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関連審決 無効2002-35163
関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 96号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 菊池武,佐藤治隆,小林郁夫,鷹見雅和 弁理士 古澤俊明,大垣孝
被告 エポコラム機工株式会社
訴訟代理人弁護士 渡邊敏,森利明 弁理士 松尾憲一郎,内野美洋
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35163号事件について平成15年2月13日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第2503045号発明「混合撹拌翼及びその使用方法」の特許権者である。本件特許は,昭和63年4月30日に出願され(特願昭63-108252号),平成8年3月13日に設定登録された。被告は,本件特許(請求項1〜3に係る特許)を無効にするとの審判を請求し,無効2002-35163号事件として審理された結果,平成15年2月13日,請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とするとの審決があり,その謄本は同月25日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 【請求項1】 外周に放射状に少なくとも一段に配設された攪拌翼を有し硬化剤を含むスラリーを移送可能な中空ロッドと,中空ロッドの先端部に配設されその径方向に延在する攪拌ヘッドと,中空ロッドに連通し攪拌ヘッド側に位置する攪拌翼の下方に設けられスラリーを吐出する吐出部とを具え,ロッド回転数をα(r.p.m.),ロッドの挿入速度をβ(cm/min),攪拌翼の段における翼の数をγ,そしてロッドの進行方向における翼の幅をt(cm)とするとき,t>β/(αγ)なる関係を満足することを特徴とする混合攪拌翼。
【請求項2】 請求項1記載の混合攪拌翼において,中空ロッドの軸線から翼の先端部までの長さをRとするとき,吐出部を,中空ロッドの軸線から半径方向外方に(0.2〜0.5)Rの位置に開口させたことを特徴とする混合攪拌翼。
【請求項3】 請求項1又は2記載の混合攪拌翼を,18〜23r.p.m.の回転数で回転させながら,100〜150cm/minの速度で挿入することを特徴とする混合攪拌翼の使用方法
3 審決の理由の要点 (1) 被告(請求人)の提出した証拠の記載事項 (i)審判甲第1号証の1(「港湾技術研究所報告」 第25巻 第2号,1986年6月,89〜119頁 「3.深層混合処理工法による現場処理土の工学的特性」。本訴甲第1号証)には次の事項が記載されている。
ア.「安定処理土を現場で作成する施工機械の基本的な構成は企業間で大差のないものであるが,安定材の吐出方法(吐出口の数と相対的な位置,貫入/引抜き吐出,その他)と攪拌混合の方法(攪拌翼の形状,直径,攪拌翼枚数,回転数,昇降速度,羽根切り回数,再攪拌(貫入吐出),その他)で微妙に相違する。この処理機によって現場で形成される処理土の形状は基本的には柱体であるが,地盤改良の規模や目的によって,その適用形態はブロック,壁,格子,杭,あるいはこれらを組合わせた形態に分類することができる。」(94頁右欄30〜39行) イ.「柱体の内部に着目すると,安定材は攪拌軸あるいは攪拌翼にある単数又は複数の穴から吐出されるため,安定材が改良範囲内で均一に広がる保証はない。・・・施工性の観点から,現場の混合は処理機の引抜き時(引抜き吐出),又は貫入時と引抜き時(貫入吐出)に行われるだけであるから,混合の度合が小さい。」(95頁左欄5〜12行) ウ.「現場処理機では混合物は攪拌翼で常に水平面で切られており,鉛直方向の攪拌効果は小さいため,方向によって攪拌の度合が異なり,強度の異方性が存在する可能性がある。」(95頁左欄21〜24行) エ.「本船の深層混合処理機先端の構造は,地盤を削って処理機を地中に貫入させるための掘削翼,安定材(セメントミルク)を地中に供給する吐出口,安定材と土とを混合するための攪拌翼とから成っている。攪拌翼の形状,寸法,枚数は攪拌効率を大きく左右するため,処理機を保有する企業によって活発に研究されており,個々の処理機によって微妙に異なる。今回の試験工事では,前述した実大載荷試験で洪積粘土まで改良するため,攪拌翼の部分は本処理機の通常の施工時の状態からは改造されている。本来,この処理機の攪拌軸は4軸で改良面積は3.47m2である。処理機の原仕様を表-3に,処理機先端部の改造後の形状を図-3に示す。改造後の処理機では,攪拌翼と掘削翼の直径は同じで1130mmである。掘削翼は中心角度l20°づつ離れた位置に取りつけられた3枚の翼から構成され,処理機の下端に位置している。攪拌翼は中心角度180°離れた2枚の翼が各攪拌軸の上下2段にそれぞれ取付けられており,上下段の翼の向きは90°異なっている。
4本の攪拌軸は図示のようにげん側で船体に近い2軸(B軸)と船体より海側の2軸(F軸)とから構成されている。4本の攪拌軸はそれぞれの軸の掘削翼と攪拌翼が交互に重なるように取付けられているため,2本の攪拌軸の深さは他の2軸よりも355mm深い位置にある。」(98頁右欄19行〜99頁左欄1行) オ.「 表-3 処理機の仕様 形 式 油圧駆動3軸式2連型 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 掘削翼径×段数 1,150φ×1段 攪拌翼径×段数 1,150φ×2段 トルク及び回転数 2,000kg-m×50rpm」(98頁右欄上部) カ.「なお,安定材の吐出口は,図-3に示すように,掘削翼の中心軸への取付け部にある。」(99頁左欄1 5,1 6行) キ.「試験杭の打設方法を図-4,5に示す。まず,図-4に示すようにFL,FSの掘削翼,攪拌翼を取外しBL,BS 2軸のみで処理土の柱体を形成する。
L軸の先端深さがDL-7.1mの海底からDL-8.5mまでは,攪拌翼を回転させないで処理機を降下させる。L軸の先端深度がDL-8.5mからDL-11.5mまで,安定材を吐出しながら,回転数N=50rpm,貫入速度V=0.7m/minで処理機を貫入させる。」(99頁右欄11行〜100頁左欄1行) ク.「今回の実験に用いた処理機の安定材の吐出口は攪拌軸にあったので,この攪拌軸から離れるに従って安定材の供給が少なくなる可能性がある。」(106頁左欄2〜4行目) ケ.99頁図-3には,FS軸,FL軸,BL軸,BS軸が記載され,各軸には二段の攪拌翼とその下方,攪拌軸の先端に掘削翼が設けられており,掘削翼の中心軸への取り付け部には,安定材吐出口が設けられ,攪拌翼と掘削翼とも,中心軸から放射状に設けられていることが記載されている。
上記イの記載によると,安定材は攪拌軸にある単数又は複数の穴から吐出されることから攪拌軸が中空であることは明らかであり,上記各記載事項からみて,審判甲第1号証の1には,「外周に放射状に少なくとも一段に配設された攪拌翼を有し安定材を移送可能な中空攪拌軸と, 攪拌軸の先端部に配設されその径方向に延在する掘削翼と, 攪拌軸に連通し掘削翼側に位置する攪拌翼の下方に設けられる安定材吐出口とを具え,攪拌翼の段における翼の数を2枚とした混合攪拌翼」の発明,及びこの混合攪拌翼を, 「攪拌軸の回転数50rpmで回転させながら,0.7m/minの速度で挿入する混合攪拌翼の使用方法」の発明が記載されていると認められる。
(ii)審判甲第2号証の1(「竹中技術研究所報告」NO.26 昭和56年11月30日発行 57〜89頁「セメント系硬化剤を用いた深層混合処理機の開発」。本訴甲第2号証)には次の事項が記載されている。
コ.「DCM工法は,・・・スラリー状のセメント系硬化剤を添加混練して,原地盤の数十倍の強度に硬化させて・・・改良する工法であり,この種の工法は一般に深層混合処理工法と呼ばれている。同工法に使用される処理機は,・・・油圧モータで駆動する。攪拌軸の先端には,3翼一段の掘削翼と,2翼2段の攪拌翼が取り付けられており,貫入時に地盤を掘削攪拌し,引抜時に硬化剤と攪拌した地盤とを混練して所要強度の地盤に改良する。」(57頁梗概欄1〜7行) サ.62頁のTable4.5,Fig4.5には,室内模型実験において,投影面における羽根高さを50,100,150mmとした実験機を用いたことが記載されている。
シ.「カオリン粘度を攪拌羽根で攪拌するときに羽根が受ける攪拌抵抗の性状は,次のように考えることができる。
1)すくい角度を持つ羽根の攪拌抵抗は,すくい角度の変化には関係せず,攪拌羽根の運動方向の投影面積にほぼ比例する。
・・・ 3)攪拌羽根の運動速度vと単位面積当たりの攪拌抵抗psとの間には式(4.1)のようにvが増すとpsが指数関数的に増加する関係がある。」(62頁左欄15行〜右欄3行) ス.「Fig.6.1に実験機を,またTable6.1にその概略仕様を示す。実験機は室内模型実験機を延伸し,深度10mまで,混合処理できるように改造した。」(69頁左欄下から5行〜下から3行) セ.70頁のTable6.1には,屋外模型実験機は,撹拌翼径500mmφ,軸数4軸,回転数は0〜60rpmであることが記載され,Table6.2は,実験内容として,引抜速度は,0.9,1.5,2.0,3.0m/minとしたこと,吐出方法としてAは,回転軸4箇所から吐出したことが記載され,71頁のFig.6.3には,Aの吐出方法は,攪拌軸の攪拌翼の高さに設けた吐出口から吐出することが示されている。
ソ.「6.5.4 混練性能 改良強度に影響を与えると思われる機械的因子について検討する。
1)混練回数 硬化剤の添加率,養生条件などが一定の場合,改良土の強度は,地盤が硬化剤とどの程度練られたかに影響される。そこで次式で表す数値を混練度の指標と考え,改良強度との関係を検討する。
混練回数(m) =Nout(ne・be・cosαe+ns・bs・cosαs・u)/V out[rev](6.12)ここで Vout:引抜速度〔cm/min〕 Nout:引抜時の軸回転数〔rpm〕 n:翼枚数 添字eは掘削翼 b:翼の幅 sは撹枠翼 α:翼のすくい角度 を表す。
u:攪拌翼段数 吐出方法などの他の条件が同一な場合について,混練回数と改良土の一軸圧縮強さを比較して,Fig.6.19〜6.20に示す。いずれの場合も混練回数が大きい程,改良強度も大きい。Fig.6.21に室内完全混合による改良土の一軸圧縮強さを示す。Fig.6.19において混練回数が36.1と最も大きいCASE2は,室内完全混合強度の70〜80%の強度を示している。混練回数が20に近いCASE9(Fig.6.17)及びCASE6(Fig.6.18)では,室内完全混合強度の40〜50%に強度は低下している。」(78頁左欄14行〜右欄下から2行)(iii)審判甲第3号証の1(「大成建設技術研究所報 第15号」昭和57年12月30日発行 197〜204頁「深層混合工法に関する基礎的研究 -撹拌機構について-」。本訴甲第3号証)には次の事項が記載されている。
タ.「2.1 撹拌翼の傾斜角(水平からの傾斜角α°) 下図のごとく,水平から30°,60°,90°の3種類とし,この実験結果から,最も撹拌効率のよかったα=60°についてその後の実験を行った。撹拌翼は上下に10cm間隔で2段とし,各々90°角度をづらした。」(197頁右欄下から2行〜198頁左欄4行)と記載され,Fig1には,撹拌軸に二段の撹拌翼が設けられ,二段の撹拌翼の間に安定材吐出ノズルを,先端が撹拌軸の側面,又は,撹拌軸の中心から半径方向135mm離れた位置に開口するように設けたことが示されている。
チ.「実験装置は,一般に用いられている深層混合処理機をモデル化したものでPhoto1に示す。この装置は,回転数23〜300rpm,昇降可能高さ80cm,昇降速度90cm/分で逆回転も可能である。撹伴翼は,角度可変とし,撹拌翼外径で480mmである。・・・撹拌翼の寸法は,撹拌ロッド表面より210mm(中心より240mm)の長さで,幅48mm,厚さ8mmであり,この翼は,水平に対し,可変とした。」(198頁右欄6行〜末行) ツ.「各種の条件を変えて,30ケースの実験を行った。混合実験後5日目で,コアーサンプリングを行い,材令一週で,一軸圧縮試験を行った。試験機には,インストロン万能試験機を用いた。その実験結果を一覧表としてTable6に示す。」(200頁左欄下から6行〜末行)と記載され,Table6には,回転数,撹拌翼の傾斜角度,ノズルの開口位置等の各種条件を変えた実験の結果が示されている。
(iv)審判甲第8号証(「第17回土質工学研究発表会講演集(2の2)」昭和57年4月30日発行 2585〜2588頁「深層混合処理工法における攪拌効率の向上についての研究」。本訴甲第4号証)には,「処理土の品質は,攪拌翼の羽根切り回数Tによってあらわされることが現有施工機械の施工結果の調査よりわかった。」(2585頁20〜21行)と記載され,2586頁には,安定剤の吐出方法及び吐出位置による攪拌効率の傾向を知るための室内模型実験が示され,「以上の実験によりつぎのことが確認された。
(1)攪拌翼の回転による安定剤の拡散は,円周方向が先行し,続いて半径方向に移る。従って,半径方向にあらかじめ吐出しておけばより早く拡散される。・・・(3)点吐出,リング吐出とも軸中心付近に吐出したものの方が外周付近に吐出されたものに比べて拡散性(とくに内側方向)にすぐれている。吐出位置は攪拌翼の直径Dに対して(0.5〜0.7)Dが良い。」(2587頁2〜17行)と記載され,図-4には,各吐出方法による羽根切り回数と安定剤の拡散距離の結果が示され,点吐出(0.3D)では,羽根切り回数が増加すると,半径方向の拡散距離が伸び1000回/m以上では安定剤は翼の外周まで拡散すること,点吐出(0.75D)では,羽根切り回数が少ないと軸中心付近に安定剤が拡散されないことが示されている。
(2) 対比(i)請求項1に係る発明について 請求項1に係る発明と審判甲第1号証の1に記載された混合撹拌翼の発明を対比すると,審判甲第1号証の1に記載された発明において,「攪拌軸」,「掘削翼」,「吐出口」は,請求項1に係る発明の「中空ロッド」,「攪拌ヘッド」,「吐出部」に相当すると認められ,審判甲第1号証の1に記載された発明の安定材は,軟弱地盤を硬化させるものであって,スラリ状であることは明らかであるから,両者は,「外周に放射状に少なくとも一段に配設された攪拌翼を有し硬化剤を含むスラリーを移送可能な中空ロッドと,中空ロッドの先端部に配設されその径方向に延在する攪拌ヘッドと,中空ロッドに連通し攪拌ヘッド側に位置する攪拌翼の下方に設けられスラリーを吐出する吐出部とを具えた混合攪拌翼」である点で一致し,請求項1に係る発明は,「ロッド回転数をα(r.p.m.),ロッドの挿入速度をβ(cm/min),攪拌翼の段における翼の数をγ,そしてロッドの進行方向における翼の幅をt(cm)とするとき,t>β/(αγ)なる関係を満足する」ものであるのに対し,審判甲第1号証の1に記載された発明は,ロッドの進行方向における翼の幅が不明であり,t>β/(αγ)なる関係を満足しているか否か不明な点で一応相違する。
上記相違点について検討すると,審判甲第1号証の1に記載された混合撹拌翼は,攪拌軸の回転数50rpm,挿入速度0.7m/min(70cm/min)で挿入され,攪拌翼の段における翼の数は2枚であるから,請求項1に係る発明におけるβ/(αγ)の値は,70/2×50=0.7(cm)となる。
ところで,攪拌翼は水平方向に回転するものであるから,攪拌に寄与するのはロッドの進行方向における攪拌翼の面積であり,処理土の抵抗に対する強度を保持するためにもロッドの進行方向における翼の幅が0.7cm以上であることは当然のことである。このことは審判甲第1号証の1の図-3における翼の幅が,図中に記入された寸法からみて0.7cm以上に示されていることからも明らかである。
したがって,審判甲第1号証の1に記載された発明は,実質的にt>β/(αγ)なる関係を満足していると認められ,請求項1に係る発明は審判甲第1号証の1に記載された発明である。
(ii)請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明は,請求項1記載の混合攪拌翼において,さらに「中空ロッドの軸線から翼の先端部までの長さをRとするとき,吐出部を,中空ロッドの軸線から半径方向外方に(0.2〜0.5)Rの位置に開口させた」ものであり,請求項2に係る発明と審判甲第1号証の1に記載された発明と対比すると,審判甲第1号証の1に記載された発明は,吐出部を中空ロッドに設けたものであり,上記構成を有していない点で相違する。
しかしながら,審判甲第1号証の1には,「吐出口は攪拌軸にあったので,この攪拌軸から離れるに従って安定材の供給が少なくなる可能性がある」(記載事項ク参照)と記載され,吐出部を中空ロッドの軸の位置に開口させると安定材が均一に攪拌されない問題点があることが指摘されており,一方,審判甲第8号証には,吐出口の,撹拌翼の直径Dに対する位置を変えて安定剤の拡散距離を測定した実験が示され,直径Dに対する位置,羽根切り回数により拡散の状況は変化することが示されており,請求項2に係る発明が吐出部を,中空ロッドの軸線から半径方向外方に(0.2〜0.5)Rの位置に開口させた点は,撹拌翼の回転数,翼の枚数,翼の直径,処理土の性状等に応じて実験的に決め得る程度のことと認められる。
したがって,請求項2に係る発明は,審判甲第1号証の1及び審判甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iii)請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明は,請求項1又は2記載の混合攪拌翼を,「18〜23r.p.m.の回転数で回転させながら,100〜150cm/minの速度で挿入する混合攪拌翼の使用方法」である。
ア.請求項1記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明と審判甲第1号証の1に記載された混合攪拌翼の使用方法の発明とを対比すると,請求項3に係る発明は,中空ロッドを18〜23r.p.m.の回転数で回転させながら,100〜150cm/minの速度で挿入するのに対し,審判甲第1号証の1に記載された発明は,回転数50r.p.m.,0.7m/minで処理機の攪拌軸を貫入させる点で相違する。
しかしながら,審判甲第2号証の1の記載事項セには,硬化剤を吐出し攪拌しながら引抜く場合ではあるが,攪拌軸の回転数0〜60rpm,引抜速度を0.9,1.5m/minとすることが記載され,審判甲第3号証の1の記載事項チには,攪拌軸の回転数を23〜300rpmとすることが記載されており,安定材を吐出攪拌しながら混合攪拌翼を挿入する場合においても,回転数を18〜23r.p.m.,挿入速度を100〜150cm/minとすることは,通常の使用条件の範囲のものと認められ,かつ回転数,挿入速度を特にこの範囲に限定した点に格別の作用効果は認められない。
また,審判甲第2号証の1の記載事項シに記載されるように,攪拌羽根の運動速度が大きくなると単位面積当たりの攪拌抵抗が指数関数的に大きくなることが知られているから,混合攪拌翼を18〜23r.p.m.の低い回転数で回転させながら,100〜150cm/minの速度で挿入した点は,処理土の性状等に応じて当業者が適宜なし得たものと認める。
したがって,請求項1記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明は,審判甲第1号証の1,審判甲第2号証の1及び審判甲第3号証の1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.請求項2記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明と,審判甲第1号証の1に記載された混合攪拌翼の使用方法の発明とを対比すると,請求項3に係る発明は,混合攪拌翼の吐出部の位置が上記(ii)で述べたとおり相違し,混合攪拌翼の回転数及び挿入速度が上記アで述べたとおり相違する。
上記相違点についての判断は,上記(ii)及び上記アで述べたとおりであり,かつ特定された吐出部の位置,混合攪拌翼の回転数及び挿入速度とすることにより格別の作用効果を奏するものとも認められない。
したがって,請求項2記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明は,審判甲第1号証の1,審判甲第2号証の1,審判甲第3号証の1及び審判甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 審決のむすび 以上のとおり,請求項1に係る発明についての特許は,特許法29条1項の規定に違反してなされたものであり,請求項2,3に係る発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,いずれも特許法123条1項2号に該当し無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 審判甲第1号証の認定誤り (1) 請求項1に係る発明と審判甲第1号証に記載された発明との目的上の相違 請求項1に係る発明は,「十分に効率よく,しかも安定して土壌を撹拌する」ことを目的とするのに対し,審判甲第1号証は,「現場で形成される安定処理土(現場処理土)の工学的特性並びに特性相互の関連を明確にし,設計時の取扱方法を定めること」(93頁左欄)を目的とするものであって,「厳密にいえば,この調査で得た処理土の特性は今回使用した処理機で形成された処理土しか適用できない可能性がある。」(96〜97頁)から,両発明は,目的が同一であるとはいえず,別発明である。
(2) 「中空ロッド」に関し,審判甲第1号証には,「安定材は撹拌軸あるいは撹拌翼にある単数又は複数の穴から吐出されるため」(95頁左欄)と記載され,かつ,図3(99頁)に安定材吐出口が図示されているが,撹拌軸が中空ロッドであることの記載はない。
(3) 「ロッド回転数をα(r.p.m.),ロッドの挿入速度をβ(cm/min),撹拌翼の段における翼の数をγ,そしてロッドの進行方向における翼の幅をt(cm)とするとき,t>β/(αγ)なる関係を満足することを特徴とする」という構成(原告の準備書面では「構成要件(D)」と表記されている。)は,請求項1に係る発明の構成の中で,最も重要,かつ,特徴的なものである。すなわち,本件明細書に記載のとおり,「従来の撹拌装置にあっては,撹拌翼を中空ロッドの外周に単に放射状に配置した構造であり,また,市販の駆動手段にあっては,通常その回転数が供給電源の周波数に依存するため,十分に効率よく,しかも安定して土壌を撹拌することができないという問題があった」ので,本発明の「目的は,硬化剤を含む土質安定剤及び土壌をむらなく混合撹拌することのできる混合撹拌翼を提供することにある」ものである。請求項1記載の発明では,特に,この「十分に効率よく,しかも安定して土壌を撹拌する」という目的を達成するために,t>β/(αγ)なる関係を満足するようにしたものである。
ここで,深層混合処理におけるt,α,β,γのそれぞれの持つ意味について記述すると, t(ロッドの進行方向における翼の幅)は,攪拌に寄与するが,tが大きければ大きいほど抵抗が増すため,モータの負荷が大きくなる。また,翼の幅が大きければ,制作費もかさみ,機械重量も増し,コスト増になる。逆に,小さい場合は,機械の剛性の観点から脆弱なものとなる。深層混合処理を実施する場合に非常に重要なアイテムである。
α(ロッドの回転数)は,回転数を上げれば上げるほどモータの負荷は大きくなり,高速回転の場合にはモータに対する負荷が大きく,モータを1ランク上の大きなものにすることが必要になる場合がある。回転数が低い場合には,十分な攪拌が得られず,施工時において,貫入スピードとの関連で最も適切な値を採用しなければならない。
β(撹拌翼の段における翼の数)は,数が多くなれば攪拌時に粘性土が団子状になり,適切な数を決定する必要がある。1枚の場合もあるが,通常は2枚ないし3枚であり,攪拌効率を考慮してどちらかが選定される。
γ(ロッドの挿入速度)は,早くすれば早くするほど,施工コストが下がるが,品質が落ち,かつ,貫入抵抗が増え,刃先の構造上の配慮が要る。また,遅くすればするほど,品質が良くなり貫入能力は増すが,施工コストは高くなる。経済性の観点から考えると,早くすればコストが下がるが,品質が保てず,遅くすれば,品質が良くなるがコストがかさむ。
以上により,t,α,β,γの各値は,機械の製作コスト,処理土改良に当たっての施工コスト,施工品質に関連したものであり,経済的にむらのない攪拌を行う上で,t>β/(αγ)なる相関関係の式として成り立っている。
これに対し,審判甲第1号証に記載されたものは,「現場で形成される安定処理土(現場処理土)の工学的特性並びに特性相互の関連を明確にし,設計時の取扱方法を定めること」(93頁左欄)を目的とするものであって,「厳密にいえば,この調査で得た処理土の特性は今回使用した処理機で形成された処理土しか適用できない可能性がある。」(96〜97頁)と記載されているように,現場処理土中の安定材の分布状況や力学試験を調査することを目的としたものであり,請求項1に係る発明の「むらなく混合撹拌するという目的を達成するために,t>β/(αγ)なる関係を満足するようにした」とするような技術的な思想についての記載はないばかりか,構成要件(D)を示唆するような記載もない。
審決は,「攪拌翼は水平方向に回転するものであるから,攪拌に寄与するのはロッドの進行方向における攪拌翼の面積であり,処理土の抵抗に対する強度を保持するためにもロッドの進行方向における翼の幅が0.7cm以上であることは当然のことである。このことは審判甲第1号証の1の図-3における翼の幅が,図中に記入された寸法からみて0.7cm以上に示されていることからも明らかである。」と認定した。
しかし,攪拌に寄与するのは,ロッドの進行方向における撹拌翼の面積ではなく,ロッドの進行方向の地盤を確実に撹拌翼の幅がラップして通過することである。まして,翼の幅の明示がないのに,翼の幅が0.7cm以上であるとは断定することができない。また,この図-3は,撹拌軸の間隔,撹拌翼の各段の間の間隔などを表したものであって,そこには,翼の幅を表した寸法は存在しない。この種の図面においては,一部分を拡大したり,縮小したりして表すことがよくあり,他の寸法の比率から類推した寸法に基づいて計算した値をもって関係式を満足するというのは,意味がない。特に,請求項1に係る発明は,「t>β/(αγ)なる関係を満足する」発明であるから,類推した数値を代入しても意味がない。
2 請求項2に係る発明の進歩性判断の誤り 請求項2に係る発明は,請求項1を引用する発明であって,請求項1の各構成要件に,「中空ロッドの軸線から翼の先端部までの長さをRとするとき,吐出部を,中空ロッドの軸線から半径方向外方に(0.2〜0.5)Rの位置に開口させたことを特徴とする」との構成要件を組み合わせたものである。
前記1の主張のように,審判甲第1号証記載の発明には,請求項1に係る構成要件が記載されておらず,そのような技術的思想を示唆する記載もない。
請求項2に係る発明について審決が引用する審判甲第8号証には,安定剤の吐出位置に関し,「吐出位置は攪拌翼の直径Dに対して(0.5〜0.7)Dが良い。」とする深層混合処理工法が記載されている(2587頁)。しかし,Dが攪拌翼の直径(30cm)を表すのであるから,「(0.5〜0.7)D」とは,「15cm〜21cm」となり,攪拌翼の先端か,それ以上ということとなり,意味不明である。
したがって,「(審判甲第8号証の)図-4には,・・・点吐出(0.3D)では,羽根切り回数が増加すると,半径方向の拡散距離が伸び1000回/m以上では安定剤は翼の外周まで拡散すること,点吐出(0.75D)では,羽根切り回数が少ないと軸中心付近に安定剤が拡散されないことが示されている。」との審決の認定した意味は不明である。
以上のとおり,審判甲第1号証には,請求項2に係る発明の目的を達成するための動機付けとなる記載は見当たらず,また,審判甲第8号証記載の発明は,安定剤の拡散性を向上することにあるが,そこには,「中空ロッド12の軸線から吐出部24の開口部までの距離rと,その軸線から混合攪拌翼の先端部までの距離Rとが,r=(0.2〜0.5)Rの範囲内に位置するようにする」ことが望ましいとする点についての記載がない。
したがって,請求項2に係る発明について進歩性なしとすることはできない。
3 請求項3に係る発明の進歩性判断の誤り (1) 請求項1記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明の構成要件「18〜23r.p.m.の回転数で回転させながら,100〜150cm/minの速度で挿入することを特徴とする」では,「回転数18〜23r.p.m.」と「挿入速度100〜150cm/min」とは,一体不可分である。
しかし,審決は,「審判甲第2号証の1の記載事項セには,硬化剤を吐出し攪拌しながら引抜く場合ではあるが,攪拌軸の回転数0〜60rpm,引抜速度を0.9,1.5m/minとすることが記載され,審判甲第3号証の1の記載事項チには,攪拌軸の回転数を23〜300rpmとすることが記載されており,」として,異なる証拠から一致する条件だけを引用するものであって,請求項3に係る発明の目的である「市販の駆動手段を用いて効率よく攪拌しようとする」という点の動機付けとなるものではない。
また,引き抜く場合の回転数及び速度は,挿入時に一度攪拌をしているから,負荷が軽減され,挿入する場合の回転数及び速度と同一視することはできない。
審判甲第2号証の記載事項セにおける「攪拌軸の回転数0〜60rpm」は,屋外模型実験機仕様であって,実験データは攪拌軸の回転数60rpmのみであり,回転数を0〜60rpmの範囲で回転した実験データはない。また,審判甲第2号証の記載事項シは,粘度の中でも特にカオリン粘度を対象とした実験結果を示したものであり,請求項3に係る発明が対象とする通常の粘度,シルト質土,砂質土に対して統一的に通用するものではない。
したがって,審決の「攪拌羽根の運動速度が大きくなると単位面積当たりの攪拌抵抗が指数関数的に大きくなる」との判断は,あらゆる土質に共通な一般的傾向を示すものではない。
よって,請求項1記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明は,特許法29条2項の規定に該当せず,無効理由はない。
(2) 請求項2記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明の構成要件は,「回転数18〜23r.p.m.」と「挿入速度100〜150cm/min」とは,前記のように一体不可分である。
しかし,審決は,前記のように異なる証拠から一致する条件だけを引用するものであって,審判甲各号証のいずれも,請求項3に係る発明の目的である「市販の駆動手段を用いて効率よく攪拌しようとする」という点の動機付けとなるものはない。
さらに,審判甲第2号証の記載事項セにおける「攪拌軸の回転数0〜60rpm」は,屋外模型実験機仕様であって,請求項3に係る発明の実験データではない。また,審判甲第2号証の記載事項シについても,前記のように,あらゆる土質に共通な一般的傾向を示すものではない。
したがって,請求項2記載の混合攪拌翼を使用する請求項3に係る発明は,特許法29条2項の規定に該当せず,無効理由はない。
当裁判所の判断
1 審判甲第1号証の1の認定誤りの主張について (1) 審判甲第1号証の1(甲第1号証)の99頁左欄には「安定剤の吐出口は,図-3に示すように,掘削翼の中心軸への取付け部にある。」との記載があり,また,95頁左欄には,審決の理由の要点(1)(i)のイに認定のとおり,「安定材は攪拌軸あるいは攪拌翼にある単数又は複数の穴から吐出される」との記載もある。
これらの記載からすると,審判甲第1号証の1における攪拌軸が「中空」のロッドであることは自明のことである。
これに反する原告の主張は理由がない。
(2) 原告は,審判甲第1号証の1記載の内容は,現場処理土中の安定材の分布状況や力学的試験を調査することを目的とするものであるから,請求項1に係る発明のように,むらなく混合攪拌する目的を達成するために,t>β/(αγ)の相関関係を満足する技術的思想を開示あるいは示唆するものではないと主張する。
しかし,審判甲第1号証の1記載の深層混合処理工法は,安定材を処理土に混合して安定処理を行うもの(審判甲第1号証の1(甲第1号証)の93頁欄冒頭の記載参照)であって,請求項1に係る発明と同様の技術分野に属するものである。
また,審判甲第1号証の1で検討される攪拌混合方法は,攪拌翼の形状,直径,攪拌翼の枚数,回転数,昇降速度等を異ならせることで,処理土の安定性が微妙に変化することから,室内配合試験で得られた処理土の特性相互の関係を現場処理土へ適用することを目的とするもの(審判甲第1号証の1の93頁左欄〜右欄の記載)であるから,安定した固結土を提供する観点において,むらのない混合撹拌が目的とされる請求項に係る発明との差異はないというべきである。よって,原告の上記主張は,理由がない。
審判甲第1号証の1に記載されているのは,請求項1に係る発明と同一の構成を含む深層混合処理工法による処理土の工学的特性を探求することが直接の目的であることは,その記載から明らかであるが,記載されている直接の目的が相違するからといって,請求項1に係る発明が,審判甲第1号証の1に記載された発明であるとした審決の認定判断を左右するものではない。
(3) 原告は,審判甲第1号証の1には,t>β/(αγ)の相関関係を満足させる技術的思想が開示も示唆もされていないと主張する。
しかし,審決の認定判断中,「審判甲第1号証の1に記載された混合撹拌翼は,攪拌軸の回転数50rpm,挿入速度0.7m/min(70cm/min)で挿入され,攪拌翼の段における翼の数は2枚であるから,請求項1に係る発明におけるβ/(αγ)の値は,70/2×50=0.7(cm)となる。」とし,「攪拌翼は水平方向に回転するものであるから,攪拌に寄与するのはロッドの進行方向における攪拌翼の面積であり,処理土の抵抗に対する強度を保持するためにもロッドの進行方向における翼の幅が0.7cm以上であることは当然のことである。このことは審判甲第1号証の1の図-3における翼の幅が,図中に記入された寸法からみて0.7cm以上に示されていることからも明らかである。したがって,審判甲第1号証の1に記載された発明は,実質的にt>β/(αγ)なる関係を満足していると認められ,請求項1に係る発明は審判甲第1号証の1に記載された発明である。」とした部分は,その説示に照らして首肯することができる。原告の上記主張は,理由がない。
2 請求項2に係る発明の進歩性判断の誤りについて まず,前記1で判断したとおり,請求項1に係る発明が,審判甲第1号証の1に記載されたものと同一発明であるとする審決の認定には誤りがなく,この点の誤りを前提とする請求項2に係る発明に関する取消事由は理由がない。
原告は,請求項2で加えられた吐出部の開口位置に係る特定を,審判甲第8号証の記載から把握できないとする理由として,審判甲第8号証の記載が不明である点を挙げる。
しかし,審判甲第8号証(本訴甲第4号証)2587頁14〜17行の「(3) 点吐出,リング吐出とも軸中心付近に吐出したものの方が外周付近に吐出されたものにくらべて拡散性(とくに内側方向)にすぐれている。吐出位置は攪拌翼の直径Dに対して(0.5〜0.7)Dが良い。」との記載からみて,吐出位置は攪拌軸の中心から外周付近のいずれかに設けられるものであることが明らかである。
ここで,2586頁の図-2の「リング状吐出」を参照するに,ここに記載される「(0.5〜0.9)D」とはリング状に吐出される領域の差渡し(直)径を表しているものと解される。そして,2586頁の図-2の「点吐出」における「(0.3D)」及び「(0.75D)」の意味は,前記の「直径Dに対して」の記載からみて,「リング状吐出」に準じて,攪拌翼が回転することで吐出された安定材が存在する円形部位の差渡し(直)径を表しているものと解される。
よって,攪拌軸の中心から外周付近のいずれかを表す観点から,「(0.3D)」及び「(0.75D)」の記載は,「0.3D/2」及び「0.75D/2」と記載することが適切であるとしても,それの表す意味が不明ということはできない。
したがって,審判甲第8号証に関する審決の認定に誤りはない。
3 請求項3に係る発明の進歩性判断の誤りについて (1) 原告は,請求項3に係る発明の構成要件「18〜23r.p.m.の回転数で回転させながら,100〜150cm/minで挿入すること」において,「回転数18〜23r.p.m.」と「挿入速度100〜150cm/min」とは一体不可分であるのに,審決は異なる証拠から一致する条件だけを引用して進歩性を否定するものであり,請求項3に係る発明の目的とする「市販の駆動手段を用いて効率よく攪拌しようとする」という点の動機付けの存在が示されていない,と主張する。
そこで,審判甲第2号証の記載を参照するに,「7.4 トルク,回転数および動力 屋外実験の結果,貫入時は原地盤の掘削のため大きなトルクが必要であり,また,引抜時はトルクは小さいが混練効果の確保のため高速回転が必要である。」(審判甲第2号証83頁左欄16〜19行)と記載されている。
この記載から,貫入作業時と引抜時とを比較した場合,原地盤掘削のためのトルクが必要な点で,貫入作業時には貫入速度をむやみに上げることができないことが窺える。
この点,審判甲第1号証100頁の図-5においても貫入時はV=0.7m/minであるのに対して,引抜時はV=1.0m/minとされていることからも裏付けられる。
しかし,原告が主張するように,請求項3に係る発明が,「市販の駆動手段を用いて効率よく攪拌しようとする」という点を目的としていること,すなわち,処理土と安定材の良好な混練が目的であるとすれば,原地盤の掘削のための所要トルクを特段考慮しているところはなく,貫入時と引抜時を識別する必要性はない。
よって,請求項3においては,「ロッドの挿入速度β」と特定しているものの,審判甲第2号証あるいは審判甲第3号証記載の引抜時の条件を適用するのに,阻害要因が存在するということはできない。
そして,「市販の駆動手段を用いて」と主張しているように,実際に存在する駆動手段が「回転数18〜23r.p.m.」あるいは「引抜(挿入)速度100〜150cm/min」での運転を行い得ることが,これら審判甲号証により把握できる以上,請求項3に係る前記構成要件が,通常の使用条件の範囲のものであって,この範囲を限定したことにより格別な作用効果があるものとは認められないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,審判甲第2号証記載のものは,屋外模型実験機仕様であり,現場での工法についての請求項3に係る発明を示唆するものではない,と主張する。
しかし,審判甲第2号証には,「8.むすび DCM深層混合処理機は建設機械の中でも大型機械の部類に入る。しかし構造的には比較的単純な機械である。このような機械では力や動力の設定値によって,主要な部分はほぼ決まってしまう。模型実験では,処理機の攪拌効果の確認をすることは当然であるが,土の中に貫入して行くというあまり例のない機械であるため不明な点が多く,これらの点の解明に努めた。」(89頁左欄〜右欄)との記載がある。
このように,審判甲第2号証に記載されているものは,実験機を用いたものではあるが,実際の地盤を対象とし,請求項3に係る発明と同様に硬化剤を吐出攪拌する実工事における条件を想定し検討することにおいて,請求項3に係る発明と差異がない。原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,審判甲第2号証の記載シは,特にカオリン粘度を実験対象としたものであり,請求項3に係る発明が対象とする通常の粘度,シルト質土,砂質土に対して統一的に運用できないと主張する。
しかしながら,原告主張の「通常の粘度,シルト質土,砂質土」は,自然地盤を含めた実工事における各種条件のうちの特定の条件を規定するものであるところ,特許請求の範囲にその旨の特定がない以上,原告の主張は理由がない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実