関連審決 | 異議2003-71614 |
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関連ワード | 物の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 寄せ集め / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10068号
特許取消決定取消請求事件
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原告・脱退原告東洋紡績株式会社訴訟引受人 東洋ゴム工業株式会社 代表者代表取締役 訴訟代理人弁理士 鈴木崇生 同 尾崎雄三 同 梶崎弘一 同 光吉利之 同 福井賢一 脱退原告 東洋紡績株式会社 代表者代表取締役 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 佐野整博 同 井出隆一 同 一色由美子 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/11/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2003-71614号事件について平成16年3月22日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告の有する後記特許につき,特許庁が特許取消決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁等における手続の経緯 ア 原告及び脱退原告は,名称を「ポリウレタン組成物からなる研磨パッド」とする発明につき,平成14年4月8日(特許法41条に基づく優先権主張・優先日平成13年4月9日)に特許出願をし,平成14年10月11日に特許第3359629号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という。)。 イ その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2003-71614号事件として特許庁に係属した。原告及び脱退原告は,平成15年12月1日,特許請求の範囲等について訂正請求をした(以下「本件訂正請求」という。)。特許庁は,同事件について審理した上,平成16年3月22日,「訂正を認める。特許第3359629号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同年4月12日原告及び脱退原告に送達された。 ウ 脱退原告は,本件特許に係る特許権の持分を原告に譲渡し,原告が持分譲受人として本件訴訟を引き受けたため,平成17年6月28日,本件訴訟から脱退した。 エ なお,原告は,本件訴訟の係属中,本件特許につき訂正審判を請求したが,特許庁において請求不成立の審決がされたので,その取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し(平成17年4月1日当庁へ回付。平成17年(行ケ)第10146号事件),同事件は,本件と並行して審理された。 (2) 発明の内容 本件訂正請求に係る明細書(甲4。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨は下記のとおりである。 なお,以下においては,「トルエンジイソシアネート」を「TDI」と,「4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート」を「HMDI」と,「ポリテトラメチレングリコール」を「PTMG」と,それぞれ略称する。 記 有機ポリイソシアネート,ポリオール及び硬化剤からなるポリウレタンを主な構成素材としてなる研磨パッドであって,前記有機ポリイソシアネートが,トルエンジイソシアネート〔判決注:TDI〕及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート〔判決注:HMDI〕からなり,前記硬化剤の主成分が4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)であり,且つ,前記ポリオールが,ポリテトラメチレングリコール〔判決注:PTMG〕及び低分子ポリオールからなり,該ポリテトラメチレングリコール〔判決注:PTMG〕の数平均分子量が500〜1600であり,且つ,分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.9未満であることを特徴とする研磨パッド。 (3) 決定の内容 決定の内容は,別添決定書写しのとおりである。その要旨は,本件発明は,本件特許の出願前に頒布された以下の刊行物1〜5及び7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないと判断したものである。 刊行物1:特開平11-322878号公報(甲6。決定に「特開平11-33878号公報」とあるのは誤記と認める。) 刊行物2:特開平2-232173号公報(甲7) 刊行物3:特開昭61-162522号公報(甲8) 刊行物4:“Szycher's Handbook of Polyurethanes”CRC Press, 1999, p5-14〜5-16(甲9) 刊行物5:“Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical TechnologyFourth Edition”Vol.19, John Wiley & Sons, 1996, p759〜764(甲10) 刊行物7:特開平4-213316号公報(甲12) 決定は,上記判断をするに当たり,本件発明と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)との一致点及び相違点を次のとおり認定した(決定7頁32行〜8頁8行)。 〔一致点〕有機ポリイソシアネート,ポリオール及び硬化剤から成るポリウレタンを主な構成素材として成る研磨パッドであって,前記硬化剤の主成分が4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)であり,かつ,前記ポリオールがPTMG及び低分子ポリオールから成り,該PTMGの数平均分子量において重複するものである研磨パッドである点。 〔相違点1〕本件発明では,有機ポリイソシアネートがTDI及びHMDIから成るとされるのに対し,刊行物1では,実施例にTDIのみから成るものが記載されている点。 〔相違点2〕本件発明では,PTMGの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.9未満であるとされるのに対し,刊行物1にはそのようなことの記載がない点。 (4) 決定の取消事由 決定は,以下のとおり,相違点に対する判断を誤ったものであるから(取消事由1〜3),違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) (ア) 決定は,相違点1について,@ 刊行物1及び2には,研磨パッドに使用される有機イソシアネートとして,TDIとともにHMDIが記載されており,研磨パッドの使用に際しては両者ともよく使用されるよく知られたものであると認められる,A 刊行物1には2種以上の混合物とすることも記載されており,当業者であれば容易にTDI及びHMDIを併用することができたと認められる,B 本件訂正明細書には,有機イソシアネートとしてTDI及びHMDIの併用が特別に優れたものとすることの記載はなく,実施例によっても,TDI及びHMDIの併用が格別な効果を奏するとは認められないと判断した(決定8頁9行〜23行)。 しかし,決定の上記判断は,以下のとおり,TDIとHMDIとの組合せの困難性を看過し,両者の併用による本件発明特有の効果を看過したものであって,誤りである。 (イ) 決定の上記@の判断について 刊行物1及び2には,研磨パッドに使用することのできるイソシアネート成分として,HMDIが記載されている。また,刊行物6(特開2000-248034号公報,甲11)にも,これと同様の記載がある。しかし,HMDIは,他の多数のイソシアネートとともに単に形式的に列挙されただけであって,刊行物1,2及び6にはHMDIを具体的に用いた実施例等は記載されていない。 他方,イソシアネートのうちポリウレタン樹脂の原料として最も広く,大量に使用されているのは,TDI及びMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)である(甲17)。HMDIは,耐光性が要求される特殊な用途に使用されるものであって(甲18,19),耐光性が要求されない研磨パッドの材料としては使用されていない。このような技術常識を考慮すると,HMDIを研磨パッドに使用することが刊行物1,2及び6に実質的に記載されているということはできない。 したがって,HMDIを研磨パッドに使用することがよく知られているとした決定の認定は誤りである。 (ウ) 決定の上記Aの判断について 本件発明は,多種多様に存在するイソシアネートの中からTDIとHMDIとを選択し,組み合わせて使用することにより,研磨パッドの低温領域(20℃〜60℃の領域)における弾性率の温度依存性を小さくし,研磨パッドの硬度低下を抑制したことに技術的意義がある。これに対し,刊行物1及び2は,本件発明とは発明の目的,解決課題を異にするものであって,TDI及びHMDIの併用について記載されておらず,その示唆すらない。そうすると,刊行物1及び2に接した当業者であっても,本件発明の目的を達成するためにどのようなイソシアネートを用いればよいのかは全く予想がつかないのであるから,これらの併用が容易であるとした決定の判断は失当である。 (エ) 決定の上記Bの判断について 本件訂正明細書(甲4)に記載された実施例1及び2並びに特許異議申立て事件において原告及び脱退原告が提出した特許異議意見書(甲5。以下「甲5意見書」という。)に記載された参考例1が示すとおり,有機ポリイソシアネートとしてTDI及びHMDIを併用しない研磨パッドは,本件発明の効果を奏することができない。TDI及びHMDIを併用しない刊行物1の実施例1〜8に記載された研磨パッドや,刊行物2の実施例1に記載された研磨パッドも,これと同様である。これらによれば,TDI及びHMDIの併用によって格別な効果を奏することが明らかであるから,併用による効果が認められないとした決定の判断は誤りである。 イ 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (ア) 決定は,相違点2について,@ 刊行物3〜5及び7にみられるとおり,分子量分布が1.9未満のPTMGをポリウレタンエラストマーに使用することはよく知られており,刊行物3及び7にはそれによって耐熱性が改善されることが記載されているから,刊行物1におけるPTMGとして分子量分布の狭い1.9未満のものを使用することに格別な困難性は見いだせない,A 本件訂正明細書においては,20℃,40℃及び60℃における弾性率を測定して熱による変化が小さいとするものであり,耐熱性の指標を機械的物性である弾性率の測定で示しているものであって,その効果も予測し得たところであると判断した(決定8頁24行〜34行)。 しかし,決定の上記判断は,以下のとおり誤りである。 (イ) 本件発明は,広い温度領域(実際に研磨操作が行われる20℃〜60℃の範囲)で平坦化加工を安定的に行うことができる研磨パッドを提供することを課題とし,この課題を解決するために,ポリウレタンの低温領域における耐軟化性を向上させること(弾性率の変化量を小さくすること)を目的として,分子量分布が1.9未満のPTMGを採用したものである。 一方,刊行物3及び7には,分子量分布の狭いPTMGをポリウレタンエラストマー等の原料として用いると耐熱性が改善される旨の記載がある。しかし,これらはいずれも本件発明のようにポリウレタンの低温領域における耐軟化性の向上を目的とするものではなく,刊行物3はポリウレタンエラストマーの高温領域における耐分解性,耐劣化性を改善することを,刊行物7はイソシアネート及び硬化剤としてPPDI(パラフェニレンジイソシアネート)及びMBOCA(4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン))を組み合わせて使用した場合の問題点である製造工程上の欠点を解決することを,それぞれ目的とするものである。また,刊行物3及び7には,低温領域における硬度(弾性率)の変化量を小さくすることができることについての記載はないし,動機付けも示されていない。したがって,刊行物3及び7に記載された「耐熱性」は,本件発明とは異なり,高温領域における耐分解性,耐劣化性を意味すると認定すべきものである。 さらに,刊行物3〜5及び7をみても,PTMGを研磨パッド用のポリウレタンに用いることの記載は一切ない。 そうすると,刊行物1におけるPTMGとして刊行物3〜5及び7に記載のPTMGを使用することは,当業者であっても容易に想到し得るものではないし,その効果も全く予測し得ないものである。 ところが,決定は,刊行物3及び7にいう「耐熱性」を低温領域における耐軟化性の意味であると誤認し,その結果,PTMGとして分子量分布の狭い1.9未満のものを使用することに格別な困難性はなく,その効果も予測し得たところであると判断したものであって,その判断には明らかな誤りがある。 ウ 取消事由3(相違点1及び2を一体的に認定せず,本件発明の顕著な効果を看過した誤り) (ア) 決定は,「相違点1及び2は格別なものとは認められないものであるから,本件発明は,上記刊行物1〜5及び7に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断して,本件発明の進歩性を否定した(決定8頁35行〜37行)。 しかし,この判断は,以下のとおり,一体的に判断すべき相違点1及び2を分離して認定した上,本件発明の顕著な効果を看過したものであって,誤りである。 (イ) 本件発明は,有機ポリイソシアネートとしてTDI及びHMDIを併用すること(以下「発明特定事項@」という。),及び,数平均分子量が500〜1600であり,かつ,分子量分布が1.9未満であるPTMGを用いること(以下「発明特定事項A」という。)を一体不可分の構成として採用することによって,ポリウレタンの低温領域における耐軟化性を向上させ,平均研磨速度が大きく,面内均一性も優れており,しかも,広い温度領域でシリコンウエハ等の平坦化加工を安定的に行うことが可能であるという顕著な効果を奏するのである。したがって,本件発明の進歩性は,発明特定事項@に係る相違点1と,発明特定事項Aに係る相違点2とを一体的に認定した上で,これによる効果に基づいて判断されなければならない。 なお,発明特定事項@及びAを組み合わせることによって顕著な効果を奏することにつき,本件訂正明細書には,その文言上は明確な記載はない。しかし,本件発明はポリウレタンの主な構成材料(有機ポリイソシアネート,ポリオール及び硬化剤)を特定することによって課題を解決したものであること,本件訂正明細書には,本件発明に使用する有機ポリイソシアネートはTDI及びHMDIであるとの記載があること,本件発明の効果を明確かつ具体的に示す実施例において,TDI及びHMDIを組み合わせた例のみを挙げていることからすれば,本件発明においては,発明特定事項Aだけでなく,発明特定事項@もその効果に影響するものであることは明らかである。したがって,本件訂正明細書には,発明特定事項@及びAを組み合わせることにより顕著な効果を奏することが記載されているのと同然であるということができる。 (ウ) 本件発明の研磨パッドが使用されるCMP(ケミカル・メカニカル・ポリシング)の技術分野においては,加工後のウエハの表面平坦度が100Å以下であること,厚みのばらつき(面内均一性)が10%以下であることという極めて高度の表面平坦性が要求される(甲21,23,24)。この要件を満たさないウエハは製品不良となるため,ウエハの厚みのばらつきの程度は製品の歩留りに大きく影響する。そして,CMPプロセスの業界標準として市場で広く使用されている2層研磨パッドIC1000/SUBA400でさえ,ウエハの面内均一性を10%以下にすることができないのであって,これを10%未満にすることは容易なことではないのである。 本件発明の研磨パッドは,研磨層の構成材料として発明特定事項@及びAを組み合わせることによって,パッドを2層とすることなく(クッション層となる下層パッドを用いることなく),ウエハの面内均一性を10%未満に下げることができたのである。すなわち,本件訂正明細書の実施例1及び2の研磨パッドの面内均一性は,それぞれ7%,5%である。これに対し,発明特定事項@及びAのうち,@は満たすがAを充足しないもの(本件訂正明細書の比較例1。分子量分布2.0のPTMGを使用),Aは満たすが@を充足しないもの(甲5意見書の参考例1。イソシアネートとしてTDIのみを使用),@及びAのいずれも充足しないもの(同参考例2。TDIのみを使用,分子量分布2.0のPTMGを使用)の面内均一性は,それぞれ11%,11%,15%であって,いずれも本件発明の効果を奏することができない。また,刊行物1の実施例1〜8に記載の研磨パッド,刊行物2の実施例1に記載の研磨パッドも,少なくとも発明特定事項@を充足しないもの(イソシアネートとしてTDIのみを使用したもの)であるから,やはり本件発明の顕著な効果を奏し得ないのである。 このように,本件発明の効果には発明特定事項@及びAのいずれもが影響しているのであり,本件発明は,発明特定事項@及びAを組み合わせることによって,刊行物1等に開示されていない顕著な効果を奏することができるのである。決定は,この組合せによる顕著な効果を看過し,本件発明の進歩性を否定したものであって,その判断には明らかな誤りがある。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論 (1) 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対し ア 刊行物1,2及び6にHMDIが記載されていることは原告も認めるとおりであり,刊行物に記載された技術的事項が実施例に記載されたものに限定されるとする理由はない。むしろ,これらの刊行物に共通してHMDIが記載されていることは,HMDIが研磨パッドに使用されるイソシアネートとしてよく知られていることを示すということができる。 イ 研磨パッドに用いられるイソシアネートとして刊行物1に列挙された物質にはTDI及びHMDIが含まれており,しかも,これらが2種以上の混合物として適用されることも記載されている。これらの物質は,いずれも同様な作用を有する成分として記載されているのであり,複数の物質を組み合わせることも予定されているのであるから,これらの中からいくつかを選択し,併用することに困難性はない。 ウ 原告は,TDI及びHMDIの併用による効果を主張する。しかし,本件訂正明細書にはTDI及びHMDIの併用により本件発明の効果が得られたとする記載は一切ないのであって(弾性率の温度依存性が小さいなどといった本件発明の効果は,PTMGの分子量及び分子量分布を選択することによって得られると記載されており,有機ポリイソシアネートの選択及び併用によるものであるとは記載されていない。),原告の主張は明細書の記載に基づかない主張である。 また,甲5意見書にはTDI及びHMDIを特定の割合で併用したものが効果を奏した旨の記載があるが,本件発明は,特許請求の範囲の記載のとおり,TDI及びHMDIの割合を限定するものではないから,甲5意見書をもって併用の効果があるとすることはできない。さらに,選択及び併用による効果を主張するのであれば,TDIと他のイソシアネートとを併用した場合との比較も必要となるが,そのような例も示されていない。 したがって,TDI及びHMDIの併用が格別な効果を奏するものとは認められないとした決定に誤りはない。 (2) 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対し 本件発明は,平坦化加工を行うための研磨パッドに関するものであり,摩擦熱に対する耐熱性が問題とされている。 耐熱性とは,熱に対する変化の起こりにくさをいうものであり,低温領域における耐熱性と高温領域における耐熱性とがある。刊行物3及び7にいう耐熱性が,原告主張のとおり,高温領域における耐熱性に関するものであるとしても,そのことによって低温領域での耐熱性が否定されることはなく,むしろ低温領域における耐熱性という効果を予測させるものである。そうすると,刊行物3及び7の記載から,分子量分布の狭いPTMGを使用することによって耐熱性を有するという本件発明の効果を予測することができると認められる。 また,1.9未満という分子量分布の狭いPTMG自体は,刊行物3〜5及び7に記載されたとおり,よく知られたものである。 したがって,1.9未満の分子量分布のPTMGを使用することに格別な困難性がないとした決定の判断に誤りはない。 (3) 取消事由3(相違点1及び2を一体的に認定せず,本件発明の顕著な効果を看過した誤り)に対し 本件発明の効果について,本件訂正明細書には,数平均分子量が500〜1600であり,かつ,分子量分布が1.9未満であるPTMGを用いることによって平坦加工性及び研磨パッドの温度依存性に関する効果を奏する旨の記載があるだけであって(段落【0011】〜【0013】),発明特定事項@及びAの組合せによって顕著な効果を奏するなどといった記載は存在しない。また,実施例をみても,TDI及びHMDIを特定の割合で併用したものが例示されているだけであって,発明特定事項@及びAの組合せによる顕著な効果が本件訂正明細書に記載されているのと同然であるということもできない。 さらに,甲5意見書が本件発明の顕著な効果を示すものでないことは,前記(1)ウのとおりである。 原告は,面内均一性を10%未満としたことが本件発明の顕著な効果であるかのように主張する。しかし,原告は,各文献に示された用語の意味や測定法の異同を検討することなく,異なる文献に記載された数値を単に寄せ集めて論ずるものであって,その主張には何ら意味がない。 本件発明の効果は,刊行物1〜5及び7から予想し得たものであって,格別なものということはできないから,この点に関する決定の判断にも誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,決定の適否に関し,原告主張の取消事由ごとに順次判断することとする。 2 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 決定は,相違点1について,@ 刊行物1及び2には,研磨パッドに使用される有機イソシアネートとして,TDIとともにHMDIが記載されており,研磨パッドの使用に際しては両者ともよく使用されるよく知られたものであると認められる,A 刊行物1には2種以上の混合物とすることも記載されており,当業者〔判決注:本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者〕であれば容易に併用することができたと認められる,B 本件訂正明細書には,有機イソシアネートとしてTDI及びHMDIの併用が特別に優れたものとすることの記載はなく,実施例によっても,併用が格別な効果を奏するとは認められないと判断した(決定8頁9行〜23行)。 これに対し,原告は,@ HMDIは研磨パッドに使用されるイソシアネートとしてよく知られているものではない,A TDI及びHMDIの併用が容易であるということはできない,B 本件発明はTDI及びHMDIの併用によって格別な効果を奏するものであると主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 (2) 原告の上記@の主張について ア 刊行物1(甲6)は,泡含有ポリウレタン成形物を主構成物とする研磨パッド等の発明に係る公開特許公報であり,発明の詳細な説明の欄に,この発明に用いられるイソシアネートの具体例として17種の物質が記載されており,その中に,ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(=水添MDI)〔判決注:HMDIと同義〕と,2,4-及び/又は2,6-ジイソシアナトトルエン〔判決注:TDIと同義〕とが含まれている(段落【0012】)。 刊行物2(甲7)は,発泡ポリウレタン材料に微粒子状物を充填した研磨パッドの発明に係る公開特許公報であり,発明の詳細な説明の欄に,この発明に用いられるイソシアネートの具体例として5種の物質が記載されており,その中に,トリレンジイソシアネート〔判決注:TDIと同義〕と,メチレン-ビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)〔判決注:HMDIと同義〕とが含まれている(2頁下右欄1〜7行)。 刊行物6(甲11)は,研磨材用ポリウレタン系樹脂組成物等の発明に係る公開特許公報であり,発明の詳細な説明の欄に,この発明に用いられるイソシアネートの具体例として,MDI,ポリメリックMDI以外に4種類の物質が挙げられており,その一つとしてHMDIが記載されている(段落【0007】)。 これらの記載によれば,HMDIは,研磨パッドに使用されるイソシアネートとして当業者に広く知られていたと認められる。なお,実施例は,発明を具体的にどのように実施するのかを示す例であるにとどまるから,実施例に記載がないことをもって,上記各刊行物にHMDIを研磨パッドに使用することが実質的に記載されていないとみることはできない。 イ 原告は,世界的に最も広く,大量に使用されるイソシアネートはTDI及びMDIであること(甲17),HMDIは,耐黄変性に優れ,かつ,硬い皮膜を形成するのに適するという特性を持っており,主に塗料,コーティング剤向けに使用されるが,競合品に比べて生産性及び価格面で劣るため,補助原料的な扱いにとどまっていること(甲18,19)といった技術常識を考慮すると,HMDIは耐光性が全く要求されない研磨パッドの材料として使用されないものであると主張する。 しかし,原告主張の技術常識からは,HMDIが,価格や生産性に問題があるために大量には使用されていないと認め得るとしても,研磨パッドの材料として使用されないものであると認めることはできない。 ウ したがって,HMDIが研磨パッドに使用されるイソシアネートとしてよく知られているとした決定の判断に誤りはない。 (3) 原告の上記Aの主張について 刊行物1,2及び6に研磨パッドに使用されるイソシアネートとしてHMDIが記載され,これが当業者によく知られていると認められることは,上記のとおりである。 これに加え,刊行物1(甲6)には,イソシアネートの具体例として挙げられた物質が単独又は2種以上の混合物で適用されるとの記載もある(段落【0011】)。そして,具体例として挙げられたイソシアネートのうちTDIが最も広く,大量に広く用いられるものの一つであること(甲17)を考慮すれば,2種以上の混合物で適用するに際し,TDIと他のイソシアネートとの混合物とすることに何ら困難性はないと認められる。 そうすると,本件発明と上記刊行物1,2及び6とが発明の目的や課題を異にするとしても,当業者であればTDI及びHMDIを併用することを容易に想到することができたと認められるから,この点に関する決定の判断にも誤りはない。 (4) 原告の上記Bの主張について ア 本件発明は,有機ポリイソシアネート,ポリオール及び硬化剤から成るポリウレタンを主な構成素材とする研磨パッドであり,本件訂正明細書(甲4)には,有機ポリイソシアネートに関して以下の記載がある。 (ア) 【発明の実施の形態】の項に,本件発明で使用する有機ポリイソシアネートとしては,TDI及びHMDIが挙げられるとの記載がある(段落【0007】)。 (イ) 【実施例】の項に,実施例1として,TDI(2,4-体/2,6-体=80/20の混合物)14790重量部,HMDI3930重量部,数平均分子量が1006で分子量分布が1.7のPTMG25150重量部等から発泡ウレタンブロックを作製し,これをスライスして得られた研磨シートを用いた研磨パッド(段落【0025】,【0028】,【0031】),実施例2として,PTMGとして数平均分子量が990で分子量分布が1.5のものを24750重量部用いた以外は,実施例1と同様に作製された研磨パッド(段落【0035】),比較例1として,PTMGとして数平均分子量が1018で分子量分布が2.0のものを25450重量部用いた以外は,実施例1と同様に作製された研磨パッド(段落【0037】)が記載されている。 また,実施例1及び2並びに比較例1につき,20℃,40℃及び60℃における研磨シートの弾性率(MPa)並びに研磨パッドの研磨特性である平均研磨速度(Å/分)及び面内均一性(%)を一覧にした表が記載されている(段落【0039】)。 イ 以上のように,本件訂正明細書には,TDI及びHMDIの併用に関して,TDIとHMDIとを14790対3930という特定の重量比で用いた例が記載されているにとどまるのであって,TDI又はHMDIの一方のみを用いたもの,TDI及びHMDIをいずれも用いないものの記載はない。したがって,本件訂正明細書の記載からは,TDI及びHMDIを併用することの技術的意義は不明であるし,併用により格別な効果を奏すると認めることもできない。 ウ 原告は,本件訂正明細書の上記記載に加え,甲5意見書を考慮すれば,TDI及びHMDIの併用が格別な効果を奏することは明らかであると主張する。 甲5意見書は,本件訂正明細書に記載された実施例1及び2並びに比較例1と,新たに示された参考例1及び2について,20℃,40℃及び60℃における弾性率(MPa),弾性率の変化率(60℃弾性率/20℃弾性率),平均研磨速度(Å/分),面内均一性(%)を比較したものである。参考例1及び2は,有機ポリイソシアネートとして,TDI(2,4-体/2,6-体=80/20の混合物。18246重量部)のみを用いたものである。また,PTMGとして,参考例1は数平均分子量が1004で分子量分布が1.7のものを25132重量部,参考例2は数平均分子量が1018で分子量分布が2.0のものを25420重量部,それぞれ用いている。 そして,甲5意見書によれば,PTMGの分子量分布がともに1.7である実施例1と参考例1とを比較すると,TDI及びHMDIを併用した実施例1においては20℃で404MPaだった弾性率が60℃で190MPaとなった(弾性率の変化率〔1に近いほど優れるものと認められる。〕0.47)のに対し,TDIのみを用いた参考例1においては20℃で395MPaだった弾性率が60℃で166MPaとなった(同0.42)ほか,平均研磨速度や面内均一性の点でも,実施例1が参考例1よりも性能が良いとの結果が示されたと認めることができる。 しかし,本件訂正明細書及び甲5意見書の記載から理解し得るのは,特定の配合比率でTDI及びHMDIが併用された場合の効果だけであって,例えば,TDIにごく少量のHMDIを加えたものがTDIのみを用いたものに比して格別な効果があるかどうかは不明である。そして,本件発明は,特許請求の範囲に記載されたとおり,TDIとHMDIとを特定の(一定範囲内の)比率で用いると限定するものではないから,本件発明の特許請求の範囲に属すべき別の配合比率で併用された場合においても,両者の併用によって格別な効果を奏すると認めることはできない。 エ したがって,TDI及びHMDIの併用により格別な効果を奏するとは認められないとした決定に誤りはない。 (5) 以上によれば,相違点1についての決定の判断は正当と認められる。 3 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 決定は,相違点2について,@ 刊行物3〜5及び7にみられるとおり,分子量分布が1.9未満のPTMGをポリウレタンエラストマーに使用することはよく知られており,刊行物3及び7にはそれによって耐熱性が改善されることが記載されているから,刊行物1におけるPTMGとして分子量分布の狭い1.9未満のものを使用することに格別な困難性は見いだせない,A 本件訂正明細書においては,20℃,40℃及び60℃における弾性率を測定して熱による変化が小さいとするものであり,耐熱性の指標を機械的物性である弾性率の測定で示しているものであって,その効果も予測し得たところであると判断した(決定8頁24行〜34行)。 これに対し,原告は,決定には,@ 刊行物3及び7にいう耐熱性の意味を誤認した結果,PTMGとして分子量分布の狭い1.9未満のものを使用することに格別な困難性はないと判断した誤り,A その使用による効果も予測し得たところであると判断した誤りがあると主張するが,以下のとおり,いずれも失当というべきである。 (2) 原告の上記@の主張について ア 刊行物3〜5及び7には,以下の記載がある。 刊行物3(甲8)は,分子量分布の狭いポリテトラメチレンエーテルグリコール〔判決注:PTMGと同義〕の製造法の発明に係る公開特許公報であり,発明の詳細な説明中の産業上の利用分野の項に,「PTMGは,ポリウレタン,ポリエーテルポリエステル等の原料として有用であり,工業的用途としては,主に平均分子量500〜3000程度のPTMGが一般に用いられるが,分子量分布の狭いPTMGをポリウレタンエラストマー,ポリエステルエラストマー等の原料に用いた場合には,ソフトセグメントがより均質になることにより,耐熱性,伸長回復率が改良されるため分子量分布の狭いPTMGが要求されている。」との記載がある(1頁下右欄9〜18行)。また,実施例1〜6として分散値〔判決注:分子量分布と同義〕を1.4〜1.9とするPTMGの製造法の例,比較例1〜4として分散値を2.0〜3.8とするPTMGの製造法の例が記載されている(3頁下左欄6行〜4頁表1)。 刊行物4(甲9)は,外国書籍(ポリウレタンのハンドブック)であり,その本文中に,ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール,PTMEG〔判決注:PTMGと同義〕は狭い分子量分布のものの方がポリウレタン特製品における多くの最終用途のために望ましいと長く認識されていた旨の記載,より大きな多分散性〔判決注:分子量分布と同義〕を有するPTMEGから出発して,多分散性を約1.2〜1.8とし,分子量を約400〜約4000とするPTMEGを調製するために,改善されたプロセスが実施される旨の記載がある(5-14,15頁)。 刊行物5(甲10)は,外国書籍(化学技術辞典)であり,その本文中に,ポリテトラメチレンエーテルグリコールの標準的な市販の分子量グレードは,650,1000,1800及び2000であるが,1400及び2900のような他の分子量のグレードも特別な用途のために使用可能である旨の記載,市販のPTMEGのグレード1000では,分子量分布は約1.6である旨の記載がある(759頁,761頁)。 刊行物7(甲12)は,ポリウレタンエラストマー組成物の発明に係る公開特許公報であり,特許請求の範囲に,分子量分布を2.0未満とするポリテトラメチレンエーテルグリコールを主成分とするポリウレタンエラストマー組成物の発明が記載され(2頁左欄2〜12行),発明の詳細な説明中の産業上の利用分野の項に,「この出願の発明はポリウレタンエラストマー組成物に関し,更に詳細には耐熱性および耐水性を向上せしめたポリウレタンエラストマー組成物に関するものである。」と記載されている(段落【0001】)。また,実施例1〜5として,数平均分子量を1209〜2953,分子量分布を1.4〜1.7とするPTMGを用いたポリウレタンエラストマー組成物の例が記載され,各実施例及び比較例1〜5の組成物について耐熱老化性試験を行って,100℃ギヤーオーブン中で56日間放置した後の硬さ,モジュラス,引っ張り強度及び伸びを評価したことが記載されている(段落【0025】〜【0052】)。 イ 刊行物3〜5及び7の上記記載によれば,数平均分子量が500〜1600であり,かつ,分子量分布が1.9未満であるPTMG,すなわち,本件発明に使用するものとされたPTMGは,本件の特許出願の当時,当業者に周知であったと認められる。 また,刊行物3及び7の上記記載によれば,ポリウレタンの耐熱性を優れたものとするために,分子量分布の狭いPTMGを用いることも,当業者に周知であったと認めることができる。 ウ これに対し,原告は,耐熱性には,高分子の比較的低温領域における耐軟化性と,高分子の比較的高温領域における耐分解性,耐劣化性とがあるところ,本件発明の目的とする耐熱性の改善は低温領域におけるものを指すのに対し,刊行物3の耐熱性は熱に対する耐劣化性を,刊行物7の耐熱性は高温領域における耐分解性,耐劣化性を,それぞれ意味するものであって,本件発明とは目的や解決課題を異にすると主張する。 しかし,刊行物3及び7にいう耐熱性の意味を原告の主張するように解すべきものであるとしても,高温領域における耐熱性(耐分解性,耐劣化性)が優れていることは,低温領域における耐熱性の改善を予測させるものであり,したがって,刊行物3及び7の上記記載は,低温領域における耐熱性の改善が求められる場合に分子量分布の狭いPTMGを用いることの動機付けになるというべきである。 エ 以上によれば,刊行物1に記載された発明のポリウレタン成形物の製造に当たり,PTMGとして分子量分布が1.9未満のものを用いることに困難性は認められないと解するのが相当である。 (3) 原告の上記Aの主張について 本件訂正明細書に記載された実施例1及び2並びに比較例1によれば,PTMGの分子量分布を1.7又は1.5とする各実施例の方が,分子量分布を2.0とする比較例よりも,ポリウレタン研磨シートを20℃から60℃まで昇温したときの弾性率の低下の程度が小さく,また,研磨パッドの研磨特性(平均研磨速度,面内均一性)が優れていると認められる(甲4,5)。 しかし,分子量分布の狭いPTMGを用いるとポリウレタンの耐熱性が向上することは上記のとおり刊行物3及び7に記載されているところであって,このことに照らせば,上記実施例に示された効果は,刊行物3及び7に記載された事項から予測し得る範囲内のことということができる。 (4) したがって,相違点2についての決定の判断にも誤りはない。 4 取消事由3(相違点1及び2を一体的に認定せず,本件発明の顕著な効果を看過した誤り)について (1) 決定は,「相違点1及び2は格別なものとは認められないものであるから,本件発明は,上記刊行物1〜5及び7に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断して,本件発明の進歩性を否定した(決定8頁35行〜37行)。 原告は,この判断は,一体的に判断すべき相違点1及び2を分離して認定した上,本件発明の顕著な効果を看過したものであって,誤りであると主張するが,以下のとおり,これを採用することはできない。 (2) 原告は,本件発明は発明特定事項@(有機ポリイソシアネートとしてTDI及びHMDIを併用すること)及びA(数平均分子量が500〜1600であって,分子量分布が1.9未満であるPTMGを用いること)を組み合わせることによって顕著な効果を奏するのであるから,本件発明の進歩性の判断においては相違点1及び2を一体的に判断すべきであって,これらを分離して判断した決定には誤りがあると主張する。 しかし,発明特定事項@及びAがいずれも当業者にとって容易に推考し得る事項であるとした決定の判断に誤りのないことは,取消事由1及び2について上述したとおりである。そして,有機ポリイソシアネートとして何を用いるか(発明特定事項@,相違点1)と,PTMGの分子量分布等をどの範囲のものとするか(発明特定事項A,相違点2)は,独立して検討の対象とされ,選択され得る事柄であって(TDI及びHMDIを併用するときはPTMGの分子量分布が1.9以上でなければならないとか,分子量分布が1.9未満のPTMGはTDI及びHMDIと組み合わせて用いることができないなどといったことはない。),発明特定事項@とAとを組み合わせることに阻害要因があることを示す証拠もない。 そうすると,相違点1及び2を一体的に判断しなければならないということはできないから,各相違点を個別に判断した決定に誤りはない。 (3) 原告は,本件発明は,発明特定事項@及びAを組み合わせることによって刊行物1等に開示されていない顕著な効果を奏するものであり,そのことは本件訂正明細書及び甲5意見書に記載された実施例1及び2(発明特定事項@及びAをいずれも満たすもの),比較例1(発明特定事項@は満たすが,Aを充足しないもの),参考例1(発明特定事項Aは満たすが,@を充足しないもの)並びに参考例2(発明特定事項@及びAをいずれも充足しないもの)を対比すれば明らかであると主張する。 しかし,本件訂正明細書及び甲5意見書の記載から理解し得るのは,前記2(4)ウに判示したとおり,特定の配合比率でTDI及びHMDIが併用された場合の効果だけであって,本件発明の特許請求の範囲に属すべき別の配合比率で併用した場合においてもTDI及びHMDIの併用(発明特定事項@)によって格別な効果を奏すると認めることはできない。そして,発明特定事項@及びAを組み合わせた場合についてみても,上記実施例,比較例及び参考例にはTDIとHMDIとが特定の配合比率で併用された例が示されているにとどまるから,本件訂正明細書及び甲5意見書の記載をもって,発明特定事項@及びAの組合せにより格別な効果を奏するものとは認められない。 また,原告は,本件の特許出願の前に刊行された技術文献(甲21,22,24)の記載を引用して,本件発明には刊行物1発明等にない顕著な効果が存在すると主張する。しかし,原告が本件発明の効果として主張するのは,上述のとおり,特定の配合比率でTDI及びHMDIが併用された場合の効果だけであるから,仮にそれが上記文献に示された技術水準より優れているものであるとしても,そのことから直ちに本件発明が従来にない顕著な効果を奏することが立証されたことになるものではない。 さらに,本件発明及び刊行物1発明の効果をそれぞれの実施例により比較すると,本件発明の効果とされる「面内均一性」と刊行物1発明の効果とされる「平坦性」とは,いずれもシリコンウエハ上の酸化ケイ素膜の研磨特性を測定したものである点では共通する。しかし,前者が残存膜厚の均一性をみるのに対し,後者は膜厚の減少程度の均一性をみるのであって,測定の対象が異なる上,研磨試験における研磨時間や研磨速度等の点でも異なっている。したがって,両者の効果の優劣を直接比較して本件発明が刊行物1発明より優れているということはできず,その他本件発明が刊行物1発明にない効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。 5 結語 以上のとおり,原告主張の取消事由1〜3はいずれも理由がない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 岡本岳 |
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裁判官 | 上田卓哉 |
裁判官 | 長谷川浩二 |