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事件 |
令和
5年
(行ケ)
10100号
審決取消請求事件
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5 原告三菱化工機株式会社 同訴訟代理人弁護士 大谷郁夫 同 池田裕彦 10 同重冨貴光 同 岩崎翔太 同 長谷部陽平 同 山本朗大 同訴訟代理人弁理士 町田能章 15 同松島純也 被告 アルファ・ラバル・コーポレイト ・エービー 20 同訴訟代理人弁護士 松田政行 同 山崎貴啓 同 吉川武志 同 森本晃生 同訴訟代理人弁理士 阿部達彦 25 同黒田晋平 同 源田正宏 1主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 5 (注)本判決の本文中で用いる略語の定義は、次のとおりである。 本件審決 特許庁が無効2021−800064号事件について令和5年8 月1日にした審決 本件特許 被告を特許権者とする特許第5859463号 本件各発明 本件特許に係る発明の総称 10 各請求項に係る発明は、請求項の番号に対応して「本件発明1」 などという。後記のとおり、原告は本件審決が本件訂正を認めた 部分については争っておらず、本件各発明の内容は、いずれも本 件訂正後のものを指す。 本件明細書 本件特許に係る明細書及び図面(甲43、56) 15 本件訂正 被告の令和4年12月21日付け訂正請求書(甲54)及び令 和5年1月23日付け手続補正書(方式)(甲57)による訂正 甲1公報 特開平8−299754号公報(甲1) 甲1発明1 甲1公報に記載された「湿式排煙脱硫装置」に係る発明 甲1発明2 甲1公報に記載された「湿式排煙脱硫方法」に係る発明 20 EGR 排ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation) 第1 請求 本件審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は、特許無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、進歩 25 性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯等(争いがない) 2(1) 被告は、発明の名称を「排ガス及びガス・スクラバ流体浄化装置及び方法」 とする発明について、平成23年(2011年)2月24日を国際出願日と する特許出願をし(特願2012−554342。パリ条約による優先権主 張平成22年(2010年)2月25日欧州特許庁(EP)、同年7月2日 5 欧州特許庁(EP))、平成27年12月25日、本件特許に係る特許権の 設定登録を受けた。 (2) 本件特許に対し、平成28年8月9日、同月10日にそれぞれ特許異議の 申立てがされ(異議2016−700714号)、平成29年3月24日、 「特許第5859463号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正 10 特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕、〔11−12〕に ついて訂正することを認める。特許第5859463号の請求項1ないし8、 10ないし12に係る特許を維持する。特許第5859463号の請求項9 に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」との異議の決定がさ れ、同年4月3日に確定した。 15 (3) 原告は、令和3年7月29日、本件特許の請求項1から4まで、6から8 まで、11及び12に係る特許につき、無効審判を請求した(無効2021 −800064号)。 (4) 被告は、令和4年12月21日付け訂正請求書及び令和5年1月23日付 け手続補正書(方式)をもって、本件特許の特許請求の範囲及び明細書の訂 20 正を求める本件訂正を請求した。 (5) 特許庁は、同年8月1日、「特許第5859463号の明細書、特許請求 の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、 訂正後の請求項〔1〜8、10〕、〔11、12〕について訂正することを 認める。請求項1〜4、6、7、11、12についての本件審判の請求は成 25 り立たない。請求項8についての本件審判の請求を却下する。」との本件審 決をし、その謄本は、同月7日、原告に送達された。 3(6) 原告は、同年9月5日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、令 和6年6月10日、原告が具体的に取消しを求めるのは、本件審決中の「請 求項1〜4、6、7、11、12についての本件審判の請求は成り立たな い。」とした部分であることを明らかにした(なお、請求項8は本件訂正に 5 より削除されており、請求項5、9及び10は無効審判請求の対象に含まれ ていない。)。 2 本件訂正後の特許発明の内容 (1) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、別紙1「特許請求の範囲」のとお りである。なお、別紙1末尾の図面1から6までは、本件明細書において本 10 件各発明を例示する目的で記載された各実施例の図であり、特許請求の範囲 の記載中の括弧内の番号は、これらの図面の中に付された番号に対応してい る。 (2) 本件明細書には、別紙2「本件明細書の記載事項(抜粋)」の記載がある。 3 本件審決の理由の骨子 15 本件審決の理由の骨子は次のとおりであり、このうち原告が主張する審決取 消事由に係る理由は、別紙3「本件審決の抜粋」のとおりである。 (1) 本件訂正について 本件訂正は、訂正要件を満たすものであるから、これを認める。 (2) 原告主張の無効理由(甲1公報に記載された発明に基づく進歩性欠如)に 20 ついて ア 甲1公報に記載された発明 甲1公報には、次の「湿式排煙脱硫装置」に係る甲1発明1及び「湿 式排煙脱硫方法」に係る甲1発明2が記載されていると認められる。 【甲1発明1】 25 ジェットバブリング反応槽10、排ガス出口室12、排ガス入口室1 4、第1隔板16、第2隔板18、空間部22、出口ダクト24、入口 4ダクト26、連通管28、排ガス分散管30、攪拌機32、空気供給管 34、第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36、第2吸収液ノズル(冷 却液ノズル)38、吸収液ポンプ40、工業用水ノズル42、排出管4 4、排出ポンプ46、固液分離装置48、吸収剤供給管50、排水管5 5 2、石膏スラリ管54、第1液下降管62、第2液下降管64、抜き出 しポンプ66、抜き出し管68、送出管70、及び、固液分離装置71 を備えた、図14に記載された排煙脱硫装置60。 【甲1発明2】 甲1発明1の排煙脱硫装置を用いた湿式排煙脱硫方法。 10 〔参考:甲1公報の図14〕 イ 本件発明1と甲1発明1とを対比した場合の一致点及び相違点は、次の とおりであるところ、相違点1〜4に係る本件発明1の構成は個別にみて も容易想到の事項とはいえない上、相違点5、6に係る同構成をさらに合 15 わせた構成全体についても容易想到の事項とはいえない。したがって、そ 5の余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び周知 技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるという ことはできない。そして、本件発明2〜4、6、7は、本件発明1の全て の特定事項を含むものであるから、同様の理由により、甲1発明1及び周 5 知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとい うことはできない。 【一致点】 別紙3の第7の2(2)ア(イ)aのとおり。 なお、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、 10 本件発明1の「スクラバ流体浄化装置」の「バッファ・タンク」に相当 する。 【相違点1】 排ガス浄化装置で浄化される排ガスについて、本件発明1は、「船舶 用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガス」である 15 とさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明1の排ガス は、用途が限定されていない点。 【相違点2】 排ガス浄化装置について、本件発明1は、「閉じた排ガス浄化装置」 であるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明1の 20 「排煙脱硫装置」は、甲1の図14に示されたとおりのものである点。 【相違点3】 スクラバ流体について、本件発明1は、「水道水、淡水、または脱塩 海水のスクラバ流体」であるとさらに特定しているのに対して、甲1発 明1は、「第1次気液接触」及び「第2次気液接触」を行う部分におい 25 て排ガス中の除塵及び硫黄酸化物を除去するために「工業用水」及び 「吸収液」を使用している点。 6【相違点4】 バッファ・タンクについて、本件発明1は、「前記排ガス導管から独 立し、前記ガス・スクラバ(1)から前記汚染されたスクラバ流体が導 かれるバッファ・タンク(6)」であるとさらに特定しているのに対し 5 て、これに対応する甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の 下部空間は、甲1の図14に示されたとおりのものである点。 【相違点5】 遠心分離機について、本件発明1は、「分離ディスク(13)の積層 体を備えた分離スペース(12)の周りを取り囲むロータ(11)と、 10 前記分離スペースの中に伸びる、汚染されたスクラバ流体のためのセパ レータ入口(8)と、前記分離スペースから伸びる、浄化されたスクラ バ流体のための第一のセパレータ出口(14)と、前記分離スペースか ら伸びる、汚染物質相のための第二のセパレータ出口(15)」とを有 し、「汚染されたスクラバ流体を前記排ガス・スクラバから前記遠心分 15 離機へ導くための手段」が、汚染されたスクラバ流体を「前記セパレー タ入口」に導くための手段であり、「浄化されたスクラバ流体を遠心分 離機から前記排ガス・スクラバへ導くための手段」が、浄化されたスク ラバ流体を「第一のセパレータ出口」から前記排ガス・スクラバへ導く ための手段であるとさらに特定しているのに対して、甲1発明1は、そ 20 の具体的な構造が明らかでなく、「汚染流体案内手段」及び「浄化流体 案内手段」との接続箇所も明らかでない点。 【相違点6】 ブリード・オフ遠心分離機について、本件発明1は、「ブリード・オ フ・ディスク積層体遠心分離機(20,20’)」であるとさらに特定し 25 ているのに対して、甲1発明1は、その具体的な構造が明らかでない点。 【相違点7】 7記載省略 ウ 本件発明11と甲1発明2とを対比した場合の一致点及び相違点は、次 のとおりであるところ、相違点8〜10については、前記において既に 検討した相違点1、3、4についてと状況は同じであるし、相違点11 5 についても、前記において既に検討した相違点5、6についてと事情に 変わりはない。したがって、いずれの相違点に係る本件発明11の構成 についても、同様の理由により、当業者といえども、容易に想到し得る ものといえないから、本件発明11は、甲1に記載された発明及び周知 技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとい 10 うことはできない。そして、本件発明12は、本件発明11の全ての特 定事項を含むものであるから、同様の理由により、本件発明12は、甲 1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をする ことができたものであるといえない。 【一致点】 15 別紙3の第7の2(4)ア(イ)aのとおり。 【相違点8】 排ガスについて、本件発明11は、「船舶用ディーゼル・エンジンのE GRにおいて再循環される排ガス」であるとさらに特定しているのに対 して、これに対応する甲1発明2の排ガスは、用途が限定されていない 20 点。 【相違点9】 バッファ・タンクについて、本件発明11は、「排ガス導管(2)か ら独立したバッファ・タンク(6)」であるとさらに特定しているのに 対して、これに対応する甲1発明2の「ジェットバブリング反応槽10」 25 の下部空間は、甲1の図14に示されたとおりのものである点。 【相違点10】 8汚染されたスクラバ流体について、本件発明11は、「水道水、淡水、 または脱塩海水」であるとさらに特定しているのに対して、甲1発明2は、 排ガス中の除塵及び硫黄酸化物の除去するために「工業用水」及び「吸収 液」を使用している点。 5 【相違点11】 本件発明11では、「遠心分離機」及び「ブリード・オフ遠心分離機」 として、「ディスク積層体遠心分離機」を使用しているのに対して、甲 1発明2では、「固液分離装置48」及び「固液分離装置71」である 「遠心分離機」の具体的な構造が明らかでない点。 10 4 争点(原告主張の審決取消事由等) (1) 取消事由1 甲1発明1に基づく本件発明1〜4、6、7の進歩性判断の誤り ア 相違点1の容易想到性判断の誤り イ 相違点2の認定及び容易想到性判断の誤り 15 ウ 相違点3の容易想到性判断の誤り エ 相違点4の認定及び容易想到性判断の誤り オ 相違点5、6の容易想到性判断の誤り (2) 取消事由2 甲1発明2に基づく本件発明11、12の進歩性判断の誤り 20 第3 当事者の主張 1 取消事由1(甲1発明1に基づく本件発明1〜4、6、7の進歩性判断の誤 り)について (1) 相違点1の容易想到性判断について (原告の主張) 25 ア 甲1発明1における「ジェットバブリング反応槽」の位置づけ 甲1公報には、「ジェットバブリング反応槽」に代えて「スプレー式吸 9収塔」を使用する変形例が具体的に開示されているから(甲1公報【0 063】〜【0065】、【図13】)、甲1発明1は「ジェットバブ リング反応槽」を必須の構成としておらず、単なる排煙脱硫装置ないし 一塔式のいわゆるスート混合型排煙脱硫装置と認定すべきである。 5イ スート混合型排煙脱硫装置について 被告は、スート混合型排煙脱硫装置におけるスート混合方式とは「石 灰石膏法」の下位区分であるから、船舶への搭載には阻害要因がある旨 主張する。 しかし、甲1公報において、「スート混合型排煙脱硫装置」は「一塔 10 式の排煙脱硫装置」であると明確に説明されており(甲1公報【000 3】)、「石灰石膏法に係る排煙脱硫装置」に限定されていない。甲1 公報には、石灰石を水に溶解等させたカルシウム化合物系の吸収材を使 用するほかに、吸収材としてMg(OH) 2 などのマグネシウム化合物系 やNaOHなどのナトリウム化合物系を使用することが記載されており 15 (甲1公報【0002】、【0022】)、甲1発明1は石灰石膏法で はない排煙脱硫装置を含む技術である。 ウ 内燃機関等の排ガス浄化の周知性 スート混合型排煙脱硫装置やスプレー式吸収塔を用いた周知例(甲3、 4、35、37等)を考慮すれば、「防塵塔を省略した、一塔式のいわ 20 ゆるスート混合型排煙脱硫装置」(甲1公報【0003】)を船舶に搭 載し、スクラバ流体との「第1次気液接触」及び「第2次気液接触」に より内燃機関等の排ガスを浄化することは、本件特許に係る優先日前に おいて当業者に周知の事項である。 エ ERG技術に関する周知性 25 ディーゼル・エンジン機関でのEGRは窒素酸化物(NOx)低減技 術の一つとして周知慣用の技術であり、EGR技術を船舶用途のディー 10 ゼル・エンジンに適用することやEGRにおいて再循環される排出ガス をスクラバで浄化することも、本件特許に係る優先日前において周知の 事項である(本件審決のとおり)。 オ 小括 5 以上のとおり、甲1発明1が「ジェットバブリング反応槽」に限定さ れない「スート混合型排煙脱硫装置」の発明であることに加え、船舶用 ディーゼル・エンジンの排ガス浄化にスート混合型排煙脱硫装置を用い ることが周知であった事実等を考慮すれば、相違点1は容易想到であり、 本件審決の判断は誤っている。 10 (被告の主張) ア 甲1発明1における「ジェットバブリング反応槽」の位置づけ 甲1発明1については、「排煙脱硫装置60」を「スート混合型の湿 式排煙脱硫装置60」とするほかは、本件審決の認定のとおりである。 イ スート混合型排煙脱硫装置について 15 スート混合型排煙脱硫装置におけるスート混合方式とは、「石灰石膏 法」の下位区分である(乙1、3)。 そして、石灰石膏法では副生成物として石膏が生成されるが、このよ うな副生成物を船上で保管するスペースの観点、石灰石スラリーおよび 石膏という重量物の搭載による船舶の速度及び運航コストの悪化、EG 20 Rによりエンジンの燃焼室内へと再循環される排ガス中に石灰分が混入 するとエンジン本体に損傷を与えること、大がかりな装置とならざるを 得ないことによる設置スペースの制約という問題があるため、石灰石膏 型脱硫装置を船舶に搭載することには阻害要因が存在する。 ウ 原告の主張に対する反論 25 原告は、スート混合方式が「石灰石膏法」の下位区分であることを争 うが、甲1公報の【請求項1】等に記載された発明は「第2次気液接触 11 により生成した固形物を含むスラリを抜き出し」とのステップを含むも のであり、甲1公報には、カルシウム化合物を吸収材に含まず、スラリ を生成しない発明は何ら記載されていない。NaOH、KOH、Mg (OH) 2 等を吸収液に添加するとの記載は、吸収液のpH調整のために 5 加えられる補助的な吸収材についての記載にすぎない。 (2) 相違点2の認定及び容易想到性判断について (原告の主張) ア 相違点2の認定 本件審決の認定は、本件明細書から把握される「閉じた」の技術的意義 10 を逸脱し、「閉じた排ガス浄化装置」に含まれる態様を極端に狭く解釈 したものであって、誤っている。 本件明細書には、常態的に系内にてスクラバ流体の循環が完結する形 態が好ましい旨の記載は存在せず、むしろ本件明細書の【0056】、 【0066】等の記載では、排ガス浄化装置の運転中(=常態的)に、 15 スクラバ流体ループと系外の流出、流入が想定されている。 これらの記載からみて、本件発明1における「閉じた排ガス浄化装置」 は、「排ガス浄化装置外への常態的な流出や排ガス浄化装置外からの常 態的な流入」を許容する形態も含むものであって、甲1発明1の「排煙 脱硫装置60」は、本件発明1における「閉じた排ガス浄化装置」に該 20 当する。 イ 相違点2の容易想到性 甲1公報の【図7】には、「固液分離装置48」で固液分離して得た 母液の全量を、「吸収液供給管50」を通じて「ジェットバブリング反 応槽10」の下部空間に戻す形態が開示されているから、常態的な系外 25 への流出経路が存在しない構成が想定ないし示唆されているといえる。 また、甲1公報の【0007】、【0020】の記載からも、循環経路 12 の系外から工業用水を常態的に流入させない構成が想定ないし示唆され ている。 このように、仮に相違点2が存在したとしても、甲1発明1において、 常態的に系外への流出や系外からの流入が存在しない循環経路を構築す 5 ることは、当業者にとって容易に想到し得るものである。 (被告の主張) ア 相違点2の認定 本件審決の認定に誤りはない。 本件明細書には、スクラバ流体・ループから抜き出されたスクラバ流 10 体の「一部」が抜き取られてブリード・オフ遠心分離機により浄化され、 スクラバ流体・ループの系外に排出されるとの記載があるが(本件明細 書【0063】、【0065】)、「一部」とは「全体の中の或る部分。 わずかの部分。」との意味であるから(乙2)、本件発明1において、 環境に放出するために抜き取られるスクラバ流体の量はわずかの部分の 15 みである。 これに対し、甲1発明1は、石膏の回収を目的の1つとした「石灰石 膏型湿式排煙脱硫装置」であるから、大量の石膏を回収するために、大 量の吸収液を固液分離装置48、71に抜き出し、それにより、大量の 浄化後の吸収液が環境に放出され得る。 20 また、甲1発明1の経路にあっては、「工業用水ノズル42」からス クラバ流体にあたる工業用水が噴霧されているし、「ジェットバブリン グ反応槽10」の下部空間の吸収液は、「固液分離装置48」にて石膏 が分離された後、その母液の一部が「排水管52」により排水処理装置 に送られるように構成されている。 25 そうすると、甲1発明1は、本件発明1のような「閉じた排ガス浄化 装置」に相当し得るものではない。 13 イ 相違点2の容易想到性 流体回路から抜き取られる流体の量に差異が生じるということは、それ ぞれの流体回路の基礎となる技術的思想が異なっているということにほ かならない。 5 その技術的思想の違いから、甲1発明1を、本件発明1のような「流体 ループから抜き取られる流体の量がわずかである閉じた排ガス浄化装置」 として構成することは容易でない。 (3) 相違点3の容易想到性判断について (原告の主張) 10 本件審決は、甲1発明1のスクラバ流体について、工業用水のような石灰 石粉末を含有しないものを使用することには阻害要因があると判断している が、この判断は誤っている。 ア 甲1発明1に用いる吸収液 甲1公報の特許請求の範囲(請求項1、2、13、15、21)にお 15 いて吸収液の種類が限定されていないことを勘案すれば、甲1発明1に ついて「石灰石粉末を含有する吸収液」を他の吸収液(スクラバ流体) に変更することも当然に想定ないし示唆されているといえ、本件審決の いう阻害要因は存在しない。 イ 周知慣用技術 20 ディーゼル・エンジンやボイラーに係る排ガス(硫黄酸化物、窒素酸化 物、煤塵等を含む排ガス)を浄化するためのスクラバ流体として「水」 を使用することは、周知慣用の事項である(甲2の【請求項2】、【0 086】、甲37の【0098】、甲38の【請求項14】、【002 5】、【0054】、甲39の【0051】)。 25 したがって、石灰石粉末を含有する吸収液をアルカリ剤等の化学薬品 が添加されていない淡水等に変更することは、当業者の通常の創作能力 14 の発揮にすぎないものであり、本件明細書においてスクラバ流体を「水 道水、淡水、または脱塩海水」に限定する技術的意義や作用効果が記載 されていないことからみても、単なる設計事項に過ぎない。 (被告の主張) 5 甲1公報の【請求項1】は、「排ガス中の硫黄酸化物を除去するために、 スート混合型湿式排煙脱硫装置を使用して、排ガス中に第1の吸収液を噴霧 して気液接触させる第1次気液接触と、」と記載しており、この「スート混 合型湿式排煙脱硫装置」は、石灰石膏法型湿式排煙脱硫装置の一態様である。 すなわち、甲1発明1は、排ガス中の亜硫酸ガスを、吸収液中の石灰石粉 10 末と反応させ石膏として固定化して除去するものであり、副生成物である石 膏を回収することが目的の1つであるから、石灰石粉末を含有する吸収液に 代えて、工業用水のような石灰石粉末を含有しないものを使用することには 阻害要因があり、単なる設計的事項とはいえない。 (4) 相違点4の認定及び容易想到性判断について 15 (原告の主張) ア 相違点4の認定 (ア) 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間と本件発 明1の「バッファ・タンク」について 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、本件 20 発明1の「スクラバ流体浄化装置」の「バッファ・タンク」に相当す るとの本件審決の認定については、誤りはない。 a 「バッファ・タンク」とは、「和らげる、緩衝する」目的で、水な どを貯留する機能を有する「タンク」をいう(甲70、71)。本件 発明1においては、ポンプの上流側にスクラバ流体が貯まっていない 25 とポンプの吐出量が安定しないところ、「バッファ・タンク」を用い ることにより、ガス・スクラバで噴霧されるスクラバ流体が増えても 15 減ってもこれによる流量変動が「バッファ・タンク」で緩和され、 「バッファ・タンク」下流側のポンプの吐出量を「バッファ・タンク」 への流入量に合わせて変動させる必要がなくなる。すなわち、「バッ ファ・タンク」は、ガス・スクラバや遠心分離機に送られるスクラバ 5 流体の流量変動を緩和する機能を有し、これは技術常識である。 b 本件発明1における「バッファ・タンク」は、@排ガス・スクラバ からの汚染されたスクラバ流体を受け入れ可能である、A排ガス・ス クラバに至る流路が接続されている、B遠心分離機の第一のセパレー タ出口からの浄化されたスクラバ流体を受け入れ可能である、Cセパ 10 レータ入口に至る流路が接続されているとの構成を有することにより、 スクラバ流体の流量変動を緩和し、また、「バッファ・タンク」内の 汚染物質相の濃度を低い数値で一定に保つことで、スクラバ流体の汚 染物質相の濃度が上昇することで生じる悪影響(装置部材への汚染物 質相の堆積、配管の閉塞等)を生じさせないとの機能を有するもので 15 ある(本件明細書【0024】、【0025】)。 他方、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、 @排ガス・スクラバからの汚染されたスクラバ流体を受け入れ可能で あり、A「第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36」、「第2吸収液 ノズル(冷却液ノズル)38」及び「吸収液ポンプ40」は、「ジェ 20 ットバブリング反応槽10」の下部空間より「入口ダクト26」に吸 収液を送給するものであることから(甲1公報【0007】)、排ガ ス・スクラバに至る流路が接続されており、B「排出菅44」、「排 出ポンプ46」、「固液分離装置48」、「吸収剤供給管50」、 「排水管52」及び「石膏スラリ管54」からなる部分は、「ジェッ 25 トバブリング反応槽10」の下部空間から排出された石膏を濃厚に含 有する吸収液を「固液分離装置48」にて石膏粒子と母液とに分離し、 16 母液の一部を排水処理装置に送り、母液の残りを「ジェットバブリン グ反応槽10」の下部空間に戻すためのものであるから( 甲1公報 【0007】)、遠心分離機の第一のセパレータ出口からの浄化され たスクラバ流体を受け入れ可能であり、Cセパレータ入口に至る流路 5 が接続されているといえるから、本件発明1における「バッファ・タ ンク」の前記@からCまでの構成を有している。 そして、これらの構成を有することにより、スクラバ流体の流量変動 を緩和し、内部の汚染物質相の濃度を低い数値で一定に保ち、それに より、スクラバ流体の汚染物質相の濃度が上昇することで生じる悪影 10 響を生じさせないとの機能を有している。 以上のとおり、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下 部空間は、本件発明1における「バッファ・タンク」と同一の構成を 有し、同一の機能を果たしていることから、本件発明 1の「バッフ ァ・タンク」に相当するといえる。 15 c 被告は、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の全体が 本件発明1の「ガス・スクラバ」に相当するから、「ジェットバブリ ング反応槽10」の下部空間は、「ガス・スクラバ」とは別体の構成 部材であるところの「バッファ・タンク」には相当しない旨主張する。 しかし、本件発明1における「ガス・スクラバ」は、「排ガスから生 20 ずる汚染物質粒子を有する汚染されたスクラバ流体を作り出す」(本 件明細書【0011】)機能、すなわち、排ガスと水を接触させて汚 染されたスクラバ流体を発生させる機能を有するものとして定義され ており、汚染されたスクラバ流体を貯留する部分、すなわち「ジェッ トバブリング反応槽10の下部空間」は「ガス・スクラバ」に含まれ 25 ない。 また、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の全体が本件 17 発明1の「ガス・スクラバ」に相当するのであれば、「ジェットバブ リング反応槽10」の内部に備わる「排ガス分散管30」、「第1液 下降管62」及び「第2液下降管64」も「ガス・スクラバ」に相当 することになるが、被告はこれらを「排ガス導管」とみなす旨主張し 5 ているから、その主張には矛盾がある。 d なお、本件発明1において、スクラバ流体に対して物理的あるいは 化学的な処理を行う機能を併せ持ったタンクは「バッファ・タンク」 から除外されていない。 また、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、 10 「第2次気液接触」を行う部分でもあり、本件発明1の「排ガス・ス クラバ」に相当する部分と隣接ないし一体化しているが、本件発明1 の「バッファ・タンク」は、排ガス導管から独立したものであること は特定されているものの、「排ガス・スクラバ」から独立しているこ とや排ガスの流れから独立していることは特定されていない。 15 さらに、甲1発明1において「スプレー式吸収塔121」を採用した 場合には、「スプレー式吸収塔121」の下部空間は第1次気液接触 及び第2次気液接触を行う部分(本件発明1の「排ガス・スクラバ (1)」に相当する部分)とはならない。 (イ) 本件発明1の「前記排ガス導管から独立し」について 20 本件審決は、「排ガス導管から独立」であると文言上特定されている ものを「ガス・スクラバにおける排ガスの流れから独立」にすり替え て解釈しており、明らかに誤りである。 本件発明1(請求項1)の記載を踏まえれば、「前記排ガス導管から 独立し、前記ガス・スクラバ(1)から前記汚染されたスクラバ流体 25 が導かれるバッファ・タンク(6)」とは、文言どおり「排ガス導管 (2)」から「バッファ・タンク(6)」が独立していると理解する 18 ほかない。 そして、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間 (=「バッファ・タンク」)は、「ガス・スクラバ」に相当する部分 から汚染されたスクラバ流体が導 かれるものであって、「排ガス導 5 管」、すなわち「入口ダクト26」のうち「工業用水ノズル42」よ りも上流側の部分及び「出口ダクト24」から独立している。 したがって、この点は一致点であり、本件審決が相違点4を認定した ことは誤りである。 イ 甲1発明が本件発明1の「バッファ・タンク」を備えない場合の相違点 10 とその容易想到性 仮に、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は 本件発明1の「バッファ・タンク」に相当しないとした場合、本件発明 1と甲1発明1との間には、「本件発明1は『バッファ・タンク』を備 えるのに対し、甲1発明1は『バッファ・タンク』を備えない」との相 15 違点(相違点4−2)が存在することになる。 しかし、甲1公報には、「ジェットバブリング反応槽10」に代えて 「スプレー式吸収塔121」を使用することが具体的に開示されており (甲1公報【0063】〜【0065】、【図10】)、「スプレー式 吸収塔121」の下部空間は、本件発明1における「バッファ・タンク」 20 の前記@からCまでの構成に相当する構成及び機能を有するから、甲1 発明1は自ずと「バッファ・タンク」を備えることになり、相違点4− 2は実質的な相違点とはいえない。 ウ 相違点4の容易想到性判断 仮に本件審決認定の相違点4が存在するとしても、本件審決の容易想 25 到性の判断には誤りがある。 前記のとおり、甲1公報には「スプレー式吸収塔121」を使用する 19 ことが具体的に開示されており、「スプレー式吸収塔121」を採用す ることは設計事項に過ぎないところ、「スプレー式吸収塔121」の下 部空間は排ガスの流れと密接に作用するものではなく、排ガスの流れか ら独立しているから、相違点4に係る構成は、吸収塔として「スプレー 5 式吸収塔121」を選択したときに自ずと想到する構成にすぎない。 (被告の主張) ア 相違点4の認定 (ア) 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間と本件発 明1の「バッファ・タンク」について 10 本件審決の、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部 空間が本件発明1の「スクラバ流体浄化装置」の「バッファ・タンク」 に相当するとの認定は誤りである。 a 本件発明1(請求項1)の記載を踏まえれば、「スクラバ流体浄化装 置」は「ガス・スクラバ」に接続されるもので、「ガス・スクラバ」 15 とは別体の構成部材であるから、この「スクラバ流体浄化装置」に含 まれ、「ガス・スクラバ」から汚染されたスクラバ流体が導かれる 「バッファ・タンク」も、「ガス・スクラバ」とは別体の構成部材で ある。このことは、本件明細書の【0043】、【0045】の記載 において「スクラバ出口」、「スクラバ1の入口」、「バッファ・タ 20 ンク6の入口」、「バッファ・タンクの出口」にそれぞれ固有の符号 を付していること、同【0045】の記載から、スクラバ流体は、ス クラバ本体中において、又は排ガス導管中において排ガスと接触し、 排ガスと接触することにより汚染されたスクラバ流体は、排ガスから 分離後にスクラバ1からバッファ・タンク6に戻されることが理解さ 25 れることからも裏付けられる。 このような位置関係でバッファ・タンクが配置されることにより、 20 本件明細書の【0024】、【0025】に記載の機能、すなわち、 スクラバとは独立してセパレータとの間に介在し、セパレータによる 抜き出し及び浄化済みスクラバ流体の還流を受けて、スクラバ内より もスクラバ流体中の汚染物質相の濃度が低い状態を作り出すことで、 5 スクラバ内での付着物堆積を低減し、機器の保守問題を解決している。 バッファ・タンクがスクラバと一体化してその一部となった場合には、 かかる機能は果たし得ないから、本件発明1において、スクラバと一 体化したバッファ・タンクは観念しえない。また、排ガスがバッフ ァ・タンク内でスクラバ流体と接触する場合には、かかる機能は損な 10 われることになるから、そのような接触もない。 b 他方、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」は、上位概 念としての湿式スクラバ装置に相当する構成である。 湿式スクラバ装置は、スクラバ流体を使用して排ガス中の粉塵および 硫酸塩等を除去する装置であり、排ガスにスクラバ流体を接触させる 15 ため、スクラバ装置の内部にスクラバ流体を溜める構成を当然に備え ており、甲1発明1においては、吸収液層20を含んだジェットバブ リング反応槽10全体が「湿式スクラバ装置」に相当している。 そうすると、甲1発明1は、本件発明1の「バッファ・タンク」に相 当する構成を有しないものである。 20 (イ) 本件発明1の「前記排ガス導管から独立し」について 本件発明1においては、「ガス・スクラバ」に「排ガス導管」が接続 されており、「ガス・スクラバ」内に排ガスが流入するので、別体で ある「バッファ・タンク」内に排ガスが流入することはない。 甲1発明1の「排ガス分散管30」は明らかに本件発明1の「排ガス 25 導管(2)」に該当するところ、甲1発明1の「ジェットバブリング 反応槽10」の下部空間は、「排ガス導管(2)」を内部に取り込ん 21 でいるから、「前記排ガス導管から独立し、前記ガス・スクラバ(1) から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク(6)」 との発明特定事項を明らかに充足しない。 結論として、相違点4が実質的な相違点であるとした本件審決の判断 5 に誤りはない。 イ 甲1発明が本件発明1の「バッファ・タンク」を備えない場合の相違点 とその容易想到性 甲1発明が本件発明1の「バッファ・タンク」を備えない場合、「バッ ファ・タンク」に関する相違点は、「甲1発明1には『バッファ・タン 10 ク(6)』に相当する構成を欠く点」となるが、この相違点に係る構成 は容易想到とはいえない。 ウ 相違点4の容易想到性判断 本件審決認定の相違点4を認定することができる場合、本件審決の容 易想到性の判断に誤りはない。 15 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、前記 のとおり、排ガスの流れと独立したものであるということはできず、排 ガスの流れと密接に作用して排ガス中の硫黄酸化物の除去を行っている ところ、この下部空間と排ガスの流れは、切り離して扱うことは妥当で はなく、これらは一体不可分の構成であると理解するのが相当である。 20 甲1発明に「スプレー式吸収塔121」を採用できるとしても、スプ レー式吸収塔121の下部の吸収液層も、構造上排ガスに接触するから、 排ガスの流れと独立したものではなく、相違点4に係る構成を満たすも のではない。 (5) 相違点5、6の容易想到性判断について 25 (原告の主張) 相違点5、6は容易想到であり、本件審決の判断は誤りである。 22 ア ディスクスタック遠心分離機は本件審決の認定のとおり周知のものであ るところ、ディスクスタック遠心分離機を汚染されたスクラバ流体に適 用した例も複数存在しているから(甲2 、60)、甲1発明1において 相違点5、6に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとっ 5 て容易想到の事項である。 イ また、前記のとおり、相違点2及び相違点4は相違点ではなく、そうで なくとも、相違点1から4はいずれも当業者が容易に想到できたものであ るから、本件審決の認定した作用効果も、結局のところ、周知の装置であ るディスクスタック遠心分離機の作用効果そのものか、当業者が容易に予 10 測し得る程度のものである。 (被告の主張) ア 甲1発明1のような石灰石膏法を利用した排煙脱硫装置を、船舶の排ガ スを処理するためのスクラバ流体の浄化に適用した例は存在しない。 甲2には、「ディスクスタック遠心分離機」、「ディスク積層型遠心分 15 離機」、または「分離板」等のディスクスタック遠心分離機を想起させ る記載はなく(甲2の【0048】の記載は、遠心分離機全般の原理を 述べているにすぎない。)、甲60に記載された排ガス水洗洗浄装置は、 石灰石膏法を利用した排煙脱硫装置ではない。 イ その他、本件審決の判断に誤りはない。 20 (6) 本件発明2〜4、6、7の進歩性判断の誤りについて (原告の主張) 前記のとおり、本件審決の本件発明1の進歩性判断は誤っているから、こ れと同様の理由に基づく本件発明2〜4、6、7の進歩性判断も誤っている。 (被告の主張) 25 争う。 2 取消事由2(甲1発明2に基づく本件発明11、12の進歩性判断の誤り) 23 について (原告の主張) 前記のとおり、本件審決の本件発明1の進歩性判断は誤っているから、これ と同様の理由に基づく本件発明11、12の進歩性判断も誤っている。 5 (被告の主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の技術的意義 前記第2の2の本件各発明の内容及び本件明細書の記載によれば、本件各発 10 明の技術的意義は、次のとおりと認められる。 (1) 技術分野 本件各発明は、スクラバ流体浄化装置を有する排ガス浄化装置、及び汚染 されたスクラバ流体を浄化するための方法に係る(本件明細書【0001】。 以下、特に断らない限り、【 】内の番号は本件明細書の段落番号を指 15 す。)。 (2) 背景技術 今日の海運業は、燃料のエンジンの中の燃焼から生ずる放出物の有害な環 境的な影響を最小にし、現在及び将来の排出規制を満たすことが課題となっ ている。硫黄酸化物(SOx)の放出は、排ガスを浄化するスクラバの使用 20 により減少できる。窒素酸化物(NOx)の放出は、EGRにより減少でき るが、排ガスの一部をエンジンの燃焼室に再循環するには、排ガス中のすす 及び粒子の量を減少させ浄化することが望ましく、これもスクラバの使用に より可能である。いずれも、その過程で汚染されたスクラバ流体が作り出さ れるが、汚染されたスクラバ流体の海中への放出は、環境的な観点から容認 25 されず、厳しく規制されている。他方、大量の廃棄物を港まで移送すること は、多大な費用がかかり、好ましくない(【0002】〜【0004】、 24 【0006】)。 従来、循環されたガスをスクラバ水を使用して浄化し、スクラバ水は船外 へ放出されるか、後に浄化するためにタンク内に貯える技術、スクラバから の汚染された海水が貯蔵タンクの中に蓄えられ、次いで、遠心分離機と二つ 5 のオイル・フィルタの組み合わせを使用して浄化される排水処理装置の技術 が開示されていた(【0005】、【0007】)。 (3) 発明が解決しようとする課題 一つの問題は、スクラバ流体の浄化を改善することであり、スクラバ流体 から排ガスの中に汚染物質が再び引き継がれ、冷却機など下流の装置で問題 10 を引き起こすリスクを最小にする必要がある。更なる問題は、汚染されたス クラバ流体の中の粒子が付着し易く、すすの付着量の増大が、プロセス装置、 センサー類、トランスミッター類などの不調をもたらすことにあるが、フィ ルタ技術には監視、保守等を要する弱点がある(【0008】)。 本発明の課題は、上述の問題を解決するため、排ガス処理手順の環境的な 15 アスペクトを更に改善し、排ガス処理手順の効率を改善し、保守作業に対す る必要性を最小限に抑え、スクラバ流体を取り扱うプロセス装置に関わる問 題を取り除くことにある(【0010】)。 (4) 発明の概要 本件各発明の排ガス浄化装置を構成するガス・スクラバは、汚染物質の量 20 を減らすために排ガスをスクラバ流体と接触させ、汚染されたスクラバ流体 を作り出し、これを浄化するためのスクラバ流体浄化装置が接続されている。 ガス・スクラバ及びスクラバ流体浄化装置は、スクラバ流体ループ、即ちス クラバ流体の再循環システムを形成してもよい(【0011】)。 スクラバ流体浄化装置は、前記汚染されたスクラバ流体から、汚染物質粒 25 子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを分離するための遠心分 離機を有している。遠心分離機は、分離ディスクの積層体を備えた分離スペ 25 ースの周りを取り囲むロータ、汚染されたスクラバ流体のためのセパレータ 入口、浄化されたスクラバ流体のための第一のセパレータ出口、汚染物質相 のための第二のセパレータ出口の構成を備える。更に、スクラバからセパレ ータ入口へ汚染されたスクラバ流体を導くための手段、及び第一のセパレー 5 タ出口からスクラバへ浄化されたスクラバ流体を導くための手段を有し、ス クラバ流体を循環させるためのスクラバ流体ループを形成するように構成さ れている。ディスク積層体遠心分離機を使用することによって、スクラバ流 体からの汚染物質相の分離が驚くほどに効果的になり、また、油及び粒子を、 スクラバ流体と比べて密度が高い汚染物質相として分離することを可能にす 10 る(【0012】〜【0014】)。 かくして、本件各発明のスクラバ流体浄化装置は、フィルタ等を必要とせ ず、主要なコンポーネントの保守及び交換に対する必要性を最小にすること により、装置の取り扱いを改善する。また、ディスク積層体遠心分離機をス クラバ流体に適用することにより、汚染物質相の大部分が、濃縮された状態 15 で、かつ化学薬品を添加することなく、取り除かれることが可能になり、廃 棄材料の体積が低く維持されることも可能になる(【0015】)。 排ガス浄化装置は、更に、バッファ・タンクを有していても良く、第一の セパレータ出口からスクラバへ浄化されたスクラバ流体を導くための手段に おいて、バッファ・タンクを介して導く構成により、浄化されたスクラバ流 20 体がバッファ・タンクに導入され、バッファ・タンク内のスクラバ流体の中 の汚染物質相の濃度が、低く保たれる。これにより、装置の感受性の高い部 分上への材料の堆積、配管の閉塞、浄化装置及びスクラバ内での材料のクラ スターの形成及び移送に関係する問題が減少する。スクラバからセパレータ 入口へ汚染されたスクラバ流体を導くための手段において、バッファ・タン 25 クを介して導く構成により、バッファ・タンクの中のスクラバ流体は、遠心 分離機の中で連続的に浄化されても良く、または、汚染物質の濃度がバッフ 26 ァ・タンクの中の特定のレベルを超えたときに浄化されても良い。それによ り、汚染されたスクラバ流体がスクラバから供給されるにも拘わらず、バッ ファ・タンクの中の汚染物質相の濃度が、最小限または特定の低いレベルよ り低く保たれる(【0024】、【0025】)。 5 排ガスを浄化するプロセスの中に最初から含まれる、または、運転の間に 加えられるスクラバ流体は、水道水、淡水、または脱塩海水である。水の一 つの優位性は、硫黄酸化物を溶解するその能力である。水道水はタンクから 供給されることが可能であり、または、船上で海水の脱塩により作り出され ることが可能である(【0030】)。 10 排ガス浄化装置は、汚染されたスクラバ流体の一部をブリード・オフ・デ ィスク積層体遠心分離機に抜き出すための手段を、更に有する。ブリード・ オフ・セパレータは、前記汚染されたスクラバ流体から、汚染物質粒子及び 浄化されたスクラバ流体を有する、少なくとも汚染物質相を分離するように 構成されても良い(【0034】)。 15 (5) なお、バッファ・タンクが「排ガス導管から独立」したものであることに ついては、本件明細書にその技術的意義の説明はないが、実施例を示す【図 1】の説明として、「スクラバ出口4は、スクラバ流体のための、排気ガス 導管2から独立したバッファ・タンク6の入口5に接続されている。」と記 載されている(【0043】)。 20 2 取消事由1(甲1発明1に基づく本件発明1〜4、6、7の進歩性判断の誤 り)について (1) 相違点4の認定について 事案に鑑み、相違点4から検討する。 ア 本件審決は、@甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部 25 空間は本件発明1の「スクラバ流体浄化装置」の「バッファ・タンク」 に相当すると認定した上で、A「バッファ・タンクについて、本件発明 27 1は『前記排ガス導管から独立し、前記ガス・スクラバ(1)から前記 汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク(6)』であると さらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明1の『ジェッ トバブリング反応槽10』の下部空間は、甲1の図14に示されたとお 5 りのものである点」を相違点4として認定した。 これに対し、原告は、前記@の認定に誤りはないが、前記Aの認定は誤 りであり、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間 は「排ガス導管」から独立し、「ガス・スクラバ」に相当する部分から 汚染されたスクラバ流体が導かれるものであるから、この点は一致点で 10 あり、相違点4を認定したことは誤りである旨主張する。 被告は、相違点4は結論として実質的な相違点であるが、前記@の認 定は誤りであり、本件発明1の「バッファ・タンク」は「ガス・スクラ バ」とは別体の構成部材であるのに対し、甲1発明1の「ジェットバブ リング反応槽10」の下部空間は「ガス・スクラバ」に含まれるから、 15 甲1発明1は本件発明1の「バッファ・タンク」に相当する構成を有し ない旨主張する。 イ そこで、本件発明1の「バッファ・タンク」の構成について検討する。 (ア) 本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、本件 発明1は、@「ガス・スクラバ」と「スクラバ流体浄化装置」との関 20 係について、「このガス・スクラバに接続され、前記汚染されたスク ラバ流体を浄化するためのスクラバ流体浄化装置を有し」と特定され た上で、A「スクラバ流体浄化装置」 は「遠心分離機」と「 バッフ ァ・タンク」を有することとともに、「バッファ・タンク」について 「前記排ガス浄化装置のスクラバ流体浄化装置は、前記排ガス導管か 25 ら独立し(た)…バッファ・タンク(6)を更に有し、」と特定され ている。 28 また、B「ガス・スクラバ」の仕組み(機能)については、「排ガス 導管(2)内を流れる前記排ガスを浄化するためのガス・スクラバ (1)を有し、このガス・スクラバは、汚染物質粒子を有する汚染さ れた、水道水、淡水、または脱塩海水のスクラバ流体を作り出し、」 5 と特定され、C「ガス・スクラバ」と「バッファ・タンク」との関係 については、「前記ガス・スクラバ(1)から前記汚染されたスクラ バ流体が導かれるバッファ・タンク(6)」との特定がされている。 上記@の「接続」との表現は、「ガス・スクラバ」と「スクラバ流体 浄化装置」が一体的に組み込まれた1つの構成部材ではなく、別体の 10 構成部材として存在している前提において、これらが相互に「接続」 される態様を示していると解される。そして、上記Aにおいて「スク ラバ流体浄化装置」が「バッファ・タンク」を有するとされていると ころ、広辞苑第七版(平成30年発行)によると、「タンク」とは 「気体・液体を収容する密閉容器」を意味するものとされているから、 15 「バッファ・タンク」は、スクラバ流体浄化装置の一部であり、かつ、 物理的に「タンク」として認識することができるような構造のもので あると解するのが自然である。これらの点を踏まえると、本件発明1 における「バッファ・タンク」は、「ガス・スクラバ」とは構造的に 区別された部材(以下「別体の構造部材」という。)として存在して 20 おり、「ガス・スクラバ」に「接続」しているものと解される。 この「接続」により、上記Cに特定される「ガス・スクラバ」から 「バッファ・タンク」へ「汚染されたスクラバ流体」が「導かれる」 経路が形成される。「汚染されたスクラバ流体」は「排ガス導管(2) 内を流れる前記排ガス」がガス・スクラバ内で浄化されて作り出され 25 るものであるが、「バッファ・タンク」に導かれるのは、ガス・スク ラバ内で作り出された汚染されたスクラバ流体であって、「排ガス」 29 が「バッファ・タンク」に導かれることを示す記載はないから、「ガ ス・スクラバ」の一部が「バッファ・タンク」を兼ねているとするこ とは困難である。 そうすると、本件発明1において、「ガス・スクラバ」と「バッフ 5 ァ・タンク」とは別体の構成部材であると解される。 (イ) また、本件訂正の経緯をみると、バッファ・タンクに係る前記の特許 請求の範囲の記載は、訂正前の「前記排ガス浄化装置は、バッファ・ タンク(6)を更に有し」との記載を「前記排ガス浄化装置のスクラ バ流体浄化装置は、前記排ガス導管から独立し、前記ガス・スクラバ 10 (1)から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク (6)を更に有し」に訂正したものであるところ、この訂正は、「特 許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり(特許法134条の2 第1項ただし書、1号)、本件明細書に記載した事項との関係におい て新たな技術的事項を導入するものではなく(同条9項、126条5 15 項)、実質上特許請求の範囲の記載を拡張し、又は変更するものに該 当しない(同法134条の2第9項、126条6項)として、訂正が 認められたものである(甲54、55、57、本件審決)。 また、本件明細書の【0043】の記載についても、「スクラバ出口 4は、スクラバ流体のためのバッファ・タンク6の入口5に接続され 20 ている。」との記載を「スクラバ出口4は、スクラバ流体のための、 排気ガス導管2から独立したバッファ・タンク6の入口5に接続され ている。」とする訂正について、前記の特許請求の範囲の訂正に伴い、 図1の「ガス・スクラバ流体のための浄化装置を有する排ガス浄化装 置」に関する記載を明確化するものであり(特許法134条の2第1 25 項ただし書、3号)、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は 図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり(同法134条 30 の2第9項、126条5項)、実質上特許請求の範囲の記載を拡張し、 又は変更するものに該当しない(同法134条の2第9項、126条 6項)として、訂正が認められている(甲54、56、57、本件審 決)。 5 これらの訂正を認めた本件審決の判断に誤りはなく、原告もこれを争 っていない。 以上の本件訂正の経緯及び内容は、前記(ア)の認定を裏付けるもので ある。 (ウ) これに対し、原告は、技術常識であるバッファ・タンクの一般的な機 10 能、本件明細書の【0024】、【0025】に記載された「バッフ ァ・タンク」の構成及び機能は、「ガス・スクラバ」と一体である甲 1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間も有してい る旨主張する。 しかし、本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の文言、さら 15 に本件訂正の経緯を考慮すると、本件発明1の「バッファ・タンク」 が「ガス・スクラバ」とは別体の構成部材であると解されることは、 前記のとおりである。 スクラバ流体の流量変動を緩和する(技術常識)、「バッファ・タン ク」内の汚染物質相の濃度を低い数値で一定に保つことで、スクラバ 20 流体の汚染物質相の濃度が上昇することで生じる悪影響(装置部材へ の汚染物質相の堆積、配管の閉塞等)を生じさせないとの機能(本件 明細書【0024】、【0025】)については、バッファ・タンク がスクラバと一体化してその一部となった場合であっても奏し得ると 認められるが(被告は、バッファ・タンクが一体であれば「スクラバ 25 内」での付着物堆積を低減するとの機能を果たし得ないと主張するが、 バッファ・タンクが別体であることによって、「スクラバ内」の汚染 31 物質相がより低減されると解すべき根拠は見当たらない。)、同様の 機能を有する場合があるからといって、同じ構成であることを意味す るものとはいえない。むしろ、本件発明1における「バッファ・タン ク」は、前記のような機能を果たすために別体の構成部材として「バ 5 ッファ・タンク」を設けたところに技術的な意義があるというべきで ある。 また、原告は、「汚染されたスクラバ流体を貯留する部分」は「ガ ス・スクラバ」に含まれない、スクラバ流体に対して物理的あるいは 化学的な処理を行う機能を併せ持ったタンクは「バッファ・タンク」 10 から除外されていないと主張するが、同主張は、結局、ガス・スクラ バとバッファ・タンクとが別体の構成部材ではなくても、ガス・スク ラバと一体となったバッファ・タンク部分が、バッファ・タンクとし ての機能を果たし得ることを主張するにとどまり、請求項1の記載上、 本件発明1の「バッファ・タンク」が「ガス・スクラバ」と別体の構 15 成部材として記載されているとの前記認定を左右するものではない。 さらに、原告は、「排ガス導管から独立し」との構成について、「排 ガスの流れから独立」と解すべきではなく、文言どおり「排ガス導管 (2)」から「バッファ・タンク(6)」が独立していると理解する ほかないと主張するが、「排ガス導管から独立し」た「バッファ・タ 20 ンク」であることは、本件各発明上、バッファ・タンクがガス・スク ラバとは別体の構成部材であると解することと何ら矛盾するものでは ないから、同主張も、前記認定を左右するに足りない。 (エ) したがって、本件発明1の「バッファ・タンク」は「ガス・スクラバ」 とは別体の構成部材であると認められる(なお、本件審判手続に先行 25 する特許異議手続において、被告が「ガス・スクラバ」の下部空間が 「バッファ・タンク」に相当することを争っていなかったとしても、 32 同手続は本件訂正の前であり、本件訂正の内容を考慮すると、いずれ にせよ、「バッファ・タンク」が別体の構成部材であると主張するこ とが禁反言に抵触し、信義則に反するということはできない。)。 ウ そうすると、本件発明1と甲1発明1を対比した場合、甲1発明1の 5 「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、そのサイズや容量如何 によっては「バッファ・タンク」の機能を有することがあるとしても、 「ガス・スクラバ」とは一体の構成部材であるから、「バッファ・タンク」 に係る相違点としては、次のように認定するのが相当である(本件審決の 認定と異なる部分に下線を付した。)。 10 【相違点4′】 バッファ・タンクについて、本件発明1は、「ガス・スクラバ」とは別 体の構成部材であり、「前記排ガス導管から独立し、前記ガス・スクラバ (1)から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク (6)」であるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発 15 明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、「ジェットバブ リング反応槽10」と一体の構成部材であり、甲1の図14に示されたと おりのものである点。 (2) 相違点4′の容易想到性について 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、「ジェッ 20 トバブリング反応槽10」と一体の構成部材であるところ、本件発明1のよ うに「ガス・スクラバ」とは別体の構成部材の「バッファ・タンク」として 設ける動機付けは、甲1公報を検討しても見出すことはできず、その動機付 けを裏付ける周知技術の主張立証もない。 原告は、甲1公報には「ジェットバブリング反応槽10」に代えて「スプ 25 レー式吸収塔121」を使用することが具体的に開示されており、「スプレ ー式吸収塔121」の下部空間は、本件発明1における「バッファ・タンク」 33 の構成及び機能を有する旨主張する。 しかし、甲1公報の「スプレー式吸収塔121」(甲1公報【0063】 〜【0065】、【図10】)は、「ジェットバブリング反応槽10」と同 様、その下部に吸収液層20を有するが、「スプレー式吸収塔121」と一 5 体の構成部材であることは同様であり、上位概念である「スート混合型排煙 脱硫装置」に置き換えたとしても、バッファ・タンクに相当する構成は別体 の構成部材とはならない。 「ジェットバブリング反応槽10」や「スプレー式吸収塔121」の下部 空間が、本件発明1の「バッファ・タンク」と同等の機能を有することがあ 10 るとしても、それだけでは一体の構成部材をあえて別体の構成部材とする動 機付けとなるものということはできず、他に動機付けや示唆が存在すること を認めるに足りる証拠もない。 したがって、相違点4′に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到 し得たとはいえない。 15 (3) 取消事由1についての結論 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、本件発明1、及び本件 発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2〜4、6、7は、甲1発明1及 び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえ ない。 20 したがって、本件審決の甲1発明1に基づく本件発明1〜4、6、7の進 歩性判断は、結論として誤りはなく、取消事由1は認められない。 3 取消事由2(甲1発明2に基づく本件発明11、12の進歩性判断の誤り) について (1) 相違点9の認定について 25 事案に鑑み、相違点9から検討する。 ア 本件発明11の「バッファ・タンク」について検討する。 34 (ア) 本件発明11に係る特許請求の範囲(請求項11)の記載によれば、 本件発明11の方法は、@「排ガス・スクラバ(1)から、排ガス導 管(2)から独立したバッファ・タンク(6)へ、…汚染されたスク ラバ流体を取り出し」、A「前記遠心分離機から前記バッファ・タン 5 ク(6)に、浄化されたスクラバ流体を供給すること」、B「前記バ ッファ・タンク(6)から前記排ガス・スクラバに、浄化されたスク ラバ流体を供給すること」が特定されており、互いにスクラバ流体が 供給される「排ガス・スクラバ」と「バッファ・タンク」は別体のも のであることを前提としていると解される。 10 (イ) また、前記した「タンク」の意味に加え、本件発明11に係る本件 訂正の経緯及び内容(訂正前の「排ガス・スクラバ(1)からバッフ ァ・タンク(6)へ、…汚染されたスクラバ流体を取り出し、」との 記載を「排ガス・スクラバ(1)から、排ガス導管(2)から独立し たバッファ・タンク(6)へ、…汚染されたスクラバ流体を取り出 15 し、」に訂正したもの)や、前記した本件明細書の【0043】の記 載に係る訂正内容(訂正前の「スクラバ出口4は、スクラバ流体のた めのバッファ・タンク6の入口5に接続されている。」との記載を 「スクラバ出口4は、スクラバ流体のための、排気ガス導管2から独 立したバッファ・タンク6の入口5に接続されている。」と訂正した 20 もの)を踏まえると、訂正後の本件発明11の「バッファ・タンク」 は、「ガス・スクラバ」とは別体の構造部材であると解するのが相当 である。 イ そうすると、本件発明11と甲1発明2を対比した場合、「バッファ・ タンク」に係る相違点としては、次のように認定するのが相当である(本 25 件審決の認定と異なる部分に下線を付した。)。 【相違点9′】 35 バッファ・タンクについて、本件発明11は、「ガス・スクラバ」とは 別体であり、「排ガス導管(2)から独立したバッファ・タンク(6)」 であるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明2の 「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、甲1の図14に示され 5 たとおりのものである点。 (2) 相違点9′の容易想到性について 相違点9′の容易想到性については、前記の相違点4′の容易想到性の判 断と同様の理由から、動機付けが認められないから、相違点9′に係る本件 発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 10 (3) 取消事由2についての結論 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、本件発明11、及び本 件発明11の発明特定事項を全て含む本件発明12は、甲1発明2及び周知 技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本件審決の甲1発明2に基づく本件発明11、12の進歩性 15 判断は、結論として誤りはなく、取消事由2は認められない。 4 結論 以上のとおり、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 20 裁判長裁判官 清水響 25 裁判官 菊池絵理 36 裁判官 頼晋一 5 37 (別紙1) 特許請求の範囲 (注)下線部は本件訂正による訂正箇所を示す。 5 【請求項1】 船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスを浄化する ための閉じた排ガス浄化装置であって、 排ガス導管(2)内を流れる前記排ガスを浄化するためのガス・スクラバ(1) を有し、このガス・スクラバは、汚染物質粒子を有する汚染された、水道水、淡 10 水、または脱塩海水のスクラバ流体を作り出し、 このガス・スクラバに接続され、前記汚染されたスクラバ流体を浄化するため のスクラバ流体浄化装置を有し、 前記スクラバ流体浄化装置は、前記汚染されたスクラバ流体から、少なくとも、 汚染物質粒子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを分離するための 15 遠心分離機(9)を有し、 この遠心分離機は、 分離ディスク(13)の積層体を備えた分離スペース(12)の周りを取り囲 むロータ(11)と、 前記分離スペースの中に伸びる、汚染されたスクラバ流体のためのセパレータ 20 入口(8)と、 前記分離スペースから伸びる、浄化されたスクラバ流体のための第一のセパレ ータ出口(14)と、 前記分離スペースから伸びる、汚染物質相のための第二のセパレータ出口(1 5)と、を有し、 25 このスクラバ流体浄化装置は、 汚染されたスクラバ流体を前記排ガス・スクラバから前記セパレータ入口へ導 38 くための手段と、 浄化されたスクラバ流体を第一のセパレータ出口から前記排ガス・スクラバへ 導くための手段と、を更に有していること、 前記排ガス浄化装置のスクラバ流体浄化装置は、前記排ガス導管から独立し、 5 前記ガス・スクラバ(1)から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッフ ァ・タンク(6)を更に有し、 前記浄化されたスクラバ流体を前記第一のセパレータ出口から前記排ガス・ス クラバへ導くための手段は、このバッファ・タンクを介して、浄化されたスクラ バ流体を前記第一のセパレータ出口(14)から前記排ガス・スクラバ(1)へ 10 導くように構成されていること、 前記汚染されたスクラバ流体を排ガス・スクラバから前記セパレータ入口へ導 くための手段は、前記バッファ・タンク(6)を介して、汚染されたスクラバ流 体を前記排ガス・スクラバ(1)から前記セパレータ入口(8)へ導くように構 成されていること、 15 汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ・ディスク積層体遠心分離 機(20,20’)に抜き出すための手段を更に有していて、この手段は、前記 汚染されたスクラバ流体から、少なくとも、汚染物質粒子を有する汚染物質相と 浄化されたスクラバ流体とを、分離するように構成されていること、 を特徴とする排ガス浄化装置。 20 【請求項2】 下記特徴を有する請求項1に記載の排ガス浄化装置、 前記第二のセパレータ出口(15)は、汚染物質相の間欠的な排出のための排出 ポートを有している。 【請求項3】 25 下記特徴を有する請求項2に記載の排ガス浄化装置、 前記スクラバ流体浄化装置は、 39 前記分離スペース(12)の径方向外側の部分の中の汚染物質相の量に関係する 前記遠心分離機のプロセス・パラメータを決定するための手段と、 前記分離スペースの径方向外側の部分の中の汚染物質相の量が予め定められたレ ベルを超えたことを示す、前記プロセス・パラメータについての予め定められた条 5 件で、前記第二のセパレータ出口(15)の前記排出ポートを開くように構成され た手段と、を更に有している。 【請求項4】 下記特徴を有する請求項3に記載の排ガス浄化装置、 前記運転パラメータは、前記第一のセパレータ出口(14)の中の浄化されたス 10 クラバ流体の濁り度であり、 前記運転パラメータの予め定められた条件は、この濁り度が予め定められたレベ ルを超えたことである。 【請求項5】 下記特徴を有する請求項3に記載の排ガス浄化装置、 15 前記遠心分離機は、第三のセパレータ出口を更に有していて、この第三のセパレ ータ出口は、前記分離スペース(12)の径方向外側の部分から伸び、 前記運転パラメータは、この第三のセパレータ出口での圧力であって、前記予め 定められた条件は、この圧力が予め定められたレベルを下回ったことである。 【請求項6】 20 下記特徴を有する請求項1から5の何れか1項に記載の排ガス浄化装置、 前記セパレータ入口(8)は、ハーメチック・タイプである。 【請求項7】 下記特徴を有する請求項1から6の何れか1項に記載の排ガス浄化装置、 前記スクラバ流体浄化装置は、前記セパレータ入口(8)及び前記第一のセパレ 25 ータ出口(14)と連絡するバイパス(19)を更に有している。 【請求項8】 40 削除 【請求項9】 削除 【請求項10】 5 下記特徴を有する請求項1に記載の排ガス浄化装置、 前記ブリード・オフ・ディスク積層体遠心分離機(20,20’)は、更に、前 記第二のセパレータ出口(15)から汚染物質相を受け取るように構成されている。 【請求項11】 船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスに由来する 10 汚染されたスクラバ流体を浄化するための方法であって、 − 排ガス・スクラバ(1)から、排ガス導管(2)から独立したバッファ・ タンク(6)へ、水道水、淡水、または脱塩海水の汚染されたスクラバ流体を取 り出し、ここで、この汚染されたスクラバ流体は、汚染物質粒子を有し、汚染さ れたスクラバ流体を前記バッファ・タンクから遠心分離機に供給し、 15 − ディスク積層体遠心分離機(9)の中で、前記汚染されたスクラバ流体か ら、汚染物質粒子を有する汚染物質相を分離し、それにより、浄化されたスクラ バ流体を取り出し、 − 前記遠心分離機から前記バッファ・タンク(6)に、浄化されたスクラバ 流体を供給すること、 20 − 前記バッファ・タンク(6)から前記排ガス・スクラバに、浄化されたス クラバ流体を供給すること、及び 汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ・ディスク積層体遠心分離 機(20,20’)に抜き出し、抜き出された汚染されたスクラバ流体の一部か ら、少なくとも、汚染物質粒子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体と 25 を、分離すること、 を特徴とする方法。 41 【請求項12】 下記工程を更に有する、請求項11に記載の方法、 − 前記遠心分離機(9)から、汚染物質粒子を有する前記分離された汚染物相 を排出する。 5以上 42 43 (別紙2) 本件明細書の記載事項(抜粋) (注)下線部は本件訂正による訂正箇所を示す。 5 【技術分野】 【0001】 本発明は、スクラバ流体浄化装置を有する排ガス浄化装置、及び汚染されたスクラバ流 体を浄化するための方法に係る。 【背景技術】 10 【0002】 今日の海運業は、燃料のエンジンの中の燃焼から生ずる放出物などのような、有害な放 出物を減少させるために、有害な環境的な影響を最小にするために、そして、現在及び将 来の排出規制を満たすために、懸命に努力している。 【0003】 15 この中の一つの部分は、船舶からの硫黄酸化物(SO x )の放出物を減少させることで ある。硫黄酸化物は、硫化物残渣を含む燃料の燃焼の中で作り出される。排ガスの中の硫 黄酸化物の量は、例えば、スクラバを使用することにより、排ガス浄化により減少される ことが可能である。上述のスクラバの助けにより排ガスを浄化するプロセスは、汚染され たスクラバ流体を作り出す。 20 【0004】 他の目的は、船舶用エンジンからの窒素酸化物(NO x )の放出を減少させることにあ る。これは、排ガス再循環(EGR)を実施することにより行われることが可能であり、 ここで、排ガスの一部がエンジンの燃焼室に再循環される。しかしながら、排ガスの中の すす及び粒子の量を減少させることが必要である。それ故に、排ガスを浄化することが望 25 ましく、それは、スクラバを使用することにより行われることが可能である。また、この プロセスの中で、汚染されたスクラバ流体が作り出される。 44 【0006】 汚染されたスクラバ流体は、すすまたは他の有機物または無機物の燃焼残渣を有してい る。そのような汚染されたスクラバ流体の海中への放出は、環境的な観点から容認されず、 且つ、厳しく規制されている。他方、大量の廃棄物を、廃棄のために港まで移送すること 5 は、多大な費用が掛かり、好ましくない。 【0008】 従って、一つの問題は、スクラバ流体の浄化を改善することである。スクラバ流体の浄 化を改善する一つの更なるアスペクトは、スクラバ流体から排ガスの中に汚染物質が再び 引き継がれることのリスクを最小にすることにあり、そのような汚染物質は、冷却機など 10 のような下流の装置で問題を引き起こすことがある。更なる問題は、汚染されたスクラバ 流体の中の粒子が時間の経過に伴いプロセス装置及び配管の上に付着し易いということで あって、それは、すすの付着量の増大が、プロセス装置、センサー類、トランスミッター 類などの不調をもたらすと言うリスクをもたらす。フィルタ技術に依拠する装置はまた、 フィルタ・コンポーネントの監視、保守及び交換が必要になると言う弱点を有している。 15 【発明の概要】 【0010】 従って、本発明は、上述の問題に対するソリューションを提供することにあり、それは、 排ガス処理手順の環境的なアスペクトを更に改善し、排ガス処理手順の効率を改善し、保 守作業に対する必要性を最小限に抑え、スクラバ流体を取り扱うプロセス装置に関わる問 20 題を取り除くことにより、実現される。 【0011】 かくして、本発明は、ディーゼル・エンジンのための、排ガスを浄化するためのガス・ スクラバを有する排ガス浄化装置に係り、ここで、ガス・スクラバは、排ガスから生ずる 汚染物質粒子を有する汚染されたスクラバ流体を作り出す。このスクラバは、好ましくは 25 湿式スクラバであって、ここで、排ガスを、排ガスの中の汚染物質の量を減らすために、 スクラバ流体と接触させる。そのような湿式ガス・スクラバに、排ガスのための入口、排 45 ガスにスクラバ流体を供給するための給湿デバイス、及び、排ガスから汚染されたスクラ バ流体を取り除くための飛沫セパレータが設けられても良い。ガス・スクラバには、前記 汚染されたスクラバ流体を浄化するためのスクラバ流体浄化装置が接続されている。ガ ス・スクラバ及びスクラバ流体浄化装置は、スクラバ流体ループを、即ち、システムの中 5 のスクラバ及び他のコンポーネントの中を通るスクラバ流体の再循環をもたらす循環シス テムを、形成しても良い。 【0012】 スクラバ流体浄化装置は、前記汚染されたスクラバ流体から、少なくとも、汚染物質粒 子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを分離するための遠心分離機を有して 10 いる。遠心分離機は、分離スペースの周りを取り囲むロータを有していて、このロータは、 分離ディスクの積層体またはプレートのセットを備えている。分離ディスクまたはプレー トは、円錐台形であっても良く、または、他の適切な形状を有していても良い。遠心分離 機は更に、前記分離スペースの中に伸びる汚染されたスクラバ流体のためのセパレータ入 口、前記分離スペースから伸びる浄化されたスクラバ流体のための第一のセパレータ出口、 15 及び、前記分離スペースから伸びる汚染物質相のための第二のセパレータ出口、を有して いる。 【0013】 スクラバ流体浄化装置は更に、排ガス・スクラバからセパレータ入口へ汚染されたスク ラバ流体を導くための手段、及び、第一のセパレータ出口から排ガス・スクラバへ浄化さ 20 れたスクラバ流体を導くための手段、を有している。ガス・スクラバから遠心分離機へ及 び遠心分離機からガス・スクラバへスクラバ流体を導くための手段は、スクラバ流体を循 環させるためのスクラバ流体ループを形成するように構成されている。汚染されたスクラ バ流体及び浄化されたスクラバ流体を導くための手段は、導管、パイプ、チューブ、タン ク、ポンプなどを有していても良い。 25 【0014】 46 見出されているところによれば、ディスク積層体遠心分離機を使用することによって、 排ガス・スクラバ流体からの、汚染物質粒子を有する汚染物質相の分離が、驚くほどに効 果的になる。そのようなセパレータ内での分離は、凝集された粒子を維持するために十分 に穏やかであって、且つ同時に、高い分離力及び短い分離距離をもたらすことにより、効 5 果的である。また見出されているところによれば、油などのような、スクラバ流体の中の 比較的軽い液体有機物残渣は、流体の中の密度がより高い固体の粒子に付着し易く、それ は、ディスク積層体セパレータの中で、油及び粒子を、スクラバ流体と比べて密度が高い 汚染物質相として、分離することを可能にする。 【0015】 10 かくして、スクラバ流体浄化装置は、フィルタまたは他の処理工程に対する同一の必要 性を有しておらず、それ故に、主要なコンポーネントの保守及び交換に対する必要性を最 小にすることにより、装置の取り扱いを改善する。また判明しているところによれば、デ ィスク積層体遠心分離機をスクラバ流体に適用することにより、汚染物質相の大部分が、 濃縮された状態で、且つ化学薬品を添加することなく、取り除かれることが可能になる。 15 それ故に、廃棄材料の体積が、低く維持されることも可能になる。 【0024】 排ガス浄化装置は、更に、バッファ・タンクを有していても良く、ここで、第一のセパ レータ出口から排ガス・スクラバへ浄化されたスクラバ流体を導くための手段は、バッフ ァ・タンクを介して、第一のセパレータ出口から排ガス・スクラバへ浄化されたスクラバ 20 流体を導くように構成されても良い。それにより、第一のセパレータ出口からの浄化され たスクラバ流体は、バッファ・タンクに導入され、それにより、バッファ・タンク内のス クラ バ流体の 中の 汚染物 質 相の濃度 が、 低く保 た れる。付 着( fouling )ま たは 付着 (scaling)による、装置の感受性の高い部分上への材料の堆積についての問題が、それ 故に、最小限に抑えられることも可能である。配管の閉塞、及び浄化装置及びスクラバの 25 中での材料のより大きなクラスターの形成及び移送に関係する問題が、減少されることも 可能である。 47 【0025】 排ガス・スクラバからセパレータ入口へ汚染されたスクラバ流体を導くための手段は、 更に、汚染されたスクラバ流体を、排ガス・スクラバからバッファ・タンクを介してセパ レータ入口へ導くように構成されても良い。バッファ・タンクの中のスクラバ流体は、遠 5 心分離機の中で連続的に浄化されても良く、または、汚染物質の濃度がバッファ・タンク の中の特定のレベルを超えたときに浄化されても良い。それにより、汚染されたスクラバ 流体が排ガス・スクラバから供給されるにも拘わらず、バッファ・タンクの中の汚染物質 相の濃度が、最小限に抑えられること、または、特定の低いレベルより低く保たれること が可能である。その代替形態として、汚染されたスクラバ流体を排ガス・スクラバからセ 10 パレータ入口へ導くための手段は、汚染されたスクラバ流体を、直接に排ガス・スクラバ からセパレータ入口へ導くように構成されても良い。 【0029】 排ガス浄化装置は更に、スクラバ流体pHの減少を引き起こすことがある排ガスの中の 酸性の成分(SOxなど)を補償するために、スクラバ流体の酸性度を調整するための手 15 段を有していても良い。この手段は、特に良好な分離性能を維持するために、スクラバ流 体の酸性度をpH6よりも高く維持するように構成されても良い。 【0030】 このスクラバ流体は、水であっても良いが、他の適切な液体であることも可能である。 水の一つの優位性は、硫黄酸化物を溶解するその能力である。排ガスを浄化するプロセス 20 の中に最初から含まれるスクラバ流体、または、運転の間にプロセスに加えられるスクラ バ流体は、好ましくは、水道水、淡水、または脱塩海水であって良い。スクラバ流体は、 一つのアスペクトにおいて、海水と比べて低い、または、海水と比べて遥かに低い量の塩 化物を有する水であることを意味している。水道水が、タンクから供給されることが可能 であり、または、船上で海水の脱塩により作り出されることが可能である。しかしながら、 25 スクラバ流体は、スクラバ・プロセスから含まれる塩分を含んでいても良い。 【0033】 48 汚染物質相は、硫黄酸化物残渣、すす、部分的に酸化されたディーゼル・オイル及び酸 化されていないディーゼル・オイル、及び金属酸化物から溶解された塩分などのような、 有機物または無機物の燃焼残渣を有する、固体のまたは液体の粒子を有していても良い。 エンジンの中の燃焼の中で生成された粒子は、通常、非常に小さく、μmのスケール未満 5 であって、典型的には、約10nmから約30nmまでの範囲の中にある。水などのよう な、適切な流体の中で、それらの粒子は、μmスケールのクラスターの中に凝集し、その サイズは、約5μmから約100μmまでの範囲内、特に、約10μmから約30μmま での範囲内のなどである。 【0034】 10 排ガス浄化装置は、スクラバ流体の一部をブリード・オフ・ディスク積層体遠心分離機 に抜き出すための手段を、更に有していても良い。スクラバ流体の一部を抜き出すための 手段は、汚染されたスクラバ流体の一部を抜き出すように構成されても良く、ここで、ブ リード・オフ・セパレータは、前記汚染されたスクラバ流体から、汚染物質粒子及び浄化 されたスクラバ流体を有する、少なくとも汚染物質相を分離するように構成されても良い。 15 〔中略〕 【0035】 ブリード・オフ・セパレータは、分離ディスクの積層体を分離スペースの周りを取り囲 むロータ、前記分離スペースの中に伸びる、汚染物質粒子を有する前記汚染されたスクラ バ流体の一部のためのセパレータ入口、前記分離スペースから伸びる、浄化されたスクラ 20 バ流体のための第一のセパレータ出口、及び前記分離スペースから伸びる、汚染物質相の ための第二のセパレータ出口を有している。ブリード・オフ・セパレータのロータは、コ ンベア・スクリューの周りを取り囲んでいても良く、このコンベア・スクリューは、ロー タの回転速度とは異なる回転速度で駆動されるように構成され、それによって、汚染物質 相(即ち、分離された相)を、浄化されたスクラバ流体と比べて高い密度で、第二のセパ 25 レータ出口の方へ移送するようになっている。 【0038】 49 本発明の他のアスペクトにおいて、水などのような、汚染されたスクラバ流体を浄化す るための方法が提供され、この方法は、以下のステップを有している; − 汚染されたスクラバ流体を排ガス・スクラバから供給し、 − ディスク積層体遠心分離機の中で、汚染されたスクラバ流体から汚染物質相を分 5 離し、それにより、浄化されたスクラバ流体をもたらし、 − 浄化されたスクラバ流体を排ガス・スクラバへ供給する。 【0039】 この方法は、本発明に基づく排ガス浄化装置の中で実施されても良い。 【0040】 10 この方法は、更に、以下のステップを有していて良い;浄化されたスクラバ流体を、遠 心分離機からバッファ・タンクへ、供給し、浄化されたスクラバ流体を、バッファ・タン クから排ガス・スクラバへ供給する。浄化されたスクラバ流体は、それに代わって、直接、 遠心分離機から排ガス・スクラバに供給されても良い。この方法は、分離された汚染物質 相を遠心分離機から排出するステップを、更に有していても良い。 15 【発明を実施するための形態】 【0043】 図1に、ガス・スクラバ流体のための浄化装置を有する排ガス浄化装置が、示されてい る。排ガス・スクラバ1は、船舶の主機などのような大きいディーゼル・エンジンの排ガ ス導管2に作用する。スクラバには、スクラバ流体のためのスクラバ入口3及びスクラバ 20 出口4が設けられている。スクラバ出口4は、スクラバ流体のための、排気ガス導管2か ら独立したバッファ・タンク6の入口5に接続されている。出口7から始まって、バッフ ァ・タンク6には、セパレータ供給ポンプ10を介して遠心分離機9のセパレータ入口8 に接続された、スクラバ流体のための浄化回路が設けられている。 【図1】 50 【0044】 遠心分離機9は、分離スペース12の周りを取り囲むロータ11を有していて、この分 離スペースは、円錐台形の分離ディスク13の積層体を収容していて、この分離スペース 5 に、セパレータ入口8が伸びている。遠心分離機9には、更に、浄化されたスクラバ流体 のための第一のセパレータ出口14、及び第二の出口15が設けられ、第二の出口は、浄 化されたスクラバ流体と比べて高い密度で分離された相を排出するために、排出ポートま たはノズルの形態で、分離スペースからロータの中を通って伸びている。第一のセパレー タ出口14は、バッファ・タンク6上の入口16に接続されて、浄化回路を閉じる。バッ 10 ファ・タンクには、スクラバ流体を排ガス・スクラバへ供給するための他の出口17が設 けられ、ここで、出口17は、スクラバ供給ポンプ18を介してスクラバ1の入口3に接 続されている。 【0045】 運転の間、スクラバ流体は、スクラバ供給ポンプ18を介して、バッファ・タンク6か 15 らスクラバ入口3へ供給される。スクラバ流体は、スクラバの中でアトマイズされ、そし て、排ガス導管2の中のまたはそれからの排ガスの流れに供給される。スクラバの中で、 スクラバ流体は、有機物及び無機物の燃焼残渣の排ガスからの浄化の中で使用される。そ の結果生ずるスクラバ流体及び排ガスの燃焼残渣の混合物は、飛沫の形態でガスの流れか 51 ら分離され、そして、スクラバ流体浄化装置のスクラバ流体のためのスクラバ出口4及び 入口5から、バッファ・タンク6に戻される。 【0046】 小さい粒子の形態でスクラバ流体の中に含まれる排ガスの燃焼残渣は、流体の中のより 5 大きい粒子の中に凝集されて、汚染物質粒子を有する汚染物質相を形成する。バッファ・ タンク6の中のスクラバ流体は、連続的にまたは必要とされるときに、セパレータ供給ポ ンプ10により、浄化ループの中への出口を介して、遠心分離機9のセパレータ入口8へ 送られる。汚染物質相を含むスクラバ流体は、高速度で回転する遠心分離機9のロータ1 1の中に含まれる分離スペース12の中に導入され、更に、ディスク積層体13の中に導 10 入される。 【0047】 汚染物質粒子を有する汚染物質相は、スクラバ流体と比べて高い平均密度を有している。 遠心力の影響の下で、且つ、分離ディスクの傾けられた表面により容易にされて、汚染物 質粒子を有する汚染物質相は、スクラバ流体から分離され、そして分離スペースの径方向 15 外側の領域に集められ、そこから、第二のセパレータ出口15を介して排出される。 【0048】 第二のセパレータ出口15は、排出ポートまたはノズルの形態であって、粒子は、短い 期間の間、ロータ11の周囲で排出ポートを開くことにより、遠心分離機から間欠的に排 出され、または、ロータの周囲で開けられたノズルを介して、連続的に排出される。 20 【0049】 排出は、スクラバ流体が遠心分離機の中にまだ導入されている間に実施されることが可 能であり、または、一時的に遮断されることも可能である。排出された汚染物質相は、後 に廃棄するために船舶上に集められても良く、従って、排出物の体積を最小にすることが 重要である。分離効率を依然として維持しながら、高い濃度の汚染物質粒子を有する、排 25 出される汚染物質相を得るために、セパレータに、排出が必要となしる時点を決定するた めの手段が設けられても良い。これは、第一のセパレータ出口の中の濁り度をモニターす 52 ることにより到達されても良く、これにより、浄化されたスクラバ流体の濁り度が、分離 スペースの径方向外側の部分が汚染物質相で満たされたことを示す閾値を超えて増大した とき、排出ポートが開かれる。 【0063】 5 図5は、図1の中で先に説明されたものと同様な、本発明に基づくガス・スクラバ流体 のための浄化装置を有する排ガス浄化装置の他の例を示している。スクラバ1、遠心分離 機9、バッファ・タンク、及び更なる中間的なコンポーネントは、スクラバ流体の循環の ためのスクラバ流体ループを形成している。ガス・スクラバ流体のための浄化装置は、ス クラバ流体・ループからスクラバ流体の一部を抜き出すための手段を含んでいて、この手 10 段は、ブリード・オフ・セパレータ供給ポンプ27を介して更なるブリード・オフ遠心分 離機20に接続されている。ブリード・オフ遠心分離機は、同様なやり方で、図2〜4の 何れかに基づく浄化装置に接続されても良い。 【図5】 53 【0064】 ここに示された例において、前記手段は、バッファ・タンク6に接続されているが、前 記手段は、代替形態として、第一のセパレータ出口14に接続されていても、または、何 れか他のスクラバ流体の一部ループに接続されていても良く、それにより、スクラバ流体 5 の中の汚染物質粒子の量は、既に低く、それにより、ブリード・オフ・セパレータの中を 通る流れの体積の増大を可能にする。供給ポンプは、流体の流れをセパレータ入口に供給 するための他の手段で置き換えられても良く、それは、例えば、重量を利用するもの、ま たはバッファ・タンク6またはスクラバ1の中の過大な圧力によるものなどである。スク ラバ流体ループには、更に、運転の間に、プロセスに、水道水、淡水または脱塩海水など 10 のような、清浄なスクラバ流体を追加するための手段(図に示されていない)が設けられ ても良い。 【0065】 ブリード・オフ遠心分離機20は、分離スペース22の周りを取り囲むロータ21を有 していて、この分離スペースは、円錐台形の分離ディスク23の積層体を収容し、この分 15 離スペースに、セパレータ入口24が伸びている。遠心分離機20には、更に、浄化され たスクラバ流体のための第一のセパレータ出口25、及び、第二の出口26が設けられ、 この第二の出口は、浄化されたスクラバ流体と比べて高い密度で分離された相を排出する ために、分離スペースから伸びる排出ポートの形態である。浄化されたスクラバ流体のた めの第一のセパレータ出口25は、排出のために船舶の外側に、または一時的な貯蔵のた 20 めのタンクに、つながっていても良い。第二のセパレータ出口26は、汚染された相のた めの貯蔵タンクに接続されても良い。 【0066】 運転の間、スクラバ流体ループの中でのスクラバ流体の浄化は、先の例との関係で説明 されたように、実施される。スクラバ流体ループから、汚染されたスクラバ流体の一部が、 25 スクラバ流体ループから抜き出され、ブリード・オフ・セパレータ20の入口24へ移送 される。汚染物質相を含むスクラバ流体は、高速度で回転するロータ21の中に含まれる 54 分離スペース22の中に導入され、そして、更に、ディスク積層体23の中に導入され る。 【0067】 汚染物質相は、スクラバ流体と比べて高い平均密度を有している。遠心力の影響の下で、 5 且つ、分離ディスクの傾けられた表面により容易にされ、汚染物質相は、スクラバ流体か ら分離され、分離スペースの径方向外側の領域22に集められ、そこから、排出ポートの 形態の第二の出口26を介して排出される。汚染物質相は、短い期間の間排出ポートを開 くことにより、遠心分離機から間欠的に排出される。排出された汚染物質相は、後に廃棄 するために、船舶上に集められても良い。浄化されたスクラバ流体は、第一のセパレータ 10 出口25から、排出のために船舶の外側へ、または一時的な貯蔵のためにタンクへ導かれ る。 以上 15 55 (別紙3) 本件審決の抜粋 第1〜第6 〔略〕 5 第7当審の判断 当審は、請求人が主張する前記無効理由には理由がない、と判断する。判断理由の詳細 は、次のとおりである。 1 甲号証の記載事項 〔略〕 10 2 無効理由について (1) 甲1に記載された発明(甲1発明1、甲1発明2) 甲1の記載(前記1(1)参照)を、図14に記載された「湿式排煙脱硫装置60」に着 目し、同図に記載された具体的な構成(図14中の部材及び部材番号)を当てはめながら 整理すると、甲1には、次の「湿式排煙脱硫装置」に係る発明(以下、「甲1発明1」と 15 いう。)及び「湿式排煙脱硫方法」に係る発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載 されていると認められる。 ・甲1発明1 「ジェットバブリング反応槽10、排ガス出口室12、排ガス入口室14、第1隔板1 6、第2隔板18、空間部22、出口ダクト24、入口ダクト26、連通管28、排ガス 20 分散管30、攪拌機32、空気供給管34、第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36、第 2吸収液ノズル(冷却液ノズル)38、吸収液ポンプ40、工業用水ノズル42、排出管 44、排出ポンプ46、固液分離装置48、吸収剤供給管50、排水管52、石膏スラリ 管54、第1液下降管62、第2液下降管64、抜き出しポンプ66、抜き出し管68、 送出管70、及び、固液分離装置71を備えた、図14に記載された排煙脱硫装置60。」 25 ・甲1発明2 「甲1発明1の排煙脱硫装置を用いた湿式排煙脱硫方法。」 56 (2) 本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明1の対比 (ア) 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解す ることができる。 5a 甲1発明1の「第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36」と「工業用水ノズル4 2」を備えた「入口ダクト26」及び「第2吸収液ノズル(冷却液ノズル)38」を備え た「排ガス入口室14」からなる部分は、前記1(1)イ【0007】、【0008】によ れば、排ガスを工業用水及び吸収液と接触させ、排ガスの冷却を行うと同時に排ガス中の 除塵及び硫黄酸化物を除去するための「第1次気液接触」を行う部分である。また、甲1 10 発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間及び「排ガス分散管30」からな る部分は、前記1(1)イ【0006】、【0008】によれば、排ガスを「ジェットバブ リング反応槽10」の下部空間の吸収液層20に導入し、バブリングさせ、排ガス中の除 塵及び硫黄酸化物を除去するための「第2次気液接触」を行う部分である。 よって、このような甲1発明1における「第1次気液接触」及び「第2次気液接触」を 15 行う部分は、本件発明1の「排ガスを浄化するためのガス・スクラバ(1)」であって、 「汚染物質粒子を有する汚染された」「スクラバ流体を作り出」す「ガス・スクラバ」に 相当するものといえる。 b 甲1発明1の「入口ダクト26」、「排ガス入口室14」、「排ガス分散管3 0」、「連通管28」、「排ガス出口室12」、「出口ダクト24」は、前記1(1)イ 20 【0008】、【0009】、オ【0032】によれば、排ガスを導入し、亜硫酸ガスを 除去された排ガスを系外に排出する部分であるから、本件発明1の「排ガス導管(2)」 に相当する。 c 甲1発明1の「排煙脱硫装置」は、前記aでの検討を踏まえると、排ガス中の除 塵及び硫黄酸化物の除去するための「第1次気液接触」及び「第2次気液接触」を行う部 25 分を備えているから、本件発明1の「排ガスを浄化するための」「排ガス浄化装置」に相 当する。 57 d 甲1発明1の「固液分離装置48」は、前記1(1)カによれば、「遠心分離器、 デカンター、フィルター、シックナーを使用できる」こと、また、前記1(1)イ【000 8】、【0009】によれば、吸収液中の亜硫酸ガスが石灰石と反応して形成された石膏 粒子を母液と分離するための装置であることから、本件発明1の「前記汚染されたスクラ 5 バ流体から、少なくとも、汚染物質粒子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体と を分離するための遠心分離機」に相当する。 e 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間、「排出管44」、 「排出ポンプ46」、「固液分離装置48」、「吸収剤供給管50」、「排水管52」及 び「石膏スラリ管54」からなる部分は、前記1(1)イ【0009】の記載及び前記a、 10 dでの検討を踏まえると、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間から排出された 石膏を濃厚に含有する吸収液を「固液分離装置48」にて石膏粒子と母液とに分離し、母 液の一部を排水処理装置に送り、母液の残りを「ジェットバブリング反応槽10」の下部 空間に戻すためのものであるから、本件発明1の「ガス・スクラバに接続され、汚染され たスクラバ流体を浄化するためのスクラバ流体浄化装置」に相当する。 15 f 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、前記1(1)イ 【0006】によれば、吸収液層20を収容する部分であること、及び、前記eでの検討 を踏まえると、本件発明1の「スクラバ流体浄化装置」の「バッファ・タンク」に相当す る。 g 甲1発明1の「第1液下降管62」は、前記1(1)オ【0032】、キ【004 20 5】によれば、「入口ダクト26」内の吸収液を「ジェットバブリング反応槽10」の下 部空間に収容された吸収液層20に流下させるものであること、また、甲1発明1の「排 出管44」、「排出ポンプ46」及び「石膏スラリ管54」は、前記1(1)イ【0009】 によれば、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間から吸収液を「固液分離装置4 8」に送るためのものであること、さらに、前記a、d及びfでの検討も踏まえると、甲 25 1発明1の「第1液下降管62」、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間、「排 出管44」、「排出ポンプ46」及び「石膏スラリ管54」からなる経路は、本件発明1 58 の「汚染されたスクラバ流体を前記排ガス・スクラバから」「遠心分離機」「へ導くため の手段」であって、「バッファ・タンク」「を介して、汚染されたスクラバ流体を前記排 ガス・スクラバ(1)から」「遠心分離機」「へ導くように構成されていること」に相当 するものと一応いうことができる。 5h 甲1発明1の「第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36」、「第2吸収液ノズル (冷却液ノズル)38」及び「吸収液ポンプ40」は、前記1(1)イ【0007】によれ ば、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間より「入口ダクト26」に吸収液を送 給するものであること、また、甲1発明1の「吸収剤供給管50」は、前記1(1)イ【0 009】によれば、石膏を分離した母液の一部を「固液分離装置48」から「ジェットバ 10 ブリング反応槽10」の下部空間に供給するものであること、さらに、前記a、d及びf での検討も踏まえると、甲1発明1の「吸収剤供給管50」、「ジェットバブリング反応 槽10」の下部空間、「吸収液ポンプ40」、「第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36」 及び「第2吸収液ノズル(冷却液ノズル)38」からなる経路は、本件発明1の「浄化さ れたスクラバ流体を」「遠心分離機」「から前記排ガス・スクラバへ導くための手段」で 15 あって、「バッファ・タンクを介して、浄化されたスクラバ流体を」「遠心分離機」「か ら前記排ガス・スクラバ(1)へ導くように構成されていること」に相当するものと一応 いうことができる。 i 甲1発明1の「抜き出し管68」、「抜き出しポンプ66」及び「送出管70」 からなる経路は、前記1(1)キ【0054】によれば、「第1液下降管62」の管内に滞 20 留する、石膏を含むと共に亜硫酸ガスを高濃度に溶解したスラリ(亜硫酸含有スラリ)を 抜き出し、「固液分離手段71」に送るものであるから、本件発明1の「汚染されたスク ラバ流体の一部」を「抜き出すための手段」に相当する。 j 甲1発明1の「固液分離手段71」は、前記iでの検討を踏まえると、「第1液 下降管62」の管内から抜き出した亜硫酸含有スラリを固液分離するためのものといえる 25 し、また、前記1(1)キ【0054】によれば、「遠心分離器、デカンター、フィルター、 シックナーを使用できる」ものであるから、本件発明1の「ブリード・オフ」「遠心分離 59 機」に相当する。 (イ) 以上の点に照らすと、本件発明1と甲1発明1との一致点及び相違点は、それぞ れ、次のように認定することができる。 a 一致点 5 「排ガスを浄化するための排ガス浄化装置であって、 排ガス導管(2)内を流れる前記排ガスを浄化するためのガス・スクラバ(1)を有し、 このガス・スクラバは、汚染物質粒子を有する汚染されたスクラバ流体を作り出し、 このガス・スクラバに接続され、前記汚染されたスクラバ流体を浄化するためのスクラ バ流体浄化装置を有し、 10 前記スクラバ流体浄化装置は、前記汚染されたスクラバ流体から、少なくとも、汚染物 質粒子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを分離するための遠心分離機を有 し、 このスクラバ流体浄化装置は、 汚染されたスクラバ流体を前記排ガス・スクラバから前記遠心分離機へ導くための手段 15 と、 浄化されたスクラバ流体を遠心分離機から前記排ガス・スクラバへ導くための手段と、 を更に有していること、 前記排ガス浄化装置のスクラバ流体浄化装置は、バッファ・タンクを更に有し、 前記浄化されたスクラバ流体を前記遠心分離機から前記排ガス・スクラバへ導くための 20 手段は、このバッファ・タンクを介して、浄化されたスクラバ流体を前記遠心分離機から 前記排ガス・スクラバ(1)へ導くように構成されていること、 前記汚染されたスクラバ流体を排ガス・スクラバから前記遠心分離機へ導くための手段 は、前記バッファ・タンクを介して、汚染されたスクラバ流体を前記排ガス・スクラバ (1)から前記遠心分離機へ導くように構成されていること、 25 汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ遠心分離機に抜き出すための手段を 更に有していること、 60 を特徴とする排ガス浄化装置。」 b 相違点1 排ガス浄化装置で浄化される排ガスについて、本件発明1は、「船舶用ディーゼル・エ ンジンのEGRにおいて再循環される排ガス」であるとさらに特定しているのに対して、 5 これに対応する甲1発明1の排ガスは、用途が限定されていない点。 c 相違点2 排ガス浄化装置について、本件発明1は、「閉じた排ガス浄化装置」であるとさらに特 定しているのに対して、これに対応する甲1発明1の「排煙脱硫装置」は、甲1の図14 に示されたとおりのものである点。 10 d 相違点3 スクラバ流体について、本件発明1は、「水道水、淡水、または脱塩海水のスクラバ流 体」であるとさらに特定しているのに対して、甲1発明1は、「第1次気液接触」及び 「第2次気液接触」を行う部分において排ガス中の除塵及び硫黄酸化物の除去するために 「工業用水」及び「吸収液」を使用している点。 15 e 相違点4 バッファ・タンクについて、本件発明1は、「前記排ガス導管から独立し、前記ガス・ スクラバ(1)から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク(6)」で あるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明1の「ジェットバブリン グ反応槽10」の下部空間は、甲1の図14に示されたとおりのものである点。 20 f 相違点5 遠心分離機について、本件発明1は、「分離ディスク(13)の積層体を備えた分離ス ペース(12)の周りを取り囲むロータ(11)と、前記分離スペースの中に伸びる、汚 染されたスクラバ流体のためのセパレータ入口(8)と、前記分離スペースから伸びる、 浄化されたスクラバ流体のための第一のセパレータ出口(14)と、前記分離スペースか 25 ら伸びる、汚染物質相のための第二のセパレータ出口(15)」とを有し、「汚染された スクラバ流体を前記排ガス・スクラバから前記遠心分離機へ導くための手段」(以下、 61 「汚染流体案内手段」という。)が、汚染されたスクラバ流体を「前記セパレータ入口」 に導くための手段であり、「浄化されたスクラバ流体を遠心分離機から前記排ガス・スク ラバへ導くための手段」(以下、「浄化流体案内手段」という。)が、浄化されたスクラ バ流体を「第一のセパレータ出口」から前記排ガス・スクラバへ導くための手段であると 5 さらに特定しているのに対して、甲1発明1は、その具体的な構造が明らかでなく、「汚 染流体案内手段」及び「浄化流体案内手段」との接続箇所も明らかでない点。 g 相違点6 ブリード・オフ遠心分離機について、本件発明1は、「ブリード・オフ・ディスク積層 体遠心分離機(20,20’)」であるとさらに特定しているのに対して、甲1発明1は、 10 その具体的な構造が明らかでない点。 h 相違点7 汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ・遠心分離機に抜き出すための手段 について、本件発明1は、「前記汚染されたスクラバ流体から、少なくとも、汚染物質粒 子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを、分離するように構成されている」 15 としているのに対して、甲1発明1は、汚染物質粒子を有する汚染物質相と浄化されたス クラバ流体とを分離するように構成することについて明示していない点。 イ 相違点の検討 検討の末、当審は、相違点1〜4に係る本件発明1の構成は個別にみても容易想到の事 項とはいえない上、相違点5、6に係る同構成をさらに合わせた構成全体についても容易 20 想到の事項とはいえないと判断する。 以下、相違点1から順に、その判断理由につき詳述する。 (ア) 相違点1について a 甲2、甲35、甲36、甲37、甲38及び甲39の記載(前記1(2)ウ、キ、 同(31)ア、イ、エ、同(32)ア〜エ、同(33)ア、エ、カ、同(34)イ、オ、カ、同 25 (35)ア〜ウ参照)によれば、ディーゼル機関での排出ガス再循環(EGR)は、NOx 低減技術の一つとして周知慣用の技術であり、また、このようなEGR技術を船舶用途の 62 ディーゼル・エンジンに適用されることや、EGRにおいて再循環される排出ガスをスク ラバで浄化することも、本件特許に係る優先日前において既に当業者間にて周知のもので あったといえる。 しかしながら、船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスの浄 5 化に、ジェットバブリング反応槽を備えた排煙脱硫装置を使用することが、本件特許に係 る優先日前において当業者にとって周知の事項であることを示す証拠はない。 加えて、甲1には、ジェットバブリング反応槽を備えた排煙脱硫装置で浄化する排ガス の発生源について明確な特定はなく、当該装置を船舶上に設置することをうかがわせる記 載もない。 10 b これらの事項を併せ考えると、甲1発明1の「排煙脱硫装置60」を船舶上に設 けて、船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスの浄化に使用す ること(相違点1に係る本件発明1の構成を採用すること)は、当業者によって容易想到 の事項といえない。 (イ) 相違点2について 15 a 前記相違点2に係る本件発明1における「閉じた排ガス浄化装置」は、前記第3 の3(1)ア(イ)bで検討したとおり、排ガス浄化装置中のスクラバ流体浄化装置における、 確立されたスクラバ流体ループを内含するものであって、このスクラバ流体ループは、複 合循環経路(スクラバ流体が、「バッファ・タンク6」を介して、「排ガス・スクラバ1」 と「遠心分離機9」との間を循環する経路)により構成され、常態的に、その系内にてス 20 クラバ流体の循環が完結し、系内外への流入出のないものと解される。 b 前記aの点に照らして、甲1発明1における対応する部分について子細にみると、 甲1発明1の「排煙脱硫装置60」は、確かに、前記1(1)イ、オのとおり、「ジェット バブリング反応槽10」の下部空間、「吸収液ポンプ40」、「第1吸収液ノズル(冷却 液ノズル)36」、「第2吸収液ノズル(冷却液ノズル)38」、「第1液下降管62」、 25 前記下部空間と循環する経路、及び、前記下部空間、「排出管44」、「排出ポンプ4 6」、「石膏スラリ管54」、「固液分離装置48」、「吸収剤供給管50」、前記下部 63 空間と循環する経路を備えているから、スクラバ流体にあたる吸収液は、当該経路を循環 しているということができる。しかしながら、当該経路にあっては、「工業用水ノズル4 2」からスクラバ流体にあたる工業用水が噴霧されているし、さらに、「ジェットバブリ ング反応槽10」の下部空間の吸収液は、「固液分離装置48」にて石膏が分離された後、 5 その母液の一部が「排水管52」により排水処理装置に送られるように構成されているこ とから(【0006】〜【0009】、【0032】)、常態的に系外からの流入経路と 系外への流出経路が存するものであると理解するのが相当である。 そうすると、甲1発明1の「排煙脱硫装置60」は、前記aのように解される本件発明 1の「閉じた排ガス浄化装置」には該当しないというほかないから、前記相違点2は実質 10 的な相違点である。 c そこで、さらに前記相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討 を進めることとする。 甲1発明1は、前記bにおいて検討したとおり、「ジェットバブリング反応槽10」の 下部空間の吸収液から石膏を分離した母液の一部を、常態的に系外の排水処理装置に送る 15 ことを前提とした技術であるといえる。 そして、甲1発明1は、前記1(1)ウによれば、従来の湿式排煙脱硫装置から送液され る排煙脱硫排水を処理する排水処理設備において、その性能の劣化、低下が予想以上に進 行することが問題になっているところ、当該排水処理装置の性能を低下させないような水 質の排煙脱硫排水を排出できる排煙脱硫装置を提供することを課題としてなされたもので 20 あり、前記1(1)エ、キによれば、「第1液下降管62」から「抜き出しポンプ66」に より、亜硫酸含有スラリ(亜硫酸イオンを高濃度で含有するスラリになった吸収液)を抜 き出して、「固液分離装置71」で固液分離して亜硫酸含有液を得て、これを「排水管5 2」中の母液に注入して、母液中の硫黄過酸化物を無害なSO 4 2−に転化することで上記 課題を解決したものである。 25 これらの事項を併せ考慮すると、甲1発明1では、「ジェットバブリング反応槽10」 の下部空間の吸収液(母液)を「排水管52」から排水処理装置に送らないことは想定さ 64 れていないというべきであるから、甲1発明1において、常態的に系外への流出や系外か らの流入が存在しない循環経路を構築することは、当業者といえども、容易に想到し得る ものといえない。 d 以上のとおりであるから、前記相違点2は実質的な相違点である上、甲1発明1 5 において、当該相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとって容易 想到の事項ともいえない。 (ウ) 相違点3について a 相違点の検討に先立って、あらかじめ本件発明1における「水道水、淡水、また は脱塩海水のスクラバ流体」の意義について確認する。 10 本件特許明細書には、これに関連する事項として、次の記載を認めることができる。 ・「このスクラバ流体は、水であっても良いが、他の適切な液体であることも可能であ る。水の一つの優位性は、硫黄酸化物を溶解するその能力である。排ガスを浄化するプロ セスの中に最初から含まれるスクラバ流体、または、運転の間にプロセスに加えられるス クラバ流体は、好ましくは、水道水、淡水、または脱塩海水であって良い。スクラバ流体 15 は、一つのアスペクトにおいて、海水と比べて低い、または、海水と比べて遥かに低い量 の塩化物を有する水であることを意味している。水道水が、タンクから供給されることが 可能であり、または、船上で海水の脱塩により作り出されることが可能である。しかしな がら、スクラバ流体は、スクラバ・プロセスから含まれる塩分を含んでいても良い。」 (【0030】) 20 ・「また判明しているところによれば、ディスク積層体遠心分離機をスクラバ流体に適 用することにより、汚染物質相の大部分が、濃縮された状態で、且つ化学薬品を添加する ことなく、取り除かれることが可能になる。それ故に、廃棄材料の体積が、低く維持され ることも可能になる。」(【0015】) そして、これらの記載によれば、本件発明1は、ディスク積層体遠心分離機をもってし 25 て、「スクラバ流体」に化学薬品を添加しないことを可能ならしめたものと考えるのが合 理的であるから、本件発明1における「水道水、淡水、または脱塩海水のスクラバ流体」 65 とは、化学薬品が添加されていない、水道水、淡水、又は脱塩海水からなるスクラバ流体 と解するのが相当である。 b 前記aにおいて確認した「水道水、淡水、または脱塩海水のスクラバ流体」の意 義を踏まえて、甲1発明1における対応する部分について子細にみてみる。 5 甲1発明1は、前記1(1)イ【0006】〜【0008】によれば、「入口ダクト26」 及び「排ガス入口室14」において、「工業用水ノズル42」から工業用水を、「第1吸 収液ノズル(冷却液ノズル)36」及び「第2吸収液ノズル(冷却液ノズル)38」から 吸収液をそれぞれ噴霧して、排ガス中の除塵及び硫黄酸化物の除去するための「第1次気 液接触」を行い、その後、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間に収容された 10 「吸収液層20」に対して、「排ガス分散管30」から排ガスを導入し、バブリングさせ て、排ガス中の除塵及び硫黄酸化物の除去するための「第2次気液接触」を行うものであ り、ここで使用される吸収液は、スクラバ流体として機能するものであるところ、この吸 収液は、亜硫酸ガスと反応して石膏に固定化するための石灰石粉末が添加されたものであ る。 15 そうしてみると、甲1発明1において使用されるスクラバ流体としての吸収液は、化学 薬品である石灰石粉末が添加されたものであるから、本件発明1の「水道水、淡水、また は脱塩海水のスクラバ流体」には該当せず、前記相違点3は実質的な相違点である。 c そこで、さらに前記相違点3に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討 を進めることとする。 20 甲1発明1は、前記bのとおり、排ガス中の亜硫酸ガスを、吸収液中の石灰石粉末と反 応させ石膏として固定化して除去するものであるから、このような石灰石粉末を含有する 吸収液に代えて、工業用水のような石灰石粉末を含有しないものを使用することには、阻 害要因があるといわざるをえない。 よって、甲1発明1において、スクラバ流体にあたる工業用水及び吸収液に代えて、 25 「水道水、淡水、または脱塩海水のスクラバ流体」を使用することは、当業者が容易に想 到し得るものではない。 66 d 以上のとおりであるから、前記相違点3は実質的な相違点である上、甲1発明1 において、当該相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとって容易 想到の事項ともいえない。 (エ) 相違点4について 5a 本件発明1における「スクラバ流体浄化装置は、前記排ガス導管から独立し、前 記ガス・スクラバ(1)から前記汚染されたスクラバ流体が導かれるバッファ・タンク (6)」は、前記第3の3(1)エ(イ)で検討したとおり、排ガス浄化装置におけるスクラ バ流体浄化装置の前記複合循環経路において、スクラバ流体が排ガス・スクラバと遠心分 離機との間を循環する際の中継点を構成するものであり、ガス・スクラバにおける排ガス 10 の流れから独立して設けられたものである。そして、このバッファ・タンクは、当該排ガ スの流れに作用して汚染されたスクラバ流体を、当該ガス・スクラバから導くものである。 これに対して、甲1発明1において、排ガスは、前記1(1)イ【0008】、【000 9】、オ【0032】によれば、「入口ダクト26」から導入され、「排ガス入口室1 4」、「排ガス分散管30」、「連通管28」、「ジェットバブリング反応槽10」の下 15 部空間の吸収液、「空間部22」、「排ガス出口室12」、「出口ダクト24」を通って 系外に排出されている。ここで、「排ガス入口室14」、「排ガス分散管30」、「連通 管28」、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間の吸収液、「空間部22」、 「排ガス出口室12」は、「ジェットバブリング反応槽10」を構成する部分であるから、 甲1発明1において、排ガスの流れは、「ジェットバブリング反応槽10」内にも存在し 20 ていることが分かる。そうである以上、前記ア(ア)fにおいて、本件発明1の「バッフ ァ・タンク」に相当するものと認定した、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」 の下部空間は、前記排ガスの流れとは独立したものであるということはできない。 したがって、前記相違点4は実質的な相違点である。 b そこで、さらに前記相違点4に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討 25 を進めることとする。 甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、前記1(1)イ【000 67 6】、【0008】によれば、亜硫酸ガスと反応して石膏に固定化する石灰石粉末のスラ リを含む吸収液が収容されたものであり、さらに、この固定化に必要な酸素を供給するた めの酸素含有ガスを噴出する空気ノズルを備えた「空気供給管34」が設けられたもので ある。 5 同じく、甲1発明1の「排ガス分散管30」は、その下端部が前記吸収液に浸漬され、 排ガスを吸収液の液面下に導入し、ジェット状に噴出させるためのものであり、これによ り、排ガスと吸収液とを気液接触させて、前記酸素含有ガスによる同時酸化吸収による化 学的及び/又は物理的吸収により、排ガス中の硫黄酸化物を除去している。 これらの事項を踏まえると、甲1発明1における「ジェットバブリング反応槽10」の 10 下部空間は、排ガスの流れと密接に作用して、排ガス中の硫黄酸化物の除去を行っている ところ、この下部空間と排ガスの流れは、切り離して扱うことは妥当ではなく、これらは 一体不可分の構成であると理解するのが相当である。 そうすると、甲1発明1において、甲1発明1の「ジェットバブリング反応槽10」の 下部空間を、排ガスの流れから独立させることは、当業者にとって容易想到の事項である 15 といえない。 d 以上のとおりであるから、前記相違点4は実質的な相違点である上、甲1発明に おいて、当該相違点4に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとって容易想 到の事項ともいえない。 (オ) 相違点5、6について 20 a ディスク積層体遠心分離機自体は、甲5、甲7〜甲12、甲14、甲16、甲1 7、甲22〜甲25の記載(前記1(5)〜(14)、(19)〜(22)参照)によれば、本件 特許に係る優先日前において既に当業者間にて周知のものであるということができる。そ して、その基本構成は、円すい台状の分離ディスクの積層体を備えた分離空間、分離空間 を取り囲んでいるロータ、分離空間の中へ延びている被処理液入口、分離空間から延びて 25 いる処理液出口、分離空間から延びているスラッジ排出口を備えるものであるから、上記 周知のディスク積層体遠心分離機は、本件発明1において特定されているもの、すなわち、 68 「分離ディスク(13)の積層体を備えた分離スペース(12)の周りを取り囲むロータ (11)と、前記分離スペースの中に伸びる」、「セパレータ入口(8)と、前記分離ス ペースから伸びる」、「第一のセパレータ出口(14)と、前記分離スペースから伸び る」、「第二のセパレータ出口(15)」とを有する「遠心分離機(6)」にほかならな 5 い。 b 加えて、このようなディスク積層体遠心分離機は、「非常に効率のよい機械」 (前記1(5)ア)であって、「分離性能が高く、且つ保守が容易」(前記1(6)イ)であ り、「高速回転により大きい遠心力が得られ、しかも積層した分離板が大きい沈降面積を 有しているため、処理液中の微粒固形分を高精度で分離するのに適し」(前記1(9))て 10 おり、その用途も多岐にわたることが知られている。例えば、当該用途としては、船舶用 ディーゼル・エンジンの燃料油及び潤滑油の清浄化(前記1(7)イ【0002】、同(8) ア【0003】、同(9))をはじめ、廃水・廃液処理(前記1(5)キ、同(10)ア「■主 なる用途」項、同(11)イ、同(14)ウ)、洗滌液の清澄(前記1(12)イ「用途」項)、 SS分除去(前記(13)「■主な用途」項)、船舶や発電等の分野において色々な種類の 15 原料の抽出と清浄から最終廃棄物処理のプロセス(前記1(5)ア)などが挙げられる。 c しかしながら、前記ディスクスタック遠心分離機を、汚染されたスクラバ流体に 適用した例は見当たらない。 そして、本件発明1においては、前記相違点2に係る「閉じた排ガス浄化装置」を基礎 とすることにより、この循環系にて使用されるスクラバ流体の全体量を最小にするととも 20 に、このように最小量であるがゆえ、船舶においても、水道水などの使用を可能にせしめ た上で、前記相違点5、6に係るディスクスタック遠心分離機を用いることによって、従 来の分離手段よりも点検修理の面や設置スペースの面において優れ、さらに、汚染された スクラバ流体から濃縮された汚染物質相を分離し、廃棄材料の体積を低く維持できるとい う、本件特許明細書の【0010】、【0015】などに記載の有利な効果を発現するも 25 のであって、これらの構成を併せ持ってはじめて、船舶において、より一層、環境面に配 慮した効率的なスクラビングを実現することができるものである。 69 そうである以上、前記相違点5、6に係るディスクスタック遠心分離機に係る本件発明 1の構成は、これ単独でみるのではなく、前記相違点1〜4に係る本件発明1の構成との 組合せとして、その容易想到性を判断するのが相当であり、前記のような従来にはみられ ない有利な効果の存在からして、これらの構成は容易想到の事項とはいえないものと考え 5 るのが妥当である。 ウ 請求人の主張について (ア) 請求人の主張の概要 請求人は、上記相違点1、3、4に関して、概略、以下の点を主張している(弁駁書第 1頁下から7行〜第7頁第14行)。 10 a 相違点1に関して 船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスを浄化するための排 ガス浄化装置は、本件特許に係る優先日前において周知慣用となっていた技術であるから、 甲1発明1の「排煙脱硫装置」を船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環さ れる排ガス処理に使用することは、当業者にとって容易想到の事項である。 15 b 相違点3に関して 甲2、甲4、甲36及び甲40の記載(前記1(2)ア、同(4)ア、オ、キ、ケ、同(3 2)ウ【0016】、同(36)エ、カ、ク参照)から、船舶用エンジンの排ガスの洗浄に 使用するスクラバ流体は海水に限定されないこと、淡水域を航行する船舶であれば、河川 水や湖水を取水できること、及び、エンジンへの吸気や排ガスの浄化あるいは冷却過程で 20 淡水が生成され、生成された淡水を再循環できることから、甲1発明1のスクラバ流体と して「淡水」を選択することは、単なる設計事項に過ぎない。 c 相違点4に関して 甲1発明1において、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、「入口ダクト 26」及び「出口ダクト24」と別部材で構成されているから、相違点4は実質的なもの 25 でないし、仮に、相違点4が実質的なものであるとしても、甲1に記載された図10に記 載された変形例を採用すれば、当該相違点は存在しない。 70 (イ) 請求人の主張についての検討 まず、前記(ア)aの主張について検討すると、前記イ(ア)で検討したとおり、ジェット バブリング反応槽を備えた排煙脱硫装置を船舶上に設置することを示唆する証拠もないし、 当該装置を船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガスの浄化に使 5 用することが周知技術であることを認めるに足りる証拠もないから、甲1発明1の「排煙 脱硫装置」を、船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再循環される排ガス処理に 使用することが容易想到の事項であるといえない。 次に、前記(ア)bの主張について検討すると、前記イ(ウ)で検討したとおり、甲1発明 1では、排ガス中の亜硫酸ガスを吸収液の石灰石粉末と反応させて石膏固定化して除去す 10 るものであり、このような吸収液を使用しないことには阻害事由が存在するから、甲1発 明1において、スクラバ流体として周知の「淡水」等を使用することを単なる設計的事項 として扱うことはできない。 最後に、前記(ア)cの主張について検討すると、前記ア(ア)bで検討したとおり、甲1 発明1の「入口ダクト26」及び「出口ダクト24」のみが、本件発明1の「排ガス導管」 15 に相当するものでないし、また、前記イ(エ)で検討したとおり、甲1発明1における「ジ ェットバブリング反応槽10」の下部空間は、ガスの流れと独立したものでないから、相 違点4に係る本件発明1の構成を満たすものではない。加えて、甲1に記載された図10 に記載された変形例についても、スプレー式吸収塔121の下端部は、排ガスの流れと独 立したものでないから、相違点4に係る当該構成を満たすものではない。 20 したがって、請求人のこれらの主張はいずれも採用できない。 エ 小括 以上のとおりであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1 に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたもので あるといえない。 25 (3) 本件発明2〜4、6、7について 本件発明2〜4、6、7は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記 71 (2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2〜4、6、7は、甲1に記載された発 明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 (4) 本件発明11について ア 本件発明11と甲1発明2との対比 5 (ア)本件発明11と甲1発明2とを対比すると、両者の相当関係は、前記(2)ア(ア) で検討したのと同様な関係に加えて、次のとおりに解することができる。 a 甲1発明2において、「第1液下降管62」では、前記1(1)オ【0032】、 クによれば、「入口ダクト26」内の吸収液を吸収液層20(「ジェットバブリング反応 槽10」の下部空間)に流下させており、このことは、本件発明11の「排ガス・スクラ 10 バ(1)から」「バッファ・タンク」へ「汚染されたスクラバ流体を取り出」すことに相 当する。 b 甲1発明2において、「排出管44」、「排出ポンプ46」及び「石膏スラリ管 54」では、前記1(1)イ【0007】によれば、「ジェットバブリング反応槽10」の 下部空間から吸収液を「固液分離装置48」に送っており、このことは、本件発明11の 15 「汚染されたスクラバ流体を前記バッファ・タンクから遠心分離機に供給」することに相 当する。 c 甲1発明2において、「固液分離装置48」では、前記1(1)イ【0008】、 【0009】によれば、吸収液中の亜硫酸ガスが石灰石と反応して形成された石膏粒子を 母液と分離しており、このことは、本件発明11の「前記汚染されたスクラバ流体から、 20 汚染物質粒子を有する汚染物質相を分離し、それにより、浄化されたスクラバ流体を取り 出」すことに相当する。 d 甲1発明2において、「吸収剤供給管50」では、前記1(1)イ【0007】に よれば、石膏を分離した母液の一部を「固液分離装置48」から「ジェットバブリング反 応槽10」の下部空間に供給しており、このことは、本件発明11の「前記遠心分離機か 25 ら前記バッファ・タンク」「に、浄化されたスクラバ流体を供給すること」に相当する。 e 甲1発明2において、「第1吸収液ノズル(冷却液ノズル)36」、「第2吸収 72 液ノズル(冷却液ノズル)38」及び「吸収液ポンプ40」では、前記1(1)イ【000 7】によれば、「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間より「入口ダクト26」に 吸収液を送給しており、このことは、本件発明11の「前記バッファ・タンク」「から前 記排ガス・スクラバに、浄化されたスクラバ流体を供給する」ことに相当する。 5f 甲1発明2において、「抜き出し管68」、「抜き出しポンプ66」及び「送出 管70」では、前記1(1)キ【0043】、【0054】によれば、「第1液下降管62」 の管内に滞留する、石膏を含むと共に亜硫酸ガスを高濃度に溶解したスラリ(亜硫酸含有 スラリ)を抜き出し、「固液分離手段71」に送っており、このことは、本件発明11の 「汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ」「遠心分離機」「に抜き出」すこ 10 とに相当する。 g 甲1発明2において、「固液分離手段71」では、前記1(1)キ【0043】、 【0054】によれば、石膏を含むと共に亜硫酸ガスを高濃度に溶解したスラリ(亜硫酸 含有スラリ)を固液分離しており、このことは、本件発明11の「汚染されたスクラバ流 体から、少なくとも、汚染物質粒子を有する汚染物質相と浄化されたスクラバ流体とを、 15 分離すること」に相当する。 h 甲1発明2において、「固液分離装置48」及び「固液分離手段71」を用いた 固液分離処理することを含む「湿式排煙脱硫方法」は、前記a〜gを踏まえると、本件発 明11の「排ガスに由来する汚染されたスクラバ流体を浄化するための方法」に相当する。 (イ) 以上の点に照らすと、本件発明11と甲1発明2との一致点及び相違点は、それ 20 ぞれ、次のように認定することができる。 a 一致点 「排ガスに由来する汚染されたスクラバ流体を浄化するための方法であって、 − 排ガス・スクラバ(1)からバッファ・タンクへ、汚染されたスクラバ流体を取り 出し、ここで、この汚染されたスクラバ流体は、汚染物質粒子を有し、汚染されたスクラ 25 バ流体を前記バッファ・タンクから遠心分離機に供給し、 − 遠心分離機の中で、前記汚染されたスクラバ流体から、汚染物質粒子を有する汚染 73 物質相を分離し、それにより、浄化されたスクラバ流体を取り出し、 − 前記遠心分離機から前記バッファ・タンクに、浄化されたスクラバ流体を供給する こと、 − 前記バッファ・タンクから前記排ガス・スクラバに、浄化されたスクラバ流体を供 5 給すること、及び 汚染されたスクラバ流体の一部を、ブリード・オフ遠心分離機に抜き出し、抜き出され た汚染されたスクラバ流体の一部から、少なくとも、汚染物質粒子を有する汚染物質相と 浄化されたスクラバ流体とを、分離すること、 を特徴とする方法。」 10 b 相違点8 排ガスについて、本件発明11は、「船舶用ディーゼル・エンジンのEGRにおいて再 循環される排ガス」であるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明2 の排ガスは、用途が限定されていない点。 c 相違点9 15 バッファ・タンクについて、本件発明11は、「排ガス導管(2)から独立したバッフ ァ・タンク(6)」であるとさらに特定しているのに対して、これに対応する甲1発明2 の「ジェットバブリング反応槽10」の下部空間は、甲1の図14に示されたとおりのも のである点。 d 相違点10 20 汚染されたスクラバ流体について、本件発明11は、「水道水、淡水、または脱塩海水」 であるとさらに特定しているのに対して、甲1発明2は、排ガス中の除塵及び硫黄酸化物 の除去するために「工業用水」及び「吸収液」を使用している点。 e 相違点11 本件発明11では、「遠心分離機」及び「ブリード・オフ遠心分離機」として、「ディ 25 スク積層体遠心分離機」を使用しているのに対して、甲1発明2では、「固液分離装置4 8」及び「固液分離装置71」である「遠心分離機」の具体的な構造が明らかでない点。 74 イ 相違点の検討 相違点8〜10については、前記(2)イ(ア)、(ウ),(エ)において既に検討した相違点 1、3、4についてと状況は同じであるし、相違点11についても、前記(2)イ(オ)にお いて既に検討した相違点5、6についてと事情に変わりはないから、いずれの相違点に係 5 る本件発明11の構成についても、同様の理由により、当業者といえども、容易に想到し 得るものといえない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明11は、甲1に記載された発明及び周知技術に基い て、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 10 (5) 本件発明12について 本件発明12は、本件発明11の全ての特定事項を含むものであるから、前記(4)で検 討したのと同様の理由により、本件発明12は、甲1に記載された発明及び周知技術に基 いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 (6) 無効理由についての結論 15 以上のとおりであるから、本件発明1〜4、6、7、11、12に係る特許に対する無 効理由に理由はない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1 〜4、6、7、11、12に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 20 また、本件特許の請求項8は、本件訂正により削除され存在しないから、その請求項に ついての審判の請求は、特許法第135条の規定により却下する。 以上 75 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/09/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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