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関連審決 不服2003-5710
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事件 平成 17年 (行ケ) 10170号 審決取消請求事件

原告 X
訴訟代理人弁理士 丹羽 宏之
同 野口 忠夫
同 吉澤 大輔
被告 特許庁長官 中嶋 誠
指定代理人 佐藤 伸夫
同 久保田 健
同 小池 正彦
同 伊藤 三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/11/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-5710号事件について平成17年2月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記特許の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が審判請求は成り立たないとの審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年4月19日,名称を「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」とする発明につき特許出願(以下「本願」という。)をした(甲2の1)が,特許庁が拒絶する姿勢を示したので,平成14年12月3日付けで特許請求の範囲変更等を内容とする補正(甲2の3。以下「旧補正」という。)をした。しかし特許庁は,平成14年12月27日,本願につき拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として,平成15年2月4日審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-5710号事件として審理し,その係属中の平成16年6月4日原告は,発明の名称を「コンピュータネットワークによる証券化システム」に変更するとともに,特許請求の範囲減縮等を目的とする補正(以下「本件補正」という。)をした(甲2の4)。
特許庁は,平成17年2月16日,本件補正を前提とした上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成17年3月1日原告に送達された。
(2) 発明の内容 ア 旧補正時のもの 平成14年12月3日付けでなされた旧補正(甲2の3)時の請求項は1ないし12から成るが,本件訴訟において問題となる請求項1は,下記のとおりである。
記 【請求項1】 特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータ10は,資金調達に係る申込情報記録手段11と,回答記録手段12と,契約管理記録手段13と,売上管理記録手段14と,売上情報記録手段15と,リスク管理記録手段16と,計算手段17と,を有し,前記申込情報記録手段11において,資金調達を申込む委託者が保有する特許権の内容及び事業計画を含む申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を通信手段を介して記録するステップと,前記回答記録手段12において,前記申込みに対する回答内容を記録するステップと,前記契約管理記録手段13において,出資対象として選択された投資案件につき委託者と受託者との間で締結された前記信託契約及び出資契約の内容を記録するステップと,前記信託契約によって,受託者の名義に移転した特許権を委託者にライセンス供与して当該特許権の商品又はサービス提供の売上金額を基準に一定料率のロイヤリティーを支払う旨の実施権許諾契約の内容を前記契約管理記録手段13に記録するステップと,前記売上管理記録手段14において,前記ロイヤリティー収入及び株式売却収入の売上額を記録するステップと,前記売上情報記録手段15において,経時的に累積推移する投資額とロイヤリティー収入の売上額及び未換金データを記録するステップと,前記リスク管理記録手段16において,委託者の倒産による損失や倒産までのロイヤリティー売上額及び店頭公開の見込みのないリビングデット企業の未換金データを記録するステップと,前記計算手段17において,前記契約に基づく収支計算を行うステップと,受託者と委託者を当事者として締結された前記複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の前記出資契約で取得した株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合し,これを複合投資受益権として受託者の前記契約管理記録手段12にプールするステップと,金融機関に譲渡することによって再投資資金の原資を調達するステップと,当該調達された原資を新たな複数の企業に再投資して出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化するステップと,前記金融機関において,譲受した複合投資受益権を元に金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売するステップとを備え,前記投資家の資金運用ニーズと,委託者の資金需要ニーズと,委託者に資金を供給する受託者と,資金を循環させる上記金融機関と,からなる資金及び資産流動化による間接投資を特徴とする金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法。
イ 本件補正後のもの 平成16年6月4日付けでなされた本件補正後の発明の内容は,下記のとおりである(甲2の4)。
記 【請求項1】 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと,特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと,前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される,特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって,前記受託者が管理するサーバーコンピュータは,前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと,前記申込情報に基づいて形成された,前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと,を有し,前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており,前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは,前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し,証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し,前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項2】 請求項1に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記受託者が管理するサーバーコンピュータは,申込情報データベースと,契約管理データベースと,リスク管理データベースと,売上管理データベースと,を備え,前記申込情報データベースは,前記申込情報フォームに入力された前記複数の委託者の資金調達の申込情報を記録,管理するためのものであり,前記契約管理データベースは,前記複数の実施権許諾契約および前記複数の委託者に対する出資契約の契約関係と,前記契約に係る投資先企業,投資金額,倒産企業,リビングデット企業の企業データと,前記前記複合投資受益権のデータと,を記録,管理するためのものであり,前記リスク管理データベースは,前記契約に係るリスク管理のための記録媒体であって,前記資金再運用によって蓄積する投資企業数と投資額を元に,一定期間および通年の投資企業数対倒産企業数比と,投資企業数対リビングデット企業比と,投資金額対損失金額比と,対比率を演算し,投資データを収集するためのものであり,前記売上管理データベースは,前記委託者のコンピュータに入力された前記実施権許諾契約に係るロイヤリティーの売上データを入力し,また前記証券化システムに係わる損益収支を演算処理するためのものであることを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項3】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記ロイヤリティーの売上データを契約管理データベースに移転することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項4】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記ロイヤリティーの売上データと,株式売却利益と,からなる投資収益データを前記契約管理データベースに記録することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項5】 請求項4に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記投資収益データに基づいて前記複合投資受益権の額を算出することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項6】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは,前記購入申込フォームに入力された投資家の顧客情報を記録,管理する顧客管理データベースと,前記証券の売上を記録,管理する売上管理データベースと,を備え,証券販売に係るロイヤリティーの分配と,確定利回りの元本償還を演算処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項7】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記証券の販売データに基づいて新たな複数の企業に再投資する資金再運用により,出資金の元本リスクが変わらぬまま投資額と投資先企業の数だけが累積増加するポートフォリオと,資金の運用効率化と収益力強化に相対して減少する投資リスクの低減と,同じく前記資金の運用効率化と収益力強化に相対して減少する元本リスクの低減と,による資本効率化のデータを総資本対累積投資額比で処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項8】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記複合投資受益権の優先受益権だけを投資家に販売して劣後受益権を前記受託者が引き受ける優先・劣後受益権構造を設定し,優先受益権にまで損失が及んだときは前記資金再運用の収益力強化によって内部留保される前記内部留保の収益余剰金データに基づいて処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項9】 請求項6に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記証券販売に係るロイヤリティーの分配と,確定利回りの元本償還の収益調整を前記資金再運用の収益力強化によって内部留保される前記内部留保の収益余剰金データに基づいて処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項10】 請求項2に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記資金再運用を集団投資スキームで運用し,投資案件に係るハイリスク・ハイリターンの投資リスクをトータルリスク・トータルリターンの演算で平準化し,出資金元本を年度ごとの損益収支で処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
【請求項11】 請求項6に記載のコンピュータネットワークによる証券化システムにおいて,前記証券販売に係わる証券市場の価格変動を確定利回りで平準化し,通年単位のリスク・リターンの損益収支で処理することを特徴とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
(3) 審決の内容 審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件補正後の請求項1ないし11に係る発明は,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないから,同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しない。また,仮に「発明」と認めたとしても,特許法36条6項2号及び36条4項の規定を満たしていないため,特許を受けることができない等としたものである。
(4) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決には,手続違背及び認定判断の誤りがあるから,違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(手続違背) 特許法159条2項において準用する同法50条により,拒絶査定不服審判において新たな拒絶理由で出願を拒絶するときは,事前にその拒絶理由を特許出願人に通知する必要があるところ,次に述べるとおり,本件審決は,平成16年3月26日付け拒絶理由通知(甲4。以下「本件拒絶理由通知」という。)と異なる拒絶理由に基づいて本願を拒絶すべきものとしたにもかかわらず,本件審判手続においては,原告に対し,何らの通知もしておらず,重大な手続違反がある。
(ア) 特許法29条1項柱書関係 @ 本件拒絶理由通知(甲4)には,旧補正に係る請求項1(甲2の3参照)の構成要件に関し,下記のとおりの記載がある(1頁下から11行〜2頁29行)。
記 請求項1に係る発明の構成要件を分説すると次のとおりである。
「(ア) 特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータ10は,資金調達に係る申込情報記録手段11と,回答記録手段12と,契約管理記録手段13と,売上管理記録手段14と,売上情報記録手段15と,リスク管理記録手段16と,計算手段17と,を有し, (イ) 前記申込情報記録手段11において,資金調達を申込む委託者が保有する特許権の内容及び事業計画を含む申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を通信手段を介して記録するステップと, (ウ) 前記回答記録手段12において,前記申込みに対する回答内容を記録するステップと, (エ) 前記契約管理記録手段13において,出資対象として選択された投資案件につき委託者と受託者との間で締結された前記信託契約及び出資契約の内容を記録するステップと, (オ) 前記信託契約によって,受託者の名義に移転した特許権を委託者にライセンス供与して当該特許権の商品又はサービス提供の売上金額を基準に一定料率のロイヤリティーを支払う旨の実施権許諾契約の内容を前記契約管理記録手段13に記録するステップと, (カ) 前記売上管理記録手段14において,前記ロイヤリティー収入及び株式売却収入の売上額を記録するステップと, 前記売上情報記録手段15において,経時的に累積推移する投資額とロイヤリティー収入の売上額及び未換金データを記録するステップと, (キ) 前記リスク管理記録手段16において,委託者の倒産による損失や倒産までのロイヤリティー売上額及び店頭公開の見込みのないリビングデット企業の未換金データを記録するステップと, (ク) 前記計算手段17において,前記契約に基づく収支計算を行うステップと, (ケ) 受託者と委託者を当事者として締結された前記複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の前記出資契約で取得した株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合し,これを複合投資受益権として受託者の前記契約管理記録手段12にプールするステップと, (コ) 金融機関に譲渡することによって再投資資金の原資を調達するステップと, 当該調達された原資を新たな複数の企業に再投資して出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化するステップと, (サ) 前記金融機関において,譲受した複合投資受益権を元に金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売するステップとを備え, (シ) 前記投資家の資金運用ニーズと,委託者の資金需要ニーズと,委託者に資金を供給する受託者と,資金を循環させる上記金融機関と,からなる資金及び資産流動化による間接投資を特徴とする金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法。」 A そして,本件拒絶理由通知には,旧補正に係る請求項1の発明が特許法29条1項柱書の「発明」の要件を満たしていないとの拒絶理由に関し,「請求項1に係る発明は,上記(ア)に記載されたサーバーコンピュータの構成を有し,上記(イ)以下のステップを含む方法発明であるから,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である。そして,ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。」(甲4の2頁下から8行〜3行)との記載がある。
B これに対し,審決では,本件補正後の請求項1に係る発明を便宜上分説し, 「(ア) 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと,特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと,前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される,特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって, (イ) 前記受託者が管理するサーバーコンピュータは,前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと,前記申込情報に基づいて形成された,前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと,を有し, (ウ) 前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており, (エ) 前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは,前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し,証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し, (オ) 前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。」 となるとした上で(8頁23行〜9頁10行),「請求項1に係る発明は,上記(ア),(イ),(エ)に記載されたコンピュータハードウェアと,上記(ウ),(オ)に記載された機能とで表現されるものであるから,当該補正後の請求項1に係る発明は,発明のカテゴリーが変更されても,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明であるということができる。そして,こうしたソフトウェアを利用するソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。」(9頁14行〜24行)と判断している。
C このように,本件拒絶理由通知と審決とでは,ソフトウェア関連発明と認定する際の論理が,本件拒絶理由通知では「サーバーコンピュータの構成を有し,上記(イ)以下のステップを含む方法発明であるから」であるのに対し,審決では「発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である」であって全然異なり,また,ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想創作」であるための要件について,本件拒絶理由通知では「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要」であるのに対し,審決では「発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならない」というもので,全然異なっている。
(イ) 特許法36条6項2号関係 本件拒絶理由通知には,旧補正に係る請求項1の発明が特許法36条6項2号の要件を満たしていないとの拒絶理由に関し,「計算手段の具体的な処理が明確でない・・・請求項1の記載は,全体としてみて,明確でない。」(甲4の6頁22行〜26行)と記載されているのに対し,審決では,本件補正後の請求項1に関し,「(オ)の記載が不明であるということは,請求項1の記載が,全体としてみて明確でないと判断せざるを得ない。」(審決の13頁16行〜18行)と判断し,本件拒絶理由通知と審決とでは,請求項1の記載不備の理由が全然異なっている。
(ウ) 特許法36条4項1号関係 本件拒絶理由通知には,旧補正に係る請求項1の発明が特許法36条4項1号の要件を満たしていないとの拒絶理由に関し,「サーバーコンピュータのハードウェア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を,どのような手順で読み出し,「計算手段」で,どのような演算処理を行うことにより,契約に基づく収支計算を行うことができ,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか,その手順が一切記載されておらず,」(甲4の7頁11行〜15行)と記載されているのに対し,審決では,本件補正後の請求項1に関し,「サーバーコンピュータのハードウェア(データベース)に記憶された情報をどのように読み出し,ハードウェア資源を利用してどのような情報処理を行うことにより,当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのかという点については,一切記載がなく不明である。」(審決の17頁下から11行〜下から4行)と判断し,本件拒絶理由通知における「一切記載されておらず」という対象と審決における「一切記載がなく」という対象とが異なり,本件拒絶理由通知と審決とでは,発明の詳細な説明の記載不備についての理由が全然異なっている。
イ 取消事由2(特許法29条1項柱書違反の判断の誤り) (ア) 審決は,本件補正後の請求項1について,「請求項1に係る発明は,上記(ア),(イ),(エ)に記載されたコンピュータハードウェアと,上記(ウ),(オ)に記載された機能とで表現されるものであるから,当該補正後の請求項1に係る発明は,発明のカテゴリーが変更されても,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明であるということができる。そして,こうしたソフトウェアを利用するソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。」(9頁14行〜24行)と認定判断している。
しかし,コンピュータハードウェアと機能とで表現される発明をソフトウェア関連発明と決め付けなければならない理由はなく,本件補正後の請求項1に係る発明は,コンピュータネットワークを課題解決のための手段として使ってはいるが,コンピュータネットワークの機能改善を意図するものではないから,本件補正後の請求項1に係る発明の内容をソフトウェア関連発明と認定しているのは誤りである。
また,ソフトウェア関連発明,自然法則の利用,一定の技術的課題の解決の間に,特に論理的な関係があるものではない。
(イ) そして,本願のコンピュータネットワークシステムによる証券化システムは,特別のハードウエア,ソフトウェアのコンピュータネットワークである必要はなく,通常のコンピュータネットワークと同様に,ローカルおよびリモートの情報処理をできれば足り,当然,通常のコンピュータネットワークと同様に,自然法則に従い動作する,すなわち自然法則を利用しているから,「自然法則を利用した」発明であることは明らかである。
(ウ) したがって,審決には,本件補正後の請求項1に係る発明の内容を誤って認定し,上記発明が特許法29条1項柱書に違反するとした判断した誤りがある。
ウ 取消事由3(特許法36条6項2号違反の判断の誤り) (ア) 審決は,本件補正後の請求項1について,「上記(ア)ないし(エ)のハードウェア及びその機能の範囲では,ハードウェアに格納される情報やハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理が,複合投資受益権の特定目的会社への譲渡,受託者における再投資資金の調達,出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから,ハードウェア資源に記憶されたデータがどのように利用され,どのような情報処理がなされて,「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ものなのか,全く不明である。」(13頁6行〜14行)と認定判断している。
しかし,審決が認定した本件補正後の請求項1の発明の(ア)ないし(エ)の要件(前記ア(ア)B)だけでは,本願の発明を完結的に表現することができないので,上記ア(ア)Bの(オ)の効果的な表現を追加することにより,本件補正後の請求項1の発明を明確にしたものである。
このことは,「(オ) 前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」との記載自体から,(イ)ないし(エ)の個々の構成の機能ではなく,(イ)ないし(エ)全体の構成の効果であることが,理解できるはずであること,上記(ア)ないし(オ)のすべての要件を満たすことによってはじめて,本願明細書(甲2の1)の段落【0029】に記載した「(1) 権利が性質の異なる他の財産権に換われば利用目的も変わる。具体的には,知的財産権という概念的な財産を事業化資金に換え,ベンチャー企業が保有している特許権やノウハウなど知的財産権と株式の二つの含み資産を,性質の異なる二つの受益権に転換し,これを併合することで流動化資産に変わり,更に,これを投資受益証券に替えて,投資家に販売する資産流動化の事業方法によって,投資サイクルが形成される。」との本願の発明の課題を解決できることから明らかである。
(イ) したがって,審決が,前述した(オ)の記載内容や,本願明細書の記載内容を無視し,(オ)の要件を無理やりに(ア)ないし(エ)の要件の機能と解して,本件補正後の請求項1に係る発明が不明であると判断したのは誤りである。
エ 取消事由4(特許法36条4項1号違反の判断の誤り) 審決では,本願明細書の発明の詳細な説明について,「当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのかという点については,一切記載がなく不明である。」(17頁30行〜35行)と認定判断している。
しかし,本願明細書(甲2の1)の段落【0062】の「D 投資事業会社は,複合投資受益権(ロイヤリティー未換金利益とIPO未換金利益)をプールし,金融機関に一括譲渡する。E 金融機関は,複合投資受益権を元に投資受益証券(優先受益権・劣後受益権の設定で信用補完を図る)を企画・開発し,機関投資家,一般投資家に販売する。F 投資事業会社は,複合投資受益権の一括譲渡により再投資資金の原資を調達できる。G 投資事業会社は,再投資資金の調達・資金運用の効率化で収益力を高めることができる。H 投資事業会社は,上記DEFGのプロセスを繰り返すことによって,新たなVB企業Bグループに再投資できる。※ 資金流動化による資金運用の効率化・収益力UPで出資金リスクが軽減される。」との記載及び図3,4(甲2の1)には,本願発明の基本形態が説明されており,これを参照すれば,(オ)の要件は効果を示す表現であり,この要件の追加により,本願発明が完結的に表現されていることが理解できるのに,審決が上記(オ)の要件について,本願明細書の発明の詳細な説明に「一切記載がなく不明である。」と判断したのは誤りである。
オ 取消事由5(違法な判断) 原告は,平成16年6月4日付け意見書(甲5)によって,下記のとおり本件拒絶理由通知記載の拒絶理由に対しすべて的確に応答し,拒絶理由を構成する要件をすべて明細書から除去しているにもかかわらず,審決はこれを無視し,別の理由にすりかえて本願発明は特許を受けることができないと判断したのは違法である。
記 @ 「(1) 審判長殿は,“本願発明は,サーバーコンピュータの構成を有し,ステップを含む方法発明であるから,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である。そして,ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。”との前提のもとに,本願発明は,特許法でいう「発明」ではなく,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので,前記前提は成り立たず,この拒絶理由は解消しています。」(甲5の7頁18行〜27行) A 「(2) 審判長殿は,“本願発明は,人が行う行為をステップとして含む方法であるので,”との前提で,本願発明は,「自然法則を利用した技術的思想創作」ではなく,特許法でいう「発明」ではなく,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので,前記前提は成り立たず,拒絶理由は解消しています。」(同7頁28行〜34行) B 「・・・審判長殿は,計算手段において,各記憶手段(ハードウエア資源)に記憶されたデータが,ソフトウェアにしたがって,どのように利用され,どのような演算処理がなされて,「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか,明確でないので,請求項1などの記載は,全体としてみて,明確でなく,特許を受けようとする発明が明確でない旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,コンピュータネットワークによる証券化システムとなっており,“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしています。
よって,この拒絶理由は解消しています。」(同8頁12行〜23行) C 「・・・審判長殿は,本件の発明の詳細な説明には,サーバーコンピュータのハードウエア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を,どのような手順で読み出し,「計算手段」で,どのような演算処理を行うことにより,契約に基づく収支計算を行うことができ,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか,その手順が一切記載されていないから,本件の発明の詳細な説明の記載では,当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,コンピュータネットワークによる証券化システムとなっております。すなわち,本願発明は,“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではなく,「計算手段」による演算の仕方を要旨としていないので,この拒絶理由は解消しています。」(同8頁24行〜37行) カ 取消事由6(審理不尽) 原告は,平成16年6月4日付け意見書(甲5)によって,特許法における発明の定義が,特許法の目的と矛盾しないように,本願発明のような金融業の発明についての自然法則を利用した技術的思想であるか否かの判断は,柔軟に解釈すべきである旨主張しているにもかかわらず(甲5の7頁下から7行〜8頁10行),これには何ら検討せず,自然法則を利用していないとした審決には,審理不尽の違法がある。
そして,本願発明は,コンピュータやコンピュータネットワークの使用を必須とするシステムであり,自然法則を利用した部分がごく些細な部分のみに含まれているというものではなく,自然法則を利用した発明であるというべきである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論 (1) 取消事由1に対し ア 審決が本件補正後の請求項1ないし4に係る発明が特許を受けることができないとした理由は,「請求項に係る発明が特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないこと」と「明細書の記載が,特許法36条4項1号及び同6項2号に規定する要件を満たしていないこと」にあり,これらの理由は,本件拒絶理由通知(甲4)で通知した拒絶理由と同じであり,新たな拒絶理由に該当しない。
イ 原告は,本件拒絶理由通知と審決とでは,@ソフトウェア関連発明と認定する際の論理,Aソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想創作」であるための要件,B請求項1の記載不備についての理由,C発明の詳細な説明の記載不備についての理由が異なっている旨主張する。
しかし,@については,本件拒絶理由通知も,審決も,「ソフトウェア関連発明という観点からみても,自然法則を利用したものといえない」と判断しているものであり,「ソフトウェア関連発明だから自然法則を利用したものといえない」と判断しているわけではないから,そもそも,「ソフトウェア関連発明と認定する際の論理」が拒絶理由を構成するものではなく,その相違は,審決の理由が,新たな拒絶理由に該当するか否かとは関係しない。
また,Aについては,単なる表現の相違であって,審決と本件拒絶理由通知とで,「ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想創作」であるための要件」が相違しているわけではなく,B,Cについては,審決の説示は,本件拒絶理由通知で通知した拒絶理由が,依然として解消していないことを説明したものであり,新たな拒絶理由を審決の理由としたものではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(2) 取消事由2に対し ア 審決は,本件補正後の請求項1に係る発明を「コンピュータネットワークの機能改善を意図するもの」と認定しているわけではなく,上記発明はコンピュータネットワークを利用するものであるが,コンピュータネットワークを利用すること自体に「発明の自然法則利用性を肯定し得るような技術的特徴」を有するものではないこと,上記発明はコンピュータを利用するものであるから,当然に何らかの情報処理を伴うものでもあるが,その情報処理の内容自体に「発明の自然法則利用性を肯定し得るような技術的特徴」を有するわけでもないということを前提とした上で,「本件補正後の請求項1に係る発明は,その実施に,ソフトウェアを必要とする発明と考えられるから,他に「発明の自然法則利用性を肯定し得るような技術的特徴」が認められなくても,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合,換言すれば,「ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が,具体的に提示されている」場合には,特許法でいう発明,すなわち,「自然法則を利用した技術的思想創作」に該当すると考えることができるが,補正後の請求項1に係る発明は,そのような場合に該当しない。」といった趣旨の判断をしたものである。
したがって,審決が本件補正後の請求項1に係る発明の内容を誤って認定したとの原告の指摘は,当たらない。
イ また,審決は,「ソフトウェアを利用するソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明は,そもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならない」と述べているのではなく,「こうしたソフトウェアを利用するソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明は,そもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が,具体的に提示されている必要がある。」と述べているものである。
そして,他に「発明の自然法則利用性を肯定し得るような技術的特徴」を有しないソフトウェア関連発明においては,コンピュータのソフトウェアが,ハードウェアと協働する形で構築される情報処理の仕組みや方法こそが,当該ソフトウェア関連発明の「発明の自然法則利用性を肯定し得るような技術的特徴」となるわけであるから,当該ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるかどうかを判断する場合には,コンピュータのハードウェア資源と協働して行われる,ソフトウェアによる情報処理そのものが,一定の技術的課題の解決手段として,具体的に実現されているかどうかという基準から判断するのが妥当である。
したがって,審決の判断基準は論理的でない旨の原告の指摘は,当たらない。
(3) 取消事由3に対し 原告は,本件補正後の請求項1の発明の(ア)ないし(エ)の要件に(オ)の効果的表現を追加することによって(請求原因(4)ア(ア)B),どのような根拠をもって,上記発明が明確になっているのかという点については,全く触れていないから,原告の主張は失当である。
(4) 取消事由4に対し 原告は,本願明細書(甲2の1)の段落【0062】の記載と,図3,図4の記載によれば,本件補正後の請求項1の発明の(オ)の構成(請求原因(4)ア(ア)B)を理解できると主張しているが,段落【0062】に記載されているのは,社会的な組織である投資事業会社,金融機関等が果たす役割を述べているのにすぎないのであって,どのような根拠をもって,(オ)の構成が実現できるのかという点については,全く触れていないから,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の審決の取消事由(請求原因(4))について,以下,順次判断する。
2 取消事由1(手続違背)について (1) 本件訴訟に至る事実関係 前記争いのない事実と証拠(甲2ないし5(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,本件の経過は次のとおりであったことが認められる。
ア 本願の願書に最初に添付した明細書(甲2の1)の特許請求の範囲は,請求項1ないし12から成るものであったが,原告は,平成14年12月3日付け手続補正書(甲2の3)により特許請求の範囲等の補正(旧補正)をした。その請求項1の記載は,請求原因(2)アのとおりであった。
イ 原告は,平成14年12月27日,本願につき拒絶査定を受けたため,平成15年2月4日,審判請求をした。
これに対し審判長は,平成16年3月26日付け拒絶理由通知(本件拒絶理由通知。甲4)をもって,本願は拒絶すべきものと認められる旨の通知をしたが,旧補正に係る請求項1に関する拒絶理由は,下記の理由1,2に記載のとおりであった。
記 [理由1] 「 この出願の下記の請求項に係る発明は,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。
特許法第29条第1項柱書には,「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる。」と規定され,特許法第2条第1項には,特許法でいう「発明」について,「発明とは自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。
そこで,各請求項に係る発明について,検討を加える。
1.請求項1に係る発明に対して 請求項1に係る発明の構成要件を分説すると次のとおりである。
「(ア) 特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータ10は,資金調達に係る申込情報記録手段11と,回答記録手段12と,契約管理記録手段13と,売上管理記録手段14と,売上情報記録手段15と,リスク管理記録手段16と,計算手段17と,を有し, (イ) 前記申込情報記録手段11において,資金調達を申込む委託者が保有する特許権の内容及び事業計画を含む申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を通信手段を介して記録するステップと, (ウ) 前記回答記録手段12において,前記申込みに対する回答内容を記録するステップと, (エ) 前記契約管理記録手段13において,出資対象として選択された投資案件につき委託者と受託者との間で締結された前記信託契約及び出資契約の内容を記録するステップと, (オ) 前記信託契約によって,受託者の名義に移転した特許権を委託者にライセンス供与して当該特許権の商品又はサービス提供の売上金額を基準に一定料率のロイヤリティーを支払う旨の実施権許諾契約の内容を前記契約管理記録手段13に記録するステップと, (カ) 前記売上管理記録手段14において,前記ロイヤリティー収入及び株式売却収入の売上額を記録するステップと, 前記売上情報記録手段15において,経時的に累積推移する投資額とロイヤリティー収入の売上額及び未換金データを記録するステップと, (キ) 前記リスク管理記録手段16において,委託者の倒産による損失や倒産までのロイヤリティー売上額及び店頭公開の見込みのないリビングデット企業の未換金データを記録するステップと, (ク) 前記計算手段17において,前記契約に基づく収支計算を行うステップと, (ケ) 受託者と委託者を当事者として締結された前記複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の前記出資契約で取得した株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合し,これを複合投資受益権として受託者の前記契約管理記録手段12にプールするステップと, (コ) 金融機関に譲渡することによって再投資資金の原資を調達するステップと, 当該調達された原資を新たな複数の企業に再投資して出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化するステップと, (サ) 前記金融機関において,譲受した複合投資受益権を元に金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売するステップとを備え, (シ) 前記投資家の資金運用ニーズと,委託者の資金需要ニーズと,委託者に資金を供給する受託者と,資金を循環させる上記金融機関と,からなる資金及び資産流動化による間接投資を特徴とする金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法。」 そこで,検討するに, (1) 請求項1に係る発明は,上記(ア)に記載されたサーバーコンピュータの構成を有し,上記(イ)以下のステップを含む方法発明であるから,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である。そして,ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。
請求項1に係る発明では,上記(ア)として,サーバーコンピュータのハードウェア資源を記載しているが,上記(イ)ないし(キ)では,それぞれの情報を記録手段に記録するというコンピュータの通常の記憶機能を記載するに留まっており,上記(ク)では,単に「契約に基づく収支計算」を行うことだけが記載されており,上記(ケ)ないし(シ)では,後述するように,コンピュータの動作とはいえない事項が記載されている。
してみると,請求項1に係る発明は,上記(ア)記載の各記録手段(ハードウェア資源)に記録されたデータが,ソフトウェアにしたがって,どのように利用され,どのような演算処理がされて,目的に応じた特有の情報処理方法が実現されているか,という点についての記載がなく,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている,ということはできない。
すなわち,請求項1に係る発明は,「自然法則を利用した技術的思想創作」ではなく,特許法でいう「発明」ではない。
(2) 請求項1に係る発明は,上記(ケ)ないし(シ)のステップを含む方法発明であるが,上記(ケ)でいう「ロイヤリティー受益権と,・・・株式受益権と,を併合し,これを複合投資受益権として受託者の契約管理手段にプールする」こと,上記(コ)でいう「再投資資金の原資を調達する」こと,上記(サ)でいう「出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化する」こと,上記(シ)でいう「金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売する」ことは,いずれも人が行うことであって,コンピュータの情報処理の内容ではない。
してみると,請求項1に係る発明は,人が行う行為をステップとして含む方法であるので,全体としてみれば,明らかに「自然法則を利用した技術的思想創作」ではなく,特許法でいう「発明」ではない。
結局,請求項1に係る発明は,上記(1),(2)の理由により,特許法第2条第1項で定義されたところの,特許法でいう「発明」ではなく,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。」(甲4の1頁13行〜3頁26行) [理由2] 「A.特許法第36条第6項第2号に規定する要件について 1.請求項1の記載に対して 請求項1に係る発明の構成要件を分説すると上記[理由1]の1.に記載した(ア)ないし(シ)のとおりである。 上記(ア)の記載から,「受託者が管理するサーバーコンピュータ」が,「申込情報記録手段」,「回答記録手段」,「契約管理記録手段」,「売上管理記録手段」,「売上情報記録手段」,「リスク管理記録手段」とを有することが,また,上記(イ)〜(キ)の記載から,上記各手段に記録する情報の内容は,理解できる。
しかしながら,上記(ク)の「前記計算手段17において,前記契約に基づく収支計算を行う」という記載だけでは,発明を特定するための事項である「計算手段」を,該計算手段が達成すべき結果として記載しており,該計算手段の具体的な処理が明確でない,すなわち該計算手段において,各記憶手段(ハードウェア資源)に記憶されたデータが,ソフトウェアにしたがって,どのように利用され,どのような演算処理がなされて,「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか,明確でないので,請求項1の記載は,全体としてみて,明確でない。
したがって,請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。」(同6頁11行〜28行), 「B.特許法第36条第4項第1号に規定する要件について 本件の発明の詳細な説明には,サーバーコンピュータのハードウェア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を,どのような手順で読み出し,「計算手段」で,どのような演算処理を行うことにより,契約に基づく収支計算を行うことができ,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか,その手順が一切記載されておらず,また,明細書の記載からみて,この点が当業者において自明な事項であるとも認められないから,本件の発明の詳細な説明の記載では,当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
したがって,本件の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないので,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」(同7頁10行〜末行) ウ これに対して原告は,平成16年6月4日,特許請求の範囲減縮等を目的とする本件補正(甲2の4)をするとともに(本件補正後の請求項は,請求原因(2)ロのとおり),同日付け意見書(甲5)を提出した。上記意見書には,本件拒絶理由通知に対する意見として,下記のとおりの記載がある。
記 「D 理由1について (1) 審判長殿は,“本願発明は,サーバーコンピュータの構成を有し,ステップを含む方法発明であるから,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である。そして,ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。”との前提のもとに,本願発明は,特許法でいう「発明」ではなく,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので,前記前提は成り立たず,この拒絶理由は解消しています。
(2) また,審判長殿は,“本願発明は,人が行う行為をステップとして含む方法であるので,”との前提で,本願発明は,「自然法則を利用した技術的思想創作」ではなく,特許法でいう「発明」ではなく,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない,旨認定されています。 これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので,前記前提は成り立たず,拒絶理由は解消しています。
(3) なお,”人が行う行為をステップとして含む方法であるので,「自然法則を利用した技術的思想創作」ではなく“ということは,必ずしも言えません。通常の方法の発明は,特に限定がない限り,人が行う行為をステップとして含んでいます。 また,本願発明は,コンピュータおよびコンピュータネットワークは利用していますが,ビジネスモデルの発明であり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではありません。コンピュータおよびコンピュータネットワークは本願発明を実現するための手段に過ぎません。
特許法第2条第1項の「発明とは自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいう。」との定義は,大正10年法の「工業的発明」についての判例などにもとづくものであり,製造業が主要な産業であった現行法(昭和34年)の提案当時には,妥当なものであったと解されますが,非製造業が主要な産業となった現在では,妥当とはいい難いところがあります。
特許法第1条に,特許法の目的が,「この法律は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする。」と謳われていますが,ここでいう「産業」は,当然非製造業も含むものと解され,とすれば,“非製造業,たとえば金融業の発明の保護及び利用を図ることにより,金融業の発明を奨励し,もって金融業の発達に寄与する”ことも特許法の目的といえます。したがって,特許法における発明の定義が,特許法の目的と矛盾しないように,本願発明のような金融業の発明についての,自然法則を利用した技術的思想であるか,否かの判断は,柔軟になされるべきであります。
因みに,特許庁編,工業所有権法逐条解説には,法第2条の「発明」について,字句解釈の項に,「現行法においては,今後も学説判例にゆだねざるを得ない面も少なくないが,幾分でも法文上明瞭なものとして争いを少なくしようという趣旨から,このような定義を設けた。」とあるように,特許法第2条の発明の定義は,特許法の解釈上絶対のものではなく,立法の趣旨ないしは現状に合わせて解すべきものであります。
E 理由2について 理由2のAにおいて,審判長殿は,計算手段において,各記憶手段(ハードウェア資源)に記憶されたデータが,ソフトウェアにしたがって,どのように利用され,どのような演算処理がなされて,「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか,明確でないので,請求項1などの記載は,全体としてみて,明確でなく,特許を受けようとする発明が明確でない旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,コンピュータネットワークによる証券化システムとなっており,“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしています。
よって,この拒絶理由は解消しています。
理由2のBにおいて,審判長殿は,本件の発明の詳細な説明には,サーバーコンピュータのハードウェア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を,どのような手順で読み出し,「計算手段」で,どのような演算処理を行うことにより,契約に基づく収支計算を行うことができ,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか,その手順が一切記載されていないから,本件の発明の詳細な説明の記載では,当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない旨認定されています。
これに対し,今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,コンピュータネットワークによる証券化システムとなっております。すなわち,本願発明は,“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではなく,「計算手段」による演算の仕方を要旨としていないので,この拒絶理由は解消しています。」(甲5の7頁18行〜8頁38行) エ 一方,本件審決は,請求人である原告主張の理由1,2(前記ウ)について,下記のとおり判断した。
記 @「4-1 理由1(29条柱書違反)について 請求人は,・・・当審が通知した拒絶の理由に対応して,請求項1に係る発明を,補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」から「コンピュータネットワークによる証券化システム」に関する発明に補正したので,補正後の請求項1に係る発明が,特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当するかどうか,を以下に検討する。
まず,補正後の請求項1に係る発明を,便宜上分説すると,以下のようになる。
(ア) 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと,特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと,前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される,特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって, (イ) 前記受託者が管理するサーバーコンピュータは,前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと,前記申込情報に基づいて形成された,前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと,を有し, (ウ) 前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており, (エ) 前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは,前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し,証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し, (オ) 前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。
ところで,補正後の請求項1に係る発明は,補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」という,「方法」の発明から,「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に,発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。しかし,当該補正後の請求項1に係る発明は,上記(ア),(イ),(エ)に記載されたコンピュータハードウェアと,上記(ウ),(オ)に記載された機能とで表現されるものであるから,当該補正後の請求項1に係る発明は,発明のカテゴリーが変更されても,その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの,いわゆるソフトウエア関連発明であるということができる。そして,こうしたソフトウエアを利用するソフトウエア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。
そこで,前記分説した補正後の請求項1に係る発明を検討すると,上記(ア)ないし(エ)として記載されていることは,要するに,ハードウエア資源として, (a)複数の「委託者のコンピュータ」と, (b)「受託者が管理するサーバーコンピュータ」と, (c)前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」とを備え, (d)前記「受託者が管理するサーバーコンピュータ」は,「申込情報データベース」と「契約管理データベース」とを有し, (e)前記「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」は,「証券情報データベース」を有し, 前記ハードウェアの機能として, (f)「申込情報データベース」のデータである委託者の申込情報が,前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力されたものであり, (g)「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」が「受託者が管理するサーバーコンピュータ」の「契約管理データベース」を検索可能であり,「前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示する」機能を有する, というものである。
〈中 略〉 ところで,ネットワークで接続されたサーバーコンピュータと複数のユーザ端末コンピュータとを備え,それぞれのサーバーコンピュータがデータベースを有するとともに,それぞれのサーバーコンピュータもしくはユーザ端末コンピュータの間で,データの入力や検索,表示が可能な構成の「ネットワークによる業務システム」自体は,本願出願時点では既に普及して慣用技術であり,前記(a)ないし(g)の構成は,こうした慣用技術の域を出ないものである。してみれば,補正後の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において,技術的課題を解決できるような特有の構成をもたらすのは,上記(ア)ないし(エ)を前提とした上記(オ)ということになる。
そこで,上記(オ)を検討すると,(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」という記載は,上記(ア)ないし(エ)を受けて,「コンピュータネットワークによる証券化システム」の全体的な機能を特定するものであり,かつ,「・・を可能とする」という表現からして,「コンピュータネットワークによる証券化システム」の直接的な技術的課題を「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めること」と規定し,この技術的課題を達成することができるようにした,とするものである。
しかしながら,上記(ア)ないし(エ)のハードウエア及びその機能の範囲では,ハードウエアに格納される情報やハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理が,複合投資受益権の特定目的会社への譲渡,受託者における再投資資金の調達,出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから,上記(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めること」を可能にする特有の構成が具体的に記載されているとは到底いえないことは,明らかである。
即ち,補正後の請求項1に係る発明は,形式的には,「コンピュータネットワークによる証券化システム」のハードウエア資源および当該ハードウェアの機能を記載した体裁をとっているものの,ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に記載されておらず,一定の技術的課題の解決手段になっていないので,これを「自然法則を利用した技術的思想創作」と認めることはできない。」(審決の8頁16行〜11頁18行) A「 なお,請求人は意見書において,『今回の補正により,本願発明は,前記Cに示すとおり,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので,前記前提は成り立たず,この拒絶理由は解消しています。』と主張する。また,請求人は,『本願発明は,コンピュータおよびコンピュータネットワークは利用していますが,ビジネスモデルの発明であり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではありません。コンピュータおよびコンピュータネットワークは本願発明を実現するための手段に過ぎません。』とも主張する。
確かに,補正後の請求項1に係る発明は,補正前の「方法」の発明から,ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に,発明のカテゴリーを変更する形で補正がされているが,補正後の請求項1に係る発明は,ハードウエア及びその機能で表現される「システム」であるから,ソフトウエアの利用なくしては成り立たない発明であり,ソフトウエアを利用する発明であることには変わりがない。また,補正後の請求項1の記載からすると,ソフトウエアを利用する発明であることを否定して「ビジネスモデル」の発明だとする根拠は見当たらないが,仮に,請求人がいうように,コンピュータおよびコンピュータネットワークが単なる手段に過ぎないとするならば,補正後の請求項1に係る発明においては技術的な意味が全く見出せないということになり,特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないことは明らかである。したがって,請求人の主張は採用することができない。
以上のとおり,補正後の請求項1に係る発明は,特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないから,特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当せず,同項柱書の規定により特許を受けることができない。」(同11頁19行〜12頁6行) B「4-2-1 特許法第36条第6項第2号違反について 前項4-1で述べたように,補正後の請求項1に係る発明は,補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」という,「方法」の発明から,「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に,発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。
〈中 略〉 補正後の請求項1に係る発明を分説すると,前項4-1の(ア)ないし(オ)のようになり,前項4-1の(a)ないし(e)のハードウエア及び(f),(g)の機能を有することは理解することができる。そして,前項4-1で検討したように,前記(a)ないし(g)の構成は,慣用技術の域を出ないものであるから,補正後の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において,技術的課題を解決する特有の構成をもたらすのは,上記(ア)ないし(エ)を前提とした上記(オ)であり,この(オ)が,補正後の請求項1に係る発明が最も重要な技術的意味をもつことになる。
そこで,上記(オ)を検討すると,(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」という記載は,上記(ア)ないし(エ)を受けて,「コンピュータネットワークによる証券化システム」の全体的な機能を特定するものである。
しかしながら,上記(イ)の「申込情報データベース」と「契約管理データベース」に格納されているのは,それぞれ委託者の申込情報と複合投資受益権のデータであり,上記(エ)の「証券情報データベース」に格納されているのは,証券購入申込情報のデータであるので,上記(ア)ないし(エ)のハードウエア及びその機能の範囲では,ハードウエアに格納される情報やハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理が,複合投資受益権の特定目的会社への譲渡,受託者における再投資資金の調達,出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから,ハードウエア資源に記憶されたデータがどのように利用され,どのような情報処理がなされて,「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ものなのか,全く不明である。前述したように,上記(オ)が,補正後の請求項1に係る発明が最も重要な技術的な意味を持つと考えられることから,この(オ)の記載が不明であるということは,請求項1の記載が,全体としてみて明確でないと判断せざるを得ない。」(同12頁16行〜13頁18行) C「 なお,請求人は,『今回の補正により,本願発明は,(中略)コンピュータネットワークによる証券化システムとなっており,“(中略)ロイヤリティー受益権と,(中略)株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしています。よって,この拒絶理由は解消しています。』と主張する。
確かに,補正後の請求項1に係る発明は,補正前の「方法」の発明から,「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に,発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。
しかしながら,補正後の請求項1の上記(オ)は,補正前の請求項1(「第2 当審が通知した拒絶の理由」の項での拒絶の理由引用箇所に掲載)の分説記号(ク))の「計算手段において」に続く分説記号(コ)の2つのステップの内容を,機能的に記載したものであるが,「計算手段において」という文言を省略したために当該機能を実現する主体がなくなり,既に検討したとおり,一層不明の度合いが増した結果になっている。また,補正後の請求項1には,“複合投資受益権”のデータを格納することと,“複合投資受益権”に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示することは記載がされているものの,「“複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成」についての記載は一切されていない。
このため,今回の補正により,“複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしたから,拒絶理由は解消した,とする請求人の主張は根拠がなく,これを採用することはできない。
したがって,補正後の請求項1の記載は,依然として特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。」(同13頁19行〜14頁3行) D「4-2-2 特許法第36条第4項違反について 本件明細書の発明の詳細な説明に,補正後の請求項1に係る発明が容易に実施できる程度に記載がされているかどうか,について検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には,補正後の請求項1に係る発明のハードウエア及びその機能に関連して,【0048】ないし【0060】の【発明の実施の形態】の箇所において,以下の1)ないし8)の記載がある。」(同14頁7行〜12行) 「 以上の1)ないし8)によれば,前項4-1の(ア)ないし(エ)のハードウエア資源及びその機能,ハードウエア(データベース)に蓄積されるデータについて,それぞれ一応の説明がなされている。ところが,前項4-1の(オ)に関しては, 「(受託者兼受益者の一人である投資事業会社は,)複数の受託財産を管理し,(中略)複数の複合投資受益権(ロイヤリティ見込額及び株式売却見込額の合計未換金利益)をプールし,金融機関や証券会社ほか金融機関に一括譲渡することができる。」(前記4)【0051】)というルールの説明と,「投資事業会社から前記複合投資受益権を一括譲受する金融機関のサーバーコンピュータ30は,証券購入申込情報を記録する証券情報データベース31(中略)を有する。
(中略)金融機関の管理するサーバーコンピュータ30の閲覧端末に接続されたホームページに,複合投資受益権をベースに企画・開発された投資受益証券の販売に係る金融商品の説明を含む販売情報と,(略)証券購入申込フォームが設定されている。これらの情報は証券情報データベース31に記録することで,インターネット等の通信手段を介して証券購入の申込をできるようにしてある。」(前記5)【0056】)という説明と,があるだけで,サーバーコンピュータのハードウエア(データベース)に記憶された情報をどのように読み出し,ハードウエア資源を利用してどのような情報処理を行うことにより,当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのか,という点については,一切記載がなく不明である。また,明細書の記載からみて,当該(オ)の点をシステム的に実現することが当業者において自明な事項であるとも認められないので,当業者といえども,本件の発明の詳細な説明の記載の範囲からは,当該(オ)の点を実現することは,到底容易とはいえない。そして,前記(ア)ないし(エ)は,前項4-1で検討したとおり,慣用技術の域を出ないものであるから,前記(ア)ないし(エ)を受けた当該(オ)は,本件の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において最も重要な位置づけにあるべきところ,この(オ)が容易に実現できなければ,本件の請求項1に係る発明全体として,容易に実施できるとはいえないことは,明らかである。」(同17頁10行〜18頁6行) E「 なお,請求人は,『今回の補正により,本願発明は,(中略)コンピュータネットワークによる証券化システムとなっております。すなわち,本願発明は,“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではなく,「計算手段」による演算の仕方を要旨としていないので,この拒絶理由は解消しています。』と主張する。
ここで,請求人は,本願発明は「コンピュータネットワークによる証券化システム」である,と主張しながら,「複合投資受益権に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり,ソフトウェアによる情報処理の発明ではない」とも主張するので,意図が不明瞭なところがあるが,本願発明がいずれであるとしても,本件の発明の詳細な説明が,当業者が本件の請求項1に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないことは,先に検討したとおり否定しがたいところであり,請求人の主張を採用することはできない。
したがって,本件の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件の請求項1に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」(同18頁7行〜26行) (2) 原告の主張に対する判断 原告は,特許法159条2項において準用する同法50条により,拒絶査定不服審判において新たな拒絶理由で出願を拒絶するときは,事前にその拒絶理由を特許出願人に通知する必要があるところ,本件審決は,請求項1に係る発明(本件補正後の発明)に関し,平成16年3月26日付け拒絶理由通知(本件拒絶理由通知)と異なる拒絶理由に基づいて本願を拒絶すべきものとしたにもかかわらず,本件審判手続においては,原告に対し,何らの通知もなされておらず,重大な手続違反がある旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
ア 原告は,本件拒絶理由通知と審決とでは,請求項1に係る発明が特許法29条1項柱書の「発明」に該当しないと判断するに際し,請求項1に係る発明がソフトウェア関連発明と認定する際の論理が,本件拒絶理由通知では「サーバーコンピュータの構成を有し,上記(イ)以下のステップを含む方法発明であるから」であるのに対し,審決では「発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である」であって全然異なり,また,ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想創作」であるための要件について,本件拒絶理由通知では「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要」であるのに対し,審決では「発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならない」というもので,全然異なっている旨主張する。
しかしながら,前記(1)アないしウの認定事実によれば,補正前の請求項1に係る発明は,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」という「方法」の発明であったのが,本件補正により,補正後の請求項1の発明が「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に変更されたのであるから,これに伴って本件拒絶理由通知における拒絶理由と審決の拒絶理由とで,ソフトウェア関連発明に該当するとの説明の仕方に差異が生ずるのは当然のことであり,原告の主張する差異の内容に照らしても,改めて拒絶理由通知をしなければ,原告に対する不意打ちになるとまで認めることはできない(なお,最高裁平成14年9月17日第三小法廷判決・判例時報1801号108頁は,審判において特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,上記瑕疵は審決を取り消すべき違法には当たらないと解するのが相当である,と判示している。)。
また,本件拒絶理由通知には,「ソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。」との記載があること(前記(1)イの下記[理由1]),審決には,「ソフトウエア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。」との記載があること(前記(1)エの下記@)に照らせば,本件拒絶理由通知及び審決のいずれにおいても,ソフトウェア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想創作」であるというためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているものであることを要件とする点では同旨であることが認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件拒絶理由通知には,旧補正に係る請求項1の発明が特許法36条6項2号の要件を満たしていないとの拒絶理由に関し,「計算手段の具体的な処理が明確でない・・・請求項1の記載は,全体としてみて,明確でない。」と記載されているのに対し,審決では,本件補正後の請求項1に関し,「(オ)の記載が不明であるということは,請求項1の記載が,全体としてみて明確でないと判断せざるを得ない。」と判断し,本件拒絶理由通知と審決とでは,請求項1の記載不備の理由が全然異なっている旨主張する。
しかしながら,@本件拒絶理由通知には,「上記(ク)の「前記計算手段17において,前記契約に基づく収支計算を行う」という記載だけでは,発明を特定するための事項である「計算手段」を,該計算手段が達成すべき結果として記載しており,該計算手段の具体的な処理が明確でない,すなわち該計算手段において,各記憶手段(ハードウェア資源)に記憶されたデータが,ソフトウェアにしたがって,どのように利用され,どのような演算処理がなされて,「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか,明確でないので,請求項1の記載は,全体としてみて,明確でない。」との記載があること(前記(1)イの下記[理由2]の「A.」),A本件審決には,「上記(ア)ないし(エ)のハードウエア及びその機能の範囲では,ハードウエアに格納される情報やハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理が,複合投資受益権の特定目的会社への譲渡,受託者における再投資資金の調達,出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから,ハードウエア資源に記憶されたデータがどのように利用され,どのような情報処理がなされて,「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ものなのか,全く不明である。前述したように,上記(オ)が,補正後の請求項1に係る発明が最も重要な技術的な意味を持つと考えられることから,この(オ)の記載が不明であるということは,請求項1の記載が,全体としてみて明確でないと判断せざるを得ない。」との記載があること(前記(1)エの下記B)に照らせば,審決においては計算手段のような具体的な手段は明記されていないものの,本件拒絶理由通知及び審決のいずれにおいても,ハードウェア資源に記憶されたデータがどのように利用され,どのような情報処理がなされているのか,全く不明であることを理由に,請求項1に係る発明が明確ではないと判断している点では同旨であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,請求項1に係る発明が特許法36条4項1号の要件を満たしていないとの拒絶理由に関し,本件拒絶理由通知における「一切記載されておらず」という対象と審決における「一切記載がなく」という対象とが異なり,本件拒絶理由通知と審決とでは,発明の詳細な説明の記載不備についての理由が全然異なっている旨主張する。
しかしながら,@本件拒絶理由通知には,「請求項1に係る構成要件を分説すると次のとおりである。・・・・「(シ) 前記投資家の資金運用ニーズと,委託者の資金需要ニーズと,委託者に資金を供給する受託者と,資金を循環させる上記金融機関と,からなる資金及び資産流動化による間接投資を特徴とする金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法。」」との記載があること(前記(1)イの下記[理由1]),A本件拒絶理由通知には,「本件の発明の詳細な説明には,サーバーコンピュータのハードウェア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を,どのような手順で読み出し,「計算手段」で,どのような演算処理を行うことにより,契約に基づく収支計算を行うことができ,「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか,その手順が一切記載されておらず,また,明細書の記載からみて,この点が当業者において自明な事項であるとも認められないから,本件の発明の詳細な説明の記載では,当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。」との記載があること(前記(1)イの下記[理由2]の「B.」),B本件審決には,「サーバーコンピュータのハードウェア(データベース)に記憶された情報をどのように読み出し,ハードウェア資源を利用してどのような情報処理を行うことにより,当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのかという点については,一切記載がなく不明である。また,明細書の記載からみて,当該(オ)の点をシステム的に実現することが当業者において自明な事項であるとも認められないので,当業者といえども,本件の発明の詳細な説明の記載の範囲からは,当該(オ)の点を実現することは,到底容易とはいえない。」との記載があること(前記(1)エの下記D)に照らせば,本件拒絶理由通知において一切記載されていないとする「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」の実現のための手順と,審決において一切記載がなく不明である「当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能」とする「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現することとは同旨であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり,本件審判手続には原告主張の手続違背は認められないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由4(特許法36条4項1号違反の判断の誤り)について 原告は,審決は,本願明細書の発明の詳細な説明について,「当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ,「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのかという点については,一切記載がなく不明である。」(17頁30行〜35行)と認定判断しているが,本願明細書(甲2の1)の段落【0062】との記載及び図3,4(甲2の1)には,本願発明の基本形態が説明されており,これを参照すれば,(オ)の要件は効果を示す表現であり,この要件の追加により,本願発明が完結的に表現されていることが理解できるのに,審決が上記(オ)の要件について,本願明細書の発明の詳細な説明に「一切記載がなく不明である。」と判断したのは誤りである旨主張する。
(1) 本件補正後の請求項1を分説すると,「(ア) 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと,特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと,前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される,特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって,(イ) 前記受託者が管理するサーバーコンピュータは,前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと,前記申込情報に基づいて形成された,前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と,前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と,を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと,を有し,(ウ) 前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており,(エ) 前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは,前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し,証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し,(オ) 前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで,受託者において再投資資金を調達し,これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。」となる。
しかし,本件補正後の特許請求の範囲には,上記(オ)に記載の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡すること」,「受託者において再投資資金を調達」すること,「これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用」をすること,及びこれによって「収益力を高めることを可能とする」という効果を実現化するために,上記(ア)ないし(エ)に記載された「複数の委託者のコンピュータと,申込情報データベースと契約管理データベースとを有する受託者が管理するサーバーコンピュータと,証券情報データベースを有する特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワーク」において,各(サーバー)コンピュータがそれぞれ,具体的にどのような処理を行うのかについて明示されていない。
(2)ア また,本願明細書(甲2の1)の【発明の詳細な説明】には,次のような記載がある。
(ア)「 本発明は,出資金と株式の相対取引に限定している現行のリスクキャピタル方式に,資産流動化法の流動化対象資産に該たる特許権を付加し,その資産流動化と信託特有の財産変換機能(物上代位性)を利用してなお,前記資本原理創出による投資と投機の融合化と,以下の原理を基礎として投資スキームが構築されている。
(1) 権利が性質の異なる他の財産権に換われば利用目的も変わる。具体的には,知的財産権という概念的な財産を事業化資金に換え,ベンチャー企業が保有している特許権やノウハウなど知的財産権と株式の二つの含み資産を,性質の異なる二つの受益権に転換し,これを併合することで流動化資産に変わり,更に,これを投資受益証券に替えて,投資家に販売する資産流動化の事業方法によって,投資サイクルが形成される。・・・」(段落【0029】) (イ)「 図3は,本発明の資金及び資産流動化の基本形態である。
@ 投資事業会社は,VB企業Aグループ(数社から数十社)に投資する。
A 投資事業会社は,VB企業Aグループ各社の株式を取得し,同時に特許権の信託を引受ける。
※ 投資事業会社は,株式と特許権を源泉とする二つの受益権を複合投資受益権とする。
B 投資事業会社は,二つの財産のうち,特許権だけをふたたび委託者であるVB企業Aに貸与(実施権の許諾)し,事業が行えるようにする。
C VB企業Aは,株式と特許権の二つの含み資産で事業資金を調達でき,その対価として投資事業会社に特許権の使用料(ロイヤリティー)を支払う旨の実施権許諾契約を締結する。
D 投資事業会社は,複合投資受益権(ロイヤリティー未換金利益とIPO未換金利益)をプールし,金融機関に一括譲渡する。
E 金融機関は,複合投資受益権を元に投資受益証券(優先受益権・劣後受益権の設定で信用補完を図る)を企画・開発し,機関投資家,一般投資家に販売する。
F 投資事業会社は,複合投資受益権の一括譲渡により再投資資金の原資を調達できる。
G 投資事業会社は,再投資資金の調達・資金運用の効率化で収益力を高めることができる。
H 投資事業会社は,上記DEFGのプロセスを繰り返すことによって,新たなVB企業Bグループに再投資できる。
※ 資金流動化による資金運用の効率化・収益力UPで出資金リスクが軽減される。・・・」(段落【0062】)。
イ しかしながら,これらの記載と図3,4(甲2の1)によっても,本件補正後の請求項1の(オ)の構成を実施するために,(ア)ないし(エ)に記載されたコンピュータネットワークにおいて各(サーバー)コンピュータがそれぞれ具体的にどのような処理を行うのかについて明確であると認めることはできない。
(3) そうすると,本願明細書の【発明の詳細な説明】の記載は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が本件補正後の請求項1の発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められないから,本件補正後の請求項1に係る発明が特許法36条4項に違反するとした審決の判断に誤りはないというべきである。
したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
4 取消事由5(違法な判断)について 原告は,平成16年6月4日付け意見書(甲5)によって,本件拒絶理由通知記載の拒絶理由に対しすべて的確に応答し,拒絶理由を構成する要件をすべて明細書から除去しているにもかかわらず,審決はこれを無視し,別の理由にすりかえて本願発明は特許を受けることができないと判断したのは違法である旨主張する。
しかしながら,上記意見書の記載内容(前記2(1)ウ)を考慮しても,本件補正後の請求項1に係る発明が特許法36条4項に違反するとの前記3の認定を左右するものではなく,また,前記2(1)で認定した本件の経過等に照らすと,審決が上記意見書に対して逐一応答していることが認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
したがって,原告主張の取消事由5も理由がない。
5 結論 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二