関連審決 | 異議2000-72583 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 同一の発明 / 明確性 / パリ条約 / 優先権 / 実質的に同一 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
545号
特許取消決定取消請求事件
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原告 カミンズ−アリソン・コーポレーション 同訴訟代理人弁護士 矢部耕三 同 伊藤玲子 同訴訟代理人弁理士 神田藤博 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 久保克彦 同 橋本康重 同 高橋泰史 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/01/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2000―72583号事件について平成14年6月7日にした決定中,特許第2995156号の請求項1ないし9に係る特許を取り消すとの部分を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,特許庁に対し,1990年(平成2年)2月5日に米国でした特許出願に基づきパリ条約4条による優先権を主張して平成3年1月14日にした特許出願の一部を分割して,平成8年3月21日,発明の名称を「書類識別装置および方法」とする発明につき特許出願を行い,平成11年10月22日,設定登録を受けた(特許第2995156号,以下「本件特許」という。)。 本件特許につき,平成12年6月27日,特許異議の申立てがされ(異議2000―72583号),原告は,平成13年10月29日に訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)が,特許庁は,平成14年6月7日,「訂正を認める。 特許第2995156号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年7月1日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲 本件訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項の発明をそれぞれ「本件発明1」等という。)。 【請求項1】積み重ね状態の異なる額面金額の通貨紙幣を受け取り,該通貨紙幣のすべてを迅速に識別するための装置であって, 識別すべき積み重ね状態の異なる額面金額の通貨紙幣を受け取るための入口場所と, 識別した後の前記通貨紙幣を受け取るための単一の出口場所と, 前記通貨紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から前記出口場所へと移送経路に沿って移送するための移送機構と, 前記通貨紙幣を識別するための識別ユニットにして,前記入口場所と前記出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器を備え,前記通貨紙幣を計数し且つ該通貨紙幣の額面金額の同定を行うようになされた識別ユニットと, ある基準を満足しない通貨紙幣についてフラグを出す手段と, を備えている書類識別装置。 【請求項2】前記フラグを出す手段が,前記移送機構を停止可能とされている,請求項1記載の書類識別装置。 【請求項3】前記基準が,前記識別ユニットが前記通貨紙幣の額面金額の同定を行うことであり,該同定がなされず,したがって前記通貨紙幣が前記基準を満足しないとされたときに,前記フラグを出す手段が前記移送機構を停止させるようになされている,請求項1または2のいずれかに記載の書類識別装置。 【請求項4】前記識別ユニットが該紙幣の計数および額面金額の決定を行うようになされている,請求項1ないし3のいずれかに記載の書類識別装置。 【請求項5】前記識別ユニットの前記検出器が,前記移送機構によって前記入口場所および前記出口場所間を移送される各通貨紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査して該走査されたイメージを示す出力信号を作り出すための静止した光学走査ヘッドを備えており,前記識別ユニットが,前記出力信号を受け取り,走査された各通貨紙幣の額面金額を決定するための信号処理手段を備えている,請求項1ないし4のいずれかに記載の書類識別装置。 【請求項6】異なる額面金額の通貨紙幣を計数し且つ識別するための方法にして,識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を入口場所にて受け取る段階と, 前記通貨紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から単一の出口場所まで移送する段階と, 前記通貨紙幣を計数し且つ該通貨紙幣の額面金額を同定する段階と, ある基準を満足しない通貨紙幣についてフラグを出す段階と, を備える方法。 【請求項7】前記フラグを出す段階が,前記通貨紙幣の移送を停止させることを含む,請求項6記載の方法。 【請求項8】前記基準が,前記通貨紙幣の額面金額の同定を行うことであり,前記通貨紙幣の額面金額の同定が行われなかったときに該通貨紙幣についてフラグが出されるようになされている,請求項6または7に記載の方法。 【請求項9】前記通貨紙幣の額面金額を同定する段階が,前記入口場所および出口場所間を移送される各通貨紙幣の所定のセグメントを,静止した光学走査ヘッドを使用して走査し,該走査されたイメージを示す出力信号を作り出すことを含んでいる,請求項6ないし8のいずれかに記載の方法。 3 本件決定の理由の要旨 本件決定は,本件訂正を認めた上,本件発明1ないし9は,特公昭61-14557号公報(甲5。以下「引用例1」といい,そこに記載された発明を「引用発明1」という。),特開昭56-136689号公報(甲6。以下「引用例2」といい,そこに記載された発明を「引用発明2」という。)及び特開平2-22786号公報(甲7。以下「引用例3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 本件決定の理由のうち,取消事由の主張に関連する部分の要旨は,次のとおりである。 (1) 本件発明1及び2について ア 本件発明2と引用発明1の一致点,相違点 (一致点) 積み重ね状態の通貨紙幣を受け取り,該通貨紙幣のすべてを迅速に識別するための装置であって, 識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を受け取るための入口場所と,識別した後の前記通貨紙幣を受け取るための出口場所と, 前記通貨紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から前記出口場所へと移送経路に沿って移送するための移送機構と, 前記通貨紙幣を識別するための識別ユニットにして,前記入口場所と前記出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器を備え,前記通貨紙幣を計数し且つ該通貨紙幣の額面金額の同定を行うようになされた識別ユニット を備えている書類識別装置 (相違点ア) 本件発明2は,積み重ね状態の通貨紙幣が異なる額面金額のものであり,この通貨紙幣を計数し且つその額面金額の同定を行う装置であるのに対し,引用例1には,積み重ね状態の通貨紙幣を計数し且つその額面金額の同定を行う装置の発明が開示されてはいるが,積み重ね状態の通貨紙幣が異なる額面金額のものであるとの記載はないこと。 (相違点イ) 本件発明2では,出口場所が単一であるのに対し,引用例1には,出口場所の開示はあるが,それが単一であるとの記載はないこと。 イ 相違点の判断 (相違点アについて) 引用例2には,4種類の紙幣が混在して集積された通貨紙幣の種類の判別と計数を行う紙葉類分類装置が記載され,この4種類が混在した通貨紙幣が本件発明2の「異なる額面金額の通貨紙幣」に相当するから,相違点アに係る本件発明2の構成は,引用例2に開示されていると認められる。そして,引用例2記載の紙葉類分類装置は,紙幣の種類を識別しその額面金額を計数する装置において,引用発明1とその機能・作用及び技術分野で共通するものであるから,引用発明2を引用発明1に適用することは,当業者であれば容易であったと認められる。そうすると,相違点アに係る本件発明2の構成は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に想到することができたものと認められる。 (相違点イについて) 引用発明1は,異金種の紙幣を発見した際に通貨紙幣の搬送駆動部を停止させるものであると認められる。引用例1の「尚,異金種紙幣排除装置123を設け,金種照合装置114からの照合信号RHを入力してそれが不一致を示すものであれば,当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」(6欄)との記載によれば,引用例1には,異金種の紙幣を発見した際に,搬送駆動部を停止させるかわりに,紙幣を別途設けられている排除口へ排除させる変形例が記載されていると認められる。そうすると,引用発明1,すなわち,異金種の紙幣を発見した際に搬送駆動部を停止させる発明では,特段の事情のない限り,複数の出口場所を要する技術的理由はないと認められるから,出口場所を単一とすることは,当業者であれば普通にすると認められる設計事項にすぎないというべきである。したがって,相違点イに係る本件発明2の構成は,当業者であれば引用発明1から容易に想到できた設計事項であると認められる。 特許権者(原告)は,引用例1が開示する紙幣走査装置が,紙幣堆積台と別の出口受け取り部を備えた二つの出口ポケットを有するものであると主張するが,上記のとおり,引用例1記載の実施例の変形例についての主張であって,失当という外はない。 ウ 本件発明1について 本件発明1の構成をさらに限定した本件発明2の進歩性が否定されるのであるから,本件発明1についても,進歩性が否定される。 (2) 本件発明5について 引用例1記載のパターン検知装置111は,投光器と受光器からなる光電装置及び透過光スリットを有する走査スリット板で構成されているから,本件発明5の「光学走査ヘッド」に相当すると認められる。 そして,本件発明5の「通貨紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査」することは,通貨紙幣を走査する上での設計事項というべきであり,同発明の残余の構成も当業者であれば自明の技術的事項にすぎないと認められる。作用効果についても,格別のものを認めることができない。 したがって,本件発明5は,引用例1ないし3記載の各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 本件発明6及び7について ア 本件発明7と引用発明1の一致点,相違点 (一致点) 額面金額の通貨紙幣を計数し且つ識別するための方法にして, 識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を入口場所にて受け取る段階と, 前記通貨紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から出口場所まで移送する段階と, 前記通貨紙幣を計数し且つ該通貨紙幣の額面金額を同定する段階を有する方法 (相違点オ) 本件発明7では,出口場所が単一であるのに対し,引用例1には,出口場所の記載があるが,それが単一であるとの記載はないこと。 イ 相違点オの判断 相違点オは上記相違点イと実質的に同じであるから,相違点イについての判断と同様の理由により,相違点オに係る本件発明7の構成は当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 ウ 本件発明6について 本件発明6の構成をさらに限定した本件発明7の進歩性が否定されるのであるから,本件発明6についても,進歩性が否定される。 (4) 本件発明9について 本件発明5についての判断と同様の理由により,本件発明9において限定された事項は,引用例1に実質的に開示されているというべきである。 |
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原告主張に係る本件決定の取消事由の要点
本件決定は,本件発明1,2と引用発明1との相違点ア,イについての判断を誤った結果,本件発明1,2についての進歩性の判断を誤り(取消事由1),本件発明6,7と引用発明1との相違点オについての判断を誤った結果,本件発明6,7についての進歩性の判断を誤り(取消事由2),本件発明5と引用発明1との相違点を看過し,本件発明5についての進歩性の判断を誤り(取消事由3),同様に,本件発明9についての進歩性の判断を誤り(取消事由4),本件発明1,2,6,7に関する進歩性の判断を誤った結果,これらを引用する本件発明3,4,8についても進歩性の判断を誤った(取消事由5)ものであり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1,2についての進歩性判断の誤り) (1) 相違点アの判断の誤り 引用例1には,相違点アの認定のとおり,異なる額面金額を識別することについての具体的開示がないから,引用発明1は,紙幣の識別装置ではなく,紙幣の計数装置に係るものにすぎない。これに対して,引用発明2は,異なる額面金額の識別装置に係るものである。つまり,引用発明1は,単に「単金種紙幣の枚数を数える装置」としての本質しか有しないものであるのに対し,引用発明2は,「全ての金種の紙幣を当然に識別して仕分けする装置」という本質を持つ。したがって,上記両発明は,その本質や用途の異なる別の技術分野であるから,引用発明2を引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到することができないことである。 (2) 相違点イの判断の誤り 本件決定が「引用発明1において出口場所を単一とすることは単なる設計事項にすぎない。」としたのは,以下の理由により,誤りである。 ア 引用例1には「出口場所が二つである装置」のみが開示されており,かつ,「出口場所が単一である装置」の構成では引用発明1の目的を達成できないから,引用発明1は,「出口場所が単一である装置」の構成を排除している。 すなわち,引用発明1は,「単金種紙幣の枚数計数機」という基本的な性質を維持しながら,これに改良を加えて装置が計数の対象とする金種以外の金種の紙幣を自動的に除外できる機能を備えたものである。したがって,引用発明1では,装置の構成上,除外する紙幣を受けるための正規の出口とは別の出口を設けることが必須の要件となるので,本件発明のように出口場所が一つしかないものを排除している。 また,引用例1が開示するのは出口が二つである構成のみであることは,実施例を示した図面からも明白である。すなわち,制御回路のブロック図を示す第3図には,その中央上方に「異金種紙幣排除装置123」の制御ブロックが明示されており,この回路によって制御されるのは「別途設けられている排除口」である。また,第2図において,通常時には紙幣を右方の堆積台23に向けて送る役割を果たす「搬送ベルト21」を,異金種紙幣を検知した場合には逆転作動させれば,異金種紙幣は第2図では省略されている装置左側に位置する「別途設けられている排除口」へ送られる。 さらに,引用例1(甲5)に対応する公開特許公報(甲8)には,出口場所が二つあることが明記されている。上記甲5と甲8とは,いずれも同一の発明である引用発明1を開示するものであるから,引用例1においても当然に出口場所が二つある構成の開示しかないと解釈せざるを得ない。 なお,引用例1の請求項に「停止させるか又は排除させる」とあるのは,出口が単一であるか二つであるかという装置の「構成」を示したものではなく,出口が二つの装置において異種類の紙類が検出された場合における,搬送制御装置の「制御の動作」を示したものにすぎないと解すべきである。仮に,「停止」又は「排除」が出口の構成を意味すると解するならば,「停止」の場合は出口が一つで,「排除」の場合は出口が二つと理解せざるを得ないから,上記請求項記載の構成は,特定性(特許法36条5項)及び明確性(同条6項2号)を欠いたものとして特許法上許容されない。 イ 従来技術では,紙幣の複数の額面金額を識別する「紙葉類分類装置」は,識別された各額面金額に基づいて紙幣が物理的に仕分けられるよう,複数の出口場所に額面金額ごとの区分箱を有することが当然と考えられていた。しかるに,本件発明1,2は,上記の常識を捨てることにより,識別機能を維持した状態で区分箱(仕分け箱)をなくし,単一の出口場所のみを設けたコンパクトなサイズの装置を実現した。すなわち,「識別」と「仕分け」とは技術的に直結しているので,両者を切り離すことは容易に想到し難いところ,本件発明1,2は,「識別機能を持ちつつ,仕分け機能をなくする」という画期的な発想に基づき,「単一の出口場所しか有しないコンパクトな識別装置」を提供したものである。 2 取消事由2(本件発明6,7についての進歩性判断の誤り) 相違点オは,相違点イと同一なので,本件決定は,上記相違点イの判断と同様に,相違点オの判断を誤った。 3 取消事由3(本件発明5についての進歩性判断の誤り) 本件発明5は,通過紙幣の額面金額を同定するに当たり,出口場所に向かって移送されている紙幣の一枚一枚を光学走査ヘッドが識別のために走査する領域を紙幣の全域ではなく,「所定のセグメント」に限定している。これに対して,引用発明1は,紙幣の光学走査の対象が「所定のセグメント」に限定されるというものではない。したがって,本件決定は,上記相違点を看過したことになる。 そして,本件発明5は,走査対象を「所定のセグメント」に限定したこと,すなわち「紙幣をその幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について照射及び走査を行うことによって得られた紙幣の反射特徴を光学的に検出する」(本件明細書【0010】【発明を解決するための手段】)方式を採用したことにより,光学式検出相関技術における従前の問題点である,識別及び計数時間の長期化,装置の大型化,複雑化といった問題を解決した点に意義を有する。したがって,走査の範囲を「所定のセグメント」に限定することが単なる設計事項であるとはいえない。 4 取消事由4(本件発明9についての進歩性判断の誤り) 本件発明9は,本件発明5と実質的に同一の内容の発明であるから,本件決定は,本件発明5の進歩性判断と同様に,本件発明9の進歩性判断を誤った。 5 取消事由5(本件発明3,4,8についての進歩性判断の誤り) 本件決定は,前記のとおり,本件発明1,2,5,6,7についての進歩性の判断を誤った結果,これらを引用する本件発明3,4,8についても進歩性の判断を誤った。 |
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被告の反論の要点
以下のとおり,本件決定の判断に誤りはないから,原告の主張する本件決定の取消事由には理由がない。 1 取消事由1(本件発明1,2についての進歩性判断の誤り)について (1) 相違点アの判断について 原告は,「引用発明1,2は,その本質や用途の異なる別の技術分野であるから,引用発明2を引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到できないことである。」旨主張する。しかしながら,引用発明1と引用発明2は,共に紙幣の識別計数装置において共通するものであり,同じ技術分野に属するものというべきである。 (2) 相違点イの判断について ア 原告は,「引用発明1は,出口が二つある装置の構成のみを有し,出口が単一である装置の構成を排除している。」旨主張する。しかしながら,引用例1には,実施例について,「尚,異金種紙幣排除装置123を設け,金種照合装置114からの照合信号RHを入力してそれが不一致を示すものであれば,当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」(6欄)との記載があり,実施例の一部の構成を変形した変形例について記述しているから,変形する前の実施例では,金種照合装置からの照合信号を入力してそれが不一致を示すものである場合,当該検出紙幣を排出する排除口を別途設けていないものと解される。したがって,引用発明1が,出口が単一である装置の構成を排除しているとはいえない。 原告は,「引用例1に対応する公開公報には出口が二つある装置の開示しかないから,引用例1においても同様であることが裏付けられる。」旨主張する。しかしながら,そもそも,同公開公報においても,出口が二つある装置は,実施例の一部の構成を変形した変形例として記載されていると解されるから,同公開公報に出口が二つある装置の開示しかないとはいえない。 イ 原告は,「従来技術では,紙幣の複数の額面金額を識別する「紙葉類分類装置」は,識別された各額面金額に基づいて紙幣が物理的に仕分けられるよう,複数の出口場所に額面金額ごとの区分箱を有することが当然と考えられていた。しかるに,本件発明1,2は,上記の常識を捨てることにより,識別機能を維持した状態で区分箱(仕分け箱)をなくし,単一の出口場所のみを設けたコンパクトなサイズの装置を実現した。」旨主張する。しかしながら,装置のコンパクト化という課題は周知のものであるから,その課題を達成するために出口を単一にすることは,当業者が引用発明1に基づき容易に想到することができたことである。 2 取消事由2(本件発明6,7についての進歩性判断の誤り)について 前記1の(2)に記載のとおり,相違点イの判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は,その前提を欠き,理由がない。 3 取消事由3(本件発明5についての進歩性判断の誤り)について 原告は,「本件発明5は,紙幣の光学走査部分が「所定のセグメント」に限定されるものであるのに対し,引用発明1はそのように限定されるものではないのに,本件決定は上記相違点を看過した。」旨主張する。しかしながら,本件決定は,本件発明5の「通貨紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査」することは,設計事項というべきであると判断したものであるから,上記構成の有無を相違点と認定した上で判断したものであり,これを看過したものではない。 原告は,「本件発明5は,走査対象を「所定のセグメント」に限定したこと,すなわち「紙幣をその幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について照射及び走査を行うことによって得られた紙幣の反射特徴を光学的に検出する」方式を採用したことにより,光学式検出相関技術における識別及び計数時間の長期化等の従前の問題点を解決した点に意義を有するから,走査の範囲を「所定のセグメント」にすることが単なる設計事項であるとはいえない。」旨主張する。しかしながら,紙幣をその幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について走査することは,本件発明5の特許請求の範囲には記載されていないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。また,本件発明5は,「各通貨紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査」するものであり,紙幣の全体を走査するものまで含むから,走査の範囲を「所定のセグメント」に限定したことによる効果をいう原告の上記主張は失当である。なお,紙幣の幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について照射及び走査を行うことは,本件特許の出願時に既に周知であった。したがって,走査の範囲を「所定のセグメント」にすることが単なる設計事項であるとの本件決定の判断に誤りはない。 4 取消事由4(本件発明9についての進歩性判断の誤り)について 本件決定の本件発明9についての進歩性判断には,前記3記載の本件発明5についての進歩性判断と同様に,誤りはない。 5 取消事由5(本件発明3,4,8についての進歩性判断の誤り)について 本件決定の本件発明3,4,8についての進歩性判断には,前記1ないし3記載の本件発明1,2,5,6,7についての進歩性判断と同様に,誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1,2についての進歩性判断の誤り)について (1) 相違点アの判断について 原告は,「引用発明1は,異なる額面金額を識別するものではなく,紙幣の計数装置にすぎないのに対して,引用発明2は,異なる額面金額の識別装置である。したがって,上記両発明は,別の技術分野であるから,引用発明2を引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到することができないことである。」旨主張する。 ア しかしながら,引用例1には, 「この発明は,紙幣,カード等の紙葉類を1枚ずつ取出して計数等の所要の処理をなさしめる紙葉類処理機において,その紙葉類 を識別 して 確実 に計数 なさしめるようにした 紙葉類識別計数機 に関する 。」(2欄15〜19行) 「この発明の目的は,計数すべき紙葉類の種類を指定することにより,計数中 に紙葉類 の種類 を自動的 に識別 し,異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止又は排除させ得る紙葉類の識別計数機を提供することにある。」(3欄3〜7行) 「上述の如き計数機は第3図に示す制御回路によって制御される。すなわち,第3図において,111は搬送 される 紙幣 の金種 を識別 するための ,搬送路 に設けられた パターン 検知装置 であり ,第4図に示す如く投光器111A及び受光器111Bの光電装置と,その間に配設された長形状の透過光スリット111Cを有する走査スリット板111Dとで構成されている。また,112はパターン 検知装置111 からの パターン 検知信号 を入力 して 当該紙幣 の金種 を識別 するための 識別装置 ,113 は金種指定 キー 103 で指定 された 金種 データ を記憶 する 金種記憶装置,114 は識別装置 112 の識別金種 と金種記憶装置 113 の記憶金種 とを 照合して 照合信号 を出力 する 金種照合装置 である 。」(6欄15〜29行) 「計数演算装置200 は…金種記憶装置 113 からの 金種信号 と搬送紙幣検知装置 126 からの 紙幣検知信号 とに 基づいて 金種別 に枚数 を計数 する 」(7欄24〜29行) 「かくして,順次1枚ずつ 送出搬送 される 紙幣 は1枚ずつ 識別 されると 共に計数処理 される 。」(10欄33〜35行) と記載されているところ,これらの記載によれば,引用発明1は,パターン検知装置111からのパターン検知信号を入力して当該紙幣の金種を識別し,金種記憶装置113からの金種信号と搬送紙幣検知装置126からの紙幣検知信号に基づいて金種別に枚数を計数するものであると認められる。 イ また,引用例2には,例えば「第1の搬送路9の起端側には搬送される紙幣 3の種類 の判別 と計数 を行う検知装置 14 が配置されている…」(2頁右上欄14〜16行)との記載があるから,引用発明2も,紙幣を識別し,その計数を行うものであることは明らかである。 ウ 以上のとおり,引用発明1及び2は,紙幣を識別し且つ計数を行うものである点において同一の技術分野に属する発明であるといえるから,引用発明2を引用発明1に適用し,相違点アに係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができる程度の事項であるというべきである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (なお,付言すれば,引用例1には「次に,「加算モード」を選択した場合には載置台2に載せられた複数金種混合の紙幣が無くなり,計数終了検知装置128にて計数終了信号CFが出力されると,計数演算制御装置204は金種別に設けられたレジスタ202A〜202Dの内容を加算し,…枚数及び金額を表示装置101にて表示する。…なお,「複合金種」または「単金種」を選択した時,金種指定キー103にて計数すべき金種を指定しておき,識別装置112からの識別信号を金種照合装置114にて照合して,指定された金種以外の紙幣であれば異金種紙幣排除装置123により別途設けられている排除口へ排除し,指定された金種のみの紙幣を堆積部23に搬送させて金種別に計数させても良い。」(11欄25行〜12欄1行)という記載があるから,そもそも,引用発明1にも,異なる額面金額の紙幣を識別し計数するという相違点アに係る構成が開示されているともいえる。) (2) 相違点イの判断について 原告は,「引用発明1において出口場所を単一とすることが単なる設計事項にすぎないとはいえない。」旨主張するので検討する。 ア 引用例1には,取出口22に設けられた堆積台23に関連して, 「121は紙幣の搬送を行なう搬送駆動部120を駆動制御するための搬送制御装置であり,…搬送駆動部120を駆動し,裁置台2に載せられた紙幣を順次1枚ずつ取出して紙幣堆積台23上に搬送すると共に,金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば搬送駆動部120を停止する。尚,異金種紙幣排除装置123を設け,金種照合装置114 からの 照合信号RH を入力 してそれが 不一致 を示すものであれば ,当該検出紙幣 を紙幣堆積台 23に搬送 させないで 別途設 けられている 排除口 へ排除 させるようにしてもよい 。」(6欄29〜43行) 「金種照合装置114はこの識別信号と金種指定キー103からの金種信号とを入力し照合し,「一致」又は「不一致」の照合信号RFを出力する。そして,「不一致 」であれば 搬送制御装置 121 は搬送駆動部 120 を停止 させる 。なお,搬送駆動部 120 を停止 させずに 異金種排除装置 123 を作動 させて ,異金種の紙幣 を堆積台 23 に搬送 させずに 排除 させるようにしても 良い。」(10欄11〜18行) 「なお,「複合金種」または「単金種」を選択した時,金種指定キー103にて計数すべき金種を指定しておき,識別装置112からの識別信号を金種照合装置114にて照合して,指定された金種以外の紙幣であれば異金種紙幣排除装置123により別途設けられている排除口へ排除し,指定された 金種 のみの 紙幣 を堆積部 23 に搬送 させて 金種別 に計数 させても 良い。」(11欄37行〜12欄1行) との記載がある。 上記記載によれば,引用例1には,「金種照合装置114からの照合信号が不一致を示す場合,搬送駆動部120を停止させずに異金種排除装置123を作動させて,当該検出紙幣を取出口22の堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させる」こと,すなわち「紙幣の出口として取出口22の他に別途排除口を設けた,出口場所が二つである装置」の構成が開示されている。しかしながら,これは,あくまで,「金種照合装置114からの照合信号が不一致を示す場合において,搬送制御装置121が搬送駆動部120を停止させる」ことの代替手段として,すなわち,引用発明1の実施態様の一つとして補足的に開示されているものと解すべきである。 上記解釈は,引用例1の請求項1及び2の各eに「この種類照合装置から出力される照合信号に基づき異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止させるか又は排除 させる ように制御する搬送制御装置」との記載があることとも整合するものである。 そして,引用発明1において,上記の「金種照合装置114からの照合信号が不一致を示し,搬送駆動部120が停止する」場合に,紙幣の出口を取出口22以外に別途設けて複数とすべき技術的理由も見出せないし,引用例1にも,そのような記載ないし示唆はない。 したがって,引用発明1において,上記の場合に,出口場所を単一とすることは,当業者であれば通常行う設計事項にすぎないから,相違点イに係る本件発明2の構成は,引用発明1から容易に想到できたものというべきであり,これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。 イ(ア) これに対し,原告は,「引用発明1は,「単金種紙幣の枚数計数機」という基本的な性質を維持しながら,これに改良を加えて装置が計数の対象とする金種以外の金種の紙幣を自動的に除外できる機能を備えたものである。したがって,引用発明1では,装置の構成上,除外する紙幣を受けるための正規の出口とは別の出口を設けることが必須の要件となるので,本件発明のように出口場所が一つしかないものを排除している。」旨主張する。 しかしながら,前記(1)認定のとおり,引用発明1は,紙幣を計数するばかりでなく,識別も行うものであるから,引用発明1が「単金種紙幣の枚数計数機」という基本的な性質を有するものとはいい難いし,仮にそのようにいうことができたとしても,計数の対象とする金種以外の金種の紙幣の処理については,搬送駆動部を停止する手段も可能であって,除外する紙幣を受けるための正規の出口とは別の出口を設けることが必須の要件となるとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。 (イ) また,原告は,「引用例1が開示するのは出口が二つである構成のみであることは,実施例を示した第2図や第3図からも明白である。」旨主張する。 なるほど,原告主張のとおり,第3図には「異金種紙幣排除装置123」が記載されているが,このことによって,引用例1には「出口場所が二つである装置」のみが開示されていると解すべきではなく,むしろ,異金種紙幣排除装置123により検出紙幣を別途設けられている排除口へ排除させるという,引用発明1の実施態様の一つとして補足的に開示されている構成が記載されているにすぎないと解するのが合理的である。また,引用例1には,異金種紙幣を検知したときに搬送ベルト21を逆転作動させる旨の記載はないばかりでなく,これが自明な事項ともいえないから,原告の第2図に関する上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 (ウ) さらに,原告は,「引用例1(甲5)に対応する公開特許公報(甲8)には,出口場所が二つあることが明記されている。上記甲5と甲8とは,いずれも同一の発明である引用発明1を開示するものであるから,引用例1においても当然に出口場所が二つある構成の開示しかないと解釈せざるを得ない。」旨主張する。 しかしながら,刊行物に記載された発明の認定は,当該刊行物の記載事項に基づいて行われるべきであるから,引用例1に記載された発明の認定に当たり,別個の刊行物である上記公開特許公報の記載を参酌することは許されないというべきである。 (エ) 加えて,原告は,「引用例1の請求項に「停止させるか又は排除させる」とあるのは,出口が単一であるか二つであるかという装置の「構成」を示したものではなく,出口が二つの装置において異種類の紙類が検出された場合における,搬送制御装置の「制御の動作」を示したものにすぎないと解すべきである。仮に,「停止」又は「排除」が出口の構成を意味すると解するならば,「停止」の場合は出口が一つで,「排除」の場合は出口が二つと理解せざるを得ないから,上記請求項記載の構成は,特定性(特許法36条5項)及び明確性(同条6項2号)を欠いたものとして特許法上許容されない。」旨主張する。 しかしながら,引用例1の記載を検討しても,請求項1,2の「停止させるか又は排除させる」という記載を原告主張の「出口が二つの装置において異種類の紙類が検出された場合における,搬送制御装置の制御の動作」を示したものにすぎないと解すべき根拠はないといわざるを得ない。また,引用例1の特許請求の範囲の「この種類照合装置から出力される照合信号に基づき異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止させるか又は排除させるように制御する搬送制御装置」との記載が,特許法36条の規定に反すると解することはできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (オ) また,原告は,「本件発明1,2は,識別された各額面金額に基づいて紙幣が物理的に仕分けられるよう,複数の出口場所に額面金額ごとの区分箱を有するという従来技術の常識を捨てることにより,区分箱(仕分け箱)をなくし,単一の出口場所のみを設けたコンパクトなサイズの装置を実現した。「識別」と「仕分け」とは技術的に直結しているので,両者を切り離すことは容易に想到し難いものである。」旨主張する。 確かに,異なる額面金額の紙幣を処理する場合,紙幣の額面金額を識別しなければ,紙幣を仕分けすることができないことは明らかである。しかしながら,逆に,後に紙幣を仕分けしなければ,紙幣の額面金額を識別することができないわけではないから,紙幣の額面金額を識別することと,識別した後の紙幣を仕分けすることを,不可分一体なものとして捉えなければならない理由はなく,「識別」を「仕分け」と切り離すことに困難性はない。従来の「紙葉類分類装置」が,識別された各額面金額に基づいて紙幣が物理的に仕分けられるよう,複数の出口場所と額面金額ごとの区分箱を有していたとすれば,この構成は,あくまで,識別後の作業上の利便性を考慮したものにすぎないというべきである。 これと異なり,装置のコンパクト化は周知の課題であるから,識別後の作業上の利便性よりも上記周知の課題を重視して,複数の出口場所と額面金額ごとの区分箱を設けることをせず,単一の出口場所とすることは,当業者が必要に応じて適宜行い得る設計事項というべきである。したがって,原告の上記主張は理由がない。 2 取消事由2(本件発明6,7についての進歩性判断の誤り)について 原告は,「相違点オは相違点イと同一なので,本件決定の相違点イについての判断と同様に,相違点オに関する判断も誤りである。」旨主張する。しかしながら,上記のとおり,本件決定の相違点イについての判断に誤りはないから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 3 取消事由3(本件発明5についての進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,「本件発明5は,通過紙幣の額面金額を同定するに当たり,出口場所に向かって移送されている紙幣の一枚一枚を光学走査ヘッドが識別のために走査する領域を紙幣の全域ではなく,「所定のセグメント」に限定している。これに対して,引用発明1は,紙幣の光学走査の対象が「所定のセグメント」に限定されるというものではない。したがって,本件決定は,上記相違点を看過したことになる。」旨主張する。 しかしながら,本件決定は,「本件訂正の請求項5に記載された「通貨紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査」することは,通貨紙幣を走査する上での設計事項というべきであり」(13頁)と認定判断しているのであるから,本件決定は,引用例1には走査の対象が「紙幣の所定のセグメント」に限定されるという開示がない点を相違点として認定した上で,容易想到性について判断しているというべきである。したがって,本件決定が上記相違点を看過したとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。 (2) また,原告は,「本件発明5は,走査対象を「所定のセグメント」に限定したこと,すなわち「紙幣をその幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について照射及び走査を行うことによって得られた紙幣の反射特徴を光学的に検出する」方式を採用したことにより,光学式検出相関技術における従前の問題点である,識別及び計数時間の長期化,装置の大型化,複雑化といった問題を解決した点に意義を有する。したがって,走査の範囲を「所定のセグメント」にすることが単なる設計事項であるとはいえない。」旨主張する。 しかしながら,本件発明5は,「少なくとも 所定のセグメントを走査」するものであり,紙幣の全体を走査するものも含まれると解されるから,走査対象を「所定のセグメント」に限定したものとはいえない。 また,一般に,「所定」という語は,「定まっていること,定めてあること」を意味するから,本件発明5における「所定のセグメント」とは,「定まっているセグメント」であることを意味するに止まり,特段セグメントの位置が限定されたものではないと解すべきである(特許請求の範囲の記載について,特に上記セグメントの位置を限定して解釈すべき根拠はない。)。そして,引用発明1も紙幣を走査するものである以上,その走査の対象となるセグメントを定めること,すなわち走査の対象を「所定のセグメント」とすることは,当業者が必要に応じて適宜行い得る設計事項というべきである。 なお,原告の「本件発明5は,「紙幣をその幅狭寸法に沿って,紙幣のほぼ中央区分について照射及び走査を行うことによって得られた紙幣の反射特徴を光学的に検出する」方式を採用したものである。」旨の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 4 取消事由4(本件発明9についての進歩性判断の誤り)について 原告は,「本件発明9は,本件発明5と実質的に同一の内容の発明であるから,本件発明5についてと同様に,本件決定の本件発明9についての進歩性判断も誤りである。」旨主張する。しかしながら,上記のとおり,本件決定の本件発明5についての進歩性判断に誤りはないから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 5 取消事由5(本件発明3,4,8についての進歩性判断の誤り)について 原告は,「本件決定は,本件発明1,2,5,6,7に関する進歩性の判断を誤った結果,これらを引用する本件発明3,4,8についても進歩性の判断を誤った。」旨主張する。しかしながら,前記のとおり,本件決定の本件発明1,2,5,6,7についての進歩性判断に誤りはないから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 6 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 沖中康人 |