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関連審決 不服2000-10669
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  業として /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 546号 審決取消請求事件
原告 ユニパル・インターナショナルコーポレーション
訴訟代理人弁理士 桑原史生
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 山崎豊
同 鈴木公子
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-10669号事件について平成14年6月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 ケン・エヌ・ワインバーガーは,発明の名称を「コルゲーテッドパレット」とする発明について,1990年(平成2年)8月27日に国際出願をし(以下「本件出願」という。),平成5年2月26日付けで特許法184条の5第1項の規定による書面の提出をした(特願平2-512299号)。上記出願について,特許を受ける権利は,平成5年6月11日になされた届出により,原告に承継された。原告は,上記出願について,平成12年5月30日に拒絶査定を受けたので,同年7月13日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2000-10669号として審理し,その結果,平成14年6月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年6月29日に原告に送達した。出訴期間として90日が付加された。
2 特許請求の範囲(平成13年11月15日付け手続補正書による補正後の請求項1) 「製品の積み荷等を荷送し補完(判決注・「保管」の誤記と認める。)するために用いられるコルゲーテッド材料のパレットであって,間隔をおいて平行に縦方向に延長する複数のベース部材と,間隔をおいて平行に横方向に延長する複数のデッキ部材とを交差させて格子状構造体とされており,ベース部材とデッキ部材は面一な下面を有していてこれら面一な下面同士が協働して安定した床接触基面を与えており,且つ,ベース部材とデッキ部材の少なくともいずれか一方の部材にはパレット吊り上げ装置のタインが挿入される通路を該部材と直交して形成するための切除部が設けられており,ベース部材とデッキ部材の少なくともいずれか一方の部材は,コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向及び垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなることを特徴とするパレット。」(以下「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭57-8919号(実開昭58-113618号)のマイクロフィルム(甲第7号証。以下,審決と同じく「引用例1」という。),米国特許第3683822号明細書(甲第8号証。以下,審決と同じく「引用例2」という。),実願昭47-21320号(実開昭48-96655号)のマイクロフィルム(甲第9号証。以下,審決と同じく「引用例3」という。),米国特許第3477395号明細書(甲第10号証。以下,審決と同じく「引用例4」という。),実願昭60-89087号(実開昭61-205937号)のマイクロフィルム(甲第11号証。以下,審決と同じく「引用例5」という。),実願昭46-20483号(実開昭47-14578号)のマイクロフィルム(甲第12号証。以下,審決と同じく「引用例6」という。)に記載された各発明(以下,引用例の番号に従い,「引用発明1」,「引用発明2」などと表示することがある。)及び周知例に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と引用発明1との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「製品の積み荷等を荷送し保管するために用いられるコルゲーテッド材料のパレットであって,間隔をおいて平行に縦方向に延長する複数のベース部材と,平行に横方向に延長する複数のデッキ部材とを交差させて格子状構造体とされており,ベース部材とデッキ部材は下面を有していて,且つ,ベース部材とデッキ部材の少なくともいずれか一方の部材にはパレット吊り上げ装置のタインが挿入される通路を該部材と直交して形成するための切除部が設けられており,ベース部材とデッキ部材の少なくともいずれか一方の部材は,コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであることを特徴とするパレット。」である点 (相違点) a「本願発明のベース部材とデッキ部材は,面一な下面を有していてこれら面一な下面同士が協働して安定した床接触基面を与えているのに対し,引用例1記載の,副桁材(ベース部材に相当)と主桁材(デッキ部材に相当)とは,面一な下面を有しているか否か明らかではなく,これら面一な下面同士が協 働して安定した床接触基面を与えているかどうか不明な点。」(以下,審決と同じく「相違点a」という。) b「本願発明のデッキ部材は,間隔を置いて平行に横方向に延長しているのに対し,引用例1の主桁材(デッキ部材に相当)は間隔をあけずに平行に横方向に延長している点。」(以下,審決と同じく「相違点b」という。) c「本願発明のベース部材とデッキ部材の少なくともいずれか一方の部材は,コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接し合って垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向及び垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなっているのに対し,引用例1記載の副桁材(ベース部材に相当)と主桁材(デッキ部材に相当)とは,いずれもコルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものではあるが,上記中実コアと外被体とからなるものではない点。」(以下,審決と同じく「相違点c」という。)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明と引用例1との相違点を看過し,相違点(相違点aないしc)についての判断を誤ったものであり,これらの誤りが,それぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) 審決は,「ベース部材とデッキ部材の少なくとも一方の部材は,コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであることを特徴とするパレット」である点を,本願発明と引用発明1との一致点として認定した。
しかし,引用発明1のパレットを構成する主桁材1及び副桁材15は,いずれも,コルゲーテッド材料より成る単一シートを「折り曲げて」形成されるものであって,「折り畳んで(折り返し面を重ね合わせて)」形成されるものではない。
審決は,この相違点を看過した。
2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り) 審決は,本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点a)について,「引用例1の第1,2図には,主桁材1の脚板部5の底面と,副桁材15の底板部9の底面とが面一に見えるように描かれているものが開示されているが,格子状構造体を有するパレットを製作するにあたり,交差する桁部材の下面を面一にすることは,パレットを設計する上で,負荷を均等に分散させ,安定した構造とするといった当然の課題を考慮して,当業者が,必要に応じ適宜なし得た程度の設計的事項であるので,相違点aに係る本願発明の構成のようにした点に,格別の困難性は見出せない。」(審決書3頁33行〜4頁1行)と判断したが,誤りである。
引用例1の第1,2図(別紙図面1参照)には,主桁材1の脚板部5,5の下端が副桁材15の底板部9の底面と同一レベルに見えるように描かれている。しかし,引用発明1の主桁材1の脚板部5,5の下端は,コルゲーテッド材料の断面が露出したものにすぎない。脚板部5,5の下端には,安定した床接触面を与える機能はない。本願発明の,ベース部材とデッキ部材は,面一な下面を有していてこれら面一な下面同士が協働して安定した床接触基面を与えている,との構成を,引用例1から容易に想到することはできない。
3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り) 審決は,本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点b)について,「一般に,交差する格子状の桁材を,それぞれ間隔をあけて平行に配置することは,例えば,当審の拒絶理由通知で示した引用例2,3である,米国特許第3683822号明細書,実願昭47-21320号(実開昭48-96655号)のマイクロフィルムに示すように周知であるので,主桁材を副桁材のように間隔をあけて平行に延長するように配置することは,当業者が,必要に応じ適宜なし得た設計的事項である。」(審決書4頁3行〜8行)と判断したが,誤りである。
(1) そもそも,二つの従来技術文献を提示するだけで,「交差する格子状の桁材を,それぞれ間隔をあけて平行に配置すること」が周知であると認定することはできない。
交差する格子状の桁材をそれぞれ間隔を空けて平行に配置したパレット構造(格子状構造体)とは,パレット自体の構造が交差する格子状の桁材のみから成るもののことである,と解すべきである。引用発明3は,格子状の桁材のみから成るものではない。
(2) 仮に,格子状構造体自体は周知であるとしても,引用発明1のパレットにおいて,主桁材を副桁材のように間隔を空けて平行に延長するように配置することは,設計上,全く採用することができないものである。
引用発明1のパレットは,主桁材1を略凹字形状にしてその脚板部5同士を密接させた状態にして副桁材に組み付けることで,パレットとしての安定性や強度を向上させようとするものである。同発明において,主桁材1,1同士の間(脚板部5,5同士の間)に間隔を空けてしまうと,これらの間の一体性が失われてしまい,同発明の主桁材が単一のコルゲーテッドシートを(折り畳むことなく)単に折り曲げて略凹字形状に形成されたものであることから,パレットとしての安定性や強度が大きく低下して,およそ実用に供し得ないものとなってしまうのである。
引用発明1のパレットにおいて,主桁材を副桁材のように間隔を空けて平行に延長するように配置することを,当業者が必要に応じ適宜なし得た設計的事項である,とすることはできない。
4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り) 審決は,本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点c)につき,「パレットの桁材を,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とから構成することは,例えば当審の拒絶理由通知で引用した引用例4,5である米国特許第3477395号明細書及び実願昭60-89087号(実開昭61-205937号)のマイクロフィルムに示すように周知である。本願発明の部材は,特に,単一シートを折り畳んで中実コアと外被体とを形成し,このような桁材に構成した点を特徴としているが,例えば,上記引用例4には,コアを構成する段ボールシート10と共通したライナー材で,外被体のための延長ライナー13を構成したものが記載されており,また,一般に,中実コアと外被体とからなるコルゲート材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成すること自体は,例えば,当審の拒絶理由で引用した引用例6である実願昭46-20483号(実開昭47-14578号)のマイクロフィルム(判決注・甲第12号証)以外にも,米国特許第4792325号明細書(判決注・甲第13号証の1,2。
以下「甲13文献」という。)や,米国特許第4867074号明細書(判決注・甲第14号証の1,2。以下「甲14文献」という。)等に開示されているように,搬送・包装材料の分野で汎用されていることでもあるので,引用例1記載のものにおいて,単一シートを折り畳んで桁材を構成するにあたり,主桁材または副桁材の少なくとも一方を,相違点c.に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。」(審決書4頁10行〜28行)と判断したが,誤りである。
(1) 審決は,「パレットの桁材を,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とから構成すること」が周知であるとして,引用例4(甲第10号証)及び引用例5(甲第11号証)を提示する。しかし,二つの従来技術文献の提示だけで周知性を認定すること自体に,審理不尽の違法があるというべきである。
審決は,「中実コアと外被体とからなるコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成する」点が汎用されていることを示す従来技術として,甲13,甲14文献を提示する。しかし,これらは審判段階で原告に示されず,審決において初めて示された文献である。これらの文献に基づく上記認定が本願発明の特許要件の判断に極めて重要であることを考えるならば,原告に対し,上記文献の従来技術を引用した拒絶理由通知を発することなく判断をした審決には,特許法第50条に違反する重大な瑕疵があるというべきである。
(2) 本願発明は,パレット部材が「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」点を特徴とするものであり,「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成」することと「隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」こととが密接不可分に結びつくことによって,従来のパレット構造では得られなかった強度と耐破壊性を発揮することができたものである。引用例4ないし6,甲13,14文献,被告が本件訴訟において提出した乙第1,第2号証(以下,「乙1文献」,「乙2文献」という。)には,本願発明の上記特徴事項は何ら示されていない。
ア 引用例4(甲第10号証)に開示されたパレットの桁材は,コルゲーテッド材料が折り畳まれ隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルより成る中実コアと,これを実質的に被覆する,コルゲーテッド材料の一部である外側ライナー材から成る外被材とから構成されたものである。同引用例の中実コアはコルゲーテッド材料を折り畳んで形成される。しかし,外被体は,コルゲーテッド材料そのものではなく,その一部である外側ライナー(要するに一枚の薄い板紙)のみから成るものである。引用例4発明は,中実コアと外被材との全体がコルゲーテッド材料から成る単一シートそのものを折り畳んで形成される,ことを特徴とする本願発明とは明らかに相違する。
イ 引用例5(甲第11号証)に開示されたパレットの桁材は,隣接し合って垂直方向に配向されるコルゲーテッド材料の複数パネルから成る中実コアと,これとは別のコルゲーテッド材料を折り曲げて形成され中実コアを実質的に被覆する外被体とから成るものであって,中実コアと外被体とが異なるコルゲーテッド材料から構成されている。中実コアと外被体との全体が,コルゲーテッド材料から成る単一シートを折り畳んで形成されることを特徴とする本願発明とは明らかに相違する。
ウ 乙1文献のパレット部材は,本願発明の,「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」との特徴を有するものではない。乙1文献から,本願発明の上記特徴事項が周知であることを認めることはできない。
エ 引用例6(甲第12号証)に記載されているのは,包装箱内で使用する緩衝部材であり,パレット部材ではない。
引用例6から,「中実コアと外被体とからなるコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成すること」が緩衝部材において普通に行われていることが認められたとしても,これがパレット部材の構造として周知であることが認められるわけではない。同引用例から,中実コア及び外被体の配向方向を特定した本願発明のパレット部材の構造が周知であることを認めることはできない。
同引用例6における緩衝部材2は,コルゲーテッド材料の単一シートを折り畳んで成る中実コアの各パネルが水平方向に配向されており(緩衝材としての用法上,このような配向で用いることが必須であると認められる。),このような形態でパレットの桁材に適用しても,本願発明の「隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コア」の要件を満たすことにはならず,本願発明のような優れた強度と耐破壊性を具備することは不可能である。
オ 甲13,14文献に記載されたパレット桁材は,中実コアと外被体とから成るコルゲーテッド材料の部材を単一シートを折り畳んで形成するものではある。しかし,中央コアに相当する部分と外被体に相当する部分との間に空間が設けられて全体が逆台形の断面形状を有するものであり,本願発明が特徴とするところの「隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」構造を有するものではない。
カ 乙2文献に記載された緩衝材は,「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるもの」,ではある。しかし,中実コアを実質的に被覆する外被体の要件を備えておらず,本願発明の上記特徴を満たすものではない。
(3) 引用発明1のパレットにおける副桁材15は,起立板部10(略∪字形状)と同10’(略W字形状)とが異なる形状を有する〈起立板部10’のみが挿込片13を備えている)ことから,これを略角柱形状とすることは不可能である。
主桁材1も,角樋状に形成して,略∪字形状又は略W字形状の副桁材15との連結を切り込み6と11,11’との嵌合等によって達成しているものであるから,略角柱形状とすることは全く予定されていない。引用発明1のパレットの主桁材及び副桁材の形状を略角柱形状とするためには,パレットの基本構造を根本的に設計し直さなければならなくなる。
引用発明1のパレット部材として,「コルゲーテッド材料よりなる単-シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」略角柱形状のものを採用することは,あり得ない。
被告の反論の要点
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について 争う。
2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り)について 引用例1(甲第7号証)の主桁材1の脚板部5の底面は,原告の主張するように,コルゲーテッド材料の断面より成るものである。しかし,コルゲーテッド材料には所定の厚さがあり,その断面には,所定の負荷を支持するだけの強度があることは,当業者において技術常識に属することである。脚板部5の下端を副桁材15の底面と面一に構成すれば,脚板部によっても負荷が支持され,安定した床接触基面が得られるであろうことは,当業者において容易に想到することができたことである。
3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り)について (1) 周知性を認めるために多数の証拠を挙げることは,格別,要件とされていない。審決が,2件の引用例を例示して周知性を認定したことは,何ら誤りではない。
上記周知の事項を示すものとしては,引用例2,3(甲第8,9号証)のほかにも,審決が相違点cについての判断において周知例として引用した,甲13,14文献を挙げることができる。
(2) 引用発明1のパレットは,主桁材と副桁材とのそれぞれに,切込や切欠を設け,縦切込同士の係合と,挿込片の切込への嵌挿,骨格部の切込への嵌挿によって,主桁材から副桁材が離脱することがなく,安定した状態で使用できるように組み立てたものであり(甲第7号証中の明細書5頁5行〜17行参照),主桁材が隙間なく副桁材に対して配列されていることを,安定した組立のための要件とはしていない。引用発明1において,主桁材同士の間隔が空いていても,強度や構造安定性が格別損なわれるものではないことは,その構造から明らかである。
引用発明1のパレットに,周知の,交差する格子状の桁材をそれぞれ間隔を空けて平行に配置した構造を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り)について (1) 周知性を認めるために,多数の証拠を挙げることは,格別,要件とはされていない。審決が,2件の引用例を例示して周知性を認定したことは,何ら誤りではない。
審決が,既に拒絶理由で挙げられていた引用例6(甲第12号証)に加えて,甲13,14文献を挙げたのは,中実コアと外被体とから成るコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成することが,搬送・包装材料の分野で周知であり汎用されていることを示す例としてであるにすぎない。審決が,新たに,これらを引用例として進歩性の判断を行ったものではないことは,明らかである。審決の上記認定判断は,何ら特許法第50条に違反するものではない。
(2) 審決は,上記本願発明の特徴事項のうち,パレットの桁材を「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成」するという技術思想は引用例1に記載されているとしている。その上で,コルゲーテッド材料より成るパレットの桁材について,「パレットの桁材を,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とから構成する」構造自体が知られていたか否かを判断するために,周知例として,引用例4,5を挙げたものである。
審決は,コルゲーテッド材料の単一シートを折り畳んで中実コアと外被体とから成るパレットの桁材を形成することに想到することが容易であったか否かを検討するに当たり,これを困難とするような格別な事情の有無を検討したものであって,そのような事情はなく,この点に進歩性を認める余地がないことについて具体的に示すため,引用例4の記載に言及し,また引用例6等の周知例をあげて論じたものである。
審決は,コルゲーテッド材料製の中実コアと外被体とから成るパレットの桁材の構造はよく知られたものであるので,引用発明1のパレットにおいて,コルゲーテッド材料の単一シートを折り曲げて桁材を構成するに当たり,例えば桁材の強度を増す等の設計上の要請から,シートの折り曲げにより,このような周知の構造を持つ桁材としようとすることは,当業者が容易に思いつくことができたと判断したものである。
本願発明は,コルゲーテッド材料の単一シートを折り畳んで(折り曲げて)中実コアと外被体とからなる部材を形成するに当たり,特殊な折り畳み方を提案しているわけではない。また,当該技術分野において,コルゲーテッド材料の単一シートを折り畳んで(折り曲げて)中実コアと外被体とから成る部材を形成することが,極めて特殊なことであるとか,このような部材の形成を妨げるような格別な事情があると認めることもできない。
相違点cについての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について 原告は,引用発明1のパレットを構成する主桁材1及び副桁材15は,いずれも,コルゲーテッド材料より成る単一シートを折り曲げて形成されるものであって,折り畳んで(折り返し面を重ね合わせて)形成されるものではないから,「ベース部材とデッキ部材の少なくとも一方の部材は,コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであることを特徴とするパレット」である点を,本願発明と引用発明1との一致点とした審決の認定は誤りである,と主張する。
しかしながら,審決は,「隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからな」る構成の有無を,本願発明と引用発明1との相違点の一つ(相違点c)として認定し,この相違点に係る構成の想到容易性について判断をしている。
上記審決の相違点の認定内容に照らすと,審決は,一致点の認定において,「折り畳んで」との語を,折り返し面を重ね合わせることと,折り返し面を重ね合わせず単に折り曲げることとの双方を含む広い意味で用いていると認めることができる。
進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提作業として行われるものである。相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,また,一致点の認定をどの程度の抽象度において行うかは,審決において,上記共通部分を考慮して,適宜なし得ることである。
審決の上記一致点の認定は誤りではなく,審決に原告主張の相違点の看過はない。原告の主張は,採用することができない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り)について (1) 引用例1(甲第7号証)の第2図(別紙図面1参照)には,主桁材1の脚板部5の底面と,副桁材15の底板部9の底面とが面一に描かれているようにも見えるものの,同図面の記載から直ちに,両者が面一であると断定することはできない。
しかしながら,格子状構造体を有するパレットを製作するに当たり,負荷を均等に分散させて安定した構造とすることが当然の課題であることは,当業者でない裁判所にも明らかなことである。この当然の課題を考慮して,格子状構造体を有するパレットの交差する桁部材の下面を面一にすることは,当業者が適宜なし得た程度の設計的事項にずぎず,容易に想到することができた,というべきである。
(2) 原告は,引用発明1の脚板部5,5の下端は,コルゲーテッド材料の断面が露出しているにすぎないものであるから,これを副桁材15の底板部9の底面と同一レベルにしても,安定した床接触面を与える機能を有しない,と主張する。
引用発明1の主桁材の脚板部の底面は,副桁材15の構成材料であるコルゲーテッド材料の断面より成るものであることは原告の主張するとおりである。しかしながら,引用例1には「フォークは全ての切欠(7)の上縁と底板部(4)を支持することとなって貨物の荷重は切欠(7)の上縁と骨格部(2)の底板部(4)に分散される。」(甲第7号証の明細書5頁2行〜5行)と記載されている。この記載によれば,引用発明1のコルゲーテッド材料の断面には,材料の面方向における所定の荷重を支持するだけの強度があると認めることができる。コルゲーテッド材料の断面から成る脚板部5の下端を副桁材15の底面と同一レベルに構成すれば,脚板部によっても荷重が支持され,安定した床接触基面が得られることは明らかである。
原告の主張は採用することができない。
(3)取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用例2(甲第8号証),引用例3(甲第9号証)の二つの文献を挙げるだけで,「一般に,交差する格子状の桁材を,それぞれ間隔をあけて平行に配置すること」が周知であると認定したのは誤りである,と主張する。
しかしながら,周知事実とは,当業者が熟知している事項であるため,本来,審決においてその認定根拠を示すまでもないもののことであるから,審決の挙げた文献数の多少によって,周知であるとしてよいかどうかが定まるという性質のものではない。二つの文献を挙げるだけで周知とすることはできない,との原告の主張は,それ自体失当である。
原告は,格子状構造体とは格子状の桁材のみから成るもののことである,と解すべきであり,引用発明3は格子状の桁材のみから成るものではないから,引用例3に格子状構造体が開示されているとすることはできない,と主張する。
しかしながら,格子状構造体という用語で表されるのは格子状の桁材のみから成るものに限られる,とすべき根拠はない。原告の主張は,その前提において失当である。
仮に,原告主張の前提が正しいとしても,甲第8,第13,第14各号証(引用例2,甲13,14文献)により,格子状の桁材のみから成る格子状構造体は,本願出願前において当業者に周知の事項である,と認めることができる。
(2) 原告は,引用発明1のパレットにおいて,主桁材を間隔を空けて平行に延長するように配置してしまうと,パレットとしての安定性や強度が大きく低下して,実用に供し得ないものとなってしまうので,上記配置は設計上,採用することができない,と主張する。
しかしながら,引用発明1において,主桁材(1)は,「角樋状の骨格部(2)の両側板部上縁にそれぞれ折曲線を介して天板部(3)を連設するとともに各天板部(3)の外側縁に折曲線を介して前記骨格部(2)の底板部(4)より下方に脚端が達する脚板部(5)を連設したものであるから,段ボール材よりなるものであっても充分な強度を備えて」(甲第7号証中の明細書4頁10行〜15行)いるものであることが認められる。引用発明1の主桁材は,このようにそれ自身で十分な強度を備えるものであるから,強度を確保するため,隙間なく配列して一体性を確保する必要性は必ずしもない,というべきである。
原告の主張は採用することができない。
(3) 取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用例4(甲第10号証),引用例5(甲第11号証)の二つの文献を挙げるだけで,「パレットの桁材を,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とから構成すること」が周知であると認定したのは誤りである,と主張する。
しかしながら,前述のとおり,周知事実とは,当業者が熟知している事項であるため,本来,審決において,その認定根拠を示すまでもないもののことであるから,本訴において,審決が示した文献数の多少自体を問題にする余地はない。
二つの文献を挙げるだけでは周知とはいえない,との原告の主張はそれ自体失当である。
原告は,「中実コアと外被体とからなるコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成する」点が汎用されていることの根拠として審決が挙げた甲13,14文献は,審判段階で原告に示されず,審決において初めて示された文献であり,これらの文献に基づく上記認定が本願発明の特許要件の判断に極めて重要であることを考えると,原告に対し,上記文献の従来技術を引用した拒絶理由通知を発することなく判断をした審決には特許法第50条に違反する重大な瑕疵がある,と主張する。
しかしながら,上記の点が本願出願当時において周知の技術であると認められることは後記(3)で説示するとおりである(審決が上記の点を,搬送・包装材料の分野で汎用されていることであると述べたのは,同趣旨であることが明らかである。)。周知事実とは,上述のとおり,当業者が熟知している事項であるため,本来,審決において,その認定根拠を示すまでもないもののことであるから,審判段階において,周知技術の認定根拠となる文献を示さなかったとしても,特許法第50条に違反するということはできない。
原告の主張は,採用することができない。
(2) 引用発明4のパレットの桁材は,コルゲーテッド材料が折り畳まれ隣接し合って垂直方向に配向される複数パネルより成る中実コアと,これを実質的に被覆する,コルゲーテッド材料の一部である外側ライナー材から成る外被材とから構成されたものであること,引用発明5のパレットの桁材は,隣接し合って垂直方向に配向されるコルゲーテッド材料の複数パネルより成る中実コアと,これとは別のコルゲーテッド材料を折り曲げて形成した,中実コアを実質的に被覆する外被体とから成るものであることは,当事者間に争いがない(引用発明4は,外被材が,コルゲーテッド材料そのものではなく,コルゲーテッド材料を構成する外側ライナーである。しかし,そうであっても,外側ライナーが外被体として機能することに変わりはない。)。乙1文献には,「本発明の主な特徴は,係る容器と一体に補強フィラー材料を有する複数の筒状部分を設け,容器底部がフォークリフトのタインを受け入れられるように,パレット化あるいはクリート付きにした点にある。」(乙第1号証1欄15〜21行)との記載があり,同文献の図4には,補強フィラーが,交互に反対側に折り曲げられた折り曲げ部分を有するコルゲーテッドボードの単一シートからなること,同図2には,上記補強フィラーが,筒状部分の内部空間に挿入されること(すなわち,補強フィラーが筒状部分により被覆されること)が記載されていことが認められる。
上記記載内容によれば,引用例4,5及び乙1文献には,パレットの桁材を,隣接し合って垂直方向に配向される複数パネルより成る中実コアと,この中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びてこれを実質的に被覆する外被体とから構成すること,が記載されているということができる。上記各文献の発行時期に照らすと,上記事項は,本件出願前に周知となっていた技術であると認めることができる(以下,上記周知の事項を「周知技術1」という。)。
引用例6並びに甲13,14文献及び乙2文献には,中実コアに相当する部分と外被体とからなるコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成した発明が記載されていることが認められ(甲第12号証,第13,第14号証の各1,2,乙第2号証,弁論の全趣旨),上記各文献の発行時期に照らすと,上記事項は,本件出願前に周知となっていた技術であると認めることができる(以下,上記周知の事項を「周知技術2」という。)。
(3) 原告は,本願発明において,「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成」することと,「隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」こととが密接不可分に結びついているところに特徴がある,引用例4ないし6,甲13,14文献,乙1,2文献には上記特徴的事項は開示されていない,と主張する。
上記各文献に上記特徴的事項のすべて開示したものがないことは,原告の主張するとおりである。しかしながら,本件発明の特徴的事項のすべてを開示した単独の文献がないからといって,そのことから,直ちに,本件発明の容易想到性が否定されることになるわけのものではないことは,明らかである。
引用例4(甲第10号証)の脚部材17,21,引用例5(甲第11号証)の段ボール積層桁のように,隣接し合って垂直方向に配向される複数パネル構造は,桁材,フォーク当接部などの大きい荷重を支持する部分に採用されている。
周知技術1の構造が,単層のパネルや折り曲げパネルに比して,より大きな荷重を支えることのできるものであることは,当業者に明らかなことである。引用発明1において,主桁材(脚板部)とか副桁材(起立板部)とかの荷重を支える部分に,周知技術1の構造を用いることは当業者ならば必要に応じて容易に行うことができることは,明らかである。その際に周知技術2の単一シートから中実コア部分と外被部分とを形成する構造を合わせ採用することも,当業者ならば適宜行い得ることというべきである。引用例1(甲7)の荷重を支える部分に,周知技術1および2の構造を併せ採用する場合において,この部分を略角柱形状とすることも容易に想到できることであるから,引用発明1において,主桁材又は副桁材を「単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」構造とすることは,当業者ならば適宜行い得ることというべきである。
原告は,引用発明6の部材は,緩衝部材であるから,中実コアと外被体とから成るコルゲーテッド材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成することが周知であるにしても,パレット部材としての構造として周知であるわけではない,と主張する。しかしながら,審決は,引用例6を,一般に,中実コアと外被体とからなるコルゲート材料の部材を,単一シートを折り畳んで形成するという,周知技術2の根拠として挙げたものであり,引用発明6の部材の構造がパレット部材の構造として周知であると認定したものではない。引用発明6のものが緩衝部材であり,パレット部材として用いられているものでなくとも,周知技術2に係る構造を引用発明1のパレット部材に用いることに想到することは当業者において極めて容易になし得ることというべきである。
原告は,甲13,甲14文献の部材は,中実コアに相当する部分と外被体に相当する部分との間に空間が設けられており,本願発明の特徴(中実コアの周囲を水平方向及び垂直方向に延びて中実コアを実質的に被覆する外被体とから成る構造,すなわち略角注の形状)を有するものではない,と主張する。しかしながら,審決は,甲13,14文献を,周知技術2の根拠として挙げたものであって,上記各文献の部材が本願発明の上記特徴事項をそのまま開示していると説示したわけではない。上記各文献の部材が中実コアに相当する部分と外被体に相当する部分との間に空間が設けられていたとしても,周知技術2に係る構造を引用発明1に適用するに当たり,中実コアに相当する部分と外被体に相当する部分との間に空間を設けないで,略角柱の形状とすることに想到することは,当業者にとって極めて容易なことというべきである。
原告の主張は,採用することができない。
(4) 原告は,引用発明1のパレットにおける副桁材15は,略∪字形状または略W字形状の起立板部10と10’とが異なる形状を有する(起立板部10’のみが挿込片13を備えている)ことからこれを略角柱形状とすることは不可能である,主桁材1は,角樋状に形成して,略∪字形状または略W字形状の副桁材15との連結を切り込み6と11,11’との嵌合等によって達成しているものであるから,略角柱形状とすることは全く予定されておらず,そのようにするためにはパレットの基本構造を根本的に設計し直さなければならない,したがって,引用発明1のパレット部材として,「コルゲーテッド材料よりなる単一シートを折り畳んで形成されるものであって,隣接しあって垂直方向に配向される複数パネルよりなる中実コアと,該中実コアの周囲を水平方向および垂直方向に延びて該中実コアを実質的に被覆する外被体とからなる」略角柱形状のものを採用することはあり得ず,また,そのような動機付けもー切存在しない,と主張する。
しかしながら,引用発明1のパレットにおいて,少なくとも,副桁材(ベース部材に相当)に続く起立板部10,主桁材(デッキ部材に相当)につづく脚板部5は,荷重を支える部分であり,この部分に,隣接し合う垂直方向に配向した複数のパネルからなる補強構造を採用して,より大きな荷重を支え得るものとすることは,引用発明1の構造から容易に想到することができるというべきである。切り込みの配置,形状は,副桁材,主桁材の具体的形状に応じて適宜設計できることであり,引用発明1の切り込みをそのまま適用すべき必然性はないというべきであるから,引用発明1で採用されている切り込みの配置,形状が上記補強構造を採用することの阻害要因とはなることはない,というべきである。 原告の主張は採用することができない。
(5) 取消事由4は理由がない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決の認定判断にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久