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関連審決 不服2000-13332
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  特許出願日 /  拒絶査定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 643号 審決取消請求事件
原告 東拓工業株式会社
訴訟代理人弁護士 若原俊二,弁理士 佐當彌太郎,復代理人弁理士 甲斐寛人
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 木原裕,山口由木,高木進,林栄二,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2000−13332号事件について平成14年11月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成7年特許願第329806号(平成7年11月24日出願,発明の名称「プレストレストコンクリート用PCケーブル保護シース」)の出願人である。平成12年7月13日拒絶査定があったので,不服の審判を請求したが(不服2000-13332号),平成14年11月5日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同月27日原告に送達された。
2 本願発明の要旨 プレストレストコンクリート用として使用するPC鋼線・PC鋼撚線・PC鋼棒等のPCケーブル(K)を挿通しこれを被覆保護するシースであって,内外面(1),(2)が共に螺旋凹凸状に形成されていて,外面(2)における谷部(3)が略々平坦面に形成されていること,該谷部(3)と山部(4)とのアールの変曲点間の谷部(3)の幅Wと山部(4)の幅wがW>wの関係とされていること,該谷部(3)の肉厚Tと山部(4)の肉厚tとがT>tの関係とされていること,内面(1)における突出部(5)が溝部(6)に比して緩やかな弧状に形成されていること,内面(1)における前記溝部(6)の内周面が外面(2)における前記谷部(3)の外周面よりも周方向外方に突出していることとの要件を具備し,全体がポリオレフィン系樹脂素材によって形成されているプレストレストコンクリート用PCケーブル保護シース。
3 審決の理由の要点 (1) 本件刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用され,本件出願前に頒布された本件刊行物(社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 施工部会・非鉄シース研究小委員会「ポリエチレン製シース実用化試験報告書」平成7年9月,14〜15行「3.シ-スの形状寸法と材料特性」)「本文」及び「図3.1 シースの形状寸法 主桁縦締用シース」には, 「内外面が共に螺旋凹凸状に形成されていて,外面における谷部が略々平坦面に形成されていること,肉厚の中心を通る仮想線上における谷部と山部がなす傾斜部分の真ん中を境として,谷部の幅W’及び山部の幅w’とした場合,谷部の幅W’と山部の幅w’がW’>w’の関係とされていること,該谷部の肉厚が3.0mmとされ山部の肉厚が1.5mmとされていること,谷部の内面における突出部が,山部に連なる曲線状の部分及び長手方向中央のやや直線状の部分から形成されていること,内面における溝部の内周面が外面における谷部の外周面よりも周方向外方に突出し,高密度ポリエチレンによって形成されているポリエチレン製シース。」 が記載されていると認められる。
(2) 対比・判断 本願発明と本件刊行物記載の発明とを対比すると,本件刊行物記載のポリエチレン製シースは,プレストレストコンクリート用として使用するPC鋼線・PC鋼撚線・PC鋼棒等PCケーブルを挿通しこれを被覆保護するシースであることは当業者にとって技術常識であり,本件刊行物記載の発明の「高密度ポリエチレン」,「ポリエチレン製シース」は,本願発明の「ポリオレフィン系樹脂素材」,「プレストレストコンクリート用PCケーブル保護シース」に相当し,本件刊行物記載の谷部の肉厚が3.0mmとされ山部の肉厚が1.5mmとされていることから,本件刊行物記載の発明は谷部の肉厚Tと山部の肉厚tとがT>tの関係とされており,両者は, 「プレストレストコンクリート用として使用するPC鋼線・PC鋼撚線・PC鋼棒等のPCケーブルを挿通しこれを被覆保護するシースであって,内外面(1),(2)が共に螺旋凹凸状に形成されていて,外面(2)における谷部(3)が略々平坦面に形成されていること,該谷部(3)の肉厚Tと山部(4)の肉厚tとがT>tの関係とされていること,内面(1)における前記溝部(6)の内周面が外面(2)における前記谷部(3)の外周面よりも周方向外方に突出していることとの要件を具備し,全体がポリオレフィン系樹脂素材によって形成されているプレストレストコンクリート用PCケーブル保護シース」である点で一致し,次の各点で相違する。
(相違点1) 本願発明が,「谷部(3)と山部(4)とのアールの変曲点間の谷部(3)の幅Wと山部(4)の幅wがW>wの関係とされている」のに対し,本件刊行物記載の発明は,この構成が明確でない点。
(相違点2) 本願発明が,「内面(1)における突出部(5)が溝部(6)に比して緩やかな弧状に形成されている」のに対し,本件刊行物記載の発明は,谷部の内面における突出部が,山部に連なる曲線状の部分及び長手方向中央のやや直線状の部分から形成されている点。
上記相違点1を検討する。本願明細書によれば,「【0009】・・・図2にみられるように,この谷部3と山部4とが形成する仮想線R,rで示したアールの変曲点間の軸線方向の谷部3の幅Wは山部4の軸線方向の幅wに比して大きな幅広に形成してある。・・・」と記載され,【図2】には,仮想線rは,山部4の肉厚方向の中心を通り,仮想線Rは,谷部(3)の内面(1)における突出部(5)表面から,山部(4)の肉厚の略1/2程,肉厚方向中央寄りを通っており,山部(4)と谷部(3)とがなす傾斜部分の略真ん中に変曲点が存在する。その意味で,軸線方向の谷部3の幅Wと,山部4の軸線方向の幅wとを捉えた場合,本件刊行物記載の発明も,本願発明と同様に谷部(3)と山部(4)とのアールの変曲点間の谷部(3)の幅Wと山部(4)の幅wがW>wの関係とされており,実質的な差異ではない。
上記相違点2を検討すると,本件刊行物には,谷部の内面における突出部が,山部に連なる曲線状の部分及び長手方向中央のやや直線状の部分から形成されていることが記載されているが,両者共に,PCケーブル挿通時のすべりを良好化することを図るために,シース内面(1)側に突出部を設けた点では共通であり,本件刊行物記載の発明を相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば,必要に応じて容易になしうることであって,その構成による効果も程度の差にすぎない。
(3) 審決のむすび したがって,本願発明は,本件刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
審決引用の本件刊行物(「ポリエチレン製シース実用化試験報告書」(社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 施工部会・非鉄シース研究小委員会))は,審決認定のように平成7年9月に刊行されたものではなく,平成7年11月24日の本件出願時においては未刊行であった。これが平成7年9月に刊行されたものであることを前提にし,本件刊行物との対比において本願発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
原告主張事実は否認する。本件刊行物はそこに記載されているとおり,平成7年9月に刊行されたものである。
当裁判所の判断
1 甲第16号証(本件刊行物。甲第3号証はその抜粋),第21号証及び第23号証(その一部は甲第10,第11号証としても提出)によれば,次の事実を認めることができる。
@ PC鋼材によってプルストレッシングされたコンクリート工事の技術普及と発展を企図している社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会の施行部会・非鉄シース研究小委員会は,平成5年から7年にかけて種々の試験研究を行ってきており,その成果が本件刊行物である。その表紙には「平成7年9月」との記載がある。しかし,その32頁(別途甲第15号証としても提出)には,圧縮強度試験が行われた日として,平成7年9月22日と29日の記載があり,その打設日として,同年8月25日と9月1日の日付が記載されており,表紙の「平成7年9月」の記載は,刊行の日を記載したものではない。
A 本件刊行物の印刷代金請求明細書(単価1700円,数量1500部)が,真和印刷株式会社名義で上記社団法人あてに平成7年12月22日付けで作成され,この請求内容を含み他の請求内容も合わせた請求書が,真和印刷株式会社名義で上記社団法人あてに平成8年1月22日付けで作成されている。
2 請求関係書類と納品書が,同一の綴りセットで同一の機会に複写によって作成されることはよくあることであり,甲第21号証及び弁論の全趣旨によれば,真和印刷所でもそのような処理が通例であったものと認められるから(甲第21号証は,真和印刷所で使用されている納品書,請求明細書等の綴りの見本である。),真和印刷株式会社が本件刊行物1500部を社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会に納入したのは,請求明細書及び納品書の作成日付である平成7年12月22日のころであった可能性も高いと推測することができる。
3 以上の事実関係に照らしてみれば,本件刊行物の表紙における「平成7年9月」の記載のみから,その当時既に本件刊行物が刊行されていたと認めるには不十分である。そして,他に本件刊行物が本件特許出願日である平成7年11月24日より前に頒布されていたことを認めるべき的確な証拠はないので,そのような作成ないし公刊時期の不明な本件刊行物との対比において本願発明が容易に発明することができたものとした審決の判断は,前提において誤りである。
結論
よって,審決は取り消されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実