関連審決 | 不服2000-13516 |
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関連ワード | 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
95号
審決取消請求事件
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原告 三伸プラスチック株式会社 訴訟代理人弁理士 鈴木正次 同 涌井謙一 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 鈴木 美知子 同 山崎勝司 同 小曳満昭 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/12/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-13516号事件について平成15年2月3日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年8月3日,名称を「封緘付キャップ」とする発明につき特許出願(平成11年特許願第220075号。以下「本件出願」という。)をし,平成12年7月21日に拒絶査定を受けたので,平成12年8月25日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを不服2000-13516号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成12年8月25日付けの手続補正書により明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の補正(以下,審決と同様に「本件補正」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成15年2月3日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年2月18日,その謄本を原告に送達した。 2 本件補正前の特許請求の範囲【請求項3】(別紙図面A参照) 「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段を設けると共に,合成樹脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップの下端面に設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結したことを特徴とする封緘付キャップ。」(以下,この請求項3の発明を審決と同様に「本願発明」という。) 3 本件補正後の特許請求の範囲【請求項3】(別紙図面A参照) 「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段を設けると共に,合成樹脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップの下端面に設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結し前記掛止筒には,壜口部の環状鍔と掛止する上向掛止片を設けたことを特徴とする封緘付キャップ。」(以下,この請求項3の発明を審決と同様に「本願補正発明」という。) 4 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本願補正発明は,特開平8-244806号公報(甲第3号証。以下,審決と同様に「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は却下されるべきものである,A本願発明も,本願補正発明についての理由と同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。 審決が,上記結論を導く過程において,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 一致点 「合成樹脂製のキャップに封緘環を嵌着固定したキャップにおいて,キャップの下端面に設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一体化し,該封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結し前記掛止筒には,壜口部と掛止する上向掛止片を設けたことを特徴とする封緘付キャップ。」 相違点 「本願補正発明において「キャップに壜口外壁部と弾力当接する弾性変形手段を設ける」のに対し,引用例には,上記弾性変形手段を設けることについて記載されていない点。」(以下,審決と同様に「相違点1」という。) 「本願補正発明において掛止筒の上向掛止片が「壜口部の環状鍔」と係止するのに対し引用例に記載された弾性係合部の折返上端は壜口部のアンダーカット部に係合するとされている点。」(以下,審決と同様に「相違点2」という。) |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),相違点1及び2についての判断を誤ったものであり(取消事由2ないし4),これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過) 審決は,本願補正発明と引用発明との封緘環に係る次の相違点を看過し,この相違点についての判断を遺脱した。 (1) 本願補正発明は,掛止筒(弾性との特定がない。)に上向掛止片を設けたものであるのに対し,引用発明においてこれに対応する部分は,V字状の弾性係合部である。両者は,この点でも相違する。 (2) 本願補正発明は,連結線が,連結筒と掛止筒とを上下に連結している。これに対し,引用発明は,複数のブリッジ部が,係合突部の内面下部と弾性係合部の外面上部とを横方向に連結している(引用発明のブリッジ部は,引用例に「係合突部と弾性係合部の間の上下方向の移動に自由度をもたせて装着時のブリッジ部の破断が起こりにくくする」(甲第3号証【0011】)と記載されていることからして,横方向に配置することが要件となっていると解すべきである。)。両者は,この点でも相違する。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 審決は,相違点1に関し,「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの弛みを防止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けることは,本願出願前周知の技術的事項であり[必要であれば,原査定の拒絶の理由に引用された実願昭52-155363号(実開昭54-81849号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第4号証,以下「甲4文献」という。),及び実願昭53-152544号(実開昭55-69057号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第5号証,以下「甲5文献」という。)等参照],上記の周知技術を,キャップの弛み防止の目的で,引用例に記載されたような未開封プルーフリング(封緘環)を係着したキャップに適用することは,当業者が容易になし得る事項であり,その効果も,周知の技術的事項から予測しうる範囲内のものである。」(審決書4頁4段)と認定判断した。 しかし,甲4文献及び甲5文献に記載された技術は,単なる公知技術であり,周知の技術ではない。審決は,公知技術を周知技術と誤認した結果,引用発明に公知技術を設けることについての検討をすることなく,上記のとおり判断したものである。審決の上記判断は,誤りである。 甲5文献に記載された公知技術は,金型が外れやすく,かつ,材質上も適度の弾性を保つ材質がなく,また,金型を容易に外す工夫もなかった昭和55年当時の技術では,実現不可能であった。同公知技術は,このように,公開公報に記載されてはいたものの,具体的製品にすることができなかったため,当業者がだれでも必要に応じて採用できる技術とはなっていなかった。このようなものを周知技術ということはできない。 被告は,甲4文献及び甲5文献に記載された構造は,これら文献の公開の日から本願出願の日までの20年余にわたって当業者に知られていたのであり,このことは,上記技術が周知技術であるとするに十分である,と主張する。 しかし,被告の主張とは逆に,引用発明に甲4文献及び甲5文献記載の公知技術を組み合わせることが,20年間も実現されなかったということは,この組合せの困難性を明白に物語るものである。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 審決は,相違点2について,「本願補正発明の「上向掛止片」及び引用例に記載された「折返上端」はいずれも掛止筒或いは弾性係合部が,開封に際してキャップ本体と共に上昇するのを阻止するために壜口部に係合するものであり,対応する壜口部に上下方向の段部があればそこに係止するのは当然である。すなわち引用例に記載されたような弾性係合部を備えたキャップを,壜口部に環状鍔部のあるような壜に適用する場合に瓶口部のアンダーカット部に係合するようにされていた折返上端を,本願補正発明における上向掛止片のように環状鍔部に掛止するようにすることは,当業者が実施に際して適宜なし得る設計的事項に過ぎない。」(審決書4頁末段〜5頁1段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。 本願補正発明は,上向掛止片を,壜口部の環状鍔と掛止する。そのため,掛止が確実であり,確実に封緘の目的を達成することができる。これに対し,引用発明は,V字状弾性係合部の内板部26の上端が壜口部のアンダーカット31に係止している。そして,壜口部のアンダーカットは,曲面に形成されている。そのため,弾性係合部が上方に引き上げられると,内板部26の先端がアンダーカットの曲面に沿って壜口部の外側に移動して,外れるおそれがある。当業者は,引用発明を知っているだけでは,本願補正発明のこのような構造を容易に発明することはできない。 4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の遺脱) 引用例には,弾性変形手段を付加する点についての記載がなく,甲4文献及び甲5文献には,封緘についての記載がない。それにもかかわらず,審決は,相違点1及び相違点2に係る各構成を組み合わせることの容易性について判断をしていない。 本願補正発明では,キャップのみが意に反して回転して封緘が解除されることがないように,「キャップと封緘環とを一体化し」(請求項3)との構成を備えている。すなわち,本願補正発明においては,相違点1に係る構成と相違点2に係る構成とは一体不可分の関係にあり,相違点1に係る構成がなければ,相違点2に係る構成の作用効果が不確実になるのであるから,相違点1及び相違点2に係る各構成を組み合わせることの容易性についての判断も必要となるのである。 |
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被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過)について 審決の相違点の認定に誤りはない。原告の主張はすべて争う。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 甲4文献及び甲5文献には,本願補正発明におけると同じくキャップの弛みを防止することを目的として,@キャップの螺旋条に溝を設けること(甲4文献)と,Aキャップの端面に壜口外壁の鍔部と弾力当接する弾性突片を設けること(甲5文献)が記載されているのであるから,キャップが具体的製品になったか否かにかかわらず,その構造は,これら文献の公開の日から本願出願の日までの20年余にわたって当業者に知られ得る状況に置かれていたのである。このことは,上記技術が周知技術であるとするに十分なことというべきである。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 本願補正発明の上向掛止片及び引用発明の弾性係合部の折返上端である内板部は,いずれも,掛止筒あるいは弾性係合部を開封するに際して,キャップ本体とともに上昇するのを阻止するために壜口部に係合するものである。そして,これら掛止する部材に対応する壜口部に上下方向の段差があれば,そこに掛止する部材を係止するのは当然のことである。 そうだとすると,引用発明のような弾性係合部を備えたキャップを,壜口部に環状鍔部のあるような壜に適用する場合に,瓶口部のアンダーカット部に係合するようにされていた弾性係合部の折返上端である内板部を,本願補正発明における上向掛止片のように環状鍔部に掛止するようにすることは,当業者が実施に際して適宜なし得る設計事項にすぎないことが明らかである。 4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の遺脱)について キャップに弾性変形手段を設けることと,封緘環を設けることとは,両者の間に機能的に相互に関連する点はなく,それぞれが独立してその目的と効果を持つものである。すなわち,相違点1と相違点2とはそれぞれに係る構成が密接不可分に関連するものではない。このようなとき,両者の組合せについて検討する必要はない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(封緘環に係る相違点の看過)について (1) 原告は,審決が,本願補正発明は,掛止筒(弾性との特定がない。)に上向掛止片を設けたものであるのに対し,引用発明においてこれに対応する部分は,V字状の弾性係合部である,との相違点を看過した,と主張する。 確かに,本願補正発明の掛止筒に相当する引用発明の弾性係合部は,弾性である。しかし,本願補正発明も,「掛止筒には,・・・上向掛止片を設けた」(甲第2号証の2,請求項3)ものであるにすぎず,その掛止筒には,弾性との限定も非弾性との限定もなく,本願出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明にも,本願補正発明の掛止筒を弾性のものあるいは非弾性のものに限定して解すべきであると認めるべき記載もない。このように,本願補正発明の掛止筒は,弾性のものも非弾性のものも含むことが明らかである。したがって,審決が,本願補正発明の掛止筒と引用発明の弾性係合部とを一致点と認定し,弾性係合部の弾性について相違点と認定しなかったことには,何の誤りもない。原告の主張は失当である。 (2) 原告は,本願補正発明は,連結線が,連結筒と掛止筒とを上下に連結しているのに対し,引用発明は,複数のブリッジ部が,係合突部の内面下部と弾性係合部の外面上部とを横方向に連結している,との相違点を看過した,と主張する。 引用例には,「このブリッジ部は係合突部の内面下部と弾性係合部の外面上部とを結ぶ複数のブリッジからなる。・・・ブリッジの本数および形状は上記の目的を達成しうるものであればよいが,本数は2本以上,通常は4〜20本程度が適当である。形状は断面が円,楕円,正方形,長方形,長板状等如何なる形状であってもよい。連結方向も半径方向に限定されず,例えば斜めであってもよい。」(甲第3号証【0011】)との記載がある。これによれば,引用発明におけるブリッジ部の連結の方向は,半径方向に限られず,少なくとも上下方向に斜めであってもよいことが明らかである。一方,引用発明のブリッジ部に相当する本願発明の連結線については,特許請求の範囲には,「封緘環は連結筒と掛止筒とを切断容易な連結線で連結し」と記載されているだけで,その連結方向についての限定的な記載は一切ない。また,本願発明の実施例のものは,連結筒と掛止筒とを上下方向に連結しているものの(甲第2号証の1,9頁【図4】,10頁【図15】参照),本願明細書の発明の詳細な説明を見ても,「連結筒と,掛止筒を切断容易な連結線で連結する」(甲第2号証の1,7頁【0004】)との記載,あるいはこれとほぼ同旨の記載が数か所にある(甲第2号証の1,7頁【0005】,【0007】,【0011】)だけで,本願発明の「連結線」が上下方向のものに限定されることを示す記載はない(本願明細書の【0017】には,「連結筒9の下面には連結線12により掛止筒11の上端部を連結したもので」との記載があるものの,これは,【実施例2】の説明にすぎない。)。このように,本願発明の「連結線」は,特許請求の範囲の記載及び本願明細書の発明の詳細な説明の記載からして,上下方向のものに限定されず,斜め方向のものも,横方向のものも含まれ得ることになるのであるから,審決が,本願発明の「連結線」と引用発明の「ブリッジ部」とを一致点と認めたことについては,何らの相違点の看過もない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの弛みを防止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けることは,本願出願前周知の技術的事項であり」(審決書4頁4段)と認定したことにつき,同技術は,単なる公知技術であり,周知の技術ではない,甲5文献に記載された公知技術は,金型を容易に外す工夫もなかった昭和55年当時の技術では,実現不可能であり,具体的製品にすることができなかった,と主張する。 しかしながら,甲5文献には,「合成樹脂製ねじキャップの大径裾部内周面に,壜口の雄ねじ外周に接触することなく,かつ雄ねじ外径よりも大きな外径を有する壜口のネックリング部の下面以外の周面に密接する当接片を設けたねじキャップの弛み防止装置。」(甲第5号証の全文補正明細書1頁4行〜8行)との記載があり,審決が認定した「合成樹脂製の壜キャップにおいて,キャップの弛みを防止するために,壜口外壁部に弾力的に当接する弾性変形手段を設けること」との技術事項が開示されていることが明らかである。 甲4文献にも,「壜口部Bのネジ3に螺合し得るネジ山1をその内壁面に突設してなる栓Aに於て,前記ネジ山1の中央部に深い溝2を穿設して構成してなる栓戻り防止栓。」(甲第4号証1頁5行〜8行)との記載があり,審決が認定した上記技術事項が開示されていることが明らかである。 甲4文献及び甲5文献が,それぞれ昭和54年,昭和55年に公開され,頒布されたものである以上,上記各技術は,本件出願当時,キャップの技術分野における当業者に十分に知られていたものというべきであり,審決が上記技術を周知と認定したことに何ら誤りはない。 仮に,原告が主張するように,甲5文献に記載されたものが当時の技術では実現されたことがなく,具体的製品にならなかったとしても,甲5文献には上記技術事項が発明として明確に記載されていたのであり(甲第5号証),甲5文献に接した当業者が,審決が認定した限度において,その技術事項を明確に理解することができるものである以上,原告が主張するようなことは,審決が周知技術を認定することを妨げる理由とはならない。 (2) 原告は,引用発明に甲4文献あるいは甲5文献に記載された公知技術を組み合わせることが,20年間も実現されなかったということは,この組合せの困難性を明白に物語るものである,と主張する。 しかし,引用発明の封緘付キャップも,壜口部に装着するキャップである以上,その弛みを防ぐことは自明の課題であるから,上記周知技術を,キャップの弛み防止の目的で,引用発明に適用して本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得る事項であり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 原告は,本願補正発明は,上向掛止片を壜口部の環状鍔と掛止するので掛止が確実であるのに対し,引用発明は,弾性係合部の内板部を曲面に形成されるアンダーカットに係止するので外れるおそれがある,と主張する。 しかし,壜口部に環状鍔部のあるような壜は,例示するまでもなく,本件出願前に周知であり,この壜口部の環状鍔部は,壜口部の上下方向における段差であることが明らかである。そして,上下方向における段差であれば,引用発明における壜口部のアンダーカットと同様に,係止部の役割を果たし得ることも明らかである。したがって,弾性係合部の内板部を,壜口部の上下方向における段差部分に係合させる引用発明のような封緘付キャップを,上記周知の壜を用いて,壜口部の上下方向の段差部分である環状鍔部に掛止するようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項にすぎないことが明らかである。 原告が主張する効果の差異は,当業者が適宜なし得る設計的事項の範囲内の構成から十分に予想し得るものにすぎない。審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(相違点1及び相違点2に係る各構成の組合せについての判断の遺脱)について 原告は,引用例には,弾性変形手段を付加する点についての記載がなく,甲4文献及び甲5文献記載の公知技術には,封緘についての記載がないにもかかわらず,審決は,相違点1及び相違点2に係る各構成を組み合わせることの容易性について判断をしていない,と主張する。 審決は,本願補正発明と引用発明との一致点として,「キャップの下端面に設けた環状溝に,封緘環の環状嵌合部を嵌入掛止して,前記キャップと封緘環とを一体化し」(審決書4頁10行〜12行)た点を認定し,引用発明を「キャップと封緘環とを一体化し」たものと認定した上で,相違点1及び相違点2について,上記のとおり,判断したものであることは明らかである。 このように,審決は,引用発明について,本願補正発明と上記のような一致する構成があることを前提とした上で,上記のとおり,相違点1に係る構成に関し,自明の課題を解決するために周知の技術を用いて本願発明の構成に至ることは容易であると判断し,相違点2についても,単なる設計的事項であると判断したものである。審決の「本願補正発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書5頁2段)との判断は,引用発明について,相違点1と相違点2に係る各構成を組み合せることが容易に想到し得ることかどうかについての全体的判断も踏まえた上での判断であると解するのが相当であり,上記各相違点に係る各構成同士の間に,格別,両者を組み合わせることを困難にする事情は認められないことに照らすと,審決の上記判断は,正当ということができる。 5 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |