審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18ワ6548損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ2916特許権損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ21737特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ10596損害賠償請求事件 平成11ワ10599損害賠償請求事件 平成11ワ13548損害賠償請求事件 平成11ワ13550損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ27420損害賠償等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的範囲 / 出願経過 / 実施 / 間接侵害 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
310号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 日本電池株式会社 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 同 丸山隆 被告 松下電工株式会社 訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 同 平野和宏 補佐人弁理士 中川文貴 同 安藤淳二 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/12/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙物件目録(1)記載の道路照明装置を製造し、販売し、その販売の申出をしてはならない。 2 被告は、別紙物件目録(2)記載の筒状発光部を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、金4140万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日(平成17年2月2日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、原告が、被告が業として道路照明装置を製造販売する行為が、原告の有する道路照明装置の特許権についての特許法101条2号の間接侵害であるとして、差止、廃棄及び損害賠償請求をする訴訟である。 1 争いのない事実 (1) 原告の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。) 特許番号 第2830693号 発明の名称 道路照明装置 出願日 平成5年5月28日 出願番号 特願平5-151110 公開日 平成6年12月6日 登録日 平成10年9月25日 特許請求の範囲 光源を収納する光源部と、この光源部から放出される光線を端面より内部に導き発光する長手方向の長さ2m以上の筒状発光部とからなり、光源部は上記筒状発光部の車の進行方向後端に設けるとともに、筒状発光部には道路側に向く側面に車の進行方向前端より後端にわたり光透過窓を設け、複数個を長手方向連続的に道路面より高さ1m〜4mの位置に設置してなる道路照明装置。 (2) 特許請求の範囲の分説 本件発明の特許請求の範囲は、以下のとおり分説できる。 @ 光源を収納する光源部と、 A この光源部から放出される光線を端面より内部に導き発光する長手方向の長さ2m以上の筒状発光部とからなり、 B 光源部は上記筒状発光部の車の進行方向後端に設けるとともに、 C 筒状発光部には道路側に向く側面に車の進行方向前端より後端にわたり光透過窓を設け、 D 複数個を長手方向連続的に E 道路面より高さ1m〜4mの位置に設置してなる F 道路照明装置。 (3) 被告製品 平成16年10月16日までに、鳥取県境港市と島根県八束郡(以下省略)(現在は松江市(以下省略))の江島を結ぶ江島大橋の「境港江島地区橋梁橋面等工事(その3)」(元請=大成・竹中土木・大日本土木特定建設工事共同企業体。以下「本件工事」という。)において、別紙物件目録(3)記載の道路照明装置(以下「被告製品」という。)が設置された。被告は、被告製品のうち、カバー以外の部分を製造販売したが、その際、それが被告製品となることを知っていた。 2 争点 (1) 被告製品が、本件発明の技術的範囲に属するか。 (原告の主張) ア 被告製品は、次の構成を備える。 (a) ナトリウム灯からなる光源を収納し、長さ1.2m又は0.8mのカバー(被告の製造販売に係るものではない)に収納された光源部と、 (b) この光源部から放出される光線を添付図面の図1に示される断面構造により端部より内部へ導き発光する筒状発光部であって、それぞれが別表に記載された長さを有する合計3個の筒状発光部と、 (c) 上記筒状発光部の車進行方向前方に設けられ、それぞれが別表記載の長さを有する通常2個(例外的に1個又は3個)の無発光部とを連結して、別紙の添付図面の図2-1及び図3-1に図示されるようにユニットを構成し、さらにかかる構成のユニットを3ユニットから8ユニット連結して道路照明装置ユニットを構成し、 (d) 上記光源部は上記筒状発光部の車進行方向後端に設けるとともに、 (e) 上記筒状発光部には、道路側に向く側面に車の進行方向前端より後端にわたり光透過窓を設け、 (f) 道路面より高さ約1.3mの位置に設置してなる (g) 道路照明装置を (h) それぞれが別表記載の長さを有する1個若しくは2個の単独無発光部を介して、又は、これを介さずに、橋の支柱又は壁に沿って設置した (i) 道路照明装置群。 イ 対比 (ア) 被告製品のうち、たとえば、別表の図番T1BR52888-K(区間G)を例に取れば、L36からL43までの8ユニットを連結しており、これが本件発明にいう道路照明装置の1単位に当たる。被告製品は、これら別表の各図番ごとに作られた道路照明装置が集合した道路照明装置群であり、それぞれの道路照明装置の間に存在する単独無発光部は、本件発明の技術的範囲の属否とは関係がない。 (イ) 被告製品の(a)ないし(g)は、本件発明の構成要件@ないしFを充足する。したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する。 ウ 本件発明の「複数個を長手方向連続的に」の意味 (ア) 「複数個」とは、光源部と筒状発光部からなるユニットを複数個設置することである。 (イ) 「長手方向連続的に」とは「連続照明を構成する程度に短い間隔で連続して」という意味である。 道路照明の分野においては、「連続照明」という概念があり、ここにいう「連続」とは「短い間隔で連続」という概念を含むもので、まったく間隔をあけないという意味ではない。そして、本件における「連続的」という用語の意味も「連続照明」における「連続」と同じ意味を有するものとして理解しなければならない。 たとえば、社団法人日本道路協会発行の「道路照明施設設置基準・同解説」(以下「設置基準・解説」という。甲3)は、「連続照明」を実施する1つの方法として「高らん照明方式」を挙げ、同方式について、「灯具を短い間隔で連続して取り付けなければならない」(29頁)と説明している。また、被告の特許出願の公開公報である特開2001-135101(甲4)では、「照明器具1は、道路2の両脇または片側に車線軸に沿って連続的に配置され」と記載されており、その実施態様を示す図面では、照明器具1は間隔をあけて連続的に配置されている。 (ウ) 本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)には、どの程度の間隔(無発光部を挟んだ各発光部の間隔)があれば「連続的」に設置されているといえるのかは明記されていない。しかし、本件明細書に記載された作用効果中、「(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しないこと」及び「(3)同様に道路の流れを情報提供する誘導性を有している。」の2つが「連続的」という要件に関連していることは明白である。したがって、これらの作用効果が発揮されていれば、「連続的」という要件が充足されている。 被告製品では、無発光部の長さは約6.5mないし7.5m、光源部(発光しない)の長さは約1mであるから、発光しない部分の長さの合計は約7.5mないし8.5mとなる。一方、発光部の長さは約11mないし12mであり、 発光部の方が発光しない部分よりも十分に長く、上記作用効果(2)、(3)を奏することは明らかである。 被告製品を採用するに当たって、本件工事の技術検討調査報告書(甲5)では、「必要な照度(路面輝度)が得られること、不快なまぶしさやムラがない配光であること、人や障害物を識別するために十分な視認性(演色性)を有することが必要となる。」(34頁)、「視線誘導効果に優れるため、ドライバーが安全且つ快適に走行できる。」(同)とされ、被告製品は、これらの検討結果に従って採用されたのであるから、上記効果を奏しているはずである。そして、本件明細書の「(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない」ことが、上記報告書の「不快なまぶしさやムラがない配光」に、本件明細書の「(3)同様に道路の流れを情報提供する誘導性を有している」ことが上記報告書の「視線誘導効果」に対応するから、被告製品は、本件発明の作用効果を奏している。 (エ) 本件明細書における「ちらつき」の意味は、本件発明が解決しようとする課題として,「設置基準・解説」に記載されている「ちらつき」による不快感を摘示していることに示されるように、「設置基準・解説」における意味と同一である。そして、「設置基準・解説」は、「ちらつき」について、「トンネル内で起こるちらつきによる不快感は、自動車の走行速度と灯具の配光、取付角度とで生ずる周波数、明暗輝度比、明暗時間率などが複合して生ずるものである。」(67頁)と説明している。そうだとすると、本件発明の作用効果のうち、「(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しないこと」とは、「ちらつき」が絶対的に存在しないという意味ではなく、従来技術と比較して「ちらつき」を大幅に減少させ、 実質的に「ちらつき」による不快感がないことを意味するものである。 「ちらつき」による不快感の有無に関しては、国際照明委員会(CIE)の「道路、トンネル及び地下道照明のガイドに関する技術報告書」(甲7)の5.9「ちらつきの回避」(30頁)に、「一般的に、ちらつきによる影響は周波数が2.5Hz以下と15Hz以上において無視できる。もし照明の発光域の終端と次の照明の発光域の始端との距離が、この発光域の長さより短い場合、人工照明に関する限りにおいては、知覚されるちらつきは無視できる。」とある。そして、 被告製品が設置された江島大橋の制限速度は40km毎時であるから、この速度で走行した場合の「ちらつき」の周波数を算出すると、例えば別表の図番T1BR52888-K(区間G)では0.61Hzとなり、ちらつきによる不快感を生ずる周波数の下限よりはるかに小さい。また、被告製品の発光域の長さは、無発光域の長さよりも長い。したがって、被告製品は、ちらつきによる不快感を生じないとされている条件を充足しており、被告製品は、本件発明の作用効果(2)を奏している。 (被告の主張) ア 被告製品の構成についての認否は、次のとおりである。 (ア) 構成(a)は認める。 (イ) 構成(b)は、「筒状発光部が光源部から放出される光線を添付図面の図1に示される断面構造により端部より内部へ導き発光する」ことは認め、その余は否認する。筒状発光部は、筒状体3基を連続して1個の筒状発光部が構成されている(原告主張のように、筒状発光部が3個あるのではない。)。 (ウ) 構成(c)は、道路の左側部分通行車の左側に設けられた道路照明装置の無発光部が筒状発光部の当該車両進行方向前方に設けられていること、「それぞれが別表記載の長さを有する無発光部を連結して」いることは認め、その余は否認する。被告製品は、光源部、筒状発光部、無発光部及び単独無発光部を合わせて1ユニットを構成しており、被告製品全体が1単位の道路照明装置であるから、原告主張の「道路照明装置ユニット」は存在しない。 (エ) 構成(d)は認める。 (オ) 構成(e)は、「筒状発光部には、道路側に向く側面に光透過窓を設け」ていることは認め、その余は否認する。 (カ) 構成(f)は認める。 (キ) 構成(g)ないし(i)は、被告製品が道路照明装置であること、筒状体1基からなる無発光部の本件進行方向後端側に、別表の「施工寸法」、「単独無発光部」欄@、A記載の長さの単独無発光部が隣接して設置されている個所があることは認め、その余は否認する。 イ 原告の主張イのように、道路照明装置の単位を捉えることについて (ア) 原告は、訴状では、被告製品が全体として1単位の道路照明装置であることを主張し、被告がこれを認めているから、既に争いのない事実となっている。原告は、その後、被告製品が複数単位の道路照明装置からなる道路照明装置群であると主張するに至ったが、これは許されない。 (イ) 「設置基準・解説」では、「連続照明は少なくとも500mを1単位として設置することが望ましい」(6頁)とされている。そして、本件発明は、 本件明細書によれば、「連続した光の帯」により「道路の流れを情報提供する誘導性を有」するという作用効果を奏するものであって、従来技術である「連続照明」以上の誘導性を有するものであるから、1単位の道路照明装置は500m以上の長さがなければならない。 ところが、被告製品のうち、原告の主張する「道路照明装置ユニット」1単位を構成するものは、最長でも、別表の図番T1BR52888-K(G区間)の139.840mであり、最短の別表の図番T1BR52885-K(D1区間)は46.995mにすぎない。このように短いものでは、従来技術である連続照明が奏する誘導性すらも奏しない。 そうすると、原告の主張する「道路照明装置ユニット」は1単位の道路照明装置ではなく、江島大橋という1本の橋を照明する道路照明装置である被告製品の一部を構成するものにすぎない。 (ウ) したがって、1単位の道路照明装置の一部を構成する単独無発光部を、侵害論と関係がないとする原告の主張は誤りである。 ウ 「複数個を長手方向連続的に」の意味 (ア) 複数個を長手方向に連続的に設置される対象は、構成要件@(光源部)及びA(筒状発光部)により構成されるユニットである。 (イ) 本件明細書では、「連続した発光源により『ちらつき』なく、道路上の物体を明確にするとともに、車のドライバーの運転に支障のない照明を得ようとするものである」ことなどが記載されている。これらの記載や本件発明の出願経過からすれば、このユニットが「複数個を長手方向連続的に」設置されているというためには、ユニットの間隔が、視認者において一般的に「ちらつき」を感じさせないよう極めて短いものに限られ、少なくとも該ユニットから放出される光が道路面上で連続するものに限定される。 この範囲を超えた間隔でユニットが設置されている場合でも、「複数個を長手方向連続的に」設置しているという構成を充足すると解することは、平成5年法律第26号による改正前の特許法36条4項又は5項1号及び6項に規定する要件を満たさず、本件特許権に無効理由が存するとの結論をもたらすものであって相当でない。 (ウ) 被告製品では、明るい部分と暗い部分とが所定の間隔を置いて繰り返され、その結果道路面や道路上の自動車は断続的な光によって照明されており、 被告製品を設置した道路を自動車で走行するドライバーに「ちらつき」が生じる。 すなわち、被告製品は、断続的な光によって照明されるという点においては、間隔をおいて灯具を設置する従来技術と変わりはないものである。 したがって、被告製品は、「複数個を長手方向連続的に」の要件を欠いている。 (エ) 「ちらつき」と「ちらつきによる不快感」は別個のものである。本件明細書に、連続照明である片側配列、千鳥配列、向き合わせ配列を含めた、本件発明の従来技術について「取付間隙は路面、壁面の輝度確保に必要な灯数と『ちらつき』による不快感を少なくする工夫を行ない決定されるが、・・・灯具は間隔を置いて設置されることにかわりはない」との記載があるとおり、本件発明の技術的範囲に属さない道路照明装置であっても、「ちらつきによる不快感」を感じさせないのである。 (2) 原告の損害 (原告の主張) ア 原告は、江島大橋の設置向けとして、本件発明を製品化した道路照明装置を販売すべく営業活動を行っていた。ところが、被告が江島大橋の「境港江島地区橋梁橋面等工事」の元請業者である大成建設株式会社に対し、被告製品は本件特許を侵害しない旨を記載した書面を交付して被告製品の営業を行い、結果として被告製品が採用されたため、原告は、本件発明を製品化した道路照明装置を販売できなかった。 被告製品の販売行為がなければ、原告の道路照明装置販売代金見積額は約1億2000万円で、その30%が利益であったから、原告は、少なくとも3600万円の損害を受けた。被告の行為は、少なくとも過失によるものである。 イ 原告が本訴に要する弁護士費用のうち、被告が賠償すべき費用は、少なくとも540万円である。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(技術的範囲の属否)のうち、構成要件Dの「複数個を長手方向連続的に」の充足性について判断する。 (1) 構成要件Dの「複数個を長手方向連続的に」の意味について ア 本件明細書の記載 証拠(甲2)によれば、本件明細書には次の記載があることが認められる。 (ア) 【従来の技術】 「従来の道路照明は社団法人日本道路協会制定の道路照明施設設置基準・同解説に基づき設置され、一般的には図1に示すとおりであり、・・・図1の場合は灯具の配列は図3に示すように(a)片側配列(b)千鳥配列(c)向き合せ配列があり、それぞれの配列方法と道路の幅員Wによって灯具の取付高さHと間隙Sが決定される。・・・取付間隙は路面、壁面の輝度確保に必要な灯数と『ちらつき』による不快感を少なくする工夫を行ない決定されるが、いずれにしろ・・・灯具は間隔をおいて設置されることにはかわりはない。」(【0002】)として、図1にポール照明が図示されている。 (イ) 【発明が解決しようとする課題】 「このような従来の道路照明方式によると、・・・前述の道路照明設置基準、同解説にも述べられている通り、『ちらつき』による不快感、誘導性といった点でも改善されなければならない問題点を有している。」(【0003】)、「そこで、この発明は、上記従来の道路照明における問題点を改善するものであり、連続した発光源により『ちらつき』なく、道路上の物体を明確にするとともに、車のドライバーの運転に支障のない照明を得ようとするものである。」(【0004】) (ウ) 【発明の実施の形態】 「この発明の実施に当り、・・・連続する照明光によりドライバーの眼に『ちらつき』を生ずることがないものである。」(【0006】) (エ) 【実施例】 「この発明の道路照明装置Aの1ユニット・・・であり、光源部(1)と発光部(2)からなる。光源部(1)には反射鏡(3)・・・光源(5)・・・を有し光源(5)よりの光線は発光部(2)の端面より中空パイプ(7)内部に導かれる。発光部(2)は・・・中空パイプ(7)の・・・道路側に向く側面を光透過窓(9)に形成している。・・・反射鏡(3)は光源(5)からの光を15°以下に反射する反射光(10)の成分ができるだけ多くなるように設計されており・・・放出される光は、・・・反射し最終的に光透過窓(9)から放出される光線(11a)、・・・直接光透過窓(9)から放出される光線(11c)にわかれる」(【0007】、【0008】)、「以上のとおり、この発明は構成されるので上記照明装置Aを1ユニットとし、複数のユニットA1、A2、 A3…をほぼ連続して道路に沿い必要ならば防音壁に取り付けることにより図8のように設置する。」(【0010】)として、図8には、ユニットA1、A2、A3、A4がごく僅かの隙間をおいて設置され、ユニットの光源部も発光しないと仮定した場合におけるユニットの発光部と次のユニットの発光部の間隔(ユニット間の隙間と光源部の長さを合わせた長さ)が、普通乗用自動車の長さの8分の1程度になっている状態が図示されている。 (オ) 【発明の効果】 「この発明は、ほぼ連続した放出光が路面上の物体の側面から連続して照明することになるので、(1)物体の鉛直面の視認が容易。(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない。(3)同様に道路の流れを情報提供する誘導性を有している。」(【0011】) イ 出願経過 証拠(乙4ないし11)によれば、本件発明の特許出願経過において、 次の事実があったことが認められる。 (ア) 本件発明の特許出願当初の特許請求の範囲には、「照明装置を複数個・・・道路延長にほぼ連続的に設置」との記載があった。 (イ) これに対し、特開平5-67402号公報(特許請求の範囲は、 「・・・光源を、縁石の路面から上方に伸びる面に設置し、かつ前記光源の照射方向を、水平よりも下方にして路面を照明するようにしたことを特徴とする道路照明装置」。以下「引例1」という。)及び特開平5-120904号公報(特許請求の範囲は、「・・・道路照明灯は道路にそって少なくも進行方向前方への照射および手前方向への照射を含む複数の配光特性を有し、・・・路面が乾燥状態であるときは前記配光特性を進行方向前方とした道路照明灯で照明し、路面がウエット状態であるときは前記配光特性を手前方向と・・したことを特徴とする道路照明装置」。以下「引例2」という。)を引用文献として拒絶査定がなされた。 (ウ) 原告は、拒絶査定不服審判を請求するとともに、平成10年5月11日付補正を行い、現在の特許請求の範囲とした。また、原告は、同日付審判請求理由補充書において、「引例1は連続した光線を路面に向い照射する道路照明装置である点でこの発明と一致するが、引例1の照明装置は縁石・・・の位置に設け、 路面に向い照明して路面の均一照明をするためのものである点でこの発明と相違する。」、「引例2における所定間隔の照明ではドライバーの眼に『ちらつき』を与えることとなり、この発明の目的とも相違」すると主張した。 (エ) 引例1には、「【目的】濡れた路面でも明暗の差が少ない均一な照明を行い」、(【要約】)、「ポールなどに光源を設置する場合に比べて、光源を短い間隔で設置したり、道路の進行方向に対して長い光源を設置することが可能となる。その結果、路面が濡れている場合でも、路面が暗く見える部分を少なくすることができ、」(【0020】)との記載があり、「【図1】 実施例の構成を示す透視図」として、縁石に設置された光源10、20から出た光が、路面に間隔をあけることなく、部分的には重複して路面を照射している様子が図示されている。 ウ 「複数個を長手方向連続的に」の意味 (ア) 構成要件Dの「複数個」とは、光源部と筒状発光部からなるユニットを複数個設置するとの意味であることは、当事者間に争いがない。 (イ) 前記ア(オ)認定に係る本件明細書の発明の効果の「この発明は、ほぼ連続した放出光が路面上の物体の側面から連続して照明することになる」との記載によれば、本件発明は、道路に「ほぼ連続した放出光」を出すものと認められる。そして、前記ア(オ)認定に係る本件明細書の「この発明は、ほぼ連続した放出光が路面上の物体の側面から連続して照明することになるので、」「(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない。」との記載によれば、上記「ほぼ連続した放出光」とは、全く隙間なく完全に連続していることまでは必要でないにせよ、 「ちらつき」が発生しない程度に連続した光の帯をさすものと認められる。 (ウ) したがって、構成要件Dにおける「長手方向連続的に」とは、光源部と筒状発光部からなるユニットからの放出光が、「ちらつき」が発生しない程度に連続した光の帯となるように、各ユニットが連続しているという意味と認められる。 (エ) 構成要件Dに関する以上の解釈は、前記イ認定に係る本件発明の出願経過における原告の引例1、2についての主張、とりわけ、引例1について「引例1は連続した光線を路面に向い照射する道路照明装置である点でこの発明と一致する」とする主張とも整合するものである。 エ 「ちらつき」について 証拠(乙21、22)によれば、マグローヒル科学技術用語大辞典(昭和54年発行)には、「ちらつき」について「数サイクル/秒から、数十サイクル/秒の速さの光の周期的変動によって起こる視感覚」との記載があり、現代照明環境システム(1981年発行)には、「光を1秒間に数回、すなわち数Hz程度のゆっくりした割合で点滅すると、目は明確にその明滅を感じることができる。光の点滅の割合、すなわちその周波数をしだいに高くして20Hz程度以上にすると、 光の明滅はもはや感じられなくなって、一様な光と感じるようになる。このように、光の点滅の周波数が比較的低い場合に、その明滅を感じることをちらつき(flicker)の印象を受けるという。」との記載があることが認められ、上記事実によれば、「ちらつきが発生しない状態」とは、自動車で走行した場合に、光の帯がとぎれることがあってもごく短い瞬間であるため、ドライバーの眼には明滅が感じられない程度である状態をさすものと解される。 オ 原告は、本件発明の「連続的」の意味を「連続照明」における「連続」と同じ意味を有するものとして理解しなければならないと主張する。 しかし、証拠(甲3、乙19)によれば、「設置基準・解説」には、連続照明とは、「トンネル、橋梁灯を除く単路部のある区間において、原則として一定の間隔で灯具を配置し、その区間全体を照明することをいう。」とされ、「連続照明の照明方式は原則としてポール照明方式とする。」と記載されていることが認められる。 したがって、もし、本件発明の「連続的」の意味を「連続照明」における「連続」と同じ意味とすると、本件明細書にいう従来技術(図1)のポール照明の片側配列、千鳥配列、向き合せ配列も「連続的に」設置されていることになり、 これらについて、本件明細書が「いずれにしろ灯具は・・・間隔をおいて設置されることにはかわりはない。」(【0002】)として、本件発明がこれらと異なる設置状態を前提としていることと矛盾する。 カ また、原告は、本件発明の作用効果のうち、「連続した光の帯により『ちらつき』が発生しないこと」とは、「ちらつき」が絶対的に発生しないという意味ではなく、実質的に「ちらつき」による不快感がないことを意味するものであると主張する。 しかし、証拠(甲3)によれば、「設置基準・解説」には「ちらつきによる不快感は、明暗の周波数が2.5Hz以下または25Hz以上の場合にはほとんど問題にならず・・・明るくなる時間が明暗の1周期の25%程度を占める場合を中心にして、それより大きく、または小さくなるほど不快感は減少する。」との記載があることが認められ、上記事実によれば、光の明滅があれば直ちに不快感を感じるものではなく、例えば明滅の周波数が2.5Hz以下であるときなどはちらつきによる不快感がほとんど問題とならないように、「ちらつき」と「ちらつきによる不快感」は別異のものであることが認められる。そして、前記ア認定に係る本件明細書の記載、とりわけ、従来技術についての「『ちらつき』による不快感を少なくする工夫を行ない決定されるが、いずれにしろ灯具は・・・間隔をおいて設置されることにはかわりはない。」、本件発明の効果についての「連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない。」、発明の実施の形態の「連続する照明光によりドライバーの眼に『ちらつき』を生ずることがない」との各記載からは、本件明細書が「ちらつき」と「ちらつきによる不快感」の用語を同一のものとする趣旨で用いているとは認められない。 よって、上記オカの原告の各主張は、いずれも採用することができない。 (2) 被告製品について ア 証拠(乙1、2の1ないし3)によれば、被告製品が設置された江島大橋の路面は、被告製品に別表の「無発光部」及び「単独無発光部」が存在する影響により、その発光部と無発光部及び単独無発光部にほぼ対応した状態で明るい場所と暗い場所が存在すること、同大橋を制限速度である40km毎時で自動車により走行した場合、車内は、1秒間に1回に満たない周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返すこと、したがって、車内のドライバーにも同様の周期の光の明滅が感じられ、「連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない」状態 に至っているとは認められない。 そして、上記認定に係る明るい場所と暗い場所の存在や光の明滅が、無発光部と単独無発光部のいずれの存在によるものであるかを的確に認定することができる証拠はなく、別表記載のとおり単独無発光部はまばらにしか存在せず、長さも無発光部に比べて短いことからすると、単独無発光部の存在による影響が大きいとは認めることはできず、むしろ、主として無発光部の存在によるものであることが窺われる。 そうすると、被告の主張するように被告製品全体が1単位の道路照明装置であると解すればもちろん、原告の主張するように被告製品について複数単位の道路照明装置が各区間ごとに存在するものと解釈しても、被告製品が、「『ちらつき』が発生しない程度に連続した光の帯」、すなわち、本件発明の効果である「ほぼ連続した放出光」を出しているものと認めることはできない。 したがって、被告製品においては、光源部と筒状発光部からなるユニットが、「『ちらつき』が発生しない程度に連続した光の帯」を出す程度に連続しているとはいえないから、本件発明の「複数個が長手方向連続的に」との構成要件Dを充足すると認めることはできない。 イ 原告は、被告製品が、本件工事の技術検討調査報告書(甲5)の「不快なまぶしさやムラがない配光であること」との条件を満たしており、それが本件発明の効果である「(2)連続した光の帯により『ちらつき』が発生しないこと」に当たると主張する。しかし、上記「不快なまぶしさやムラ」との概念は曖昧であって、 この事実によって、被告製品には「ちらつき」が発生する状態であるとの前記認定事実は覆らないから、原告の主張を採用することはできない。 2 結論 以上の次第で、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。そして、以上認定の事実からすれば、物件目録(1)の道路照明装置も、「ユニット中の無発光部の長さと光源部カバーの長さの合計が筒状発光部の長さの合計を超えないユニット」であるとの限定を付していると考えたとしても、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。 よって、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 小堀悟 |
裁判官 | 守山修生 |