関連審決 | 無効2002-35068 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 発明の範囲 / 目的の範囲 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
158号
審決取消請求事件
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原告 株式会社かりん 同訴訟代理人弁理士 小谷悦司 同 樋口次郎 被告 カルツィフィチョピネッリ ソシエタ アレスポンサビリタ リミタータ 同訴訟代理人弁理士 長門侃二 同 鳥羽 みさを 同 山中純一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/02/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2002-35068号事件について平成15年3月11日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,発明の名称を「タックステッチメッシュによって形成されたガードル及びタイツ用ガードル」とする特許第3207808号(平成10年8月5日出願。優先日・平成9年10月14日。優先権主張国・イタリア。平成13年7月6日設定登録。以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 (2) 原告は,平成14年2月25日,本件特許について,これを無効とすることを求めて審判の請求をし,同請求は無効2002-35068号事件として特許庁に係属した。 (3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成15年3月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月22日に原告に送達された。 2 本件発明の要旨は,次のとおりである(甲2。請求項1ないし5に係る発明をそれぞれ「本件発明1ないし5」という。)。 【請求項1】 臀部,尻,及び腿を包む領域を有し,該領域が,適度な圧縮を生じ,かくして,臀部,尻,及び腿にマッサージ作用と爽快作用を生ずるように,平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュによって形成されたガードル。 【請求項2】 パンティと伸縮性ストッキングの,腿の部分を覆う最初の部分とで構成する領域がタックステッチメッシュによって形成され,該タックステッチメッシュは,適度な圧縮を生じ,かくして,ガードルに包まれた臀部,尻,及び腿にマッサージ作用と爽快作用を生ずるように,平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するメッシュが得られるように形成されたことを特徴とするタイツ用ガードル。 【請求項3】 前記ガードルと,前記ストッキングの最初の部分は,股部まで縦に切断され,次いで,縫い付けによって組み立てられる2つの同一の管状本体から形成されたことを特徴とする,請求項2に記載のタイツ用ガードル。 【請求項4】 組み立てられたガードルは,臀部,尻,及び腿にくっ付く管状部分に突き出た交互の波形を有するタックステッチメッシュを備えた構造を有し,前方部分の,少なくとも腹部に,前記交互の波形に較べて低く隆起し,編物の表面に斜め,又は同様な向きの波形を有するタックステッチメッシュを備えたことを特徴とする,請求項2又は請求項3に記載のタイツ用ガードル。 【請求項5】 ガードルを構成する管状本体の上部には,ウエストバンドとして,平ステッチメッシュで作られた環状の弾性縁が備わっていることを特徴とする,請求項2乃至請求項4に記載のタイツ用ガードル。 3 本件審決の理由の要旨 (1)ア 本件特許公報(甲2)の明細書(以下「本件明細書」という。)及び本件特許公報に係る図面の記載からすれば,「斜めの波形」が編み面の断面視のみにおいて波形を有するものであるのに対し,請求項1ないし5にいう「交互の波形」は,さらに編み面の平面視においても波形を有するもの,すなわち,本件発明1ないし5における「交互の波形」は,編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある構成と特定できる。 イ 本件発明に係るガードルが「タックステッチメッシュ」によって形成されたものであることは,発明の詳細な説明に一貫して記載されており,「交互の波形」及び「斜めの波形」の部分も含めて他の編み方により形成されていると解される記載はない。そして,請求項1ないし5にも「タックステッチメッシュ」によって形成されたものであることが明記されている。 ここで,「タックステッチメッシュ」のうち「メッシュ」は「網目」であることが明らかであるので,「タックステッチ」という用語が意味する構成を検討すると,日本国における業界用語や学術用語として使用されている「タックステッチ」とは「タック編」のことであり,「タック編」の具体的構成は,「『新しい繊維の知識』吉川和志著,株式会社鎌倉書房・昭和54年11月15日発行」(甲10)の57頁の「4)タック編」及び「U-44図タック編(裏面)」に記載されているように,「根元に持っていたわなと前面に溜め込んだわなとが一緒にかかる」ことにより編み目が形成されるものである。同部分には「タック編」の後に「tuck stitch」との英語表記があり,「タックステッチ」が「タック編」を意味することが,日本国に限られたことではないことが理解できる。 したがって,本件発明1ないし5に係るガードルは,日本国において「タック編」という用語から一般的に理解される上記構成を有するものに特定される。 (2) 特許法29条2項違反を理由とする無効主張について ア 本件発明1の進歩性について (ア) 実願平4-16293号(実開平5-66004号)のCD-ROM(甲3。以下「刊行物1」という。)が開示するパンティストッキングは,「パンティ下部の,左右の太もも部に連なる帯状領域が,3コース以上にまたがるタック目を互い違いに有するメッシュ編によって形成され」るものであり,本件発明1のように「臀部,尻,及び腿を包む領域」を対象にしているものではない。 また,「3コース以上にまたがるタック目を互い違いに有するメッシュ編」は,所定間隔おきのタック目Pの部分がその間のプレーン編組織(平メッシュの編み面)に対して内側に浮き上がり,これらタック目Pの部分とプレーン編組織の部分とが交互に内側と外側とに突出した構造を有するが,編み面には,節状の突起が多数形成されるにすぎず,本件発明1の,編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」(以下,請求項1のうちこの記載部分を「構成C」という。)とは構成を異にするものである。これは,本件発明1が,マッサージ効果等を生じさせることを目的としているのに対し,刊行物1記載のパンティストッキングは,特に汗ばみやすい足の付け根部分に相当する帯状領域における通気性がよく,涼感効果を得ることを目的としたものであることに起因する。 したがって,刊行物1は,本件発明1の構成Cの「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」を開示も示唆もしていない。 特開平5-125601号公報(甲4。以下「刊行物2」という。)は,パンティ部の平編み部分に,後中心から前中心にかけて斜めに昇っていく柄を形成している,タック編目を有しているパンティストッキングを開示している。このタック編目は,「あや織の斜文組織」と呼ばれる柄であり(段落【0013】),このタック編目によってパンティ部にガードル機能,特にヒップアップ機能を持たせるものであって,本件発明1の,マッサージ機能を生じさせるためのものではない。すなわち,刊行物2記載の発明は本件発明1とは課題を異にするものである。 以上のとおり,刊行物1は,本件発明1の構成Cである「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」を開示も示唆もせず,このような刊行物1記載の発明を,単なる「タック編目」が形成される,「パンティ部及び脚部の太股周辺」を開示する刊行物2記載の発明と組み合わせても,本件発明1に至ることはできない。 (イ) 特開平9-31707号公報(甲5。以下「刊行物3」という。)は,パンティ後側部のつなぎ部をタック編みとしてずり落ち防止を確実にすること,米国特許第3094856号明細書(甲6。以下「刊行物4」という。)及び米国特許第3013420号明細書(甲7。以下「刊行物5」という。)は,靴下上部にタック編みを施すことを開示し,また,刊行物5には,「タック編みが形成されたコースの数が,隆起の高さ及び長さを決定する」と記載され,タック編み方法が従来公知であることを開示している。 しかしながら,これら刊行物3ないし5は,ずり落ち防止として使用される従来の単なる「タック編」及び「その編み方」を開示するにすぎず,本件発明1の構成Cを含む構成要件である「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」について開示するものではない。 実願平5-44717号(実開平7-12410号)のCD-ROM(甲8。以下「刊行物6」という。)は,メリヤス靴下に関して「2回タック総鹿の子編み」を開示しているが,この「2回タック総鹿の子編み」も,まだら模様に凹凸を形成するものであって,本件発明1の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」とは構成が異なり,請求項1に係る発明の構成Cを開示するものではない。 そして,実願昭58-68445号(実開昭59-172711号)のマイクロフィルム(甲9。以下「刊行物7」という。)には,パンツの裏地等に凹凸を持たせることで肌に接するときの感じを良くすることができる点が記載されているが,刊行物7の「ウェーブ状の凹凸5」は,表地と裏地との間に合成繊維ウーリー糸を介入させて3重層の袋状編地とし,表地と裏地との収縮差により,また,表地と裏地の組織の粗密差により,裏地の全面に亘って形成させるものであって,本件発明1の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」とは構成を異にし,刊行物7も本件発明1の構成Cを開示するものではない。 したがって,本件発明1は刊行物3ないし7に開示された技術的事項に基づき,当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ) 以上のとおりであるので,請求項1に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものではない。 イ 本件発明2ないし5の進歩性について 本件発明2ないし5は,いずれも本件発明1の構成Cを有するものであるので,前記アで述べたと同じ理由により,刊行物1ないし7記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく,請求項2ないし5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものではない。 (3) 特許法36条4項及び6項1号の規定違反を理由とする無効主張について ア 各請求項に記載の「マッサージ作用と爽快作用を生じるように」という事項は,発明の作用・効果を示すものであり,発明を特定するために必要な事項ではない。しかし,本件明細書の「発明の詳細な説明」には,発明の構成要件である「交互の波形」によって,「着用している間,骨盤の運動中,隆起した波形領域の皮膚に対する摩擦を生じ,かくして,局所的な微少なマッサージを生じ,それ故,有益な爽快効果やリラックス効果を生ずる」と記載されており(段落【0016】),着用者の皮膚に「適度な圧縮を生じ」(発明の構成要件)させるための手段が明確であるので,各請求項に発明の構成によって奏される作用・効果が記載されていても,特許を受けようとする発明の範囲を特に不明確にするものではない。 イ 各請求項における「交互の波形」及び「タックステッチメッシュ」は,それぞれ構成が特定されるものであり,「タックステッチメッシュ」自体の編組織の構成は当業者に広く知られたものである。そして,「タック編みが形成されたコースの数が,隆起の高さ及び長さを決定する」と刊行物5(2欄57〜63行)に記載されているように,タック編みに種々の編み方があることも周知の事項である。 そうすると,各請求項における「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について,「発明の詳細な説明」に編組織の具体的な構成が記載されていないとしても,各請求項に係る本件発明が,「発明の詳細な説明」欄に記載された発明ではないということはできない。 ウ 上記イで述べたとおり,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について,「発明の詳細な説明」に具体的な構成が詳細に記載されていないとしても,当業者が実施することができないとすることはできない。 エ 請求項1ないし5に係る特許は特許法36条4項,6項の規定に違反してなされたものではない。 (4) むすび 以上のとおりであるので,原告(請求人)の主張及び証拠によっては,請求項1ないし5に係る特許を無効とすることはできない。 |
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当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件審決は,特許法36条4項,6項1号違反の主張に関する判断を誤り(取消事由1),また,本件発明1ないし5に関する進歩性判断を誤った(取消事由2,3)ものであり,取消しを免れない。 1 取消事由1(特許法36条4項,6項1号違反の主張に関する判断の誤り) 本件審決は,「タックステッチメッシュ」自体の編組織の構成は当業者に広く知られたものであるから,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に編組織の具体的な構成が記載されていないとしても,各請求項に係る本件発明が上記「発明の詳細な説明」に記載された発明でないとはいえない旨認定判断し,さらに,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について,上記「発明の詳細な説明」に具体的な構成が詳細に記載されていないとしても,当業者が実施することができないとすることはできない旨認定判断した。しかしながら,次に述べるとおり,上記判断は誤りである。 すなわち,各請求項には,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」なる要件が,各請求項に係る本件発明の構成要件として記載されている。上記の構成要件にいう「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」とは,「平メッシュの編み面に対してその上面と下面の双方に向けて交互に浮き上がる襞状の波形を有するタックステッチメッシュ(タック編によるすき間を持つ布)」を意味すると解すべきところ,該「平メッシュの編み面に対してその上面と下面の双方に向けて交互に浮き上がる襞状の波形をタックステッチによって形成する編み方」は周知なものではない。本件明細書の【0011】欄の記載を含め「発明の詳細な説明」欄には,「タック編」ではなく,「フロート編(浮き編,float stitch)」とヘルドループからなる編組織という上記構成要件の編組織または編み方法とは異なるものしか記載されておらず,「タックステッチメッシュにより平メッシュの編み面に対してその上面と下面の双方に向けて交互に浮き上がる襞状の波形を形成する編み方」に関する具体的な開示が一切されていない。 また,上記構成要件の編組織又は編み方法がたとえ周知であるとしても,それだけの理由で,本件明細書の「発明の詳細な説明」にその具体的技術の記載がされていなくてもよいということにはならない。 したがって,各請求項に係る本件発明については,特許を受けようとする発明が「発明の詳細な説明」欄に記載されたものとはいえず,また,その構成要件に関する具体的構成が「発明の詳細な説明」中に,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,本件発明1,2は,特許法36条6項1号,4項に違反して特許されたものというべきである。 2 取消事由2(本件発明1に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件発明1の要旨認定の誤り 請求項1に記載の「交互の波形」なる用語の意義は平面視の形状を指しているものではなく,専ら,「平メッシュの編み面(平面)」に対してその上面と下面に向けて「交互に浮き上がる波形」を示す用語であって,平面視の形状を限定するものではないから,本件審決が,「交互の波形」を,編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある構成と特定できるとした旨の認定判断は誤りである。 したがって,請求項1に記載の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」とは,「平メッシュの編み面に対してその上面と下面の双方に向けて交互に浮き上がる襞状の波形を有するタックステッチメッシュ」という意味であると解すべきである。 (2) 本件発明1に関する進歩性判断の誤り 本件発明1の作用効果である着用者の肌面に対するマッサージ効果は,編み面に対して上下に襞状に交互に浮き上がる波形によって奏されるものであって,平面視のジグザグ形状は上記効果と直接結び付くものではない。つまり,本件発明1の目的とするところは,平編みとタック編みとによって形成された着用者の肌面に対して刺激を与えることができる凹凸襞状の交互の波形をガードルに付与することにある。 刊行物6には,メリヤス靴下に関し,タック編の一種である総鹿の子編みによって踵部の着用者の肌に触れる面に細かい凹凸を形成し,この凹凸によって肌に刺激を与えマッサージ効果をも発揮する編組織の技術が開示されており,また,刊行物7には,肌に接する面に凹凸を付与し,肌に接する感じを高めることを目的として,裏地にウェーブ状の凹凸面を形成したパンツに関する技術が開示されている。 刊行物6記載の靴下を製造するメーカーは,本件発明1と同様,横編製品のメーカーであって,ガードル類をも横編みによって製造しているところが多いところから,刊行物6記載の発明を刊行物7記載の発明に組み合わせるところに何ら困難性もない。 したがって,本件発明1は,刊行物6に開示された編組織(タック編の一種である総鹿の子編みによって形成される凹凸)を刊行物7のパンツ(ガードル)に用いることにより当業者なら容易に想到し得るものである。 3 取消事由3(本件発明2ないし5に関する進歩性判断の誤り) 本件発明2ないし5は,いずれも本件発明1の構成Cを備えるものであるから,前記2で述べたのと同様の理由により,本件発明2ないし5は,刊行物6及び7記載の発明により当業者が容易に想到することができたものである。 (被告の反論) 1 取消事由1について (1) 本件発明の本質的部分は「タックステッチメッシュ」なる構造体である。 本件発明の課題はマッサージ効果と爽快効果及びリラックス効果を生じさせる「パンティストッキング」の提供であって,「領域」を備える「タックステッチメッシュ」は「構造体」にほかならず,本件発明に係るガードルにおいて,上記爽快効果等は「タックステッチメッシュ」の「構造」により発揮される。さらに,本件明細書の段落【0008】には,「組み立てられたガードルは又,臀部,尻,及び腿にくっ付く管状部分にかなり隆起した波形を備えたタックステッチメッシュ構造を有し・・・」と記載され,上記課題の解決手段として考えられたものが「タックステッチメッシュ構造」であり,編み方ではないことが明確に記載されている。そして,本件発明の実施の形態についても,上記の特別な「タックステッチメッシュ構造体」は,従来の自動靴下丸編機を使用することによって得られることが記載され,編み方を限定するものではないことが同段落【0011】において明らかにされている。 以上のように,各請求項にいう「タックステッチメッシュ」が,特定の編み方による編組織でなく,特定のパターンを有する構造体を意味することは,本件発明の課題・目的・技術的思想・実施形態及び本件発明の効果において一貫して明らかにされている。 (2) 「タック編」以外の編み方による本件発明の実施について 本件発明の本質的部分は「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」なる特定のパターンを有する構造体である。そして,本件明細書の段落【0011】には,原告,被告双方が認めるように,フロート編の具体的な構成が記載されている。すなわち,本件明細書には,タック編以外の編組織で形成される「タックステッチメッシュ構造体」について明確に開示されているのである。 したがって,当業者は,タック編組織によることはもとより,フロート編組織によっても,本件発明を実施することができるのであり,本件発明は特許法36条4項,6項1号の規定に違反しない。 (3) タック編みによる本件発明の実施について 「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」が,本件審決のいうとおり,タック編みによる編組織を意味するものとしても,タック編みは当業者に周知であるから,本件明細書にタック編組織の具体的な構成が記載されていなくとも,タック編による浮き上がった交互の波形を有する構造体として,当業者はこれを実施することができる。 したがって,本件発明は特許法36条4項,6項1号の規定に違反しないというべきである。 2 取消事由2について (1) 本件発明1の要旨について ア 本件発明1の要点は,「臀部,尻,及び腿を包む領域」というガードルの「特定の領域」に,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」というマッサージ作用と爽快作用を生じる「特異なパターン」のタックステッチメッシュなる構造体を形成したことである。 イ 本件明細書に記載される「タックステッチメッシュ」は,平メッシュの編み面に対して「特定のパターン」を形成させるためのもので,そのような「特定のパターン」のタックステッチメッシュがいかにして得られるかは,本件明細書段落【0011】に例示され,同じ記載箇所に「従来の自動靴下丸編機を使用することによって得られる」ことも記載されている。すなわち,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」は,特別な編み機を準備しなくても,従来の自動靴下丸編機で得られ,「特定のパターン」が教示されれば,本件明細書段落【0011】に示唆される編み方や,周知のタック編みで「特定のパターン」のタックステッチメッシュを得ることができるのであり,「タックステッチメッシュ」の編み方自体,本件発明1の本質的な構成要件ではない。 ウ 請求項1記載の「交互の波形」は,本件明細書の「発明の詳細な説明」に「斜めの波形」と対比するものとして記載されており(段落【0006】,【0012】,【0014】),本件明細書の段落【0012】及び図2には,メッシュA,A1の一側から突出する,ジグザグに隆起した波形3と波形3aには,それらの間にメッシュA,A1の反対側に突出する,波形4aが介在しており,隆起した波形3と波形3aは,波形4aによって明確に離間されることになり,これにより,「浮き上がった」交互の波形が形成されることが具体的に記載されている。そして,「交互の波形」を有するガードルの着用者が,隆起した波形3と波形3a間に皮膚を挟み込んだ状態で骨盤を動かすと,隆起した波形により皮膚に対する「摩擦」による,「局所的な微少なマッサージ」が生じるのである(本件明細書の段落【0016】)。 原告は,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」とは,「平メッシュの編み面(平面)」に対してその上面と下面に向けて「交互に浮き上がる波形」を指し,図2に「平面視に表される「\/\/\/\」形状はジグザグ状であって,波形ではない旨主張すると共に,本件発明1の効果である着用者の肌面に対するマッサージ効果は編み面に対して上下に襞状に交互に浮き上がる波形によりもたらされるものであって,平面視のジグザグ形状は上記効果と直接結び付くものではない旨主張する。 しかしながら,原告は,かつて2001年3月16日前後に日本販売元として被告製品を「KARIN Web Communications Net PRESENTS」として販売し,「Internet Communications' Club project K.C.N」のウェッブサイトに広告を載せ,その広告に,「はくだけで‥気になるところが やせられる。動くとマッサージ,体脂肪燃焼。」とのキャッチコピーと共に,そのコピーの上方にパンティストッキングを着用した着用者の「臀部,尻,及び腿を包む領域」のみを大きく拡大した写真を掲載している。 掲載された写真と対比してこのキャッチコピーが意味するところを考察すると,「気になるところ」は,明らかに写真に示される「臀部,尻,及び腿」部分であり,同「臀部,尻,及び腿を包む領域」には,平面視でジグザグの「交互の波形」が,それを強調するために拡大して表されている。そして,この「交互の波形」によるマッサージ作用によって「体脂肪燃焼」を示唆しているのである。 本件発明1の効果は,「臀部,尻,及び腿を包む領域」に形成された,平面視でジグザグの「交互の波形」によって「臀部,尻,及び腿を包む領域」にマッサージ作用をもたらすのであって,原告が主張する,「編み面に対して上下に襞状に交互に浮き上がる波形によってもたらされる」は,原告が自らした上記広告での示唆と明らかに矛盾し,原告の主張には根拠がない。 (2) 本件発明1の進歩性について 前記(1)に述べたとおり,本件発明1の「交互の波形」は,原告の主張とは異なり,「平メッシュの編み面に対して平面視ジグザグ形状の浮き上がった交互の波形」であり,刊行物6及び7はいずれも,平面視ジグザグ形状の交互の波形を開示するものではないので,これらをいかに組み合わせたとしても,本件発明1を容易に想到し得るものではない。 また,刊行物6に,タック編の一種である「総鹿の子編」が開示されていることについては何ら異存はないが,「総鹿の子編」が開示されているからといって,本件発明1の「特定のパターン」を推考する起因や動機を与えるものではない。 刊行物6には,靴下の踵部が2回タック総鹿の子編として,表面に適宜の凹凸を与え,足部に適度の刺激を与えることが記載されているが,このような凹凸は本件発明1の「交互の波形」とは全く技術的思想を異にするものである。すなわち,刊行物6の「総鹿の子編」の凹凸は,踵でこれを踏みつけることによって,足部に適度の刺激を与えるかもしれないけれども,「総鹿の子編」は,本件発明1のように,交互の波形が明確に離間されることによって「浮き上がった」交互の波形が形成されるとは到底いえず,したがって,「総鹿の子編」の凹凸では,「隆起した波形領域の皮膚に対する摩擦を生じ,かくして,局所的な微少なマッサージを生じ,それ故に,有益な爽快効果及びリラックス効果を生じ」させることはできない。また,刊行物7についても,そこに開示された「ウェーブ状の凹凸5」は,表地と裏地との間に合成繊維ウーリー糸を介入させて3重層の袋状編地とし,表地と裏地との収縮差により,又,表地と裏地の組織の粗密差により,裏地全体に亘って形成させるものであって,本件発明1の「特異なパターン」である「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」を開示するものではない。 3 取消事由3について 本件発明2ないし5は,いずれも本件発明1の構成Cを備えるものである。 したがって,前記2で述べたのと同様の理由により,本件発明2ないし5は,刊行物6及び7記載の発明に基づいて容易に想到できたものとはいえない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法36条4項,6項1号違反の主張に関する判断の誤り)について 原告は,本件審決が,「タックステッチメッシュ」自体の編組織の構成は当業者に広く知られたものであるから,本件明細書の「発明の詳細な説明」に編組織の具体的な構成が記載されていないとしても,各請求項に係る発明が上記「発明の詳細な説明」に記載された発明でないとはいえない旨認定判断し,さらに,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という事項について,上記「発明の詳細な説明」に具体的な構成が詳細に記載されていないとしても,当業者が実施することができないとすることはできない旨認定判断したが,この認定判断は誤りである旨主張する。 (1) そこで,検討するに,請求項1は,本件発明1について,「タックステッチメッシュ」の領域や形状を,「臀部,尻,及び腿を包む領域を有し」,「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有する」と規定することにより,その構造を明確にしているものと解されるが,編み組織に関しては,「平メッシュの編み面」,「タックステッチメッシュ」という編み組織に関連した用語を使用しているにすぎず,その具体的な編み方法は規定していない。 (2)ア ところで,本件明細書(甲2)には,次のとおり記載されている。 (ア) 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,少なくともパンテ ィを構成したガードル,及び好ましくは,腿の十分な部位を覆う管状領域の一部が,影響を受けた部位を適度に圧縮する付加的な利点によって,ガードルの作用する部位にマッサージ効果,爽快効果,及びリラックス効果を生じさせて,パンティストッキング装着者が体を動かしている間,その部位にかなりの心地良さを与えるように考えられ,且つ構成されたタイツ,即ち,パンティストッキングを提供することにある(段落【0005】)。この目的の範囲内で,本発明の目的は,かなり浮き上がった領域,即ち,平地メッシュに備わった交互の波形によって構成された領域と,平メッシュを有する領域に加えて,斜めの波形等を有する,前記交互の波形に較べて低く少し浮き上がった領域とを備えたタックステッチメッシュを有するタイツ用ガードル又はパンティを提供することにある(段落【0006】)。 (イ) 【課題を解決するための手段】本発明の目的,対象,及び以下に続く説明から明らかになるその他のものは,本発明による管状の伸縮性タイツ(パンティストッキング)用ガードルによって達成され,該管状伸縮性タイツは,パンティと伸縮性ストッキングの初めの部分を構成する領域がタックステッチメッシュによって構成され,該タックステッチメッシュは,平地メッシュから始めて,適度の圧縮を生じ,かくしてガードルに包まれた体の部位にマッサージ効果と爽快効果を生ずるように,共に編まれた特定の従来の糸と伸縮自在の糸を3次元的に結合して編むことで,平メッシュに関してかなり浮き上がった交互の波形を有するメッシュが得られるように形成されている(段落【0007】)。特に,ガードルと,腿の部分を覆う対応するストッキング部分は,いわゆる股部まで縦に切断され,その後,縫い付けによって組み立てられる2つの同一の管状本体から形成される。組み立てられたガードルは又,臀部,尻,及び腿にくっ付く管状部分にかなり隆起した波形を備えたタックステッチメッシュ構造を有し,前方には,腹部に前記交互の波形に較べて低く少し隆起し,編物の表面にだけ斜めの波形等を有している(段落【0008】)。 (ウ) 【発明の実施の形態】・・・上述したように,本発明は,伸縮性パンティストッキングのガードルと2つの従来のストッキングの最初の部分のみの特別なタックステッチメッシュ構造体に関する。メッシュ構造体は,平らな地メッシュパターンから始めることで,従来の自動靴下丸編機を使用することによって得られ,即ち,一般的に4本の針が糸と共に同時に供給され続け,かなり隆起したメッシュを得るために,2本又は3本の針毎に,通常,4回転である一定数の回転の間に形成されるメッシュを保持する他の針を介入させることが必要であり,かかる回転中,適切に予め設定されたパターンによって,糸を保持した針がいわゆる「ドロップ」を実行する命令を受けるまで,その針は静止したままで他の針に関して供給され,且つ移動させられる。この方法では,意図した効果,即ち,交互の又はメッシュの一側にだけ形成された波形を有する,かなり浮き上がったタックステッチメッシュを有するメッシュが得られる。メッシュの形成中,従来の伸縮性の糸5(図1)の挿入によって,メッシュの弾力性が増大する(段落【0011】)。 イ 上記のとおり,本件明細書には,本件発明の目的は,マッサージ効果と爽快効果及びリラックス効果を生じさせる「パンティストッキング」を提供することであり,上記目的は,一定の「領域」に備わる「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という構造体により達成されるものであること,上記の「タックステッチメッシュ」という構造体については,従来の自動靴下丸編機を使用することによって得られることが記載され,編み方を限定する記載はないことが認められる。 しかして,本件明細書の上記記載を参照して,各請求項の記載をみれば,本件発明の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という構成要件は,かかる特定のパターンを有する編みの構造体を意味するものであり,その構造体について編み方法を限定するものではないと解するのが相当である。 ウ この点に関し,原告は,「タックステッチ」は「タック編」を指し,「メッシュ」が繊維用語で「細かい又は粗い隙間を持つ編みか織りによる布」を指すものであるから,請求項1,2に記載の「タックステッチメッシュ」全体の語義は「タック編によるすき間を持つ布」ということになり,また,本件発明1,2の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュによって形成されたガードル」は,「平編によるすき間を持つ布の編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタック編によるすき間を持つ布によって形成されたガードル」を意味する旨主張する。 確かに,「タックステッチメッシュ」の語は「タックステッチ」の語と「メッシュ」の語を組み合わせたものであり,それぞれの語の意味合いは原告主張のとおりである(甲16,17)。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,各請求項の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」にいう「タックステッチメッシュ」の語は外国語を翻訳した造語であると認められ,我が国において特定の意味を有する語として定着しているわけでなく,このことに本件明細書における上記アの記載を参酌すれば,各請求項の上記記載部分は,上記説示のとおり,タックステッチ等で編まれた特定のパターンを有する編み構造体を意味し,タックステッチは編み方を例示する程度のものでしかなく,該構造体を編成する編みの方法を限定するものではないと解するのが相当である。原告の主張は,各請求項の記載及び前記ア認定の本件明細書の記載に沿わないものであり,採用できない。 また,証拠(甲5ないし7,10)及び弁論の全趣旨によれば,「平編」や「タック編」等が本件出願前周知であることは明らかであり,技術常識からして,該周知の平編により,すき間を持つ布を編成することや,上記周知のタック編により,該布の編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するすき間を持つ布を編成することは,当業者にとって自明な事項であると認められる。 さらに,各請求項の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」は1つのまとまりを有するものとして,特定のパターンを有する細かい又は粗い隙間を持つ編み組織の構造体を意味するものであり,その編みの方法は限定されていないというべきところ,本件明細書には,上記構造体を形成する編み方法として,フロート編みが記載されているのであって,このフロート編みによっても,当業者は,本件発明を実施することができるものと認められる。 (3) 上記のとおり,各請求項記載の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という構成要件は,編みの方法を限定するものでなく,上記特定のパターンを有する編みの構造体を意味するものであり,そのことは本件明細書の「発明の詳細な説明」に記載されているから,本件発明に関しては,特許を受けようとする発明が「発明の詳細な説明」に記載されており,また,その構成要件に関する具体的構成が「発明の詳細な説明」中に,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているというべきである。 原告の特許法36条6項1号,4項違反の主張は,上記「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という構成要件について,上記と異なる解釈を前提とするものであって,採用できない。 なお,原告は,本件審決には,本件明細書の段落【0011】に開示されている技術内容が,本件発明の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」なる構成要件の編組織又は編み方法とは異なるとの原告の主張について,当事者間で争点になっていたにもかかわらず,この点について判断を遺脱している旨主張するが,上記のとおり,上記段落の記載は各請求項の記載と矛盾するものではなく,本件審決がこの点に関し判断をしなかったことは,本件審決の結論の当否に影響するものではない。 したがって,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)について 原告は,本件発明1が進歩性を有するとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。そこで,以下検討する。 (1)ア 請求項1の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形を有するタックステッチメッシュ」という記載についてみると,浮き上がった「交互の波形」がどのような方向からみて,波のような形であるかは同項には規定されていない。 しかし,「交互の波形」については,本件明細書の「発明の詳細な説明」には,「図2は,参照文字Aによって概略的に示され,管状ガードル1の全部と,従来の長いストッキング(図1及び図3)の最初の部分2-2aを実質的に形成するのに使用される浮き上がったタックステッチメッシュの一部を示す。図2は,メッシュA-A1の一側から突出する,隆起した波形3-3a他と,メッシュA-A1の反対側から突出する,互い違いの逆の波形4-4aを示す。」(段落【0012】)と記載され,図2には,編み面の表面上にジグザグ状の波形が図示されるとともに,編み面の上面と下面のそれぞれに突出した横方向に連続する襞状の波形が図示されている。 そして,一般的にものの形状は外観上,すなわち,「平面視」で把握するのが通常であり,このことと本件明細書及び図面の記載を考え併せれば,請求項1記載の「交互の波形」における「波形」は,編み面の「平面視」で波形であることを意味するものと解される。 また,「浮き上がった交互の波形」とは,請求項1の「臀部,尻,及び腿・・・にマッサージ作用と爽快作用を生ずるように」との記載及び上記明細書の記載中の「図2は,メッシュA-A1の一側から突出する,隆起した波形3-3a他と,メッシュA-A1の反対側から突出する,互い違いの逆の波形4-4aを示す。」との記載を参照してみれば,編み面の断面視において,一側に突出する部分と反対側から突出する部分とが平面視における波形に沿って交互に横方向に連続した襞を形成していることを意味するものと解される。 本件審決は,上記各項にいう「交互の波形」は,さらに編み面の平面視においても波形を有するもの,すなわち,本件発明1における「交互の波形」は,編み面の平面視及び断面視の両者において波形がある構成と特定できるとしているが,この判断は上記の趣旨をいうものであって,相当として是認できる。 これと異なる原告の見解は,採用することができない。 イ 原告は,本件発明1の効果である着用者の肌面に対するマッサージ効果は,編み面に対して上下に襞状に交互に浮き上がる波形によって奏されるものであって,平面視のジグザグ形状は上記効果と直接結び付くものではない旨主張する。 確かに,本件明細書(甲2)には,本件発明1に係るガードルにおいて,その平面視の波形により,マッサージ効果等が生じる旨の直接の記載はないが,本件発明1に係る「交互の波形」は,編み面の平面視における「波形」及び断面視における「波形に沿って形成される編みの一側又は反対側に交互に突出した横方向に連続する襞」を意味すると解されるところ,本件明細書には,「本発明,即ち,特別な糸の編み込みによって作られたガードルは,交互の波形によって編物の表面にかなりの起伏を与えることができるタックステッチメッシュを生じ,その利点を考慮すると,パンティストッキングを着用している間,骨盤の運動中,隆起した波形領域の皮膚に対する摩擦を生じ,かくして,局所的な微少なマッサージを生じ,それ故,有益な爽快効果やリラックス効果を生ずることが明らかである。」(段落【0016】)と記載されており,平面視における波形は,断面における上記特定の形状との組み合わせにより,上記明細書記載のマッサージ効果等を奏することが明らかにされており,この記載内容は,技術常識に照らして,合理性を有するものと考えられる。 原告の上記主張は採用することができない。 ウ 因みに,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,かつて2001年(平成13年)3月16日前後に日本販売元として被告製品を「マイクロマッサージ・マジック パンティストッキング」として販売し,「Internet Communications' Club project K.C.N」のウェッブサイトに広告を載せ,その広告に,「はくだけで‥気になるところが やせられる。動くとマッサージ,体脂肪燃焼。」とのキャッチコピーと共に,そのコピーの上方にパンティストッキングを着用した着用者の「臀部,尻,及び腿を包む領域」のみを大きく拡大した写真を掲載しており,さらに,「世界特許特殊凹凸ウェーブ立体丸編」,「マイクロマッサージウェーブの特殊な波形状(パンティ内部)」等の説明が記載されていることが認められる。 上記の写真及びキャッチコピーの意味からすると,写真に示される「臀部,尻,及び腿」が「気になるところ」であり,同「臀部,尻,及び腿を包む領域」には,平面視で交互の波形が,それを強調するために拡大して表されている。 そして,これらを総合してみれば,この「波形」が上記説明にある特殊な波形状の一部を形成するものとみられ,上記広告は,その特殊な波形によるマッサージ作用によって「体脂肪燃焼」が行われることを示唆していると認められる。 上記のとおり,原告は,平成13年3月16日頃,編み面に対して上下に襞状に交互に浮き上がる波形に,平面視の波形の形状とが組み合わさって,着用者の肌面に対するマッサージ効果が奏されることを自認していたと認められる。 (2)ア ところで,刊行物6(甲8)には,メリヤス靴下に関する技術が開示され,次のとおり記載されている。 (ア) 「【考案が解決しようとする課題】 本考案は,・・・踵部,爪先部 のクッション性を良くし,かつ,着用時踵部のずれ落ちを防止し,更にクッション性はあるが通気性も兼ね備えた靴下を得ることを目的とする。」 (イ) 「【課題を解決するための手段】 扁平に展開した状態における脚部の垂直方向中心線と足部の水平方向中心線との交点で交差し,編成開始点が,脚部の垂直方向中心線より爪先側で,かつ足部の水平方向中心線より上位に位置するようなゴアラインを形成した踵部を有し,かつ踵部,足底部,爪先部を2回タック総鹿の子編組織とした。」 (ウ) 「上記踵部4の編成に際しては,踵部4の編地が着用者の足部に適度の刺激を支え(「与え」の誤記と認める。),かつ,通気性も有するように表面に適宜の凹凸を有する組織の編地とする。即ち2回タック総鹿の子編としている。」(段落【0015】) (エ) 「また,踵部4,足底部5(「6」の誤記と認める。),爪先部8等 体重のかかる部位の編地が2回タック総鹿の子編となっているので組織が重厚であるにかかわらず,通気性を有し,かつ,肌に触れる面が細かい凹凸状を呈するために,肌に刺激を与えマッサージ効果をも発揮する。」(段落【0022】) 上記記載によれば,刊行物6には,クッション性があり,踵部のずれ落ちを防止するとともに,通気性の良い靴下を提供することを課題とし,その課題解決のための手段が開示され,その中で,タック編により体重のかかる部位の表面に適宜の凹凸を有する組織の編地を編成し,その結果,該部位の肌に触れる面が細かい凹凸状を呈することにより,肌に刺激を与えマッサージ効果を発揮する構成が開示されているといえる。しかし,刊行物6の開示するタック編により編み面に対して形成される凹凸は,断面視及び平面視の両方で波形を形成する本件発明1の「平メッシュの編み面に対して浮き上がった交互の波形」とは構成を異にするものであり,本件発明1の上記構成を開示するものとはいえない。 イ また,刊行物7(甲9)には,パンツに関する技術が開示され,次のとおり記載されている。 (ア) 「この考案のパンツは,・・・従来の欠点を除去し,研究の結果,こ れを開発したるもので,表地となる方には弾性伸縮糸と吸湿性にすぐれた糸とで編み,裏地となる方には吸湿性にすぐれた糸で表地よりも組織の密度を粗にして編み,表裏両地の間には,ポリエステル,ポリアミド等の合成繊維のウーリー糸を介入せしめて適宜コースおきに表裏両地を接合させ,且つ弾性伸縮糸の収縮作用により裏地に多数のウェーブ状の凹凸部を顕出せしめた3重層の袋状キルト生地で,該生地の裏地がパンツ主体の内部となるように構成したパンツを提供するにある。」(2頁16行〜3頁7行) (イ) 「パンツの裏側即ち内部8は表側の生地1よりも編組織の密度を粗にしたものであるから弾性伸縮糸の収縮力と相俟ってパンツの内部の全面に亘ってウェーブ状の凹凸部5が多数形成されるから肌に接するときの感じが極めてよく,該凹凸部5によって,肌と内部8との間に多数の空気層ができて保温性にすぐれ,且つパンツの内部8を構成する吸湿性繊維によって吸湿性が極めて良好であるばかりでなく,パンツの表側は弾性伸縮性糸を使用し,内部8は編組織の密度を表地よりも粗にすると共に,弾性伸縮糸の収縮力によって内部全体に亘って隆起状に多数のウェーブ状の凹凸部が顕出されているから,パンツ全体が伸縮性に富み,腰部によくフィットして極めて着用感のよいパンツを提供するものである。」(5頁4〜18行) (ウ) 第1図及び第2図には,パンツの内部8全面に亘ってウェーブ状の凹凸部5が多数形成された構造が示されている。 上記記載によれば,刊行物7記載の発明は,伸縮性に富み,腰部によくフィットして着用感のよいパンツを提供することを目的とするものであり,「ウェーブ状の凹凸部5」は,本件審決の認定するとおり,表地と裏地の間に合成繊維のウーリー糸を介入させて3重層の袋状編地とし,表地と裏地の収縮差と表地と裏地の組織の粗密差により,裏地の全面に亘って形成されるものである。 上記のとおり,刊行物7記載の発明は,本件発明1とは課題を異にするものであり,その解決手段として採用された「ウェーブ状の凹凸部5」が,本件発明1が採用している「平面視の波形と断面視の波形を組み合わせた「交互の波形の構成」を開示するものでないことは明らかである。 (3) 刊行物6は,踵で踏みつけることによって肌に刺激を与えることを前提とした靴下に係る技術を開示しているものであり,これを刊行物7記載のパンツの着用感を高めるための発明に適用すべき動機付けは希薄というべきであるし,また,刊行物6及び7はいずれも,編み面の平面視における「波形」及び断面視における「波形に沿って形成される編みの一側又は反対側に交互に突出した横方向に連続する襞」(平面視及び断面視の両方における交互の波形)を開示するものではないので,これらを組み合わせたとしても,本件発明1を容易に想到し得るとはいえない。 この点に関する原告の主張は,本件発明1の「交互の波形」について異なる解釈に立つものであって,採用することができない。 3 取消事由3(本件発明2ないし5に関する進歩性判断の誤り)について 本件発明2ないし5は,いずれも本件発明1の構成Cを備えるものである。 したがって,前記2で説示したのと同様に,本件発明2ないし5は,刊行物6及び7により容易に想到し得たものとはいえない。 4 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決には他にこれを取り消すべき瑕疵は見あたらない。 よって,原告の本件請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青蜉] |
裁判官 | 清水節 |