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関連審決 不服2002-14251
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 444号 審決取消請求事件
原告 株式会社アップコーポレーション
同訴訟代理人弁理士 菊池武胤
同 平山洲光
同 中野圭二
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 神崎潔
同 見目省二
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-14251号事件について、平成15年8月19日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、平成12年4月5日、発明の名称を「広告装置を設けた車輌」とする発明について、特許出願をした(特願2000-103608号、以下「本願」という。)が、平成14年7月2日付けで拒絶査定を受けたので、同月29日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を不服2002-14251号事件として審理した上、
平成15年8月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年9月10日、原告に送達された。
(2) 本願の各請求項記載の発明の要旨は、本件審決に記載された、以下のとおりである。
【請求項1】車体の壁体の縁に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設け、広告媒体を表示したシートの縁を上記車体の壁体の縁の枠に固定して該シートを展張してあるとともに、このシートの内側空間に光源を設けてあり、車体の壁体の略全域に広告媒体を表示し、シートの内側空間の光源により内照式としたことを特徴とする広告装置を設けた車輌。(以下「本願発明」という。) 【請求項2】前記空間を車体の壁面を窪ませて構成してあることを特徴とする請求項1記載の広告装置を設けた車輌。
【請求項3】前記シートは、合成樹脂製のフイルム、布、紙等の薄い膜状のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の広告装置を設けた車輌。
【請求項4】前記シートの周縁の外側に複数の発光体を設けてあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の広告装置を設けた車輌。
【請求項5】前記発光体を二列以上並設し、これら発光体の色を列ごとに相違してあることを特徴とする請求項4記載の広告装置を設けた車輌。
【請求項6】前記発光体は発光ダイオードであることを特徴とする請求項4又は5記載の広告装置を設けた車輌。
【請求項7】前記発光体は点滅可能であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の広告装置を設けた車輌。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願発明が、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-150728号公報(甲5、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本願発明の構成要件を看過した結果、相違点の判断を誤った(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 本願発明と引用発明との相違点が、本件審決認定のとおり、「本願発明が、車体の壁体の「縁」に枠を設け、広告媒体を表示した「シート」を車体の壁体の「略全域」に展張したものであるのに対して、引用例に記載されているものは、
「広告板」を、車体壁体の一部に設けたものである点」(3頁)であることは認める。
しかし、その相違点の検討において、「広告表示部材としてシートを採用したり、広告媒体を車体の壁体の略全域に表示することは、上記の周知例1、2にも示されているように、当該技術分野において、必要に応じて適宜実施されている通常の設計的事項であるから、引用例記載の発明に当該設計事項を採用して、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易になしうるものと認められる。」(同頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
(2) 本願発明は、「車体の壁体の縁に枠を設けこの枠の内側を窪ませて空間を設け」たことと、「広告媒体を表示したシートの縁を上記車体の壁体の縁の枠に固定して該シートを展張してある」こと、すなわち、車体の壁体の縁に枠を設けた具体的な構造を特徴とする。
これに対し、引用例には、「車体の壁体の一部に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設けた」構成は開示されているが、「車体の壁体の縁に枠を設けた」具体的な構成の開示はない。
この点について、実願昭62-66924号(実開昭63-173284号)のマイクロフィルム(甲7、以下「周知例2」という。)に、「広告媒体を車体の壁体の略全域に表示すること」という周知技術が開示されていることは認めるが、そのために具体的にどのような構成にしたかということは、開示も示唆もない。すなわち、周知例2には、「枠状に取付けた留具(6)に着脱自在に止着して広告表示シート(1)を車体側面に張設すること」、及び、広告表示シートを「車体(5)の側面と略同大、同形」としてもよいとの記載はあるが、「車体の壁体の縁に留具を設ける」との具体的構成の記載はなく、ましてや、「車体の縁に枠を設ける」との具体的構造は、開示も示唆もない。周知例2に開示された枠状の留具(3)は、車体(5)の縁に設けられておらず、その図面1ないし3から明らかなように、車体(5)の縁より内側に設けられているから、周知例2から、本願発明の「車体の壁体の縁に枠を設ける」とする具体的構成が示唆されることはないのである。
したがって、本件審決が、引用発明に周知例2に示された設計事項を採用して、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易になし得るとの判断は、
本願発明の最も特徴とする構成である「車体の壁体の縁に枠を設けた」とする具体的構造を看過した結果、導き出されたものであり、この点に誤りがある。
(3) 本願発明は、車体の壁体の縁に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設けた構成と、その他の各構成との結合構成によって、車体壁体の略全域に広告媒体を表示し、内照式として、夜間において大きな広告機能を発揮する効果がある。
特に夜間においては、車体壁体の略全域に明るい広告が表示され、移動するから、
トラックが移動しているにもかかわらず、その車体壁体の部分はほとんど見えず、
広告媒体だけが移動しているように見え、その広告が通行人に大きな広告効果を発揮する。本願発明は、甲9号証(本願発明を実施した具体例の写真)に示されるとおり、従前にない全く新しい広告装置である。
3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
一般に、周知の技術は、当業者が必要に応じて適宜採用し得る技術であると考えられるところ、「広告媒体を車体の壁体の略全域に表示すること」は、原告も認めるように周知の技術であるから、引用発明に「広告媒体を車体の壁体の略全域に表示する」という技術を採用すること自体は、当業者が容易になし得たことといえる。
一方、引用発明は、「車体の壁体(の一部)に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設け、広告媒体の広告表示部材の縁を上記車体壁体の枠に固定」したものであるから、これに上記「広告媒体を車体の壁体の略全域に表示する」という周知技術を採用しようとした場合、引用発明における枠を、車体の壁面の縁にまで拡張するのは、通常想到し得る常識的な手段であり、当該常識的な手段の採用は、
当業者が容易になし得たことというべきである。
当裁判所の判断
1 本願発明と引用発明との相違点が、本件審決認定のとおり、「本願発明が、
車体の壁体の「縁」に枠を設け、広告媒体を表示した「シート」を車体の壁体の「略全域」に展張したものであるのに対して、引用例に記載されているものは、
「広告板」を、車体壁体の一部に設けたものである点」(3頁)であることは、当事者間に争いがない。
2 原告は、本願発明の特徴は、車体の壁体の縁に枠を設けた具体的な構造であるが、引用例にも周知例2にも、「車体の縁に枠を設ける」との具体的構造の開示も示唆もないから、本件審決の相違点の判断は誤りであると主張するので検討する。
(1) 周知例2(甲7)の明細書には、実用新案登録請求の範囲に、「表面に広告、宣伝等を印刷(2)している広告表示シート(1)の裏面外周縁に適宜の留具(3)を装着し、この留具(3)を、自動車(4)の車体(5)の側面に枠状に取付けた留具(6)に着脱自在に止着して広告表示シート(1)を自動車(4)の車体側面に張設するように構成したことを特徴とする自動車を利用した広告装置。」(1頁)と記載され、考案の詳細な説明における実施例として、「広告表示シート(1)は、自動車(4)の車体側面の大きさ、形状に応じた大きさと形状に形成されるものであるが、車体(5)の側面と略同大、同形の横長長方形状に形成しておいてもよく、車体側面を左右に二分割した形状に形成しておいて、夫々単独で車体側面に着脱自在に張設するように構成しておいてもよい。」(4頁〜5頁)と記載されている。
上記記載によれば、周知例2には、原告も認めるとおり、「広告媒体を車体の壁体の略全域に表示すること」という周知技術が示されており、広告表示シートの裏面外周縁に適宜の留具を装着し、この留具を、自動車の車体の側面に枠状に取付けた留具に着脱自在に止着して広告表示シートを自動車の車体側面に張設することと、広告表示シートを車体の側面と略同大、同形の横長長方形状に形成してもよいことが開示されているものと認められる。
(2) 原告は、周知例2に開示された枠状の留具は、その図面1ないし3から明らかなように、車体の縁より内側に設けられており本願発明と異なると主張する。
しかしながら、前記の明細書の記載によれば、広告表示シートを車体の側面と略同大、同形に形成した場合、広告表示シートの裏面外周縁に装着した留具の位置は、車体の壁体の縁であると認められ、これを止着するためには、自動車の車体の側面に枠状に取付けた留具の位置も同位置、すなわち、車体の壁体の縁とすべきことは明らかである。原告の上記主張は、各図面の記載のみから、枠状の留具が車体の縁より内側に設けられていると認定するものであるが、図面は当該発明の実施例を説明するためのものであり、留具の正確な位置を示す設計図ではないから、これのみに基づいて発明の構成を限定することはできない。
他方、本願発明を基本とする本願の請求項4には、「前記シートの周縁の外側に複数の発光体を設けてある」と記載され、同請求項5には、「前記発光体を二列以上並設し」との記載されているから、車体の壁面に枠を設けた位置より更に周縁の壁体に発光体を設けるスペースがあるものと認められ、このことは、本願の図4の記載とも合致するものであるから、本願発明における「車体の壁体の縁」も、
車体の壁体の最外縁自体ではなく、その若干内側の位置を含むものと認められ、周知例2に開示された「車体の壁体の縁」と同様のものと解するのが相当である。
したがって、周知例2には、車体の壁体の縁に枠状の留具を設けることが開示されており、原告の上記主張を採用する余地はない。
(3) そうすると、周知例2により周知であるところの、車体の側面と略同大、同形の広告表示シートを設ける技術及び車体の壁体の縁に枠状の留具を設ける技術を、「車体の壁体の一部に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設け、広告媒体の広告表示部材の縁を上記車体壁体の枠に固定した」ものである引用発明に適用すれば、「車体の壁体の縁に枠を設け、この枠の内側を窪ませて空間を設け、車体の壁体と略同大、同形の広告表示シートの縁を上記車体壁体の縁の枠に固定した」ものとなり、本願発明の相違点に係る構成要件となることは明らかである。
すなわち、当業者が、引用発明に、周知例2により周知とされる技術を適用して、本願発明の具体的構成を想到することに困難性はないものといわなければならない。
3 原告は、本願発明の作用効果について、内照式として、夜間において大きな広告機能を発揮する効果があり、特に夜間においては、広告媒体だけが移動しているように見え、その広告が通行人に大きな広告効果を発揮するなどと主張する。
しかしながら、前示のとおり、引用発明に前記周知技術を適用すれば本願発明と同じ構成要件となり、車体の壁体の略全域に設けた広告表示シートを内照式で表示するものとなるから、本願発明の作用効果は、引用発明及び前記周知技術に基づいて容易に予測できるものであって、顕著なものとはいえないから、当該作用効果により本願発明の進歩性を裏付けることはできない。
4 結論 そうすると、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人