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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10470審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先日 /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  拒絶審決 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 343号 特許取消決定取消請求事件
平成 15年 (行ケ) 126号 審決取消請求事件
原告(両事件) 日本ペイント株式会社
訴訟代理人弁理士 目次誠,宮ア主税
被告(両事件) 特許庁長官 今井康夫
指定代理人 谷口浩行,森田ひとみ(第343号事件のみ),林栄 二,一色由美子,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 両事件につき,原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
(平成14年(行ケ)第343号) 「特許庁が異議2000-71215号事件について平成14年5月22日にした決定中,請求項8に関する以外の部分を取り消す。」との判決。
(平成15年(行ケ)第126号) 「特許庁が訂正2002-39197号事件について平成15年2月26日にした審決中,請求項8に関する以外の部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第2957560号「積層塗膜の形成方法及び積層塗膜」(国内優先日平成9年6月20日,平成10年6月19日特許出願,平成11年7月23日設定登録)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがあり(異議2000-71215号),原告は,平成12年11月6日,願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求をした。この特許異議事件について,平成14年5月22日,「訂正を認める。特許第2957560号の請求項1ないし7,9に係る特許を取り消す。同請求項8に係る特許を維持する。」との決定があり,その謄本は,同年6月10日原告に送達された。この決定のうち請求項8に関する以外の部分の取消しを求める訴訟が,平成14年(行ケ)第343号事件である。
原告は,平成14年9月19日,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する訂正審判を請求したが,平成15年2月26日,訂正審判請求は,成り立たないとの審決があり,その謄本は,平成15年3月8日,原告に送達された。この審決のうち請求項8に関する以外の部分の取消しを求める訴訟が,平成15年(行ケ)第126号事件である。
2 本件発明の要旨 (1) 平成12年11月6日の訂正請求に係る特許請求の範囲の記載(下線部分が設定登録時の特許請求の範囲からの訂正部分。請求項8は訴訟の対象外であるが,参考のため) 【請求項1】 金属面光沢を示す積層塗膜を形成する方法であって, 被塗物の上にベース塗膜層を形成する工程と, 前記ベース塗膜層の上に,蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を顔料重量濃度(PWC)が15%以上 となるように 含むメタリック 塗料 を塗布 して ,厚み(乾燥膜厚 )が2μm以下 (但し,2μmを除く)のメタリック 塗膜層 を形成 する工程 と,前記メタリック塗膜層の上にクリヤ上塗り層を形成する工程とを備え,前記ベース塗膜層を塗布した後,前記メタリック塗料中の光輝性顔料が沈み込むことなく 該ベース 塗膜層 の表面 に沿って 配向 できる 程度 に該ベース塗膜層を硬化させ,その後に前記メタリック塗料を塗布することを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項2】 前記ベース塗膜層が,溶剤型塗料又は粉体塗料から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項3】 前記クリヤ上塗り層が,溶剤型塗料又は粉体塗料から形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項4】 前記溶剤型塗料が,一液型塗料又は二液型塗料であることを特徴とする請求項3に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項5】 前記ベース塗膜層がクリヤ塗料から形成されており,前記クリヤ上塗り層がクリヤ塗料又は濁りクリヤ塗料から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項6】 前記ベース塗膜層が着色塗料から形成されており,前記クリヤ上塗り層がクリヤ塗料又は濁りクリヤ塗料から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項7】 前記光輝性顔料がアルミニウム粉であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項8】 メタリック塗料が実質的に前記光輝性顔料と溶剤から構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項9】 メタリック 塗料 が,蒸着金属膜 を粉砕 して 金属片とした光輝性顔料と,溶剤と,バインダー樹脂とを含み,光輝性顔料の顔料重量濃度(PWC)が15%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
(2) 訂正審判請求による特許請求の範囲の記載(下線部分が設定登録時の特許請求の範囲からの訂正部分。請求項8は訴訟の対象外であるが,参考のため)【請求項1】金属面光沢を示す積層塗膜を自動車部品又は自動車車体 に形成する方法であって, 被塗物の上にベース塗膜層を形成する工程と, 前記ベース塗膜層の上に,蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を顔料重量濃度(PWC)が15%以上となるように含むメタリック塗料を塗布して ,厚み(乾燥膜圧 )が1μm以下 のメタリック 塗膜層を形成する工程と, 前記メタリック塗膜層の上にクリヤ上塗り層を形成する工程とを備え, 前記ベース塗膜層を塗布した後,前記メタリック塗料中の光輝性顔料が沈み込むことなく 該ベース塗膜層の表面に沿って配向できる程度に該ベース塗膜層を硬化させ,その後に前記メタリック塗料を塗布し,前記 メタリック 塗膜層中 の光輝性顔料が前記 ベース 塗膜層 と前記 クリヤ 上塗 り層に挟まれた 状態 で面状 に配向 している 積層塗膜 を形成 することを特徴とする積層塗膜の形成方法。
【請求項2】前記ベース塗膜層が,溶剤型塗料又は粉体塗料から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項3】前記クリヤ上塗り層が,溶剤型塗料又は粉体塗料から形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項4】前記溶剤型塗料が,一液型塗料又は二液型塗料であることを特徴とする請求項3に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項5】前記ベース塗膜層がクリヤ塗料から形成されており,前記クリヤ上塗り層がクリヤ塗料又は濁りクリヤ塗料から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項6】前記ベース塗膜層が着色塗料から形成されており,前記クリヤ上塗り層がクリヤ塗料又は濁りクリヤ塗料から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項7】前記光輝性顔料がアルミニウム粉であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項8】メタリック塗料が実質的に前記光輝性顔料と溶剤から構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項9】メタリック 塗料 が,蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料と,溶剤と,バインダー樹脂とを含み,光輝性顔料の顔料重量濃度(PWC)が15%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法。
3 特許取消決定決定及び訂正拒絶審決で共通に引用された刊行物 刊行物1:特開平7-227179号公報(本訴甲第7号証) 刊行物2:特開昭53-9836号公報(本訴甲第8号証)) 刊行物3:特公昭62-45905号公報(本訴甲第9号証)) 4 決定(特許取消決定)の理由の要点(原告の取消事由に即する関係で,理由の骨子のみを摘示する。) 平成12年11月6日の訂正請求に係る訂正事項は適法であるから,当該訂正を認める。
訂正後の請求項1〜7及び9に係る発明は,刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
訂正後の請求項8に係る発明の特許については,特許異議申立人の申立理由に係る取消理由はなく,他にこれを取り消すべき理由はない。
5 審決(訂正拒絶審決)の理由の要点 (1) 訂正拒絶の理由 平成14年11月25日付けで通知した訂正の拒絶の理由の概要は,次のとおりである。
訂正明細書の請求項1に係る発明(訂正審判発明1)は,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,この訂正は,特許法126条4項の規定に適合しない。
(2) 審決の判断 (2)-1 対比 刊行物1には,部材本体上に,下地層,模様層及び保護層の3層構造の金属光沢を示す積層塗膜を形成する方法が示されている(刊行物1の段落【0012】,段落【0014】,段落【0016】〜段落【0020】,【図1】参照)。
ここで,刊行物1の層構成と訂正審判発明1とを対比すると,刊行物1の下地層は訂正審判発明1のベース塗膜層に,刊行物1の模様層は訂正審判発明1のメタリック塗膜層に,刊行物1の保護層は訂正審判発明1のクリヤ上塗り層に,それぞれ対応するものといえる。
そして,刊行物1の模様層に含有される光輝性の粒子はフィルムなどの支持基板上に金属を蒸着した後金属層を支持基板から剥離して粉砕することによって作製したものである(段落【0015】参照)から,これは,訂正審判発明1のメタリック塗膜層に含まれる蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料に相当する。
そうしてみると,訂正審判発明1と刊行物1記載の発明とは,「金属面光沢を示す積層塗膜を形成する方法であって,被塗物の上にベース塗膜層を形成する工程と,前記ベース塗膜層の上に,蒸着金属膜を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含むメタリック塗料を塗布して,メタリック塗膜層を形成する工程と,前記メタリック塗膜層の上にクリヤ上塗り層を形成する工程とを備えることを特徴とする積層塗膜の形成方法。」である点で一致し,次の(イ)〜(ニ)点で相違している。
(イ)金属面光沢を示す積層塗膜を形成する被塗物が,訂正審判発明1においては,自動車部品又は自動車車体であるのに対し,刊行物1に記載の発明では釣り用具である点(ロ)メタリック塗料が,訂正審判発明1においては,光輝性顔料を顔料重量濃度(PWC)が15%以上となるように含むものであるのに対し,刊行物1に記載の発明においては光輝性顔料の顔料重量濃度について明記されていない点(ハ)形成するメタリック塗膜層の厚さが,訂正審判発明1においては,厚み(乾燥膜厚)が1μm以下としているのに対し,刊行物1に記載の発明においては,厚みについて明記されていない点(ニ)訂正審判発明1では,前記ベース塗膜層を塗布した後,前記メタリック塗料中の光輝性顔料が沈み込むことなく該ベース塗膜層の表面に沿って配向できる程度に該ベース塗膜層を硬化させ,その後に前記メタリック塗料を塗布するとしているのに対し,刊行物1に記載の発明では,格別明記していない点 (2)-2 相違点(イ)の点についての検討 刊行物1には,金属面光沢を示す積層塗膜を形成する被塗物として,釣り竿,リール,玉網,ルアー等として例示されている。そして,これらの被塗物が,金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観模様が得られることが記載されていることからすれば,被塗物が光輝性を有した外観模様を必要とするものであれば,特に被塗物を限定する必要もない。また,被塗物を限定しなければ被塗物としての効果を奏さないというものでもない。
したがって,訂正審判発明1において,被塗物として「自動車部品又は自動車車体」とすることが,格別の創意工夫を要するものとはいえない。
(2)-3 相違点(ロ)の点についての検討 刊行物1には,優れた光輝性による良好な外観を有すること(段落【0025】【発明の効果】参照),また,光輝性を有する粒子が高密度に密集していること(【請求項1】,段落【0011】,段落【0012】,段落【0025】など参照)が記載され,このような刊行物1の記載からすると,光輝性を有する粒子は模様層中で高濃度で含有されていることが十分うかがわれる。
また,刊行物2には,結合剤対蒸着法によって得た金属フレークの比率が0.005対1〜10対1となるように使用することが記載され,また,刊行物3には,蒸着法によって得たアルミニウム顔料とアクリル結合剤を1g対0.5gの割合で使用することが記載され,しかも,必要とする光輝の程度により光輝性を有する粒子を必要量配合することは適宜行い得ることといえるから,光輝性顔料を顔料重量濃度(PWC)が15%以上となるように使用してみることは当業者が容易になし得ることといえる。
してみれば,(ロ)の点は刊行物1〜3の記載から当業者が格別の創意工夫を要することなく容易になし得ることである。
(2)-4 相違点(ハ)の点についての検討 刊行物1の模様層の厚さについては,その段落【0017】には「また,模様層14の厚さは2μm以上であればよいが,20μm以下であることが好ましい。これは,模様層14の厚さが2μm未満であると厚さ2μmの粒子を用いた場合に粒子が露出してしまうからである。」と記載されていて,模様層の厚さを2μm以上にする理由が2μmの厚さの粒子を使用した場合の不都合に起因することが示されているところからすると,粒子の厚さを更に薄くすれば模様層の厚さは必ずしも2μm以上でなくてもよく,模様層の厚さをより薄くできることは容易に理解できることである。
そして,刊行物1の模様層に含有される光輝性を有する粒子の厚さについては,その段落【0016】に「また,粒子13の厚さは2μm以下であることが好ましい。これは,粒子13の厚さが2μmを超えると模様層中に配置する際に凹凸ができ易く,光輝性が低下するからである。さらに,粒子13の厚さは0.03〜1.0μmであることが特に好ましい。これは,粒子13の厚さが0.03〜1.0μmの範囲内であれば粒子13を良好に高密度に密集させて配置することができ,良好に光を反射することができ,実用的である。」と記載されているのであるから,このような0.03〜1.0μmという2μm以下の厚さの粒子の使用が記載されていれば,当然に,そのような粒子を使用すれば模様層の厚さを2μm未満とすることができることも,当業者が容易に想到し得ることである。
したがって,メタリック塗膜層の厚みについて「厚み(乾燥膜厚)が1μm以下」とする点に格別の困難性があるとはいえない。
(2)-5 相違点(ニ)の点についての検討 刊行物1の段落【0014】には,下地層12を塗装で形成する場合,エポキシ系やウレタン系の塗料を使用すると記載され,エポキシ系やウレタン系の塗料は当然に硬化性ないし硬化性のものを含むものは周知事項(例えば,「塗装実務読本-第2版-」235-237頁,71頁,238頁,62-63頁,1983年1月20日日刊工業新聞社発行,「塗料と塗装」昭和58年7月30日4版3刷,株式会社パワー社発行,第1〜11頁参照)といえるから,下地層は硬化するものであることは明白であり,そして,刊行物1の段落【0014】には「なお,下地層12の表面は,模様層14を良好に形成することができるように,ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。」と記載されており,鏡面状の平滑に仕上げるということは当然に硬化した状態が想定されるのみならず,模様層形成との関係で平滑にするということは,模様層中の粒子が硬化によって下地層に沈むことがないことを当然にうかがわせるものである。
そして,刊行物1は,段落【0014】で下地層の形成に言及し,段落【0015】及び段落【0016】で光輝性を有する粒子に言及し,段落【0017】〜段落【0019】で模様層の形成に言及し,段落【0020】で保護層の形成に言及している。このような記載からみて,刊行物1記載の発明は,下地層を硬化させた後に模様層を形成させることは少なくとも記載されていたに等しいとみることができ,段落【0018】で述べているような「粒子13を高い添加率で粒子を合成樹脂に混合して塗料を作製し,その塗料を部材本体に塗布した後,乾燥・硬化させる方法」や「部材本体11又は下地層12に合成樹脂を塗布して半硬化の状態としておき,前記粒子13をその上に密に配置し,その後合成樹脂を完全硬化させる方法」はあくまでも刊行物1記載の発明の一つの態様であって,それに限られるというものではない。
また,刊行物1の模様層中の光輝性の粒子は蒸着によって形成され,その大きさに比して厚さが小さい平らな形状を有するものであるから(段落【0015】,段落【0016】参照),下地層が硬化して平滑ならばその平滑面に沿って平らに配向することも容易に理解できるところである。さらに,段落【0011】には,「金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観模様を形成することができる」ことも記載されている。
してみれば,訂正審判発明1の,「前記ベース塗膜層を塗布した後,前記メタリック塗料中の光輝性顔料が沈み込むことなく該ベース塗膜層の表面に沿って配向できる程度に該ベース塗膜層を硬化させ,その後に前記メタリック塗料を塗布し,前記メタリック塗膜層中の光輝性顔料が前記ベース塗膜層と前記クリヤ上塗り層に挟まれた状態で面状に配向している積層塗膜を形成すること」は,刊行物1に記載された事項から容易に想到し得ることである。
また,訂正審判発明1により奏される効果も,訂正明細書の記載によっては,格別予想外のものということはできない。
(3) 結論 したがって,訂正明細書の請求項1に係る発明は,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 以上のとおり,本件審判の請求は,特許法126条4項の規定に適合しない。
原告主張の審決(訂正拒絶審決)取消事由
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は,刊行物1の層構成と訂正審判発明1とを対比して,刊行物1の模様層は訂正審判発明1のメタリック塗膜層に対応すると認定するが,誤りである。
(1) 刊行物1の【請求項1】,【0008】,【0010】,【発明の効果】,【0012】,【0021】,【0023】及び刊行物1の特許権者が特許異議手続で提出した意見書(甲第10号証)等の記載から,刊行物1の「模様層」は,光輝性を有する粒子が,模様層の厚み方向の上面近傍,中央部又は下面近傍などの特定の部分に高密度に密集して配置したものであることが明らかであるのに対し,訂正審判発明1の「メタリック塗膜層」は,光輝性顔料を含有する塗料を塗布することによって形成するものであるから,メタリック塗膜層中の光輝性顔料は厚み方向にほぼ均等に存在しており,厚み方向の上面近傍,中央部,又は下面近傍などの特定部分に密集して配置されているものではない。
(2) 刊行物1の【0018】には,模様層を形成する方法として,(A)粒子13を高い添加率で粒子を合成樹脂に混合して塗料を作製し,その塗料を部材本体に塗布した後,乾燥・硬化させる方法と,(B)部材本体11又は下地層12に合成樹脂を塗布して半硬化の状態としておき,前記粒子13をその上に密に配置し,その後合成樹脂を完全硬化させる方法の2つの方法が記載されている。ビヒクル中において浮上し,塗膜の表面近傍において平行に配列する光輝性顔料として知られるリーフィングタイプの光輝性顔料は,実際には粒子全体のごく一部が表面に平行に配列するにすぎない(甲第10号証(刊行物1の特許異議申立事件において特許権者から提出された意見書))から,(A)の方法では,刊行物1に記載の上面近傍に粒子が密集して配置された状態の模様層を形成することは困難であり,(B)の方法によって刊行物1に開示された模様層を形成できることが,当業者に認識されるものである。したがって,刊行物1の模様層は,訂正審判発明1のメタリック塗膜層の形成方法によって形成することができるものではない。
(3) 刊行物1の【0002】〜【0005】,【0022】,【0021】及び甲第10号証(刊行物1の特許異議申立事件において特許権者から提出された意見書)によれば,刊行物1の発明における模様層は,模様層内の上面近傍,中央部,又は下面近傍などの特定部分に密集して位置することにより,「ほぼ同一平面上に全面にわたって粒子が密集して配置されている」もので,これにより「金属を鏡面状に研磨したときに得られるような光輝性を示す」ものである。
他方,訂正審判発明1は,訂正明細書【0005】,【0006】,【0026】,【0042】の記載から明らかなように,鏡面光沢のような強すぎる光沢を付与するものではなく,金属面を“艶消し”したようなマット状の柔らかい金属面光沢を付与するもので,【0024】に記載されているように,メタリック塗膜層の厚みを薄くすることにより光輝性顔料を面状に配向させ,良好な金属面光沢を得ようとするものである。メタリック塗膜層の厚みが厚くなると,ベース塗膜層から離れて存在する光輝性顔料が増えて,面状に配向されない光輝性顔料が増えるし,光輝性顔料の重なり部分が増えて,面状に配向しない光輝性顔料の量が増加する結果,金属面光沢ではないキラキラした光沢となり,所望の金属面光沢が得られなくなる。このように,訂正審判発明1においては,光輝性顔料を面状に配向させることが重要なのであり,光輝性顔料を密集させることは,光輝性顔料の面状配向の妨げとなるから,好ましくない。
刊行物1の発明において(A)の方法を想定したとしても,刊行物1には,訂正審判発明1の「ベース塗膜層の表面に沿って光輝性顔料を配向させる」という技術的思想は開示されておらず,その示唆もなされていないのである。
2 取消事由2(相違点ハについての判断の誤り) 審決は,「0.03〜1.0μmという2μm以下の厚さの粒子の使用が記載されていれば,当然にそのような粒子を使用すれば模様層の厚さを2μ未満とすることができることも,当業者が容易に想到し得ることである。」,「メタリック塗膜層の厚みについて『厚み(乾燥塗膜)が1μm以下』とする点に格別の困難性があるとはいえない。」とするが,誤りである。
(1) 審決の判断の根拠となっている刊行物1の記載(【0016】【0017】)は,0.03〜1.0μmの厚さの粒子を用いる場合においても,模様層14の厚さは2μm以上であればよいが,20μm以下であることが好ましいことを説明しており,刊行物1には模様層の厚みを1μm以下にするような示唆はない。
また,(A)の方法では,たとえ粒子の厚さが厚くてもその表面にバインダーである合成樹脂の層がある程度被覆しているはずで,粒子が露出することは考えられないのに対し,(B)の方法では,合成樹脂層の厚みが粒子の厚みよりも薄くなると粒子の表面が露出するから,【0017】の記載は(B)の方法を前提とするものである。したがって,(A)の方法により模様層を形成する場合,【0017】の記載を根拠にして模様層の厚みを1μm以内にすることが容易であるということはできない。
(2) 訂正審判発明1が,塗装の対象物としている自動車部品及び自動車車体においては,塗膜に対して非常に厳しい基準が設けられており,均質な塗膜を形成する必要があるが,1μm以下の厚みの塗膜を形成しようとすると,被塗物にまばらに付着した膜しか形成することができず,連続した塗膜を形成することができないから,当業者は,特別な事情がない限り,1μm以下のような薄い塗膜を形成しようとすることはあり得ない。「自動車部品又は自動車車体」に対する従来のメタリック塗装においては,メタリック塗膜層の厚みは15〜20μm程度であり(甲第14号証(「塗装技術」1982年4月号95頁〜100頁),甲第15号証(「塗装技術」1980年10月増刊号89頁〜91頁)及び甲第16号証(「わかりやすいコーティング技術」工業調査会発行27頁〜29頁),1μm以下のメタリック塗膜層の厚みは,当業者の技術常識からは想到し得ない薄い膜である。光輝性顔料を含有する塗料の塗装方法は限られ,自動車部品や自動車車体には一般的にスプレー塗装が用いられる。参考資料1〜3(参考資料1:「スプレーの条件と塗膜の形成」『塗装の技術』1970年Vol.5 No.5 31頁〜37頁。参考資料2:「高塗着効率,多色用静電塗装ハンドガンの開発」『塗装工学』1996年Vol.31 No.9 378頁〜386頁。参考資料3:「21世紀の扉を開く新塗装システムの開発」『塗装工学』1996年 Vol.31 No.6 223頁〜231頁)より,スプレー塗装において噴霧される塗料粒子の粒子径は10〜100μmの範囲内である。厚み1μmの塗膜を形成する場合,塗料がバインダー10%及び溶剤90%含有するものであるとすると,塗装した後乾燥する前の塗膜の厚みはおよそ10μm程度であると考えられ,塗料粒子として最も小さい10μmのみを選んで塗装したとしても10μmの膜を均一に形成できないことは明らかであるから,模様層の厚みを1μm以下とすることは技術的に困難である。塗膜の厚みを1μm以下にすると,塗膜がまばらに配置されて不均一かつ不連続な塗膜が形成される。塗膜がまばらに配置されると,塗膜中に含まれる光輝性粒子も当然のことながらまばらになり,「全面にわたって粒子が密集して配置された」状態とすることができない。したがって,刊行物1の発明において模様層の厚みを1μm以下にすることは,作用効果上から好ましくなく,阻害要因を有している。
(3) 訂正拒絶理由通知書に対して原告が提出した意見書(甲第4号証)に添付の実験成績証明書からも明らかなとおり,メタリック塗膜層の厚みを1μm以下に限定することにより,良好な金属面光沢を得ることができ,またその際の塗膜の層間密着性も良好である。
訂正明細書【0024】には,メタリック塗膜層の厚みを非常に薄くすることにより,メタリック塗膜層中の光輝性顔料を面状に配向させ,これによって良好な金属面光沢を得ており,実施例ではメタリック塗膜層の厚みを1μmとしているから,訂正審判発明1の「金属面光沢が良好になる」という効果は,明細書に記載された効果であり,実験成績証明書によって立証された効果でもあるから,進歩性を判断する上で参酌されるべきである。訂正審判発明1のメタリック塗膜層の厚みは1μm以下と非常に薄いため,厚み方向における光輝性顔料の重なりは,刊行物1の模様層における厚み方向の粒子の重なりに比べ非常に少なく,面方向においても刊行物1の模様層中における粒子状態に比べ密集の度合いが少なくなっており(甲第18号証の顕微鏡写真),メタリック塗膜層の厚みを1μ以下とすることにより,ベース塗膜層とクリア上塗り層に挟まれた状態で光輝性顔料を面状に配向させることが,良好な金属面光沢を与えるという作用効果をもたらすものである。
訂正明細書の表2には,訂正審判発明1の光輝性顔料を用いた場合には,メタリック塗膜層の厚みが1μmであっても密着性が良好であり,一方従来のアルミニウムフレークを用いた場合には,メタリック塗膜層の厚みを1μmにすると密着性が悪くなることが示されているから,当業者は,訂正審判発明1の光輝性顔料を用いた場合には,メタリック塗膜層の厚みを薄くしても密着性が良好であることを認識できる。「塗膜密着性が良好である」という効果は,明細書に記載された効果として進歩性判断において参酌されるべきである。
3 取消事由3(相違点ニについての判断の誤り) 審決は,「刊行物1の段落【0014】には『なお,下地層12の表面は,模様層14を良好に形成することができるように,ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。』と記載されており,鏡面状の平滑に仕上げるということは当然に硬化した状態が想定されるのみならず,模様層形成との関係で平滑にするということは,模様層中の粒子が硬化によって下地層に沈むことがないことを当然にうかがわせるものである。」とするが,誤りである。
(1) 刊行物1において,模様層中の粒子は模様層の上面近傍に密集して配置されている旨説明されており,粒子と下地層表面との間には合成樹脂層が存在しているから,刊行物1記載の発明では,「模様層中の粒子が下地層に沈むことがない」ように下地層をほぼ鏡面状の平滑に仕上げているわけではない。刊行物1【0014】の「下地層12の表面は,模様層14を良好に形成することができるように,ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。」の記載は,バレル研磨,バフ仕上げ等を行うことにより表面光沢を持たせることを意味しており,「模様層中の粒子が硬化によって下地層に沈むことがないことを当然にうかがわせる」ようなものではない。
(2) 被告は,刊行物1において下地層の表面を鏡面状の平滑に仕上げていることは明らかであると主張するが,平滑であることと塗膜が硬化していることとは明らかに技術的に異なる。塗料はその流動性により自然と平滑となるので,塗料を単に塗布しただけでも,溶剤を除去して乾燥した状態でも塗膜の表面は平滑である。ベース塗膜層が単に乾燥しただけで十分に硬化した状態でないと,その上に塗布したメタリック塗料中の溶剤により,ベース塗膜層の表面が溶解し,ベース塗膜層の表面で光輝性顔料が流動したり,光輝性顔料が沈み込んだ状態となる。また,刊行物1の模様層中の粒子と下地層表面との間には模様層中の合成樹脂層が存在しているから,模様層中の粒子が沈むのは合成樹脂層であって,下地層に沈み込むことはあり得ず,下地層をほぼ鏡面状に平滑に仕上げることと模様層中の粒子の沈み込みとは関係ない。
(3) 被告は,刊行物1において,部材本体は合成樹脂,繊維強化プラスチック,金属又はセラミック等が用いられて硬いため,その表面を平滑にするのにバレル研磨やバフ仕上げが用いられるのに対し,下地層はその厚さを5〜30μmとすることにより,部材本体の凹凸に影響されることなくその表面が平滑となると主張するが,刊行物1の【0014】に記載されているように,下地層は,塗装,メッキ等の方法で形成することができるものである。塗装の場合エポキシ系やウレタン系塗料を用いることが記載されており,塗膜が硬化すれば,それは「合成樹脂」であり部材本体と同様に硬い材料となる。メッキにより下地層が形成されれば,それは「金属」であり部材本体と同様に硬い材料である。刊行物1には,下地層を単に平滑にすると記載されているのではなく,「ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい」と記載されているところ,単に下地層の厚さを5〜30μmとすることにより,下地層の表面がほぼ鏡面状の平滑に仕上げられるとは考えられない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 取消事由1における原告の主張は,刊行物1の【0018】には,模様層を形成する方法として「(A)粒子13を高い添加率で粒子を合成樹脂に混合して塗料を作製し,その塗料を部材本体に塗布した後,乾燥・硬化させる方法と,(B)部材本体11又は下地層12に合成樹脂を塗布して半硬化の状態としておき,前記粒子13をその上に密に配置し,その後合成樹脂を完全硬化させる方法」の2つの方法が記載されているが,甲第10号証(刊行物1の特許異議申立事件において特許権者から提出された意見書)によれば,ビヒクル中において浮上し,塗膜の表面近傍において平行に配列する光輝性顔料として知られるリーフィングタイプの光輝性顔料は,実際には粒子全体のごく一部が表面に平行に配列するにすぎないから,(A)の方法では,刊行物1に記載の上面近傍に粒子が密集して配置された状態の模様層は形成困難であり,刊行物1に開示された模様層は,実際には(B)の方法によらなければ形成できないことを前提とする。
(2) しかしながら,刊行物1(甲第7号証)には,「実施例1」の説明として,「上面近傍に比較的高密度に密集して配置された光輝性を有する粒子13を含む模様層14が形成されている」(【0012】)態様の模様層の形成方法に,上記(A),(B)2つの方法があることが記載されている(【0018】)のであるから,(A),(B)のいずれの方法でも上記態様の塗膜が形成できると解される。
上記甲第10号証の意見書には,刊行物1の特許権者の意見として,「『リーフィング現象』は,塗装の分野では一般的に知られている技術であり,刊行物2(判決注:上記特許異議事件における刊行物。「塗装工学」16巻1号の「アルミニウム・ペーストのことはじめ」の項を指す。)の記載によれば,模様を呈する粒子がビヒクル中に浮上し,その表面に平行配列するもの,と定義されています。しかしながら,表面に,いわゆる平行配列するのは,ビヒクル中にある粒子全体のごく一部にすぎないのであり,・・・実際には,『リーフィング現象』は,模様層内に混入された粒子が,刊行物1に開示されている発明と同様に,層全体に混合分散されるものです。・・・従いまして,刊行物1に開示されている発明の模様層に関し,刊行物2に記載されたリーフィングタイプの塗料を用いた場合,刊行物2に記載された定義どおり,ビヒクル(模様層)の表面部分に粒子が平行状に並ぶ,という塗膜(模様層)の構成を予測することは可能と思われます。しかし,粒子全体は参考資料2(判決注:昭和電工株式会社及び昭和アルミパウダー株式会社が92年の5月に発行したパンフレット)に示すように,模様層内に広く分散することから,刊行物1の第1図のような粒子の混合状態と差異は無くなり,このような態様からでは,本発明の特徴である『高密度にほぼ同一平面上に密集する』という構成を予測することは不可能です。」との記載がある(5頁)。
しかし,この記載は,特許異議手続における訂正拒絶理由で引用された塗装工学16巻1号の記事に記載のリーフィングタイプの塗料を用いたのでは,刊行物1の「(粒子が)高密度にほぼ同一平面上に密集する」という構成が達成できないことの意見を示しているにすぎず,この記載を根拠にして,刊行物1に記載された(A)の方法では刊行物1における上記特定の構成を有する模様層を形成することが困難であると認めることはできない。すなわち,「金属リーフィング材料の製法」について記載された刊行物3(甲第9号証)には,「極めて均一なうすい膜が最大リーフィング(leafing)性をえるに必要である。・・・450オングストローム以上の厚さでは粒子のリーフィング性は破壊されはじめる。」(7欄)と記載されており,粒子が厚いとリーフィング性に劣ることが認められることや,刊行物1に「粒子の厚さが0.03〜1.0μmの範囲であれば粒子13を良好に高密度に密集させて配置することができる」(【0016】)と記載されていることからすると,刊行物1における「光輝性粒子が高密度にほぼ同一平面上に密集する」という構成は,刊行物1に係る特許出願における拒絶理由で引用された「刊行物2」(塗装工学16巻1号21頁〜26頁「アルミニウム・ペーストのことはじめ」の項)に記載のリーフィングタイプの塗料を用いたのでは達成できないことはあり得るにしても,刊行物1に記載の蒸着金属膜を粉砕して金属片とした薄い光輝性粒子を含む塗料を用いれば,達成し得るものであると認めることができる。
(3) 以上のとおり,刊行物1における特定の模様層は,(B)の方法のみならず(A)の方法によっても形成可能と認められ,(A)の方法で形成する場合には,訂正審判発明1のメタリック層と,同種の光輝性顔料を混合した塗料を使用する点で違いがない以上,塗膜層中の光輝性顔料の分布状態にも違いはないと解されるから,取消事由1における原告の主張は前提において理由がない。
(4) 原告は,刊行物1記載の発明は,ほぼ同一平面上に全面にわたって粒子が密集して配置されていることにより,金属を鏡面状に研磨したときに得られるような光輝性を示すものであるのに対し,訂正審判発明1は,メタリック塗膜層の厚みを薄くすることにより,光輝性顔料を面状に配向させ,金属面を艶消ししたようなマット状の柔らかい金属面光沢を得ようとするものであるとも主張する。
原告のこの主張は,訂正審判発明1がメタリック塗膜層の厚みを薄くすることにより,光輝性顔料を面状に配向させ,その結果,刊行物1に記載の発明とは異なる金属光沢が得られることをいうものであるが,審決は,メタリック塗膜層の厚みの点について,一致点ではなく相違点として認定,判断しているのであるから,原告の上記主張をもってしては,審決に一致点認定の誤りがあるということはできない。
(5) なお,刊行物1の(A)の方法による模様層の形成においては,リーフィング現象,すなわち模様を呈する粒子がビヒクル中に浮上し,その表面に平行配列する現象を利用して,光輝性顔料を模様層の同一平面上に密集させているものと解されるから,光輝性顔料はリーフィング現象により下地層の表面に対して平行に配向しているということができる。したがって,刊行物1の発明においても,訂正審判発明1における「ベース塗膜層の表面に沿って光輝性顔料を配向させる」構成は示唆されているものと認めることができる。
(6) 以上のとおりであり,刊行物1の層構成と訂正審判発明1とを対比して,刊行物1の模様層は訂正審判発明1のメタリック塗膜層に対応するとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点ハについての判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1にはメタリック塗膜層の厚みを1μm以下とすることについての示唆がなく,模様層の厚さについて審決が引用する刊行物1の【0017】の記載は,(B)の方法によって模様層を形成することを前提とするものである旨主張する。
刊行物1の【0017】の記載,すなわち「模様層14の厚さは2μm以上であればよいが,20μm以下であることが好ましい。これは,模様層14の厚さが2μm未満であると厚さ2μmの粒子を用いた場合に粒子が露出してしまうからである。」との記載は,刊行物1における「模様層14の表面は平滑であることが好ましい。このようにすることにより,模様層14において鏡面状の光反射を均一に実現することができる」(【0019】)との記載からみて,模様層から粒子が突出して表面の平滑性を損なうことがないように,模様層の厚さは粒子の厚さとの関係で相対的に決定すべきであるということを意味するものと解されるから,(B)の方法によって模様層を形成する場合のみを想定したものであるとは認められない。
そして,刊行物1には「粒子13の厚さは0.03〜1.0μmであることが特に好ましい。」と記載されているのであるから,模様層の厚さは,上記の数値範囲から選択される粒子の厚さに応じて,当業者が適宜決定することができるものと認められる。
したがって,刊行物1に模様層の厚さを1μm以下とすることの直接的な示唆はなくとも,模様層の厚さを1μm以下とすることは,それが技術的に不可能であるなどの事情がない限り,当業者が容易に想到し得ることである。
(2) そして,刊行物1にはバインダーと溶剤の割合についての記載はなく,その割合は形成しようとする塗膜の厚さ等に応じて適宜調整可能と認められるから,バインダーと溶剤が特定の割合である場合に1μm以下の塗膜がまばらになるとしても,厚み1μm以下の塗膜を形成しようとする場合は常にまばらな塗膜しか得られないということにはならない。そして,他に,厚み1μm以下にするとまばらな塗膜しか得られないことを示す証拠もないから,これに反する原告の主張は理由がない。原告は,甲第14〜第16号証をもって,自動車部品又は自動車車体におけるメタリック塗膜層の厚みは通常15〜20μm程度であり,1μm以下の厚みは当業者の技術常識からは想到し得ないことの根拠となるとも主張するが,甲第14〜第16号証には,メタリック塗膜層の厚みの一例が記載されているにすぎないと認められ,これらの記載をもって,メタリック塗膜層の厚みを1μm以下とすることが当業者の技術常識から想到し得ないということはできない。
(3) 原告は,甲第4号証(訂正拒絶理由通知書に対して原告が提出した意見書)に添付の実験成績証明書に記載されているように,訂正審判発明1は,メタリック塗膜層の厚みを1μm以下に限定することにより,良好な金属面光沢と層間密着性が得られるもので,これらの効果は訂正明細書にも記載されたものであると主張する。
しかしながら,訂正審判発明1の実施例及び比較例で形成されたメタリック塗膜層はすべて厚さが1μmのものであって,メタリック塗膜層の厚みが1μm以下であるか否かによって金属面光沢及び密着性に差があることを示すものではない。上記実験成績証明書には,アルミニウム蒸着金属膜を粉砕して得られるアルミニウム粉をPWC100%となるように配合した塗料によって形成された厚み1μmのメタリック塗膜層と,塗膜層の厚みを5μm,10μmにそれぞれ変更したメタリック塗膜層とを比較した金属面光沢及び密着性の結果が示されているが,この結果は,訂正審判発明1の一態様の効果を示すものにすぎず,この実験成績証明書によっても,訂正審判発明1の全範囲について当業者の予測を超えた顕著な効果があるとまで認めることはできない。
なお,光輝性顔料が面状にうまく配向するか否かは,光輝性顔料粒子の厚みとメタリック塗膜層の厚みとの相対的な関係や,顔料の含有量等に影響されると認められのであり,メタリック塗膜層を1μm以下とするだけで原告主張に係る光沢性が得られると認めることはできない。
(4) 以上のとおりであって,審決の相違点ハについての判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点ニについての判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1記載の発明においては,模様層中の粒子が下地層に沈むことがないように下地層をほぼ鏡面状の平滑に仕上げているわけではないと主張する。
しかしながら,刊行物1(甲第7号証)には「下地層12の表面は,模様層14を良好に形成することができるように,ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。」(【0014】)と記載されているところ,「ほぼ鏡面状の平滑に仕上げる」ことについては,「部材本体11上に直接模様層14を形成する場合には,模様層14を良好に形成することができるように,部材本体11の表面をほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。部材本体11の表面を平滑に仕上げる方法としては,バレル研磨,バフ仕上げ等を挙げることができる。」(【0013】)と記載されていることからみると,下地層の表面も,部材本体の表面と同様にバレル研磨やバフ仕上げにより鏡面状の平滑に仕上げることが記載されていると認められる。そして,下地層の表面をバレル研磨やバフ仕上げする際には,下地層は事前にほぼ完全に硬化しているものと解され,下地層が硬化していれば,結果として模様層の光輝性粒子が下地層に沈み込むことはないから,刊行物1における下地層の硬化は,模様層の光輝性粒子が沈み込むことがない程度の硬化であるといえる。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2) 原告は,刊行物1の模様層中の粒子と下地層表面との間には模様層中の合成樹脂層が存在しているから,模様層中の粒子が沈むのは合成樹脂層であって,下地層に沈み込むことはあり得ず,下地層をほぼ鏡面状に平滑に仕上げることと模様層中の粒子の沈み込みとは関係ないとも主張する。
しかしながら,刊行物1には,「本実施例では,模様層14の上面近傍においてほぼ同一平面上に粒子13を密集させて配置しているが,模様層14の厚さ方向の中央部や下面近傍にほぼ同一平面上に粒子13を密集させて配置してもよい。」(【0023】)と記載されており,模様層の下面近傍に粒子が密集している場合には下地層が硬化していなければ粒子が沈み込むから,原告の主張は,前提において理由がない。
(3) 以上のとおり,審決の相違点ニについての判断に誤りはない。
4 原告のその余の主張について 取消事由として独立に摘示しなかったところであるが,原告は,相違点イに関し,自動車部品又は自動車車体を被塗物とする塗膜においては,刊行物1の釣り用具に施す塗膜に比べより厳しい基準が設けられているから,刊行物1に記載された塗膜を自動車部品又は自動車車体に適用することは容易でないと主張する。
しかしながら,刊行物1には金属様光沢を示す積層塗膜が記載されているのであるから,同様の光沢を得ようとする製品にこの塗膜を適用することは当業者が容易に想到することであって,その適用を阻害する事由は認められない。訂正明細書(甲第3号証)によっても,訂正審判発明1により得られる積層塗膜が,自動車用に求められる厳しい基準を実際に満足するものであると認めることはできないから,原告の主張は理由がない。
5 その余の訂正審判発明について及び特許取消決定の違法の有無について 訂正拒絶審決は,訂正審判発明1についてのみの訂正拒絶理由を判断しており,その余の訂正審判発明に関する訂正拒絶理由の有無についての判断をしていない。
しかし,特許取消決定においては,請求項1〜7及び9に係る発明すべてにつき,刊行物1〜3記載の発明に基づいて容易になし得たとの認定判断をしており,原告は,この認定判断について具体的に取り消すべき事由を主張していない。したがって,特許取消決定に違法があるということはできず,決定の取消しを求める原告の請求は棄却すべきものである。
訂正審判請求に係る請求項2〜7及び9も,特許取消決定で判断された請求項2〜7及び9の構成中,訂正審判発明1の構成を引用する部分を除いては同一のものとなっている。したがって,訂正審判発明の構成に関する部分についての訂正拒絶審決の取消事由が前記のように理由がない以上,訂正審判請求に係る請求項2〜7及び9記載の発明についても,特許取消決定で認定判断されたのと同じ理由により,刊行物1〜3記載の発明に基づいて容易になし得たと判断することができるのであり,本件訂正審判請求を一括して成り立たないものとした訂正拒絶審決の判断は結論として支持することができる(原告が取消しを求めていない請求項8に関する訂正拒絶審決部分は除く。)。
結論
以上のとおり,原告主張の審決及び決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実