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関連審決 審判1998-19888
関連ワード 有用性 /  頒布された刊行物 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  択一的 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 33号 審決取消請求事件
原告 ベイラーカレッジ オブ メディシン
訴訟代理人弁理士 佐田守雄、五十嵐和壽、井出正威
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 田村聖子、佐伯裕子、種村慈樹、一色由美子、林栄 二、大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が平成10年審判第19888号事件について平成14年9月13日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「バクロウィルス発現系を使ったロタウィルス遺伝子の合成と免疫原性」とする発明について、米国特許出願に基づく優先権(優先権主張日1986年(昭和61年)12月30日及び1991年(平成3年)6月20日)を主張して、昭和63年1月4日に特許出願(昭和63年特許願第247号)をし、平成10年8月21日に拒絶査定を受けたので、同年12月18日に審判を請求し、平成10年審判第19888号として審理されたが、平成14年9月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があった(同年9月30日原告に審決謄本送達。出訴期間として90日付加)。
2 特許請求の範囲 平成11年1月14日付け手続補正書(甲2)により補正された明細書の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(請求項2以下の記載は省略。以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。 【請求項1】 (a)バクロウィルス遺伝子のプロモータ; (b)上記のプロモータがロタウィルスの遺伝子の発現を制御するために効果的なように、その遺伝子に関して空間的に位置している遺伝子ジーン2、ジーン3、
ジーン4、ジーン5、ジーン7、ジーン8、ジーン10、ジーン11及びそれらの任意の組み合わせの少くとも1つのロタウィルス遺伝子; を含んでいる組み換え分子。 3 審決の理由の要旨(審決の理由欄の「3.当審の判断」及び「4.むすび」)(表記を一部改めたところがある。) 3.当審の判断 以下、本願発明1について、拒絶査定の理由が妥当であったか否か検討する。
原審の拒絶理由通知で引用した刊行物Aには、バキュロウイルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であり、具体的に外来遺伝子としてシミアン・ロタウイルスのVP-6遺伝子をバキュロウイルスのポリヘドリンプロモーター下流に組み込み組換えタンパク質を発現したことが記載されている(特に、320頁〜322頁等参照)。また、同じく原審の拒絶理由通知で引用した刊行物B、Cには、シミアン11ロタウイルス(SA11)ゲノムの11個のセグメントが記載されている。 これにつき、審判請求人(原告)は、審判請求理由補充書において、「バクロウィルス発現ベクターに関する科学と知識は、本願発明の優先日の時点では極端に新しく、また、その量は極端に少なかったものであり、上記引用例から本願発明を予測することは不可能であった」、「本出願の優先日の時点では、バキュロウィルス発現ベクターに関する知識はほとんどなく、VP-6以外は、ロタウィルスVPがバキュロウィルス内で発現できるということは、当業者といえども全く想到できなかったものである。」と主張し、また、本願発明1に列挙されたジーンの発現産生物である、組み換えNS28、VP4及びVP2の各蛋白質の有する特性について述べるとともに、「これらの特性は本願発明の過程で見いだされたもので、本願発明の優先日より前には知られていなかったものであり、上記の予想外な性質のそれぞれは、バクロウィルス内で表現されたロタウィルスタンパク質がその天然の配座を保持しているという予想外の特性に基づくものである」旨主張している。 しかしながら、刊行物Aはバキュロウイルス-昆虫細胞発現系に関する概説を記載したものであって、当該発現系について、「バキュロウィルスベクターを用いて昆虫細胞で産生された組み換えタンパク質は、生物学的に活性であり、発現後のプロセッシングを受け、本来のタンパク質に非常に類似する組み換えタンパク質が産生されていると思われる。」(319頁、OVERVIEWの3〜6行)と記載されるとともに、VP-6以外の外来遺伝子を発現した事例も紹介されており(321頁のTable1等参照)、また、このような、バキュロウイルス発現系を用いて外来遺伝子を発現した事例を報ずる文献は当時既に多数存在していた(例えば、Virus Res.,1986 Jul, Vol.5,No.1,pp.43-59、J.Gen.Virol.,1986, Vol.67,No.8,pp.1515-1530、EMBO J.,1986, Vol.5,No.6,pp.1359-1366、Mol. Cell. Biol.,1984, Vol.4, No.3, pp.399-406等参照)ことからすれば、VP-6遺伝子以外のロタウィルスの遺伝子である、ジーン2、ジーン3、ジーン4、ジーン5、ジーン7、ジーン8、ジーン10、ジーン11についても、本来のタンパク質と同様の性質を保持する組み換えタンパク質を得るために、これをバキュロウィルス発現ベクターにより発現させることに想到することが困難であったとすることはできない。 そして、これにより得られるタンパク質の特性については、本願明細書に何ら具体的に記載されていないばかりか、本願明細書には、NS28を発現するジーン10を除いて、これらのジーンを実際に発現した実施例すら記載されていないうえ、審判請求人(原告)が審判請求理由補充書で主張している点は、結局、本来のNS28等と同様の性質を保持する組み換えNS28等のタンパク質が得られたということであり、このことは刊行物Aに記載された上記事項から予測される範囲のことであるから、このことをもって当業者に予期できない有利な効果を奏するものともいえない。 したがって、刊行物Aに記載された発現系を用いて、VP-6遺伝子以外のセグメント(ジーン2、ジーン3、ジーン4、ジーン5、ジーン7、ジーン8、ジーン10、ジーン11)を発現させることは、当業者であれば容易に想到し得たことと認められるから、本願発明1は、当業者が本願の優先権主張日前に頒布された刊行物A〜Cに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人が平成11年3月31日付けで行い、審判請求の日から30日の補正のできる期間を経過したものとして平成12年8月28日付けで却下された、本願明細書を補正する手続に係る手続補正書の請求項1に記載された発明も、
刊行物Aに記載された発現系を用いて、それ自体公知のロタウィルスの遺伝子セグメント(ジーン1、ジーン2、ジーン3、ジーン4、ジーン5、ジーン7、ジーン10、ジーン11)を発現させるものであり、新たに加わったジーン1を含めて、
上述したとおり、明細書中にこれらのジーンを実際に発現した実施例も存在せず、
当業者に予期できない有利な効果を奏するものともいえないから、本願発明1について上で述べたと同様の理由により特許を受けられないものである。 4.むすび したがって、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができな いものであるから、他の請求項に係る発明についての拒絶査定の理由について検討するま でもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。 なお、審決が引用した刊行物は、以下のとおりである。
刊行物A:Banbury Reports, Vol.22(1985)p.319-339(甲5) 刊行物B:Nucleic Acids Res. Vol.10, p.7075-7088(甲6) 刊行物C:Proc.Natl.Acad. Sci. USA, Vol.80(May 1983)p.3091-3095(甲7)
原告主張の取消事由の要点
審決は、刊行物Aに記載された発明の認定を誤り(取消事由1)、本願発明1の進歩性の判断を誤り(取消事由2)、手続補正書の取扱いを誤った(取消事由3)結果、本願発明1は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものであるとの誤った結論に至ったものであり、違法として取り消されるべきものである。
1 取消事由1(刊行物Aに記載された発明の認定の誤り) 審決は、「刊行物Aには、バキュロウィルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であり、具体的に外来遺伝子としてシミアン・ロタウィルスのVP-6遺伝子をバキュロウィルスのポリヘドリンプロモーター下流に組み込み組換えタンパク質を発現することができたことが記載されている。」と認定するが、誤りである。
本願発明1が特定の「ロタウイルス遺伝子」の使用を必須とするものであるのに対し、刊行物A(甲5)は、ロタウイルスの「VP-6タンパク」について言及するのみで、「ロタウイルス遺伝子」の使用については一切言及しておらず、審決のいう「VP-6遺伝子」がロタウイルスの11個の遺伝子セグメントのうちいずれのセグメントであるかについて記載していない。本願優先日の技術水準では、ロタウイルスの発現するタンパクとロタウイルスの遺伝子との関係(いずれのタンパクがいずれの遺伝子によって発現されるか)についてはほとんど知られていなかったから、刊行物Aが「VP-6タンパク」に言及していたとしても、そこで用いたロタウイルスの遺伝子セグメントやバキュロウイルスへの具体的導入方法が刊行物Aに具体的に記載されていない以上、当業者が刊行物Aに基づいて「VP-6タンパク」の発現を実施できないことは明らかである。したがって、刊行物Aは、当業者が実施可能な程度に技術内容を開示するものではない。
刊行物Aが「VP-6タンパク」を開示するとしても、それをコードする遺伝子まで刊行物Aの記載として認定することはできない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、「刊行物B、Cには、シミアン11ロタウイルス(SA11)ゲノムの11個のセグメントが記載されている。」と認定するが、誤りである。
刊行物B(甲6)において、全長RNAのクローン化に成功しているのはセグメント8のみで、セグメント8なる遺伝子が実際にタンパクを発現したかどうかについては、一切開示されていない。刊行物C(甲7)においても、最終的に見出した知見は、本願発明1が対象としないセグメント9の遺伝子配列と、当該遺伝子配列がタンパクVP-7をコードするという点にすぎない。
すなわち、刊行物Bには、Figure 3に記載されたタンパク配列は「予測されたタンパク配列(317個のアミノ酸)」(甲6の7082頁21行、訳文10頁17行)と記載され、この予測されたタンパク配列(317個のアミノ酸)がNCVP3に対応するものであるかについての検証に関して、「SA11のmRNA混合物からクローン化ジーン8(プラスミドK2)を用いてハイブリッド選別により得られたmRNAからは、翻訳により34kdのタンパク質が得られ、このタンパク質は感染細胞の水解物でみられる非構造的蛋白(NCVP3、35k)と共に移動する。」(甲6の7086頁2〜5行、訳文13頁下から3〜6行)と記載するだけで具体的なデータが示されていないことから、刊行物Bに記載されたジーン8がNCVP3タンパクを実際にコードするかどうかについては推定ないし仮説の域を出ない。
刊行物Cも、クローン化されたジーン7,8及び9からmRNAを転写させたとか、
該mRNA からタンパクを翻訳及び発現させたことに関して記載するものではない。
したがって、刊行物B,Cは、各セグメントをcDNAとしてクローン化する手法は開示するとしても、全てのセグメントをクローン化によってcDNAとして単離し、そのcDNAの構造及び機能解析を完了し、発現ベクターに連結してサブクローニングすることで、所望のタンパク質を発現させることが容易に行える程度の技術水準に到達したことを示すものではない。 被告は、ロタウイルスゲノムの各セグメントはロタウイルスの一つのタンパク質に対応すると主張するが、ロタウイルスの遺伝子は11のセグメントからなるのに対し、ロタウイルスのタンパクは、本件明細書によれば合計12のタンパクが知られているとされ、甲22によれば合計13のタンパクが存在するとされており、被告の主張するような単純な対応関係はない。また、被告が上記主張の根拠とする乙5は、本件優先日前に発行されたか否か不明である。
(2) 審決は、本願発明1の進歩性を否定する根拠として、「(刊行物Aに)VP-6以外の外来遺伝子を発現した事例も紹介されており(321頁のTable1等参照)、また、このような、バキュロウイルス発現系を用いて外来遺伝子を発現した事例を報ずる文献は当時多数存在していた」ことを挙げる。しかし、刊行物A(甲5)のTable1に列挙された発現タンパクは、ロタウイルスとはかけ離れた属又は種のものであるから、審決の判断は誤りである。
(3) 審決は、本願発明1の進歩性を否定する根拠として、「得られるタンパク質の特性については、本願明細書に何ら具体的に記載されていないばかりか、本願明細書には、NS28を発現するジーン10を除いて、これらのジーンを実際に発現した実施例すら記載されていない」ことも挙げる。しかし、明細書には、あらゆる実施例を記載することは不可能で、出願人が最良と思うものを少なくとも一つ掲げて記載すれば足りるから、審決の判断は誤りである。そして、ある生物の遺伝子を他の生物に入れてそのタンパク質を他の生物に作らせるのは、種の障壁が存在し容易ではないこと(甲10)、プロモータの選択が重要であること(甲11)が知られているから、本願発明1に従ってバキュロウイルスのプロモータを使用することにより、本来のロタウイルスのタンパク質と同等の性質を保持する組換えタンパク質が取得できたことは、刊行物A〜Cから予期できない有利な効果といえる。したがって、審決が本願発明1の有利な効果を否定したことは誤りである。
(4) 本願優先日当時の技術常識によれば、発現ベクターに組み込むのはDNAの構造解析が十分完了した後、大腸菌での発現を試み、このような知見が蓄積されてから後の作業とされているところ、ロタウイルスの遺伝子の発現に関する知見は、本願優先日当時存在しなかったから、刊行物Aがロタウイルスのタンパク発現の具体的な技術的手法を併せて開示していない限り、当業者が、刊行物Bに記載のジーン8をバキュロウイルス発現系に容易に組み込むことはできない。
なお、審決は、刊行物Aにおける「VP-6遺伝子」とはシミアン・ロタウイルスゲノムの11個のセグメントのいずれか1つを意味するとの前提で、刊行物Aを第1引用例とし、刊行物B,Cを第2引用例として、VP-6遺伝子以外のセグメントの全てを拒絶の対象としていた。本訴における被告の主張は、刊行物Bを第1引用例とし、刊行物Aを第2引用例として、本願発明1のジーン8のみについて拒絶の対象としている点で、論理構成が大きく変更されているものであるが、この変更された論理構成によっても、本願発明1の進歩性を否定することはできない。
(5) 被告は、乙1〜3に示された詳細な実験プロトコルに従えば、刊行物A(甲5)記載のプロセスを具体的に行うことができると主張するが、乙1〜3はロタウイルスに関する本願優先日当時の技術常識を構成するものではなく、甲5,乙1〜3に開示されたベクターが本願明細書に記載されたベクターと異なっていることからも、刊行物A及び乙1〜3に記載のプロトコルに基づいて本願発明1に容易に到達することはできない。
また、乙1、3に記載されたヘマグルチニン遺伝子は、バキュロウイルス系で発現する以前に、他の発現系での発現に関する知見が多数蓄積されており、刊行物Aに記載された他の外来遺伝子も、本願優先日当時、既に大腸菌においてクローン化及び発現が行われていたものであるから、本願優先日におけるロタウイルスとは事情が大きく異なる。
3 取消事由3(手続補正書の取扱いの誤り) 審決は、補正のできる期間を経過したものとして平成12年8月28日付けで却下された、平成11年3月31日付け手続補正書(甲4)の請求項1に記載された発明について、「本願発明1について上で述べたと同様の理由により特許を受けられないものである。」と判断するが、当該手続補正書で加えることを希望したジーン1も、他のジーンと同様、特許性を有するものであるから、発明保護の見地から当該手続補正書を提出する機会を与えるべきであった。
被告の反論の要点
1 取消事由1(刊行物Aに記載された発明の認定の誤り)に対して (1) 刊行物A(甲5)の記載を総合すると、刊行物AのTable 1の「シミアンロタウイルスVP-6」遺伝子に関する記載は、「シミアンロタウイルスVP-6のcDNA由来遺伝子を当該プロセスに従ってバキュロウイルス発現系に組み込むことにより、昆虫細胞中でのVP-6タンパクの発現に成功した」と読むべきである。
(2) 原告は、刊行物Aに記載された上記プロセスは異種遺伝子のバキュロウイルスへの具体的導入方法が明らかでないから、刊行物Aは当業者が容易に実施できる程度に記載されていないと主張するが、刊行物Aに記載された上記プロセスは、乙1〜3に詳細な実験プロトコルが記載されているように、本願優先日当時、当業者の技術常識であったから、刊行物Aに具体的な実験プロトコルが開示されていなくてもそのプロセスを具体的に行うことができたものである。
(3) 原告は、刊行物Aには、VP-6タンパクがロタウイルスの11個のジーンのうち、何れのジーンを用いて発現されたかについて記載されていないと主張するが、当業者は技術常識を踏まえて刊行物Aを読むから、ロタウイルスの特定の一遺伝子についてだけ、たまたま発現が成功したというより、当該ウイルスを構成するタンパク質遺伝子全般について同様に成功すると理解するのが自然である。刊行物AにVP-6がいずれのジーンに対応するものか特定されていないことは、刊行物Aに刊行物B,Cを適用することを阻害するものでも、成功に対する合理的な期待を損ねるものでもない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)に対して (1) 刊行物Aの表1、乙1〜3において属や種を超えたタンパク遺伝子についても昆虫細胞中への発現が成功しているということは、当該発現系の汎用性の高さを示すもので、また、バキュロウイルス発現系を用いた昆虫細胞中における発現では、他の既存の発現系に比べ発現組換え産物量が多く、組換えタンパク質の翻訳後プロセシング及び生物学的特性が天然タンパクと極めて類似していることは、当該発現系の有用性の高さを示すものである。したがって、刊行物Aを読んだ当業者は、ロタウイルスタンパクをコードする遺伝子をバキュロウイルス発現系に組み込んで昆虫細胞中に導入すれば、天然タンパクと極めて類似したロタウイルスタンパクを発現できると理解するのが自然である。そうすると、刊行物Aに記載のバキュロウイルス発現系に組み込む外来ロタウイルスタンパクの遺伝子として刊行物Bに記載のジーン8を用いることは、当業者が容易に想到し得たことであり、当該発現系を用いて発現されたタンパクが生物学的特性を保持していることは、当業者に予測されることであって有利な効果ではない。原告の主張する、種の障壁、プロモータの選択の困難性は、刊行物Aにおいて既に克服されていたものである。
(2) ロタウイルスゲノムはイントロンを含まず、かつ11個のセグメントがそれぞれ一つのタンパク質に対応する(乙5)という極めて単純な構造であるから、完全長cDNAをクローニングできれば、それがそのまま一つのタンパク質に対応することは明らかである。刊行物Bには、ロタウイルスのmRNA混合物からクローン化ジーン8(完全長)を用いて、それとハイブリッドするmRNAから翻訳された34キロダルトンのタンパクが、ロタウイルス感染細胞の水解物で見られる34キロダルトンの非構造的タンパクNCVP3と共に移動することから、ジーン8がNCVP3をコードすると推測しているものであり、この推測は極めて妥当なものである。
(3) 原告は、刊行物AのTable1に列挙された発現タンパクは、ロタウイルスとはかけ離れた属又は種のものであること、明細書には出願人が最良と思う実施例を少なくとも一つ掲げて記載すれば足りることを挙げて、審決の進歩性の判断の誤りを主張する。しかしながら、属や種を超えた様々な由来のタンパクの外来遺伝子についても昆虫細胞中への発現の成功例があることこそが、バキュロウイルス発現系の汎用性の高さを示すもので、まして刊行物Aには、本願発明1の対象であるロタウイルスのタンパクの遺伝子の発現に成功したことが記載されているのであるから、その同じロタウイルスを構成する別のタンパクの遺伝子について同発現系を用いようとすることが、当業者に困難であるとは到底いえない。また、実施例に関する原告の主張は、ジーン10についても当業者に予想外の効果は認められないが、
その他のジーンについてはそもそも具体的な開示もないから効果を検討することさえもできないということを述べた審決の趣旨に対応せず、失当である。
(4) 原告は、ロタウイルスの遺伝子の発現に関する知見が本願優先日当時存在しなかったことを前提に、本願発明1の進歩性を主張しているが、刊行物AのTable1に、バキュロウイルス発現系にcDNA由来のロタウイルス遺伝子を組み込んで昆虫細胞中に当該タンパクを発現させたことが具体的な発現量と共に記載され、かつ異種遺伝子の発現方法についても種々の好適なトランスファーベクターを用いる方法が既に知られていたから、ロタウイルスの遺伝子を過去に大腸菌内で発現していたことのあるなしにかかわらず、本願発明1は当業者が容易になし得たことであり、そもそも、乙5には、本願優先日前、ロタウイルスのジーン9を大腸菌において発現させたことが記載されているから、原告の主張は前提からして失当である。
(5) 原告は、刊行物A、乙1〜3に開示されたベクターは本願明細書に記載されたベクターと異なっているから、甲5、乙1〜3に記載のプロトコルに基づいて本願発明1に到達できないと主張するが、本願発明1は特定のベクターを用いることを必須要件としていないから、原告の主張は失当である。
3 取消事由3(手続補正書の取扱いの誤り)に対して 却下された手続補正書の請求項1に記載された発明は、択一的に記載されるロタウイルスのジーンの選択肢としてさらにジーン1を加えただけで、補正前の本願発明1をそのまま包含するものであるから、進歩性がないことが明らかであり、審判の審理過程で、この手続補正書を提出する機会を与えなかったことに不適切な点はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物Aに記載された発明の認定の誤り)について (1) 刊行物A(甲5)には、以下の記載が認められる。
ア 「クローン化遺伝子をin vitroの変異誘発により組み換え、異種遺伝子とポリヘドリン転写調節塩基配列を融合させてポリヘドリンプロモーター-異種遺伝子キメラを作製できるような適切なトランスファーベクターを構築した(Ssmithら 1983b)。トランスファーベクターと野生型AcMNPV[裁判所注;バキュロウイルスの一種、核多角体病ウイルス]DNAによる昆虫細胞のコトランスフェクション中に、
相同的組換えによりウイルスゲノム中の野生型ポリヘドリン遺伝子がハイブリッド遺伝子で置き換えられる。封入体陰性の表現型についてスクリーニングすることにより、感染昆虫細胞単層中で組換えバキュロウイルスを識別する。組換えウイルスをプラーク精製し、昆虫細胞に感染させることにより、ポリヘドリンプロモーターの転写制御の下でバキュロウイルス遺伝子として異種遺伝子を発現させる。」(320頁38〜末行、322頁1〜6行、訳文第3頁第14〜23行) イ 「著者らが、いくつかの医学的に重要なヒト及びウイルス遺伝子の発現に初めて成功した(表1)ことは、AcMNPVの新たな真核生物の発現ベクター系としての開発が成功したことを示し、かつ他の原核生物及び真核生物の発現系と比べた場合に、バキュロウイルス発現ベクターのいくつかの利点を示している。ポリヘドリンプロモーターから発現された組換え産物の量が、細菌、酵母、及び脊椎動物の発現系について報告されている量以上であるばかりでなく、選択された脊椎動物遺伝子の組換えタンパク質についての著者らの予備的分析により、昆虫細胞中で産生された組換え脊椎動物タンパク質の翻訳後プロセシング及び生物学的特性は、天然タンパク質で見られるものと極めて類似していることが分かった。」(322頁6〜16行、訳文3頁23行〜4頁3行) ウ 「Table 1」(321頁、訳文5頁)に、「AcMNPV発現ベクター」の種々の外来遺伝子への適用例の一つとして、「cDNA」をソースとする「1397bp」サイズの「シミアンロタウイルスVP-6」遺伝子がタンパク質サイズ「41KMW」のタンパク質を「50mg/l」発現したことが記載されている。
(2) 刊行物Aには、上記(1)のアのとおり、バキュロウイルス発現系での外来遺伝子発現のプロセスが記載され、同ウのとおり、外来遺伝子のソース及びサイズと発現されたタンパク質のサイズ及び量とが記載され、同イのとおり、発現に成功したタンパク質の量や特性に関する考察が記載されているから、これらを総合すると、刊行物Aには、バキュロウイルス発現系を用いて、いずれかの「シミアンロタウイルス遺伝子」がコードするタンパク質の発現に成功したことが記載されていると認めるのが相当である。
(3) 原告は、刊行物Aには、用いたロタウイルスの遺伝子セグメントやバキュロウイルスへの具体的導入方法が記載されていないから、「VP-6タンパク」の発現について当業者が実施可能な程度に開示されているとはいえないとして、審決の「刊行物Aには、バキュロウィルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であり、具体的に外来遺伝子としてシアミン・ロタウィルスのVP-6遺伝子をバキュロウィルスのポリヘドリンプロモーター下流に組み込み組換えタンパク質を発現することができたことが記載されている。」との認定は、誤りであると主張する。
しかしながら、Virus Res., Jul 1986, Vol.5, No.1, p.43-59(乙1)には、
「バキュロウイルスベクターを用いた昆虫細胞中におけるインフルエンザウイルスヘマグルチニンの細胞表面発現」(表題)について、J. Gen. Virol., Aug 1986, Vol.67, No.8, pp.1515-1530(乙2)には、「バキュロウイルスベクターを用いたリンパ球性脈絡髄膜炎アレナウイルスのSコード遺伝子の発現」(表題)について、また、EMBO J., June 1986, Vol.5, No.6, p.1359-1366(乙3)には、「バキュロウイルスベクターによる昆虫細胞中のインフルエンザウイルスヘマグルチニンの発現」(表題)について、それぞれ、方法、材料、結果などが具体的に記載されていることから、種々の外来遺伝子をバキュロウイルス発現系に組み込んで発現させるための詳細な方法は、本願優先日当時、技術常識となっていたと認められる。
また、刊行物AのTable 1や乙1〜3に、バキュロウイルス発現系により外来遺伝子の発現に成功した例が種々記載されていることは、バキュロウイルス発現系が汎用性の高いものであることを示すものといってよい。
そうである以上、刊行物Aの記載に基づいて、刊行物Aの上記1のウに具体的に記載された特定のタンパク質のみならず、シミアンロタウイルスタンパク質をコードする遺伝子全般を発現させることについても、本願優先日前にシミアンロタウイルスタンパク質をコードする遺伝子が別の刊行物等により当業者に入手可能な程度に知られていれば、十分実施可能であると解すべきである。
したがって、刊行物Aに、用いたロタウイルスの遺伝子セグメントやバキュロウイルスへの具体的導入方法が記載されていないことをもって、刊行物Aに当業者が実施可能な程度の技術内容の開示がないとする原告の主張は採用できず、審決が「刊行物Aには、バキュロウィルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であり、具体的に外来遺伝子としてシミアン・ロタウィルスのVP-6遺伝子をバキュロウィルスのポリヘドリンプロモーター下流に組み込み組換えタンパク質を発現することができたことが記載されている。」と認定したことに誤りはない。 (4) なお、原告は、刊行物Aには審決のいう「VP-6遺伝子」がロタウィルスの11個の遺伝子セグメントのどれに対応するものかが特定されていないことを強調する。しかし、技術常識を踏まえて刊行物Aの記載に接する当業者にとって、そこにロタウィルスのVP-6タンパクをコードする遺伝子(VP-6遺伝子)の発現の成功例が記載されているとの理解が自然に得られることは明らかである。しかも、前示のとおり、刊行物Aにはバキュロウィルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であることも示されていると認められるから、刊行物Aにおいて審決のいう「VP-6遺伝子」がロタウィルスの11個の遺伝子セグメントのどれに対応するものかが特定されていなくても、そのことは、刊行物Aの記載に基づく本件発明の進歩性の判断に影響を及ぼすものではない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は、審決が本願発明1について、「刊行物Aに記載された発現系を用いて、VP-6遺伝子以外のセグメント(ジーン2、ジーン3、ジーン4、ジーン5、ジーン7、ジーン10、ジーン11)を発現させることは当業者であれば容易に想到し得たことと認められる。」と判断したことは、誤りであると主張する。
しかしながら、上記1で示したとおり、刊行物Aには、バキュロウィルス-昆虫細胞発現系が外来遺伝子を発現するために有効であり、外来遺伝子としてシミアン・ロタウィルス(SA11)のVP-6遺伝子をバキュロウィルスのポリヘドリンプロモータ下流に組み込みタンパク質を発現することができたことが記載されていると認められる。
また、刊行物B(甲6)には、ロタウィルスは、11個のdsRNAセグメントからなるゲノムを有すること、SA11ロタウィルスの非構造タンパク質であるNCVP3をコードするジーン8の完全配列をクローン化した遺伝子のコピーから決定したことが記載されている。
そして、刊行物Aには、属や種を超えたタンパク遺伝子について昆虫細胞中への発現が成功したことが示される(表1)とともに、バキュロウィルス発現系を用いた昆虫細胞中における発現では、他の既存の発現系に比べて発現組換え産物量が多く、昆虫細胞中で算生された組換えタンパク質の翻訳後プロセシング及び生物学的特性が天然タンパクと極めて類似していることが報告されているのであるから、その記載に接した当業者は、当該発現系が高い汎用性と有用性を有するものと理解し、ロタウィルスタンパクをコードする遺伝子をバキュロウィルス発現系に組み込んで昆虫細胞中に導入すれば、天然タンパクと極めて類似したロタウィルスタンパクを発現することができると理解するのが自然である。
そうすると、刊行物Aに記載されたバキュロウィルス発現系を用い、この発現系に組み込む外来ロタウィルスタンパクをコードする遺伝子として、VP-6遺伝子以外のロタウィルスの遺伝子(例えば刊行物Bに示される遺伝子)を用いることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。
また、当該発現系を用いて発現されたタンパクが生物学的特性を保持していることは、刊行物Aの記載から当業者が予測し得る効果であって、格別のものということはできない。
(2) 原告は、審決が本願発明1の進歩性を否定する根拠とした刊行物Bにおいて、全長RNAのクローン化に成功したのはセグメント8のみで、これがNCVP3を実際にコードするかどうかについては推定あるいは仮説の域を出ないと主張する。
しかしながら、刊行物Bには、セグメント8(ジーン8)のクローニングに成功したことが記載されているだけでなく、「SA11のmRNA混合物からクローン化ジーン8(プラスミドK2)を用いてハイブリッド選別により得られたmRNAからは、翻訳により34kdの蛋白質が得られ、この蛋白質は感染細胞の水解物でみられる非構造的蛋白(NCVP3、35k)と共に移動する。」(甲6の7086頁2〜5行、訳文13頁下から6〜3行)として、クローニングされたジーン8とハイブリッドするmRNAから34kDのタンパク質が翻訳され、それがNCVP3タンパクと共に移動することが記載されているから、ジーン8がNCVP3をコードするものであると解することは極めて自然である。したがって、刊行物Bには、少なくとも、ロタウイルスのタンパク質NCVP3をコードするジーン8について記載されていると認められる。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) 原告は、本願優先日当時の技術常識によれば、発現ベクターに組み込むのはDNAの構造解析が充分完了した後、大腸菌での発現を試みて知見を蓄積してから後の作業とされているところ、当時大腸菌によるロタウイルスの遺伝子の発現に関する知見は存在しなかったから、刊行物Aがロタウイルスのタンパク発現の具体的な技術的手法を併せて開示していない限り、当業者が、刊行物Bに記載のジーン8をバキュロウイルス発現系に容易に組み込むことはできず、また、ある生物の遺伝子を他の生物に入れてタンパク質を作らせる際には種の障壁の存在やプロモータ選択の重要性が知られていることから、バキュロウイルスのプロモータを使用することにより本来のロタウイルスのタンパク質と同等の性質を保持する組換えタンパク質が取得できたことは、刊行物A〜Cから予期できない有利な効果であると主張する。
しかしながら、乙6により本願優先日前の1986年9月に発行されたことが認められる乙5(Gene, Vol.47, No.2-3 (1986) p.211-219)には、ロタウイルスの遺伝子を大腸菌において発現させたことが記載されているから、原告の主張は前提において誤りである。
のみならず、刊行物Aにバキュロウイルス発現系でいずれかの「シミアンロタウイルス遺伝子」がコードするタンパク質の発現に成功したことが示されていること、種々の外来遺伝子をバキュロウイルス発現系に組み込んで発現させるための詳細な方法は本願優先日当時技術常識となっていたこと、及び、バキュロウイルス発現系が汎用性の高いものであることは、前示のとおりであり、さらに、バキュロウイルス発現系を用いた昆虫細胞中における発現では、他の既存の発現系に比べ発現組換え産物量が多く、組換えタンパク質の翻訳後プロセシング及び生物学的特性が天然タンパクと極めて類似している(甲5の前記1(1)イの記載)ことから、当該発現系が有用性の高いものであることも認められる。したがって、刊行物Aを読んだ当業者は、ロタウイルスタンパクをコードする遺伝子をバキュロウイルス発現系に組み込んで昆虫細胞中に導入すれば、天然タンパクと極めて類似したロタウイルスタンパクを発現できると理解するのが自然である。そうすると、刊行物Aに記載のバキュロウイルス発現系に組み込む外来ロタウイルスタンパクの遺伝子として、刊行物Bに記載のジーン8を用いることにより、本願発明1に到達することは、本願優先日前に大腸菌によるロタウイルスの遺伝子発現に関する知見が存在していたか否かに関わらず、当業者が容易になし得ることである。また、当該発現系を用いて外来遺伝子を発現する際の種の障壁や、プロモータの選択は、刊行物Aの記載や乙1〜3の記載(前記1(3)参照)から、本願優先日前に既に解決された課題であると認められ、当該発現系を用いて発現されたタンパクが生物学的特性を保持していることも、上記のとおり当業者が当然予測することであるから、これをもって本願発明1の奏する有利な効果であると認めることはできない。
(4) 原告は、刊行物AのTable 1に列挙されたロタウイルスとはかけ離れた種・属のタンパク質の発現が知られていることを根拠に本願発明1の進歩性を否定することはできないと主張する。
しかしながら、属や種を異にする様々な由来のタンパクの外来遺伝子についてすら同じように発現が成功するということは、同じロタウイルス由来のタンパク質については、刊行物Aに具体的に記載されたロタウイルスの特定のタンパク質に限らず、ロタウイルスのタンパク質をコードする遺伝子全般を同様に発現できるであろうことを強く示唆するものであると理解すべきである。
(5) 原告は、乙1〜3に記載された事項はロタウイルスに関する本願優先日当時の技術常識を構成するものでないと主張し、また、刊行物Aや乙1〜3に開示されたベクターは本願明細書に記載されたベクターと異なっていること、ロタウイルスは他の遺伝子のように他の発現系での発現についての知見が多数蓄積されておらず事情が異なることなどを理由に、刊行物Aの記載及び乙1〜3に記載されたプロトコルに基づいて本願発明1に容易に到達することはできないと主張する。
しかしながら、乙1〜3には、それぞれ、種々の外来遺伝子をバキュロウイルス発現系に組み込んで発現させるための詳細な方法が記載されていることが認められ、これらは、バキュロウイルス発現系に関する本願優先日当時の技術常識を構成するものといえるから、刊行物Aにおけるバキュロウイルス発現系についての記載を理解する上で参酌すべきものであって、それらを参酌すれば、刊行物Aに記載に基づき、本願発明1に到達することは容易であったというべきである。また、本願発明1はベクターを特定したものではないから、刊行物Aや乙1〜3に開示されたベクターが本願明細書に記載されたベクターと異なっていることは、本願発明1の進歩性についての判断において考慮する余地がない。ロタウイルス遺伝子についても、他の発現系での発現に関する知見が本願優先日前に存在していたことは前示のとおりであるから、他の遺伝子の場合と格別事情が異なるともいえない。
(6) 以上のとおり、本願発明1は、刊行物A及び刊行物Bの開示に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきであり(前記(1))、原告が本願発明1が想到困難なものであるとして挙げる理由は、いずれも採用することができない(同(2)ないし(5))。
取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(手続補正書の取扱いの誤り)について 平成11年3月31日付け手続補正書は、原告が審判を請求した平成10年12月18日から30日を経過した後に提出したものであるから、これを却下ないし不受理としたことに違法は認められないばかりか、上記手続補正書は、被告主張のように本願発明1に択一的に記載されるロタウィルスのジーンの選択肢をさらに追加するにすぎないものであるから、これによって進歩性についての判断が変わるものでもないことは明らかであり、したがって、いずれにしても原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利