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関連審決 不服2000-12138
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 587号 審決取消請求事件
原告 株式会社デンソー
同訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦
同 加藤大登
同 伊藤高順
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 會田博行
同 粟津憲一
同 橋本康重
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000―12138号事件について平成14年10月16日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,特許庁に対し,平成2年10月4日にした特許出願に基づき特許法41条による優先権を主張して平成3年4月26日に特許出願した特願平3―96962号の一部を分割して,平成11年7月19日,発明の名称を「冷凍装置,及び熱交換器」とする発明につき特許出願(特願平11―205416号)を行ったところ,特許庁は,平成12年6月27日に拒絶査定をした。
そこで,原告は,平成12年8月3日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2000―12138号)ところ,特許庁は,平成14年10月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 平成14年3月25日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び4の記載は,次のとおりである(以下,この発明をそれぞれ「本願発明1,4」という。)。
【請求項1】 走行用エンジンによって駆動され,冷媒の圧縮を行う圧縮機と, 圧縮された冷媒を凝縮する凝縮部と,この凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部とからなる熱交換器と, 凝縮された冷媒を減圧膨張する減圧手段と, 減圧膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器と, 前記凝縮部と前記過冷却部との間に配され,前記凝縮部を通過した冷媒を気液分離するとともに冷媒を貯留する受液器とを備え, 前記凝縮部および前記過冷却部は,平行に配置され,内部を冷媒が流れる複数のチューブと,これらのチューブと平行に配置されるとともに前記チューブに熱的に結合され,冷媒と通過空気との熱交換を促進させるコルゲート形状を有するフィンと,前記チューブの一端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第1タンクと,前記チューブの他端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第2タンクと有し,前記第1タンクには内部を上流側空間と下流側空間とに区画する第1の仕切板が設けられており,この第1の仕切板によって区画された前記第1タンク内の上流側空間に導入された冷媒を前記第2タンクを介して前記過冷却部へと流入させる自動車用冷凍装置であって, 前記受液器は,前記第2タンクとは区画された空間を有し,前記第2タンクと接続されて, 前記凝縮部から冷媒が流入する流入部と,前記過冷却部へと冷媒が流出する流出部とを有し, 前記凝縮部は,前記熱交換器のうち,前記受液器との接続部位より冷媒流れの上流側に配置され,前記過冷却部は,前記熱交換器のうち,前記受液器との接続部位より冷媒流れの下流側に配置され,かつ 前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されており, 前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上,かつ30%以下であることを特徴とする車両用冷凍装置。 【請求項4】 走行用エンジンによって駆動される圧縮機によって圧縮された冷媒を凝縮する凝縮部と,この凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部と,前記凝縮部と前記過冷却部との間に配され,前記凝縮部を通過した冷媒を気液分離するとともに冷媒を貯留する受液器とを備え, 前記凝縮部および前記過冷却部は,平行に配置され,内部を冷媒が流れる複数のチューブと,これらのチューブ間に配され,冷媒と通過空気との熱交換を促進させるコルゲート形状のフィンと,前記チューブの一端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第1タンクと,前記チューブの他端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第2タンクとを有し,前記第1タンクには内部を上流側空間と下流側空間とに区画する第1の仕切板が設けられており,この第1の仕切板によって区画された前記第1タンク内の上流側空間に導入された冷媒を前記第2タンクを介して前記過冷却部へと流入させる熱交換器であって, 前記受液器は,前記第2タンクとは区画された空間を有し,前記第2タンクと接続されて, 前記凝縮部から冷媒が流入する流入部と,前記過冷却部へと冷媒が流出する流出部とを有し, 前記凝縮部は,前記受液器との接続部位より冷媒流れの上流側に配置され,前記過冷却部は,前記受液器との接続部位より冷媒流れの下流側に配置され,かつ前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されており, 前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上,かつ30%以下であることを特徴とする熱交換器。 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は,以下のとおり,本願発明1及び4は,特開昭63-34466号公報(甲4。以下「刊行物1」という。)及び特開平3-87572号公報(甲5。以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下,それぞれ「引用発明1」「引用発明2」という。)並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 本願発明1について ア 本願発明1と引用発明1との一致点,相違点 (一致点) 冷媒を凝縮する凝縮部と,この凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部とからなる熱交換器を備え, 前記凝縮部および前記過冷却部は,平行に配置され,内部を冷媒が流れる複数のチューブと,これらのチューブと平行に配置されるとともに前記チューブに熱的に結合され,冷媒と通過空気との熱交換を促進させるコルゲート形状を有するフィンと,前記チューブの一端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第1タンクと,前記チューブの他端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第2タンクと有し,前記第1タンクには内部を上流側空間と下流側空間とに区画する第1の仕切板が設けられており,この第1の仕切板によって区画された前記第1タンク内の上流側空間に導入された冷媒を前記第2タンクを介して前記過冷却部へと流入させる自動車用冷凍装置であって, 前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されており, 前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上,かつ30%以下であることを特徴とする車両用冷凍装置。
(相違点A) 本願発明1は,「走行用エンジンによって駆動され,冷媒の圧縮を行う圧縮機と,」 「圧縮された」冷媒を凝縮する凝縮部と,「凝縮された冷媒を減圧膨張する減圧手段と,」 「減圧膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器と,」を備えるのに対し,引用発明1は,刊行物1記載の「凝縮部に相当する入口側通路群(A)さらには中間通路群(B)」が,圧縮された冷媒を凝縮するかどうか明記されておらず,また,上記のような「圧縮機」,「減圧手段」,「蒸発器」も記載されていない。
(相違点B) 本願発明1は,「前記凝縮部と前記過冷却部との間に配され,前記凝縮部を通過した冷媒を気液分離するとともに冷媒を貯留する受液器とを備え,」しかも,「前記受液器は,前記第2タンクとは区画された空間を有し,前記第2タンクと接続されて,前記凝縮部から冷媒が流入する流入部と,前記過冷却部へと冷媒が流出する流出部とを有し,前記凝縮部は,前記熱交換器のうち,前記受液器との接続部位より冷媒流れの上流側に配置され,前記過冷却部は,前記熱交換器のうち,前記受液器との接続部位より冷媒流れの下流側に配置され,」るものであるのに対し,引用発明1は,このような構成でない。
イ 相違点Aについての判断 相違点Aに係る構成は,すべて周知の技術にすぎないから,当業者が容易に想到できた程度のものである。
ウ 相違点Bについての判断 相違点Bに係る構成は,引用発明2に開示されている。
引用発明1の用途は「カークーラー用」であり,引用発明2の用途は「自動車用の冷房装置」であり,両者は同一である。
また,一般に,冷凍装置において,凝縮器を出た冷媒を受液器に流入させ,ここで気液分離を行なった後,過冷却器に送ることにより,効率の向上や安定した運転を達成できることは,周知の事項である。
そうすると,引用発明2の自動車用冷房装置の熱交換器でも,これらの周知事項と同様に,受液器で気液分離を行なった後,過冷却器に送り,過冷却を行っているのであるから,受液器を引用発明2の位置関係に設けることにより,上記の「効率の向上」,「安定した運転の達成」という課題が達成されるであろうと予想するのは自然である。 他方,引用発明1のカークーラーは冷凍装置の一種であり,これらの課題の達成が要求されるのは当然である。したがって,引用発明1のカークーラー用凝縮器に,これらの課題を達成するため,引用発明2の構成を組み合わせることは容易である。
このように,上記の周知事項を考慮すれば,相違点Bに係る構成は,引用発明2から当業者が容易に想到できた程度のものである。 (2) 本願発明4について ア 本願発明4と引用発明1との一致点,相違点 (一致点) 冷媒を凝縮する凝縮部と,この凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部とを備え, 前記凝縮部および前記過冷却部は,平行に配置され,内部を冷媒が流れる複数のチューブと,これらのチューブ間に配され,冷媒と通過空気との熱交換を促進させるコルゲート形状のフィンと,前記チューブの一端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第1タンクと,前記チューブの他端に配され,前記複数のチューブへと冷媒を分配する,および/または前記複数のチューブを通過した冷媒を集める第2タンクとを有し,前記第1タンクには内部を上流側空間と下流側空間とに区画する第1の仕切板が設けられており,この第1の仕切板によって区画された前記第1タンク内の上流側空間に導入された冷媒を前記第2タンクを介して前記過冷却部へと流入させる熱交換器であって, 前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されており, 前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上,かつ30%以下であることを特徴とする熱交換器。
(相違点D) 本願発明4は,「走行用エンジンによって駆動される圧縮機によって圧縮された冷媒を凝縮する凝縮部と,」を備えているのに対し,引用発明1は,刊行物1記載の「凝縮部に相当する入口側通路群(A)さらには中間通路群(B)」が,上記のように駆動される圧縮機によって圧縮された冷媒を凝縮するかどうか明記されていない。
(相違点E) 本願発明4は,「前記凝縮部と前記過冷却部との間に配され,前記凝縮部を通過した冷媒を気液分離するとともに冷媒を貯留する受液器とを備え,」しかも,「前記受液器は,前記第2タンクとは区画された空間を有し,前記第2タンクと接続されて,前記凝縮部から冷媒が流入する流入部と,前記過冷却部へと冷媒が流出する流出部とを有し,前記凝縮部は,前記受液器との接続部位より冷媒流れの上流側に配置され,前記過冷却部は,前記受液器との接続部位より冷媒流れの下流側に配置され,」るものであるのに対し,引用発明1は,このような構成でない。
イ 相違点D,Eについての判断 相違点A,Bについての判断と同様の理由により,相違点D,Eに係る構成は,当業者が容易に想到できた程度のものである。
原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,以下のとおり,本願発明1及び4と引用発明1との相違点を看過し(取消事由1),また,相違点B及びEに係る進歩性の判断を誤ったものであり(取消事由2),その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) (1) 本願発明1及び4における「過冷却部」は,熱交換器全体のうち,受液器よりも冷媒流れ下流側の部位として特定されており,その結果,冷媒を冷却する外気温度,凝縮部に流入する際の冷媒圧力,冷媒の封入量といった諸条件が変化しても,過冷却部の位置が変化してしまうことがなく,車両の走行状態にかかわらず,熱交換器のうち過冷却部の占める部位を一義的に特定することができる。
(2) 他方,引用発明1における「出口側通路群(C)」については,刊行物1中に「過冷却部に相当する」などの記載があるものの,ここにいう「過冷却部」とは,凝縮器の出口で冷媒が液化することをもって「過冷却部」と表現したにすぎない。
すなわち,凝縮器の下流に受液器が配置された場合,受液器内に気液界面が存在するため,受液器における液冷媒は飽和液となり,受液器より上流に配置される凝縮器では,冷媒を液化することはできるものの,十分な過冷却をとることはできない。
また,凝縮器の下流に受液器が配置されない場合には,出口側通路群(C)で液体冷媒の過冷却を行う場合があるものの,運転状態によって,その状態は一律に決まるものではなく,例えば,凝縮器の放熱量が少なければ,凝縮器で十分に冷媒を凝縮させることができず,凝縮器出口における冷媒は依然として気液二相のままの状態となってしまうし,逆に,凝縮器での放熱量が過大な場合には,入口から比較的近い位置で凝縮器に流入したガス状冷媒が液化完了してしまうから,結局,過冷却部の面積を一義的に定めることができない。
(3) したがって,本願発明1及び4における「過冷却部」と引用発明における「出口側通路群(C)」とは,相違するものである。しかるに,本件審決は,誤って,(a)「凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部とからなる熱交換器」,(b)「前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されて」いること,(c)「前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上かつ30%以下である」ことを一致点として認定して,上記相違点に係る判断を看過したものである。
なお,引用発明における「出口側通路群(C)」が本願発明1及び4における「過冷却部」に相当すると判断された場合には,上記(b),(c)の点が一致点になることは認める。
2 取消事由2(相違点B及びEに係る進歩性判断の誤り) 引用発明1には,本願発明1及び4の「過冷却部」の開示は全くない。したがって,引用発明1には,過冷却部の放熱面積の割合を特定することにより,冷房能力を増大させつつ,所定の冷房能力を得るのに必要な圧縮器の駆動動力を減少させ,冷房能力と圧縮器の駆動動力の能力比を向上させるという本願発明1及び4の特徴についての示唆はない。
引用発明2にも,確かに凝縮部,受液器,過冷却部の機能を有する3つの部位を備えた熱交換器の開示はあるものの,冷房能力と圧縮器の駆動動力の能力比を向上させるべく,熱交換器全体の放熱面積に対する過冷却部の放熱面積割合を考察するという本願発明1及び4の課題,構成は全く示唆されていない。したがって,引用発明2に基づいて,上記課題の解決方法を容易に想到することはできない。なお,引用発明2は,世界で初めて凝縮部,受液器及び過冷却部を一体とした熱交換器であるから,過冷却器を用いて効率の向上や安定した運転を達成することが周知であったとしても,そのことにより上記容易想到性を裏付けることはできない。
したがって,相違点Bに係る構成は,引用発明1,2及び周知技術から当業者が容易に想到できた程度のものということはできない。
被告の反論の要点
以下のとおり,本件審決における相違点の認定及び相違点に係る進歩性判断には誤りはないから,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について 原告は,「本願発明1及び4における「過冷却部」は,熱交換器全体のうち,受液器よりも冷媒流れ下流側の部位として特定されている。」旨主張するが,上記主張に係る内容は,過冷却部と凝縮部,受液器との位置関係のことであって,過冷却部自体のことではない。「過冷却」とは「凝縮後の液体冷媒をさらに冷却すること」を意味するが,本件審決は,「このような冷却が起きる場所」を「過冷却部」として正当に認定している。
また,原告は,刊行物1の記載について,「凝縮器の出口において冷媒が液化していることをもって,過冷却と呼んでいるにすぎない。」旨主張するが,刊行物1には,凝縮後の液体冷媒を「出口側通路群(C)」でさらに冷却することが明記されているから,引用発明1の「出口側通路群(C)」が本願発明1及び4の「過冷却部」と一致するとした本件審決の認定に誤りはない。引用発明1では,凝縮器の大型化の回避という問題の解決を意図して,出口側通路群(C)等の通路面積(8本,6本,5本)を好ましい比率として選択しており,カーエアコンの運転状態に応じて,実際に過冷却される範囲は変動するとしても,このように選択されたチューブの本数が,問題解決のために好ましい比率を与えている技術思想であることに変わりはない。
2 取消事由2(相違点B及びEに係る進歩性判断の誤り)について 引用発明2には,受液器の上流側で凝縮する機能が果たされ,その下流側で過冷却がなされるように,受液器(貯蓄室21)を設けることが開示されている。
したがって,引用発明1及び2を組み合わせて本願発明1及び4を想到することは,当業者であれば容易になし得た程度のことである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について 原告は,「本願発明1及び4における「過冷却部」は,熱交換器全体のうち,受液器よりも冷媒流れ下流側の部位として特定されており,その結果,諸条件の変化により,過冷却部の位置が変化してしまうことがなく,車両の走行状態にかかわらず,熱交換器のうち過冷却部の占める部位を一義的に特定することができる。一方,引用発明1における「過冷却部に相当する出口側通路群(C)」は,凝縮器の出口で冷媒が液化することをもって「過冷却部」と表現したにすぎない。」旨主張するので,検討する。
(1) まず,本願発明1及び4について,本願明細書の「【0016】ここで,本発明では,凝縮器400出口側の冷媒配管中に,受液器をなすモジュレータ100を配置し,更にその下流側に第9図に示すように過冷却器を配置している。このモジュレータ100は第2図に示すように,上下方向に延びる閉空間よりなり,その下方部が凝縮器400出口側の冷媒配管351より分岐する。」との記載から,本願発明1及び4における「受液器」にはモジュレータが含まれることが明らかである。
そして,「【0036】第12図に示すように,凝縮部402および過冷却部405の両端には第1,第2タンク480,481が配される。第2タンク481内部の,凝縮部402と過冷却部405との境界部と対向する部位で凝縮部402から流出した冷媒はモジュレータ100内部側に向かうように,その流れの向きが変えられる。モジュレータを通過した冷媒は第2タンク481を経て過冷却部405へと送られる。」, 「【0037】ところで,第12図に示すようにモジュレータ100にも冷却風があたるため,モジュレータ100内部で気冷媒の凝縮が生じることがある。
ここで,モジュレータ100の気液界面100aは飽和液状態となるが,この飽和液状態はモジュレータ100による放熱冷却の結果として達成されることになる。
換言すれば,モジュレータ100へ流入される状態が多少の乾き度を有する気液混合流であったとしても,モジュレータ100自身の冷却放熱効果によって,気液界面100aが保持されることになる。すなわち,第12図中100bの領域においては,多少気冷媒を含む気液混合流であっても,モジュレータ100内では均衡が得られることになる。このことは,過冷却部405の入口部405aでの冷媒状態が,上述のモジュレータ100の入口部100bの冷媒状態と同一となることを示し,結果として 過冷却部 405 には 蒸気 を含む気液流 が供給 されることになる 。従って ,過冷却部 405 では ,まず 気液混合流中 の気相部分 が凝縮 し,その 後はじめて過冷却 が得られることになる 。第12 図では ,D 点ではじめて 飽和状態 となり ,過冷却 を得ることができる 部分 はD点以降 の過冷却部 405 となる 。」 との記載から,本願発明1及び4において,受液器としてモジュレータを使用する場合には,受液器の上流側からガス冷媒が下流側に侵入してくる場合があり,過冷却状態を得られるD点が,過冷却部内でその位置を移動することが認められる。したがって,本願発明1及び4において,過冷却が行われる位置が車両の走行状態にかかわらず変化しないということはできない。
そうすると,本願発明1及び4における「過冷却部」とは,必ずしも液冷媒のみが存在する部位を特定したものではなく,冷媒の流れ方向上流側に存在する「凝縮器」に対して,前記「受液器」の存在を介して下流側に設置されている主に過冷却機能を担う部位と解釈することが妥当と認められる。
(2) 他方,引用発明1について,刊行物1には,「産業上の利用分野」として「この発明はカークーラー用等に用いられる凝縮器に関する」(1頁左下欄19〜20行)と,また,「従来の技術」について,「凝縮器内の冷媒通路は,冷媒がいまだガス化状態にある入口側に近い冷媒凝縮部と,冷媒が液化状態となっている出口側に近い過冷却部とに大別され,熱交換効率を大きくするには一般に凝縮部での伝熱面積を大きく確保する必要があり,過冷却部の伝熱面積は比較的小さくともかまわない。」(1頁右下欄8〜14行)とそれぞれ記載され,この認識の下で,「発明が解決しようとする問題点」について,「従来のサーペンタイン型の凝縮器では,冷媒通路が1本の偏平押出チューブにより形成されているため,伝熱面積を大きく確保すべく凝縮部の通路面積を大きくすると,必然的に過冷却部の通路面積も大きくなって,凝縮器全体が大型化する。従って凝縮器の大型化を派生することなく熱交換効率を向上するには限界があった。」(1頁右下欄16行〜2頁左上欄3行)と記載されている。
そして,このような課題認識の下で,「実施例」に関して,「入口側通路群(A)を通過する冷媒はいまだ体積の大きいガス化状態にあるが,入口側通路群(A)の通路断面積を大きく設定してあるので,伝熱面積が大きいものとなされており効率良く冷媒の凝縮が行われる。中間通路群(B) を通過 する 冷媒 は入口側通路群 (A) で一部 が液化 されるため 気液混合状態 を呈している 。従って伝熱面積は少なくて良いが,これに応じて中間通路群(B)の通路断面積は入口側通路群(A)よりも小に設定してあるので,必要かつ充分な熱交換を行わせつつ冷媒を通過させることができる。出口側通路群(C) を通過 する 時には 冷媒 はすでに 液体状態を呈し体積 も小さくなっている から通路断面積も小さくて良い」(3頁左上欄8行〜右上欄2行), 「このように凝縮部に相当する入口側通路群(A)さらには中間通路群(B)から過冷却部に相当 する 出口側通路群 (C) へと至る」(3頁右上欄6〜8行), 「ガス化状態の冷媒を凝縮する凝縮部および液体状態の冷媒 を冷却 する 過冷却部 のそれぞれに応じた必要十分な通路面積を確保した」(3頁右下欄17〜20行) との記載があり,さらに,第1図及び第5図に,各通路群を8本,6本,5本とすることが記載されている。
以上の記載によれば,引用発明1における「出口側通路群(C)」は,主に過冷却機能を担う部位であることが明らかである。
(3) 上記(1)及び(2)認定の事実によると,本願発明1及び4における「過冷却部」と引用発明における「出口側通路群(C)」とは一致するというべきであるから,本願発明1及び4と引用発明とが「凝縮部を通過した冷媒を過冷却させる過冷却部とからなる熱交換器」において一致すると認定した本件審決の判断は相当である。そして,原告自身,引用発明における「出口側通路群(C)」が本願発明1及び4における「過冷却部」に相当すると判断された場合には,「前記過冷却部には前記複数のチューブのうち2本以上のチューブが配されて」いること,「前記過冷却部に配される前記フィンおよび前記2本以上のチューブの放熱面によって構成される前記過冷却部の放熱面積は,前記熱交換器全体の前記フィンおよび前記複数のチューブの放熱面によって構成される前記熱交換器全体の放熱面積の10%以上かつ30%以下である」ことが一致点になることは認めるものであるから,結局,これらの点が一致すると認定した本件審決の判断は相当であり,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点B及びEに係る進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,「引用発明1には,本願発明1及び4の「過冷却部」の開示は全くないから,引用発明には,本願発明1及び4の特徴についての示唆はない。」旨主張する。
しかしながら,上記1認定のとおり,引用発明1における「出口側通路群(C)」は,本願発明1及び4における「過冷却部」と一致するものであるばかりでなく,上記1の(2)記載の事実によると,刊行物1には,伝熱面積を大きく確保すると,凝縮部及び過冷却部双方の通路面積が大きくなる結果,凝縮器全体が大型化して不都合であるという問題を解決すべく,各通路群A―Cの必要十分な通路面積(8本,6本,5本)を確保する技術思想が開示されており,原告主張の本願発明1及び4の特徴は十分に示唆されているというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(2) また,原告は,「引用発明2には,冷房能力と圧縮器の駆動動力の能力比を向上させるべく,熱交換器全体の放熱面積に対する過冷却部の放熱面積割合を考察するという本願発明1及び4の課題,構成は全く示唆されていないから,引用発明2に基づいて,上記課題の解決方法を容易に想到することはできない。」旨主張する。
しかしながら,本願発明1及び4において,熱交換器全体の放熱面積に対する過冷却部の放熱面積割合を10%以上30%以下とした点は,上記両発明と引用発明1との一致点として既に認定したとおりであるから,引用発明2において,熱交換器全体の放熱面積に対する過冷却部の放熱面積割合という課題,構成が開示されていなくても,相違点B及びEに係る進歩性判断に影響を与えることはないから,原告の上記主張は理由がない。
(3) なお,引用発明1のカークーラー用凝縮器(前記1の(2))と引用発明2の自動車用冷房装置の熱交換器(甲5の7頁の「変形例」の欄)とは同一の技術分野に属すること,及び冷凍装置においては,効率の向上や安定した運転の確保という課題を凝縮器を出た冷媒を受液器に流入させて気液分離を行った後に過冷却器に送ることにより解決していることは周知であることのほか,引用発明2において,本願発明1及び4の「受液器」に相当する「貯蓄室21」や,本願発明1及び4の「凝縮器」,「受液器」及び「過冷却部」相互の配設位置関係が開示されていることを勘案すると,引用発明1及び2の技術を組み合わせて本願発明1及び4の上記相違点に係る構成を想到することは当業者にとって容易であるというべきであり,これと同旨の本件審決の認定,判断は相当である。
したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人