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事件 |
令和
6年
(行コ)
10004号
特許出願審査請求手続却下処分取消請求控訴事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/09/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
令和6年9月9日判決言渡 令和6年(行コ)第10004号特許出願審査請求手続却下処分取消請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和5年(行ウ)第5005号) 口頭弁論終結日 令和6年7月8日 5 判 決 控訴人(第1審原告) 株式会社コンピュータ・システム研究所 同訴訟代理人弁護士 岩 永 利 彦 10 被控訴人(第1審被告) 国 処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官 被控訴人指定代理人 橋 本 政 和 15 同 多 田 百 合 同 洞 田 亮 同 坂 本 千 鶴 子 同 大 谷 恵 菜 同 中 島 あ ん ず 20 主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事 実 及 び 理 由 (本判決の略語は、別に定めるもののほか、原判決の例による。) 25 第1 事案の要旨 控訴人は、本件弁理士を代理人として特許庁に特許出願(本件出願)をした 1 ものの、本件弁理士が本件請求期間内に出願審査の請求をせず、その後、控訴 人が出願審査請求書(本件請求書)及び回復理由書を提出したが、処分行政庁 から本件請求書に係る手続を却下する処分(本件処分)を受けた。 なお、出願審査請求の手続期間の徒過に係る権利回復に関しては、旧特許法 5 48条の3第5項を以下のとおりに改正する改正法(令和3年法律第42号) が施行されている(以下、その改正を「本件改正」という。 。 ) 【本件改正前後の特許法48条の3第5項の条文】 改正前 改正後 前項の規定(判決注:出願審査請 前項の規定(同左)により取り下げ 求の手続期間の徒過)により取り下 られたものとみなされた特許出願の げられたものとみなされた特許出願 出願人は、経済産業省令で定める期 の出願人は、第1項に規定する期間 間内に限り、経済産業省令で定める 内にその特許出願について出願審査 ところにより、出願審査の請求をす の請求をすることができなかったこ ることができる。ただし、故意に、 とについて正当な理由があるとき 第1項に規定する期間にその特許出 は、経済産業省令で定める期間内に 願について出願審査の請求をしな 限り、出願審査の請求をすることが かったと認められる場合は、この限 できる。 りでない。 【本件改正の施行日】 改正法の公布日(令和3年5月21日)から2年を超えない範囲内において 10 政令で定める日から施行する(改正法附則1条5号)。 当該施行日を令和5年4月1日と定める(令和4年政令第250号)。 第2 当事者の求めた裁判 1 控訴人の請求 特許庁長官が、特願2018−166452号(本件出願)に関し、令和4 15 年3月17日付提出の出願審査請求書(本件請求書)に係る手続について同年 2 12月6日付けでした手続却下の処分(本件処分)を取り消す。 2 原審の判断及び控訴の提起 原審は控訴人の請求を棄却する判決をしたところ、これを不服とする控訴人 が下記のとおり控訴を提起した。 5 【控訴の趣旨】 (1) 原判決を取り消す。 (2) 上記1と同旨 第3 事案の概要等 1 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張は、後記2のとおり当審 10 における控訴人の補充的主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第 2の2(2頁〜)、3及び4に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における控訴人の補充的主張 (1) 争点1(本件改正後の特許法48条の3第5項の適用)について ア 原判決は、改正法附則1条5号が公布の日から起算して6か月を超えた 15 部分について違憲無効であるという原審での控訴人の主張について、何 らの判断をしておらず、審理不尽である。 イ 本件改正は、改正法の成立公布から施行までが不当に長く、その施行期 日を定める改正法附則1条5号は違憲無効である。法の適用に関する通 則法2条本文は、法律は、公布の日から起算して20日を経過した日か 20 ら施行すると定めており、原則は公布から20日後に施行されるべきで ある。もちろん、様々な事情から例外的な場合もあろうが(同条ただし 書)、最新型の生成AIで調査したところ、日本の法律の多くは公布から 3〜6か月で施行されており、その平均期間は公布から4.5か月であ る。したがって、本件でも、公布からせいぜい4か月半もあれば施行に 25 十分であり、旧特許法48条の3第5項の規定の施行日も「公布から1 年を超えない範囲」と定められていたのであるから、これよりもはるか 3 に長い「2年を超えない範囲」を施行までの期間とした改正法附則1条 5号は、いたずらに無駄な期間をとった極めて不当なものである。 よって、改正法附則1条5号のうちで公布の日から起算して4か月半 を超える部分は違憲無効である。その結果、本件では改正法を適用する 5 ことになり、控訴人に「故意」がないことは明らかであるから、権利の 回復が認められるべきである。 (2) 争点2(旧特許法48条の3第5項「正当な理由」の有無)について ア 仮に本件に旧特許法48条の3第5項が適用されるとしても、控訴人が 本件請求期間を徒過したことについて「正当な理由」が存在する。 10 「正当な理由」の立証については、控訴人に対して「相当な注意を尽 くしていたにもかかわらず、客観的にみて出願審査の請求期間のうちに 出願審査請求書を提出することができなかった」ことの立証などという 悪魔の証明を求めるのではなく、控訴人にこの規範的要件に関する評価 根拠事実を主張立証させるとともに、被控訴人に対しても評価障害事実 15 を主張立証させ、それらを総合考量して「正当な理由」の有無を判断す べきである。 イ 本件弁理士については、本件請求期間内及びその直後において、合計1 8件の「できなかった」手続があるところ(甲23〜40)、これらは高 額の特許料や年金の支払が伴い、しかもお金の計算が必要な手続がほと 20 んどであり、うつ病かつ困窮者の本件弁理士には難しい手続であった。 このことからも、本件弁理士が「相当な注意を尽くしていたにもかかわ らず、客観的にみて出願審査の請求期間のうちに出願審査請求書を提出 することができなかった」ことは明らかである。原判決は、「できた手続」 のみに着目して「正当な理由」を認めなかったが、公正な判断とはいえ 25 ない。 第4 当裁判所の判断 4 1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。 その理由は、下記のとおり、当審における控訴人の補充的主張に対する判断 を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第3(7頁〜)の説示のとおりで あるから、これを引用する。 5 【当審における控訴人の補充的主張に対する判断】 (1) 争点1(本件改正後の特許法48条の3第5項の適用)について ア 控訴人は、改正法附則1条5号中、公布の日から起算して6か月を超え る部分は違憲無効であるとの主張について原判決は何ら判断をしていな いと主張するが、改正法附則1条5号が憲法29条2項に反しないこと 10 は原判決説示(第3の1(3))のとおりである。原判決のこの判断が、改 正法附則1条5号が全部違憲無効との主張だけでなく、公布の日から起 算して6か月を超える部分について違憲無効との主張を含めて排斥する 趣旨であることは明らかであり、原判決に審理不尽の違法は認められな い。 15 そもそも、改正法附則2条4項は、本件改正後の特許法48条の3第 5項の規定は、その施行日以後に特許法48条の3第4項により取り下 げられたものとみなされる特許出願について適用し、同施行日前に同項 の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願については、な お従前の例によるものと定めている。他方、本件出願は、改正法の公布 20 から6か月が経過する前の令和3年9月5日(本件請求期間末日)の経 過をもって特許法48条の3第4項の規定により、既に取下げ擬制の効 果が生じている(前記引用に係る原判決の第2の2(3))。そうすると、 「改正法附則1条5号中、公布の日から起算して6か月を超える部分は 違憲無効」との控訴人の主張は、そもそも控訴人の権利義務に影響せず、 25 およそ検討の対象として取り上げる必要もないものである。 イ 控訴人は、法の適用に関する通則法2条本文を指摘するものの、同項た 5 だし書は「ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その 定めによる。」と定めており、改正法が20日を超えて施行されたから といって、施行期日を定める改正法附則1条5号が直ちに違法になるも のでもない。 5 控訴人は、法律の施行期間の平均が4.5か月であること等に照らすと、 改正法附則1条5号の定めのうちで公布の日から起算して4か月半を超 える部分は違憲無効であるとも主張するが、本件改正に係る改正法の施 行までの期間が平均的な期間を超えていたからといって、なにゆえに違 憲(憲法29条2項違反)となるのか、控訴人において何ら説明をなし 10 得ておらず、およそ採用の余地はないというべきである。 (2) 争点2(旧特許法48条の3第5項「正当な理由」の有無)について ア 原判決認定の本件における事実関係(第3の2(3)、9頁〜)の下では、 控訴人が本件請求期間を徒過したことについて旧特許法48条の3第5 項にいう正当な理由が認められないことは、原判決が認定説示する(第 15 3の2(4)、(5))とおりである。 控訴人は、「相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみ て出願審査の請求期間のうちに出願審査請求書を提出することができな かった」ことの主張立証の困難性を主張するが、本件弁理士がうつ病に 罹患していたとの事実、本件請求期間中、本件弁理士が弁理士業務を遂 20 行できない状況にあった事実などの客観的な事実を含め、控訴人におい て立証を尽くしていないといわざるを得ず、これを採用することはでき ない。 イ 控訴人は、18件の手続不実施があるから双極性うつ病であることは明 らかであるなどと主張するが、本件において本件弁理士が双極性うつ病 25 であったことやうつ病の程度等を認めるに足りる証拠はなく、以上の証 拠関係の下では、上記18件の手続不実施の事実はあっても、その原因 6 は不明と判断するほかない。 2 以上によれば、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと 同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから棄却するこ ととして、主文のとおり判決する。 5 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 宮 坂 昌 利 10 裁判官 本 吉 弘 行 裁判官 岩 井 直 幸 15 7 |