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関連審決 無効2023-800034
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事件 令和 6年 (行ケ) 10050号 審決取消請求事件
5
原告(無効審判請求人) 株式会社カーチスホールディングス
同訴訟代理人弁理士 鈴木正剛
同 中村昌雄 10
被告(同被請求人) 株式会社リアライズコーポレーション
同訴訟代理人弁護士 中島慧
同 茨城雄志 15 同訴訟代理人弁理士 岩池満
同 菅沼和弘
同 谷山稔男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/02/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
【略語】 本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で 使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。
25 第1 請求 特許庁が無効2023-800034号について令和6年4月18日にした 1 審決を取り消す。
第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 本件特許の設定登録 5 被告は、発明の名称を「情報処理装置」とする発明について、平成29年3 月17日(優先権主張日は平成28年3月17日)に特許出願(特願2017 -53378号)をし、令和元年7月19日、本件特許に係る特許権の設定登 録を受けた(請求項の数7)。
(2) 本件無効審判請求10 ア 原告は、令和5年5月31日、特許庁に対し、本件特許の請求項1につい て無効審判請求をし、特許庁は、同請求を無効2023-800034号 事件として審理を行った。
イ 特許庁は、令和6年4月18日付けで、「本件審判の請求は、成り立たな い。 との本件審決をし、
」 その謄本は令和6年5月7日原告に送達された。
15 ウ 原告は、令和6年6月4日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起 した。
2 本件特許に係る発明の内容 (1) 特許請求の範囲(請求項1)の記載(分説は、審判請求書による。) 【請求項1】20 A 車種、経過年を含む履歴情報、価格を少なくともパラメータとして含む、
t台(tは1以上の整数値)の車両の購入額、及び所定の期間経過後の販売 額を演算する購入販売額演算部と、
B 前記t台の車両の夫々を購入した者を貸主として、当該t台の車両の 夫々を、所定の借主に対して賃貸借契約で賃貸する場合の賃貸費を演算す25 る賃貸費演算部と、
C 前記賃貸費と、前記購入額と、前記販売額とに基づいて、前記貸主の損益 2 額と、前記t台の車両の組合せからなるファンドの商品を購入する投資家 の損益額と、の夫々を演算する損益演算部と、
D 前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売額、前記賃貸費、前 記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組合せを変化させて、前記購入 5 販売額演算部、前記賃貸費演算部、及び前記損益演算部の各処理を繰り返 し実行させ、その実行結果に基づいて、前記貸主の損益額が、前記投資家の 所望する金額となるように、前記ファンドの商品の内容を決定する商品最 適化部と、
E を備える情報処理装置。
10 (2) 本件明細書の記載事項及び願書添付図面の抜粋を、別紙2に掲げる(なお、
図面は便宜上90度回転させている。)。これによれば、本件明細書には、次 のような開示があることが認められる。
ア 本発明は、情報処理装置に関する(【0001】)。
イ 従来から、ファンドにおける投資活動を円滑に進め、投資家に対して安15 定的に高い配当を行うことを目的とした運用戦略立案システムは提案され ていた(【0002】)。
ウ しかし、投資家からは、従来の技術と比較して、運用利回り、需給バラン ス、及び取引相場の安定性がより優れており、かつ、所望の損益を計上する ことができるファンドを投資対象としたいとする要求があり、本発明はこ20 の要求に応えることを目的とする(【0004】、【0005】)。
エ そこで、本発明の構成を採用することにより、投資対象が、運用利回り、
需給バランス、及び取引相場の安定性に優れ、かつ、投資家の所望する損益 を計上することができるファンドの商品を提供することができる(【00 13】)。
25 3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由の骨子(本件の取消事由に関係するもの)は以下のとおりで 3 あり、その詳細は別紙3「本件審決の理由の要旨」のとおりである。
(1) 本件特許発明は、自然法則を利用した技術的思想創作であって「発明」 に該当する。原告主張の無効理由1は理由がない。
(2) 本件特許発明は明確であり、特許法36条6項2号所定の明確性要件に適 5 合する。原告主張の無効理由2は理由がない。
(3) 本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明実施をするこ とができる程度に明確かつ十分に記載されており、同条4項1号所定の実施 可能要件に適合する。原告主張の無効理由3は理由がない。
4 取消事由10 (1) 取消事由1:本件特許発明の認定の誤り (2) 取消事由2:「発明」該当性に関する判断の誤り (3) 取消事由3:明確性要件に関する判断の誤り (4) 取消事由4:実施可能要件に関する判断の誤り 第3 当事者の主張15 1 取消事由1(本件特許発明の認定の誤り)について 【原告の主張】 (1) 本件明細書等には、課題に対応するファンドの商品として、「トラックファ ンド」のみが記載されている。本件審決はそのような「トラックファンド」の 内容を正解せず、請求項1に記載された本件特許発明の認定を誤り、それが20 各無効理由に関する判断に対して重大な影響を及ぼしている。
(2) 本件特許発明は、「トラックファンド」であって、投資対象を償却資産であ る車両として、減価償却費の演算に定率法等を採用することで、税制面のメ リットを投資家に享受させることを主眼として設計された資金運用手段であ るオペレーティングリース商品であって、例えば投資家自身の会計年度の課25 税所得が過大であるためにそれを圧縮したいという投資家のニーズ(本件明 細書【0063】。以下段落番号は本件明細書のものを指す。)に応えること 4 ができる金融商品であり、その損益構造は、飛行機ファンドや船舶ファンド (【0026】)のような事業型ファンドと同様である。
このようなファンドの場合、「投資家の所望する金額」は投資家自身の費用 として計上できるファンドの「損金の額」、具体的には「減価償却費」に基づ 5 く損金の額であるが、請求項1において、投資家による「出資額」や「減価償 却費」の演算(日本の税制に対応した会計処理としての減価償却費の演算と 損金の計上)が特定されていないため、「貸主の損益額が、投資家の所望する 金額となるように・ ・決定する」 ・ 処理の内容が具体的にならない。そのため、
本件特許発明では、本件審決の認定する上記課題を解決しない。この点を看10 過した本件審決の判断は誤りである。
被告は、特許請求の範囲に記載された事項を備えていれば、その他の構成 を含んでいたとしても、特許発明技術的範囲に含まれる旨主張する。しか し、特許制度は、新規な発明を世の中に公開する代償として特許権を与える ものであり(特許法1条) 特許権の効力が及ぶ技術的範囲は特許請求の範囲
15 (請求項)に基づいて定められる(同法70条1項)から、請求項には「特許 を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載し なければならない」ことが同法36条5項に規定されている。特許要件を充 足するかどうかの審査の対象は、請求項に過不足なく記載された発明特定事 項に基づいて認定されなければならず、被告の主張は、特許制度の理念に反20 する。
(3) 本件審決は、「前記貸主」・・・の「損益額」について、「主に、業務用貨 物運搬用車両の賃貸収入及び販売額(下取価格)との合計額から業務用貨物 運搬用車両についての減価償却費及び諸費用を減じた額」(【0047】)、
具体的には、【0057】に「図6に示す例」における「損益演算部304に25 よる演算結果」として示されたもののうち、「損益計算書(トラックファンド の損益額)」のことであると認定している。しかし、本件審決の認定した「貸 5 主の損益額」は、本件特許発明の請求項1に記載されていない減価償却費の 演算結果に基づく損金をも演算する損益演算部304により図6のように演 算された金額であって、構成要件Cの「損益演算部」により演算された金額で はない。
5 また、本件審決は、「投資家の損益額」について、「投資家Iの損益」 「主 が に、トラックファンドの配当額から自身の費用として計上することができる 業務用貨物運搬用車両の減価償却費を減じた額」である旨の【0047】の記 載から、ファンドの商品を購入する投資家の投資条件となる配当等、具体的 には、「図6に示す例」における「損益演算部304による演算結果」(【010 057】)のうち、「投資条件」となる「最終損益(投資家の損益)」等のこ とであって、「最終損益」が「103.87%」である旨の図6の図示におけ る、投資額に対する「3.83%」の配当等を意味するとしている。しかし、
「トラックファンド」に出資した「投資家の損益額」は、少なくともその投資 家の出資額のほか、自身の費用として計上することができる業務用貨物運搬15 用の車両の減価償却費が判明しない限り演算できない金額であるから、本件 審決の上記判断は誤りである。
このように、本件特許発明構成要件Cの「損益演算部」では、「貸主の損 益額」を演算する処理も「投資家の損益額」を演算する処理も具体的に実現さ れない。
20 (4) 本件審決は、構成要件Dを構成要件D1〜D3に分けた上で、その内容を 認定しているが、いずれも誤りである。
ア 本件審決は構成要件D1及びD2が【0049】に対応するものとした。
しかし、構成要件D1及びD2には、変化させる対象として【0049】 には記載のある減価償却費が含まれておらず、本件明細書等にも、構成要25 件D1及びD2に対応する演算例が記載されていない。
イ 本件審決は、構成要件D2及びD3で決定される「商品の内容」は、構成 6 要件D1の「前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売額、前記 賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組合せ」によって示さ れる、
「トラックファンド」に係る「t台の業務用貨物運搬用車両」 「当 及び 該ファンドマネージャとの当該車両の賃貸借契約に基づく賃料や所定年数 5 経過後の当該車両の売却益を源泉として、投資家Iに配当を行うという収 益構造」(【0024】)であり、構成要件D3は、「前記投資家の所望す る金額」を目標とするシミュレーション(【0049】)を繰り返して、そ の目標を達成する「前記貸主の損益額」を結果として得た時点における「ト ラックファンド」の「商品の内容」を示す「前記パラメータ及び前記t台、
10 前記購入額、前記販売額、前記賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家 の損益の組合せ」 「決定」 を する意味であり、
「前記投資家の所望する金額」 について、「最終損益(投資家の損益)」が「103.87%」であること によって達成される目標(例えば103.8%を下限とする等)であるとし た。
15 しかし、本件明細書等に記載されているトラックファンドの「商品の内 容」は、3000万円の出資額(図6,図7A,B)を資金として初年度に 18,133,333円の減価償却費(図5B、図6)を損金として計上で きる8台の車両(図5A、図8)で構成したもの 【0069】 ( 等)である。
ウ また、本件審決は、ファンドマネージャーが、バイアウトファンドやヘッ20 ジファンドのファンドの期待リターンを参考にして、
「トラックファンド」 の投資家の所望する損益をシミュレーションの目標として設定するとする が、税制面のメリットを主眼とせず、株式等の非減価償却資産を投資対象 として最終的な運用利回りのみに期待するバイアウトファンドやヘッジフ ァンドを参考にすることは、当該投資家のニーズにそぐわない行為となり、
25 税制上のメリットを投資家に享受させる「トラックファンド」の本質的な 商品価値を毀損することになる。
7 このように、構成要件Dの「商品最適化部」に関する本件審決の認定は、
本件明細書及び図面に記載されている内容から逸脱した誤った認定である。
構成要件Dの「商品最適化部」の処理は抽象的であり、具体性がない。
(5) 本件審決は、本件特許発明によりその内容が決定される「ファンドの商品」 5 である「トラックファンド」がバイアウトファンドやヘッジファンドと競合 するファンドの商品であると誤解した結果、「投資家が所望する金額」や「損 益額」が関わる処理の内容が抽象的で具体性がないにもかかわらず「処理が 具体的に実現されている」と誤って認定した。
この誤った認定は、「発明」非該当とされるべき無効理由1の結論、請求項10 の記載が明確性を欠くとされるべき無効理由2の結論、請求項の発明特定事 項を当業者が実施できないとされるべき無効理由3の結論に影響を及ぼす。
【被告の主張】 (1) 本件明細書の【0024】や【0027】も参酌すれば、トラックファンド が、投資家がトラックファンドに投じる資産を増加させることにより、投資15 家に対して配当を行うことを企図していることは明らかで、減価償却費を計 上することによる税制面のメリットのみに着目する原告の主張は失当である。
(2) 原告は、請求項1において、投資家による「出資額」や「減価償却費」が特 定されていないことを理由に、本件発明が課題を解決しない旨主張する。
しかし、本件明細書には、「出資額の60%となる1800万円」は「投資20 家Iが初年度に損金計上したい額」と記載されているにすぎず 【0053】 、
( ) 「投資家の所望する金額」ではない。本件特許発明における「投資家の所望す る金額」は、シミュレーションの目標として設定されるファンドの商品を購 入する投資家の所望する損益(明細書の図6でいえば、「最終損益」の目標と して設定される数値)を指すものである。
25 また、請求項1が「減価償却演算部」を発明特定事項としていないことをも って、本件特許発明において減価償却費の演算を行うことが排除されること 8 にはならない。特許請求の範囲に記載された事項を備えていれば、その他の 構成を含んでいたとしても、特許発明技術的範囲に含まれる。
(3) 原告は、本件審決における構成要件D1〜D3の認定を論難するが、失当 である。
5 ア 原告は、構成要件D1及びD2には、変化させる対象として【0049】 には記載のある減価償却費が含まれておらず、本件明細書等にも、構成要 件D1及びD2に対応する演算例が記載されていないと主張するが、減価 償却費の演算を行うことが本件特許発明において排除されているわけでは ないことは前記(2)のとおりである。
10 イ 原告は、本件明細書及び図面に記載された「商品の内容」は、「3000 万円の出資額を資金として初年度に18,133,333円の減価償却費 を損金として計上できる8台の車両で構成したものであるとし、投資家の 所望する金額は、出資額の60%となる1800万円であるとし、構成要 件D2,D3の「商品の内容」に関する審決の認定は誤りである旨主張する15 が、投資家の所望する金額に関する原告の主張が失当であることは前記(2) のとおりである。
ウ 原告は、ファンドマネージャがバイアウトファンドやヘッジファンドの 期待リターンを参考にして、トラックファンドの投資家の所望する損益を シミュレーションの目標として設定することはあり得ない旨主張するが、
20 トラックファンドの税制面のメリットのみに着目する原告の主張が失当で あることは、前記(1)(2)のとおりである。トラックファンドが投資商品であ る以上、投資家の所望する損益をシミュレーションの目標として設定する ことは当然である 2 取消事由2(「発明」該当性に関する判断の誤り)について25 【原告の主張】 (1) 構成要件Cの「損益演算部」は、「前記賃貸費と、前記購入額と、前記販売 9 額とに基づいて」、「前記貸主の損益額」と「投資家の損益額」とを演算する ものであり、「前記賃貸費」、「前記購入額」、「前記販売額」は審決が認定 した「トラックファンド」の収益構造(【0024】)から導出される金額と 解されるが、そのような収益構造から投資家自身の費用として計上できる「損 5 金」が一義的に導出されることはないし、本件明細書等にも減価償却費以外 の「損金」の例は記載されていないから、損金演算の根拠となる金額を発明特 定事項としない要件Cの「損益演算部」において「前記貸主の損益額」と「投 資家の損益額」とを演算する処理は、抽象的である。
構成要件Dの「商品最適化部」における組合せを変化させる対象に「投資家10 の損益」が含まれる。しかし、本件明細書等において、「投資家の損益」の例 が具体的に記載されているのは、【0057】及び図6の「最終損益(投資家 の損益)」の「107.87%」だけであり、これは、損金計上される減価償 却費演算部202の演算結果と投資家の出資額、すなわち投資家によるファ ンドの購入額とを反映した演算例であって、出資額や減価償却費の演算を発15 明特定事項としない本件特許発明において、「投資家の損益」が具体的になる ことはない。「貸主の損益」についても同様である。したがって、これらを繰 り返し変化させる処理もまた具体的にならない。
本件明細書等には、構成要件Dの発明特定事項である「前記投資家の所望 する金額」 ファンドの購入額すなわち出資額である3000万円の60% が、
20 となる1800万円(初年度に所望する損金の額)であることが明記されて いる(図6、図7A、【0019】、【0053】等)。しかし、出資額や損 金計上の根拠となる金額を発明特定事項としない本件特許発明において、
「貸 主の損益額」及び「前記投資家の所望する金額」は抽象的であり、そのような 金額を導出する処理の内容が具体的になることはない。
25 以上のとおり、本件特許発明は、請求項において投資家の所望する損益を 計上することができるファンドの商品を求める投資家に対してそのような 10 「ファンドの商品」を提供するソフトウェアによる情報処理がハードウェア 資源を用いて具体的に実現されていないことが明らかであり、本件特許発明自然法則を利用した技術的思想創作に該当するとの本件審決の判断は誤 りである。
5 (2) 前記(1)によれば、本件特許発明では、使用目的に応じたソフトウェアによ る情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえな いから、人為的な取決めにすぎないというべきである。
(3) 損金計上の根拠となる金額を発明特定事項としない構成要件C及び構成要 件Dにおける処理の内容が本件明細書等に記載がないことは前記(1)で主張10 したとおりであり、それゆえに本件特許発明の請求項に記載された事項は、
字義どおりに解釈するしかなく、そうするとすべてが動作主体を人と仮定し てみた場合に無理なく読める請求項の記載なのであり、情報処理の対象であ るデジタル信号の観点からみても他のデジタル信号と何ら異なる特性を示す ものではないから、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した特有の情15 報処理が実現されているとは到底いえない。
そうすると、本件特許発明において、課題解決のためのソフトウェアによ る情報処理が、CPUやメモリ等のハードウェア資源を用いて具体的に実現 されている、つまり情報処理の内容がソフトウェアとハードウェア資源とが 協働することで実現される「特有」のものということができないから、本件特20 許発明は自然法則を利用したものではない。
【被告の主張】 (1) 本件特許発明はあくまでも「ファンドの商品」を提案するものであって、
「投資家自身の費用として」損金をいくら計上できるかを発明特定事項とす るものではない。したがって、損金の額が一義的に導かれないこと等を理由25 に本件特許発明構成要件Cが抽象的であるとする原告の主張は理由がない。
また、減価償却費の演算を行うことが本件特許発明において排除されてい 11 ないこと、「投資家の所望する金額」が損金の額ではないことからすれば、構 成要件Dに関し「投資家の損益」「貸主の損益」「投資家の所望する金額」に 具体性がないとする原告の主張も失当である。
(2) 原告は、本件特許発明は人為的な取り決めにすぎない旨主張するが、本件 5 審決の判断に誤りはない。
(3) そもそも本件特許発明において、損金計上の根拠となる金額を発明特定事 項としなければならない理由はない。そして、本件特許発明においては、ソフ トウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されてい る。
10 3 取消事由3(明確性要件に関する判断の誤り)について 【原告の主張】 (1) 構成要件Cの「損益演算部」が演算する「前記貸主の損益額」と「投資家の 損益額」はトラックファンドの収益構造(【0024】)に基づいて導出され る金額と解されるが、収益構造から「損金」が導出されることはなく、発明の15 詳細な説明には減価償却費以外の「損金」の例は記載されていないから、出資 額や損金の演算を発明特定事項としない構成要件Cは、その記載自体が不明 確である。
(2) 構成要件?の「前記投資家の所望する金額」は、当該投資家のニーズ(【0 063】)に応じた出資額あるいは投資家要求損金配当に基づいて決定され20 る金額であるが、本件特許発明は、出資額や損金の演算を発明特定事項とし ないし、「前記投資家の所望する金額」とファンドの商品の内容との関係も不 明であるから、
「貸主の損益額が、前記投資家の所望する金額となるように ・ ・・ 決定する」ことを内容とする構成要件Dは、請求項の記載自体が不明確であ る。
25 (3) 構成要件Dにおいて、「前記貸主の損益額」が「前記投資家の所望する金 額」となるように演算を繰り返させる対象の組合せに「前記貸主の損益」と 12 「前記投資家の損益」が含まれており、これらの「損益」が要件Cで演算され るそれぞれの「損益額」なのかどうか、繰り返しの演算を止める際に比較され る金額同士も変化するものなのかどうかも不明であり、さらに、本件特許発 明は、貸主及び投資家のそれぞれの損金の演算根拠となる金額を発明特定事 5 項としないから、「損益」、「損益額」及び「前記投資家の所望する金額」の 関係も不明である。
本件明細書等にも、出資額や損金計上の根拠となる金額の演算を伴わない 「損益演算部」及び「商品最適化部」の処理の内容が記載されていないから、
構成要件C及び構成要件Dにおける処理の内容は不明確である。
10 (4) 本件審決は、構成要件D3は、技術常識を踏まえれば、トラックファンド 以外のファンドにおける期待できるリターンを参考として、潜在的なトラッ クファンドの買い手となる投資家が所望する利益をシミュレーションの目標 として設定していることを示していることが明らかであり、明確性要件を満 たしているといえるとしている。
15 しかし、この判断は、第1に構成要件D3の発明特定事項である「前記投資 家の所望する金額」が1800万円の「損金額」であり、その金額は投資家の 購入額である出資額3000万円に対して60%に相当する金額であること が本件明細書等の記載から明らかであるにもかかわらず、これらの記載の検 討を怠っているという点で判断遺脱であり、第2に「前記投資家の所望する20 金額」が具体的な「金額」であることが本件明細書等の記載から明らかである にもかかわらず、「潜在的なトラックファンドの買い手となる投資家が所望 する利益」とした点で誤りであり、第3にトラックファンドの投資家が所望 する損益をヘッジファンドやバイアウトファンド等の他の期待リターンを参 考にして、シュミュレーションの目標として設定することはあり得ないから、
25 技術常識の認定においても誤りがある。
【被告の主張】 13 (1) 本件特許発明において、出資額や損金の演算等を発明特定事項として含ま なければならない理由はない。本件特許発明は、実際にファンドに投資した 投資家の損益を計算するものではなく、「トラックファンドの商品内容を決 定する」ために一定のシミュレーションを実行するものであり 【0049】 、
( ) 5 そのシミュレーションにおいて、当業者が必要に応じて適宜、投資家の出資 額や投資家が計上したい損金を想定することができるし、それで足りる 【0 ( 053】)。
(2) 原告は、構成要件?の「前記投資家の所望する金額」が、当該投資家のニー ズに応じた出資額あるいは投資家要求損金配当に基づいて決定される金額で10 あることを前提に、本件特許発明は、出資額や損金の演算を発明特定事項と しないし、「前記投資家の所望する金額」とファンドの商品の内容との関係も 不明であるから、構成要件Dの記載が不明確である旨主張するが、本件特許 発明は、複数のファンドの商品のそれぞれについて期待できるリターン等を 比較しつつファンドの商品を購入しようとする投資家に対して「ファンドの15 商品」を「提供」するものであり、「ファンドの商品」を「投資家の所望する 損益を計上することができる」ものとするにあたって、シミュレーションの 目標として「前記投資家の所望する金額(ファンドの商品を購入する投資家 の所望する損益)」を設定するものであって、「前記投資家の所望する金額」 とファンドの商品の内容との関係性は明らかである。
20 (3) 構成要件Dの「前記貸主の損益」が構成要件Cの「前記貸主の損益額」であ り、構成要件Dの「前記投資家の損益」が構成要件Cの「前記投資家の損益額」 であることは、請求項1の記載から明らかであり、請求項1が出資額や損金 計上の根拠となる金額の演算を発明特定事項としていなくても、本件特許発 明においてかかる演算を行うことは排除されないし、本件明細書には、「トラ25 ックファンドの商品内容を決定する」ためのシミュレーションにおいて、当 業者が必要に応じて適宜、投資家の出資額や投資家が計上したい損金を想定 14 することができることが記載されている。
したがって、構成要件C及び構成Dにおける処理の内容が不明確であると する原告の主張は理由がない。
(4) 本件特許発明が内容を決定するファンドの商品は、投資家に対する提案と 5 して利用されるものであり(【0053】、【0069】)、ファンドの商品 の提案時には未だ投資家の出資金額(具体的な金額)は確定していないため、
出資に対する「最終損益(投資家の損益)」を「相対割合」で提示することが 当然に予想される。
また、本件明細書に記載されたトラックファンドは、投資家に対して配当10 を行うことを予定しているところ、ファンドの商品を決定する際のシミュレ ーションの目標として、ヘッジファンドやバイアウトファンド等の他のファ ンドの期待リターンを参考にすることは当然である。
4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)について 【原告の主張】15 (1) 本件審決が構成要件Cの「損益演算部」に関する記載として認定した【0 047】、【0057】〜【0063】、図6は、減価償却部302の演算を 発明特定事項とする本件請求項2に係る発明に対応する損益演算部304に 関する記載である。
構成要件Cの「損益演算部」は、「前記賃貸費と、前記購入額と、前記販売20 額とに基づいて」、「前記貸主の損益額」と「投資家の損益額」とを演算する ものであり、「前記賃貸費」、「前記購入額」、「前記販売額」はトラックフ ァンドの収益構造(【0024】)に基づいて導出される金額と解されるが、
収益構造から支出は導出されても「損金」が導出されることはないし、発明の 詳細な説明には減価償却費以外の「損金」の例は記載がないから、「前記貸主25 の損益額」と「投資家の損益額」を演算することはできない。現に、本件明細 書及び図面には、「投資家の損益額」の演算例は、一切記載されていない。
15 仮に構成要件Cの「損益演算部」が「損金」である減価償却費を含めて演算 すると解すると、本件特許発明と本件特許の請求項2に係る発明とが重複し、
本件明細書の【0081】と【0082】の記載事項が矛盾することになる。
したがって、「発明の詳細な説明」には、当業者が構成要件Cを実施するこ 5 とができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2) 本件審決は、構成要件D1及び構成要件D2の記載は本件明細書の【00 49】の記載に対応するというが、構成要件D1及び構成要件D2で変化さ せる対象として、【0049】には記載のある減価償却費が含まれていないか ら、少なくとも「前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益」のうち「損金」10 は変化させることができない。
また、本件審決のいうように構成要件D2及び構成要件D3で決定される 「商品の内容」が「収益構造」(【0024】)であるとすると、そのような 収益構造からは「前記貸主の損益額」が導出されないから、構成要件D3を実 施することができない。
15 したがって、発明の詳細な説明には、当業者が構成要件Dを実施すること ができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
【被告の主張】 (1) 構成要件Cは、「前記賃貸費と、前記購入額と、前記販売額」のみに基づい て「前記貸主の損益額」及び「投資家の損益額」を算出するわけではない。
20 なお、本件明細書に記載された「サービス提供サーバ1」が減価償却費等を 踏まえて「トラックファンドの損益」及び「投資家Iの損益」を演算すること は、本件明細書の【0047】、【0057】〜【0063】等に記載されて いる。
原告は、本件特許発明と請求項2に係る発明とが重複してはならないかの25 ように主張するが、そのように解すべき根拠はない。
(2) 「前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益」のうち「損金」は変化させる 16 ことができないという原告の主張の趣旨は不明である。また、「前記貸主の損 益額」の演算例については、例えば本件明細書の【0057】〜【0063】 に記載されている。
第4 当裁判所の判断 5 1 取消事由1(本件特許発明の認定の誤り)について (1) 原告が取消事由1(本件特許発明の認定の誤り)として主張するポイント は、以下の2点に要約されると解される。すなわち、@本件特許の特許請求の 範囲は、減価償却費に基づく演算を行うことを発明特定事項としていないが、
それでは、「貸主の損益額が投資家の所望する金額になるように決定する」と10 いう本件特許発明の課題を解決することはできないのに、本件審決はこれを 看過している、Aさらに、本件審決は、上記課題解決に係る「投資家の所望す る金額」になるように決定された「貸主の損益額」とは、ファンドの最終損益 であるとの誤った認定をしているというものである。
当裁判所は、上記@は採用できないが、上記A 「投資家の所望する金額」 ( 、
15 「貸主の損益額」の意義)に係る本件審決の認定には、原告の指摘する誤りが あるものと認める。しかし、結論的に、この誤りは本件審決の結論に影響を及 ぼすものではなく、審決を取り消すべき理由にはならないと判断する。以下、
順に説明する。
(2) まず、原告の上記(1)@の主張について見るに、特許請求の範囲の請求項120 において、構成要件Cの「損益演算部」に関する記載を含め減価償却費に基づ く演算について何らの記載もないことは原告の主張するとおりである。しか し、構成要件Cの「損益演算部」が、減価償却費に基づく演算を行うことを排 除する構成であると理解することはできない。現に、本件明細書の【004 4】〜【0047】、【0061】の記載及び図6を踏まえると、実施例にお25 ける損益演算部304は、賃貸費と、購入額及び販売額と、減価償却費とに基 づいて、トラックファンドの損益額と、トラックファンドを購入する投資家 17 Iの損益額のそれぞれを演算しており、減価償却費に基づく演算を行うこと が付加された構成が実施例として記載されているといえる。
原告は、特許要件を充足するかどうかの審査の対象は、請求項に過不足な く記載された発明特定事項に基づいて認定されなければならず、本件におい 5 て、発明特定事項として挙げられていない減価償却費の演算を行うことが排 除されないとすれば、特許法1条の趣旨に反する旨主張するが、本件特許発 明の「損益演算部」は、「のみ」等の他の構成を排除するような用語を含むも のではないから、発明特定事項として挙げられていない構成(例えば、適宜の 方法で減価償却費に基づく演算を行うこと)が付加された構成も排除されな10 いのであって、原告の主張は採用できない。
(3) 次に、原告の上記(1)Aの主張(「投資家の所望する金額」、「貸主の損益 額」の意味するところの認定の誤り)について検討する。
ア 本件明細書等にはトラックファンドについての実施例のみが記載されて いる。そして、トラックファンドの対象となる業務用貨物運搬用車両の購15 入費のうち自身が投資した分については、耐用年数が経過するまでの期間 中、その減価償却費を自己の会計に費用計上することができ税制面におけ るメリットを享受することができること、中古車のファンドは、新車より 耐用年数が短いため経理処理上短い期間で費用化(減価償却)でき、また、
海外で運用されることが多い飛行機ファンド、船舶ファンドと異なり為替20 リスクが低いため、安定した配当を得ることができると共に、短期間で減 価償却費を計上することができるメリットがあること(【0025】、【0 026】)、トラックファンドの損益は、主に、業務用貨物運搬用車両の賃 貸収入及び販売額(下取価格)との合計額から業務用貨物運搬用車両につ いての減価償却費及び諸費用を減じた額であり、投資家の損益は、主に、ト25 ラックファンドの配当額から自身の費用として計上することができる業務 用貨物運搬用車両の減価償却費を減じた額であること(【0047】)が指 18 摘されている。
実施例では、投資家Iが出資しようとする額が3000万円であり、投 資家Iが初年度に損益計上したい額が出資額の60%の1800万円であ るのに対し、サービス提供サーバ1において各処理が実行された結果、業 5 務用貨物運搬用車両の台数「8台」、投資家Iの出資額「30,000,0 00(円)」、初年度の損益額「-17,293,333(円)」とするト ラックファンドの商品が投資家Iに対し提案された場合(【0053】)が 示されている。シミュレーション部201において演算された結果の組合 せは、商品最適化部202によって最適化され、これにより、トラックファ10 ンドの損益額が投資家Iの所望する金額となるようなトラックファンドの 商品ができ上がる。商品最適化部202は、各パラメータ、並びにトラック ファンドの商品の対象となる業務用貨物運搬用車両についての台数、購入 額、販売額、減価償却費、賃貸費、トラックファンドの損益、及び投資家I の損益の組合せを変化させながら、購入販売額演算部301、減価償却演15 算部302、賃貸費演算部303、及び前記損益演算部304の各処理を 繰り返し実行させ、その実行結果に基づいて、トラックファンドの損益額 が、投資家Iの所望する金額となるように、トラックファンドの商品の内 容が決定される(【0064】)。図7Aでは、トラックファンドの対象と なる業務用貨物運搬用車両の台数は「8(台)」が最適であり、その場合の20 車両購入費は「27,200,000(円)」、車両売却額は「15,50 0,000(円)」、初年度減価償却費は「18,133,333(円)」、
初年度賃貸費は「5,368,000(円)」となることが示されている (【0066】)。図7Bには、商品最適化部202によってファンドとロ ーン(金融機関からの借入金)との組合せが最適化されたトラックファン25 ドの商品の例として、投資家Iからの出資額に対するローンの割合(ロー ン割合)ごとの、初年度損金額、金利負担額、元金返済額、投資家出資額、
19 ローン金額、及び初年度損金率が示され、ローン割合が「0.00%」であ る場合には、初年度損金額は「-17,293,333(円)」、投資家I が出資しようとする額が投資家出資額は「30,000,000(円)」と なることが示されている(【0068】、【0069】)。
5 イ 前記アの本件明細書等の記載によれば、最適化されたファンドの商品で ある図7A、図7Bの内容において、最終利益額の記載はなく、構成要件D の「前記投資家の所望する金額」の実施例対応の構成は、図6の投資条件の 「初年度損金」(「投資家Iが初年度に損益計上したい額」である「出資額 の60%の18,000,000円」(【0053】))であり、また、構10 成要件Dの「前記貸主の損益額」も、最終損益の金額ではなく、図6のよう に決定される各年度ごとのキャッシュフロー、特にトラックファンドの初 年度の損金額を意味するものと解される。
ウ この点に関し、本件審決は、構成要件Dの「前記投資家の所望する金額」 について、「最終損益(投資家の損益)」が「103.87%」であること15 によって達成される目標(例えば103.8%を下限とする等)であると し、さらに、その比較対象をバイアウトファンドやヘッジファンドとして いるが、前記ア、イによれば、本件特許発明において「前記投資家の所望す る金額」は最終損益ではなく、各年ごとのキャッシュフロー、特に初年度に 損益計上したい額である。また、トラックファンドは、投資対象の減価償却20 資産の減価償却によって発生する貸主の損金を投資家が費用計上できるこ とによって生じる投資家の税制面のメリット(中古車では特にメリットが 大きいとされる。 を主眼とする商品であって、
) 投資対象が非減価償却資産 であるバイアウトファンドやヘッジファンドとは明らかに異なるものであ る。これらの点についての本件審決の認定には誤りがある。
25 ただし、この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことは、
取消事由2以下で示すとおりである。
20 2 取消事由2(「発明」該当性に関する判断の誤り)について (1) 「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものを いい(特許法2条1項) 自然法則とは関係のない人為的な取決めなどはこれ 、
に含まれないと解される。いわゆるビジネス関連発明は、例えばコンピュー 5 タプログラムの利用等に係る具体的な手段として構成され、これを通じて課 題解決を実現していると認められるなど、当該創作を全体としてみて自然法 則を利用していると評価できる場合には、「発明」に該当するものと解され る。
本件特許発明は、情報処理装置の発明であり、車種、経過年を含む履歴情10 報、価格を少なくともパラメータとして含む、t台(tは1以上の整数値)の 車両の購入額、及び所定の期間経過後の販売額を演算する購入販売額演算部 (構成要件A)と、前記t台の車両の夫々を購入した者を貸主として、当該t 台の車両の夫々を、所定の借主に対して賃貸借契約で賃貸する場合の賃貸費 を演算する賃貸費演算部(構成要件B)と、前記賃貸費と、前記購入額と、前15 記販売額とに基づいて、前記貸主の損益額と、前記t台の車両の組合せから なるファンドの商品を購入する投資家の損益額と、の夫々を演算する損益演 算部(構成要件C)と、前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売 額、前記賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組合せを変化さ せて、前記購入販売額演算部、前記賃貸費演算部、及び前記損益演算部の各処20 理を繰り返し実行させ、その実行結果に基づいて、前記貸主の損益額が、前記 投資家の所望する金額となるように、前記ファンドの商品の内容を決定する 商品最適化部(構成要件D)とを備える情報処理装置(構成要件E)である。
上記各部は、コンピュータプログラムがコンピュータに読み込まれ、コン ピュータがコンピュータプログラムに従って作動することにより実現される25 ものと解され、それぞれの部について、その部によって行われるファンドに 関する演算処理、最適化処理が具体的に特定され、上記各部の組み合わせに 21 よって、ファンドの商品の内容を決定するための情報処理装置の動作方法及 びその順序等が具体的に示され、これが、投資対象が、運用利回り、需給バラ ンス、及び取引相場の安定性に優れ、かつ、投資家の所望する損益を計上する ことができるファンドの商品を投資家に提供するという本件特許発明の課題 5 (【0005】)の解決手段とされているから、「発明」に該当するものと認 めることができる。
(2) 原告は、本件特許発明が減価償却費に基づく演算を発明特定事項としてい ないことを根拠に、演算処理の内容は具体性を欠き、課題解決のための情報 処理がハードウェア資源と協働することで実現されるものといえず、本件特10 許発明は自然法則を利用したものとはいえないなどと主張する。
しかし、原告の主張自体からも、「減価償却費に基づく演算を発明特定事項 としてないこと」が自然法則の利用とどう結びついているのか不明といわざ るを得ないし、そもそも、本件特許発明が減価償却費に基づく演算を行うこ とを排除していないこと、本件明細書には減価償却費に基づく演算を行う実15 施例が記載されていることは前記1(2)のとおりであり、原告の上記主張は失 当である。
(3) 以上のとおりであって、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(明確性要件に関する判断の誤り)について (1) 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない20 場合には、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能 性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得ることから、特許 を受けようとする発明が明確であることを求めるものである。その充足性の 判断は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載 及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、
25 特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である か否かという観点から行うのが相当である。
22 (2) 本件特許発明は、請求項1の記載自体に不明確な点はなく、また、前記1 (2)に説示したところに鑑みると、実施例との対応関係にも不明確な点はない から、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 原告は、発明の詳細な説明には減価償却費以外の「損金」の例は記載され 5 ていないから、出資額や損金の演算を発明特定事項としない要件Cは、その 記載自体が不明確である旨主張する。
しかし、特許請求の範囲に記載の「損益演算」という文言及び本件明細書等 の実施例の記載から、当業者は、損益額を算出するために必要となる費目を 適宜取捨選択し演算に用いると理解するのであって、減価償却費その他の損10 金について具体的な記載がないからといって、明確性要件に欠けるところは ないというべきである。
(4) また、原告は、「貸主の損益額が、前記投資家の所望する金額となるよう に・・・決定する」ことを内容とする構成要件Dは、請求項の記載自体が不明 確である旨主張する。
15 この点について、本件審決は、構成要件Dの「投資家の所望する金額」 「貸 、
主の損益額」はファンドの最終損益(図6、図7Aの実施例でいうと「103. 87%」 であると理解できるから明確性要件を満たす旨判断しているが、
) 上 記理解が誤りであることは前記1(3)で述べたとおりである。
その上で更に検討すると、本件明細書等の記載、特に【0053】、【0020 64】〜【0069】、図6の実施例に照らすと、構成要件Dの「投資家の所 望する金額」とは、各年度ごとのキャッシュフロー、特にトラックファンドの 初年度の損金額を意味するものと理解することができる(前記1(3)ア、 。
イ) したがって、「貸主の損益額が、前記投資家の所望する金額となるように・・・ 決定する」ことを内容とする構成要件Dの記載は、結論的に明確性要件に適25 合するものというべきである(本件審決の上記誤りは審決の結論に影響を及 ぼすものではない。)。
23 (5) このほか、原告は、構成要件Dにおいて、「前記貸主の損益額」が「前記投 資家の所望する金額」となるように演算を繰り返させる対象の組合せに「前 記貸主の損益」と「前記投資家の損益」が、要件Cで演算されるそれぞれの 「損益額」なのかどうか、繰り返しの演算を止める際に比較される金額同士 5 も変化するものなのかどうかも不明であり、さらに、本件特許発明は、貸主及 び投資家のそれぞれの損金の演算根拠となる金額を発明特定事項としないか ら、「損益」、「損益額」及び「前記投資家の所望する金額」の関係も不明で ある、本件明細書等にも、出資額や損金計上の根拠となる金額の演算を伴わ ない「損益演算部」及び「商品最適化部」の処理の内容が記載されていないか10 ら、構成要件C及び構成要件Dにおける処理の内容は不明確である旨主張す る。しかし、構成要件Dの「前記貸主の損益」及び「前記投資家の損益」が、
構成要件Cの「前記貸主の損益額」及び「前記投資家の損益額」を意味するこ とは請求項1の文脈上明らかであるし、繰り返しの各処理により変化する「前 記貸主の損益額」が、繰り返しの各処理によっては変化しない「前記投資家の15 所望する金額」と比較されるものであることは、本件明細書等に接した当業 者にとって明らかである。また、本件明細書の発明の詳細な説明に記載され た実施例の構成の一部である「出資額や損金計上の根拠となる金額の演算」 に関する構成が、本件特許発明発明特定事項として記載されずに、任意の 構成とされていても、本件特許発明が、第三者に不測の不利益を及ぼすほど20 に不明確であるとはいえない。
(6) 以上のとおりであって、取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)について (1) 特許法36条4項1号は、特許による技術の独占が発明の詳細な説明をも って当該技術を公開したことへの代償として付与されるという仕組みを踏ま25 え、発明の詳細な説明の記載につき実施可能要件を定める。このような同号 の趣旨にかんがみると、実施可能要件を満たすためには、当業者が発明の詳 24 細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要す ることなく、その実施品の生産等ができる程度の記載があることを要するも のと解される。
(2) 本件明細書の【0015】以下には、本件特許発明の具体的な実施の形態 5 として、減価償却費を含めて演算する構成を含むトラックファンドの実施例 が記載されていることは明らかである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な 説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要するこ となく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。
10 (3) 原告は、本件審決が構成要件Cの「損益演算部」に関する記載として認定 した【0047】、【0057】〜【0063】、図6は、減価償却部302 の演算を発明特定事項とする本件請求項2に係る発明に対応する損益演算部 304に関する記載であり、仮に要件Cの「損益演算部」が「損金」である減 価償却費を含めて演算すると解すると、本件特許発明と本件請求項2とが重15 複し、【0081】と【0082】の記載事項が矛盾することになる旨主張す る。しかし、構成要件Cの「損益演算部」が減価償却費に基づく演算を行う構 成を排除していないことは繰り返し指摘するとおりであり、本件明細書の発 明の詳細な説明には、構成要件Cを備える具体的な実施の形態として、損益 演算部304を備える実施例が記載されているといえる。また、本件特許発20 明(請求項1)は、「減価償却演算部」を発明特定事項としている請求項2に 係る発明の上位概念の発明であるから、本件特許発明と請求項2に係る発明 の範囲が重複することに矛盾はない 。
このほかの原告の主張は、いずれも、これまでに論じた主張と同じ趣旨を 表現を変えて繰り返すものにすぎず、これらを採用できないことは既に述べ25 たとおりである。
5 結論 25 以上のとおり、原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく、本件審決には これを取り消すべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却すること として、主文のとおり判決する。
追加
5裁判長裁判官宮坂昌利裁判官10本吉弘行裁判官岩井直幸26 別紙1略語一覧(略語)(意味)・本件特許:被告を特許権者とする特許第6554652号5・本件審決:本件特許に係る無効2023-800034号事件について特許庁が令和6年4月18日にした無効不成立審決(本件訴訟の対象)・本件特許発明:本件特許の請求項1に係る発明・本件明細書:本件特許に係る明細書。なお、特許請求の範囲、図面を含めて「本件明細書等」ということもある。
1027 別紙2本件明細書の記載事項及び図面(抜粋)【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】5本発明は、情報処理装置に関する。
【背景技術】【0002】従来より、ファンドにおける投資活動を円滑に進め、投資家に対して安定的に高い配当を行うことを目的とした運用戦略立案システムは提案されている(例えば特許文献1参照)。
10【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】しかしながら、投資家からは、特許文献1を含め従来の技術と比較して、運用利回り、需給バランス、及び取引相場の安定性がより優れており、かつ、所望の損益を計上することができるフ15ァンドを投資対象としたいとする要求がある。
【0005】本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、投資対象が、運用利回り、需給バランス、及び取引相場の安定性に優れ、かつ、投資家の所望する損益を計上することができるファンドの商品を投資家に提供することを目的とする。
20【発明の効果】【0013】本発明によれば、投資対象が、運用利回り、需給バランス、及び取引相場の安定性に優れ、
かつ、投資家の所望する損益を計上することができるファンドの商品を提供することができる。
25【発明を実施するための形態】【0015】28 以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】図1は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置を含む情報処理システムの構成の概要を示す図である。
5【0017】図1に示す情報処理システムは、ファンドマネージャFMが操作するサービス提供サーバ1と、投資家I-1乃至I-n(nは1以上の任意の整数値)の夫々が操作する投資家端末2-1乃至2-nの夫々と、売主S-1乃至S-m(mは1以上の任意の整数値)の夫々が操作する売主端末3-1乃至3-mの夫々と、借主R-1乃至R-p(pは1以上の任意の整数値)10の夫々が操作する借主端末4-1乃至4-pの夫々とが、インターネット等の所定のネットワークNを介して相互に接続されることで構成される。
【0018】ここで、ファンドマネージャFMとは、業務用貨物運搬用車両を対象とするファンドの運営主体として、投資家I-1乃至I-nから預かった資産を運用し増やすことを目的とする個人15又は団体をいう。
本発明が適用されるファンドの対象は、車両であり、特に本実施形態では業務用貨物運搬用車両の中古車が採用されている。なお、本発明における車両は特に限定されない。例えばトラックやトレーラー等の貨物運搬用車両、バス等の乗客を乗せるための車両等、あらゆる車両を含めることができる。
20また、本明細書において特に断りの無い限り、単に中古車と呼ぶ場合には、業務用貨物運搬用車両の中古車を意味するものとする。
【0019】投資家I-1乃至I-nは、資産を将来的に増加させることを主目的として、現在の資産をファンドに投じる活動を行う個人又は法人であって、例えば、個人投資家、機関投資家等が含まれる。
25なお、投資家I-1乃至I-nがファンドに出資する目的には、自身の出資額に対するトラックファンドの損益額が、投資家I-1乃至I-nの所望する金額になることが含まれる。
29 売主S-1乃至S-mは、ファンドマネージャFMとの業務用貨物運搬用車両の売買契約に基づいて業務用貨物運搬用車両を販売し対価を得る者であって、例えば業務上使用しなくなった業務用貨物運搬用車両を中古車として販売する運送会社等が含まれる。
借主R-1乃至R-pは、ファンドマネージャFMとの賃貸借契約に基づいて、ファンドの対象5となる業務用貨物運搬用車両を1台以上賃借する者であって、例えば中古車を用いて運送業を営む運送会社等が含まれる。
【0024】即ち、本実施形態では、ファンドマネージャFMは、売主Sからt台(tは1以上の整数値)の業務用貨物運搬用車両を購入し、ファンドとの間で車両売買契約、車両賃貸借契約、及びアセッ10ト・マネジメント契約を締結する。
ここで、アセット・マネジメント契約とは、ファンドマネージャFMが、業務用貨物運搬用車両の管理を、業務用貨物運搬用車両の所有者であるファンドに代行して行うことを定めた契約をいう。
また、ファンドマネージャFMは、t台の業務用貨物運搬用車両をファンドから賃借し、当該t15台の業務用貨物運搬用車両を借主Rに賃貸する。
したがって、ファンドマネージャFMは、ファンドとの車両売買契約及びアセット・マネジメント契約と、借主Rとの賃貸契約とに基づいて収益を得ることができる。
また、ファンドは、ファンドマネージャFMとの車両賃貸借契約と、所定年数経過後の当該t台の業務用貨物運搬用車両の売却とに基づいて収益を得ることができる。また、これを源泉として、
20投資家Iに安定的な配当を行うことができる。
なお、以下このような収益構造とするファンドを「トラックファンド」と呼ぶ。
【0025】ここで、トラックファンドの対象となる業務用貨物運搬用車両として、新車を採用してもよいが、本実施形態では中古車を採用している。これは、次のような理由による。
25先ず、前提として少なくとも日本国では、税務上、新車と中古車とに関わらず、車両を購入した場合の経理処理において、車両の取得のために要した金額の全てを直ちに費用化することは認めら30 れていない。これは、車両は数年にわたって使用するものであり、車両の使用期間に応じて減価償却費として費用化する必要があるからである。なお、当該使用期間を「耐用年数」という。
この場合、投資家Iは、トラックファンドの対象となる業務用貨物運搬用車両の購入費のうち自身が投資した分については、耐用年数が経過するまでの期間中、その減価償却費を自己の会計に費5用計上することができる。即ち。投資家Iは、トラックファンドの商品を購入することにより、税制面におけるメリットを享受することができる。
このような税制面等における減価償却のメリットは、新車と比べて中古車の方が特に大きい。これは、一般的に中古車は、新車に比べて長く使用することができないと考えられているため、中古車の耐用年数は新車よりも短い。即ち、中古車は、経理処理上新車よりも短い期間で費用化(減価10償却)できるというメリットを有する。このため、中古車は、投資家Iにとって運用利回りに優れ、かつ需給バランス及び取引相場が安定した投資対象であるといえる。
【0026】また、耐用年数が新車よりもさらに長い住宅や建物等の不動産を投資対象とする不動産を対象とするファンドと比較したとしても、中古車は不動産と比べて耐用年数がはるかに短いため、投資家15Iは短期間で減価償却のメリットを享受することができる。
さらに、海外で運用されることが多い飛行機ファンド、船舶ファンド等と比較しても、投資家Iは、為替変動のリスクが低いというメリットを享受することができる。
即ち、トラックファンドは、投資家Iにとって安定した配当を得ることができると共に、短期間で減価償却費を計上することができる優れたファンド商品となる。
20【0027】この点、ファンドマネージャFMは、このような優れたファンド商品(トラックファンド)を投資家Iに安心して提供することができる。また、ファンドマネージャFMは、投資家Iに配当が支払われたとしても十分に利益を回収することができる。
【0028】25また、トラックファンドにおいて、運送会社を営む借主Rは、ファンドマネージャFMから中古車を業務用貨物運搬用車両として賃借するという、業務用貨物運搬用車両の新しい調達手段を獲得31 することができる。
即ち、従来からある一般的な業務用貨物運搬用車両の調達手段は、運送会社自身が業務用貨物運搬用車両を購入するというものである。この場合、業務用貨物運搬用車両の購入費、自動車税等の税金等が運送会社の自己負担となるにも関わらず、財務上の資産価値としては高い評価を得ること5はできない。また、車両故障のリスクも付きまとうこととなる。つまり、一般的な業務用貨物運搬用車両の調達手段では、以上のようなデメリットが生じてしまう。
しかしながら、トラックファンドにおいて、運送会社を営む借主Rが使用する業務用貨物運搬用車両の所有権はトラックファンドに帰属することになるため、運送会社が直接業務用貨物運搬用車両を購入するときのようなデメリットが生じない。
10即ち、借主Rは、業務用貨物運搬用車両を所有することなく、ファンドマネージャFMとの間で締結された車両賃貸借契約の内容に基づいて、毎月賃貸費をファンドマネージャFMに支払うだけでよい。
また、例えば自動車税等の財務上の負担や、車両故障等のリスクについても、賃貸借契約の内容によっては、借主Rではなくトラックファンドが負担する場合もある。
15従って、金融機関等を含む第三者によって借主Rの経営体質(バランスシート等)が評価される場合、業務用貨物運搬用車両を購入によって調達する場合よりも、賃貸によって調達する場合の方が、借主Rは高く評価されることとなる。
【0029】このように、トラックファンドの商品は、投資家I、ファンドマネージャFM、及び借主Rのい20ずれに対してもメリットを享受させ得る魅力的なファンドである。
このため、トラックファンドの商品の内容は、投資家I、ファンドマネージャFM、トラックファンド、及び借主Rを含む4者の損益が最適化されることが望ましい。
即ち、このような最適化が行われるためには、ファンドマネージャFMは、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々に関する下記(1)乃至(5)夫々の項目の組合せとして、最適な組合せを検討す25る必要がある。
(1)車種、新車として販売された時からの経過年数を含む履歴情報、及び車両価格を少なくとも32 パラメータ(以下「パラメータ情報」と呼ぶ)として含む購入額(2)売主Sからの購入後、所定の期間経過後の販売額(下取価格)(3)減価償却費(4)所定の借主Rに対し賃貸する場合の賃貸費5(5)投資家I、ファンドマネージャFM、トラックファンド、及び借主Rの損益【0030】本実施形態におけるサービス提供サーバ1は、上記(1)乃至(5)の各種各様な組み合わせについてシミュレーションを行う。これにより、複数の業務用貨物運搬用車両の最適な組合せに基づいたトラックファンドの商品を提供することが可能となる。
10このような商品は、投資家Iの損益、ファンドマネージャFM、トラックファンド、及び借主Rの損益(賃貸費や財務上のメリットやデメリット)が総合的に考慮された最適な商品となる。
【0041】サービス提供サーバ1のCPU11(図2)においては、図3に示すように、シミュレーション部201と、商品最適化部202とが機能する。
15記憶部18(図2)の一領域には、車両DB401と、演算結果DB402とが設けられている。
【0042】シミュレーション部201は、購入販売額演算部301と、減価償却演算部302と、賃貸費演算部303と、損益演算部304とを備える。
20【0043】シミュレーション部201では、例えば複数の業務用貨物運搬用車両の中から任意に選択されたt台(tは1以上の整数値)の業務用貨物運搬用車両の組合せについて、各演算部において次のような演算が実行される。なお、任意に選択されたt台の業務用貨物運搬用車両の夫々については、
少なくとも、車種と、経過年を含む履歴情報と、価格とがパラメータとして対応付けられ、車両D25B401に記憶され管理されている。
ここで、t台の業務用貨物運搬用車両の組合せには、トラックファンドが現在所有しているもの33 の他、トラックファンドが今後購入可能な業務用貨物運搬用車両も含めることができる。
【0044】購入販売額演算部301は、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々について、購入額、及び所定の期間経過後の販売額(下取価格)を演算する。
5トラックファンドが現在所有している業務用貨物運搬用車両については、当該業務用貨物運搬用車両を実際に購入した際に支払われた金額が購入金額として演算される。また、トラックファンドが今後購入可能な業務用貨物運搬用車両については、売主端末3から得られる情報に基づいて演算される予測購入額が購入金額となる。なお、投資家Iの投資額の具体的な金額は、このt台の業務用貨物運搬用車両の購入額に基づいて決定される。
10所定の期間経過後の販売額(下取価格)は、上述のパラメータ及び業務用貨物運搬用車両の購入額に基づいて演算された予測販売額となる。
なお、購入販売額演算部301によって演算された業務用貨物運搬用車両の購入額等の具体例については、図5Aを参照して後述する。
【0045】15減価償却演算部302は、購入販売額演算部301による購入額等の演算結果に基づいて、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々の減価償却費を演算する。
なお、減価償却演算部302によって演算された業務用貨物運搬用車両の減価償却費の具体例については、図5Bを参照して後述する。
【0046】20賃貸費演算部303は、トラックファンドからt台の業務用貨物運搬用車両の夫々を賃借したファンドマネージャFMを貸主として、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々を、借主Rに賃貸借契約に基づいて賃貸する場合の賃貸費を演算する。この賃貸費は、変動要素であり、所定のアルゴリズムによって演算される。
また、借主Rが業務用貨物運搬用車両を用いて所定の役務の提供を行った場合に得られる対25価の額に基づいて、当該業務用貨物運搬用車両の賃貸費を演算することもできる。
34 これにより、ファンドマネージャFMは、業務用貨物運搬用車両を賃貸すると共に、当該業務用貨物運搬用車両を用いた具体的な貨物の運搬業務自体を借主Rに提供(仲介)することができる。
なお、賃貸費演算部303によって演算された業務用貨物運搬用車両の賃貸費の具体例につ5いては、図5Cを参照して後述する。
【0047】損益演算部304は、購入販売額演算部301による演算結果と、減価償却演算部302による演算結果と、賃貸費演算部303による演算結果とに基づいて、トラックファンドの損益額と、投資家Iの損益額と、借主Rの損益額との夫々を演算する。
10ここで、トラックファンドの損益とは、主に、業務用貨物運搬用車両の賃貸収入及び販売額(下取価格)との合計額から業務用貨物運搬用車両についての減価償却費及び諸費用を減じた額である。
また、投資家Iの損益とは、主に、トラックファンドの配当額から自身の費用として計上することができる業務用貨物運搬用車両の減価償却費を減じた額である。
15借主Rの損益とは、主に、業務用貨物運搬用車両を自費購入した場合要する費用と、賃貸した場合に要する費用との差額と、自社購入から賃貸に変更したことにより発生し得る自社の資産価値の向上等が含まれる。
なお、損益演算部304によって演算された各種損益額の具体例については、図6を参照して後述する。
20【0049】商品最適化部202は、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々に関する、パラメータと、購入額と、販売額と、減価償却費と、賃貸費と、トラックファンドの損益と、投資家Iの損益と、
借主Rの損益との組合せを変化させながら、購入販売額演算部301、減価償却演算部302、賃貸費演算部303、及び損益演算部304における各処理を繰り返し実行させる。そし25て、商品最適化部202は、各処理の実行結果に基づいて、トラックファンドの損益額が、投資家Iの所望する金額となるようにトラックファンドの商品の内容を決定する。
35 即ち、商品最適化部202は、t台の業務用貨物運搬用車両の夫々に関する、パラメータと、購入額と、販売額と、減価償却費と、賃貸費と、トラックファンドの損益と、投資家Iの損益と、借主Rの損益との組合せを変化させながら、シミュレーション部201によるシミュレーションを繰り返し実行させる。
5そして、商品最適化部202は、シミュレーション部201による多数のシミュレーション結果に基づいて、トラックファンドの商品内容を決定する。
このようにして、トラックファンドの商品の内容は、ファンドマネージャFM、投資家I、
及び借主Rにとって最適なものとなる。
なお、商品最適化部202によって最適化されたトラックファンドの商品の具体例について10は、図7及び図8を参照して後述する。
【0053】以下、図5乃至図8を参照して、投資家Iが出資しようとする額が30,000,000円であり、投資家Iが初年度に損益計上したい額が出資額の60%の18,000,000円である場合を想定した例を説明する。具体的には、サービス提供サーバ1において各処理が実行15された結果、業務用貨物運搬用車両の台数「8台」、投資家Iの出資額「30,000,000(円)」、初年度の損益額「-17,293,333(円)」とするトラックファンドの商品が投資家Iに対し提案された場合を想定して説明する。
図5乃至図8は、シミュレーション部201において行われた各種演算の結果と、商品最適化部202において行われた最適化の処理の結果の具体例を示す図である。
20【0054】図5Aは、シミュレーション部201の購入販売額演算部301による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の具体例を示す図である。
図5Aに示す例では、8台の貨物運搬用車両の夫々についての車種名、型式、及び年式をパラメータとして、組入価格(購入額)、残価率、及び2年の償却期間経過後の売却価格(販売25額)が演算されている。
36 具体的には、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち1台目として、車種名が「大型バン(ウィング)」、型式が「FS64JZ-550」、年式が「(平成)19(年)」とする業務用貨物運搬用車両のパラメータに基づいて、組入価格が「2,500,000(円)」、残価率が「40.00%」、売却価格が「1,000,0050(円)」という演算結果が示されている。
また、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち2台目として、車種名が「2tバン」、型式が「XZU548-000」、年式が「(平成)21(年)」とする業務用貨物運搬用車両のパラメータに基づいて、組入価格が「1,000,000(円)」、残価率が「30.00%」、売却価格が「300,000(円)」という演算10結果が示されている。
なお、購入販売額演算部301による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の他の具体例については、図5Aに示すとおりであり、組入価格の合計は「27,200,000(円)」、売却価格の合計は「15,500,000(円)」となっている。
【0055】15図5Bは、シミュレーション部201の減価償却演算部302による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の具体例を示す図である。
図5Bに示す例では、償却方法(図5Bの例では定率法)及び各年の償却率と共に、8台の貨物運搬用車両の夫々についての償却年数判定(結果)、償却率判定(結果)、初年度決算までの月数、及び各年毎の償却額等についての演算結果が示されている。
20具体的には、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち1台目として、償却年数判定(結果)が「2年」、償却率判定(結果)が「100.00%」、償却額の1年目が「1,666,667(円)」、償却額の2年目が「833,333(円)」という演算結果が示されている。
また、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち2台目とし25て、償却年数判定(結果)が「2年」、償却率判定(結果)が「100.00%」、償却額の37 1年目が「666,667(円)」、償却額の2年目が「333,333(円)」という演算結果が示されている。
なお、減価償却演算部302による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の他の具体例については、図5Bに示すとおりであるが、1年目の償却額の合計は「158,133,333(円)」、全期間を通じての償却額の合計は「27,200,000(円)」となっている。
【0056】図5Cは、シミュレーション部201の賃貸費演算部303による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の具体例を示す図である。
10図5Cに示す例では、8台の貨物運搬用車両の夫々についての借主(借主Rの名称)、月額リース料(グロス)、AM(アセット・マネジメント)報酬、年額支出(車検・整備)、月額賃貸収入(ネット)等、についての演算結果が示されている。
具体的には、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち1台目として、借主Rの名称が「有限会社○○運送」、月額リース料(グロス)が「100,00150(円)、AM報酬が「5,000(円)」、年額支出(車検・整備)が「477,700(円)」、月額支出(車検・整備)が「39,808(円)」、月額賃貸収入(ネット)が「50,192(円)」という演算結果が示されている。
また、トラックファンドの商品を構成する8台の業務用貨物運搬用車両のうち2台目として、借主Rの名称が「有限会社××運送」、月額リース料(グロス)が「50,00020(円)、AM報酬が「2,500(円)」、年額支出(車検・整備)が「252,000(円)」、月額支出(車検・整備)が「21,000(円)」、月額賃貸収入(ネット)が「24,000(円)」という演算結果が示されている。
なお、賃貸費演算部303による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の他の具体例については、図5Cに示すとおりであるが、月額リース料(グロス)の合計は25「671,000(円)」となっている。
【0057】38 図6は、シミュレーション部201の損益演算部304による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の具体例を示す図である。
図6に示す例では、損益演算部304による演算結果として、投資条件と、キャッシュフローと、損益計算書(トラックファンドの損益額)が示されている。
5投資条件しては、出資金額と、初年度損金と、2年目損金と、出資期間と、最終損益(投資家の損益)とが示されている。具体的には、最終損益(投資家の損益)が「103.87%」であることが示されている。即ち、図6に示す例では、投資家Iは、トラックファンドの商品を購入(即ち投資)することにより、最終的に投資額の3.83%の配当を得ることができることになる。なお、図5乃至図8の例における第1期(初年度)は、図5Bの「初年度決算ま10での月数」に示されているように、「8(ケ月間)」となっている。
【0058】図6に示すキャッシュフローとしては、TK(匿名組合)出資額、融資、リース料(賃貸費)、仮受消費税額、消費税還付額、車両売却額(販売額)、車両購入額、費用、仮払消費税額、消費税納付額、融資返済額、TK(匿名組合)元本償還額、収支、CF(キャッシュフロ15ー)累積額についての演算結果が示されている。なお、「TK(匿名組合)出資額」とは、投資家Iによる出資額のことをいう。また、「融資」とは、金融機関からのローンによる借入金のことをいう。即ち、業務用貨物運搬用車両の調達資金として、投資家Iからの出資金に限らず、金融機関からのローンによる借入金を利用することもできる。これにより、ファンドマネージャFMは、ファンドとローンとのバランスが考慮されたトラックファンドの商品を投資家20Iに提供することができる。なお、ファンドとローンとのバランスが考慮された演算結果については、図7を参照して後述する。
【0059】図6に示すように、第1期は、TK(匿名組合)出資額が「30,000,000(円)」、融資額が「0(円)」、リース料(賃貸費)が「5,368,000(円)」、仮25受消費税額が「429,440(円)」、消費税還付額が「0(円)」、車両売却額(販売額)が「0(円)」、車両購入額が「27,200,000(円)」、費用が「4,528,39 000(円)」、仮払消費税額が「2,538,240(円)」、消費税納付額が「0(円)」、融資返済額が「0(円)」、TK(匿名組合)元本償還額が「0(円)」、収支が「1,531,200(円)」、CF(キャッシュフロー)累積額が「1,531,200(円)」という演算結果が示されている。
5【0060】ここで、図6に示すキャッシュフローのうち、第1期のリース料(賃貸費)「5,368,000(円)」は、図5Cに示す月額リース料(グロス)の合計「671,000(円)」の8か月分の額と一致する。また、図6に示すキャッシュフローのうち、第4期の車両売却額「15,500,000(円)」は、図5Aに示す売却価格の合計(即ち8台分の売却価格)10と一致する。また、図6に示すキャッシュフローのうち、第1期の車両購入額「27,200,000(円)」は、図5Aに示す組入価格の合計(即ち8台分の組入価格)と一致する。
【0061】図6に示す損益計算書(トラックファンドの損益額)としては、リース料(賃貸費)、及び車両売却額(販売額)を売上とし、諸費用、借入金利、及び減価償却費を費用として、利益額15及び累積利益額が演算されている。
具体的には、第1期は、リース料(賃貸費)が「5,368,000(円)」、車両売却額が「0(円)」となっているため、売上合計額は「5,368,000(円)」となっている。また、諸費用が「4,528,000(円)」、借入金利が「0(円)」、減価償却費が「18,133,333(円)」となっているため、費用合計額は「22,661,33320(円)」となっている。これにより、利益額が「-17,293,333(円)」、累積利益額が「-17,293,333(円)」という演算結果が示されている。
【0062】ここで、図6に示す損益計算書のうち、第1期のリース料(賃貸費)「5,368,000(円)」は、図5Cに示す月額リース料(グロス)の合計「671,000(円)」の8か月25分の額と一致する。また、図6に示す損益計算書のうち、第1期の減価償却費「18,1340 3,333(円)」は、図5Bに示す1年目の償却額の合計(即ち1年目の8台分の償却額)と一致する。
なお、損益演算部304による演算結果として、演算結果DB402に記憶されている情報の他の具体例については、図6に示すとおりである。
5【0063】ここで、図6の損益計算書における各期の利益額の推移を見ると、上述のように第1期は、
利益額が「-17,293,333(円)」である。また、第2期は、利益額が「-3,581,667(円)」であり、累積利益額が「-20,875,000(円)」である。しかし、第3期になると、利益額がプラスに転じ、「7,563,000(円)」となり、累積利10益額が「-13,312,000(円)」となる。さらに、第4期になると、利益額のプラス幅が大きくなり、「14,425,000(円)」となり、累積利益額もプラスに転じ「1,113,000(円)」となる。
このように、トラックファンドの商品は、耐用年数の短いトラック等の業務用貨物運搬用車両を投資の対象としているため、全期間を通して見ると損益はプラスとなるが、第1期や第215期といった初期の会計年度において減価償却費を大きく計上することができる。このため、投資家Iのニーズに合わせて、投資対象とする複数の業務用貨物運搬用車両の組合せを決定することができる。
【0064】シミュレーション部201において演算された結果の組合せは、商品最適化部202によっ20て最適化されることとなる。これにより、トラックファンドの損益額が投資家Iの所望する金額となるようなトラックファンドの商品が出来上がる。
具体的には、商品最適化部202は、上述のパラメータ、並びにトラックファンドの商品の対象となる業務用貨物運搬用車両についての台数、購入額、販売額、減価償却費、賃貸費、トラックファンドの損益、及び投資家Iの損益の組合せを変化させながら、購入販売額演算部32501、減価償却演算部302、賃貸費演算部303、及び前記損益演算部304の各処理を繰41 り返し実行させる。そして、その実行結果に基づいて、トラックファンドの損益額が、投資家Iの所望する金額となるように、トラックファンドの商品の内容が決定される。
【0065】図7は、このように商品最適化部202によって最適化がなされた結果の例を示す図であ5る。
【0066】図7Aには、商品最適化部202により最適化されたトラックファンドの商品に関する情報として、トラックファンドの対象となる業務用貨物運搬用車両の台数、車両購入費、車両売却額、初年度減価償却費、及び初年度賃貸費が示されている。具体的には、トラックファンドの10対象となる業務用貨物運搬用車両の台数は「8(台)」が最適であり、その場合の車両購入費は「27,200,000(円)」、車両売却額は「15,500,000(円)」、初年度減価償却費は「18,133,333(円)」、初年度賃貸費は「5,368,000(円)」となることが示されている。
【0067】15ここで、図7Aに示す車両購入費「27,200,000(円)」は、図6に示すキャッシュフローのうち、第1期の車両購入額と一致する。また、図7Aに示す車両売却額「15,500,000(円)」は、図6に示すキャッシュフロー及び損益計算書のうち、第4期の車両売却額と一致する。また、図7Aに示す初年度減価償却費「18,133,333(円)」は、図6に示す損益計算書のうち、第1期の減価償却費と一致する。
20【0068】図7Bには、商品最適化部202によって最適化されたトラックファンドの商品として、ファンドとローン(金融機関からの借入金)との組合せが最適化された例が示されている。具体的には、投資家Iからの出資額に対するローンの割合(以下、単に「ローン割合」と呼ぶ)毎の、初年度損金額、金利負担額、元金返済額、投資家出資額、ローン金額、及び初年度損金率25が示されている。例えば、ローン割合が「0.00%」である場合には、初年度損金額は「-17,293,333(円)」、金利負担は「0(円)」、元金返済額は「0(円)」、投資42 家出資額は「30,000,000(円)」、ローン金額は「0(円)」、投資家出資額に対する初年度損金額の割合である初年度損金率は「-57.64%」となることが示されている。
また、ローン割合が「10.00%」である場合には、投資家出資額は「30,000,0500(円)」、ローン金額は「3,000,000(円)」となることが示されている。
【0069】ここで、図7Bに示す初年度損金額「-17,293,333(円)」は、図6に示す損益計算書のうち、第1期の利益額と一致する。また、図7Bに示す投資家出資額「30,000,000(円)」は、図6に示すキャッシュフローのうち、第1期のTK(匿名組合)出資10額と一致する。また、図7Aに示す初年度減価償却費「18,133,333(円)」は、図6に示す損益計算書のうち、第1期の減価償却費と一致する。
このように、シミュレーション部201において演算された結果の組合せが、商品最適化部202によって最適化されることにより、トラックファンドの損益額が投資家Iの所望する金額となるようなトラックファンドの商品が出来上がる。即ち、図5乃至図8に示す例では、業15務用貨物運搬用車両の台数が「8台」、投資家Iの出資額が「30,000,000(円)」、初年度の損金額が「-17,293,333(円)」となるトラックファンドの商品が投資家Iに対し提案されることとなる。
【0081】以上まとめると、本発明が適用される情報処理装置は、次のような構成を取れば足り、各種20各様な実施形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される情報処理装置は、
車種、経過年を含む履歴情報、価格を少なくともパラメータとして含む、t台(tは1以上の整数値)の車両(例えば業務用貨物運搬用車両)の購入額、及び所定の期間経過後の販売額を演算する購入販売額演算部(例えば図3及び図4の購入販売額演算部301)と、
25前記t台の車両の夫々を購入した者(例えば図1及び図3のファンドマネージャFM)を貸主として、当該t台の車両の夫々を、所定の借主(例えば図1及び図3の借主R)に対して賃43 貸借契約で賃貸する場合の賃貸費を演算する賃貸費演算部(例えば図3及び図4の賃貸費演算部303)と、
前記賃貸費と、前記購入額と、前記販売額とに基づいて、前記貸主の損益額と、前記t台の車両の組合せからなるファンド(例えばトラックファンド)の商品を購入する投資家(例えば5図1及び図3の投資家I)の損益額と、の夫々を演算する損益演算部(例えば図3及び図4の損益演算部304)と、
前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売額、前記賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組合せを変化させて、前記購入販売額演算部、前記賃貸費演算部、及び前記損益演算部の各処理を繰り返し実行させ、その実行結果に基づいて、前記貸主の損益額10が、前記投資家の所望する金額となるように、前記ファンドの商品の内容を決定する商品最適化部(例えば図3及び図4の商品最適化部202)と、
を備える。
これにより、貸主、投資家、及び借主の夫々の損益を最適化させたファンド商品を容易かつ簡単に作成することができる。即ち、投資対象が、運用利回り、需給バランス、及び取引相場15の安定性に優れたファンドの商品を投資家に提供することができる。
【0082】また、前記t台の車両の夫々の減価償却費を演算する減価償却演算部(例えば図3及び図4の減価償却演算部302)をさらに備え、
前記損益演算部はさらに、
20前記賃貸費と、前記減価償却費と、前記購入額と、前記販売額とに基づいて、前記貸主の損益額と、前記ファンドの商品を購入する投資家の損益額と、の夫々を演算し、
商品最適化部はさらに、
前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売額、前記減価償却費、前記賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組合せを変化させて、前記購入販売額演算部、前記25減価償却演算部、前記賃貸費演算部、及び前記損益演算部の各処理を繰り返し実行させ、その44 実行結果に基づいて、前記貸主の損益額が、前記投資家の所望する金額となるように、前記ファンドの商品の内容を決定することができる。
これにより、貸主、投資家、及び借主の夫々の損益を最適化させたファンド商品を容易かつ簡単に作成することができる。即ち、投資対象が、運用利回り、需給バランス、及び取引相場5の安定性に優れ、かつ、投資家の所望する損益を計上することができるファンドの商品を投資家に提供することができる。
10【図3】1545 【図5】【図6】46 【図7】47 別紙3本件審決の理由の要旨1発明該当性(無効理由1)本件特許発明は、投資家に対して、「投資対象が、運用利回り、需給バランス、及び取引相5場の安定性に優れ、かつ、投資家の所望する損益を計上することができるファンドの商品」を提供するという課題を解決するためのものであり、そのために、ファンドマネージャによって操作されるツールとなる情報処理装置を提供しようとするものである。シミュレーションの目標が「前記投資家の所望する金額」(要件D)として設定され、この設定を行うのがファンドマネージャ(人)であるとしても、そのように「前記投資家の所望する金額」を設定するファ10ンドマネージャによって操作されて、具体的に提供されるファンドの商品やそのような商品の候補に係る「最適化」された「ファンドの商品の内容」を決定するためのツールとなる情報処理装置であり、そのための具体的なソフトウェアによる情報処理として、要件A〜要件Cの演算の処理やDの繰り返しによる「最適化」のための処理を行うものとして実現されているものであり、「ファンドの商品の内容」を決定するためのソフトウェアによる情報処理がCPUや15メモリ等のハードウェア資源を用いて具体的に実現されている。本件特許発明は、上記の課題を解決するために、ファンドマネージャによって操作されるツールとなる情報処理装置を上記のとおり具体的に実現するものとなっており、このことから、その課題解決に当たって、専ら、
人の精神活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体に向けられたものでない。
2明確性要件(無効理由2)20(1)要件Cの記載における「前記賃貸費」は、要件Bの「賃貸費演算部」で演算される「賃貸費」のことであり、同様に、「前記購入額」及び「前記販売額」は、要件Aの「購入販売額演算部」で演算される「t台(tは1以上の整数値)の車両の購入額」及び「所定の期間経過後の販売額」のことである。
そして、要件Cの記載は、これらに基づいて、「前記貸主」に係る「前記貸主の損益25額」と「前記t台の車両の組合せからなるファンドの商品を購入する投資家の損益額」の「夫々」を演算する旨を示していることが明らかである。
48 (2)要件Dは以下のとおり分けられる。
D1要件Aの「購入販売演算部」、要件Bの「賃貸費演算部」及び要件Cの「損益演算部」の「各処理を繰り返し実行させ」、その際、「前記パラメータ及び前記t台、前記購入額、前記販売額、前記賃貸費、前記貸主の損益、並びに前記投資家の損益の組5合せを変化させて」各処理を繰り返し実行させること、
D2D1の繰り返し実行の「実行結果に基づいて」、「ファンドの商品の内容を決定する」こと、
D3D2の「ファンドの商品の内容を決定する」にあたっては、「前記貸主の損益額」が「前記投資家の所望する金額となるように決定」されること10(3)本件特許発明は、投資家が既に投資したファンドを投資家が所望するように変更するものではなく、複数のファンドの商品のそれぞれについて期待できるリターン等を比較しつつファンドの商品を購入しようとする投資家に対して「ファンドの商品」を「提供」するものであり、そのために、「ファンドの商品」を「投資家の所望する損益を計上することができる」ものとするにあたって、シミュレーションの目標として「前記投資家の所望す15る金額(ファンドの商品を購入する投資家の所望する損益)」を設定するものである。本件特許発明の「ファンドの商品」であるトラックファンドは、バイアウトファンド(乙10)やヘッジファンド(乙11)などの他のファンドと競合する商品と位置づけられることが明らかであり、このことに照らせば、トラックファンドを提供しようとするファンドマネージャは、これらの他のファンドにおける期待できるリターンを参考として、トラッ20クファンドの潜在的な買い手となる投資家の所望する損益をシミュレーションの目標として設定せざるを得ない。【0057】において、図6に示す損益演算部の演算結果の例について、演算結果における「最終損益(投資家の損益)」が「103.87%」であって、図6の例が、トラックファンドの商品を購入した投資家Iが最終的に投資額の3.83%の配当を得ることができるとの演算結果を示すものである旨が記載され、さらに、
25【0066】に、図7Aに「商品最適化部202により最適化されたトラックファンドの商品に関する情報」が示されており、【0067】に図7Aの「車両購入費」、「車両売49 却額」、「初年度減価償却費」がそれぞれ図6の「キャッシュフローのうち、第1期の車両購入額」、「キャッシュフロー及び損益計算書のうち、第4期の車両売却額」及び「損益計算書のうち、第1期の減価償却費」と一致する旨の記載がある。図6の例は、「商品最適化部202」により最適化されたトラックファンドの商品に対応するものであり、つ5まり、設定された目標に向けてシミュレーションを繰り返して、その目標を達成するような「前記貸主の損益額」を演算結果として得た時点における損益演算部の演算結果を示すものとなっている。このことから、図6と図7Aに示された例において、「最終損益(投資家の損益)」が「103.87%」であることによって達成される目標(例えば103.8%を下限とする等)がシミュレーションの目標として設定されている。D3は、本10件明細書において明示されていないものの、技術常識を踏まえれば、トラックファンド以外のファンドにおける期待できるリターンを参考として、潜在的なトラックファンドの買い手となる投資家が所望する利益をシミュレーションの目標として設定していることを示していることが明らかである。
3実施可能要件(無効理由3)15(1)要件Cについて図6の例も「投資条件」として示された「103.83%」は、トラックファンドの商品を購入した投資家が最終的に「投資額の3.83%の配当」を得ることを示しているものである。よって、「損益演算部」は、「ファンドの商品を購入する投資家」の購入額を知らなくても、投資条件としての配当として「投資家の損益額」を演算できる。
20(2)要件Dについてトラックファンドは、バイアウトファンドやヘッジファンドなどの他のファンドと競合する商品と位置づけられ、トラックファンドを提供しようとするファンドマネージャは、
これらの他のファンドにおける期待できるリターンを参考として、トラックファンドの潜在的な買い手となる投資家の所望する損益をシミュレーションの目標として設定せざるを25得ないから、実施可能要件違反は認められない。
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