3の技術的範囲に属さない。
また,エンドタブは,溶接時に溶融金属が漏れないように母材に密着させて初めて用を成すものであるところ,本件特許明細書1の図5によれば,たとえ,ごくわずかな角度であってもテーパー角度が存する以上,ガス逃げ面5が母材W1に密着しないため,溶融金属の漏れが生じ,溶接は不能ないし困難となる。したがって,チ号製品を同明細書に記載された用法に従って使用すると,エンドタブとしての用を成さないから,この点からも,チ号製品が本件発明1-3の技術的範囲に属さないことは明らかである。
(4) リ号及びヌ号製品について ア 本件特許発明2のセラミックタブは,1本又は2本以上の平行な直線状のスリットが分割可能な深さで形成されていることを特徴とするものであり,当該スリットは「容易に折ることができる深さ及び幅」(本件特許公報2の2頁右欄第2段落)を有するものとされている。しかしながら,リ号及びヌ号製品に設けられたスリットは,あくまで,溶接材の余盛寸法を測る目安とするためのもので,分割可能な深さでは形成されていない。現に,ヌ号製品においては,タブの厚さが16.0mmであるのに対し,スリットの深さは約1.0mmにすぎず,一見しただけでも,この程度のスリットが折れ目として役立つとは思われない上,実験結果(乙17,18)によっても,このことは実証されている。
したがって,リ号及びヌ号製品は,構成要件bを充足せず,本件発明2の技術的範囲に属さない。
イ 本件特許発明2のセラミックタブは,大型の箱型溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する際に使用するV状セラミックタブであるところ,本件特許明細書2に記載されたその使用法に沿った使用をするためには,当該タブの形状及び寸法は,角溶接開先の内面形状と同一で,かつ,タブの上面がエレクトロスラグ溶接部のスキンプレートのウエブとフランジから成る上部表面と同一平面を成さなければならない。しかしながら,リ号及びヌ号製品は,本件特許明細書2において特許発明2の実施例とされる二等辺三角形又は直角三角形状のものとは異なる不等辺三角形状であるから,その形状及び寸法からして,上記の用途に供することは困難であり,あくまで,貫通ダイヤフラム形式の角型鋼管柱のシャフト製作に用いるための製品であるということができる。このことは,被控訴人自身が作成した製品カタログ(乙20)において,上記実施例と同一形状の製品が「エレスラデポ部用」として「EV45」,「EL32」,「EVR50」との製品名を付されているのに対し,リ号及びヌ号製品と同一形状の製品が「コラムコア製作用」として「A-708」との製品名を付されていることからも明らかである。
したがって,リ号及びヌ号製品は,構成要件cを充足せず,本件発明2の技術的範囲に属さない。
(5) 被控訴人の損害額について ア 上記(1)のとおり,ロ号製品の脚部は抜け落ち防止のために設けられたものではないから,イ号製品とロ号製品とは,目的も,作用効果も異なり,相互に補完性があるとはいえない。したがって,被控訴人がロ号製品に対応する製品を製造販売していない以上,ロ号製品について特許法102条1項を適用することはできないというべきである。
イ 特許法102条1項の適用に当たっては,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用を控除すべきところ,上記追加的費用としては,配送手数料のほか,@当該追加的販売に直接かかわった者の人件費及び法定福利費,A当該製品に関し手形決済をするために要する収入印紙代,並びにB当該製品の開発費,宣伝広告費,製品保管料,車両経費,交通費,消耗品費等をも計上すべきである。
2 被控訴人の主張 (1) 控訴人の上記各主張はすべて争う。
(2) ロ号製品について 控訴人は,平成4年5月26日,ロ号製品について特許出願をしているところ,その公開特許公報(甲38)によれば,「本発明の目的は・・・ロボット溶接に際して溶け落ちを防止し得るエンドタブを提供することにある」(発明の詳細な説明,段落【0006】),「このような形状寸法であるため,特に同一幅の母材を溶接する際に使用すると,開先底部を越えて一方の母材側にまで延存することになるので,抜け落ちを防止できる」(同,段落【0014】)等と記載されており,控訴人自身,ロ号製品の脚部に抜け落ち防止の効果があることを認めている。
他方,控訴人がロ号製品の脚部の目的であるとする「位置決め」については,同公報には全く見られない。
さらに,控訴人は,同年6月鋼構造出版発行「週刊・鋼構造ジャーナル」517号(甲39)にロ号製品の広告を掲載しているが,同広告においても,「母材同幅溶接時のアークの吹き出しを防ぎロボット溶接のアークの安定性を保てます」と記載する一方,その主張に係る「位置決め」については何ら記載していない。
以上によれば,ロ号製品の脚部が抜け落ち防止の効果を有することは明らかであるから,ロ号製品は,考案構成要件Cを充足し,本件考案の技術的範囲に属するというべきである。
(3) チ号製品について 控訴人は,チ号製品を本件特許明細書1の記載に従って使用すると,溶融金属の漏れが生じ,溶接が不能ないし困難になる旨主張するが,本件発明1-3の実施例は,同明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】に記載されているとおり,異幅の母材を付き合わせて開先を形成した場合に用いるものであり,そうした実施例においては控訴人指摘の溶融金属の漏れは生じない。ただし,同明細書においては,図5として,母材の板幅方向の端面を揃えて使用している図が示されているが,上記のとおり,本件発明の典型的な実施例は異幅の母材を付き合わせた場合であるから,この図は必ずしも適切なものではない。
(4) リ号及びヌ号製品について 控訴人は,被控訴人が,リ号及びヌ号製品と同一形状の製品である「A-708」を,「エレスラデポ部用」としてではなく,「コラムコア製作用」として販売していることを根拠に,リ号及びヌ号製品を本件特許明細書2に記載された用法に従って使用することが困難であることは明らかである旨主張する。しかしながら,被控訴人が,「A-708」について「エレスラデポ部用」としての機能がないことを明言しているというのであればともかく,他の機能がある旨を述べたというだけでは,リ号及びヌ号製品について「エレスラデポ部用」としての機能がないことの証明にはならないというべきであるから,控訴人の上記主張には論理の飛躍がある。
また,そもそも,本件においては,リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の請求項を満たしているか否かが問題であって,当該製品に類する他の製品が,どのような用途を持つものとして販売されているかが問題なのではないところ,リ号及びヌ号製品を本件特許発明2の用途に供することができることは,被控訴人提出に係るビデオテープ(甲15)等の証拠によって証明されているから,リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の技術的範囲に属することは明らかというべきである。
当裁判所の判断
1 争点1(イ号ないしハ号製品が本件考案の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件実用新案権を侵害するか)について イ号及びハ号製品が考案構成要件B及びDを充足すること,ロ号製品が考案構成要件A,B及びDを充足することについて当事者間に争いがないから,ここでの争点は,@イ号及びハ号製品が考案構成要件Aを充足するかどうか,及びAイ号ないしハ号製品が考案構成要件Cを充足するかどうかの2点である。
(1) 考案構成要件Aの意義について 控訴人は,考案構成要件Aの「突合わせた継手部を溶接する際に用いる」とは,「突合せ継手」,すなわち2つの母材の端と端をほぼ同一平面内で突き合せて接合する継手を意味し,本件考案は,上記「突合せ継手」という特定の継手にのみ用いるものであると主張する。
そこで検討すると,考案構成要件Aの「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部を溶接する際に用いる」との記載は,本件考案の耐火物製エンドタブが使用される溶接の態様を規定したものであるところ,「継手部」を修飾する「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた」との部分は,単に,継手部を形成する母材同士の配設関係を規定したにすぎないと解される。そして,「突合わせた」とは,一般的には,「二つのものを近づけ向かい合わせる」(広辞苑第5版)ことを意味するから,母材同士を板幅方向の端面を揃えて近づけ向かい合わせた,という配設関係にある継手であれば,具体的な継手の種類を問わないと解するのが相当である。
これに対し,控訴人の上記主張は,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手」との記載について,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて」と「突合わせた継手」に分断した上,「突合わせた継手」を継手の種類としての「突合せ継手」の意味に解することを前提とするものであるが,そもそも,当該記載を控訴人主張のように2分して解釈すること自体,通常の日本語の解釈として成り立ち難いものというほかはないし,「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた」との記載は,上記のとおり母材同士の配設関係の規定として一体的に解すべきであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 考案構成要件Aの充足性について 控訴人は,イ号及びハ号製品は,「T継手」のみに用いるものであり,「突合せ継手」に用いることはできないとして,イ号及びハ号製品は考案構成要件Aを充足しないと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,考案構成要件Aの「母材同士を板幅方向の端面を揃えて突合わせた継手部」とは,母材同士を板幅方向の端面を揃えて近づけ向かい合わせた,という配設関係にある継手であれば,具体的な継手の種類を問わないものである。そうすると,控訴人主張のように,イ号及びハ号製品が「T継手」のみに用いるものであったとしても,考案構成要件Aを充足するものである。
(3) 考案構成要件Cの充足性について ア 控訴人は,本件実用新案の溶接用エンドタブは,「突合せ継手」のみに用いられるものであるとした上,主として本件実用新案明細書の図5を根拠に,脚部を有する本件実用新案の溶接用エンドタブを「突合せ継手」に用いた場合には,裏当金を通常の位置に配置できないことから,かえって,アーク抜けや溶融金属の抜け落ちが生じやすくなり,実用には到底適さないとし,本件考案はその明細書に開示されている用法に従う限り,所期の目的,作用効果を奏することができない旨主張する。
確かに,本件実用新案明細書の図5には,「突合せ継手」に本件実用新案の溶接用エンドタブを用いているかのようにも見える図が描かれており,仮に,同エンドタブの用例をその図のとおりに理解するとすれば,脚部を持たない通常のエンドタブを用いて,相対する二つの母材をいずれも裏当金上に載置し,二つの母材を裏当金と面接触させる通常の方法(乙2の3の「片面溶接」に関する記載)による場合に比して,有利な効果が期待できないばかりか,かえって不利になると考えられることは,控訴人の主張するとおりである。しかしながら,本件実用新案明細書のその余の記載を併せて見れば,本件実用新案明細書の図4及び図5において,裏当金3が母材2(開先加工面を有しない母材)の下に配置されていないのは,そのように配置できない理由があるためであること,すなわち,上記母材2には図面の下方向に向けた延長部分があること(なお,その場合には,当該継手の種類は,「突合せ継手」ではなく,「T継手」又は「かど継手」になる。)は,当業者にとって自明の事項というべきであって(そのように理解しないと,脚部を持たない通常のエンドタブを用いた図4において,母材2を裏当金3の上に載置しない理由を説明できない。),控訴人の上記主張は,上記各図面が必ずしも適切なものではないことに乗じて,あえて本件考案の内容を曲解しようとするものというほかはなく,採用の限りではない。
イ 次に,控訴人は,T継手の場合は,エンドタブに脚部がなくともアーク抜け及び溶融金属の抜け落ちは発生せず,イ号ないしハ号製品における脚部はタブの位置決めを目的とするもの(ロ号製品にあっては,タブを積み重ねて固定することをも目的とする。)である旨主張する。
しかしながら,控訴人作成の「溶接作業標準」(甲7)に,イ号製品につき,「形状についての解説」として,「同幅レ型溶接形状に於いて通常バックステップ方式のタブ材では柱側材端部に隙間が生じ,材端部でのスタートはアーク停止等の異常を起こす問題がありました。溶接用ロボット用(7)(注,イ号製品)は,この問題を解決した画期的な製品です」(4頁)と,また,「溶接ロボット使用時の注意点」として,「柱と梁のフランジ幅が同じ場合の溶接にSUNOX-セラミックタブを用いる際は,図-23に示す通りタブ材のルートギャップ部と母材柱側Y軸下部との間に間隙が生じ,初層溶接時(特に端部でのスタート方法)にアーク抜けによる溶接ワークがストップする事があります。弊社ではこの隙間が出来ない溶接ロボット用セラミックタブ(図-25)を用意しております。その取付け図を図-24に示します」(15頁)と記載されていることからすれば,イ号製品及びそれと類似の形状のセラミックエンドタブの2体を垂直堰の側面で分割溝を介して一体化した形態の構造となっている溶接用連結セラミックエンドタブ(原判決42頁,ハ号製品の説明書)であるハ号製品の両者について,その脚部が,本件考案の溶接用エンドタブと同様,抜け落ち防止の効果を有することは明らかというべきである(ロ号製品については後記ウで説示する。)。
この点について,控訴人の技術担当者であるAの陳述書(乙5)には,「端部から離れた位置で溶接を開始するならば(これが正しい方法です。)このようなアーク抜けは起こりません。このことは実験上も実証されております」(5頁)と,イ号製品の溶接用エンドタブについて,その脚部に抜け落ち防止の効果があることを否定するかのような記載がある。しかしながら,他方で,同陳述書に,「当時(注,甲7の「溶接作業標準」の作成時である平成7年11月を指す。)は私の勉強不足で従来の標準形同幅母材用のセラミックタブ(VSR3の脚部のないもの)を用いると垂直堰の下部と柱フランジ,裏当て金の間に小さな間隙が生じ・・・それがアーク抜けの原因になると考えていたのです。それを防止するために脚部が必要だと考えていたのですが,このようなアーク抜けの発生は溶接域の端部から溶接を開始するとき(これは欠陥のある溶接方法で正しい溶接手順ではありません)にのみ生ずるもので・・・」(4〜5頁)とあるとおり,上記A自身,当初,イ号製品の脚部は抜け落ち防止を目的とするものであると認識していたこと,溶接の手順次第によっては当該脚部が抜け落ち防止の効果を果たす場合があることは認めているものと解されるところであり,結局,上記陳述書の記載は,上記認定を左右するものではない。
ウ さらに,控訴人は,ロ号製品は,イ号製品とは形状が異なり,ルートギャップ部が存在しないから,ロ号製品をT継手に用いても,そもそもタブと母材との間に間隙を生じることはなく,したがって,ロ号製品の脚部は抜け落ち防止のために設けられたものではない旨主張し,控訴人が当審で提出したビデオテープ(乙18)及びAの陳述書(乙21)にも同旨の映像及び記載がある。
そこで検討すると,本件実用新案明細書の考案の詳細な説明の記載によれば,「非使用面に堰部が設けられていないタイプ,すなわち,非使用面が溶接使用面と同一の平面に成形されているエンドタブにおいても本考案(注,本件考案)を適用できる」(段落【0021】)とされ,実施例として図9の形状のエンドタブが示されているところ,確かに,この形状のエンドタブにおいては,堰部がないことから,図4のA点におけるような明らかな隙間が生じないと考えられ,このことは,ほぼ図9の形状のエンドタブを2体連結した上で,その表面にディンプルを付したものに相当するロ号製品においても同様であると認めることができるから,上記イで説示したところは,そのままでは,ロ号製品には当てはまらないと考えられる。
しかしながら,上記図9のエンドタブやロ号製品をT継手に用いた場合,エンドタブに堰が存在する場合のような明らかな隙間は生じないとしても,本件実用新案明細書の図4のA点に当たる部位に,裏当金やタブによる裏当てがされていない「点」が存在することは同様であり,上記図9の実施例やロ号製品の脚部が,その「点」を裏当てすることによって,抜け落ち防止の効果を一定程度発揮すると考えることに特段の妨げはない。そして,控訴人自身が出願したロ号製品についての公開特許公報(甲38)の発明の詳細な説明において,「本発明の目的は・・・ロボット溶接に際して抜け落ちを防止し得るエンドタブを提供することにある」(段落【0006】),「このような形状寸法であるため,特に同一幅の母材を溶接する際に使用すると,開先底部を越えて一方の母材側にまで延存することになるので,溶け落ちを防止できる」(段落【0014】)等と記載され,また,平成4年6月鋼構造出版発行「週刊・鋼構造ジャーナル」517号(甲39)に控訴人が掲載したロ号製品の広告にも,「母材同幅溶接時のアークの吹き出しを防ぎロボット溶接のアークの安定性が保てます」と記載されていることを考え併せれば,上記図9のエンドタブ及びロ号製品についても,その脚部に抜け落ち防止の効果があるものと認めるのが相当である。
なお,この点について,控訴人は,甲38の公開特許公報において抜け落ち防止を目的とすると記載しているのは,従来製品においては脚部が存在しなかったため,裏当金の上に載置しても正しい位置からズレ易く,そのため隙間を生じ,その隙間から抜け落ちが生じやすかったところ,ロ号製品では脚部を設け,それにより裏当金と嵌合可能にしたので,正しい位置からズレることはなく,そのため隙間を生じないので抜け落ちが生じないとする趣旨であると主張するが,このような主張は,同公報に係る明細書の記載に何ら基づかないものであるばかりか,発明の詳細な説明の記載(特に段落【0014】)に明らかに矛盾するものというべきであるから,採用の限りではない。
エ 以上のとおり,イ号ないしハ号製品は,いずれも考案構成要件Cを充足するものと認められる。
なお,イ号ないしハ号製品の脚部について,被控訴人主張のようにタブの位置決めを容易にする等の副次的な作用効果があるとしても,それが抜け落ち防止の効果を有するものである以上,上記各製品が,本件考案の技術的範囲に属すると認めることの妨げとなるものではない。
(4) 以上によれば,イ号ないしハ号製品は,本件考案の構成要件をすべて充足するから,いずれも本件考案の技術的範囲に属する。
2 争点2及び3(ニ号ないしト号製品が本件特許発明1-1の技術的範囲に属し,また,チ号製品が本件特許発明1-3の技術的範囲に属し,それぞれ同製品の製造・販売が本件特許権1を侵害するか)について ニ号ないしト号製品が構成要件1A及び1Cを充足し,チ号製品が構成要件3A及び3Cを充足することは,当事者間に争いがないので,ここでの争点は,ニ号ないしト号製品が構成要件1Bを,チ号製品が構成要件3Bを充足するかどうかである。
(1) 構成要件1Bの充足性について ア 構成要件1Bにおける,「ガス抜き用切り欠き」とは,本件特許発明1-1が「溶接用セラミックエンドタブ」であることからすると,溶接時に発生するガスを抜くことができる切り欠きであると解される。
他方,控訴人作成の「SUNOX・セラミック・タブを用いた溶接工法 溶接施工要領書」(甲9)には,ニ号及びホ号製品につき,「ガス抜き孔付き」である旨が記載されている(6頁)。加えて,控訴人自身の主張によっても,ニ号ないしト号製品の切り欠きは,ガスシールドアーク溶接法において,溶接線の両端部では噴射するシールドガスが壁となるタブにはね返り,その風圧により溶融金属がタブ付近の隅々まで行き渡ることが困難となり母材端部付近に溶接不足を起こし,かつ,この風圧により中央方向に流れた溶融金属がそのまま凝固し折り返し溶接の際に溶かし切れないために底部で融合不良を起こす問題を解決するために,シールドガスの通り道として設けたものであるというのであるから,以上によれば,ニ号ないしト号製品の下部に設けられた切り欠きは,溶接時に発生するガスを抜くことができる切り欠きであり,また,シールドガスを抜くことができる切り欠きである以上,他の要因により別のガスが発生した場合にも,シールドガスの風圧によって当該別のガスも抜くことができると考えられる。
そうすると,ニ号ないしト号製品も「ガス抜き用切り欠き」が設けられたものである以上,構成要件1Bを充足するものというべきである。
イ 控訴人は,本件特許明細書1に,上記ガスは,溶接時の溶融物から発生する旨記載されていることについて,溶融物自体からガスが発生することはあり得ないと主張し,さらに,何らかの理由で溶融物にガスが閉じ込められたとしても,そのガスは,上方に移動することはあっても,金属内を横又は下方に向かって移動してタブ底部に設けられた切り欠きを通って外部に逃げ出すことは起こり得ないと主張し,さらに,当審において,本件特許発明1-1の切り欠きは,溶融金属から発生したガスを放出するとの目的を果たし得ないものであるから,本件特許発明1-1は,所望の目的を達成し得ない発明,すなわち,実施不能又は発明未完成のものであるとの主張を追加した。
しかしながら,昭和55年1月産報出版株式会社発行「現代溶接技術体系〈第7巻〉半自動・自動アーク溶接」(益本功,岡田明之著,甲8)に,「実際の溶接では・・・溶接アーク近傍での大気の巻込み,溶接電極ワイヤや母材表面に付着した水分,あるいは,もともと母材やワイヤに含まれるガスなどがあり,溶接金属へ溶解するガス源を完全になくすることは不可能である。このような場合,溶接金属は高温の溶融状態でガスを溶解し,その凝固過程で液相と固相との大きな溶解度の差のため過飽和のガスを急激に放出し,溶融金属内に気泡を形成する。この気泡は,一定の大きさに成長すると普通,浮力によってビード表面に浮上し,大気中に逃げ出すが,気泡が浮上するまえに,溶接金属表面が凝固を完了してしまうと,金属内にとりこまれて,そのまま残留し,ブローホール(気孔)となる」(28頁下から第2段落〜29頁第1段落)と記載されていることからすると,本件特許明細書1における,「溶接時には溶融物からガスが発生する」(発明の詳細な説明,段落【0003】),「溶融物内に閉じ込められたガス」(同,段落【0013】,【0017】)との記載は,技術的に相当なものであると考えられる。また,タブ付近の溶融物中にガスが残留しており,そのガスが溶融物から放出された場合には,ガスは,タブ底部の切り欠きを伝わって外部に逃げ出すことができると考えられるから,このような現象が起こる余地は十分に認められる。
したがって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができない。
(2) 構成要件3Bの充足性について ア 構成要件3Bにおける,「厚さ方向にテーパーを有するガス逃げ面」とは,本件特許発明1-3が「溶接用セラミックエンドタブ」であることからすると,溶接時に発生するガスがテーパーを伝わって外部に逃げ出すことができる面であると解されるところ,上記(1)でニ号ないしト号製品について説示したのと同様の理由により,チ号製品についても,タブの平坦面のテーパーを伝わって外部にガスが逃げ出すことができると考えられるから,チ号製品は構成要件3Bを充足する。
なお,控訴人は,チ号製品の平坦面に付されたテーパーは,溶接後,柱母材に向かって広がる溶接端部ビードを確保するためのものである旨主張するが,上記のとおり,同製品が本件特許発明1の作用効果を有すると考えられる以上,これに加えて,控訴人主張のような,柱側に向かって7度広がった溶接端部ビードを成形するという作用効果が存在しても,そのことにより同製品が本件特許発明1の技術的範囲に属しないことになるものではない。
イ 控訴人は,チ号製品についても,ニ号ないしト号製品に係るものと同様の主張(原判決16頁,上記第2の1(3))をするが,その主張が採用できないことは,上記(1)イで説示したとおりである。
また,控訴人は,当審において,チ号製品を本件特許明細書1の記載に従って使用すると,溶融金属の漏れが生じ,溶接が不能ないし困難になる旨の主張を追加し,Aの陳述書(乙22)には,その旨の記載がある。しかしながら,本件特許明細書1の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1-3の実施例は,異幅の母材を付き合わせて開先を形成した場合に用いるものであり(段落【0017】),そうした実施例においては控訴人指摘の溶融金属の漏れは生じないと考えられるから,控訴人の上記主張は採用の限りではない。
(3) 以上によれば,ニ号ないしト号製品は本件特許発明1-1の,チ号製品は本件特許発明1-3の,各技術的範囲に属する。
3 争点4(リ号及びヌ号製品が本件特許発明2の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権2を侵害するか)について リ号及びヌ号製品については,本件特許発明2の構成要件aを充足することは当事者間に争いがないので,構成要件b,cを充足するかどうかが争点である。
(1) 構成要件cの充足について ア 構成要件cは,「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用するV状セラミックタブであること」であるから,これを「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用する」と「V状」とに分けて,その各記載の技術的意義について検討する。
イ まず,「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用する」との記載については,どのような形状の溶接溝に,どのような形で使用するのかなど,その技術的意義が上記文言のみから一義的に明確に理解することができるとはいい難い。そこで,本件特許明細書2の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,同明細書には,@「本発明(注,本件特許発明2)は,大型の箱型溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する場合において,溶融金属の漏れ止めができ,且つ溶接後の整形作業を簡単にすることができるタブを提供することを目的とするものである」(3欄26行目〜29行目),A「セラミックタブの他の形状としては,第4図(a),(b)に示すように,頂辺と一方の側辺とが直角をなすV形状も可能である」(4欄19行目〜21行目),B「このセラミックタブの代表的な使用例を示す。第5図は,スキンプレート2,3からなる大型の箱型断面柱の中にダイヤフラム4をエレクトロスラグ溶接する際の穴5を形成するために,角溶接用の溶接溝6に本発明のセラミックタブ1を用いた場合を示している。まず,第1図に例示したような形状寸法のセラミックタブを選択し,スキンプレート(母材)3の厚さに適した寸法にするために第1のスリットS1でタブを分割して,上部分を捨て,下部分のセラミックタブを利用する。次いで,このような2個のセラミックタブを,第5図に示す角溶接用の溶接溝6内でエレクトロスラグ溶接用穴5の前後に粘土などを使用して取り付ける」(同23行目〜34行目),C「本発明は,箱形溶接構造物の中にダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する場合に角溶接用の溶接溝に使用するタブをV形状のセラミック(耐火材)製とし且つスリットを形成したので,少ない種類にて種々の板厚の母材に適用できると共に,溶接後の整形作業およびコストの点で極めて有利になるという優れた効果を奏する」(5欄3行目〜9行目)との記載があり,さらに,本件特許発明2の実施例として,二等辺三角形状のもの(第1図,第2図)及び直角三角形状のもの(第4図)が記載されている。
これらの記載によれば,構成要件cにおける「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用する」との記載は,「大型の箱型断面柱の中にダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する際の穴を形成するために,溶融金属の漏れ止めとして,角溶接用の溶接溝内においてエレクトロスラグ溶接用の穴の前後に取り付ける」ことを意味するものと解される。
ウ 次に,構成要件cの「V状」との記載の技術的意義について検討すると,上記のとおり,当該セラミックタブの形状は,当該溶接溝に取り付けることによって溶融金属の漏れ止めの効果を発揮するものでなければならないことになるから,構成要件cの「V状」との記載についても,単に,一般用語としての「V状」であれば足りるとする趣旨ではなく,当業者の技術常識に照らし,「大型の箱型断面柱の中にダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接する際の穴を形成するために,溶融金属の漏れ止めとして,角溶接用の溶接溝内においてエレクトロスラグ溶接用の穴の前後に取り付ける」ものと認め得る「V状」を意味するものと解される。
そこで,この点に関する当業者の技術常識について検討すると,まず,上記イで掲げた発明の詳細な説明の記載自体から,当該セラミックタブの形状は,漏れ止めとして,角溶接用の溶接溝の内面形状に適合したものでなければならないこと,及び当該溶接溝の内面形状としては二等辺三角形状又は直角三角形状に形成されることがうかがわれる上,Aの陳述書(乙23)及びその添付資料1(平成10年6月社団法人日本鋼構造協会発行「鉄骨溶接接合部の標準ディテール」35頁〜37頁)によれば,少なくとも,平成10年6月時点での当業者の技術常識としては,角継手溶接(角溶接と同義であると認める。)の開先形状としては,スキンプレートの板厚が32mm程度までは片側開先が一般的であるが,これを超える場合には両側開先にする場合が多いこと,溶接溝の内面形状は,片側開先の場合には直角三角形状に,両側開先の場合には二等辺三角形状になることが認められる。
加えて,当業者の一人である被控訴人自身が作成した製品カタログ(乙20)において,上記明細書に記載された実施例と同じく二等辺三角形状又は直角三角形状の製品が,「エレスラデポ部用」,「CES先行溶接施工法に依るビルドボックス製作の於けるウェッブの開先内への溶融金属の流れ込み防止の目的でCESデポ部両端に取り付け使用する」として,「EV45」,「EL32」,「EVR50」との製品名を付されている(なお,該当部分の記載に照らすと,直角三角形状の製品2種が高さ32mm,26mmで,いずれも32mm以下であるのに対し,二等辺三角形状の製品3種は高さ45mm,40mm,50mmであるから,被控訴人も,上記「鉄骨溶接接合部の標準ディテール」記載のスキンプレートの厚さに関する技術常識を採用していることが分かる。)のに対し,リ号及びヌ号製品の対応製品であるとされる「A-708」が,「特殊形状」製品の一つである「コラムコア製作用」として,上記各製品とは別枠に形状,規格及び用途が掲記されていることをも考え併せれば,他に特段の事情のない本件においては,本件特許権2の特許出願時において,構成要件cの「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用する」,「V状」との記載に接した当業者は,その技術常識に照らし,「大型の箱形溶接構造物のダイヤフラムをエレクトロスラグ溶接するために角溶接用の溶接溝に使用する」ものといえる「V状」,すなわち,「二等辺三角形状又は直角三角形状」の意味に理解することは明らかというべきである。
以上によれば,構成要件cにおける「V状」との記載は,「二等辺三角形状又は直角三角形状」を意味するものと解するのが相当である。
(2) 被控訴人は,この点について,@被控訴人が,「A-708」について「エレスラデポ部用」としての機能がないことを明言しているというのであればともかく,他の機能がある旨を述べたというだけでは,リ号及びヌ号製品について「エレスラデポ部用」としての機能がないことの証明にはならない,Aリ号及びヌ号製品を本件特許発明2の用途に供することができることは,被控訴人提出に係るビデオテープ(甲15)等の証拠によって証明されている旨主張するが,@の点については,被控訴人自身が,乙20において,本件特許発明2の実施品とリ号及びヌ号製品の対応製品とを明確に区別して取り扱っているとの事実は,その事実のみをもってリ号及びヌ号製品が本件発明2の技術的範囲に属さないとの結論を導くものではないことは被控訴人主張のとおりであるが,上記(1)において説示したとおりの意味において,当業者の技術常識を推認する際の有力な間接事実となることは否定できないところである。また,Aの点については,確かに,甲15のビデオテープに示されたエレクトロスラグ溶接の実演の模様からすれば,溶接溝にセラミックタブを設置した後,その上に,粘土を盛り,更にその上に銅製エンドタブを載せるという手順を経ることが認められるから,リ号及びヌ号製品をもって当該用途に使用することが全く不可能であるとまではいえない(角溶接の溶接溝に適合しないセラミックタブを漏れ止めに用いることによって,当該タブの上面に多少の傾きや隙間等が生じたとしても,粘土を盛る際に調整する余地はある。)と考えられるものの,他方,セラミックタブの設置後,その上方に銅製エンドタブを乗せる手順が予定されていることからすれば,セラミックタブの形状が溶接溝の内面形状に適合するものであって,その結果,設置した際のセラミックタブの上面が溶接部の平面と同一平面を構成し,高さや隙間の調節のための粘土盛り等の作業を省略できる方が,本件特許発明2の目的及び作用効果(上記(1)イ)に照らし,より適切であることも明らかというべきであるから,当該用途に使用することが全く不可能ではないというだけでは,当業者の技術常識に関する上記(1)の認定を左右するに足りないといわざるを得ない。被控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3) そうすると,二等辺三角形状でも直角三角形状でもない不等辺三角形であると認められるリ号及びヌ号製品(検乙9,10)は,構成要件cを充足せず,本件発明2の技術的範囲に属さないというべきである。
4 争点5(被控訴人の損害等)について (1) 特許法102条1項の意義 本件における被控訴人の損害賠償請求は,実用新案法29条1項及び特許法102条1項に基づくものである。以下,特許法102条1項につき規定の趣旨を検討するが,説示する内容は実用新案法29条1項についても同様である。
ア 特許法102条1項は,排他的独占権という特許権の本質に基づき,特許権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定というべきである。すなわち,そもそも特許権は,技術を独占的に実施する権利であるから,当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できないはずであって,特許発明実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえられるべきであり,このような考え方に基づき,侵害品と権利者製品とは市場において補完関係に立つという擬制の下に,同項は設けられたものである。
このような前提の下においては,侵害品の販売による損害は,特許権者の市場機会の喪失としてとらえられるべきものであり,侵害品の販売は,当該販売時における特許権者の市場機会を直接奪うだけでなく,購入者の下において侵害品の使用等が継続されることにより,特許権者のそれ以降の市場機会をも喪失させるものである。
したがって,同項にいう「実施の能力」については,これを侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力,販売能力ではなく,特許権者において,金融機関等から融資を受けて設備投資を行うなどして,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造,販売を行う潜在的能力を備えている場合には,原則として,「実施の能力」を有するものと解するのが相当である。
イ 次に,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害に係る特許権を実施するものであって,侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものである。
証拠(甲15,甲31等)によれば,被控訴人は,本件実用新案権の実施品として,イ号製品の三つの型式に対応する形状・大きさの各製品3種類,ハ号製品に対応する形状・大きさの製品,本件特許権1の実施品として,ニ号ないしチ号製品に対応する形状・大きさの各製品を,それぞれ製造・販売しており,いくつかの製品については,被控訴人と控訴人で型式番号まで同じであることが認められる。そうすると,イ号,ハ号ないしチ号製品については,原判決別紙「原告商品販売価格等一覧表」(リ号及びヌ号製品に関する部分を除く。以下同じ。)記載の各被控訴人商品をもって「侵害の行為がなければ販売することができた物」と認めるのが相当である。
この点に関して,控訴人は,ロ号製品については,被控訴人がこれに対応する製品を販売していないから,特許法102条1項の適用がない旨を主張する。しかしながら,イ号ないしハ号製品は,本件考案の技術的範囲に属するものであって,これらの間には具体的な形態につき相違があるとはいえ,本件考案の実施例の間での態様の差異にすぎないものである。そして,ロ号製品が,中央のスリットに沿って分割することで,2個の製品として使用されることが予定されているものであることに照らせば,ロ号製品に対応する被控訴人商品としては,その形状・大きさが分割後のロ号製品に最も類似するイ号製品(1)の対応品の2個分とするのが相当である。したがって,ロ号製品についても,原判決別紙「原告商品販売価格等一覧表」記載の被控訴人商品(イ号製品(1)の対応品の2個分)をもって「侵害の行為がなければ販売することができた物」と認めるのが相当である。
ウ 上記のとおり,「実施の能力」が,必ずしも侵害品販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける権利者製品の販売が,侵害品販売時に対応する時期におけるものにとどまらないことに照らせば,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」についても,侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく,侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり,また,「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると,その金額は,厳密に算定できるものではなく,ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相当である。
具体的な事案において,特許権者が侵害品の販売時に厳密に対応する時期において現実に権利者製品の製造販売を行っている場合には,当該時期における権利者製品の単位数量当たりの現実の利益額を斟酌して,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」を算定することが相当であるが,この場合においても,この利益額が上記のような性質を有する仮定的な金額であることに照らせば,「単位数量当たりの利益の額」は,必ずしも,当該時期における現実の利益額と一致するものではなく,現実の利益額は,同項にいう「単位数量当たりの利益の額」を認定する上での一応の目安にすぎないというべきである。
以上を前提に,本件における被控訴人の損害額につき,検討する。
(2) 控訴人製品の販売数量 証拠(甲24の1ないし3,甲30,乙7,8,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人主張の各製品の販売期間における控訴人製品の販売数量は,原判決別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」(リ号及びヌ号製品に関する部分を除く。以下同じ。)記載のとおりと認められる。なお,被控訴人は,当初,原判決別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載の各製品に加え,イ号製品の型式番号として「VLR55」,ハ号製品の型式番号として「RV-W」という製品が存在すると主張していた(訴状)が,証拠(乙10)によれば,このうち「VLR55」については存在しないこと,「RV-W」については製品名としては存在したものの,受注がなく廃番となり,その後受注があった際には,「RVWG」の製品名で販売されたことが認められるから,控訴人製品として存在するものは,原判決別紙「株式会社スノウチ製品販売数量データー」記載の各製品であると認めるのが相当である。
(3) 単位数量当たりの利益の額 証拠(甲29,甲31,甲32)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人製品に対応する被控訴人商品を被控訴人が販売する際の価格及び仕入価格は,原判決別紙「原告商品販売価格等一覧表」のとおりと認められる。
そして,上記のとおり,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。
被控訴人は,追加的費用として,原判決別紙「原告商品販売価格等一覧表」の諸経費欄記載のとおり,人件費及び配送料を控除する旨主張しているところ,本件においては,被控訴人商品を追加的に販売するために必要な経費としては,配送手数料程度であると考えられ,被控訴人が追加費用に算入した人件費は,常勤の従業員の給与を指すものであるから,本来,被控訴人商品を追加的に販売するために要したであろう追加的費用には当たらないというべきであるが,上記(1)ウのとおり,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であって,ある程度の概算額として算定される性質のものであることからすると,被控訴人主張の諸経費額をもって,本件において控除すべき追加的費用額であると認めるのが相当である。
控訴人は,追加的費用として,@当該追加的販売に直接かかわった者の人件費及び法定福利費,A当該製品に関し手形決済をするために要する収入印紙代,並びにB当該製品の開発費,宣伝広告費,製品保管料,車両経費,交通費,消耗品費等をも計上すべきである旨主張するが,当審においても,控訴人主張に係る様々な経費のうち,追加的製造販売によって変動すべき経費の額等についての具体的な主張,立証は何らされていない上,そもそも,被控訴人主張の諸経費額自体,上記のとおり,本来,計上する必要のない常勤の人件費を経費として計上した額であるから,配送料以外に多少の変動経費を要することを考慮しても,結局,追加的費用の額は,原判決別紙「原告商品販売価格等一覧表」の「諸経費」欄記載の金額を上回るものとは認められない。
そうすると,被控訴人商品の単位数量当たりの利益の額は,同表の「純利益」欄の金額を下回るものではないと認められる。
(4) 被控訴人の受けた損害の額 上記単位数量当たりの利益の額を,上記(2)で認定した控訴人製品の販売数量乗じた額の総合計は,289万8715円となるから,実用新案法29条1項及び特許法102条1項により,上記の額をもって,控訴人の本件実用新案権及び本件特許権1の侵害により被控訴人が受けた損害の額というべきである。
5 以上によれば,被控訴人の本訴請求は,控訴人に対し,イ号製品ないしチ号製品の製造,販売の差止め及び廃棄を求め,損害賠償として289万8715円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年9月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが,その余は理由がない。
よって,これと異なる原判決中控訴人敗訴部分を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 早田尚貴