関連審決 | 不服2002-3655 |
---|
関連ワード | 創作性(創作) / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 登録実用新案 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
15年
(行ケ)
279号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社環境美健 同訴訟代理人弁理士 斎藤晴男 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 山口由木 同 鈴木憲子 同 大野克人 同 涌井幸一 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/01/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-3655号事件について平成15年5月20日にした審決を取り消す。 2 被告 主文と同旨 |
|
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成11年8月12日,名称を「コンクリート構造物の亀裂における漏水個所探索方法及び補修方法」とする発明につき特許出願(平成11年特許願第228542号。この出願を「本件出願」という。)をし,平成13年12月19日付けで手続補正をした。その後,特許庁は,本件出願について,特許を拒絶すべき旨の査定をした(甲1,4,5,弁論の全趣旨)。 (2) 原告は,上記拒絶査定を不服として,平成14年3月1日,特許庁に審判請求をするとともに,同月19日付けで手続補正をした(なお,この手続補正は,特許請求の範囲の請求項の番号を補正するものであり,補正された明細書の内容は,平生13年12月19日付けの手続補正後の明細書の内容と実質的に同じである。)。特許庁は,上記審判請求事件を不服2002-3655号事件として審理し,平成15年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月29日に原告に送達された(甲1,5,6,弁論の全趣旨)。 2 平成14年3月19日付け手続補正書による補正後の本願発明の要旨は,次のとおりである(甲4,5,6。以下,次に記載する【請求項4】に係る発明を「本願発明4」という。)。 【請求項1】 亀裂上の1箇所又は複数箇所に耐水性資材製の貯溜区画を接着固定し,前記貯溜区画内に漏水探査液を注入し,前記漏水探査液をその水頭圧によって前記亀裂内に導入することを特徴とするコンクリート構造物の亀裂における漏水個所探査方法。 【請求項2】 前記貯溜区画を無底の筒状の耐水性資材で形成する請求項1に記載のコンクリート建造物の亀裂における漏水個所探査方法。 【請求項3】 前記貯溜区画を有底の筒状体を縦割りした形状の耐水性資材で形成する請求項1に記載のコンクリート構造物の亀裂における漏水個所探査方法。 【請求項4】 亀裂上の1箇所又は複数箇所に耐水性資材製の貯溜区画を接着固定し,前記貯溜区画内に防水液を注入し,前記防水液をその水頭圧によって前記亀裂内に導入することを特徴とするコンクリート構造物の亀裂補修方法。 【請求項5】 前記貯溜区画を無底の筒状の耐水性資材で形成する請求項4に記載のコンクリート構造物の亀裂補修方法。 【請求項6】 前記貯溜区画を有底の筒状体を縦割りした形状の耐水性資材で形成する請求項4に記載のコンクリート構造物の亀裂補修方法。 【請求項7】 前記耐水性資材として飲料缶,ペットボトル,塩化ビニールパイプ等の廃棄物を用いる請求項4,5又は6に記載のコンクリート構造物の亀裂補修方法。 3 本件審決の理由の要旨(甲1) (1) 本願発明4と特開昭57-89068号公報(甲2。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とを比較すると,両者は,「亀裂上の複数箇所に耐水性資材製の注入区画を接着固定し,前記注入区画内に防水液を注入し,前記亀裂内に導入するコンクリート構造物の亀裂補修方法」である点で一致し,「本願発明4においては,「注入区画」は,防水液を貯留する「貯溜区画」であり,防水液をその水頭圧によって亀裂内に導入するのに対し,刊行物1発明においては,「注入区画」は,注入ポンプと連結される注入パイプであり,防水液を注入ポンプの圧力及び圧力緩衝部のゴム圧力によって亀裂内に導入する点」(以下「本件相違点」という。)で相違する。 (2) 本件相違点について検討すると,登録実用新案第3030071号公報(甲3。以下「刊行物2」という。)には,隙間に防水処理剤(本願発明4の「防水液」に相当する。)を注入する際に,注入ポンプで注入するのに代えて,防水処理剤を貯留する収納容器を固定し,人手に因らずに防水処理剤をその自重(水頭圧)によって隙間内に導入することが記載されており,刊行物1発明において,コンクリート構造物のクラックに固定した注入区画から防水液を注入する際に,注入ポンプ等で注入するのに代えて,刊行物2記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)を適用し,上記相違点に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 なお,刊行物1には,実施例として,コンクリート橋床版下面のクラックに防水液を注入するものが記載されているが,コンクリート構造物の亀裂は,スラブやパラペット上面,壁面等種々の部位に生じるものであって,刊行物1記載の発明は,コンクリート下面の亀裂に防水液を注入するものに限定されるものではなく,コンクリート上面や壁面の亀裂等,亀裂上方に防水液の貯留区画を設けることができる場合に,刊行物2発明を適用することに困難性はない。 (3) また,本願発明4の作用効果は,全体として,刊行物1発明及び刊行物2発明から予測できる程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。 (4) 以上のとおり,本願発明4は,刊行物1発明及び刊行物2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 |
|
当事者の主張
(原告の取消事由の主張) 本件審決は,刊行物1発明及び刊行物2発明を誤認又は曲解した結果,本願発明4と刊行物1発明との相違点を看過し,また,本願発明4に関する容易想到性の判断を誤ったものである。 1 取消事由1(刊行物1発明の誤認と本願発明4と刊行物1発明との相違点の看過) (1) 刊行物1発明について 刊行物1発明は,「接着剤に粘性があるためクラック間隙に接着剤を注入する速度を速めると接着剤注入箇所に注入圧力がかかり注入圧力が上昇し,そのためシール箇所がパンクしたり,さらにクラック幅を拡げたりする難点がある。そのため,接着剤を1注入箇所あたり3〜5分という低速で注入する必要があり作業者の熟練を必要とした」(甲2の2頁左上欄3〜9行)という従来技術の欠点に鑑み,この欠点を解決するために,「コンクリート構造物のクラック等の被注入体に接着剤を注入するにおいて,被注入体にかかる圧力を注入パイプと注入ホース間の任意の箇所に圧力緩衝部を設け,接着剤注入中に緩衝部に接着剤をプールするとともにプールされた接着剤を圧力緩衝部の持続変化により注入するようにする」(同2頁左上欄10〜16行)という手段を提供するものである。すなわち,刊行物1発明においては,注入剤としてエポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂等の粘性の高い接着剤を用いるため,強制注入が必要となるが,同発明は,接着剤を注入ポンプにより,強制注入した後,圧力緩衝部の持続変化(ゴム圧力)で更に強制注入し続けることにより,従来熟練者で3〜5分かかっていた注入作業時間を短縮することを可能にしたものである。 このように,刊行物1発明においては,注入個所の保護のために,注入圧力を緩衝する圧力緩衝部を設けることにより,接着剤の注入を当初注入ポンプを用いて短時間の内に行なうことが前提となっている。そして,上記の粘性の高い注入剤は,クラックにある程度(0.2mm)以上の幅がないと完全に注入できず,その幅が小さければ小さい程,短時間での強制注入は困難となり,例えば,0.02mmとか0.03mmとかの微細なクラックとなると,その注入は不可能となるものである。 のみならず,刊行物1発明の場合,本願明細書中の「第1図はコンクリート橋床版下面等コンクリート構造物に発生したクラックAに約20センチ毎に第3図および第4図に示すようなゴムパイプを接続した座金および圧力緩衝部付注入パイプBをパテ状接着剤(シール剤)で第2図に示すように取り付けたところを示す。」(甲2の2頁左上欄未行〜同右欄5行)との記載及び第1図乃至第7図から明らかなように,主に接着剤を下方から注入することを予定している。したがって,この点からも,同発明における接着剤の注入は終始強制注入によらざるを得ないのである。 (2) 本願発明4について これに対し,本願発明4は,「亀裂上の1箇所又は複数箇所に耐水性資材製の貯溜区画を接着固定し,前記貯溜区画内に防水液を注入し,前記防水液をその水頭圧によって前記亀裂内に導入することを特徴とするコンクリート構造物の亀裂補修方法」(【請求項4】)を提供するものである。 本願発明4の上記補修方法においては,注入する防水液として,刊行物1発明で用いられる接着剤と比較して極端に粘性が低い,「アルキルアルコキシシランモノマー系,ポリシロキサン系,シランオリゴマー系(水性,溶剤系),アルキルシラノール,変性アルキルシランオリゴマー,変性アルキルシリコーン,シラン系オリゴマーの浸透性防水剤」(甲4の段落【0013】)が用いられ,したがって,ポンプ等を用いた強制注入によらず,水頭圧によって何時間もかけてこれを注入することができる。しかも,本願発明4において補修対象となるコンクリート構造物の亀裂はミクロン単位の細隙であり,防水液は低粘性のため,その注入の難易度はクラック幅に左右されず,0.01mm以上の幅があれば,完全に注入することができるものである。 (3) 本願発明4と刊行物1発明との相違点の看過について 上記のとおり,刊行物1発明は,本願発明4とは,@注入する防水液等の種類,A注入方法(本件相違点),B注入対象である亀裂の幅の各点で相違しているものである。本件審決は,刊行物1発明の上記特徴を認識せず,上記@,Bの相違点を看過したものである。 2 取消事由2(本願発明4の進歩性判断の誤り) 本件審決は,刊行物1発明において,コンクリート構造物のクラックに固定した注入区画から防水液を注入する際に,注入ポンプ等で注入するのに代えて,刊行物2発明を適用し,本件相違点に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことであるとしているが,以下に述べるとおり,この判断は誤りである。 (1) 前記1(1)で述べたとおり,刊行物1発明においては注入ポンプを用いることが前提となっており,注入ポンプのような強制注入手段の使用を必須とする刊行物1発明に接した場合に,注入ポンプに代わる,換言すれば,強制注入手段を用いない注入手段を想起する必然性は全くなく,刊行物1発明において,代替注入手段として,強制注入によらない刊行物2発明等を考慮することは有り得ないことである。刊行物2発明は,刊行物1発明において,注入ポンプの代替手段を探求する必要性が生ずる場合に初めて参照する可能性が生じ得るものであり,その必要性のないところに刊行物2発明を参照する動機付けを見出すことはできない。加えて,刊行物1発明において,仮に上記代替手段探求の必要性が認められたとしても,刊行物2発明においても,刊行物1発明と同様,液体Sは当初は手押しポンプ15で強制注入するのであり,自動注入具は,手押しポンプによる作業に引続いてその補助のために用いられるものであって,それのみ独立して用いられるものではないから,刊行物2発明が参照される可能性は低い。 また,刊行物2発明において,注入する液体Sはエポキシ樹脂等の高粘性のものであるが,刊行物2には「液体Sを入れた収納容器1を支柱2の保持部3へ倒立状態にセットし,吐出用チューブ4を隙間口M1に挿入する。」(甲3の段落【0017】)との記載があり,この記載及び図1からすれば,コンクリート橋脚30と補強用鋼板31との間の隙間Mは吐出用チューブ(ゴムチューブ)4を挿入し得るセンチメートル単位の幅であることは明らかなところであり(通例ゴムチューブの場合,細いものでも直径6mmである。),吐出用チューブ先端が向けられるのは,このように広い隙間M1で あるので,微細間隙への注入に際しての問題は起こらない。他方,刊行物1記載の接着剤注入もコンクリート構造物の亀裂に対して行われるのであり,亀裂は本願発明4の場合ほど小さいものではないにしても,刊行物2発明における隙間Mほど広いものではなく,また,刊行物2発明において,間隙Mは,異種材料である橋脚30と鋼板31との間であって,液体S(刊行物2によればエポキシ樹脂系接着剤(甲3の段落【0009】))は,異種のコンクリート橋脚30と鋼板31とを接着するものである。したがって,刊行物1発明と刊行物2発明とでは,同じく注入技術とはいっても,言葉上だけのもので,実際の技術内容は全く異なり,両技術の間には代替性はない。 さらに,本願発明4における水頭圧と,刊行物1発明のポンプ圧及びゴム圧が,防水液に圧力を加える点で共通しているとしても,両者はその技術思想を異にするものであり,両者間に代替性はない。 したがって,刊行物1発明において,圧力を加える手段として,注入ポンプに代えて,刊行物2発明に係る自動注入手段を採用することに格別の困難性はないとする本件審決の判断は誤りである。 (2) 刊行物2には,収納容器としてペットボトルを利用し得ることが記載されているが,そのことから直ちに,亀裂上に接着固定され,注入された漏水探査液又は防水液を水頭圧で,亀裂中に注入するための,本願発明4における「貯溜区画」の考え方が想起され得るものでは決してない。 本願発明4においても,ペットボトルの利用が可能であるが,その場合は,ペットボトルをそのままの形で使用するのではなく,設置場所の勾配等に対応させて径や高さの加工をして使用する必要があるのであり,このような考え方を,単にペットボトルの利用を開示しているにすぎない刊行物2の記載から読みとることはできない。そもそもペットボトルそのものを利用するとした場合は,ペットボトルは有底のため,「亀裂上に貯溜区画を接着固定した後(貯溜区画としてのペットボトルは逆さになる。),貯溜区画内に防水液を注入し」という本願発明4の構成要件を満たすことができなくなる。 したがって,刊行物2発明における収納容器1(ペットボトル)は,本願発明4における貯溜区画とは異質のもので,代替性がないことは明らかである。 (3) さらに,本願発明4は,「高価な資材を一切必要とせず,廃棄物を利用することも可能であって熟練の技術も特に必要としないために,作業コストを大幅に下げることができるコンクリート構造物の亀裂補修方法を提供すること」(甲4の段落【0006】)を課題としてなされたものであり,かかる課題を解決するための手段追及に当たり,高価な注入ポンプや特殊構造の注入パイプを開示する刊行物1発明及び刊行物2発明を参酌するはずがなく,かつ,その発明に依拠して創作を進めようとする発想が生ずるはずがない。 刊行物2発明に関して付言すれば,刊行物2発明における自動注入具は,手押しポンプで注入した後の極くわずかな量の補助注入のために用いられるのであり,作業全体をみた場合その多くは,大型機械を用いての大掛りなものとなる。注入具の部分だけをみても,それは,「収納容器1」,「支柱2」,「保持部3」,「チューブ4」,「マグネット5」,「保護板材12」,「狭持部材13」,「ボルト14」等,予め製造される多くの部品を必要とし,単に,廃材等を用いて現場で適宜形成される本願発明4における貯溜区画とは,全く異なっている。したがって,同じく作業コストを下げるといっても,本願発明の場合と刊行物2の場合とではそのレベルが違っており,本願発明4の創作に当たり,作業コストを下げることを目的として刊行物2発明を参酌することなど有り得ないことである。 (被告の反論) 本件審決の認定判断に原告主張の誤りはない。 1 取消事由1について (1) 刊行物1発明においては,確かに,従来例として,注入剤として粘性のある接着剤を用いていることが例示されているが,該接着剤は,コンクリート構造物に発生したクラック内部に注入されて,クラックを補修するものであり,防水性を有する液体に相当することは明らかである。 一方,本願発明4は,防水液の種類やクラックの大きさを何ら限定するものではない。本願明細書の「発明の詳細な説明」にも,「貯溜区画3は,金属,プラスチック,厚紙等の防水性資材を用い,例えば底を欠く筒状,その他,使用個所に対応する形状に形成する。そのサイズは亀裂巾に合わせたものとし,例えば,直径25mmから150ミリメートル程度にし,亀裂幅が小さいときは直径の大きいものを使用し,亀裂幅が大きいときは直径の小さいものを使用する。また,貯溜区画3の高さを高くして,注入される漏水探査液又は防水液の水位を高めることにより,その水頭圧が大きくなるように調節することができる。」(甲4の段落【0010】),「防水液としては,アルキルアルコキシシランモノマー系,ポリシロキサン系,シランオリゴマー系(水性,溶剤系),アルキルシラノール,変成アルキルシランオリゴマー,変成アルキルシリコーン,シラン系オリゴマーの浸透性防水剤,その他様々なものを用いることができる。」(同段落【0013】)と記載され,亀裂幅,防水液の種類又は粘度を限定する記載はなく,加えて,水頭圧は適宜調節可能であることが開示されているのであるから,本願発明4と刊行物1発明が,防水液の種類や注入対象である亀裂の幅の大きさにおいて差異があるとすることはできない。 (2) また,原告は,刊行物1発明は,接着剤の注入を短時間の内に行なうことが前提となっている旨主張する。 しかし,刊行物1においては,防水液である接着剤は,当初は注入ポンプの注入圧力により,クラック上に接着固定された圧力緩衝部付注入パイプBを介して亀裂に圧入されるとともに,圧力緩衝部としてのゴムパイプ内部に充填され,注入ポンプの取り外し後は,クラック上に接着固定された圧力緩衝部付注入パイプB内部に充填された接着剤が,ゴム圧力によりクラック内に時間をかけて導入されることが示されているのであり,注入ポンプを用いる作業時間を短時間とするものであるとしても,接着剤の注入を短時間で行なうことを前提としたものではなく,原告の主張は根拠がない。 2 取消事由2について (1) 原告は,刊行物1発明においては注入ポンプを用いることが前提となっており,刊行物1発明に接した場合に,注入ポンプに代わる,強制注入手段を用いない注入手段を想起する必然性は全くないと主張する。 しかしながら,刊行物1に「この発明は,コンクリート構造物のクラック補修に適するものであることはもちろんコンクリート構造物であれば・・・空隙部充填補修など広く利用することのできるものである。」(甲2の3頁左下欄11〜15行)と記載されているように,刊行物1発明のクラックへの充填技術と,刊行物2発明の間隙充填技術は,注入技術として共通するものである。 しかして,刊行物1には,注入ポンプによる注入の問題点を解決するために,ゴムパイプのゴム圧力を利用して,パイプ内に充填されている接着剤を人手を要さずに亀裂内に浸透させることが記載されているのであり,また,本願発明4における水頭圧も,刊行物1発明のポンプ圧又はゴム圧も,いずれも亀裂に防水液を導入するために,防水液に圧力を加える点で共通しているのであって,刊行物1発明において,圧力を加える手段として,注入ポンプに代えて,刊行物2発明に係る自動注入手段を採用することに格別の困難性はない。 なお,原告は,刊行物2発明において,液体Sは当初は手押しポンプ15で強制注入するのであり,終始水頭圧にて注入を行う本願発明4とは異なっていると主張する。しかし,刊行物2には,手押しポンプによる注入に代えて,液体自動注入具を用いること(即ち水頭圧を用いること),それにより人的労力が省略できることが示されているのであり(甲3の段落【0003】,【0004】),手押しポンプによる注入手段を用いなければ,液体自動注入具による注入手段を利用できないというものではない。 (2) 原告は,刊行物2には,収納容器としてペットボトルを利用し得ることが記載されているが,そのことから直ちに,亀裂上に接着固定され,注入された漏水探査液又は防水液を水頭圧で,亀裂中に注入するための,本願発明4における「貯溜区画」の考え方が想起され得るものではない旨主張する。 本件審決は,本件相違点に係る構成の容易想到性の判断にあたって,刊行物2に記載されている,貯留した防水処理剤の水頭圧を利用する注入技術を引用したものであって,有底のペットボトルを用いて,防水液を注入する点を引用したのではない。 すなわち,本件審決は,本願発明4と刊行物1発明とは「亀裂上の複数箇所に耐水性資材製の注入区画を接着固定し,前記注入区画内に防水液を注入し,前記亀裂内に導入するコンクリート構造物の亀裂補修方法」である点で一致すると認定した上で,「亀裂上に接着固定された注入区画を介して,防水液を亀裂内に導入する手段が,本願発明は,注入区画内に貯留した防水液の水頭圧によるのに対して,刊行物1発明は,防水液を注入ポンプの圧力及び圧力緩衝部のゴム圧力にある点」(本件相違点)を相違点と認定したものである。 そして,刊行物2には,注入圧力を加える手段として,貯留した接着剤又は防水処理剤を自重すなわち水頭圧を利用することが示されているのであるから,本件審決は,刊行物1発明における亀裂上に接着した注入区画から,防水液を亀裂内に導入するための圧力付加手段として,刊行物2記載の,貯留した液体の水頭圧を利用する技術を採用すること,すなわち,亀裂上に接着した注入区画を,充填した防水処理剤の水頭圧を利用して防水液を注入できる構成とすることは,当業者が容易になし得ると判断したのであり,相当というべきである。 (3) 原告は,本願発明4は,高価な資材を一切必要とせず,熟練の技術も特に必要としないため作業コストを大幅に下げることができるコンクリート構造物の亀裂補修方法を提供することを課題としてなされたものであると主張するが,施工にあたって,作業コストを下げようとすることは当然の課題であり,刊行物1にも,熟練の技術を必要とせず,人手を要する作業時間を短縮しようとする課題が示されており,刊行物2には,ペットボトルを使用する例が記載されているように,高価な資材を必要とせず,しかも,人的労力が省略できる注入技術が記載されているのであって,作業コストを下げることを目的として,刊行物2発明を参酌することに何ら困難性はない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1発明の誤認と本願発明4と刊行物1発明との相違点の看過)について 原告は,刊行物1発明は,本願発明4とは,@注入する防水液等の種類,A注入方法(本件相違点),B注入対象である亀裂の幅の各点で相違しているものであり,本件審決は,刊行物1発明の上記特徴を認識せず,上記@,Bの相違点を看過したものである旨主張する。 しかしながら,本願明細書(甲4)の「特許請求の範囲」【請求項4】の記載において,防水液の性質,種類,注入対象である亀裂の幅は構成要件として特定されていない。また,本願明細書の「発明の詳細な説明」にも,「貯溜区画3は,金属,プラスチック,厚紙等の防水性資材を用い,例えば底を欠く筒状,その他,使用個所に対応する形状に形成する。そのサイズは亀裂巾に合わせたものとし,例えば,直径25mmから150ミリメートル程度にし,亀裂幅が小さいときは直径の大きいものを使用し,亀裂幅が大きいときは直径の小さいものを使用する。また,貯溜区画3の高さを高くして,注入される漏水探査液又は防水液の水位を高めることにより,その水頭圧が大きくなるように調節することができる。」(甲4の段落【0010】),「防水液としては,アルキルアルコキシシランモノマー系,ポリシロキサン系,シランオリゴマー系(水性,溶剤系),アルキルシラノール,変成アルキルシランオリゴマー,変成アルキルシリコーン,シラン系オリゴマーの浸透性防水剤,その他様々なものを用いることができる。」(同段落【0013】)と記載され,注水の対象である亀裂の幅,防水液の種類又は粘度を限定する記載はない。 のみならず,上記明細書の実施例の記載において,防水液として粘性の低いものを使用することが記載されていると解釈されるとしても,権利範囲を特定する請求項の記載を解釈する上で,実施例に係るものに限定解釈することは許されないというべきである。 上記のとおり,原告の上記主張は,本願明細書(甲4)の特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,採用できない。 なお,刊行物1(甲2)には,実施例として,コンクリート橋床版下面のクラックに防水液を注入するものが記載されており,原告は,この点をとらえ,刊行物1発明において接着剤等は強制注入する以外には考えられないものである旨主張するが,本件審決の認定するとおり,コンクリート構造物の亀裂は,構造物の上面,壁面等種々の部位に生じ得るものであり,刊行物1の記載からして,刊行物1発明が,コンクリート下面の亀裂に防水液を注入するものに限定されるものではないことは明らかである。 2 取消事由2(本願発明4の進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1発明においては注入ポンプを用いることが前提となっており,注入ポンプのような強制注入手段の使用を必須とする刊行物1発明に接した場合に,注入ポンプに代わる注入手段,換言すれば,強制注入手段を用いない注入手段を想起する必然性は全くなく,刊行物1発明において,代替注入手段として,強制注入によらない刊行物2発明等を考慮することは有り得ないことである旨主張する。 そこで検討するに,刊行物1(甲2)には,@「本発明は,接着剤の注入方法,特にコンクリート構造物のクラック補修に適した接着剤の注入方法に関する。・・・最近では接着剤注入による補修方法としてクラック状に適当間隔に注入パイプを取り付け,該注入パイプ取り付け部以外の箇所をシールし,シール材の硬化後注入ポンプを注入パイプに接続し,接着剤を注入するという方法が提案されている。この方法によれば補修効果があることは認めることはできるものの,作業上に幾つかの難点を見出す。たとえば接着剤に粘性があるためクラック間隙に接着剤を注入する速度を速めると接着剤注入箇所に注入圧力がかかり注入圧力が上昇し,そのためシール箇所がパンクしたり,さらにクラック幅を拡げたりする難点がある。そのため接着剤を1注入箇所あたり3〜5分という低速で注入する必要があり作業者の熟練を必要とした。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄9行),A「本発明はコンクリート構造物のクラック等の被注入体に接着剤を注入するにおいて,被注入体にかかる圧力を注入パイプと注入ホース間の任意の箇所に圧力緩衝部を設け,接着剤注入中に緩衝部に接着剤をプールするとともにプールされた接着剤を圧力緩衝部の持続変化により注入するようにして接着剤注入による補修方法の欠点を除去しようとするものである。」(2頁左上欄10〜17行),B「本発明を図面に基づき説明する。・・・第3図は圧力緩衝部の一つの実施例を示すもので,1は注入パイプ,3は圧力緩衝部で注入パイプ1は金属またはプラスチックでできており,・・・この圧力緩衝部としてのゴムパイプ3は注入パイプ1と同様の材質からなるパイプ2との間にあって,それぞれパイプ1,2の端部を内側に嵌め込んでいる。・・・5は注入ホース接続用ゴムでパイプ2の他端に接続されている。6は座金で注入パイプ1の注入口付近に固着されている。」(2頁左上欄18行〜左下欄1行),C「圧力緩衝部3がクラックAに対して第1図説明のようにして構成されたのち,ゴムパイプ5に接着剤注入ポンプよりきた注入ホースを接続してコンクリート構造物のクラックA間隙にエポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂等の接着剤を注入すると注入時の注入圧力により接着剤はクラックA間隙に注入される一方,圧力緩衝用のゴムパイプ3内部にも接着剤が充填され,クラックAに一定の圧力が加わったとき,第5図に示すようにゴムパイプ3は膨張してクラックAにかかる圧力を緩和する。接着剤の所要量注入後,ゴムパイプ3または5のポンプ側の端部を閉じ注入ホースとの接続部を分離し,つぎの施工箇所に移動する。・・・注入作業終了後(注入ポンプ取りはずし後)もゴムパイプに封入された接着剤はゴム圧力で接着剤がゲル化により流動性を失うまでクラック深部に浸透する。」(2頁左下欄10行〜右下欄6行)と記載されている。 上記記載によれば,刊行物1には,上記@記載の注入ポンプによる接着剤の注入における問題点を解決するため,注入ポンプで注入する以外に,ゴムパイプのゴム圧力を利用して,パイプ内に充填されている接着剤を人手を要さずに亀裂内に浸透させること,すなわち,注入ポンプ取り外し後も,ゴムパイプ3に封入された接着剤は,膨張したゴムパイプのゴムが元の状態に戻ろうとする圧力で接着剤がゲル化により流動性を失うまでコンクリートの隙間に浸透させる仕組みが開示されているということができる。そして,本願発明4と刊行物1発明は,いずれもコンクリート構造物の亀裂の補修方法に関するものとして技術分野を共通にし,また,本願発明4における水頭圧も,刊行物1発明の注入ポンプによるポンプ圧又はゴムパイプによるゴム圧も,いずれも亀裂に防水液を導入するために,防水液に圧力を加える点で共通しているのであって,当業者であれば,刊行物1発明において,圧力を加える手段として,注入ポンプやゴムパイプに代えて,他の注入手段を採用することに格別の困難性があるとは考えられない。 原告は,刊行物1記載の接着剤注入はコンクリート構造物の亀裂に対して行われるものであり,亀裂は本願発明4の場合ほど小さいものではないにしても,刊行物2発明における隙間Mほど広いものではなく,また,刊行物2発明において,間隙Mは,異種材料である橋脚30と鋼板31との間であって,液体S(刊行物2によればエポキシ樹脂系接着剤(甲3の段落【0009】))は,異種のコンクリート橋脚30と鋼板31とを接着するものであるから,刊行物1発明と刊行物2発明とでは,同じく注入技術とはいっても,言葉上だけのもので,実際の技術内容は全く異なり,両技術の間には代替性はない旨主張する。 しかしながら,刊行物2発明で前提とされている土木建築作業と,刊行物1発明に係るコンクリート構造物の亀裂補修作業とは,いずれもコンクリート構造物を対象とし,接着剤等を注入する作業であることにおいて同一の技術分野に属するものというべきであり,土木建築作業であれ,コンクリート構造物の補修作業であれ,その作業をできるだけ人手を要せず省力化することは共通の課題であり,上記亀裂補修作業に係る当業者が接着剤等の注入手段を選択するに当たって,刊行物2発明の接着剤等の自重による注入手段に着目する動機付けは十分に存在するものというべきである。そして,この場合,原告の主張する程度の隙間の広狭における差異,隙間が存在する部位の材質の違いは,刊行物2発明の上記注入手段を採用する阻害要因とはならないと考えられる。 なお,本件審決は,刊行物2発明の自動注入手段に着目して,これを刊行物1発明に適用することは当業者に容易に想到できるとしたものであり,刊行物2発明において,自動注入手段を用いる前段階として,強制注入を行うことが予定されているものとしても,そのことは,刊行物2発明の適用を阻害する要因にはならないというべきである。 したがって,刊行物1発明において,刊行物2発明に開示された強制注入力によらない注入手段を適用することに阻害要因があるということはできない。 (2) 原告は,刊行物2には,収納容器としてペットボトルを利用し得ることが記載されているが,そのことから直ちに,亀裂上に接着固定され,注入された漏水探査液又は防水液を水頭圧で,亀裂中に注入するための,本願発明4における「貯溜区画」の考え方が想起され得るものではない旨主張する。 そこで,検討するに,刊行物2(甲3)には,「接着剤又は防水処理剤等の土木建築用液体Sを収納する収納容器1と,該収納容器1に連通連結する吐出用チューブ4と,該収納容器1を保持する保持部3を有する支柱2と,・・・を備え,・・・収納容器1内の土木建築用液体Sを橋脚30と鋼板31との隙間Mへ滴下しつつ補充することを特徴とする土木建築用液体自動注入具。」(実用新案登録請求の範囲【請求項1】),「収納容器1をペットボトルとした請求項2記載の土木建築用液体自動注入具。」(同【請求項3】)の登録実用新案が開示されており,その「考案の詳細な説明」欄には,「図1と図2に示すように,コンクリート橋脚30の補強工事では,先ず橋脚30を鋼板31にて外嵌する。しかしながら,橋脚30と鋼板31との間には,僅かに隙間Mができるため,この隙間Mに・・・土木建築用液体Sを流し込んで,橋脚30と鋼板31との接着及び/又は橋脚30の防水処理を次工程で行う。」,「具体的には,土木建築用液体Sを手押しポンプ15・・・等を用いて,地上32から高さ距離H0の位置にある上方開口状の隙間口M 1に圧送する。そして,液体Sの液面17が鋼板31の上端縁16に並ぶまで(隙間M内に液体Sが充満するまで)液体Sを注入する。」,「しかしながら,注入作業が夕方(又は夜)に終了して後,・・・所定時間経過後(翌朝)には,液面17が地上32から高さ距離H1の位置まで下がってしまう。」,「そこで,図1と図3に示 すように,手押しポンプ15による液体Sの圧送(注入)作業後に,収納容器1に液体Sを収納した(本考案の)自動注入具を,鋼板31の上端部18(上端縁16近傍)にセットする。」,「つまり,・・・液体Sを入れた収納容器1を支柱2の保持部3へ倒立状態にセットし,吐出用チューブ4を隙間口M1に挿入する。なお,チューブ4の先端20は,テープ21等にて橋脚30又は鋼板31に固定し,風で吹き飛ばされないようにする。」,「すると,収納容器1内の液体Sが,吐出用チューブ4を通って隙間M内に自重で滴下していく。このとき,上記高さ距離H1の位置まで液体Sが下降することによる液体S の減少量は予め推測できるので,その減少量分(相当量)の液体Sを滴下補充する。例えば,容量2リットルの収納容器1(ペットボトル)に液体Sを満たんにした場合,4リットル補充するには自動注入具を2箇所,10リットル補充するには5箇所という具合に(適当な間隔をもって)設置する。 なお,隙間M内の液体Sがゆっくり減少していくのに対応して,補充の液体Sを滴下しているので,補充用液体Sが隙間口M1から溢れない。」(段落【0013】〜【0018】)と記載されている。 上記の記載によれば,刊行物2には,一定の収納容器に防水液等を収納し,収納された防水液等がその自重で防水液等の注入を行うべき隙間に滴下させる技術,すなわち,収納容器内に貯留した防水液等の水頭圧を利用して当該防水液等を注入する技術が開示されているということができるところ,本件審決は,刊行物1発明に刊行物2に開示されたかかる技術を適用して,本件相違点に係る構成を想到することは容易である旨判断したものである。上記【請求項3】の記載によれば,刊行物2発明に係る土木建築用液体自動注入具には,ペットボトルを収納容器として利用し得ることが開示されているが,本件審決は,有底のペットボトルを使用して防水液等を注入する点を適用して,本件相違点に係る構成を想到することが容易であると判断したものではない。 しかして,水頭圧を利用し防水液等の注入を行う場合に,防水液等を一定の収納箇所に貯留する必要があることは技術常識に属する事柄であり,防水液等の注入に水頭圧を利用する技術が刊行物に開示されている以上,本願発明4における防水液を貯留する「貯溜区画」を設けること自体は,格別の創意を要することとはいえない。 なお,ペットボトルが防水液を貯溜する区画を形成し得ることは明らかであるところ,本願発明4に係る「貯溜区画」は,「亀裂上の1箇所又は複数箇所に耐水性資材製の貯溜区画を接着固定し,前記貯溜区画内に防水液を注入し」として特定されているにすぎず,ペットボトルを利用するものを排除するものとはいえない。したがって,本願発明4においてペットボトルを貯留区画として利用し得ないということはできない。 原告の上記主張は,本件審決の判断を正解しないものであり,失当である。 (3) 原告は,本願発明4は,「高価な資材を一切必要とせず,廃棄物を利用することも可能であって熟練の技術も特に必要としないために,作業コストを大幅に下げることができるコンクリート構造物の亀裂補修方法を提供すること」を課題としてなされたものであり,かかる課題を解決するための手段追及に当たり,高価な注入ポンプや特殊構造の注入パイプを開示する刊行物1発明及び刊行物2発明を参酌するはずがなく,かつ,その発明に依拠して創作を進めようとする発想が生ずるはずがない旨主張する。 しかしながら,本願発明4と刊行物1発明とが,コンクリート構造物の亀裂の補修方法に関する発明であるという点で技術分野を共通にすることは,既に説示したとおりである。そして,刊行物1発明も,注入ポンプにより亀裂へ接着剤を注入する従来技術には難点があり,そのため接着剤を1注入箇所あたり3〜5分という低速で注入する必要があり作業者の熟練を必要とするという問題があったことから,その注入を熟練の作業者を要せず,人手を要する作業時間を短縮する方策を見出すことを課題とするものであったことが認められ,本願発明4における課題とは,「熟練の技術」を要せず作業を行い得ることを目的とするという点で共通しているということができる。 また,前記に認定したとおり,刊行物2発明は,コンクリート橋脚補強工事における土木建築用液体を強制注入した後に,コンクリートへの液体の浸透による液面低下を補充することを前提とするものであるが,刊行物2発明に係る自動注入具自体は,当該液面低下の補充作業を高価な資材を用いることなく人的労力を省略するための液体注入技術であり,作業コストの低減につながるものであり,この点において,本願発明4と課題を共通にするものである。 したがって,刊行物1発明及び刊行物2発明を参酌して,本件相違点に係る構成を想到することにおいて,原告主張のような困難性があるとは認められない。 3 以上によれば,原告が取消事由として主張するところは理由がなく,その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
---|---|
裁判官 | 青蜉] |
裁判官 | 沖中康人 |