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関連審決 異議2000-70687
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  上位概念 /  下位概念 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 285号 特許取消決定取消請求事件
原告 松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士 石原勝
同 坂口智康
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 沼澤幸雄
同 野田直人
同 一色 由美子
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-70687号事件について平成13年5月14日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「生ごみ処理装置」とする特許第2943471号(平成3年12月27日出願。平成11年6月25日登録。以下「本件特許」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。
本件特許に対し,請求項1ないし3のすべてについて登録異議の申立てがなされ,その申立ては,異議2000-70687号として審理された。原告は,この審理の過程で,本件特許に係る出願(以下「本件出願」という。)の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,上記訂正に係る全文訂正明細書(甲第3号証の1)を「本件明細書」という。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成13年5月14日に,「訂正を認める。特許第2943471号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年5月30日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正前 「【請求項1】断熱性の生ごみ収容器と,前記生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱するために前記生ごみ収容器内に設けた加熱器と,加熱された前記生ごみから発生する水蒸気の流路と,前記流路の少なくとも一部を冷却するための冷却手段と,冷却された前記水蒸気の凝縮部とを有する生ごみ処理装置。
【請求項2】金属材料を主体として成る断熱性生ごみ収容器と,前記生ごみ収容器内に設けた生ごみの加熱器と,前記生ごみ収容器の外側に設けた凝縮容器と,前記凝縮容器を冷却するための冷却手段と,前記凝縮容器と前記生ごみ収容器との間に形成される水蒸気流路と,加熱乾燥される前記生ごみの乾燥度を検知するための手段とを有する生ごみ処理装置。
【請求項3】凝縮水を排水するための排水口を凝縮容器に設け,前記排水口の下流側に排水管を設け,前記排水管より気体を吸引し,機外へ排気するための排気手段を有し,その排気経路中には脱臭器を設けた請求項1または2記載の生ごみ処理装置。」 (2) 本件訂正後(下線部が訂正に係る部分である。) 「【請求項1】断熱性の生ごみ収容器と,前記生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱乾燥するために前記生ごみ収容器内に設けたヒータ と,加熱された前記生ごみから発生する水蒸気の流路と,前記流路の少なくとも一部を冷却するための冷却手段と,冷却された前記水蒸気の凝縮部とを有し,前記生ごみの加熱温度を100〜130℃とした 生ごみ処理装置。
【請求項2】金属材料を主体として成る断熱性生ごみ収容器と,前記生ごみ収容器内に収容した生ごみを100〜130℃の温度で加熱乾燥するために前記生ごみ収容器内に設けたヒータ と,前記生ごみ収容器の外側に空間を介して前記生ごみ収容器を包囲する形で 設けた凝縮容器と,前記凝縮容器を冷却するための冷却手段と,前記凝縮容器と前記生ごみ収容器との間に形成される水蒸気流路と,加熱乾燥される前記生ごみの乾燥度を検知するための手段とを有する生ごみ処理装置。
【請求項3】凝縮水を排水するための排水口を凝縮容器に設け,前記排水口の下流側に排水管を設け,前記排水管より気体を吸引し,機外へ排気するための排気手段を有し,その排気経路中には脱臭器を設けた請求項1または2記載の生ごみ処理装置。」(以下,訂正後の上記各請求項に対応する上記各発明を,それぞれ,「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,@本件発明1は,特開昭平3-80978号公報(甲第4号証。以下「刊行物1」という。),特開昭61-49978号公報(甲第5号証。以下「刊行物2」という。),特開昭62-218711号公報(甲第6号証。以下「刊行物3」という。)に記載された各発明及び周知・慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,A本件発明2は,刊行物1ないし3,特開平1-210711号公報(甲第7号証。以下「刊行物4」という。),特開昭61-217402号公報(甲第8号証。以下「刊行物5」という。)に記載された各発明及び周知・慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,B本件発明3は,刊行物1ないし5に記載された各発明及び周知・慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当する,というものである。
決定は,上記結論を導くに当たり,本件発明1,2と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。刊行物2ないし5に記載された発明についてもこれに倣う。)との一致点・相違点について,次のとおり述べた(本件発明3と刊行物1発明との一致点・相違点もこれと同じであることは,決定の記載から明らかである。) (1) 本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点 (一致点) 「断熱性の生ごみ収容器と,前記生ごみ収容器内に設けたヒータと,加熱された前記生ごみから発生する水蒸気の流路を設けた生ごみ処理装置。」 (相違点) (イ) 本件訂正発明1では,生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱乾燥するためにヒータを設け,その生ごみの加熱温度を100〜130℃としているのに対して,刊行物1発明では,生ごみの乾燥化と炭化による固化のためにヒータを設け,その加熱温度を約600℃程度までとしている点(以下「相違点(イ)」という。) (ロ) 本件訂正発明1では流路の少なくとも一部を冷却するための冷却手段と,冷却された前記水蒸気の凝縮部とを有しているのに対して,刊行物1発明では,これらを有していない点 (2) 本件発明2と刊行物1発明との一致点・相違点 (一致点) 「断熱性生ごみ収容器と,生ごみ収容器内に設けたヒータと,生ごみから発生する水蒸気の流路を設けた生ごみ処理装置。」 (相違点) (い) 本件訂正発明2では,断熱性生ごみ収容器が金属材料を主体として成るのに対して,刊行物1発明では,耐火物断熱材である点 (ろ) 本件訂正発明2では,生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱乾燥するためにヒータを設け,その生ごみの加熱温度を100〜130℃としているのに対して,刊行物1発明では,生ごみの乾燥化と炭化による固化のためにヒータを設け,その加熱温度を約600℃程度までとしている点(以下「相違点(ろ)」という。) (は) 本件訂正発明2では,生ごみ収容器の外側に空間を介して生ごみ収容器を包囲する形で設けた凝縮容器と,凝縮容器を冷却するための冷却手段と,凝縮容器と生ごみ収容器との間に形成される水蒸気流路とを有しているのに対して,刊行物1発明では,水蒸気流路を有しているだけで凝縮容器等を有していない点(以下「相違点(は)」という。) (に) 本件訂正発明2では,加熱乾燥される生ごみの乾燥度を検知するための手段を有しているのに対して,刊行物1発明では,これを有していない点
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,@刊行物1発明の認定を誤り,A本件発明1と刊行物1発明との相違点(イ)及び本件発明2と刊行物1発明との相違点(ろ)についての判断を誤り,B本件発明2と刊行物2発明との相違点(は)についての判断を誤ったものであり,これらの判断の誤りが,それぞれ,結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 刊行物1発明の認定の誤り 決定は,刊行物1発明について,「刊行物1発明では,生ごみの乾燥化と炭化による固化のためにヒータを設け,その加熱温度を約600℃程度までとしている」(決定書8頁14行〜15行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
上記認定中の「約600℃程度まで」は,「約600℃程度」を上限として,それより低い,炭化による固化が不可能な低温度の加熱範囲をも含む,広範囲の温度を含むことを意味する。
しかし,刊行物1には,「加熱室2内は例えば約600℃程度の温度に維持することにより,遠赤外線の放射を効果的に行うことができ,従って前述したように,生ごみ5の乾燥化と炭化による固化とを効果的に行うことができる。」(甲第4号証3頁左上欄1行〜5行)との記載がある。刊行物1にこのような記載がある以上,刊行物1発明における加熱範囲には,炭化による固化が不可能な低温度の加熱範囲は含まれないものというべきである。
2 相違点(イ)及び相違点(ろ)についての判断の誤り 決定は,本件発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点(イ))について, 「厨芥等の生ごみの減量化等のために生ごみを加熱して乾燥化処理することは,例えば刊行物2にも示されているように周知・慣用手段である。また生ごみの加熱処理をどの程度まで行うかもその処理の目的に応じた単なる選択事項であると云えるから,刊行物1発明のヒータによる乾燥化及び炭化処理を単に乾燥化の程度で止めることは当業者が容易に想到することができたことと云うべきである。さらに加熱温度の点も加熱処理の度合いに付随して適宜決定すべき事項であり,そこには臨界的な意義はないと云える。
そして,乾燥化の程度で止めた場合のその効果についても,刊行物2に「乾燥処理が終った後に・・・処理済の厨芥を取り出し,まとめて処分する。このようにして処理された厨芥は充分に脱水されて,その重量は大幅に減少しており,また,そのまま放置しても悪臭の発生はみられないので,取扱いが容易で衛生的である。」・・・と記載されており,この効果は,本件訂正発明1(判決注・本件発明1)の「その結果,生ごみの保管中の腐敗,悪臭発生を防止し,また重量を減少させることで収集場所までの運搬労働を軽減し,運搬中の水分漏れをなくして二次的臭気発生を防止し,ごみの減量化に寄与する等様々な効果を生み出すものである。」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第36〜41行)という効果と軌を一にするものである。してみると,上記相違点(イ)は,例えば刊行物2にみられる周知・慣用手段に基づいて当業者が容易に想到することができたと云うのが相当である。」(決定書8頁20行〜39行) と判断し,本件発明2と刊行物1発明との相違点(ろ)についても,「上記相違点(ろ)については,本件訂正発明1(判決注・本件発明1)の上記(1)の相違点(イ)について述べたとおりである。」(決定書9頁31行〜32行)と判断した。
しかし,上記判断は,@「生ごみの加熱処理をどの程度まで行うかもその処理の目的に応じた単なる選択事項であると云えるから,刊行物1発明のヒータによる乾燥化及び炭化処理を単に乾燥化の程度で止めることは当業者が容易に想到することができたというべきである。」と判断した点,A「加熱温度の点も加熱処理の度合いに付随して適宜決定すべき事項であり,そこには臨界的意義はないと云える。」とした点,B刊行物2に記載されている効果は,本件発明1の効果と軌を一にするものであると判断した点において,誤っている。
(1) @の点について 刊行物1発明は,生ごみ(あるいはそれを被覆するでんぷん質シート)の表面を加熱により炭化して固化することにより,生ごみ内部の水分の漏出を防ぎ,悪臭の発生を防止するものである。同発明では,加熱温度が600℃程度と比較的高温であるため,生ごみの内部が十分に乾燥される前に表面が炭化により固化されるものであることから,内部には水分が含まれており,その水分の流出を防止するためには表面の炭化による固化が重要になってくるものである。
このように,刊行物1発明は,乾燥化に続いて表面を炭化固化することによって初めて,処理後のものから水分の流出や悪臭の発生を防止できるという効果を奏することができるものであって,炭化固化させることにその技術的な意義がある。加熱処理を600℃程度の比較的高温にすることと,100〜130℃にとどめることとを,「単なる選択事項」の範囲内の関係にあるとすることはできない。
刊行物1発明における加熱処理を炭化固化させない程度の比較的低温のものに替えることには,阻害要因がある。
被告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは,生ごみの減量化と悪臭発生の防止という加熱乾燥の目的において軌を一にする,と主張する。しかし,刊行物1発明の加熱乾燥の目的は,生ごみの乾燥化に続いてその表面を加熱により炭化・固化させることによって,生ごみ内部の水分の漏出を防ぎ,「悪臭の発生を防止」するところにあるのに対し,刊行物2発明の加熱乾燥の目的は,生ごみを加熱乾燥させ,生ごみ保管中に悪臭の原因となる水分を除去して「悪臭の発生を防止」するところにある。同じく悪臭の発生を防止するといっても,両発明間でその具体的内容は異なるのである。
(2) Aの点について ア 本件発明1が加熱温度の上限を130℃に設定していることには,臨界的意義が存在する。
別紙資料1は,生ごみを加熱したときに,生ごみの加熱温度とこれから発生するエタノール,ホルムアルデヒド,メルカプタン類の濃度との関係を示すものである。同資料のグラフから明らかなように,生ごみの加熱温度が上昇すると,140℃付近から,エタノールの分解飛散量が急激に増え,150℃付近からホルムアルデヒドの分解飛散量が急激に増えてくる。メルカプタン類は生ごみの加熱温度が上昇し200℃付近に達した後にその分解飛散量が急激に増えてくる。これらが増えると,当然凝縮水に溶解される量も増え,例えば家庭排水として凝縮水が廃棄され,河川に流れ込むと,水質のCOD(化学的酸素要求量)の値が大となって,環境汚染問題を生ずることになる。
この問題に対処するため,本件発明1のように,生ごみの加熱温度の上限を140℃付近よりも若干安全な側である130℃に設定すると,エタノールやホルムアルデヒドが熱分解されて空気中に飛散することを確実に抑制することができ,これによって,熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となる,という効果を奏することができるのである。
また,生ごみの加熱温度が上昇するに従って,アルコール類→アルデヒド類→有機酸類の順に酸化(分解)が進み,それに伴い焦臭がきつくなっていくため,生ごみを乾燥処理した後にこれを廃棄する際,不快感を覚えるものである。本件発明1のように,加熱温度の上限を130℃に設定すれば,これらの酸化(分解)を抑制することができるので,焦臭が低減されて,廃棄時に不快感を覚えることがないという効果も生ずる。
別紙資料2は,プラスチックの加熱温度と発生ガスとの関係を示すものである。同資料のグラフから明らかなように,ポリ塩化ビニリデンは加熱温度が130℃付近から分解を開始し,140℃付近以降急激に塩化水素(水蒸気に触れると塩酸に変化)の放出量が増えること,ポリ塩化ビニルは,170℃付近から分解を開始し,175℃付近以降急激に塩化水素の放出量が増えることが分かる。一般家庭では,ポリ塩化ビニリデンはラップフィルムやハムなどの包装用に,ポリ塩化ビニルは醤油,ソース等の容器に多く用いられ,生ごみに混在されて廃棄されることが多いものであり,生ごみの加熱温度が高い場合には有毒ガスの発生という問題が生ずる。加熱温度の上限を130℃とすることにより,生ごみに混在されるポリ塩化ビニル等のプラスチックからの有害ガスの発生を確実に抑制することができる。
このように,本件発明1が加熱温度の上限を130℃に設定することには重要な臨界的意義が存在し,これにより,有機成分の飛散を抑制し,水質汚濁を防止するという効果,有機成分の飛散を抑制することを通じて,焦臭の発生を防止して廃棄時の不快感を防ぐことができるという効果,及び,生ごみに混在することの多いプラスチックからの有害ガスの発生を抑制し得るという効果を奏することができるのである。
イ 被告は,刊行物2には,加熱乾燥処理の温度として,有機成分を分解するほどの高温ではない温度が開示されている,と主張する。しかし,刊行物2発明は,生ごみ中の水分を除去することのみが悪臭防止になると理解し,この理解の上で生ごみを乾燥しようとするものであって,加熱中に発生する有機成分については何ら言及していない。刊行物2には,有機成分を分解するほどの高温でない温度の上限(130℃)は,何ら示されていない。
被告は,@加熱温度を「110〜140℃」にすれば「焦げの発生を抑制」することができることは,乙第3号証に記載されているとおり周知である,A加熱温度を「100〜150℃」にすれば「熱分解による有機成分の発生を抑制」することができることは,乙第1号証に記載されているとおり周知である,と主張する。
しかしながら,乙第3号証には,「排気温度」を110℃〜140℃に制御することが記載されているだけであって,「加熱温度」を制御することは,何ら記載されていない(加熱温度は,排気温度より20℃程度高いと考えられることなどから,乙第3号証に記載されたものの実際の加熱温度は130℃〜160℃以上であるというべきである。)。
乙第1号証には,HCl,NOX等の有害ガスがほとんど発生しないよう,ロータリドライヤ23の炉内温度を100℃〜150℃とする技術が開示されている。しかし,同号証には,エタノール,ホルムアルデヒド等の有機成分の発生の抑制に関しての事項は一切記載されていない。HCl,NOXは有機成分でないことは明らかなので,同号証の有害ガスを本件発明1にいう有機成分と同視することはできない。
乙第1号証には,炉内温度を積極的に制御する事項は全く記載されていない。
(3) Bの点について 本件発明1は,刊行物2発明の効果である「乾燥処理が終った後に・・・処理済の厨芥を取り出し,まとめて処分する。このようにして処理された厨芥は充分に脱水されて,その重量は大幅に減少しており,また,そのまま放置しても悪臭の発生はみられないので,取扱いが容易で衛生的である。」(甲第5号証3頁左下欄6行〜12行)と同様の効果を奏することは事実である。
しかし,本件発明1は,加熱温度の上限を130℃に設定することにより,上記効果に加えて,熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となる,という効果を奏する。刊行物2発明は,加熱温度については一切言及しておらず,加熱温度の上限を130℃に設定することにより生ずる上記効果についても言及していない。本件発明1の加熱温度の上限を130℃に設定することによる特有の効果については,刊行物2は開示も示唆もされていない。
本件発明1の上記特有の効果を参酌しないままなされた決定の判断は誤りである。
3 相違点(は)についての判断の誤り 決定は,本件発明2と刊行物1発明との相違点(は)について,「この相違点(は)について検討すると,この相違点(は)の主要な点は,要するところ,排出される水蒸気を冷却して水として除去する凝縮手段を有しているか否かであると云えるところ,例えば刊行物5の上記(r),(s)に記載されているとおり,厨芥の処理装置において,その水蒸気の排出される周囲の空間を冷却して凝縮することは周知の事項であり,また凝縮容器の構造が若干相違するものの例えば刊行物2,3に記載の生ごみ処理装置でもこの種の凝縮容器が設けられているから,この「凝縮容器」は生ごみ処理装置では常備すべき器具というべきものである。そうすると,上記相違点(は)の「凝縮容器」自体は「生ごみ処理装置」の周知・慣用手段であると云えるし,またこの凝縮容器を何処にどのように設けるか,すなわち「生ごみ収容器の外側」に設ける点や「空間を介して」設ける点や「生ごみ収容器を包囲する形」で設ける点はいずれも設計的な事項であり,これらを刊行物1発明の水蒸気流路との関係で設計することは当業者であれば容易になし得たことと云うべきものである。また,冷却手段の点も凝縮容器に当然に付随する器具であるから,この点も格別の差異ではない。してみると,上記相違点(は)は,例えば刊行物5や刊行物2,3を参考に当業者が容易に設計することができたものであるとするのが相当である。」(決定書9頁下から7行〜10頁11行)と判断した。
しかし,決定の「上記相違点(は)の主要な点は,要するところ,排水される水蒸気を冷却して水として除去する凝縮手段を有しているか否かである」との判断は,「断熱性生ごみ収容器」の構成を看過してなされたものである。
本件発明2は,「凝縮容器を断熱性生ごみ収容器の外側に空間を介してこれを包囲する形で設け,水蒸気流路を前記凝縮容器と前記生ごみ収容器との間に形成した構成」を有することにより,a 断熱性生ごみ収容器の外側にこれを包囲するようにして凝縮容器を設けて断熱性生ごみ収容器の周囲のスペースを有効に利用して装置のコンパクト化を図り,かつ断熱性生ごみ収容器と凝縮容器との間に水蒸気流路を形成して,断熱性生ごみ収容器で発生した水蒸気を凝縮容器に導くための別設の水蒸気流路用配管を省略して,機器構成の簡素化を図るとともに更なるコンパクト化を図ることができる,b 断熱性生ごみ収容器の外側にこれを包囲するようにして凝縮容器を設けているので,装置を大きくすることなく広い熱交換面積を取ることができ,効率的な水分分離を行うことができる,という効果を奏する。このような効果を奏する上記構成を,単なる設計的事項であるということはできない。
刊行物5発明の生ごみ処理装置は,マイクロ波加熱器2によるマイクロ波を,水分を含む厨芥4に直接作用させてその内部から加熱するものである。すなわち刊行物5の減圧容器1はその内部空間を高温の加熱空間とする必要がないものであり,そのために減圧容器1を凝縮容器としても利用できるものである。刊行物5発明は,断熱性生ごみ収容器と凝縮容器とを二重構造として両者間を熱的に離隔するという本件発明2の技術思想を全く有していない。
決定の上記判断は誤りである。
被告の反論の要点
決定の認定判断は正当であり,決定に取消事由となるような誤りはない。
1 刊行物1発明の認定の誤り,の主張について 刊行物1記載の加熱乾燥による生ごみの処理範囲には,上位概念的には,「水分を蒸発して重量と容積を減量化する加熱乾燥処理」(特許請求の範囲(1)の「生ごみを,遠赤外線放射体を設けた加熱室内に於いて加熱乾燥することを特徴とする生ごみの処理方法」参照)のレベルから,下位概念的には,「生ごみ又はシートの表面を炭化・固化される加熱乾燥処理」(実施例)のレベルまでのものが含まれる,ということができる。
このような処理範囲の加熱乾燥を実現する温度範囲について刊行物1に具体的に記載されているのは,唯一「例えば約600℃程度」である。しかし,この温度は,あくまで,生ごみの表面を炭化するまで処理する場合のものとして例示されている数値であって,刊行物1記載の加熱乾燥の温度がこの約600℃のみに限定されるものでないことは当然である。例えば,生ごみの表面を炭化するまで処理する場合でも,生ごみの種類又は生ごみを包むシートの材質によっては600℃以下の場合もあり得るから,刊行物1記載の加熱乾燥の温度は,唯一例示されている約600℃を上限とすれば,それ以下の温度も含むという意味で,「約600℃程度まで」と認定するのが相当である。
2 相違点(イ)及び相違点(ろ)についての判断の誤り,の主張について (1) 原告主張の@の点について 刊行物2には,刊行物1に記載された課題と共通する,生ごみの悪臭発生の防止,という課題を解決するために,生ごみの水分のみを除去して加熱乾燥処理することが記載されている。この加熱乾燥処置は,水蒸気の量が少なくなって温度が著しく上昇し始めたときにその温度上昇率を検出して加熱を停止させるものであるから(甲第5号証2頁右下欄18行〜3頁左上欄6行),この場合の加熱温度は,水分が水蒸気化する100℃よりは高温であるとしても,有機成分を分解するほどの,また,生ごみの表面を炭化させるほどの高温ではない。なぜなら,刊行物2の乾燥処理は,厨芥に含まれている水分のみを衛生的に除去(甲第5号証2頁左上欄5行〜10行)するために,厨芥から発生する水蒸気の量の減少に伴う急激な温度上昇を検知して加熱を終了させているので,厨芥に水分が全くなくなった状態では既に加熱が終了しており,厨芥の有機成分を分解することができないからである。このように処理された生ごみは,「そのまま放置しても悪臭の発生はみられない」(甲第5号証3頁左下欄11行〜12行)と明記されている。
上に述べたところによれば,刊行物2に記載された加熱乾燥処理は,本件発明1のように,生ごみの水分を除去するだけで悪臭発生を防止することができる加熱乾燥(表面を炭化させない)処理であり,「有機成分を分解しない程度の加熱乾燥処理」であるとも言い得る。
生ごみを加熱乾燥処理することが周知である根拠としては,刊行物2のほかにも,刊行物5(甲第8号証),乙第1ないし第3号証を挙げることができる。
刊行物1発明の加熱乾燥の目的は,水分を含む厨芥の生ごみの減量化と悪臭発生の防止である。刊行物2記載の「厨芥処理装置」も,加熱の度合いは異なるものの,その加熱乾燥の目的は加熱乾燥処理による生ごみの減量化と悪臭発生の防止であるから,両者は,その目的では軌を一にする。
刊行物1発明は,生ごみを加熱乾燥処理するにとどまらず,表面が炭化するまで加熱を行って処理後の生ごみの悪臭発生を防止するというものである。しかし,処理後の生ごみの悪臭発生を防止するという目的を,表面の炭化まで加熱しない,いわゆる水分を除去する加熱乾燥程度の方策でも十分に達成することができることは,上記のとおり既に周知の事実であるから,刊行物1発明の炭化まで行う加熱乾燥に替えてこの周知の手段を採用する程度のことは,当業者であれば容易に想到することができたことが明らかである。
加熱の度合を変えただけで,刊行物1発明の技術的思想が根本的に変わってしまう,ということはない。
(2) 原告主張のAの点について ア 本件発明1における加熱温度の意味について 本件明細書には,本件発明1の加熱温度「100〜130℃」について,「この加熱乾燥処理中において,生ごみ中の水分が十分多いときには温度検知器による検知温度は水の沸点である100℃にほぼ一致する。しかし水分が少なくなってくると沸点上昇等により検知温度の上昇が始まる。この状態を検知することによって処理を終了する。また,加熱温度が高すぎると加熱中に生ごみの熱分解が促進されて有機成分の飛散が多くなり,凝縮水中に有機成分を多く混入するようになる。これは下水の有機処理負荷を増大することになるので避ける必要がある。したがって加熱温度は水の沸点よりやや高い値(おおよそ100〜130℃範囲)に設定することが望ましい。このことにより熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となり,乾燥処理の終了検知も行い易くなる。」(甲第3号証の1の11頁8行〜18行)との記載がある。
本件明細書の上記記載に照らすと,本件発明1における加熱温度「100〜130℃」は,上記記載中の,水の沸点より「やや高い」や「おおよそ」の表現に代表されるように,その数値範囲の上・下限は数値上きっちり定められている必要はなく,しかも「望ましい」程度のことであるから,原告が主張するような臨界的な意義があるとは到底いうことができない。
上記記載中の「加熱温度は水の沸点よりやや高い値(おおよそ100〜130℃の範囲)に設定すること」,「熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となり」,「乾燥処理の終了検知も行い易くなる。」との記載を総合すると,本件発明1の加熱温度の下限である「100℃」については,生ごみ中に不可避的に存在する「水」を水蒸気として蒸発除去させるための温度であるから,それなりの技術的な意味があるということができる。しかし,上限である「130℃」については,これらの記載の下で,数値上の格別の意味があるとすることはできないのである。
このように,本件明細書において,本件発明1の加熱温度の上限は,「水の沸点よりやや高い値」という理由からおおよその範囲として設定されているものである。その上限温度の設定理由も,上記記載によれば,生ごみ中の水分量が加熱乾燥処理の進行に伴って少なくなり,その結果生ごみが水の沸点(100℃)より加熱され焦げて熱分解がおこり有機成分が発生することになることから,加熱乾燥処理の終了の目安と有機成分の発生の抑制のために設定されたものである。
生ごみの有機成分の発生の抑制に着目すれば,生ごみには種々のものが混在していることは常識的な事実である(別紙資料1及び資料2で用いられた生ごみに限られない。)から,130℃以上の例えば150℃に加熱されても焦げず(熱分解せず)に有機成分ガスを発生させない生ごみも,130℃以下の120℃でも焦げて熱分解して有機成分を発生させる生ごみもあり得る。
以上によれば,本件発明1における加熱温度の上限は,その「130℃」の数値に臨界的な意味があるのではなく,「不特定の大部分の生ごみが焦げない程度の「おおよそ」の上限温度と解するのが相当である。
本件発明は特定の生ごみを対象とするものではないから,原告の都合により選択された生ごみだけについて実験した資料1,2を,本件発明の熱分解の温度やその効果を示すものとして評価することはできない。
イ 本件発明1の「加熱温度100〜130℃」の容易想到性について 上記のとおり,本件発明1の加熱温度である「100〜130℃」は,単に生ごみを焦がさない加熱乾燥の程度にとどめる処理温度として極めて常識的な温度範囲,として設定されたとしか解釈することができないものである。
刊行物2や乙第3号証には,「生ごみ」の加熱乾燥処理の場合には「水」を水蒸気として蒸発除去すること,乾燥処理の進行に伴って水蒸気が減少し乾燥温度が上昇するためこの温度上昇を検知して加熱乾燥を終了させることが記載されており,乙第3号証には,温度上昇が続けば生ごみの乾燥部が焦げるため,焦げる前に乾燥を終了しなければならないことまでも記載されている。さらに,乙第1号証には,「ロータリドライヤ23での乾燥は燃焼させるわけではないので炉内温度はせいぜい100℃〜150℃でよく乾燥させるに必要な熱量は少なくてよいと共に有害ガスはほとんど発生しない」(4頁右下欄)との記載があり,生ごみの乾燥を燃焼(酸化)させずにする場合,その温度を「せいぜい100℃〜150℃」とすれば有害な有機成分を発生させることがないことも,明らかにされている。
本件発明1の「生ごみの加熱温度を100〜130℃としたこと」すなわち「生ごみを焦がさずに加熱乾燥処理」することは,刊行物2や乙第3号証に記載されているとおり周知・慣用の手段であることが明らかである。
乙第3号証には,乾燥の停止を100℃ないし140℃のセンサーで検知する場合,標準的な温度センサー125℃±10℃の使用が可能であるとされている(2頁左下欄)。このようにセンサー自体に検知の幅があり,それによって制御可能な温度幅が生じるのであるから,例えば温度センサーとして115℃±10℃のものを使用した場合には「100℃〜130℃」という温度範囲の加熱温度の制御が可能である。「100℃〜130℃」の温度範囲というのは,この程度のことにすぎない。
本件発明の上限「130℃」には,数値上の格別の意味がないことも上に述べたとおりであり,上記周知・慣用の「生ごみを焦がさない」乾燥処理を採用した場合にどの程度の温度であれば生ごみが焦げないかについても,乙第1号証などの周知の具体例で既に明らかにされているから,この加熱温度について「加熱処理の度合いに付随して適宜決定すべき事項」である,と判断した決定に何ら誤りはない。
(3) 原告主張のBの点について 原告主張の効果は,上記の周知の温度を採用することにより,当然にもたらされる効果にすぎない。
3 相違点(は)についての判断の誤り,の主張について 原告は,決定が,相違点の認定及び判断において,本件発明2の生ごみ収容器が「断熱性生ごみ収容器」であることを看過した,と主張する。
しかし,決定は,「断熱性生ごみ収容器」の点については,本件発明2と刊行物1発明との一致点の認定において,既に判断しており,相違点の看過はない。
本件発明2の生ごみ収容器と凝縮容器と水蒸気流路との三者の関係から成る構成は,要するに,生ごみ収容器の外側を凝縮容器で包囲し,そこに存在する空間をそのまま水蒸気流路とする構成である。このような三者の関係は,刊行物5に図示されているとおりのものである。本件発明2の水蒸気流路と凝縮容器との構成は,刊行物5に示された装置に基づいて適宜設計変更をすることができる程度のものである。これらの構成をいずれも設計的な事項とした決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 刊行物1発明の認定の誤り,の主張について 原告は,決定が本件発明1と刊行物1発明との相違点の認定中において,「刊行物1発明では,生ごみの乾燥化と炭化による固化のためにヒータを設け,その加熱温度を約600℃程度までとしている」(決定書8頁14行〜15行)と認定したことについて,「約600℃程度まで」とは,「約600℃程度」を上限として,それより低い,炭化による固化が不可能な低温度の加熱範囲をも含む広範囲の温度を含むことを意味するから,この認定は誤りである,と主張する。
しかしながら,決定は,相違点(イ)の認定において,上記のとおり刊行物1発明が生ごみの乾燥化のみならず炭化による固化も行うものであることを挙げ,同相違点についての判断においても,「刊行物1発明のヒータによる乾燥化及び炭化処理を単に乾燥化の程度で止めることは当業者が容易に想到することができたことというべきである。」(決定書8頁23行〜25行)として,刊行物1発明は乾燥化及び炭化処理をするものであり,本件発明1は乾燥化処理にとどまり炭化に至らないものであることを前提として,判断をしていることが明らかである。
上記内容の相違点(イ)の認定及びこれについての上記判断内容に照らすと,決定が刊行物1発明の加熱温度について「約600℃程度まで」と認定した意図が,炭化による固化が不可能な低温度の加熱範囲をも含む広範囲の温度を含むとの趣旨であったとは,考え難い。仮に,被告主張のとおり,刊行物1中には,乾燥化処理にとどまり,炭化に至らない発明も記載されているとしても,決定が引用発明として認定したのは,炭化に至るものなのであるから,そこで採用される加熱温度としても,当然のこととして,それを可能とするものが認定されていると考えるべきである。
原告の主張は,採用することができない。
2 相違点(イ)及び相違点(ろ)についての判断の誤り,の主張について (1) 原告は,本件発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点(イ)。本件訂正発明1(判決注・本件発明1)では,生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱乾燥するためにヒータを設け,その生ごみの加熱温度を100〜130℃としているのに対して,刊行物1発明では,生ごみの乾燥化と炭化による固化のためにヒータを設け,その加熱温度を約600℃程度までとしている点。本件発明2と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点(ろ))も同じ。)について,決定が,刊行物1発明のヒータによる乾燥化及び炭化処理を単に乾燥化の程度でとどめることは当業者が容易に想到することができたことというべきである,と判断したのは誤りである,と主張する。
刊行物2(特開昭61-49978号公報。甲第5号証)には,生ごみ類である厨芥に含まれている水分のみを衛生的に除去し,その取扱いを容易にすることを目的とする発明において,厨芥を加熱して乾燥させること,これによって厨芥の乾燥が十分に進み,厨芥から発生する水蒸気の量が少なくなってくると,厨芥容器内の厨芥の温度が著しく上昇し始めるので,その温度上昇率を検出して加熱装置の動作を停止させること,このようにして乾燥処理された厨芥は十分に脱水されて,重量が大幅に減少し,そのまま放置しても悪臭の発生がみられないため,取扱いが容易であること,が記載されている(決定書5頁7行〜6頁3行参照)。
特開昭62-286585号公報(乙第1号証)には,「本発明は,簡略な設備でしかも生ゴミ,下水処理汚泥等の燃料性廃棄物を処理し得るとともに,これら廃棄物を燃料として再利用可能とした廃棄物処理設備に関するものである。」(1頁左欄下から3行〜右欄1行),「又,この乾燥過程で予め所要の大きさにゴミを破砕してあるので乾燥は効率よく行われる。ロータリドライヤ23での乾燥は燃焼させるわけではないので炉内温度はせいぜい100℃〜150℃でよく乾燥させるに必要な熱量は少なくてよいと共に有害ガスは殆ど発生しない。」(4頁右下欄2行〜7行)との記載がある。
特開昭51-56583号公報(乙第3号証)には,「本発明は乾燥機の乾燥終了時に温度センサーにより検知し,自動的に装置を止めることを目的とした厨芥乾燥処理装置に関するものである。」(1頁左欄14行〜16行),「厨芥の乾燥をする場合,第4図に示すように排気孔の温度は10分程度で80℃になり,蒸発が進んでいる間はそのまゝ温度は平衡状態を続け,乾燥が80%近くまで進行すると温度は急激に上り始め,100%乾燥まで上り続ける。理想的な乾燥状態は,80%〜100%で,これ以上乾燥を続けると,乾燥部がこげるため,この間で乾燥を停止させるには第4図に示すように110℃〜140℃の温度センサーで検知すれば良く,この範囲ならば標準的な温度センサー125°±10の使用が可能である。」(2頁左下欄7行〜17行)との記載がある。
上に認定した刊行物2,乙第1,第3号証の記載によれば,本件出願当時,生ごみの加熱処理に当たり,表面を炭化するまで加熱することなく,水分を除去する加熱乾燥の程度にとどめること,このような加熱乾燥の程度であっても,有害ガスの発生を抑えつつ,処理後の生ごみの悪臭の発生を防止することができることは,周知の事項であったということができる。
刊行物1発明(甲第4号証参照)は,生ごみの悪臭の発生を防止するため,生ごみを加熱乾燥処理するにとどまらず,その表面を炭化して固化するまで加熱する生ごみの処理装置である。刊行物1発明のこのような炭化して固化するまで加熱する方法に替えて,生ごみの加熱処理という同じ技術分野における上記周知の事項を適用し,生ごみの表面の炭化に至らない程度の水分を除去するにとどめる加熱乾燥の方法を採用することは,当業者において,容易に想到することができたものというべきである。これと同旨の決定の判断に誤りはない。
原告は,刊行物1発明は,加熱処理を600℃程度の高温で行って生ごみを炭化固化させることにその技術的意義があるのであるから,これを炭化固化させない程度の比較的低温のものに替えることには阻害要因がある,と主張する。しかしながら,生ごみの加熱処理の方法として,炭化の程度に至らない程度の水分を除去するにとどめる加熱乾燥の方法に悪臭防止等の効果のあることが周知の事実である以上,この周知の手段を同じ技術分野に属する刊行物1発明についても試みることを阻害する要因があると認めることはできない。他にも,上記周知の事項を刊行物1発明に適用することを阻害する要因となるものは,本件全証拠によっても認めることができない。
原告の主張は採用することができない。
(2) 決定は,本件発明1における加熱温度について,「加熱温度の点も加熱処理の度合いに付随して適宜決定すべき事項であり,そこには臨界的な意義はないと云える。」(決定書8頁25行〜26行)と判断し,これを根拠の一つとして,当業者は相違点(イ)に係る本件発明1の構成に容易に想到することができた,との判断を導いた。
原告は,本件発明1の加熱温度の上限である130℃には有機成分の飛散を抑制する等の効果をもたらす臨界的意義があるから,決定の上記判断は,誤りである,と主張する(加熱温度の下限を100℃に設定することについては,これにより,水分の減少に伴う温度変化の検知が容易になり,乾燥処理の終了検知を行いやすくなること,このことは水分の水蒸気化の観点からみれば極めて当然のことであって格別のことではないことは,当事者間に争いがない。)。
しかしながら,130℃に臨界的意義があることを挙げて,100〜130℃という温度設定を本件発明1の特許性の根拠にしようとする原告の主張は失当である。
まず,仮に,130℃に臨界的意義を認めることができるとしても,上記(1)で認定した周知事項の下では,当業者は,この臨界的意義とは無関係に極めて容易に上記温度を設定することができるというべきであり(後記(3)及び本件明細書の後記エの記載),このようなとき,130℃に臨界的意義があることを特許性の根拠にすることは特許制度の目的に適わないというべきである。
次に,上記の点はおくとしても,特許性の根拠として130℃に臨界的意義があることを主張すること自体,本件明細書の記載に基づかないものであるから,許されないというべきである。
本件明細書(甲第3号証の1)の発明の詳細な説明中には,次の記載があることが認められる(下線部は,本件訂正に係る個所である。)。
ア「【発明が解決しようとする課題】生ごみに関しては上記のように,収集が行われる所定の時間まで発生場所の近傍で保管しておく必要があるが,水分を多く含むためそれ自体で腐敗の起き易い環境を形成する。したがって保管中に生ごみの腐敗が進行して悪臭が発生することが第1の問題となっていた。また水分を多く含むため重量が増え,それを詰め込んだ袋を収集が行われる所定の場所まで運搬していく重労働が第2の大きな問題であった。また収集場所までの運搬中に厨芥を収容した袋から水分が洩れ,その痕跡が新たな(二次的)臭気発生の原因となることも頻繁にあり,特に集合住宅においてこの問題解決に対する期待は切実なものであった。これに対して従来の厨芥処理装置をみると,ディスポーザは厨芥を細かく粉砕できるが,処理後の排水中には多量の固形分および有機成分を含むため,河川等の有機汚染を引き起こす一因となるものであった。焼却式は焼却中の臭気発生,困難な灰の処理等の問題が残されている。また,冷凍式は厨芥の重量を削減することは原理的にできないものであった。したがって,何れの方法もそれぞれに特有の問題を抱えており,実用的なレベルでの生ごみ処理装置は未だに無いに等しい状態であり,早期の実現が課題となっていた。」(甲第3号証の1の7頁12行〜28行) イ「【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために,断熱性の生ごみ収容器と,生ごみ収容器内に収容した生ごみを加熱乾燥するために生ごみ収容器内に設けたヒータと,加熱された生ごみから発生する水蒸気の流路と,流路の少なくとも一部を冷却するための冷却手段と,冷却された水蒸気の凝縮部とを有し,生ごみの加熱温度を100℃〜130℃とした生ごみ処理装置としたものである。
また,金属材料を主体として成る断熱性生ごみ収容器と生ごみ収容器内に収容した生ごみを100〜130℃の温度で加熱乾燥するために生ごみ収容器内に設けたヒータ と,生ごみ収容器の外側に空間を介して生ごみ収容器を包囲する形で 設けた凝縮容器と,凝縮容器を冷却するための冷却手段と,凝縮容器と生ごみ収容器との間に形成される水蒸気流路と,加熱乾燥される生ごみの乾燥度を検知するための手段とを有する生ごみ処理装置としたものである。」(同7頁末行〜8頁13行) ウ「【作用】生ごみの主成分は水分であり,通常その重量の7〜8割を占める。本発明は生ごみを加熱して水分を蒸発分離し,生ごみは乾燥物の状態に処理し,水蒸気は凝縮水として廃棄する装置である。このとき,生ごみ収容器を断熱構成することにより加熱時の熱損失を最小限にして加熱効率を向上させるとともに,放熱がほとんど無いために,生ごみ収容器内各部を均一温度を保ったまま加熱乾燥することが可能となり,加熱乾燥ムラを最小限にするとともに,焦げの発生も抑制するため,凝縮水もクリーンな状態で廃棄することができるものである。
また,加熱中に発生する臭気成分ガスも同時に冷却凝縮させて凝縮水中に回収するため,処理中の臭気発生も極小にすることが可能となるものである。
さらには,生ごみ収容器の外側に凝縮容器を設ける構成とすることにより,効率的な水分分離と機器構成の簡素化を両立させることも可能となるものである。
さらに,生ごみ収容器の外側に凝縮容器を設けた構成では,装置を大きくすることなく広い熱交換面積をとれる。」(同8頁14行〜末行) エ「本発明による一実施例の要部縦断面図を図1に示す。1は外装の一部を兼用する断熱性の生ごみ収容器であり,その内部に収容した生ごみを加熱するための加熱器としてヒータ2aを納めたヒータブロック2をその中に設けている。2bはヒータのリード端子である。ここではヒータとして自己温度制御性(PTC)ヒータを用いて,ヒータ温度を100〜130℃に制御している・・・・。
次に操作について説明する。まず蓋5を開放してごみ容器3を引き出し,その中に生ごみを投入する。生ごみ収容器1内にセットし,蓋4を閉める。これで準備完了であり,以下加熱操作に移る。加熱器であるヒータ2aに通電し,生ごみの加熱を開始する。同時にあるいは生ごみの温度を見計らって冷却ファン7,吸引ファン12の動作も開始する。生ごみの温度は徐々に上昇し,水蒸気が発生し始める。生ごみ収容器1の断熱性を高めることは,効率的に水蒸気を発生させる(加熱効率の向上)ために有効である。発生した水蒸気は水蒸気流路6に流出してくるが,このとき冷却ファン7から送られる空気によって凝縮部8が冷却されているため,発生した水蒸気は同部で冷却され凝縮する。凝縮部8で生成した凝縮水は排水口13から機外へ流出させる。排水口13の下流側に凝縮水溜めを設けた場合には,凝縮水が十分溜まった時に取り外して廃棄できる構成にしておくと良い。この構成はポータブル機器としての使用を可能とする。このようにして生ごみの乾燥が進行し,水分が分離される。
この乾燥過程で水蒸気と共に発生する少量のガス状臭気成分は水蒸気流路6から分岐した分岐管10を介して吸引ファン12によって吸引され,脱臭器11へと送られ,同部で脱臭後に機外へ排気されるためほぼ無臭となる。酸化脱臭反応を円滑に進行させるために吸引ファン12に少量の外気(空気)を吸引する構成にすることが有効である。また,吸引ファン12の動作を蓋4の開放に連動する機構を附加することにより,蓋4を開放したときに操作する人の側に臭気が流出しないようにすることが可能となり,蓋4開放時の不快感をなくすことができる。この加熱乾燥処理中において,生ごみ中の水分が十分多いときには温度検知器による検知温度は水の沸点である100℃にほぼ一致する。しかし水分が少なくなってくると沸点上昇等により検知温度の上昇が始まる。この状態を検知することによって処理を終了する。また,加熱温度が高すぎると加熱中に生ごみの熱分解が促進されて有機成分の飛散が多くなり,凝縮水中に有機成分を多く混入するようになる。これは下水の有機処理負荷を増大することになるので避ける必要がある。したがって加熱温度は水の沸点よりやや高い値(おおよそ100〜130℃の範囲)に設定することが望ましい。このことにより熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となり,乾燥処理の終了検知も行い易くなる。」(同9頁1行〜11頁18行) オ「【発明の効果】本発明は上記のように極めて簡単な構成で,生ごみを効率的にかつ無公害で乾燥減量化処理することができ,操作性の良い,設置性に優れた生ごみ処理装置を提供することを可能とするものである。その結果,生ごみの保管中の腐敗,悪臭発生を防止し,また重量を減少させることで収集場所までの運搬労働を軽減し,運搬中の水分洩れをなくして二次的臭気発生を防止し,ごみの減量化に寄与する等様々な効果を生み出すものである。さらに,生ごみ収容器の外側に凝縮容器を設けた場合,装置を大きくすることなく広い熱交換面積をとれる。」(同14頁13行〜21行) カ 本件明細書中には,生ごみの加熱温度と有機成分の飛散量との関係を示すデータや図表の記載はない。
本件明細書中には,上に認定した記載以外には,加熱温度に関する記載はない。
上記エで認定した記載中には,本件発明1における生ごみの加熱温度と有機成分の飛散量との関係について,加熱温度が高くなると有機成分の飛散が多くなるので加熱温度を制御する必要がある旨の記載がある。しかしながら,上記記載は,加熱温度について,水の沸点より「やや」高い値,「おおよそ」100〜130℃の範囲,に設定することが「望ましい」との表現を用いており,これらの表現内容に照らすならば,上記加熱温度についての数値範囲は,おおよその範囲として設定されたものにすぎない,と理解するのが自然である。このことに,「生ごみ」や「有機成分」には種々のものがあるにもかわらず,本件明細書中にはその種類が特定されていないこと,本件明細書中には加熱温度と有機成分の飛散量との関係を示すデータや図表の記載がないことをも併せて考慮するならば,本件発明1における加熱範囲の上限温度である130℃には,臨界的な意義があると認めることはできず,単に生ごみの加熱温度が高くなりすぎないようにするという意味での,おおよその温度範囲を示したものにすぎない,とみる以外にないというべきである。
原告は,加熱温度の上限に臨界的意義があることを示すものとして,本件訴訟において,別紙資料1及び2を提出する。しかしながら,上に述べたとおり本件明細書に130℃の加熱温度の臨界的意義についての開示があると認めることができない以上,仮に,資料1,2に基づいて,客観的には,加熱温度の上限温度である130℃に臨界的意義があることが認められたとしても,そのことを本件発明1の内容として主張することは許されないものというべきである。このような主張を認めることは,明細書に開示されていなかった新たな発明の主張を許すことになると考えられるからである。
(3) (1)で認定したとおり,特開昭62-286585号公報(乙第1号証)には生ごみの加熱温度として,「せいぜい100℃〜150℃」と記載されていること,特開昭51-56583号公報(乙第3号証)には生ごみの加熱温度として「理想的な乾燥状態は,80〜100%で,これ以上乾燥を続けると,乾燥部がこげるため,この間で乾燥を停止させるには第4図に示すように110℃〜140℃の温度センサーで検知すれば良く,この範囲ならば標準的な温度センサー125°±10の使用が可能である。」との記載があることが認められ,生ごみの加熱処理に際しこの温度範囲で加熱することは周知であると認めることができる。これらの加熱温度は,本件発明1の加熱温度である「100℃〜130℃」と同様の温度範囲であるということができる。刊行物1発明の加熱範囲を上記周知の生ごみの表面の炭化に至らない程度の加熱乾燥にとどめる際に,上記周知の加熱温度の範囲を考慮し,加熱温度の上限を130℃とすることは,単なる設計的事項にすぎず,これに想到することは容易であるというべきである。
原告は,特開昭51-56583号公報(乙第3号証)に記載された温度は「排気温度」であって「加熱温度」とは異なる,と主張する。しかしながら,甲第2号証及び乙第3号証によれば,本件発明1における加熱乾燥温度の検知手段は,乙第3号証に記載された発明における温度検知手段とほとんど差異のないものと認められる。
原告は,特開昭62-286585号公報(乙第1号証)に記載された温度は,有機成分の発生を抑制するためのものではない,と主張する。しかし,同号証にはHCl,NOX等の有害ガスの発生を抑制するための温度範囲が記載されているから,これを刊行物1発明の加熱範囲として適用する動機付けは十分にあるということができる。仮に,これが有機成分の発生を抑制するためのものでないとしても,そのことは刊行物1発明の加熱範囲にこの温度範囲を適用することを妨げるものでないことが明らかである。
原告は,同公報には,炉内温度を積極的に制御する事項は全く記載されていない,と主張する。しかしながら,本件発明1に記載された上限温度には,臨界的な意義が認められないことは前記のとおりであるから,加熱温度の範囲を原告主張のように制御するという技術思想が開示されていると認めることはできない。原告の主張は前提において誤っており,失当である。
原告の主張はいずれも採用することができない。
(4) 原告は,決定が,本件発明1の加熱温度の上限を130℃に設定することより,熱分解による有機成分の発生を抑制することが可能となる,との効果を看過した,と主張する。
しかしながら,本件発明1の加熱温度の上限を130℃に設定することについて臨界的意義を認めることができないことは前記のとおりである。本件発明1によりもたらされる効果は,前記周知の温度を採用することにより当然にもたらされる効果にとどまるものというべきであり,これを特許性を根拠付けるに足りる顕著な作用効果であるとすることはできない。
(5) 以上のとおりであるから,決定の相違点(イ)についての判断に誤りはなく,相違点(イ)と実質的に同じである,本件発明2と刊行物1との相違点(ろ)についての判断にも誤りはない。
原告の主張は採用することができない。
3 相違点(は)についての判断の誤り,の主張について 原告は,決定が本件発明2と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点(は))の認定(「本件訂正発明2(判決注・本件発明2)では,生ごみ収容器の外側に空間を介して生ごみ収容器を包囲する形で設けた凝縮容器と,凝縮容器を冷却するための冷却手段と,凝縮容器と生ごみ収容器との間に形成される水蒸気流路とを有しているのに対して,刊行物1発明では,水蒸気流路を有しているだけで凝縮容器等を有していない点」)及びこれに対する判断において,本件発明2の生ごみ収容器が「断熱性生ごみ収容器」であることを看過した,と主張する。しかしながら,決定は,本件発明2の生ごみ収容器が「断熱性生ごみ収容器」であることは,本件発明2と刊行物1発明との一致点の認定(「断熱性生ごみ収容器と,生ごみ収容器内に設けたヒータと,生ごみから発生する水蒸気の流路を設けた生ごみ処理装置。」)において,既に認定している。決定にこの点の看過はない。
原告は,「凝縮容器を断熱性生ごみ収容器の外側に空間を介してこれを包囲する形で設け,水蒸気流路を前記凝縮容器と前記生ごみ収容器との間に形成した」構成は,顕著な効果を有し,単なる設計的事項とはいえず,当業者が容易になし得るものではない,と主張する。しかしながら,甲第5,第6,第8号証及び弁論の全趣旨によれば,厨芥の処理装置において,その水蒸気の排出される周囲の空間を冷却して凝縮すること,生ごみ処理装置にこの種の凝縮容器を設けることは,周知,慣用の手段であると認めることができる。これらの周知,慣用の手段を前提とするならば,凝縮容器をどこにどのように設けるかは単なる設計的事項であるというほかない。生ごみ収容器の外側を凝縮容器で包囲し,そこに存在する空間をそのまま水蒸気流路とする構成を採用することは,当業者において容易になし得ることである,というべきである。原告の主張する作用効果は,上記構成のものとして予測し得る当然の効果であって,特許性の根拠とされる顕著なものということはできない。
原告は,刊行物5発明は,断熱性生ごみ収容器と凝縮容器を二重構造として両者間を熱的に隔離するという本件発明2の技術思想を全く有していない,と主張する。
しかしながら,決定が刊行物5発明を引用したのは,厨芥の処理装置においてその水蒸気の排出される周囲の空間を冷却して凝縮することが周知の事項であることを示すためである。決定は,刊行物5に上記技術思想が記載されているとしたものではないことが明らかである。
原告の主張は,決定の正しい理解に基づくものとはいえず,採用することができない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸