関連審決 | 異議2001-70533 |
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関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 周知技術 / 先行技術 / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消決定 / 国際公開 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
257号
特許取消決定取消請求事件
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原告 三井化学株式会社 同訴訟代理人弁理士 苗村新一 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 柿崎良男 同 一色 由美子 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/12/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2001-70533事件について平成15年5月1日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、発明の名称を「熱可塑性分解性ポリマー組成物」とする特許第3105020号発明(平成3年5月10日出願、特願平3-105673号、平成12年9月1日設定登録。)の特許権(以下「本件特許」という。)を有する。 本件特許につき、訴外大日本インキ化学工業株式会社外4名から、特許異議の申立てがなされ、特許庁は、同申立てを、異議2001-70533号事件として審理した結果、平成15年5月1日、「特許第3105020号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月19日、原告に送達された。 (2) 本件特許の請求項1ないし4記載の発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらを併せて「本件各発明」という。)の要旨は、本件決定に記載された以下のとおりである。 【請求項1】ポリ乳酸、または乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸のコポリマー、またはポリ乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸のポリマーの混合物を主成分とし、これらポリマーまたはコポリマーの残存モノマーを該主成分に対して0.9%以下で含み、かつ、可塑剤〔但し、グリコール酸オリゴマー(重合度1〜30)、乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕を含む柔軟性および透明性に優れた熱可塑性分解性ポリマー組成物。 【請求項2】可塑剤〔但し、グリコール酸オリゴマー(重合度1〜30)、 乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕が、フタル酸エステル、脂肪酸二塩基酸エステル、リン酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、脂肪族エステル、多価アルコールエステル、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤〔但し、 グリコール酸オリゴマー(重合度1〜30)、乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコール酸-乳酸オリゴマー(重合度1〜30)、グリコリドおよびラクチドを除く。〕またはそれらの混合物である請求項1記載の組成物。 【請求項3】ポリ乳酸がL-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載の組成物。 【請求項4】乳酸以外のヒドロキシカルボン酸がグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸であることを特徴とする請求項1記載の組成物。 (3) 本件決定は、別紙異議の決定書写し記載のとおり、本件各発明が、「米国特許第1995970号明細書」(甲4、以下「刊行物1」という。)、「Journal of Biomedical Materials Research V.13(1979)p.497-507」(甲5、以下「刊行物2」という。)、「米国特許第3636956号明細書」(甲6、以下、特に明示しない限り枝番号の書証を含む。「刊行物3」という。)、「POLYMER 1988、V.29、December p.2229-2234」(甲7、以下「刊行物4」という。)及び「米国特許第4057537号明細書」(甲8、以下「刊行物5」という。)に記載された発明(以下「刊行物発明1」ないし「刊行物発明5」といい、これらを併せて「刊行物各発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、特許法29条2項の規定に違反して特許を受けることができないとした。 2 原告主張の本件決定の取消事由の要点 本件決定は、重要な先行技術を無視した(取消事由1)結果、本件発明1と刊行物発明1との相違点(2箇所)の判断を誤り(取消事由2、3)、本件発明1の有する進歩性を看過したものであるから、違法として取り消されるべきである。 (1) 重要な先行技術の無視(取消事由1)について 本件決定は、本件発明1と刊行物発明1との相違点の判断に当たり、「PCT国際公開90/01521号」公報(甲9、訳文甲10、以下「先行公報」という。)に記載された先行技術を無視したものである。 ア 先行公報には、ポリマーが「ラクチド、乳酸、乳酸のオリゴマー、及びそれらの混合物からなる群から選択された可塑剤でよく可塑化される」(甲10の1第8頁左下欄8〜10行)こと、「ラクチド単量体は重合体の5〜40重量%の量で存在することができるが、ラクチドオリゴマー又は乳酸及びそのオリゴマーは2〜60重量%の量で存在していてもよい」(同左下欄下から3〜末行)こと、 「その方法は、一種類以上のラクチド単量体及び触媒を混合、加熱、及び溶融する工程;溶液の単量体を重合して、重合を完了する前にその重合反応を停止させるのに充分な低い温度で重合体を形成する工程;単量体の水準を検査する工程;及び重合を完了させる前に単量体の量を検査によって決定し、反応を停止させ、それによって未反応単量体を重合体中に一緒に取り込せるようにする工程;の諸工程を含む」(同右下欄4〜11行)こと、「別法として、組成物を、ラクチドと、予め形成した重合体を混合することにより誘導することができる。…通常堅く、ガラス状のラクチド重合体はラクチドにより可撓性にされ、無色透明で殆ど無臭のままである。」(同13頁右上欄下から3行〜左下欄8行)ことが記載されており、ポリマーに柔軟性を与えるために、残存モノマーのポリマー中での存在を積極的に肯定している。 この先行公報に記載された技術(以下「公報記載技術」という。)も、 本件発明1の先行技術の一つである。 イ これに対し原告は、公報記載技術のような量のラクチド単量体やラクチドオリゴマー又は乳酸及びそのオリゴマーが存在すると、柔軟性は付与されるが、 透明性を維持することが困難となり、この現象は、「十分な柔軟性を得るためにラクタイド、乳酸オリゴマー、ラクタイドオリゴマー等の含量を多くするとフィルムに成形後、時間が経つとラクタイドが結晶化して透明性がなくなる」ことに起因するものであることを初めて見い出し、本件発明1を完成するに至ったものである。 以上のとおり、先行公報は、本件発明1の解決課題及びその本質を理解し、本件発明1と刊行物発明2及び3等との相違点を判断するために、極めて重要な意味を有するものであるにもかかわらず、本件決定はこれを無視したものである。 (2) 相違点判断の誤り(取消事由2)について 本件決定が、本件発明1と刊行物発明2及び3との相違点として、刊行物2及び3には、「該組成物中に残存モノマーが当該主成分に対して、0.9%以下であること」が記載されていないと認定した(6頁7〜8行)こと、その検討において、刊行物1、4及び5に、「ポリ乳酸系のポリマー中にモノマーが存在していることは好ましいことではないとの観点から、これを重合後に除去することが記載されている」と認定した(同頁12〜14行)ことは、いずれも認める。 しかし、本件決定が、「当該ポリマーからモノマーを極力除去しておくことは当業者にとって容易になし得ることであり、少ない方がいいことが望ましく、 存在しないにこしたことはない成分なのであるから、これを0.9%以下とすることに格別の困難性はない」(6頁15〜18行)と判断したことは誤りである。 ア 本件発明1は、刊行物発明1等のポリ乳酸及びその製造方法の技術、公報記載技術等の従来技術を前提として、「残存モノマー量が0.9%以下のポリマーに、可塑剤を加えることによりポリマーに柔軟性を与えることができ、さらに十分な柔軟性を与える量だけ添加量を増やしても、透明なポリマー成形物が得られることを見出した」ものである。 これに対し、刊行物1及び4において、残存モノマーを減少すべきであるとの記載の目的とするところは、刊行物1は、「それにより高分子量物質の分解を防止するため」、刊行物4は、「分解反応メカニズムのより適切な考察をするため」とされており、さらに、刊行物5には、「残存ラクチドを0.97%含む。共重合体から常法により容易に透明で光沢のあるシートが形成される」と記載されており、いずれに関しても、本件発明1の解決課題である、柔軟性及び透明性を維持しつつ可塑剤を添加するためには、残存モノマーの量をいかにすべきかという認識は認められず、示唆もされていない。 一方、先行公報は、前記のとおり、積極的にモノマーを残存させ(2〜60重量%)、柔軟性を付与することに意義がある点を強調するものである。 このように本件決定が従来技術として示している刊行物1、4及び5に、これもまた従来技術である先行公報を併せてみると、本件決定のように、「刊行物1、4、5に記載されているとおりポリ乳酸系のポリマー中にモノマーが存在していることは好ましいことではない」との結論を一義的に導き出すことはできない。 イ また、刊行物2及び3に、ポリ乳酸に可塑剤を添加して柔軟性を付与することが記載されていることは認める(刊行物1にも可塑剤を添加することが記載されている。)。本件発明1においても、公知の可塑剤を使用することを前提としている。 しかし、本件発明1は、前記のとおり、公知の可塑剤を使用する場合に、柔軟性及び透明性を維持するためには、残存モノマー量をいかにするかという課題を解決したものであり、このような本件発明1の解決課題を、刊行物発明2及び3が全く認識していない以上、刊行物発明2及び3において、刊行物発明1、4及び5を組み合わせる動機づけが存在するということはできない。 ウ さらに、本件決定は、「当該ポリマーからモノマーを極力除去しておくことは当業者にとって容易になし得ることであり、少ない方がいいことが望ましく、存在しないにこしたことはない成分なのである」と断じているが、従来技術の一つである先行公報には、前記のとおり、積極的に残存モノマーを存在させる技術が開示されているのであって、上記の判断も誤りである。 (3) 相違点判断の誤り(取消事由3)について 本件決定が、本件発明1と刊行物発明2及び3との相違点として、刊行物2及び3には、「該組成物が柔軟性、透明性に優れた分解性のポリマー組成物であることが記載されていない」と認定した(6頁8〜9行)こと、その検討において、「「分解性」とはポリ乳酸が本来的に有している性質である」と認定した(同頁19行)ことは、いずれも認める。 しかし、本件決定が、「「柔軟性、透明性に優れた」点についても、当該組成物とすることにより必然的に得られる性質を規定したものと認められるから、 これらの点の記載の有無をもって、本件第1発明が進歩性を有するということにはならない。」(6頁20〜23行)と判断したことは誤りである。 ア 本件発明1は、ポリ乳酸中の残存モノマーを極力除去するとの従来技術(刊行物1、4、5)、ポリ乳酸中の残存モノマーを積極的に残存させる従来技術(先行公報)及び柔軟性を付与するために可塑剤を添加するという周知技術あるいは従来技術(刊行物2及び3など)において、可塑剤を使用して柔軟性を付与する場合に、フィルム等に成形後、時間が経つと透明性がなくなるという新たな課題に直面し、この現象を解明した結果、「成形後、時間が経つとラクタイドが結晶化して透明性がなくなる」との新たな知見を見出し、この知見に基づいて、「柔軟性及び透明性を維持しつつ、可塑剤を添加するためには、残存モノマー量を如何にするか」という課題に取り組み、この課題を「残存モノマー量を0.9%以下とする」ことによって解決したものであり、この解決課題は、自明でも、共通の課題でもない。 イ このような本件発明1の課題及びその解決方法である本件発明1の構成があるからこそ、「柔軟性、透明性に優れた」組成物を得ることができるのである。 (4) 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1に従属する発明であって、本件発明1について述べたことがすべて該当するから、これらの発明についての本件決定も同様に違法なものであり、取り消されるべきである。 3 被告の反論の要点 本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1について 原告は、先行公報を引用して、本件決定の判断が独断であると主張するが、本件決定の判断理由に同公報は引用されておらず無関係である。 同公報は、モノマーに可塑化作用があるとの知見から、これをポリマー中に積極的に存在させるべく、反応途中で反応を停止させる工程を採るものであるが、公報記載技術が、ポリ乳酸の可塑剤に関する唯一の先行技術であるならばともかく、ポリ乳酸の可塑剤としてフタル酸エステル等を用いることは当該公報よりもはるか以前に発行された刊行物2及び3に記載されている事項にすぎず、いずれにしても、同公報は本件決定に無関係である。 (2) 取消事由2について ア 原告は、刊行物1、4及び5について、本件発明1の解決課題である柔軟性及び透明性を維持しつつ可塑剤を添加するためには、残存モノマー量をいかにすべきかという認識は全く認められず、示唆すらされていないと主張するが、本件決定は、これらの刊行物について、「ポリ乳酸系のポリマー中にモノマーが存在していることは好ましいことではないとの観点から、これを重合後に除去することが記載されている」として引用しているのであって、柔軟性及び透明性を維持しつつ可塑剤を添加するためには、残存モノマー量をいかにするかという観点から引用したものではない。 イ 本件発明1の課題が原告の主張するようなものであるとしても、刊行物発明2及び3においても、刊行物発明1、4及び5を組み合わせる動機づけが存在することは明らかであり、そうである以上、「残存モノマー量を0.9%以下とすることに格別の困難性はない」とした本件決定に誤りはない。 (3) 取消事由3について 本件発明1において柔軟性及び透明性が維持されるという点についても、 本件決定は、「当該組成物とすることにより必然的に得られる性質を規定したものと認められる」と判断しており、この点についても誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 重要な先行技術の無視(取消事由1)について (1) 原告は、本件決定が、本件発明1の先行技術の一つである、ポリマーに柔軟性を与えるために残存モノマーのポリマー中での存在を積極的に肯定する旨の公報記載技術を無視していると主張するので、以下検討する(なお、上記主張は、本件決定の取消事由としては、それ自体失当というべきであるが、念のため実体判断をする。)。 (2) 先行公報(甲9、訳文甲10)には、原告主張の記載があるほか、「可塑剤としてラクチド単量体、乳酸、又は乳酸又はラクチドのオリゴマーを用いることによりラクチド重合体が可撓性で高度に展性な組成物にすることができることは従来技術のどこにも記載されていない。」(甲10の1第8頁右上欄10〜13行)と記載されている。 これらの記載によれば、1990年に発行された公報記載技術は、ラクチド、乳酸、乳酸又はラクチドのオリゴマーなどのモノマーには、可塑剤として用いることのできる可塑化作用があるとの新規の知見から、これらをポリマー中に積極的に存在させるため、重合反応の途中で当該反応を停止させる工程を採用したり、 ラクチドと予め形成した重合体を混合することなどにより、可撓性があり、無色透明で殆ど無臭のラクチド重合体(ポリマー)を産出することを開示しているものと認められる。 これに対し、先行公報より以前の従来技術であると認められる刊行物1、 4及び5に、「ポリ乳酸系のポリマーの中にモノマーが存在していることを好ましいことではないとの観点から、これを重合後に除去することが記載されている」こと自体は、当事者間に争いがない。例えば、刊行物1(甲4、1935年公告)には、「樹脂から、減圧下の加熱による、ラクチドモノマーの除去は、樹脂から得られるフィルムの寿命の目立った改善をもたらす。…この樹脂のフィルムは、蒸発性の低分子量ラクチドが全て除去されている時は、全く水に抵抗性がある。」(訳文2頁)と記載されている。同じく刊行物4(甲7、1988年発行)には、「非重合性成分の除去及びヒドロキシル末端基の封鎖は、重合体(ポリ乳酸)の熱安定性を高める。」(甲7の1)、「ポリマーから残存するモノマーと触媒を除去し、よく乾燥した。…図9に温度を横軸にとってプロットした。不純物を除去しなかったポリマーと、不純物を除去したポリマーとでは、明確な差があることが証明される。」(同)と記載され、図9には、モノマーと触媒を除去した純粋物の耐熱性が向上していることが示されている。同じく刊行物5(甲8、1977年公開)には、「多くの場合、共重合が実質的に完結されるため重合マスの中に未反応単量体は、存在しない。もし存在している場合には望むなら、重合マスを減圧下加熱したり及び/又は未反応単量体の選択的溶媒を利用することなどの通常の方法で除去することができる。」(甲8の1、一部訂正)と記載されている。 これらの記載によれば、従来からの技術として、ポリ乳酸系のポリマーの中のモノマーを除去することにより、ポリマーの寿命(耐久性)が改善され、水に対する抵抗性が増加し、耐熱性が向上することなどが知られており、その除去の方法も一般的なものであったと認められる。 (3) 以上のことを総合すると、かなり以前からの従来技術として、ポリ乳酸系のポリマーの中のモノマーは、できるだけ除去すべきものと一般的と考えられていた中で、公報記載技術は、この従来技術を覆し、ポリマーの中のモノマーを可塑剤として利用することを積極的に提案したものと認められる。 原告は、公報記載技術を前提として、当該公報が開示するような量のラクチド単量体やラクチドオリゴマー又は乳酸及びそのオリゴマーが存在すると、柔軟性は付与されるが、透明性を維持することが困難となり、この現象は、「十分な柔軟性を得るためにラクタイド、乳酸オリゴマー、ラクタイドオリゴマー等の含量を多くするとフィルムに成形後、時間が経つとラクタイドが結晶化して透明性がなくなる」ことに起因するものであることを初めて見出し、本件発明1を完成するに至ったと主張する。 しかしながら、フィルムなどポリ乳酸系のポリマーを製造しようとする場合に、ポリマー中のモノマーを除去しようとすることは、前示のとおり、旧来からの一般的な技術であり、原告の上記主張は、この一般的技術に対して、公報記載技術が残存モノマーの積極的活用を提案したことを殊更に過大視し、公報記載技術を重要な先行技術として本件発明1の進歩性を位置づけようとするものである(すなわち、原告が、公報記載技術に対して進歩性を有すると主張する本件発明1は、実際は、ポリマーを製造しようとする場合にモノマーを除去すべきであるとする旧来からの一般的な技術構成に立ち返ったにすぎないものと認められる。)。なお、原告は、モノマーの含量を多くすると経時的にポリマーの透明性が低下する現象を見い出して、本件発明1の構成として残存モノマーの量をごくわずか(0.9%以下)に限定した旨を強調するが、前示のとおり、ポリマーの耐久性の改善、水に対する抵抗性の増加、耐熱性の向上などの観点から、残存モノマーの量をできるだけ減少させることが従来からの一般的技術であったのであるから、本件発明1の前記構成についてその進歩性を見い出すことは困難といわなければならない。 以上のとおり、公報記載技術を先行技術として明記しなかった本件決定に誤りはなく、公報記載技術に対して本件発明1の進歩性を強調する原告の主張は、 採用することができない。 2 相違点判断の誤り(取消事由2)について (1) 本件決定が、本件発明1と刊行物発明2及び3との相違点として、刊行物2及び3には、「該組成物中に残存モノマーが当該主成分に対して、0.9%以下であること」が記載されていないと認定したことは、当事者間に争いがない。 そして、前示のとおり、刊行物1、4及び5に示されるように、従来からの技術として、ポリ乳酸系のポリマーの中の残存モノマーの量をできるだけ除去することにより、ポリマーの耐久性が改善され、水に対する抵抗性が増加し、耐熱性が向上することなどが知られており、その除去の方法も一般的であったと認められる。 そうすると、本件決定が、「当該ポリマーからモノマーを極力除去しておくことは当業者にとって容易になし得ることであり、少ない方がいいことが望ましく、存在しないにこしたことはない成分なのであるから、これを0.9%以下とすることに格別の困難性はない」と判断したことに誤りはないものといわなければならない。 (2) 原告は、上記認定の根拠とされる刊行物1、4及び5について、本件発明1の解決課題である、柔軟性及び透明性を維持しつつ可塑剤を添加するためには、 残存モノマーの量をいかにすべきかという認識は認められず、示唆もされていないと主張する。 しかしながら、刊行物1、4及び5は、前記説示のような従来技術を認定するために引用されたものであり、その認定に際して、本件発明1の解決課題が開示ないし示唆されているか否かは、関係のない事柄であるから、原告の上記主張は失当というほかない。 (3) また、原告は、本件発明1が、公知の可塑剤を使用する場合に、柔軟性及び透明性を維持するためには、残存モノマー量をいかにするかという課題を解決したものであり、このような本件発明1の解決課題を、刊行物発明2及び3が全く認識していない以上、刊行物発明2及び3において、刊行物発明1、4及び5を組み合わせる動機づけが存在しないと主張する。 しかしながら、本件発明1の課題が原告主張のようなものであるとしても、刊行物発明2及び3が、本件発明1と同様の可塑剤が添加されたポリ乳酸系のポリマーである(当事者間に争いがない。)以上、当業者が、前記のとおり、当該ポリマーの耐久性の改善、水に対する抵抗性の増加、耐熱性の向上などの観点から、刊行物発明1、4及び5に開示された、残存モノマーの量をできるだけ減少させるという従来からの一般的技術を適用する(組み合わせる)ことは、容易であることが明らかであり、何らの阻害要因も認められないから、原告の上記主張も採用することができない。 3 相違点判断の誤り(取消事由3)について (1) 本件決定が、本件発明1と刊行物発明2及び3との相違点として、刊行物2及び3には、「該組成物が柔軟性、透明性に優れた分解性のポリマー組成物であること」が記載されていない認定したこと、その検討において、「「分解性」とはポリ乳酸が本来的に有している性質である」と認定したことは、いずれも当事者間に争いがない。 (2) 原告は、本件発明1の課題及びその解決方法である本件発明1の構成があるからこそ、「柔軟性、透明性に優れた」組成物を得ることができるのであると主張する。 しかしながら、当業者にとって、可塑剤が添加されたポリ乳酸系のポリマーである刊行物発明2及び3に、刊行物発明1、4及び5に開示された、残存モノマーの量をできるだけ減少させるという従来からの一般的技術を適用することに格別の困難性がないことは、前示のとおりであり、そのように構成されたポリ乳酸系のポリマーが、柔軟性及び透明性を有することも当然のことといわなければならない。本件発明1の特許請求の範囲の記載においても、柔軟性及び透明性の程度を特に規定するものではなく、ポリ乳酸系のポリマーとしての通常の性質を示したにすぎないものと認められる。 したがって、原告の上記主張は採用する余地がなく、本件決定が、「「柔軟性、透明性に優れた」点についても、当該組成物とすることにより必然的に得られる性質を規定したものと認められるから、これらの点の記載の有無をもって、本件第1発明が進歩性を有するということにはならない。」と判断したことにも誤りはない。 4 本件発明2ないし4について 以上のとおり、本件発明1は、当業者が容易に発明することができたものであるから、これに従属する発明である本件発明2ないし4(当事者間に争いがない。)も、同様に、当業者が容易に発明することができたものといわなければならない。 5 結論 そうすると、本件各発明は、いずれも特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件決定の結論には誤りがなく、 その他本件決定にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 清水節 |