関連審決 | 異議2001-70497 |
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関連ワード | 方法の発明 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 構成要件 / 設定登録 / 合理的な理由 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
367号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社マツザキ 原告A 上記両名訴訟代理人弁理士 楠本高義 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 千壽哲郎 同 田中秀夫 同 増山剛 同 高橋泰史 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/01/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら (1) 特許庁が異議2001-70497号事件について平成15年6月27日にした決定を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告らは,平成10年1月20日,名称を「シールラベルの製造方法」とする発明につき特許出願(特願平10-8386号。以下「本件出願」という。)をした。本件出願について,特許庁は,平成12年4月25日付けで特許をすべき旨の査定をし,同年6月16日,特許第3076871号として設定登録がされた(以下,この特許を「本件特許」という。)。 (2) Bほか1名は,平成13年2月14日,本件特許について,特許異議の申立てをし,同異議申立ては異議2001-70497号として特許庁に係属した。 原告らは,平成14年8月1日,本件出願につき訂正請求をし,平成15年5月6日付けの手続補正書により上記訂正請求について補正をした(甲1,6,7)。 (3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成15年6月27日,上記補正後の訂正請求を認めた上,「特許第3076871号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年7月16日に原告らに送達された。 2 前記訂正後の本件発明の要旨は,次のとおりである(以下,請求項1ないし4に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)。 【請求項1】 エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張され巻き取られた用紙のラベル材を購入して準備する工程と,該準備された用紙の該ラベル材を所定の幅に切断する工程と,該切断された長尺の用紙の該ラベル材に特定情報をインクにより印刷して,ラベル材上にインク層を付与する工程と,該インク層上に剥離剤を提供して剥離層を付与する工程と,該非粘着性台紙,粘着層,ラベル材,インク層および剥離層からなる積層体から,非粘着性台紙を取り除き,残余の積層体を回収する工程とを含むことを特徴とするシールラベルの製造方法。 【請求項2】 前記残余の積層体の回収が,ロール形状に該残余の積層体を巻き取りなされることを特徴とする請求項1に記載のシールラベルの製造方法。 【請求項3】 前記残余の積層体の回収が,該残余の積層体を枚葉に切断し重層してなされることを特徴とする請求項1に記載のシールラベルの製造方法。 【請求項4】 前記インク層上に印刷保護剤を提供して保護層を付与する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のシールラベルの製造方法。 3 本件決定の理由の要旨は,次のとおりである。 (1) 本件発明1について ア 本件発明1と特開平8-137400号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)とを対比すると,両者は,「粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程と,該準備された用紙の該ラベル材を所定の幅に切断する工程と,該所定の幅に切断された長尺の用紙の該ラベル材に特定情報をインクにより印刷して,ラベル材上にインク層を付与する工程と,該インク層上に剥離剤を提供して剥離層を付与する工程と,該非粘着性台紙,粘着層,ラベル材,インク層および剥離層からなる積層体から,非粘着性台紙を取り除き,残余の積層体を回収する工程とを含む,シールラベルの製造方法」である点で一致し,下記の点で相違しているものと認められる。 (ア) 粘着剤について,本件発明1においては,エマルジョン系粘着剤を用 いているのに対して,引用発明1においては,エマルジョン系粘着剤であるかどうかは明確でない点(以下「相違点A」という。) (イ) 粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程において,該ラベル材は,本件発明1においては,巻き取られたものであって,かつ購入したものであるのに対して,引用発明1においては,製造工程中の巻き取られていないものであり,また,購入したものでもない点(以下「相違点B」という。) イ そこで,相違点A,相違点Bについて検討する。 (ア) まず,相違点Aについてみると,シールラベルに用いる粘着剤として,エマルジョン系粘着剤を用いることは,例を挙げるまでもなく本件出願前に周知の技術であり,引用発明1の粘着剤としてエマルジョン系のものを用いることは,当業者が必要に応じて適宜採用し得る程度のことにすぎないものである。 (イ) 次に,相違点Bについてみる。「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材」については,本件特許に係る明細書(前記訂正請求による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。)にも記載されているように,本件出願前に周知の材料であって,公知の方法により製造可能なものであるとともに,製品として市販されているものであることを考慮すれば,上記ラベル材を準備するに当たり,公知の方法により製造することに代えて,市販されている製品を購入する程度のことは,当業者が任意に選択できる事項であって,それによる格別な技術的意義を見出すことはできない。そして,長尺の製品であれば,巻き取られた状態で保管・輸送・販売することが通常の態様であることを鑑みれば,購入したラベル材が「巻き取られた」ものである点についても,製品として通常の態様を単に規定したにすぎないものである。 ウ 本件発明1により奏される効果についても,引用発明1及び本件出願前に周知の前記技術から予測し得る範囲内のものである。 エ したがって,本件発明1は,引用発明1及び本件出願前に周知の前記技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1について,「前記残余の積層体の回収が,ロール形状に該残余の積層体を巻き取りなされる」点を要件に加え,構成要件を更に限定したものである。 しかしながら,シールラベルにおいて,残余の積層体,すなわちシールラベル自体の回収が,ロール形状に巻き取りなされるようにすることは,刊行物1,特開平9-44089号公報(以下「刊行物2」という。)に記載されているように,本件出願前に周知の技術にすぎない。 したがって,本件発明2は,前記(1)での検討内容を踏まえれば,刊行物1及び2に記載された発明並びに本件出願前に周知の上記技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1について,「前記残余の積層体の回収が,該残余の積層体を枚葉に切断し重層してなされる」点を要件として加え,構成要件を更に限定したものである。 しかしながら,残余の積層体,すなわちシールラベル自体の回収が,枚葉に切断し重層してなされるようにすることは,刊行物2に記載されており,ロール形状に巻き取りなすことに代えて,枚葉に切断し重層するようになすことは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることといえる。 したがって,本件発明3は,前記(1)での検討内容を踏まえれば,刊行物1及び2に記載された発明並びに本件出願前に周知の上記技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4) 本件発明4について 本件発明4は,本件発明1ないし3について,「前記インク層上に印刷保護剤を提供して保護層を付与する工程を含む」点を要件として加え,構成要件を更に限定したものである。 しかしながら,シールラベルの印刷層を被覆するように印刷保護剤の提供による保護層を設け,印刷画像の剥離を防止することは,特開昭61-249788号公報(以下「刊行物3」という。)に記載されているから,引用発明1のものに保護層を付与する工程を付加する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることである。 したがって,本件発明4は,前記(1)ないし(3)での検討内容を踏まえれば,刊行物1ないし3に記載された発明並びに本件出願前に周知の上記技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5) 以上のとおり,本件発明1ないし4は,刊行物1ないし3に記載された発明並びに本件出願前に周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 |
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当事者の主張
(原告らの主張する本件決定の取消事由) 本件決定は,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定を誤り(取消事由1),相違点に関する判断を誤り(取消事由2),本件発明2ないし4の進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであり,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1と引用発明1とは,「粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程と,該準備された用紙の該ラベル材を所定の幅に切断する工程と,該所定の幅に切断された長尺の用紙の該ラベル材に特定情報をインクにより印刷して,ラベル材上にインク層を付与する工程と,該インク層上に剥離剤を提供して剥離層を付与する工程と,該非粘着性台紙,粘着層,ラベル材,インク層および剥離層からなる積層体から,非粘着性台紙を取り除き,残余の積層体を回収する工程とを含む,シールラベルの製造方法」である点で一致していると認定しているが,誤りである。 すなわち,引用発明1においては,刊行物1の段落【0040】ないし【0048】に記載されているように,工程シート24とラベル基材14の連続体とが粘 着剤26の層をもって積層し仮着されてなる積層物30は,刊行物1の図3に示された次工程の印刷および剥離剤塗布装置に導かれ,上記図3に示された製造装置に装填されるという一連の工程の流れの中で,上記図3に示す製造装置に装填されるために一旦ロール状に巻き重ねられた後,その製造装置に装填されて印刷層20を形成するための印刷装置110に導かれる。したがって, 引用発明1においては,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する特定の工程」は存在せず,工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材は,刊行物1の図2から図3に至る一連の工程の流れの中で中間生成物として工程を通過する中間物にすぎない。 また,「準備」の語は,予め計画するという「予めの計画性」を加味した用語であると解されるところ,引用発明1においては,工程の途中で「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材」が生成されるものの,本件発明1におけるこのような思想は全く見られず,「計画性」は全く意識されていない。 上記のとおり,刊行物1には,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程」は記載されておらず,この点を本件発明1との一致点とする本件決定の認定は誤りである。 (2) また,本件決定は,本件発明1と引用発明1とは相違点A及び相違点Bで相違すると認定しているが,相違点Bを相違点とする上記認定は誤りである。 すなわち,前記(1)のとおり,引用発明1には,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程」は存在しないから,相違点Bを相違点とする上記認定は誤りであり,「本件発明1においては,粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程において,該ラベル材は,巻き取られたものであって,かつ購入したものであるのに対して,引用発明1においては,粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材が製造工程中で巻き取られることはなく,また,購入されない点」(以下「相違点B’」という。)を相違点と認定すべきである。 2 取消事由2(相違点に関する判断の誤り) 本件発明1は,引用発明1及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定は,誤りである。 (1) 相違点Aに関する判断について 確かに,相違点Aについてみると,シールラベルに用いる粘着剤として,エマルジョン系粘着剤が存在することが,本件出願前に周知であったことは本件決定のいうとおりである。 しかしながら,引用発明1においては,工程シート24に接着剤塗布装置100により塗布された粘着剤がドライヤー10により乾燥されるが,粘着剤がエ マルジョン系の粘着剤であるとすると,有機溶剤系の粘着剤に比べ遙かに乾燥速度が遅いので,刊行物1の図2に示された「前半の工程」の工程速度は極めて遅くなるし,また,乾燥速度を速めるためドライヤー10の乾燥温度を高くして急激な乾燥を行なうと,未乾燥の粘着剤中の水分の急激な蒸発により粘着剤の発泡が生じ好ましくない。さらに,比較的低温で乾燥させた場合,エマルジョン中の粘着剤粒子が表面に吸着している水分子を失って完全に会合し,また,表面に吸着している界面活性剤とマイグレーションして,粘着剤層としての安定被膜を形成し熟成するまでには相当の日数を要する。 仮に,引用発明1において,エマルジョン系粘着剤が選択されて使用されたとし,なおかつドライヤー10でその粘着剤が比較的低温で完全に乾燥されたとすると,上述の理由で「前半の工程」の工程速度は極めて遅くなり,かつ,熟成のためのスぺ-スと労力と仕掛かり品に係る金利を要することとなるので,当業者はそのような選択は通常行わない。 (2) 相違点Aに係る構成と相違点Bに係る構成との組合せについて ア 原告らは,エマルジョン系粘着剤がホットメルト接着剤と異なり,耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能なため,エマルジョン系粘着剤を用いて,いかにして工程の能率を損なうことなく合理的に耐候性,透明性に優れたシールラベルを製造するかを検討し,その結果,本件発明1を創意するに至ったものである。すなわち,エマルジョン系粘着剤を用いて粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程において,該ラベル材は,巻き取られたものであって,かつ購入したものであることにより,その流通過程で充分に乾燥と安定化(熟成)がなされているものである。本願発明1は,これを用いて高品質のシールラベルをコストアップなしに合理的に製造することを可能としたものである。 他方,引用発明1には,「エマルジョン系粘着剤を用いて粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程において,該ラベル材は購入したものであること」という構成は記載されておらず,この構成のもとで,「適当な媒体に分散させたエマルジョンを塗布,塗工,あるいは積層する方法で,耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能」との効果が得られることについては示唆すらされてない。 イ 上記のとおり,相違点A,相違点B’に係る構成は,単にそれぞれ独立した要件というわけではなく,両者が相俟って「耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能」なシールラベルが製造できるという効果が得られるものである。 したがって,引用発明1において,「粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備する工程」の存在を認め,かつ,相違点A,Bを独立した要件として個々に判断し,「本件発明1は,引用発明1及び本件出願前に周知の上記技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした本件決定は,失当である。 3 取消事由3(本件発明2ないし4の進歩性の判断の誤り) 本件発明2ないし4の進歩性を否定した本件決定は,誤りである。 すなわち,本件発明2及び3は,本件発明1の従属請求項であり,本件発明4は,本件発明1ないし3の従属請求項である。したがって,本件発明1が進歩性を有するものである以上,本件発明2ないし4も進歩性を有するというべきである。 (被告の反論) 本件決定に,原告らの主張する誤りはない。 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤り)について (1) 刊行物1の段落【0040】ないし【0046】の記載及び図2には,次の工程が記載されている。 ア ロール状に巻き重ねられた紙,フィルムまたはシート状のプラスチック等からなる長尺帯状の工程シート24をロール状に巻き重ねられたものを準備する工程。(工程シート24の表面にはシリコン樹脂あるいはフッソ樹脂等の剥離剤が印刷・塗布され,剥離性を有する剥離層24aが形成されている。) イ 工程シート24の剥離層24aの表面に粘着剤層16を形成する粘着剤26を印刷・塗布する工程。 ウ 粘着剤26が印刷塗布された工程シート24を,ドライヤー106で乾燥し,粘着剤層16を形成する工程。 エ 粘着剤層16が形成された工程シート24の剥離層24a側に,ラベル基材14となる原紙14aを積層する工程。(ラベル基材14の原紙14aは,工程シート24と同じ幅に形成されている。) オ 工程シート24,粘着剤26の層およびラベル基材14とが積層された積層物を,次の印刷等の工程に導く前に,積層された状態で予め最終製品たるラベル連続体10の幅とほぼ近似した幅となるようにスリッタ108でスリット する工程。 カ スリット後に,工程シート24とラベル基材14の連続体とが粘着剤26の層をもって積層し仮着されてなる積層物30をロール状に巻き重ねる工程。 (2) 上記アないしエの工程は,工程シート24,粘着剤26の層及びラベル基材14とが積層された積層物を製造する工程であり,上記オの工程は,上記アないしエの工程で得られた積層物を,積層された状態で予め最終製品たるラベル連続体10の幅とほぼ近似した幅となるようにスリットする工程である。そして,上記オの工程で切断される積層物が,その前段の工程たる上記アないしエの工程で製造されたものであるという関係にあることを考えれば,上記アないしエの工程は,上記オの工程で切断される積層物を準備する工程にほかならない。 上記アないしエの工程で製造された積層物,すなわち,工程シート24,粘着剤26の層及びラベル基材14とが積層された積層物は,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材」であり,上記オの工程は,該「用紙のラベル基材を所定の幅に切断する工程」であるから,刊行物1には,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程」及び「該準備された用紙のラベル基材を所定の幅に切断する工程」を有するラベル連続体の製造方法の発明が記載されているということができる。 (3) したがって,本件決定において,引用発明1が「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程と,該準備された用紙の該ラベル基材を所定の幅に切断する工程と」を含むものであると認定したことに誤りはない。 原告らが主張する「本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤り」は,引用発明1に関する本件決定の上記認定に誤りがあることを前提とするものであるところ,上記認定に誤りはないから,原告らの上記主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について (1) 原告らは,相違点Aに関して,刊行物1に記載された装置においてエマルジョン系粘着剤を使用したときには工程速度が遅くなるなどとし,当業者は,引用発明1に示される態様では,エマルジョン系粘着剤を選択することは通常行わない旨主張する。 ア しかしながら,本件発明1は,「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層」のある用紙のラベル材であると規定するのみであって,その塗布,乾燥方法については何らの規定もなされていないから,引用発明1に係るラベル連続体が,粘着剤をどのように塗布・乾燥されているのか,また,上記ラベル連続体を製造する装置の運転速度がどのように設定されているのかという事項は,本件発明1と引用発明1との対比においては,発明の構成要件とは関係のない事項である。したがって,上記の事項は,相違点Aに係る構成を想到することが容易かどうかの判断に何ら影響を与えるものではない。 イ ところで,本件出願前において既に,環境対策の必要性等から,値札やバーコードラベル等に用いられるラベルの粘着剤には,従来の溶剤形ゴム系感圧接着剤(粘着剤)から,90%近くがエマルジョン形アクリル系感圧接着剤(粘着剤)に置き換わっており,中でも,EVA系,酢ビ系,アクリル系のエマルジョン接着剤は,代表的なエマルジョン接着剤であることが,当業者にとって本件出願前に周知の事実であった。 そして,引用発明1は,「複数のラベルが連続して形成されたラベル連続体およびその製造方法に関し」,「ラベル基材や粘着剤層の選択の幅を拡げ,多品種小ロットの生産が可能な,ラベル連続体およびその製造方法を提供すること」を目的とするもの(甲3の2頁右欄4〜26行参照)であって,刊行物1には,粘着剤について,「粘着剤層を形成する粘着剤がエマルジョン状のときに含んでいた溶剤が除去された状態で工程シートの表面から転移させて粘着剤層を形成する」という記載(甲3の3頁右欄31〜34行),及び「接着剤26として,EVA系,酢ビ系,アクリル系等の水溶性樹脂を含む接着剤・・・を用いる場合は」という記載(甲3の5頁左欄41〜44行)がなされているから,当業者であれば,刊行物1の記載及び上記周知の事実から,接着剤としては「エマルジョン系接着剤」を当然に推測できるものである。 そして,本件発明1において「エマルジョン系粘着剤」を採用した理由は,本件明細書によれば,「本発明において特に好ましいのは,適当な媒体に分散させたエマルジョンを塗布,塗工,あるいは積層する方法である。エマルジョン系粘着剤の場合,ホットメルト系粘着剤と異なり,樹脂の種類が限定されず,耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能だからである。」(甲2の3頁右欄1〜6行)というものであるが,引用発明1は,粘着剤層の選択の幅を拡げること等を目的とするものであり,刊行物1には,上記のように「ホットメルト系粘着剤」に限らず「エマルジョン系粘着剤」を用いることも示唆されているのであるから,引用発明1において,ホットメルト系粘着剤と異なり,樹脂の種類が限定されず,耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能である周知の「エマルジョン系接着剤」を採用することは当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。 したがって,引用発明1においてエマルジョン系粘着剤を選択することは当業者は通常行わない旨の上記原告らの主張は,失当である。 (2) 相違点Bに係る構成に関連して,原告らは,本件発明1において,該ラベル材は,巻き取られたものであって,かつ購入したものであることにより,その流通過程で十分に乾燥と安定化(熟成)がなされているという利点があるとした上,本件発明1は,これを用いて高品質のシールラベルをコストアップなしに合理的に得ることを可能としたものである旨主張している。 しかしながら,「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材」が,本件出願前に周知の材料であって,公知の方法により製造可能なものであるとともに,製品として市販されているものであること,そして,長尺の製品であれば,巻き取られた状態で保管・輸送・販売することが通常の態様であること,また,該市販のラベル材は,通常,商品として不都合なく使用できるように,その製造・流通過程で十分に乾燥と安定化(熟成)がなされ,安定した一定の品質となるよう配慮されているものであることが当業者において明らかであることを考えれば,原告らの上記の主張は,市販の製品自体が備えている構成とその性質を述べているにすぎず,格別なものではない。なお,コストアップなしにシールラベルを得られるかどうかも,購入品を使用する方が高価となる場合も考えられる以上,原告らの主張のとおりではない。 相違点Bに係る構成を想到することが容易である点について付言すると,シールラベルの製造において,「粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張され巻き取られた用紙のラベル材を準備すること」は,例えば,刊行物3に記載されているように周知の事項であるから,引用発明1において,刊行物1の図2に記載されたように,工程シート24に粘着剤層16を形成し,原紙14aを積層してラベル材を準備するのに代えて,上記周知の「予め巻き取られた用紙のラベル材」を準備することは当業者ならば容易に想到し得たものである。そして,ラベル材を準備するに当たり,公知の方法により製造することに代えて,市販されている製品を購入することは,当業者が任意に選択できる事項であることは,本件決定に記載のとおりである。 (3) 原告らは,本件発明1と引用発明1との相違点A及び相違点Bを個々に判断して,本件発明1が引用発明1及び本件出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとした本件決定の判断は誤りである旨主張している。 しかしながら,本件決定は,相違点Aに関しては,シールラベルに用いる粘着剤として,エマルジョン系粘着剤が用いることができるかどうかという判断を行い,相違点Bに関しては,本件出願前に周知の材料であって,公知の方法により製造可能なものであるとともに,製品として市販されている,エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材を準備するに当たり,公知の方法により製造することに代えて,市販されている製品を購入することができるかどうかという判断を行っているのであるから,相違点A,相違点Bにおいて判断すべき事項には相互に技術的関連性がなく,それぞれ独立して判断することができるものである。 そして,本件決定は,相違点A,相違点Bについての判断を行った上で,「本件発明1により奏される効果についても,上記引用発明1および上記本件出願前周知の技術から予測し得る範囲内のものである。」と言及しており,上記相違点A,Bによる相乗効果についても検討した上で,格別なものでないとの判断を行っているものであり,本件決定における相違点の判断に誤りはない。 3 取消事由3(本件発明2ないし4の進歩性の判断の誤り)について 本件決定における本件発明1の認定判断に誤りはないから,同認定判断が誤りであることを前提に本件発明2ないし4についての本件決定の判断の誤りをいう原告らの主張は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤り)について 原告らは,引用発明1においては,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する特定の工程」は存在せず,工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材は,刊行物1の図2から図3に至る一連の工程の流れの中で中間生成物として工程を通過する中間物にすぎず,刊行物1には「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程」は記載されていないから,本件決定の一致点の認定及び相違点Bを相違点とした認定は誤りである旨主張するので,以下検討する。 (1) 刊行物1(甲3)には,次のとおり記載されている。 「【0041】まず,ロール状に巻き重ねられた紙,フィルム又はシート状のプラスチック等からなる長尺帯状の工程シート24をロール状に巻き重ねられたものを準備する。この工程シート24は,製造工程においてのみ用いられるものであり,完成したラベル連続体10には残存しないものである。そして,工程シート24の表面はシリコン樹脂あるいはフッソ樹脂等の剥離剤を印刷・塗布され,剥離性を有する剥離層24aが形成されている。 【0042】次に,この工程シート24の剥離層24aの表面に粘着剤層16を形成する粘着剤26を印刷・塗布するのであるが,この接着剤塗布装置100は,2つ のローラ102aおよび102bを含む。ローラ102aは,その下部がパン104に溜めた粘着剤26に浸漬されている。したがって,ローラ102aおよび102bを回転させることによって,その部位に導かれた工程シート24の剥離層24a表面に,粘着剤26が印刷塗布される。なお,接着剤塗布装置としては,グラビアロールコーター,リバースロールコーター,エアーナイフコーター等の塗布装置を用いてもよく,また,スクリーン印刷機等の公知の印刷機を用いてもよい。 【0043】そして,粘着剤26が印刷塗布された工程シート24は,たとえばヒーターを含むドライヤー106に導かれる。ドライヤー106では工程シート24に印刷塗布された粘着剤26が乾燥されて粘着剤層16として形成される。粘着剤26として,EVA系,酢ビ系,アクリル系等の水溶性樹脂を含む接着剤あるいは塩酸ビ,ウレタン,アクリル等からなる溶剤型接着剤を用いる場合は,乾燥機を用い,ゴム系,EVA系のホットメルト型接着剤を用いる場合は,冷却機を用いる。 【0044】このように粘着剤層16が形成された工程シート24の剥離層24a側に,ラベル基材14となる原紙14aが積層される。ラベル基材14の原紙14aも,工程シート24と同じ幅に形成され,そのラベル基材14の原紙14aの表面には,すでに感熱発色層22が形成されている。感熱発色層22は,前記した粘着剤層26側とは反対側に形成されている。 【0045】このように,工程シート24,粘着剤26の層およびラベル基材14とが積層された積層物は,次の印刷等の工程に導く前に,積層された状態で予め最終製品たるラベル連続体10の幅とほぼ近似した幅となるようにスリッタ108でスリットされ,スリット後にロール状に巻き重ねられる。 【0046】この工程シート24とラベル基材14の連続体とが粘着剤26の層をもって積層し仮着されてなる積層物30はロール状に巻き重ねられ,積層物30はロール状に巻き重ねられた状態において,図3に示す次工程の印刷および剥離剤塗布装置に導かれる。」 (2) 上記認定の記載によれば,刊行物1には,@ロール状に巻き重ねられた紙,フィルムまたはシート状のプラスチック等からなる長尺帯状の工程シート24をロール状に巻き重ねられたものを準備する工程,A工程シート24の剥離層24aの表面に粘着剤層16を形成する粘着剤26を印刷・塗布する工程,B工程シート24に印刷塗布された粘着剤26を乾燥して粘着剤層16として形成する工程,C工程シート24の剥離層24a側に,ラベル基材14となる原紙14aを積層する工程,D上記@ないしCで積層された積層物をスリッタ108でス リットし,スリット後にロール状に巻き重ねる工程が存在し,ロール状に巻き重ねられた積層物30は,次工程の印刷及び剥離剤塗布装置に導かれることが開示されている。 そして,次工程の印刷及び剥離剤塗布装置に導くためのロール状に巻き重ねられた積層物30を製造過程で製作される目的物という観点からみれば,上記@ないしCの工程で積層された積層物30は中間生成物といえるが,「準備」という語が「ある事をするのに必要な物や態勢を前もってととのえること」を意味することは明らかであるところ,刊行物1における製造工程の流れからすれば,上記@ないしCの工程は,上記Dの「スリッタ108でスリットし,スリット後にロール状に巻き重ねる」という工程に必要な物(積層物30)を前もってととのえる工程に相当するということができる。これと異なる原告らの主張は,独自の見解に立つものであって,採用できない。 以上のとおり,上記@ないしCの工程は,「粘着剤から成る粘着剤層を介して工程シートが予め裏張された用紙のラベル基材を準備する工程」であるということができるから,本件決定の一致点及び相違点の認定に原告ら主張の誤りがあるということはできない。 したがって,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について (1) 原告らは,相違点Aに係る構成を想到することは容易であるとした本件決定の判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,日本接着学会編「接着ハンドブック(第3版)」(1996年(平成8年)6月28日発行。乙1)には,「粘着製品の大きな用途として,ラベルやビジネスフォームなどがあり,その簡便さから,幅広く利用されている。 この用途の感圧接着剤は,被着体が多種あること,および,はく離後に糊残りがないことなどが必要であり,従来は溶剤形ゴム系感圧接着剤が用いられていたが,環境対策面から90%近くはエマルジョン形アクリル系感圧接着剤に置きかわっている。」(693頁11〜15行)と記載されており,この記載及び弁論の全趣旨によれば,シールラベルに用いる粘着剤としてエマルジョン系粘着剤を用いることは,本件出願前に周知の技術であったと認められる。 また,刊行物1(甲3)には,前記1(1)に認定したとおり,「粘着剤26として,EVA系,酢ビ系,アクリル系等の水溶性樹脂を含む接着剤」が用いられることが記載されているところ,前掲乙1には,ポリ酢酸ビニルエマルジョン,EVAエマルジョン及びアクリルエマルジョンが代表的なエマルジョン接着剤であると記載されており(485頁8.2.1,488頁8.2.2及び491頁8.2.3),この記載に照らせば,引用発明1においても,粘着剤としてエマルジョン系接着剤を用い得ることが開示されていると認めるのが相当である。 したがって,引用発明1において,粘着剤としてエマルジョン系のものを用いることは,当業者が必要に応じて適宜選択し得るものということができる。 原告らは,エマルジョン系の粘着剤は乾燥速度が遅いこと等から,引用発明1における粘着剤として,当業者はエマルジョン系粘着剤の選択を通常行わない旨主張する。 しかしながら,本件発明1に係る請求項には,「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層」のある用紙のラベル材であると規定されているだけであり,その乾燥方法等については何らの規定もなされておらず(前記第2の2),引用発明1を引用例として本件発明1と対比するにあたり,引用発明1においてラベル連続体に粘着剤がどのように塗布・乾燥されるか,ラベル連続体を製造する装置の運転速度がどのように設定されているのかという事項は,比較の対象となる発明の構成要件ではない。したがって,原告らの上記主張は,本件発明1と対比されるべき引用発明1の構成要件に基づかないものであって,何ら根拠がない。 (2)ア 相違点Bについてみるに,本件特許に係る請求項1には「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張され巻き取られた用紙のラベル材を購入して準備する工程」が構成要件として記載され(前記第2の2),本件明細書(甲2,7)には,次のとおり記載されている。 「【0015】ラベル材に非粘着性台紙を粘着層を介して裏張した用紙は,通常入手できるタック紙であり得る。例えばリンテック株式会社製のSS上質タック紙,SSホイルタック紙,SSアートタック紙,SSグロスタック紙,王子タック社製の上質タック紙,ミラコートタック紙,ホイルタック紙,およびアートタック紙などがあるが,これに限定されない。 【0016】あるいはラベル材に非粘着性台紙を粘着層を介して裏張した用紙は,当業者に公知の方法で製造し得る。このときラベル材としては,その片面に印刷を施し得る材質であれば特に限定されない。・・・ 【0017】さらに粘着層は,少なくとも1種の粘着剤からなるものであり,当業者に公知でかつ非粘着性台紙を裏張したラベルに一般的に用いられる粘着層を形成し得るいずれの粘着剤あるいはそれらの2以上の組み合わせでも用いられる。例えば,天然ゴム系粘着剤,合成ゴム系粘着剤,アクリル樹脂系粘着剤,ポリビニルエーテル樹脂系粘着剤,ウレタン樹脂系粘着剤,シリコン樹脂系粘着剤などが挙げられる。・・・ 【0019】粘着層を設ける方法は特に限定されないが,例えば上記の1種以上の粘着剤を適当な溶剤に溶解させて塗布する方法,適当な媒体に分散あるいは乳化させて塗布する方法,剥離紙にあらかじめ粘着剤層を塗布形成して貼合わせる方法,両面テープを積層する方法などが挙げられる。本発明において特に好ましいのは,適当な媒体に分散させたエマルジョンを塗布,塗工,あるいは積層する方法である。」 上記認定の記載に弁論の全趣旨を併せれば,「エマルジョン系粘着剤から成る粘着層を介して非粘着性台紙が予め裏張された用紙のラベル材」は本件出願前に周知の材料であって,公知の方法により製造可能なものであり,また,製品として既に市販されているものと認められる。したがって,上記ラベル材を準備するに当たり,公知の方法により製造することに代えて,市販されている製品を購入する方法によることは,当業者が任意に選択できる事項であり,また,購入したラベル材が「巻き取られた」ものである点についても,本件決定のいうとおり,市販の製品の通常の態様を単に規定したにすぎないものである。 イ 原告らは,相違点Bに係る構成に関して,本件発明1において,該ラベル材は,巻き取られたものであって,かつ購入したものであることにより,その流通過程で十分に乾燥と安定化(熟成)がなされているという利点があるとした上,本件発明1は,これを用いて高品質のシールラベルをコストアップなしに合理的に得ることを可能としたものである旨主張する。 しかしながら,エマルジョン系粘着剤を用いたラベル材について,充分に乾燥させ,安定化(熟成)させる必要があるというのであれば,引用発明1においても,前記1(2)のDの工程の後に,充分な乾燥・熟成期間を与えればよいだけのことであり,本件発明1と引用発明1のそれぞれの製造法による最終製品である各シールラベルの間に作用効果上の差異があると認めることはできない。 原告らは,エマルジョン系粘着剤を用いたラベル材を購入して利用することの有利性を挙げ,これを採用したことに本件発明1の発明の進歩性があるかのようにいうが,製造コスト等を考慮して,市販品として既に存在しているものを自己で製造するのが有利か,当該市販品を購入する方が有利かを判断し,そのいずれかを選択することは,本件発明1の進歩性の有無とは何ら関係のない事柄というべきである。 原告らの上記主張は採用できない。 (3) さらに,原告らは,相違点A,相違点Bは,独立した要件として個々に判断すべきではない旨主張する。 しかしながら,相違点Aに関しては,引用発明1にエマルジョン系粘着剤を用いることの容易想到性,相違点Bに関しては,引用発明1において,ラベル材を,巻き取られたものであって,かつ購入したものであるとすることの容易想到性をそれぞれ判断するものであり,これを相互に関連付けて判断しなければならないとする合理的な理由は見出せない。 原告らは,相違点A,相違点Bは,単にそれぞれ独立した要件ではなく,両者が相俟って「耐候性,透明性に優れ,薄く塗布することも可能」なシールラベルを製造できるという効果が得られるものである旨主張するが,相違点Aに係る構成,相違点Bに係る構成を想到することが容易であるというべきことは既に説示したとおりであり,両構成を構成要件に含む本件発明1により奏される効果も,引用発明1及び前記周知の事項から予測される範囲のものと認められ,格別なものとは認められない。 (4) したがって,取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(本件発明2ないし4の進歩性の判断の誤り)について 原告らは,本件発明1が進歩性を有することを前提に,本件発明2ないし4の進歩性を否定した本件決定は誤りである旨主張するが,本件発明1が進歩性を有するものでないことは前示のとおりであるから,原告らの主張の取消事由3は,その前提を欠き,理由がない。 4 以上の次第で,原告らが取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,また,本件決定には他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青蜉] |
裁判官 | 清水節 |