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関連審決 異議2001-72775
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  出願公開 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  択一的 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  発明の範囲 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 /  国際公開 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 24号 特許取消決定取消請求事件
原告 藤森工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 武石靖彦
同 村田紀子
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 杉原進
同 鈴木公子
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2001−72775号事件について平成14年12月3日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(甲1,2,弁論の全趣旨) (1) 原告は,平成6年5月23日,名称を「注出口に補強機構を備えた袋」とする発明について特許出願(平成6年特願第133791号。以下「本件出願」という。)をした。特許庁は,上記出願につき,特許すべき旨の査定をし,平成13年2月2日,特許第3154894号として設定登録をした(以下,この特許を「本件特許」という。)。
(2) 本件特許の請求項2ないし5,7ないし9については,株式会社ディスクから特許異議の申立て(以下「本件異議申立て」という。)がされ,同申立ては異議2001-72775号として特許庁に係属した。原告は,平成14年9月17日,上記請求項2及び5並びに本件特許に係る明細書の「発明の詳細な説明」について訂正の請求をした。特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成14年12月3日,上記訂正を認めるとした上,「特許第3154894号の請求項2ないし5,7ないし9に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同年12月24日,その謄本は原告に送達された。
2 前記訂正後の本件特許の請求項2ないし5,7ないし9に係る発明の要旨は,次のとおりである(甲1,2。以下,請求項2ないし5に係る発明をそれぞれ「本件発明2」ないし「本件発明5」と,請求項7ないし9に係る発明をそれぞれ「本件発明7」ないし「本件発明9」という。)。
【請求項2】フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋であって,袋の上部隅角部に,注出口が袋の外郭に沿って斜め上方に先細になるように突出して設けられ,前記注出口に補強機構が少なくとも1個備えられ,前記補強機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっていることを特徴とする袋。 【請求項3】前記補強機構は,袋の外向きに隆起する一対の線状変形からなる溝を有していることを特徴とする請求項2に記載の袋。 【請求項4】前記注出口は,断面形状を見たとき,前記補強機構の領域において,前記一対の線状変形間の部分を上底としかつ内側に凸となる湾曲した脚をもつ台形の形状を有していることを特徴とする請求項3に記載の袋。 【請求項5】複数の前記補強機構が,前記一方のフィルム面において,前記袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置されていることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の袋。 【請求項7】前記注出口に,刻印または切れ目からなる開封補助機構が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の袋。 【請求項8】前記開封補助機構が,複合フィルムの外側のフィルム層のみに,非断続的な窪みの形態で設けられていることを特徴とする請求項7に記載の袋。
【請求項9】立脚部を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の袋。
3 本件決定の理由の要旨は,次のとおりである(甲1)。
(1) 本件発明2について ア 欧州特許出願公開第364373号明細書(甲3。訳文添付。以下「刊行物1」という。)には,「軟らかい溶着可能な合成材料のシートの辺縁部を溶着して接合し(4,5,6),1つの底部(3)と2つの側壁(1,2)を形成させることにより作られた袋であって,袋の上部の角付近に,注ぎ口(22)が,切れ込み(19)を有する内側に湾曲した溶着部分(20)と三角形の拡大溶着部分(21)とによって突起部として形成され,前記注ぎ口(22)に,取り出し管路(16)を形成する合わせ型押し部(11,12)が備えられ,前記合わせ型押し部は,前記2つの側壁の間に断面が円形の金属製の棒(28)を挿入し,前記2つの側壁の外側に受け型(29,30)を当てることによって冷時に形成された,前記2つの側壁の外向きに隆起する断面略円形の管状変形からなっている袋。」との発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
本件発明2と引用発明とを対比すると,両者は,「フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋であって,袋の上部隅角部に,注出口が袋の外郭に沿って斜め上方に先細になるように突出して設けられ,前記注出口に補助機構が2個備えられ,前記補助機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形からなっている袋。」という点で一致し,次の点で相違すると認められる。
(ア) 補助機構を構成する「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起す る変形」が,本件発明2では,「袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」であるのに対し,引用発明では,「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形」である点(以下「相違点(1)」という。) (イ) 補助機構について,本件発明2では,それを「補強機構」と規定するのに対し,引用発明では,補強については言及しない点(以下「相違点(2)」という。) イ 上記相違点について検討する。 (ア) 相違点(1)について 刊行物1には,「本発明は,単に上に述べてきた軟らかい材料で作られる容器の実施態様に限定されるものではなく,同じ原理に基づくすべての実施および応用の変形モデルを包含する。特に,本発明の範囲から逸脱することなく,形状,長さ,傾き角または合わせ押し型によって形成される取り出し管路断面を変更すること,または形態またはその他の細部が,本発明の詳細な説明および図による説明で与えられた実施例と異なる容器に,本発明の原理を適用すること,または上で述べてきた方法とは別の方法で合わせ押し型を得ることができる。」(甲3の訳文6頁23〜末行)との記載がある。
上記記載によれば,引用発明においては,「取り出し管路」の断面形状を決定する「合わせ型押し部(11,12)」の断面形状,したがって,一方のフィルム面に形成される「断面略半円形の溝状変形」の形状は種々変更させ得ることが理解され,他方,国際公開第92/21581号パンフレット(甲5。以下「刊行物3」という。)に記載された技術的事項「フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋の内面に溝状変形を付与するための押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が,円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを使用し得ること。」(以下「技術的事項C」という。)によれば,一般に,フィルム製の袋の内面に溝状変形を付与する場合において,押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを任意に使用し得ること,したがって,付与される溝状変形も,これに対応した任意の断面形状のものとなし得ることが理解される。
してみると,引用発明においても,補助機構を構成する「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形」として,袋の外向きに隆起する断面略半円形(つまり円弧状)の溝状変形に代えて,断面方形状又は変形基部に向けて幅が広くなっている台形状の溝状変形をも包含する「袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」とすることは,刊行物1及び3の記載から当業者が容易に想到し得ることである。そして,こうしたことによって,当業者の容易に予測し得ない格別の効果を奏するものでもない。 (イ) 相違点(2)について 一般に,フィルムの表面に一定形状の溝状の隆起変形部を設けると,その溝と直角の方向に折れ曲がりにくくなることは当業者に容易に推測されるから,引用発明における補助機構である「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」についても,それの注出口における補強の作用効果に着目して,これを「補強機構」と規定する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることである。 (ウ) そして,相違点(1)及び相違点(2)を組み合わせることにも格別の困難性はなく,それによって当業者の容易に予測し得ない格別の効果を奏するものでもない。 (エ) したがって,本件発明2は,刊行物1及び3に記載された発明に基づ いて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 本件発明5について 本件発明5は,本件発明2ないし4において,さらに,「複数の前記補強機構が,前記一方のフィルム面において,前記袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置されていること」を規定したものである。 特開昭62-28349号公報(甲4。以下「刊行物2」という。)に記載された技術的事項「剛性的でフレキシブルな平らな被覆された1枚の裁断紙を,互いに向かい合う側縁部とフランジとが接着されて密着結合されるまで湾曲させることによって製作され,互いに向かい合っているフランジの1箇所に,出口又は押し出し口を形成するための,押し出し圧によって互いに引き離すことができる平らな2つの制限壁からなる,結合されずに後から切り離される舌片が突出して設けられた袋において,舌片に案内通路を形成するために,少なくとも一方の制限壁に,断面略半円形の溝状変形である2つの押込み成形部を液体の流出方向で互いに斜めに配置すること。」(以下「技術的事項A」という。)にいう「断面略半円形の溝状変形である押込み成形部」は,案内通路を形成するためのものであって,引用発明にいう「合わせ型押し部」,したがって補強機構に相当するものであるから,技術的事項Aによれば,シートの周辺をシールすることによって形成した袋の注出口に,少なくとも一方のシート面において,断面略半円形の溝状変形である2つの補強機構を液体の流出方向で互いに斜めに配置することが知られる。
してみると,本件発明2ないし4において,さらに,一方のフィルム面において,複数の補強機構を袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置する程度のことは,刊行物1ないし3の記載から当業者が容易に想到し得ることである。そして,こうしたことによって,当業者の容易に予測し得ない格別の効果を奏するものでもない。 したがって,本件発明5は,刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 本件発明3,4,7ないし9について 本件発明3,4は,刊行物1及び3に記載された発明に基づいて,本件発明7は,刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて,本件発明8,9は,刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて,いずれも本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件決定は,審理手続を誤った(取消事由1)上,本件発明2の進歩性判断の前提となる本件発明2と引用発明との一致点,相違点の認定を誤り(取消事由2),本件発明2の進歩性の判断を誤り(取消事由3),本件発明3ないし5,7ないし9の進歩性判断を誤った(取消事由4)ものである。
1 取消事由1(審理手続の法令違背) 本件決定は,本件出願の審査における最後の拒絶理由通知で引用された文献と実質上同一の文献を引用し,かつ,その拒絶理由通知と同一の理由でなされたものであるが,本件出願については,審査段階において既に拒絶理由の当否について議論が尽くされ,上記拒絶理由を維持せず,特許すべき旨の査定をすることで決着がついていたものである。したがって,特許庁が,上記審査段階での判断を覆すのであれば,これを覆す合理的な根拠を示し,特許権者である原告に反論の機会を与えるべきであるのに,特許庁は,かかる手続を経ずにいきなり本件特許の取消決定を行ったものであり,その審理の手続は違法である。 したがって,本件決定は取り消されるべきである。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の前提となる本件発明2と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り) (1) 本件発明2と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り ア 本件発明2における「補強機構」について 本件発明2は,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなる補強機構を注出口に備えるものであって,本件特許に係る明細書(前記第2の1(2)記載の訂正がされた後のもの。以下「本件明細書」という。)の「本発明の課題は,袋の注出口部分の素材補強を要さず,付加的な材料を必要とせずに製造することができ,注出口部分が折れ曲がらず,中身を容器に容易に移し替えることができる詰め替え用袋を提供することにある。」(甲2の段落【0004】)との記載から明らかなように,注出口が,袋の中身の注出時に折れ曲がるという欠点を防止すべく,注出口のフィルム面上に,複数本の線状変形からなる補強機構を設けたものであり,本件発明2における補強機構は,注出口の主要部を構成するものではなく,それにより流路が形成されるというものでもない。
本件特許公報(甲2)の図2からも明らかなように,本件発明2にいう「線状変形」とは「折り目」であって,本件発明2の補強機構は,「フィルムの変形加工により形成され,袋の外向きに山折りにされた少なくとも2本の折り目」からなっており,折り目を含む溝ではない。各補強機構が一対の線状変形から構成される場合,一対の線状変形が近接して配置されると,各線状変形は外向きに山折りにされた折り目からなるので,注出口を形成する2枚のフィルムの間には隙間が形成され,本件発明3にいう「溝」の形態が現れるが,「溝」でなくても一対の線状変形が形成されている限り,補強機構として充分機能するものであり,「溝」により,注出口を補強する機能がより向上するだけである。それ故,本件発明3にいう「袋の外向きに隆起する一対の線状変形からなる溝」は,刊行物1の「袋の外向きの隆起部」とは全く異なるものである。
すなわち,本件発明2においては,袋に中身が充填されない段階では,略完全な扁平形状であり,刊行物1の図2及び図3のように袋の内部に予め管路(16)(必要に応じて止め栓を挿入できるような管路)が形成されているものではなく,換言すれば,多数枚の袋を積み重ねて扱う際は,通常の紙袋や封筒と同様な扱いができるものである。
要するに,本件発明2の補強機構は,補強という言葉の概念からも明らかであるように,フィルム面上に形成された折り目の複合体であって,一定の幅を有する溝状のものではないから,注出口の主要部を構成するものではなく,補強機構自体が即注出口を形成して注出口の役目を果たすものではない。
本件決定の,本件発明2における「補強機構」についての解釈は誤っているというべきである。
イ 引用発明における「合わせ型押し部」について 刊行物1の記載(甲3の訳文1頁19〜20行,同1頁25〜27行,同2頁3〜6行,同2頁9〜13行,同3頁12〜13行)及び図2,図3の記載からすると,引用発明は,内容物の取り出しを容易にするだけでなく,開封後に再度栓をして密閉できるようにすることを目的として,「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」が,袋の注ぎ口においてあらかじめ決められた距離で互いに隔てられた2つの溶着部の間に形成され,「合わせ型押し部」は切り落とされた時に取り出し口を形成し,この取り出し口の境界が2つの溶着部によって画されて,取り出し口の口径が完全に決められるもので,しかも,「取り出し管路」,つまり,「合わせ型押し部」が切断されて,袋に形成された口径の定まった取り出し口に栓が差し込まれ,袋が密栓され得るものであるから,引用発明は,「合わせ型押し部から形成される取り出し管路と溶着部とによって規定される取り出し口に栓が差し込まれることで,開封後に確実に密栓することができる袋,つまり,取り出し口に栓が差し込める程度の口径を有する取り出し管路を備えた袋。」と認定すべきものであり,引用発明の袋の「合わせ型押し部」は,注出口の流路そのものであり,実質上,注出口を構成するものというべきである。
たとえ,被告が主張するように,引用発明の第1次の目的が,液状内容物の取り出し中に取り出し口の縁を互いにくっつかせずに開いた状態に維持して液の円滑な取り出しができるような容器(袋)を提供することであり,開封後の容器に栓をすること(密栓)は第2次的な目的であるとしても,袋が開封されて内容物が取り出されるとき,「取り出し管路」によって,取り出し口を形成する2枚のフィルム間に,注出口として,常に,少なくとも一定の口径の流路が確保されて,内容物が円滑に流出できるようになっているのであるから,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,注出口の主要部を形成していることに変わりはない。
本件決定は,刊行物1における「合わせ型押し部」の機能について解釈を誤り,引用発明の認定を誤ったというべきである。
ウ 一致点・相違点の認定の誤りについて (ア) 本件決定は,「注出口が袋の外郭に沿って斜め上方に先細になるよう に突出して設けられ,前記注出口に補助機構が2個備えられ,前記補助機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形からなっている点」を本件発明2と引用発明の一致点として認定したが,この認定は,本件発明2における「補強機構」を正しく理解せず,引用発明を誤って認定した結果なされたもので誤りである。
引用発明も本件発明2もともに,先細りに形成された袋の隅角部から内容物を取り出すためのものであるが,引用発明は,内容物の取り出し中に取り出し口の縁が互いにくっつかないようにする手段として,出口付近の袋の中に予め安定した固定流路を作っておくという発想に基づくものであって,従来の管等の挿入に代えて,取り出し口に「合わせ型押し部」を設けて,2枚のフィルムの間に断面円形の「取り出し管路」を常に形成しておき,注出口として,常時,少なくとも一定の口径の流路が確保されるようにしたものであるのに対し,本件発明2は,注出口は従来どおり先細りに形成された隅角部全体にその機能を持たせつつ,この注出口の折れ曲がり現象を防止するという観点から,フィルムの外面上に線状変形(折り目)からなる補強機構を設けるという発想を提案するものであって,両者は,その発想を全く異にする。
すなわち,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,注出口の主要部に核となる流路を構成しておくという発想であるのに対し,本件発明2は,注出口を構成する領域のフィルムに剛性を付加する(補強機構)という発想であり,着眼点,発想が異なるから,本件発明2にいう「補強機構」は,注出口のフィルム面上に設けられていて,注出口に備えられた一種の「補助機構」であるといえるが,引用発明にいう「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,実質上「注出口」を形成するものであって,「補助機構」とはいえないものである。
(イ) 本件決定は,本件発明2と引用発明を対比して,「補助機構を構成する「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形」が,本件発明2では,「袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」であるのに対し,引用発明では,「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形」である点」(相違点(1)),「補助機構について,本件発明2では,それを「補強機構」と規定するのに対し,引用発明では,補強については言及しない点」(相違点(2))を相違点と認定している。
しかしながら,引用発明の「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形」は,実質上袋の注出口(管路)であり,注出口の補助機構をなすものといえないことは,上述したとおりであるから,これを注出口の補助機構であることを前提とする上記相違点の認定は誤りである。
(2) 本件発明2の進歩性判断の誤り 本件決定は,本件発明2は,刊行物1及び3に記載された発明に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したが,上述のとおり,本件決定は,本件発明2と引用発明との一致点・相違点の認定を誤っており,上記判断は,この誤った一致点・相違点の認定に基づいて行われたものであるから,誤りである。
3 取消事由3(本件発明2の進歩性判断の誤り-相違点(1),相違点(2)に関する判断等の誤り) 本件決定は,相違点(1),相違点(2)に関する判断を誤り,また,本件発明が奏する顕著な効果を看過し,その結果,本件発明2の進歩性判断を誤ったものである。
(1) 相違点(1)に関する判断の誤り 本件決定は,相違点(1)について,引用発明において,補助機構を構成する「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形」として,断面方形状又は変形基部に向けて幅が広くなっている台形状の溝状変形をも包含する「袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」とすることは,刊行物1及び3の記載から当業者が容易に想到し得るものである旨判断しているが,誤りである。
引用発明は,「取り出し管路」を設けることで,袋の中身の注出を容易にするだけでなく,開封後に再度栓をして袋を密閉可能にするという技術的課題を解決するものであって,注出口の剛性は,少なくとも,袋の開封後に注出口の流路が一定の口径に開いた状態に維持され,「取り出し管路」に栓ができる程度に高いものとされているため,そもそも,注出口の折れ曲がりを防止すべく補強するという本件発明2の技術的課題を有しておらず,刊行物1には,注出口の折れ曲がりを防止すべく注出口のフィルム面上に補強機構を設けることの動機付けとなる記載はない。
刊行物3記載の技術的事項Cは,「フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋の内面に溝状変形を付与するための押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が,円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを使用し得ること。」であるところ,刊行物3には,「本発明によれば,自立性袋の胴部フィルムに剛性を付与するための線状リブを有するので,・・・従来の自立性袋に見られるような腰折れ現象は全く見られず,非常に優れた自立牲,保形牲を有する自立性袋を得ることができ,」(甲5の4頁7〜10行)と記載されていることからみて,技術的事項Cは,袋の胴部の内面に線状リブを施して,自立安定性,保形性に優れた自立性袋を提供することを技術的課題とするものであって,注出口の折れ曲がりを防止すべく注出口のフィルム面上に補強機構を設けることを技術的課題とするものではない。
本件決定は,引用発明に刊行物3記載の技術的事項Cを適用することが容易であるというが,技術的事項Cにおける袋の内面とは袋の胴構成部を意味し,溝状変形は,袋の上部隅角部から斜め上方に先細に突出する注出口に設けられるものではないから,技術的事項Cを引用発明に適用したとしても,引用発明の袋の胴部分に線状リブが設けられるだけであって,本件発明2のように,袋の注出口のフィルム面上に複数の線状変形からなる補強機構を設けることにはならない。
しかも,刊行物1において,「合わせ型押し部」は,非加熱状態で,金型によるプレス加工を用いて,フィルムを屈曲させることによって設けられたものであるのに対し,刊行物3において,線状リブは,表面層に熱接着性プラスチック層を有する多層プラスチックフィルムに押し型を押し当て,熱接着性プラスチックフィルムの少なくとも一部を溶融又は軟化させ,その厚みを薄くして線状の溝を形成すると共にその溝の上端部に盛り上がり部を形成し,その盛り上がり部を固定させることによって形成されたものであり,刊行物3における線状リブ,線状の溝は,その構造及び形成方法が刊行物1の「合わせ型押し部」と全く相違している。
上記のとおり,引用発明と刊行物3記載の技術的事項Cとは,技術的課題を異にするばかりか,フィルムに変形を与えるための手法も異なるから,引用発明に技術的事項Cを適用する動機付けはなく,本件決定が,本件発明2の「2本の線状変形」を「溝状変形」と捉え,刊行物1及び3の記載から相違点(1)に係る構成を推考することは容易であると判断したのは誤りである。
(2) 相違点(2)に関する判断の誤りについて 本件決定は,相違点(2)について,「一般に,フィルムの表面に一定形状の溝状の隆起変形部を設けると,その溝と直角の方向に折れ曲がりにくくなることは当業者に容易に推測される」から,「引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」を「補強機構」と規定することは当業者が容易に想到し得る」と判断しているが,誤りである。
上記判断においては,上記のとおり推測されるとする根拠が一切示されていないし,また,フィルム表面に溝状の隆起変形部を設けると,その溝と直角の方向に折れ曲がりにくくなることが一般論として成り立つとしても,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,袋の中身の注出中に注出口が折れ曲がらないよう機能させることを意図していないから,これを,「少なくとも2本の線状変形(折り目)からなる補強機構」と規定することは容易に想到できるものではない。
本件決定の上記判断は,本件発明2における技術的課題及び当該課題を解決するための手段を見た後,本件発明2を引用発明と強引に結び付けた上,いわゆる事後推論に基づいてなされたものである。
(3) 本件発明2の効果に関する判断の誤り 本件決定は,相違点(1),(2)を組み合わせることにも格別の困難性はなく,それによって当業者の予測し得ない格別の効果を奏するものでもないと認定判断しているが,誤りである。
刊行物3に記載の発明においては,厚手の多層フィルムが必要であり,また,一度溶かして盛り上げるという高度な加工を要し,さらに,引用発明においても,出口付近の袋の中に予め安定した固定流路を形成することから一定の厚みを有するフィルムを必要とするが,本件発明2では,補強機構はフィルム面上に形成された折り目の複合体であるから,引用発明及び刊行物3に記載の発明におけるよりも薄いフィルムを用いて所望の補強作用を奏するようにすることが可能であり,製造コストの面からみても,著しく有利であり,顕著な効果を奏するものである。
4 取消事由4(本件発明3ないし5,7ないし9の進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明3ないし5,7ないし9は,いずれも進歩性を有していないと判断したが,誤りである。本件発明2が進歩性を有していることは明らかであるから,本件発明2を引用し,この構成をさらに限定する本件発明3ないし5,7,9,本件発明2を引用する本件発明7を引用し,これをさらに限定する本件発明8がいずれも進歩性を有していることは明白である。
(2) 本件発明5の進歩性判断の誤り 刊行物2記載の技術的事項Aにいう「断面略半円形の溝状変形である押込み成形部」は,案内通路,つまり液体を流出させるための通路(流路)を形成する点で,引用発明にいう「合わせ型押し部」に相当すると認められる。しかし,前記でも述べたように,引用発明の「合わせ型押し部」は,本件特許発明の「補強機構」と,その構成,作用効果において全く異なるものであるから,刊行物2の技術的事項Aにいう「断面略半円形の溝状変形である押込み成形部」もまた本件特許発明の「補強機構」とは相違する。したがって,「断面略半円形の溝状変形である押込み成形部」が「補強機構」に相当するとの本件決定における認定は失当である。
さらに,本件決定では,技術的事項Aに基づき,本件発明2ないし4において,さらに,一方のフィルム面において,複数の補強機構を袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置する程度のことは,刊行物1ないし3に記載の発明から当業者が容易に想到し得ることであると判断している。
しかし,刊行物2記載の「押込み成形部」は,板紙等の剛性をもつ基材を接合した容器の中身の注出時に案内通路として機能し,注出口の剛性に起因して袋の中身が予定外の方向に押し出されることを防止するものである。そして,刊行物2記載の発明では,刊行物1記載の発明と同様,注出口が折れ曲がるという問題は本来的に存在せず,刊行物2記載の発明は,本件発明2ないし5の技術的課題を解決するものではない。それ故,刊行物2記載の技術的事項Aから,本件発明2ないし4において,一方のフィルム面に,複数の補強機構を袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置することは,当業者が容易に想到し得ることではない。
(被告の反論) 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由1ないし4はいずれも理由がない。
1 取消事由1(審理手続の法令違背)について 本件出願の審査手続でされた拒絶理由通知においては,刊行物1を,「注出口を先細になるように突出させた点」及び「立脚部を設けた点」の引用例として用いているのに対し,本件異議申立ての審理手続でされた取消理由通知及び本件決定においては,刊行物1を主引用例として用いており,同じ刊行物を用いていても,引用の意味内容が異なり,本件決定は上記拒絶理由通知と同じ理由付けで本件発明2ないし5,7ないし9の特許性を否定したものではない。しかも,上記審理手続において,本件特許権者である原告には,取消理由通知に対して反論の機会が与えられ,原告は,特許異議意見書を提出して反論を行っているものであり,反論の機会を与えずにいきなり本件決定を行ったものでもない。
また,一旦成立した特許に対して特許異議の申立てがされたときには,そこで証拠として提出された刊行物が,たとえ,すでに審査手続において引用されたものであっても,当該異議申立ての審理において,特許異議申立人と特許権者双方の主張を検討考慮して,上記刊行物に基づき新たな判断を下すことは,何ら違法ではない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の前提となる本件発明2と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 本件発明2の「補強機構」について 原告は,本件発明2では,補強機構は,注出口の主要部を構成するものではなく,ましてそれで流路が形成されるものでもない旨主張する。
しかし,本件発明2の構成要件は,「前記注出口に補強機構が少なくとも1個備えられ,前記補強機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている」というものであるから,原告の主張は,本件発明2の構成要件に基づかないものであり,失当というほかない。
そもそも,本件発明2は,補強機構のみで注出口が形成される場合等,換言すれば,補強機構を構成するところの「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」をもって注出口が形成される場合等(すなわち,刊行物1の図2,3において,「合わせ型押し部」の断面円形を断面方形等の形状に置換したもの等)をも包含するから,本件発明2では,補強機構は,注出口の主要部を構成するものとなり,それで流路が形成されることになるのである。
原告は,本件発明2にいう「線状変形」とは,「折り目」のことであり,「一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する線状変形」とは,「一方のフィルム面において袋の外向きに山折りにされた折り目」のことであって,本件発明2にいう「補強機構」は,フィルムの変形加工により形成され,袋の外向きに山折りにされた少なくとも2本の折り目からなっている旨主張している。
しかし,「線状変形」の用語が「折り目」を包含する概念であるとしても,それのみを意味するものでないことは自明であって,線状変形とは,その変形が外観上線状をなしていることをいうもの,つまり,外観上線状をなすすべての変形を指すものであるから,原告の主張はすでにその前提において失当である。
また,原告は,本件発明2にいう「補強機構」は,フィルム面上に形成された折り目の複合体であり,一定の幅を有する溝状のものではないと主張するが,本件明細書の段落【0013】では,図2を引用して,「これらの線状変形5,6によって,各補強機構4は溝10の形態を有している」と説明されており,原告の前記主張は,本件明細書における説明と全く食い違う。
本件決定の,本件発明2における「補強機構」についての解釈は正当である。
(2) 引用発明の「合わせ型押し部」について 原告は,引用発明は,内容物の取り出しを容易にするだけでなく,開封後に再度栓をして密閉できるようにすることを目的とするもので,「合わせ型押し部から形成される取り出し管路と溶着部とによって規定される取り出し口に栓が差し込まれることで,開封後に確実に密栓することができる袋,つまり,取り出し口に栓が差し込める程度の口径を有する取り出し管路を備えた袋。」と認定されるべきであり,引用発明の袋の「合わせ型押し部」は,注出口の流路そのものであり,実質上,注出口を構成するものである旨主張する。
しかし,刊行物1の「上で述べた種類に属し,直立して置くことができる軟らかい袋,そしてより一般的には,縁で接合された面を持つ軟らかい袋を使用する時,内容物の確実な取り出しに困難を伴う。・・・この取り出し口は縁が互いにくっつきやすいために開いた状態を維持することは難しく,液の円滑な取り出しは妨げられる。さらに,内容物が必ずしも1度で使用されない場合,容器に再度栓をしなければならないことが問題となる。・・・本発明は,・・・容器に入った内容物の取り出しがきわめて容易で,再度栓をして密閉する可能性を与える新しい解決策を提示することによって,上に示したすべての欠点を解消することを目的とする。それには,本発明の対象である軟らかい材料で作られた容器において,容器を初めて使用する時に切り落とす領域に,2つの側壁と同じ材料で,取り出し管路が形成されるように,容器の辺縁部,特に容器の1つの角の近くの2つの側壁の外側に,合わせ型押し部を形成させる。」(甲3の訳文1頁12行〜2頁2行)との記載によれば,引用発明の第1次の目的は,液状内容物の取り出し中に取り出し口の縁を互いにくっつかせずに開いた状態に維持して液の円滑な取り出しができるような容器(袋)を提供することであり,開封後の容器に栓をすること(密栓)は第2次的な目的であることが明らかである。
したがって,引用発明が,あたかも,内容物を容易に取り出すことと密栓できることとの両者を同時に満足させることを目的としているものであるかのようにいう原告の認識は誤りである。
また,刊行物1には,「ここで問題にしている種類の容器を製造するために現在使用されている合成材料の複合した性質を考慮すると,壁の合わせ型押し部は冷時に形成させることができ,一旦形成させれば,それを維持することは難しくない。この合わせ型押し部は管路の境界を画し,・・・この管路からそれぞれ想定された2つの溶着部によって取り出し口の境界が画される限り,外側の先端付近で取り出し口の口径が完全に決められる。溶着部が管路にきわめて近い場合は,取り出し口の断面は最小となり,「1滴1滴取り出す」使い方が考えられる。これとは反対に,溶着部を管路から遠く離すと,容器の2つの側壁は,最初に形成される合わせ型押し部のおかげで,互いに大きく離れることが可能となる。その結果,取り出し口の周辺が互いにくっつくことはなくなり,液を円滑に取り出すことが可能となる。取り出し管路と2つの溶着位置の間の距離を選択することによって所望の流量が得られる。」(同2頁7〜19行),「2つの溶着部13および14が取り出し管路16のすぐ近傍まで伸びている場合は,管路16の初めの断面と等しい取り出し口の断面が作られる。それに対して2つの溶着部13および14が,取り出し口からより遠く離れている場合,言い換えれば距離Dがより大きい場合は,管路16の断面より大きな断面の取り出し口が形成される。すべての場合に,角10を切り落として容器を開封すれば,取り出し管路16が,注ぎ出す液の確実な液の取り出しを可能にする。
また,この角10を切り落とした後に得られる口径の定まった取り出し口は,栓の差し込みに適しており,容器の内容物を一度で使い切らない場合は,図1に示すように,容器を密栓することができる。栓18は円錐形をしており,そのために容易に取り出し口に差し込むことができる。」(同4頁末行〜5頁10行,図1〜4の説明)と記載されており,これらの記載によれば,引用発明の容器(袋)では,溶着部を管路から遠く離すと(すなわち,2つの溶着部13,14が,「取り出し管路16」から遠く離れている場合,言い換えれば距離Dがより大きい場合),容器の2つの側壁は,最初に形成される合わせ型押し部のおかげで,互いに大きく離れることが可能となり(管路16の断面より大きな断面の取り出し口が形成され),その結果,取り出し口の周辺が互いにくっつくことはなくなり,液を円滑に取り出すことが可能となるものと解される。
したがって,引用発明において,「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」が注ぎ口の殆ど全体を占め,注ぎ口は実質上「取り出し管路」から形成されているとの原告の認識,注出口そのものではないとしても,注出口の主要部を形成していることに変わりはないとの原告の認識は誤りである。また,引用発明では,あたかも,必ず(常に),「合わせ型押し部」が形成する開口の部分(2個の半円形から成る断面円形管路)のみによって取り出し口が形成されるものであるかのようにいう原告の認識,さらに,引用発明では,あたかも,必ず(常に),口径の定まった取り出し口が密栓されるものであるかのようにいう原告の認識も誤りである。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は失当であり,引用発明は本件決定が認定したとおりに把握されるべきものである。
なお,引用発明にいう「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」が,内容物の流路部分の主要部を形成しているか否かは,本来,本件発明2と引用発明とを対比する上で問題外の事項であり,また,本件決定におけるいずれの認定・判断にも関係のないことである。
本件決定の,刊行物1の「合わせ型押し部」についての機能の解釈に誤りはなく,引用発明の認定にも誤りはない。
(3) 一致点・相違点の認定について ア 原告は,本件発明2にいう「補強機構」は,注出口のフィルム面上に設けられていて,注出口に備えられた一種の「補助機構」であると言えるが,引用発明にいう「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,「補助機構」ではなく実質上「注出口」を形成するものであり,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,本件発明2の「補強機構」と,構成及び作用効果が相違する旨主張する。
しかし,引用発明では,必ず(常に),「合わせ型押し部」によって形成される「取り出し管路」のみによって注ぎ口が形成されるものではなく,「合わせ型押し部」(断面円形)によって形成される「取り出し管路」の両側に形成される間隙部分(甲3の図3のDの両端部分)も「取り出し管路」とともに注ぎ口を形成する場合もあるから,本件発明2の「補強機構」も引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」も,ともに,袋の注出口に備えられる1種の「補助機構」といえる(後述するとおり,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」も,当然に補強作用を有する。)。原告の上記主張は理由がない。
そして,引用発明においては,本件決定が「一種の補助機構である」と認定した「取り出し管路16を形成する合わせ型押し部(11,12)」をなす外向きの「断面略半円形の溝状変形」(半円筒状の溝)は,「注ぎ口である先細の突起部」の領域に(一方及び他方のフィルム面を合わせて)2個備えられるものである。
上記のとおり,本件決定の一致点の認定に誤りはない。
イ 原告は,引用発明の「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形」は,実質上袋の注出口(管路)であり,注出口の補助機構をなすものといえないことから,これを注出口の補助機構であることを前提とする本件決定における相違点の認定は誤りである旨主張する。
しかし,引用発明の内容,及び本件発明2と引用発明との一致点が本件決定で認定したとおりのものである以上,本件発明2と引用発明との相違点は,本件決定が認定した相違点(1),相違点(2)でしかあり得ない。
3 取消事由3(本件発明2の進歩性判断の誤り-相違点(1),相違点(2)に関する判断等の誤り)について (1) 相違点(1)に関する判断について 原告は,引用発明の技術的課題は,「取り出し管路」を設けることで,袋の中身の注出を容易にするだけでなく,開封後に再度栓をして袋を密閉可能にすることにあり,本件発明2と引用発明との技術的課題は異なると主張するが,引用発明の技術的課題は,液状内容物取り出し中にその口縁が互いにくっつかないようにすることであって,密栓の可否が2次的なものであることは上述したとおりであり,原告は,引用発明の技術的課題を誤って把握している。また,本件発明2は,栓をしないものであるかのように主張するが,本件発明2も,密栓の可否を問わないものであり,密栓可能であることを排除していない。
原告は,刊行物3記載の技術的事項Cは,自立安定性,保形性に優れた自立性袋を提供することを技術的課題とするものであり,注出口の折れ曲がりを防止すべく注出口のフィルム面上に補強機構を設けることを技術的課題とするものではないし,溝状変形は,袋の内面である胴部に設けられるもので,袋の上部隅角部から斜め上方に先細に突出する注出口に設けられるものではないから,技術的事項Cを引用発明に適用したとしても,引用発明の袋の胴部分に線状リブが設けられるだけであって,本件発明2のように,袋の注出口のフィルム面上に複数の線状変形からなる補強機構を設けることは,刊行物1及び3の記載から当業者が容易になし得ることではない旨主張する。しかし,技術的事項Cは,「袋の内面に溝状変形を付与するための押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が,円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを使用し得ること。」を教えるものであって,溝状変形を付与すべき袋の内面の位置や場所を教えるとしたものではない。溝状変形を設ける位置や場所については,すでに引用発明が教えており,本件決定は,技術的事項Cを注出口に設けることを相違点として認定したものではないから,上記原告の主張は,本件決定における相違点(1),相違点(2)の容易想到性の判断の誤りをいうものではない。したがって,上記原告の主張は失当である。
原告は,本件発明2と,引用発明,刊行物3記載の技術的事項Cとの技術的課題の相違を主張するが,本件発明2の進歩性の判断においては,引用発明を出発点にして,これに刊行物3記載の技術的事項Cを適用して本件発明2と同一の構成に至る動機・課題が存するか否かが問題であり,この動機・課題が本件発明2におけるものと同一であるか否かは,問題となり得ない。そして,本件決定が相違点(1)に関して判断しているとおり,引用発明においては,「取り出し管路」の断面形状を決定する「合わせ型押し部(11,12)」の断面形状,したがって,一方のフィルム面に形成される「断面略半円形の溝状変形」の形状は種々変更させ得ることが理解されるし,他方,刊行物3記載の技術的事項Cによれば,一般に,フィルム製の袋の内面に溝状変形を付与する場合において,押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを任意に使用し得ること,したがって,付与される溝状変形も,これに対応した任意の断面形状のものとなし得ることが理解されるから,溝状変形の形状変更という点で,引用発明と技術的事項Cとを結びつける動機・課題が存在する。
原告は,刊行物3記載の線状リブは,押し型を押し当ててフィルムの少なくとも一部を溶融又は軟化させ,その厚みを薄くして線状の溝を形成するとともに,その溝の上端部に盛り上がり部を形成し,その盛り上がり部を固定させることによって形成されたものであるから,その構造・形成方法が刊行物1の「合わせ型押し部」と全く相違している旨主張する。
しかし,本件決定は,刊行物3から技術的事項C「フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋の内面に溝状変形を付与するための押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が,円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを使用し得ること。」が認識できる旨を認定したのである。そして,本件決定は,端的に言うと,技術的事項Cを適用すれば,注出口である先細突出部分に備えられる引用発明の断面略半円形の溝状変形(隆起部)に代えて,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらと円弧状との組み合わせ形状となる押し型から得られる溝状変形(隆起部),すなわち,方形状,台形状又はこれらと円弧状との組み合わせ形状となる溝状変形とすることが容易に想到し得る旨判断したものである。刊行物3記載の線状リブの具体的な構造(袋の内面側に溝状変形が付与されること等)や形成方法自体は,本件決定における容易想到性の判断に無関係である。
なお,刊行物1には,「取り出し管路は,容器の突起または注ぎ口を形成する部分の形状に応じて,たとえば湾曲した形や屈曲した形など,各種の形状が可能である。」(甲3の訳文3頁9〜11行)と記載されているから,「取り出し管路」の断面形状を線状変形からなるものとすることは,このような刊行物1の記載をも併せ考慮することによっても,容易に想到し得るものというべきである。
さらに,付言すれば,刊行物3においても,溝状変形を付与するための押し型の先端の「線状の突起」をフィルムに押し当てるには,冷間圧縮,すなわち,引用発明にいう「冷時に形成」の方法によっても良いとされており(甲5の16頁10〜12行),溝状変形の具体的な形成方法においても,引用発明と刊行物3記載の技術的事項Cとの間に格別の差異はない。
以上のとおり,原告の主張はいずれも失当であり,本件決定における相違点(1)の判断に誤りはない。
(2) 相違点(2)に関する判断について 原告は,その根拠を一切示さず,「フィルムの表面に一定形状の溝状の隆起変形部を設けると,その溝と直角の方向に折れ曲がりにくくなることは当業者に容易に推測される」とした認定は,誤りであると主張する。
しかし,一般に,(平らな)フィルムの表面に一定形状の溝状の隆起変形部を設けると,その溝の直角の方向に折れ曲がりにくくなることは,当業者ならずとも一般人が日常的に経験することであって,当業者ならば誰でも気付くことにすぎないから,このことが「当業者に容易に推測される」とした本件決定の判断は正当である。原告の主張は,一般人の日常的な経験さえ顧慮しないものであり,失当というほかない。
原告は,フィルム表面に溝状の隆起変形部を設けると,その溝と直角の方向に折れ曲がりにくくなることが一般論として成り立つとしても,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」は,袋の開封後に,注出口の断面を常に一定形状に維持するように機能するものであり,袋の中身の注出中に注出口が折れ曲がらないよう機能させることを意図していないから,これを,「少なくとも2本の線状変形(折り目)からなる補強機構」と規定することは容易に想到できるものではない旨主張する。
しかし,引用発明の目的についての原告の把握が誤りであることは,既に述べたとおりであるし,引用発明において,液状内容物取り出し中の注出口の折れ曲がりの問題が意図されていたか否かは,相違点(2)の容易想到性の判断に何ら影響しない。
なお,引用発明の「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」も当然,注出口の折れ曲がり防止の機能,すなわち原告のいう補強機能を有するものであって(これを,その機能に着目して「補強機構」と称するか否かは,単なる表現上の相違),本件発明2は,端的にいうと,引用発明の「取り出し管路」の断面形状を略円形から略方形等の形状に変更したものにすぎないのである。
以上のとおり,原告の主張はいずれも失当であり,本件決定における相違点(2)の判断に誤りはない。
(3) 本件発明2の効果について 原告は,本件発明2では,補強機構はフィルム面上に形成された折り目の複合体であり,引用発明及び刊行物3記載の発明のものよりも薄いフィルムを用いて所望の補強作用を奏するようにすることが可能であるから,製造コストの面からみても,本件発明2は著しく有利である旨主張している。
しかし,本件発明2にいう「補強機構」は折り目の複合体とは限らず,また,本件発明2は使用するフィルムの厚さを問題にするものではないから,原告の主張は,その前提において失当である。
相違点(1),(2)に係る構成を組み合わせることにも格別の困難性はなく,それによって当業者の予測し得ない格別の効果を奏するものでもないとした本件決定の認定判断に誤りはない。
4 取消事由4(本件発明3ないし5,7ないし9の進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件決定における本件発明2の進歩性の判断が誤っていることを前提に,本件発明3ないし5,7ないし9の進歩性の判断も誤っている旨主張しているところ,本件決定が本件発明2の進歩性を否定した判断に誤りがないことは前記2及び3に記載したとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き,失当である。
(2) 本件発明5の進歩性判断について 本件決定で認定判断したとおり,刊行物2記載の技術的事項Aにいう「断面略半円形の溝状変形である押込み成形部」は,案内通路を形成するためのものであって,引用発明にいう「合わせ型押し部」,したがって補助機構である補強機構に相当するものであるから,技術的事項Aによれば,シートの周辺をシールすることによって形成した袋の注出口に,少なくとも一方のシート面において,断面略半円形の溝状変形である2つの補強機構を液体の流出方向で互いに斜めに配置することが知られ,してみると,本件発明2ないし4において,さらに,一方のフィルム面において,複数の補強機構を袋の外郭に沿って互いに鋭角をなして配置する程度のことは,刊行物1ないし3記載の発明から当業者が容易に想到し得ることなのである。
したがって,本件発明5は,刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(審理手続の法令違背)について 原告は,本件決定は,本件出願の審査における最後の拒絶理由通知で引用された文献と実質上同一の文献を引用し,かつ,その拒絶理由通知と同一の理由でなされたものであるが,本件出願については,審査段階において既に拒絶理由の当否について議論が尽くされ,上記拒絶理由を維持せず,特許すべき旨の査定をすることで決着がついていたものであるから,特許庁が,上記審査段階での判断を覆すのであれば,これを覆す合理的な根拠を示し,特許権者である原告に反論の機会を与えるべきであるのに,特許庁は,かかる手続を経ずにいきなり本件特許の取消決定を行ったものであり,その審理の手続は違法である旨主張する。
しかし,特許異議申立ての制度は,特許庁による特許付与の見直しを求めるものと位置づけられ,提出できる証拠について格別の制限も設けられていないから,かかる制度の下において,特許異議の申立ての審理において,審査の段階で維持されなかった拒絶理由で引用された証拠が提出された場合に,これをあらためて検討した上,同証拠に基づいて,特許の付与を見直すことは当然に許されるものである。しかも,証拠(甲7,8)及び弁論の全趣旨によれば,特許権者である原告に対しては,本件異議申立ての審理の段階で,特許法120条の4第1項の規定に従い,具体的な取消理由が通知され,反論の機会が与えられていること,原告は,特許異議意見書を提出していることが認められ,特許庁(審判合議体)が,原告に反論の機会を与えずにいきなり本件決定を行ったとの原告の批判が当たらないことは明らかである。
したがって,原告の主張する取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の前提となる本件発明2と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)について 原告は,本件決定は,本件発明2にいう「補強機構」も引用発明にいう「取り出し管路を形成する合わせ型押し部」も,ともに,袋の注出口に備えられる一種の「補助機構」であると誤って認定したが,引用発明の「合わせ型押し部」は,注出口の流路そのものであって,実質上注出口を構成するものというべきであるから,両者は,技術的課題においても構造においても異なっていると主張する。
(1) 本件発明2の技術的課題及び補強機構について ア 本件発明2は,本件決定が認定したとおりのものであり,「フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている補強機構」を「注出口に少なくとも1個備えた」という構成要件を備えたものであり(本件特許の請求項2),本件明細書(甲2)によれば,補強機構を備える本件発明2の技術的課題は,「袋の注出口部分の素材補強を要さず,付加的な材料を必要とせずに製造することができ,注出口部分が折れ曲がらず,中身を容器に容易に移し替えることができる詰め替え用袋を提供すること」(段落【0004】)にあると認められる。
原告は,「線状変形」は「折れ目」であると主張するが,本件明細書には,「線状変形」が「折れ目」であるとは記載されていない。むしろ,本件明細書(甲2)には,「型の外面上に溝が設けられている場合は,それに応じて対応するフィルム領域に袋の内部に向って線状の内向きの突起が形成される。型の一方の側面に内向きの隆起が設けられていて,他の側面に外向きの隆起が設けられている場合は,同じように対応するフィルム領域にそれぞれ,袋の内部方向に向いた溝と袋の外部方向に向いた溝が形成される。」(段落【0010】),「図2からわかるように,2つの補強機構4は,それぞれ,フィルム7を変形加工することによって形成された2本の線状変形5,6からなっており,これらの線状変形5,6によって,各補強機構4は溝10の形態を有している。」(段落【0013】)と記載されており,この記載からすると,「線状変形」とは「折れ目」とは限らず,型に形成した溝,隆起に対応してフィルム領域に形成される線状の突起,溝のような変形,また,2本の線状変形によって,全体として溝の形態を有する変形も含んでいるものと解される。
また,原告は,一対の線状変形が近接して配置されると,各線状変形は外向きに山折りにされた折り目からなるので,注出口を形成する2枚のフィルムの間には隙間が形成され,本件発明3にいう「溝」の形態が現れるが,機能的には,2本の線状変形と何ら変わらず,「袋の外向きに隆起する一対の線状変形からなる溝」は,刊行物1の「袋の外向きの隆起部」とは全く異なるとも主張するが,線状変形が折り目と限らないことは上記説示のとおりであるし,一対の線状変形の配置態様についても,本件発明3は何ら特定していないのであるから,上述したとおり,「袋の外向きに隆起する一対の線状変形からなる溝」とは,2本の(一対の)線状変形によって,全体として溝の形態を有する変形と解するのが相当である。
イ しかしながら,本件発明2は,上記ア記載の技術的課題を解決するため,注出口に「フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている」補強機構を形成したものであるところ,この補強機構は,その文言上は,注出口部分が折れ曲がらず,中身の取り出しを容易にするため,注出口を補強することを目的とした構成であるといえる。このことに加え,本件明細書(甲2)には,上記補強機構が注出口において袋の内容をなす流体物の流路として有効に機能する点の記載は何らなく,むしろ,「型の外面上に溝が設けられている場合は,それに応じて対応するフィルム領域に袋の内部に向って線状の内向きの突起が形成される。型の一方の側面に内向きの隆起が設けられていて,他の側面に外向きの隆起が設けられている場合は,同じように対応するフィルム領域にそれぞれ,袋の内部方向に向いた溝と袋の外部方向に向いた溝が形成される。」(段落【0010】)と記載され,本件発明2において,上記補強機構の形状を管路のように形成されることは予定されていないと認められること,そのほか,本件特許公報(甲2)の図2に示された補強機構の形状に照らしてみれば,上記補強機構は,引用発明における管路のような注出口の主要部分というべき部分を構成せず,注出口の一部において補強を中心とする機能を果たすにすぎない構成部分とみるべきである。
(2) 引用発明の技術的課題及び「合わせ型押し部」について ア 刊行物1(甲3の訳文)には,以下のように記載されている。 (ア) 「【請求項1】軟らかい材料で作られる容器,具体的には,溶着可能 な合成材料において,辺縁部を溶着して接合し(4,5,6),1つの底部(3)と2つの側壁(1,2)を形成させることにより作られ,注ぎ出すべき液体または粘性の高い製品を入れることを目的とした容器であって,容器を初めて使用する時に(17に沿って)切り落とされる領域に,前記2つの側壁(1,2)と同じ材料で,取り出し管路(16)が形成されるように,容器の辺縁部近く,特に角の1つ(10)の近くの2つの側壁(1,2)の外側に,合わせ型押し部(11,12)が形成されることを特徴とする,軟らかい材料で作られる容器。
【請求項7】注ぎ口(22;23;27)を形成する突起部またはそれに類する部分を含み,かつ,溶着部(20,21;24,25;26。判決注:刊行物1の図面には番号26の記載は欠けている。)が境界を画する容器であって,取り出し管路(16)を形成する合わせ型押し部(11,12)が,前記注ぎ口(22;23;27)の周辺に形成されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の軟らかい材料で作られる容器。 【請求項9】取り出し管路(16)を形成する,2つの側壁(1,2)に形成される合わせ型押し部(11,12)は,容器を製造する過程で,特に前記2つの側壁(1,2)の間に断面が円形の金属製の棒(28)を挿入し,前記壁の外側に受け型(29,30)を当てることによって冷時に形成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の軟らかい材料で作られる容器。」(上記訳文7〜8頁。特許請求の範囲の記載) (イ) 「この発明は,使用時に内容物を容易に取り出すための手段を備えた,軟らかい材料で作られる容器に関する。この発明は,具体的には,溶着が可能な合成材料において,辺縁部を溶着して接合し,1つの底部と2つの側壁とを形成させることによって製作され,注ぎ出すべき液体または粘性の高い製品を入れることを目的とした容器に関する。この発明のさらに具体的な応用は,合成材料で作られる軟らかい袋であって,その袋は,2つの側壁と接合されてW形を形成し,かつ,曲線または折れ線状の継ぎ目によって接合され,その端は,縁に沿って前記側壁を接合する溶着部に存在する。このような袋は(中略)直立して置くことができる利点を有する。」(同1頁2〜11行。容器の素材・形状に関する記載) (ウ) 「本発明は,この容器を満たす,一般には液体である内容物の取り出しを容易にするため,容器の上部の角付近に想定された構造を対象としている。
問題の構造は,主に2つの側壁1および2に形成される合わせ押し型11,12と,補足溶着部13および14とを含み,補足溶着部の間でこれら2つの側壁1および2は接合される。合わせ押し型11,12は,角10の2等分線にほぼ沿って伸びる斜めの軸15に沿って,側壁1および2のそれぞれの外側に,この角10の頂点まで達しない,ある長さで形成される。2つの側壁1および2と同様にして,取り出し管路16が形成され,その最初の直径はたとえば1ないし5mmの範囲にある。」(訳文4 頁9〜17行。合わせ型押し部の構造等に関する記載。判決注:特許請求の範囲以外では,「合わせ型押し部」を「合わせ押し型」と記載している箇所が存在する。) (エ) 「図5は垂直方向の溶着部4にくびれが設けられた容器への本発明の 応用を図示しており,その切れ込み19によって容器の使い勝手(中味の他の容器への移し替え)が向上する。切れ込み19は内側に湾曲した溶着部分20によって境界が定められ,上部溶着部6は,三角形の拡大部21を含んでいる。それゆえ,一種の注ぎ口が溶着部20と21の間の22に形成される。合わせ押し型11,12は,図5に見ることができる壁2のような2つの壁の中,注ぎ口22の周辺に形成され,既に述べたように,合わせ押し型によって形成される取り出し管路16を切る線17に沿って角10を切り落とせば使用可能になる。」(同5頁11〜18行。注ぎ口の形状等に関する記載) (オ) 「最後に,図8は,容器を製造する過程で冷時に合わせ押し型を形成させることができる方法を端的に表している。こうした方法は断面が円形の金属製の棒28を含み,2つの受け型29および30と棒28とで1組を構成する。この棒28は,屈曲した形をしており,斜めに上を向いたその末端部分は合わせ押し型の形成に使用される。図示されていないが,いくつかの手段は製造過程において,棒28の安定を確保し2つの側壁1および2の間に挿入することを可能にする。耐久性のあるゴムで被覆された作られた受け型29および30は,棒28の末端に対して壁1および2の外側に当てられるように,製造過程で容器の両側を横方向にかつ対称的に移動することができる。各受け型は,棒28の前記末端部を受ける溝31を有している。」(同5頁28行〜6頁8行。「合わせ型押し部」の形成方法に関する記載) イ 上記認定の刊行物1の記載によれば,刊行物1において,「2つの側壁の間に断面が円形の金属製の棒(28)を挿入し,前記2つの側壁の外側に受け型(29,30)を当てることによって冷時に形成された合わせ型押し部」は,2つの側壁の間に外向きに隆起する断面略円形の管状変形ということができ,この「合わせ型押し部」は,「取り出し管路(16)」を形成するものであるから,刊行物1には,本件決定が認定したとおり,「軟らかい溶着可能な合成材料のシートの辺縁部を溶着して接合し(4,5,6),1つの底部(3)と2つの側壁(1,2)を形成させることにより作られた袋であって,袋の上部の角付近に,注ぎ口(22)が,切れ込み(19)を有する内側に湾曲した溶着部分(20)と三角形の拡大溶着部分(21)とによって突起部として形成され,前記注ぎ口(22)に,取り出し管路(16)を形成する合わせ型押し部(11,12)が備えられ,前記合わせ型押し部は,前記2つの側壁の間に断面が円形の金属製の棒(28)を挿入し,前記2つの側壁の外側に受け型(29,30)を当てることによって冷時に形成された,前記2つの側壁の外向きに隆起する断面略円形の管状変形からなっている袋。」の発明が記載されているものと認められる。
そして,刊行物1(甲3)には,@「直立して置くことができる軟らかい袋,そしてより一般的には,縁で接合された面を持つ軟らかい袋を使用する時,・・・液体を注ぎ出す前に容器の角を切り落として取り出し口を作る・・・。
しかし,この取り出し口は縁が互いにくっつきやすいために開いた状態を維持することは難しく,液の円滑な取り出しは妨げられる。」(訳文1頁12〜18行),A「取り出し管路が形成されるように,容器の辺縁部,特に容器の1つの角の近くの2つの側壁の外側に,合わせ型押し部を形成させる。」(同1頁29行〜2頁2行),B「この合わせ型押し部は管路の境界を画し,切り落とされた時には外側先端近くに,・・・取り出し口を形成し,この管路からそれぞれ想定された2つの溶着部によって取り出し口の境界が画される限り,外側の先端付近で取り出し口の口径が完全に決められる。溶着部が管路にきわめて近い場合は,取り出し口の断面は最小となり,「1滴1滴取り出す」使い方が考えられる。これとは反対に,溶着部を管路から遠く離すと,容器の2つの側壁は,最初に形成される合わせ型押し部のおかげで,互いに大きく離れることが可能となる。その結果,取り出し口の周辺が互いにくっつくことはなくなり,液を円滑に取り出すことが可能となる。」(同2頁9〜17行)と記載されており,これらの記載からすると,「合わせ型押し部」を備える引用発明の技術的課題は,袋の取り出し口の周辺が互いにくっついてしまい液を取り出せなくなることを防ぐために,取り出し口を形成する袋の2つの側壁部分を互いに離しておくことにあると認められる。
原告は,「合わせ型押し部」は,「取り出し口」そのものであると主張するが,上記Bの記載からすると,2つの溶着部は取り出し口の境界を,また,「合わせ型押し部」は管路を画すものであり,溶着部が管路にきわめて近い場合は,取り出し口の開口断面は,管路の断面とほぼ同じ程度の最小のものとなり,溶着部を管路から遠く離すと,容器の2つの側壁は,「合わせ型押し部」が形成されているため,互いに大きく離れ,管路断面よりも大きな開口断面を形成すると認められるところ,前者の場合には,「合わせ型押し部」により形成される管路は,実質的な取り出し口として機能するが,後者の場合には,「合わせ型押し部」により形成される管路は,2つの溶着部により画成される取り出し口の一部を形成するにすぎないと認められるから,「合わせ型押し部」は,「取り出し口」そのものであるとの原告の主張は採用できない。
しかしながら,引用発明は,上記技術的課題を解決するため,容器の辺縁部近く,特に角の1つの近くの2つの側壁(1,2)の外側に,「取り出し管路」が形成されるように,袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形を2つ合わせた,「合わせ型押し部(11,12)」を形成したものである。すなわち,引用発明においては,「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形2つ」が取り出し口において「取り出し管路」とすべく「合わせ型押し部」として形成されたものであり,このこと及び刊行物1の図1ないし7に示された「取り出し管路」の形状に照らしてみれば,取り出し口の境界を画する溶着部が管路にきわめて近い場合は,取り出し口の開口断面は,管路の断面とほぼ同じ程度の最小のものとなり,上記のとおり,実質的に「取り出し口」そのものとして機能するものである。また,刊行物1に,「溶着部を管路から遠く離すと,容器の2つの側壁は,最初に形成される合わせ型押し部のおかげで,互いに大きく離れることが可能となる。」(前記(2)イB)と記載されているように,「合わせ型押し部」が溶着部から遠く離れている場合であっても,それは,まず管路として機能して,袋の2つの側壁を互いに大きく離すようにするのであって,袋の2つの側壁とともに,大きな取り出し口を形成するのであるから,「合わせ型押し部」は,実質的には「取り出し口」の主要部分を形成することになると認めるのが相当である。
ウ 他方,別の観点からすれば,「合わせ型押し部」は,「取り出し口」そのものとして機能する場合であれ,そうでない場合であれ,袋の内容である流体物を取り出し口から取り出し易くするため,取り出し口を補強し,流体物の流路を確保する機能を果たす構成部分とみることができ,その意味において取り出し口に設けられた補助機構といえるものである。そして,「合わせ型押し部」は,2つの側壁の間で外向きに隆起する断面略円形の管状変形であり,かかる変形が,取り出し口を形成する2つの側壁の折れ曲がりを防止し得ることは,一般常識に照らせば明らかであるから,それは,袋側壁の折れ曲がりを防止する補強機能を有するものである。
(3) 本件発明2と引用発明との一致点及び相違点について ア 原告は,本件決定は,「注出口が袋の外郭に沿って斜め上方に先細になるように突出して設けられ,前記注出口に補助機構が2個備えられ,前記補助機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形からなっている点」を本件発明2と引用発明の一致点として認定した上,引用発明の「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形(「合わせ型押し部」の一方)」と本件発明2の「袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形」が,いずれも注出口の「補助機構」であることを前提に相違点を認定しているが,いずれも誤りであると主張する。
しかし,本件発明2における「フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている補強機構」は,注出口に設けられる補助機構であるといえるし,「注出口に少なくとも1個」(2個の場合であって,1個を一方のフィルム面に,1個を他方のフィルム面に形成する場合を含むことは明らかである。)備えられるものであるから,「注出口に補助機構が2個備えられ,前記補助機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形からなっている」ものといえる。
他方,引用発明における「合わせ型押し部」は,注出口を構成する2つの側壁に設けられ,2つの側壁の間で外向きに隆起する断面略円形の管状変形からなっており,注出口に設けられる補助機構といえることは,前記(2)ウに説示したとおりであるから,それは,「注出口に補助機構が2個備えられ,前記補助機構は,フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する変形からなっている」ものといえる。
したがって,本件決定の一致点の認定に誤りはなく,この一致点を前提にした相違点(1),(2)の認定に誤りはない。
イ しかしながら,本件発明2における「フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている補強機構」は,本件発明2における管路のような注出口の主要部分というべき部分を構成せず,注出口の一部において補強を中心とする機能を果たすにすぎない構成部分とみるべきこと,これに対し,引用発明における「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形を2つ合わせた,合わせ型押し部(11,12)」は,「取り出し管路」とすべく形成されたものであり,実質的には,「取り出し口」の主要部分を形成するものというべきことは,前記(1)イ及び(2)イに認定したとおりであり,本件発明2と引用発明とは,この点において相違するものというべきである。
ウ 以上のとおり,本件決定の本件発明2と引用発明との一致点の認定及び相違点(1),(2)の認定は相当といえるが,上記イに認定の本件発明2と引用発明との相違点を看過したものというべきである (4) そこで,進んで,刊行物1及び3記載の発明から前記(3)に認定の相違点に係る構成を容易に想到することができるか否かについて検討する。
刊行物1には,「本発明は,単に上に述べてきた軟らかい材料で作られる容器の実施態様に限定されるものではなく,同じ原理に基づくすべての実施および応用の変形モデルを包含する。特に,本発明の範囲から逸脱することなく,形状,長さ,傾き角または合わせ押し型によって形成される取り出し管路断面を変更すること,または形態またはその他の細部が,本発明の詳細な説明および図による説明で与えられた実施例と異なる容器に,本発明の原理を適用すること,または上で述べてきた方法とは別の方法で合わせ押し型を得ることができる。」(甲3の訳文6頁23〜末行)との記載があり,この記載によれば,引用発明においては,「取り出し管路」の断面形状を決定する「合わせ型押し部(11,12)」の断面形状,したがって,一方のフィルム面に形成される「断面略半円形の溝状変形」の形状を種々変更させ得ることが示唆されているといえるが,引用発明における「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形2つ」は,実質的に「取り出し口」の主要部分として機能するものであり,本件発明2における「フィルムの変形加工により形成された,一方のフィルム面において袋の外向きに隆起する少なくとも2本の線状変形からなっている」補強機構とその技術的意義を異にしていることを考えれば,引用発明に刊行物3記載の発明を適用し,引用発明における「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形2つ」の断面形状を変更して,本件発明2における上記のような補強機構を想到することの動機付けはないと言わざるを得ない。
(5) したがって,取消事由2には理由がある。
3 取消事由3(本件発明2の進歩性判断の誤り-相違点(1),相違点(2)に関する判断等の誤り)について 前記2に説示したとおり,取消事由2は理由があるから,本件決定はそれだけで取消しを免れないが,念のため,取消事由3のうち相違点(1)に関する本件決定の判断に誤りがあるか否かについても検討を加えるに,以下に説示するとおり,原告が主張するとおり,引用発明に刊行物3記載の技術的事項を適用することには阻害要因があるというべきである。
(1) 引用発明における溝状変形について 引用発明において,「袋の外向きに隆起する断面略半円形の溝状変形」を設ける技術的意義及びその形状,構造については,前記2(2)でみたとおりである。
また,刊行物1に,「本発明は,単に上に述べてきた軟らかい材料で作られる容器の実施態様に限定されるものではなく,同じ原理に基づくすべての実施および応用の変形モデルを包含する。特に,本発明の範囲から逸脱することなく,形状,長さ,傾き角または合わせ押し型によって形成される取り出し管路断面を変更すること,または形態またはその他の細部が,本発明の詳細な説明および図による説明で与えられた実施例と異なる容器に,本発明の原理を適用すること,または上で述べてきた方法とは別の方法で合わせ押し型を得ることができる。」(甲3の訳文6頁23〜末行)との記載があることは,前記2(4)に認定したとおりである。
(2) 刊行物3の技術的事項Cにおける溝状変形と技術的事項Cを引用発明に適用することの容易想到性について ア 刊行物3(甲5)には,次のとおり記載されている。
(ア) 「本発明者らは,上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,自 立性袋を構成している胴構成部と底構成部を多層プラスチックフイルムにし,該多層プラスチックフイルムを内層に熱接着性プラスチック層を有するものにし,胴構成部の多層プラスチックフイルムの内層又は外層に,断面形状が凹部と凸部が隣接した形状であって,かつ平面形状が縦条,斜め条,横条,曲線条又はこれらを組み合わせた形状の線状リブを設けることにより,剛性に優れ,自立安定性,保形性に優れた自立性袋を得ることができることを見い出した。」(2頁7〜13行) (イ) 「本発明者らは,上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,先端に線状の突起を有する押し型を多層プラスチックフイルムに押し当て,その押し当てた多層プラスチックフイルム部の厚みを薄くし線状の溝を形成させると,その溝の上端部にプラスチックの盛り上がり部を形成することができ,そしてその盛り上がり部を固定することにより線状リブを設けることができることを見い出し,さらにその線状リブ付き多層プラスチックフイルムから自立性袋を効率的に製造することを見い出した。」(2頁19〜25行) (ウ) 「本発明の自立性袋の胴構成部に施された線状リブは,線状溝に沿って線状突部を有する構造であるので,線状溝に沿って折れ曲がり易く,線状突部により優れた剛性を有する。このため,この線状リブは,剛性と保形性を同時に満たす優れた効果を発揮する。」(4頁3〜6行) (エ) 「本発明によれば,自立性袋の胴部フイルムに剛性を付与するための 線状リブを有するので,内容物の取り出し時又はその取り扱い時において,従来の自立性袋に見られるような腰折れ現象は全く見られず,非常に優れた自立性,保形性を有する自立性袋を得ることができ,」(4頁7〜10行) (オ) 「本発明の線状リブは,先端に線状の突起を有する押し型をプラスチックフイルムに押し当てることにより,該線状の突起を押し当てたプラスチックフイルム部の厚みを薄くし線状の溝を形成させると共にその溝の上端部に盛り上がり部を形成させ,その盛り上がり部を固定させることにより線状リブを設けたものが好ましい。線状溝によって折り曲げ易くなり,線状突部によって袋の強度が増し,自立安定性が極めて優れた自立性袋を得ることができる。」(12頁26行〜13頁4行) (カ) 「本発明の自立性袋は,内容物の排出口の内面に線状リブを設けたものが好ましい。この線状リブは,前記線状リブの構造と同様な構造を有するものである。この線状リブを設けることにより,排出口に誘導通路が確保されるため,内容物の排出口に内容物を誘導することが極めて容易に行うことができる。」(14頁4〜7行) (キ) 「線状の突起の高さは,少なくとも線状の溝を形成することができ,かつ溝の上端部の盛り上がり部の形成を妨害しないことが必要であり,通常0.3mm以上,好ましくは0.5〜3mmである。線状の突起の幅は,線状の溝を形状することができる程度(の)ものであり,通常0.5〜5mmであり,好ましくは0.5〜3mmであり,特に好ましくは1〜2mmである。 線状の突起の幅方向の断面形状は,形成した線状の溝から容易に線状の突起を引き抜くことができるように,通常突起の先端部から突起の基部に向けて幅が同じになっているか,又は基部に向けて幅が広くなっている。 線状の突起の先端の幅方向の断面形状は,円形,円弧などの曲線形状,直線形状,これらの組合せ形状など種々の形状にすることができる。」(15頁18行〜16頁2行) (ク) 「工程(1)において,平面状の型に多層プラスチックフイルムを置き,その多層プラスチックフイルムの上から線状の突起を押し当てると,線状リブを有しないフイルム面は平らにしたままその他の面に線状リブを付けることができるので好ましい。」(17頁16〜19行)と記載されている。
イ 上記認定の刊行物3の記載によれば,刊行物3には,本件決定が認定したように,「フィルムの周辺をシールすることによって形成した袋の内面に溝状変形を付与するための押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が,円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを使用し得ること。」(技術的事項C)が記載されていると認められるが,技術的事項Cでいう,袋の内面に付与される溝状変形とは,上記ア(オ)の記載からすると,袋の内面にのみ形成されるプラスチックフィルム部の厚みを薄くした線状の溝を意味していると解すべきであり,袋の外向きに隆起するような溝状変形を意味していないことは明らかである。
ウ そうすると,引用発明における「合わせ型押し部」と刊行物3における「線状の溝」とは,ともに「溝状変形」と表現され得るとしても,これを設ける技術的意義が異なるばかりでなく,形成手法の相違に基づく形状,構造上の相違があり,両者は,いずれを用いてもその目的,効果に変わりはないという択一的関係にないことは明らかであり,刊行物3における,袋の内面にのみ形成されるプラスチックフィルム部の厚みを薄くした「線状の溝」を,袋の取り出し口の両側壁に適用したのでは,取り出し口に「線状の溝」(及びその周囲のリブ)による流出路が形成されるとしても,引用発明における「合わせ型押し部」のように,大きな断面の流出路を形成できず,取り出し口の周辺が互いにくっつかないようにすることが困難であることは,技術常識に照らして明らかである。
したがって,前記(1)に認定した刊行物1の記載(甲3の訳文6頁23〜末行)に基づき,引用発明において,「取り出し管路」の断面形状を決定する「合わせ型押し部(11,12)」の断面形状,したがって,一方のフィルム面に形成される「断面略半円形の溝状変形」の形状を種々変更させ得ることが理解されるとしても,断面略半円形(つまり円弧状)の溝状変形に代えて,技術的事項Cにより形成される溝状変形を採用することはできないというべきである。
被告は,刊行物3記載の技術的事項Cから,一般に,フィルム製の袋の内面に溝状変形を付与する場合において,押し型として,その先端の線状突起の幅方向の断面形状が円弧状,方形状,型突起基部に向けて幅が広くなっている台形状又はこれらの組み合わせ形状のものを任意に使用し得ること,したがって,付与される溝状変形も,これに対応した任意の断面形状のものとなし得ることが理解され,刊行物3記載の線状リブ等の具体的な構造(袋の内面側に溝状変形が付与されること等)や形成方法自体は,本件決定における容易想到性の判断に無関係である旨主張する。しかし,溝状変形の具体的形状や溝状変形の及ぶ範囲が異なっても,溝状変形のもたらす作用効果は常に同じであるとは限らないから,刊行物3から,一般論として,フィルム製の袋の内面に溝状変形を付与するいかなる場合においても,刊行物3の技術的事項Cで挙げる押し型を用い得ることが理解されるとはいえず,刊行物3の技術的事項Cにいう「溝状変形」とは,袋の内面のみに変形が及ぶものとして把握されるべきである。つまり,上記技術的事項Cが教えるのは,内面に溝状変形を付与する場合といっても,内面にのみ溝状変形を付与する場合における押し型の利用技術であるから,外面も変形している,引用発明の断面略半円形の溝状変形(隆起部)に代えて,技術的事項Cを採用することが当業者に容易に想到できるということはできない。被告の主張は,溝状変形を設ける技術的意義,溝状変形が現れる袋部分の構造を無視し,溝状を呈するという変形形状の部分的共通性のみをとらえて,引用発明と刊行物3の技術的事項Cとの組み合わせの容易想到性をいうものであり,失当というほかない。
(3) 以上検討したとおり,引用発明及び刊行物3記載の技術的事項Cから相違点(1)に係る構成を想到することは容易であるとは言い難く,本件発明2は引用発明及び刊行物3記載の発明から容易に想到することができるとした本件決定の判断は誤りであり,取消事由3は,その余の点について判断するまでもなく理由がある。
4 取消事由4(本件発明3ないし5,7ないし9の進歩性判断の誤り)について 本件発明2の進歩性に関する判断が誤りであることは前記3で説示したとおりであるから,本件発明2を引用しその構成をさらに限定する本件発明3ないし5,7,9,本件発明2を引用する本件発明7を引用しその構成をさらに限定する本件発明8の進歩性に関する判断が誤りであることは明らかである。
したがって,取消事由4は,その余の点について判断するまでもなく,理由がある。
5 以上の次第で,取消事由2ないし取消事由4は理由があるから,本件決定は取消しを免れない。
よって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人