関連審決 | 不服2001-7658 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 容易に想到(容易想到性) / 加工 / のみ用いる / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
650号
審決取消請求事件
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原告 富士ゼロックス株式会社 訴訟代理人弁理士 佐藤清孝 同 前川純一 同 牛久保 学 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 石川昇治 同 矢澤清純 同 大野克人 同 伏見隆夫 同 宮川久成 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/11/05 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2001-7658号事件について平成14年11月11日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成4年1月17日,発明の名称を「画像形成装置」とする特許出願(特願平4-26269号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は,同請求を不服2001-7658号事件として審理した上,平成14年11月11日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月2日,原告に送達された。 2 平成13年6月11日付け手続補正書による補正後の本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載 用紙に画像を形成して記録紙とする画像形成部が内部に配置される記録紙作成部と, 前記記録紙作成部の上方に空間を介して設けられ,原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿の画像を読み取ると共に,読み取った画像情報をデジタル信号に変換し前記画像形成部に供給する画像読取り部と, 前記画像形成部の下方に設けられ,前記記録紙作成部及び画像読取り部が記録動作可能な位置に配置される状態で挿入可能に構成された用紙収容手段と, 前記記録紙作成部と前記画像読取り部との間に,前記記録紙作成部から排出された記録紙を収容する記録紙排出部としての空間であって且つ記録紙取り出しのために前記用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成するように,前記記録紙作成部に対し前記画像読取り部を上方に持ち上げて支持する支持手段と,を備えたことを特徴とする画像形成装置。 (以下「本願発明1」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明1は,特開平3-120125号公報(甲5,以下「引用文献2」という。),特開平2-32371号公報(甲4,以下「引用文献1」という。)及び特開平1-133462号公報(甲6,以下「引用文献3」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明1と引用文献2記載の発明(以下「引用発明2」という。)との一致点の認定を誤り(取消事由1),本願発明1と引用発明2との相違点についての判断を誤り(取消事由2),本願発明1の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本願発明1と引用発明2との一致点の認定の誤り) 「引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)の『記録ユニットB』,『明暗2値の画像データ』,『読み取りユニットC』,『給紙カセット1』,『排出トレイ13』は,それぞれ本願発明1の『記録紙作成部』,『デジタル信号』,『画像読取り部』,『用紙収容手段』,『記録紙排出部』に相当し・・・引用文献2記載の発明のイメージングユニット10やプリントヘッド11などは,トナー像を転写することによって記録紙に画像を形成するものであり,本願発明1の『用紙に画像を形成して記録紙とする画像形成部』に相当し・・・引用文献2記載の発明の『ファクシミリ装置』は,コピーモードを有し,読み取りユニットCで読み取った原稿の画像を記録ユニットBで記録紙に転写して画像を形成するものであるから,本願発明1の『画像形成装置』に相当」(審決謄本5頁第1段落)することは認める。 審決は,引用文献2(甲5)について,「給紙ユニットAの給紙カセット1の挿入方向について発明の詳細な説明には明記されていないが,ハンドセット4すなわち電話の送受信器の位置からみて,第1図においてその反対側が給紙カセット1の挿入方向であるとみることができ,このことから記録紙の取り出しのために開放された空間の開放方向と給紙カセット1の挿入方向とは同じである」(審決謄本3頁最終段落)と認定したが,誤りである。 引用文献2(甲5)の第1図は,原稿給紙装置に関する説明図であって,装置全体の設計図面ではなく,少なくとも給紙カセット1については何ら詳細に記載もされておらず,この図から給紙カセット1の挿入方向側を認定することはできない。給紙カセット1の右端部の下側に開放部があるコ字形状をした部分は,取っ手部であると認めることはできない。引用文献2の記載全体を見ても,給紙カセット1の右端部が給紙カセットの取っ手部であるとの記載及び示唆はなく,加工の容易さやコストの理由から薄い部材をコ字に曲げて外観及び強度を保ったと考えるのが相当である。特開昭62-17763号公報(乙1,以下「乙1公報」という。)及び特開昭62-17764号公報(乙2,以下「乙2公報」という。)記載の給紙カセットの取っ手部と引用文献2記載の給紙カセット1の右端部とは形状が異なっており,乙1公報及び乙2公報の記載から引用文献2記載の上記右端部を取っ手部と理解することはできない。 引用文献2の第1図の一部を拡大した甲7の第2図において,塗りつぶした部分Pは一切つなぎ目などがないことから,一体的な部分であることは明らかである。そして,その一部は用紙の搬送路を形成していることから,用紙づまりを防止するために本体前方から本体後方までこの部分が延びていることも明らかである。 したがって,部分Pの下方が給紙カセット1に干渉し,給紙カセット1は引き出すことができず,本体右方向から挿入することもできない。部分Pのすぐ左にあり,用紙を1枚ずつ搬送するために用紙を分離する機能を有する部分P2の下からこの給紙カセットを引き出すためには,いったん,給紙カセットを下に下げてから装置右方向に引き出す必要があるが,引用文献2には何らそのような記載又は示唆はない。 また,引用文献2(甲5)の第1図において,ハンドセット4は,通常左手で取ることが多いとの理由から左側に配置されていると考えられ,ハンドセット4と異なる方向であることは,給紙カセット1の挿入方向側であることの根拠とはならない。同図には,ハンドセット4の下側にハンドセット4を支持すると見られる部分が存在するが,この図からだけでは,この部分が奥行き方向全体にわたり給紙カセット1を挿入するための空間を遮るものとは限られず,ハンドセット4のある左側が給紙カセット1の挿入方向側であるとも十分認められる。給紙カセットは,着脱の操作性を考慮して,本来給紙カセットが突出する方向が挿入方向側である。 したがって,引用文献2に記載の給紙カセット1は左側が突出していることから,むしろ,給紙カセット1は,左側が挿入方向側であると認められる。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明2との相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,本願発明1と引用発明2との相違点として認定した「本願発明1は,画像読取り部が,原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取るものであって,画像読取り部を,支持手段によって記録紙作成部に対し上方に持ち上げて支持することによって,記録紙作成部の上方に空間を介して設置すると共に,用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成するのに対して,引用文献2記載の発明はプラテンローラに搬送される原稿の画像を読み取るものであって,記録ユニットBの排紙トレイ13と読み取りユニットCの底部とで用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成している点」(審決謄本5頁下から第2段落)について,「画像読取り部が原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取るものであって,記録紙排出部が画像読取り部と記録紙作成部間にある画像形成装置は,上記引用文献1(注,甲4)や引用文献3(注,甲6)に記載されているように公知技術であり,引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)において厚手の原稿を読み取るなどの必要性から,画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは,当業者ならば容易に考えつくことである」(同頁最終段落〜6頁第1段落)と判断したが,誤りである。 引用文献2(甲5)には,原稿押さえ部で水平に固定した状態の原稿を読み取るという課題についての示唆はなく,本件特許出願時において,水平に固定した原稿を読み取る読取り装置が既に公知であったにもかかわらず,ファクシミリ装置は原稿を1枚ずつ搬送して読み取るものしか販売されていないことから,引用文献2記載のファクシミリ装置が厚手の原稿を読み取る必要性を有していたとは考えられない。したがって,引用文献2に記載のファクシミリ装置において,厚手の原稿を読み取るなどの必要性があったとは認められず,引用文献2記載のファクシミリの画像読取り部を,原稿押さえ部で水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは当業者が容易に想到することはできない。本願発明1の画像形成装置は電子複写機としてのみ用いることができるものにファックス・モジュールやプリンタ・モジュールを追加してファクシミリ機能やプリンタ機能を追加していく構成であるのに対して,引用文献2記載のファクシミリ装置はファクシミリ機能を前提としたものであり,両者はその構成が根本的に相違する。本願発明1の「画像形成装置」とは,「電子複写機」を基にして「ファックス機能」を追加することができるものであるから,引用文献2記載のファクシミリ装置を基に,厚手の原稿を水平に固定した状態で読み取って複写もできるような画像形成装置に変更しても,本願発明1の構成とはならない。 (2) また,審決は,上記相違点について,「そのような公知の画像読取り部の構成を引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)に適用した場合,記録紙作成部の排紙トレイと画像読取り部の底部とでは記録紙排出部としての空間がとれない場合,空間を確保するために記録紙作成部に対して画像読取り部を上方に持ち上げて支持する程度のことは当業者ならばごく普通に考えつくことであり,この相違点は全体として当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である」(審決謄本6頁第2段落)と判断したが,誤りである。 本願発明1を構成するには,記録紙作成部と画像読取り部との間に空間を形成しながら,質量及び荷重の大きな固定した状態の原稿の画像を読み取る原稿読取り部の品質を維持して支持するという独自の課題を解決する必要があり,引用発明1〜3は,このような課題及びこれを解決するための具体的手段については何ら記載されていないから,当業者がこれらの発明から容易に本願発明1を想到することはできない。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過) 審決は,「本願発明1はこの相違する構成によって,引用文献1ないし3(注,甲4〜6)記載の発明(注,引用発明1〜3)から窺い知れないような作用効果を奏するものでもない」(審決謄本6頁第3段落)と判断したが,誤りである。 本願発明1は,引用発明2とは,水平に固定した状態の原稿の画像を読み取る読取り装置及び用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成する支持部を有する点で相違し,これらの点を具備することにより,本などの原稿を読み取りながら排出した記録紙の取出しと用紙収容手段の挿入を同一の方向から行うことができるコンパクトで操作性が良好な画像形成装置を提供するという顕著な作用効果を奏するものである。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(本願発明1と引用発明2との一致点の認定の誤り)について 引用文献2(甲5)の第1図は,給紙ユニットAについて断面図であり,当業者は,同図面から,ハンドセット4の下側にハンドセット4を支持するとみられる断面三角形の部分があり,これがカセットの挿入を阻止し,給紙カセット1の右端部には,給紙カセットの着脱に際しての取っ手部と理解できる構造が図示されていると理解する。取っ手部を設けた給紙カセットは,乙1公報及び乙2公報に記載されているように周知技術であり,引用文献2の第1図において,給紙カセット1の右端部の構造を取っ手部と理解するのが自然である。このように,給紙カセットの右端部には取っ手部と理解できる構造が図示され,給紙カセットの左端部の上方にはハンドセットが配置されており,給紙カセットの着脱の操作性が良いとはいえないことから,引用文献2に記載の給紙カセット1は左側が挿入方向側であると理解するのは不自然である。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明2との相違点についての判断の誤り)について 本件特許出願時において,水平に位置決めした状態の原稿を読み取る画像読み取り部を備え,複写処理とファクシミリ処理を行い得るデジタル複写機は,特開平2-155372号公報(乙3,以下「乙3公報」という。)及び特開昭62-216465号公報(乙4,以下「乙4公報」という。)に記載されているように周知技術であり,このような複数処理の可能な画像形成装置において,複写機で周知であった厚手の原稿を読み取る必要性がなかったとはいえないから,画像形成装置として本願発明1と共通する構成を有する引用文献2(甲5)記載のファクシミリ装置を基に,厚手の原稿を水平に固定した状態で読み取って複写もできるような画像形成装置に変更することは当業者が容易に想到し得ることである。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過)について 引用発明2の読み取り装置を,引用文献1(甲4)及び引用文献3(甲6)に記載されている公知の「水平に固定した状態の原稿を読み取る読み取り装置」に変更すれば,本などを読み取ることができるようになることは当業者が予測し得る作用効果であり,引用発明2も,本願発明1と同様に用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間が形成され,そのような構成であれば,排出した記録紙の取出しと用紙収容手段の挿入を同一の方向から行うことができることも,当業者にとって予測し得る作用効果である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明1と引用発明2との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,引用文献2(甲5)の第1図は,原稿給紙装置に関する説明図であって,装置全体の設計図面ではなく,少なくとも給紙カセット1については何ら詳細に記載もされておらず,この図から給紙カセット1の挿入方向側を認定することはできないと主張するので,まず,引用文献2に記載された給紙カセット1の挿入方向を確認すると,確かに,引用文献2の第1図は原稿給紙装置に関する説明図であって,装置全体の設計図面ではなく,給紙カセット1について詳細な記載はない。しかしながら,乙1公報には,「本発明は,電子複写機,LED(発光ダイオード)プリンタ等の像形成装置に関し,特に給排紙に関する操作を全て一方の側面から行ない得るものである」(1頁右下欄第1段落),「(26)は,装置本体(1)の内底部に,手差し給紙方向(右方向)と同方向に装脱自在に装着されている給紙カセットで,その給紙方向に沿って下流側に把手部(27)が形成されている。前記給紙カセット(26)の把手部(27)には,アイドラ(28)が回転自在に装着され,この給紙カセット(26)を装置本体(1)に装着することによって,これが前記搬送ローラ(25)に圧接されるよう,その回転軸(29)が板ばね(30)によって保持されている」(3頁左上欄最終段落〜右上欄)と記載され,同記載及び5頁の第2図,第3図によれば,乙1公報には,画像形成装置において給紙カセットにその挿入方向外側に隣接して下方に開放部があるコ字形状の取っ手部を設けることが開示されていることが認められ,乙2公報にも同様の記載がある。したがって,これらの記載によれば,画像形成装置において,給紙カセットにその挿入方向外側に隣接して下方に開放部があるコ字形状の取っ手部を設けることは,本件特許出願前,周知技術であったと認められる。そうすると,引用文献2には,給紙カセット1の挿入方向についての記載はないが,その第1図には,給紙カセット1の右外側に給紙カセット1に隣接して下方に折れ曲がったコ字形状の部材が認められ,当業者は,引用文献2の第1図に接すれば,上記周知技術を当然考慮し,給紙カセット1の右外側に隣接して下方に折れ曲がったコ字形状の部材を給紙カセット1の取っ手部であり,給紙カセット1を右側から挿入すると理解するものと認められる。この点について,原告は,給紙カセット1の右端部の下側に開放部があるコ字形状をした部分は,取っ手部ではなく,加工の容易さやコストの理由から薄い部材をコ字に曲げて外観及び強度を保ったと考えるのが相当であると主張するが,同主張は上記コ字形状の部材の解釈の可能性を示すにとどまるものであって,当業者の上記理解を妨げるものとはいえない。さらに,原告は,乙1公報及び乙2公報記載の給紙カセットの取っ手部と引用文献2記載の給紙カセット1の右端部とは形状が異なっており,乙1公報及び乙2公報の記載から引用文献2記載の上記右端部を取っ手部と理解することはできないと主張するが,乙1公報及び乙2公報記載の給紙カセットの取っ手部と引用文献2記載の給紙カセット1の右外側に隣接した部材とは,細部の形状で異なるとしても,「下方に折れ曲がったコ字形状」である点で一致しており,上記認定を左右しない。 (2) 原告は,引用文献2(甲5)の第1図の一部を拡大した甲7の第2図において,塗りつぶした部分Pは一切つなぎ目などがないことから,一体的な部分であり,部分Pの下方が給紙カセット1に干渉し,給紙カセット1は引き出すことができないから,給紙カセット1は本体右方向から挿入することはできないと主張する。しかしながら,引用文献2の第1図は,原稿トレイが排出トレイを兼用する原稿給紙装置に関する説明図であって,装置全体の設計図面ではなく,また,実際には存在すると考えられる実線の末端が中途半端に途切れている箇所も多く,原稿給紙装置に直接関係しない部分は必ずしも正確に記載されているとはいえない。そして,正面断面図である第1図に,甲7の第2図の部分P及び部分P2が実線で描かれていても,通常の図法の解釈に従えば,必ずしも部分P及び部分P2が本体前方から本体後方まで延びているということはできず,引用文献2には,給紙ローラ2が用紙を1枚ずつ搬送するために用紙を分離する機能を有する旨の記載はあるものの,部分P2が当該機能を有する旨の記載はない。そうすると,原稿トレイが排出トレイを兼用する原稿給紙装置に直接関係せず,必ずしも正確に記載されているとはいえない部分Pが,一体的な部分であり,本体前方から本体後方まで延びていると認めることはできない。 なお,原告は,ハンドセット4は,通常左手で取ることが多いとの理由から左側に配置されていると考えられ,ハンドセット4と異なる方向であることは,給紙カセット1の挿入方向側であることの根拠とはならず,給紙カセットは,着脱の操作性を考慮して,本来給紙カセットが突出する方向が挿入方向側であり,給紙カセット1は左側が突出していることから,左側が挿入方向側であるとも主張するが,ハンドセット4と給紙カセット1が干渉する可能性がない方が望ましいことは明らかであるから,両者の干渉を防ぐためにも,ハンドセット4が第1図の左側に設けられていることは,給紙カセット1の挿入方向を第1図の右側と理解することの根拠となるということができ,また,給紙カセット1は左側が突出していることを理由に,左側を挿入方向側であると認めることはできない。 したがって,引用文献2(甲5)について,「給紙ユニットAの給紙カセット1の挿入方向について発明の詳細な説明には明記されていないが,ハンドセット4すなわち電話の送受信器の位置からみて,第1図においてその反対側が給紙カセット1の挿入方向であるとみることができ,このことから記録紙の取り出しのために開放された空間の開放方向と給紙カセット1の挿入方向とは同じである」(審決謄本3頁最終段落)とした審決の認定を誤りということはできない。 (3) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明2との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用文献2(甲5)には,原稿押さえ部で水平に固定した状態の原稿を読み取るという課題についての示唆はなく,本件特許出願時において,引用文献2に記載のファクシミリ装置において,厚手の原稿を読み取るなどの必要性があったとは認められないから,引用文献2に記載のファクシミリの画像読取り部を,原稿押さえ部で水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは当業者が容易に想到することはできないと主張する。しかしながら,引用文献2が画像形成装置に関するものであることは明らかであり,本願発明1と引用発明2は,画像形成装置に係る構成に関する限り共通するということができ,引用発明2においても,読み取る原稿の厚さが限定される理由はなく,厚手の原稿も読み取る対象として考慮されることは当然である。そして,厚手の原稿を読み取らせる場合,引用文献1,3(甲4,6),乙3公報及び乙4公報によれば,「画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成」(審決謄本6頁第1段落)とすることは,当業者が普通に行っている事項と認められる。 原告は,本願発明1の画像形成装置は電子複写機としてのみ用いることができるものにファックス・モジュールやプリンタ・モジュールを追加してファクシミリ機能やプリンタ機能を追加していく構成であるのに対して,引用文献2記載のファクシミリ装置はファクシミリ機能を前提としたものであり,両者はその構成が根本的に相違し,本願発明1の「画像形成装置」とは,「電子複写機」を基にして「ファックス機能」を追加することができるものであるから,引用文献2記載のファクシミリ装置を基に,厚手の原稿を水平に固定した状態で読み取って複写もできるような画像形成装置に変更しても,本願発明1の構成とはならないと主張する。 しかしながら,「引用文献2記載の発明(注,引用発明2)の『ファクシミリ装置』は,コピーモードを有し,読み取りユニットCで読み取った原稿の画像を記録ユニットBで記録紙に転写して画像を形成するものであるから,本願発明1の『画像形成装置』に相当」(審決謄本5頁第1段落)することは原告の自認するところであり,引用発明2も,読み取りユニットCで読み取った原稿の画像を記録ユニットBで記録紙に転写して画像を形成する画像形成装置であることは明らかである。 そうすると,画像形成装置に係る構成に関する限り両者は共通するということができる。したがって,本願発明1に係る画像形成装置は電子複写機としてのみ用いることができるものにファックス・モジュールやプリンタ・モジュールを追加してファクシミリ機能やプリンタ機能を追加していく構成であるのに対して,引用文献2に記載のファクシミリ装置はファクシミリ機能を前提としたものであるとしても,両者の構成が根本的に相違するということはできず,原告の上記主張は理由がない。 したがって,本願発明1と引用発明2との相違点として認定した「本願発明1は,画像読取り部が,原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取るものであって,画像読取り部を,支持手段によって記録紙作成部に対し上方に持ち上げて支持することによって,記録紙作成部の上方に空間を介して設置すると共に,用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成するのに対して,引用文献2記載の発明はプラテンローラに搬送される原稿の画像を読み取るものであって,記録ユニットBの排紙トレイ13と読み取りユニットCの底部とで用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成している点」(審決謄本5頁下から第2段落)について,「画像読取り部が原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取るものであって,記録紙排出部が画像読取り部と記録紙作成部間にある画像形成装置は,上記引用文献1(注,甲4)や引用文献3(注,甲6)に記載されているように公知技術であり,引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)において厚手の原稿を読み取るなどの必要性から,画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成とすることは,当業者ならば容易に考えつくことである」(同頁最終段落〜6頁第1段落)とした審決の判断を誤りということはできない。 (2) 原告は,本願発明1を構成するには,記録紙作成部と画像読取り部との間に空間を形成しながら,質量及び荷重の大きな固定した状態の原稿の画像を読み取る原稿読取り部の品質を維持して支持するという独自の課題を解決する必要があり,引用発明1〜3は,このような課題及びこれを解決するための具体的手段については何ら記載されていないから,当業者がこれらの発明から容易に本願発明1を想到することはできないと主張する。しかしながら,「引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)の『記録ユニットB』,『明暗2値の画像データ』,『読み取りユニットC』,『給紙カセット1』,『排出トレイ13』は,それぞれ本願発明1の『記録紙作成部』,『デジタル信号』,『画像読取り部』,『用紙収容手段』,『記録紙排出部』に相当し・・・引用文献2記載の発明のイメージングユニット10やプリントヘッド11などは,トナー像を転写することによって記録紙に画像を形成するものであり,本願発明1の『用紙に画像を形成して記録紙とする画像形成部』に相当し・・・引用文献2記載の発明の『ファクシミリ装置』は,コピーモードを有し,読み取りユニットCで読み取った原稿の画像を記録ユニットBで記録紙に転写して画像を形成するものであるから,本願発明1の『画像形成装置』に相当」(審決謄本5頁第1段落)することは原告の自認するところであり,引用発明2は,「記録紙作成部(注,記録ユニットB)と前記画像読取り部(注,読み取りユニットC)との間に,前記記録紙作成部から排出された記録紙を収容する記録紙排出部(注,排出トレイ13)としての空間であって且つ記録紙取り出しのために前記用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成した画像形成装置(注,ファクシミリ装置)」(同頁(一致点))であると認められるところ,その「画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成」とした場合,記録紙排出部としての空間を確保するために,「記録紙作成部に対し前記画像読取り部を上方に持ち上げて支持する」構成とすることは当業者が必要に応じて採用し得る設計事項であると認められる。そうすると,引用文献1〜3に,上記課題及びこれを解決するための具体的手段について記載されていないことは,上記判断を左右するものではない。 したがって,上記相違点について,「そのような公知の画像読取り部の構成を引用文献2(注,甲5)記載の発明(注,引用発明2)に適用した場合,記録紙作成部の排紙トレイと画像読取り部の底部とでは記録紙排出部としての空間がとれない場合,空間を確保するために記録紙作成部に対して画像読取り部を上方に持ち上げて支持する程度のことは当業者ならばごく普通に考えつくことであり,この相違点は全体として当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である」(審決謄本6頁第2段落)とした審決の判断を誤りということはできない。 (3) 以上によれば,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 取消事由3(本願発明1の顕著な作用効果の看過)について 原告は,本願発明1は,引用発明2とは,水平に固定した状態の原稿の画像を読み取る読取り装置及び用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成する支持部を有する点で相違し,これらの点を具備することにより,本などの原稿を読み取りながら排出した記録紙の取出しと用紙収容手段の挿入を同一の方向から行うことができるコンパクトで操作性が良好な画像形成装置を提供するという顕著な作用効果を奏するものであると主張する。しかしながら,引用発明2は,用紙収容手段の挿入方向側に開放された空間を形成する支持部を有するものであることは上記のとおりであり,本件明細書(甲3)記載の「装置の設置スペースの低減を図りながら,記録紙排出部からの記録紙の取出し作業を容易に行うことができる」(段落【0027】)という本願発明1の効果を奏することは明らかである。そして,本などの原稿を読み取りながら排出した記録紙の取出しと用紙収容手段の挿入を同一の方向から行うことができるコンパクトで操作性が良好な画像形成装置を提供するという効果は,引用発明2において「画像読取り部を原稿押さえ部にて水平に固定した状態の原稿を読み取る構成」とした場合に当然予測される範囲内のものである。 したがって,「本願発明1はこの相違する構成によって,引用文献1ないし3(注,甲4〜6)記載の発明(注,引用発明1〜3)から窺い知れないような作用効果を奏するものでもない」(審決謄本6頁第3段落)とした審決の判断を誤りということはできず,原告の取消事由3の主張も理由がない。 4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |