運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 損害賠償請求本訴事件・損害賠償請求反訴事件
令和6年9月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和5年(ワ)第70619号 損害賠償請求本訴事件(以下「本訴事件」という。) 令和6年(ワ)第70047号 損害賠償請求反訴事件(以下「反訴事件」という。) 口頭弁論終結日 令和6年7月1日 5判決
本訴原告兼反訴被告 A
本訴被告兼反訴原告 日鉄テクノロジー株式会社
同訴訟代理人弁護士 増井和夫
同 橋口尚幸 10 同齋藤誠二郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本訴原告兼反訴被告の本訴請求のうち、特許権が原告に帰属することの確認を求める訴えを却下する。
2 本訴原告兼反訴被告のその余の本訴請求及び本訴被告兼反訴原告の15 反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴事件については本訴原告兼反訴被告の負担とし、
反訴事件については、本訴被告兼反訴原告の負担とする。
事実及び理由
請求
20 1 本訴事件 ? 本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)は、本訴原告兼反訴被告(以 下「原告」という。)に対し、781万円及びこれに対する令和5年11月 15日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
? 別紙特許目録(本件発明)記載の特許(以下「本件特許」といい、本件特25 許に係る発明を「本件発明」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」 という。)が原告に帰属することを確認する。
1 2 反訴事件 原告は、被告に対し、500万円及びこれに対する令和5年10月20日か ら支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
事案の概要
5 本訴事件は、被告の元従業員である原告が、被告に対し、前訴において、本 件発明が被告の職務発明であり本件特許権が被告に帰属する旨の 判断がされ たため、本件特許に関して支払う必要のない費用を支出したと主張して、不法 行為に基づき、損害賠償金781万円及びこれに対する不法行為の後の日であ る令和5年11月15日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年10 3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、本件特許権が原告に帰 属することの確認を求める事案である。
反訴事件は、被告が、原告に対し、本訴事件の訴訟提起はこれまでの訴訟で の判断を不当に蒸し返すものであり、不法行為を構成すると主張して、不法行 為に基づき、損害賠償請求の一部請求として500万円及びこれに対する不法15 行為の日である令和5年10月20日(本訴事件の提起日)から支払済みまで 民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実をいう。) ? 当事者20 原告は、平成20年当時、新日本製鐵株式会社(その後日本製鉄株式会社 に商号変更しており、その前後を問わず、以下「日本製鉄」という。)の関 連会社であった株式会社日鐵テクノリサーチ(その後被告に吸収合併されて おり、その前後を問わず、以下「被告」又は「テクノリサーチ社」という。) に勤務していた者である(弁論の全趣旨)。
25 ? 原告による発明 2 原告は、平成20年、別紙出願目録(別件発明)記載の傾斜測定装置に係 る発明(以下「別件発明」という。)をした(甲5、乙5、弁論の全趣旨)。
別件発明は、ドラフトサーベイ(喫水検査)に関するものである。ドラフ トサーベイとは、船舶について、空荷の状態と積荷の状態の喫水(船底から 5 水面までの垂直距離)の差を調べることで、貨物の重さによって排除された 海水の容積を割り出し、運賃算定や商取引の基準となる積荷の重量を計算す ることをいう。ドラフトサーベイは、港湾運送事業法2条1項7号所定の「鑑 定」に当たり、国土交通大臣の許可を受けた者しかその事業を行うことがで きない(同法4条3条6号)。(弁論の全趣旨)10 ? 日本製鉄による特許出願 日本製鉄は、平成22年1月4日、別件発明について、テクノリサーチ社 が有する特許を受ける権利承継したとして、別紙出願目録(別件発明)記 載のとおり特許出願(以下「別件出願」という。)をした(甲5、乙5、弁 論の全趣旨)。
15 特許庁審査官は、平成26年1月23日付けで、別件出願について拒絶査 定をした。これに対し、日本製鉄は、拒絶査定不服審判を請求しなかったた め、上記拒絶査定は、同年4月28日の経過をもって確定した(甲6、18、
弁論の全趣旨)。
? 第一次訴訟20 原告は、平成24年頃、日本製鉄に対し、日本製鉄が特許出願をした別件 発明について、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求める訴えを 提起した(東京地方裁判所平成24年(ワ)第14905号)。
東京地方裁判所は、平成25年5月16日、別件発明はテクノリサーチ社 の業務範囲に属し原告の職務に属するから、職務発明に当たり、別件発明に25 ついて特許を受ける権利は、原告からテクノリサーチ社に承継されたとして、
請求棄却の判決を言い渡した。これを不服として、原告は、控訴したものの 3 (知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10054号)、知的財産高等裁 判所は、同年11月21日、控訴を棄却する旨の判決をし、その後同判決は 確定した。(以上につき、乙1の1・2、弁論の全趣旨 ) ? 第二次訴訟 5 原告は、令和26年頃、日本製鉄及び別件出願の願書に発明者の一人とし て記載されていた者に対し、別件出願に係る発明者の記載の補正のほか、別 件発明が原告の単独発明であることの確認などを求める訴えを提起した(東
追加
東京地方裁判所は、平成26年9月11日、別件出願に係る拒絶査定が確10定しておりその手続は既に終了しているため補正を求めることはできないなどとして、訴え却下及び請求棄却の判決を言い渡した。これを不服として、
原告は、控訴したものの(知的財産高等裁判所平成26年(ネ)第10099号)、知的財産高等裁判所は、平成27年3月11日、控訴を棄却する旨の判決をし、その後同判決は確定した。(以上につき、乙2の1・2、弁論15の全趣旨)?原告による特許権の取得及び被告らによる異議の申立てア原告は、平成27年4月17日、本件発明について、同日を国際出願日とする特許出願(特願2015-79588)をし、同年10月23日、
特許権(本件特許権)の設定登録を受けた(甲8、9、乙6)。
20なお、本件発明は、上記?の別件発明と同一の発明に端を発するものである(弁論の全趣旨)。
イ被告及び日本製鉄は、平成28年6月2日、本件特許について、特許異議の申立てをした。
特許庁審判長は、平成28年8月5日を起案日とする取消理由通知書に25おいて、原告に対し、特許請求の範囲の請求項1及び3に係る特許は特許法29条2項に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、
4 取り消されるべきものである旨の取消理由を通知した。(以上につき、弁論の全趣旨)ウ原告は、上記イの取消理由の通知を受け、平成28年9月14日付けで、
特許請求の範囲の請求項1及び3を削除し、請求項4及び5に係る引用関5係を改め、請求項6ないし9を追加する旨の訂正請求をした。
これに対し、特許庁審判官は、平成28年11月16日、上記の訂正を認めた上で、訂正後の特許請求の範囲の請求項2、4ないし9に係る特許を維持し、請求項1及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する旨の決定をした。上記決定により、本件特許に係る特許請求の範囲は、
10別紙訂正後の特許請求の範囲記載のとおり訂正された(別紙訂正後の特許請求の範囲の下線部は訂正箇所であり、以下、訂正後の本件発明を「本件訂正発明」ともいう。)。(以上につき、弁論の全趣旨)?第三次訴訟原告は、平成30年10月頃、日本製鉄及び被告に対し、別件発明に係る15傾斜測定装置は本件訂正発明の技術的範囲に属するから日本製鉄による傾斜測定装置の使用又は販売が本件特許権の侵害に当たるなどと主張し、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成30年(ワ)第33118号)。
東京地方裁判所は、令和元年7月10日、別件発明に係る傾斜測定装置が20本件訂正発明の技術的範囲に属することを認めるに足りないなどとして、請求棄却の判決を言い渡したため、これを不服として、原告は、控訴したところ(知的財産高等裁判所令和元年(ネ)第10055号)、原告は、控訴審において、日本製鉄が使用又は販売する傾斜測定装置(以下、控訴審判決の表記に倣って被告装置A及びBと区分する。)のうち、被告装置Aは本件訂25正発明9の技術的範囲に、被告装置Bは本件訂正発明2及び4の技術的範囲に、それぞれ属するなどと主張した。
5 これに対し、知的財産高等裁判所は、令和2年12月2日、日本製鉄が本件特許権の設定登録日以降被告装置Aを使用又は販売していた事実を認めることができず、また、被告装置Bは、本件訂正発明2、4の技術的範囲に属するが、本件訂正発明2、4に係る本件特許には、特許法123条1項6号5に規定する無効理由があり、控訴人(本件の原告)は、同法104条の3第1項により、本件特許権を行使することができないなどとして、控訴を棄却する旨の判決をし、その後同判決は確定した。(以上につき、甲7、乙3の1・2、乙4の1)?第四次訴訟10原告は、令和3年11月頃、本件訂正発明が職務発明であることを前提に、
被告に対し、特許法35条4項に基づく相当の利益の支払を求める訴え(東京地方裁判所令和3年(ワ)第27536号)を提起した。
東京地方裁判所は、令和4年9月16日、本件訂正発明に係る通常実施権を超える利益が被告に生じているとは認められないとして、原告の請求を棄15却する旨の判決をした。これを不服として、原告は、控訴したものの(知的財産高等裁判所令和4年(ネ)第10099号)、知的財産高等裁判所は、
令和5年3月8日、控訴を棄却する旨の判決をし、その後同判決は確定した。
(以上につき、乙4の1・2)?原告による特許維持費用の支出20原告は、本件特許についての出願手続費用、異議申立手続費用、令和5年までの特許維持年金などの名目で、少なくとも合計781万円を支出した(甲10、以下、これらの支出を「本件特許維持費用等」という。)。
2当事者の主張?本訴損害賠償請求について25(原告の主張)6 被告は、第三次訴訟において、別件発明について日本製鉄が特許を受けており、当該特許権に基づいて傾斜測定装置を販売していると虚偽の事実を主張した。その結果、第三次訴訟の控訴審において、本件特許が冒認出願であり無効であるという誤った判断がされ、原告は本件特許権を活用することが5できなくなった。原告は、本件特許維持費用等として少なくとも781万円を支出したから、上記金額の賠償を求める。
(被告の主張)否認ないし争う。
?確認請求について10(原告の主張)前記1?のとおり、別件出願は拒絶査定を受けてこれが確定しているにもかかわらず、裁判所は、第三次訴訟において、日本製鉄が別件出願に係る特許権を有しており、これに基づいて傾斜測定装置を使用、販売している旨の事実認定に基づき、本件特許に係る出願が冒認出願であり、本件特許が無効15であると判断した。このような認定は事実誤認であり、本件発明は原告の自由発明であるから、本件特許権は原告に帰属する。
したがって、原告は、本件特許権が原告に帰属していることの確認を求める。
(被告の主張)20否認ないし争う。
なお、上記確認請求は、本件発明が「職務発明」であるとの従前の訴訟の判断を蒸し返すものであり、明らかに失当である。また、上記確認請求については、確認の利益の有無が争点となり得るが、その点は別にしても、原告の主張が成り立たないのは、従前の訴訟経過からも明らかである。
25?反訴請求について(被告の主張)7 原告は、第三次訴訟で本件発明が職務発明であると判断されたにもかかわらず、本件訴訟でその判断を蒸し返そうとするものである上、第四次訴訟の第一審では、本件発明が職務発明に該当することを前提として相当の対価請求をしていたにもかかわらず、当該請求が棄却されると、控訴審では本件発5明が自由発明である旨を再度主張するかのような態度を取っており、控訴審で控訴棄却がされると、再度本訴事件で本件発明が自由発明である旨主張するものである。
そうすると、本訴請求は、いずれも事実的、法律的根拠を欠く上、原告はそのことを知り又は少なくとも通常人であれば容易にそのことを知り得たに10もかかわらず訴えを提起したものであるから、原告による本訴事件の訴訟提起は、訴訟上の信義則に違反する極めて不当なものであり、不法行為を構成する。そして、これによって、被告は、本訴事件への応訴を強制され、その損害額は、社内担当者の人件費相当額及び弁護士費用相当額を併せると、概算で数百万円を下らない。したがって、その一部請求として500万円及び15これに対する遅延損害金の支払を求める。
(原告の主張)否認ないし争う。
第3当裁判所の判断1認定事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定するこ20とができる。)?原告は、平成16年7月1日、日本製鉄から出向先であった被告に転籍し、
平成21年6月30日に定年退職となった後、同年7月1日から平成22年6月30日まで被告と嘱託雇用契約を締結し、同年12月1日から平成23年12月31日まで、被告のアルバイト従業員として稼働していた(弁論の25全趣旨)。
8 ?テクノリサーチ社は、平成16年頃から、日本製鉄の委託を受けて、日本製鉄の製鉄所に入港する原料船のドラフトサーベイの管理是正業務(喫水検査管理是正業務)を行うようになった。日本製鉄との業務委託契約によりテクノリサーチ社が行うとされた業務の中には、日本製鉄の各製鉄所で喫水検5定項目が適切に行われていることの確認及び指導業務等があり、テクノリサーチ社は、ドラフトサーベイに関する業務の厳正化に向けた改善活動の推進を業務として行っていた。(乙15ないし18)?原告は、テクノリサーチ社において、ドラフトサーベイの改善活動に従事していたが、平成19年2月頃には、テクノリサーチ社における上記ドラフ10トサーベイ改善活動の一環として、「豪州定期船における問題点と是正対策の概略(案)」と題する書面を作成し、ドラフトサーベイの現状に問題点があることを指摘した上で、抜取りでドラフトサーベイを実施すること、入港時及び出港時に簡易サーベイを実施することなどの各種活動案を提示していた(乙16、17、19、20)。
15なお、ドラフトサーベイ自体は、港湾運送事業法2条1項7号にいう「鑑定」に当たり、新日本検査協会をはじめとする国土交通大臣の認可を受けた第三者の検査会社等によって行われている(乙28)。
?原告は、平成19年11月頃、日本製鉄の製鉄所のシーバースで水チューブを利用した傾斜計を紹介され、この方法によると正確な測定をすることが20できるのではないかと考え、平成20年2月頃、テクノリサーチ社において、
水チューブを利用したドラフト差測定装置を作成した。原告は、同時期に、
ドラフト差測定装置のために使用するホース、リール、スケール等の部材を自ら購入していたところ、その費用について、テクノリサーチ社名義で領収書の発行を受けた上で、テクノリサーチ社から支払を受けた。(乙21、2252)9 ?原告は、テクノリサーチ社の従業員という立場でメールを発出して船会社の協力を得た上、平成20年2月22日、日本製鉄の製鉄所に入港した船舶にテクノリサーチ社のドラフトサーベイ担当者及び日本製鉄の関係者と共に乗船し、ドラフト差測定装置の試作品を用いた測定精度の調査等のテスト5を行ったが、測定液に水道水を用いたため、気泡が発生して正確な測量ができなかった(乙21、23、24)。
そして、原告は、平成20年4月4日、日本製鉄の製鉄所に入港した船舶に乗船してドラフト差測定装置のテストを行い、新日本検定協会への説明会を実施し、翌5日からは大分に出張し、日本製鉄の製鉄所で船舶に乗船し、
10オーストラリアにおけるドラフトサーベイについての水チューブの使用状況について聞き取り調査を行い、それについての報告書を作成するとともに、
その出張旅費についてテクノリサーチ社から支払を受けた(乙25、26、
27)。
その後も、原告は、平成23年12月にテクノリサーチ社を退職するまで、
15(住所は省略)にあるテクノリサーチ社における自らの職場及び日本各地の日本製鉄の製鉄所において、ドラフト差測定装置の精度調査、取扱説明書の作成などを行っていた(乙21)。
?平成19年4月1日付けの被告の「特許等の発明考案規定」(以下「本件発明考案規定」という。)には、次のとおり記載された規定がある(甲3、
20乙14)。
1.定義@「発明考案」とは、社員がなした会社の業務範囲の属する発明、考案または意匠の創作をいう。
A「社員」とは、従業員、役員、参与、顧問その他これらに準ずる者をい25う。
B「発明考案者」とは発明考案をなした社員をいう。
10 3.帰属@発明考案者の会社における現在または過去の職務に属する発明考案については、その特許、実用新案登録および意匠登録を受ける権利並びに特許権、実用新案権および意匠権は会社がこれを承継する。但し、会社が5その権利を承継する必要がないと認めたときはこの限りではない。
2本訴損害賠償請求に関する主張に対する判断原告は、大要、第三次訴訟において、被告が、別件出願に係る特許を受けておりこれに基づいて傾斜測定装置を使用販売したという虚偽の主張をしたため、控訴審において本件特許が冒認出願であるという誤った判断がされたこと10から、本件特許維持費用等相当額の損害を被った旨主張する。
しかしながら、証拠(乙3の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、第三次訴訟においても、別件出願が拒絶査定され、これが確定していたことは当然の前提とされており、被告がこの前提について虚偽の主張をしたものとは認めるに足りず、原告の主張は、その前提を欠く。その他に、改めて証拠を精査しても、
15第三次訴訟において、被告が原告の権利を侵害する行為をしたものと認めるに足りない。
のみならず、第三次訴訟において、裁判所が、その判決の理由中の判断において、本件特許が冒認出願であるとして無効の抗弁を認めたため、原告が実質的に本件特許権を活用できなくなったとしても、本件特許維持費用等は、原告20自らの判断で本件特許の出願、異議申立手続、特許維持等のために支出したものである。そうすると、その支出の原因は、被告の行為によるものではなく、
本件特許に係る原告の出願によるものである。そうすると、その支出と被告の行為との間には、そもそも因果関係を認めることはできず、被告による違法性もないものといえる。
25したがって、原告の主張は、採用することができない。
3確認請求に関する主張に対する判断11 ?原告は、大要、第三次訴訟の控訴審判決がその理由中の判断において、本件特許が冒認出願であり無効であると判断したのに対し、本件訴訟において、
本件特許が冒認出願ではなく有効である旨主張して、本件特許権が原告に帰属することの確認を求めている。
5しかしながら、本件特許は原告を特許権者として有効に設定登録されており、第三次訴訟の控訴審判決がその理由中の判断において、本件特許が冒認出願であり無効であるという判断をしたとしても、当該判断によって本件特許が対世的に無効となるものではない。そうすると、上記確認を求める訴えは、必要性がなく訴えの利益を欠く。そもそも、原告の確認請求は、本件特10許が無効かどうかの対世効を前提として本件特許権の帰属確認を求めるものであるところ、特許法123条は、特許が無効かどうかは、一次的には特許に関する高度な技術的専門性を有する特許庁が特許無効審判において判断する旨規定し、同法178条6項は、特許無効審判を経ずに直接裁判所に対し上記の判断を求める訴えを提起することはできない旨規定している。そうす15ると、本件特許が無効かどうかの対世効を前提とした確認請求は、上記の各規定の趣旨に反するものであり、不適法というべきである。
したがって、原告の確認請求を求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして又は特許法の趣旨に照らして不適法なものとして、却下を免れない。
?ア本件訴訟の経緯に鑑み、念のため、本件特許が冒認出願であるかどうか20を判断するに、本件発明が職務発明に該当するとして本件特許権が原告に帰属するという原告の主張は、採用することができない。その理由は、次のとおりである。
なお、原告は、本件訂正発明の請求項2、4、5ないし9に係る発明は、
いずれも同時期にされたものであることを自認しているところ(第2回口25頭弁論調書参照)、次に掲げる認定判断は、全ての請求項に係る発明に当てはまるものである。
12 イ前記前提事実及び前記認定事実並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、
本件発明を行った平成20年当時、テクノリサーチ社に在籍していたところ、本件発明考案規定によれば、平成19年4月1日時点で、会社の業務範囲に属する発明で、かつ、従業員等の会社における現在又は過去の職務5に属する発明については、その特許を受ける権利は、テクノリサーチ社に承継される旨の定めがあり、当該定めは、特許法35条3項(平成27年法律第55号による改正前のもの)所定の定めに該当する。
そして、前記認定事実によれば、本件発明はドラフトサーベイに用いられるドラフト差測定装置に関するものであるところ、テクノリサーチ社は、
10平成20年当時、日本製鉄から委託を受けて、ドラフトサーベイの改善業務を行っていたことが認められる。これらの事実の下においては、本件発明のようなドラフト差測定装置を開発し、第三者の検査会社によって担われるドラフトサーベイを改善することは、テクノリサーチ社の業務範囲に属するものであると認めるのが相当である。
15また、前記認定事実によれば、原告は、テクノリサーチ社において、ドラフトサーベイの改善業務に従事しており、各検査会社等によって行われるドラフトサーベイの問題点を指摘して改善案を提示し、テクノリサーチ社の経費でドラフト差測定装置の部材を調達したり、テクノリサーチ社の従業員という立場で、テクノリサーチ社の費用負担の下、ドラフト差測定20装置のテストや各種調査を行うなどしたりしていたことが認められる。
これらの事実の下においては、ドラフトサーベイの改善に資する本件発明のようなドラフト差測定装置を発明することは、テクノリサーチ社における原告の職務に含まれると認めるのが相当である。
したがって、本件発明は、特許法35条にいう「職務発明」に該当する25と認めるのが相当である。
13 ?これに対し、原告は、次に掲げる主張をするものの、その前提を欠くもの又は前記判断を左右しないものであり、いずれも採用の限りではない。
ア原告は、第三次訴訟において、被告が、別件出願に係る特許権を有さず、
これに基づく計器の所持、販売もしていなかったにもかかわらず、別件出5願に係る特許権を有するかのような虚偽の主張をするなど、裁判所を欺罔する不正な行為をした結果、本件特許が冒認出願であるという本来あり得ない判決がされたのであるから、第三次訴訟における裁判所の判断は無効である旨主張する。しかしながら、前記2において説示したとおり、第三次訴訟においても、別件出願が拒絶査定され、被告が別件出願に係る特許10権を有していなかったことは、裁判所の判断の前提とされていたのであり、
被告が裁判所を欺罔する不正な行為をしたものと認めるに足りない。
イ原告は、本件発明に係る経費を支出したのは被告ではなく日本製鉄である旨主張する。しかしながら、証拠(乙22)及び弁論の全趣旨によれば、
領収書はいずれも被告名義となっており、一次的には被告が費用負担して15いたものと認めるのが相当である。
ウ原告は、原告のテクノリサーチ社における職務は、単純労働者であり、
ドラフトサーベイのための装置を発明することは、原告の職務ではなかった旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、原告は、テクノリサーチ社においてドラフトサーベイの改善活動に従事しており、ドラフト20サーベイの改善に資する本件発明のようなドラフト差測定装置を発明することは、同社における原告の職務であったと認めるのが相当であることは、
上記?において説示したとおりである。
エ原告は、本件発明考案規定は、研究者等に限り適用されるものであり、
本件発明考案規定が適用される研究者等が発明し、製造部署が製造・販売25しない限り、職務発明には当たらない旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、本件発明考案規定は、「社員」とは、従業員、役員、参14 与、顧問その他これらに準ずる者をいい、「発明考案者」とは、発明考案をなした社員をいうものと定めている。そうすると、本件発明考案規定の定めによれば、本件発明考案規定が研究者等に限り適用されると解することはできず、原告の主張は、独自の見解をいうものである。
5オ原告は、本件訂正発明に係る特許を受ける権利については、協議や意見の聴取がされておらず、発明報告書や譲渡同意書を作成していないし、対価の支払も受けていないから、職務発明には当たらない旨主張する。しかしながら、証拠(甲3、乙14)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明考案規定は、テクノリサーチ社が特許を受ける権利承継するに当たり、協10議や意見の聴取その他の原告主張に係る事情を要件とするものと認めることはできない。
カ原告は、検量と鑑定は、法律上異なるものであり、業務委託契約書で定められたテクノリサーチ社の業務は、ドラフトサーベイを改善する業務に当たらないし、仮にテクノリサーチ社がドラフトサーベイの改善業務を行15っていたとすると、日本鑑定検量協議会などの事業に不当に介入することになり、港湾運送事業法に違反する旨主張する。しかしながら、証拠(乙18)及び弁論の全趣旨によれば、日本製鉄とテクノリサーチ社との間に締結された業務委託契約書には、「検量」という用語も使用されているものの、「第1条目的甲の製鐵所に入港する原料船の喫水検定管理実務につ20いて、乙は甲からの委託を受けて、これを遂行するものとする。」、「第2条委託業務(中略)?甲の各製鐵所にて喫水検定項目が適切に行われていることの確認及び指導業務」と規定されるなど、ドラフトサーベイに関する規定が設けられており、現に、テクノリサーチ社に所属していた原告は、ドラフトサーベイの改善に関する書面を作成するなどしていたことが25認められる。そうすると、テクノリサーチ社は、日本製鉄からの委託を受けて、ドラフトサーベイを改善する業務を行っていたものと認めるのが相15 当である。また、ドラフトサーベイ自体は、新日本検定協会その他の検査会社等によって行われることは、前記1?において認定したとおりであるものの、船舶に積載されている貨物の積載トン数を決定するに当たり、ドラフトサーベイの正確性などについて利害関係を有する日本製鉄やその関5連会社であるテクノリサーチ社が、ドラフトサーベイの改善活動することが、ドラフトサーベイ自体を実施するものといえないことは明らかである。
したがって、テクノリサーチ社がドラフトサーベイの改善活動をすることが、日本鑑定検量協議会などの事業に不当に介入するものと認めることはできない。
10キ原告は、ドラフトサーベイの厳正化活動は、日本製鉄の業務であったなどと縷々主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、テクノリサーチ社は、日本製鉄からの委託を受けてドラフトサーベイの改善活動をしており、ドラフトサーベイの厳正化活動が日本製鉄の業務であったものと直ちに認めることはできず、仮に認められたとしても、前記判断を左右する15に至らない。
ク原告は、そのほかにも縷々主張するが、その実質は、独自の見解に立って従前の訴訟における裁判所の判断を論難するものにすぎず、これらの主張を改めて十分に精査しても、前記において説示したところを踏まえると、
前記認定を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、いず20れも採用することができない。
4反訴請求に対する判断被告は、原告は第三次訴訟で本件発明が職務発明であると判断されたにもかかわらず、本件訴訟でその判断を蒸し返そうとするものである上、第四次訴訟の第一審では、本件発明が職務発明に該当することを前提として相当の対価請25求をしていたにもかかわらず、当該請求が棄却されると、控訴審では本件発明が自由発明である旨を再度主張するかのような態度を取っており、控訴審で控16 訴棄却がされると、再度本訴事件で本件発明が自由発明である旨主張するものであるから、原告による本訴事件の訴訟提起は、訴訟上の信義則に違反する極めて不当なものであり、不法行為を構成すると主張する。
そこで検討するに、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合に5おいて、当該訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認10められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
これを本件についてみると、原告の主張した権利等のうち損害賠償請求に係る部分については、原告は前訴を提起したことはなく、その提起内容に鑑みても、原告が、事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば15容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したものと認めることはできない。
他方、原告の主張した権利等のうち確認請求に係る部分については、前記認定事実によれば、第三次訴訟では、本件発明が職務発明であると判断されているものの、原告の損害賠償請求に対する無効の抗弁における理由中の判断にす20ぎず、本件訴訟に係る確認請求とは訴訟物を異にするものであり、第四次訴訟では、争点が対価請求の存否に限られており、職務発明該当性が正面から判断されたものではない。
これらの事情を踏まえると、原告が再び同種訴訟を提起した場合は格別、確認請求に係る本件訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性25を欠くものとまで認めることはできない。したがって、被告の主張は、上記認17 定に係る事実関係を踏まえると、裁判を受ける権利の重要性に照らしても、採用することができない。
以上によれば、被告の反訴請求には理由がない。
第4結論5よって、本訴請求のうち確認を求める訴えはこれを却下することとし、その余の本訴請求及び反訴請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部10裁判長裁判官中島基至15裁判官武富可南20裁判官坂本達也2518 (別紙)特許目録(本件発明)登録番号特許第5827775号5発明の名称船舶の両舷ドラフト差測定装置出願日平成27年4月17日出願番号特願2015-534854号登録日平成27年10月23日以上1019 (別紙)出願目録(別件発明)発明の名称傾斜測定装置出願番号特願2010-17号5出願日平成22年1月4日特許出願公開番号特開2011-137776号出願公開日平成23年7月14日出願人新日本製鐵株式会社以上1020 (別紙)訂正後の特許請求の範囲【請求項1】(削除)5【請求項2】船舶の両舷のドラフト差を測定するべく,左舷と右舷にそれぞれ取付ける2つの液位測定管(11)と,前記2つの液位測定管(11)を互いに連通させる連通ホース(41)と,前記連通ホース(41)の中央部が固定されかつ左ホース部分(41a)と右ホース部分(41b)を同時に巻き取るドラム(51)と,を備えた測10定装置(1)であって,前記ドラム(51)の軸部材(51a)の外周面上に固定された複数のシート片から構成されかつ前記シート片同士の間の隙間により溝が形成されたホース保持シート(45)を有し,前記連通ホース(41)の中央部は,前記ホース保持シート(45)の前記溝に15嵌め込まれることにより前記ドラム(51)に固定されることを特徴とする船舶の両舷のドラフト差測定装置。
【請求項3】(削除)【請求項4】20前記液位測定管(11)及び前記連通ホース(41)に充填される測定液(W)が,水と着色されたエチレングリコールとからなり,着色されたエチレングリコールは測定液(W)の3体積%〜5体積%含まれることを特徴とする請求項2のいずれかに記載の船舶の両舷ドラフト差測定装置。
【請求項5】25前記液位測定管(11)と前記連通ホース(41)の間に接続された透明な弾性体からなる空気抜き操作チューブ(13)をさらに有し,前記空気抜き操作チュー21 ブ(13)は前記連通ホース(41)内に存在する空気を排出させるべく外部から押圧操作されることを特徴とする請求項2又は4のいずれかに記載の船舶の両舷ドラフト差測定装置。
【請求項6】5船舶の両舷のドラフト差を測定するべく,左舷と右舷にそれぞれ取付ける2つの液位測定管(11)と,前記2つの液位測定管(11)を互いに連通させる連通ホース(41)と,前記連通ホース(41)の中央部が固定されかつ左ホース部分(41a)と右ホース部分(41b)を同時に巻き取るドラム(51)と,を備えた測定装置(1)であって,10前記連通ホース(41)の中央部をU字状に湾曲させて引っ掛けるために,前記ドラム(51)の軸部材(51a)の外周面から突出するホース掛け突起(51c)と,前記連通ホース(41)の中央部に装着された樹脂製コイルスプリング(42)と,を有し,15前記液位測定管(11)及び前記連通ホース(41)に充填される測定液(W)が,水と着色されたエチレングリコールとからなり,着色されたエチレングリコールは測定液(W)の3体積%〜5体積%含まれることを特徴とする船舶の両舷ドラフト差測定装置。
【請求項7】20船舶の両舷のドラフト差を測定するべく,左舷と右舷にそれぞれ取付ける2つの液位測定管(11)と,前記2つの液位測定管(11)を互いに連通させる連通ホース(41)と,前記連通ホース(41)の中央部が固定されかつ左ホース部分(41a)と右ホース部分(41b)を同時に巻き取るドラム(51)と,を備えた測定装置(1)であって,25前記連通ホース(41)の中央部をU字状に湾曲させて引っ掛けるために,前記ドラム(51)の軸部材(51a)の外周面から突出するホース掛け突起(5122 c)と,前記連通ホース(41)の中央部に装着された樹脂製コイルスプリング(42)と,を有し,前記連通ホース(41)及び前記樹脂製コイルスプリング(42)を覆うように5前記軸部材(51a)の周囲に巻き付けられ固定された補助固定テープ(43)をさらに有し,前記液位測定管(11)及び前記連通ホース(41)に充填される測定液(W)が,水と着色されたエチレングリコールとからなり,着色されたエチレングリコールは測定液(W)の3体積%〜5体積%含まれることを特徴とする10船舶の両舷ドラフト差測定装置。
【請求項8】船舶の両舷のドラフト差を測定するべく,左舷と右舷にそれぞれ取付ける2つの液位測定管(11)と,前記2つの液位測定管(11)を互いに連通させる連通ホース(41)と,前記連通ホース(41)の中央部が固定されかつ左ホース部分15(41a)と右ホース部分(41b)を同時に巻き取るドラム(51)と,を備えた測定装置(1)であって,前記連通ホース(41)の中央部をU字状に湾曲させて引っ掛けるために,前記ドラム(51)の軸部材(51a)の外周面から突出するホース掛け突起(51c)と,前記連通ホース(41)の中央部に装着された樹脂製コイルスプリング20(42)と,を有し,前記液位測定管(11)と前記連通ホース(41)の間に接続された透明な弾性体からなる空気抜き操作チューブ(13)をさらに有し,前記空気抜き操作チューブ(13)は前記連通ホース(41)内に存在する空気を排出させるべく外部から押圧操作されることを特徴とする25船舶の両舷ドラフト差測定装置。
【請求項9】23 船舶の両舷のドラフト差を測定するべく,左舷と右舷にそれぞれ取付ける2つの液位測定管(11)と,前記2つの液位測定管(11)を互いに連通させる連通ホース(41)と,前記連通ホース(541)の中央部が固定されかつ左ホース部分(41a)と右ホース部分(41b)を同時に巻き取るドラム(51)と,を備え5た測定装置(1)であって,前記連通ホース(41)の中央部をU字状に湾曲させて引っ掛けるために,前記ドラム(51)の軸部材(51a)の外周面から突出するホース掛け突起(51c)と,前記連通ホース(41)の中央部に装着された樹脂製コイルスプリング(42)10と,を有し,前記連通ホース(41)及び前記樹脂製コイルスプリング(42)を覆うように前記軸部材(51a)の周囲に巻き付けられ固定された補助固定テープ(43)をさらに有し,前記液位測定管(11)と前記連通ホース(41)の間に接続された透明な弾性15体からなる空気抜き操作チューブ(13)をさらに有し,前記空気抜き操作チューブ(13)は前記連通ホース(41)内に存在する空気を排出させるべく外部から押圧操作されることを特徴とする船舶の両舷ドラフト差測定装置。
以上24