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関連審決 異議2000-71157
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  慣用技術 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 226号 特許取消決定取消請求事件
原告 アサステック・コンピューター・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 八田幹雄
同 野上敦
同 奈良泰男
同 齋藤悦子
同 宇谷勝幸
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 高橋泰史
同 片岡栄一
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−71157号事件について平成13年12月5日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ディスクプレーヤのための振動吸収システム」とする特許第2951943号発明(平成10年5月28日特許出願,平成11年7月9日設定登録。以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2000-71157号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成13年3月14日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「本件明細書」という。)を請求した。
特許庁は,上記特許異議の申立てについて審理した上,平成13年12月5日,「訂正を認める。特許第2951943号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,平成14年1月5日,原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと, ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,かつ,振動を発生する系内にその振動を維持すべく,バネ定数K値の小さなアイソレータを介して該トレーモーション制御モジュール上で接続されたトラバースモジュールと, 前記系で発生した振動を減衰し,かつその振動をその系の外方に伝達すべくバネ定数K値の大きなダンパを介して,該トラバースモジュール上で接続された,前記回転源からの振動エネルギーを吸収するための振動吸収装置とを備えたディスクプレーヤ。
3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明は,特開平10-21680号公報(甲4,以下「刊行物1」という。),実願平1-128935号(実開平3-69336号)のマイクロフィルム(甲5,以下「刊行物2」という。)及び特開平2-260191号公報(甲6,以下「刊行物3」という。)記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は,本件発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明と刊行物1発明との相違点(@),(A)についての判断を誤り(取消事由2,3),本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り) (1) 刊行物1発明の認定の誤り ア 本件決定は,刊行物1発明を,「ディスクトレイ(4)及びベース(43)を支持し,かつ制御手段(CPU)からの指令に応じて前記ディスクトレイの挿入あるいは排出動作,及び前記ベースの上昇降下動作を実行する変位機構(50)を搭載したシャーシ(40)と,ディスク装置(1A)の動作中に振動を発生する回転源であるスピンドルモータ(45)を備え,弾性材料からなるインシュレータ(441)を介して前記シャーシ(40)に支持されたベース(43)上で接続された金属板(44)とを備えたディスク装置」(決定謄本6頁第6段落)と認定したが,誤りである。
イ 上記認定によれば,刊行物1発明のディスク装置において,シャーシ40とベース43を振動吸収システム上一体物(以下,振動吸収システム上の一体物を,単に「モジュール」ともいう。)とみなして,刊行物1発明を,ディスクトレイ4及びベース43を含むシャーシ40と振動発生源を含む金属板44や二つのモジュールが,ベース43と金属板44の間で,振動絶縁体であるインシュレータ441を介して,下からこの順番で垂直方向に接続されて成るディスク装置と認定していることとなる。しかし,刊行物1発明のディスクプレーヤは,「ベース43の後方(装置本体2の奥部)側の両側部には,それぞれ,機構ユニット42のシャーシ40に対する回動支持部として,軸431,432が突出形成されている。これらの軸431,432は,それぞれ,シャーシ40側に形成された軸孔433,434に挿入されている。これにより,機構ユニット42は,その後方部分がシャーシ40に対し回動可能に軸支されている」(刊行物1〔甲4〕の段落【0050】)という構造を有しており,さらに,「軸431,432のうちの一方の軸431には,振動を吸収するためのリング状の緩衝部材(ゴムワッシャー)5が装着されている。この緩衝部材5の厚さは,軸431,432付近における間隙411の幅と同等かまたはそれより若干大きい値に設定され,これにより緩衝部材5は,ベース43の側面と,シャーシ40の空間41に臨む内面との間に挟持された状態,すなわち,ベース43の側面とシャーシ40の内面のそれぞれに密着した状態となる」(同段落【0051】)。そして,刊行物1発明のディスクプレーヤは,「以上のような緩衝部材5を設置することにより,例えば光ディスク3の偏心回転により機構ユニット42が振動したとしても,その振動が緩衝部材5により吸収(緩和)され,シャーシ40への伝搬が阻止または抑制される。従って,シャーシ40に対する機構ユニット42のガタツキ,特に,機構ユニット42の後方部分のガタツキが防止され,ディスク装置1A全体の振動および騒音の発生を抑制する効果(制振効果)が得られる」(同段落【0056】),「ベース43の前方部分(装置本体2の手前側)であって,軸431側(緩衝部材5が装着されているのと同じ側)の側部には,板バネよりなる付勢部材(バネ部材)6が当接し,機構ユニット42の前方部分を軸432側の側方(図2中左方向)へ付勢している。この付勢部材6は,ビス6aによりシャーシ40に固定されている。このような付勢部材6により機構ユニット42の前方側部を横方向(1方向)に付勢することによって,機構ユニット42の前方部分のガタツキを防止することができる。特に,前記緩衝部材5とこの付勢部材6の双方を設置したことにより,機構ユニット42の後方部分と前方部分のそれぞれのガタツキを有効に防止することができる」(同段落【0057】〜【0058】)という効果を奏するものである。したがって,刊行物1記載のディスク装置は,振動吸収システムとして見た場合,シャーシ40とベース43とは別個の独立したモジュールなのであり,しかも,このような構成により,本件発明が振動発生源の振動を垂直方向に吸収しようとするのに対し,刊行物1発明では水平方向に吸収するようになっており,両者の振動吸収機構及びその奏する効果は,全く相違する。
(2) 一致点の認定の誤り ア 本件決定は,本件発明と刊行物1発明は,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,振動絶縁体を介して該トレーモーション制御モジュール上で接続されたトラバースモジュールとを備えたディスクプレーヤ」(決定謄本9頁下から第2段落)である点において一致すると認定したが,誤りである。
イ 本件発明のディスクプレーヤは,トレイモーション制御モジュール55とトラバースモジュール53とダイナミックアブソーバ(振動吸収装置)51という三つのモジュールが,振動絶縁体であるアイソレータ54又はダンパ52を介して下からこの順番で垂直方向に接続されて成るものである(本件明細書〔甲2添付〕特許請求の範囲【請求項1】及び願書に添付した図面〔甲1の4頁〜5頁〕,以下,本件明細書及び願書に添付した図面を併せて「本件明細書等」といい,明細書は甲2添付のもの,図面は甲1の4頁〜5頁のものにより引用することとし,各書証番号の引用は省略する。)。本件発明において,トレイモーション制御モジュールとは,トレイを支持し,かつ,指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するモジュールをいい(本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】),トラバースモジュールとは,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備えたモジュールをいい(同),ダイナミックアブソーバ(振動吸収装置)とは,接続された構成要素に対して広範囲に移動でき,ディスクプレーヤの動作中振動エネルギー,又は衝撃エネルギーのほとんどを吸収することができる振動吸収装置,あるいは衝撃吸収装置をいう(同段落【0010】)。
ところで,本件発明のディスクプレーヤにおいて,ディスクトレイを含むトレイモーション制御モジュール55は,ディスクプレーヤのケーシングに固定されており,さらに,当該ケーシングは,例えば当該ディスクプレーヤを含むコンピュータのケーシングに固定され,振動発生源を含むトラバースモジュール53は,アイソレータ54を介してトレイモーション制御モジュール55上に接続され,さらに,ダイナミックアブソーバ51がダンパ52を介してトラバースモジュール53上に接続されている。他方,刊行物1発明のディスク装置の構成は,上記(1)イのとおりであり,本件発明と刊行物1発明とを対比すると,本件発明の「トレイまたはディスクトレイ」,「ディスクプレーヤ」及び「トラバースモジュール」は,それぞれ刊行物1発明の「ディスクトレイ」,「ディスク装置」及び「金属板」に相当するが,本件発明の「トレイモーション制御モジュール」は,刊行物1発明の「シャーシ」には相当するが,「ベース」を含むものでないから,本件発明の「トレイモーション制御モジュール」は,刊行物1発明の「ディスクトレイ及びベースを支持するシャーシ」に相当しないことは明らかである。そうすると,両者は,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,振動絶縁体を介して接続されたトラバースモジュールとを備えたディスクプレーヤ」である点において一致するが,相違点(@),(A)に加えて,@本件発明は,トレイモーション制御モジュール,トラバースモジュール及び振動吸収装置の三つのモジュールからなるディスクプレーヤであるのに対して,刊行物1発明は,トレイモーション制御モジュール(シャーシ),トラバースモジュール(金属板)及び第3のモジュール(ベース)から成るディスク装置である点,A本件発明では,トレイモーション制御モジュール,トラバースモジュール及び振動吸収装置が,振動絶縁体を介して下からこの順番で垂直方向に接続されているのに対して,刊行物1発明では,トレイモーション制御モジュール,第3のモジュール及びトラバースモジュールが,振動絶縁体を介して下からこの順番で接続されている点,B本件発明では,トレイモーション制御モジュールとトラバースモジュールとは振動絶縁体を介して垂直方向に接続されているのに対し,刊行物1発明では,シャーシとベースとは,ベースの両側部に設けられた軸とシャーシの側壁に設けられた軸孔とで緩衝部材を介して回動可能に軸支され,トレイモーション制御モジュールと第3のモジュールとは振動絶縁体を介して水平方向に接続されている点においても異なっている。したがって,本件発明と刊行物1発明とは,その振動吸収システムの構成において大きく相違するものである。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との相違点(@)についての判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点(@)として認定した,「振動絶縁体が,本件発明においては,振動を発生する系内にその振動を維持すべく,バネ定数K値の小さなアイソレータであるのに対して,刊行物1の発明(注,刊行物1発明)では弾性材料からなるインシュレータである点」(決定謄本9頁〜10頁[相違点](@))について,「本件発明における『アイソレータ』と刊行物1の発明における『インシュレータ』は,いずれも振動の伝達を抑制する振動絶縁体である点で共通するものである。そして,刊行物1の発明は,この刊行物1の記載からみて,光ディスク(3)の偏心回転等から生じる振動が機構ユニット(42)からシャーシ(40)へ,さらにはシャーシ(40)からケーシング(10)へ伝達されることにより,発生する振動や騒音を抑制することをその技術課題とするものであるから,この刊行物1の発明における『インシュレータ(441)』は,刊行物1の発明において,金属板(44)(トラバースモジュール)上に取り付けられている回転源からの振動を外方へ,即ち,ベース(43)を支持するシャーシ(40)(トレイモーション制御モジュール)側へ,伝えない働きを有しているものと認められる。してみれば,このインシュレータのバネ定数K値は,当然小さいものが用いられていることになり,上記相違点(@)は格別のものとは認められない」(同10頁ア相違点(@)について)と判断したが,誤りである。
(2) 本件決定によれば,刊行物1発明のディスク装置は,上記のとおり,トレイモーション制御モジュールとトラバースモジュールとが振動絶縁体を介して下からこの順番で垂直方向に接続されて成るディスク装置ということになるから,本件明細書等に従来技術として記載した図1又は図2のディスクプレーヤに相当するものである。本件明細書等に記載のとおり,図1のディスクプレーヤのようにトラバースモジュールとトレイモーション制御モジュールとの間にダンパを設けたものは,発生源であるトラバースモジュール自体の振動を低減させるもののディスクプレーヤのケーシングに大きな振動を引き起こすという特徴があり,ディスクの読み取り安定性は高いもののケーシングの振動による重大なノイズを発生させ(段落【0003】),また,図2のディスクプレーヤのようにトラバースモジュールとトレイモーション制御モジュールとの間にアイソレータを設けたものは,ケーシングの振動を抑えるがトラバースモジュール自体の振動を抑えることができないという特徴があり,上記ノイズを発生させないがディスクの読み取り安定が悪いという欠点がある(段落【0004】)。ここで,ダンパ及びアイソレータは,いずれもトラバースモジュールとトレイモーション制御モジュールとを接合する振動絶縁体であって,それぞれの構成部材のバネ定数Kの値によって区別されるものである。
すなわち,ダンパは,バネ定数K値の大きな部材を用いることにより振動を発生系の外方に伝達させるようにしたものであり,一方,アイソレータは,バネ定数K値の小さな部材を用いることにより振動を発生系内に維持するようにしたものである(同)。したがって,トラバースモジュール及びトレイモーション制御モジュールを備えたディスクプレーヤにおいて,両者を接合する振動絶縁体をダンパとするかアイソレータとするかは,いかなる設計思想に基づいてどのようなバネ定数K値を持つ部材を使用するかによって異なってくるものである。刊行物1には,「ベース」及び「金属板」を接合する振動絶縁体の「インシュレータ」について,単に「弾性素材よりなる」という記載があるのみで,その設計思想も弾性素材のバネ定数K値も一切開示されていないにもかかわらず,本件決定は,振動を抑制することをその技術課題とするものであるから,インシュレータのバネ定数K値は当然小さいものが用いられていると認定しているのであって,誤りである。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点(A)についての判断の誤り) (1) 刊行物2に記載された技術的事項の認定の誤り ア 本件決定は,刊行物2(甲5)には,「ハウジング(12)内に比較的高い周波数域の振動が伝播し難い(減衰し易い)特性を有する結合手段(14)を介してシャーシ(16)が取り付けられ,前記シャーシ(16)上には磁気ヘッド(18)を備えるキャリッジ(20)とスピンドルモータ(22)が結合手段(24)により取り付けられている磁気ディスクドライブ装置において,前記シャーシ(16)に対して,比較的広い周波数域の振動の伝播が良好となるような特性を持つ弾性固定手段(30)を介して振動板(28)を固定することにより,回転源であるスピンドルモータ(22)から生じた振動を振動板(28)で吸収して減衰し,安定な信号の記録再生を可能にすること」(決定謄本8頁第3段落)が記載され,「本件発明と同じ技術分野に属する磁気ディスクドライブ装置において,回転源であるスピンドルモータからの振動エネルギーを吸収してシャーシ(16)(トラバースモジュール)の振動を減少させるために,該シャーシ(トラバースモジュール)上に比較的広い周波数域の振動の伝播が良好となるような特性を持つ弾性固定手段(30)を介して振動板(28)(振動吸収装置)を設けることは,上記刊行物2に記載されているとおり公知の事項である」(同10頁下から第3段落)と認定したが,誤りである。
イ 刊行物2(甲5)には,結合手段14が防振ゴムとネジとの組合せ等から成ることが記載されており(9頁),結合手段14は比較的高い周波数域の振動が伝播し難い(減衰し易い)特性を有するのであるから,結合手段14が振動絶縁体に該当することは明らかである。また,刊行物2の第1図及び全体の記載から明らかなとおり,シャーシ16は,その両側部で結合手段14を介してハウジング12の側壁に水平方向に接続されており,さらに,振動板28はシャーシ16の下部に弾性固定手段30を介して接続されているものである。したがって,刊行物2に記載された磁気ディスクドライブ装置は,シャーシ16,ハウジング12及び振動板28の三つのモジュールが振動絶縁体を介して特定の位置関係により接続された振動吸収システムとなっているものであり,シヤーシ16上の回転源の振動は,振動絶縁体を介して接続した振動板28だけではなく,振動絶縁体を介して接続したハウジング12を含めた振動吸収システム全体で吸収されるものであることは明白である。すなわち,刊行物2には,「ハウジング(12)と,回転源を有し両側部が振動絶縁体を介してハウジング(12)の側壁に接続されたシャーシ(16)と,シャーシ(16)の下部に振動絶縁体を介して接続された振動板(28)とを有する磁気ディスクドライブ装置」が記載されているのであって,「シャーシ(16)上の回転源から生じた振動を,振動絶縁体を介して側部に接続されたハウジング(12)と振動絶縁体を介して下部に接続された振動板(28)とからなる振動吸収システムの全体で吸収して減衰し,安定な信号の記録再生を可能にすること」が記載されているものである。したがって,本件決定における刊行物2の技術的事項についての上記認定は,シャーシ16,ハウジング12及び振動板28の三つのモジュールの接続の配列又は位置関係並びにそれに基づく振動吸収システムの構成及び効果を無視したものである。
(2) 刊行物3に記載された技術的事項の認定の誤り 本件決定は,刊行物3(甲6)には,「フレーム(1,11)に対して,光学ヘッド,アクセス機構,スピンドルモータ,回路基板等を備えるドライブ本体(3,13)が,防振ゴムからなる制振体A(2,12)を介して取り付けられた光磁気ディスクドライブにおいて,前記フレーム(1,11)上に,防振ゴムからなる制振体A(2,12)を介して前記ドライブ本体(3,13)が取り付けられ,前記ドライブ本体上に,適度なバネ定数と粘性減衰係数を持つ防振ゴムからなる制振体B(4,14)を介して所要の質量を有するカバー(5,15)が取り付けられることにより,外部からドライブ本体に伝わる振動に制振体Bとカバーからなる副振動系を共振させて,前記ドライブ本体の振動振幅を大幅に減少させること」(決定謄本9頁第4段落),「光磁気ディスクドライブにおいて,制振体A(2,12)を介してフレーム(1,11)(トレイモーション制御モジュールに対応)上でドライブ本体(3,13)(トラバースモジュール)を接続すると共に,制振体B(4,14)を介して前記ドライブ本体上でカバー(5,15)(振動吸収装置)を接続すること」(同10頁最終段落〜11頁第1段落)が記載されていると認定した。
しかし,刊行物3に記載の光磁気ディスクドライブにおいて,ドライブ本体3,13は,光学ヘッド,アクセス機構,スピンドルモータ,回路基盤等が含まれるドライブ本体であり,フレーム1,11は,当該ドライブをコンピュータの補助記憶装置として当該コンピュータの内部等に取り付ける際に用いるための単なるフレームにすぎず(甲6の2頁右上欄第2段落),ドライブ本体3,13は,本件発明のトラバースモジュール及びトレイモーション制御モジュールの両方を含むものであることは明白である。したがって,フレーム1,11がトレイモーション制御モジュールに相当し,ドライブ本体3,13がトラバースモジュールに相当するとする本件決定の認定は誤りである。
(3) 相違点(A)についての判断の誤り 本件決定は,本件発明と刊行物1発明の相違点(A)として認定した,「本件発明は,振動を発生する系で発生した振動を減衰し,かつその振動をその系の外方に伝達すべくバネ定数K値の大きなダンパを介して,トラバースモジュール上で接続された,回転源からの振動エネルギーを吸収するための振動吸収装置を備えているのに対して,刊行物1の発明(注,刊行物1発明)ではこのような振動吸収装置を備えていない点」(決定謄本10頁[相違点](A))について,「刊行物1の発明において,そのトラバースモジュール(金属板44)上に振動吸収装置(振動板28)を接続することは,刊行物2(注,甲5)に記載された公知の事項を適用して当業者が容易に想到できたことである。また,この容易性については,刊行物3(注,甲6)において,制振体Aを介してフレーム上でドライブ本体を接続し,さらに制振体Bを介してドライブ本体上でカバー接続している構成をみれば,一層明らかなことである。そして,刊行物1の発明に対して刊行物2に記載された公知の事項を適用するに当たり,上記刊行物3に記載された周知の慣用技術を考慮して,上記弾性固定手段に替えてバネ定数K値の大きなダンパを介在させるようにすることは,当業者であれば容易に想到できた」(同11頁第2段落〜第3段落)と判断した。
しかし,本件発明は,トレイモーション制御モジュールとトラバースモジュールと振動吸収装置という三つのモジュールが振動絶縁体を介して下からこの順番で垂直方向に接続されてなるディスクプレーヤである。これに対し,刊行物2に記載された磁気ディスクドライブ装置では,振動板28はシャーシ16の下方に設けられ,振動吸収装置がトラバースモジュールの下部中空にぶら下げられた構造となっており,しかも,シャーシ16は両側部が振動絶縁体を介してハウジング12の側壁に水平方向に接続されているのであって,本件発明とは振動吸収機構が全く異なり,振動発生源に及ぼす制振作用も全く相違するものである。したがって,当業者が,刊行物2に記載された磁気ディスクドライブ装置の振動吸収システムの構成から,刊行物1発明のトラバースモジュール(金属板44)上に振動吸収装置(振動板28)を接続するという構成を導くことは困難である。また,刊行物3に記載された光磁気ディスクドライブは,ドライブ本体3,13上に制振体4,14(制振体B)を介して振動吸収装置としてのカバー5,15が設けられているものである。しかし,上記のとおり,ドライブ本体3,13は,本件発明のトラバースモジュール及びトレイモーション制御モジュールの両方を含むものであると認められるが,トラバースモジュールとトレイモーション制御モジュールとの間が,どのような制振設計をもって接続されているかについては,刊行物3には全く記載されておらず,振動吸収装置であるカバー5,15がドライブ本体3,13内部のトラバースモジュールに対し振動吸収システムとしてどのように作用するかも全く不明である。したがって,刊行物3に記載された光磁気ディスクドライブの振動吸収システムの構成からも,上記構成を導くことは困難である。さらに,刊行物3には,制振体Bが適当なバネ定数と粘性減衰係数を持つゴムである旨の記載があるだけで,制振体Aと比して具体的にどのようなバネ定数K値を持つ部材を使用するかについての記載はないから,当業者が,刊行物1発明と刊行物2の記載から上記構成を導くに当たり,刊行物3の記載をもって,弾性固定手段に替えてバネ定数K値の大きなダンパを介在させるようにすることも,容易に想到し得るものではない。
4 取消事由4(本件発明の顕著な作用効果の看過) 本件決定は,「本件発明を全体的にみても,上記刊行物1〜3に記載された発明及び周知の慣用技術から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない」(決定謄本11頁第4段落)と判断したが,本件発明の有する後記顕著な作用効果を看過するもので,誤りである。
本件明細書等に従来技術として記載した図1の振動吸収システムは,トレイモーション制御モジュール上にダンパを介してトラバースモジュールを接続したものであるが,動作周波数付近では,トラバースモジュールの振動曲線は逓減するが,トレイモーション制御モジュールの振動曲線は逓増し,このような振動吸収システムの構成ではトレイモーション制御モジュールの振動を抑えることができず,その結果として,ディスクプレーヤのケーシングに大きな振動を引き起こしてしまうものである(本件明細書等の段落【0003】)。また,本件明細書等に従来技術として記載した図2の振動吸収システムはトレイモーション制御モジュール上にアイソレータを介してトラバースモジュールを接続したものであるが,動作周波数付近では,トレイモーション制御モジュールの振動曲線は低レベルに抑えられるが,トラバースモジュールの振動曲線は高レベルのまま減少せず,このような振動吸収システムの構成ではトラバースモジュールの振動を抑えることができない(同段落【0004】)。これに対し,本件明細書等の図8は,本件発明のディスクプレーヤにかかる振動吸収システムの周波数特性を示したものであり,動作周波数付近では,当該トレイモーション制御モジュールの振動曲線を低レベルに抑えるとともに,トラバースモジュールの振動曲線も極小値に抑えており,本件発明の振動吸収システムは両者の振動を同時に抑えることができるものである。このように,振動吸収システムでは各モジュールをどのような配列や位置関係で接続するか,また,モジュール間の接続に用いる振動絶縁体をダンパ,すなわちバネ定数K値の大きい振動絶縁体を用いるか,アイソレータ,すなわちバネ定数K値の小さい振動絶縁体を用いるかによって,振動吸収システムの周波数特性が大きく異なるものであり,その制振効果も著しく相違するものである。本件発明のディスクプレーヤは,振動発生源であるトラバースモジュールの下部に,該系内にその振動を維持すべくバネ定数K値の小さなアイソレータを介してトレイモーション制御モジュールを設けると共に,トラバースモジュールの上部には当該系で発生した振動を減衰し,かつ,その振動をその系の外方に伝達すべくバネ定数K値の大きなダンパを介して振動吸収装置を設けたものであり,このような構成を採用することにより,発生源であるトラバースモジュールの振動を減少させてディスクの読み取り安定性を向上させると共に,ケーシングの振動発生を抑えてノイズを低減させ,かつ,振動吸収装置(ダイナミックアブソーバ)を有する従来型の欠点であったノッキング現象(衝突,すなわち強い勢いでぶつかるような動作)やパッティング現象(振動によってパタパタと物に当たるような動作)等をも抑制させるという,従来のディスクプレーヤでは達成し得なかった顕著な作用効果を奏するものである。
被告の反論
本件決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について (1) 刊行物1発明の認定の誤りについて 刊行物1発明のディスク装置は,振動吸収システムとして見れば,@ケーシング10,Aシャーシ40,ベース43及びディスクトレイ4等並びにB金属板44,スピンドルモータ45及び光学ヘッド移動機構48の3モジュールから成り,モジュール@とモジュールAとの間には緩衝部材7が介在され,モジュールAとモジュールBとの間にはインシュレータ441が介在されている。また,シャーシ40とベース43との間には緩衝部材5が介在されているが,これらは,併せて一つのモジュール(モジュールA)というべきである。刊行物1発明において,ベース43の後方の両側部には,機構ユニット42のシャーシ40に対する回動支持部として,軸431,432がそれぞれ突出形成されており,これらの軸431,432は,シャーシ40に形成された軸孔433,434に回動可能に軸支されている。これにより,機構ユニット42は,その後方部分がシャーシ40に対して回動可能に軸支される。この機構ユニット42が軸431,432を中心に回動すると,機構ユニット42の前方部分がシャーシ40に対して当該シャーシの厚さ方向に変位(上昇又は降下)する。そして,上記軸431,432の少なくとも一方には,リング状の緩衝部材(ゴムワッシャー)5がベース43の側面とシャーシ40の内面のそれぞれに密着した状態で装着されている。なお,機構ユニット42は,ベース43,インシュレータ441,金属板44,スピンドルモータ45,ターンテーブル46,光学ヘッド47及び光学ヘッド移動機構48を有するものである。
このように,ベース43が回動支持部において回動することにより,スピンドルモータ45やターンテーブル46が配置されている機構ユニット42の前方部分が,シャーシ40に対して上昇又は降下する。この動作によって,ディスクトレイ4上に載置された光ディスク3をターンテーブル46上に装着したり,又はこれとは逆に,ターンテーブル46上に装着されている光ディスク3をディスクトレイ4上に戻すことができる。すなわち,上記回動支持部は,上記ディスクトレイ4と共にディスクローディング機構を構成しているものである。上記回動支持部は,ベース43に突出形成された軸431,432がシャーシ40の軸孔433,434に回動可能に軸支されており,また,軸431,432の少なくとも一方には,リング状の緩衝部材5がベース43の側面とシャーシ40の内面に密着した状態で装着されて構成されている。このような回動支持部において軸支されたベース43は,軸431,432の軸方向に緩衝部材5の弾性変形分だけシャーシ40に対して変位可能であるが,上記軸方向と直交する方向(例えば,前後方向又は上下方向)には,緩衝部材5を介在することなくシャーシの軸孔433,434によって直接支持されることにより拘束されているものである。そうすると,緩衝部材5が装着されている回動支持部は,軸431,432の軸方向の振動に限って多少吸収する働きをするが,それ以外のすべての方向の振動については全く吸収することができないものである。また,緩衝部材5が軸431,432の一方にだけ装着される場合には,上記軸方向の振動の一方向については振動を吸収しないことになる。したがって,上記回動支持部に装着された緩衝部材5は,本件発明におけるアイソレータや刊行物1発明のインシュレータ441のように,スピンドルモータ部で生ずるあらゆる方向の振動を吸収する振動吸収部材として働くものではなく,ベース43とシャーシ40との間における軸431,432の軸方向のガタツキを防止するために設けられたものである。
他方,本件発明を見ると,そのディスクローディング機構については,特許請求の範囲の【請求項1】に「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュール」という記載がある。この記載によれば,本件発明の「ディスクプレーヤ」はディスクトレイを備えており,このディスクトレイは挿入又は排出動作をするものであることが明らかである。そして,本件発明のようなディスクトレイを備えるディスクプレーヤにおいては,当該ディスクトレイ上に載置された光ディスクをターンテーブル上に装着したり,又はその逆に,光ディスクをターンテーブルからディスクトレイ上に戻すために,ディスクトレイの挿入あるいは排出動作を行う機構のほかに,ターンテーブルとディスクトレイとを相対的に昇降させる機構(例えば,ディスクトレイに対してターンテーブルを昇降させる機構)を必要とすることは,当然のことである。しかしながら,本件発明は,「ディスクプレーヤの振動吸収システム」に関する発明として明細書に開示されており,本件発明の構成に直接関係のないディスクローディング機構,特に,ターンテーブルとディスクトレイとを相対的に昇降させる機構については,明細書の発明の詳細な説明の欄や図面に説明されていないばかりでなく,【請求項1】においても特定されていないものである。すなわち,本件発明は,「ディスクプレーヤの振動吸収システム」に関するものであって,「ターンテーブルとディスクトレイとを相対的に昇降させる機構」については,発明を特定する事項としていないものである。このような本件発明と対比すべき発明を,刊行物1に記載された事項に基づいて認定するときには,ターンテーブルとディスクトレイとを相対的に昇降させる機構の一部分である緩衝部材5に関することは,認定の対象とする必要のない事項である。
以上のように,刊行物1発明における回動支持部に設けられたリング状の緩衝部材5は,振動吸収システムとして見たとき,本件発明におけるアイソレータのようにスピンドルモータ部で生ずる振動を吸収する部材に相当するものではないから,刊行物1に記載された事項に基づいて,「ディスクプレーヤのための振動吸収システム」に関する本件発明と対比すべき発明を認定するときは,この緩衝部材5を備える回動支持部を構成するシャーシ40とベース43とは,別個の独立したモジュールではなく,振動吸収システム上の一体物(一つのモジュール)と認定すべきものである。したがって,本件決定の刊行物1発明の認定に,原告主張の誤りはない。
(2) 一致点の認定の誤りについて 上記のとおり,刊行物1発明において,シャーシ40とベース43とは一つのモジュールとして認定すべきものであり,その「ディスクトレイ及びベースを支持するシャーシ」は,スピンドルモータ45及び光学ヘッド移動機構48等が取り付けられている金属板44をインシュレータ441を介して支持するものであって,本件発明における「トレイモーション制御モジュール」に相当するものであることが明らかである。したがって,本件決定が,本件発明の「トレイモーション制御モジュール」は,刊行物1発明の「ディスクトレイ及びベースを支持するシャーシ」に相当すると認定した点に誤りはなく,本件発明と刊行物1発明との一致点の認定にも誤りはないから,原告の取消事由1の主張は失当である。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との相違点(@)についての判断の誤り)について 刊行物1(甲4)には,「従来の技術の問題点」について,「【0019】光ディスク3の寸法誤差の許容範囲は,規格で定められているが,この規格は光ディスク3の回転速度が1倍速の場合を前提としたものである。そのため,そのような光ディスク3を高速(1倍速を超える速度)でドライブした場合,光ディスク3の寸法誤差や重心のずれに基づく偏心回転により,1倍速の場合に比べ,機構ユニット22に大きな振動が生じる。また,光ディスク3の中には,規格外のもの(粗悪なもの)もあり,この場合には,前記振動がより激しく生じる。【0020】また,このような振動は,光ディスク3のターンテーブル26に設置する際の中心軸のずれ(偏心)によっても生じる。このような振動は,機構ユニット22からシャーシ20ヘ,さらには,シャーシ20から金属製のケーシング10B(底板11および筐体14)へと伝達され,ケーシング10Bが共振して,騒音を発する。【0021】特に,前述したように,機構ユニット22とシャーシ20の凹部との間には,間隙が形成されているため,高速回転による前述した機構ユニット22の振動が生じると,機構ユニット22のシャーシ20に対するガタツキが生じ,より一層大きな騒音が発生する」と記載され,「発明が解決すべき技術課題」について,「【0022】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,機構ユニットのシャーシに対する支持構造等を改善することにより,ディスクの偏心回転等による振動や騒音の発生を抑制することができるディスク装置を提供することにある」と記載されている。刊行物1の上記記載によれば,刊行物1発明は,図13に示された従来のものにおいて,シャーシ(20)に対する機構ユニット(22)の振動をなるべく抑制して,これらの間のガタツキを防止することを技術課題とするものであり,光ディスクの回転により発生する振動はできるだけ外側方向へ,すなわち,金属板(44)からベース(43)へ伝達しないようにすることが要求されるものであり,金属板(44)とベース(43)間に介在されている4個のインシュレータ(441)は,振動が金属板(44)からベース(43)へできるだけ伝わらないように機能するものと解するのが相当であるから,当業者は,刊行物1発明において用いられている「インシュレータ(441)」は,振動の伝達を抑制するものであって,バネ定数K値の比較的小さいものを用いているものと理解する。また,ディスクプレーヤに通常使用されている「インシュレータ」と称する部品が,ディスクプレーヤの外部(ケーシング側)から与えられる振動や衝撃を,スピンドルモータや光ピックアップ等を取り付けた基板(刊行物1発明の金属板(44)に相当する)へ伝達しないように機能するものであることは,当該技術分野において周知の事項である。すなわち,ディスクプレーヤにおいて使用されている「インシュレータ」と称する部品は,振動の伝達を抑制する機能を有するものであり,バネ定数K値の比較的小さなものが普通であるから,当業者は,刊行物1発明のディスクプレーヤにおいて,金属板(44)とベース(43)との間に介在されているインシュレータ(441)は,「インシュレータ」という用語を用いている点から見ても,バネ定数K値の比較的小さいものであることを理解する。
したがって,本件決定が,相違点(@)の判断において,「振動を抑制することをその技術課題とするものであるから,インシュレータのバネ定数K値は当然小さいものが用いられている」と認定している点に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点(A)についての判断の誤り)について (1) 刊行物2に記載された技術的事項の認定の誤りについて 刊行物2(甲5)には,「本例では,ハウジング12内に磁気ディスクドライブ装置のシャーシ16が防振ゴムとネジとの組合わせなどでなるそれ自体は公知の態様の結合手段14により取り付けられている。この結合手段14は比較的高い周波数域の振動が伝播し難い(減衰し易い)特性を有する。シャーシ16の上には,磁気ヘッド18が固定された防振を施すべき機構ブロックたるキャリッジ20と,フロッピディスク(図示せず)を回転するためのスピンドルモータ22が剛性の高い複数のネジ24により組み付けられている。キャリッジ20は,スピンドルモータ22上のディスク(図示せず)に対し,径方向にヘッド18を移動するようになっている。スピンドルモータ22はシャーシ16に,スピンドルモー夕22の回転ブレによる比較的高周波数域の振動を伝播し易い結合手段,例えば複数のネジ24によって取付けられている」(9頁),「磁気ディスクドライブ装置のシャーシ16の下方には,第2図に詳細に示すような振動板28が弾性固定手段30を介して固定されている。振動板28は,・・・側面に近い3点で弾性固定手段30を介してシャーシ16の下方に固定されている。・・・この振動板に比較的広帯域の周波数に対してフラットな共振特性を持たせるために,内部に多数の細長い孔が形成されている。・・・上記孔の形状,配置および数は,最適な共振特性が得られるよう実験的に決定する」(10頁第2段落),「シャーシ16と,振動板28を固定する弾性固定手段30は,第2図(注,第3図とあるのは誤記と認める。)に示すようなスタッド34と,圧縮バネ38と,ネジ36とから成り・・・このバネ38のバネ定数は弾性固定手段30が全体として比較的広い周波数域の振動の伝播が良好となるような特性を持つよう実験的に選択する」(10頁最終段落〜11頁第1段落),「このディスクドライブ装置は,ハウジング12の外部からの衝撃を受けると,これによる瞬時的な高周波域の振動は結合手段14によってその伝播が抑制され,一方比較的低周波の振動は,ハウジング12,シャーシ16および全周波数に対する伝達特性の良好な弾性固定手段30を介して振動板28に伝えられる。・・・このため,外部から加えられた振動のうちシャーシ16まで伝播する低域振動の大部分は,振動板28へ伝えられ,振動板28の振動エネルギーとして吸収される」(11頁第2段落〜12頁第1段落),「一方,装置内の運動機構,例えばスピンドルモータ22の回転ブレにより生じた内的要因による振動は・・・スピンドルモータ22からシャーシ16,次に全周波数に対する伝達特性の良好な弾性固定手段30を介して,制振板28へ伝えられ,外的要因による低周波振動と同じように振動板28で吸収される。このためスピンドルモータ22の回転ブレによる振動は,キャリッジ20上のヘッド18へは伝えられず,常時安定な信号の記録再生ができる」(12頁第2段落)との記載がある。
刊行物2の上記記載並びに第1図及び第2図によれば,刊行物2には,「ハウジング(12)内に比較的高い周波数域の振動が伝播し難い(減衰し易い)特性を有する結合手段(14)を介してシャーシ(16)が取り付けられ,前記シャーシ(16)上には磁気ヘッド(18)を備えるキャリッジ(20)とスピンドルモータ(22)が結合手段(24)により取り付けられている磁気ディスクドライブ装置において,前記シャーシ(16)に対して,比較的広い周波数域の振動の伝播が良好となるような特性を持つ弾性固定手段(30)を介して振動板(28)を固定することにより,回転源であるスピンドルモータ(22)から生じた振動を振動板(28)で吸収して減衰し,安定な信号の記録再生を可能にすること」(決定謄本8頁第3段落)が記載されていることは明らかであり,また,磁気ディスクドライブ装置において,スピンドルモータ(22)で発生する振動は,シャーシ(16)から弾性固定手段(30)を介して振動板(28)へ伝えられ,この振動板(28)で吸収されることが記載されているから,「本件発明と同じ技術分野に属する磁気ディスクドライブ装置において,回転源であるスピンドルモータからの振動エネルギーを吸収してシャーシ(16)(トラバースモジュール)の振動を減少させるために,該シャーシ(トラバースモジュール)上に比較的広い周波数域の振動の伝播が良好となるような特性を持つ弾性固定手段(30)を介して振動板(28)(振動吸収装置)を設けること」(同10頁下から第3段落)は,刊行物2の上記記載から公知の事項であることが明らかである。ここで,本件決定の上記公知の事項の認定における,「該シャーシ(トラバースモジュール)上に・・・振動板(28)(振動吸収装置)を設ける」という記載は,「該シャーシに振動板を設ける」ないし「該シャーシに対して振動板を設ける」という意味であって,シャーシに対する振動板の上下位置を特定しようとするものではない。「上に」という表現は,通常このような意味でも用いられている。
(2) 刊行物3に記載された技術的事項の認定の誤りについて 刊行物3(甲6)には,「第1図は本発明の光磁気ディスクドライブの構造を示す概略断面図である。構成を説明すると1はドライブをコンピューターの補助記憶装置として該コンピューターの内部あるいは外部に取り付ける際に用いるフレームである。このフレームに2の制振体Aを介してドライブ本体3を取り付ける。制振体Aは通常防振ゴムを使用する。またドライブ本体には光学ヘッド,アクセス機構,スピンドルモータ,回路基板等が含まれる。次にドライブ本体に4の制振体Bをのせ,その上にカバー5を取り付ける」(2頁右上欄第2段落),「第2図は本発明の光磁気ディスクドライブの分解斜視図である。この図で12の制振体Aは・・・フレームの四隅に取り付ける。・・・またドライブ本体の上にのせる14の制振体Bは絶縁性があり,適度なバネ定数と粘性減衰係数を持つ防振ゴムを用いる。さらにカバー15は本発明に重要な動吸振器を構成する部品であり所要の質量を有する・・・。このカバーと制振体Bとにより動吸振器が構成される」(同最終段落〜左下欄),「外部からの振動はドライブの設置場所,取り付け場所においてフレームから制振体Aを介してドライブ本体に伝わる。ある周波数の振動,例えば数十Hzで制振体Aは共振するためドライブ本体も強制的に振動させられる。しかしバネ定数と粘性減衰係数が最適化されている制振体Bとカバーが副振動系として共振し,ドライブ本体をほぼ静止させることができる」(同右下欄第2段落)との記載がある。
刊行物3の上記記載によれば,ドライブ本体(3,13)は,光学ヘッド,アクセス機構,スピンドルモータ及び回路基板等を含んでおり,制振体A(2,12)を介してフレーム(1,11)上に接続され,かつ,制振体B(4,14)を介してカバー(5,15)を接続しているものであって,振動が伝達されても,制振体B(4,14)とカバー(5,15)の作用によってドライブ本体(3,13)の振動を抑制してほぼ静止状態とするものであるから,これらの構成を振動吸収システムとして見ると,前記ドライブ本体(3,13)は本件発明のトラバースモジュールに相当し,前記フレーム(1,11)は本件発明のトレイモーション制御モジュールに対応することが明らかである。なお,刊行物3に記載のものにおいて,フレーム(1,11)はディスクトレイを備えていることが明らかでないから,このフレームが本件発明のトレイモーション制御モジュールに相当するとはいえず,本件決定では対応すると説示している。したがって,刊行物3に記載された技術的事項に係る本件決定の認定に誤りはない。
4 取消事由4(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 刊行物2(甲5)に記載されたディスクプレーヤは,上記のとおり,振動発生源であるシャーシ(16)(トラバースモジュール)に結合手段(14)(アイソレータに対応)を介してハウジング(12)(トレイモーション制御モジュールに対応)を設けると共に,前記シャーシ(16)に弾性固定手段(30)(ダンパに対応)を介して振動板(28)(振動吸収装置)を設けて成り,振動発生源であるシャーシ(16)(トラバースモジュール)の振動を減少させて,ディスクの記録再生動作の安定性を向上させるという作用効果を奏するものである。また,刊行物3(甲6)に記載されたディスクプレーヤは,上記のとおり,振動発生源であるドライブ本体(3,13)(トラバースモジュール)の下部に制振体A(2,12)(アイソレータに対応)を介してフレーム(1,11)(トレイモーション制御モジュールに対応)を設けると共に,前記ドライブ本体(3,13)の上部には制振体B(4,14)(ダンパに対応)を介してカバー(5,15)(振動吸収装置)を設けて成り,ドライブ本体(3,13)(トラバースモジュール)の振動を減少させて,ディスクの記録再生動作の安定性を向上させるという作用効果を奏するものである。したがって,本件発明の作用効果は,刊行物2,3に記載されたものが奏する作用効果を超えるものではなく,刊行物2,3記載のものから当業者が当然予測し得る範囲内のものである。本件明細書等には,図7に示されたシステムに基づいて,ダイナミックアブソーバ(71)とトラバースモジュール(73)のアセンブリ構成に係る製造,販売についての効果が記載されている(段落【0012】)。しかしながら,上記効果は,トレイモーション制御モジュール(75)に接続されたトラバースモジュール(73)に対して,ダイナミックアブソーバ(71)を接続した構成により生ずるものであり,刊行物2,3記載のものにおいても,これと類似した構成を備えているから,本件発明と同様の効果を生ずるものである。すなわち,刊行物2記載のものでは,ハウジング(12)(トレイモーション制御モジュール(75)に対応する)に接続されたシャーシ(16)に対して,振動板(28)を接続した構成を備えており,また,刊行物3記載のものでは,フレーム(1,11)(トレイモーション制御モジュール(75)に対応する)に接続されたドライブ本体(3,13)に対して,カバー(5,15)を接続した構成を備えている。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について (1) 本件決定は,刊行物1(甲4)には,「ディスクトレイ(4)及びベース(43)を支持し,かつ制御手段(CPU)からの指令に応じて前記ディスクトレイの挿入あるいは排出動作,及び前記ベースの上昇降下動作を実行する変位機構(50)を搭載したシャーシ(40)と,ディスク装置(1A)の動作中に振動を発生する回転源であるスピンドルモータ(45)を備え,弾性材料からなるインシュレータ(441)を介して前記シャーシ(40)に支持されたベース(43)上で接続された金属板(44)とを備えたディスク装置」(決定謄本6頁第6段落)の発明が記載されていると認定した上,本件発明と刊行物1発明を対比して,「刊行物1の発明(注,刊行物1発明)における『ディスクトレイ』,『ディスクトレイ及びベースを支持するシャーシ』,『ディスク装置』及び『金属板』は,それぞれ本件発明における『トレイ又はディスクトレイ』,『トレイモーション制御モジュール』,『ディスクプレーヤ』及び『トラバースモジュール』に相当する」(同9頁(4)対比)ものであるから,両者は,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,振動絶縁体を介して該トレーモーション制御モジュール上で接続されたトラバースモジュールとを備えたディスクプレーヤ」(同)である点において一致すると認定した。
(2) 本件決定の上記説示によれば,上記一致点の認定は,刊行物1発明のベース43とシャーシ40が,一体として,本件発明のトレイモーション制御モジュールに相当するものであるとの認定を前提とするものであるから,まず,本件発明の構成について検討する。
本件明細書等には,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,かつ,振動を発生する系内にその振動を維持すべく,バネ定数K値の小さなアイソレータを介して該トレーモーション制御モジュール上で接続されたトラバースモジュールと,前記系で発生した振動を減衰し,かつその振動をその系の外方に伝達すべくバネ定数K値の大きなダンパを介して,該トラバースモジュール上で接続された,前記回転源からの振動エネルギーを吸収するための振動吸収装置とを備えたディスクプレーヤ」(特許請求の範囲【請求項1】),「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】ディスクプレーヤの動作速度を飛躍的に高めるためには,ディスクプレーヤの高速動作中に同ディスクプレーヤ内の回転源から生じる振動を抑えることが有効であるという点については周知である。従来のディスクプレーヤの振動吸収システムについて述べると,以下に述べるような4種類の典型的なシステムを挙げることができる」(段落【0002】),「本発明は従来品を鑑みてなされたものであり,その目的は高速動作中における振動を低減するために簡易にして効果的な構成を備えたディスクプレーヤを提供することにある。【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために,本発明はトレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュールと,ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え,かつ,振動を発生する系内にその振動を維持すべく,バネ定数K値の小さなアイソレータを介して該トレイモーション制御モジュール上で接続されたトラバースモジュールと,前記系で発生した振動を減衰し,かつその振動をその系の外方に伝達すべくバネ定数K値の大きなダンパを介して,該トラバースモジュール上で接続された,前記回転源からの振動エネルギーを吸収するための振動吸収装置とを備えたことをその要旨とする。
【発明の実施の形態】図5,6に示すように,本発明の振動吸収システムは,ダンパ52(K1,C1)にてトラバースモジュール53に接続されたダイナミックアブソーバ51及び,トラバースモジュール53をトレイモーション制御モジュール55に接続するアイソレータ54(K2,C2)を使用している。・・・ダイナミックアブソーバ51は,同ダイナミックアブソーバ51に接続された構成要素に対して広範囲に移動でき,ディスクプレーヤの動作中振動エネルギー,又は衝撃エネルギーの殆どを吸収することができる振動吸収装置,或いは衝撃吸収装置として形成されている。アイソレータ54は,振動を同振動の発生源であるシステム内に維持する小さいK値を持っている。ダンパ52は,振動を低減する一方,振動を発生源であるシステムから外方へ伝達する大きなK値を持つ。本発明がダイナミックアブソーバ51をデイエスクプレーヤからの振動エネルギーを吸収する主構成部品として使用している。このような設計では,ディスクプレーヤが動作中に縦置されたとしても,ダイナミックアブソーバ51はトレイモーション制御モジュール55に接触することはなく,図4に示した従来の方法の欠点を回避できる。この構成にはトラバースモジュール53の振動を低減させ,ディスクを安定して読み取らせることができる。さらに,トレイモーション制御モジュール55に伝達された振動力もまた最小化されパッテイングノイズを防ぎ,コンピュータシステムのケーシングの共振も防止する」(段落【0007】〜【0010】)との記載がある。ところで,「モジュール」とは「装置・機械・システムを構成する部分で,機能的にまとまった部分」(広辞苑第5版)を意味する語である。本件発明においては,「モジュール」の用語について定義はされていないものの,本件明細書等から,「トレイモーション制御モジュール」とは,トレイの挿入・排出動作を行う一体の機構部分(本件明細書等の特許請求の範囲【請求項1】)であって,ディスクの回転中はそれ自体では振動発生源とはならないものであること,「トラバースモジュール」とは,少なくともディスクを回転させるスピンドルモータを備え,ディスク回転中に振動発生源となり得る機構部分であり,両者はそれぞれ単独の別体として構成されたもの(モジュール)であることが認められ,「モジュール」の用語が上記通常の意味で使用されていることが明らかである。そうすると,本件明細書等の上記記載によれば,本件発明は,高速回転中のディスクプレーヤの振動を有効に低減することを目的とするものであり,この目的を達成するために,ディスクプレーヤを,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュール」,「ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え・・・たトラバースモジュール」及び「前記回転源からの振動エネルギーを吸収するための振動吸収装置(ダイナミックアブソーバ)」の3モジュールから成る構成とし,トレイモーション制御モジュール上にトラバースモジュールをアイソレータを介して接続し,さらに,トラバースモジュール上に振動吸収装置(ダイナミックアブソーバ)をダンパを介して接続した振動吸収システムという構成を採用したものということができる。
(3) これに対し,刊行物1(甲4)には,「ディスク装置1Bにおいては,近年,8倍速,12倍速のような光ディスク3を高速で回転するものが開発されているが,この場合には,次のような問題がある。・・・光ディスク3を高速・・・でドライブした場合,光ディスク3の寸法誤差や重心のずれに基づく偏心回転により,1倍速の場合に比べ,機構ユニット22に大きな振動が生じる」(段落【0018】〜【0019】),「シャーシと,ディスクを回転駆動するディスク回転駆動手段および前記ディスクに記録された情報を再生する再生手段を有し,前記シャーシに対しその後方部分が回動可能に支持された機構ユニットとを有する装置本体を備えたディスク装置であって,前記機構ユニットの前記シャーシに対する回動支持部は,機構ユニットの両側部にそれぞれ突出する軸で構成されており,前記軸の少なくとも一方に,緩衝部材を装着するとともに,前記機構ユニットの前方部分を付勢する付勢部材を設置したことを特徴とするディスク装置」(特許請求の範囲【請求項1】),「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,機構ユニットのシャーシに対する支持構造等を改善することにより,ディスクの偏心回転等による振動や騒音の発生を抑制することができるディスク装置を提供することにある」(段落【0022】),「ベース43の後方(装置本体2の奥部)側の両側部には,それぞれ,機構ユニット42のシャーシ40に対する回動支持部として,軸431,432が突出形成されている。これらの軸431,432は,それぞれ,シャーシ40側に形成された軸孔433,434に挿入されている。これにより,機構ユニット42は,その後方部分がシャーシ40に対し回動可能に軸支されている。そして,機構ユニット42が軸431,432を中心に回動すると,機構ユニット42の前方部分がシャーシ40に対し,シャーシ40の厚さ方向に変位する」(段落【0050】),「図2〜図4および図9に示すように,軸431,432のうちの一方の軸431には,振動を吸収するためのリング状の緩衝部材(ゴムワッシャー)5が装着されている。この緩衝部材5の厚さは,軸431,432付近における間隙411の幅と同等かまたはそれより若干大きい値に設定され,これにより緩衝部材5は,ベース43の側面と,シャーシ40の空間41に臨む内面との間に挟持された状態,すなわち,ベース43の側面とシャーシ40の内面のそれぞれに密着した状態となる」(段落【0051】),「このような構成の緩衝部材5によれば,第2層5bおよび第3層5cによる優れた摺動性により,シャーシ40に対する機構ユニット42の回動をより円滑に行うことができるとともに,第1層5aの優れた弾力性により,高い振動吸収機能(緩衝機能)を得ることができる。
なお,積層体の層数は,2層または4層以上であってもよい。また,各層の構成材料の組み合わせは,前述したものに限定されない」(段落【0054】),「以上のような緩衝部材5を設置することにより,例えば光ディスク3の偏心回転により機構ユニット42が振動したとしても,その振動が緩衝部材5により吸収(緩和)され,シャーシ40への伝搬が阻止または抑制される。従って,シャーシ40に対する機構ユニット42のガタツキ,特に,機構ユニット42の後方部分のガタツキが防止され,ディスク装置1A全体の振動および騒音の発生を抑制する効果(制振効果)が得られる。なお,このような緩衝部材5は,軸431,432の双方に装着されていてもよい。また,ベース43の前方部分(装置本体2の手前側)であって,軸431側(緩衝部材5が装着されているのと同じ側)の側部には,板バネよりなる付勢部材(バネ部材)6が当接し,機構ユニット42の前方部分を軸432側の側方(図2中左方向)へ付勢している。この付勢部材6は,ビス6aによりシャーシ40に固定されている。このような付勢部材6により機構ユニット42の前方側部を横方向(1方向)に付勢することによって,機構ユニット42の前方部分のガタツキを防止することができる。特に,前記緩衝部材5とこの付勢部材6の双方を設置したことにより,機構ユニット42の後方部分と前方部分のそれぞれのガタツキを有効に防止することができる。また,付勢部材6は,光ディスク3の偏心回転により生じる振動が最も大きく生じる部分(振幅が大きい部分)またはその近傍に設けられているのが好ましく,すなわち,機構ユニット42の側部であって,前記ディスク回転駆動手段(スピンドルモータ45)の近傍に設置されているのが好ましい。これにより,前記効果がより有効に発揮される。なお,付勢部材6は,湾曲突部6bを有し,この湾曲突部6bがベース43の側面へ当接している。これにより,ベース43の側面との接触面積をできるだけ小さくすることができ,機構ユニット42の回動に伴う摩擦抵抗をより小さくすることができる。また,付勢部材6のベース43の側面への押圧力は,機構ユニット42の前方部分のガタツキを十分に防止することができ,かつ機構ユニット42の回動を阻害しない程度に設定される。なお,このような付勢部材6は,ベース43の両側部に設置されていてもよい。また,付勢部材6は,ベース43の前方端に,ベース43を後方へ向けて押圧するように設置されていてもよい。また,緩衝部材5と付勢部材6とを機構ユニット42の同じ側の側部に設けた場合には,ディスク装置1Aの姿勢にかかわらず,前述したような優れた制振効果を発揮する。すなわち,横置きのコンピュータ本体等にディスク装置1Aを水平な姿勢で設置した場合はもちろんのこと,該コンピュータ本体を縦置きにした場合,すなわちディスク装置1Aが垂直な姿勢となった場合でも,優れた制振効果を発揮する」(段落【0056】〜【0063】)との記載がある。上記記載によれば,刊行物1発明は,本件発明と同様,高速回転中のディスクプレーヤーの振動を有効に低減することを目的とするものであり,この目的を達成するために,シャーシ40に対するベースのガタツキを防止する緩衝部材5及び付勢部材6を用いる構成を採用したものということができる。すなわち,本件発明と刊行物1発明は,ディスクプレーヤの回転振動を低減するという共通の目的に対し,前者においてはダイナミックアブソーバを応用した振動吸収システムを,後者においては緩衝部材5及び付勢部材6を採用した振動吸収システムを採用したものであると認められる。
(4) 被告は,刊行物1発明のディスク装置は,振動吸収システムとして見れば,@ケーシング10,Aシャーシ40,ベース43及びディスクトレイ4等並びにB金属板44,スピンドルモータ45及び光学ヘッド移動機構48の3モジュールから成り,シャーシ40とベース43との間には緩衝部材5が介在されているが,緩衝部材5は,本件発明におけるアイソレータや刊行物1発明のインシュレータ441のように,スピンドルモータ部で生ずるあらゆる方向の振動を吸収する振動吸収部材として働くものではなく,ベース43とシャーシ40との間における軸431,432の軸方向のガタツキを防止するために設けられたものであり,また,本件発明の構成にないターンテーブルとディスクトレイとを相対的に昇降させる機構の一部分である緩衝部材5に関することは,認定の対象とする必要のない事項であるから,緩衝部材5は,振動を吸収する部材に相当するものではないと主張する。しかしながら,刊行物1(甲4)の上記記載によれば,刊行物1発明の緩衝部材5及び付勢部材6は,振動吸収部材に該当するから,本件発明のアイソレータないしダンパに相当するものであり,これらを介して接続されたシャーシ40とベース43は,振動吸収システム上,別個のモジュールを構成するというべきであり,緩衝部材5の果たす作用が,アイソレータやインシュレータとは異なるものであるとしても,刊行物1においては,緩衝部材5や付勢部材6はディスクプレーヤ等の振動を吸収するための主要部材として記載されているものであり,本件発明のダイナミックアブソーバやインシュレータ等の振動吸収部材とは機能的に異なることをもって,これを捨象して対比することはできないというべきである。
(5) そこで,進んで,本件発明と刊行物1発明を対比して,刊行物1発明における「ディスクトレイ及びベースを支持するシャーシ」が本件発明における「トレイモーション制御モジュール」に相当するとした本件決定の認定の当否について検討する。
刊行物1発明のディスクプレーヤのトレイの挿入・排出動作について,刊行物1(甲4)には,「ベース43の後方(装置本体2の奥部)側の両側部には,それぞれ,機構ユニット42のシャーシ40に対する回動支持部として,軸431,432が突出形成されている。これらの軸431,432は,それぞれ,シャーシ40側に形成された軸孔433,434に挿入されている。これにより,機構ユニット42は,その後方部分がシャーシ40に対し回動可能に軸支されている。
そして,機構ユニット42が軸431,432を中心に回動すると,機構ユニット42の前方部分がシャーシ40に対し,シャーシ40の厚さ方向に変位する」(段落【0050】),「一方,機構ユニット42のベース43の前面には,カム溝56a,56bにそれぞれ挿入される突起(従動部材)57a,57bが形成されている。これらの突起57a,57bは,カム溝56a,56bに沿って摺動し,上下方向に移動する。すなわち,突起57a,57bが上溝561と係合している状態では,機構ユニット42の前方側は,上昇した位置(上側位置)にあり,突起57a,57bが下溝563と係合している状態では,機構ユニット42の前方部分は,下降した位置(下側位置)にある。扇形ギア53の上部には,ディスクトレイ4の裏面に形成された第1の案内溝4cおよび第2の案内溝4dにそれぞれ挿入する突起531,532が形成されている。突起531は,横断面が円形をなし,突起532は,横断面が半円形をなしている。ディスクトレイ4は・・・浅い凹状のディスク載置部4aを有しており,光ディスク3は,該ディスク載置部4a上に載置され,所望に位置規制された状態で搬送される。・・・ディスクトレイ4の裏面には,小ギア525と噛合するラックギア4bが形成されている。これにより,ディスクトレイ4は,モータ51の駆動により,シャーシ40に対し前後方向に,光ディスク3の装填位置と光ディスク3の排出位置との間を移動する。そして,光ディスク3のローディング操作では,小ギア525が・・・回転し,それによりディスクトレイ4が後方に移動し,ディスク3が装置本体2内に運び込まれる。また,ディスクトレイ4の裏面には,第1の案内溝4cと,第2の案内溝4dとが形成されている。第1の案内溝4cは,ラックギア4bとほぼ平行に形成され,ディスクトレイ4の前方側・・・において,ラックギア4bに接近するように傾斜している。また,第2の案内溝4dは,所望に屈曲している。これら第1の案内溝4cおよび第2の案内溝4dには,前記扇形ギア53の突起531および532がそれぞれ挿入され,ディスクトレイ4の移動に伴う突起531,532の移動軌跡,すなわち扇形ギア53の挙動(動き)を規定する。シャーシ40の上部には,ディスククランパ8が設置されている。このディスククランパ8は,板状の支持部材80と,該支持部材80に回転可能に支持される回転子81とで構成されている。支持部材80は,その両端をそれぞれシャーシ40の取り付け部40cにボス(またはリベット)で止めることにより,シャーシ40の上部に横方向に架設されている。この支持部材80のほぼ中央部には,円形の開口が形成されている。一方,回転子81は,円盤状をなしており,支持部材80の前記開口に係合する外縁部と,前記開口よりターンテーブル46側へ突出する部分とを有している。この回転子81は,ターンテーブル46に内蔵された永久磁石により吸着し得る材料(強磁性体)で構成されている」(段落【0068】〜【0075】),「ディスク装置1Aの作用について説明する。ディスク装置1Aの非使用時には,空のディスクトレイ4は,ケーシング10内(装置本体2内)に収納された状態(ディスク装填位置)にある・・・この状態でイジェクト操作を行うと,モータ51が所定方向に回転し,減速機構52を介して小ギア525が図2中反時計回りに回転する。小ギア525には,ディスクトレイ4の裏面のラックギア4bが噛合していることから,ディスクトレイ4は,小ギア525の前記回転に伴って前方へ移動し,開口121,16aを通過して,ケーシング10から外側に突出した位置(ディスク排出位置)まで移動する。またこれと同時に,カム溝56a,56bの上溝561に位置していた突起57a,57b・・・が,傾斜溝562を経て下溝563へ移動する(図6参照)。これにより,機構ユニット42は,軸431,432を中心に回動し,機構ユニット42の前方側が上側位置から下側位置へ下降(変位)する。そして,機構ユニット42に搭載されたターンテーブル46も,下側位置へ移動し,ディスククランパ8の回転子81から所定距離離間する。なお,このとき緩衝部材5および付勢部材6は,前述したように,ベース43に対し低い摩擦であり,よって,機構ユニット42の円滑な回動を妨げることはない。引き出されているディスクトレイ4のディスク載置部4aに光ディスク3を載置し,ローディング操作を行うと,モータ51が前記と逆方向に回転し,減速機構52を介して小ギア525が図2中時計回りに回転(逆回転)する。これに伴い,ディスクトレイ4が後方へ移動し,開口16a,122を通過して,前記ディスク装填位置まで移動する。これにより,ディスクトレイ4上に位置決めされた状態で載置された光ディスク3も,装置本体2内のディスク装填位置へ搬送される。・・・ディスクトレイ4がディスク装填位置に接近すると,扇形ギア53に形成された突起532が挿入部4eより第2の案内溝4d内に入り,該溝4dに案内されて,扇形ギア53が図3中反時計方向に回転する。また,このとき突起531は,第1の案内溝4cの前方側の端部付近においてラックギア4b側へ移動する。これにより,扇形ギア53は,小ギア525と噛合し,小ギア525の回転力が伝達されて図3中反時計方向に回転する・・・。この扇形ギア53の回転により,ラックギア54およびカム部材55が図6中左方向(図3中右方向)に移動し,カム溝56a,56bの下溝563に位置していた突起57a,57b(図6参照)が,傾斜溝562を経て上溝561へ移動する(図7参照)。これにより,機構ユニット42は,軸431,432を中心に回動し,機構ユニット42の前方側が下側位置から上側位置へ上昇(変位)し,機構ユニット42は,ほぼ水平状態となる。この機構ユニット42の変位によって,ターンテーブル46のセンタハブ部46aが光ディスク3の中心孔3aに嵌合し,ターンテーブル46がディスク3の中心部分を支持して持ち上げるとともに,ターンテーブル46に内蔵された永久磁石が回転子81を吸着し,ターンテーブル46と回転子81との間に光ディスク3の中心部が挟持され,固定される」(段落【0099】〜【0107】),「再生を中止し,イジェクト操作を行うと,ディスク装置1Aの各機構が上述したイジェクト操作と同様に作動し,ディスク3は,ターンテーブル46および回転子81によるクランプが解除され,ディスクトレイ4に載って排出される」(段落【0113】)との記載がある。上記記載によれば,刊行物1発明のディスクプレーヤのトレイの挿入・排出動作は,機構ユニット42のベース43が上下方向に移動することによって行われるが,その際,ベース43上に接続されたスピンドルモータ45を備えた金属板44も一体として上下方向に移動する構成となっている。したがって,刊行物1発明において,スピンドルモータ45を備えた金属板44は,ディスクの挿入・排出動作を行う機構の一部となっており,「トレイを支持し,かつ指令に応じてディスクトレイの挿入あるいは排出動作を実行するトレイモーション制御モジュール」と「ディスクプレーヤの動作中に振動を発生する回転源を備え・・・たトラバースモジュール」を別個の独立したモジュールとした構造を採用したものとは認められない。
以上検討したところを総合すると,刊行物1発明のシャーシ40とベース43は,振動吸収システム上,別個のモジュールを構成するというべきであって,これを一つのモジュールであるということはできず,また,刊行物1発明において,金属板44は,本件発明ではトラバースモジュール上に存在する回転源であるスピンドルモータ45を備えると同時に,ディスクの挿入・排出動作を行う機構の一部ともなっているのであり,このように一体となっている構成の一部であるトレイの挿入・排出動作を行う機構部分のみを取り上げて,これを独立した「トレイモーション制御モジュール」として認定することは,本来刊行物1発明にない構成を認定することにほかならず,許されないというべきである。
したがって,刊行物1発明のベース43とシャーシ40が,一体として,本件発明のトレイモーション制御モジュールに相当するものであるとした本件決定の認定は誤りであり,これを前提とした本件決定の上記一致点の認定も誤りというほかない。
(6) 以上のとおり,本件発明と刊行物1発明との一致点の認定は誤りであり,この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告の取消事由1の主張は理由がある。
2 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は取消しを免れず,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴