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関連審決 無効2000-35670
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ4551差止請求権不存在確認等請求事件 平成11ワ12018同事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  特許の有効性 /  先行技術 /  遡及 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  加工 /  差止請求(差止) /  侵害 /  過失推定(過失の推定) /  損失額 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  請求の範囲 /  変更 /  補助参加 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 15年 (ワ) 6256号 損害賠償請求事件
原告 日本フネン株式会社
訴訟代理人弁護士 田倉整
同 内藤義三
補佐人弁理士 田村公總
被告 近畿車輛株式会社
訴訟代理人弁護士 美根晴幸
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/01/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 主位的請求 被告は、原告に対し、金2000万円及びこれに対する平成15年7月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求 被告は、原告に対し、金1500万円及びこれに対する平成15年10月16日(平成15年10月7日付け準備書面(原告第1回)送達日の後)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告が、その「採光窓付き鋼製ドアの製造方法」に関する特許権に基づき、原告による採光窓付き鋼製ドアの製造販売の差止等を求める仮処分を申し立て、同仮処分命令を得て、これを執行した後、上記特許権に対する無効審決が確定したため、上記仮処分命令に基づく被告の権利行使により損害を被ったとして、
被告に対し、主位的に民法709条に基づく損害賠償を、予備的に民法703条に基づく不当利得の返還をそれぞれ請求した事案である。
(基本的事実) 証拠を掲記しないものは、争いのない事実のほか、当裁判所に顕著な事実である。
1(1) 原告は、建築用不燃ドア、パネルの開発、製造、販売並びに施行等を目的とする株式会社である。
(2) 被告は、車両の製造販売のほか、建築材料の製造修理、販売並びに取付工事等を目的とする株式会社である。
2 被告は次の特許権を有していた(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)。
特許番号 第1861289号 発明の名称 採光窓付き鋼製ドアの製造方法 出願年月日 昭和63年7月20日 登録年月日 平成6年8月8日 特許請求の範囲 採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法(請求項1)。
3(1) 被告は、平成9年10月28日、本件特許権に基づき、本件原告を被告とする特許権侵害差止等請求訴訟(大阪地方裁判所平成9年(ワ)第10905号。以下「前訴」という。)を提起するとともに、同日、本件原告を債務者として、その採光窓付き鋼製ドアの製造販売の差止等を求める仮処分(大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号。以下「本件仮処分事件」という。)を申し立てた。
(2) 本件仮処分事件につき、平成10年3月26日、債権者である本件被告の申立てを認める命令が発令された(以下「本件仮処分命令」という。)。
(3) 本件仮処分事件の債権者である本件被告は、執行官に対し、本件仮処分命令の執行を申し立て、担当執行官は、平成10年4月2日、同事件債務者である本件原告の本社工場内にあった採光窓付き鋼製ドア2枚につき、債務者の占有を解いて執行官の保管とする執行を行った。
4(1) ところが、本件特許権(請求項1)に対する無効審判請求事件(無効2000-35670号事件。本件原告を請求人とする。)において、平成13年11月9日、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭53-11791号特許公報(甲17の1、以下「刊行物1」という。)及び実開昭63-62219号のマイクロフィルム(甲17の6、以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができた(以下「本件無効理由」という。)として、本件発明についての特許を無効とする審決が出された。
(2) 本件仮処分事件の債務者である本件原告は、上記(1)の無効審決を根拠として、本件仮処分事件につき事情変更による保全取消しを申し立てた(大阪地方裁判所平成13年(モ)第59032号)ところ、平成14年2月1日、上記3(2)の本件仮処分命令は取り消された。
(3) 上記(2)に対する保全抗告事件(大阪高等裁判所平成14年(ラ)第176号)においても、平成14年7月31日、その保全抗告を棄却する旨の決定がされた。
(4) 本件被告は、上記(1)の無効審決に対する審決取消請求訴訟(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第575号)を提起したが、平成15年3月26日、本件無効理由の存在を根拠として、同事件原告(本件被告)の請求を棄却する判決が出され、同判決に対しては上告又は上告受理の申立てがされることがなく、同判決は確定した。
(5) 上記3(1)の前訴も、弁論終結後の平成15年7月28日の和解期日において、原告の請求放棄により終了した。
(争点) 1 不法行為における被告の過失 (原告の主張) 無効審決の確定により本件特許権は遡及的に無効となったのであるから、本件仮処分命令に伴う本件特許権行使は違法であり、特段の事情のない限り、被告には過失があったものと推定すべきである(最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3428頁参照)。次の点に照らしても、本件では、被告の過失を否定すべき特段の事情はない。
(1) 一般に、無効審判請求がされた特許が最終的に無効と判断される割合は5割前後と相当高いから、特許権が特許庁審査官の審査を経て認められた権利であるからといって、他の所有権等の私法上の権利と比べて安定した権利であるとはいえない。したがって、特許庁の審査を経ているからといって、当然に無過失であるということはできない。
(2) 上記無効審決及びこれに対する審決取消訴訟判決が認定した本件無効理由は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づき進歩性が否定されたものである。歴史も古く、プレス技術の分野で多彩な技術を有する被告にとって、調査困難な無効理由であったとはいえないし、本件発明に特許性があると信ずる特段の事由もないから、被告はこれらの刊行物を知っていたか、仮に知らなくとも知り得べきであったという点で過失があったというべきである。
(3) 本件無効理由についてみると、本件発明は、四辺形にフランジを立てるには、四隅に切り欠きを設けてプレス等で曲げること、その切り欠きの奥には丸味をつけておくという、周知の技術を、鋼製ドアの製造に応用したにすぎない。本件無効理由を肯定した上記無効審決及び審決取消訴訟判決の理論構成や事実認定は極めてオーソドックスなものであり、当業者として本件特許に無効理由があることは十分予想できるものであった。
(4) 上記のような無効理由があるのであれば、原告側として何故もっと早い段階で無効審判請求をしなかったのかを問題にする見解もあるかもしれないので、この点について補足すると、そもそも無効審判請求を行うか否かは原告の自由であるばかりか、原告は、刊行物1を発見した時点では直ちに無効審判請求を行っている。原告が本件特許に対する無効審判請求を早期に行えなかったのは、原告が専任の特許スタッフもいない地方の中小ベンチャー企業であり、当初は特許事件の経験のない弁護士に依頼せざるを得ない状況にあったためである。また、本件仮処分事件申立当時は、キルビー特許事件最高裁判決(最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁)が出される以前のことであったから、債務者である本件原告が本件仮処分事件の審尋期日において本件無効理由を主張立証しなかったのはむしろ当然である(これらの点は、過失相殺の問題としても重視されるべきではないが、被告の無過失をおよそ基礎付けるものでもない。)。
(被告の主張) 原告の引用する最高裁判決を前提としても、次の点に照らせば、本件では、
被告の過失を否定すべき特段の事情があるというべきである。
(1) 一般に、発明が進歩性を有するか否かの判断は決して容易ではないところ、本件発明は、特許庁審査官が先行技術周知技術を検討した上で、いったんは特許査定をしたものであるから、刊行物1及び2により進歩性が否定されるか否かについて見解が相違することは当然であった。
(2) 被告は、本件仮処分事件当時、上記刊行物の存在を知らなかった。現に、
被告は、本件特許が進歩性を有することを信じて、上記無効審判請求事件における平成13年5月10日付け審判答弁書(乙20)や上記審決取消訴訟における平成14年2月14日付け準備書面(乙21)で、本件特許に進歩性が存することを具体的に主張していた。
(3) 原告は、本件無効理由は極めてオーソドックスなものであるなどと主張するが、刊行物1記載の発明には本件発明のような数値限定はないし、刊行物2記載の発明は本件発明と技術分野が異なり、数値限定も欠くものである。異なる技術分野への転用については、原被告間で本件特許の有効性が争われていた当時、特許庁では、何らかの作用効果が認められれば登録を認める考えが有力であったのであり、本件発明について転用が容易であったとはいえない。これらの点から、特許査定がされた本件発明に進歩性ありと判断したものであり、被告に過失はない。
(4) 原告は、本件仮処分事件当時、無効審判請求を提起することがなかったばかりか、その審尋期日においても、上記の無効事由を何ら主張しなかったのであるから、特許権者である被告が、本件特許の有効性を疑う余地もなかった。
2 原告の損害 (原告の主張) 原告は、民法709条に基づく損害賠償として後記(1)〜(3)の合計額2510万円の内金2000万円を主位的に請求する。
(1) 本件仮処分命令の執行自体による損害 10万円 執行官保管に係る採光窓付き鋼製ドア2枚(当時の時価は1枚当たり5万円)は、既に数年も経っており、現在では減額しても販売できないから、無価値である。
(2) 本件仮処分に伴う無形損害 1500万円 原告におけるドア全体の製造販売高(年間売上額50億円)は、本件仮処分事件の前後を通じ、極端な減額はしておらず、その上昇率に陰りがあったという程度であるが、原告の製造販売に係る採光窓付き鋼製ドアにつき、特許権侵害を理由とする差止めの仮処分命令が出され、原告の本社工場内でその執行が行われたという事実は、上記ドアの購入を検討していた者に対し、原告との取引を躊躇させるという悪影響をもたらしたことは明らかである。さらに、被告は、本件仮処分命令に関する事実を業界紙に情報提供し、同業界紙による公表(甲4)を通じて、需要者に強い圧力を加えた。
本件仮処分命令の対象とされた採光窓付き鋼製ドアの年間売上額が1億円、1億5000万円、2億円と上昇傾向にあり、その利益率が10%前後であったから、本件特許に対する無効審決が出されるまでの4年間にわたり、少なくとも25%減の悪影響を受けていたこと、本件仮処分命令の立担保の額でさえ1000万円であったことに照らせば、本件仮処分に伴う無形損害は1500万円を下らない(1億5000万円×10%×4年間×25%。もっとも、上昇中であった原告の上記製造販売高が、本件仮処分事件により、どれだけ減少したかは、景気の動向による影響もあるため、これを厳密に確定することは極めて困難であるから、裁判所の裁量による認定を求める。)。
(3) 被告による本件仮処分に対抗するための手続費用 1000万円 原告は、本件仮処分が違法であること及びその継続を阻止するために、次の各事件につき、弁護士及び弁理士にこれを委任せざるを得なかった。これに要した費用は次のとおりである。原告は、このうち1000万円を損害として主張する。
ア 上記基本的事実3(1)の特許権侵害差止等請求訴訟の応訴(損害論に関する審理部分を除く。) 500万円 イ 上記基本的事実4(1)の無効審判の請求 300万円 ウ 上記基本的事実4(2)の保全取消しの申立て 50万円 エ 上記基本的事実4(3)の保全抗告の応訴 200万円 オ 上記基本的事実4(4)の審決取消請求訴訟の応訴 300万円 カ 東京高等裁判所平成14年(行ケ)第547号審決取消訴訟への補助参加 200万円 キ 本件訴訟の提起 200万円 (被告の主張) 原告の主張(2)の被告が本件仮処分命令に関する事実を業界紙に情報提供したことは認めるが、その余の事実は否認する又は知らない。
3 不当利得 (原告の主張) 本件仮処分命令により生じた原告の販売低下による損失は、同時にそれに相応する販売上の利益を被告に生じさせたものである。被告のこのような利益は、本件特許権が無効となった以上、法律上得られるべき利益ではない。そこで、原告は、予備的に、民法703条に基づく不当利得の返還を請求する。原告の損失額
被告の利益額は上記2の(原告の主張)(2)と同じである。なお、この損失や利益の具体的な算定は困難であるが、民訴法248条の規程が類推適用されるべきであり、また、特許法102条の規定も可能な範囲で利用されるべきである。
(被告の主張) 原告の主張はいずれも否認する。次のような事情があることに照らせば、原告における販売の減少が被告における販売の増加につながるものではないというべきである。
(1) 採光窓付き鋼製ドアの製造メーカーは多数あり、被告のシェアは約10%にすぎない。
(2) 原告と被告との顧客先は大きく異なる。また、被告における顧客への販売は、被告による販売努力、当該顧客との従前の取引関係、当該顧客からの信用等に基づいて成り立つものである。
(3) 原告は、本件仮処分命令の対象とされた採光窓付き鋼製ドアの製造を中止した後、別の製造方法による採光窓付き鋼製ドアの製造販売を新たに開始しており、前者の損失は後者の販売により解消されている。
判断
1 争点1(不法行為における被告の過失)について (1) 上記基本的事実によれば、本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする本件仮処分命令が発令され、その執行がなされた後に、本件特許を無効とする審決が確定したものである(仮処分は取り消され、本案訴訟は請求放棄で終了した。)。したがって、本件特許権は、初めから存在しなかったものとみなされる(特許法125条)から、結果的に、被告が本件仮処分命令を得てその執行をしたことは違法であったことになる。
仮処分命令が被保全権利の不存在を理由に取り消された場合、同命令を得てこれを執行したことに故意又は過失があったときは、債権者は民法709条により債務者がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があり、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、当該債権者には過失があったものと推認すべきではあるが、当該債権者において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、上記取消しの一事をもって同人に当然過失があったということはできないというべきである(最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3428頁参照)。
そして、上記に判示したところは、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令が発令され、その執行がされた後に、当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合も同様に解するのが相当である。 この場合、上記過失の推定を覆す事由の存否を判断するに当たっては、当該特許発明の内容、特許出願の経過、無効理由の内容、無効判断の根拠資料の内容、収集の難易、仮処分発令時までの相手方の対応その他の事情を総合考慮して検討すべきである。
(2) そこで、まず、本件特許を無効とした上記審決の理由(本件無効理由)をみると、上記審決は、次のような判断をしている(甲3)。
ア 刊行物1には、「窓の周縁からドアの内側に向って屈曲したガラス等の挟持用リブを備えたフラッシュ板を2枚重ね合せて成るフラッシュドアを製造するに当たり、平板状のフラッシュ板の窓の輪郭線より内側に挟持用リブの幅だけ内側に位置する開口部を形成し、上記構成のフラッシュ板をプレス加工によって窓の輪郭線の部分で内側に折り曲げ、挟持用リブが折り曲げられた2枚のフラッシュ板を挟持用リブが内側へ向くように、枠板及び補強板を介して重ね合わせ、補強板にガラスを挿入し、リブの間にガラスを嵌着するようにした窓付きスチール製フラッシュドアの製造方法」が記載されている。
イ 刊行物2には、「プレス加工により板部材に屈曲部を有するフランジを成形加工する際に、歪みの発生を回避するために、板部材の開口の各コーナー部に隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切り欠きによって形成すること」が記載されている。
ウ 本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、次の点で一致し、後記の点で相違する。
(一致点) 「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によって所定の寸法に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側に所定の寸法のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離が所定の寸法の隅フランジ代を形成し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光窓用ガラスを挿入して保持させた採光窓付き鋼製ドアの製造方法。」 (相違点) (ア) 本件発明では、絞り線のコーナー半径の所定の寸法が「ほぼ20o以下」であるのに対し、刊行物1には特定の寸法は記載されていない点(相違点1)。
(イ) 本件発明では、フランジ代の所定の寸法が「パネル板厚のほぼ8倍以上」であるのに対し、刊行物1には特定の寸法は記載されていない点(相違点2)。
(ウ) 本件発明では、隅フランジ代の所定の寸法が「パネル板厚のほぼ8倍以下」となる、及び、隅フランジ代を「先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって」形成するのに対し、刊行物1には、隅フランジ代の特定の寸法、及び、隅フランジ代を上記のように形成することは記載されていない点(相違点3)。
エ 上記各相違点について検討すると、相違点3の開口部の各コーナー部に隅フランジ代を先端に丸味を備えた切り欠きによって形成することは、刊行物2記載の技術的思想を用いて、当業者ならば容易に想到し得たものであり、相違点1ないし3の数値限定は、数値に臨界的意義が認められず、当業者が適宜選択する事項である。そして、本件発明の効果も刊行物1及び2記載の発明から予測し得る程度のものである。
オ したがって、本件発明は、刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(3) 次に、上記審決に対する審決取消訴訟の判決をみると、本件被告は、
審決取消事由@として「本件発明と刊行物1(引用例1)記載の発明との一致点の認定の誤り」、同Aとして「相違点1、2についての判断の誤り」、同Bとして「相違点3についての判断の誤り」を主張したが、東京高等裁判所はいずれの主張も排斥し、審決の判断に誤りはないとして、請求を棄却したことが認められる(甲3)。
(4) 上記のとおり、審決は、刊行物1及び2から本件発明に進歩性がないと判断し、東京高等裁判所の判決もこの判断を是認したものである。しかし、 一般に、特許の有効性に関する判断は、当業者であれば常に正しく判断し得るものとは限らないし、特に本件のような進歩性(特許法29条2項)の有無に関する判断にあっては、要求される先行技術の調査範囲としても、当該技術分野に限定してよいとは限らず、他の技術分野における技術の転用可能性も視野に入れる必要が存するほか、どのような刊行物を探索収集すればよいか、いかなる組み合わせを検討すればよいか、いかに当該発明の容易推考性を基礎付けられるか等の個別的問題を想定すれば、当業者はもとより、特許権者自身といえども、相当の困難を伴う場合もあり得ると考えられる。さらに、上記審決及び取消訴訟判決の内容を検討しても、
引用例とされた刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたという判断過程には、相違点についての判断等、微妙な法的評価が含まれていると解され、刊行物1及び2の存在を知り得たことを前提としても、当業者であればそのような判断をすることが当然に期待できるものとは直ちに言い難いと考えられる。
(5) そこで、更に進んで、本件仮処分事件及びこれと併行して審理された前訴の特許権侵害差止等請求訴訟の審理経過の概要につき検討すると、後掲証拠と当裁判所に顕著な事実によれば、次の事実が認められる。
ア 本件仮処分事件においては、債権者・債務者双方の審尋が行われたが、
債務者(本件原告)の主たる攻撃防御方法は、(本件仮処分命令の対象とされた採光窓付き鋼製ドアが本件発明の技術的範囲に属することを前提として)@債務者は、本件特許出願前に本件発明と同一の発明実施を準備していたから先使用による通常実施権が存在する、A本件特許出願前に債権者は本件発明の実施品を宣伝・販売していたから、本件発明は出願前公知であり、本件特許は無効とされるべきものである、B債務者は、本件特許による採光窓付き鋼製ドアの製造方法を既に変更しており、その在庫も有しないから、保全の必要性を欠く、というものであり、本件無効理由に関する主張立証は全くなされておらず、刊行物1及び2の提出も行われていなかった(乙1〜3)。本件仮処分事件の担当裁判所は、債務者の上記@〜Bの主張をいずれも採用することができないと判断して、本件仮処分命令(甲1)を発令した。
イ 前訴においても、その被告であった本件原告は、主として、本件仮処分事件と同じく、先使用による通常実施権の主張をするとともに、本件原告が通常実施権を有することの確認を求める反訴請求(大阪地方裁判所平成10年(ワ)第5621号)をも提起したが、侵害論の審理終了時までに、本件無効理由に関する主張立証は全く行わず、先使用の成否についての主張立証が審理の中心であった。前訴被告による採光窓付き鋼製ドアの製造販売は本件特許権を侵害するものとして、損害論の審理が開始されたが、前訴において本件無効理由に関する主張立証が提出されたのは、損害論の審理がかなり進行した後のことであった(かえって、本件原告は、損害論の審理に入った後の平成12年4月14日付け準備書面(甲15)においても、損害論の審理に関する主張を行う一方、侵害論に関しても、先使用に関する主張を依然として繰り返していた。)。損害論の審理中に、本件特許を無効とする審決が出たが、これを受けて、前訴の裁判所は、審決の確定まで訴訟手続を中止した。
(6) 本件無効理由の主張立証の提出が後れた点に関し、前訴被告である本件原告は、前訴原告(本件被告)と対比して、自己及びその委任に係る代理人の調査能力が劣っていたことを根拠とするかのようである。しかし、本件仮処分事件の債務者であった本件原告は、平成10年3月16日当時、その主張に係る自らの新たな製造方法につき弁理士に特許出願を依頼済みであったことが認められ(乙3)、相応の企業規模を有し(甲12の1及び2)、多額の販売実績もあった(争点2における原告の主張参照)原告において、少なくとも同弁理士を通じて本件仮処分事件に関する助言や、他の弁護士や弁理士の紹介を受けることは可能であったと考えられるのであるから、本件無効理由の主張立証が容易であったにもかかわらず、これをなし得ないほど原告側の調査能力が劣っていたとは認めるに足りない。原告の主張を前提としても、原告がその無効理由の根拠の1つとなった刊行物1(甲17の1)を発見し得たのは、本件仮処分事件申立時から実に3年以上も経過した平成12年12月12日(上記無効審判請求提起日。甲3)ころのことであったと推認し得るから、原告主張のように、被告が高度な技術力を有する(甲18の1)と仮定しても、刊行物1及び2(甲17の1及び6)やこれに基づく本件無効理由が存することにつき、本件仮処分事件当時、被告がこれを知っていた又は知り得べきであったとまでは認めるに足りない。
また、本件特許に対する無効審判請求を提起するか否かが原告の選択に委ねられるとしても、原告は、その主張を前提とすれば、本件無効理由の根拠とすべき刊行物1(甲17の1)を既に発見していたにもかかわらず、敢えて無効審判請求を提起しなかったのではなく、本件仮処分事件当時、これをそもそも発見し得なかったものである。同様に、前訴においても、原告は、キルビー特許事件最高裁判決(最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決)が言い渡されるまで、敢えて本件無効理由を主張立証しなかったものではない。むしろ、原告としては、多大な労力と時間を費やした結果、ようやく本件無効理由の根拠となり得る刊行物を見い出し、本件無効理由を主張立証することができたものと推認される。さらに、前訴においては、本件無効理由が主張立証され、無効審決が書証として提出された後も、
無効理由が存在することが明らかであるとはいえないものとして、特許法168条2項により訴訟手続が中止されるに至ったのであるから、前訴の裁判所も、本件無効理由の有無に関する判断は微妙なものがあるととらえていたのである。このような本件仮処分事件及び前訴の審理経過に照らすと、その根拠とする基礎資料の探索収集、無効理由の具体的構成、容易推考性の検討等の点で、本件無効理由に関する主張立証は、本件原告側にとっては相当の困難を伴うものであったというべきであり、これを本件被告側からみれば、本件特許が有効であると信ずるにつき相応の根拠があったというべきである。
(7) 以上の点を総合考慮すれば、本件仮処分事件において、被告が本件特許権を行使するについては相当の事由があり、他に被告の過失を基礎付けるに足りる証拠はないというべきである。したがって、主位的請求である不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 争点3(不当利得)について (1) 原告は、予備的請求として、民法703条に基づく不当利得返還請求権がある旨を主張するところ、原告主張のような不当利得が成立するためには、本件仮処分命令の発令とその執行により原告が損失を被り、一方で被告が利益を得たことが認められるとともに、この損失と利得の間に因果関係が存在することが必要である。
(2) しかし、証拠(後掲各書証)によれば、原告は、本件仮処分命令の発令に先立ち、その対象とされた採光窓付き鋼製ドアの製造販売を自ら中止し、本件発明とは別の新たな製造方法による採光窓付き鋼製ドアの製造販売を開始したこと(乙3)、平成10年3月16日の時点では、本件仮処分命令の対象とされた採光窓付き鋼製ドアの在庫をほとんど有していないと主張しており(乙3)、現に本件仮処分命令後間もない時期に執行されたにもかかわらず、執行官保管の対象とされたのは、わずか2枚にすぎなかったこと(甲2)、防火ドア等の市場占有率は、原告、
被告のいずれもせいぜい10%程度にすぎず、他に同規模又はそれ以上の市場占有率を有する競合会社が少なくとも3社は存すること(乙15)が認められる。
(3) 上記(2)認定の事実によれば、本件仮処分命令の対象とされた採光窓付き鋼製ドアに関する限り、その債務者であった原告は、本件仮処分命令の発令を待つことなく、リスク回避に関する自らの判断に基づき、その製造販売を自発的に中止し、本件発明とは別の製造方法による採光窓付き鋼製ドアの製造販売を新たに開始しており、結果的にも、既存の採光窓付き鋼製ドアの納品を完了し、その在庫をほとんど有していなかったのであるから、本件仮処分命令の対象に係る採光窓付き鋼製ドアの製造販売の中止に伴う原告の損失との間に当然に因果関係があるということはできない。
また、本件仮処分命令の発令の事実が業界紙(甲4)により報道されたこと及びその情報提供者が被告であったことは当事者間に争いがなく、上記報道に伴い、原告が何らかの営業上の不利益を被った可能性は否定し難いものの、採光窓付き鋼製ドアを含む防火ドア等に関する市場占有率は、上記(2)認定のとおりであり、
原告から購入しない場合には被告から購入せざるを得ないという必然性又は高い蓋然性までは存しないのであるから、本件仮処分命令により、原告の製造販売に係るドアを購入しようとしていた顧客が、これに代えて、被告の製造販売に係るドアを購入したとまでは認めるに足りず、他に原告主張の因果関係を認めるに足りる証拠はない。
なお、原告主張のような、民訴法248条の規定の類推適用や特許法102条の規定の利用といったことは、これらの規定が対象とするところと性質の異なる不当利得返還請求においては考慮の余地がなく、原告の主張は失当である。
(4) したがって、予備的請求である不当利得返還請求も、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 田中秀幸
裁判官 守山修生
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