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事件 |
令和
6年
(ネ)
10033号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/10/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
令和6年10月29日判決言渡 令和6年(ネ)第10033号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方 裁判所令和5年(ワ)第3375号) 口頭弁論終結日 令和6年8月27日 5 判 決 控 訴 人 ア ル フ ィ ン 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 山 上 和 則 10 同 雨 宮 沙 耶 花 同補佐人弁理士 鈴 木 由 充 被 控 訴 人 株 式 会 社 ダ イ ケ ン 15 同訴訟代理人弁護士 藤 田 典 彦 同訴訟代理人弁理士 豊 岡 大 志 同補佐人弁理士 原 田 洋 平 同 西 畑 芳 高 同 赤 松 秀 樹 20 主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 控訴の趣旨 25 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載1の製品を製造し、販売し、又は販売 1 のために展示してはならない。 3 被控訴人は、前項の製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は、控訴人に対し、2億円及びこれに対する令和5年4月26日か ら支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 5 第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原 判決中の「原告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替え る。) 1 本件は、発明の名称を「庇」とする特許(特許第5000674号。本件特 許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、原判決別紙物件目録記載 10 1の製品(イ号製品)及び同目録記載2の製品(ロ号製品)は、本件特許の特 許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属しており、 被控訴人がこれらの商品を製造、販売等する行為によって本件特許権が侵害さ れたと主張し、被控訴人に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、イ号 製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、イ号製品については 15 不法行為に基づく損害賠償請求として、1億4000万円(損害金5億250 0万円のうち一部請求)及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌 日)である令和5年4月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの 割合による遅延損害金の支払を求め、ロ号製品については不当利得返還請求と して、6000万円(不当利得金2億0225万円のうち一部請求)及びこれ 20 に対する前同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、イ号製品及びロ号製品(被控訴人製品)が本件発明の技術的範囲 に属するとは認められないと判断し、控訴人の請求をいずれも棄却したので、 控訴人が原判決を不服として控訴した。控訴人は、当審において、被控訴人製 品は、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、本件 25 発明の技術的範囲に属するとの主張を追加した。 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3のとおり控訴人の 2 当審における補充主張を、後記4のとおり控訴人の当審における追加主張を、 後記5のとおり控訴人の当審における追加的主張に対する被控訴人の反論を、 それぞれ付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の2、3及び第3(2頁 17行目から5頁4行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。た 5 だし、原判決3頁23行目の「2 争点」を「3 争点」に改める。 3 当審における控訴人の補充主張(文言侵害について) ? 原判決は、構成要件B2の「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨 水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」を「庇板の開放された前端面 に当接されかつ当接部分の前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦 10 板部」と解釈した。これは、構成要件B2の「縦板部」を、本件明細書中の 図7に示された実施例(以下「本件明細書の図7実施例」という。)に限定解 釈したものである。 しかし、本件明細書に他の実施例の記載がないからといって、上記の限定 解釈をすることは妥当でない。被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属す 15 るか否かは、特許請求の範囲の記載に基づいて判断されなければならない。 原判決は、構成要件B2が「庇板の開放された前端面に当接されかつ当接部 分の前面」との限定的な記載ではないにもかかわらず、本件明細書の図7実 施例の実施形態に限定した解釈を行っており、誤りがある。 ? 本件発明に係る特許請求の範囲では、 「当接部分」と「前面が雨水を下方へ 20 導くガイド面となっている部分」との位置関係は特定されていない。 本件明細書における「縦板部」 「上下方向の板」 を と解するのは、 「縦板部」 の「部」の文言を無視するものである。「縦板部」の「部」は「分けること、 分けた一区分」を意味するところ、 縦板部」 「 は全体として一つの造語であり、 造語中に「縦」の語を含むことから「縦方向(上下方向)」ないし「縦向き」 25 の意味合いを有するが、分けられた前縁板の一区分を指すものである。本件 明細書の「横板部」も、同様に一つの造語であり、分けられた前縁板の一区 3 分を指すものであって、庇板の前端面の位置を境として、概ね縦向きの姿勢 の部分が「縦板部」、概ね横向きの姿勢の部分が「横板部」である。 「縦板部」 の「縦」の文言から、 「縦板部」は、上下方向の板であって、この上下方向の 板の前面が「下方へ導くガイド面」となっておりかつ「開放された前端面に 5 当接され」ているものを指すと限定的に解することはできない。原判決別紙 「図面」の「原告主張図1」及び「原告主張図2」のとおり、被控訴人製品 の折れ板部140は、水平方向の長さと上下方向の長さが1対2以上で、全 体的には縦向きの姿勢であり、水平方向の部分(張出部142)があっても 「縦板部」に該当する。そして折れ板部140は、その上下方向の板の前面 10 が「下方へ導くガイド面」となっており、当接部145において「開放され た前端面に当接され」ているから、折れ板部140は、構成要件B2の「縦 板部」に該当する。 本件明細書中の目的に関する記載(段落【0007】。以下、特に断りのな い限り、かっこ内の段落番号、図の番号は、本件明細書の段落番号、図の番 15 号(原判決別紙「特許公報」の段落番号、図の番号)を指す。 、問題を解決 ) するための手段としての構成に関する記載(段落【0008】 、作用に関す ) る記載(段落【0009】)として記載された事項は、「庇板の開放された前 端面との当接部分」 「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている部分」 と との位置関係とは直接関係しないから、原判決が、上記各記載から、構成要 20 件B2の「縦板部」は「庇板の開放された前端面に当接され」た板部の「前 面が雨水を下方へ導くガイド面となっている」ことを要するものと解するの が当業者にとって合理的であると判断したことは不当である。 本件明細書には、 「前面がガイド面となっている部分」 「当接された部分」 と とが離間して存在する構成のものを除外するような記載も示唆も見当たらな 25 い。 「当接部分」と「前面がガイド面となっている部分」とが離れた構成のも のであっても、庇の小型化や構造の簡易化という本件発明の目的に整合し、 4 本件発明と同じ作用が得られる。 ? 構成要件B2の「縦板部」は、庇板の開放された前端面に当接される部分 を有することが必要不可欠であるものの、庇板の開放された前端面に当接さ れる部分をいかに構成するかは、庇板の構造等に応じて適宜採択される設計 5 的事項であり、その態様は一つではない。前面が雨水を下方へ導くガイド面 となっている部分と、庇板の開放された前端面に当接される部分とが離間し て存在するものでもよく、被控訴人製品は、構成要件B2を充足する。 4 当審における控訴人の追加主張(均等侵害) 仮に、構成要件B2を「庇板の開放された前端面に当接されかつ当接部分の 10 前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」のように限定解釈する のが相当であるとした場合、構成要件B2において本件発明と被控訴人製品と は差異があることになる。しかし、本件においては、最高裁平成6年(オ)第 1083号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁が 示した均等の五つの要件(以下「第1要件」ないし「第5要件」という。)を満 15 たすから、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属する。 ? 第1要件(非本質的部分)について 本件発明は、庇板の開放された前端面を塞ぐように全幅にわたって前縁板 を取り付けた構造に特徴を有するもので(段落【0014】 、 ) この前縁板は、 庇板の上面を伝って前縁板まで導かれた雨水を縦板部のガイド面により下端 20 まで導いて落下させ、かつ、庇板の内部に浸入した雨水を縦板部の凹部を経 て縦板部の下端まで導いて落下させるものであり(段落【0009】 、その ) ような特有の作用を生じさせる構成、すなわち、庇板の内外の雨水をともに 縦板部の下端まで導いて落下させる構成が本件発明の本質的部分である。 構成要件B2の被控訴人製品と異なる部分は、庇板の開放された前端面に 25 当接される部分と前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている部分との位 置関係に関わる部分であり、上記した本件発明に特有の作用効果を生じさせ 5 るための部分でなく、本件発明の本質的部分ではない。 ? 第2要件(置換可能性)について 本件発明の「庇板の開放された前端面に当接されかつ当接部分の前面が雨 水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」を、被控訴人製品の「庇板の 5 開放された前端面に当接される部分と前面が雨水を下方へ導くガイド面とな っている部分とが離間して存在する縦板部」に置換しても、その置換された ものは、樋溝のない構成により庇の小型化や構造の簡易化など(段落【00 07】)を実現しており、本件発明の目的を達成する。 また、置換されたものも、本件発明と同じ作用、すなわち、@庇板の上面 10 に溜まった雨水は縦板部のガイド面を伝って縦板部の下端より落下させ、A 庇板の内部に浸入した雨水は縦板部の内面を伝い凹部を経て縦板部の下端よ り落下させるという作用(段落【0009】)が生じ、本件発明と同じ効果、 すなわち、樋溝がないから庇板の全長が必要以上に長くならず、構造の複雑 化を招くおそれもないなどの効果(段落【0014】)を奏するものであるか 15 ら、置換可能性がある。 ? 第3要件(置換容易性)について 本件発明の「庇板の開放された前端面に当接されかつ当接部分の前面が雨 水を下方へ導くガイド面となっている縦板部」を、被控訴人製品の「庇板の 開放された前端面に当接される部分と前面が雨水を下方へ導くガイド面とな 20 っている部分とが離間して存在する縦板部」に置換することは、庇板の構造 等を考慮して縦板部を設計する上で、縦板部を庇板の開放された前端面に当 接させるために考えられ得る複数の態様のうちの一つの態様として容易に想 到し得るところであり、置換容易性がある。 甲8(特開2009―97326号公報)の図5ないし7には、雨樋の機 25 能を必要としない態様の化粧カバー材6(被控訴人製品の「先端見切」に相 当)が示されており、化粧カバー材6を庇板2の開放された前端面に取り付 6 けられた蓋材36に当接させて取り付けるために、複数の態様の化粧カバー 材6が示されている(甲8の段落【0031】〜【0038】 。ここに示さ ) れた態様の化粧カバー材6には、蓋材36に当接された板部の前面が雨水を 下方へ導くガイド面となっている態様のもの、及び、蓋材36に当接される 5 部分と前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている部分とが離間して存在 する態様のものが含まれる。 以上のように、甲8に記載された公知の技術を参照し、 「庇板の開放された 前端面に当接され、かつ、当接部分の前面が雨水を下方へ導くガイド面とな っている縦板部」を、 「庇板の開放された前端面に当接される板部と、前面が 10 雨水を下方へ導くガイド面となっている板部とが離間して存在する構成の縦 板部」に置き換えることは、当業者が被控訴人製品の製造時点において容易 に想到できる程度のものであり、置換容易性がある。 ? 第4要件(容易推考性)について 被控訴人製品も、本件発明が特徴とする構成を有し、本件発明の目的を達 15 成した作用効果を奏するものであることは明らかであり、本件発明の特許出 願時における公知技術と同一ではなく、当業者が公知技術から容易に推考で きたものではない。 ? 第5要件(特段の事情)について 本件発明の特許出願は、審査において拒絶理由通知を受けることなく特許 20 査定がされたものであるから、特許出願手続において、被控訴人製品が特許 請求の範囲から意識的に除外されるなどの特段の事情も存在しない。 5 当審における控訴人の追加主張に対する被控訴人の反論 ? 控訴人は、相違点を構成要件B2のみに限って均等要件の主張を展開して いるが、そもそも相違点は構成要件B2のみならずA3及びC1についても 25 存在する。特に構成要件C1の「縦板部の下方内面」に「凹部」を備えてい ることは明らかに被控訴人製品と相違する。そのため控訴人の主張はそもそ 7 も失当である。 ? 第1要件(非本質的部分)について 本件発明は、全ての構成要件が本質的部分である。本件発明は「第1作用 効果(小型化)」と「第2作用効果(雨水及び塵芥流出)」を課題、作用効果 5 とするものであり、これらは、 「縦板部(前縁部)」が庇板の切断面(「開放さ れた前端面」 に沿って位置しつつ、 ) かかる「縦板部」の下方内面において「凹 部」を形成することで達成される。つまり、 「第1作用効果(小型化)」と「第 2作用効果(雨水及び塵芥流出)」を達成するために、縦板部が庇板の切断面 に沿って位置し、縦板部の下方内面に凹部を有することは、本件発明の特徴 10 的な部分であって、本質的部分に他ならない。 したがって、構成要件B2、A3及びC1に係る被控訴人製品の相違点は、 本件発明の本質的部分に関する相違点であって、均等の第1要件を充足しな い。 ? 第2要件(置換可能性)について 15 被控訴人製品は、本件発明の「第1作用効果(小型化)」と「第2作用効果 (雨水及び塵芥流出) を達成するものではなく、 」 本件発明の目的を達成する ことができない。特に「第1作用効果(小型化)」を実現するものではない。 控訴人は樋溝がないことをもって小型化や構造の簡易化を述べているが 失当である。本件特許の目的となる「第1作用効果(小型化)」は、「庇板の 20 前方への突出部分をなくすこと」 庇の全長が必要以上に長くならないこと」 「 、 (段落【0014】)を課題、作用効果とするものである。被控訴人製品が庇 板より前方に突出することは控訴人も認めている形態であり、このような形 態では、本件特許の目的となる「第1作用効果(小型化)」を達成することは できない。 25 したがって、均等の第2要件も充足しない。 ? 第3要件(置換容易性)及び第4要件(容易推考性)について 8 控訴人による置換容易性及び容易推考性の主張はいずれも争う。控訴人は、 本件発明と被控訴人製品の相違点が縦板部の取付位置のみであることを前提 として置換容易性及び容易推考性を主張するところ、本件発明と被控訴人製 品は、縦板部の取付位置のみならず凹部の位置においても相違するから、控 5 訴人の主張は、誤った前提に立つものである。 また、乙1に記載の形態から先端部分を別部材とすることにより、被控訴 人製品は、本件特許の出願の時点で容易に推考できるものである。 ? 第5要件(特段の事情)について 控訴人は、本件特許の出願において、 「庇板の前方への突出部分をなくすこ 10 と」、 「庇の全長が必要以上に長くならないこと」を課題、作用効果とした「第 1作用効果(小型化)」を本件明細書に記載している。 特許請求の範囲の記載においても、構成要件A3が「庇板の開放された前 端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられる前縁板とを備えた」と定め られていることから、庇板の開放された前端面を塞ぐことで「庇板の前方へ 15 の突出部分をなくすこと」となるものであり、構成要件B2が「庇板の開放 された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板 部と、 と定められていることから、 」 縦板部が開放された前端面に当接するこ とで「庇板の前方への突出部分をなくすこと」となる。 そうすると、本件特許の出願手続において、庇板の前方から突出する部材 20 を有する被控訴人製品の形態は、意識的に除外されたものとする特段の事情 がある。 第3 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判 断する。その理由は、後記1のとおり原判決を補正し、後記2のとおり当審に 25 おける控訴人の補充主張に対する判断を、後記3のとおり当審における控訴人 の追加主張に対する判断を、それぞれ付加するほか、原判決「事実及び理由」 9 第4の1(5頁6行目から9頁11行目まで)に記載のとおりであるから、こ れを引用する。 1 原判決の補正 ? 原判決7頁11行目の「当該当接部分」から同頁13行目の「ものの、」ま 5 でを次のとおり改める。 「このうち、『縦板部』について検討すると、この語を構成する『縦』の語は 『上から下への方向』 (広辞苑第7版)の意味を有し、 『部』の語が『分けるこ と、分けた一区分』(広辞苑第7版)の意味を有する。また、構成要件B1な いしB3で特定される『前縁板』については、庇板の開放された前端面に当接 10 され前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている縦板部(構成要件B2)と、 庇板の上面に当接され上面が雨水を前記縦板部のガイド面へ導くガイド面と なっている横板部(構成要件B3)とが区別され、 『前縁部』はこの『縦板部』 と『横板部』とが一体に形成されてなるとの構成とされている。これらのこと からすると、構成要件B2の『縦板部』は、構成要件B3の『横板部』とは分 15 けられた、上下方向の板である一区分であるものを意味し、『庇板の開放され た前端面』に当たって接している、上下方向の板である分けられた一区分であ る『縦板部』の『前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている』ことを要す るものというべきである。また、」 ? 原判決7頁24行目の「ことからすれば、」を「ことからしても、」に改め 20 る。 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断 ? 控訴人は、前記第2の3?のとおり、原判決による構成要件B2の「縦板 部」の解釈は、本件明細書の図7実施例に限定解釈したものであるが、本件 明細書に他の実施例の記載がないからといって、上記のような限定解釈をす 25 ることは妥当でなく、原判決には誤りがあると主張する。 しかし、本件発明の構成要件B2が、特許請求の範囲の記載に基づいて、 10 「庇板の開放された前端面」に当たって接している、 「横板部」とは分けられ た、上下方向の板である一区分である「縦板部」の「前面が雨水を下方へ導 くガイド面となっていることを」要するものと解されることは、前記1によ る補正後の原判決「事実及び理由」第4の1?ア(ウ)の説示のとおりであって、 5 原判決による「縦板部」の解釈が、本件明細書の図7実施例に限定解釈した ものとは認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ? 控訴人は、被控訴人製品の折れ板部140は、水平方向の部分(張出部1 42)があっても「縦板部」に該当し、その上下方向の板の前面が「下方へ 10 導くガイド面」となっており、当接部145において「開放された前端面に 当接され」ているから、折れ板部140は、構成要件B2の「縦板部」に該 当すると主張する。 しかし、前記1による補正後の原判決「事実及び理由」第4の1?ア(ウ)の とおり、構成要件B1ないしB3で特定される「前縁部」の構成に照らして 15 も、 「縦板部」は「横板部」とは分けた一区分であると解されるところ、被控 訴人製品の折れ板部140は、張出部142として横方向へ延びる横板部を 含んでおり、折れ板部140の全体形状は略コ字状というべきものであるか ら、折れ板部140の全体が、上下方向の板であって「横板部」とは分けた 一区分である「縦板部」に該当するとは認められない。 20 また、本件発明は、従来の庇では、庇板2の前端縁に樋板9が全幅にわた って装着されており、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出る ために庇の全長が必要以上に長くなり、樋板9が樋溝95a、95bを備え るので形状が大きくなり構造も複雑化してコスト高になるという課題があり、 この課題を解決するため、従来の樋板に代えて樋溝95aに相当する構成の 25 ない前縁板を用いることにより、小型化と構造の簡易化を実現することを目 的としている(段落【0005】〜【0007】 【図9】〜【図11】 。こ 、 ) 11 れに対し、被控訴人製品は、 「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっている 部分」と、 「庇板の開放された前端面に当接され」た部分とが離間し、当接部 145とガイド面140aとの間に全幅にわたる空洞部144が形成されて おり、この空洞部の分だけガイド面が当接部の前方へ突き出ており、それだ 5 け庇の全長が長くなっている。このように、 「庇板の開放された前端面に当接 され」た板部の「前面が雨水を下方へ導くガイド面」となっていない構成が 構成要件B2の「縦板部」に含まれるとの解釈は、本件明細書に記載された 本件発明の上記目的に整合しない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 10 ? 控訴人は、構成要件B2の「縦板部」につき、庇板の開放された前端面に 当接される部分をいかに構成するかは、庇板の構造等に応じて適宜採択され る設計的事項であり、その態様は一つではなく、前面が雨水を下方へ導くガ イド面となっている部分と、庇板の開放された前端面に当接される部分とが 離間して存在するものでもよいから、被控訴人製品は、構成要件B2を充足 15 すると主張する。 しかし、前記?のとおりである本件発明の目的によれば、構成要件B2の 「縦板部」につき、庇板の開放された前端面に当接される部分をいかに構成 するかが設計的事項であるとはいえない。そして、本件発明の構成要件B2 が、特許請求の範囲の記載に基づいて、 「庇板の開放された前端面」に当たっ 20 て接している、 「横板部」とは分けられた、上下方向の板である一区分である 「縦板部」の「前面が雨水を下方へ導くガイド面となっていることを」要す るものと解されることは、補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4 の1?ア(ウ)の説示及び前記?のとおりである。 したがって、控訴人の主張は採用することができない。 25 3 当審における控訴人の追加主張(均等侵害)に対する判断 ? 第1要件(非本質的部分)について 12 ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用 いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっ ても、@同部分が特許発明の本質的部分ではなく、A同部分を対象製品等 におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一 5 の作用効果を奏するものであって、B上記のように置き換えることに、当 該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、 対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたもので あり、C対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又 は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、D 10 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識 的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品 等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の 技術的範囲に属するものと解するのが相当である。 そして、上記@の要件(第1要件)における特許発明における本質的部 15 分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られ ない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、特 許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段 とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従 来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何である 20 かを確定することによって認定されるべきである(最高裁平成6年(オ) 第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113 頁参照)。 イ これを本件についてみるに、本件発明において、従来技術の庇は、前記 2?のとおり、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方へ余分に突き出るため 25 庇の全長が必要以上に長くなる、樋板9が樋溝95a、95bを備えてい るので構造が複雑化して庇がコスト高となるとの課題のほか、樋溝95a、 13 95bは上面が開放されているため塵芥が堆積しやすく、頻繁な保守、点 検が必要となること、樋溝95bに塵芥が堆積して雨水の通路が塞がれる と、突出部93と庇板2の下面との隙間98より雨水が外部へ浸出し、決 められた箇所以外の随所から雨水が漏れ出て流れ落ちるという課題があ 5 り(段落【0006】 、本件発明は上記課題を発明が解決しようとする課 ) 題とした。そして、本件発明は、この課題を解決するための手段として、 本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される「前縁板」が、 「庇板の開 放された前端面を塞ぐように全幅にわたって取り付けられ」(構成要件A 3) 「庇板の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド 、 10 面となっている縦板部」 (構成要件B2)を備えることで、庇板の前方への 突出部分をなくすことができ、庇の全長が短くなり小型化が図られ、構造 の複雑化を招かないものとした(段落【0014】 。さらに、前縁板の一 ) 部である縦板部について、上記構成要件B2のほか、 「縦板部の下部内面に は、全幅にわたる凹部が形成され」 (構成要件C1)「凹部は開口部分の上 、 15 部が庇板の中空部と連通するように庇板の開放された前端面と対向し」 (構成要件C2) 「開口部分の下部が外部と連通するように庇板の下方へ 、 突出して」 (構成要件C3)いることで、縦板部の凹部が縦板部の内面の側 に開口することとなり、塵芥が堆積するおそれがなく、仮に凹部に塵芥が 付着しても雨水により外部へ洗い流される構造が実現されるものであっ 20 て(段落【0014】 、このことは当業者であれば容易に理解し得るとい ) える。 以上によれば、本件発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見 られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、従来技術の上記課題 を解決するために、本件発明の構成要件A3ないしC3で特定される前縁 25 板を備え、かつ、前縁板の一部である縦板部が構成要件B2及びC1ない しC3の構成を備えていることにあると認められるから、構成要件B2は 14 本件発明の本質的部分であると認められる。 そして、被控訴人製品が本件発明の構成要件B2を充足しないことは、 補正の上で引用した原判決「事実及び理由」第4の1?の説示及び前記2 のとおりであるところ、この相違点は本件発明の本質的部分であることに 5 なる。 したがって、被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を備えておらず、 均等の第1要件を満たさない。 控訴人は、庇板の内外の雨水をともに縦板部の下端まで導いて落下させ る構成が本件発明の本質的部分であり、構成要件B2の被控訴人製品と異 10 なる部分は本件発明に特有の作用効果を生じさせるための部分でなく、本 件発明の本質的部分ではないと主張するが、前記説示に照らし採用するこ とができない。 ? 第2要件(置換可能性)について 前記?の説示のとおり、本件発明は、樋板9の幅wの分だけ庇板2の前方 15 へ余分に突き出るため庇の全長が必要以上に長くなるという従来技術の庇の 課題を、本件発明が解決すべき課題の一つとしている。 そして、上記課題を解決する手段として、本件発明の「前縁板」は、 「庇板 の開放された前端面に当接され前面が雨水を下方へ導くガイド面となってい る」部分として縦板部が形成されており(構成要件B2)、このような縦板部 20 を備えることで、庇板の前方への突出部分がなくなり、全長が短くなって小 型化が図られていると認められ、このことは当業者であれば容易に理解する ことができる。 これに対し、被控訴人製品の折れ板部140は、張出部142として横方 向に延びる横板部を有するものであって、全体形状がコ字状となっているも 25 のである。 そうすると、本件発明の前縁板の縦板部を被控訴人製品の折れ板部140 15 に置換した場合、 「庇板の前方への突出部分をなくすことができ」、 「庇の全長 が必要以上に長くなら」ないという本件発明の作用効果(段落【0014】) が阻害されるといえる。 したがって、本件発明の構成要件B2の縦板部を被控訴人製品の折れ板部 5 140と置換すると、本件発明の目的を達成することができず、同一の作用 効果を奏するとはいえないから、均等の第2要件を満たさない。 ? 以上によれば、被控訴人製品は、均等の第1要件及び第2要件を充足しな いから、その余の要件について判断するまでもなく、本件発明と均等なもの として、その技術的範囲に属するということはできない。 10 4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判 断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 5 結論 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求は いずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当 15 であり、本件控訴は理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 20 裁判長裁判官 中 平 健 25 16 裁判官 今 井 弘 晃 5 裁判官 水 野 正 則 17 |