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事件 平成 14年 (行ケ) 424号 審決取消請求事件
原告 松下電器産業株式会社
同訴訟代理人弁理士 清水善廣
同 阿部伸一
同 辻田幸史
同 藤井 兼太郎
被告 日本電産株式会社
被告 株式会社ダイドー電子
被告両名訴訟代理人弁護士 松本司
同復代理人弁護士 山形康郎
被告両名訴訟代理人弁護士 岩坪哲
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35505号及び無効2002-35001号事件について平成14年6月25日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、名称を「永久磁石型モータ」とする発明(以下「本件発明」という。)に関する特許第2136664号(昭和61年2月24日出願、特願昭61-38830号、平成10年6月5日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権を有している。
本件特許につき、平成13年11月16日付けで被告日本電産株式会社より、平成13年12月27日付けで被告株式会社ダイドー電子より、それぞれ無効審判の申立てがなされ、特許庁は、前者の申立てを無効2001-35505号、
後者の申立てを無効2002-35001号とした上、両申立てを併合して審理した結果、平成14年6月25日、「特許第2136664号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年7月17日、原告に送達された。
(2) 本件発明の要旨は、本件審決に記載された以下のとおりである。
【請求項1】多極着磁した筒状の永久磁石を、磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して、外径25o以下、密度5.0g/p3以上に成形した樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本件発明が、特開昭60-213253号公報(本訴甲4、本件審決甲5(9)、以下「引用例1」という。)、ゼネラル・モーターズ社パンフレット「マグネクエンチ」日本語版、1985年発行(本訴甲6、本件審決甲2(5)、以下「引用例2」という。)、特開昭59-211549号公報(本訴甲5、本件審決甲3(3)、以下「引用例3」という。)の各々に記載された発明(以下「引用発明1」(甲4の表3参考例の圧縮法等方性磁石に係る発明)ないし「引用発明3」という。)及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項1号に該当し、無効とすべきものであるとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、引用発明1の認定を誤った結果、一致点を誤認し(取消理由1)、相違点(イ)及び相違点(ロ)に対する判断を誤る(取消理由2、3)とともに、本件発明の進歩性に関する原告の主張に対する判断も誤った(取消理由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 一致点の誤認(取消事由1)について 本件審決は、引用発明1について、「多極着磁した筒状の永久磁石を、磁気的に等方性の磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮して、外径18oに成形した樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ」(8頁29〜31行)であると認定したが、その根拠である引用例1(甲4)の表3には、「圧縮法等方性磁石」とあるのみで、材料についての説明はなく、圧縮前の混合材料として「磁気的に等方性の磁性材料」を用いたものは記載されていない。
「等方性磁石」には、「等方性の磁性材料」を用いる場合と「異方性の磁性材料」を用いる場合とがあるが、引用発明1の等方性磁石は、以下のとおり、
「異方性の磁性材料」を用いたものであるから、その点において誤りである。
ア 引用例1には、「等方性磁石」について、従来技術の説明中に「周知の通り多極モータは、等方性磁石を用いるか、一軸異方性磁石の組磁石を用いる。等方性磁石は磁気性能が異方性磁石の大約1/3で、極めて小さく改善の余地がある」(1頁右下欄12〜17行)との記載があり、「磁気性能が異方性磁石の約1/3」との記載から、引用例1における「等方性磁石」は、「異方性材料を用いた等方性磁石」であるといえる。なぜなら、磁気性能とは一般的にBHmax を意味しており(「プラスチック成形技術」第3巻第2号、株式会社シグマ出版、昭和61年2月1日発行(20〜28頁)」、甲7、以下「技術文献1」という。)、引用発明1の特許出願時点(1984年4月4日)では、Sm2Co 17 系(異方性磁石粉末)樹脂磁石が一般的に用いられていた(「第7回異方性フェライト・希土類プラスチックマグネットの成形技術と応用関発講演会 高性能プラスチック磁石の射出成形技術と応用関発-現状と今後の市場展開〈希土類プラスチック磁石を中心に〉講演要旨集」(6-1〜6-14頁)プラスチック工業技術研究会(1984年8月8日)、甲9、
以下「技術文献2」という。)ところ、この異方性磁石粉末による等方性磁石のBHmaxは、異方性磁石の1/3程度であったからである。
イ 技術文献1の表3(23頁)や技術文献2の表-3(6-5頁)は、引用例1の出願人である株式会社諏訪精工舎(以下「諏訪精工舎」という。)製の希土類プラスチック磁石の品種構成(等方性磁石と異方性磁石)を示しており、これらはすべてSm2Co 17 系(異方性磁石粉末)を用いていることから、引用例1における等方性磁石と異方性磁石との比較についての記載も、諏訪精工舎製のSm2Co 17 系(異方性磁石粉末)樹脂磁石を前提とした記述であると判断するのが妥当である。
ウ また、引用例1に記載された磁石寸法、成形方法、モータトルクなどの実験結果から統計学的手法(回帰分析)を利用して検証することもできる。なお、
引用例1(甲4)には、「本発明において、磁石材料はSmCo5、・・・、Nd-Fe-B・・・である。」(2頁右下欄末行〜3頁左欄4行)と記載されているが、引用例1において特許出願された発明(以下「甲4発明」という。)の磁石は、「異方性磁石(等方性材料からなる異方性磁石がないことから、異方性磁石は異方性材料)」であることを必須の要件としており、上記「Nd-Fe-B」は、甲4発明における磁石材料として紹介されているのであるから、異方性材料である。
エ 以上のように、引用例1には、「多極着磁した筒状の永久磁石を、圧縮法(ただし、圧縮法として、磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮成形した方法とは必ずしもいえない。)により、外径18oに成形した異方性材料を用いた等方性樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。」が記載されているにすぎず、「磁気的に等方性の磁性材料と結合剤との混合材料を外径25o以下に圧縮成形した樹脂磁石」は記載されていないから、本件審決は、一致点の認定を誤っている。
(2) 相違点(イ)の判断の誤り(取消事由2)について ア 本件審決が、相違点(イ)を「本件特許発明においては、磁気的に等方性の磁性材料がFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)であるのに対して、引用発明においては、磁気的に等方性の磁性材料に関して、材料の限定がされていない点」(9頁3〜5行)と認定したことは認めるが、上記相違点に関して、「甲第3(3)号証(本訴甲5、引用例3)に記載の樹脂磁石で、引用発明のような多極着磁した筒状の永久磁石を構成することを阻害する事由を見出すこともできないから、引用発明の永久磁石を構成する樹脂磁石を、甲第3(3)号証に記載された、磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石に置き換えて、上記相違点(イ)に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得た」(9頁28〜34行)と判断したことは、以下のとおり誤りである。
イ 引用例3に記載された樹脂磁石により、引用発明1のような多極着磁した筒状の永久磁石を構成するには、阻害事由が存在する。
すなわち、筒状永久磁石型モータにおいて、従来、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石が用いられ、本件発明において採用する磁気等方性の「Fe-B-R(RはNdまたは/およびPr)系樹脂磁石」が用いられなかったのは、上記磁気等方性のFe-B-R系樹脂磁石の磁気特性が、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石に比して劣るという事実が技術常識として当業者のあいだに存在していたためである(技術文献1第21頁右欄1〜20行及び表2)。
また、引用発明1は、引用例1に開示された甲4発明である「押出成形法によって成形したラジアル異方性磁石」のコストパフォーマンスの高さを示すために用いられた参考例にすぎず、甲4発明との比較においてコストパフォーマンスが悪いものとして認識されるのであるから、等方性磁石の磁気特性が異方性磁石に比して劣るという技術常識を覆すものではない。
さらに、引用例3に記載されている「磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石」についても、異方性磁石を越える磁気特性であると位置づけられたものではない。
したがって、異方性磁石を越える磁気特性を得るために、異方性磁石より磁気特性が劣る「磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片を用いた等方性磁石」で、異方性磁石より磁気特性が劣る引用発明1を構成するには、阻害事由が存在する。
(3) 相違点(ロ)の判断の誤り(取消事由3)について ア 本件審決が、相違点(ロ)を、「本件特許発明においては、成形した樹脂磁石の密度が5.0g/p3以上であるのに対して、引用発明においては、成形した樹脂磁石の密度についての特定がない点」(9頁7〜9行)と認定したことは認めるが、上記相違点に関して、「本件発明において、成形した樹脂磁石の密度を5.0g/p3以上とした理由は、例えば・・当業者なら容易に想到し得たことである。」(9頁36行〜10頁10行)と判断したことは、以下のとおり誤りである。
イ 本件発明において、成形した樹脂磁石の密度を5.0g/p3以上とした理由は、本件特許に関する明細書(甲2、3、以下「本件明細書」という。)に記載(4欄5〜8行)のように、本件発明のモータ性能が十分に発揮され得るためであり、本件発明が「磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮して成形した樹脂磁石」であることから、磁性材料に対する結合剤の添加量や圧縮条件を間接的に規定したものである。「5.0g/p3」という数値自体に臨界的な意義があるわけではないが、結合剤を混合材料として含んだ樹脂磁石である本件発明における、重要な構成要件の一つである。
これに対し、引用例3(甲5)の第3図は、コンパクトの密度と圧力との関係を示した特性図にすぎず、結合剤を含んだものか否かは明らかでない(7頁左下欄19行〜右下欄2行の記載参照)。少なくとも、第1図で示されるコンパクト12は、圧縮固化する工程を示す第1図bの状態では結合剤を含んでおらず、圧縮固化後を示す第1図cの工程で樹脂を浸透させている。また、第3図の後の第5図及び第6図の説明においても、「この試料から作られた、均等的に…圧縮固化され、エポキシで接着された磁石の走査型電子顕微鏡写真である。」(7頁右下欄8〜10行)と説明されていることからも、第3図においては結合剤を含んでいない状態であるといえる。
したがって、引用例3に、単に磁性材料だけを圧縮した場合の圧力と密度の関係が5.0g/p3以上の数値で開示されているというだけで、相違点(ロ)に係る本件発明の構成が当業者ならば容易に想到し得たとする判断には誤りがある。
(4) 進歩性の主張に対する判断誤り(取消理由4)について ア 本件発明の課題の進歩性 本件明細書に示すとおり、本件特許の出願当時、永久磁石型モータ用の磁石としては、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石がより好ましいものであると認識されていた(2頁左欄3〜14行)。しかし、特に小型の筒状永久磁石モータ用の磁石の場合には、磁気異方化することが困難な場合があることに着目し、より一層の小型化・高性能化に対応可能とすることを目的としたものである(同欄27〜40行)。
すなわら、本件発明は、一般論としての、小型で高性能なモータを得ることを技術的な課題としたわけではなく、当時最も好ましいと考えられていた「磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石」との比較における「小型かつ高性能」なモータ用磁石を得ることを技術的な課題としたものであり、引用例1及び2を見ても、
小型化を図るとともに「異方性磁石を越える高性能」を発揮させるというレベルの課題は何ら認識されていない。
イ 「外径25o以下」の重要性 本件発明における「外径25o」は、従来使用されていた「磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石」と比較した磁気特性の優劣が逆転するという、従来では全く予見されなかった技術的思想を、この数値だけではなく他の構成要件も含めた全体の発明として具現化したものである。
この構成要件について、本件審決では、格別の意義を有するものではないと判断されているが、「外径25o以下」という寸法は、外径寸法と残留磁束密度Brとの関係に着目して特定された寸法であり、この点に、本件発明の技術的な意義がある。
外径寸法と半径方向の残留磁束密度Brとの関係に着目する考え方は、
証拠として提出された全ての文献において示唆すらされておらず、引用例1の参考例の中の「外径18o」は、既に説明したように、磁気的に異方性の磁性材料を用いたものであって、本件発明とは異なる磁性材料によるものである。
3 被告らの反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について 等方性磁石の原材料として、「Fe-B-Nd」を含む「磁気的に等方性の磁性材料」と「磁気的に異方性の磁性材料」が存在し、全く同じ工程で等方性磁石の製造が可能であることは、当業者にとっては周知の知見である。
したがって、引用例1の表3の「圧縮法等方性磁石」とは、「異方性材料を用いて磁場を印加せずに成形した等方性磁石」と、「等方性材料を用いて(磁場を印加せずに)成形した等方性磁石」とが開示されているのであって、上記の2つの開示のうちの「等方性材料を用いて(磁場を印加せずに)成形した等方性磁石」を採用したものであると認定した、本件審決の認定に誤りはない。なお、技術文献1に開示されるように、磁気性能が一般的にBHmaxを意味すること、ボンド型希土類磁石として一般的に用いられていたSm2Co 17 系樹脂磁石において、等方性磁石のBHmaxが異方性磁石のそれの1/3程度であったことは認める。
イ 仮に、本件審決の引用発明1の認定に誤りがあるとしても、それは結論に影響を及ぼすような誤りではない。
すなわち、引用例1の参考例で磁気的に「異方性」の磁性材料を使用していたとしても、これを「等方性」の磁性材料に置換して製造した等方性磁石とは何らの相違もないのであって、磁性材料を「異方性」とするか「等方性」にするかは、磁石製造における設計事項にすぎない。このことは、@「等方性磁石」の製法において、磁性材料が異方性であろうが等方性であろうが製法は同じであり、その磁気特性の相違には関係しないこと、A本件特許の出願前、磁気的に等方性の「Nd-Fe-B急冷微細片」を磁性材料とした等方性磁石が周知のものであり、磁性特性は異方性材料であるサマリウム-コバルトと同程度であるが、比較的安価なNd(ネオジム)等が使用できること、更には「Nd-Fe-B急冷微細片」を使用すれば、どのような形状の磁石も製造可能であったことが知られていたこと(引用例2及び3、技術文献1)、B引用例1に、小型モータにおいて等方性磁石が用いられていることが記載されており(1頁右下欄12〜17行)、等方性磁石を多極モータの永久磁石として用いることが示されていることなどの事実より裏付けられるものである。
(2) 取消事由2について ア 本件審決も正しく認定するように、本件特許出願前、磁気的に等方性の「Nd-Fe-B急冷微細片」を磁性材料とした等方性磁石が周知のものであり、引用例3には、前記Aのとおり、「Nd-Fe-B急冷微細片」が、安価であるにもかかわらず、磁性特性はサマリウム-コバルトと同程度であることが説明され、小型モータに使用することが説明されている。
また、引用例2及び技術文献1でも、磁気的に等方性の「Nd-Fe-B急冷微細片」を磁性材料とした等方性磁石が紹介されているのである。
イ しかも、引用例1には、異方性磁石に比較して等方性磁石は磁気性能で劣るとの説明はあるが、同時に、小型モータにおいて等方性磁石が用いられていることが記載されており(1頁右下欄12〜17行)、少なくとも、等方性磁石を多極モータの永久磁石として用いることが排除されているとの認識を認めることはできない。
(3) 取消事由3について 原告は、引用例3の第3図に示された数値は結合剤を含んでいるか否か明確ではないから、これを前提とした本件審決の判断は誤っていると主張するところ、仮に、原告主張のように同図に示された数値が結合剤を含んでいるか否か明確ではないとしても、元々、臨界的意義もないような数値限定の場合には、当該数値を示す公知技術を引用しなくとも進歩性はないと判断されるべきである。
なお、技術文献1の21頁表2には「MQ-I」を組成とする「圧粉」(圧縮成型の意味)で「密度6.0g/p3」の等方性Nd-Fe-B系磁石が開示されている。
(4) 取消事由4について ア 本件発明の課題について 引用例1には、異方性磁石は磁場を印加して製造されるところ、小さくなると「型のコア内を通る総磁束に制限があるため」、「長さ/内径の寸法比は1/4に満たなかった」のであり、「磁粉の配向率を高めるため」(結晶がより同じ方向に向くようにするため)には、1.7T(テスラ)もの強い磁場を印加する必要があると述べられており、異方性磁石は小型化すると磁気特性が下がるとの知見が示されている。
したがって、引用例1には、「磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石」との比較において、より一層の小型化・高性能化に対応可能なモータ用磁石を得ることが技術的課題となっていることが示されている。
イ 「外径25o以下」について 異方性磁石の成形工程において、磁場を印加して磁性体材料の結晶の容易磁化軸の方向(異方性の方向)を半径(ラジアル)方向に配向するには限界があり、外径(D)のほか、高さ(L)、内径(d)によって筒状永久磁石の磁気特性が変化するのである(ラジアルファクターfR)。
したがって、本件発明の「外径25o以下」は、いかなる寸法の筒状樹脂磁石についても成り立つものではない。
当裁判所の判断
1 一致点の誤認(取消事由1)について (1) 原告は、本件審決が、引用発明1について、「磁気的に等方性の磁性材料」と結合剤とを圧縮成形した樹脂磁石と認定したことについて、その根拠である引用例1の表3には、「圧縮法等方性磁石」とあるのみで、材料についての説明はなく、むしろ、「異方性材料」を用いたものであるから、その点において誤りであると主張するので、以下検討する。なお、「等方性磁石」に、「等方性」の磁性材料を用いる場合と、「異方性」の磁性材料を用いる場合があることは、当事者間に争いがない。
(2) 引用例1(甲4)には、「従来、ボンド型希土類磁石のラジアル異方性磁石は、圧縮成形及び射出成形とも長さ/内径の寸法比は1/4に満たなかった。これは、型のコア内を通る総磁束に制限があるためである。圧縮成形と射出成形におけるラジアル配向磁場について表1に示す。ラジアル配向磁場は、磁紛の配向率を高めるため1.7T以上が必要である。これを満足する長さ/内径は圧縮成形および射出成形でそれぞれ1/10及び1/4である。長さ/内径をより大きくしたい場合は、磁石を2つ以上重ねて使用する、ラジアル異方性磁石を用いた従来のモータは扁平なものが多く、長尺のものは高コストになった。…周知の通り多極モータは、等方性磁石を用いるか、一軸異方性磁石の組磁石を用いる。等方性磁石は磁気性能が異方性磁石の大約1/3で、極めて小さく改善の余地があるが、小型モータの場合、組磁石を低コストで作ることが困難なため用いられている。又、トルクモータには一軸異方性磁石の組磁石を用いることが多いが、磁石の加工と組立に多くの工数を要する。ラジアル異方性磁石を用いれば、等方性の低性能と一軸異方性の組磁石の多工数が改善されるが、これまでのラジアル異方性磁石では長さ/内径比の小さい磁石しかなく、非扁平モータではラジアル異方性磁石を軸方向に重ね合せる必要があり、高コストになる。筆者らの開発した磁場中押出成形法では、磁場掛けしながら磁石を押し出すため、任意の長尺ラジアル異方性磁石ができる。本発明においては、この長尺ラジアル異方性磁石をレーザ加工機で切断し所定の長さに切断し使用する。」(1頁左下欄13行〜2頁左上欄10行)、「本発明において、磁石材料は、SmCo5,Sm 2(Co,Fe,Cu,Zr,Ti,Hf) 17 …である。」(2頁右下欄末行〜3頁左上欄4行)と記載されている。
また、引用例1の表3(2頁右下欄)には、「本発明磁石」として外径18o、内径16o、高さ18o(個数1コ)のものが記載され、これに対比する参考例として、外径18o、内径16o、高さ18oの「圧縮法等方性磁石」(個数1コ)、外径18o、内径16o、高さ3oの「圧縮法ラジアル異方性(磁石)」(個数6コ)、外径18o、内径16o、高さ6oの「射出成形法ラジアル異方性(磁石)」(個数3コ)が記載されており、いずれについても磁性材料に関する明確な記載はないが、同表中の「圧縮法等方性磁石」と「圧縮法ラジアル異方性(磁石)」とは、磁石原料コストが「102(円)」と同額である。
これらの記載によれば、表3の「本発明磁石」は、甲4発明である「磁場中押出成形法により磁場掛けしながら押し出された任意の長尺ラジアル異方性磁石」であり、参考例の「圧縮法等方性磁石」は、「磁気性能が異方性磁石の大約1/3で、極めて小さく改善の余地があるが、小型モータの場合、組磁石を低コストで作ることが困難なため用いられている」等方性磁石であり、同じく参考例の「圧縮法ラジアル異方性(磁石)」及び「射出成形法ラジアル異方性(磁石)」は、「これまで長さ/内径比の小さい磁石しかなく、非扁平モータでは軸方向に重ね合せる必要があり、高コストになる」ものと認められる。ただし、磁性材料については、甲4発明である「磁場中押出成形法によるラジアル異方性磁石」が、SmCo5,等の異方性の磁性材料を使用することが例示されているのみであり、上記参考例の磁石に関しては、明確な記載はない。しかし、表3中で甲4発明のラジアル異方性磁石と参考例の磁石との比較検討を行う以上、磁性材料についてはできるだけ同様のものを用いるのが一般的であると解され、特に、異方性の磁性材料については、甲4発明である「ラジアル異方性磁石」と「圧縮法ラジアル異方性(磁石)」及び「射出成形法ラジアル異方性(磁石)」とが同一の材料を使用していることは当然と解される。そして、同表中、「圧縮法等方性磁石」と「圧縮法ラジアル異方性(磁石)」とにおいても、磁石原料コストが同額であり、その材料について特段の記載がない以上、当業者は、同一の磁性材料及び混合剤を用いたものであると理解するものと認められる。
なお、引用例1の出願時(昭和59年4月)において、ボンド型希土類磁石の磁石粉としては、一般的にSm2Co 17 系が使用されていたこと(技術文献1)からすると、引用例1の表3参考例の「圧縮法等方性磁石」は、「異方性材料を用いた等方性磁石」であると解するのが合理的である。
以上のことを総合すると、引用例1に開示された「圧縮法等方性磁石」は、異方性の磁性材料を用いた等方性磁石であると認めるのが相当であり、本件審決が、引用発明1について、「磁気的に等方性の磁性材料」と結合剤とを圧縮成形した樹脂磁石と認定した上で、この点を本件発明との一致点と認定したことには誤りがある。
したがって、原告の上記主張には理由がある。
なお、被告らは、引用例1の表3の「圧縮法等方性磁石」に、「異方性材料を用いて磁場を印加せずに成形した等方性磁石」と、「等方性材料を用いて成形した等方性磁石」とが開示されていることを前提として、本件審決が、上記の2つの開示のうちの「等方性材料を用いて成形した等方性磁石」を採用したものであると主張するが、上記前提が誤りであることは、前示のとおりであり、この主張を採用することはできない。
2 相違点(イ)の判断誤り(取消事由2)について (1) 以上のとおり、本件審決が引用発明1を「磁気的に等方性の磁性材料」と結合剤とを圧縮成形した樹脂磁石と認定したことは誤りであるが、本件審決は、相違点(イ)の判断において、「磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石自体は、
本件特許出願時において既に周知のものである」(9頁14〜16行)ことを前提として、「引用発明の永久磁石を構成する樹脂磁石を、甲第3(3)号証(本訴甲5)に記載された、磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石に置き換えて、上記相違点(イ)に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことと認められる」(9頁30〜34行)と判断しているのであるから、仮に、
引用発明1の「異方性材料を用いて成形した等方性磁石」を引用発明3に開示された「等方性材料を用いて成形した等方性磁石」に置き換えることが容易であるとすれば、本件審決の上記誤認は、その結論に影響を及ぼさないこととなる。
そこで、本件審決における相違点(イ)の判断の当否を検討することとする(なお、被告らが、本件審決の認定に誤りがあるとしても、それは結論に影響を及ぼすような誤りではないと主張するのも、同趣旨と解される。)。
(2)ア 原告は、筒状永久磁石型モータにおいて、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石が用いられ、本件発明において採用する磁気等方性のFe-B-R系樹脂磁石が用いられなかったのは、上記磁気等方性の樹脂磁石の磁気特性が、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石に比して劣るという事実が技術常識として当業者のあいだに存在していたためであり(技術文献1)、引用例1及び3もこの技術常識を覆すものではないから、引用例3に記載された樹脂磁石により、引用発明1のような多極着磁した筒状の永久磁石を構成するには、阻害事由が存在すると主張する。
しかしながら、引用発明1は、前示のとおり、異方性材料を用いて成形した等方性の樹脂磁石であり、本件審決は、相違点(イ)の判断において、上記樹脂磁石を引用発明3に開示された等方性材料を用いて成形した等方性の樹脂磁石に置き換えることが容易であると判断したものである。したがって、磁気等方性のFe-B-R系樹脂磁石の磁気特性が、磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石に比して劣るという技術常識が存するとしても(異方性材料を用いた等方性の樹脂磁石と等方性材料を用いた等方性の樹脂磁石との磁気特性の相違が証拠上認められない以上)、当該技術常識により、引用発明1と引用発明3との組合せが阻害されるものではないから、原告の上記主張は、その前提において失当といわなければならない。
しかも、引用例3(甲5)には、「磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片を用いた等方性磁石」について、「本発明は接着された(bonded)永久磁石微細片と、その製法に関するものである。本発明によれば、このような磁石は、溶融スピニングされた希土類-鉄合金のリボンから所望の形状に容易に成形できる。
これらの磁石はサマリウム-コバルト磁石と同程度の固有の保磁力とエネルギー積を持つが、はるかに経済的である。接着された磁石のコンパクトは磁気的に等方性であり、適当な磁界中で希望する任意の方向に容易に磁化される。」(2頁左上欄12行〜右上欄1行)、「本発明に使用するために、磁性合金は溶融スピンニングによりつくられる。溶融スピンニングとは、溶融した合金の流れを回転している冷却用の輪の周辺に衝突させて、急速に冷却された合金リボンを得る操作のことである。これらのリボンは相対的に脆く、非常に細かい結晶性のミクロ構造を持っている。これらは、新規な、等方性の、高密度の、高性能の永久磁石をつくるために、
後述されるように圧縮固化され、接着される。」(2頁右下欄5〜15行)、「本発明の実施により、溶融スピニングされた接着された金属リボンから成る磁化しうる物体を、殆どどのようにでも所望の形状につくることが可能になった。リボンの切片は、通常用いられる殆んどいかなるダイプレスででも、高密度に圧縮固化できる。更に、コンパクトは磁気的には等方性である。即ち、コンパクトは、個々の用途にたいして最適の性質を持つように任意の所望の方向に磁化することができる。
例えば、直流モーターのアーチ形の界磁石は、パンチとダイスの組合せで溶融スピニングされた希土類-鉄のリボンをコンパクト化することにより成形される。」(3頁右上欄13行〜左下欄6行)と記載されており、これらの記載によれば、引用例3には、等方性のFe-B-R系急冷微細片を用いた等方性磁石が、希土類-鉄合金のリボンから所望の形状に容易に成形でき、個々の用途にたいして最適の性質を持つように任意の所望の方向に磁化することができるものであって、希土類コバルト(サマリウム-コバルト)樹脂磁石と同程度の保磁力とエネルギー積を持つが、はるかに経済的であることが示されていると認められる。
そうすると、引用例3には、等方性のFe-B-R系等方性磁石が、所望の形状に容易に成形でき、個々の用途にたいして最適の性質を持つような方向に磁化することができるものであって、経済的な観点から磁気特性の同程度の希土類コバルト樹脂磁石(引用発明1)と置き換えることの明白な示唆がなされているものと認められる。
したがって、原告が主張する阻害事由には、いずれにしても理由がないといわなければならない。
イ また、原告は、引用発明1が、引用例1に開示された甲4発明である「ラジアル異方性磁石」のコストパフォーマンスの高さを示すために用いられた参考例にすぎず、甲4発明との比較においてコストパフォーマンスが悪いものとして認識されると主張する。
しかしながら、引用例1の表3に参考例「圧縮法等方性磁石」として示された引用発明1は、前示のとおり、引用例1に従来技術として開示された「磁気性能が異方性磁石の大約1/3で、極めて小さく改善の余地があるが、小型モータの場合、組磁石を低コストで作ることが困難なため用いられている」等方性磁石であり、磁気性能の点で改善の余地があるものの、組磁石に対して低コストであるため、従来、小型モータの分野において実際に使用されていたことが明記されている。したがって、引用発明1が、甲4発明との比較においてコストパフォーマンスが悪いことが示されているとしても、当業者は、一定の技術分野では現実に使用されている発明として認識するから、原告の上記主張を採用する余地はない。
(3) 以上のことからすると、本件審決が、相違点(イ)の判断において、引用発明1の永久磁石を構成する樹脂磁石を、引用例3に記載された、磁気的に等方性のFe-B-R系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石に置き換えて、上記相違点(イ)に係る本件発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たと判断したことに誤りはない。
3 相違点(ロ)の判断誤り(取消事由3)について (1) 本件審決が、相違点(ロ)を、「本件特許発明においては、成形した樹脂磁石の密度が5.0g/p3以上であるのに対して、引用発明においては、成形した樹脂磁石の密度についての特定がない点」と認定したことは、当事者間に争いがない。
本件審決は、上記相違点に関して、引用例3には「本件特許発明と組成を同じくする樹脂磁石を成形するに際して、所定の磁気特性を得るために設定された密度として、5.0g/p3以上の数値が開示されている以上(第3図参照。)、引用発明の永久磁石を構成する樹脂磁石の密度として、甲第3(3)号証に記載された範囲のものを設定して、上記相違点(ロ)に係る本件特許発明の構成とすることは、
当業者ならば容易に想到し得たことである。」(10頁5〜10行)と判断した。
これに対し、原告は、本件発明において成形した樹脂磁石の密度を5.0g/p3以上とした理由が、磁性材料に対する結合剤の添加量や圧縮条件を間接的に規定したものであり、数値自体に臨界的な意義があるわけではないが、結合剤を混合材料として含んだ樹脂磁石である本件発明における重要な構成要件の一つであるのに対し、引用例3の第3図は、結合剤を含んでいるか否か明らかでないから、このような引用例3に、磁性材料だけを圧縮した場合の圧力と密度の関係が5.0g/p3以上の数値で開示されているというだけで、上記相違点に係る本件発明の構成が容易に想到し得たとする本件審決の判断には、誤りがあると主張する。
(2) 確かに、引用例3(甲5)の第3図については、同引用例に「コンパクトの密度と、円筒形のコンパクトの軸方向に圧縮された、破砕されたNd-Fe-Bリボン微細片へかけた単軸的な圧力との関係を示した」(7頁左下欄19行〜右下欄2行)と記載されるのみであって、同図に示された実施例が、結合剤を混合材料として含んだ樹脂磁石における密度を前提としたものであるか否かは明らかではない。
しかしながら、本件発明における「密度5.0g/p3」という数字に臨界的な意義があるわけでないことは原告も認めるとおりであり、また、密度を5.0g/p3以上としたことにより、磁性材料に対する結合剤の添加量や圧縮条件がどのように規定されることになるのかは、本件明細書上、全く明らかでない。本来、樹脂磁石の密度をどのように設定するかは、必要とする磁気特性等に応じて定められるものであると解されるところ、技術文献1(甲7)においても、等方性の磁石粉末より得られる「Nd-Fe-B系のプラスチック磁石は、圧紛成形で(BH)max7MGOe(GM社のMQT)」(21頁右欄15〜17行)と記載され、表2に当該MQTの密度が6.0であることが示されており、上記圧紛成形とは、磁性粉とバインダー(結合剤)を混錬して磁場を印加した後に圧縮する圧縮成型であると認められる(22頁右欄3〜14行)から、本件発明と同様の磁性粉と結合剤を混錬して圧縮成型した等方性のNd-Fe-B系磁石の密度が6.0g/p3であることが開示されている。
したがって、当該磁石の密度を5.0g/p3以上とすることに格別の困難性があるとは認められず、本件審決の相違点(ロ)に関する上記判断には、結論として誤りはなく、原告の上記主張は採用することができない。
4 進歩性の主張に対する判断誤り(取消理由4)について (1) 本件発明の課題の進歩性について ア 原告は、本件発明が、一般論としての、小型で高性能なモータを得ることを技術的な課題としたわけではなく、当時最も好ましいと考えられていた「磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石」との比較における「小型かつ高性能」なモータ用磁石を得ることを技術的な課題としたものであり、引用例1及び2を見ても、小型化を図るとともに「異方性磁石を越える高性能」を発揮させるというレベルの課題は認識されていないと主張する。
イ 本件明細書(甲2)には、発明が解決しようとする問題点として、「特に小型の筒状永久磁石モータの、該磁石の場合には起磁力のかなりが漏洩磁束として消費されてしまうため半径方向へ十分な磁気異方化することが困難な場合がある。すなわち、…小型の筒状永久磁石モータの小型化・高性能化は相反する矛盾がある。本発明は上記多極着磁して使用する筒状永久磁石型モータをより一層の小型化・高性能化へ対応可能とすることを目的になされたものである。」(3欄29〜40行)と記載されており、本件発明の課題は、小型の筒状永久磁石モータにおいて、十分な磁気異方化することが困難なラジアル異方性磁石を超える永久磁石を得ることであると認められる(仮に本件発明が上記課題を解決したものとしても、それによって本件発明の進歩性が肯定される筋合いでないことは、前記2の判断に照らして明らかである。)。
他方、引用例1(甲4)には、前記1の(2)のとおりの記載があり、これらの記載によれば、引用例1には、モータに用いる希土類コバルト等の樹脂磁石において、ラジアル異方性磁石では、長さ/内径の寸法比が1/4に満たず、長尺のモータとする場合は複数の磁石を重ねて用いるため高コストとなること、また、小型モータの場合は、一軸異方性の組磁石を低コストで作ることが困難なため、等方性磁石が用いられており、この場合の等方性磁石は、磁気性能が異方性磁石の大約1/3で、改善の余地があることなどが開示されていたものと認められる。
すなわち、小型モータの分野では、圧縮成形や射出成形による磁気異方性の希土類コバルト等の樹脂磁石を用いると高コストになるため、価格面から等方性磁石を用いることが一般的であったが、更にこの等方性磁石を超える磁気性能を有する小型モータ用磁石を得ることが、引用例1頒布当時の技術課題であったといえる。
そうすると、小型モータにおいて、十分に磁気異方化することが困難なラジアル異方性磁石を超える永久磁石を得るという、前記認定の本件発明の課題は、引用例1に開示された上記の技術課題と同様のものと認められ、引用例1に本件発明の課題が開示されていないという原告の上記主張は、理由がないといわなければならない。
(2) 「外径25o以下」の重要性について ア 本件審決が、本件発明の構成要件である「外径25o以下」について、
「本件特許明細書および図面第2図の記載から明らかなように、Fe-B-R系樹脂磁石と希土類コバルト樹脂磁石とで構成した各円筒磁石の肉厚を1,5o、L/D=0.50〜0.25に設定したときに、磁気特性に大小の反転が生じる各円筒磁石の外径値であって、前記肉厚やL/Dの数値が変更されれば、当然に変更する数値に過ぎず、本件特許発明の他の構成要件との関連においても格別の意義を有するものではない。また、上記数値は、その前後において磁気特性が一定になっていることから、臨界的意義のある数値であるとも認められない。」(10頁27〜34行)と判断した。
これに対し原告は、本件発明が、従来使用されていた「磁気異方性の希土類コバルト樹脂磁石」と比較した磁気特性の優劣が逆転するという、従来では全く予見されなかった技術的思想を、この「外径25o以下」数値だけではなく、他の構成要件も含めた全体として具現化したものであると主張する。
イ しかしながら、本件発明における「外径25o」について、本件明細書(甲2)には、「外径は25o以下であることが必要である。25o以上になると本発明の効果がモータ性能の点でほとんど消失してしまうので好ましくない。」(4欄2〜5行)と記載されるのみであり、「外径25o」に臨界的な意味があることも、
当該数値の限定された技術的根拠も示されていない。
また、これを裏付ける実施例として、「Nd0.13 (Fe 0.93 ,B 0.07 )0.87 /エポキシ樹脂6重量%から製造したFe-B-R系樹脂磁石、SmCo5/ポリアミド樹脂6重量%から製造した半径方向へ磁気異方化した希土類コバルト樹脂磁石を対象として測定磁界25KOeでの残留磁束密度Brを半径方向について求めた。第2図は半径方向のBrと円筒磁石の外径寸法との関係を示す特性図である。但し、各円筒磁石の肉厚は1.5mm,L/D=0.50〜0.25である。なお、第2図において、Aは磁気異方性希土類コバルト樹脂磁石、BはFe-B-R系樹脂磁石の特性をそれぞれ示す。図から明らかのように半径方向へ磁気異方化した希土類コバルト樹脂磁石は金型の外周からヨークにより磁化コイルで励磁した磁束をキャビティ内に集束させるため、キャビティの径が小さくなるにつれて起磁力のかなりの部分が漏洩磁束として削費されるようになる。このため小さな形状のものほど、半径方向への磁気異方化が困難となり、磁気性能が低下する。具体的に外径25mmで半径方向へ磁気異方化したもののBrはアキシャル方向へ磁気異方化したものの3/4程度となる。そして、更に外径が小さくなると得られる磁束が更に少なくなるので本発明が対象とする永久磁石型モータの小型化、高性能化に対しての対応が不利となるのである。これに対して本発明の係るFe-B-R系樹脂磁石は例えばNd0.13 (Fe 0.93 ,B 0.07 )0.87 組成の合金を急冷して得られる極めて微細な結晶性の磁石相をもつ磁気的に等方性の微細片からなる樹脂磁石である。従って円筒型磁石の外径等寸法形状の影響を受けない利点があるため永久磁石型モータの小型化・高性能化に対する対応が外径25mm以下の小さな形状において、半径方向へ磁気異方化した希土類コバルト樹脂磁石に比べて極めて有利となる。」(5欄17〜46行)と記載されているのみであって、他の実施例は開示されていないから、他の構成要件も含めて比較検討した上、当該数値を具体化したものであるとも認められない。
そうすると、外径25o以下で、Fe-B-R系樹脂磁石と希土類コバルト樹脂磁石との磁気特性が逆転するのは、本件明細書に記載された一実施例について該当するものにすぎず、本件審決が認定したとおり、「肉厚やL/Dの数値が変更されれば、当然変更する数値にすぎず、本件特許発明の他の構成要件との関連においても格別の意義を有するものではない」と解するのが合理的といえる。
ウ また、原告は、「外径25o以下」という構成要件は、外径寸法と残留磁束密度Brとの関係に着目して特定された寸法であり、この点に、本件発明の技術的な意義があると主張する。
しかしながら、本件明細書において、「外径は25o以下」に関する記載は、前記認定のとおりであり、その他の記載を精査してみても、外径寸法と残留磁束密度Brとの関係に着目した結果、どのような技術的観点から当該寸法を一般的な構成要件として特定したのかは、全く不明であるから、原告の上記主張は到底採用することができない。
5 結論 そうすると、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決の結論には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 清水節