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関連審決 無効2001-35272
関連ワード 公然実施(29条1項2号) /  実施 /  設定登録 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 3号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 熊谷秀紀
同 弁理士 飯田岳雄
被告 株式会社ワカイダ・エンジニアリング
訴訟代理人弁護士 小川敏夫、藍田耕毅
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/11/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2001-35272号事件について平成14年12月2日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が特許権者である本件特許第2141474号に係る発明は、平成3年5月10日に特許出願され、平成13年3月23日に特許の設定登録がされた。
本件特許について、被告は無効審判を請求し、特許庁は、これを無効2001-35272号事件として審理し、平成14年12月2日、本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし、その謄本を同月12日に原告に送達した。
2 本件発明(本件特許の請求項1に係る発明)の要旨 廃液タンクに貯蔵された放射性有機廃液を定量ポンプ等により燃焼室内に導入し、これを燃焼処理する放射性有機廃液の焼却装置において、
貯蔵された放射性有機廃液の攪拌機を有するとともに、加熱用ヒータを付設してなる廃液タンクと、
上記廃液タンクから引き出されその経路中に定量ポンプを有する送流管を介して上記廃液タンクと連通されるとともに、導入された放射性有機廃液を滴下させつつ気化ガスとして蒸発させる蒸発室と、
上記蒸発室から引き出される送気管を介して上記蒸発室と連通されるとともに、
蒸発室より導入された気化ガスを燃焼処理する燃焼室と、
上記送気管の蒸発室側に設けられ蒸発室内の気化ガスを送気管内に送り込むように作用する第1段の給気手段、および上記送気管の燃焼室側に設けられ送気管内の気化ガスを燃焼室内に送り込むように作用する第2段の給気手段とにより、上記気化ガスの蒸発室側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェット手段と、
上記燃焼室と煙道を介して連接され、かつコンデンサよりなる捕集手段と、
上記捕集手段により結露分離された凝縮水を集水するとともに、残余の気体分を排気する気液分離室と、
を有することを特徴とする放射性有機廃液の焼却装置。
3 審決の理由の要点 審決の理由は、要約すると、次のとおりである。
本件特許出願前の平成2年3月30日に国立循環器病センターに納入され、不特定多数の者が内部の構造を知り得る状態であったと解される放射性有機廃液焼却炉(若井田理学機器株式会社製の放射性有機廃液焼却装置WB1-3100N型)に添付された資料(乙18)には、下記発明:「 廃液タンク28に貯蔵された放射性有機廃液を定量ポンプ30により燃焼炉7内に導入し、これを燃焼処理する放射性有機廃液焼却炉において、
貯蔵された放射性有機廃液のカクハン機を有するとともに、ヒーターを付設してなる廃液タンク28と、
上記廃液タンク28から引き出されその経路中に定量ポンプ30を有する給液管31を介して上記廃液タンク28と連通されるとともに、導入された放射性有機廃液を滴下させつつ気化ガスとして蒸発させる蒸発器15と、
上記蒸発器15から引き出される送気管を介して上記蒸発器15と連通されるとともに、蒸発器15より導入された気化ガスを燃焼処理する燃焼炉7と、
上記送気管の蒸発器15側に設けられた蒸発器15内の気化ガスを送気管内へ送り込むように作用する管A4、および上記送気管の燃焼炉7側に設けられた送気管内の気化ガスを燃焼炉7内へ送り込むように作用する管A2とにより、上記気化ガスの蒸発器15側への逆流を防止し、気化ガスにおける逆火防止を図る多段式のジェットと、
上記燃焼炉7と煙道6を介して連接され、かつコンデンサー32よりなる捕集手段と、
上記捕集手段により結露分離された凝縮水を集水するとともに、残余の気体分を廃棄する室と、
を有する放射性廃液の焼却炉。」 (注:部材の番号は、後記「放射性有機廃液焼却炉(若井田理学機器株式会社製WBT-3 100N型)に関する添付書類」(乙18)の11頁の図面による。) の発明が開示されているということができ、同時にそれは、同装置の技術内容を示しているのであるから、結局、上記発明が本件特許出願前である平成2年3月30日に公然実施されていたことになる。本件発明と上記公然実施をされた発明とを対比すると、両者はその構成が一致するから、本件発明は、本件特許出願前、日本国内において公然実施された発明であることになる。
したがって、本件特許は、特許法29条1項2号の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきである。
原告主張の審決取消事由の要点
国立循環器病センターに納入された放射性有機廃液焼却装置は、第1段の給気手段と第2段の給気手段とからなる逆火防止のための多段式のジェット手段を備えたものではない。
すなわち、国立循環器病センターにおいて撮影されたという同装置の写真(乙10の3)に赤矢印で「第2段の給気手段」と表示されている管は、送気管に対して水平に接続されているから、本件発明の第2段の給気手段ではあり得ない。本件発明において、燃焼炉7における圧力が高くなって燃焼ガスが送気管を経て蒸発器にまで入る所謂逆火を防止するために、逆流しようとする燃焼ガスを燃焼炉に吹き戻すものが第2段の給気手段なのであり、第2段の給気手段から送気管内に供給される空気は上向きの速度成分を持たなければならないので、通常、第2段の給気を行う空気パイプは、送気管に対し斜めに接続される。水平に接続された管は、第2段の給気手段とはなり得ない。
被告の反論の骨子
国立循環器病センターに納入された放射性有機廃液焼却装置が第1の給気手段と第2段の給気手段とからなる逆火防止のための多段式のジェット手段を備えていることは、証拠から明らかであり、審決の認定に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件における唯一の争点は、国立循環器病センターに納入された若井田理学機器株式会社製の放射性廃液焼却装置WB1-3100N(以下、単に「WB1-3100N」ということがある。)が、第1段の給気手段と第2段の給気手段からなる多段式のジェット手段を有していたか否かである。
この点に関し、証拠(甲2、4、乙1ないし21。枝番の表示省略。以下同じ)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 平成2年3月30日に、若井田理学機器株式会社製の放射性廃液焼却装置WB1-3100Nが国立循環器病センターに納入された。同装置は、同センター内に設置され、不特定多数の者がその内部の構造を知ろうと思えば知り得る状態に置かれていた。
(2) 同装置が国立循環器病センターに納入される際に添付された「放射性有機廃液焼却炉(若井田理学機器株式会社製WBT-3100N型)に関する添付書類」と題する書面(甲2、乙18)には、「1.仕様説明書」の「4.性能」欄の「(1)処理方法」の項に「多段・気化ジェット燃焼方式」との記載(2頁)が、また、同「5.安全装置」欄の「(4) 逆火防止装置」の項に「蒸発器には、逆火防止機構が設けてある」との記載(2頁)があり、さらに12頁の図面(「放射性有機廃液焼却装置WB1-3100N型フローシート」。以下「フローシート」という。)には、送風機3から空気ヘッダー2に送られた空気がA1ないしA6で示される管を通じて焼却装置の各所に送風されること、そのうちのA4は蒸発器側から送気管の方に給気し、A2は送気管から燃焼炉の方向に給気すること(給気方向は矢印先端の向きで表されている。)が示されている。 (3) 国立循環器病センターに設置されたWB1-3100Nの内部を撮影した写真(乙10及び乙21)によれば、WB1-3100Nは、送気管の燃焼炉側に接続されたパイプと、蒸発器側に接続されたパイプとを備えている。両者は、その位置及び構造から、フローシートに表示された管A2、A4にそれぞれ相当すると認められる。
なお、原告は、乙21の写真に写っているものは、国立循環器病センターに設置された当時のWB1-3100Nとは構造が異なっていると主張するが、その主張を裏付ける証拠はない。
2 上記1に認定した事実によれば、国立循環器病センターに設置されたWB1-3100Nは、その納入の際に添付された「放射性有機廃液焼却炉(若井田理学機器株式会社製WBT-3100N型)に関する添付書類」と題する書面(甲2、乙18)に記載されたとおりの構造のものであって、フローシート上にA2、A4と表示された管A2、A4を有していると認められる。そして、後者の管A4は、蒸発器15側から送気管の方向へ給気していることによって、蒸発器15内の気化ガスを送気管内に送り込むように作用するから、第1段の給気手段に相当し、また、
前者の管A2は、送気管側から燃焼炉7の方向に給気していることによって、送気管内の気化ガスを燃焼室7内に送り込むように作用するから、第2段の給気手段に相当するものと認められる。そうすると、国立循環器病センターに納入・設置されたWB1-3100Nは、第1段の給気手段と第2段の給気手段とで構成される多段式のジェット手段を備えているということができる。そして、この多段式ジェット手段は、その給気方向及び前記1(2)に認定したWB1-3100Nの添付文書(乙18)中の逆火防止機構についての記載からみて、気化ガスの蒸発室側への逆流を防止する作用をすると認めることができる。
3 原告は、乙第21号証の写真で第2段の給気手段として表示されているものは、送気管に対し水平に接続されているから、第2段の給気手段とはなり得ないと主張する。しかし、WB1-3100Nの添付文書中のフローシートには、管A2からの給気は送気管から燃焼炉の方向(上向き)に向けてなされることが示されている上、管A2は、例えば乙第21号証の3の部材写真に示されるように、送風管の内部で折れ曲がって先端が上を向いていると考えても不自然ではないから、外部からみた管A2の接続方向が送気管に対して水平であるということのみをもってしては、管A2が第2段の給気手段に該当することを否定することはできない。
4 以上説示したところによれば、国立循環器病センターに納入され、その構造が不特定多数人に知られ得るものとなっていたWB1-3100Nは、第1段の給気手段と第2段の給気手段による多段式のジェット手段を備えていると認められるのであって、同装置において公然実施された発明は、審決が認定したとおり、本件発明と構成を同じくするものであることが明らかである。
よって、原告主張の審決取消事由は理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利