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関連審決 無効2021-800080
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事件 令和 6年 (ネ) 10044号 特許権移転登録手続請求控訴事件
令和6年10月10日判決言渡 令和6年(ネ)第10044号 特許権移転登録手続請求控訴事件(原審・東京地 方裁判所令和4年(ワ)第19222号) 口頭弁論終結日 令和6年8月22日 5判決
控訴人 株式会社グレースラボテック
同訴訟代理人弁護士 伊倉吉宣 10 同阿部有生也
同 鮫島正洋
同 梶井啓順
被控訴人 株式会社アデランス 15
同訴訟代理人弁護士 山和也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/10/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74条1項を原因とする移転登録手続をせよ。
25 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。)11 本件は、控訴人が、発明の名称を「ヘアーアイロン」とする特許第6527371号の特許(本件特許)に係る特許権(原判決別紙特許権目録記載の特許権。本件特許権)について、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明(本件発明)についての特許を受ける権利を有する者であったにもかかわら5 ず、控訴人の代表権限を有しない B(B’)が、その権利を C(C’)に譲渡してしまったため、本件発明について特許を受ける権利を有しないはずの C’が本件特許権の設定登録を受けており、本件特許は特許法123条1項6号に規定する要件に該当すると主張して、本件特許権の特定承継により特許権者として登録されている被控訴人に対し、同法74条1項に基づき、本件特許権の移転10 登録手続をすることを求める事案である。
原審が、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2、3及び第3(原判決2頁8行目ないし同12頁115 7行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
? 原判決2頁20行目の「4月6日、」の次に「創光国際特許事務所の D 弁理士(以下『D’弁理士』という。)を通じ、」を加える。
? 原判決3頁1行目の冒頭から同頁3行目の末尾までを次のとおり改める。
「ウ 本件出願について、平成27年8月18日に、出願人名義変更届が出20 され、承継を理由として出願人が控訴人から C’に変更された(甲28、
29)。
平成28年11月24日、本件出願につき出願公開がされた。同月29日に、E は、D’弁理士に対し、本件出願に関する問い合わせをしたところ、D’弁理士から、本件出願(特願2015−77467号)につい25 て、平成27年8月18日付けで特許を受ける権利が控訴人から C’に譲渡されたこと、同日付けで、その旨、特許業務法人京都国際特許事務2所の弁理士から特許庁に届出がされたが、その代理人弁理士から D’弁理士に対しては連絡がなく、D’弁理士はこれには関わっていない旨の連絡を受けた(甲5、30)。
エ C’は、平成30年4月6日、本件出願についての審査請求をした(乙5 1)」。
? 原判決3頁4行目の「エ」を「オ」と改める。
? 原判決3頁6行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
「カ E は、令和3年に至り、B’を控訴人の取締役に選任する旨の平成27年7月の臨時株主総会決議が存在しないこと等の確認を求める訴えを10 東京地方裁判所に提起した。
キ 被控訴人の担当者であった F(以下「F’」という。)は、令和3年5月頃に本件特許に関する調査を行い(証人 F’〔原審における証人 F’の尋問調書添付の反訳書5頁〕、被控訴人の完全子会社である株式会社ライ)ツフォル(以下、
「ライツフォル」といい、ライツフォルと被控訴人を併15 せて「被控訴人ら」という。)は、同年9月14日、被請求人を C’として、本件特許について、無効審判請求(無効2021−800080)を行い、同年10月8日、その旨予告登録がされた(甲4、乙6)」。
? 原判決3頁7行目の「オ」を「ク」と、同行目の「2月1日」を「1月28日」とそれぞれ改める。
20 ? 原判決3頁7行目ないし9行目の「被告の完全子会社である株式会社ライツフォル(以下、
『ライツフォル』といい、ライツフォルと被告を併せて『被告ら』という。」を「ライツフォル」と、同頁12行目の「締結した」を「締)結し、それぞれ移転登録を経た」とそれぞれ改める。
? 原判決3頁14行目の「カ」を「ケ」と改める。
25 ? 原判決4頁12行目の「特許法」を「同法」と改める。
? 原判決7頁16行目の「に係る」を削る。
3? 原判決10頁9行目ないし10行目の「F(以下『F’』という。」を「F’) 」と改める。
? 原判決11頁10行目の「不審事由」の次に「(以下『控訴人の主張する不審事由』ということがある。」を加える。
)5 ? 原判決11頁24行目の「前記2」を「前記1」と改める。
3 当審における控訴人の主な補充主張? 民法94条2項の類推適用についての原判決の判断の誤り原判決は、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用するこ10 とは可能と解されるとしたが、誤りである。
特許法74条1項及び79条の2は、平成23年の特許法改正により改正又は導入された条文であるところ、同改正における議論(甲9)に基づけば、
冒認出願には無効理由があるため、冒認出願に係る特許権が無効となった場合には、当該特許権に係る第三者の権利は消滅すべきものとして扱われてい15 る以上、第三者は、冒認者から取得していた権利を失うこととするのが適当であるが、とはいえ、第三者にも一定の保護が必要であることから、特許法79条の2第1項の限度で保護することにしたものと解される。
現に、平成23年の特許法改正の立法検討時に存在した民法94条2項類推適用説に対して、登録名義を善意で信頼して転得しただけで、発明のため20 に知力、労力、資金をつぎ込んだ真の権利者の利益を犠牲にして特許権や実施権を第三者に取得させるのは、真の権利者の帰責性を要件とするにしても、
利益バランスとして、第三者の保護に厚すぎると解する学説もある(甲16)。
また、そもそも民法94条2項類推適用の法理は、主として不動産取引に関して示されてきた判例法理であるところ、不動産取引と特許権譲渡の取引25 とは、@不動産の所有権については、所有権そのものを無効にする制度がないのに対し、特許権については、これを無効にする制度がある点、A不動産4については、不動産そのものが有体物であるため、真の権利者と第三者とが同じ態様での利用を両立し得ないのに対し、特許権については、無体物を対象とした権利であるため、真の権利者に当該特許権に係る発明の実施と第三者による当該特許権に係る発明の実施とを両立させることができる点、にお5 いて異なる。
すなわち、上記@の観点から、無効になり得る権利であるから第三者に権利を取得させる態様での保護まで認める必要性がなく、上記Aの観点から、
第三者には特許権を取得させることなく通常実施権を認めることにより第三者の保護を十分に図れる。そのため、不動産取引に関して示されてきた判例10 法理を、特許権譲渡の取引にまで及ぼす必要性がない。
そうすると、特許法は、第三者が冒認者から取得していた特許権をそのまま取得できる態様での保護を想定していないから、このような保護の余地を認める民法94条2項類推適用の可能性は排除されていると解するほかない。
仮に民法94条2項類推適用の可能性を認めて、しかも、真の権利者であ15 る控訴人は特許権を失い、第三者である被控訴人が特許権を取得するという結論になった場合には、真の権利者である控訴人が特許権に係る発明を実施しようとすると、真の権利者である控訴人は、特許権を取得した第三者である被控訴人から権利行使をされ得る地位に陥るため、これを回避するために、
当該特許を無効審判請求により無効にすることを余儀なくされる。そして、
20 特許が無効になった場合には、特許権は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法125条冒認者から特許権を取得した第三者である被控訴人、
が特許権を失うのみならず、真の権利者も特許権を失うことになってしまうが、このような結論は、真の権利者の保護を図ろうとした特許法74条及び発明の保護等を図ることにより発明を奨励し産業の発達に寄与しようとする25 同法1条の趣旨にもとるといえるから、このような可能性を認める民法94条2項類推適用の可能性は、やはり排除されていると解すべきである。
5以上のとおり、特許法改正の経緯並びに特許法74条、同法79条の2
同法123条1項6号及び同法1条を見れば、同法79条の2第1項が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つと解すべきであり、原判決の判断は誤りである。
5 ? 原判決の事実認定の誤りア 控訴人がライツフォルに対する特許権移転登録手続請求の訴えを提起した事実及び被控訴人に対して処分禁止の仮処分の申立てを行った事実を認定していないこと原判決は、令和3年8月5日以降の控訴人の対応を、帰責性を肯定する10 一つの事情として考慮しているところ、原判決が控訴人の対応として認定した事実は、「原告は、令和4年7月30日、本件訴訟を提起した」(原判決3頁)のみである。その上で、原判決は、あたかも控訴人が何もせず漫然と放置していたかのような認定をしているが、実際には、令和4年5月13日にライツフォルに対する特許権移転登録手続請求の訴え(東京地方15 裁判所令和4年(ワ)第11479号)を提起している(甲36。なお、
当該訴えは、令和4年6月17日に取り下げている(甲37) )。。また、控訴人は、本件訴訟提起に先立ち、令和4年7月11日に、被控訴人に対する処分禁止の仮処分の申立て(東京地方裁判所令和4年(ヨ)第22093号)を行っている(甲38)。上記事実は、帰責性の判断に際し、控訴人20 が適切に対応していたことに関する重要な事実であるが、認定されていない。したがって、原判決は、当該事実を認定していない点で誤りがある。
イ 被控訴人らは控訴人の商業登記簿を確認していたと認定すべきであること原判決は、証拠(原審における証人 F’)及び弁論の全趣旨によれば、被25 控訴人らは、控訴人の商業登記簿を確認していなかったものと認められると認定した。
6しかし、被控訴人は、控訴人について、中小企業であると認識しており(乙9〔F’の陳述書〕 3頁) その根拠として、
、 、 くまなくではないものの、
控訴人について一応調査した結果であると述べている(原審における証人F’の尋問調書添付の反訳書13頁)。この点、中小企業かどうかを判断す5 る情報としては、業種に応じた資本金の額又は従業員の数を基準とするのが一般的であるところ(甲40) 控訴人は自社ホームページを有しておら、
ず、インターネット上では、法人番号や本社住所といった情報しか得ることができず、資本金の額や従業員の数といった情報は得ることができないから、インターネット上では、中小企業かどうかを判断可能な情報は取得10 できない(例えば、甲33〔インターネット上の控訴人の企業情報〕。そ)うすると、被控訴人らが控訴人を中小企業と判断するためには、業種(目的)や資本金の額が掲載されている登記情報を取得して判断する以外にない。また、一般論としても、会社を調査する場合、容易かつ非常に低コストで取得可能な登記情報を取得しないことはおよそ考えにくい。
15 したがって、被控訴人が控訴人の登記情報を取得していることは、証拠(原審における証人 F’の尋問調書添付の反訳書13頁及び甲33)に基づき優に認定することが可能である。逆に、原判決のように認定すると、
被控訴人らがどのような情報に基づき控訴人を中小企業だと認識していたのか合理的な説明がつかないため、原判決の認定には無理がある。よっ20 て、原判決の上記認定は誤りであり、被控訴人らは、控訴人の商業登記簿を確認していたと認定すべきである。
ウ 被控訴人らが特許事務所の弁理士から控訴人の主張する不審事由に関する報告を受けていないとは認定できないこと原判決は、F’は、本件譲渡契約Aを締結することについて、特許事務所25 に所属する弁理士から控訴人の主張する不審事由があるとの報告は受けていない旨の F’証人の証言に基づき、同事実を認定する(原判決22頁)。
7当該事実認定が弁論主義に違反する点については、後記?のとおりであるが、この点を措くとしても、被控訴人の従業員である F’の自社に有利な内容の発言について、これを裏付ける客観的証拠がないにもかかわらず、
その発言に沿う事実を安易に認定すべきではない。本件では、ライツフォ5 ルの提起した無効審判の請求書(乙6)には、形式に不備があり、かつ、
ライツフォルが不備を補正せず、その副本が被請求人である C’に送達されていないところ、F’は、当該事実について、特許事務所から報告を受けたかどうかについて記憶にない旨発言している(原審における証人 F’の尋問調書添付の反訳書10頁)。無効審判請求の依頼を受けた代理人であ10 る弁理士が、依頼者であるライツフォルに対して、手続の経過を報告するのは当然であり、特に、形式に不備があり副本が送達されていないといった重要な事実を報告しないことはおよそあり得ない。
また、無効審判請求書は、その大部分が黒塗りして提出されているところ、これは、副本が被請求人である C’に送達されておらず、公開されて15 いないからである。このように被控訴人は無効審判請求書を黒塗りにして提出している以上、F’は、無効審判請求書の副本が被請求人である C’に送達されていなかった事実を認識していたはずである。そうであるとすれば、無効審判請求書の副本に関する原審における F’の証言は事実に反するか又は F’は重要な事実でさえ記憶にないかのいずれかである。
20 F’そうすると、 は、このような重要な事実の報告についてさえ事実に反する証言をしたか又は記憶がないのであるから、本件譲渡契約Aを締結することについて、特許事務所に所属する弁理士から控訴人の主張する不審事由があるとの報告を受けたかどうかについても F’が事実に反する証言をしたか又は F’の記憶にない可能性が高く、当該報告を受けていない旨25 の F’の証言はその信用性が著しく低い。そうであるにもかかわらず、F’の証言のみを根拠として上記事実を認定した原判決の認定は誤りである。
8? 原判決の弁論主義違反ア 原判決は、虚偽の外観作出についての「帰責性」について、@「B’が本件譲渡契約@を締結し、C’が本件特許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告自身の内部事情や行為にその一因があ5 るといえる」こと、A「原告の真の代表者とされる E が、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年までの約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行って」いないこと、B「令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからも、C’からライ10 ツフォルに本件特許権が譲渡されるまでの約半年の間、C’に対して何らの措置もとっていない」ことといった事実を認定した上で、控訴人には、
「虚偽の外観作出について、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性が認められる」と判断した(原判決19頁11行目ないし23行目)。
15 また、原判決は、上記Aに関し、C「令和2年3月19日に本件損害賠償訴訟の控訴が棄却された後も、令和3年に至るまで、本件各株主総会決議の不存在確認を求める訴えを提起しておらず、弁論の全趣旨によれば、
その他の訴訟又は非訟の手続や C’に対する働きかけといった措置もとっていない」、上記Bに関し、D「令和3年7月20日に本件各株主総会決議20 不存在確認の訴えで勝訴判決を得て、同判決が同年8月5日に確定した後も、本件特許権が C’からライツフォルに譲渡される令和4年2月1日までの間に、C’に対する特許権移転登録手続請求や譲渡禁止の仮処分の申立てといった法的手段のみならず、原告に本件特許の登録を戻すことや他者にその登録を移転しないことを求める連絡等の措置もとらなかった」と25 も認定している(原判決18頁25行目ないし19頁10行目)。
被控訴人は、原審において、原判決が認定した上記A、C及びDの事実9を主張していない(控訴人もこれらの事実を主張していない。。被控訴人)は、Cに関しては、「E は、特許を受ける権利が原告と何ら関係のない C’に譲渡されていることを認識していたにもかかわらず、その時点における同権利に係る出願手続の代理人が所属する京都国際特許事務所に何ら事5 情を聴き、調査するなどのこともしておらず、その経緯の確認や C’に対して連絡しようとした形跡すらみられない」との主張(被告準備書面(6)6頁)や「平成27年7月15日付け、同月30日付け臨時株主総会決議の不存在を請求するなど」(原審における被告準備書面?7頁〜8頁)として、本件株主総会決議不存在確認の訴えには言及するものの、
「その他の訴10 訟又は非訟の手続や C’に対する働きかけといった措置もとっていない」などとは主張していない。また、被控訴人は、Dに関する具体的事実としては、「処分禁止の仮処分の申立てや移転登録手続請求訴訟の提起といった是正措置を何ら行っていない」といった「法的手続」に関する主張しか行っておらず(原審における被告準備書面?9頁)、原判決が認定する「原15 告に本件特許の登録を戻すことや他者にその登録を移転しないことを求める連絡等の措置もとらなかった」(原判決19頁8行目ないし10行目)といった主張は何ら行っていない。しかるに、原判決は、上記A、Bの判断に際し、C及びDの事実を認定し、これらを判決の基礎とした上で、控訴人に帰責性があった旨判断する。したがって、原判決が当事者の主張し20 ていない上記C及びDの事実を認定して判決の基礎としたことは、弁論主義に違反する。
イ 原判決は、被控訴人らの善意無過失について、@「F’は、この本件譲渡契約Aを締結することについて、」特許事務所に属する「弁理士から(控訴人の主張する)不審事由に関する報告は受けていない」こと、A「本件譲25 渡契約Aが締結された令和4年2月1日時点で、本件譲渡契約@の締結から既に6年5か月以上が経過していたにもかかわらず、同時点で同契約の10有効性が明示的に争われていたわけではなかったこと」といった事実を認定した上で、被控訴人らは、
「本件譲渡契約Aの締結時点で、C’が本件発明について特許を受ける権利の譲渡を受けておらず、本件特許権を有していなかったことについて、善意無過失であったと認めるのが相当である」5 と判断した(原判決22頁16行目ないし19行目)。また、原判決は、控訴人の原審での主張を排斥する中で、 「C’B が特許権者であるとの外観が相当長期間維持されていたこと」を踏まえて、被控訴人らは善意無過失であった旨判断した(原判決24頁)。被控訴人は、原審において、原判決が認定した上記@からBの事実を主張していない(控訴人もこれらの事実を10 主張していない。。しかるに、原判決は、上記@からBの事実を認定し、
)これらを判決の基礎とした上で、被控訴人らは、善意無過失であったと認めるのが相当である旨判断しており、原判決が当事者の主張していない上記@からBの事実を認定して判決の基礎としたことは、弁論主義に違反する。
15 ? 本件において民法94条2項類推適用を認めた判断の誤りア 虚偽の外観の作出は、控訴人自身の内部事情や行為にその一因があるとの原判決の判断の誤りについて原判決は、 が作成した契約書により、
「E 原告株式を G から B’及び B’からトータルライフファクトリーの順で譲渡する旨の契約が締結され、B’20 は、そのような契約関係も利用して、本件株主総会決議@によって原告の代表取締役に就任したものである。(原判決17頁17行目ないし20行」目)「B’は、平成27年7月15日に臨時株主総会を開催し、同株主総会、
では、自らを原告の代表取締役に選任する旨の本件株主総会決議@がされ、
同年8月18日には、B’と C’との間で、本件発明について特許を受ける25 権利を C’に譲渡する旨の本件譲渡契約@が締結されたものである。(原」判決17頁21行目ないし25行目)と認定したうえで、
「B’による本件11譲渡契約@の締結は、原告の株主であった G や原告の真の代表者とされるE の行動に起因するものであって、C’が本件特許権を有しているとの虚偽の外観作出については、原告自身の内部的な事情や行為が大きく関わっていたものというべき」と判断している(原判決17頁26行目ないし15 8頁3行目)。つまり、原判決は、本件譲渡契約@締結の原因は、G と E において、控訴人の株式を G から B’、B’からトータルライフファクトリーの順で譲渡する旨の契約を締結したこと(B’は当該契約関係を利用して本件株主総会決議@によって代表取締役に就任した)と判断しているわけである。
10 しかし、当該株式譲渡方法をとったことと本件株主総会決議@、及び本件譲渡契約@の締結は無関係である。
原判決が、上記契約関係を本件株主総会決議@にどう利用したと考えているのかは不明であるが、原判決も認定するとおり、控訴人の株式は G から B’、B’からトータルライフファクトリーに譲渡されているのであり、
15 B’は自らが株主ではないことを当然に認識したうえで、本件株主総会決議@に関する虚偽の書類を作成・提出して不実の登記をしているのである。
さらにいえば、株主総会は、取締役が招集権者であるところ(会社法296条3項) 本件控訴人の平成27年7月15日時点の取締役である E、 (甲35)が臨時株主総会を招集し、これを開催した事実は当然ない。
20 そうであるとすると、本件の B’は、E による株主総会招集の事実もなく、また、自身が株主でもないことを認識していたにもかかわらず、勝手に虚偽の書類を作成して手続をしているのであり、何ら上記の株式譲渡方法を利用して本件株主総会決議@を開いたことにしたわけでもない。
そして、原審でも主張したとおり、控訴人の実印等は、平成27年6月25 11日の B’の退任後、E が管理しており、それ以降、B’に預けていたという事情もない。これは、平成27年4月22日作成の甲3と、同年8月1218日作成の甲6の印影が異なることからも明らかである。
したがって、本件譲渡契約@の締結は、控訴人の株主でも取締役でもない、控訴人と関係のない者が、勝手に虚偽の書類(本件株主総会決議@に関する書類)を作成・提出して不実の登記をし、そのうえでなされたもの5 に過ぎない。そして、その虚偽の書類の作成に関しても、上記のとおり Eが B’に控訴人の実印等を預けていた事実もないのであるから、真の代表者である E らの行動に起因するものでもない。
仮に、原判決の判断の趣旨が、E らが B’を介して株式を譲渡したことや B’を一度代表取締役にしたこと自体が、本件株主総会決議@の原因で10 あるという判断であるとしても、それらの間には条件関係程度のものしか存在しないことはいうまでもなく、当該条件関係の存在をもって控訴人(真の代表者である E)の帰責性を肯定するのが相当でないことは明らかである。
以上より、「B’が本件譲渡契約@を締結し、C’が本件特許に係る特許15 権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告自身の内部事情や行為にその一因があるといえる」とする原判決の判断は明らかな誤りである。
イ E が本件各株主総会決議の不存在確認を訴えた時期は当時の状況に照らして適切であったこと20 原判決は、「原告の真の代表者とされる E が、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年までの約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行って」いないと認定し(原判決19頁13行目ないし17行目)、帰責性を肯定する一事情としている。
25 上記?のとおり、かかる事実認定は弁論主義違反であるが、それを措くとしても、控訴人の真の代表者である E が令和3年までの間に本件株主総13会決議の不存在確認の訴え等を行っていないことをもって、「虚偽の外観作出について、自らの外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視できるほど重い帰責性」があると評価するのは誤った判断である。
5 原判決は、E がもっと早く本件各株主総会決議の不存在確認の訴えを起こすべきであり、E がこれを起こさなかったから「放置」と変わらないという判断をしているものと考えられるが、結果論かつ現実に即さない判断といわざるを得ない。
まず、E が虚偽の外観が存在することを認識した平成28年11月2910 日の時点では、E を被告とする本件損害賠償訴訟が係属しており、本件各株主総会決議の不存在確認の訴えを提起すると、本件損害賠償訴訟で E が敗訴する可能性を生じさせるため、その時点で E が本件各株主総会決議の不存在確認の訴えを提起することは困難であった。
原判決も触れているとおり、E は、本件損害賠償訴訟において、自身を15 解任、及び B’を取締役等に選任するなどした本件株主総会決議@の有効性を争っていたが、E 側から株主総会決議不存在の主張を行い、裁判所の整理を経て、実質的に訴訟能力(株主総会決議が不存在か否か)が争いとなったのは平成30年11月9日(H 弁護士側からの反論という意味では、
平成31年1月25日)以降である(甲41、42)。
20 原審でも主張したとおり、この時期になったのは、E を被告とする本件損害賠償訴訟において、E としては、H 弁護士側から株主は誰かという点を先に主張させて明確にさせてからでないと、 弁護士側から株主は E がH想定する者とは別な者であると主張され、E が敗訴する可能性があったからである。
25 E B’すなわち、 が本件損害賠償訴訟において提出した証拠は、 とトータルライフファクトリーとの間で締結した株式譲渡契約書であるが、これを14E 側から先行して提出して上記主張を行った場合、控訴人は株券不発行会B’社であるため、 らに株主名簿を作出され、別な者が控訴人の株主である等と主張される可能性、より具体的には、トータルライフファクトリーが真の株主であるが、B’から別な者(仮にAとする)に対する株式の譲渡契5 約書及びAを株主とする株主名簿を不正に作出され H 弁護士側から証拠として提出された場合には、対抗要件を具備していないように見えるトータルライフファクトリーは株主ではない(株主総会決議が不存在ではない)と判断される可能性が大いにあった。そのため、E としては、H 弁護士側からの言及を待ってから、株主総会決議の不存在の主張(本案前の主張)10 を行うことが損害賠償請求訴訟で敗訴しないために必要不可欠であり、現に E は H 弁護士側からの言及を待ってから当該主張を行ったのである(甲43、44)。
そして、@当該主張に対する H 弁護士側の答弁が出た時点で、本件損害賠償訴訟は既に2年以上経過しており、仮にその時点で別途株主総会決議15 不存在の訴えを起こしたとすれば、併合審理等の関係で、さらに多大な時間を要すると考えられたこと、A代表清算人である H 弁護士は弁護士であり、当該訴訟で自身が代表清算人ではないことについての実質的な判断が出れば、協議による円滑な解決(資料の提供等も含む)も見込めたこと等から、E としては、H 弁護士側の答弁が出た時点で別途株主総会決議不存20 在の訴えを提起することなく、本件損害賠償訴訟を進めたのである。
このとおり、E は、当時の判断材料の中での採り得る選択肢の中から最善の選択をしてきたのであり、それを事後的にもっと早く本件各株主総会決議の不存在確認の訴えを起こせたはずだと非難するのは、現実を理解していない酷な判断であり、後知恵に他ならない。そして、そもそも、E が25 何もしていなかったのであればともかく、E は、当該訴訟内で、自身に控訴人を取り戻すべく、本件株主総会決議@の存在を争っているのであり、
15「放置」と評価するのは誤りである。
また、本件損害賠償訴訟は、令和2年3月19日に、東京高等裁判所にHて、 弁護士側の控訴が棄却されてその後確定しているところ、原判決は、
E はその後令和3年に至るまで、本件各株主総会決議の不存在確認を求め5 る訴えを提起していないと判断するが、原判決の当該判断もまた当時の状況を鑑みない後知恵に他ならない。
すなわち、本件損害賠償訴訟の判決が確定したのは、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた時期であり、その後緊急事態宣言等が発令される等があったため、当時は裁判所も含めて社会機能が不全に陥っており、通10 常の行動・対応が行える状況ではなかった。
その後、E は、H 弁護士に対して、早期の解決及び資料の収集を行うため幾度となく連絡を試みたが、新型コロナウイルス感染症による影響があったこともあり、なかなか連絡が取れず、令和2年12月3日に連絡が取れた際に、 弁護士が E に対して最終的に清算手続を進めるという話をしH15 たため(甲26)、令和3年に入り、E が株主総会決議不存在確認の訴えを提起したという経緯である。
この点、H 弁護士は弁護士であり、弁護士には信義誠実に職務に当たる義務があるのであるから(弁護士法2条、弁護士職務基本規程5条)、本件損害賠償訴訟の判決の理由中の判断で、本件各株主総会決議が不存在であ20 るため、自身が控訴人の清算人ではないとの判断が出されている状況下においては、H 弁護士による誠実な対応が合理的に期待できた。そのため、
E は H 弁護士に対して連絡をとるといった対応を行ったわけであるが、結果として、H 弁護士が当該義務等に反し誠実な対応をしなかったため、Eによる株主総会決議不存在確認の訴えが令和3年になったというだけで25 ある。
このとおり、E としては、当時の事情のもと考えられる最善の対応をし16ていたのであり、結果論で「放置」と非難されるのは妥当でない。そして、
E H繰り返しになるが、 は、 弁護士に対して連絡等を行っているのであり、
漫然と「放置」していたわけではないことは明らかである。
ウ 本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定した令和3年8月5日5 以降、E は C’との交渉に向けた準備を行っていたこと本件で、E は、裁判所から職権登記が完了した旨の連絡を受けた後、直ちに、履歴事項全部証明書(甲7、令和3年10月12日付け)、現在事項全部証明書(甲31、令和3年10月18日付け)を取得して登記の内容を確認し、同年10月21日、11月17日、令和4年1月6日に、H 弁10 護士に対し、本件特許権に関する資料も含め、清算手続に際して預かった資料一切の提供を求める連絡を行った(甲18)。
この点、原判決は、 弁護士は、本件損害賠償訴訟において、その訴え「Hを却下する判決が確定した後も、E からの資料の引渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにおいて、原告の代表清算人15 とされていた H 弁護士は、適法な呼出しを受けたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、このような H 弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士が E の資料の引渡請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。 と認定する」 (原判決20頁9行目ないし1620 行目)が、
「資料の引渡請求に応じることは望めない状況」と断ずるのは誤りである。
エ 本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定した令和3年8月5日時点で E が C’に対して法的な措置をとる緊急性が高いとはいえなかったこと25 また、原判決は、令和3年8月5日の段階で、
「本件譲渡契約@の締結から既に約6年が経過していたこと、C’は、E と認識はなく、B’と協力関17係にあったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定した段階で、C’に対して特許権移転登録手続請求等の法的な措置を速やかにとる必要性は高かった」と認定判断している(原判決20頁)。
5 本件において控訴人は何も行っていないわけではなく、H 弁護士への対応を行った後に法的措置もとっているところ、原判決は、当該対応を非難していることからすれば、この「速やかに」とは「直ちに」を意味しているものと解される。
しかしながら、本件において本件各株主総会決議の不存在を認める判決10 が確定した段階で、控訴人が「直ちに」C’に対して法的措置をとるほどの緊急性が高かったといえる事情は存在しない。
原判決は、本件譲渡契約@の締結から既に約6年が経過していたことを摘示するが、むしろ約6年にわたって特に他に譲渡等することなく C’が名義人である状態が継続していたのであり、これは緊急性が高かったとい15 える事情ではない。
第3 当裁判所の判断1 当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の20 「事実及び理由」 第4の1中、 (原判決12頁19行目ないし24頁25行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
? 原判決13頁14行目の「場合のほか、」の次に「虚偽の外観の存在を知りながら放置するなど、」を、同頁26行目の「民法の」の次に「法律行為の章に置かれた」をそれぞれ加え、同行目の「を上書きするような性格」を「の25 適用を排除する趣旨」と改める。
? 原判決14頁17行目の「代表者」の次に「〔E〕」を加え、同頁22行目の18「6月頃、」を「6月9日に」と改め、同行目の末尾の次に「E は、B’が代表取締役に就任した後も、控訴人の業務を行っていた(甲26)」。 を加える。
? 原判決15頁1行目の「締結された」を「締結されたものとされた(E は、
原審における控訴人代表者本人尋問(同調書添付反訳書12頁)において、
5 これらの譲渡契約締結について、当日同じタイミングでやっていますので。
『で、G さんと B’さんは私を介して会っていますので。』と供述する。)。
なお、控訴人においては、株式の譲渡について、株主総会の承認を要する旨の譲渡制限がされている」と改め、同頁2行目の「甲26」を「1、7、26、31、35」と改める。
10 原判決15頁3行目冒頭から6行目末尾までを次のとおり改める。
「d E 及び I は、平成26年11月16日、本件発明について特許を受ける権利を控訴人に譲渡し、同月23日、控訴人のウェブサイトにおいて、
本件出願に係る発明の実施品であるヘアーアイロンを公開した(甲3)。
控訴人は、平成27年4月6日、本件出願を行った。同月22日付けで、
15 B’は、前記実施品の公開につき、発明の新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(甲3)を作成して、特許庁に提出した。なお、
B’は、控訴人の資金を私的に流用するなどの不正が発覚したとして、Eから、同年6月11日に取締役及び代表取締役を辞任させられるに至るまで、控訴人代表者としての地位を有していたが、E は、それまでも控20 訴人の業務を行っていたことから、 B’同日、 に代わって控訴人の取締役及び代表取締役に就任し、それらについて同月26日に登記を経た。なお、E は、同月11日の E の取締役就任に関する控訴人の株主総会は、
同日18時に開かれたとし、既に B’からトータルライフファクトリーへと株式が譲渡され、その後トータルライフファクトリーが株式を譲渡25 した事実もないから、トータルライフファクトリーが出席して行われた株主総会決議は適法であるとしている。
(甲3ないし5、 26、
7、 35、
1944、控訴人代表者)E は、控訴人の代表取締役に就任したものの、その後すぐに、控訴人の銀行口座が使用できなくなり、取引先から支払がされていない旨の連絡があるなど、E は、控訴人の業務を問題なく遂行することができなか5 ったが、これらは B’の行為に起因するものであった(甲26、控訴人代表者)」。
原判決15頁15行目の末尾の次を改行し「E は、その後も控訴人の代表B’者印の管理を続け、 に渡したことはないとする。 甲26、
( 控訴人代表者)」を、同頁18行目の末尾の次に「C’は、同日、特許業務法人京都国際特許事10 務所の J 弁理士を通じ、特許庁に、本件発明に係る特許出願について、出願人名義変更届を提出した(甲28)」 同頁21行目の。 を、 「以下、 の次に 『本」 「件解散等決議』といい、」をそれぞれ加える。
? 原判決16頁1行目の「という。 の次に」 「東京地方裁判所平成28年(ワ)第27233号」を加え、同頁2行目の「訴訟においては、」から「問題とな15 った」までを「訴訟において、E は、本件各株主総会決議の有効性を問題とした」と改める。
原判決16頁4行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
「i 本件出願に係る特許は、平成28年11月24日に特開2016−195706号として出願公開がされたところ、E は、遅くとも同月2920 日までには、本件発明について特許を受ける権利が C’に譲渡されていることを認識し、本件特許について控訴人の出願代理人を務めていた D’弁理士に、『別件ですが、添付のPDFの件 D’さんの事務所はかかわりなくなったのでしょうか。代理人?名が違いました。こちらの件の対策をしていくつもりですので気になってご確認をさせていただきました。』25 などとして、その出願状況を確認したところ、D’弁理士は、E に対し、
本件出願の出願人が控訴人から C’に変更され、それに伴い、出願代理20人が特許業務法人京都国際特許事務所に変更されたことを報告した(甲5、30、控訴人代表者)。
この間、本件損害賠償訴訟において、E は、自身を控訴人の取締役から解任する本件株主総会@の時点における株主が誰か分からないとして、
5 平成26年6月9日以降の控訴人の株主についての釈明を求めた。そして、H 弁護士から同月11日に、G から控訴人の株式の譲渡を受けて以降、株主は B’である旨の回答を得た後、同訴訟における平成30年5月31日付け同事件被告 E の準備書面5に至って初めて、 は、
E 上記 B’が G から株式譲渡を受けたのと同日の、平成26年6月11日付けの B’10 からトータルライフファクトリーへの株式譲渡契約書及びこれに伴い交付を受けたとする B’の印鑑証明書(同証明書の裏に B’自ら『平成26年6月11日締結の株式譲渡契約書に付随する』と記載したとするもの)をそれぞれ証拠として提出するとともに、平成27年6月11日18時に開かれ、トータルライフファクトリーが出席した控訴人の臨時株15 主総会の決議に基づき、E は控訴人の取締役に就任したところ、B’から譲渡を受けた後、トータルライフファクトリーが株式を譲渡した事実はないから、同年7月15日に行われた本件株主総会決議@は、株主であるトータルライフファクトリーが出席し決議を行った事実が存せず不存在である旨を主張し、更に、平成30年11月9日付け同事件被告 E の20 答弁書(本案前の答弁)において、平成28年3月1日の本件解散等決議には、控訴人の株主であるトータルライフファクトリーは出席しておらず、同決議は不存在である旨を主張した。(甲41ないし44、控訴人代表者)」原判決16頁14行目の「同月頃には、上記の経過を」を「令和元年5月25 頃には、前記審査請求から特許査定に至る経過を」と、同頁23行目の「原告に対し」 「代表者を代表清算人である H 弁護士として、
を 控訴人に対し、」21とそれぞれ改める。
? 原判決17頁8行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
「n C’令和4年1月28日、 とライツフォルとの間で、本件譲渡契約Aが締結され、同年2月1日、これに基づき特定承継による本権の移転の登5 録がされた。同年4月8日、ライツフォルと被控訴人との間で、本件譲渡契約Bが締結され、同日、これに基づき特定承継による本権の移転の登録がされた。(甲4、乙5、10、弁論の全趣旨)」。
о 令和4年5月13日、控訴人は、ライツフォルに対し、本件特許の移転登録を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(甲36)が、同年610 月17日付けで、訴えを取り下げた(甲37)。
令和4年7月31日、控訴人は、被控訴人を債務者として本件特許権について処分禁止の仮処分命令の申立てをし(甲38)、同年8月1日、
その旨の仮処分決定を得た(甲39)」。
原判決17頁14行目の「少なくとも」及び「頃」を削り、同頁19行目15 の「締結され」の次に「たとし」を加える。
? 原判決18頁4行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
「(ウ) また、前記(ア)e及びhのとおり、E は、平成27年7月頃には、同人B’を控訴人の取締役から解任し、 を控訴人の取締役及び代表取締役に、
C’を控訴人の取締役に、それぞれ就任させる旨の登記がされていたこ20 とを認識し、前記(ア)dのとおり、それまでにも控訴人の銀行口座が使用できなくなるなど、 の代表者としての行為に起因して、
B’ 控訴人の運営に大きな障害が発生していることについても認識し、控訴人代表者印の管理も続けていた。それにもかかわらず、E が、その頃、控訴人の役員及び運営から B’を排除して自身を控訴人の役員に戻し、面識もなく適25 切な手続を経て取締役に選任されたものでもない C’を役員から排除することによって控訴人の運営を正常化するための行動をとったことを示22す証拠は、何ら提出されておらず、そのための努力をした形跡も窺われない。本件損害賠償訴訟においても、E は、B’及び C’を取締役等に選任するなどした本件各株主総会決議の有効性を問題としていたところ、
前記(ア)c及びiのとおり、E は、G から B’、B’からトータルライフフ5 ァクトリーへと同日付けでそれぞれ控訴人の株式の譲渡に係る契約書を作成し、B’の印鑑証明書の交付も受けており、G と B’は E を介して会ったというのであるから、そのような事実を主張した上で上記の株式譲渡に係る契約書及び B’の印鑑証明書を証拠として提出することが可能であり、その後にトータルライフファクトリーが控訴人の株式の譲渡10 を行っていない事実についても主張立証可能だったものである。そうすると、E は、自ら本件各株主総会決議の有効性を争うための実効性のある手段を有していたものであって、H 弁護士の側からの釈明を待たなければ適切な主張立証を行うことができなかったものと認めることはできない。 が、 及び C’E B’ の控訴人の取締役等就任の事実を知ってから(前15 記(ア)e)相当の期間が経過した本件損害賠償訴訟においても、自身が代表取締役であった当時の控訴人の株主について、H 弁護士の側からの釈明を待たなければ主張立証を行うことができないとする上記の E の態度は、
むしろ、B’及び C’の取締役等就任の事実や引き続き行われた業務の適法性を争う意向に乏しかったことを示すものと評価せざるを得ない。そ20 うであるとすると、本件損害賠償訴訟における H 弁護士の訴訟態度が虚偽の外観除去の障害になったとみることはできない。」原判決18頁10行目の「そして」を「一方」と改め、同頁15行目の末尾の次に「しかし、発明者の一人であり、実質的に控訴人の代表者であるとの認識を持つ E において、C’に特許を受ける権利承継された後の本件出25 願につき、出願人名義を適切に変更するための手続をすることを具体的に検討した形跡もない。また、出願の公開がされたのみで審査請求もされず公知23技術とされてしまうおそれや、あるいは審査経過に発明者が関与できないことで拒絶理由通知等に適切に対応できず権利化されないことへの危惧などに対し、どのように対応するか、権利化された後に権利が適切に維持されるか否か等について、具体的に検討したことを示す証拠もない。」を加え、同頁15 9行目の「ものである。」を、
「にもかかわらず、面識もなく、B’と協力関係にある C’から、更なる出願人名義の変更権利移転がされる事態に対し、
関心を払ったことを示す証拠もない。」と改め、同頁26行目の「本件損害賠償請求訴訟」を「本件損害賠償訴訟」と改める。
? 原判決19頁11行目冒頭から20行目末尾までを次のとおり改める。
10 「(オ) 以上のように、そもそも、B’が本件譲渡契約@を締結し、C’が本件特許に係る特許を受ける権利を有しあるいは特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、控訴人自身の内部事情や行為にその一因があるといえる。その上、控訴人の真の代表者とされる E は、(a)平成27年7月に B’が控訴人の代表取締役に、C’が取締役にそれぞれ就任15 し、控訴人の運営が混乱に陥っていることを認識し、(b)遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽の外観が存在していることを認識し、(c)これらが、平成27年6月以降の控訴人における B’の問題のある行為に起因していることも認識していたにもかかわらず、本件出願に係る特許について、出願人ないし特許権者の名義を適正に戻すための20 方策をとることなく、令和3年までの約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え提起等を行っておらず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからも、 からラC’イツフォルに本件特許権が譲渡されるまでの約半年の間、 に対して何C’らの措置もとっていないのである。」25 ? 原判決20頁4行目の「しかしながら、」の次に「B’及び C’に控訴人を乗っ取られたとしながら、その一方で、 が本件特許権を譲渡することは考C’24え難いとするのは根拠を伴わない主張であるほか、」を加え、同頁9行目から10行目の「本件損害賠償請求訴訟」を「本件損害賠償訴訟」と改める。
? 原判決21頁2行目冒頭から11行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかしながら、そもそも、 が控訴人を不正に乗っ取った当事者であるC’5 と考えるのであれば、可及的速やかに C’を控訴人の役員から排除するとともに、 が乗っ取ったとする具体的な内容を確定して、
C’ 早期にそれを是正するのが当然の対応であると考えられるところ、E がそうした対応をとったとする証拠は提出されておらず、そのような対応をしたことを窺わせる事情も存しない。E が C’に対して接触した事実がない以上、E からの10 働きかけに対して C’がどのような態度に出るのかについては、それを示C’す兆候もなく、 又はその代理人弁理士に対する働きかけが、虚偽の外観を取り除くことにつながらないとか、逆効果となるといった結末に至るとするのは根拠を欠くものというほかない。むしろ、前記のとおり、E は、
本件出願について、出願人名義を戻すことはおろか、それが適切に権利化15 されるか等について、必要な関心を払ってきたとは認められないものであって、E の C’に対する前記対応は、そうした E の態度に基づくものということができる。さらに、C’やその代理人弁理士が E からの働きかけに応じないということであれば、それは本件特許権の帰属について、 と EC’との間で争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、
20 E としては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき状況にあったものといえる。」? 原判決22頁3行目の「締結された」の次に「。同契約の7条2項には、
ライツフォルの提起した無効審判請求事件(無効2021−800080)の請求書の記載内容などを秘密とする旨の秘密保持条項が置かれた」を加え、
25 同頁11行目の「不審事由」を「控訴人の主張する不審事由」と改める。
原判決22頁13行目冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。
25「 このような事情に加え、本件譲渡契約Aが締結された令和4年2月1日時点で、出願公開から5年以上、本件譲渡契約@の締結から既に6年5か月以上が経過していたにもかかわらず、本件譲渡契約@の有効性が明示的に争われていたわけではなかったことも併せ考慮すると、被控訴人らは、
5 C’本件譲渡契約Aの締結時点で、 が控訴人内部における適切な手続を経て本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けていなかったことについて、
善意無過失であったと認めるのが相当である。」原判決22頁24行目の「しかしながら、」の次に「インターネット上の企業情報に控訴人の詳細な情報が掲載されていないこと、及び F’が控訴人を10 中小企業と認識していたことから、F’が商業登記簿を確認していたと推認できるものではなく、」を加える。
? 原判決23頁3行目の「本件特許権を有していなかった」を「控訴人内部における適切な手続を経て本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けていなかった」と改める。
15 ? 原判決24頁13行目冒頭から20行目末尾までを次のとおり改める。
「 このような事情に加え、前記 で説示したとおり、本件譲渡契約@の有効性は、その締結から6年5か月以上の間、明示的に争われることはなく、
出願公開からも5年以上が経過していた上、C’が特許を受ける権利を有し、あるいは特許権者であるとの外観が相当長期間維持されていたことも20 踏まえると、控訴人の主張する不審事由は、それらを総合考慮したとしても、被控訴人らにおいて、本件譲渡契約@の有効性及び同契約に基づく特許庁の登録を疑い、B’が平成27年8月18日時点で控訴人の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務を基礎付けるものということはできない。」25 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断は、以下のとおりである。
? 控訴人は、前記第2の3?のとおり、原判決には民法94条2項の類推適26用についての判断の誤りがあると主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第4の1?のとおり、虚偽の外観作出に係る真の権利者の帰責性と、第三者の善意無過失という当事者間の具体的な関係性に基づき、民法の法律行為に係る一般原則である同法94条2項が5 類推適用されることを排除する理由は見当たらないというべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
? 控訴人は、前記第2の3?のとおり、原判決には事実認定の誤りがあると主張する。
しかし、控訴人がライツフォルないし被控訴人に対し提起した訴訟等につ10 き勘案しても控訴人の帰責性が認められることや、被控訴人らが控訴人の商業登記簿を確認したり控訴人の主張する不審事由の報告を受けていたものとは認められないこと等については、補正の上で引用した原判決第4の1?ア及びイのとおりであり、無効審判請求書を黒塗りにして証拠提出していることについては、ライツフォルと C’との間の本件譲渡契約Aに秘密保持条項15 が置かれていることにも鑑みると、直ちに副本送達の事実に関連して F’の証言の信用性に影響を与えるものとはいえないから、原判決に控訴人の主張する誤りは認められない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
? 控訴人は、前記第2の3?のとおり、原判決には弁論主義違反があると主20 張する。
しかし、原審において、被控訴人は、原審における令和5年8月25日付け被告準備書面?(同年9月4日の原審第5回弁論準備手続期日において陳述)において、控訴人が権利行使できるようになったと主張する令和3年9月30日時点で、本件特許権が C’の名義とされてから既に4年以上も経過25 していたのであるから、その後直ちに虚偽の外観を是正すべく冒認者の出願に対処することができたのであって、権利行使できるようになってから4か27月後に権利行使をしたからといって、この期間のみ「放置」したとすべきではない旨の主張をし、原審における令和6年1月31日付けの被告準備書面?(同年2月9日の原審第2回口頭弁論期日において陳述) Eにおいて、 は、
遅くとも平成28年10月頃には特許を受ける権利の名義が C’に変更され5 ていることを認識したにもかかわらず、特許を受ける権利及び本件特許権に関して、約5年半もの間、何らの措置や手続どころか事実確認すら行っておらず、特許を受ける権利の審査請求の状況も確認していないことを踏まえると、控訴人は本件特許権の成立について全く関心がなかった旨を主張している。
10 これらの被控訴人の主張を前提とすれば、控訴人の主張に係る事実等は、
原審の弁論に顕れていた事実か、証拠ないし間接事実の評価あるいは証拠に基づいて認定した事実の問題に過ぎず、弁論主義違反の問題は生じないというべきである。
控訴人は、原判決による被控訴人らの善意無過失の認定についても弁論主15 義違反を主張するが、これに関しても、控訴人の主張に係る事実等は、原審の弁論に顕れていた事実か、証拠ないし間接事実の評価あるいは証拠に基づいて認定した事実の問題に過ぎず、弁論主義違反の問題は生じないというべきであり、後記?のとおり、原判決が本件において民法94条2項の類推適用を認めた判断に誤りはない。
20 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
? 控訴人は、前記第2の3?のとおり、原判決が本件において民法94条2項の類推適用を認めた判断は誤りであると主張する。
しかし、補正の上で引用した原判決第4の1?ア(ア)で認定した事実に基づけば、同(イ)ないし(オ)のとおり、控訴人には虚偽の外観の作出等につき重い帰25 責性があると認められるから、本件において民法94条2項の類推適用を認めた判断に誤りはない。、
28したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 以上に認定判断したところは、当審における控訴人のその余の補充主張によっても左右されるものではない。
よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がな5 いから棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部10裁判長裁判官中 平 健15裁判官今 井 弘 晃20裁判官水 野 正 則29
事実及び理由
全容