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事件 令和 6年 (ネ) 10072号 損害賠償請求控訴事件
令和7年5月19日判決言渡 令和6年(ネ)第10072号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令 和5年(ワ)第70619号、同令和6年(ワ)第70047号) 口頭弁論終結日 令和7年3月10日 5判決
控訴人兼被控訴人 X (以下「一審原告」という。) 10 被控訴人兼控訴人 日鉄テクノロジー株式会社 (以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 増井和夫
同 橋口尚幸 15 同齋藤誠二郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/05/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告の控訴費用は一審原告の負担とし、一審被告の控訴費用は一審被告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 一審原告? 原判決中、一審原告の敗訴部分を取り消す。
? 一審被告は、一審原告に対し、781万円及びこれに対する令和5年1125 月15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
? 原判決別紙「特許目録(本件発明)」記載の特許に係る特許権が一審原告1に帰属することを確認する。
2 一審被告? 原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。
? 一審原告は、一審被告に対し、500万円及びこれに対する令和5年105 月20日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「一審原告」、「一審被告」に読み替える。)1 本件の本訴事件は、一審被告の元従業員である一審原告が、一審被告に対し、
10 過去に一審原告が一審被告を相手に提起した訴訟において、一審被告の虚偽の主張により、原判決別紙「特許目録(本件発明)」記載の特許(本件特許)に係る発明(本件発明)が職務発明に当たり、本件特許に係る特許権(本件特許権)が一審被告に帰属するとの判断がされたため、一審原告は本件特許に関して支払う必要のない費用を支出したと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求と15 して、781万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和5年11月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、本件特許権が一審原告に帰属することの確認を求めた事案である。
本件の反訴事件は、一審被告が、一審原告に対し、本訴の提起は、過去の訴20 訟における判断を蒸し返すものであって不法行為に当たると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求(一部請求)として、500万円及びこれに対する一審原告が本訴を提起した日である令和5年10月20日から支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、本訴のうち、本件特許権が一審原告に帰属することの確認を求め25 る訴えについては、訴えの利益がないとしてこれを却下し、本訴のうちその余の請求及び反訴請求をいずれも棄却したので、一審原告及び一審被告がそれぞ2れ原判決を不服として控訴した。
2 前提事実及び当事者の主張は、後記3のとおり本訴請求に関する一審原告の当審における補充主張を、後記4のとおり反訴請求に関する一審被告の当審における補充主張を、それぞれ付加するほか、原判決「事実及び理由」(以下、
「事5 実及び理由」の記載を省略する。)第2の1及び2(2頁20行目から8頁23行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
ただし、原判決2頁23行目から24行目にかけての「新日本製鐵株式会社(その後日本製鉄株式会社に商号変更しており、その前後を問わず、以下「日本製鉄」という。 」を、
) 「新日本製鐵株式会社(その後、新日鐵住金株式会社に10 商号変更し、さらに日本製鉄株式会社に商号変更した。以下、商号変更の前後を問わず「日本製鉄」という。 」に改める。
)3 本訴請求に関する一審原告の当審における補充主張? 損害賠償請求について過去の訴訟で一審被告がした主張により、本件発明が職務発明に当たり、
15 本件特許が冒認出願であるとの判決がされた。これにより、一審原告が独占的に使用できるものであるはずの本件特許について、一審原告は、商品化の道が閉ざされ、特許権の行使をできなくされた(無効にされた)。しかし、一審原告は、特許権の行使ができない実態の中、特許取得に係る費用の全額と、
維持年金を支払い続けている。本件特許権の行使をできない間に一審原告が20 本件特許を維持するために支払った費用(本件特許維持費用等)は、社会通念上、損害に当たる。
? 確認請求について本件発明考案規定には、職務発明について、会社の業務であること、及び発明者の過去、現在の職務であることの条件しか記載されておらず、同規定25 では業務・職務の判断ができない。会社の業務か否かは会社の業務命令書で決まり、発明者の職務であるか否かは、労働契約書及び就業規則によって決3まる。
テクノリサーチ社の喫水検査の業務命令書(甲32)には、水盛り及びレベル計の記述はなく、喫水検査に関する手順書(作業標準)(甲33)にも、
水盛り及びレベル計の記述はない。このように会社の業務命令書に記載され5 ていない研究・発明に関して会社の業務は存在し得ない。一審被告らの推測・口頭による会社業務及び従業員の職務に関する主張は無効である。
上記の点を含め、@一審原告が研究の業務命令を受けていないこと、A労働基準法89条の規定により、就業規則の範囲外であること、B雇用契約書に、研究発明をする条件が記載されていないこと、C単純労働者が、古代か10 ら続いている水盛り手法を研究・発明するものであること、及びD一審被告の主張によっても、一審原告の業務は、サーベヤー(鑑定人)に助言などを行うことを目的としていたとされていることからして、本件発明が職務発明であるとの一審被告の主張は虚偽であり、本件特許は冒認出願ではない。したがって、本件特許権が一審原告に帰属することの確認を求める。
15 4 反訴請求に関する一審被告の当審における補充主張本件特許の職務発明該当性は、第三次訴訟の控訴審の判決において既に判断されている。第三次訴訟では、本件訂正発明2及び4のみが具体的争点となっていたことから、上記判決もこれらの発明の職務発明該当性のみを判断したが、
その判示内容は、ドラフト差測定装置そのものに関するものであるから、本件20 発明全体に当てはまる内容であり、本件発明全体が職務発明に該当すると判断されたに等しい。
また、ドラフト差測定装置の構造に関するものである本件発明と、
「気泡が発生しない液体」を用いるというドラフト差測定装置の原理に関して出願した原判決別紙「出願目録(別件発明)」記載の出願に係る発明(別件発明)は、いず25 れも一審原告がテクノリサーチ社在籍中に開発した同じドラフト差測定装置に端を発している。そして、第一次訴訟の判決でされた、別件発明の職務発明該4当性に関する判示部分は、ドラフト差測定装置の原理や構造を問わない内容となっており、本件発明にも該当するものである。すなわち、ドラフト差測定装置の職務発明該当性は、第一次訴訟においても判断済みである。
本件発明が自由発明に該当するとの一審原告の主張は、従前の訴訟における5 主張と同じ内容を繰り返している。
そして、一審原告は、第三次訴訟において、本件特許が職務発明であり冒認出願で無効と判断されると、第四次訴訟では、一転して、職務発明であることを前提に相当の対価を請求してきた。なお、第四次訴訟の第1審判決において、
超過利益の不存在を理由に一審原告の請求が棄却されたところ、一審原告は、
10 第四次訴訟の控訴理由書において、一転して本件特許が自由発明であるかのごとく主張した(結局、一審原告は、相当の対価請求自体は維持した。 。
) そして、
本件の本訴において、一審原告は、本件特許が自由発明であると改めて主張してきた。このように、一審原告は、主張や立場を都合よく二転三転させ、その結果、一審被告に不合理で過大な応訴の負担を課しており、訴訟上の信義則(民15 事訴訟法2条)に基づく禁反言の法理に反する。
上記各事情によれば、一審原告による本訴の提起は、不当訴訟に該当する。
第3 当裁判所の判断当裁判所も、本訴のうち本件特許権が一審原告に帰属することの確認を求める訴えは訴えの利益がないから却下すべきであり、その余の本訴請求及び反訴20 請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2のとおり本訴請求に関する一審原告の当審における補充主張に対する判断を、後記3のとおり反訴請求に関する一審被告の当審における補充主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原判決第3(8頁24行目から18頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを25 引用する。
1 原判決の補正5? 原判決11頁22行目から12頁3行目までを次のとおり改める。
「また、本件特許維持費用等のうち、異議申立手続のために支出した費用は、
一審被告及び日本製鉄による本件特許に係る特許異議の申立てに対応するための費用であるが(甲10) 上記の特許異議の申立てが違法であったとは認、
5 められないから、一審被告の不法行為の存在は認められない。本件特許維持費用等のうち、異議申立手続のための費用以外の費用については、一審原告が自らの判断で本件特許の出願及び維持のために支出したものであり、そもそも一審被告の行為によって一審原告がこれらの費用を支出しなければならなくなったものではないから、一審被告の行為と一審原告の支出との間に相10 当因果関係があるとは認められない。」? 原判決12頁25行目の「本件発明が職務発明に該当するとして」を「本件発明が職務発明に該当しないとして」に改める。
2 本訴請求に関する一審原告の当審における補充主張に対する判断? 損害賠償請求について15 一審原告は、前記第2の3?のとおり、従前の訴訟における一審被告の虚偽の主張により、本件特許権の行使をすることができなくされたにもかかわらず、一審原告は本件特許維持費用等の支払を続けてきたから、本件特許維持費用等は一審被告の不法行為による一審原告の損害である旨主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第3の2のとおり、本件特許維持費用20 等のうち、異議申立手続に関する費用については、一審被告及び日本製鉄の特許異議申立てが違法であるとは認められないから、一審被告の不法行為は存在せず、それ以外の費用については、一審原告が自らの判断で支出したものであって、一審被告の行為によって一審原告がこれらの費用を支出しなければならなくなったものではないから、一審被告の行為と一審原告の支出と25 の間に相当因果関係があるとは認められない。そうすると、本件特許維持費用等は、そのいずれについても、一審被告の不法行為相当因果関係のある6支出であるとは認められない。
したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
? 一審原告は、前記第2の3?のとおり、本件発明が職務発明であるとの一審被告の主張は虚偽であり、本件特許は冒認出願ではないとして、本件特許5 権が一審原告に帰属することの確認を求める。
しかし、原判決第3の3?のとおり、本件特許は現在も有効に登録されており、第三次訴訟の控訴審判決によって本件特許が対世的に無効となったことはないから、そもそも本訴の確認の訴えは、訴えの利益を欠く。
また、本件発明の職務発明への該当性に関しては、一審原告がテクノリサ10 ーチ社に在籍していた時期において、テクノリサーチ社の業務範囲に属すると認められる業務、及び一審原告の職務に属すると認められる業務が、
「原料試験作業標準〔原料試験編〕」と題する書面(甲32)及び「安全衛生作業標準」と題する書面(甲33)に記載がある業務に限られると解することはできず、これらの書面にドラフト差測定装置の開発について記載がないからと15 いって、ドラフト差測定装置の開発が、テクノリサーチ社の業務範囲に属さないとか、一審原告の職務に属さないと認められることにはならない。その他、一審原告が主張する内容を検討しても、原判決第3の1の認定事実の内容に誤りがあるとは解されず、上記認定事実を前提とすれば、本件発明が職務発明に該当するとの原判決の判断は相当である。
20 したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
3 反訴請求に関する一審被告の当審における補充主張に対する判断一審被告は、前記第2の4のとおり、一審原告による本訴の提起は不法行為に当たると主張する。
しかし、本訴における損害賠償請求及び確認請求のいずれについても、本件25 の本訴提起の前に一審原告がこれらと同一の請求に係る訴訟を提起したとは認められない。
7第三次訴訟における、本件発明が職務発明であるとの判断は、本件特許権の侵害に基づく一審原告の損害賠償請求に対する一審被告の無効の抗弁について、
第三次訴訟の控訴審の裁判所が判決の理由中でした判断であって、これによって本件特許が対世的に無効となったものではない。
5 第一次訴訟で判断がされたのは、別件発明が職務発明に当たるとの内容であるから、別件発明と本件発明がいずれもドラフトサーベイに用いられるドラフト差測定装置に関連するものであるとしても、第一次訴訟の判断は、本件発明とは別個の発明に関する判断である。
第四次訴訟は、一審原告が、本件発明が職務発明であることを前提として、
10 対価請求をしたものであるが、一審原告の請求を棄却する判決が確定している。
したがって、一審原告が、第四次訴訟の訴訟追行により本件発明に係る職務発明対価の支払を受けたにもかかわらず、本件の本訴において本件発明が職務発明でないことを前提とする請求をした、との事情は存在しない。
以上によれば、一審原告が前記第2の4で挙げる事情を総合考慮しても、本15 件の本訴の提起について、一審原告が、事実的、法律的根拠を欠くものであることを知りながら又は通常人であればそのことを容易に知り得たといえるのにあえて訴えを提起したとまでは認められず、その他本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとも認められない。この点は、本件発明が職務発明に当たらないとの本訴における主張について、一審原告が従前の訴20 訟において同様の主張をしていたとしても、結論は左右されない。
したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。
4 その他、一審原告及び一審被告が主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。
5 結論25 以上によれば、本訴のうち本件特許権が一審原告に帰属することの確認を求める訴えは、訴えの利益がなく、訴訟要件を欠くものであるから、これを却下8すべきであり、その余の本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、一審原告の控訴及び一審被告の控訴はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
5 知的財産高等裁判所第3部10 裁判長裁判官中 平 健15裁判官今 井 弘 晃20裁判官水 野 正 則9
事実及び理由
全容