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事件 平成 13年 (行ケ) 561号 審決取消請求事件
原告 株式会社ダイフク
訴訟代理人弁理士 森本義弘、板垣孝夫、笹原敏司
被告 中西金属工業株式会社
訴訟代理人弁理士 岸本瑛之助、日比紀彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2001-35119号事件について平成13年11月2日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 (1)原告は、名称を「移動体使用の搬送設備」とする特許第2856033号の発明(平成5年7月16日出願(特願平5-176322号)、平成10年11月27日設定登録(請求項の数4)。以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。なお、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許については、平成12年6月9日に「特許第2856033号の請求項1、3、4に係る特許を取り消す。同請求項2に係る特許を維持する。」との異議の決定(平成11年異議第73018号)があり、確定している。
(2)被告は、平成13年3月26日、原告を被請求人として、本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)について無効審判を請求した。特許庁は、これを無効2001-35119号事件として審理し、平成13年11月2日、「特許第2856033号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした(平成13年11月14日原告に審決謄本送達)。
2 本件発明(請求項2に係る発明)の要旨 レールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を、連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した複数のフレーム体により形成するとともに、これらフレーム体の側面を受動面に形成し、各フレーム体のうち少なくとも一つのフレーム体は、被搬送物支持部と、前記レールに支持案内される一対の被案内装置とを有するとともに、残りのフレーム体は、前記レールに支持案内される被案内装置を有し、前記被搬送支持部に受動部を設け、前記一定経路中に、前記受動面に当接自在な送りローラを有する第1送り装置と、この第1送り装置が非作用の経路部において前記受動部に作用自在な伝動部を有する第2送り装置とを設けたことを特徴とする移動体使用の搬送設備において、本体の前後端を当接部に形成して、先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成したことを特徴とする移動体使用の搬送設備。
(上記の要旨は、請求項1、2の記載を合わせたものである。この要旨認定は、当事者間に争いがない。) 3 審決の理由の要点 審決は、本件発明は、特開平3-216465号公報(本訴甲5、審判甲4。以下「甲4発明」という。)、実願平2-47971号(実開平4-7275号)のマイクロフィルム(本訴甲6、審判甲5)及び米国特許第2488907号明細書(本訴甲7、審判甲8)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当する、と認定判断した。その要点は、
以下のとおりである。
なお、以下、書証の呼称は、「本訴」との表示を特に付加したものを除き、審判時のそれによることとする。
T 対比 (@) 本件発明と甲4発明との対比(相当する部位) (本件発明) (甲4発明)・移動体の本体 ・トレイン(4)・連結装置 ・連結要素(9・4)両端の段付き部及び補 足的段付き部・フレーム体 ・移送装置(9)・被搬送物支持部 ・パッケージSと係合するホルダー(9・3)・一対の被案内装置 ・運搬ロール(9・21)及びガイドロール (9・22)・送りローラを有する第1送り ・摩擦輪装置(5・1,5・2、15・1- 装置 15・4)・第1送り装置が非作用の経路部 ・第2軌道システム(2)の経路・伝動部を有する第2送り装置 ・移送装置(9)を移動自在にする上側把持 アーム(8・4)を有する自動処理装置(8)・フレーム体の側面を第1送り ・連結要素(9・4)の側面を摩擦輪装置(5 装置の送りローラと当接自在 ・1、5・2、15・1-15・4)と係 受動面に形成すること 合自在なガイド面に形成すること (A)一致点と相違点【一致点】(本訴において原告が争う部分に便宜下線を付加した。)「レールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を、連結装置を介して左右方向で相対回動自在に連結した複数のフレーム体により形成するとともに、これらフレーム体の側面を受動面に形成し、各フレーム 体のうち 少なくとも 一つの フレーム 体は、被搬送物支持部 と、前記 レール に支持案内 される 一対 の被案内装置 とを 有するとともに 、受動部を有し、前記一定経路中に、前記受動面に当接自在な送りローラを有する第1送り装置と、この第1送り装置が非作用の経路部において前記受動部に作用自在な伝動部を有する第2送り装置とを設けた、移動体使用の搬送設備」【相違点】 (前者:本件発明、後者:甲4発明)相違点(1):複数のフレーム体の連結に関して、前者では、上下方向でも相対回動自在に設けられているのに対して、後者では、上下方向では相対回動自在に設けられていない点。
相違点(2):被搬送物支持部及び受動部の設置に関して、前者では、被搬送物支持部及び受動部を有しないフレーム体が少なくとも一つ存在しているのに対して、後者では、被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設けている点。
相違点(3):受動部の設置位置に関して、前者では、被搬送物支持部に設けているのに対して、後者では、運搬アームに設けている点。
相違点(4):複数のフレーム体により形成される移動体の本体の前後端に関して、前者では、該前後端を当接部に形成して、先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成しているのに対して、後者では、該前後端を当接部に形成しているか否かが明らかでない点。
なお、被請求人(原告)は、甲4発明において、「運搬アーム9・1」が主体であって、それに「連結要素9・4」が配置されている構造であるから、「運搬アーム9・1」は本件発明の「フレーム体」に相当すると解すべきであると主張するが、甲4の8頁左下欄17行〜同頁右下欄17行の記載及び第7図の記載を併せみれば、(i)「移送装置」に符号「9」が付与され、「運搬アーム」、「運搬ロール9・21と、・・・ガイドロール9・22のための支持体」、「パッケージSと係合するホルダー」、「連結要素」に符号「9・1」、「9・2」、「9・3」、
「9・4」がそれぞれ順次付与されているとの符号付与体系になっていること、(ii)連結要素9・4は単にいくつもの移送装置9を相互連結するだけのものではなく、上位移送システム(5,15)の摩擦輪装置(5・1,5・2,15・1-15・4)のガイド面としての機能をも発揮するものであること、(iii)該連結要素9・4、パッケージSと係合するホルダー(9・3)、運搬ロール9・21及びガイドロール9・22、並びに運搬アーム9・1とが全体として、パッケージSを支持し、移動可能な移送装置9を構成しているものであること、がそれぞれ認められ、これら(i)〜(iii)の事項を勘案すれば、「運搬アーム9・1」ではなく、
「移送装置9」が、本件発明の「フレーム体」に相当するというべきである。
U 相違点についての判断 (@)相違点(1)について 甲5には、左右方向のカーブ状態のコーナー部を有する搬送ラインに対応するために、キャリッジ2が複数の部分に分割形成され、それら分割部分を左右方向で相対回動自在に連結し、コーナー部で左右方向のカーブ状態に対応してキャリッジ2を屈曲させて移動可能に設けること、及び、さらに昇り勾配及び下り勾配をも存在する搬送ラインに対応するために、キャリッジが複数の部分に分割形成され、それら分割部分を左右方向のみならず上下方向でも回動自在に連結し、コーナー部で左右及び上下のカーブ状態に対応してキャリッジ2を屈曲させて移動可能に設けることが記載されている。そして、上記「キャリッジ2」及び「キャリッジ2の分割形成された複数の部分」は、それらの構造、機能からみてそれぞれ、「移動体の本体」及び「複数のフレーム体」というべきものである。
また、甲5記載の事項(発明)と甲4発明とは、「移動体使用の搬送設備」という同一の技術分野に属するものであるから、甲4発明において、甲5記載の事項(発明)を組み合わせて、左右方向のカーブ状態のコーナー部を既に有する一定経路を、さらに昇り勾配及び下り勾配も存在する経路とし、その対応として、複数のフレーム体の連結を、左右方向に加えて上下方向でも相対回動自在に設けることは、当業者が容易になし得るものと認められる。
相違点(1)に係る事項による本件発明の作用効果は、当業者が甲4、5記載の発明から予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。
(A)相違点(2)について 被搬送物の長さが短いないしは量が少ない場合に、被搬送物支持部を少なくし得ることは、当業者にとって自明の事項であり、さらに、フレーム体単独で搬送することがない場合には、一部のフレーム体については第2送り装置と作用自在な受動部は存在しなくても支障がなく、また、被搬送物支持部の数が少ない場合に、そもそも被搬送物支持部のないフレーム体には受動部を設けることができないから、甲4発明において、少なくとも一つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないように変更することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項であるものと認められる。
(B)相違点(3)について 第1送り装置の送りローラと当接する受動面とは別に、第2送り装置と作用自在な受動部をフレーム体に設けるに際して、その設置位置をフレーム体のどの部位とするかは、当業者が必要に応じて適宜決めうる事項であるから、受動部の設置位置を運搬アームから被搬送物支持部に変更した点に格別の困難性を認めることはできない。
(C)相違点(4)について 甲6には、プレートないしはボード(27)の前後端にゴム製当接部材(107)を設けて、先行プレートないしはボード(27)の後端のゴム製当接部材(107)に対して後続プレートないしはボード(27)の前端のゴム製当接部材(107)を当接自在とし、先行プレートないしはボード(27)が後続プレートないしはボード(27)によって前進せられるようにすることが記載されている。
甲6記載の事項(発明)の、「プレートないしはボード(27)」及び「その前後端に設けたゴム製当接部材(107)」は、それらの機能からみてそれぞれ、
「移動体」及び「移動体の前後端の当接部」というべきものであり、また、甲6記載の事項(発明)と甲4発明とは、「移動体使用の搬送設備」という同一の技術分野に属するものであるから、甲4発明において、甲6記載の事項(発明)を組み合わせて、移動体の前後端を当接部に形成し、先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成することは、当業者が容易になし得るものと認められる。
相違点(4)に係る事項による本件発明の作用効果は、甲4ないし6記載の発明から当業者(に)は予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。
V むすび 以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲4ないし6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
原告の主張の要点
1 認否 審決の理由中、「1.手続の経緯」ないし「5.甲第4〜6号証」(審決書2頁8行から9頁5行)は認める。
「6.対比」のうち、「後者の「運搬ロール(9・21)及びガイドロール(9・22)」は前者の「一対の被案内装置」に、(・・・相当する。)」との認定(9頁12、13行)、一致点の認定における「各フレーム体のうち少なくとも一つのフレーム体は、被搬送物支持部と、前記レールに支持案内される一対の被案内装置を有する」(9頁26、27行)点で一致する旨の認定、及び、「(iii)該連結要素9・4、パッケージSと係合するホルダー9・3、運搬ロール9・21及びガイドロール9・22、並びに運搬アーム9・1とが全体として、パッケージSを支持し、移動可能な移送装置9を構成しているものであること」(10頁25行から28行)との認定を争い、その余は認める。
「7.相違点についての当審の判断」のうち、相違点(1)、(3)及び(4)についての判断は認め、相違点(2)についての判断は争う。「8.むすび」は争う。
2 「被案内装置」に関する相違点の看過(取消事由1) 審決は、甲4発明の「運搬ロール9・21及びガイドロール9・22」が本件発明の「一対の被案内装置」に相当すると認定し、「一対の被案内装置」を本件発明との一致点と認定したが、誤りである。
甲4発明において、運搬ロール9・21とガイドロール9・22とは、単一の「被案内装置」を構成する部材にすぎず、それぞれが独立した「被案内装置」を構成するものではない。すなわち、甲4発明では、被案内装置が唯一つのみ設けられているだけである。したがって、この点は、両者の相違点である。
ちなみに、本件発明における一対の被案内装置は、被搬送物支持部25を備えるフレーム体15の前後にそれぞれ設けられているものである。
上記のとおり、審決は「一対の被案内装置」に関して相違点を看過した結果、この相違点について何ら判断を示すことなく、本件発明の進歩性を否定しているから、違法であって、取り消されるべきである。 3 相違点(2)についての判断の誤り(取消事由2) (1) 甲4発明において、パッケージSを支持している移送装置9は、一本の運搬アーム9・1を中心部材として、これに運搬ロール9・21とガイドロール9・2のための支持体9・2、パッケージSと係合するホルダー9・3及び連結要素9・4が付設された構成であり、運搬アーム9・1は、移送装置9を構成する上で取り外すことのできない必須の部材である。
連結要素9・4は、パッケージSの支持には直接寄与しておらず、運搬アーム9・1により支持されているものであって、摩擦輪装置と係合自在なガイド面としての機能と、隣り合うパッケージS間の間隔を保持する機能を果たすためのものである。
(2) 審決は、相違点(2)に関して、甲4発明において、少なくとも1つのフレーム体(移送装置9)に対して被搬送物支持部(ホルダー9・3)及び受動部(運搬アーム9・1)を設けないように変更することは、適宜設計事項である旨、判断した。
しかし、甲4発明の移送装置9において、その中心部材である運搬アーム9・1を設けないように変更すること、すなわち運搬アーム9・1を取り除くことは、結果的には、連続バンドから1つの移送装置9を“丸ごと”取り外すことになる。そして、取り除いた後には、「被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設けた」構造の移送装置9が残存するのみであり、「被搬送物支持部及び受動部を有しないフレーム対が少なくとも一つ存在している」構造の移送装置9は存在しない。
つまり、甲4発明の移送装置の構造は、「少なくとも1つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないように変更すること」を阻害する構造である。したがって、この点の変更を適宜なし得る設計事項であるとした審決の判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1に対して レールに支持案内されるという点において、甲4発明における運搬ロールとガイドロールの組合せは、本件発明の「一対の被案内装置」に相当するから、原告の主張は、失当であるうえ、審決の結論に影響を与える主張でもない。
2 取消事由2に対して (1) そもそも、相違点(2)は存在しない。
特許請求の範囲の「各フレーム体のうち少なくとも 一つの フレーム 体は、被搬送物支持部と、・・一対の被案内装置を有する」との記載は、その「少なくとも一つ」との文言からして、一つ一つのフレーム体のすべてに、被搬送物支持部と一対の被案内装置を設けることを否定するものではない。
(2) また、審決が相違点(2)の判断において、「甲4記載の発明において」というのは、「相違点(2)」で指摘する「被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設けている点」を意味するのであり、甲4の第7図に示されている移送装置9の具体的構造を意味するものでない。
「被搬送物支持部(ホルダー9・3)及び受動部(運搬アーム9・1)をすべてのフレーム体(移送装置9)に設けているもの」(甲4発明)を、「少なくとも一つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けない」ように変更することは、適宜設計事項である。
審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1)本件明細書(本訴甲2の特許公報)によれば、本件発明は、決定の認定したとおり(前記第2の2参照)の要旨のものであり、その構成を次のとおり分説することができる。
@レールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を、連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した複数のフレーム体により形成するとともに、
Aこれらフレーム体の側面を受動面に形成し、
B各フレーム体のうち少なくとも一つのフレーム体は、被搬送物支持部と、前記レールに支持案内される一対の被案内装置とを有するとともに、
C残りのフレーム体は、前記レールに支持案内される被案内装置を有し、
D前記被搬送支持部に受動部を設け、
E前記一定経路中に、前記受動面に当接自在な送りローラを有する第1送り装置と、
Fこの第1送り装置が非作用の経路部において前記受動部に作用自在な伝動部を有する第2送り装置とを設けたことを特徴とする移動体使用の搬送設備において、
G本体の前後端を当接部に形成して、先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成したことを特徴とする移動体使用の搬送設備。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明欄には、従来技術並びに本件発明の課題、
目的、作用及び効果について、次の記載がある。
ア 従来技術につき、「非駆動式の移動体を一定経路上で移動させるものとして、たとえば特開平2-209309号公報に見られる構成が提供されている。
この従来構成は、可動体が走行自在な一定経路の上手に可動体搬送装置を設けるとともに、下手にブレーキ装置を設けている。そして可動体搬送装置を、可動体の側面に当接自在な左右一対の送りローラと、これら送りローラに連動する回転駆動装置とから構成している。」、「このような従来の構成によると、可動体の両側面に当接している両送りローラを回転駆動装置により強制回転させることで、可動体に大きな推進力を与えることになり、以て可動体を一定経路上で移動し得る。その際に可動体は、先行し停止している可動体群を後押しして移動させることになる。」、「一定経路の下手においては、逆送り回転されているブレーキローラが可動体の両側面に当接している・・・下手の可動体は、ブレーキ作用を受けた状態で移動されることになり、したがって、可動体群は前後端間に隙間を生ぜしめることなく密な後押し状態で移動される。」(【0002】〜【0004】)との記載。
イ 発明の課題として、「上記した従来の構成によると、非駆動式の可動体は、一定経路の始端部に手押しにより投入されるものであり、その投入作業は容易に行えない。また剛体化(一体化)した台車形式の可動体であることから、例えば長尺の被搬送物を扱う可動体の場合、全体が大型化、重量化することになる。さらに可動体に送り装置を作用させるとき、一定経路が直線状であるときは支障なく行えるが、一定経路が平面視において湾曲しているカーブ経路部(ターン経路部)などや、側面視において水平経路部から上昇経路へ移るカーブ経路部や、水平経路部から下降経路へ移るカーブ経路部などにおいては、前後の可動体が成す相対角度が鋭角になって後押しが円滑に行えず、特に可動体が長尺であるほど相対角度が鋭角になる。したがって、このようなカーブ経路部を有する一定経路に採用できない。」(【0005】、【0006】)との記載。
ウ 本件発明の目的につき、「本発明の目的とするところは、移動体に別な送り装置をも作用させ得て一定経路に対する分岐や合流などを容易に行え、そして移動体の本体を細長くコンパクトに形成し得るとともに、カーブ経路部を有する一定経路でも、移動体群の密状(列車状)の移動を円滑に確実にかつ安定して行える移動体使用の搬送設備を提供する点にある。」(【0008】)との記載。
エ 本件発明の作用につき、「被搬送物に合わせた形状の被搬送物支持部に受動部を設けるだけでよく、本体は細長くコンパクトに形成し得る。そして移動体を第1送り装置に対向して位置させたのち、強制回転させている送りローラを受動面に当接させることで、第1送り装置により移動体に推進力を与えて一定経路上で移動し得る。また、第2送り装置の伝導部を移動体の受動部に作用させることで、
第2送り装置により移動体に推進力を与えて一定経路上で移動し得る。」(【0012】)、「このような移動体の移動において、一定経路の直線経路部では、各移動体の本体、すなわち各フレーム体を平面視ならびに側面視で直線状姿勢として移動し得、また左右や上下のカーブ経路部では、各フレーム体を連結装置の部分でカーブに沿って屈折した姿勢で移動し得る。」(【0013】)、「直線状経路部では、各フレーム体が平面視ならびに側面視で直線状姿勢になることから、先行移動体の幅方向中央部に位置した後端当接部に対し後続移動体の前端当接部が真後ろから当接する状態になり、その後押し移動は円滑に確実に行われる。また左右や上下のカーブ経路部では、各フレーム体がカーブに沿って屈折した姿勢で後押し移動されることから、先行移動体の後部フレーム体と後続移動体の前部フレーム体とが成す相対角度を鈍角とし得、先行移動体の幅方向中央部に位置した後端当接部に対して後続移動体の前端当接部が鈍角で当接する状態になって、その後押し移動は円滑に確実に行える。」(【0014】)との記載。
オ 本件発明の効果につき、「移動体は、被搬送物に合わせた形状の被搬送物支持部に受動部を設けるだけでよく、本体は細長くコンパクトに形成することができる。そして移動体は、送りローラを受動面に当接させることで、第1送り装置により一定経路上で移動でき、また、伝動部を受動部に作用させることで、第2送り装置により一定経路上で移動できる。」(【0055】)、「さらに移動体は、
直線状経路部では各フレーム体を平面視ならびに側面視で直線状姿勢として移動できるとともに、左右や上下のカーブ経路部では各フレーム体を連結装置の部分でカーブに沿って屈折した姿勢で移動でき、したがって移動体が長尺であったとしても移動は円滑かつ確実に行うことができる。」(【0056】)、「直線状経路部で各フレーム体が直線状姿勢になることから、先行移動体の幅方向中央部に位置した後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を真後ろから当接でき、その後押し移動を円滑に確実に行うことができる。またカーブ経路部では各フレーム体がカーブに沿って屈折した姿勢になることから、先行移動体の後部フレーム体と後続移動体の前部フレーム体とが成す相対角度を鈍角として、先行移動体の幅方向中央部に位置した後端当接部に対して後続移動体の後端(正しくは「前端」)当接部を鈍角で当接でき、その後押し移動は円滑に確実に行うことができる。」(【0057】)との記載。
(3)以上の(1)、(2)によれば、本件発明は、移動体がレールに支持案内されて移動し得るようになっている搬送装置において、(i)被搬送物を搬送する移動体本体を、複数のフレーム体を連結して形成した構造とし、これによって、移動体本体をコンパクト化し、搬送経路の始端への移動体の投入を容易にし、カーブ経路部でも移動体の密状(列車状)の移動を円滑、確実かつ安定的に行える(すなわち、後押しが容易にできる)ようにするとともに、(ii)送り装置として、「第1の送り装置」とこれとは別の「第2の送り装置」とを設け、「第2の送り装置」によって一定経路に対する分岐や合流などを容易に行えるようにしたものであると認められる。
そして、その具体的構成は、(i)「移動体」本体については、a.複数の「フレーム体」を連結装置を介して上下方向及び左右方向に相対移動可能に連結して移動体本体を形成する、b.移動体本体を形成するこれら複数のフレーム体のうち、少なくとも1つは、「被搬送物支持部」、第2送り装置の伝導部が作用する「受動部」及び「一対の案内装置」を有するフレーム体(A)とし、残りは、「案内装置」を有するフレーム体(B)とする(つまり、フレーム体には(A)(B)2種がある。)、c.移動体本体は前後端を当接部に形成してある、というものであり、また、(ii)「送り装置」による作動の機構に関しては、d.送り装置を2つ設け、e.「第1送り装置」を各フレーム体(フレーム体(A)及び(B))の側面に設けられた「受動面」に作用させ、f.「第2送り装置」をフレーム体(A)の被搬送物支持部に設けた「受動部」に作用させる、というものであると認められる。
2 甲4発明の本件発明との対比、相違点に対する判断 (1) 審決における一致点の認定について(取消事由1) ア 審決は、本件発明と甲4発明とを対比し、両発明は下記の【一致点】で一致すると認定した(ゴシック小文字で甲4発明における部材名称を付記した。)。
なお、原告は、甲4発明に「一対の案内装置」を有するフレーム体が存在することを争う(取消事由1。下記下線部参照)以外は、甲4発明が【一致点】として認定された下記の構成を有することを認めている。
【一致点】 「レールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体(トレイン4)を、連結装置(連結要素9・4両端の段付き部及び補足的段付き部)を介して左右方向で相対回動自在に連結した複数のフレーム体(移送装置9)により形成するとともに、これらフレーム体(移送装置9)の側面を受動面に形成し(連結要素9・4の側面を摩擦輪装置5・1,5・2,15・1-15・4と係合自在なガイド面に形成し)、各フレーム 体のうち 少なくとも 一つの フレーム 体(移送装置9)は、被搬送物支持部 (パッケージ Sと係合 する ホルダー 9・3)と、前記 レール に支持案内 される 一対 の被案内装置 (運搬 ロール 9・21 及びガイドロール9・22 )とを 有するとともに 、受動部を有し、前記一定経路中に、前記受動面に当接自在な送りローラを有する第1送り装置(摩擦輪装置5・1、5・2,15・1-15・4)と、この第1送り装置が非作用の経路部(第2軌道システム2の経路)において前記受動部に作用自在な伝動部を有する第2送り装置(移送装置9を移動自在にする上側把持アーム8・4を有する自動処理装置8)とを設けた、移動体使用の搬送設備」 イ 「一対の案内装置」について 原告は、甲4発明における運搬ロール9・21及びガイドロール9・22は、併せて1個の案内装置を構成する部材にすぎないから、「一対」(2個)の案内装置とはいえず、「一対の案内装置」を一致点とした審決の認定は誤りであると主張する。
「一対の案内装置」については、その意義が明瞭でないので、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参照すると、発明の詳細な説明欄には、発明が解決しようとする課題に関して、「たとえば長尺の被搬送物を取り扱う可動体の場合、全体が大型化、重量化することになる。」(【0005】)、「相対角度が鋭角になって後押しが円滑に行えず、特に可動体が長尺であるほど相対角度は鋭角になる。」(【0006】)との記載、発明の目的に関して、「移動体の本体を細長くコンパクトに形成し得る・・・移動体使用の搬送設備を提供する・・」(【0008】)との記載があり、これらを参酌するとき、本件発明は、被搬送物の中でも長尺のものを念頭において、その搬送に適した移動体を意図していることが明らかである。
そして、本件発明の実施例として、三本の棒状のフレーム体12,13,14を連結して形成する移動体が説明され、「前記フレーム体12,13,14のうち少なくとも一つのフレーム体、この実施例では中間部フレーム体13に、被搬送物支持部25と、レール3に支持案内される前後一対の被案内装置 30 とを設けるとともに、残りのフレーム体・・・には、遊端側に被案内装置31、32を設けている。」(【0020】、下線を付加)、「各被案内装置30,31,32は同様な構成であって、・・・上下方向ピン33と、・・・トロリ本体35と、・・・被支持ローラ36と、・・・被ガイドローラ37とにより、トロリ形式に構成されている。」(【0022】と記載されており、これらの記載と図面によれば、本件発明の実施例においては、トロリ形式に構成されてレールに支持案内される複数の部材が一体として一個の「被案内装置」として説明され、このような被案内装置をフレーム体の前後に設けたものが「一対の被案内装置」と呼ばれているものと認められる。
そうすると、本件発明との対比において、甲4発明の運搬ロール9・21及びガイドロール9・22は、これらを併せたものが一体として一個の「被案内装置」を構成しているとみるのが相当である。この点で、運搬ロール及びガイドロールがそれぞれ独立の被案内装置であることを前提として、甲4発明には「一対の被案内装置」があるとし、「一対の被案内装置」を両発明の一致点とした審決の認定は誤りというべきである。
ウ そこで、「一対の被案内装置」についての上記相違点の看過が本件発明の判断に影響を及ぼすか否かを検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも1つのフレーム体について「一対の被案内装置」を有する構成とすることの技術的意義について、何ら記載がない。しかしながら、長尺の被搬送物を移動体の本体で支持して搬送する場合、その移動体の本体に被搬送物の長さに見合ったある程度の長さが必要とされることは自明であり、そのような長さのある移動体本体を安定的にレールに支持案内するためには、被案内装置は移動体の前後方向に複数箇所設けた方がよいことも明らかである。そして、その際に、連結されて移動体を構成している各フレーム体のうちの少なくとも1つに、前後方向(長さ方向)に沿って一対の被案内装置を設けることは、当業者が適宜設計し得る事項と判断される。
以上によれば、「一対の被案内装置」についての審決の認定の誤りは、本件発明の想到容易性についての審決の判断の結論に影響を及ぼすものではない。
(2) 相違点(2)の判断について(取消事由2) ア 相違点(2)についての審決の判断は、「甲4発明において、少なくとも一つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないように変更することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項である」というものである。
これに対して、原告は、甲4発明は、運搬アーム9・1を中心部材として、これに支持体9・2、パッケージSと係合するホルダー9・3、連結要素9・4等が付設された構成であるから、被搬送物支持部(ホルダー9・3)及び受動部(運搬アーム9・1)を設けないように変更すること(すなわち、運搬アームを取り除くこと)は、連続バンドから1つの移送装置を丸ごと取り除くことになり、取り除いた後には「被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設けた」構造の移送装置しか残らない、と主張する。
しかしながら、審決の上記判断は、「甲4記載の発明において、甲5記載の事項(発明)を組み合わせて、・・・複数のフレーム体の連結を、左右方向に加えて上下方向でも相対回動自在に設けることは、当業者が容易になし得るものと認められる。」という相違点(1)についての判断を前提とし、甲4発明と甲5記載の発明を組み合わせたものを念頭に置いて、「少なくとも1つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないように変更すること」の容易性を判断したものと理解される。
そして、相違点(2)の判断において前提とされている甲4発明とは、審決が【一致点】として認定した、「レールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を、連結装置を介して左右方向で相対回動自在に連結した複数のフレーム体により形成するとともに、これらフレーム体の側面を受動面に形成し、各フレーム体のうち少なくとも一つのフレーム体は、被搬送物支持部と、前記レールに支持案内される一対の被案内装置とを有するとともに、受動部を有し、前記一定経路中に、
前記受動面に当接自在な送りローラを有する第1送り装置と、この第1送り装置が非作用の経路部において前記受動部に作用自在な伝動部を有する第2送り装置とを設けた、移動体使用の搬送設備」の発明であって、甲4の第7図等に示される搬送装置及びその移送装置(9)等の具体的構造を意味するものではない。
したがって、「少なくとも1つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないようにする」とは、上記第7図に示される具体的構造において被搬送物支持部(ホルダー9・3)及び受動部(運搬アーム9・1)を取り除くことを意味するとの前提に立って、ホルダー9・3及び運搬アーム9・1を除いた後には被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設けた構造の移送装置9しか残らないとする原告の主張は、審決を正解しないものであって、理由がない。
イ そこで、進んで、「被搬送物支持部及び受動部をすべてのフレーム体に設け」ている甲4発明において、「少なくとも1つのフレーム体について、被搬送物支持部及び受動部を設けないようにすること」の容易性について考えると、複数のフレーム体(移送装置)を連結して1つの移動体本体(トレイン)とする場合に、被搬送物支持部は、1つの移送体本体につき、被搬送物の種類(長さ、重さ等)に応じた所要数があれば足りるのであり、必ずしも移送体本体を構成する各フレーム体の全部に設けなければならないものではないから、被搬送物支持部をフレーム体の全部に設けるか、一部のフレーム体にのみに設けるかは、当業者が必要に応じて適宜設計し得る事項であると判断される。
また、複数のフレーム体(移送装置)を連結したものを1つの移動体本体(トレイン)としたものにおいて、第2送り装置と作用自在な受動部がすべてのフレーム体に存在する必要がないことは明らかであるから、一部のフレーム体について、受動部を設けない構成とすることも当業者が適宜選択し得る設計事項というべきである。
したがって、相違点(2)について、「少なくとも一つのフレーム体に対しては被搬送物支持部及び受動部を設けないように変更すること」が適宜設計事項であるとした審決の判断に誤りはない。
3 結論 以上に認定判断したところによれば、原告主張の取消事由1、2はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利