関連審決 | 異議2001-71140 |
---|
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 技術的意義 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
14年
(行ケ)
574号
特許取消決定取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社三洋物産 訴訟代理人弁理士 兼子直久 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 藤井靖 子、中村和 夫、大野克 人、大橋信 彦、林栄二 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/12/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
特許庁が異議2001-71140号事件について平成14年9月30日にした決定を取り消す、との判決。 |
|
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成3年1月28日に名称を「パチンコ機」とする発明について特許出願し(特願平3-27953号)、平成12年8月18日に特許第3099383号として設定登録を受けた(本件特許)。 本件特許に対し特許異議の申立てがされ(異議2001-71140号)、原告は、平成14年6月24日に訂正の請求をしたが、特許庁は、平成14年9月30日、「訂正を認める。特許第3099383号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本を同年10月21日原告に送達した。 2 本件特許の特許請求の範囲(平成14年6月24日付け訂正請求による訂正後のもの)【請求項1】 (以下この発明を「本件発明」という。) 遊技盤に設けられ且つ特別装置作動領域を含む複数の通過領域が形成された特別入賞装置に誘導された打球が前記特別装置作動領域を通過したときに権利発生状態を開始し、再度特別装置作動領域を打球が通過したとき又は前記遊技盤に設けられる始動入賞口に所定個数の打球が入賞したときに権利発生状態を終了すると共に、 権利発生状態中に前記始動入賞口に打球が入賞する毎に変動入賞装置を所定の態様で開放駆動するパチンコ機において、 前記始動入賞口には、常時駆動しつつ 前記変動入賞装置に許容された開放時間よりも長い時間の経過毎に打球を受け入れることが可能な打球受入機構を内蔵しており、その 打球受入機構 は、打球 の受け入れ不能 な状態時 に、打球 を受け入れるための侵入口 へ打球 が到達 した 場合 にその 侵入口 で打球 を1個のみ 待機 させる 構成 を備えている ことを特徴とするパチンコ機。 (下線は訂正による付加部分) 3 決定の理由の要旨 (1) 決定は、本件発明は、刊行物1(特開平1-256987号公報、甲4)及び刊行物2(特開昭63-262169号公報、甲5)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取り消すべきものであるとした。 決定は、上記の結論を導くに当たり、本件発明と刊行物1記載の発明(以下「引用発明1」という。)との一致点及び相違点を以下の(2)のとおり認定し、相違点について、要旨、以下の(3)のとおり判断した。 (2) 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点 本件発明と引用発明1とは、 「遊技盤に設けられ且つ特別装置作動領域を含む複数の通過領域が形成された特別入賞装置に誘導された打球が前記特別装置作動領域を通過したときに権利発生状態を開始し、再度特別装置作動領域を打球が通過したとき又は前記遊技盤に設けられる始動入賞口に所定個数の打球が入賞したときに権利発生状態を終了すると共に、 権利発生状態中に前記始動入賞口に打球が入賞する毎に変動入賞装置を所定の態様で開放駆動するパチンコ機において、始動入賞口は、前記変動入賞装置に許容された開放時間よりも長い時間の経過毎に打球を受け入れることが可能な打球受入機構を備えているパチンコ機」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:打球受入機構が、本件発明では、始動入賞口に内蔵され、常時駆動されているのに対し、引用発明1では始動入賞口の上部に近接してあるいは始動入賞口と一体的に形成されており、常時駆動されていない点。 相違点2:打球受入機構が、本件発明では、打球の受け入れ不能な状態時に、打球を受け入れるための侵入口へ打球が到達した場合にその侵入口で打球を1個のみ待機させる構成を備えているのに対し、引用発明1はそのような構成になっていない点。 (3) 相違点についての判断 相違点1について検討する。 刊行物2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)には、第1変動入賞装置に入賞した玉を入賞球貯留部21から1個宛自動的に第2変動入賞装置6の開成時間よりも長い期間の経過毎に一定間隔で払い出す玉排出装置25(打球受入機構に相当)を第1変動入賞装置に内蔵するとともに、常時駆動する打球受入機構の構成が記載されており、引用発明1においても、玉入口154から流入した打玉を排出する回転体157は可変入賞球装置152に内蔵され、常時駆動されているものであるから、引用発明1に当該構成を採用することは当業者にとって格別困難ではない。そして当該構成を採用したことによる効果も当業者が予測可能の範囲内のものである。 相違点2について検討する。 本件発明の「打球受入機構」に相当する引用発明2の「球排出装置25」は回転盤26が入賞球の受け入れ不能な状態時には、入賞球は貯留球待機部23Aで待機するようになっており、何個待機させるかは当業者が適宜選択する事項にすぎず、 1個のみ待機させるようにした点に格別の技術的意義も認められないから、当該相違点は単なる設計的事項である。そして、引用発明1と引用発明2は、「権利発生後、始動入賞玉受口(第1変動入賞装置)に入賞すると玉受け部材(第2変動入賞装置)が一定期間開成され、その開成期間が終わってから、始動入賞口(第1変動入賞装置)に入賞した打ち玉を検出し、再度玉受け部材(第2変動入賞装置)が開成するパチンコ遊技機」という同一の技術分野に属するものであるから、引用発明1に引用発明2を適用して、本件発明のようにすることは当業者が容易になし得る事項である。 さらに、引用発明1は、当初における開成状態中に連続して設定記憶個数を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がなく、遊技者に不満を与えることがないという作用効果を奏するものであるから、 本件発明の奏する効果も、刊行物1に記載されている。 なお、特許権者は、特許異議意見書において、「異議甲1(引用発明1)のパチンコ機は、打球受入機構に相当する「打玉貯留装置60」と始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、52c」との間に飛来する打玉を極めて僅かな確率であるが、始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、52c」に入賞するように調節できるようにしたものであり、始動入賞口には打玉受入機構以外からも打球が入賞し得るのであるから、異議甲1には、変動入賞装置に相当する「玉受部材164a、164b」に許容された開放時間よりも長い時間の経過毎に打球を受け入れることが可能な打球受入機構に相当する「打玉貯留装置60」は開示されていない」旨の主張をしているが、当該「打球受入機構に相当する「打玉貯留装置60」と始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、52c」との間に飛来する打玉を極めて僅かな確率であるが、始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、52c」に入賞する」は打球受入機構の問題ではなく、打球受入機構と始動入賞口との間の構成によるもので、この構成については前記相違点1で検討したように当業者にとって容易なことであり、その効果すなわち前記「打球受入機構に相当する「打玉貯留装置60」と始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、 52c」との間に飛来する打玉を極めて僅かな確率であるが、始動入賞口に相当する「始動入賞玉受枠52b、52c」に入賞する」の入賞が防止されることも当業者の予測の範囲内のことである。しかも、引用発明1の前記摘記の記載「玉受部材164a、164bが開成状態にあるときには・・1回又は2回という当初における開成状態中に連続して設定記憶個数(7個)を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がなく、遊技者に不満を与えることがない。」によれば、打玉貯留装置は玉受部材164a、164bに許容された開放時間よりも長い時間の経過毎に打球を開放することが開示されていることは明らかであるから、特許権者のこの点に関する主張は採用できない。 よって本件発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 |
|
原告主張の取消事由
本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定は争わないが、相違点についての判断は誤りである。 1 取消事由1(相違点2に関して、侵入口に打球を1個のみ待機させるか2個以上待機させるかは単なる設計事項であるとした判断の誤り) 侵入口で打球を1個のみ待機させるか、2個以上待機させるかは、本件発明のパチンコ機の遊技性を左右するほどの大きな技術的意義を有する相違点である。 決定が、相違点2に関して、「本件発明の「打球受入機構」に相当する引用発明2の「球排出装置25」は、回転盤26が入賞球の受け入れ不能な状態時には、入賞球は貯留球待機部23Aで待機するようになっており、何個待機させるかは当業者が適宜選択する事項にすぎず、1個のみ待機させるようにした点に格別の技術的意義も認められないから、当該相違点は単なる設計事項である。」と判断したことは誤りである。 本件発明の遊技機では、打球を始動入賞口へ入賞させて変動入賞装置を開放駆動させた場合には、打球受入機構が次の打球を受入可能となるまでに、新たな打球を侵入口で待機させるように弾発する遊技の技術介入性、すなわち、権利発生後にいかに効率的に始動入賞させて、より多くの利益を獲得するかという遊技性を備えている。 一方、引用発明2の「球排出装置25」のように、2個以上の入賞球を貯留する入賞貯留部21を設け、その入賞球貯留部21に貯留された入賞球一個宛所定間隔で自動的に排出する構成では、「権利発生状態」となったときに、打球を始動入賞口へ入賞させるべく弾発するという本件発明の遊技性が失われてしまう。例えば、 権利発生状態において、入賞球貯留部21に、複数の入賞球(場合によっては変動入賞装置の最大開放駆動数分の入賞球)が貯留されていれば、打球を始動入賞口に入賞させるような弾発動作を行わずとも、変動入賞装置の開放駆動が約束されるので、打球を始動入賞口へ入賞させるという遊技の技術介入性が失われてしまう。 引用発明2の「球排出装置25」は、本件発明の「打球受入機構」を開示するものでも示唆するものでもない。 以上のように、本件発明では、侵入口で打球を1個のみ待機させる構成により遊技性が創出されるのであるから、何個待機させるかは当業者が適宜選択する事項ではなく、1個のみ待機させる構成に技術的意義がある。 よって、本件発明は、引用発明1に引用発明2を適用して当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 取消事由2(相違点2に関して、本件発明の効果は刊行物1にも記載されているとした判断の誤り) 決定は、相違点2の判断において、引用発明1の効果につき、開成状態中に連続して設定記憶個数を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がなく、遊技者に不満を与えることがないとの認定をしたが、この認定は誤りであるから、「本件発明の奏する効果も刊行物1に記載されている」という決定の認定も誤りである。 (1) 引用発明1は、1回又は2回という当初における開成状態中に連続して設定記憶個数を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がないというものであり、3回目以降の玉受部材164a、164bの開成状態中には、1回目の開成から合計して設定記憶個数(7個)を超える打玉が始動入賞玉受口150a、150bに入賞して、玉受部材164a、164bの開成が7回未満であっても、権利発生状態を解消し得るものであるから、本件発明の「変動入賞装置の許容最大回数の開放を確保することができる」との効果は刊行物1には記載されていない。 (2) 引用発明1は、「変動入賞装置の許容最大回数の開放を確保することができる」との効果を奏し得ないものである。これは、そもそも両者の遊技性が根本的に相違するからである。 引用発明1は、権利発生後に、変動入賞装置に相当する「玉受部材164a、164b」をいかに多く開成させて獲得利益をアップするか、という遊技性を備えたものである。すなわち、権利発生後の玉受部材164a、164bの開成状態中に、いかに打玉を始動入賞玉受口150a、150bへ入賞させないように 弾発して、玉受部材164a、164bをいかに多く開成させるか(権利発生後の玉受部材164a、164bの開成回数が弾発の仕方によって変化する。)という遊技性を備えている。 引用発明1は、上述のように「権利発生後の玉受部材164a、164bの開成回数が弾発の仕方によって変化する」という遊技性を持たせるために、玉受部材164a、164bの開成を最大許容回数確保 する 構成 を採用 することはできず 、それゆえ、打玉貯留装置60以外からも打玉が中央及び左右の始動入賞玉受枠52a、52b、52c(始動入賞口及び始動入賞玉受口150a、150bに相当)に入る構成と、逆に打玉貯留装置60から放出された打玉であっても左右の始動入賞玉受枠52b、52cに入らない構成とを併せて採用している。その一方で、せっかくの権利発生後、1回又は2回という当初における玉受部材164a、164bの開成状態中に、打玉が連続して始動入賞玉受口150a、150bに入賞して権利発生状態を解消することがないように、玉受部材164a、164bが開成状態にあるときには、打玉貯留装置60に貯留する打玉を放出しない構成を採用しているのである。 このように、引用発明1では、その上述のような遊技性ゆえに、打玉貯留装置以外から始動入賞玉受枠52b、52cに打球が入賞する構成を採用せざるを得ないのであり、本件発明のように、変動入賞装置に許容された開放時間よりも長い時間の経過ごとに打球を受け入れることが可能な打球受入機構の構成を採用することはできないのである。 以上のように本件発明と引用発明1とは、遊技性の相違に起因して、構成が異なるのであり、引用発明1は、本件発明の効果を奏さない。 3 取消事由3(本件発明の商業的成功)について 本件発明は、侵入口で打球を1個のみ待機させる構成の「打球受入機構」に基づく特徴ゆえに商業的成功を収めているので、進歩性を有するものである。 |
|
被告の反論の骨子
1 取消事由1(相違点2に関して、打球を1個のみ待機させるか2個以上待機させるかは単なる設計事項であるとした判断の誤り)に対して 原告は、侵入口で打球を1個のみ待機させるか、2個以上待機させるかは、本件発明のパチンコ機の遊技性を左右するほどの大きな技術的意義を有する相違点であると主張するが、本件明細書には、遊技性についての記載はないから、原告の主張は明細書の記載に基づかない主張である。しかも、原告の主張する「遊技性」の意義は、不明瞭であり、遊技性の相違に基づく主張は認められない。 2 取消事由2(相違点2に関して、本件発明の効果は刊行物1にも記載されているとした判断の誤り)に対して (1) 引用発明1には、原告が主張する、3回目以降の玉受部材164a,164bの開成状態中には、1回目の開成から合計して設定記憶個数(7個)を超える打玉が始動入賞玉受口150a,150bに入賞して、玉受部材164a,164bの開成が7回未満であっても、権利発生状態を解消し得る旨の記載は認められない。かえって、引用発明1は、「玉受部材164a、164bの予め定められた開成回数をほぼ確実に達成することができる。」(甲4の17頁右上欄8〜10行)、「設定記憶個数を超えるような連続的に始動入賞領域に入賞する事態を防止できるので、特定遊技状態の途中でその状態を解除されることがなく」(同19頁左下欄7〜10行)との記載から明らかなように、予め定められた開閉回数をほぼ確実に達成することができるという、本件発明と同様の効果が記載されている。 したがって、決定が、本件発明の効果は引用発明1に記載されているとした認定に誤りはない。 (2) 刊行物1には3つのタイプのパチンコ機が記載されており、決定が認定している引用発明1は、設定記憶個数を超えて始動入賞があると特定遊技状態が解消してしまう弾球遊技機に打玉貯留装置60を応用したタイプのパチンコ機(第3実施例)である。 しかも、刊行物1には「始動入賞領域と打玉貯留装置とを一体的に形成しても良い。」(甲4の19頁右上欄12行から13行)と記載されているのであるから、 引用発明1が打玉が打玉貯留装置60以外から始動入賞玉受枠に入る構成と打玉貯留装置60から放出された打玉が始動入賞玉受枠に入らない構成とを併せて設けるものに限られないことは明らかである。 さらに、原告が主張する引用発明1の遊技性、すなわち、権利発生後の玉受部材164a、164bの開成回数が弾発の仕方によって変化するという遊技性は、原告が主張する本件発明の遊技性、すなわち、「「権利発生状態」となったときに打球を始動入賞口へ入賞させるべく弾発するという、本件発明の上記遊技性」(第1回準備書面第4頁第20〜23頁)からすれば、弾発の仕方により始動入賞口に入るか否に基づいて変動入賞装置の開成回数が相違することとなり、当該事項を考慮すれば、本件発明の遊技性と同様である。 してみれば、引用発明1においても、玉受部材164a、164bの開成を最大許容回数確保できることは、本件発明と同様である。 3 取消事由3(本件発明の商業的成功)に対して 侵入口で打球を1個のみ待機させる構成としたことが商業的成功の原因であることを示すものはないから、商業的成功を根拠とする原告の主張は、失当である。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2に関して、打球を1個のみ待機させるか2個以上待機させるかは単なる設計事項であるとした判断の誤り)について (1) 原告は、打球受入機構が侵入口で打球を1個のみ待機させる構成(本件発明)か2個以上待機させる構成(引用発明2)かは、本件発明のパチンコ機の遊技性を左右するほどの技術的意義のある相違点であるとして、引用発明1に引用発明2の入賞球貯留部(侵入口)に打球を2個以上待機させ自動的に排出する構成を採用する際に、待機させる打球を1個とするか2個以上とするかは当業者が適宜選択する事項ではない、と主張する。 (2) 原告の主張する本件発明の「遊技性」とは、権利発生後にいかに効率的に始動入賞を発生させるか(効率的に始動入賞させることで、より多くの利益を獲得できる。)ということに関わるものであり、本件発明の遊技機においては、遊技者がより多くの利益を獲得するために「打球を始動入賞口に入賞するように弾発する」という部分にあるというのが原告の主張である。 しかしながら、侵入口に待機させる打球を1個とすることの技術的意義ないし「遊技性」の見地からする意義については、本件明細書(甲3の訂正明細書)に何ら記載がないのみならず、引用発明1に引用発明2を組み合わせたものにおいて侵入口に待機する打球の数を増やせば、それだけ始動入賞装置に入賞する機会が増えるから、侵入口に打球を2個以上待機させる構成としたからといって、「打球を始動入賞口に入賞するように弾発すること」(原告はこの点に本件発明の遊技性があると強調する。)の意義ないし遊技者にとっての興趣は失われることにはならないものと解される。結局、待機する打球を1個とするか2個以上とするかは、決定の認定したとおり、当業者が適宜選択し得る事項にすぎないというべきである。 取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点2に関して、本件発明の効果は刊行物1にも記載されているとした判断の誤り)について (1) 原告が取消事由2として主張するところは、要するに、引用発明1は、「変動入賞装置の許容最大回数の開放を確保することができる」との本件発明の作用効果を奏し得ないものであるから、引用発明1に引用発明2を適用しても、本件発明の作用効果は得られないことをいうものと解される。 (2) そこで、引用発明1の作用効果についてみるに、刊行物1(甲4)の「発明が解決しようとする課題」の項には、「上記したような弾球遊技機においては、弾球遊技を行っている最中に弾球遊技機特有のスランプ状態が発生して、設定記憶個数を超えて打玉が連続的に始動入賞領域に入賞するような場合があり、このような場合には、その設定記憶個数を超えて入賞したものについては、無効となるように設定されているか、又は、特定遊技状態そのものが解消されるように設定されている。このため、遊技者に対して、特定遊技状態を現出させるための機会が少なくなったような不満を与えたり、あるいは低い確率でしか発生しない特定遊技状態が途中で解消されてしまうという不満を与える等の問題があった。この発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、打玉が設定記憶個数を超えて連続して入賞して始動入賞領域に入賞するような場合であっても、その設定記憶個数を超えて入賞した入賞玉の一部を無効とすることなく、あるいは設定入賞個数を超えて入賞したことにより特定遊技状態が解消されることのない弾球遊技機を提供することにある。」(2頁左上欄6行から右上欄6行)と記載されており、これによれば、刊行物1に記載された発明は、遊技者からみて、特定遊技状態を現出させるための機会が少なくなったような不満を与えず、あるいは低い確率でしか発生しない特定遊技状態が途中で解消されてしまう不都合を防止することを目的とするものであると認められる。 ところで、決定が引用する引用発明1は、刊行物1に上記課題を解決する具体的形態として開示された第1ないし第3実施例のうちの第3実施例、すなわち、「打玉が特定入賞口に入賞することにより、まず、特定遊技状態となる条件が成立し、 その条件が成立している状態において、打玉が始動入賞領域に入賞すると、遊技装置としての大型の入賞装置が一定期間開成して打玉を受け入れ易くするもので・・・再度特定入賞口に打玉が入賞することにより、前記条件が解消され、また、設定記憶個数を超える打玉が連続して始動入賞領域に入賞した場合にも同様に前記条件が解消されるようになっている」(甲4の18頁右下欄1行から12行)タイプの弾球遊技機に打玉貯留装置60を応用したものであるところ、第3実施例については、次のような記載がある。 ア まず、第3実施例が前提とするタイプのパチンコ機についての全般的説明として、「上記の様な構造から成る可変入賞球装置152は、・・・打玉が・・・特定入所口161に入賞すると、・・・権利発生の条件が成立した状態となる。このような状態で、・・・打玉が始動入賞玉受口150a,150bに入賞すると、 特定遊技状態となり、玉受部材を一定時間(例えば、10秒)が経過するまで、又は一定の個数(例えば、10個)の入賞玉が発生するまで開放状態を続けるようになっている。そして権利発生の条件が成立している限り、始動入賞玉受口150a、150bに打玉が入賞する毎に上記の開放状態を最高8回まで継続できるようになっているが、その継続回数の途中であっても、再度特定入賞口161に打玉が入賞したときや、始動入賞玉受口150a、150bに合計8個の打玉が入賞したときには、上記した権利発生の条件が解消されてしまうものである。」(甲4の19頁右下欄16行〜20頁左上欄15行)との記載。 イ 第3実施例の具体的な動作について、「すなわち、遊技中の打玉が、打玉貯留装置60に貯留されているか否かを保留玉検出器75の検出信号に基づいて判別し、保留玉検出器75がONしていると判別された場合には、・・・大当たり権利発生中であるか否かが判別され・・・大当たり権利発生中であると判別された場合には、次いで開閉ソレノイド168a、168bがONしているか否かが判別され・・・大当たり権利発生中でないと判別された場合、及び・・・開閉ソレノイド168a、168bがONしていないと判別された場合には、・・・貯留されていた打玉を始動入賞玉受口150a又は150bに向けて放出し、割り込みを終了する。・・・以上のように、この割込みルーチンにおいては、大当たり権利発生中には、玉受部材164a、164bが開放している状態では、打玉貯留装置60に貯留されている打玉は開放処理されず、玉受部材164a、164bの開放状態が終了すると、開放処理されるようになっている。このため、始動入賞玉受口150a、150bに対して無制限に連続して打玉が入賞することなく、玉受部材164a、164bの予め定められた開成回数をほぼ確実に達成することができる。」(同20頁右下欄17行〜21頁右上欄10行)との記載。 ウ 「以上、説明したように、この第3実施例の場合には、玉受部材164a、164bが開成状態にあるときには、打玉貯留装置60に貯留されている打玉が放出されないようになっているので、1回又は2回という当初における開成状態中に連続して設定記録個数(7個)を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がなく、遊技者に不満を与えることがない。」(同23頁5行〜13行)との記載。 エ 「更に、始動入賞領域と打玉貯留装置とを一体的に形成しても良い。」との記載。 上記各記載によれば、引用発明1は、玉受部材164(変動入賞装置に相当)が開成状態にあるときには打玉貯留装置60に滞留する打玉を放出しない構成を採用することによって、予め定められた開成回数をほぼ確実に達成することができるという、本件発明と同様の効果を奏するものと認められる。 (3) 原告は、引用発明1は、権利発生後に変動入賞装置に相当する「玉受け部材164a、164b」をいかに多く開成させて獲得利益をアップするかという遊技性、すなわち、権利発生後の玉受部材164a、164bの開成状態中にいかに打玉を始動入賞玉受 け口150 a、 150 bへ入賞 させないように 弾発 して 玉受部材164をいかに多く開成させるか(権利発生後の玉受部材164a、164bの開成回数が弾発の仕方によって変化する)という遊技性を備えているものであるから、その遊技性ゆえに、玉受部材の開成を最大回数許容する構成を採用することはできないと主張する。しかし、その主張に理由のないことは、既に説示したところから明らかである。 また、原告は上記(2)のウの記載中の「1回又は2回という当初における開成状態中に連続して設定記録個数(7個)を超えるような打玉が始動入賞玉受口に入賞して権利発生状態を解消するような不都合がなく」の部分は、3回目以降の玉受部材164a,164bの開成状態中には、1回目の開成から合計して設定記憶個数(7個)を超える打玉が始動入賞玉受口150a,150bに入賞して、玉受部材164a,164bの開成が7回未満であっても権利発生状態を解消し得ることを記載したものであるから、引用発明1では本件発明の効果は得られないと主張するが、先に指摘した引用発明1の目的についての記載及び上記(2)アないしエの全体の文脈に照らすと、上記ウの下線部は必ずしも原告の主張するように理解されるものではなく、また、部材のレイアウトに関して、「更に、始動入賞領域と打玉貯留装置とを一体的に形成しても良い。」(上記(2)のエ)と記載されているから、引用発明1においても玉受部材の開成を最大回数許容する構成を採用し得ることは明らかである。なお、引用発明1において、予め定められた開閉回数を「ほぼ確実に」達成することができるとされているゆえんは、設定記録個数を超える打玉が入賞する前に、「再度特定入賞口161に打玉が入賞したとき」に権利発生の条件が解消されてしまうことによると解されるから、この点でも、引用発明1は本件発明と変わるところがない。 したがって、決定が、本件発明の効果は引用発明1に記載されているとした認定に誤りはなく、結局、本件発明の効果は、引用発明1に引用発明2を適用したものについて当然予測される効果の域を出ないというべきである。 (4) その他、原告は、本件発明の遊技性と引用発明1の遊技性との違いについて縷々主張するが、パチンコ遊技機の遊技性は、遊技領域に配置される各部材のレイアウトに依存するところが大きいと考えられるところ、本件発明は、部材のレイアウトを特定しているものではなく、むしろ、本件明細書の段落【0027】【発明の効果】欄の「始動入賞口を変動入賞装置に対してどのような位置に配置しても始動入賞口への打球の受入と変動入賞装置の開放状態が交互に実行されるので、始動入賞口及び変動入賞装置の配置位置の制限がなく、遊技盤の設計の自由度を増すことができる。」との記載に照らすと、部材を自由にレイアウトできることに特徴がある。そうすると、特許請求の範囲に特定された本件発明の構成に基づく遊技性は、権利発生状態となったときに打球を始動入賞口へ入賞させるべく弾発するという、「弾発の仕方によって、変動入賞装置の開成回数が変わり、利益獲得の機会が増える」という抽象的なレベルでのみ認めることができるもので、この点では、原告が引用発明1の遊技性として主張する「権利発生後の玉受部材164a、164bの開成回数が弾発の仕方によって変化する」ことと実質的に変わりがない。したがって、遊技性に起因して、引用発明1は本件発明と効果が相違するという主張は採用することができない。 (5) 以上のとおりであるから、取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(商業的成功)について 原告は、侵入口で打球を1個のみ待機させる構成としたことにより本件発明は商業的成功を収めている旨主張するが、商業的成功自体の事実を認めることのできる証拠がないのみらず、そもそも商業的成功の事実は発明の進歩性を判断するに際しては補助的な要素にすぎないところ、仮に商業的成功の事実があったとしても、本件発明と引用発明1の効果の相違の程度が上記認定したものであることを考えると、侵入口で打球を1個のみ待機させる構成としたことが商業的成功の原因であると推測することは到底できないから、原告の主張は採用することができない。 取消事由3も理由がない。 4 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |