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関連審決 無効2002-35313
関連ワード 考案者 /  自然法則 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 170号 審決取消請求事件
原告(選定当事者) A
原告(選定当事者) B
被告 株式会社ウイング
訴訟代理人弁理士 加川征彦
同 森本邦章
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2002-35313号事件について平成15年3月18日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告(選定当事者)A及び同B(以下「原告ら」という。)並びに選定者C及び同D(以下,これらの4名を「原告ら4名」という。)は,名称を「ねじ釘」とする特許第3014191号発明(平成3年10月7日出願,平成11年12月17日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成14年7月23日,本件特許について無効審判の請求をし,無効2002-35313号事件として特許庁に係属したところ,原告ら4名は,同年10月21日,本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」といい,本件訂正により訂正された明細書を,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)を求める訂正請求をした。
特許庁は,同事件について審理した上,平成15年3月18日,「訂正を認める。特許第3014191号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,原告(選定当事者)A,選定者C及び同Dに対しては同月31日,原告(選定当事者)Bに対しては同年4月28日,それぞれ送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の要旨 ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘であって,軸部の先端部分に形成されたねじ山の,軸方向にみたピッチを,該軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチよりわずかに長くし,ねじ釘を一回転した場合に,ある部材を通過している先端部分の軸方向に進む距離が,他の部材を通過しているねじ釘の基端部分の進む距離よりわずかに長くなることにより,ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消することを特徴とするねじ釘。
(以下,上記発明を「本件発明」といい,その構成を,審決の表現に従い,A「ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘であって」,B「軸部の先端部分に形成されたねじ山の,軸方向にみたピッチを,該軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチよりわずかに長くし」,C「ねじ釘を一回転した場合に,ある部材を通過している先端部分の軸方向に進む距離が,他の部材を通過しているねじ釘の基端部分の進む距離よりわずかに長くなることにより,ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消する」及びD「ことを特徴とするねじ釘」と分節して,それぞれ「構成A」〜「構成D」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正を認めた上,本件発明は,実願昭54-170631号(実開昭56-87613号)のマイクロフィルム(審判甲1・本訴甲3,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)であり,特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものであるとした。
原告ら主張の審決取消事由
審決は,本件発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明と引用発明との相違点の判断を誤り(取消事由2),引用例の記載事項が特許法29条1項3号にいう発明に該当するとの誤った判断(取消事由3)をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は,本件発明と引用発明との一致点として,「軸部の先端部分に形成されたねじ山の,軸方向にみたピッチを,該軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチよりわずかに長くしたねじ釘」(審決謄本11頁第5段落[一致点])と認定したが,以下のとおり,誤りである。
(1) 審決は,「本件発明と引用発明とを対比すると,引用発明における『軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけて』は,本件発明における『軸部の先端部分』に相当・・・する」(審決謄本9頁下から第2段落)と認定したが,誤りである。
本件発明の「軸部の先端部分」は,先端錐部に限定されるものではなく,請求項1に記載のある部材(例えばALC部材)の材質によって異なる圧縮強度,せん断強度及び硬度に応じて,先端ポイント部がある部材に挿入し,かつ,先端ねじ部が働き出すまでに発生する,ある部材と他の部材との間のすき間(浮き)を解消するのに必要最小限の寸法分であり,先端錐部より円筒軸部にも及ぶ範囲を意味している。
本件発明の先端部分のねじ山は,他の部材の浮きを解消するに当たり,ある部材の圧縮強度や塑性変形に至らない範囲における弾性変形内の寸法設定が必要なため,それに必要な部分のねじ山のピッチがわずかに基端部より長く製作されていることは明らかである。
(2) 審決は,「引用発明における『タッピングネジ』は,本件発明における『ねじ釘』に相当する」(審決謄本11頁第3段落)と認定したが,誤りである。
本件発明のねじ釘は,「コーススレッドねじ」に相当し,ねじ山ピッチがインチ当たり8山前後の粗ねじであるのに対し,「タッピングネジ」は,インチ当たり20山前後のものであって,ねじ山ピッチが全く異なっている。また,「コーススレッドねじ」は,平成6年4月25日付け金属産業新聞(乙1)の「木工用コーススレッドねじ特集」の記事中に,「コーススレッドねじ」とは,一般に,「とがり先タイプのドリリングタッピングねじ」を指すと説明されているとおり,本件発明のねじ釘が,ドリリング,すなわち,下穴のない状態で穴を開けながら,ねじ部も同時に施す作用を行うねじであるのに対し,引用発明の「タッピングネジ」の作用は,主に薄金属板などに事前に谷径よりも太く,ねじ山径よりも細い下穴を開けたその下穴へタッピングネジを差し込み,回転を施すことにより,タッピングネジの雄ねじでもって薄金属板等に雌ねじを切る効果を得ることにある点で相違するから,「タッピング」という文言が同一であるからといって,本件発明のねじ釘を引用発明における「タッピングネジ」と同一視することはできない。
(3) 審決は,「引用発明は,『軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけてリード角を他部分のリード角に比し急傾角に形成してなる』ものであるが,ねじ山のリード角と軸方向にみたピッチとは,ピッチがtan(リード角)に比例する関係にあるから,引用発明においても,前記先端錐部にかけて形成されたネジ部におけるねじ山の軸方向にみたピッチは,他部分すなわち軸部の基端側に形成されたネジ部におけるねじ山のピッチより長くされている」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第1段落)と認定したが,誤りである。
ア 引用例に係る考案の実用新案登録請求の範囲の「先端錐部」との文言にあるとおり,引用発明におけるタッピングネジの先端が円錐状のトンガリ先である以上,他部分とされる軸部より先端錐部にわたるまですべて同一ピッチでねじ山を形成した場合,軸部(円柱部)と円錐部との境界より円錐先端にわたり漸次軸径が小さくなることにより,漸次リード角が急傾角になることは明らかであるが,引用例(甲3)の全文中には,通常の急傾角以上の急傾角にするとの文言はない。審決は,軸部より先端錐部にわたるまで同一ピッチでねじ山が形成された場合においても,軸部,錐部ともにリード角は同一であると誤って認識した結果,錯誤により,「錐部においても軸部と同じくリード角とねじピッチとは比例する」と誤って認定したものである。
イ ねじ山のピッチは,「リード角×π×直径」の式により求められるものであり,引用発明は,同径軸部上ではなく,「錐部より先端に至る部位においてのリード角を同径軸部と比して急傾角にする」ものであって,錐部においては,先端に至るに従って軸部より漸次直径が小径になるから,「リード角×π×直径(軸部径よりも小径)」の式によってリード角が同じであれば,ねじ山のピッチは小さくなることがある。すなわち,リード角を軸部より急傾斜(大)としても,錐部においては,2πr(円周)は短く(小)になるから,急傾角であるからといって,ねじ山のピッチが長くなるとは限らず,その急傾角の度合や2πr(円周)が小径になる度合によっては,錐部のねじ山のピッチが軸部のねじ山のピッチより短くなることすらある。
ウ 引用例(甲3)の第1図には,軸部と錐部との境界付近において,軸部より急傾角に図示されているが,先端に及ぶ部位においては,錐部のねじ山のピッチも,軸部のねじ山のピッチと同一寸法で作図されている。また,第3図は,リード角とピッチとの関連においてずさんな図であり,何を意図して図示したものか引用例にも記載がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は,本件発明と引用発明との相違点として認定した,「本件発明が,ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘であって,ねじ釘を一回転した場合に,ある部材を通過している先端部分の軸方向に進む距離が,他の部材を通過しているねじ釘の基端部分の進む距離よりわずかに長くなることにより,ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消するものであるのに対し,引用発明はそのように特定されていない,すなわち構成A及びCに相当する構成を具備しない点」(審決謄本11頁第6段落[相違点])について,いずれも実質的な相違点ではないと判断(同頁最終段落〜14頁第2段落)したが,以下のとおり,誤りである。
(1) 審決は,「本件発明の構成Aにおいては,『ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘』と,その用途が限定されている。・・・『ある部材に他の部材を重ねてねじ止めするためのねじ釘』と限定した点は,ねじ釘が普通に使用される態様を表したものにすぎず,上記構成Aについての限定のないねじ釘と実質的な差違はない」(同11頁最終段落〜12頁第1段落)と判断したが,誤りである。
ア 審決の「ねじ釘が普通に使用される態様を表したものにすぎず,上記構成Aについての限定のないねじ釘と実質的な差違はない」(同12頁第1段落)とした判断中,「上記構成Aについての限定のないねじ釘」が何を指すのか不明である。
イ 本件発明は,ねじ釘であるから,通常の釘と同様,ある部材と他の部材を重ね合わせた上,ある部材及び他の部材とも,下穴なしでねじ込み可能な部材であるのに対して,引用発明では,他の部材には,ねじ山径よりも大きめの丸穴(いわゆるバカ穴)を開けておかなければ,十分な密着固定は不可能である。
ウ 引用例(甲3)には,「下孔形成せずとも,ねじ込み当初の喰い込みを良くして,ねじ込み作業を迅速に行える」(4頁第1段落)と記載されているのに,本件明細書には,「下穴を必要としない」旨の記載はないが,本件発明のねじ釘は,業界一般にいう「とがり先タイプのドリリングタッピングねじ」の類であり,ねじ込み可能な材料である限り,とがり先を有することにより,下穴を開けなくとも使用することができ,かつ,ねじ込んでいくことにより,雌ねじを材料内に形成していくことも明らかであるから,特に下穴不要を明記する必要はなかったのである。これに対して,引用例の上記記載は,単に,ある部材にねじ込みやすいことのみを示したものにすぎない。
(2) 審決は,「構成Cは,引用発明が有している自明の作用効果にすぎない。・・・構成Cは実質的な相違点ではない」(審決謄本12頁第3段落〜第4段落)と判断したが,誤りである。
ア 審決は,上記1(3)アのとおり,軸部より先端錐部に及ぶまで同一ピッチでねじ山が形成された場合においても,軸部,錐部ともにリード角は同一であるとの誤解に基づき,先端錐部のリード角を軸部より急傾角にすることにより,錐部のねじ山のピッチもおのずと長くなると錯覚したものである。
イ とがり先タイプのドリリングタッピングねじにおいては,ある部材と他の部材とも下穴を開けずにねじ止めしようとする場合,ねじ先端(ポイント)がある部材に挿入する際に,ある部材と他の部材との間に必ず隙間を生ずるという問題点があるため,これを解消することが本件発明の技術的課題であるのに対して,引用発明の主旨は,あくまでもタッピングネジを部材に喰い込みやくするための工夫である。
ウ 本件発明は,ある部材及び他の部材を下穴なしでねじ込み可能であり,浮きの解消を行った上,強固に取り付けることができるのに対して,引用発明では,他の部材にいわゆるバカ穴を開けておかなければ十分な密着固定ができない。
エ 被告が主張する,「ねじ山のピッチ差でねじの締め具合を良好にできる」ことは,引用例に記載されておらず,決め付けにすぎない。
3 取消事由3(引用例の記載事項についての発明性の判断の誤り) 審決は,引用発明が特許法29条1項3号にいう発明に該当することを前提として,本件発明の同号違反をいうが,引用例に記載された事項は,考案者の単なる考案内容を開示したものにすぎず,何ら新規の考案ではないし,同法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のもの」でもないから,審決の上記判断は誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告らが,本件発明の「軸部の先端部分」が先端錐部に限定されないことの根拠として指摘する,「ある部材(例えばALC部材)の材質によって異なる圧縮強度,せん断強度及び硬度に応じて,先端ポイント部がある部材に挿入し,かつ,先端ねじ部が働き出だすまでに発生する,ある部材と他の部材との間のすき間(浮き)を解消するのに必要最小限の寸法分であり,先端錐部より円筒軸部にも及ぶ範囲」との点については,請求項1に何ら記載はない。ねじ釘の軸端の先端部分のねじ山の軸方向にみたピッチを基端側のねじ山のピッチよりわずかに長い状態が図示されている本件明細書(甲2)の図2及び図3を引用例(甲3)の第1図と対比してみる当業者は,引用発明のタッピングネジ部のうち,「軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけて」が本件発明における「軸部の先端部分」に相当すると解釈するのが自然である。
(2) 本件発明のねじ釘は,その形態から,業界で「コーススレッドねじ」といわれているものに相当し,ねじ釘もタッピングネジも,業界では同一視されて使用され,極めて近似する技術分野のものであることは明らかである。
(3) 引用例の第1図及び第3図には,本件発明の「軸部の先端部分に形成されたねじ山の,軸方向にみたピッチを,該軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチよりわずかに長い」という構成Bが示されているから,「引用発明においても,前記先端錐部にかけて形成されたネジ部におけるねじ山の軸方向にみたピッチは,他部分すなわち軸部の基端側に形成されたネジ部におけるねじ山のピッチより長くされている」とした審決の認定に誤りはない。ねじ山のピッチは,原告ら主張の「リード角×π×直径」の式により求められるものであり,リード角がより急傾角であるということは,リード角の差だけやや長くなることを意味する。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 構成Aにおいては,部材についてALC部材や木材が例示されているにすぎず,ねじ釘は,一般的に,重ね合わせた部材を締め付けて結合するのに使用されるものであるから,「本件発明の構成Aにおいて・・・『ある部材に他の部材を重ねてねじ止めするためのねじ釘』と限定した点は,ねじ釘が普通に使用される態様を表したものにすぎず,上記構成Aについての限定のないねじ釘と実質的な差違はない」とした審決の判断に誤りはない。
(2) 構成Cについてみると,引用例(甲3)の,「以上のような,この考案(注,引用発明)によれば,・・・軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近を経ると,急傾角でない通常のリード角に戻り,喰い込み当初よりも緻密で径の大きなねじ込みとなり,締まり具合も良好となる。従って本考案によってタッピングネジのねじ込み作業を能率化できると共にねじ込み状態を良好に維持できることになる」(3頁最終段落〜4頁第2段落)との記載からみて,引用発明は,ねじ山のピッチの差で,ねじの締め具合を良好にできるものであって,ねじ山のピッチ差があるため,ねじが一回転するとねじの基端側の進む距離よりも先端側が相対的に長くなるようにしてねじ締めするものであるから,引用発明は,本件発明と同じ作用効果を奏するものということができる。したがって,引用発明は,2部材を密接した状態に締め付け,強力な取り付け強度を得ることができるものであるとともに,このタッピングネジで締め付けると,本件発明と同じ作用効果を奏することは自明である。また,本件発明の作用効果について,原告らが主張する,ねじ止め部材のある部材及び他の部材とも下穴なしでねじ込めるとの点については,本件明細書に記載がないばかりでなく,かえって,引用例に,「複数条のネジは勿論のこと,1条ネジの場合にあっても下孔を形成せずとも,ねじ込み当初の喰い込みを良くして,ねじ込み作業を迅速に行なえることになる」(4頁第1段落)と明記されているとおり,引用発明のタッピングネジは,下孔の必要がなく,本件発明における「ねじ釘」に相当することが明らかである。
3 取消事由3(引用例の記載事項についての発明性の判断の誤り)について 原告らの主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告らは,引用発明における「軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけて」が本件発明における「軸部の先端部分」に相当するとした審決の認定の誤りを主張する。
しかしながら,本件発明の「軸部の先端部分」が先端錐部に限定されないとする原告らの主張によっても,引用発明の先端錐部が本件発明の先端部分に相当することを排除するものではない。また,本件発明の請求項1の「ある部材(例えばALC部材)」という記載は,「例えばALC部材」との文言から明らかなように,ある部材を例示するものにすぎず,ALC部材と限定的に解することはできない。さらに,請求項1をみると,「先端部分」については,単に「軸部の先端部分」(構成B)と記載されているにすぎず,「ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消すること」についても,「ねじ釘を一回転した場合に,ある部材を通過している先端部分の軸方向に進む距離が,他の部材を通過しているねじ釘の基端部分の進む距離よりわずかに長くなることにより,ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消する」(構成C)と記載されているにすぎない。本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明においても,「ねじ釘の軸部の先端部分」(段落【0013】),「ねじ釘の先端部分」(段落【0014】,【0016】,【0020】),「軸部の先端部分」(段落【0015】,【0026】)など,単に「先端部分」という記載があるだけで,原告らが主張するように,「先端部分」を,ある部材の材質に応じた,ある部材と他の部材との間のすき間(浮き)を解消するのに必要最小限の寸法分であり,先端錐部より円筒軸部にも及ぶ範囲を意味しているとする記載や示唆はない。原告らは,ある部材の圧縮強度や塑性変形に至らない範囲における弾性変形内の寸法設定が必要なため,それに必要な部分のねじ山のピッチがわずかに基端部より長く製作されていることは明らかであるとも主張するが,本件発明の「先端部分」をその主張のように限定的に解釈すべき根拠は見いだせない。原告らの主張は採用の限りではない。
(2) 原告らは,引用発明における「タッピングネジ」が本件発明における「ねじ釘」に相当するとした審決の認定の誤りを主張する。
本件発明の「ねじ釘」の意義について,本件明細書には特に規定するところはないが,技術常識からして,ねじ機能を奏し,部材をつなぎ合わせる真っすぐな形状の止め金具を意味するものと解され,引用発明の「タッピングネジ」も,これと同様,ある部材に他の部材を重ねてねじ止めすることができる止め金具を指すものと解されるから,引用発明の「タッピングネジ」は,本件発明に係る「ねじ釘」に相当するとした審決の認定に誤りがあるということはできない。この点について,原告らが主張する,本件発明が「コーススレッドねじ」あるいは「とがり先タイプのドリリングタッピングねじ」であるのに対して,引用発明が「タッピングネジ」であること,両者のネジ山のピッチが相違することは,引用発明の「タッピングネジ」が上記認定の限度において「ねじ釘」であると認められることと矛盾しない。
また,原告らは,本件発明のねじ釘が,ドリリング,すなわち,下穴のない状態で穴を開けながら,ねじ部も同時に施す作用を行うねじであるのに対し,引用発明の「タッピングネジ」の作用は,主に薄金属板などに事前に谷径よりも太く,ねじ山径よりも細い下穴を開けたその下穴へタッピングネジを差し込み,回転を施すことにより,タッピングネジの雄ねじでもって薄金属板等に雌ねじを切る効果を得ることにある点で相違すると主張するが,審決の,「甲第1号証(注,引用例)には,『先ず第1図の実施ではリードを粗くして,木部或は薄い金属部用のタッピングネジ(1)における場合であって』・・・及び,『1条ネジの場合であっても下孔を形成せずとも,ねじ込み当初の喰い込みを良くして,ねじ込み作業を迅速に行なえることになる。』・・・と記載されており,引用発明は,木材等の鉄製部材以外の部材への適用,及び,下孔のない部材への適用をも意図したものである」(審決謄本11頁第3段落)との認定に誤りはないから,原告らの上記主張は採用の限りではない。
(3) 原告らは,審決の,「引用発明は,『軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけてリード角を他部分のリード角に比し急傾角に形成してなる』ものであるが,ねじ山のリード角と軸方向にみたピッチとは,ピッチがtan(リード角)に比例する関係にあるから,引用発明においても,前記先端錐部にかけて形成されたネジ部におけるねじ山の軸方向にみたピッチは,他部分すなわち軸部の基端側に形成されたネジ部におけるねじ山のピッチより長くされている」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第1段落)とした認定の誤りを主張する。
ア まず,審決が,錯誤により,「錐部においても軸部と同じくリード角とねじピッチとは比例する」と誤って認定したとする原告らの主張についてみると,確かに,軸部より先端錐部にわたるまですべて同一のピッチ(互いに隣り合うねじ山の相対応する2点を軸線に平行に測った距離)でねじ山を形成した場合は,先端錐部に形成されたねじのリード角(ねじ山のつる巻き線とその上の1点を通るねじの軸に直角な平面との成す角度)は,軸部に比べて急傾角になることは,原告ら主張のとおりである。しかしながら,そもそも,引用例(甲3)には,軸部より先端錐部にわたるまですべて同一ピッチでねじ山を形成する旨の記載はないし,仮に,通常のねじ釘が同一のピッチでねじ山を形成するものであるとしても,このことを根拠として,先端錐部のねじのリード角を軸部のねじのリード角と異ならせた引用例記載のタッピングネジのねじ山のピッチを,軸部より先端錐部にわたるまですべて同一ピッチであると解すべき理由はないから,原告らの上記主張は,その前提において失当である。
イ 次に,先端錐部においては,急傾角であるからといってねじ山のピッチが長くなるとは限らず,先端錐部の急傾角の度合や錐部の軸径が小径になる度合によっては,錐部のねじ山のピッチが軸部のねじ山のピッチより短くなる場合があるとして,引用発明の先端錐部におけるねじ山のピッチに関する審決の認定の誤りをいう原告らの主張について検討する。
財団法人日本工業規格協会に対する質問・照会状(甲4-1)及びその回答(甲4-2)によれば,円柱形状のねじのリード長さ(ねじが1回転して軸方向に進む距離)が,リード角をβとしたときに,「リード長さ=tan(β)×(同軸径における円周長さ)」の式で求められることが認められ,また,ねじのリード長さとねじ山のピッチは比例関係にあることも明らかであり,引用発明の先端錐部も,錐部の各断面においては円柱形状とみなすことができるから,上記式によれば,引用発明の先端錐部のねじ部において,ねじ山のピッチはtan(β)に比例するということができる。したがって,審決が,「ねじ山のリード角と軸方向にみたピッチとは,ピッチがtan(リード角)に比例する関係にある」(審決謄本9頁最終段落〜10頁第1段落)との判断を,引用発明の先端錐部におけるねじ山のピッチを認定する際の根拠としたことに誤りはない。
他方,上記式からすれば,原告らが主張するように,ねじ山のピッチは直径に比例するともいえるが,同時に,ねじ山のピッチは,tan(β),直径(あるいは半径,円周)にそれぞれ独立して比例することも明らかである。そうすると,ねじ釘の先端錐部におけるねじ山のピッチが軸部に比べて長いかどうかは,先端錐部におけるtan(β)が軸部におけるtan(β)に対して大きくなった度合,すなわち,先端錐部におけるリード角が軸部におけるリード角に対して大きくなった度合と,先端錐部における直径が軸部における直径に対して小さくなった度合との兼合いで決定されるものである。したがって,先端錐部のリード角を軸部より急傾角としても,急傾角としたその度合が錐部の軸径が小径になる度合より比較的小さい領域では,原告らが主張するように,先端錐部のねじ山のピッチが軸部のねじ山のピッチより短くなるものの,逆に,先端錐部のリード角を急傾角とする度合が先端錐部が小径になる度合より比較的大きい領域では,先端錐部のねじ山のピッチは軸部のねじ山のピッチより長くなることが明らかである。
以上によれば,審決は,引用発明の先端錐部においても,ねじ山のピッチがtan(リード角)に比例する関係にあると判断した点に関する限り,誤りがあるということはできない。また,原告らが主張するように,審決が,先端錐部においては,急傾角であるからといってねじ山のピッチが長くなるとは限らず,先端錐部の急傾角の度合や錐部の軸径が小径になる度合によっては錐部のねじ山のピッチが軸部のねじ山のピッチより短くなる場合があることを認識していないとしても,先端錐部のリード角を急傾角とする度合が錐部の軸径が小径になる度合より比較的大きい領域では,先端錐部のねじ山のピッチが軸部のねじ山のピッチより長くなる場合もあることは上記のとおりであるから,この点は,直ちに,引用発明の先端錐部におけるねじ山のピッチの認定の誤りに結び付くものではない。
ウ さらに,引用例(甲3)におけるねじ山のピッチの図示に関する原告らの主張について検討する。
引用例の第1図に図示されているタッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチは,原告らが主張するように,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて顕著な相違は認められないが,第3図に図示されているタッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチは,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて長いことが明らかである。引用例には,「この考案によれば,タッピングネジのうち軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から錐部へかけては他部分のネジ条数のままでリード角のみを他部分に比し急傾角に形成しているので,複数条のネジは勿論のこと,1条ネジの場合にあっても下孔を形成せずとも,ねじ込み当初の喰い込みを良くして,ねじ込み作業を迅速に行なえることになる。そして軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近を経ると,急傾角でない通常のリード角に戻り,喰い込み当初よりも緻密で径の大きなねじ込みとなり,締まり具合も良好となる」(3頁最終段落〜4頁第1段落)と記載されている。この「喰い込み当初よりも緻密で径の大きなねじ込みとなり,締まり具合も良好となる」との記載中,「緻密なねじ込みとなる」ことは,ねじが1回転して進む距離がねじ山のピッチに比例することからして,ピッチが小さくなることを意味すると解されるから,先端錐部と軸部との境界付近において,ねじ山が先端錐部から軸部へ移行するのに伴って,ねじ山のピッチが短くなること,すなわち,タッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチは,先端錐部と軸部との境界付近において,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて長くなっているということができる。そうすると,引用例の第3図及び上記記載からみて,引用例には,タッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチが,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて長いことが開示されていると認められる。
原告らは,引用例の第3図がリード角とピッチとの関連においてずさんなものであるとか,何を意図して図示されているか引用例に記載されていないとか主張するが,当業者が,引用例に開示された技術事項を上記認定の限度において理解し得ることを否定するに足りる根拠とはなり得ない。
したがって,引用発明のねじ山のピッチについて,審決の,「引用発明においても,前記先端錐部にかけて形成されたネジ部におけるねじ山の軸方向にみたピッチは,他部分すなわち軸部の基端側に形成されたネジ部におけるねじ山のピッチより長くされているものである」(審決謄本10頁第1段落)とした認定に誤りはない。
(4) 以上によれば,原告らの取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告らは,本件発明の構成Aについて,引用発明と実質的な相違点ではないとした審決の判断の誤りを主張する。
ア 原告らは,構成Aが「ある部材に他の部材を重ねてねじ止めするためのねじ釘」と限定した点について,「ねじ釘が普通に使用される態様を表したものにすぎず,上記構成Aについての限定のないねじ釘と実質的な差違はない」(審決謄本12頁第1段落)とした審決の判断中,「上記構成Aについての限定のないねじ釘」が何を指すのか不明であると主張するが,「上記構成Aについての限定のないねじ釘」は,審決の記載からして,本件発明に係る「ねじ釘」から,構成Aの「ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘」という限定を除いたものであることは明らかである。そして,技術常識からして,審決が認定判断したように,「一般に,ある部材に対して他の部材を重ねてねじ止めすることは,ねじ釘の用途としてきわめて普通のものであり,『ある部材に他の部材を重ねてねじ止めするためのねじ釘』と限定した点は,ねじ釘が普通に使用される態様を表したものにすぎ」ないということができるから,審決が,本件発明に係る「ねじ釘」を,「上記構成Aについての限定のないねじ釘と実質的な差違はない」とした判断に誤りはない。
イ また,原告らは,本件発明が,ある部材及び他の部材とも,下穴なしでねじ込み可能であるのに対して,引用発明では,他の部材には下穴としてねじ山径よりも大きめの丸穴(いわゆるバカ穴)が必要であると主張する。 しかしながら,そもそも,本件明細書には,本件発明に係るねじ釘において下穴が不要である旨の記載はないのみならず,審決も,下穴について何ら規定していない構成Aの「ある部材(例えばALC部材)に他の部材(例えば木板)を重ねてねじ止めするためのねじ釘」という限定について,実質的な差異はないと認定判断したものであるから,ある部材及び他の部材をねじ止めする際に,これらの部材に下穴が必要か否かは,上記認定判断を左右しない。そればかりでなく,引用例(甲3)の,「この考案によれば,・・・複数条のネジは勿論のこと,1条ネジの場合にあっても下孔を形成せずとも,ねじ込み当初の喰い込みを良くして,ねじ込み作業を迅速に行なえることになる」(3頁最終段落〜4頁第1段落)との記載からみて,引用発明のタッピングネジにおいても,ある部材及び他の部材に下穴を設けなくともねじ込みが可能であることは,上記のとおりである。この点について,原告らは,引用例の「下穴不要」という記載の意味は,単に,ある部材にねじ込みやすいことのみを示すにすぎないと主張するが,上記記載が,ある部材にねじ込みやすいことを意味するものとすれば,引用発明のタッピングネジも,当然,ある部材及び他の部材に下穴(いわゆるバカ穴)を設けなくてもねじ込みが可能であるというべきであって,原告らが主張するように,ある部材にねじ込みやすいことのみを意味すると限定的に解すべき理由はない。
(2) さらに,原告らは,本件発明の構成Cについて,引用発明と実質的な相違点ではないとした審決の判断の誤りを主張する。
ア 審決が,引用発明のねじ山のピッチについて,「引用発明においても,前記先端錐部にかけて形成されたネジ部におけるねじ山の軸方向にみたピッチは,他部分すなわち軸部の基端側に形成されたネジ部におけるねじ山のピッチより長くされているものである」(審決謄本10頁第1段落)とした認定に誤りのないことは,上記のとおりである。引用発明のタッピングネジにより,ある部材に他の部材を重ねてねじ止めすれば,先端錐部が他の部材を抜けて出てある部材を通過するとともに,軸部の基端部分が他の部材を通過する場合が生ずるが,この場合に,ある部材を通過するねじ部のねじ山のピッチは,他の部材を通過するねじ部のねじ山のピッチより当然長くなる。そうすると,ねじが1回転して軸方向に進む距離はねじ山のピッチに比例することを考慮すれば,審決が,「先端錐部にかけて形成されたネジ部の軸方向に進む距離は,・・・前記境界個所ないしはその付近を経たあとのネジ部の進む距離よりも長くなることは明らかである。したがって,ある部材に他の部材を重ねてねじ止めした場合に,ある部材を通過している先端部分の軸方向に進む距離が,他の部材を通過しているねじ釘の基端部分の進む距離よりわずかに長くなることにより,ある部材に対する他の部材の浮き上がりを解消すること,すなわち構成Cは,引用発明が有している自明の作用効果にすぎない」(同12頁第3段落)として,構成Cは実質的な相違点ではないと判断したことに誤りがあるとはいえない。
イ 原告らは,先端錐部のリード角を軸部より急傾角にすることにより,錐部のねじ山のピッチもおのずと長くなると錯覚したものであると主張する。しかしながら,審決が,引用発明の先端錐部においても,ねじ山のピッチがtan(リード角)に比例する関係にあると判断した点に関する限り誤りがないことは上記のとおりであり,また,引用例には,タッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチが,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて長いことが開示されていると認められるから,原告ら主張の点は,審決の上記認定判断を左右するものではない。
ウ 原告らは,本件発明の技術的課題は,とがり先ドリリングタッピングねじにおいて,ある部材と他の部材とも,下穴を開けずにねじ止めしようとする場合,ねじ先端(ポイント)がある部材に挿入する際に,ある部材と他の部材との間に必ず隙間を生ずるという問題点があることを解消することにあるのに対して,引用発明の主旨は,あくまでもタッピングネジを部材に喰い込みやすくするための工夫であると主張するが,部材にねじ釘を喰い込みやすくすることと,本件発明の上記技術的課題とは,何ら矛盾するものではない。
エ また,原告らは,本件発明は,ある部材及び他の部材を下穴なしでねじ込み可能であり,浮きの解消を行った上,強固に取り付けることができるのに対して,引用発明では,他の部材にいわゆるバカ穴を開けておかなければ十分な密着固定ができないと主張するが,上記のとおり,引用発明のタッピングネジも,ある部材及び他の部材に下穴を設けなくともねじ込み可能であるから,原告らの上記主張は失当である。
オ さらに,原告らは,「ねじ山のピッチ差でねじの締め具合を良好にできる」ことは,引用例に記載されておらず,決め付けにすぎないとも主張するが,上記のとおり,引用例のタッピングネジの先端錐部に形成されたねじ山のピッチは,軸部の基端側に形成されたねじ山のピッチと比べて長いから,引用例(甲3)に,「軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近を経ると,・・・喰い込み当初よりも緻密で径の大きなねじ込みとなり,締まり具合も良好となる」(4頁第1段落)と記載されているとおり,引用発明において,先端錐部におけるねじ山のピッチと軸部の基端側におけるねじ山のピッチの差により「ねじの締め具合を良好にできる」ことは明らかである。
(3) 以上のとおり,原告らの取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(引用例の記載事項についての発明性の判断の誤り)について 原告らは,引用例に記載された事項は,考案者の単なる考案内容を開示したものにすぎず,何ら新規の考案ではないし,特許法2条1項にいう「自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のもの」でもないから,引用発明は,同法29条1項3号にいう発明に該当しない旨主張する。
特許法は,同法2条1項において,上記のとおり「発明」の定義を定めているが,これとは別に,同条2項に「特許発明」の定義規定を置いていることからみると,同法2条1項にいう「発明」は,必ずしも特許要件を備えるほど高水準のものに限られないことは明らかである。したがって,同法2条1項は極めて一般的な概念規定と解すべきであり,同法29条1項3号の「発明」に関していえば,当業者が,刊行物に記載されている技術的思想の内容を理解して容易にその実施をし得る程度に,当該技術的思想の内容,すなわち,その構成が具体的に開示されているものと認められれば足り,必ずしも特許要件を備えるほど高水準のものであることを要しない。本件において,審決は,引用例に開示されている引用発明を「タッピングネジ部のうち軸部と先端錐部との境界個所ないしはその付近から先端錐部にかけてリード角を他部分のリード角に比し急傾角に形成してなるタッピングネジ」(審決謄本7頁下から第2段落)と認定しており,この認定は首肯するに足りるところ,当業者が,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例(公開実用新案公報)の明細書及び図面に接した場合に,上記の引用発明の内容を理解して容易にその実施をし得る程度に,その構成が具体的に開示されているものと認められることは,以上の認定及び判断に照らして明らかであるから,引用例の記載事項は同法29条1項3号にいう発明に該当するというべきである。
したがって,これと同旨の前提に立ち,引用発明との対比において本件発明の同法29条1項3号違反を判断した審決に原告ら主張の誤りはなく,原告らの取消事由3の主張は理由がない。
4 以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴