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事件 令和 5年 (ネ) 10114号 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/05/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和7年5月14日判決言渡

令和5年(ネ)第10114号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方

裁判所令和2年(ワ)第18421号、同第23231号 特許権侵害差止等請求

事件)

5 口頭弁論終結日 令和7年2月12日

判 決




控 訴 人
10 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(以下「控訴人スリーエムイノベイティブ」という。)




控 訴 人 スリーエムジャパン株式会 社

15 (以下「控訴人スリーエムジャパン」という。)



上記両名訴訟代理人弁護士 根 本 浩

同 中 野 亮 介

同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 稲 葉 良 幸

20 同 補 佐 人 弁 理 士 阿 部 豊 隆

同 伊 東 有 道



被 控 訴 人 日本カーバイド工業株式会社



25 同訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

同 吉 村 誠

1
同訴訟代理人弁理士 松 本 孝

主 文

1 本件各控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。

5 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3

0日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 控訴人スリーエムイノベイティブ

10 ? 原判決中控訴人スリーエムイノベイティブ敗訴部分を取り消す。

? 被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品を製造し、譲渡し、

輸出し、輸入し、又は譲渡の申出(譲渡のための展示を含む。)をしてはなら

ない。

? 被控訴人は、原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品を廃棄せよ。

15 ? 被控訴人は、控訴人スリーエムイノベイティブに対し、9800万円及び

これに対する令和2年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員

を支払え。

? 訴訟費用は、控訴人スリーエムイノベイティブと被控訴人との関係では、

第1、2審とも被控訴人の負担とする。

20 ? 仮執行宣言

2 控訴人スリーエムジャパン

? 原判決中控訴人スリーエムジャパン敗訴部分を取り消す。

? 被控訴人は、控訴人スリーエムジャパンに対し、200万円及びこれに対

する令和2年9月17日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員

25 を支払え。

? 訴訟費用は、控訴人スリーエムジャパンと被控訴人との関係では、第1、

2
2審とも被控訴人の負担とする。

? 仮執行宣言

第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。なお、「原告」を「控訴人スリー

エムイノベイティブ」と、「被告」を「被控訴人」と、「参加人」を「控訴人

5 スリーエムジャパン」と、「脱退原告」を「原審脱退原告スリーエムジャパン

イノベーション株式会社」と、「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替え

る。)

1 本件は、発明の名称を「キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反

射シート」とする特許第5302282号の特許(以下「本件特許」という。)

10 に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する控訴人スリーエムイノベ

イティブが、被控訴人による原判決別紙被控訴人製品目録記載の製品(以下「被

控訴人製品」という。)は、本件特許の特許請求の範囲(後記の本件訂正による

訂正前)の請求項1及び4に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発

明1」及び「本件発明4」といい、これらを総称して「本件各発明」という。)

15 の技術的範囲に属し、被控訴人による被控訴人製品の製造販売等は、本件特許

権を侵害すると主張して、被控訴人に対し、特許法100条1項及び2項に基

づき、被控訴人製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、特許権

侵害不法行為に基づき、平成25年6月28日から令和2年7月1日までの

間の被控訴人製品の販売による損害金2億6400万円のうち9800万円及

20 びこれに対する令和2年9月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで

民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合によ

る遅延損害金の支払を求め、控訴人スリーエムイノベイティブから本件特許権

について独占的通常実施権の許諾を受けた原審脱退原告スリーエムジャパンイ

ノベーション株式会社から、同権利を承継取得した控訴人スリーエムジャパン

25 が、被控訴人に対し、当該独占的通常実施権侵害不法行為に基づき、令和2

年7月1日より後の被控訴人製品の販売による損害金660万円のうち200

3
万円及びこれに対する令和2年9月17日から支払済みまで民法所定年3パー

セントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審が、被控訴人製品は、本件発明1の構成要件(原判決の「事実及び理由」

第2の2?ア記載の本件発明1の構成要件のうち構成要件1−C1ないし1

5 −C4)及び本件発明4の構成要件(同イ記載の本件発明4の構成要件のうち

構成要件4−C1ないし4−C3)を充足せず、本件各発明の技術的範囲に属

しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人ら

がその取り消しを求めて本件各控訴を提起した。

控訴人スリーエムイノベイティブは、本件特許につき被控訴人が提起した無

10 効審判請求事件(無効2021−800070号事件。以下「本件無効審判請

求」という。)において、原審口頭弁論期日終結前の令和5年1月26日付け

訂正請求書により、本件特許の請求項1ないし4についての訂正請求(以下「本

件訂正請求」といい、その訂正を「本件訂正」という。)を行っていたところ、

当審に至り、本件訂正に基づき、訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく構成

15 要件充足性等に係る訂正の再抗弁を主張した。

2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記

3のとおり当審における当事者の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事

実及び理由」中、第2の2及び3、第3(原判決3頁13行目から89頁17

行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

20 ? 原判決8頁1行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。

「? 本件無効審判請求の経緯

被控訴人は、令和3年8月11日、本件特許の請求項1ないし4につ

き、特許庁に無効審判(無効2021−800070号事件)を請求し、

無効理由として、@明確性要件違反(本件無効審判請求における無効理

25 由1、本件訴訟の争点2−1)、Aサポート要件違反(本件無効審判請求

における無効理由2、本件訴訟の争点2−2)、B実施可能要件違反(本

4
件無効審判請求における無効理由3、本件訴訟の争点2−3) C吹野正


外『反射器のプリズムについての検討』
(照明学会雑誌53巻6号(19

69)(乙34文献)を主引用例とする新規性及び進歩性欠如(本件無


効審判請求における無効理由4、本件訴訟の争点2−4) D特開昭49


5 −106839号公報(乙39文献)を主引用例とする新規性及び進歩

性欠如(本件無効審判請求における無効理由5、本件訴訟の争点2−5)、

E米国特許第3833285号明細書(乙40文献)を主引用例とする

新規性及び進歩性欠如(本件無効審判請求における無効理由6、本件訴

訟の争点2−6)、F特表2002−541504号公報(乙12文献、

10 本件無効審判請求では甲27)を主引用例とする新規性及び進歩性欠如

(本件無効審判請求における無効理由7、本件訴訟の争点2−7)を主

張した。

これに対し、同事件において、控訴人スリーエムイノベイティブが、

本件訂正請求を行ったところ、令和5年4月25日、『特許第5302

15 282号の特許請求の範囲を、令和5年1月26日付け訂正請求書に添

付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、4

について、訂正することを認める。特許第5302282号の請求項1

〜請求項4に係る発明についての特許を無効とする。』との審決(以下

『本件審決』という。甲52)がされた。

20 本件審決の理由は、要するに、本件訂正を認めるとした上で、本件訂

正後の本件特許の特許請求の範囲の記載につき、明確性要件違反(上記

@)、サポート要件違反(上記A)はなく、本件明細書の発明の詳細な説

明の記載に実施可能要件違反(上記B)はなく、乙34文献、乙39文

献、乙40文献をそれぞれ主引用例とする各新規性又は進歩性欠如の無

25 効理由(上記CないしE)はいずれも認められないとした上で、本件訂

正後の本件特許の請求項1ないし4に記載された発明は、乙12文献に

5
記載された発明(以下「乙12発明」という。)に基づいて当業者が容易

に発明をすることができたものであり(上記F) 特許法29条2項の規


定に違反してされたものであるから、同法123条1項2号に該当し無

効とすべきである、というものである(以下、本件特許の請求項1ない

5 し4に記載された発明についての、乙12文献に基づく進歩性欠如の無

効理由を、本件訂正の前後を通じて、本件訴訟における争点との関係で、

『本訴無効理由2−7』という。。


本件審決に対し、控訴人スリーエムイノベイティブが審決取消訴訟(当

庁令和5年(行ケ)第10102号)を提起し、同訴訟は当庁に係属し

10 ている。

? 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1及び4の記載は、以下のとおり

である(下線は訂正箇所。以下、それぞれ『本件訂正発明1』『本件訂


正発明4』といい、併せて『本件各訂正発明』という。甲51)。

ア 請求項1(本件訂正発明1)

15 複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキ

ューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありか

つ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質

的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、

基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面

20 を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ

が1−2二面角誤差および1−3二面角誤差を有し、ここで、二面角

誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義

され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化してお

り、該二面角誤差の大きさが1分〜60分である、物品。

25 イ 請求項4(本件訂正発明4)

複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキ

6
ューブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありか

つ隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質

的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、

基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面

5 を意味し、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ

が1分〜60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤

差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義さ

れ、該二面角誤差が互いに異なっている、物品。

?ア 本件審決が認定した本件訂正発明1と乙12発明の相違点は、次の

10 とおりであった。(後記第3の3?アの相違点Bと同じである。)

本件訂正発明1では、隣接している前記複数のキューブコーナー素


子のそれぞれが1−2二面角誤差および1−3二面角誤差を有し、こ

こで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏

差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号におい

15 て変化しており、該二面角誤差の大きさが1分〜60分である」のに

対し、乙12発明では、それぞれのPGキューブコーナ錐体の反射面

がなす角度にそのような特定はされていない点。

イ 本件審決は、この相違点についての容易想到性(本訴無効理由2−

7)につき、要旨、以下のとおり判断した。
(なお、念のため述べると、

20 本件審決は、本件訂正を認め、本件訂正後の発明(本件各訂正発明)

は乙12文献に基づいて容易想到であると判断して、本件訂正後の特

許は無効であるとした。本件訴訟においては、無効の抗弁に関して、

本件訂正前の発明(本件各発明)の乙12文献に基づく容易想到性

検討され、訂正の再抗弁に関して、本件訂正後の発明(本件各訂正発

25 明)の乙12文献に基づく容易想到性が検討されることとなる。)

乙12文献の発明の詳細な説明の段落【0051】(以下、『本件段

7
落』という。)には『本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特

許第4,775,219号(Appledorn等)によって教示さ

れているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンま

たは発散プロフィルに分布するように個別に調整することができる。』

5 ことが記載されている。

本件段落に記載された、上記米国特許番号4,775,219号(乙

89。以下『乙89文献』という。)の対応国内特許である特許第26

47103号の特許公報(乙9。以下『乙9文献』という。)には、キ

ューブコーナ逆反射要素の面と面を垂直から意図的に傾けることによ

10 り、キューブコーナ逆反射要素によって反射される光は6本の異なる

交線に分割され、発散して広範な角度に光を拡散させる旨が記載され

ている。

本件段落の『本出願に開示したキューブコーナ要素は、
・・・再帰反

射される光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するよう

15 に個別に調整することができる』の『キューブコーナ要素は、
・・・個

別に調整する』とは、3組の平行溝側面における『溝の半角誤差』を

当該3組の平行溝側面ごとに調整することによって実現されていると

いえるから、乙12文献記載の発明に接した当業者は、所望のパター

ンまたは発散プロフィルに分布する物品を得るべく、PGキューブコ

20 ーナ要素について、これに存在する三つのキューブ面同士の相互直交

性を崩すか否か、また、崩すならばその程度を調整するように、3組

の平行溝側面における溝の半角誤差を調整し、そして、この調整を通

じて、三つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整する。

乙12文献の記載及び技術常識に照らせば、当業者は、発散プロフ

25 ィルが三つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度に

依存し、その崩れる程度が3組の平行溝側面における溝の半角誤差に

8
より調整できることを理解できるとともに、三つのキューブ面同士の

それぞれの相互直交性の崩れる程度が定まれば、これによって発散プ

ロフィルをたやすく導出できることから、乙12文献記載の発明に接

した当業者であれば、本件段落の記載に基づき、再帰反射される光が

5 分布する発散プロフィルを調整するために、3組の平行溝側面につい

て、これらの『溝の半角誤差』を、それぞれ、典型的には『±20角

度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい値』から適宜選

択して、その結果として、三つのキューブ面同士の相互直交性が互い

に異なるように崩れたPGキューブコーナー錐体を得ることは、容易

10 に想到し得たことである。

? 本件各訂正発明を、構成要件に分説すると、以下のとおりである(本

件訂正により影響を受ける箇所に「’」を付した。。


〔本件訂正発明1〕

1−A' 複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、

15 1−B' 前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、

1−B1 基準平面に対して非平行でありかつ

1−B2 隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁

に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有してお

り、

20 1−B3' ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配

設されている平面を意味し、

1−C' 隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが

1−C1 1−2二面角誤差および1一3二面角誤差を有し、

1−C2 ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の9

25 0度から偏差として定義され;

1−C3 かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化して

9
おり、

1−C4 該二面角誤差の大きさが1分〜60分である、

1−D 物品。

〔本件訂正発明4〕

5 4−A' 複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、

4−B' 前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが、

4−B1 基準平面に対して非平行でありかつ

4−B2 隣接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁

に実質的に平行である、少なくとも1つの非二面縁を有してお

10 り、

4−B3' ここで、基準平面とは前記複数のキューブコーナー素子が配

設されている平面を意味し、

4−C' 隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが

4−C1 1分〜60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、

15 4−C2 ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の9

0度から偏差として定義され、

4−C3 該二面角誤差が互いに異なっている、

4−D 物品。」

? 原判決84頁26行目の「乙12発明」を「乙12発明1及び乙12発明

20 4」と改める。

? 原判決85頁5行目の「(以下「本件溝側面」という。)」を削り、同頁

6行目の「また、」から12行目末尾までを「また、乙12文献の【005

1】
(本件段落)の記載からすれば、上記軸194及び196に沿って形成さ

れる溝側面についても、『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相互直交


25 面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって』『キューブ


コーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のよ

10
うな小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができる』

ため、『再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布す

るように個別に調整することができる』といえる。」と改め、同頁17行目及

び同頁18行目の各「乙12発明」をいずれも「乙12発明1及び乙12発

5 明4」と改め、同頁20行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。

「? 控訴人らの主張に対する反論

乙12文献の本件段落に記載されているとおり、光を所望のパターン

や発散プロファイルに分布するようにするために、個別に、キューブコ

ーナー素子の二面角が90度であるのを、他方の面との相互直交性を数

10 分異ならせることで、調整することが開示されている。そうすると、『個

別に調整』するためには、一つのキューブコーナー素子における三つの

二面角の偏差を同一にするということは到底考えられず、当業者であれ

ば、一つのキューブコーナー素子における三つの二面角を全て異ならせ

ることで、『個別に調整』して、光のパターンや発散プロファイルを所

15 望のものにすることは明らかである。したがって、当業者であれば、『該

二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており』という発明

特定事項は、乙12文献に記載されていると認識する。

この点は、乙89文献(日本語対応特許である乙9文献)に、キュー

ブコーナー素子の二面角を90度からずらして、円錐形状パターンに拡

20 散させ、光発散プロファイルを得ることが記載されていることからも明

らかであるところ、これはまさに反射光の分布を均一にすることにほか

ならないものである。

仮に、本件発明1と乙12発明1及び乙12発明4との間にそれぞれ

何らかの相違点があるとしても、当業者は、当該相違点に係る本件各発

25 明の構成をいずれも容易に想到することができた。すなわち、一つのキ

ューブコーナー素子における三つの二面角誤差が異なることは、乙34

11
文献及び乙39文献などにも記載されているとおり、周知慣用技術であ

った。また、乙12文献の本件段落には、光を所望のパターンや発散プ

ロファイルに分布するようにするために、個別に、キューブコーナー素

子の二面角が90度であるのを、他方の面との相互直交性を数分異なら

5 せることで、調整することが示唆されている。そうすると、『個別に調

整』するためには、一つのキューブコーナー素子における三つの二面角

の偏差を同一にするということは到底考えられず、当業者であれば、乙

12発明1及び乙12発明4に、周知慣用技術である『一つのキューブ

コーナー素子における3つの二面角を全て異ならせる』という技術的事

10 項を適用することで、『個別に調整』して、光のパターンや発散プロフ

ァイルを所望のものにすることは明らかである。

また、乙12文献の図28において、軸194及び196に沿って形

成される溝側面e、f、g及びhは、一連の連続した平行溝側面である。

さらに、乙12文献の本件段落の記載からすれば、本件溝側面について

15 も、『『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相互直交面を生成する

角度と異なる角度で、機械加工することによって』、『キューブコーナ

要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のよう

な小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができ

る』ため、『再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィル

20 に分布するように個別に調整することができる』といえる。

そうすると、当業者であれば、構成要件1−C3に係る『該二面角誤

差が大きさ及び/又は符号において変化しており』という発明特定事項

構成要件4−C1に係る『1分〜60分の範囲の3つの二面角誤差を有

し』という発明特定事項及び構成要件4−C3に係る『該二面角誤差が

25 互いに異なっている』という発明特定事項については、乙12発明1及

び乙12発明4並びに周知慣用技術から容易に推考できる。すなわち、

12
当業者であれば、乙12文献記載の発明から本件各発明をいずれも容易

に発明できる。」

? 原判決87頁11行目及び同頁16行目の各「遅れた」をいずれも「後れ

た」と改め、同頁17行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。

5 「? 被控訴人の主張に対する反論

ア(ア) 乙89文献(乙9文献)に開示されているのは、切頭型キューブ

コーナー素子に係る発明であり、同じキューブコーナー素子であっ

ても、切頭型と、本件各発明の対象とする完全キューブ型では、そ

の形状の点だけでなく、製造方法や再帰反射効率の点においても大

10 きく異なる。

(イ) また、溝の半角誤差は二面角誤差とは異なるものであり、当業者

が乙12文献の本件段落(【0051】)の「溝の半角誤差の繰り返

しパターンを有することができ」との記載や、
「個別に調整する」と

の記載に接しても、キューブコーナー素子内における少なくとも二

15 つの二面角誤差を互いに異ならせることを想起し得ない。

(ウ) 乙89文献(乙9文献)には、一つのキューブコーナー素子内で

二つまたは三つの二面角誤差を互いに異ならせた場合に、どのよう

な光発散プロファイルないしスポット図が得られるかといった具体

的な記載はない。

20 イ(ア) 乙9文献には二面角誤差についての言及がなく、溝測角から二面

角誤差を算出する方法の説明すらないことからすると、乙9文献か

ら本件各発明に想到するということは、当業者が、
(@)あえて乙9

文献の第3図に示された多数のキューブコーナー素子の1個1個

について、第X表に記載された溝測角の値から三つの二面角誤差を

25 算出し、
(A)しかも、その算出結果から、隣接するキューブコーナ

ー素子の三つの二面角誤差が、それぞれ本件発明に規定されている

13
大きさや関係にあり、
(B)それらの関係が、全体的かつ均一な反射

の実現に貢献することを見出したはずであるということに他なら

ないが、そのような動機付けは存在しないから、乙9文献に基づく

進歩性欠如の主張は後知恵である。

5 (イ) また、乙9文献には、隣接する複数のキューブコーナー素子のそ

れぞれにおいて、二つ又は三つの二面角誤差を互いに異ならせ、こ

れらの素子を組み合わせるという構成や、その構成により全体的か

つ均一な反射を実現するという本件各発明の技術的思想も一切、開

示も示唆もされていない。」

10 3 当審における当事者の主な補充主張

? 本件訂正による本訴無効理由2−7の解消(訂正の再抗弁関係)

〔控訴人らの主張〕

ア 本件審決は、本訴無効理由2−7(乙12文献に基づく進歩性欠如の無

効理由)に基づき、本件特許に係る発明(本件各訂正発明)は進歩性を欠

15 如し無効である旨の判断をした。

しかし、本件訂正は、特許庁に対し適法な訂正請求として行ったもので

あり、かつ訂正要件を満たすものであって、本件訂正により、乙12文献

に記載された発明に基づく進歩性欠如の本訴無効理由2−7は、以下のイ

のとおり解消されるほか、下記?、?のとおり、被控訴人製品は、本件訂

20 正後の構成要件を充足し、その技術的範囲に属するものである。

イ 本件明細書において、「キューブコーナー型再帰反射シートの使用を考

慮すると、局在化された不均一なスポット図(たとえば、図24〜26)

は一般的には望ましくないことは明らかである」、「反射スポットの比較

的均一な広がりが再帰反射シートにきわめて望ましいことは明らかであ

25 る」(段落【0088】)、「スポットパターンは、図24〜26と比較

して半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもかなり均一に分

14
布している。」(段落【0089】)と記載されているように、本件特許

に係る発明は、完全キューブ型の構成において、その発明の構成を有しな

い場合と比較して、反射光の分布を半径方向にも円周方向にもより均一に

することを課題とし、その解決のために、完全キューブ型の構成(構成要

5 件1−B1〜3’、又は構成要件4−B1〜3’)に加え、隣接している

複数のキューブコーナー素子のそれぞれが有する三つの二面角誤差のうち

の二つ(1−2二面角誤差及び1−3二面角誤差)又は三つを互いに異な

らせ、かつ二面角誤差の大きさを1分〜60分とすること(構成要件1−

C’〜1−C3又は構成要件4−C’〜4−C3)を構成として含む。

10 より具体的にいえば、例えば二つの二面角誤差(1−2二面角誤差及び

1−3二面角誤差)が互いに等しい場合には、局在化された不均一なスポ

ット図(図24ないし図26、段落【0081】ないし【0088】 表3、


表4)となるのに対し、1−2二面角誤差及び1−3二面角誤差を互いに

異ならせる場合、半径方向にも円周方向にもより均一なスポット図(図2

15 7ないし図31、段落【0089】【0092】ないし【0098】
、 、表6

ないし表8)がもたらされる。本件明細書の図24及び図25の比較例で

は、特に円周方向において、同図26の比較例では円周方向及び半径方向

の両方において、反射スポットが局在していることが分かる。一方、同図

27ないし図31の実施例では、半径方向にも円周方向にも、比較的均一

20 に反射スポットが分布している。

このように、完全キューブ型の構成において、再帰反射における反射光

の分布を半径方向にも円周方向にもより均一にするという課題を認識し、

かかる課題を解決すべく、隣接している複数のキューブコーナー素子のそ

れぞれが有する三つの二面角誤差のうちの二つ(1−2二面角誤差及び1

25 −3二面角誤差)又は三つを互いに異ならせ、かつ二面角誤差の大きさを

1分〜60分とするという技術的思想は、乙12文献には一切、記載ない

15
し示唆はない。すなわち、本件特許に係る発明と、乙12文献に記載され

た発明とは、技術的思想において、全くの別物である。

当業者は、乙12文献に接したとしても、隣接している複数のキューブ

コーナー素子のそれぞれが有する三つの二面角誤差のうちの二つ(1−2

5 二面角誤差及び1−3二面角誤差)又は三つを互いに異ならせ、かつ二面

角誤差の大きさを1分〜60分とすることで、完全キューブ型の構成にお

いて、再帰反射における反射光の分布を半径方向にも円周方向にもより均

一にするという効果を奏することは、予測し得なかった。

このように、本件特許に係る発明の新規な課題と当該課題の解決のため

10 に採用された手段、及びその作用効果に照らせば、本件特許に係る発明が

進歩性を有することは明らかである。

ウ 本件訂正により訂正された本件各訂正発明の構成要件により、「隣接し

ている前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」について、1−2二

面角誤差及び1一3二面角誤差(請求項1)ないし三つの二面角誤差(請

15 求項4)が、構成要件に定める所定の要件を満たすことが明確に特定され

ている。

本件各訂正発明の「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそ

れぞれ」が有する二面角を単位として二面角誤差が制御されることは、既

に述べたように、本件特許に係る発明の課題、技術的意義と実質的に関連

20 するものであり、乙12文献に記載された発明と、本件特許に係る発明と

の間の実質的な相違点をより明確化するものである。

以上のとおり、本件訂正により、被控訴人が主張する乙12文献に記載

された発明に基づく進歩性欠如の無効理由(本訴無効理由2−7)が存在

しないことがより明確に示されていることから、本件訂正により被控訴人

25 が主張する本訴無効理由2−7は解消されている。

〔被控訴人の主張〕

16
本件訂正により、本訴無効理由2−7は解消されないから、控訴人らの主

張は前提を欠き、失当である。

? 被控訴人製品の、本件訂正発明1の構成要件充足性(訂正の再抗弁関係)

〔控訴人らの主張〕

5 ア 構成要件1−A’に対応する被控訴人製品の構成と構成要件充足性

(ア) 被控訴人製品は、複数の六角形型のフルキューブコーナーの形状をし

たプリズム(被控訴人プリズム)が配列された製品であることが確認さ

れた(甲8、14、15)。

したがって、被控訴人製品は、以下の構成を有する。

10 1−a’ 複数の六角形型のフルキューブコーナーの形状をしたプリ

ズムを有する再帰反射シート

(イ) そして、被控訴人製品の構成1−a’のうち、「複数の六角形型のフ

ルキューブコーナーの形状をしたプリズム」及び「再帰反射シート」が

それぞれ構成要件1―A’の「複数のキューブコーナー素子」及び「物

15 品」に相当する。

したがって、被控訴人製品は、構成要件1−A’を充足する。

なお、本件訂正前の構成要件1−Aと本件訂正後の構成要件1−A’

の違いはキューブコーナー素子が複数であることを特定したことにあり、

被控訴人製品が構成要件1−Aを充足するとした原判決の判断は正しい

20 ものであって、構成要件1−A’にも当然該当する。

構成要件1−B’ないし1−B3’に対応する被控訴人製品の構成と構

成要件充足性

(ア)a 被控訴人製品を構成する被控訴人プリズムの外縁及び反射面は以

下のような特徴を有する(甲14、15)。

25 @被控訴人プリズムのそれぞれの外縁は、いずれも反射面と接してお

り、接している二つの反射面と同じ向きに凸部をなすように交差して

17
いるため、それらの外縁はプリズム層が設置される合成樹脂層の平面

に対して非平行の関係にある。

A隣接する被控訴人プリズム同士は、隣接部分の外縁を共有しており、

当該共有部分において隣接する被控訴人プリズムの外縁同士は互いに

5 平行な関係にある。

したがって、被控訴人製品は、以下の構成を有する。

1−b’ 複数の被控訴人プリズムのそれぞれにおいて、

1−b1 そのプリズム層の下層に位置する合成樹脂層の面に対し

て非平行な関係にある外縁を有し、かつ

10 1−b2 隣接している被控訴人プリズムと外縁を共有しており、

当該共有部分においてその外縁は隣接する被控訴人プリズムの外縁と

互いに平行な関係にある

1−b3’ ここで、合成樹脂層の面とは、複数の被控訴人プリズ

ムが配置されたプリズム層が配設されている平面を意味する

15 b 構成要件1−B’は「前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ

が、」であるところ、被控訴人製品の構成1−b’のうち、「被控訴人

プリズム」は、構成要件1−B’の「キューブコーナー素子」に相当

する。

したがって、被控訴人製品は、構成要件1−B’を充足する。

20 (イ) 被控訴人製品が、構成要件1−B1及び1−B2を充足することは、

原審において主張したとおりである。

(ウ) 構成要件1−B3’は「ここで、基準平面とは前記複数のキューブコ

ーナー素子が配設されている平面を意味し、」であるところ、被控訴人

製品の構成1−b3’は「ここで、合成樹脂層の面とは、複数の被控訴

25 人プリズムが配置されたプリズム層が配設されている平面を意味する」

である。

18
被控訴人製品の構成1−b3’のうち、「複数の被控訴人プリズムが

配置されたプリズム層が配設されている平面」は、構成要件1−B3’

の「前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面」に相当す

る。被控訴人製品の構成1−b3’の「合成樹脂層の面」が、構成要件

5 1−B3’の「基準平面」に相当する。

したがって、被控訴人製品は、構成要件1−B3’を充足する。

本件訂正前の構成要件1−Bと本件訂正後の構成要件1−B’の違い

は「少なくともいくつかの」の文言が「前記複数の」と訂正され、「そ

れぞれが」が追加されたことであり、訂正前の構成要件1−B3と訂正

10 後の構成要件1−B3’の違いは「前記複数の」が追加されたことであ

る。また、被控訴人製品が構成要件1−B及び1−B3を充足するとし

た原判決の判断は、正しいものであり、前記の構成要件1−B及び1−

B3と構成要件1−B’及び1−B3’との違いの点を踏まえれば、原

判決の判断は、構成要件1−B’及び1−B3’にも当然に該当する。

15 ウ 構成要件1−C’ないし1−Dに対応する被控訴人製品の構成と構成要

件充足性

(ア) 被控訴人製品を構成する被控訴人プリズムについては、三つの二面角

がいずれも1分から17.6分の範囲において90度からの偏差を有し

ている被控訴人プリズムが複数存在し、隣接しており、そのような被控

20 訴人プリズムのそれぞれにおいては、三つの二面角の90度からの偏差

の値は、絶対値及び/又は符号において、互いに異なっていることが認

められた(甲15)。

被控訴人製品においては、甲15の図4において示されているように、

同図の横方向に非六角形型のキューブコーナー素子が連続して配置され、

25 六角形型のキューブコーナー素子が並んだ領域同士を分離する区分帯を

なしていることが確認できる。区分帯は、六角形型のキューブコーナー

19
素子の並ぶ方向と平行に延びている。当該区分帯と平行に並ぶ面を本件

明細書の主要溝面に対応するものとして、本件明細書の図22中の溝面

(溝表面82及び84並びに主要溝面50)と被控訴人プリズム内の三

つの反射面(甲15の図10(i)においてreflective f

5 ace“a”“b”及び“c”と表示される面(以下、それぞれ「面a」
、 、

「面b」及び「面c」という。)について対比すると、面aが本件明細


書の図22の主要溝面50、面bが同溝表面82、及び面cが同溝表面

84に対応することになる(甲15、10頁(日本語訳の11頁)。


この面同士の対応関係を踏まえて、本件明細書の図22の記載と甲1

10 6の図10(i)に基づく各二面角の特定を対応させると、被控訴人プ

リズム内の三つの二面角については、甲15で用いた干渉計(本件干渉

計)のソフトウェアにおける2−3/5−6二面角(面aと面cで形成

する二面角) 1−2/4−5二面角
、 (面aと面bで形成する二面角)、

及び3−4/6−1二面角(面bと面cで形成する二面角)が、本件明

15 細書の1−2二面角、1−3二面角及び2−3二面角にそれぞれ対応す

ることになる。

したがって、被控訴人製品は、以下の構成を有する。

1−c’ 隣接している複数の被控訴人プリズムのそれぞれにおいて

1−c1 1−2二面角及び1−3二面角において、90度からの偏

20 差が存在し、

1−c2 この「90度からの偏差」とは、被控訴人プリズム内の二

面角における90度からの偏差を意味する値であり、

1−c3 二つの二面角のそれぞれの90度からの偏差の値は、相互

に絶対値及び/又は符号において異なっており、

25 1−c4 その90度からの偏差の値の絶対値は1分〜60分の範囲

である、

20
1−d 再帰反射シート製品

(イ) そして、構成要件1−C’は「隣接している前記複数のキューブコー

ナー素子のそれぞれが」であるところ、被控訴人製品の構成1−c’は

「隣接している複数の被控訴人プリズムのそれぞれにおいて」である。

5 被控訴人製品の構成1−c’のうち、
「被控訴人プリズム」は、構成要

件1−C’の「キューブ」に相当する。

したがって、被控訴人製品は、構成要件1−C’を充足する。

被控訴人製品が、構成要件1−C1ないし1−Dを充足することは、

原審において主張したとおりである。

10 被控訴人製品が構成要件1−Dを充足するとした原判決の判断は正し

い。他方で、被控訴人製品が構成要件1−C1ないし1−C4を充足す

ると認めることはできないとした原判決の判断は誤りであり、この点に

ついては、下記?のとおりである。

〔被控訴人の主張〕

15 控訴人らの主張は否認ないし争う。

? 被控訴人製品の、本件訂正発明4の構成要件充足性(訂正の再抗弁関係)

〔控訴人らの主張〕

構成要件4−A’ないし4−B3’に対応する被控訴人製品の構成と構

成要件充足性

20 (ア) 本件訂正発明4の構成要件4−A’ないし4−B3’は、本件訂正発

明1の構成要件1−A’ないし1−B3’と同様である。そこで被控訴

人製品は、本件構成要件4−A’ないし4−B3’に対応して以下の構

成を有する。

4−a’ 複数の六角形型のフルキューブコーナーの形状をしたプリ

25 ズムを有する再帰反射シート

4−b’ 複数の被控訴人プリズムのそれぞれにおいて、

21
4−b1 そのプリズム層の下層に位置する合成樹脂層の面に対して

非平行な関係にある外縁を有し、かつ

4−b2 隣接している被控訴人プリズムと外縁を共有しており、当

共有部分においてその外縁は隣接する被控訴人プリズムの外縁と互い

5 に平行な関係にある

4−b3’ ここで、合成樹脂層の面とは、複数の被控訴人プリズム

が配置されたプリズム層が配設されている平面を意味する

(イ) 本件訂正発明4の構成要件4−A’ないし4−B3’は、本件訂正発

明1の構成要件1−A’ないし1−B3’と同様であるから、前記のと

10 おり、被控訴人製品は、構成要件4−A’ないし4−B3’を充足する。

なお、構成要件1−A’、1−B’及び1−B3’で述べたことと同

様に、被控訴人製品が構成要件4−A、4−B及び4−B3を充足する

とした原判決の判断は、正しいものであり、構成要件4−A’、4−B’

及び4−B3’にも当然該当する。

15 イ 構成要件4−C’ないし4−Dに対応する被控訴人製品の構成と構成要

件充足性

(ア) 被控訴人製品を構成する被控訴人プリズムについては、前記のとお

り、複数の隣接するそれぞれの被控訴人プリズム内の三つの二面角につ

いて90度からの偏差が存在しており、その絶対値の範囲は1分〜60

20 分であることが認められる(甲15)。

したがって、被控訴人製品は、以下の構成を有する。

4−c’ 隣接している複数の被控訴人プリズムのそれぞれにおいて

4−c1 三つの二面角には90度からの偏差が存在し、その絶対値

の範囲は1分〜60分である

25 4−c2 この「90度からの偏差」とは、被控訴人プリズム内の二

面角における90度からの偏差を意味する値である

22
4−c3 三つの二面角のそれぞれの90度からの偏差の値は、相互

に絶対値及び/又は符号において異なっている

4−d 再帰反射シート製品

(イ) 本件訂正発明4の構成要件4−C’は、本件訂正発明1の構成要件

5 −C’と同様であるから、前記のとおり、被控訴人製品は、構成要件

−C’を充足する。

被控訴人製品が、構成要件4−C1ないし4−Dを充足することは、

原審において主張したとおりである。

被控訴人製品が構成要件4−Dを充足するとした原判決の判断は正し

10 い。他方で、被控訴人製品が構成要件4−C1ないし4−C3を充足す

ると認めることはできないとした原判決の判断は誤りである。この点に

ついては、下記?のとおりである。

〔被控訴人の主張〕

控訴人らの主張は否認ないし争う。

15 ? 原判決の認定及び判断について

〔控訴人らの主張〕

ア 主要溝面について

原判決は、本件分析報告書(甲15)の記載において、当該報告書の図

10(i)に示す反射面 a を主要溝面と特定した根拠は何ら記載されてお

20 らず、本件全証拠によっても、被控訴人プリズムにおけるどの反射面が主

要溝面に当たるのかを認定することはできない、と判断したが、本件明細

書の主要溝面に関する各記載を踏まえれば、本件分析報告書に記載された

被控訴人製品の2−3/5−6二面角(面aと面cで形成する二面角) 1


−2/4−5二面角(面aと面bで形成する二面角) 及び3−4/6−1


25 二面角(面bと面cで形成する二面角)が、本件明細書及び本件訂正発明

1の1−2二面角、1−3二面角及び2−3二面角にそれぞれ対応するこ

23
とから、これに反する原判決の判断は誤りである。

本件明細書には、主要溝面の形状等について、
「・・・実質的に層状体の

全長に延在する主要溝面50を有する」(段落【0044】、
)「・・・列内

の各素子の面が共通平面(たとえば、主要溝面、作用表面12または14)

5 を共有する素子により画定される。(段落【0117】
」 )との記載がある。

また、主要溝面の形状については、図5、図6や図11などに図示され

ており、主要溝面は、図中に「50」として表示された領域である。

以上に示すように、本件明細書には、主要溝面は、キューブコーナー素

子間に延在し、共有される同一の平面上に存在する平面として記載、図示

10 されている。

被控訴人製品においては、本件分析報告書の図4において示されている

ように、同図の横方向に非六角形型のキューブコーナー素子が連続して配

置され、六角形型のキューブコーナー素子が並んだ領域同士を分離する区

分帯をなしていることが確認できる(甲15、図4)。区分帯は、六角形型

15 のキューブコーナー素子の並ぶ方向と平行に延びており、六角形型のキュ

ーブコーナー素子を構成する面には、当該区分帯と平行に並ぶ面が存在す

る。被控訴人製品の区分帯と平行に並ぶキューブコーナー素子を構成する

面は、それらのキューブコーナー素子間に延在し、共有される同一の平面

に存在する面である。前記の本件明細書の主要溝面に関する記載及び表示

20 内容を踏まえれば、被控訴人製品の区分帯と平行に並ぶキューブコーナー

素子を構成する面は、主要溝面に該当するものである。そして、この被控

訴人製品の区分帯と平行に並ぶキューブコーナー素子を構成する面は、本

件分析報告書の図10(i)において、
「反射面a」として示される面に該

当する。つまり、被控訴人製品の「反射面a」が、本件明細書に記載の主

25 要溝面に該当するものである。

以上のような、被控訴人製品の被控訴人プリズムを構成する三面の関係

24
を踏まえると、本件分析報告書の図10(i)の反射面aが本件明細書の

図22の主要溝面50、反射面bが同溝表面82、及び反射面cが同溝表

面84に対応することになる(甲15、10頁(日本語訳の11頁)。


この面同士の対応関係を踏まえて、本件明細書の図22の記載と本件分

5 析報告書の図10(i)に基づく各二面角の特定を対応させると、被控訴

人プリズム内の三つの二面角については、本件干渉計のソフトウェアにお

ける2−3/5−6二面角(反射面aと反射面cで形成する二面角) 1−


2/4−5二面角(反射面aと反射面bで形成する二面角) 及び3−4/


6−1二面角角(反射面bと反射面cで形成する二面角)が、本件明細書

10 の1−2二面角、1−3二面角及び2−3二面角にそれぞれ対応すること

になる。この対応関係は、上記のように本件明細書の記載を根拠とするも

のである。したがって、これと異なる原判決の判断には誤りがある。

イ 二面角誤差の測定方法の正確性について

本件分析報告書(甲15)に示される具体的な測定結果に基づけば、被

15 控訴人製品が本件各発明の構成要件1−C1ないし1−C4及び4−C

1ないし4−C3を充足している点について、少なくともその高度の蓋然

性があることは明らかであり、被控訴人製品が本件特許を侵害しているこ

とは本件分析報告書に示される二面角誤差の測定結果により十分に立証

されている。

20 本件分析報告書に示される被控訴人プリズムの二面角誤差の測定結果

(甲15の表1−1、表1−2、表1−3、甲26の別紙2)をみると、

ほとんどの被控訴人プリズムについて、@二面角誤差の大きさが1分〜6

0分の範囲にあり、A1−2二面角誤差及び1一3二面角誤差、又は三つ

の二面角誤差がいずれも互いに異なっていることに加えて、測定対象とな

25 った被控訴人プリズム同士の位置関係からBそれらの要件を満たす複数

の被控訴人プリズムが互いに隣接していることは明らかである。すなわち、

25
被控訴人プリズムの二面角誤差の測定データの具体的な数値を踏まえれ

ば、被控訴人製品が、構成要件1−C1ないし1−C4及び4−C1ない

し4−C3を充足することについて、通常人が疑いを差し挟まない程度の

高度の蓋然性が認められる。

5 換言すると、仮に被控訴人製品が本件特許を侵害しないのであれば、前

記@ないしBの事実関係を充たす被控訴人プリズムは被控訴人製品中に、

全く存在しないということでなければならない。そして、そのような場合

には、甲15の表1−1、表1−2、表1−3、甲26の別紙2に示され

るように、@〜Bの事実関係を充たす被控訴人プリズムが多数存在するこ

10 とを示すような測定結果が得られる可能性など、事実上あり得ないはずで

ある。しかし、本件分析報告書は、上記のとおり、これに明らかに反する

結果を示している。

したがって、本件分析報告書に示される、被控訴人プリズムの二面角誤

差の測定結果に鑑みれば、被控訴人製品が本件特許を侵害していることに

15 ついては、通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性が認められる

ことは明らかであり、被控訴人製品が本件特許を侵害していることは本件

分析報告書によって十分に立証されている。

ウ 本件干渉計による測定結果は信用できること

原判決は、本件分析報告書における二面角誤差の測定方法の正確性につ

20 いて以下のaないしhの点について指摘をしている(原判決121頁4行

目ないし125頁2行目)。

a 標準試料等による精度の確認がされていると認められないこと

b 本件参照平面試料分析報告書の結果から、本件分析報告書における被

控訴人プリズムの二面角誤差の測定についての測定誤差が0.1分であ

25 るとはいえないこと

c 被控訴人プリズムの大きさに係る測定値の精度が不明であること

26
d 被控訴人プリズムの取り付け精度等が不明であること

e CCDカメラの画素の大きさが不明であること

f トップフィルム層による影響が不明であること

g 本件ソフトウェアのアルゴリズムが不明であること

5 h 本件ソフトウェアの丸め誤差及びその程度が不明であること

しかし、民事訴訟で要求される証明の程度は、
「一点の疑義も許されない

自然科学的証明」である必要はないところ、原判決が本測定方法の正確性

について指摘をした事項は、いずれも本件における構成要件の充足性の結

論に影響を及ぼすようなものではないレベルでの指摘であり、まさに本測

10 定方法の正確性に関して「一点の疑義も許されない自然科学的証明」を求

めるかのような内容である。この点で、原判決の判断は、最高裁判例(最

高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・

民集29巻9号1417頁。以下「最高裁昭和50年判決」という。)の判

示内容に反する。

15 また、本測定方法については、控訴人は、測定精度の確認実験(甲25)

などを実施し、十分にその精度が担保されていることを確認済みである。

そもそも本測定方法は、控訴人が独自に考案したような特殊な測定方法な

どではなく、市販されている測定機器を用いた一般的な測定方法に過ぎな

い。かかる方法が、被控訴人プリズムのような対象物の測定に、十分な測

20 定精度を備えた適切な方法であることは、干渉計等の測定技術の専門家で

ある大学教授の意見書(甲21、23)や本件干渉計の製造メーカーであ

るZygo社の元エンジニアの意見書(甲22)において述べられている

とおりである。このように本測定方法の正確性は、原審において控訴人が

提出した各証拠により、通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性

25 をもってすでに立証されている。

被控訴人は原審において、本件分析報告書の測定や、その結果に基づく

27
分析には全く影響を及ぼさないような、極々微細な誤差が生じる可能性が

あるあらゆる事象をとにかく多数挙げることによって、あたかも同測定の

結果に信頼性がないことを印象づけようと試みていたが、原判決による上

記各指摘も、かかる被控訴人による主張の影響を強く受けたものと思われ

5 る。

しかし、仮に、本測定方法に誤差が介在し得るとしても、
「現実に甲15

の測定計においてどの程度の誤差を生じるのか」「甲15の測定結果に基


づき、被控訴人プリズムの二面角誤差が本件特許発明に規定されている要

件を充たすという結論を覆す程度の誤差を生じることになるのか」という

10 視点を抜きにして、本件分析報告書の測定結果が否定されるべきではない。

例えば、原判決は、本件ソフトウェアのアルゴリズムが不明であること(上

記の指摘事項のうちのg)を指摘するが、測定機器のソフトウェアのアル

ゴリズムなど、そもそもユーザーに開示されているものではなく、いわば

市販されている測定機器の一部なのであるから、かかるアルゴリズムが不

15 明であることや、アルゴリズムの中で誤差が生じている可能性があること

が、直ちに甲15の測定結果に合理的な疑念を挟む根拠となるものではな

い。むしろ、最高裁昭和50年判決の判示内容を踏まえれば、被控訴人プ

リズムのような対象物の測定方法として、本件干渉計を用いた本測定方法

が、方法としても精度の点においても適切といえる以上は、本測定方法に

20 おいて、実際に構成要件の充足性の結論に影響を及ぼすほどの誤差を生じ

せしめる具体的な事象の存在が定量的に主張・立証されない限り、その測

定結果は信用し得るものと評価されるべきである。

また、本測定方法の正確性が担保されていないとの原判決の判断は、本

測定方法における測定誤差の発生を前提としたものと理解される。しかし、

25 控訴人が原審で示した本測定データの統計学的な検討(甲26)において

用いられたt検定は、その分析対象たる測定データに測定誤差によるばら

28
つきがあることを前提としつつ、それらの測定データの平均及び分散から、

有意な差があるか否かについて論理的に正しい判断を導き出すための手

法である(甲30)。したがって、仮に本測定方法によって得られる測定デ

ータに、原判決が指摘するような誤差が介在していたとしても、甲26や

5 甲30で示した統計学的分析結果は、かかる誤差の存在を前提としたもの

であり、何ら否定されるべきものではない。原判決は、被控訴人製品が本

件特許を侵害していることが、本測定データから導かれる論理的に正しい

結論であることとして、統計学的に示されているにも拘わらず(甲30)、

測定データに測定誤差が存在し得るという抽象的な可能性のみをもって、

10 何らかかる統計学的分析結果を考慮していない点においても妥当性を欠

く。

以上述べたとおり、原判決による本測定方法の正確性に対する判断は、

本測定方法が、市販の測定機器による、被控訴人プリズムのような対象物

の測定方法として一般的に適切とされていた方法であるにもかかわらず、

15 抽象的に誤差を生じ得る事象が存在することを、その程度を問題とするこ

となく、本件分析報告書の分析結果の信用性を否定する理由としている点

において妥当でなく、また、統計学的な観点からもその判断には誤りがあ

ることは明らかである。

〔被控訴人の主張〕

20 控訴人らの主張は否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、本件各発明に係る特許は、乙12文献に記載された発明に基づ

容易に想到できるから進歩性を欠如し、特許法123条1項2号に該当し、

特許無効審判により無効にされるべきものであり、本件訂正によってもその無

25 効理由は解消されないと認められるから、その権利を行使することができず、

控訴人らの請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のと

29
おりである。

2 本件各発明について、乙12文献に基づく進歩性欠如の無効理由(本訴無効

理由2−7)の有無(無効の抗弁の検討)

? 本件各発明の概要(本件各訂正発明も同じ)

5 本件明細書の記載事項によれば、再帰反射シートの性能は、
「光源(すなわ

ち、典型的には乗物のヘッドライト)に対する再帰反射光の広がりに関係」

し、
「キューブコーナーからの再帰反射光の広がりは、回折、偏光、非直交性

などの効果により支配される」ことから、角度誤差を導入することが一般的」


であった(段落【0013】。


10 本件各発明は、新しいキューブコーナー光学設計を有する再帰反射シート、


ならびにとくに、改善された性能および/または改善された製造効率に寄与

する特徴を有する再帰反射シートの製造方法」を提供しようとするものであ

る(段落【0015】)とする。

そして、本件各発明によれば、
「反対に変化している二面角1−2および二

15 面角1−3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性のおかげ

で、スキュー角および/またはインクリネーション角を利用して比較的均一

なスポット反射図を提供することが可能である」という効果が得られるとす

るものである(段落【0088】。


? 乙12文献に記載された発明の内容

20 ア 乙12文献には、以下の記載がある。

「本発明は主に、微細複製技術を利用して作製される構造化表面に関する。

本発明は、再帰反射性キューブコーナ要素を具備する構造化表面に特に適

用される。(段落【0001】
」 )

「キューブコーナ再帰反射シート材は、典型的に、略平坦な前面と、複数

25 の幾何学的構造を含む後部構造化表面とを有する薄い透明層を具備し、前

記幾何学的構造のいくつかまたはすべては、キューブコーナ要素として構

30
成された3つの反射面を含む。(段落【0004】
」 )

「直接機械加工技術では、一連の溝側面を平坦な基板面に形成して、マス

タ型を形成する。周知の一実施形態では、3つの組の平行溝が互いに60°

の開先角度で交差して、等辺の基部三角形を各々が有するキューブコーナ

5 要素の配列を形成する(米国特許第3,712,706号(Stamm)

参照) 他の実施形態では、
。 2組の溝が60°よりも大きな角度で互いに交

差し、また第3の組の溝が60°よりも小さな角度で他方の2つの組の

各々と交差して、傾斜したキューブコーナ要素の適合対の配列を形成する

(米国特許第4,588,258号(Hoopman)参照)。ピンバンド

10 ルまたは積層技術は、型の形成中または他の時間に互いに運動または移動

し得る、また互いに分離するかもしれない構成部品に依存するので、直接

機械加工技術は、ピンバンドルまたは積層技術を用いて達成できないより

困難な方法で、非常に小さなキューブコーナ要素を正確に機械加工する機

能を提供する。さらに、直接機械加工では、多数の個別面は切削工具の連

15 続運動の中で典型的に形成され、またこのような個別面は型作製工程の全

体にわたってそれらの整列を維持するので、直接機械加工技術は、ピンバ

ンドルまたは積層技術によって造られる構造化表面よりも一般的により

高い均一性と適合性を有する大きな領域の構造化表面を生成する。(段落


【0008】)

20 「しかし、直接機械加工技術の大きな不都合は、製造し得るキューブコー

ナ形状の種類における低い設計柔軟性であった。例を挙げると、上に参照

したStamm特許に示されたキューブコーナ要素の最高の理論的な全

光再帰は約67%である。その特許の発行以来、構造と技術が開示されて

おり、これらによって、直接機械加工を用いて設計家が利用できるキュー

25 ブコーナの設計の多様性が大きく拡大されている。例えば、米国特許第4,

775,219号(Appledorn等)、第4,895,428号(N

31
elson等)、第5,600,484号(Benson等)、第5,69

6,627号(Benson等)、および第5,734,501号(Smi

th)参照。これらの後者の参考文献に開示されたキューブコーナ設計の

あるものは、ある特定の観測と入口形状において十分に67%を越える有

5 効開口値を示し得る。(段落【0009】
」 )

「にもかかわらず、
『好ましい形状』または『PG』キューブコーナ要素と

呼ばれるキューブコーナ要素のクラス全体は、今日まで、公知の直接機械

加工技術の範囲内に留まっている。PGキューブコーナ要素の1つの型式

を組み込んだ基板が図1の平面図に示されている。本図に示したキューブ

10 コーナ要素の各々は、3つの正方形の面と、平面図で六角形の輪郭とを有

する。PGキューブコーナ要素の1つは、簡単に識別するために肉太の輪

郭で強調表示されている。強調表示されたキューブコーナ要素は、構造化

表面の面に対して傾斜した非二面角縁部(肉太に強調表示された6つの縁

部の任意の1つ)を有し、またこのような縁部は隣接するキューブコーナ

15 要素の隣接した非二面角縁部(肉太に強調表示されたこのような各縁部は、

その隣接する6つのキューブコーナ要素の非二面角縁部に平行のみでな

く、連続している)に平行であるので、PGキューブコーナ要素であるこ

とが理解できる。直接機械加工技術を利用するPGキューブコーナ要素の

ような幾何学的構造を製造するための方法が、本出願に開示されている。

20 また、このような方法に従って製造される物品が開示され、このような物

品は、特別に構成された少なくとも1つの複合面を有することを特徴とす

る。(段落【0010】
」 )

「図9〜図13を用いて、本発明における使用に適切な調製された基板を

作製するための方法について、以下に説明する。例示目的のために、図6

25 の構造化表面を形成するために有用な構造化表面について説明する。しか

し、同一の原理は他の実施形態に直接適用できる。要約すると、突出部の

32
配列を具備する構造化表面は、直接機械加工以外の方法によって第1の基

板(図9〜図10)に形成される。次に、構造化表面のネガ複製が、機械

加工可能な材料から成る第2の基板(図11)に造られる。次に、第2の

基板の構造化表面の突出部の上方部分が直接機械加工されて、キューブコ

5 ーナ錐体(図12)を形成する。最後に、機械加工された第2の基板の構

造化表面のネガ複製が第3の基板内に造られて(図13) 調製された基板


を形成し、この基板内で、キューブコーナキャビティ(複製面を有する)

の配列が突出部の配列とかみ合わせられる。機械加工された第2の基板は、

望むなら、その後マスタとして使用することができ、このマスタから、多

10 数の同一の調製された基板が電鋳されるか、さもなければ複製される。」

(段落【0033】)

「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,21

9号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によ

って再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布す

15 るように個別に調整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素

を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生

成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返し

パターンで配設することができる。これは、溝側面(最終的に、遷移面の

下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型

20 の面になる溝側面の両方)を、
『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相

互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成

できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さ

く、しばしば±5角度分よりも小さい。一連の連続した平行溝側面は、a

bbaabba..
. またはabcdabcd.. のような溝の半角誤差の
.,

25 繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯

一の正または負の値である。一実施形態では、遷移面の上に完成された型

33
の面を形成するために使用される溝の半角誤差のパターンは、遷移面の下

に完成された型の面を形成するために使用される溝の半角誤差と一致さ

せることができる。この場合、各複合面の機械加工部分および非機械加工

部分は、実質的に角度を成して互いに整列される。他の実施形態では、一

5 方の組の面を形成するために使用されるパターンは、他方の組の面を形成

するために使用されるパターンと異なることができ、この場合、遷移面の

下の面は非ゼロ角度誤差の所定のパターンを組み込み、遷移面の上の面は

実質的に何の角度誤差も組み込まない。後者の場合、各複合面の機械加工

部分および非機械加工部分は、正確に角度を成して互いに整列されない。」

10 (段落【0051】、本件段落)

「光学的に対向したキューブコーナを有する実施形態

キューブコーナキャビティなしの錐体

他の実施形態は図27〜図29の順序で示される。図27は、突出部1

82およびキャビティ184(陰付きで示されている)の配列を具備する

15 構造化表面を有する初期基板180の平面図であり、キャビティ184は、

突出部182の実質的に垂直の壁部によって画定される。基板180は、

基板180の突出部とキャビティが、三角形であるよりも、むしろ水平断

面で4面のダイヤモンド形状であることを除いて、図12の基板と同様で

ある。溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞ

20 れ軸186と188に沿って基板に形成されている。軸186、188は

構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、c、dがすべて、こ

のような面に平行な軸に沿って延在することを保証する。切削工具の形状

は、表面cに対して実質的に垂直の表面『a’』を構成するように、また表

面dに対して実質的に垂直の表面bを構成するように選択される。かくし

25 て、各突出部182は、構造化表面の面に対して傾斜すると共に点189

によって識別される隆起ピークで出会う4つの面a、 c、
b、 dを有する。

34
面a、 c、
b、 dがキューブコーナ要素を形成しないことに留意されたい。」

(段落【0068】)

「次に、この構造化表面のネガ複製は、電鋳法または他の適切な手段によ

って、本出願において調製された基板と呼ばれる基板190の中に造られ

5 る。初期基板180の面a−dは、調製された基板190内に複製面a’

−d’を形成する。基板180のキャビティ184は、基板190内に突

出部192を形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によっ

て溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成された後のこのような突出部

が図28に示されている。対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhお

10 よびd’とgが、複合面、すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’

e、面c’hおよび面d’gを形成するように、それぞれの複製面に対し

て実質的に平行であり、またそれと実質的に位置合わせされたこのような

表面を形成するために、切削工具は制御される。面a’fは面c’hに対

して実質的に垂直であり、面b’eは面d’gに対して実質的に平行であ

15 る。点198は、面e、f、g、hによって形成された錐体のピークを配

置する。図の面に平行な共通の遷移面にすべてが実質的に配設された遷移

線200は、機械加工面e−hを非機械加工面a’−d’から分離する。」

(段落【0069】)

「図29は、図示したような軸202に沿った切削工具の動作によって、

20 対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成した

後の基板を示している。図示した実施形態では、表面iとjは、構造化表

面の法線に対して同一の角度で傾斜しているが、これは全く必要ではない。

このような溝は、遷移線200よりも深く基板190の中に延在し、面a’、

b’、c’、d’の交差部に配設された局所最小値にほぼ等しい深さに延在

25 することが好ましい。切削工具は、構造化表面の最も高い部分を除去し、

最上部のピークを点198(図28)から点204に移動する。」
(段落【0

35
070】)

「表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構

成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形

成する。表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるよ

5 うに構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成す

る。錐体206、208はキューブコーナ要素の適合対であるが、これは、

一方が、構造化表面に垂直の軸を中心とする他方の180°の回転に対応

するからであり、また錐体206対錐体208の1対1の対応性があるか

らである。各錐体206、208が、正確に2つの複合的な面を有するこ

10 とに留意されたい。また、構造化表面がキューブコーナキャビティを含ま

ないことに留意されたい。しかし、切頭の非機械加工面a’ b’ c’ d’
、 、 、

はキャビティを形成し、また機械加工面e、g、iによって、あるいは機

加工面h、f、jによって形成される錐体は、このような複数の錐体が

所定のキャビティに隣接するように、構造化表面に配設される。」
(段落【0

15 071】)






20


」【図12】
( )




25




36





5




」【図13】
( )





10




15




20 」【図27】
( )




37





5




10




」【図28】
( )



15




20




25


」【図29】

38
イ 乙12文献の上記記載及び、段落【0071】に図29に示される錐体

206及び208について「PGキューブコーナー錐体」であるとされて

いることから、乙12文献の段落【0068】ないし【0071】及び図

29には、次の「基板」の発明(以下「乙12発明」という。)が記載され

5 ていると認められる(本件審決が認定した乙12発明の内容と同旨であり、

控訴人スリーエムイノベイティブ及び被控訴人は、本件審決に係る審決取

消訴訟において、本件審決が認定した範囲での乙12発明(本件審決にお

いては甲27発明)の内容を争っていない。。


「突出部182およびキャビティ184の配列を具備する構造化表面を

10 有する初期基板180において、

溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸

186と188に沿って基板に形成され、

軸186、188は構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、

c、dがすべて、このような面に平行な軸に沿って延在し、

15 次に、この構造化表面のネガ複製が、電鋳法または他の適切な手段によ

って基板190の中に造られ、

面a-dは、調製された基板190内に複製面a’-d’を形成し、

初期基板180のキャビティ184は、基板190内に突出部192を

形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、

20 f、g、hが突出部の中に形成され、

対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhおよびd’とgが、複合面、

すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’e、面c’hおよび面d’

gを形成し、

軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備す

25 る1組の平行溝を基板190の中に形成し、

表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構

39
成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形

成し、表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるよう

に構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成する、

基板。」

5 ウ 乙12文献の記載に関する被控訴人の主張に対する判断

被控訴人は、本件各発明の「該二面角誤差が大きさ及び/又は符号におい

て変化しており」との発明特定事項は、乙12文献に実質的に記載されて

いるに等しい事項であると主張する。

しかし、乙12文献の図29に示された基板において、PGキューブコ

10 ーナ錐体を構成する三つの反射面の二面角誤差がどのような関係にある

のかについては、乙12文献には記載されておらず、技術常識参酌する

ことにより当業者が導き出せる事項であるとも認められないから、被控訴

人の上記主張は採用することができない。

? 本件発明1と乙12発明との対比

15 乙12発明の「PGキューブコーナ錐体」及び「基板」は、本件発明1の

「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。

また、乙12発明の「PGキューブコーナ錐体」は、
「少なくともいくつか

の該キューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接して

いるキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、

20 少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコ

ーナー素子が配設されている平面を意味」するという要件を満たす。

したがって、本件発明1と乙12発明との一致点(以下「一致点A」とい

う。)及び相違点(以下「相違点A」という。)は以下のとおりであると認め

られる。

25 「一致点A

キューブコーナー素子を有する物品であって、少なくともいくつかの該キ

40
ューブコーナー素子が、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキ

ューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なく

とも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー

素子が配設されている平面を意味する、物品。」

5 「相違点A

本件訂正発明1では、少なくとも1つのキューブが1−2二面角誤差およ


び1−3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子

の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び

/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分〜60分で

10 ある』のに対し、乙12発明では、PGキューブコーナ錐体の反射面がなす

角度にそのような特定はされていない点。」

? 乙12文献の本件段落に記載された従来技術

乙12文献の本件段落(【0051】)には、前記?アのとおり、
「本出願に

開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(App

15 ledorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射さ

れる光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整

することができる」ことが記載されている。そして、
「物品によって再帰反射

される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調

整する」ための手段として、「PGキューブコーナ要素を形成する複合面は、

20 キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の

数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することが

できる」こと、
「これは、溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面

になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)

を、
『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異

25 なる角度で、機械加工することによって達成できる」こと、
「典型的に、導入

される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よ

41
りも小さい」こと、
「一連の連続した平行溝側面は、abbaabba..ま


たはabcdabcd. .
. ,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有

することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値であ

る」ことがそれぞれ記載されている。

5 ? 乙12文献に記載された上記従来技術の内容

ア 本件段落に「物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発

散プロフィルに分布するように個別に調整する」との技術(以下「乙12

記載従来技術」という。)を教示する文献として引用されている、上記米国

特許第4,775,219号(乙89文献)には、乙89文献の対応国内

10 特許である特許第2647103号(乙9文献)にもよれば、以下の記載

があることが認められる。

「米国特許第3,817,596号において、A氏はキューブコーナ逆反射

要素の面と面を垂直すなわち直角から意図的に傾けることにより、このキ

ューブコーナ逆反射体からの光線の拡散を強めている。1958年7月

15 “アメリカ光学協会ジャーナル”第7号第48巻のピー・アール・ヨーダ

の論文“三重未来及び四面体プリズムの光偏向誤差の研究” 理論及び実験


の第198頁及び次の頁のエヌ・イー・ライテインの論文“コーナキュー

ブ反射板の光学”
(UDC538.318:531.719.24:)及び

1971年7月応用光学第7号第10巻のエッチ・デイ・エクハルツの論

20 文“コーナ反射板現象の簡単なモデル”に教示されているように、面と面

のこのような傾斜により、キューブコーナ逆反射要素によって反射される

光は6本の異なる光線に分割され、それら光線はキューブコーナ逆反射要

素の基準軸から発散して広範な角度に光を拡散させる。(乙9文献の2頁


左欄49行目ないし右欄13行目)

25 「本発明は物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロフィ

ールに分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆反射体

42
を提供する。」(同3頁左欄5行目ないし7行目)

「本発明は、透明な基体を有し、該基体の一面には、3つの横反射面によ

って形成されたキューブコーナ逆反射要素アレイが担持され、該横反射面

は、該基体の他面に形成された交差する3組の隣接した平行V字溝により

5 画成され、このV字溝は、それぞれが溝側角を有して傾斜している対向し

た溝側面によって画成されており、前記溝側角とは、1つの溝側面と、前

記V字溝の長さ方向に平行に延びていて且つ3組の前記V字溝の底縁に

よって画成される平面に対して直角な一平面との間に形成される角度で

ある逆反射体において、

10 前記3組のうちの少なくとも1組のV字溝が、もう1つの溝側角とは異

なる少なくとも1つの溝側角を繰返して含んでおり、もって、前記キュー

ブコーナ逆反射要素アレイが繰返しサブアレイで構成され、各該サブアレ

イは、入射光を別々な形状の光パターンへ逆反射させ得る複数の別々の形

状の複数のキューブコーナ逆反射要素で構成されていることを特徴とす

15 る。

また、本発明は、前記3組のうちの少なくとも2組のV字溝が同じ組の

もう1つの溝側角とは異なる溝側角を繰返して含んでいる。

また、本発明は、前記3組のV字溝のすべてが同じ組のもう1つの溝側

角とは異なる溝側角を繰返して含んでいる。(同3頁左欄8行目ないし3


20 0行目)

「第3図及び第4図は本発明の逆反射体の代表的溝パターンの略平面図

である。これらの図において、各線は1本のV字溝を表わし、各線の両側

の文字はV字溝のその側の溝側角を表わす。これらの例で示すように、3

組のV字溝の各々が異なる繰返しパターンの溝側角を有することができ

25 る。第3図において、1組はa−b−b−aパターンを有し、第2組はa

−b−a−b−b−a−b−aパターンを有し、第3組はc−d−e−f

43
−d−c−f−eパターンを有している。第4図において、異なる溝パタ

ーンはそれぞれa−b−b−aパターン、a−b−a−b−b−a−b−

aパターン及びc−d−d−cパターンである。

V字溝の繰返しパターンは逆反射体の面積の大きい一面上に分布された

5 キューブコーナ逆反射要素、すなわちサブアレイの周期的な繰返し群を形

成する。第3図に示す溝パターンにより、可能性として16個の別々のキ

ューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイが形成される、すなわちa,

b,c,d,e,fが全て互いに異なるものとすると、サブアレイ内には

別々の形状の16個のキューブコーナ逆反射要素がある。これら16個の

10 要素の各々が第3図の逆反射体の各サブアレイ内で対になって配置され

ていて、各対の要素は互いに180゜回転している(線対称で配置される)。

便宜上、一対の異なる要素は左側要素及び右側要素と呼ぶことができる。

このようにして、図示するサブアレイには合計32個のキューブコーナ逆

反射要素がある。溝側角は互いに独立に選択できるため、要素対は必要な

15 い。所望すれば要素は互いに全て異ならせることができる。第3図のアレ

イの要素対はアレイに使用する特定の繰返し溝パターン、例えば、a−b

パターンを隣接溝のb−aパターンに対して180゜回転させて生じる。

どのような繰返しパターンを使用しても、周期的パターンである限り、サ

ブアレイは全て互いに同じである。(同4頁左欄40行目ないし右欄22


20 行目)

「このことは、キューブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側

面をその直径形成面から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口

が実際上1個の光学開口として機能するものから、6個の副開口が独立に

機能して互いに特定位相関係を有するものへと変化することから証明さ

25 れる。副開口間の位相関係は光発散プロフィルに強い影響を及ぼす。効果

は出口開口内の振幅と位相の両関係を考慮するフーリエ分析等の方法に

44
より計算することができる」(同7頁左欄20行目ないし29行目)






5




10 」【第3図】
( )








15




20




」【第4図】
( )




25




45





5




10


」【第5図】
( )

イ 上記アによれば、乙89文献(乙9文献)には、交差する3組の隣接し

た平行V字溝により複数の切頭型のキューブコーナ逆反射要素が形成され

た逆反射体であって、3組のV字溝の各々の溝測角を異なる繰返しパター

15 ンとして、様々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイを

構成することが開示されている(第3図ないし第5図)。ここで、切頭型の

キューブコーナ逆反射要素では、3組のV字溝の溝測角を互いに異ならせ

ることにより、三つの二面角の大きさを互いに異ならせることができるこ

とは明らかであるから、上記第3図ないし第5図に例示されるようなサブ

20 アレイには、互いに異なる三つの二面角誤差を有する複数のキューブコー

ナ逆反射要素が隣接して配置されるものと認められる。

また、上記アによれば、キューブコーナ逆反射要素の面と面を垂直から

意図的に傾けることにより、キューブコーナ逆反射要素によって反射され

る光は6本の異なる交線に分割され、発散して広範な角度に光を拡散させ

25 ること(乙9文献の2頁左欄49行目ないし右欄13行目)、乙89文献

(乙9文献)に記載の発明は、物体から逆反射された光を所望のパターン

46
や光発散プロフィールに分布するように個々に製作可能な新型のキュー

ブコーナ逆反射体を提供するものであること(同3頁左欄5行目ないし7

行目)、キューブコーナ逆反射要素アレイに係る三つの横反射面を画成す

る3組の隣接した平行V字溝のうち、少なくとも1組のV字溝が、もう一

5 つの溝側角とは異なる少なくとも一つの溝側角を繰返して含むようにさ

れており、さらに、3組のV字溝のすべてが同じ組のもう一つの溝側角と

は異なる溝側角を繰返して含むようにされていること(同3頁左欄8行目

ないし30行目)、第3図に示された構成において、溝の半角誤差は、第1

組はa−b−b−aパターン、第2組はa−b−a−b−b−a−b−a

10 パターン、第3組はc−d−e−f−d−c−f−eパターンを有し、こ

れにより可能性として16個の別々な形状のキューブコーナ逆反射要素

からなるサブアレイが形成されること(4頁左欄40行目ないし右欄22

行目)、キューブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側面をそ

の直径形成面から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口が実際

15 上1個の光学開口として機能するものから、6個の副開口が独立に機能し

て互いに特定位相関係を有するものへと変化し、副開口間の位相関係は光

発散プロフィルに強い影響を及ぼすものであって、その効果は出口開口内

の振幅と位相の両関係を考慮するフーリエ分析等の方法により計算する

ことができること(同7頁左欄20行目ないし29行目) が記載されてい


20 ると認められる。

? 相違点Aに係る構成のうち、「該二面角誤差の大きさが1分〜60分であ

る」との点について

本件各発明(本件各訂正発明も同じ)の構成要件において、補正の上で引

用した原判決第2の2?ア、イのとおり、二面角誤差の大きさが1ないし6

25 0分の範囲であると規定されている(構成要件1−C4、4C−1)。

この点に関し、本件明細書には、
「素子は、好ましくは、1分〜60分の角

47
度の二面角誤差を有する。(段落【0019】
」 )と記載されているが、好まし

いとする根拠については何ら記載されていない。一方で、本件明細書に記載

された実施例においては、補正の上で引用した原判決第4の1?、原判決別

紙本件明細書図表目録のとおり、段落【0089】ないし【0098】に記

5 載された全ての実施例において、表5ないし表8記載のとおり、0.1分、

−0.5分、 8分等の1分未満の二面角誤差の実施例が記載されており、
0.

これらについては、いずれもスポットパターンは均一に分布し、本件各発明

の作用効果を奏するものとされている。上限値に関しても、上記のとおり構

成要件1−C4、4C−1はこれを60分とするところ、実施例に示された

10 二面角誤差の最大値は−19.8分であり(段落【0144】、表12)、上

限値を60分とする根拠に係る記載もない。さらには、本件明細書に記載さ

れた実施例から、上記構成要件記載の数値範囲内のみからなるスポットパタ

ーンを抽出してこれを比較したとしても、スポットパターンが均一に分布す

るとの作用効果を奏することが示される実施例は存しない(乙138の1)。

15 そうすると、本件各発明の構成要件に記載された上記二面角誤差の数値範

囲には、特段の技術的意義が認められないというほかなく、当業者の通常の

創作能力の発揮にすぎないものと認められる。

? 相違点Aに係る構成の容易想到性

上記?によれば、乙12記載従来技術は、再帰反射光が所望のパターンま

20 たは発散プロフィルに分布するようにキューブコーナ要素を個別に調整する

技術であって、キューブコーナ要素の三つの反射面のそれぞれに対応する溝

側面の機械加工において、溝の半角誤差を導入することで二面角の相互直交

性を崩す、つまり二面角誤差を導入するというものであると認められる。そ

して、この溝の半角誤差は一連の連続した平行溝側面に繰り返しパターンで

25 導入することができ、溝の半角誤差の典型的な大きさは±20角度分よりも

小さく、しばしば±5角度分よりも小さいものである(本件段落)。

48
また、本件段落(
【0051】)の記載によれば、乙12記載従来技術は、

「本出願に開示したキューブコーナ要素」、つまり乙12文献に開示された

キューブコーナ要素に適用されるものであるところ、乙12発明の基板でい

うキューブコーナ要素は、複合面b’e及びd’g並びに対向溝側面iによ

5 り形成されるPGキューブコーナ錐体206と、複合面a’f及びc’h並

びに対向溝側面jにより形成されるPGキューブコーナ錐体208とである

ところ、これらは、次のような溝側面の機械加工によって形成されるもので

ある。

すなわち、まず初期基板180において、軸186に沿って移動する切削

10 工具によって溝側面a及びbが形成され、軸188に沿って移動する切削工

具によって溝側面c及びdが形成される(乙12文献の図27)。

そして、面a-dの複製面a’-d’が形成された基板190において、軸1

94に沿って移動する切削工具によって溝側面e及びfが形成されることに

より複合面b’e及びa’fが形成され、軸196に沿って移動する切削工

15 具によって溝側面g及びhが形成されることにより複合面d’g及びc’h

が形成される(乙12文献の図28)。

さらに、軸202に沿って移動する切削工具によって対向溝側面i及びj

が形成されることにより、複合面b’e及びd’g並びに対向溝側面iから

なるPGキューブコーナ錐体206と、複合面a’f及びc’h並びに対向

20 溝側面jからなるPGキューブコーナ錐体208が形成される(乙12文献

の図29)。なお、対向溝側面i及びjが本件明細書でいう主要溝面「1」に

対応するものと認められる。

以上から、乙12発明の基板においては、複合面b’e及びa’fに対応

する軸194(軸186)に沿った溝側面、複合面d’g及びc’hに対応

25 する軸196(軸188)に沿った溝側面、並びに、対向溝側面i及びjに

対応する軸202に沿った溝側面の3方向の溝側面の、それぞれの機械加工

49
において、溝の半角誤差を導入することができることになるから、これによ

りPGキューブコーナ錐体206及び208の三つの二面角のそれぞれにつ

いて二面角誤差を導入することができるものと認められる。

また、3方向の溝側面はそれぞれ「一連の連続した平行溝側面」であるか

5 ら、3方向の溝側面のそれぞれについて繰り返しパターンを有する溝の半角

誤差を導入することができ、この場合、二面角誤差の組合せが互いに異なる

様々な形状のPGキューブコーナ錐体からなるサブアレイが構成されること

になる。

そうすると、乙12文献に接した当業者は、再帰反射光が所望のパターン

10 または発散プロフィルに分布するようにキューブコーナ要素を個別に調整す

るために、乙12発明の基板における3方向の溝側面のそれぞれに異なる繰

返しパターンを有する溝の半角誤差を導入することで様々な形状のPGキュ

ーブコーナ錐体を構成することに容易に想到するものと認められ、このよう

に構成された乙12発明の基板には、互いに異なる三つの二面角誤差を有す

15 る複数のPGキューブコーナ錐体が隣接して配置されることになることは明

らかである。

このことは、前記?のとおり、乙12文献に従来技術として記載された乙

89文献(乙9文献)の第3図に、3組の異なる溝の半角誤差のパターンの

組み合わせにより、16個の別々な形状のキューブコーナ逆反射要素からな

20 るサブアレイが形成されることが示されていることからも明らかといえる。

そして、相違点Aのうち、「該二面角誤差の大きさが1分〜60分である」

との部分については、前記?のとおり、数値範囲に特段の技術的意義が認め

られないから当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものと認められると

ころ、典型的な大きさとして本件段落に示された、±20角度分よりも小さ

25 くしばしば±5角度分よりも小さい溝の半角誤差を導入すれば、1分〜60

分の範囲に含まれる二面角誤差は、自然に生じるものと認められる。

50
したがって、乙12発明において、
「少なくとも1つのキューブが1−2二

面角誤差および1−3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブ

コーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差

が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1

5 分〜60分である」とする相違点Aに係る構成を採用することは、当業者が

容易に想到することができたものであると認められる。

よって、本件発明1は、乙12発明に基づいて、当業者が容易に発明をす

ることができたものである。

? 本件発明4について

10 本件発明4は、本件発明1の「少なくとも1つのキューブが1−2二面角

誤差および1−3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコー

ナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大

きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分〜

60分である」という部分が、
「少なくとも1つのキューブコーナー素子が1

15 分〜60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキュ

ーブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差

が互いに異なっている」とされているものである。そして、前記?(本件発

明1と乙12発明との対比)の「相違点A」に照らすと、本件発明4と乙1

2発明の相違点は、本件発明4では、上記のとおり二面角誤差が特定されて

20 いるのに対し、乙12発明では、PGキューブコーナ錐体の反射面がなす角

度にそのような特定はされていない点であると認められる。

乙12発明において、本件発明4の「少なくとも1つのキューブコーナー

素子が1分〜60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差

とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二

25 面角誤差が互いに異なっている」とする構成を採用することは、本件発明1

が容易想到であるのと同様の理由により、当業者が容易に想到することがで

51
きたものであると認められる。よって、本件発明4は、乙12発明に基づい

て、当業者が容易に発明をすることができたものである。

? 控訴人らの主張に対する判断

ア 控訴人らは、補正の上で引用した原判決第3の24(控訴人らの主張)

5 ?ア(ア)(前記第2の2?)のとおり、同じキューブコーナー素子であって

も、切頭型と完全キューブ型では、その形状の点だけでなく、製造方法

再帰反射効率の点においても大きく異なると主張する。

しかし、切頭型及び完全キューブ型は、いずれも立方体の角部のように

ほぼ直角に配置された三つの反射面により再帰反射をする点において、基

10 本的な作用・原理に違いはないことからすると、それら反射面の二面角誤

差が再帰反射光の分布に与える影響にも違いがないことは明らかである。

したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。

イ 控訴人らは、補正の上で引用した原判決第3の24(控訴人らの主張)

?ア(イ)(前記第2の2?)のとおり、溝の半角誤差は二面角誤差とは異な

15 るものであり、当業者が乙12文献の本件段落(【0051】)の記載に接

しても、キューブコーナー素子内における少なくとも二つの二面角誤差を

互いに異ならせることを想起し得ないと主張する。

しかし、溝の半角誤差と二面角誤差は、3組の溝側面の溝の半角誤差が

特定されれば三つの二面角誤差が一意に特定される関係にあり、前記?の

20 とおり、乙12文献が引用する乙89文献(乙9文献)には、3組のV字

溝の各々の溝測角を異なる繰返しパターンとして様々な形状のキューブ

コーナ逆反射要素からなるサブアレイを構成することが開示されており、

このようなサブアレイに互いに異なる三つの二面角誤差を有するキュー

ブコーナ逆反射要素が含まれることは明らかである。

25 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。

ウ 控訴人らは、補正の上で引用した原判決第3の24(控訴人らの主張)

52
?ア(ウ)(前記第2の2?)のとおり、乙89文献(乙9文献)には、一つ

のキューブコーナー素子内で二つまたは三つの二面角誤差を互いに異なら

せた場合に、どのような光発散プロファイルないしスポット図が得られる

かといった具体的な記載はないと主張する。

5 しかし、本件各発明は光発散プロファイルないしスポット図についての

要件を規定するものではなく、本件各発明の構成要件に規定された二面角

誤差の数値とスポットパターンの均一化の作用効果との関係が不明であ

ることについても前記?のとおりであり、控訴人らの主張は前提を欠くも

のというほかない。

10 したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。

? 小括

以上のとおり、本件各発明は、乙12発明に基づいて当業者が容易に発明

をすることができたものであり、無効である。

3 本件訂正による無効理由の解消の有無(訂正の再抗弁の検討)

15 ? 本件訂正の内容

本件訂正の内容は、補正の上で引用した原判決第2の2?、?のとおりで

ある。

なお、この点に関連し、被控訴人は、
「該二面角誤差が大きさ及び/又は符

号において変化しており、」の「該二面角誤差」が、多数ある二面角誤差のい

20 ずれを指しているのかが本件訂正により不明確となったため、本件訂正は、

実質上特許請求の範囲拡張し、又は変更するものであり、訂正要件に違反

する旨主張する。

しかし、本件訂正は、本件訂正前の「キューブコーナー素子」が複数隣接

して配置されることを限定するものであると認められ、二面角誤差について

25 の要件が「隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」につ

いての要件であることは明らかであるから、本件訂正は、訂正要件自体は満

53
たすものと認められる。

したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。

? 本件訂正による無効理由の解消の有無について

ア 本件訂正発明1と乙12発明との対比

5 乙12発明の「PGキューブコーナ錐体」及び「基板」は、本件訂正発

明1の「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。

また、乙12発明の「PGキューブコーナ錐体」は、
「前記複数のキュー

ブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接し

ているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行で

10 ある、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前

記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味」するという

要件を満たす。

したがって、本件訂正発明1と乙12発明との一致点(以下「一致点B」

という。)及び相違点(以下「相違点B」という。)は以下のとおりである

15 と認められる。

「一致点B

複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキュ

ーブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣

接しているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平

20 行である、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面

とは前記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味する、

物品。」

「相違点B

本件訂正発明1では、隣接している前記複数のキューブコーナー素子


25 のそれぞれが1−2二面角誤差および1−3二面角誤差を有し、ここで、

二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として

54
定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化して

おり、該二面角誤差の大きさが1分〜60分である』のに対し、乙12

発明では、それぞれのPGキューブコーナ錐体の反射面がなす角度にそ

のような特定はされていない点。」

5 イ 相違点Bに係る構成の容易想到性

本件訂正は、本件訂正前の「キューブコーナー素子」が複数隣接して配

置されることを限定するものであると認められるところ、既に述べたとお

り、乙12文献に接した当業者は、乙12発明の基板における3方向の溝

側面のそれぞれに異なる繰返しパターンを有する溝の半角誤差を導入す

10 ることで様々な形状のPGキューブコーナ錐体を構成することに容易に

想到するものと認められ、このように構成された乙12発明の基板には互

いに異なる三つの二面角誤差を有する複数のPGキューブコーナ錐体が

隣接して配置されることになることは明らかである。

したがって、乙12発明において、
「隣接している前記複数のキューブコ

15 ーナー素子のそれぞれが1−2二面角誤差および1−3二面角誤差を有

し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から

偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において

変化しており、該二面角誤差の大きさが1分〜60分である」とする相違

点Bに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到することができた

20 ことである。

よって、本件訂正発明1は、乙12発明に基づいて、当業者が容易に発

明をすることができたものである。

ウ 本件訂正発明4について

本件訂正発明4は、本件訂正発明1の「隣接している前記複数のキュー

25 ブコーナー素子のそれぞれが1−2二面角誤差および1−3二面角誤差を

有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度か

55
ら偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号におい

て変化しており、該二面角誤差の大きさが1分〜60分である」という部

分が、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分〜


60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキュー

5 ブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差

が互いに異なっている」とされたものである。そして、前記ア(本件訂正

発明1と乙12発明との対比)の「相違点B」に照らすと、本件訂正発明

4と乙12発明の相違点は、本件訂正発明4では、上記のとおり二面角誤

差が特定されているのに対し、乙12発明では、PGキューブコーナ錐体

10 の反射面がなす角度にそのような特定はされていない点であると認められ

る。

乙12発明において、本件訂正発明4の「隣接している前記複数のキュ

ーブコーナー素子のそれぞれが1分〜60分の範囲の3つの二面角誤差

を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度

15 から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なっている」とする構

成を採用することは、本件訂正発明1が容易想到であるのと同様の理由に

より、当業者が容易に想到することができたものであると認められる。よ

って、本件訂正発明4は、乙12発明に基づいて、当業者が容易に発明

することができたものである。

20 ? 控訴人らの主張に対する判断

ア 控訴人らは、前記第2の3?〔控訴人らの主張〕イ及びウのとおり、本

件訂正により、被控訴人が主張する乙12文献に基づく進歩性欠如の無効

理由が存在しないことがより明確に示されていることから、被控訴人が主

張する無効理由は解消されていると主張する。

25 しかし、本件訂正は、本件訂正前の「キューブコーナー素子」が複数隣

接して配置されることを限定するものであると認められるところ、既に述

56
べたように、乙12文献に接した当業者は、乙12発明の基板における3

方向の溝側面のそれぞれに異なる繰返しパターンを有する溝の半角誤差

を導入することで様々な形状のPGキューブコーナ錐体を構成すること

容易に想到するものと認められ、このようにして構成された乙12発明

5 の基板においては、互いに異なる三つの二面角誤差を有する複数のPGキ

ューブコーナ錐体が隣接して配置されることとなるのは明らかである。

したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。

イ 控訴人らは、前記第2の3?〔控訴人らの主張〕イ及びウのとおり、当

業者は乙12文献に接したとしても、隣接している複数のキューブコーナ

10 ー素子のそれぞれが有する三つの二面角誤差のうちの二つ(1−2二面角

誤差及び1−3二面角誤差)又は三つを互いに異ならせ、かつ二面角誤差

の大きさを1分〜60分とすることで、完全キューブ型の構成において、

再帰反射における反射光の分布を半径方向にも円周方向にもより均一にす

るという効果を奏することは、予測し得なかったと主張する。

15 しかし、切頭型と完全キューブ型では基本的な作用 原理に違いはなく、


二面角誤差が再帰反射光の分布に与える影響にも違いがないことは明ら

かであるところ、乙89文献(乙9文献)には、互いに異なる三つの二面

角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣接して配置された

構成が開示されていると認められ(乙89文献(乙9文献)の第3図ない

20 し第5図)、これにより物体から逆反射された光を所望のパターンや光発

散プロフィールに分布させることも記載されているから、再帰反射におけ

る反射光の分布を半径方向にも円周方向にもより均一にするという効果

が予測し得ないものであるとは認められない。加えて、そもそも、本件明

細書に記載された作用効果(図27ないし31)と本件各発明(本件各訂

25 正発明も同じ)の構成要件における二面角誤差の数値範囲との関係が明ら

かでないことは上記2?において検討したとおりであって、控訴人らの主

57
張はその前提を欠くものである。

したがって、控訴人らの上記主張は採用することができない。

ウ 控訴人らは、補正の上で引用した原判決第3の24(控訴人らの主張)

?イ(ア)(前記第2の2?)のとおり、乙9文献には二面角誤差についての

5 言及がなく、溝測角から二面角誤差を算出する方法の説明すらないことか

らすると、乙9文献から本件各発明に想到するということは、当業者が、

(@)あえて乙9文献の第3図に示された多数のキューブコーナー素子の

1個1個について、第X表に記載された溝測角の値から三つの二面角誤差

を算出し、
(A)しかも、その算出結果から、隣接するキューブコーナー素

10 子の三つの二面角誤差が、それぞれ本件発明に規定されている大きさや関

係にあり、
(B)それらの関係が、全体的かつ均一な反射の実現に貢献する

ことを見出したはずであるということに他ならないが、そのような動機付

けは存在しないから、被控訴人による乙9文献に基づく進歩性欠如の主張

は後知恵である旨を主張する。

15 しかし、乙9文献(乙89文献)に記載の技術は、交差する3組の隣接

した平行V字溝の各々の溝測角を異なる繰返しパターンとすることによ

り、様々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイを構成し

て、再帰反射光の分布を偏りにくくしようとするものであると理解できる

ところ、乙9文献の記載によれば、前記2?イのとおり、第3図に示され

20 た構成において、溝の半角誤差は、第1組はa−b−b−aパターン、第

2組はa−b−a−b−b−a−b−aパターン、第3組はc−d−e−

f−d−c−f−eパターンを有し、これにより可能性として16個の

別々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイが形成され

る(乙9文献の4頁左欄40行目ないし右欄22行目)ことが理解される

25 のであり、溝測角から二面角誤差を算出しなくても、互いに異なる三つの

二面角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣接して配置さ

58
れる構成であることは当業者であれば容易に理解できるといえる。

したがって、乙9文献(乙89文献)は進歩性判断の論理付けにおける

引用文献として用いられたものではないことを措くとしても、控訴人らの

上記主張は採用することができない。

5 エ 控訴人らは、補正の上で引用した原判決第3の24(控訴人らの主張)

?イ(イ)(前記第2の2?)のとおり、乙9文献には、隣接する複数のキュ

ーブコーナー素子のそれぞれにおいて、二つ又は三つの二面角誤差を互い

に異ならせ、これらの素子を組み合わせるという構成や、その構成により

全体的かつ均一な反射を実現するという本件各発明の技術的思想も一切、

10 開示も示唆もしていないと主張する。

しかし、前記のとおり、乙9文献(乙89文献)には、互いに異なる三

つの二面角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣接して配

置される構成が開示されており、その構成により物体から逆反射された光

を所望のパターンや光発散プロフィルに分布させるという技術的思想

15 開示されていると認められることに加え、そもそも、前記2?のとおり、

本件各訂正発明における構成(数値範囲)と本件明細書に記載された作用

効果との関係は不明であることから、本件各訂正発明が、控訴人らの主張

するような技術的思想のものであるとも認め難い。

したがって、控訴人らの主張は採用することができない。

20 ? 小括

以上のとおり、本件訂正によっても、乙12文献に基づく進歩性欠如の無

効理由は解消されないから、訂正の再抗弁は成立しない。

4 前記認定及び判断は、控訴人らのその余の補充主張によっても左右されるも

のではない。そうすると、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び4に係る

25 特許は無効であり、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの請求

はいずれも理由がない。

59
5 結論

よって、原判決は結論において相当であり、本件各控訴は理由がないからい

ずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

5




裁判長裁判官

10 中 平 健




15 裁判官

今 井 弘 晃




20


裁判官

水 野 正 則




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