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関連審決 無効2022-800002
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事件 令和 5年 (行ケ) 10078号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社CSイノベーション
同訴訟代理人弁護士 澤田将史 10 被告 ピクシーダストテクノロジーズ 株式会社
同訴訟代理人弁護士 関口智弘
同 長谷部陽平 15 同池田幸来子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 (注)本判決で用いる略語の定義は、本文中で別に定めるほか、次のとおりである。
本件審決 :特許庁が無効2022-800002号事件について令和5 年6月13日にした審決 本件特許 :被告を特許権者とする特許第6329679号 本件発明 :本件特許に係る発明の総称。各請求項に係る発明は、請求項25 の番号に対応して「本件発明1」などという。
本件明細書 :本件特許に係る明細書及び図面(甲1) 1 PDT社 :米国法人 Pixie Dust Technologies,inc. 本件見積書 :原告がPDT社宛に平成27年5月26日付けで作成した 「空中超音波集束装置 駆動回路 設計・検証」を件名とす る見積書(甲5の1) 5 甲204見積書:原告がPDT社宛に平成27年5月25日付けで作成した 「空中超音波集束装置 駆動回路 設計・検証」を件名とす る概算見積書(甲204) 本件試作機 :原告が製作し、平成27年11月にPDT社に納品した4台 の空中超音波集束装置(ソフトウェアを含む。)10 本件実験機 :AとBが平成27年4月以前に製作した空中超音波集束装置 (ソフトウェアを含む。) 実験機仕様書1:本件実験機に係る「ポータブル空中超音波集束装置 USB インタフェース 仕様書 Ver. 1.3」(甲122) 実験機取扱説明書:本件実験機に係る「ポータブル空中超音波集束装置 取扱15 説明書 Ver. 1.5」(甲123) 実験機仕様書2:本件実験機に係る「ポータブル空中超音波集束装置 駆動回 路 仕様書 Ver. 1.5」(甲124) 甲125論文 :Bが平成26年3月ころに発表した「超音波を集束させる装 置とその応用例」と題する論文(甲125)20 第1 請求 特許庁が無効2022-800002号事件について令和5年6月13日にし た審決を取り消す。
第2 事案の概要 本件は、特許無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、発明25 者の認定である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実) 2 ? 当事者等 ア 原告は、検査・計測機器及び装置の企画・開発・製造・販売等を目的と する株式会社であり、C(以下「C」という。以下の判決文中の他の個人 名も、2回目以降は氏のみで表記する。)はその代表取締役である(資格 5 証明書)。
イ 被告は、PDT社を前身とし、平成29年5月10日に設立された、音、
光、電磁波等の波動制御に関するソフトウェア及びハードウェアの研究 開発等を目的とする株式会社であり、A及びDはその代表取締役、Bは 取締役(技術担当役員)である(資格証明書、本件審決、証人B、弁論10 の全趣旨)。
? 特許庁における手続の経緯等 ア 被告は、発明の名称を「オーディオコントローラ、超音波スピーカ、オ ーディオシステム、及びプログラム」とする発明について、平成29年1 0月3日、特許出願をし、平成30年4月27日、本件特許に係る特許権15 の設定登録を受けた(請求項の数17)。本件特許の特許公報(甲1)に は、発明者として、AとDの2名が記載されている。
イ 原告は、令和4年1月20日、本件特許につき、@本件発明の真の発明 者はC及びEであり、被告は本件各発明について特許を受ける権利を有し ないから、被告の出願は冒認出願に当たる、A原告は前記の発明者らから20 特許を受ける権利承継しているから、被告の出願は共同出願違反(特許 法38条)に当たるとの無効理由を主張して、無効審判を請求した(無効 2022-800002号)。
ウ 特許庁は、令和5年6月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」 との本件審決をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された。
25 エ 原告は、同年7月21日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起し た。
3 2 本件発明の内容等 本件特許の特許請求の範囲(請求項1は以下のとおり)及び本件明細書の記 載は、別紙特許公報に記載のとおりである。
【請求項1】 5 少なくとも1つの超音波スピーカであって、且つ、複数の超音波トランス デューサを備える超音波スピーカ、及び、音源と接続可能なオーディオコン トローラであって、
前記音源からオーディオ信号を入力する手段を備え、
前記オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御10 するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する 位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記 制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える、
オーディオコントローラ。
3 本件審決の理由の要旨15 ? 本件発明の発明者について ア 発明者の認定の判断基準 特許発明の「発明者」といえるためには、特許請求の範囲の記載によ って具体化された特許発明技術的思想(技術的課題及びその解決手段) を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与したことを20 要するものと解するのが相当である。
イ 本件発明1の技術的思想 本件明細書の記載によれば、本件発明の技術的課題は、複数のスピーカ から構成されるオーディオシステムでは、各スピーカがリスナの周囲に配 置されるため、オーディオシステムの使用環境に制約があること(オーデ25 ィオシステムの使用環境の制約)である。
そして、本件明細書の記載によれば、焦点で集束した超音波は音源を 4 形成し、この音源から可聴音が発生し、つまり、超音波スピーカは任意 の位置に可聴音を発生させることができ(本件明細書【0040】。以 下、特に断らない限り、【 】内の番号は、本件明細書の段落番号を指 す。)、焦点位置を任意に決められるので、リスナの位置に関わらず、
5 超音波スピーカによる音をリスナに聴かせることができ、オーディオシ ステムの使用環境の制約を取り除くことができる(【0113】)。
本件発明1については、「オーディオ信号に基づいて、各超音波トラ ンスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なく とも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トラン10 スデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデュ ーサに出力する制御手段を備える」構成が、前記技術的課題を解決する 手段を基礎付ける部分(発明の特徴的部分)である。
ウ 本件発明1の発明者の認定 (ア) 本件見積書(甲5の1)の記載は、平成27年5月26日当時、P15 DT社のAが原告に依頼した内容と認められる。
本件見積書に記載された「フェーズドアレイAM変調スピーカ」とは、
アレイ配列の個々のスピーカから放射される「音声をAM変調した超 音波」が集束点で集束するような位相差を有するように、個々のスピ ーカを制御するものであり、従来技術に見られない新しい着想を示す20 ものである。
そして、スピーカを制御する具体的構成としては、オーディオコント ローラの制御手段が通常想定されるから、「フェーズドアレイAM変 調スピーカ」は、前記イの課題解決手段である、@オーディオ信号に 基づいて生成される「超音波トランスデューサを制御するための制御25 信号」を、各超音波トランスデューサについて個別に生成すること、
A少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超 5 音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波 トランスデューサに出力することを行う制御手段を備えることになる。
したがって、Aは、前記依頼より前に、既に本件発明1の技術的思想着想済みであり、また、当該着想を具体化した結果を予測すること 5 も可能であったといえる。本件発明のように技術的思想着想を具体 化した結果の予測が可能な技術分野においては、実際に物を製作して いなくても、発明を完成していたということができる。
(イ) これに対し、Cは、前記依頼の段階で「フェーズドアレイAM変調ス ピーカ」について知得した者であるし、Eは前記依頼の段階では関与10 していないから、C及びE(以下「Cら」という。)は、本件発明1 の技術的思想着想していないし、その着想を具体化することに創作 的に関与していない。
(ウ) したがって、Cらは、本件発明の技術的思想(技術的課題及びその解 決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与し15 た者ではないから、本件発明1の発明者ということはできない。
エ 本件発明2〜17の発明者の認定 本件発明1の課題解決手段を備えることを前提とし、さらに当該課題解 決手段を実施するための事項を特定した本件発明2〜17について、Cら が当該各発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又20 は、その着想を具体化することに創作的に関与したことを立証するに足る 証拠の提出や具体的な主張はなされておらず、Cらは、本件発明2〜17 についても、同様に発明者ということはできない。
4 審決取消事由 ? 冒認に係る判断の誤り(取消事由1)25 ? 共同出願違反に係る判断の誤り(取消事由2) 第3 当事者の主張 6 原告は、本件発明の発明者はCらであり、原告がCらから特許を受ける権利承継したことを前提に、本件特許には冒認(特許法123条1項6号)の無効理 由(取消事由1)又は共同出願違反(特許法38条及び123条1項2号)の無 効理由(取消事由2)が存在すると主張する。
5 これに対し、被告は、本件発明の特徴的部分を創作したのはA及びD(以下 「Aら」という。)であり、原告に本件試作機の製作を依頼する前に本件発明は 完成していたから、Cらは本件発明の発明者ではないと主張する。
したがって、本件の争点は、本件発明の発明者の認定(Aらが発明者であるか 否か)である。
10 1 発明者の認定の判断基準について (原告の主張) ? 発明は、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者 が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体 的・客観的なものとして構成されたときに、完成したと解すべきであるとさ15 れており(最高裁第一小法廷昭和52年10月13日判決・昭和49年(行 ツ)第107号・民集31巻6号805頁参照)、発明者とは、当該発明に おける技術的思想創作に現実に関与した者、すなわち当該発明の特徴的部 分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創 作活動に関与した者を指すものと解される(知財高裁平成28年2月24日20 判決・平成26年(行ケ)第10275号〔歯列矯正ブラケット事件〕、知 財高裁平成27年3月25日判決・平成25年(ネ)第10100号〔生体 吸収性の傾斜した多孔質複合体事件〕)。
? これに対し、本件審決は、「着想」段階に関与していたかどうかのみを問 題として発明者該当性を判断している。
25 また、「本件特許発明のように技術的思想着想を具体化した結果の予測 が可能な技術分野においては、実際に物を製作していなくても、発明は完成 7 していたということができる」との本件審決の判断も、後記のとおり、誤っ ている。
(被告の主張) ? 原告の主張?は認める。
5 ? 本件審決は、本件発明の特徴的部分の着想のみにとどまらず、その具体化 への創作的関与についても検討して判断しており、原告指摘の箇所も含め、
その判断に誤りはない。
2 本件発明の特徴的部分について (原告の主張)10 ? 本件発明の特徴的部分(主位的主張) ア 本件では、特許請求の範囲の記載が発明の技術的特徴を十分に捉えてい ない上、冒認出願が問題となる事例では、出願者の無理解により特許請求 の範囲や明細書の記載が不十分であるおそれが類型的に存在していること からも、発明者の認定に直接関わる特許発明の特徴的部分の認定に当たっ15 ては、特許請求の範囲の記載のみに囚われるべきではない。これを前提と すると、本件発明の特徴的部分は、次の@、Aのとおりであり、本件発明 の課題を解決するためには、いずれをも備えることが必要である。
なお、本件発明2〜17は、本件発明1の課題解決手段を実施するた めの具体的な事項を特定したものにすぎず、本件発明1を離れた独自の20 技術的意義を有しない。
@ 複数の超音波スピーカについて、任意の超音波の焦点位置と各超音 波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、焦点位置 で超音波が集束するように各超音波トランスデューサの駆動タイミン グ(位相差)を制御する信号を生成し(以下「原告特徴的部分@」と25 いう。)、
A 各超音波トランデューサからオーディオ信号に基づいた所望の信号 8 波形(信号値)を表した(オーディオ信号に基づいた強弱が表された) 同じ波形の超音波を当該駆動タイミング(位相差)で放射すること (以下「原告特徴的部分A」という。)。
イ 本件審決は、本件発明の特徴的部分を特許請求の範囲の記載内容に基づ 5 いて認定しているが、焦点で大きな音を発生させるためには、各超音波ト ランスデューサから焦点位置との距離に応じたタイミングで同じ音波形を 出す(音波形を揃える)ことによって、焦点位置で綺麗に音波形を重ねる ことが必要であるから、特許請求の範囲の記載内容だけでは、任意の焦点 位置において可聴音を発生させることはできず、本件発明の課題を解決す10 ることはできない。
被告は、1kHz の可聴音の例を挙げて、可聴音の位相制御を行わないこ とによる焦点位置における可聴音のずれは実用上無視することができると 主張するが、一般的に人が聞き分けることができる可聴音は16?から2 0kHz の範囲とされるところ、可聴音の周波数帯によっては、そのずれが15 わずかであるとはいえない。被告の主張によれば、結局のところ、波形が どの程度ずれていても構わないということになり、焦点位置で可聴音が発 生することが担保されない。
ウ 本件審決は、原告特徴的部分@のうち、各超音波トランスデューサの駆 動タイミング(位相差)を制御する信号が「音源を形成する超音波の焦点20 位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じ」た ものであることについて、超音波が任意の焦点位置で集束することができ れば本件発明の技術的課題は解決するから、当該位相差を特定するための 「距離」の「算出」自体は、技術的課題を解決するのに必須のものとはい えないと判断した。
25 しかし、焦点位置と各超音波トランスデューサとの距離を算出した上で 位相差を設定しない限り、超音波が任意の位置で集束する可能性は現実的 9 に皆無であって、本件明細書の記載(【0035】〜【0040】)をみ ても、位相差の形成方法において超音波トランスデューサ21c(n)と 焦点FPとの距離r(n)を計算して行われている。
? 本件発明の特徴的部分(予備的主張) 5 特許請求の範囲に記載された事項のみを本件発明の特徴的部分として捉え るとしても、中核的な要素は、「1つの位置で集束する位相差を有する超音 波」という部分である。
「集束」とは、一般的に「集めて束ねる」、「光線などが一点に集まる様 子」を意味する語であるところ、集めて束ねられるもの、一点に集まるもの10 は「同じもの」であることが当然の前提となっているから、超音波の場合、
同じ波形が1つの焦点位置で揃う場合にはじめて「集束」しているといえる。
また、超音波(音波)の性質上、複数の音源から出た音波が重なり合った 場合、2つの音波の密度高低(粗密)が揃っている箇所では音波同士が強め 合うのに対し、2つの音波の密度高低(粗密)が逆になっている箇所では音15 波同士が打ち消し合ってしまうことから、複数の音波の密度高低(粗密)が 揃って音波同士が強め合う場合、すなわち同じ波形が1つの焦点位置で揃う 場合にはじめて「集束」に該当すると考えるべきであり、密度高低(粗密) が揃わず、音波同士が打ち消し合ったり減衰したりするような場合は「集束」 しているとはいえない。
20 前記?イのとおり、焦点位置で可聴音を発生させるためには、可聴音の位 相を制御し、焦点位置で綺麗に音波形を重ねることが必要である。
したがって、本件発明の特徴的部分は「オーディオ信号に基づいて、各超 音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少 なくとも1つの焦点位置で『同じ波形が揃う』位相差を有する超音波を各超25 音波トランスデューサが放射するように、制御信号を、各超音波トランスデ ューサに出力する制御手段を備える」(以下「予備的特徴的部分」という。) 10 ことと解すべきである。
(被告の主張) ? 本件発明の特徴的部分 本件発明の特徴的部分は、本件審決が認定するとおり、「複数の超音波ト 5 ランスデューサのそれぞれを個別に制御する点」及び「少なくとも1つの焦 点位置で集束する超音波を放射するように、制御信号を出力する点」である。
? 原告の主張について 原告の主張する特徴的部分は、いずれも、本件発明の特徴的部分ではない。
ア 原告特徴的部分@は、@-1:「搬送波」に対するタイミングの制御と、
10 @-2:可聴音で変調された後の超音波に対するタイミングの制御に分け ることができる。
イ しかし、原告特徴的部分@-1(「搬送波」に対するタイミングの制御) は、焦点位置で集束する位相差を有する超音波を取得するために採られ得 る一手法にすぎない。
15 また、超音波を特定の焦点位置に集束させる技術は、従来技術・公知 技術であり、本件発明に特有の技術ではない。
ウ 原告特徴的部分@-2(可聴音で変調された後の超音波に対するタイミ ングの制御)は、焦点位置で可聴音を発生させるために必要な構成ではな い。
20 超音波(搬送波)と可聴音の両方の位相を制御する方法を用いると、位 相制御の計算が複雑化し、処理速度の低下等の問題が生じる。可聴音の位 相を制御せず、超音波(搬送波)の位相のみを制御することによっても、
焦点位置に超音波を集束させることによって可聴音を発生させるに十分に 強力な超音波を作り出すことは可能であり、焦点位置における可聴音のず25 れは、実用上無視することができるものである。
例えば、以下のような一辺が170oの正方形型で半径5oの超音波ト 11 ランスデューサを用いる超音波デバイスで、40kHz の超音波(波長8. 5o)を用い、中心から真上に200oの位置を焦点とする場合を想定す ると、正方形の角に接する超音波トランスデューサから焦点までの距離は、
中心からの距離よりも29.78o長いものとなる。
5 √2002 + 802 + 802 - 200 = 29.78 (小数点第三位以下切捨て。以下同じ。)10 そして、超音波(搬送波)のみの位相制御を行うと、以下のとおり、
可聴音の波長のずれは、最大で超音波の波長(8.5o)の4周期分と なる(超音波1が中心位置、超音波2が角に接する位置、超音波3、4 は中心からの距離が比較的近い超音波トランスデューサのものであ る。)。
12 40kHz の超音波の1周期は、例えば1kHz の可聴音の1周期の40分 の1であり、時間にすると4万分の1秒であるから、このようなわずかな ずれは、実用上無視することができるものである。
5 実際、本件実験機は、原告特徴的部分@-2を備えていないが(なお、
この点は本件試作機も同様である。)、後記のとおり、焦点位置で可聴音 を発生させることができた。
エ 原告特徴的部分A(変調)は、従来のパラメトリックスピーカに備わる 構成であり(特開2012-29096号公報(甲102)、乙18、
10 特開2009-290253号公報(乙19)等)、本件発明の特徴的 部分とはいえない。本件明細書においても、従来のパラメトリックスピ 13 ーカにおける変調とは異なる変調であることは、何ら記載されていない。
? 本件発明の特徴的部分(予備的主張)について 原告の主張のうち、超音波(音波)の性質については認めるが、その余は 否認する。
5 前記?ウのとおり、可聴音の音波形が「綺麗に」重なることは、焦点位置 で可聴音を発生させるための必須の要素ではない。
3 本件発明の発明者について (原告の主張) ? 本件試作機開発による発明の完成10 本件試作機は、本件実験機と異なり、本件 発明の特徴的部分を全て備 えて いるところ 、その開発は専ら Cら及び原告関係者において行 わ れ、
A らP DT社 の関係者 は関 与して いないか ら、 本件発明の特徴的部分を 当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成 する創作活動に関与した者、すなわち本件発明の発明者は、Cらである。
15 ? 本件試作機について ア 本件試作機の備える機能 本件試作機は、PDT社から提供を受けた超音波集束装置の欠陥の原 因を解明・解決すると同時に、超音波スピーカー機能を追加したもので あって、以下のとおり、本件発明の特徴的部分を備え、焦点位置でオー20 ディオ信号に基づいて任意の可聴音を発生させる機能を客観的に備えて いた。
(ア) 本件試作機では、超音波の1つの波に1つずつの音声データを組み 込んでいることから、超音波に対する位相の制御を行えば、焦点位置 で同じ波形が揃う(=集束する)ように超音波を放射することができ25 た(すなわち、搬送波の位相の制御と可聴音の位相の制御を同時に行 うものであった。)。
14 (イ) 超音波を集束させる役割を果たすプログラムについては、入力信号 を受けて変調し、超音波トランスデューサの制御を行って音声を乗せ た超音波を発振するFPGA(Field-Programmable Gate Array、プロ グラム可能な集積回路)搭載のプログラムをEが作成し、本件試作機 5 に搭載していた。このプログラムは、それぞれの超音波トランスデュ ーサごとに位相を設定して異なる位相で超音波を発振することができ る機能を備えていた。
したがって、本件試作機は、焦点位置と各超音波トランスデューサの 距離から各超音波トランスデューサの動作タイミング(位相差)を計10 算する数式(遅延数値)という、プログラムの知識を有する者であれ ば誰でも容易に入力することができる情報を追加するだけで、超音波 を特定の位置で集束させることができた。
(ウ) 仮に、位相制御が行われていなかったことを理由として本件試作機 が発明の特徴的部分を備えていないことになるとしても、前記(イ)から15 すれば、本件試作機を開発したCらが、本件発明の特徴的部分を当業 者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構 成する創作活動に関与したこと、すなわち、少なくとも共同発明者で あることは、否定されない。
イ 本件試作機開発の経緯について20 (ア) そもそも、PDT社から原告への当初の依頼事項は、既存の空中超音 波集束装置(本件実験機)の製品化であり、その際に併せて当該製品 のパラメトリックスピーカー化について依頼されたにすぎず、「フェ ーズドアレイAM変調スピーカ」の開発は含まれていなかった(甲2 04見積書)。
25 「フェーズドアレイスピーカー」は、本件試作機により原告が独自に 開発したものである。原告とPDT社との間のやり取りにおける「フ 15 ェーズドアレイスピーカー」とは、パラメトリックスピーカーのうち、
複数の超音波トランスデューサの位相を合わせ、焦点位置で可聴音を 発生させるという形の指向性を持たせたものを意味していた。
(イ) Cは、原告関係者との検討やBとのメールのやりとり(甲10)を 5 行った上で、平成27年5月26日、筑波大学のAの研究室で行われ た打ち合わせにおいて、「フェーズドアレイAM変調スピーカ」とい う新たな技術の提案を行い、これが本件見積書(甲5の1)に記載さ れた。
(ウ) 原告に依頼された内容は、原理レベルからの開発を含む試作機の開10 発であり、被告が主張するように、本件発明の完成後にその試作品の 製作を依頼されたというものではない。
PDT社側には、フェーズドアレイスピーカーに音声を乗せる具体的 な構想も技術もなかった。
? 本件実験機について15 本件実験機は、以下のとおり、本件発明の特徴的部分を備えるものではな かった。
ア 本件実験機は、そもそも、焦点位置で可聴音を発生させることができる ものではなかった。
(ア) 実験機仕様書2(甲124)の「4.1.4 変調部」の図4を見20 ても、出力のパルス幅は変更されておらず、可聴音はPWM変調され ていない。実験機取扱説明書(甲123)の6頁においても、出力強 度の箇所でPWMによって制御される旨が記載されているのみで、B の甲125論文においても同様であるから、本件実験機においては、
PWMは音圧=出力強度を変えるために用いられているだけである。
25 Bは、平成27年5月25日18時13分送信のメール(甲10)に おいて、強度の変調だけであることを認めている。
16 (イ) 被告提出の動画(甲112、113)は、いずれも、動画に録音され た音が焦点位置から発生していることを示すものではない。
イ 本件実験機は、原告特徴的部分A、予備的特徴的部分を備えていない。
本件実験機は、実験機仕様書2の図5、甲125論文の図8から明ら 5 かなとおり、時間差計算部(phase calculator)において計算した時間差 (phase)の情報を、超音波の音圧(power)をコントロールする波形生 成部(carrier_generator)にしか渡しておらず、周波数(freq)をコン トロールする変調部(modulator)には渡していない。この時間差の情報 に基づいて位相差が設けられるのであるから、本件実験機では、変調部10 による変調に搬送波と同様のタイミングの制御がされる(位相差が設け られる)構成とはなっていない。この結果、各超音波トランスデューサ から発せられる各々の音波形は、「同じ波形」ではなく「異なった音波 形」となり、焦点位置において綺麗に重なることはない。
この場合、任意の焦点位置において可聴音を発生させることができない15 ことは、前記2(原告の主張)?イのとおりである。
? 本件発明の特徴的部分が本件審決認定のとおりである場合について ア 本件実験機について (ア) 前記?アのとおり、本件実験機は、そもそも、焦点位置で可聴音を発 生させることができるものではなかった。
20 (イ) 被告の主張を前提としても、本件実験機は、0〜1023Hz の音が 鳴らせる程度のものである(実験機取扱説明書)。一般的に人が聞き 分けることができる可聴音は16Hz〜20kHz の範囲であり、500Hz 〜2kHz が中音域、2kHz〜20kHz が中高音域から超高音域とされてい るから 、 本件実験機は、中音域以降に対応することができておらず、
25 オーディオ環境の制約を取り除くという本件発明の課題を解決するこ とができるものではなかった。
17 (ウ) Bの甲125論文(3頁、図9)によれば、本件実験機が採用し ていた変調方式においては、可聴音の1波長ごとにON・OFF制 御(いわば50%のPWM制御)しているから、ON・OFF周期 で発生音の周波数(高さ)が決まり、1周波数の矩形波音となる。
5 こ れで は、音 声や 音楽 を再 生する こと はで きず 、 オーディオ環境の 制約を取り除くという本件発明の課題を解決することができるもので はなかった。
(エ) これに対し、本件試作機は、@10kHz 程度までは問題なく対応する ことができるため、可聴周波数帯に幅広く対応しており、A搬送波の10 一波長ごとにPWM変調をしているため、原理的に任意の音波形を再 現可能であって、オーディオ信号に基づいた可聴音を焦点位置で発生 させ、本件発明の課題を解決することができるものであった。
(オ) したがって、本件発明の特徴的部分が本件審決認定のとおりであると しても、Cらは、本件発明の発明者(少なくとも共同発明者)である。
15 イ 本件発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)の着想について (ア) 前記?イの経緯のとおり、本件見積書に記載された「フェーズドアレ イAM変調スピーカ」は、Cの提案によるものであり、Aの着想によ るものではない。
(イ) 前記のとおり、本件実験機は、任意の焦点位置でオーディオ信号に基20 づいて可聴音を発生させることができておらず、AやBには、フェーズ ドアレイスピーカーに音声を乗せる具体的な構想も技術もなかった。
(ウ) 発明者たり得る「着想」は、課題とその解決手段ないし方法が具体的 に認識され、技術に関する思想として概念化されたものである必要が あり、単なる「思いつき」では足りない。
25 本件見積書の「フェーズドアレイAM変調スピーカ」は、未だ単なる 思いつきのレベルであり、本件発明1の構成という具体的な課題解決 18 手段についての着想があったということはできない。Aのインタビュ ー記事(甲9)にある「新しい指向性スピーカー」についても同様で ある。
本件試作機において実際に採用された変調方式は、双方合意の上で 5 (甲109)、本件見積書に記載されたAM変調からPWM変調に変 更された。これは、原告による本件試作機の開発過程において、AM 変調方式によって所望の超音波波形を発生させるためには大掛かりな 電圧制御機構が必要となり、PDT社の超音波集束装置のような小型 化が不可能であると判明したためである。
10 このように、本件発明についての着想、すなわち一定程度の具体的な 解決手段についての着想は、Cらによる本件試作機の開発段階におい て認められるものである。
(エ) 本件発明は、技術的思想着想を具体化した結果の予測が可能な技術 分野に属するものではないから、着想のみで本件発明が完成していた15 とはいえない。
実際、PDT社が原告に本件試作機の製作を依頼した平成27年5月 26日時点において、当業者であるBは、本件実験機により本件発明 を実施することができていない。
また、本件特許の出願が平成29年10月3日に至ってからであるこ20 と等に照らしても、AやBが、着想のみでは本件発明が完成していな いと認識していたことが明らかである。
(被告の主張) ? 本件発明の特徴的部分を完成したのはAらであること 本件発明の特徴的部分(前記2(被告の主張)?)を、当業者が実施する25 ことができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動を行 い、本件発明を完成させたのは、以下のとおり、Aらである。
19 ア Bは、超音波トランスデューサの各振動子を個別に制御して振動のタイ ミングを遅延させることによって、位相制御により超音波を特定の焦点位 置に集束させる技術(以下「本件位相制御技術」という。)を利用した非 接触触覚ディスプレイを、遅くとも平成22年9月までに開発し(甲10 5 4)、平成24年9月12日から14日まで開催された学会において論文 を発表し(甲105)、超音波集束装置のデモ展示を行った。
Bが製作した超音波集束装置は、「超音波トランスデューサを個別に制 御する」構成及び「少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する 超音波を各超音波トランスデューサが放射するように・・・各超音波トラ10 ンスデューサに出力する制御手段」の構成を備えるものであった。
Aは、同年10月以降、Bと本件位相制御技術に関する共同研究を行い、
平成26年9月ころ、超音波集束装置により超音波を集束させた任意の場 所から意図的に音を発生させてスピーカーとして用いることも可能である という着想を得て、同年9月7日ころ、Bとの共同論文(甲107、ただ15 し未発表)をまとめるなどした。このようにして、Aらは、本件位相制御 技術をオーディオコントローラに適用することにより、本件実験機の実験 動画(甲112、113)が撮影された平成25年1月30日までには、
本件発明1を完成させていた。
本件実験機は、@超音波の焦点位置と各超音波トランスデューサとの距20 離を算出する機能、A本件位相制御技術に係る制御機能(超音波トランス デューサの各振動子を個別に制御して振動のタイミングを遅延させること によって、位相制御を実現し、位相制御によって集束超音波を放射する機 能)及びB超音波の変調を制御する機能を有するソフトウェアを搭載し、
焦点位置で可聴音を発生させることができるものであり(甲112〜1125 5)、本件発明の特徴的部分(前記2(被告の主張)?)を備え、発明の 課題を解決するものであった。
20 イ 本件実験機が信号変調のPWM制御を備えていたことは、実験機取扱説 明書(甲123)・6頁の「出力強度」「振動子を駆動する40kHz矩 形波のPWMによって制御される」という記載から明らかである。
また、実験機仕様書2(甲124)の図4は、制御信号のスイッチン 5 グ変調(スイッチング制御)を図示するものであり、PWM変調につい て説明するものではないが、スイッチング制御も制御信号の変調手段の 1つであり、その結果として超音波の振幅が変調されるから、本件実験 機が可聴音を発生する機能を備えていることを示している。
? 本件試作機について10 ア 本件試作機と原告特徴的部分について 仮に、原告特徴的部分が本件発明の特徴的部分であるとしても、以下の とおり、Cらが本件試作機の開発によって創作したものではない。
(ア) 原告特徴的部分@-1(「搬送波」に対するタイミングの制御)は、
原告に提供された実験機仕様書(甲124)に記載されているとおり、
15 本件実験機も備えるものである。
(イ) 原告特徴的部分@-2(可聴音で変調された後の超音波に対するタイ ミングの制御)は、本件試作機も備えていない構成であるから、Cらは 創作していない。
(ウ) 原告特徴的部分Aは、従来のパラメトリックスピーカにおける変調と20 異なるものではなく、仮に異なるとしても、どのように異なるかについ て原告の具体的な主張はないから、Cらによる創作はない。
イ 本件試作機開発の経緯について 原告は、Aらが本件発明1を完成させた後、その試作品製作の受託者 として関与したのみである。Cらは、本件発明1の特徴的部分である本25 件位相制御技術に関するソフトウェア製作も行っておらず、単に、Aら の指示に基づいて試作品を製作したにすぎない。
21 (ア) PDT社が原告に依頼したのは、本件発明1を実施するオーディオコ ントローラを備えた超音波スピーカーを製品化するための試作品の製作 であり、研究開発ではない。実際、原告との間で、共同研究開発契約等 が一切締結されていない。
5 (イ) PDT社は、平成27年4月、プロダクトデザイナーに依頼して製品 のプロダクトデザインを完成させた後、製品化のための試作機の製作を 原告に依頼した。
AとBは、原告側に対し、本件実験機を見せるとともに、実験機仕様 書1、実験機取扱説明書、実験機仕様書2のデータを提供し(甲1110 6〜125)、本件実験機のソフトウェアも提供している(甲126、
127)。
(ウ) Cが「フェーズドアレイAM変調スピーカ」という新たな技術の提 案を行った事実はない。
甲204見積書に記載されている「空中超音波集束装置 駆動部1式15 (4つ)」とは、非接触触覚ディスプレイやフェーズドアレイスピー カーといった様々な用途に用いることのできる汎用型(多機能型)の 超音波集束装置である。
そして、甲204見積書に「AM変調バージョンも視野にいれたプラ ットフォーム化を念頭に進めます。」と記載されているのは、発注し20 た装置自体は制御信号のAM変調機能が搭載されていない装置である が、Aらにおいて、今後実現したいと考えていたからである。
その後、平成27年5月26日の打ち合わせを経て本件見積書が作成 され、前記の汎用型(多機能型)の超音波集束装置を2台、ハードウ ェアの設計により制御信号のAM変調を行う、スピーカ ー特化型の25 「フェーズドアレイAM変調スピーカ」2台を発注することになった というのが、見積書の記載が変更された経緯である。
22 (エ) Aらは、発注時点では、試作品のハードウェア及びソフトウェアを全 て原告において製作することを依頼していたが、同年10月初めころ、
原告との協議の結果、ソフトウェアのうち本件発明1の特徴的部分で ある「超音波トランスデューサを個別に制御し、少なくとも1つの焦 5 点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサ が放射するように各超音波トランスデューサに出力する制御手段」 (本件位相制御技術)に関するソフトウェアについてはAらが製作し、
原告は、変調の制御に関するソフトウェアのみを製作することとなっ た(甲109)。
10 ? 本件発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)の着想について ア 前記?のとおり、Aらは、原告に本件試作機の製作を依頼する前に、本 件発明の技術的思想着想し、完成させていた。
イ Aは、平成27年4月20日に掲載されたインターネット記事(甲9) において、PDT社が、「新しい指向性スピーカー」として、「これまで15 ひとつの振動子からひとつの超音波を発していたのに対し、たくさんの振 動子から異なる周期で超音波を発する装置(フェーズドアレイ)に替え」、
「複数のスピーカーから異なる位相で超音波を発生させる」ことで、「超 音波の強く届く場所を動かせる」スピーカであり、「遠いところにいる人 にはこの説明、近づいてきた人にはこの説明といったように、それぞれに20 合った音声を聞かせることにも応用可能」な「より空間指向性の強い、よ りプログラミング自由度の高いスピーカー」を製造予定であると述べてい る。これは、本件位相制御技術をスピーカー(ないしオーディオコントロ ーラ)に適用するという本件発明を意味している。
第4 当裁判所の判断25 1 本件発明について ? 本件明細書 23 本件明細書には、次の記載がある。
ア 技術分野 本発明は、オーディオコントローラ、超音波スピーカ、及び、オーディ オシステムに関する(【0001】)。
5 イ 発明が解決しようとする課題 複数のスピーカから構成されるオーディオシステムでは、各スピーカが リスナの周囲に配置される。このようなオーディオシステムは、音源か ら入力されるオーディオ信号に対応する複数のチャネルを各スピーカに 割り当てることにより、臨場感のあるサウンドを再生することができる。
10 しかし、従来技術では、リスナの周囲に複数のスピーカを配置する必要 があるため、オーディオシステムの使用環境に制約があり、特に、リスナ の背後にスピーカを設置することが難しい使用環境では、使用することが できない。本発明の目的は、オーディオシステムの使用環境の制約を取り 除くことである(【0002】〜【0005】)。
15 ウ 課題を解決するための手段 (ア) 本発明の一態様は、少なくとも1つの超音波スピーカ、及び、音源 と接続可能なオーディオコントローラであって、前記音源からオーデ ィオ信号を入力する手段を備え、前記オーディオ信号に基づいて、前 記超音波スピーカが放射する超音波の焦点位置を制御する手段を備え20 る、オーディオコントローラである(【0006】)。
(イ) 本発明の一実施形態として、超音波スピーカ21は、オーディオコン トローラ10の制御に従って、超音波を放射するように構成される。
図3に示すように、放射面には、複数の超音波トランスデューサ21 cから構成されるフェーズドアレイFAが配置される。複数の超音波25 トランスデューサ21cは、XZ平面に配置される。超音波スピーカ 21は、各超音波トランスデューサ21cを駆動させる駆動部(不図 24 示)を備える。駆動部は、複数の超音波トランスデューサ21cを個 別に駆動し、各超音波トランスデューサ21cは、駆動部の駆動によ り振動し、超音波が発生する。超音波スピーカ21は、例えばAM (Amplitude Modulation)変調、FM(Frequency Modulation)変調、
5 PM(Phase Modulation)変調など、所定の変調方式で変調した超音波 を放射する。複数の超音波トランスデューサ21cから放射された超 音波は、空間上を伝播し、空間上の焦点で集束する。焦点で集束した 超音波は、可聴音の音源を形成し、任意の位置に可聴音を発生させる ことができる(【0019】、【0025】〜【0027】、【0010 33】、【0040】)。
【図3】超音波スピーカの概略構成図15 【図6】本実施形態の超音波スピーカの動作例1の説明図 25 エ 発明の効果 本発明によれば、オーディオシステムの使用環境の制約を取り除くこと ができ、一例として、焦点位置を任意に決められるので、リスナLの位置 5 に関わらず、超音波スピーカ21による音をリスナLに聴かせることがで きる(【0007】、【0113】)。
? 超音波から可聴音が聴こえるようにする仕組みについて 別紙「超音波から可聴音が聴こえるようにする仕組み」のとおり(弁論の 全趣旨)。
10 ? 超音波スピーカー(パラメトリックスピーカー)に関する従来技術文献の 記載(【 】内の番号は、各公開特許公報の段落番号を示す。) ア 特開2012-29096号公報(甲102) (ア) パラメトリックスピーカは、変調された音声信号を発振後に復調する ことにより、可聴域の音を再生するものである。パラメトリックスピ15 ーカは、指向性スピーカなどとも呼ばれ、出力される音の指向性が強 いという特徴がある。このため、パラメトリックスピーカを用いるこ 26 とにより、特定の領域に選択的に音場を形成することが可能である (【0002】)。
(イ) パラメトリックスピーカ10は、複数の発振源それぞれからAM変 調やDSB変調、SSB変調、FM変調をかけた超音波(輸送波)を 5 空気中に放射し、超音波が空気中に伝播する際の非線形特性により、
可聴音を出現させるものである(【0033】)。
イ 「A review of parametric acoustic array in air」と題する論文(2 012年、乙18)の抄訳 「 空中でパラメトリックアレイ効果を生成するためには、変調された信10 号を超音波発信器に供給する前に増幅する必要があります。…先行する FPGA実装では、DACを必要とせず、パルス変調ブロックを使用し てデジタル変調信号を直接パルス列に変換することができます。一般的 に使用されるパルス変調技術には、バルス幅変調(PWM)とパルス密 度変調(PDM)があります。」15 ウ 特開2009-290253号公報(乙19)(注:下線は当裁判所が 付記した。) (ア) 従来、特定範囲の空間に可聴音を発生させる装置として、超音波に対 する空気の非線形性を利用したパラメトリックスピーカーが提案されて いる。このパラメトリックスピーカーの基本的な構成の例として、…搬20 送波発振器から発生した超音波を可聴音信号源から発生した可聴域信号 で振幅変調(注:AM変調)し、振幅変調された搬送波としての超音波 をパワーアンプを経て超音波振動子から空中に放射するようにしている。
空中に放射された超音波(1次波)は、搬送波と上下の側帯波とが空気 中で非線形相互作用を起こし、超音波伝搬路に沿って変調信号が自己復25 調されて可聴音(2次波)が発生するのである(【0002】)。
(イ) ところで、パラメトリックスピーカーは、1次波から2次波への変換 27 効率が低いことから、スピーカーとして実用レベルの可聴音を得るには 相当高い音圧で1次波を放射する必要がある。その為、超音波振動子へ の入力が最大60Vppに達することもあり、大規模な回路が必要にな って消費電力が大きくなると共に、発熱面、コスト面で問題を抱えてい 5 た(【0003】)。
(ウ) 本発明は前記課題を解決するために、超音波周波数帯域のパルス信 号から成る搬送波信号を発生する搬送波信号発生部と、可聴周波数帯 域の可聴音信号を入力する可聴音信号入力部と、該可聴音信号入力部 に入力される可聴音信号の信号レベルに応じて前記搬送波信号をパル10 ス幅変調(注:PWM変調)し、被変調信号として出力するパルス幅 変調部と、該パルス幅変調部から出力される被変調信号を受けて超音 波として媒質中に放射する超音波振動子とを備え、媒質の非線形特性 により可聴音を再生することを特徴とするパラメトリックスピーカー を提案する(【0005】)。
15 (エ) 本発明によれば、超音波周波数帯域のパルス信号を可聴音信号でパ ルス幅変調して被変調信号とし、この被変調信号を超音波振動子に入 力して超音波として放射するので、従来のようにアナログ電気信号を 振幅変調するものに対して、電気信号をデジタル処理することができ る。従って、電力効率を大幅に向上させて発熱の抑制が可能になると20 共に、回路規模を簡単に構成することができる(【0007】)。
2 本件発明の特徴的部分について ? 発明者とは、当該発明における技術的思想創作、とりわけ従前の技術的 課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者、すなわ ち当該発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体25 的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すものと解され る。
28 ? しかるところ、本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記1?の本件明細 書の記載によれば、本件発明の課題は、複数のスピーカから構成され、各ス ピーカをリスナの周囲に配置する必要があるオーディオシステムにおいて、
例えば、リスナの背後にスピーカを設置することができないときは、このよ 5 うなオーディオシステムを利用することができなくなる等といった使用環境 による制約を取り除くことである。
前記1?、?によれば、可聴音の音波形に沿って変調した超音波(搬送波) が空気中を伝わると可聴音を発生させる(自己復調)という現象を利用した、
複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ(パラメトリックス10 ピーカ)自体は、本件特許の出願日(平成29年10月3日)、さらには原 告が本件試作機の開発を受注した平成27年5月、被告がAらにおいて本件 発明を完成させたと主張する平成25年1月ころにおいても、周知の技術で あったと認められる。
本件発明1は、このような周知の技術を前提に、特許請求の範囲に記載さ15 れたオーディオコントローラにより、任意に定めることができる焦点位置 (【0113】)のリスナに音を届けることを可能にし、前記課題を解決す るものである。すなわち、特許請求の範囲のうち、オーディオコントローラ が「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御す るための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位20 相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制 御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」という 部分は、本件発明の課題を解決する発明の特徴的部分であると認められる。
原告は、発明者の認定に直接関わる特許発明の特徴的部分の認定に当たっ ては、特許請求の範囲の記載のみに囚われるべきではない旨主張するが、発25 明者の認定が問題となる特許発明の内容は、特許として保護される技術的範 囲により特定されるのであり、特許発明技術的範囲は、特許請求の範囲の 29 記載により決められるべきもの(特許法70条)であるから、原告の主張は、
採用することができない。
そして、本件発明2〜14は、本件特許の請求項1の従属項に係る発明で あって、本件発明1のオーディオコントローラをさらに特定するものであり、
5 本件発明15〜17は、それぞれ、本件発明1〜13を実施するための超音 波スピーカ、オーディオシステム、(コンピュータ)プログラムを特定する ものであるから、本件発明1の特徴的部分は、本件発明2〜17においても、
発明の特徴的部分であると認められる。
? これに対し、原告は、本件発明の特徴的部分は、
10 @ 複数の超音波スピーカについて、任意の超音波の焦点位置と各超音波ト ランスデューサとの距離を算出し、当該距離に応じて、焦点位置で超音波 が集束するように各超音波トランスデューサの駆動タイミング(位相差) を制御する信号を生成し(原告特徴的部分@)、
A 各超音波トランデューサからオーディオ信号に基づいた所望の信号波形15 (信号値)を表した同じ波形の超音波を当該駆動タイミング(位相差) で放射すること(原告特徴的部分A) であり、予備的に、特許請求の範囲の記載を前提としても、
B 少なくとも1つの焦点位置で『同じ波形が揃う』位相差を有する超音波 を各超音波トランスデューサが放射するように、制御信号を、各超音波20 トランスデューサに出力する制御手段を備えること(予備的特徴的部分) であって、これらを備えなければ、任意の焦点位置で可聴音を発生させるこ とはできない旨主張するので、以下検討する。
ア 原告特徴的部分@について 複数の各超音波トランスデューサが放射する超音波を1つの(特定の)25 焦点位置で集束させるためには、前提として、特定の焦点位置と各超音波 トランスデューサの距離及びその差を計算する必要があることは、別紙 30 「超音波から可聴音が聴こえるようにする仕組み」の2に記載されている とおりである。また、超音波トランスデューサの各振動子を個別に制御し て振動のタイミングを遅延させることによって位相制御を実現し、位相制 御によって集束超音波を放出する技術(本件位相制御技術)は、平成27 5 年5月以前に公知となっていた技術であると認められる(甲105、12 5、129)。そうすると、焦点位置と各超音波トランスデューサの「距 離及びその差」に基づいた計算を行うこと自体は、「少なくとも1つの焦 点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放 射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制10 御手段」が当然に備えることが通常想定されるものであり、本件発明1の 特徴的部分であるということはできない。
なお、原告の主張する「任意の超音波の焦点位置と各超音波トランス デューサとの距離を算出し」という点が、本件明細書の段落【0037】 にあるように、実際のリスナLの位置をリスナ位置検出部25により検15 出して焦点座標を決定することを指すのであれば、本件審決が述べると おり、任意の焦点位置に対応する位相差を取得するための一手法という べきであって、本件発明の技術的課題を解決するために必須のものとは いえない。
イ 原告特徴的部分A及び予備的特徴的部分について20 (ア) 原告特徴的部分Aは、各超音波トランスデューサの位相制御は、超音 波(搬送波)の周期のみではなく、可聴音に自己復調するよう変調した 後の波形(以下、便宜上「可聴音の波形」という。)が焦点位置で集束 するような位相差で放射することをいうものであり、予備的特徴的部分 は、実質的に同内容を主張するものである。
25 そこで、焦点位置で可聴音を発生させるため、同じ可聴音の波形が焦 点位置で集束する必要があるか否かについて検討する。
31 (イ) 被告は、前記第3の2(被告の主張)?ウのとおり、一辺が170o の正方形型で、半径5oの超音波トランスデューサを用いる超音波デ バイス(超音波トランスデューサの数は、17×17=289個程度と 考えられる。)により、40kHz の超音波(波長8.5o)を用い、中 5 心から真上に200oの位置を焦点とする場合を想定し、超音波(搬 送波)のみの位相制御を行うと、可聴音の波形のずれは、最大で超音 波の波長(8.5o)の4周期分となるとするところ、この計算自体 は相当と認められ、原告も争っていない。
周波数の単位ヘルツ(Hz)は、周期的変化をする現象が1秒間に何回10 繰り返されるかを示す数値であり、40kHz の1周期は時間にすると4 万分の1秒(4周期で1万分の1秒)であるから、可聴音の波形のず れの時間差自体はわずかなものである。
音波には、複数の音源から出た音波が重なり合った場合、2つの音波 の密度高低(粗密)が揃っている箇所では音波同士が強め合うのに対15 し、2つの音波の密度高低(粗密)が逆になっている箇所では音波同 士が打ち消し合う性質があるが(別紙「超音波から可聴音が聴こえる ようにする仕組み」の1?)、実際の音波の形状は、音の高低、強弱 により変わるから、自然復調した複数の可聴音について1万分の1秒 の波形のずれが生ずることにより、音波同士が打ち消し合う関係にな20 る可能性は低いと考えられる。
(ウ) さらに、被告が例とした超音波デバイスでいえば、前記のとおり超音 波トランスデューサの数は289個と考えられ(なお、本件実験機に おいては285個(甲122〜124)。)、中央に位置するものか らみて角よりも近い位置には多数の超音波トランスデューサがあるこ25 とになる。これら多数のものを基準とすれば、全体の可聴音の波形は 相当割合が揃うか、ずれがあるとしても超音波の波長(8.5o)の 32 1〜2周期分程度にとどまることになると考えられる。
また、被告が挙げた例において、焦点距離を1mとした場合(オーデ ィオシステムとして十分想定される距離である。)には、以下の計算 式のとおり、焦点までの距離の差は最大で約6.37oとなり、超音 5 波の波長(8.5o)より短いものとなる。このように、焦点距離が 長くなるほど、各超音波トランスデューサから焦点距離までの距離の 差は、短いものとなる。
√10002 + 802 + 802 - 1000 = 6.37 (エ) 以上を総合すると、超音波(搬送波)の周期の位相制御のみを行い、
10 可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相制御を行わないことに よる影響の程度は、焦点との距離、超音波スピーカの大きさ、超音波 トランスデューサの個数及び変調される可聴音の周波数によって異な るものであるが、可聴音の波形のずれは、被告が挙げた例において、
焦点距離200oの場合に最大でも1万分の1秒(超音波の波長の415 周期分)というわずかなものにすぎない上、多数の超音波トランスデ ューサから放射されて自己復調される可聴音の波形は、多くが揃った ものとなるか、ごくわずかなずれにとどまる場合が多いと考えられる から、一部の周波数成分が打ち消しあったり、可聴音の波形の位相制 御を行った場合より音量が小さくなることはあっても、完全に打ち消20 しあうことはなく、可聴音を発生させること自体は可能であると認め られる。
(オ) なお、原告は、「集束」の辞書的な意味や前記の音波の性質から、本 件発明1の「集束」は、可聴音の波形も含めて「同じ波形が揃う」こ とを意味すると解すべきと主張する。
25 しかし、請求項1の文言は、「超音波」の集束を規定するものと認め られるし、本件明細書の記載をみても、変調後の可聴音の波形に触れ 33 た記載は見当たらないことから、原告の主張は採用することができな い。
? 以上のとおり、本件発明の特徴的部分に関する原告の主張は、いずれも採 用することができず、本件発明の特徴的部分は、前記?のとおり、「オーデ 5 ィオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制 御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有す る超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、
各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」部分であると認め られる。
10 3 本件発明の発明者について ? 本件発明の発明者について 原告は、@本件発明の特徴的部分(原告特徴的部分@、A又は予備的特徴 的部分)を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なもの として構成する創作活動に関与したのは、本件試作機を開発したCらであり、
15 A仮に本件発明の特徴的部分が前記2?のとおりであるとしても、本件実験 機は焦点位置で一般的なオーディオ音源の可聴音を発生させるものではなく、
一定程度の具体的な解決手段についての着想を行ったのは本件試作機を開発 したCらである等として、Cらが本件発明の発明者(少なくとも共同発明者) であると主張する。
20 ? 本件実験機について ア Bは、超音波を含む波動制御技術を専門とする研究者であり、平成20 年に東京大学大学院情報理工学博士課程を卒業し、同大学院の研究室、熊 本大学大学院助教等を歴任した。Bは、博士課程在学中から、超音波トラ ンスデューサの各振動子を個別に制御して振動のタイミングを遅延させる25 ことによって、位相制御により超音波を特定の焦点位置に集束させる技術 (本件位相制御技術)の研究と、超音波の音響放射圧を利用した触覚ディ 34 スプレイの開発を行っており、平成24年9月に開催された日本バーチャ ルリアリティ学会において、「非接触インタラクションのための小型超音 波集束装置」と題する論文を発表するとともに、自作の超音波集束装置の 展示を行った。同学会に出席していたAは、同年10月以降、Bと共に本 5 件位相制御技術に関する共同研究を行うとともに、超音波集束装置である 本件実験機の開発、改良を進めた(甲104、105、107、112、
113、129、乙24〜26、証人B)。
イ 本件実験機が、@PDT社が原告に本件試作機の開発を依頼する平成2 7年5月より前に製作されていたこと、A各超音波トランスデューサから10 放出される超音波を一定の任意の位置に集束させるものであって、本件発 明の特徴的部分のうち、「各超音波トランスデューサを個別に制御するた めの制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相 差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制 御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」15 (注:制御信号が「オーディオ信号に基づ」くものである点は、ひとまず おく。)ものであったことは、証拠(甲122〜125、原告代表者C本 人、証人B)から優に認められ、当事者間にも争いがない。
ウ そこで、本件実験機が焦点位置で可聴音を発生させることができるもの であったか否かについて検討する。
20 (ア) Bは、本件実験機について、平成24年4月から6月にかけて、実 験機仕様書1、実験機取扱説明書及び実験機仕様書2を作成し、平成 27年1月31日まで順次改訂するとともに、平成26年3月、甲1 25論文を発表した(甲122〜125)。
(イ) 実験機取扱説明書には、次の記載がある。
25 「1 概要 本デバイスは空間中の1点に超音波焦点を形成する。PCから 35 の制御はUSBインタフェースを介して行われる。『出力コマンド +焦点座標+出力強度+変調周波数+振動子間隔』を受け取ると、
その位置に焦点を結ぶための各振動子の適切な位相を計算し、矩形 波で振幅変調された超音波を出力する。」 5 「表1 各種パラメータの値 …変調周波数 DCおよび1〜1023Hz(1Hz 刻み)」 (ウ) 実験機仕様書2には、次の記載がある。
「1 概要 …駆動回路の役割は、PCからの指令に応じて振動子285個分10 の駆動波形を生成することである。本デバイスは空間中の1点に超 音波焦点を形成する。焦点位置はx座標、y座標、z座標の組で指 定する。」 「1.1 ブロック図 …FPGAはPCからの出力コマンドと焦点座標、出力強度、変15 調周波数のデータを受け取ると、各振動子から焦点までの距離にも とづいて適切な位相を算出し、超音波波形(40kHz 矩形波)を生 成する。」 「4.1.3 波形生成部 振動子285個分の駆動波形を生成して出力する。」20 「4.1.4 変調部 変調周波数に応じた矩形波mclkを生成し、アンプ回路へのイ ネーブル信号として出力する。
36 図4 搬送波 40kHz とイネーブル信号 OE と出力波形の関係」 (エ) 甲125論文には、次の記載がある。
「2.開発した装置 …本装置は超音波焦点を発生させ、三次元的に動かすことがで 5 きる(空間的な制御)。またPWM変調による超音波強度の調節や、
AM変調による振動の出力が可能である(時間的な制御)。」 「 …座標値から各振動子の時間差を算出する。その結果にもとづい て、出力強度に応じたPWM制御を施した駆動信号(40kHz 矩形波) を生成する。また変調周波数にもとづいて超音波をAM変調するため10 の矩形波を生成する。…AM変調用の矩形波の Duty 比は 50%とし、
変調周波数は 0〜1,023Hz を1Hz 刻みで指定できるものとしている。
」 「4.強力超音波 超音波の音圧が高いときに顕著に現れる現象がいくつか知られて15 いる。…本装置は超音波を集束させて強力な超音波を発生させ、こ れらを利用することができる。… 4.1 音響放射圧 … 4.2 自己復調20 超音波から可聴音が生じる現象であり、超指向性スピーカ(パラ メトリックスピーカ)の基礎原理である。AM変調やFM変調など 37 で超音波 p [Pa]の波形が変化するとき、二次波 p s [Pa]が放射され る。二次波 p sの波動方程式は以下の式で与えられる。…すなわち、
超音波が変動するとき、その空間自体が音源としてふるまう。
4.3 音響浮揚 5 …」 (オ) 以上の各記載から、本件実験機は、変調周波数1〜1023Hz の範 囲(1Hz 刻み)で変調された矩形波(初期のテレビゲームの電子音の ような音)を出力することが可能であり、その範囲では、焦点位置で 可聴音を発生させることができたと認められる。
10 また、本件実験機の動画(甲113)の内容は、前記認定とも整合 するものである。この動画は、「本来は空中に力を発生させる装置で すが 超音波を振幅変調することで可聴音も出せます 今回は簡単の ため超音波のON/OFFだけで 指定した周波数の矩形波を鳴らし ています 演奏データは楽譜を見ながら手作業で作りました」との説15 明文とともに、2台の本件実験機が、その下に置かれた液体の表面の 複数箇所を順次凹ませ(焦点位置と認められる。)、これに合わせて 単音の電子音の音楽が流れるものであるところ、動画のみからは可聴 音が焦点位置で発生していることまでは不明であるものの、前記(イ)か ら(エ)の各記載内容と併せると、焦点位置でこの動画に現れた程度の可20 聴音を発生させることができたとしても、不自然ではない。
エ これに対し、原告は、@実験機仕様書2の「4.1.4 変調部」の記 載等は、PWM変調が音圧=出力強度を変えるために用いられることを 示しているにすぎない、AAやBが作成したとされる動画(甲112、
113)は、焦点位置から可聴音が発生していることを示すものではな25 い旨主張する。
しかし、@の点については、前記の実験機仕様書1、実験機取扱説明書、
38 実験機仕様書2及び甲125論文の記載を総合すると、本件実験機が変 調周波数1〜1023Hz の範囲(1Hz 刻み)で変調された矩形波を出力 し、1023Hz 以下の可聴音を発生させることが可能であったと認めら れるし、Aの点については、前記ウ(オ)で述べたとおりである。
5 また、原告は、B本件実験機は、変調部による変調に搬送波と同様のタ イミングの制御がされる(位相差が設けられる)構成となっておらず、
原告特徴的部分A、予備的特徴的部分を備えていないから、任意の焦点 位置において可聴音を発生させることができないと主張する。
この点、本件実験機が原告特徴的部分A、予備的特徴的部分を備えてい10 ないことは当事者間に争いがないが、そうであっても任意の焦点位置に おいて可聴音を発生させることができることは、前記2?イのとおりで ある。
オ 以上によれば、本件実験機は、1023Hz 以下の範囲(1Hz 刻み)で 変調された矩形波の可聴音(初期のテレビゲームの電子音のような音)15 という制約はあるものの、任意の焦点位置において可聴音を発生させる ことができるものであったと認められる。
? 本件試作機とその開発経緯について ア 本件試作機について 証拠(原告代表者C本人及び陳述書(甲210、214)、証人B及20 び陳述書(甲129、乙26)のほか、以下に掲げる証拠)及び弁論の 全趣旨によれば、Cらが開発した本件試作機は、以下のものであったと 認められる。
(ア) 本件試作機は、PDT社があらかじめプロダクトデザイナーに依頼 して作成していた筐体に組み込んだものであった(甲5の1、甲2025 4、211の1〜3)。
(イ) 本件実験機のソフトウェアは、パソコンとFPGAに搭載されたプ 39 ログラムであったのに対し、本件試作機においては、マイコンボード GR-SAKURAによる処理とFPGAが採用された(甲39、1 17、118、123、211の1〜3)。
(ウ) 可聴音の音波形に変調させる際の方式はPWM変調とし、変調部に 5 おいて搬送波と同様のタイミングの制御を設ける構成であった(甲2 09)。
(エ) ただし、本件試作機は、超音波トランスデューサを個別に制御し、変 調した超音波を異なる位相で発振することができるFPGA搭載のプ ログラムを搭載していたものの、発振した超音波を焦点に集束させる10 ための位相制御のプログラムは搭載していなかった(甲109、11 0)。
(オ) 前記(エ)の位相制御のプログラムを加えれば、本件試作機は、10kHz 程度までの任意のオーディオ信号に基づく可聴音を焦点位置で発生さ せることができるものであって、本件見積書に記載された課題(ES15 (エンジニアリングサンプル)を製造するために、耐久性、安全性と 課題解決(発火及び共鳴音発生要因解明と解決を含む))をも解決し たものとして、PDT社に納品された。
イ 本件見積書記載の「フェーズドアレイAM変調スピーカ」の着想につい て20 (ア) 本件試作機の開発において、「フェーズドアレイスピーカー」とは、
パラメトリックスピーカーのうち、複数の超音波トランスデューサの 位相を合わせ、焦点位置で可聴音を発生させるという形の指向性を持 たせたものを意味していた(弁論の全趣旨)。
(イ) 前記?ウ(エ)のとおり、Bは、平成26年3月ころに公表した甲1225 5論文において、超音波を焦点位置で集束させて強力な超音波を発生 させる本件実験機の利用方法の一つとして、「超指向性スピーカ(パ 40 ラメトリックスピーカ)」を挙げている。
(ウ) Aは、原告に本件試作機を発注する前の平成27年4月20日付けの インターネット記事のインタビューにおいて、本件試作機と同じ筐体 デザインの指向性スピーカー「Pixie Dust」を発売予定であり、焦点で 5 集束した超音波により物体を浮かせ、その場所を自由に移動させられ ることに続けて、「新しい指向性スピーカーにもなる」、「遠いとこ ろにいる人にはこの説明、近づいてきた人にはこの説明といったよう に、それぞれに合った音声を聞かせることにも応用可能」、「より空 間指向性の強い、よりプログラミング自由度の高いスピーカー」など10 と述べている(甲9)。
(エ) そうすると、AとBは、PDT社が原告に本件試作機を発注する前か ら、「フェーズドアレイスピーカー」の着想を得ていたと認められる。
前記のとおり、AとBは、超音波の研究者であって、従来技術である パラメトリックスピーカーの基本原理も認識していたと認められ、ま15 た、一定の制約があるとはいえ、焦点位置で可聴音を発生させること ができる本件実験機を開発していたのであるから、AとBの着想は、
原告が主張するような単なる思い付きのレベルではなく、具体的な解 決手段を伴う着想であったというべきである。
なお、「AM変調」については、前記1?ウのとおり、パラメトリッ20 クスピーカーにおいて、超音波を可聴音の音波形に変調させる際の方 式をAM変調とすることも従来技術であったと認められる(本件試作 機が結果的に採用したPWM変調も同じ。)。
(オ) これに対し、原告は、A、B及びPDT社とのやりとりにおいて、
「フェーズドアレイAM変調スピーカ」という技術の提案をしたのは25 Cであると主張し、原告代表者C本人尋問の結果及び陳述書(甲21 4)には、これに沿う供述及び陳述があるほか、甲204見積書にお 41 ける「空中超音波集束装置 駆動部一式(4つ)の試作を完成させ る。」との記載が本件見積書では「空中超音波集束装置 駆動部1式 (2つ)とフェーズドアレイAM変調スピーカ1式(2つ)の試作品 を完成させる。」と変更されていることが認められる。証人Bの尋問 5 においても、Cからの提案があったことを明確に否定する供述はない (尋問調書9、10、18頁)。
しかしながら、前記(エ)のとおり、AやBは、PDT社が原告に本件 試作機を発注する平成27年5月より前に既に「フェーズドアレイス ピーカー」の着想を得ていたと認められる以上、前記原告の主張及び10 これに沿う証拠を考慮しても、「フェーズドアレイスピーカー」の着 想がCの提案に由来するものであると認めるには足りない。
? 本件発明の発明者について ア 本件発明の特徴的部分は、「オーディオ信号に基づいて、各超音波トラ ンスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくと15 も1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデ ューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに 出力する制御手段を備える」構成である(前記2?)。
そして、A及びBが開発した本件実験機は、少なくとも「オーディオ信 号に基づいて、」とある部分以外の本件発明の特徴的部分を備えるもので20 あり(前記?イ)、さらに、1023Hz 以下の範囲(1Hz 刻み)で変調 された矩形波の可聴音(初期のテレビゲームの電子音のような音)という 制約はあるものの、任意の焦点位置において可聴音を発生させることがで きるものであったと認められる(前記?オ)。
イ これに対し、原告は、1023Hz 以下の範囲(1Hz 刻み)で変調され25 た矩形波の可聴音を発生させるだけでは、一般的なオーディオ音源の周波 数帯の可聴音を発生させるものとはいえず、オーディオ環境の制約を取り 42 除くという本件発明の課題を解決できない旨主張する。
しかし、本件発明は、特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載をみて も、発生させる可聴音の音域や音質を特定するものではない。「オーディ オ信号に基づいて、」との部分から、一般的なオーディオ音源の周波数帯 5 に対応することができることを要すると解するとしても、前記1?、?に よれば、可聴音の音波形に変調させた超音波の自己復調現象を利用したパ ラメトリックスピーカーは周知の技術であり、製品としても実用化されて いたと認められるから、超音波を一般的なオーディオ音源の可聴音の音波 形に変調すること自体は、当業者であれば実施することができるものであ10 ったと認められる(なお、AやBは、研究者としての知識は有していたが、
実際の製品を開発・製造する当業者ではなく、だからこそ原告に本件試作 機開発を依頼している(甲129、乙26、証人B))。
さらに、一般的なパラメトリックスピーカーと異なり、焦点位置で集束 する超音波から可聴音を発生させるという点を考慮するとしても、そのた15 めに必要な技術事項として原告が主張するのは、可聴音の波形が焦点位置 で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃えること (原告特徴的部分A、予備的特徴的部分)である。そして、この構成がな くとも可聴音を発生させることは可能であり、当該構成自体は本件発明の 特徴的部分に当たらないことは、既に述べたとおりである。
20 したがって、本件実験機で発生することができる可聴音が1023Hz 以下の範囲(1Hz 刻み)で変調された矩形波の可聴音であったという点 を考慮しても、本件発明の特徴的部分は当業者が実施することができる程 度にまで具体的・客観的なものとして構成されており、本件発明は完成し ていたと認められる。
25 ウ 原告は、Aらにおいて本件発明が完成したと認識していたのであれば、
本件特許が平成29年10月3日に至ってようやく出願されたことや、原 43 告に本件試作機開発を依頼する前に出願しなかったことは不自然である旨 主張する。
しかし、発明が完成した後に特許出願をするか否か、するとしていつ出 願するかについては、多くの考慮すべき事情があると考えられるから、原 5 告が主張する事情は、本件発明の完成時期の認定を左右するものとまでは いえない。
エ 確かに、関係証拠及び弁論の全趣旨によれば、Cら原告関係者が、変調 方式をAM変調とするかPWM変調とするかについての試験と検討、マイ コンボードやFPGA基盤の評価と選定、発熱・共鳴音対策、基盤・回路10 の設計、必要なソフトウェアの作成(位相制御のプログラムを除く。)等 を、独自に行ったことは認められ(甲21〜39、原告代表者C本人)、
本件試作機の音質や音域は、本件実験機よりも改良されていることが認め られる(Bも、陳述書において、本件実験機は音質が高いとはいえないと いう課題を有していることを認め(乙26・8頁)、「本件実験機は、あ15 くまでも本件位相制御技術を「音」の分野に適用した結果を実験的に確認 することを目的とするものであることから、市販の機材・部品・回路を組 み合わせ、また、実験に必要最小限のプログラムをA氏及び私が書き上げ て、製作しました。大学に所属する若手研究者が低予算で実験機を製作す るというのは、そういうものです。本件実験機は、それにより音楽を楽し20 んだりするものではありません。」(甲129・11頁)と述べてい る。)。
しかし、本件試作機が備える前記?アの各機能のうち、可聴音の波形が 焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃 える機能(同(ウ))は、可聴音の音質を向上させるものではあっても、本25 件発明の技術的課題は、使用環境の制約の除去であって、可聴音の音質の 向上ではないから、本件試作機の当該機能は本件発明の特徴的部分に当た 44 るものではない。その余の点も、本件発明の特徴的部分を実施する場合に おける具体的・客観的な態様の一つにすぎず、その内容に応じ、本件発明 とは別の課題を解決したものということができることがあるとしても、本 件発明の課題を解決したということはできない。すなわち、本件試作機の 5 各機能は、本件実験機の開発によって、本件発明の特徴的部分は当業者が 実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成され、
本件発明が完成していたとの前記認定を左右するものではない。
オ 以上によれば、Cらは、本件発明の特徴的部分を当業者が実施すること ができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということは10 できず、本件発明の発明者(共同発明者)ではないと認められる。
他方、本件発明に係る特許公報(甲1)には、Aらが発明者として記載 されているところ、前記認定及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の発明 者はAらであると認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
4 結論15 以上のとおり、本件特許には、原告の主張する冒認も、共同出願違反もない と認められるから、本件審決の判断に誤りがあるとは認められず、原告主張の 取消事由は、いずれも理由がないことになる。
よって、主文のとおり判決する。
追加
20裁判長裁判官25清水響45 裁判官菊池絵理5裁判官頼晋一46 (別紙)47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 (別紙)超音波から可聴音が聴こえるようにする仕組み1音波の性質5?「音波」とは、「空気が振動して、空気密度の高低として、空気中を伝わっていく波」である(図1)。
図1ス?ピカ?空気の密度低10スピーカーが空気を揺らすと、図1上部のように、黒点線で描いた方向に空気が振動することにより、空気密度が高いところ(空気分子が密なところ)と低いところ(空気分子が疎なところ)が生まれる。この空気密度の高低が「波」として伝わっていくのが「音波」である。この音波を表現する際には、図1の下段のように、空気が振動した結果生じた、空気密度の高低(粗密)を描く。図1上部では、スピーカーを15揺らすことによって、「音波」すなわち「空気中を進む空気密度の高低(粗密)の波」が、耳に向かって進んでいる。
図1の下部では、一次元的に一方向に進む図解を行ったが、音波が二次元的に進む様子を図示すると図2のようになる。
2071 図2?複数の音源(スピーカー)から音波を出すと、複数の音波は空気中で重なり合いな5がら、それぞれ空気中を進んで行く。図3は、「2箇所の点音源からそれぞれ出た2つの音波が、空気中で重なり合いながら進む」様子を図示したものである。
図3図3上部の左右には、それぞれ異なる場所に配置された2音源から発せられた音波10が、単独でそれぞれどのように進んで行くかが描かれている。図3の下部では、音波72 を同時に発した場合に2箇所の点音源からそれぞれ出た2つの音波が、空気中で重なり合いながら進む様子を描いており、複合的な波が生じていることが見て取れる。
この図3の例で、空気中の各場所で、複数の音波が重なり合った結果生じている「音波の大きさ」を色で図示したのが図4である。
・複数の?波の?低が揃う場所⇒「?波同?が強め合う」・複数の?波の?低が逆になる場所⇒「?波同?打ち消し合う」オレンジ部分??波同?が強め合う??量?源??源ムラサキ部分??波同?が弱め合う5図4図4では、図3の例で2つの点音源から出た各音波が重なり合って生み出す音波の大きさを、音が大きいところはオレンジ色、音が小さいところは紫色で表現している。
図4を見ると、2つの点音源から出た2音波が重なりあったとき、(a)音波が重10なりあってできた(複合的な)音波の大きさが大きな箇所(オレンジ色)、(b)音波が重なりあってできた(複合的な)音波の大きさが小さな箇所(紫色)があることが見てとれる。(a)の箇所では、2つの音波の密度高低(粗密)が揃い、(b)の箇所では、2つの音波の密度高低(粗密)が逆になる結果、(a)の箇所では、「音波同士が強め合うことで、大きな音が生じる」、(b)の箇所では、「音波同士が打15ち消し合い、小さな音しか生じない」のである。
73 図3・図4では、点音源が2つある場合を例に取ってきたが、点音源の数を増やすと、図5のとおりである。
5図5図5は、11個の点音源から「同じ音波形」を「同じタイミング」で出した場合に生じる波を描いたものである。
図5を見ると、点音源の近くでは、複数の点音源からの音波が複雑に重なり合って10いるが、点音源から離れた領域では、音波が重なり合って、通常のスピーカが生み出すような「平行波」又は「平面波」と呼ばれる単純な波になっていることがわかる。
2複数の超音波スピーカーを使い、焦点で大きな音を発生させる仕組み空気中で複数音波の密度高低(粗密)が揃うと音波同士が強め合って大きな音が生じ、
15空気中で複数音波の密度高低(粗密)が逆だと音波同士が打ち消し合って音が消えることからすれば、任意の焦点位置で音波形(密度高低・粗密の変化)が重なれば、焦点で74 大きな音を発生させることができる。
その方法としては、点音源(スピーカー)から出た音波形が焦点に届くまでには距離に応じた時間がかかる(音波の速さはおよそ1秒当たり約340メートルであるため、
点音源から焦点までの距離(メートル)/約340メートルで計算される秒数かかる)5ことから、点音源(スピーカー)から焦点までの距離に応じて、各点音源から音波形を出すタイミング(時間)を調整すれば、各音源から出された音波形が任意の焦点位置で綺麗に重なることになる。
図5の例で、焦点に届く音波形が揃うように、各音源で出す音波形にタイミング補正をしたのが図6である。
10図6図6では、赤丸や紫丸で図示した11個の点音源から、(各点音源から)焦点までの距離に応じて、その距離を音波が進むのにかかる時間を計算し、点音源から出す音波形15に時間差を付けて音波形を出している(焦点に対して遠い点音源からは(焦点に近い点音源と比較すると)距離に応じて早めに音波形を出す。)。その結果として、中央部に青丸で示した「狙う特定場所=焦点」で音波が集中している。
この図6の例について、図4のように、空気中の各場所で、複数の音波が重なり合っ75 た結果生じている「音波の大きさ」を色で図示したのが図7である。
焦点近くの領域では(?較的)?きな超?波が?じる???源量焦点?図7図7を見ると、焦点領域では各音源から届く音波形が綺麗に揃うことで「大きな音」5が生じ、それ以外の場所では「音波形が綺麗には揃わないために、比較的小さな音しか発生していない」ことがわかる。
図6の例で、赤丸の点音源と紫丸の点音源から出した音波形を示したのが図8である。
図81076 図8の上部と下部の音波形は、基本的に同じ音波形であるが、時間軸(横軸)方向にずれている=音波形を出すタイミング(時間)に対して制御が掛けられている(紫丸の方が赤丸よりも音波形を出すタイミングが遅い)。このように同じ音波形を、時間をずらして出すことによって、焦点位置で音波形を綺麗に揃えている。
53可聴音を超音波に乗せて、可聴音を聴こえるようにする仕組み?変調過程:可聴音を超音波に乗せる過程変調過程では、周波数が一定の超音波(搬送波)の大きさを「可聴音の音波形」を使って変化させる。図9はその概略を示した図である。
10図9図9では、1秒間に4万回振動する(40kHz)超音波の大きさを、人が聴くことができる880Hz(時報音の最後音(ポーン)の高さ)の可聴音の音波形の形に15沿って、変えている。この段階では、超音波の音量が周期的に変化しているだけであり、超音波であることに変わりはないため、人は可聴音を聴くことはできない。
?自己復調過程:超音波から可聴音を復元する過程音波は「空気が振動して、空気密度の高低として、空気中を伝わっていく波」であるところ、超音波は「振動がとても速く繰り返される=周波数がとても高い」音波で20ある。
77 ?(可聴?の?量で変調した)「元の超?波の?波形」空気中を進む中で?波形が変化した超?波波形時間(秒)時間(秒)元の超?波の?量変化と同じ波形が?じる(超?波に載せた可聴?波形が復元される)変(元の超?波の)?量変化と同じ波形=可聴?の?波形?+(可聴?の?量で変調した)「元の超?波の?波形」図10超音波が空気中を伝わる際には、「超音波が空気中を進んで行くと、元の超音波の音量変化と同じような形状の音波形が自然に生まれる」という現象が起きる。図105左上に示した「音波形」は、空気中を進む中で図10右上のような「音波形」に変化する。この図10右上の音波形(空気中を進む際の音波形)は、図10右下に示すように「(可聴音の音量で変調した)元の超音波の音波形」に「元の超音波の音量変化と同じような形状の音波形」を足したような音波形である。
そのため、超音波が空気中を進んで行くと、「元の超音波の音波形」に「可聴音の10音波形と同じような形状の音波形」を足したような音に自然と変化する。この現象を言い換えると「自然に可聴音が生じる(復元される)」のであり、この「超音波の振幅として載せた可聴音波形が自然に生じる・復元される現象」を「自己復調」と呼ぶ。
以上78