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関連審決 不服2000-20149
関連ワード 周知技術 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 572号 審決取消請求事件
原告 株式会社三共
訴訟代理人弁理士 今崎一司
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 瀬津太朗
同 藤井俊二
同 大野克人
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-20149号事件について平成14年9月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年11月30日,名称を「遊技機」とする発明につき特許出願(平成3年特許願第342275号。以下「本件出願」という。)をし,平成12年11月16日に拒絶査定を受けたので,同年12月21日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2000-20149号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年7月29日付けの手続補正書により明細書の特許請求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書及び図面をまとめて「本願明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年9月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月15日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項1】(別紙図面A参照。) 「可変表示装置の表示結果が予め定めた特定図柄を表示したときに可変入賞球装置を繰り返して開放することが可能な特定遊技状態を生起せしめる遊技内容を有する遊技機において, 該遊技機には, 前記特定遊技状態の出現する毎に該特定遊技状態の出現原因に関係なく予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを乱数によって選択する選択手段と, 当該遊技機の遊技盤に設けられ且つ前記可変表示装置と異なる表示手段を前記特定遊技状態が終了した後に可変表示して前記選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段と,を設けたことを特徴とする遊技機。」(以下,請求項1の発明を審決と同様に「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特願平2-306428号(特開平4-176486号公報,甲第3号証)の願書に最初に添付した明細書(以下,審決と同様に「先願明細書」という。)に記載された発明(以下,審決と同様に「先願発明」という。別紙図面B参照。)と同一である,とするものである。
審決が,上記結論を導く過程において,本願発明と先願発明との一致点及び一応の相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「特定遊技状態を生起せしめる遊技内容を有する遊技機において, 該遊技機には, 前記特定遊技状態の出現する毎に該特定遊技状態の出現原因に関係なく予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを選択する選択手段と, 該選択手段の選択結果に基づいて,表示手段を特定遊技状態が終了した後に選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段と, を設けた遊技機。」 一応の相違点 「(A)本願発明では,「可変表示装置の表示結果が予め定めた特定図柄を表示したときに可変入賞球装置を繰り返して開放することが可能な特定遊技状態を生起せしめる」構成であるのに対して,先願発明では,どのようなときにどのように特定遊技状態を生起せしめる構成なのか明らかでない点。」 「(B)選択手段が,本願発明では,「乱数によって選択する」のに対して,先願発明では,乱数によって選択するかどうか明らかでない点。」 「(C)表示駆動制御手段が,本願発明では,「遊技機の遊技盤に設けられ」表示手段を可変表示するのに対して,先願発明では,表示手段を遊技盤に設けたものでなく,表示手段を可変表示するのか明らかでない点。」(以下「相違点(C)」という。)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明と先願発明との相違点を看過し(取消事由1),相違点(C)についての判断も誤ったものであり(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) 審決は,先願明細書に「パチンコ機等の遊技機がフィバーとなったときに・・・当該遊技機毎に取り付けた抽選器本体5の表示部27を,遊技機がフィバー状態となり遊技機での遊技が終了したあとに抽選器本体5を作動し抽選を開始し,抽選器本体5の抽選回路24の抽選結果を表示部27に表示する抽選器本体の表示回路26と,を設けたことを特徴とする遊技機。」(審決書3頁8行〜17行)が記載されている,と認定した。
先願明細書に上記のような遊技機が記載されていることは,その限りでは正しい。しかし,先願明細書に記載される「抽選結果を表示部27に表示する抽選器本体5の表示回路26」は,より具体的にみれば,遊技機がフィバー状態となり遊技機での遊技が終了した後に,自動的に抽選器本体5を作動し抽選を開始するものではなく,あくまでも,パチンコ機1の近傍に設置した手動スイッチ44を遊技者等が押すことで,抽選器本体5が作動し,抽選を開始できるようにするものである。すなわち,先願発明において,抽選手段が抽選を開始するためには抽選開始信号を入力する信号入力手段が必要であることは,先願明細書の請求項1に明示されているとおりであり,その信号入力手段については,請求項6に「手動スイッチ」である旨を限定した発明が記載され,この発明に係る「手動スイッチ」の実施例として,先願明細書に,「第11図に示す他の実施例では,センサ2,43によってフィバー状態を検出し,抽選器本体5を作動させるのではなく,パチンコ機1がフィバー状態となり,当該パチンコ機1での遊技が終了したあとに,パチンコ機1の近傍に設置した手動スイッチ44を遊技者等が押すことで,抽選器本体5が作動し,抽選を開始できるようになっている。」(甲第3号証5頁左上欄8行〜15行)と記載されているのである。
これに対し,本願発明においては,請求項1に「当該遊技機の遊技盤に設けられ且つ前記可変表示装置と異なる表示手段を前記特定遊技状態が終了した後に可変表示して前記選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段」と記載されており,このことから,その表示駆動制御手段は,表示手段を,特定遊技状態が終了した後に何らの条件も付することなく可変表示して,選択結果と一致する表示結果が得られる構成,換言するならば,特定遊技状態が終了すると自動的に選択結果と一致する表示結果が得られる構成のものであることが明らかである。本願明細書の発明の効果の項にも,「特定の遊技状態が終了する毎にサービスが受けられるか否かが選択決定され」と記載されているものであり,その実施例においても,特定遊技状態が終了した後に,自動的に可変表示して,選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する「表示駆動制御手段」が記載されている。
本願発明の請求項1の「前記特定遊技状態の出現する毎に該特定遊戯状態の出現原因に関係なく予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを乱数によって選択する選択手段」という構成要件における「選択手段」は,特定遊技状態の出現するごとに乱数を選択するものであり,前記「表示駆動制御手段」が上記「選択手段」で選択した乱数に対応する表示結果を導出することに照らすと,特定遊技状態が出現するごとに,自動的に可変表示するものであることは明らかである。このように,本願発明では,特定遊技状態の終了後に選択結果と一致する表示結果を得るために,「手動スイッチ」は全く必要がないのである。
以上のとおり,先願発明では,「手動スイッチ」を必須の構成としているのに対し,本願発明では,手動スイッチを必要としていない。両者は,この点で明らかに相違する。にもかかわらず,審決は,この点を相違点として挙げていない。審決は,この相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点(C)についての判断の誤り) 審決は,相違点(C)について,「遊技機の遊技盤に様々な表示手段を設ける構成とすることは周知であり(例えば,前記特開平2-220681号公報(判決注・以下「甲7文献」という。),前記特開平3-251278号公報(判決注・以下「甲8文献」という。)がある。),選択結果を表示する表示手段が可変表示を行う構成とすることも周知である(例えば,特開平3-80884号公報(判決注・以下「甲9文献」という。),特開平3-85号公報(判決注・以下「甲10文献」という。)がある。)。してみると,先願発明の遊技機毎に取り付けられた表示手段を,可変表示を行う構成として遊技機の遊技盤に設けるとともに,表示駆動制御手段を遊技盤に設けることは,当業者が適宜できる程度の設計変更にすぎない。」(審決書4頁4段,5段)と判断した。
しかし,本願発明の「表示手段」は,その特許請求の範囲に「前記可変表示装置と異なる表示手段」と規定されているものであり,「前記可変表示装置」とは,表示結果があらかじめ定めた特定図柄を表示したときに可変入賞球装置を繰り返して開放することが可能な特定遊技状態を生起せしめるものであるから,本願発明の「表示手段」とは,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる表示手段であることは明らかである。
これに対し,甲7文献及び甲8文献に記載されている,可変表示される表示手段は,本願発明の特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置に相当する「可変表示装置20」(甲7文献),「可変表示装置4」(甲8文献)であり,これらの文献には,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる表示手段は記載されていない。
また,甲9文献及び甲10文献に記載されている,可変表示される表示手段は,本願発明の特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置に相当する「可変表示装置1」(甲9文献),「数値表示器27」(甲10文献)だけであり,本願発明の,特定遊技状態を生起せしめるための「可変表示装置と異なる表示手段」であって,かつ,「可変表示」するものである「表示手段」は,これらの文献に記載されていない。したがって,審決の「選択結果を表示する表示手段が可変表示を行う構成とすることも周知である」との認定も誤りである。
以上のとおり,甲7文献ないし甲10文献には,本願発明の特徴的な構成である,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる可変表示手段は,開示も示唆もされていない。審決は,本願発明の「表示手段」が,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なるものであることを看過して,本願発明と先願発明との相違点(C)について当業者が適宜できる程度の設計変更にすぎないと判断したのであるから,明らかに誤っている。
先願発明の表示手段に当たる「7セグメントの発光ダイオードからなる3桁の表示部(表示パネル)27」(甲第3号証4頁右上欄4行〜5行)は,パチンコ機1の前面上方に取り付けられる抽選器本体5に設けられており,上記「表示部27」は,先願発明に係る公開公報(甲第3号証)を見る限り,パチンコ機1を設置するいわゆる「島台」に設けられている。これに対し,本願発明においては,「表示手段」は遊技盤に設けられている。この点で両者は相違するのである。島台に設けられた表示手段を遊技盤に設けるという事項を,周知技術又は慣用技術であるとすることはできない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の看過)について 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)に「表示駆動制御手段」に関して記載されているのは,「当該遊技機の遊技盤に設けられ且つ前記可変表示装置と異なる表示手段を前記特定遊技状態が終了した後に可変表示して前記選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段」だけである。本願発明は,特定遊技状態が終了すると,自動的に,選択結果と一致する表示結果が得られる構成のものに限定されているわけではない。原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
2 取消事由2(相違点(C)についての判断の誤り)について 審決は,先願発明では,表示手段を遊技機の遊技盤に設けていない点,及び,その表示手段が可変表示するか明らかでない点で,本願発明と構成が相違していると認定し,その上で,同相違点(相違点(C))について,本願出願前に,遊技機の遊技盤に様々な表示手段を設けることが周知技術であることを示すために甲7文献と甲8文献を例示し,選択結果を表示する表示手段が可変表示を行なう構成とすることが周知技術であることを示すために甲9文献と甲10文献を例示したのである。審決は,甲7文献ないし甲10文献を,本願発明の「特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる表示手段が遊技盤に設けられる構成」が周知であることを立証するために引用したものではない。
遊技機においては,様々な表示手段を設けるに際して,これを遊技盤に設けることは普通のことである。選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示手段が可変表示を行う,という構成とすることも普通のことである。そうである以上,先願発明について,遊技機毎に取り付けられている,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置とは異なる表示手段を,可変表示を行う構成として遊技機の遊技盤に設ける構成とすることは,当業者が適宜できる程度の設計上の微差にすぎないことが明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 本願発明は,特定遊技状態の出現,終了を自動的に検出するものに限られるか。
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「前記特定遊技状態の出現する毎に 該特定遊技状態の出現原因に関係なく予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを乱数によって選択する選択手段と,当該遊技機の遊技盤に設けられ且つ前記可変表示装置と異なる表示手段を前記特定遊技状態が終了した後に可変表示して 前記選択手段の選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段と,を設けたことを特徴とする遊技機。」(下線付加)との記載がある。特許請求の範囲の上記の記載によれば,本願発明は,特定遊技状態が出現するごとに乱数によって選択する選択手段と,特定遊技状態が終了した後に可変表示して選択結果と一致する表示結果を導出する表示駆動制御手段とを設けた,との構成を有することが明らかである。しかし,選択手段が,特定遊技状態を出現するごとにその状態を自動的に検出して続いて所定の選択動作を行うのか,あるいは,遊技者が手動スイッチを押すことにより所定の選択動作を行うのか,また,上記表示手段が特定遊技状態が終了した後にその状態を自動的に検出して続いて可変表示するのか,あるいは,遊技者が手動スイッチにより可変表示するのかについては,特許請求の範囲において何も規定されていない。
(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある(甲第2号証の1・2)。
「【0002】 【従来の技術】従来,遊技者に対して大きな遊技価値を付与することが可能な特定遊技状態を生起せしめる遊技内容を有する遊戯機・・・において,可変表示装置に表示された特定図柄のうち,通常の特定図柄が表示されて特定遊技状態となった場合には,当該特定遊技状態の終了と共に獲得した景品玉での遊技の継続を認めず,他方,特別の特定図柄が表示されて特定遊技状態となった場合に当該特定遊技状態の終了後,獲得した景品玉を使用して当該パチンコ遊技機での遊技の継続を認めるサービスを提供する遊技場があった。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかして,上記した従来の例では,特定遊技状態が出現した瞬間にサービスが受けられるか否かが分かってしまい,遊技者の楽しみが減少するという問題があった。本発明は,上記した問題点に鑑みなされたもので,その目的とするところは,特定遊技状態の出現原因と関係なくサービスの提供が受けられるか否かを決定することができる遊技機を提供することにある。
【0004】 【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために,本発明においては,遊技者に対して大きな遊技価値を付与することが可能な特定遊技状態を生起せしめる遊技内容を有する遊技機において,該遊技機には,前記特定遊技状態の出現する毎に予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを選択する選択手段と,該選択手段の選択結果に基づいて,当該遊技機に関連した位置に設けられる表示手段を駆動表示する表示駆動制御手段と,を設けたことを特徴とするものである。
・・・ 【0025】 【発明の効果】以上,説明したところから明らかなように,本発明においては,特定遊技状態の出現する毎に予め定めたサービスを遊技者に提供するか否かを選択する選択手段と,該選択手段の選択結果に基づいて遊技機に関連した位置に設けられる表示手段を駆動表示する表示駆動制御手段と,を設けたので,特定遊技状態の出現原因に関係なく,特定遊技状態毎にサービスが受けられるか否かが選択決定され,特定遊技状態となったときの楽しみが増加する。」 本願発明が解決しようとする課題,課題を解決するための手段及び発明の効果に関する本願明細書の上記記載によれば,本願発明は,特定遊技状態の出現するごとにあらかじめ定めたサービスを遊技者に提供するか否かを選択する選択手段と,その選択手段の選択結果に基づいて,当該遊技機に関連した位置に設けられる表示手段を駆動表示する表示駆動制御手段,とを設けたことを特徴とするものであり,特定遊技状態ごとに,更にサービスが受けられるか否かが選択決定され,特定遊技状態となったときの楽しみが増加する,というものである。そうだとすると,本願発明においては,発明の課題を解決するための手段と発明の効果から見ても,選択手段及び表示駆動制御手段を,特定遊技状態のある状態を自動的に検出して作動させるか,手動スイッチにより作動させるかを,本願発明を特定すべき構成要素であると解すべき必要はないことになる。もっとも,本願明細書には,特定遊技状態が終了したかどうかを自動的に判別している実施例が開示されてはいる(甲第2号証の1【0017】〜【0021】)。しかし,これは,本願発明の実施例にすぎず,本願明細書における特許請求の範囲及び本願発明の課題と効果に関する上記記載のいずれをみても,特定遊技状態の出現,終了を自動的に検出し,続いて動作を行う構成のものに限定して解釈すべき理由はない。
(ウ) 本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)の上記記載及び本願発明の課題と効果に関する本願明細書の上記記載からすれば,本願発明は,特定遊技状態の出現あるいは終了を自動的に検出して,自動的に上記の動作を行うものを包含することは当然として,このような自動検出手段自体はその構成要件とはなっていないのであるから,自動検出手段を備えないもので,例えば,手動スイッチにより,上記の動作を行うものも,特許請求の範囲に記載された構成を充足するものであり,本願発明に含まれるものと認められる。
原告は,本願明細書の請求項1の記載,本願明細書における発明の効果の記載,実施例の記載から,本願発明は,特定遊技状態が終了すると自動的に選択結果と一致する表示結果が得られる構成である,と主張する。しかし,原告の主張が理由がないものであることは,上記に述べたところから明らかである。
(2) 先願発明は,手動スイッチにより抽選を開始するものに限られるか。
本願発明が,特定遊技状態の出現及び終了を自動的に検出するものに限定されないものである以上,原告の取消事由1の主張は既に理由がないことが明らかである。しかし,この点をおいて,仮に,本願発明が上記のように限定されるものであるとしても,取消事由1は依然として失当である。先願発明も,手動スイッチにより抽選を開始するものに限定されず,特定遊技状態の出現及び終了を自動的に検出するものを包含するものと認められるからである。
先願明細書には,遊技機が「フィーバー状態」(本願発明の特定遊技状態に当たる。以下同じ。)になったことをフィーバー状態検出センサによって検出し,そこからの検出出力を抽選開始信号として「抽選手段」(本願発明の「選択手段」に当たる。以下,同じ。)に入力することを特徴とする請求項(1)及び(2)記載の遊技機におけるフィーバー時抽選装置が記載されており(甲第3号証請求項(3)),これと同時に,「上記信号入力手段が手動スイッチであることを特徴とする請求項(1)及び(2)記載の遊技機におけるフィーバー時抽選装置」も,その請求項(6)に記載されている。これらの請求項の記載自体の中に,先願発明を,手動スイッチにより抽選を開始するものに限定して把握すべき根拠はなく,これらの記載からは,むしろ,同発明は,手動スイッチにより抽選を開始するものでないものも包含するとの把握が自然に出てくる,ということができる。そして,先願明細書の全体をみても,上記把握を妨げるものは何ら見いだすことができないのである。それどころか,先願明細書の実施例の記載をみれば,先願発明において,手動スイッチを使用したもののみならず,遊技機のフィーバー状態を自動的に検出し,これにより抽選開始信号を出力するとの構成のものが包含されていることは,より明らかとなる。すなわち,先願明細書には,次の記載がある。
「(実施例) 以下,本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。
第1図は,本発明によるフィーバー時抽選装置をパチンコ機に適用した場合の構成を示す全体ブロック図である。
この図で,個々のパチンコ機1のフィーバー状態は,パチンコ機1毎に設けられるセンサ2によって検出され,このセンサ2から出力されるフィーバー状態検出信号が,電流変換部および電圧変換部4を介してパチンコ機1毎に取り付けられる抽選器本体5とフィーバー回数表示器6に供給される。
抽選器本体5では,検出信号が入力されると同時に抽選が開始され,抽選結果が表示部に表示される。また抽選器本体における抽選結果の判定出力が,遊技店内のパチンコ機1の状況を監視している集中監視装置7に送出される。ここで,センサ2等は抽選器本体5に抽選開始信号を入力する信号入力手段を構成する。」(甲第3号証3頁右上欄16行〜左下欄15行) このように,先願明細書には,遊技機がフィーバー状態にあることをセンサにより自動的に検出し,続いてそのフィーバー状態検出信号を抽選器本体に供給することにより,自動的に抽選を開始することが明確に記載されているのである。
先願明細書には,その他の実施例として,手動スイッチによる実施例も開示されている。すなわち,先願明細書には,「また,第11図に示す他の実施例では,センサ2,43によってフィーバー状態を検出し,抽選器本体5を作動させるのではなく,パチンコ機1がフィーバー状態となり,当該パチンコ機1での遊技が終了したあとに,パチンコ機1の近傍に設置した手動スイッチ44を遊技者等が押すことで,抽選器本体5が作動し,抽選を開始できるようになっている。」(甲第3号証5頁左上欄8行〜15行)との記載がある。この記載によれば,先願発明においては,遊技機のフィーバー状態を自動的に検出し,自動的に抽選を開始する実施例と,これと異なり,フィーバー状態終了後に,遊技者が手動スイッチを押すことで,抽選が開始される実施例の双方を包含していることが明らかである。
先願明細書には,「また本発明によるフィバー時抽選装置は,上記信号入力手段が手動スイッチであることを特徴とする。」(甲第3号証2頁右下欄9行〜11行)との記載もある。しかし,この記載は,先願明細書における(課題を解決するための手段)(甲第3号証2頁右上欄17行)の項における記載であり,その前後の記載がいずれも各請求項の発明を説明しているものであることからすると,ここで記載されている「本発明」とは,上記の請求項6の発明の説明であることが明らかである。
以上のとおり,先願発明は,手動スイッチにより抽選を開始するものに限られないのであり,原告の主張はこの点でも失当である。
2 取消事由2(相違点(C)についての判断の誤り)について 審決は,「表示駆動制御手段が,本願発明では,「遊技機の遊技盤に設けられ」表示手段を可変表示するのに対して,先願発明では,表示手段を遊技盤に設けたものでなく,表示手段を可変表示するのか明らかでない点。」(審決書4頁1段)を相違点の一つとして認定した上で,この相違点(相違点(C))について,「先願発明の遊技機毎に取り付けられた表示手段を,可変表示を行う構成として遊技機の遊技盤に設けるとともに,表示駆動制御手段を遊技盤に設けることは,当業者が適宜できる程度の設計変更にすぎない。」(審決書4頁4段)と判断した。
先願発明は,本願発明の「表示手段」に当たる「抽選器本体5の表示部27」を,遊技盤の島台上に設置している(甲第3号証の第2図,第6図ないし第11図)。また,本願発明の「表示結果を導出する表示駆動制御手段」に当たる「抽選結果を表示部27に表示する抽選器本体の表示回路26」も,遊技盤上に設置されていることを少なくとも積極的に認めることはできないものであるとは,審決が相違点(C)として認定したとおりである(甲第3号証。先願明細書の上記記載からすれば,抽選器本体5と同様に遊技盤の島台上に設置されている可能性が高い。)。なお,先願発明の表示部27に3桁の数字が可変表示されることは,実施例についての先願明細書の,「制御回路22では,抽選結果を判定するとともに,抽選結果信号を表示回路26に出力する。表示回路26には,たとえば7セグメントの発光ダイオードからなる3桁の表示部(表示パネル)27が接続されており,表示部27に抽選結果が3桁によりディジタル表示される。抽選結果が”777”となると,制御回路22では大当り(当選)と判定し,大当り信号をランプ駆動回路28に出力する。」(甲第3号証4頁右上欄2行〜10行)との記載から明らかである。
証拠(乙第1号証の1・2,甲第7ないし第10号証)によれば,上記のような可変表示を行う表示手段及び表示回路26を,パチンコ台の遊技盤上に取り付けることも,その島台上に取り付けることも,いずれも周知の技術であり,そのいずれを採用するかは,当事者が適宜行うことができる設計的事項であることが明らかである。相違点(C)についての審決の上記判断に何ら誤りはない。
原告は,甲7文献ないし甲10文献においては,本願発明の特徴的な構成である,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる可変表示手段が,開示も示唆もされていない,審決は,本願発明の「表示手段」が,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なるものであることを看過して,本願発明と先願発明との相違点(C)について当業者が適宜できる程度の設計変更にすぎないと判断したのである,と主張する。
しかし,審決が,甲7文献ないし甲10文献に,本願発明の構成である,特定遊技状態を生起せしめるための可変表示装置と異なる可変表示手段が開示されている,と認定したわけではないことは,上述したところから明らかである。審決は,特定の表示手段についてではなく「表示手段」一般について,それを,遊技盤に設置するか,島台等の遊技盤以外の場所に設置するかは,「当業者が適宜できる程度の設計変更にすぎない。」と判断したにすぎない。そして,審決の上記判断に何ら誤りはない。原告の上記主張は,審決の上記判断を誤解した上でなされたものにすぎず,理由がないことが明らかである。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸