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関連審決 不服2000-469
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  下位概念 /  技術常識 /  技術的意義 /  実施 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 521号 審決取消請求事件
原告 大成建設株式会社
訴訟代理人弁理士 米田昭
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 木原裕
同 小山清二
同 大野克人
同 高橋泰史
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000-469号事件について平成14年8月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成6年12月8日,名称を「免震方法及び該方法に使用する免震装置」とする発明について特許出願(特願平6-304995号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成11年12月14日に拒絶の査定を受けたので,平成12年1月13日,これに対する不服の審判の請求をし,同請求は,不服2000-469号事件として特許庁に係属した。
特許庁は,上記事件について審理した結果,平成14年8月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年9月10日,原告に送達された。
2 本件出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の【請求項2】の記載 (1) 平成10年12月9日付け手続補正書による補正に係るもの 基礎部と上部構造物との間に介在され,地震発生時に地震エネルギーを減衰させる複数の地震エネルギー消費装置と,前記上部構造物と前記基礎部とに上下端部がそれぞれ固定されて前記上部構造物の鉛直荷重を受け止める水平方向に弾性変形可能な複数の弾性体とを備えた免震装置において,前記地震エネルギー消費装置を,地震発生時に前記上部構造物を前記基礎部に対して水平方向に滑らせる複数の滑り支承によって構成して,該滑り支承及び前記弾性体の両方で前記上部構造物の鉛直荷重を受け止め,且つ,前記複数の弾性体の全体系のバネ定数を小さくすべく,該弾性体の数を前記滑り支承で受け止める鉛直荷重の分だけ少なく配分し,これにより免震周期を長くしたことを特徴とする免震装置。
(2) 平成12年2月9日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)に係るもの(補正箇所は下線部で示す。) 基礎部と上部建物との間に介在され,地震発生時に地震エネルギーを減衰させる複数の地震エネルギー消費装置と,前記上部建物と前記基礎部とに上下端部がそれぞれ固定されて前記上部建物の鉛直荷重を受け止める水平方向に弾性変形可能な複数の弾性体とを備えた免震装置において,前記地震エネルギー消費装置を,地震発生時に前記上部建物を前記基礎部に対して面接触した状態で 水平方向に滑らせる複数の滑り支承によって構成して,該滑り支承及び前記弾性体の両方で前記上部建物 の鉛直荷重を受け止め,且つ,前記複数の弾性体の全体系のバネ定数を小さくすべく,該弾性体の数を前記滑り支承で受け止める鉛直荷重の分だけ少なく配分し,これにより免震周期を長くし,更に,前記滑り支承を前記上部建物の略中央部に周方向に複数配置すると共に,前記弾性体を前記上部建物の周縁部に周方向に複数配置して,前記複数の滑り支承を前記複数の弾性体で囲繞したこと を特徴とする免震装置。
(以下,上記【請求項2】記載の発明を「本願発明2」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し及び補正却下決定謄本写し記載のとおり,本件補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法17条の2第2項において準用する同法17条2項の規定に違反しているとして,同法159条1項により読み替えて準用する同法53条1項の規定(注,以上の特許法の各規定は平成6年法律第116号による改正前のものである。)により本件補正を却下する旨の決定(以下「本件補正却下決定」という。)を前提に,本願発明2の要旨を上記2(1)記載のとおり認定した上,本願発明2は,本件出願前に頒布された刊行物である「R.Ivan Skinner, William H.Robinson and Graeme H.Mcverry "An Introduction to Seismic Isolation" (1993) John Wiley & Sons Ltd.(イギリス)」,特開昭61-192941号公報及び実願昭62-192224号(実開平1-96544号)のマイクロフィルムに記載の各発明並びに特開平1-137077号公報に見られるような周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の前提となる本件補正却下決定(甲2)は,当初明細書等の記載事項の認定を誤った(取消事由)結果,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないとして,誤ってこれを却下し,ひいては,審決が本願発明2の要旨の認定を誤ったものであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(当初明細書等の記載事項の誤認) (1) 本件補正却下決定(甲2)は,本件補正に係る「前記滑り支承を前記上部建物の略中央部に周方向に複数配置すると共に,前記弾性体を前記上部建物の周縁部に周方向に複数配置して」の記載における「周方向に」という事項の加入について,当初明細書等には,「『滑り支承を上部建物の略中央部に複数配置すると共に,弾性体を上部建物の周縁部に複数配置する』ことは記載されていても,滑り支承を,『周方向に配置する』ことを直ちに理解できる記載あるいは示唆は存在しない」(4頁下から第3段落)と認定した上,「この手続補正(注,本件補正)は,願書に最初に添付した明細書又は図面(注,当初明細書等)に記載した事項の範囲内においてしたものではない」(同頁下から第2段落)と判断したが,誤りである。
(2) 当初明細書等(甲5)の図1及び図2には,上部建物3を支える4本の柱3aと基礎部2との間に弾性滑り支承4を介在させたものが示されており,通常横断面矩形の建物の柱は,図2に示されるように,平行する直線上に配置されるから,当初明細書等に接した当業者は,図2において,弾性滑り支承4に介在された4本の柱3aが上部建物の周縁部に平行して配置されていることを直ちに理解することができる。そうすると,周方向は上部建物の周縁部によって規定される方向であることから見て,上記4本の柱3aによって囲まれた矩形の各辺は周方向を向いており,周方向を向いた各辺により構成される矩形の隅部に位置する上記4本の柱3aは,当然のことながら周方向に位置しているから,当初明細書等には,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」技術的思想が記載されている。
(3) 上記図2に示された免震装置の配置は,本願発明2の一つの実施例であり,滑り支承の構成を,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ものに補正する本件補正は,「上部建物の略中央部に複数配置する」発明を,図2に示された建物の代表的な実施例に限定するものである。このように,当初明細書等の図面に具体的に示された実施例に限定する補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものということができるところ,審決の前提とする本件補正却下決定は,当初明細書等のうち明細書の記載のみについて認定判断しており,図面に記載された事項について正しく審理していないから,審理不尽の違法がある。
(4) 本件補正に係る,滑り支承を「周方向に」配置する構成の技術的意義は,被告が主張するように,横断面矩形の建物の場合のほか,例えば,横断面円形状の建物の場合は,上部建物の略中央部に滑り支承を円周方向に配置することであり,横断面三角形状の建物の場合は,上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に三角形状に配置することであるが,このこと自体は,本件補正が誤りであることの理由にならない。建物の横断面形状が矩形状である場合のほか,円形状あるいは三角形状である場合にあっても,その建物の中心部の柱は,任意の位置に配置されるものであって,必ずしも当該建物の周方向に複数配置されるものに限られないが,建物の略中央部に周方向に複数配置されることも,例示するまでもなく,上記図2に示された横断面矩形の建物の実施例と同様,本件出願前にごく普通に見られた工法である。したがって,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ものに補正する本件補正は,横断面形状が限定されない建物の中心部の柱につき,それが任意の位置にアトランダムに配置されることを包含していた発明を,ごく普通に行われていた施工例である建物の略中央部に周方向に複数配置する形状に限定するものにほかならない。
被告の反論
1 本件補正却下決定及び審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(当初明細書の記載事項の誤認)について (1) 当初明細書等(甲5)には,弾性滑り支承4について,「建物3の略中央部に配置された4本の各柱3aの下端に一つずつ合計4か所配置している(図2参照)」(段落【0014】),「建物3と基礎部2との間の略中央部に配置」(段落【0020】,段落【0029】)と記載されており,図2を参照しても,矩形の建物の周縁部に略平行な直線から成る略正方形のそれぞれの頂点に,4本の弾性滑り支承が記載されているのみである。これによれば,当初明細書等から読み取れることは,弾性滑り支承4を,略中央部(別紙参考図-1の斜線部分。以下,別紙の参考図を「参考図-1」のようにいう。)に配置したことのみである。本件補正に係る「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」とは,横断面矩形の建物の場合のほか,例えば,横断面円形の建物の場合は,上部建物の略中央部に滑り支承を円周方向に配置することを,横断面三角形の建物の場合は,上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に三角形状に配置することをも含むものであって,当初明細書等の記載からは,原告主張のように,滑り支承を上部建物の略中央部の周方向に配置するという技術的思想を読み取ることはできない。このように,当初明細書等に下位概念の記載しかない場合に,補正により上位概念を記載することは,新規事項の追加に当たる。
(2) 当初明細書等の図2に記載されているのは,横断面矩形の建物の略中央部に滑り支承を4か所正方形状に配置することのみであり,本件補正は,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」というものであって,図2に記載されている「横断面矩形の建物の略中央部に滑り支承を4か所正方形状に配置する」というものではないから,本件補正が,図2に示された実施例に限定するものであるということはできない。また,仮に,建物の略中央部の「中央部」が,参考図-4に記載した斜線部であるとすると,「建物の略中央部の周方向」は,斜線から成る略正方形の各頂点のみならず,各辺をも含むものであるが,当初明細書等の図2から読み取れることは,上記中央部(参考図-4の斜線部)の略正方形の四つの頂点に,弾性滑り支承(同図の「○」印)が配置されていることのみであり,本件補正に係る「建物の略中央部の周方向」の一形態である上記略正方形の辺上に配置した弾性滑り支承(同図の「●」印)は,当初明細書等に全く記載されていないから,本件補正に係る「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ことは,新規事項である。
当裁判所の判断
1 取消事由(当初明細書等の記載事項の誤認)について (1) 原告は,本件補正却下決定が,本件補正に係る「前記滑り支承を前記上部建物の略中央部に周方向に複数配置すると共に,前記弾性体を前記上部建物の周縁部に周方向に複数配置して」の記載における「周方向に」という事項の加入について,当初明細書等には,「滑り支承を上部建物の略中央部に複数配置すると共に,弾性体を上部建物の周縁部に複数配置する」ことは記載されていても,滑り支承を,「周方向に配置する」ことを直ちに理解できる記載あるいは示唆は存在しないと認定したことは,当初明細書等の記載事項の誤認であるとし,これを前提に,審決の本願発明2の要旨認定の誤りを主張する。
(2) そこで,本件補正却下決定に原告主張の誤認があるか否かについて検討すると,本件補正却下決定(甲2)が,本件補正に係る「前記滑り支承を前記上部建物の略中央部に周方向に複数配置すると共に,前記弾性体を前記上部建物の周縁部に周方向に複数配置して」に関する記載事項として適示した当初明細書等(甲5)中の該当箇所は,以下の(イ)〜(チ)のとおりである。
(イ)「前記弾性体を,前記基礎部と前記上部構造物との間の周縁部に沿っ て複数配置したことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の免 震装置」(【請求項5】) (ロ)「請求項5に係る免震装置は,前記弾性体を前記基礎部と前記上部構 造物との間の周縁部に沿って複数配置したことを特徴とする」(段落【0 009】) (ハ)「請求項5の発明では,請求項2〜4のいずれかの発明に加えて,上 部構造物と基礎部とに上下端部がそれぞれ固定された弾性体を基礎部と上 部構造物との間の周縁部に沿って配置することによって,地震発生時にお ける免震支承部の浮き上がり抵抗力を増す」(段落【0012】) (ニ)「また,本実施例では,かかる構成の弾性滑り支承4を,建物3の略 中央部に配置された4本の各柱3aの下端に一つずつ合計4か所配置して いる(図2参照)」(段落【0014】) (ホ)「本実施例では,かかる構成の積層ゴム支承5を,建物3の周縁部に 沿って配置された10本の各柱3aの下端に一つずつ合計10カ所配置し ている(図2参照)。そしてこのように滑り支承4と積層ゴム支承5とで 建物3の鉛直荷重を受け止めることによって,鉛直方向の剛性を確保して いる」(段落【0015】) (ヘ)「さらに,建物3に入力される地震力の低減に加えて,上述したように,弾性滑り支承4を建物3と基礎部2との間の略中央部に配置すると共 に,上下端部がそれぞれ建物3と基礎部2とに固定された積層ゴム支承5 を建物3と基礎部2の間の周縁部に沿って配置しているので,地震の際の 免震支承部の浮き上がり抵抗力を増すことができる」(段落【0020】) (ト)「さらに,上記実施例では,建物3の浮き上がりを良好に防止するた めに,弾性滑り支承4を建物3と基礎部2との間の略中央部に配置すると共に,積層ゴム支承5を建物3と基礎部2の間の周縁部に沿って配置しているが,必ずしもこのような配置にする必要はなく,積層ゴム支承5が前 記周縁部に沿って配置されている限りにおいて弾性滑り支承4の配置をバランスよく適宜変更してもよい」(段落【0029】) (チ)「さらに,上部構造物と基礎部とに上下端部がそれぞれ固定された弾性体を基礎部と上部構造物との間の周縁部に沿って配置することによって,地震発生時における免震支承部の浮き上がりを良好に防止することができるという効果が得られる」(段落【0031】) (3) 上記のとおり,当初明細書等(甲5)には,弾性滑り支承の配置について,「本実施例では,かかる構成の弾性滑り支承4を,建物3の略中央部に配置された4本の各柱3aの下端に一つずつ合計4か所配置している(図2参照)」(段落【0014】),「弾性滑り支承4を建物3と基礎部2との間の略中央部に配置」(段落【0020】,段落【0029】)と記載されているにとどまり,滑り支承を上部建物の略中央部に「周方向に」配置することは,何ら記載されていないばかりでなく,「必ずしもこのような配置(注,上記実施例に記載の配置)にする必要はなく,積層ゴム支承5が前記周縁部に沿って配置されている限りにおいて弾性滑り支承4の配置をバランスよく適宜変更してもよい」(段落【0029】)とも記載されているのであって,図2の図示を参照しても,矩形の建物の周縁部に略平行な直線から成る略正方形のそれぞれの頂点に,4本の弾性滑り支承が記載されているのみである。これらの記載及び図示に接した当業者において読み取れることは,弾性滑り支承4を,略中央部(参考図-1の斜線部)に配置するということにとどまり,更に進んで,滑り支承を上部建物の略中央部に「周方向に」配置するという技術的思想まで読みとることはできない。すなわち,滑り支承を上記のとおりに配置することが,当初明細書等の明細書に何ら記載されていないことは,上記のとおりであり,明細書が引用する図2の図示を参照するとしても,願書に添付した図面は,本来,当該発明の具体的構成を図示してその技術的内容を理解しやすくするため,明細書の補助手段として使用される任意書面であって,明細書の記載を補完するものであり,所定の様式が定められている(特許法施行規則25条,様式30)とはいえ,設計図面に要求されるような正確性をもって図示されるとは限らない。加えて,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に配置する」とは,図2に示された横断面矩形の建物の場合において,上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に配置することに限らず,例えば,横断面円形の建物の場合には,上部建物の略中央部に滑り支承を円周方向に配置する(参考図-2),横断面三角形の建物の場合には,上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に三角形状に配置する(参考図-3)などの下位概念を包含する上位概念技術的思想に相当するものである。ところが,図2の図示からは,横断面円形の建物の場合に上部建物の略中央部に滑り支承を円周方向に配置する(参考図-2)か,横断面三角形の建物の場合に上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に三角形状に配置する(参考図-3)かは明らかでないから,結局,図2からは,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に配置する」という上位概念技術的思想を読み取ることはできない。さらに,被告が主張するように,仮に,中央部が,「参考図-4」に記載した斜線部であるとすると,「建物の略中央部の周方向」は,参考図-4に示されるように,斜線から成る略正方形の各頂点のみならず,各辺をも含むこととなるが,当初明細書等の図2から読み取れることは,中央部(参考図-4の斜線部)の略正方形の四つの頂点に,弾性滑り支承(同図の「○」印)が配置されていることにとどまり,本件補正に係る「建物の略中央部の周方向」の一形態である上記略正方形の辺上に配置した弾性滑り支承(同図の「●」印)は,当初明細書等の明細書に何ら記載されていないのであるから,当該弾性滑り支承(同図の「●」印参照)をも含む「滑り支承」を,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ことは,新規事項というほかはない。したがって,図2からは,当業者が,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」という上位概念技術的思想を読み取ることはできないというべきである。
(4) 原告は,図2に示された免震装置の配置は,本願発明2の一つの実施例であり,滑り支承の構成を,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ものに補正する本件補正は,「上部建物の略中央部に複数配置する」発明を,図2に示された建物の代表的な実施例に限定するものであると主張するが,本件補正は,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」というものであって,図2に図示されている「横断面矩形の建物の略中央部に滑り支承を4か所正方形状に配置する」というものではないから,本件補正が,図2に示された実施例に限定するものということはできない。
また,原告は,建物の中心部の柱を,建物の略中央部に周方向に複数配置することは,本件出願前にごく普通に施工されていた方法であるとして,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ものに補正する本件補正は,横断面形状が限定されない建物の中心部の柱につき,それが任意の位置にアトランダムに配置されることを包含していた発明を,ごく普通に行われていた施工例である建物の略中央部に周方向に複数配置する形状に限定するものにほかならないと主張する。しかしながら,仮に,原告の主張する「ごく普通に施行されていた方法」に関する技術常識を前提にしても,当初明細書等の図2に接した当業者において,矩形の上部建物の略中央部の周方向に弾性滑り支承が配置されている形状を図示するものであるのか,あるいは,更にそれを限定して,周方向の更に一態様である中央部(参考図-4の斜線部)の略正方形の四つの頂点に,弾性滑り支承(同図の「○」印)が配置されている形状を図示するものであるのかは,いずれとも決しがたいというほかはない。そうすると,原告主張の技術常識を前提にしても,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」との技術的思想は,当初明細書等に直接的かつ一義的に記載されているとも,当初明細書の記載から見て自明の事項であるともいえないというべきであるから,原告の上記主張は失当である。
なお,原告は,審決の前提とする本件補正却下決定が,当初明細書等中の明細書の記載のみについて認定判断しており,図面に記載された事項について正しく審理していないとして,審理不尽の違法を主張するが,本件補正却下決定が,図2を含む当初明細書等の記載及び図示の全体から認定判断していることは,上記(2)記載の説示に照らして明らかであるから,原告の主張は,これを正解しないで論難するものにすぎず,採用の限りではない。
(5) そうすると,当初明細書等には,「滑り支承を上部建物の略中央部に複数配置すると共に,弾性体を上部建物の周縁部に複数配置する」ことは記載されていても,これに接した当業者において,本件補正に係る「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ことを理解し得る記載又は示唆がされているとはいえないから,本件補正却下決定に原告主張の当初明細書等の記載事項の誤認はないというべきであり,したがって,本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないとして,これを却下すべきものとした本件補正却下決定の判断及びこれを前提とする審決の本願発明2の要旨認定にも原告主張の誤りはない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴