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関連審決 異議2002-70787
関連ワード 技術的思想 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  分割出願 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 54号 特許取消決定取消請求事件
原告 日立建機株式会社
訴訟代理人弁理士 春日讓
同 益田博文
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 西野健二
同 亀井孝志
同 高木進
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2002-70787号事件について平成14年12月26日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告及びメッツォ・ミネラルズ・ジャパン株式会社(以下「メッツォ・ミネラルズ」という。)は,名称を「自走式破砕機」とする特許第3213716号発明(平成3年10月29日にした特許出願〔特願平3-347564号,以下「本件原出願」という。〕の一部につき平成10年10月29日新たな特許出願〔特願平10-308798号,以下「本件出願」という。〕,平成13年7月27日設定登録。以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2002-70787号事件として特許庁に係属したところ,原告及びメッツォ・ミネラルズは,平成14年11月22日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「本件明細書」という。)を請求した。
特許庁は,上記特許異議の申立てについて審理した上,平成14年12月26日,「訂正を認める。特許第3213716号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,平成15年1月18日,原告及びメッツォ・ミネラルズに送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】破砕原料を破砕する自走式破砕機において, フレームと, このフレームに設けた無限軌道形の走行手段と, 前記フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられ,前記破砕原料を破砕する固定ジョーとスイングジョーとを有する破砕装置と, その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側端が前記走行手段の一方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に設けたホッパと, 前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側に配置したエンジンと, 前記ホッパの下方と前記破砕装置との間に設けた選別機能付きフィーダと, 前記破砕装置の下方から前記フレームの長手方向他方側外方に延在するように昇り傾斜させて前記フレームに設けたコンベヤと, 破砕作業中における前記フレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダを介して破砕装置,および前記フレームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤへと至る一連の作業動作を目視確認可能なように前記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面とこの踏面上における前記フレームの長手方向及び短手方向部分に設けた手摺とからなる点検用踊場と, この点検用踊場の踏面に通じるように前記破砕装置の側部に設けた階段とを備えたことを特徴とする自走式破砕機。
3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明の構成要件のうち「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能」の点は,本件原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて「原出願当初明細書」という。)に記載されておらず,かつ,その記載から自明のこととは認められないから,本件出願の出願日は遡及しないとした上,本件発明は,本件原出願前に頒布された刊行物であるNordberg News,1・90表紙,2頁〜19頁,裏表紙(甲7,審判刊行物1,以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。),特開昭60-139347号公報(甲8,審判刊行物2,以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)及び特開平8-57343号公報(甲9,審判刊行物3,以下「刊行物3」という。)記載の発明(以下「刊行物3発明」という。)又は刊行物2発明,刊行物3発明及び特開平5-115809号公報(甲4〔本件原出願に係る公開特許公報〕,審判刊行物4,以下「刊行物4」という。)記載の発明(以下「刊行物4発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定は,特許法44条1項で規定する分割出願の要件についての認定判断を誤り(取消事由1),本件出願について出願日は遡及しないとした上,刊行物1発明の認定を誤った結果,本件発明と刊行物1発明との一致点の認定を誤り(取消事由2),本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り(取消事由3),仮に,分割出願の要件についての認定判断に誤りがないとしても,上記取消事由2又は同3に加え,刊行物2発明及び刊行物3発明の認定を誤った結果,本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断を誤った(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り) (1) 本件決定は,「『破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能』の点(発明の詳細な説明の段落【0008】【0010】【0014】【0019】〜【0021】【0023】等の対応記載箇所も含む。)は,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(特開平5-115809号公報〔注,甲4〕参照。)に記載されておらず,かつ,同明細書又は図面の記載からみて自明のこととも認められない」(決定謄本5頁(2)の第1段落)と認定したが,誤りである。
(2) 原出願当初明細書(甲3添付)には,@「グリズリ付振動フィーダ20の下流の直近にはクラッシャ30が配設され」(段落【0007】),A「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降できるようになっている」(同),B「移動式クラッシャ1の前方先端(図1では右側)を採掘現場に向け,ディーゼルエンジン70を始動して各機器の始動を確認した後,ホッパ10へ採取した岩石をショベルローダ等の運搬機械により供給する。ホッパ10へ供給された岩石はグリズリ付振動フィーダ20でクラッシャ30へ移動されながら,グリズリバー20a間を細粒および土砂分が通過し,振動篩50によって細粒と土砂分に選別され,細粒はメインコンベヤ40へ,土砂分はサイドコンベヤ60へ各々移送される。グリズリ付振動フィーダ20によりクラッシャ30へ入った岩石は,破砕されて規定のサイズにセットされた細粒となってメインコンベヤ40により,それ以降の輸送手段,たとえば長尺のベルトコンベヤ等で輸送される」(段落【0009】)と記載され,Cその図1には,踊場92に立った作業員が破砕機の作業動作を目視確認(点検)している様子,踊場92に立った作業員の頭部がホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ30,メインコンベヤ40より高い位置にある状態,及びメインコンベヤの放出端が作業員から見える状態が全体側面図で図示され,Dその図2には,ホッパ10の底部及びグリズリ付振動フィーダ20が上方から見える状態が平面図で図示されている。
(3) 上記Aの「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され」の文言自体から,「点検用の踊場」は「クラッシャ30」の真上を避けて配置され,「クラッシャ30」の真上には踊場がないことは明らかである。また,クラッシャ30は,硬い岩石を破砕する部分であり,破砕機の要部であって,点検をする場合にクラッシャ30が最も重要な点検部位であるから,「点検用の踊場」を上記のような構成にした目的がクラッシャの点検を行えるようにするためであることは当然であり,「点検用の踊場92」は「クラッシャ30の上部両側」に設けられているのであるから,「クラッシャ30」が点検対象の一つであることは明らかである。また,「点検」の語は,「一つ一つ検査すること」(広辞苑第5版,甲18),「一つ一つ,しらべること」(小学館発行「新選国語辞典第6版」,甲19)を意味するから,「点検用の踊場」から破砕機を「一つ一つ検査する」あるいは「一つ一つ,しらべる」場合,その中に最も重要な点検部位であるクラシャ30が含まれることも明らかである。したがって,上記Aの記載を当業者が読めば,「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ30」であることは自明というべきである。
そして,上記@〜Dの各記載から明らかな,「点検用の踊場」の「点検」に目視確認の意味があり,クラッシャ30の点検としては破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作の点検が最も重要な点検項目であり,クラッシャ30の作業動作を点検するためにはその作業動作が見えなければ点検できないこと,作業員の頭部はホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ30,メインコンベヤ40より高い位置にあること,自走式破砕機がホッパ10による岩石の受入作業,グリズリ付振動フィーダ20によるホッパ10からクラッシャ30への岩石の送り込み作業,クラッシャ30による岩石の破砕作業,メインコンベヤ40による破砕岩石の排出作業といった一連の作業動作を行うものであること及びグリズリ付振動フィーダ20は上方から見えるようになっており,その下流の直近にはクラッシャ30が配設され,踊場92(踏面)から,破砕作業中におけるホッパからフィーダへと至る作業動作及びメインコンベヤの作業動作が目視確認可能であること等を考慮すれば,当業者にとって,「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ30」であることは自明である以上,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることも自明というべきである。
(4) 以上のとおり,「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能」の点は,原出願当初明細書の記載から自明のことというべきである。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は,刊行物1発明について,「フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられたジョークラッシャ」(決定謄本7頁第1段落)及び「ホッパーからフィーダへと至る作業動作を目視確認可能なようにジョークラッシャを構成するスイングジョーの上部に設けた踏面」(同)を認定した上,本件発明と刊行物1発明は,「破砕原料を破砕する自走式破砕機において・・・前記フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられ,前記破砕原料を破砕する固定ジョーとスイングジョーとを有する破砕装置と・・・ホッパからフィーダへと至る作業動作・・・を目視確認可能なように前記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面・・・を備えた自走式破砕機」(同10頁(5)《その1》の第2段落〜11頁第1段落)である点で一致すると認定したが,誤りである。
(2) 刊行物1発明が,「その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側端が前記走行手段の一方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に設けたホッパと,前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側に配置したディーゼルエンジンと,前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャとの間に設けたグリズリフィーダと,前記ジョークラッシャの下方から前記フレームの長手方向他方側外方に延在するように昇り傾斜させて前記フレームに設けたメインベルトコンベヤ」(決定謄本7頁第1段落)の構成を備えることは争わないが,刊行物1(甲7)の記載からは「ジョークラッシャ」がフレームの長手方向のどの部分にあるのか,「ホッパからフィーダヘと至る作業動作」を「踏面」から「目視確認可能なように」するようになっているのか否か,「踏面」が「前記ジョークラッシャを構成するスイングジョーの上部」に設けられているのか否か,「階段」が「ジョークラッシャの側部」に設けられているのか否かは,いずれも不明である。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点として認定した,「本件発明は,破砕作業中における破砕装置の作業動作も(踏面から)目視確認可能なようにするものであり,それ故に,破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能であるのに対し,刊行物1記載の発明(注,刊行物1発明)は,破砕作業中における破砕装置の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにするのか否か明らかでない点」(決定謄本11頁〔相違点〕の第1段落)について,「刊行物1記載の発明において,刊行物2記載の発明(注,刊行物2発明)の上記の点,または,刊行物3記載の発明(注,刊行物3発明)の上記の点を勘案して,『破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする』ことは,当業者が格別困難なくなし得る」(同第5段落)と判断したが,誤りである。
(2) 刊行物2(甲8)の第1図には,手摺の近傍に手動式のスプレー8′が示されているが,作業員が踊場に立って洗浄作業をすることは,作業員が,常に,破砕部6から飛散した被破砕物が当たる危険にさらされることで安全上問題があり,上記記載から,このような洗浄作業を行うとは考え難く,破砕部6の上部に踊場があると断定することはできない。したがって,刊行物2には,「破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」があるか否かが明らかでなく,また,破砕装置の上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダの作業動作を目視確認可能とする構成は記載されていない。仮に,刊行物2に,破砕部6の上部に踊場が存在するとしても,踊場は,その意図を持って設けられるものであるが,刊行物2の踊場は,破砕部6の洗浄作業(一種のメンテナンス)の作業性を向上させるためのものであり,本件発明のような破砕機の作業動作を確認(監視)するためのものではなく,その機能,作用は全く相違する。
刊行物2の記載内容は以上のとおりであるから,刊行物1発明において,刊行物2発明を勘案しても,破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踊場(踏面)から「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」構成に想到することはできない。また,本件発明の「破砕作業中における前記フレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダを介して破砕装置,および前記フレームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤへと至る一連の作業動作を目視確認可能なように上記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面と・・・手摺とからなる点検用踊場」の構成は,@破砕作業中におけるフレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダを介して破砕装置及びフレームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤへと至る一連の作業動作を目視確認可能なように設けた踏面(踊場)がある点,Aその踏面(踊場)が破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けられている点,の2点を内容として含むものであり,上記Aの点は,破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするための踊場の最適な位置を規定したものである。このように破砕機全体の一連の作業動作を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踊場から目視確認可能なようにすることにより,作業員は踊場に立って向きを変えたり多少移動するだけでホッパ,フィーダ,破砕装置,コンベヤの一連の作業動作を目視確認することができるようになり,作業員に大きな負担を掛けずに破砕機の作業状況全般を容易に監視することができ,発生するトラブルを最小限にとどめ,安全かつ効率的な運転が可能となり,その効果は極めて大きいものである。刊行物1,2には,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら示されていないばかりでなく,上記Aの点に係る破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けるという,踊場の最適な位置についての示唆もない。したがって,刊行物1発明において,刊行物2発明を勘案しても,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」構成に容易に想到し得るということはできない。
(3) 刊行物3発明は,「クラッシャの主軸の上側付近で,左右のフライホイールと大プーリとの間の位置に,メイン車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(甲9の特許請求の範囲【請求項1】)ものであり,「ステップ」に限定された発明であり,その「ステップ」は,【図1】において,クラシャ7を構成するジョー9の上部にはなく,クラッシャ7の主軸8の上部に位置しており,本件発明の踊場のように「破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた」ものではなく,破砕装置の上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダあるいは破砕装置の作業動作を目視確認可能とする構成はない。また,刊行物3発明は,踊場でなく,ステップをクラッシャ7の主軸8の上部に設けるものであり,かつ,コンベア11はホッパ5の下方にあり,コンベア11の作業状況をステップ1から見ることはできないから,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら開示されていないばかりでなく,上記Aの点に係る破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けるという,踊場の最適な位置についての示唆もない。したがって,刊行物1発明において,刊行物3発明を勘案したとしても,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」構成に容易に想到し得るということはできない。
4 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明と刊行物4発明との相違点として認定した,「本件発明は,破砕作業中における破砕装置の作業動作も(踏面から)目視確認可能なようにするものであり,それ故に,破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能であるのに対し,刊行物4記載の発明(注,刊行物4発明)は,破砕作業中における破砕装置の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにしているのか否か不明な点」(決定謄本12頁〔相違点〕の第1段落)について,「刊行物2記載の発明(注,刊行物2発明)は,『破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面と手摺』の点を備えている。すなわち,刊行物2記載の発明は,破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を,破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面から行うものであるから,『洗浄作業をしながら,破砕作業中における破砕部6の作業動作を(踏面から)目視確認可能』といえる。また,刊行物3記載の発明(注,刊行物3発明)は,『破砕作業中におけるクラッシャ7の作業動作を目視確認可能なように前記クラッシャ7を構成するジョー9の上部に設けたステップ1』の点を備えている。・・・刊行物4記載の発明(注,刊行物4発明)において,刊行物2記載の発明の上記の点,または,刊行物3記載の発明の上記の点を勘案して,『破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする』ことは,当業者が格別困難なくなし得る」(同12頁最終段落〜13頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2) 取消事由3(2),(3)のとおり,刊行物2,3(甲8,9)には,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら示されていないばかりでなく,上記3(2)のAの点に係る破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けるという踊場の最適な位置についての示唆もない。そして,刊行物4(甲4)には,「破砕作業中における破砕装置の作業動作を(踏面)から目視確認可能なようにしている」点が開示されていないのであるから,刊行物4発明においても,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら示されていないばかりでなく,上記Aの点に係る示唆もないことが明らかである。
したがって,刊行物4発明において,刊行物2発明又は刊行物3発明を勘案したとしても,上記相違点に係る構成に容易に想到するということはできない。
被告の反論
本件決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について 原出願当初明細書(甲3添付)の段落【0007】の記載は,「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降できるようになっている」というものであり,同記載によると,点検用の踊場92が何を点検するために設置されるのかについて開示ないし示唆するものでなく,点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置される理由について開示ないし示唆するものでなく,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認可能にするための構成について開示ないし示唆するものでもない。目視確認可能であるかどうかは,点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置されることから直ちに判断されることではなく,クラッシャ30をその上部両側の間から目視確認可能であるかどうかによるのであり,例えば,透明の遮蔽物,透かして見える網,あるいは何もないことが判明して初めていえることである。点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側にあるからといって,その両側の間がどのような状態であるかの開示ないし示唆がない場合には,目視確認可能であるとはいえない。また,図面の記載事項を参照しても,上部両側の間からクラッシャ30を目視確認可能であることが開示ないし示唆されているものでもない。また,クラッシャ30の点検を行うことが通常のことであったとしても,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作の点検を行うことまで通常のことであるとはいえない。まして,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認することによって点検することはない。したがって,「踊場92の点検対象の1つがクラッシャ30であることは自明である」とはいえず,また,「破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることは自明である」ともいえない。
2 取消事由2(本件発明と刊行物1発明との一致点の認定の誤り)について 刊行物1発明が,「その内側端が前記走行手段の一方側近傍に,その外側端が前記走行手段の一方側より突出するように前記フレームの長手方向の一方側に設けたホッパと,前記走行手段の他方側より突出するように前記フレームの他方側に配置したディーゼルエンジンと,前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャとの間に設けたグリズリフィーダと,前記ジョークラッシャの下方から前記フレームの長手方向他方側外方に延在するように昇り傾斜させて前記フレームに設けたメインベルトコンベヤ」(決定謄本7頁第1段落)を備えることは,原告も争わないところ,刊行物1発明において,岩石は,ホッパ,グリズリフィーダ,ジョークラッシャ,メインベルトコンベヤへと順次送られるものであり,刊行物1(甲7)の「この生産レベルは,フィーダの2つのグリズリセクションを通りぬけた供給材からの細粒を受けるバイパスシュートを組み込んだLokotrackの設計により支援されている。細粒はクラッシャを通過する岩石の付加的な緩衝材の役割を果たすようにメインコンベヤベルトに送られる。ARCの仕様書では,供給ホッパの容量を増やすために側壁が追加され」(訳文1頁「実質的経費節約と1.5倍の処理機能」の項の第4段落〜第5段落),「この機種は水平フィーダ,顎部の開口が120×900mmのジョークラッシャ,及びベルトコンベヤを備えている」(同2頁下から第2段落)との記載によれば,岩石は,ホッパ,グリズリフィーダ,ジョークラッシャ,メインベルトコンベヤへと順次送られるのであり,また,グリズリセクションを通りぬけた細粒は,バイパスシュートを介してメインベルトコンベヤへと送られ,ジョークラッシャを通過する岩石の付加的な緩衝剤の役割を果たす。そうすると,ジョークラッシャをフレームの長手方向の一方側や他方側に設けることはできず,ほぼ中心部に設けるほかなく,固定ジョーとスイングジョーとを有するジョークラッシャは,フレームの長手方向のほぼ中心部に設けられているということができる。そして,刊行物1の19頁の写真を参照すると,踏面がフレームの長手方向のほぼ中心部に設けられていること及び階段が前記ジョークラッシャの側部に設けられていることが確認できるから,踏面が前記ジョークラッシャを構成するスイングジョーの上部に設けられ,階段がジョークラッシャの側部に設けられていることも明らかである。刊行物1発明が,「前記ホッパの下方と前記ジョークラッシャとの間に設けたグリズリフィーダを備える」ことは上記のとおりであり,グリズリフィーダがホッパの下方とジョークラッシャとの間に設けられること,すなわち,ホッパの下方にフィーダが配置され,その下流側にグリズリセクションが配置され,さらにジョークラッシャへと至ることは,ホッパへ投入された岩石をジョークラッシャへ送るというその機能にかんがみて,技術常識というべきものである。したがって,刊行物1発明が破砕作業中におけるホッパからフィーダへと至る作業動作を(踏面から)目視確認可能とする点を備えることは明らかである。なお,刊行物1発明は,破砕作業中においては,岩石がフィーダ上面に積載されているから,フィーダそのものを目視確認することはできず,また,フィーダ下流端からジョークラッシャへと至る作業動作を目視確認することはできないが,これらの点は本件発明においても同様である。
3 取消事由3(本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 刊行物2(甲8)の第1図,第2図を参照すると,ホッパー4の側方に,踊場を形成する踏面,手摺が設けられていること,破砕部6の上方に,ホッパー4の側方に設けられた手摺と同様の手摺が設けられていることが明らかである。そして,手摺は,そもそも踏面に位置する人がすがって安全を確保するために設けられるもので,手摺と踏面とは一対で設けられて踊場を形成することが技術常識であるから,刊行物2発明が,「固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」の点を備えることは明らかである。
(2) 刊行物3(甲9)の「7はクラッシャ,8はクラッシャの主軸,9.は建設廃材を噛み砕くジョー」(段落【0006】),「本発明(注,刊行物3発明)のステップ1では,クラッシャ7の主軸8の上側付近で,左右のフライホイール12と大プーリ13との間の位置に,メイン車体4の後部側上面よりホッパ5の方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(段落【0008】)との記載並びに【図1】,【図2】及び【図5】の図示によれば,ステップ1の最上段が,クラッシャ7を構成するジョー9の下部や側部ではなく,その上部に位置していることは明らかである。なお,刊行物3の「ジョー9」は,固定ジョーとスイングジョーとで形成され,スイングジョーは主軸8に軸支されていることにかんがみれば,スイングジョーの真上部にステップ1の最上段が設けられているといえる。
4 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り)について 本件決定は,刊行物1発明及び刊行物4発明は,「破砕作業中における前記フレームの長手方向一方側に設けたホッパからフィーダへと至る作業動作,および前記フレームの長手方向他方側外方に延在するコンベヤの作業動作を目視確認可能なように前記破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた踏面とこの踏面上における前記フレームの長手方向及び短手方向部分に設けた手摺とからなる点検用踊場」(決定謄本12頁第1段落)を備えていると認定し,このことを前提として,刊行物2発明は,「洗浄作業をしながら,破砕作業中における破砕部6の作業動作を(踏面から)目視確認可能」(同頁最終段落)とする点を備え,刊行物3発明は,「破砕作業中におけるクラッシャ7の作業動作を目視確認可能なように前記クラッシャ7を構成するジョー9の上部に設けたステップ1」(同13頁第1段落)を備えていると認定し,刊行物1発明,刊行物4発明において,刊行物2発明の上記の点又は刊行物3発明の上記の点を勘案して,破砕作業中における破砕装置の作業動作も目視確認可能なようにし,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」ことは,当業者が容易にし得ることであると判断したものであり,刊行物1〜4発明が,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とする点を備えていると認定しているものではない。そして,破砕機全体の一連の作業動作を踊場から目視確認可能とするために踊場を破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けることは,刊行物1発明,刊行物4発明において,刊行物2発明の上記の点又は刊行物3発明の上記の点を勘案して,破砕作業中における破砕装置の作業動作も目視確認可能なようにし,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」ために採用すべき必然の構成である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(分割出願の要件についての認定判断の誤り)について (1) 原告は,原出願当初明細書(甲3添付)には,@「グリズリ付振動フィーダ20の下流の直近にはクラッシャ30が配設され」(段落【0007】),A「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降できるようになっている」(同),B「移動式クラッシャ1の前方先端(図1では右側)を採掘現場に向け,ディーゼルエンジン70を始動して各機器の始動を確認した後,ホッパ10へ採取した岩石をショベルローダ等の運搬機械により供給する。ホッパ10へ供給された岩石はグリズリ付振動フィーダ20でクラッシャ30へ移動されながら,グリズリバー20a間を細粒および土砂分が通過し,振動篩50によって細粒と土砂分に選別され,細粒はメインコンベヤ40へ,土砂分はサイドコンベヤ60へ各々移送される。グリズリ付振動フィーダ20によりクラッシャ30へ入った岩石は,破砕されて規定のサイズにセットされた細粒となってメインコンベヤ40により,それ以降の輸送手段,例えば長尺のベルトコンベヤ等で輸送される」(段落【0009】)と記載され,Cその図1には,踊場92に立った作業員が破砕機の作業動作を目視確認(点検)している様子,踊場92に立った作業員の頭部がホッパ10,グリズリ付振動フィーダ20,クラッシャ30,メインコンベヤ40より高い位置にある状態,及びメインコンベヤの放出端が作業員から見える状態が,Dその図2には,ホッパ10の底部及びグリズリ付振動フィーダ20が上方から見える状態が,それぞれ平面図で示されていること,並びに,「点検」の語の意味から,「踊場92」の点検対象の一つが「クラッシャ30」であり,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることは自明というべきであることから,「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能」の点は,原出願当初明細書の記載から自明であると主張する。
(2) しかしながら,原出願当初明細書(甲3添付)から破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることが自明のことであるといえるためには,少なくとも,原出願当初明細書に破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認可能とする構成が記載ないし示唆されていなければならない。そして,上記目視確認可能であるか否かは,点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置されることから直ちに判断できるものではなく,クラッシャ30をその上部両側の間から目視確認可能であるかどうかによるものであり,例えば,透明の遮へい物,透かして見える網又は遮へい物が何もないことが判明して初めて判断できることであるから,点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側にあるからといって,その両側の間がどのような状態であるかの記載ないし示唆がない場合には,目視確認可能であるとはいうことができない。ところで,原出願当初明細書の段落【0007】の記載は,「クラッシャ30の上部両側には点検用の踊場92が設置され,階段90を介して作業員が昇降できるようになっている」というものであり,点検用の踊場92が点検する対象や点検用の踊場92がクラッシャ30の上部両側に設置される理由についての記載はなく,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認可能にするための構成について,開示ないし示唆はなく,原告主張に係る上記@〜Dの記載によっても,クラッシャ30の上部両側の間がどのような状態であるかが明らかではない。また,原告が主張するように,「点検」の語の意味は,「一つ一つ検査すること」(広辞苑第5版,甲18),「一つ一つ,しらべること」(小学館発行「新選国語辞典第6版」,甲19)であるが,クラッシャ30の点検を行うことが通常のことであったとしても,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作の点検を行うことまで通常のことであるとはいえず,まして,破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作を点検用の踊場92から目視確認することによって点検することが通常のことであるとはいえない。したがって,「踊場92の点検対象の1つがクラッシャ30であることは自明である」ということはできず,また,「破砕作業中におけるクラッシャ30の作業動作が踊場92から目視確認可能であることは自明である」ということもできないから,「破砕作業中における破砕装置の作業動作を目視確認可能」の点は,原出願当初明細書に記載されておらず,かつ,同明細書の記載から自明のこととも認められない(決定謄本5頁(2)の第1段落)とした本件決定の認定判断に誤りはない。
(3) 以上のとおり,本件決定の分割出願の要件についての認定判断に誤りはなく,本件出願の出願日は遡及しないから,刊行物3発明及び刊行物4発明は,特許法29条1項3号にいう本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明との要件を満たす。そこで,進んで,刊行物2発明,刊行物3発明及び刊行物4発明に基づく容易想到性の判断の誤りをいう取消事由4について検討することとする。
2 取消事由4(本件発明と刊行物4発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 取消事由4は,取消事由3の主張に係る刊行物2発明及び刊行物3発明の認定の誤りを前提とするので,まず,刊行物2発明の認定の誤りについて検討する。
原告は,刊行物2(甲8)の第1図には,手摺の近傍に手動式のスプレー8′が示されているが,作業員が踊場に立って洗浄作業をすることは,作業員が,常に,破砕部6から飛散した被破砕物が当たる危険にさらされることで安全上問題があり,上記記載から,このような洗浄作業を行うとは考え難く,破砕部6の上部に踊場があると断定することはできず,刊行物2には,「破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」があるか否かが明らかでなく,また,破砕装置の上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダの作業動作を目視確認可能とする構成は記載されていないと主張する。
刊行物2(甲8)の第1図,第2図の記載を参照すると,ホッパー4の側方に,踊場を形成する踏面,手摺が設けられていること,破砕部6の上方に,ホッパー4の側方に設けられた手摺と同様の手摺が設けられていることが明らかである。そして,手摺は,そもそも踏面に位置する作業者がこれにすがって自己の安全を確保するために設けられるものであり,手摺と踏面とは一対で設けられて踊場を形成することが技術常識というべきものであるから,刊行物2発明が,「固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面」の点を備えることは明らかである。刊行物2には,「前記破砕作業中,被処理物が浸潤していると土や粉状物が固定受板20と可動破砕板22の板面に付着して破砕性能が著しく低下するので前記手動式のスプレー8′を持ち,そのコックを開いて上記板面を洗浄し,また,被処理物が乾燥していると,多量の粉塵が舞い上がるので,この時も上記スプレー8′により被処理物に水を掛けて塵挨が飛散するのを防止する」(2頁左下欄第3段落)との記載があるように,破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の洗浄作業を破砕作業中に行うのであり,その際に,原告主張のような危険があれば,開口部を金網で覆う等の安全策を講じることは,容易に理解し得ることである。したがって,刊行物2発明は,「破砕作業中における破砕部6の洗浄作業を可能なように前記破砕部6を構成する固定受板20と可動破砕板22の上部に設けた踏面と手摺」を備えている(決定謄本12頁最終段落)とした本件決定の認定に誤りはない。
(2) 次に,刊行物3発明の認定の誤りについてみると,原告は,刊行物3発明は,「クラッシャの主軸の上側付近で,左右のフライホイールと大プーリとの間の位置に,メイン車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(甲9の特許請求の範囲【請求項1】)ものであり,「ステップ」に限定された発明であり,その「ステップ」は,【図1】において,クラシャ7を構成するジョー9の上部にはなく,クラッシャ7の主軸8の上部に位置しており,本件発明の踊場のように「破砕装置を構成するスイングジョーの上部に設けた」ものではなく,破砕装置の上部に設けた踊場から破砕作業中におけるフィーダあるいは破砕装置の作業動作を目視確認可能とする構成はないと主張する。
しかしながら,刊行物3(甲9)の「7はクラッシャ,8はクラッシャの主軸,9は建設廃材6を噛み砕くジョー」(段落【0006】),「本発明(注,刊行物3発明)のステップ1では,クラッシャ7の主軸8の上側付近で,左右のフライホイール12と大プーリ13との間の位置に,メイン車体4の後部側上面よりホッパ5の方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成した」(段落【0008】)との記載並びに【図1】,【図2】及び【図5】の図示によれば,ステップ1の最上段が,クラッシャ7を構成するジョー9の下部や側部ではなく,その上部に位置していることは明らかである。
原告は,さらに,刊行物3発明は,踊場でなく,ステップをクラッシャ7の主軸8の上部に設けるものであり,かつ,コンベア11はホッパ5の下方にあり,コンベア11の作業状況をステップ1から見ることはできないから,踊場からフィーダ及び破砕装置の作業動作を含む「一連の作業動作」を目視確認可能とするという技術的思想が何ら開示されていないとも主張するが,刊行物3(甲9)の段落【0011】【発明の効果】には,「本発明(注,刊行物3発明)では,メイン車体の後部側上面よりホッパの方向へ向けて上昇してゆく階段状のステップを形成したので,作業者がそのステップを昇ることによって,ホッパ下部の排出口における被破砕材の詰まりを調整する操作や,フィーダの送り込み状況及びクラッシャの破砕状況の目視確認を容易に行うことができる」と記載され,「ステップ」がクラッシャ部のみならず破砕機の作動状況を広範囲に目視確認することを目的として設置されたものであることが明らかであって,本件発明の「踊場」と実質上同一の目的及び機能を果たすものと認められる。したがって,刊行物3発明は,「破砕作業中におけるクラッシャ7の作業動作を目視確認可能なように前記クラッシャ7を構成するジョー9の上部に設けたステップ1」を備えている(決定謄本13頁第1段落)とした本件決定の認定に誤りはない。
(3) 以上のとおり,本件決定の刊行物2発明及び刊行物3発明の認定に誤りはない。そうすると,刊行物2〜4発明は,いずれも「自走式破砕機」という同一の技術分野に属するものであるから,刊行物4発明において,刊行物2発明又は刊行物3発明の上記の点を勘案して,「破砕作業中におけるホッパからフィーダを介して破砕装置,およびコンベヤへと至る一連の作業動作を(踏面から)目視確認可能なようにする」ことは,当業者が容易に想到し得るというべきであり,これと同趣旨の本件決定の判断に誤りはない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由1,4はいずれも理由がないから,その余の点について判断するまでもなく,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり同法113条2号に該当し取り消されるべきものであるとした本件決定に誤りはない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴