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事件 令和 6年 (ネ) 10074号 損害賠償請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/04/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和7年4月10日判決言渡

令和6年(ネ)第10074号 損害賠請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70407号)

口頭弁論終結日 令和7年3月7日

5 判 決



控 訴 人 Future Technology株式会社



同訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎

10 同 金 森 毅

同訴訟代理人弁理士 望 月 尚 子



被 控 訴 人 フィリップ・モリス・ジャパン合同会社



15


同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実

同 堀 籠 佳 典

同 平 井 佑 希

同訴訟復代理人弁護士 岡 田 健 太 郎

20 主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

【略語】

25 略語は特記するもののほか原判決の例による。

第1 控訴の趣旨


1
1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和5年7月2

0日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

5 1 事案の要旨

本件は、発明の名称を「電子タバコ用充填物及び電子タバコカートリッジ」

とする本件特許(特許第6815560号)の特許権者である控訴人が、被控

訴人による被告製品の輸入、販売等が本件特許権の侵害に当たると主張して、

被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として1000万円(400億円

10 の一部請求)及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定の年3%の

割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、被告製品は、本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明)の構

成要件Bを充足せず、本件特許発明技術的範囲に属しないとして、控訴人の

請求を棄却したので、これを不服とする控訴人が控訴を提起した。

15 2 前提事実(当事者間に争いがないか、又は掲記の証拠若しくは弁論の全趣

旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者

原判決「事実及び理由」の第2の1(1)(2頁)のとおりであるから、こ

れを引用する。

20 (2) 本件特許の概要

ア 控訴人は、以下の本件特許に係る特許権を有している。

特許番号:特許第6815560号

請求項の数:13

発明の名称:電子タバコ用充填物及び電子タバコカートリッジ

25 出願日:平成31年3月27日

優先日:平成30年3月27日


2
登録日:令和2年12月24日

イ 特許請求の範囲の記載(請求項1)は以下のとおりである。

【請求項1】

シート状部材を有して構成され、

5 電子タバコの長手方向を第1方向としたとき、前記シート状部材に前

記第1方向に沿って切込みが形成され、

前記切込みは、前記シート状部材の一の表面に前記シート状部材を貫

通しない深さで形成されている電子タバコ用充填物。

(3) 本件特許発明の概要

10 ア 構成要件の分説

A シート状部材を有して構成され、

B 電子タバコの長手方向を第1方向としたとき、前記シート状部材に

前記第 1 方向に沿って切込みが形成され、

C 前記切込みは、前記シート状部材の一の表面に前記シート状部材を

15 貫通しない深さで形成されている

D 電子タバコ用充填物。

イ 本件特許発明技術的特徴

本件明細書の記載は原判決「事実及び理由」第3の1(1)(24頁〜)

に記載のとおりであり、これによれば、本件特許発明につき、次のよう

20 な開示があることが認められる。

(ア) 本件特許発明は、電子タバコ用充填物及び電子タバコカートリッジに

関する(【0001】)。

(イ) 本件特許発明の目的は、充填物の脱落を防止することができ、使用す

る際の気流を均一にして安定した吸い心地を維持できる、高品質の電子

25 タバコ用充填物及び電子タバコに好適な電子タバコカートリッジを提供

することにある(【0004】)。


3
(ウ) 本件特許発明は、このような課題を解決するため、請求項1記載の

構成を採用した(【0005】、【0006】)。

(エ) 本件特許発明によれば、高品質の電子タバコ用充填物及び電子タバ

コに好適な充填物及び電子タバコカートリッジを提供することができ、

5 具体的には、充填物の脱落を防止することができ、電子タバコカート

リッジを使用する際、切込み部が気流方向を誘導する空気の均一な通

路となり、吸い心地を安定させる(【0018】)。

(4) 本件特許に係る訂正審判請求等

原判決口頭弁論終結日(令和6年7月9日)以降の特許庁における手続を

10 踏まえて、末尾に以下のとおり加えるほか、原判決第2の1(4)(3頁〜)

のとおりであるから、これを引用する。

「ウ 特許庁は、令和6年7月18日付けで、控訴人に対し、前記アの訂正

審判事件について、特許法168条1項の規定に基づき手続を中止する

旨の通知をした(甲30)。

15 控訴人は、同年8月30日、前記イの無効審判事件において、本件特

許の特許請求の範囲の請求項1を訂正する旨の訂正請求をしたが、その

訂正において求める訂正は本件訂正と同じである(甲31の1・2)。」

(5) 本件訂正発明の構成要件の分説、被控訴人の行為等

原判決「事実及び理由」第2の(5)、(6)(4頁)に記載のとおりである

20 から、これを引用する。

なお、控訴人は、当審になって、原判決における被告製品の特定が不十

分である旨主張するが、原審で争点は構成要件B、Cに絞られる(令和6年

1月29日付け準備書面(2)11頁、同年5月16日付け準備書面(6)

26頁)としており、争点である構成要件B、C充足性に審理を絞り、事細

25 かく被告製品を認定しなかった原判決に問題はない。なお、控訴理由書28

頁の被告製品の記載と上記準備書面(6)26頁の被告製品の記載は異なっ


4
ている。

3 争点

本件の争点は以下のとおりである。

なお、控訴人は、(2)ア、イに関し、構成要件Bにつき被控訴人の解釈を前

5 提とする進歩性欠如は請求原因と両立しないから抗弁としては主張自体失当で

ある旨主張するが、構成要件Bについて控訴人と被控訴人の解釈が異なること

は、事実として両立しないことを意味するわけではないから採用できない。

また、控訴人は、無効審判請求における訂正請求に関して独立特許要件は課

されないから、原判決が訂正後の発明に対する新規性欠如・進歩性欠如につい

10 て独立特許要件の問題としたのは誤りである旨主張するが、原審の口頭弁論終

結時において訂正請求自体がされていないのであるから、原判決の事実整理に

何ら誤りはない。なお、被控訴人は、控訴答弁書22頁及び令和7年2月28

日付け準備書面(1)10頁において、訂正が認められたとしても無効理由が

ある旨主張しているので、無効審判における訂正請求を起点とする訂正の再抗

15 弁に対する再再抗弁としての訂正後の特許の無効理由の主張も存在するものと

いえる。その内容は独立特許要件違反に係る主張中の訂正後の無効理由に関す

るものと同旨であるであるから、争点3−3に含めた。

(1) 被告製品が本件特許発明技術的範囲に属するか(争点1)

ア 被告製品は構成要件Bを充足するか(争点1−1)

20 イ 被告製品は構成要件Cを充足するか(争点1−2)

(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争

点2)

ア 乙5発明に基づく進歩性欠如(構成要件Bにつき被控訴人の解釈を前提

とする場合)(無効理由1)(争点2−1)

25 イ 乙7発明に基づく進歩性欠如(構成要件Bにつき被控訴人の解釈を前提

とする場合)(無効理由2)(争点2−2)


5
ウ 乙5発明に基づく新規性又は進歩性欠如(構成要件Bにつき控訴人の解

釈を前提とする場合)(無効理由3)(争点2−3)

エ 乙7発明に基づく新規性又は進歩性欠如(構成要件Bにつき控訴人の解

釈を前提とする場合)(無効理由4)(争点2−4)

5 オ 本件公然実施品発明に基づく進歩性欠如(無効理由5)(争点2−5)

(3) 訂正の再抗弁及び訂正後の発明についての無効理由の成否(争点3)

ア 被告製品の本件訂正発明の技術的範囲への属否(争点3−1)

イ 訂正の適法性等

(ア) 新規事項の追加禁止要件の充足性(争点3−2)

10 (イ) 独立特許要件の充足性、訂正後の発明の無効理由の有無(無効理由6、

7。争点3−3)。

(4) 先使用権の成否(争点4)

(5) 控訴人の損害額(争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

15 以下のとおり当審における当事者の補充的主張を付加するほか、原判決「事

実及び理由」の第2の3(5〜23頁)のとおりであるから、これを引用する。

1 争点1−1について(控訴人の主張)

(1) 原判決は、「特許請求の範囲の記載自体からは、「切込み」(構成要件B)

の形成手段等は必ずしも明らかでない」として、本件明細書を参酌の上、構

20 成要件Bにおける「切込み」を、刃物でシート状部材の表面を切ることによ

り形成された、切れている部分をいうものと解釈した。

しかし、特許法70条1項及び2項、同法施行規則24条、様式第29備

考8によれば、特許請求の範囲記載の用語は、当業者が特許請求の範囲の記

載及び明細書(図面を含む。)の記載を全体として見たときに、当該用語を

25 どのように理解するかという観点から解釈すべきものであり、明細書の特定

の記載に限定して考慮すべきではない。


6
特許請求の範囲の記載自体からは「切込み」の形成手段等が明らかでない

とすれば、「切込み」の形成手段を特定のものに限定すべき理由はない。

(2) 原判決は、辞書的意義によれば、「切込み」とは、刃物を用いて人為的・

能動的に「切り目」ないし「切れ目」が形成された構造ないし状態を意味す

5 る旨判断する。

ア この点について、各辞書における「切込み」については以下のような記

載がある。

(ア) 精選版日本国語大辞典(小学館)(甲10、27の1・2)

「切込み」(きりーこみ)

10 @切り込むこと。また、その切り目。

「切込」(きれーこみ)

@深く切れていること。また、そのあと。きりこみ。

「切目」(きれーめ)(甲10)

@裂けたり、ぎざぎざになったり、刻み込まれたりしている所。

15 A続いて並んでいたり、連続したりしているものが途絶える所。

「切目」(きりーめ)

@切ったところ。刻みをつけたあと。切り口。切断面。

(イ) 広辞苑第七版(岩波書店)(乙13の2)

「切込み」(きりーこみ)

20 @きりこむこと。

「切り込む」(きりーこーむ)

@物の中に刃物を深く入れて切る。

「切目」(きれーめ)

@切れてできたあと。切れた所。

25 (ウ) 大辞林第三版(三省堂)(乙13の3)

「切込み」(きりーこみ)


7
A物の一部分だけに深く切り目を入れること。

「切目」(きれーめ)

@物の途中で切れているところ。

「切目」(きりーめ)

5 @物の表面に切ってつけた傷。また、切り口。

(エ) デジタル大辞泉(乙13の1)

「切込み」(きりこみ)

@刃物である深さまで切ること。また、その部分。

イ 以上の辞書上の記載によれば、「切込み」は、「切目」(きれーめ、き

10 りーめ)と同義の名詞であり、「切れたところ」を意味するものと解され

る。「切れたところ」が形成される対象物の材質や形状等は様々であり、

刃物を用いなくても「切れたところ」が形成される場合があることは自

明である。

(3) 原判決は、本件明細書では、「切込み」の形成手段としてカッター刃、カ

15 ミソリの刃、ロータリーカッター等が例示されているのみであり、それ以外

の手段で形成されることについての記載ないし示唆がないこと、「切込み」

が形成原因のいかんを問わず、シート状部材に何らかの外力が加えられるこ

とにより結果的に生じた裂け目や割れ目を含むと解すべき根拠となる記載も

見当たらないことを指摘する。しかし、カッター刃、カミソリの刃、ロータ

20 リーカッター等は「例示」であり(【0033】)、本件特許発明がこれら

実施例や実施形態に限定されるものではないことが明記されていること

(【0130】、【0201】)、本件明細書には、「切込み」の作用効果

が、切込みを形成するために使用される手段によって影響を受けることにつ

いては記載も示唆もないことに鑑みると、本件明細書の記載から、本件特許

25 発明の「切込み」が、上記例示に係るものや実施例記載の手段によって形成

されたものに限定すべき理由はない。


8
また、原判決は、刃物でシート状部材の表面を切ることにより形成された

切れ目と、それ以外の方法によりシート状部材の表面が裂けたり割れたりし

て形成された裂け目ないし割れ目とでは、後者が前者の場合に比して、断裂

部の形状や構造は不規則なものとなるところ、本件明細書には、「切込み」

5 に相当する断裂部の形状や構造が不規則なものであっても本件特許発明の効

果が得られるとする具体的な作用機序に関する記載も示唆もないことを指摘

する。しかし、断裂部の形状や構造に関する原判決の上記認定には根拠も示

されていないし、特定の方法により形成された切込みでなければ上記効果を

奏しないともいえない。

10 (4) 株式会社東亜産業(控訴人は同社から分割により設立されたものである。)

出願経過で提出した本件意見書(乙12)は、進歩性欠如を理由とする本

拒絶理由通知に対して、本願発明は、引用文献1ないし3に記載された発

明に基づいて容易に想到することができないから理由がないことを述べるも

のにすぎず、カッターなどの刃物を使用することで形成された繊維の切断を

15 伴うもののみが本件特許発明にいう「切込み」であると主張したものではな

い。

(5) 被告製品において、たばこスティック(ロッド)の長手方向に沿ってたば

こ基体の表面に略平行に3本存在するシートの繊維が筋状に離れた「切目」

(切れたところ)が形成されている。したがって、被告製品は、構成要件

20 を充足する。なお、この筋状部分(切れ目)は、捲縮加工工程における捲縮

条件(圧着強度、上下一対のローラの軸間距離、ローラのリブ間の間隔、横

断面の形状等)を制御することにより形成されたものである。

原判決は、この切れ目が刃物で形成されたものでないことを理由に構成要

件Bを充足しない旨判示するが、これは、「切込み」に関する誤った解釈を

25 前提とするもので失当である。

2 争点3−3中、訂正後の発明の無効理由の有無について


9
独立特許要件に関する当事者の主張(原判決第2の3(10)、18頁〜)中の

訂正後の発明の無効理由に関するものと同旨である。

第4 当裁判所の判断

当裁判所も、被告製品は構成要件Bを充足せず、本件発明の技術的範囲に属

5 しないものと判断する。

その理由は、次のとおり当審における争点1−1についての控訴人の補充的

主張に対する判断を加えるほか、原判決「事実及び理由」の第3の1(24頁

〜)の説示のとおりであるから、これを引用する。

特許発明技術的範囲は、願書に添付された特許請求の範囲の記載に基づい

10 て定めなければならず(特許法70条1項)、願書に添付した明細書の記載及

び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものと

されている(同条2項)。

控訴人は、原判決が、構成要件Bの「切込み」の意義について、本件明細書

の特定の記載に限定して考慮したものであり、特許請求の範囲の記載自体から

15 は「切込み」の形成手段等が明らかでないとすれば、「切込み」の形成手段を

特定のものに限定すべき理由はない旨主張する。

しかし、原判決は、特許請求の範囲における構成要件Bの「切込み」の意義

が明らかでないことから本件明細書の記載全体を参酌してこれを解釈したもの

であって、一般的な意味が明らかなものについて本件明細書の特定の記載に限

20 定して考慮したわけではないから、控訴人の主張はその前提を欠くものである。

2 控訴人は、各辞書の記載によれば、「切込み」は、「切目」(きれーめ、き

りーめ)と同義の名詞であり、「切れたところ」を意味し、刃物を用いなくて

も「切れたところ」が形成される場合があることは自明である旨主張する。

各種辞書の「切込み」に関連する事項の記載は、第3の1(2)アにおいて控

25 訴人が主張するとおりであるが、「切込み」については、切り込む((ア)、

(イ))、「切り目を入れる」((ウ))、「切る」((エ))という能動的な行為が


10
想定され、さらに、それが刃物によることを明示する例が複数存在する((イ)、

(エ))。また、「切目」(きれーめ)と、「切目」(きりーめ)を比較すると、

後者が、より「切る」行為と結び付けられているところ、「切込み」について

参照されているのは「切目」(きりーめ)の方である((ア)、(ウ))。

5 このようなところからすれば、各種辞書の記載から、「切込み」とは、刃物

を用いて人為的・能動的に「切り目」ないし「切れ目」が形成された構造ない

し状態を意味するとした原判決の説示は、相当なものである。

3 控訴人は、本件明細書に記載されたカッター刃、カミソリの刃、ロータリー

カッター等は例示にとどまる旨主張する。しかし、前記2の「切込み」の辞書

10 的意義と、本件明細書において刃物以外による「切込み」の形成手段について

記載も示唆もないことに鑑みれば、当業者は、「切込み」が前記2のような意

味を有すると理解すると解されるから、控訴人の主張は採用できない。

4 被告製品において、たばこスティック(ロッド)の長手方向に沿ってたばこ

基体の表面に略平行に3本形成された筋状部分は、捲縮加工工程における捲縮

15 条件を制御することにより形成されたものであり、刃物によって形成されたも

のではないから、被告製品は構成要件Bを充足しない。

第5 結論

以上によれば、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから棄却すべ

きところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却すること

20 とし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部




裁判長裁判官

25


増 田 稔


11
裁判官



5 本 吉 弘 行




裁判官



10 岩 井 直 幸




12