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関連審決 異議2000-73656
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  下位概念 /  技術常識 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 /  国際出願 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 352号 特許取消決定取消請求事件
原告 ニューウェーブ リサーチ
同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 吉田和彦
同 相良 由里子
同訴訟代理人弁理士 西島孝喜
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 三原彰英
同 高木進
同 西川惠雄
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2000−73656号事件について平成14年2月26日にした決定のうち,特許第3026362号の請求項3ないし6,10及び14に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 原告について,この判決の上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2000-73656号事件について平成14年2月26日にした決定のうち,特許第3026362号の請求項1ないし8,10,14に係る部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
前提となる事実(当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「プローブステーションおよびレーザ切断のための多波長レーザ光学システム」とする特許第3026362号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は,平成7年2月9日に国際出願(特願平7-521854号。優先日・平成6年2月18日。優先権主張国・米国。以下「本件出願」という。)され,平成12年1月28日に設定登録されたものである。
(2) ホーヤ・コンテニュアム株式会社は,平成12年9月27日,本件特許について,特許異議の申立てをした。特許庁は,同異議申立てを異議2000-73656号事件として審理をした上,平成14年2月26日,「特許第3026362号の請求項1ないし8,10,14に係る特許を取り消す。同請求項9,11ないし13,15に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年3月18日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨は,次のとおりである(甲2。以下,請求項1ないし15 に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明15」という。)。
【請求項1】 プローブステーションシステムであって:ベースと;分析または試験すべき装置を保持するために,前記ベースにマウントされたチャックと;前記装置のためのプローブをマウントするために,前記ベースにマウントされたプローブテーブルと;前記ベースにマウントされ,前記チャック上に保持された試験すべき装置の上に視野を有する顕微鏡と;前記顕微鏡と共にマウントされ,ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へ供給するレーザであって,複数の波長で前記ビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいるレーザとを具備し,前記顕微鏡が前記複数の波長に対して透明な光学系を含み,さらに,前記複数の波長が,出力ビームのための3つ以上の選択可能な波長が(「を」の誤記と認める。)含んでいるシステム。 【請求項2】 プローブステーションシステムであって:ベースと;対象を保持するために,前記ベースにマウントされたステージと;前記対象のためのプローブをマウントするために,前記ベースにマウントされたプローブテーブルと;前記ベースにマウントされ,前記ステージ上に保持された対象の上に視野を有する顕微鏡と;前記顕微鏡と共にマウントされ,ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へ供給するレーザであって,複数の波長で前記ビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいるレーザとを具備し,前記顕微鏡が,前記複数の波長において透明な光学系を含み,前記複数の波長が,出力ビームのための3以上の選択可能な波長を含んだシステム。 【請求項3】 制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって:単一のビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;単一のビーム経路内の1以上の非線形光学系であって,前記レーザによって発生されたビームを受信し,前記基本波長の複数の高調波を発生することが可能な非線形光学系と;単一のビーム経路内の前記複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器と;前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム。 【請求項4】 制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,単一のビーム経路に沿って,基本波長のビームを発生する固体レーザと;単一のビーム経路内の前記基本波長の少なくとも1つの高調波を発生する1以上の非線形光学系であって,前記複数の波長のうち少なくとも1つの特定波長のウォークオフを生じさせる非線形光学系と;複数の波長のそれぞれが,選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウォークオフを補償する手段と;前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム。 【請求項5】 制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,基本波長のビームを単一のビーム経路に沿って発生し,受動的に空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザと,レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長の2次高調波を発生することができる単一のビーム経路内の第1の非線形結晶と,レーザによって発生されたビームを受信し基本波長の3次または4次高調波の少なくとも1つを発生することができる,単一のビーム経路内の第2の非線形結晶と,レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器と,基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系とを具備したシステム。 【請求項6】 前記レーザが,ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の1以上の非線形光学系と;前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;前記複数の高調波および前記基本波長の中から,前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備した請求の範囲第1項または第2項に記載のシステム。 【請求項7】 前記レーザが,空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザを備えた請求の範囲第1項,第2項または第3項に記載のシステム。
【請求項8】 前記複数の波長が,赤外領域の少なくとも1つの波長,可視領域の少なくとも1つの波長,および紫外領域の少なくとも1つの波長が(「を」の誤記と認める。)含んでいる請求の範囲第1項,第2項または第3項に記載のシステム。 【請求項9】 前記可変減衰器が,少なくとも1つの高調波および基本波長に向けられた,ビーム経路内の半波長プレートと,偏光器と,前記波プレートおよび偏光器の相対的角度位置を制御して,前記複数の波長を減衰する機構とを備えた請求の範囲第3項,第5項または第6項に記載のレーザシステム。 【請求項10】 前記複数の波長が,基本波長,基本波長の2次高調波および基本波長の3次高調波が(「を」の誤記と認める。)含んでいる請求の範囲第4項または第9項に記載のレーザシステム。 【請求項11】 前記複数の波長が,基本波長,基本波長の2次高調波および基本波長の4次高調波が(「を」の誤記と認める。)含んでいる請求の範囲第9項に記載のレーザシステム。
【請求項12】 前記複数の波長が,基本波長の2次高調波および基本波長の3次高調波を含んでいる請求の範囲第9項に記載のレーザシステム。 【請求項13】 前記複数の波長が,基本波長の2次高調波および基本波長の4次高調波を含んでいる請求の範囲第9項に記載のレーザシステム。 【請求項14】 前記複数の波長が,赤外領域の基本波長,可視領域の2次高調波ならびに紫外3次高調波および紫外4次高調波のうちの少なくとも1つを含んでいる請求の範囲第3項または第4項に記載のレーザシステム。 【請求項15】 前記切替可能な光学系が,複数のフィルタおよび該複数のフィルタの選択された1つをビーム経路の中に切り替えて出力波長を選択するための機構を備え,第1および第2の非線形結晶によって複数の波長の少なくとも特定波長のウォークオフを生じさせ,さらに,前記複数のフィルタの特定の1つは特定波長を選択し,この特定のフィルタはウォークオフを補償するためにビーム経路に対して所定の角度でマウントされる請求の範囲第5項に記載のレーザシステム。
3 本件決定の要旨 (1) 本件発明1の進歩性について ア 本件発明1と「製品カタログ『レーザトリミング装置』1989年1月印刷・HOYA株式会社発行」(甲3。以下「刊行物1」という。)に記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とを対比すると,両者は,「ベースと,分析または試験すべき装置を保持するために,前記ベースにマウントされたチャックと,前記装置のためのプローブをマウントする部材と,前記ベースにマウントされ,前記チャック上に保持された試験すべき装置の上に視野を有する顕微鏡と,前記顕微鏡と共にマウントされ,ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へレーザを供給するプローブステーションシステム」である点で一致しているが,次の点で相違している。 (ア) プローブをマウントする部材が,本件発明1は,チャックとは別にベ ースにマウントされたプローブテーブルであるのに対し,刊行物1発明は,チャックを備えたXYステージである点(以下「相違点1」という。) (イ) 本件発明1のレーザは,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいて,前記複数の波長が,3つ以上であるとする構成を具備するのに対し,刊行物1発明は,このような構成が不明である点(以下「相違点2」という。) (ウ) 本件発明1の顕微鏡が,複数の波長に対して透明な光学系を含んでいるのに対し,刊行物1発明は,このような構成が不明である点(以下「相 違点3」という。) イ 相違点を検討する (ア) 相違点1については,この種の装置において,プローブをマウントす る部材として,ベースにマウントされたプローブテーブルは,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)においても「分析プローブステーションは,半導体製造施設および設計施設において広範に使用されている。・・・典型的には,プローブステーションには,プローブを装着するためのテーブルを備えたベース機械・・・が含まれている。」(1頁11〜18行)と記載されているように当業者に良く知られており,刊行物1発明において,プローブをマウントする部材としてのチャックを備えたXYステージとは別の,ベースにマウントされたプローブテーブルとするのは,当業者であれば適宜なし得る程度のものと認められる。
(イ) 相違点2については,特開平2-200389号公報(甲5。以下「刊行物2」という。)には,制御可能な複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,単一のビーム経路に沿って基本波のビームを発生するレーザと,該ビームを受信し,前記基本波の第2高調波を発生することが可能な波長変換素子と,出力ビームの波長を選択する波長選択板とを具備したレーザ加工のための照射システムが記載されている。言い換えると,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系が記載されており,しかも,加工に使用するレーザ光として,刊行物1に記載された装置が対象とするICについて,加工すべき対象(例えば,パッシベーション層)の材質に適した波長が選択されることは,従来周知であり,さらに,本件発明1において,選択可能な複数の波長を3つ以上とした点には,単に選択可能な波長を増やしたということ以上に格別の技術的意義が存するとは解されないので,本件発明1は,刊行物1発明に刊行物2記載の事項等を適用することにより容易に創出し得たものということができる。 (ウ) 相違点3については,刊行物1発明は,顕微鏡に搭載され,ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを顕微鏡の視野へ供給する小型YAGレーザを具備するものであるから,波長が単数か複数かは不明ではあるが,少なくとも或る波長に対して透明な光学系を含んでいるといえる。そして,顕微鏡で対応すべき波長が複数の場合,それぞれの波長に対して透明であることが必要であり,これは当業者が通常設計上配慮すべき必然的な技術事項であるといえる。 (エ) 以上検討したごとく,本件発明1は,刊行物1発明に刊行物2に記載 の事項を適用し,その際,当業者に良く知られている事項及び当業者が通常設計上配慮すべき必然的な技術事項を施すことにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 (2) 本件発明2の進歩性について ア 本件発明2と刊行物1発明とを対比すると,両者は,「ベースと,対象を保持するために,前記ベースにマウントされたステージと,前記対象のためのプローブをマウントする部材と,前記ベースにマウントされ,前記ステージ上に保持された対象の上に視野を有する顕微鏡と,前記顕微鏡と共にマウントされ,ビームライン上の顕微鏡光学系を通して出力ビームを前記顕微鏡の視野へレーザを供給するプローブステーションシステム」である点において一致しているが,次の点で相違している。 (ア) プローブをマウントする部材が,本件発明2は,対象を保持するため のステージとは別のベースにマウントされたプローブテーブルであるのに対し,刊行物1発明は,チャックを備えたXYステージである点(以下「相違点4」という。) (イ) 本件発明2のレーザは,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいて,前記複数の波長が,3つ以上であるとする構成を具備するのに対し,刊行物1発明は,このような構成が不明である点(以下「相違点5」という。) (ウ) 本件発明2の顕微鏡が,複数の波長に対して透明な光学系を含んでいるのに対し,刊行物1発明は,このような構成が不明である点(以下「相違点6」という。) イ 相違点を検討するに,相違点4ないし6は,それぞれ,前記(1)において検討した相違点1ないし3にそれぞれ相当しており,したがって,本件発明2は,刊行物1発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際,当業者に良く知られている事項及び当業者が通常設計上配慮すべき必然的な技術事項を施すことにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (3) 本件発明3の進歩性について ア 本件発明3と刊行物2に記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)を比較すると,両者は,「制御可能な複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,単一のビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと,単一のビーム経路内の1以上の非線形光学系であって,前記レーザによって発生されたビームを受信し,前記基本波長の高調波を発生することが可能な非線形光学系と,出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム」である点で一致し,次の点で相違している。 (ア) 本件発明3の非線形光学系は複数の高調波を発生することが可能であ るのに対し,刊行物2発明は1つの高調波のみを発生する点(以下「相違点7」という。) (イ) 本件発明3は単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器を有しているが,刊行物2発明はこのような可変減衰器を有していない点(以下「相違点8」という。) イ 相違点について検討する。
(ア) 相違点7については,この種のレーザシステムにおいて,複数の高調 波を発生することが可能な非線形光学系を設けることは,特開平2-126242号(甲7の(1)。以下「刊行物4」という。),特開平2-301178号(甲7の(2)。以下「刊行物5」という。)及び特開昭64-64280号(甲7の(3)。以下「刊行物6」という。)にもみられるごとく周知技術であり,刊行物2発明にこの周知技術を適用して本件発明3のごとくするのは,当業者であれば,適宜なし得る程度のものである。
(イ) 次に,相違点8については,特開昭62-32674号(甲6。以下「刊行物3」という。)に,レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器3が記載されており,この可変減衰器を刊行物2発明に適用して本件発明3のごとくなすことは,いずれもレーザ加工に関するものであり,当業者であれば容易である。 (ウ) 上記のごとく,本件発明3は,刊行物2発明に,刊行物3に記載の事項及び刊行物4ないし6に記載の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (4) 本件発明4の進歩性について ア 本件発明4と刊行物3に記載の発明(以下「刊行物3発明」という。)を比較すると,両者は,「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,単一のビーム経路に沿って,基本波長のビームを発生する固体レーザと,単一のビーム経路内の前記基本波長の少なくとも1つの高調波を発生する1以上の非線形光学系であって,前記複数の波長のうち少なくとも1つの特定波長のウォークオフを生じさせる非線形光学系と,複数の波長のそれぞれが,選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウォークオフを補償する手段とを具備したシステム」である点で一致しているが,本件発明4は,出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系を有しているのに,刊行物3発明はこのような光学系を有しない点(以下「相違点9」という。) において相違している。
イ 相違点9を検討するに,刊行物2には,この種のレーザシステムにおいて,出力ビームの波長を選択する波長選択板を設ける技術事項が記載されており,しかも,波長選択板を光路に対して進退させることにより所望の波長を選択できることが記載されている。そして,刊行物2に記載されたものも刊行物3発明と同様,2つの波長のレーザを利用するものであるから,この波長選択板を刊行物3発明に適用して,本件発明4のごとくすることは,当業者であれば容易である。 ウ 上記のごとく,本件発明4は,刊行物3発明に,刊行物2に記載の事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 (5) 本件発明5の進歩性について ア 本件発明5と刊行物3発明とを比較すると,両者は,「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,基本波長のビームを単一のビーム経路に沿って発生するNd:YAGレーザと,レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長の2次高調波を発生することができる単一のビーム経路内の第1の非線形結晶と,レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長,2次高調波の少なくとも1つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器とを具備したシステム」である点で一致しているが,次の点で相違している。 (ア) 本件発明5のNd:YAGレーザは,受動的に空冷され,電子-光学 的にQスイッチされるのに対して,刊行物3発明はこの構成が不明である点(以下「相違点10」という。) (イ) 本件発明5は,レーザによって発生されたビームを受信し基本波長の3次または4次高調波の少なくとも1つを発生することができる,単一のビーム経路内の第2の非線形結晶を有しているのに対して,刊行物3発明は,このような第2の非線形結晶を有していない点(以下「相違点11」という。) (ウ) 本件発明5は,可変減衰器が,更に,3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができるのに対して,刊行物3発明は,このようになっていない点(以下「相違点12」という。) (エ) 本件発明5は,基本波長,2次高調波並びに3次及び4次高調波の少 なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系を有しているのに対して,刊行物3発明は,このようになっていない点(以下「相違点13」という。) イ 相違点について検討する。
(ア) 相違点10については,「『レーザーハンドブック』編者・レーザー 学会,昭和57年12月15日発行,発行所・株式会社オーム社」の220頁ないし227頁(以下「刊行物8」という。)にみられるごとく,Nd:YAGレーザーにおいて冷却系を設けること及び電子-光学的にQスイッチすることは,周知技術であり,刊行物3発明のものにこの周知技術を適用して本件発明5のごとくすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものである。 (イ) 相違点11については,この種のレーザ装置において,基本波長の3次又は4次高調波の少なくとも1つを発生することができる第2の非線形結晶を設けることは,刊行物4又は5に記載されており,刊行物3発明にこの第2の非線形結晶を設ける点を適用して,本件発明5のごとくするのは当業者にとって容易である。
(ウ) 次に,相違点12については,刊行物3に,レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器が記載されており,しかも2次高調波,3次及び4次高調波の発生は何れも非線形結晶によっているので,これらの結晶の位相整合条件を制御して,本件発明5のごとく基本波長,2次高調波並びに3次及び4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するようにすることは,当業者であれば容易である。
(エ) 相違点13については,複数の波長の中から出力ビームの波長を選択 することは,「『オプトロニクス技術活用のための光学部品の使い方と留意点』著者・末田哲夫,昭和60年9月20日発行,発行所・株式会社オプトロニクス社」の68頁ないし77頁(以下「刊行物7」という。)にみられるごとく,周知技術であり,刊行物3発明のものにこの周知技術を適用して本件発明5のごとくすることは,当業者であれば必要に応じてなし得る程度のものと認められる。 ウ 上記のごとく,本件発明5は,刊行物3発明に,刊行物3ないし5に記載の事項及び刊行物7及び8に記載の2つの周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。 (6) 本件発明6の進歩性について ア 請求項1を引用した本件発明6 請求項1を引用した本件発明6と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(1)で認定した相違点1ないし3の他に,請求項6で限定した事項である「前記レーザが,ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の1以上の非線形光学系と;前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;前記複数の高調波および前記基本波長の中から,前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備した」点(以下「相違点14」という。)においても相違する。 しかし,刊行物3には,レーザ装置が,1つのビーム経路に沿って基本波成分のビームを発生するNd:YAGレーザーである固体レーザと,前記基本波成分の第2高調波成分を出射するビーム経路内の非線形光学効果を有する結晶体からなる第2高調波発生器17と,レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器とを具備する点が記載されている。そして,出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系を設ける点は,刊行物7にみられるごとく,周知技術であり,また,複数の高調波を発生させるレーザ装置は,刊行物4ないし6にみられるごとく周知であるから,請求項1を引用した本件発明6は,刊行物1発明に刊行物2及び上記刊行物3記載の事項を適用し,さらに,上記刊行物4ないし7に記載の2つの周知技術を施したレーザを適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
イ 請求項2を引用した本件発明6 請求項2を引用した本件発明6と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(2)で認定した相違点4ないし6の他に,請求項6で限定した事項である相違点14においても相違する。
しかし,相違点4ないし6は,それぞれ相違点1ないし3に相当するので,請求項2を引用した本件発明6は,上記アで検討したごとく請求項1を引用した本件発明6と同様に,刊行物1発明に刊行物2及び上記刊行物3記載の事項を適用し,さらに,上記刊行物4ないし7に記載の2つの周知技術を施したレーザを適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (7) 本件発明7の進歩性について ア 請求項1を引用した本件発明7 請求項1を引用した本件発明7と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(1)で認定した相違点1ないし3の他に,請求項7で限定した事項である「前記レーザが,空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザを備えた」点(以下「相違点15」という。)においても相違する。
しかし,刊行物8には,請求項7で限定した事項について,周知の,冷却系を備え,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザが記載されているから,請求項1を引用した本件発明7は,刊行物1発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに刊行物8に記載の周知のNd:YAGレーザを適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 イ 請求項2を引用した本件発明7 請求項2を引用した本件発明7と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(2)で認定した相違点4ないし6の他に,請求項7で限定した事項である相違点15においても相違する。
しかし,前記(2)で検討したごとく相違点4ないし6は,それぞれ相違点1ないし3に相当するので,請求項2を引用した本件発明7は,上記アで検討したごとく,請求項1を引用した本件発明7と同様に,刊行物1発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに刊行物8に記載の周知のNd:YAGレーザを適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 ウ 請求項3を引用した本件発明7 請求項3を引用した本件発明7と刊行物2発明とを対比すると,両者は,前記(3)で認定した相違点7,8の他に,請求項7で限定した事項である相違点15においても相違する。
しかして,請求項3を引用した本件発明7は,前記(3)において相違点7,8について検討したごとく,刊行物2発明に,刊行物3に記載の事項及び刊行物4ないし6に記載の周知技術を適用し,その際に,さらに刊行物8に記載の周知のNd:YAGレーザを適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (8) 本件発明8の進歩性について ア 請求項1を引用した本件発明8 請求項1を引用した本件発明8と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(1)で認定した相違点1ないし3の他に,請求項8で限定した事項である「前記複数の波長が,赤外領域の少なくとも1つの波長,可視領域の少なくとも1つの波長,および紫外領域の少なくとも1つの波長を含んでいる」点(以下「相違点16」という。)においても相違する。
しかして,この限定した事項については,刊行物4ないし6の,基本波及び複数の高調波の発生に関する周知技術のうち,基本波(ω=1064nm),基本波の第2高調波(2ω=532nm)が,それぞれ「赤外領域の少なくとも1つの波長」,「可視領域の少なくとも1つの波長」,に相当しており,第3高調波(3ω=335nm)及び第4高調波(4ω=266nm)が,「紫外領域の少なくとも1つの波長」にそれぞれ相当しているから,請求項1を引用した本件発明8は,刊行物1発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 イ 請求項2を引用した本件発明8 請求項2を引用した本件発明8と刊行物1発明とを対比すると,両者は,前記(2)で認定した相違点4ないし6の他に,請求項8で限定した事項である相違点16においても相違する。 しかし,前記(2)で検討したごとく,相違点4ないし6は,それぞれ相違点1ないし3に相当するので,請求項2を引用した本件発明8は,上記アで検討したごとく,請求項1を引用した本件発明8と同様に,刊行物1発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 ウ 請求項3を引用した本件発明8 請求項3を引用した本件発明8と刊行物2発明とを対比すると,両者は,前記(3)で認定した相違点7,8の他に,請求項8で限定した事項である相違点16においても相違する。
しかして,請求項3を引用した本件発明8は,前記(3)において相違点7,8について検討したごとく,刊行物2発明に刊行物3に記載の事項及び刊行物4ないし6に記載の周知技術を適用し,その際に,さらに刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (9) 本件発明10の進歩性について 請求項4を引用した本件発明10と刊行物3発明とを対比すると,両者は,前記(4)で認定した相違点9の他に,請求項10で限定した事項である「前記複数の波長が,基本波長,基本波長の2次高調波および基本波長の3次高調波を含んでいる」点(以下「相違点17」という。)においても相違する。 しかし,相違点17に関して,複数の波長が,基本波長,基本波長の2次高調波及び基本波長の3次高調波が含んでいるレーザシステムは,刊行物4ないし6に開示された周知の技術であるから,請求項4を引用した本件発明10は,刊行物3発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに上記刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (10) 本件発明14の進歩性について ア 請求項3を引用した本件発明14 請求項3を引用した本件発明14と刊行物2発明とを対比すると,両者は,前記(3)で認定した相違点7,8の他に,請求項14で限定した事項である「前記複数の波長が,赤外領域の基本波長,可視領域の2次高調波ならびに紫外3次高調波および紫外4次高調波のうちの少なくとも1つを含んでいる」点(以下「相違点18」という。)においても相違する。 この相違点18に係る構成は,前記(8)で検討したように,刊行物4ないし6に開示された周知の技術である。したがって,請求項3を引用した本件発明14は,刊行物2発明に刊行物3に記載の事項を適用し,その際に,さらに上記刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 イ 請求項4を引用した本件発明14 請求項4を引用した本件発明14と刊行物3発明とを対比すると,両者は,前記(4)で認定した相違点9の他に,請求項14で限定した事項である相違点18においても相違する。 しかし,上記アのごとく,請求項14で限定した事項は,刊行物4ないし6に開示された周知の技術と認められるから,請求項4を引用した本件発明14は,刊行物3発明に刊行物2に記載の事項を適用し,その際に,さらに刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 (11) 請求項1ないし15について記載不備がある旨の主張について 請求項1ないし15について記載不備は認められない。
(12) むすび 以上のとおり,本件発明1ないし8,10及び14は,刊行物1発明ないし刊行物3発明及び刊行物4ないし8に記載の周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし8,10及び14に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,特許を取消すべきものである。 また,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件発明9,11ないし13及び15に係る特許を取消すことはできない。さらに,本件発明9,11ないし13及び15に係る特許については,他に取消し理由を発見しない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 1 取消事由1(本件発明1に関する進歩性判断の誤り) 本件決定は,相違点2(本件発明1のレーザは,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系を含んでいて,前記複数の波長が,3つ以上であるとする構成を具備するのに対し,刊行物1発明は,このような構成が不明である点)に関する判断において,@刊行物2には,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系が記載されており,A加工すべき対象の材質に適した波長が選択されることは従来周知であって,B選択可能な波長を増やしたということ以上に格別の技術的意義はないことを理由として,相違点2に係る本件発明1の構成を想到することは容易であるとしている。
しかしながら,以下に述べるとおり,本件決定の示す上記理由@及びBは誤りであり,また,そもそも刊行物1発明に刊行物2記載の事項を適用する動機付けはなく,仮に適用したとしても,本件発明1を創出することはできない。
(1) 上記理由@の誤りについて 刊行物2発明は,2つの光源を用いずに波長の異なる2つの光を得るため,レーザ照射装置は,基本波の2次高調波を発生する波長変換素子を具備しているのみである。本件決定は,2つの波長を,3つ以上を含む意味となる複数に言い換えている。しかし,刊行物2には,基本波から3つ以上の波長を発生させる手段や,波長を増やすことが望ましいといった記載はない。また,刊行物2の波長選択の方法は,2つの波長のうちいずれかの波長を通過させる1枚の波長選択板を進退させる方法であるから,3つ以上の波長が存在する場合に,そのうちの1つの波長を選択することは不可能である。したがって,本件決定の上記理由@に関する認定は,明らかに誤りである。
(2) 上記理由Bの誤りについて 半導体欠陥分析において,3つの波長を選択することができるとすれば,この分野において最も普遍的な波長である緑色のほか,紫外線エネルギーによって,緑色領域では除去できない,窒化物及びポリイミドのようなパッシベーション材料を直接除去ができ,さらに緑色に対して有利な補償的波長となる赤外波長によって,下地シリコンに対する損傷を少なくして,金属配線を除去することもできる。このように,3つ以上の波長を選択的に利用できることによって,半導体を完壁に処理することが可能になる。しかし,従来の技術においては,プローブステーションシステムにおいて複数の波長の光を供給するためには,複数のレーザシステムが必要とされ,また,紫外線を供給するエキシマレーザは大きな嵩高い装置であり,しかもレーザエネルギーを顕微鏡の光学系に導くために複雑なガイド管を必要とするから,このような大きなレーザシステムでは,顕微鏡にマウントすることは不可能である。 刊行物2発明は,2つの波長の光を供給できるレーザ加工装置にすぎないだけでなく,顕微鏡にマウントできる程の極めてコンパクトな大きさで実現できるようなレーザ装置ではなく,また,コンパクトにするための具体的な方法の開示もない。
これに対し,本件発明1においては,出力される光の波長が3つ以上であるレーザ装置にもかかわらず,極めてコンパクトな寸法であるため,顕微鏡にマウントすることができる。このため,半導体欠陥分析における極めて有利な効果を発揮するのである。
(3) 本件決定における上記理由@及びBの認定は誤っているから,これらの理由に基づき本件発明1に進歩性がないとした判断も,誤りである。
また,そもそも,刊行物1は,「顕微鏡つき,簡易型レーザトリミング装置」の特徴等と,簡単な標準構成図を開示する製品パンフレットにすぎず,選択可能な波長を複数にすることの利点やその問題点について,何らの記載も示唆もない。他方,刊行物2においても,レーザ加工装置の選択可能な波長を3つ以上にすることや,同装置を顕微鏡にマウントするようなコンパクトな大きさにすること,さらに,そのことによる利点について,開示も示唆もされていない。
したがって,刊行物1発明及び刊行物2に記載の事項は,これらを組み合わせることによって,本件発明1のようなプローブステーションを創出するという動機付けをそもそも有していない。また,例え両者の組合わせを試みたとしても,顕微鏡に搭載できるような極めてコンパクトな大きさのレーザ加工装置にすることは不可能である。
2 取消事由2(本件発明2に関する進歩性判断の誤り) 本件発明2と刊行物1発明との相違点4ないし6は,それぞれ本件発明1と刊行物1発明との相違点1ないし3にそれぞれ相当するから,本件発明2については,前記1で述べた議論がそのまま適用されることになる。したがって,取消事由1と同様の理由により,本件決定の本件発明2に関する進歩性判断には誤りがある。
3 取消事由3(本件発明3と刊行物2発明との一致点の認定誤り及び本件発明3に関する進歩性判断の誤り) (1) 一致点の認定誤り 本件決定は,本件発明3と刊行物2発明とは,@「制御可能な複数の波長を供給するためのレーザシステム」であること,A「出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステム」であることにおいて一致するとしている。しかし,以下に述べるとおり,上記一致点の認定は誤りである。
ア 上記@について 刊行物2発明においては,基本波長と2次高調波の2つの波長を供給することしかできない。これに対し,本件発明3は,基本波長と複数の高調波という3つ以上の波長を含むことが前提とされており,「複数の波長を供給する」といっても,両者において,その意味は明らかに相違する。
イ 上記Aについて 刊行物2発明における波長選択の方法によっては,2つの波長を選択することはできても,3つ以上の複数の波長を選択することはできない。これに対し,本件発明3における切替可能な光学系は,3つ以上の波長を含む出力ビームの波長を選択することができなければならない。したがって,本件決定のこの点に関する認定は誤りである。
(2) 進歩性判断の誤り ア 本件決定は,相違点8(本件発明3は単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器を有しているが,刊行物2発明はこのような可変減衰器を有していない点)に関する判断において,刊行物3に記載の可変減衰器を刊行物2発明に適用して相違点8に係る本件発明3の構成とすることは容易であるとする。
しかしながら,刊行物3に記載の可変減衰器は,レーザ光(波長1.06μm)が可変減衰器に送られ,非線形結晶体である2次高調波発生器によって,基本波と2次高調波の出射光が得られ,2次高調波発生器を回動させることによって出力光のエネルギー制御がなされ,光軸補正板によって光軸が補正された後,2次高調波だけが可変減衰器の出力光として送出されるというものである。したがって,刊行物3発明の可変減衰器は,レーザ光を受信し,可変減衰器内の高調波発生器によって発生する高調波出力光を減衰するものである。これに対し,本件発明3における可変減衰器は,既に発生している複数の高調波を受信し,複数の高調波を減衰するものである。したがって,刊行物3記載の可変減衰器が,本件発明3の可変減衰器とは異なるものであることは明らかである。
以上から,刊行物2発明に,刊行物3発明の可変減衰器を適用しても,相違点8に係る本件発明3の構成のごとくすることはできない。
イ 被告は,「複数の波長のレーザに対応する可変減衰器も,本件出願前に周知となっていた」と主張する。
しかし,本件出願前に周知であったのは,複数の波長のうちから出力ビームとして選択された,いずれか1つの波長を減衰する可変減衰器にすぎない。例えば,被告の提出した特開平7-124764号公報(乙5)においても,加工レーザを波長可変とし,薄膜構成に適合した波長を選択することしか記載されていない。
したがって,複数のすべての波長を減衰することのできる本件発明3における可変減衰器は,本件出願当時においても周知ではなかった。
4 取消事由4(本件発明4と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明4に関する進歩性判断の誤り) (1) 一致点の認定誤り 本件決定は,本件発明4と刊行物3発明とは,@「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステム」である点,A「前記複数の波長のうち少なくとも1つの特定波長のウォークオフを生じさせる非線形光学系」と,B「複数の波長のそれぞれが,選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウォークオフを補償する手段」を具備する点で一致するとしている。しかし,以下に述べるとおり,上記一致点の認定は誤りである。
ア 上記@について 刊行物3発明のレーザ装置は,単一の特定高調波のみを出力するためのレーザシステムであって,「複数の波長を供給するためのレーザシステム」ではない。
イ 上記Bについて 刊行物3には,光軸の位置ずれを補償する手段に関する記載があるが,補償されるのは,2次高調波発生器を回動させることによって生じる光軸の位置ずれである。また,刊行物3においては,回動によって,各波長について光軸のずれを確認しながら調整し,光軸が補正されることから,ウォークオフの補償手段である「光軸補正板」は,所定の角度に定められているわけではない。さらに,刊行物3には,光軸補正板20は,光軸のずれを補正するとの開示はみられるものの,高調波発生器17のエネルギー強度の回動角制御(連続的制御)に伴う光軸のずれの補正についての抽象的概念的開示にとどまっており,これを達成するための具体的材料及び付随する数値等,不連続なウォークオフを定量的に把握する点についても,これを即応的に補償する点についても,一切開示がない。
これに対し,本件発明4の「ウォークオフ」とは,非線形光学系によって生じる高調波の光軸の位置ずれのことである。刊行物3発明は,非線形光学系によって生ずる光軸のずれである「ウォークオフ」を補償する手段は具備していない。本件発明4においては,「特定波長の」ウォークオフについて,当該ウォークオフの補償のために所定の角度が設定されており,また,特定の複数の高調波すべてについて,発生するウォークオフを予め定量的に把握し,これらが単一のビームラインに沿って供給されるよう補償する手段を設けている。
ウ 上記Aについて 刊行物3発明においては,非線形光学系によるウォークオフは生じていないから,「特定波長のウォークオフを生じさせる非線形光学系」も具備していない。
(2) 進歩性判断の誤り 本件決定は,上記一致点の認定を誤っているから,本件発明4に関する進歩性判断も誤っている。
また,本件決定は,相違点9(本件発明4は,出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系を有しているのに,刊行物3発明はこのような光学系を有しない点)に関する判断において,刊行物3発明に刊行物2発明の波長選択板を適用して相違点9に係る本件発明4の構成とすることは容易であるとする。
しかし,刊行物3発明は,基本波であるレーザ光から高調波を発生させた上で,基本波成分を抜き出し,単一の高調波のみを出力し,エネルギー制御して利用するレーザ装置であり,2波長のレーザを利用するものではないから,刊行物2発明の波長選択板を適用したとしても,そもそも波長を選択することはできず,相違点9に係る本件発明4の構成を創出し得ない。
5 取消事由5(本件発明5と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明5に関する進歩性判断の誤り) (1) 一致点の認定誤り 本件決定は,本件発明5と刊行物3発明とを比較し,@「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステムで」ある点,A「レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長,2次高調波の少なくとも1つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器」を具備する点で,両者は一致すると認定している。しかし,以下に述べるとおり,上記一致点認定は誤りである。
ア 上記@について 刊行物3発明は,単一の特定高調波のみを出力するためのレーザシステムであり,上記認定は誤りである。
イ 上記Aについて 本件決定は,以下に述べるとおり,請求項5の記載を読み誤った結果,上記Aを一致点と認定したものであり,この認定は誤りである。
すなわち,請求項5の記載は,本件発明5の可変減衰器は,(ア)基本波長 と,(イ)2次高調波と,(ウ)3次及び4次高調波の少なくとも1つを発生することができるということを意味している。このように,本件発明5において,可変減衰器は,基本波長,2次高調波,3次及び4次高調波の少なくとも3つ以上,多ければ4つの波長を発生することができるものである。これに対して,刊行物3発明の可変減衰器は2次高調波のみを発生するものでしかない。したがって,本件発明5と刊行物3発明とは上記Aの点で一致しない。
(2) 進歩性判断の誤り 本件決定は,相違点10,相違点12及び相違点13に関する判断において,本件発明5は,刊行物3発明に,刊行物3ないし5に記載の事項,並びに刊行物7及び8に記載の2つの周知技術を適用することにより,上記各相違点に係る本件発明5の構成とすることは容易にできたとしている。しかしながら,以下に述べるとおり,上記各相違点についての本件決定の判断には,誤りがある。
ア 相違点10(本件発明5のNd:YAGレーザは,受動的に空冷され,電子-光学的にQスイッチされるのに対して,刊行物3発明はこの構成が不明である点)に関する判断について 本件決定は,刊行物8の記載を根拠に,Nd:YAGレーザにおいて冷却系を設けることは周知技術であるとして,刊行物3発明にこれを適用して相違点10に係る本件発明5の構成のごとくするのは容易であるとする。
しかし,刊行物8には,Nd:YAGレーザに冷却系を設ける必要があること,水の中に浸して冷却する方法については開示されているが,冷却系の具体的な機構については何ら開示していない。これに対し,本件発明5は,受動的に冷却される機構を有するものであり,このような機構を設けることによって,プローブステーションの振動防止という顕著な効果を有するものである。刊行物8には,受動的な冷却機構を設けること,及びそれによる効果について,これを示唆するような記載は一切認められない。したがって,冷却系を設けること自体は周知であったとしても,受動的な冷却機構を設ける技術については,到底周知とはいえず,刊行物3発明に,冷却系を設けるという周知技術を適用しても,相違点10に係る本件発明5の構成を創出することは不可能である。
イ 相違点12(本件発明5は,可変減衰器が,更に,3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができるのに対して,刊行物3発明は,このようになっていない点)に関する判断について 本件決定は,刊行物3の記載から,基本波長,2次高調波並びに3次及び4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するようにすることは,当業者であれば容易であるとする。
しかし,本件発明5は,上記のように3つ以上の波長を発生させるものであるのに,刊行物3発明は,単一の高調波のみを発生させる可変減衰器を備えているにすぎないから,両者は全く異なる。したがって,相違点12に関する上記判断は,請求項5の記載を読み誤った結果,その判断を誤ったものである。
ウ 相違点13(本件発明5は,基本波長,2次高調波並びに3次及び4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系を有しているのに対して,刊行物3発明は,このようになっていない点)に関する判断について 本件決定は,「複数の波長の中から出力ビームの波長を選択することは,刊行物7にみられるごとく,周知技術であり」,刊行物3にこの周知技術を適用すれば,相違点13に係る本件発明5の構成になし得るとする。
しかし,刊行物3発明においては,複数の波長が出力されないから,これに波長を選択するための切替可能な光学系を適用しても,相違点13に係る本件発明5の構成には至らない。
また,仮に,刊行物3発明において複数の波長が出力されたとしても,本件発明5において,切替可能な光学系による波長選択の対象とされるのは,基本波長と複数の高調波であるところ,基本波から高調波を発生させた場合ウォークオフが生じてしまうため,複数の高調波を切り替えて出力ビームとして利用する場合には,何らかのウォークオフを補償する手段が必要となる。しかるに,刊行物7には,「複数の波長で発振するレーザ」の場合の波長選択機構について記載されているにすぎず,基本波から複数の高調波を発生させた場合の波長選択機構は示唆すらされていないから,刊行物3発明が複数の高調波を発生し得たと仮定しても,これに刊行物7記載の周知技術を適用したところで,相違点13に係る本件発明5の構成を創出することはできない。
6 取消事由6(本件発明6に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1及び2の進歩性の判断を誤っており,本件発明1及び2は進歩性を有するものであるから,請求項1及び2を引用する本件発明6も進歩性を有するものである。
(2) また,本件決定は,相違点14(本件発明6が,「前記レーザが,ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の1以上の非線形光学系と;前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;前記複数の高調波および前記基本波長の中から,前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備」しているのに対し,刊行物1発明はそのようになっていない点)に関する判断において,刊行物1発明に刊行物2及び刊行物3記載の事項を適用し,さらに,刊行物4ないし7に記載の2つの周知技術を施したレーザを適用することにより,相違点14に係る本件発明6の構成とすることは容易に想到できたとするが,この判断も誤りである。
ア 刊行物1発明に,刊行物3記載の事項を適用するには,刊行物3記載の各レーザ装置を,顕微鏡にマウントできる程度のコンパクトなものにする必要があるが,刊行物3にはこれに関する技術は一切記載されていない。
イ また,前記5に述べたごとく,刊行物7には,基本波から複数の高調波を発生させた場合の波長選択機構は示唆すらされておらず,ウォークオフ補償手段も記載されていないから,刊行物7記載の周知技術を適用しても,相違点14に係る本件発明6の構成に至ることはできない。
ウ 加えて,本件決定は,「複数の高調波を発生させるレーザ装置は,刊行物4ないし6にみられるごとく周知である」と認定しているが,刊行物4ないし6は,4次高調波や5次高調波を発生させる光学系について記載はしているものの,いずれも出力ビームとしては単一の高調波を発生させるレーザ装置にすぎず,複数の高調波をすべて出力ビームとして発生させる技術については記載も示唆もない。
したがって,複数の高調波を出力ビームとして発生するレーザ装置は周知技術とはいえない。
また,レーザ装置の大きさをコンパクトにする技術も刊行物4ないし6に記載されておらず,周知技術ではない。
エ よって,刊行物1発明に刊行物2及び刊行物3の記載事項を適用し,刊行物4ないし7に開示された周知技術を適用したとしても,相違点14に係る本件発明6の構成を創出することはできない。
7 取消事由7(本件発明7に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1ないし3の進歩性の判断を誤っており,本件発明1ないし3は進歩性を有するものであるから,請求項1ないし3を引用する本件発明7も進歩性を有するものである。 (2) また,本件決定は,相違点15(本件発明7は,「前記レーザが,空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザ」を備えているのに対し,刊行物1発明はこの構成が不明である点)に関する判断において,相違点15に係る本件発明7の構成は,刊行物1発明に刊行物8に記載の周知のレーザを適用することにより,当業者が容易に想到できたとするが,この判断も誤りである。
すなわち,刊行物8に記載のレーザは,プローブステーションシステムに装着するように設計されたもの,すなわち,顕微鏡にマウントできるような大きさのものではない。刊行物8には,冷却系を備え,電子-光学的にQスイツチされるNd:YAGレーザを,そのような大きさに設計する技術について,何らの開示もなく,一切示唆もない。そして,その効果についても,何ら記載されていない。
したがって,刊行物1発明に刊行物8に記載の周知のレーザを適用しても,相違点15に係る本件発明7の構成を当業者が容易に創出することはできない。
8 取消事由8(本件発明8に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明1ないし3の進歩性の判断を誤っており,本件発明1ないし3は進歩性を有するものであるから,請求項1ないし3を引用する本件発明8も進歩性を有するものである。
(2) また,本件決定は,相違点16(本件発明8においては「前記複数の波長が,赤外領域の少なくとも1つの波長,可視領域の少なくとも1つの波長,および紫外領域の少なくとも1つの波長を含んでいる」のに対し,刊行物1発明においてはこのような構成が不明である点)に関する判断において,刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,相違点16に係る本件発明8の構成は当業者が容易に想到することができたとするが,この判断も誤りである。
すなわち,前記6の(2)ウで述べたとおり,刊行物4ないし6には,複数の高調波すべてを出力ビームとして発生させることができる技術の記載や示唆はなく,また,複数の高調波を発生させるようなレーザ装置の大きさをコンパクトにする技術の記載もない。
また,半導体欠陥分析において,最も普遍的な波長である緑色,紫外波長,及び赤外波長の3つの波長を選択的に利用すると,半導体を完壁に処理することが可能になるという効果を奏する。
したがって,刊行物1発明に刊行物4ないし6にみられる周知技術を適用しても,相違点16に係る本件発明8の構成を当業者が容易に創出することはできない。
9 取消事由9(本件発明10に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明4の進歩性の判断を誤っており,本件発明4は進歩性を有するものであるから,請求項4を引用する本件発明10も進歩性を有するものである。また,本件決定は本件発明9を維持するとしているから,請求項9を引用する本件発明10も進歩性を有するものである。
(2) また,本件決定は,相違点17(本件発明10においては「前記複数の波長が,基本波長,基本波長の2次高調波および基本波長の3次高調波を含んでいる」のに対し,刊行物3発明においてはそのようになっていない点)に関する判断において,刊行物3発明に刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,相違点17に係る本件発明10の構成は当業者が容易に想到することができたとするが,この判断も誤りである。
すなわち,本件発明10においては,出力ビームが複数の高調波を含むことが前提とされているのに対し,刊行物4ないし6には,複数の高調波を出力する技術は記載されていないから,刊行物3発明に刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用しても,相違点17に係る本件発明10の構成に至ることはない。
10 取消事由10(本件発明14に関する進歩性判断の誤り) (1) 本件決定は,本件発明3及び4の進歩性の判断を誤っており,これらは進歩性を有するものであるから,請求項3及び4を引用する本件発明14も進歩性を有するものである。
(2) また,本件決定は,相違点18(本件発明14においては「前記複数の波長が,赤外領域の基本波長,可視領域の2次高調波ならびに紫外3次高調波および紫外4次高調波のうちの少なくとも1つを含んでいる」のに対し,刊行物2発明においてはそのようになっていない点)に関する判断において,刊行物2発明に刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,相違点18に係る本件発明14の構成は当業者が容易に想到することができたとするが,この判断も誤りである。
すなわち,本件発明14においては,出力ビームは,赤外領域の基本波長,可視領域の2次高調波,紫外3次高調波及び紫外4次高調波のうちの少なくとも1つ,の3つ以上の波長を含むことが前提であるのに対し,刊行物4ないし6に開示の周知技術には,複数の高調波を出力する技術は含まれていないから,刊行物2発明に刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用しても,相違点18に係る本件発明14の構成を創出することはできない。
(被告の反論) 1 取消事由1(本件発明1に関する進歩性判断の誤り)について (1) 理由@に係る認定について 本件決定の上記認定は,刊行物2の「制御可能な複数の波長を供給するためのレーザシステムであって,単一のビーム経路に沿って基本波のビームを発生するレーザと,該ビームを受信し,前記基本波の第2高調波を発生することが可能な波長変換素子と,出力ビームの波長を選択する波長選択板とを具備したレーザ加工のための照射システム」との記載部分を,「言い換えると」として認定したものであり,「2つ」が,複数の下位概念であることは,明らかであるから,この認定に誤りはない。さらに,本件決定は,刊行物2に記載されたものは,3つ以上の波長を選択するものとは異なるものと認定し,その相違点について判断を示しているから,2つを複数に言い換えたことが本件決定の結論に影響を及ぼすものでもない。
(2) 理由Bに係る認定について 特開平5-192779号公報(乙1)には,金属パターンの加工及び高分子材料や絶縁膜などの被膜の加工に対して異なる波長のレーザ光を使用することが記載されており,また,1つの材質であっても加工の種類に応じて波長が選択されることも刊行物2に記載されているように周知である。そして,波長を選択して使用する際に使用可能な波長が多くなれば,使い勝手が良くなることは当然である。本件発明の,基本波の赤外領域(1064ナノメートル),2次高調波の緑色領域(532ナノメートル),及び4次高調波の紫外領域(266ナノメートル)を選択することのできる装置も,特開昭63-161435号公報(乙2)に記載されているように周知であり,格別の技術的意義はない。
なお,原告の主張する,3つ以上の複数の波長を供給できるレーザを,顕微鏡にマウントできるほどのコンパクトな寸法において提供することについて,そのための構成要件は請求項1に記載されていない。
本件決定の上記認定に誤りはない。
(3) 本件決定における理由@ないしBの認定に誤りはないから,これらの理由に基づき相違点2に係る本件発明1の構成を想到することが容易であるとした本件決定の結論にも,誤りはない。
2 取消事由2(本件発明2に関する進歩性判断の誤り)について 取消事由1についてと同様に,本件発明2の進歩性判断にも誤りはない。
3 取消事由3(本件発明3と刊行物2発明との一致点の認定誤り及び本件発明3に関する進歩性判断の誤り)について (1) 一致点の認定誤りの有無 ア 一致点@の認定について 前記1(1)において述べたとおり,刊行物2発明においては,基本波と2次高調波の2つの波長を発していることは明らかであり,本件決定が,刊行物2発明においては複数の波長が供給されると認定したことに誤りはない。
本件発明3が,「基本波長」と「複数の高調波」という3つ以上の波長を含むという点については,本件決定は,相違点7として「本件発明3の非線形光学系は複数の高調波を発生することが可能であるのに対し,刊行物2発明は1つの高調波のみを発生する点」として,相違点として認定し,判断しているものであるから,刊行物2発明が,複数の波長を発生していると認定したことが,本件決定の結論に影響を及ぼすものでもない。
イ 一致点Aの認定について 刊行物2発明は,2つの波長の出力ビームを選択することができる光学系を有しているものであり,出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備したシステムであるということができる。そして,本件決定は刊行物2発明はその限りにおいて本件発明3と一致すると認定したにすぎず,その認定に誤りはない。また,本件発明3に係る請求項3において,3つ以上の波長を含む出力ビームの波長で選択するための具体的構成が限定されているわけでもない。
(2) 進歩性判断の誤りの有無 ア 刊行物3には,レーザ加工装置において出力される高調波を可変減衰させるという技術思想が開示されており,レーザの分野において,複数の波長のレーザに対応する可変減衰器も,本件出願前に周知となっていたから,複数の波長を出力させる刊行物2発明に刊行物3記載の技術思想を適用する際に,従前知られていた「複数の高調波を減衰することができる可変減衰器」を用いるようにすることに困難性はない。また,刊行物3の可変減衰器に,レーザによって発生されたビームとして,基本波及び2次高調波を入力させた場合,入力された基本波に対して2次高調波を,2次高調波に対して4次高調波を減衰可能に生じ,したがって,出力ビームとして,基本波,2次高調波及び4次高調波の3つの波長から選択することは可能である。
イ 原告は,本件発明3における可変減衰器は,複数の波長をすべて受信して,すべての複数の波長を減衰して,単一のビームライン上に供給することができるものである旨主張している。
しかし,請求項3の記載は,「単一のビーム経路内の前記複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器」というものであって,「複数の波長をすべて受信」すると記載されているものではない。そして,特開平7-124764号公報(乙5),特開平2-5063号公報(乙6の(1)),「『新版 レーザーハンドブック』編集者・矢島達夫他3名,1989年6月15日発行,発行所・株式会社朝倉書店」の238頁〜239頁(乙6の(2))に記載されたものも,本件発明3における可変減衰器と同様に,複数の波長を受信して,いずれの波長も減衰して,単一のビームライン上に供給することができるものである。
請求項3において,可変減衰器と切替可能な光学系の配置上の前後関係は記載されていないから,切替可能な光学系により波長を選択した後に,複数の高調波の1つを減衰するものも含まれるものと認められ,可変減衰器が,必ず複数の高調波のすべてを同時に受信して減衰するものに限られると解するような原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
ウ 本件決定の本件発明3に関する進歩性判断に誤りはない。
4 取消事由4(本件発明4と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明4に関する進歩性判断の誤り)について (1) 一致点の認定誤りの有無 ア 一致点@の認定について 「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給する」とは,レーザーシステム内で複数の波長が供給されることを意味すると認められるところ,刊行物3に記載のレーザ装置も,装置内で基本波と,減衰を伴う2次高調波が供給されるものであるから,本件決定の上記認定に誤りはない。
そして,レーザーシステムから出力される制御された複数の波長の出力については,刊行物2に記載されており,本件決定は,刊行物3発明と刊行物2発明との組合せについて判断しているものであるから,この点に関する認定は,本件決定の結論にも影響を及ぼすものではない。
イ 一致点A,Bの認定について (ア) ウォークオフとは光軸の位置ずれであり,ウォークオフの補償とは, 光軸の位置ずれの補償であるから,本件決定が,このような光軸の位置ずれの補償を行う刊行物3発明の構成(光軸補正板20)を,ウォークオフの補償手段と認定した点に誤りはない。
なお,レーザ光を非線形光学系を通過させた際に,ウォークオフが生ずることは,レーザ分野において周知である。
(イ) 原告は,特定のフィルタが,「ウォークオフの補償のために所定の角度が設定されている」と主張しているが,請求項4には,ウォークオフの補償のための具体的手段は特定されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(ウ) さらに,原告は,本件発明4の「ウォークオフの補償」が,出力ビームの波長を切替可能に選択せしめるものであるためには,ウォークオフの量を明細書開示のように具体的数値としてあらかじめ把握した上で補償するものでなければならない旨主張するが,請求項4には,「ウォークオフの補償」が,出力ビームの波長を切替可能に選択せしめるものであることについて何らの記載もなく,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(2) 進歩性判断の誤りの有無 刊行物3発明は,基本波の他に高調波を発生させ,ダイクロイックミラーで基本波を抜き出してトラップで吸収させるものであり,発生した基本波と高調波のうちの高調波を選択したものであるから,刊行物3発明に,刊行物2に記載の複数の波長選択板を設ける点を適用して,波長を選択することは当業者であれば容易である。
本件決定の本件発明4に関する進歩性判断に誤りはない。
5 取消事由5(本件発明5と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明5に関する進歩性判断の誤り)について (1) 一致点の認定の誤りの有無 ア 一致点@の認定について 上記4(1)アにおいて述べたとおり,本件決定の上記認定に誤りはない。
イ 一致点Aの認定について 本件発明5の可変減衰器の構成は,3つ以上の波長光のうちの1つの波長光を発生させるものも含まれるものであって,可変減衰器が3つ以上の波長光を発生させるもののみを意味しない。刊行物3発明は,レーザビームを受信し,2次高調波を発生するものであるから,レーザによって発生されたビームを受信し,2次高調波を発生させる点で一致する。
本件決定の上記認定に誤りはない。
(2) 進歩性判断の誤りの有無 ア 相違点10に関する判断について 刊行物8には,水の中に浸して冷却する方法が記載されている。そして,この種のレーザー装置において,振動を嫌うものであることも従来より知られており(特開平4-501534号公報(乙4)参照),このような振動を嫌うものにその必要とする冷却の程度に応じて,水冷,空冷等の周知の冷却手段を設けることは必然のことであり,本件発明5の「受動的に空冷され」については,本件明細書に具体的な構成が記載されていないが,例えば,フィン等の受動的な冷却手段とすることは,当業者であれば適宜なし得る程度のものである。また,Nd:YAGレーザが,電子-光学的にQスイッチされる点は,刊行物8に記載されているように周知技術である。
イ 相違点12に関する判断について 前記(1)イで述べたとおり,本件発明5の可変減衰器の構成は,3つ以上の波長光のうちの1つの波長光を発生させるものも含まれるものである。刊行物3発明は,レーザビームを受信し,2次高調波を発生するものであり,また,刊行物3には,より高次の高調波発生器を採用し得ることも記載されている。そこで,本件決定は,相違点12に係る本件発明5の構成とすることは当業者が容易に想到できると判断したものである。
ウ 相違点13に関する判断について 刊行物3発明においても,複数の波長を発生させた上で一方の波長を選択して出力するものである。ウォークオフを補償する手段は,本件発明5の構成要件ではない。また,刊行物7には,波長選択の基礎技術として波長選択機構についての記載がされており,レーザが,基本波から複数の高調波を発生させる場合であれば,波長選択機構において,これらの複数の波長を選択できるようにすることは,設計上当然なされるべき事項である。
エ 上記のとおり,本件決定の本件発明5に関する進歩性判断に誤りはない。
6 取消事由6(本件発明6に関する進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明1,2が進歩性を有しないとした本件決定に誤りがないことは既に述べたとおりであり,したがって,請求項1,2を引用した本件発明6も進歩性を有しない。
(2) 相違点14に関する判断の誤りについて 原告は本件決定の相違点14に関する判断は誤っているとして,(原告主張の取消事由)6の(2)アないしウのとおり主張する。
ア 取消事由6の(2)アについて レーザ装置の大きさをコンパクトにする構成は,本件発明6には,特段の構成として限定されていない。
イ 取消事由6の(2)イについて 前記5の(2)ウで述べたとおりである。
ウ 取消事由6の(2)ウについて 刊行物4ないし6記載のレーザ装置は,複数の高調波を出力ビームとして発生することのできるレーザ装置といえるから,「複数の高調波を発生させるレーザ装置は,周知技術であるといえる。また,レーザ装置の大きさをコンパクトにする構成は,本件発明6には,特段の構成として限定されていない。
(3) 上記のとおり,本件決定の本件発明6に関する進歩性判断に誤りはない。
7 取消事由7(本件発明7に関する進歩性判断の誤り)に対して (1) 本件発明1ないし3が進歩性を有しないとした本件決定に誤りがないことは既に述べたとおりであり,したがって,請求項1ないし3を引用した本件発明6も進歩性を有しない。
(2) 前記5(2)アで述べたとおり,当業者が相違点15に係る本件発明7の構成を想到することは容易というべきである。
(3) 上記のとおり,本件決定の本件発明7に関する進歩性判断に誤りはない。
8 取消事由8(本件発明8に関する進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明1ないし3が進歩性を有しないことは既に述べたとおりであり,したがって,請求項1ないし3を引用した本件発明8も進歩性を有しない。
(2) 相違点16に関する判断について 刊行物5記載のレーザ装置は,基本波,2次高調波,4次高調波及び5次高調波を発生しており,刊行物5には,このうち必要な波長を出力として選択できることが実質的に記載されていると認められる。また,レーザ装置の大きさをコンパクトにする技術については,本件発明8が,特段の構成を備えているとは認められない。
当業者が相違点16に係る構成を想到することは容易であるとした本件決定に誤りはない。
9 取消事由9(本件発明10に関する進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明4が進歩性を有しないことは既に述べたとおりであり,したがって,請求項4を引用した本件発明10も進歩性を有しない。
(2) 相違点17に関する判断について 前記8(2)に述べたのと同様の理由により,当業者が相違点17に係る本件発明10の構成を想到することは容易であるというべきである。
(3) 上記のとおり,本件決定の本件発明10に関する進歩性判断に誤りはない。
10 取消事由10(本件発明14に関する進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明3,4が進歩性を有しないことは既に述べたとおりであり,したがって,請求項3,4を引用した本件発明14も進歩性を有しない。
(2) 相違点18に関する判断について 前記8(2)に述べたのと同様の理由により,当業者が相違点18に係る本件発明14の構成を想到することは容易というべきである。
(3) 上記のとおり,本件決定の本件発明14に関する進歩性判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件決定が,相違点2に関する判断において,@刊行物2には,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系が記載されているとした点,B選択可能な波長を増やしたということ以上に格別の技術的意義はないとした点は誤りであり,本件発明1は進歩性を有する旨主張している。
そこでまず,原告の上記主張について検討する。
ア 上記@について 刊行物2(甲5)の記載によれば,刊行物2発明は,基本波とその2次高調波を発生するレーザ照射装置であると認められる。そして,2つの波長も複数の波長であることには変わりがなく,したがって,本件決定が,刊行物2には,複数の波長でビームライン上に選択的に出力ビームを発生する光学系が記載されているとした点に誤りがあるとすることはできない。なお,本件決定は,本件発明1において選択可能な複数の波長が3つ以上である点について,上記のとおりBとして別途判断している。
イ 上記Bについて 刊行物2(甲5)によれば,「レーザ光を被照射物に照射してレーザ加工を行なう場合,この被照射物の同一部分に溶融加工と変質加工(たとえば紫外線処理)などのように2つの加工を同時あるいは順次に行なうことがある。従来,このような2つの加工を同時あるいは順次に行なうには,それぞれの加工に適した波長の光を別々の光源から出射させ,反射鏡などの光学部品を用いて上記被加工物の同一箇所に導くようにしていた。」(1頁左下欄20行〜右下欄9行),「このように,従来は被照射物に波長の異なる2つの光を照射する場合,2つの光源を用いるようにしていたので,構成の複雑化を招いたり,各光源から出射されたそれぞれの光の位置決めが難しくなるなどのことがあった。この発明は上記事情にもとづきなされたもので,その目的とするところは,2つの光源を用いずに波長の異なる2つの光を得ることができ,しかも,複雑な光学部品を用いずにこれら2つの光の一方を焦点位置を合致させ,他方を焦点はずして被照射物に照射することができるようにしたレーザ照射装置を提供することにある。」(2頁左上欄6〜17行)と記載されており,この記載によれば,刊行物2発明は,被照射物の同一部分に溶融加工と変質加工などのように2つの加工を行うときに使用する同一光源から2つの波長を発生するレーザ照射装置であると認められる。また,証拠(乙1)には,段落【0006】〜【0009】に,被加工物の材質の異なる加工に対して,すなわち,金属パターンの加工及び高分子材料や絶縁膜などの被膜の加工に対して,1台のレーザ加工装置によって,異なる2種類の波長のレーザ光を選択的又は同時に使用することが記載されている。そして,これらの刊行物に開示されているのは,いずれも2つの波長を発生するレーザ照射装置であるが,レーザ加工の種類又は加工材料によって,さらに多くの波長のレーザ光が必要であることは自明であり(刊行物2には,750nmと375nmの波長及び1.064μmと0.532μmの波長を使用すること,乙1には,YAGレーザの2次高調波と4次高調波及び2次高調波と3次高調波を使用することが記載されている。),また,刊行物4ないし6(甲7の(1)ないし(3))に開示されているように,非線形光学素子を複数用いれば基本波長と合わせて3つ以上の波長の光を発生することができることは周知であるから,本件発明1において,「出力ビームのための3つ以上の選択可能な波長」とすることは,単に,選択可能な波長を増やしたということ以上の意義を有するものとは認められない。
原告は,半導体欠陥分析において,最も普遍的な波長である緑色,紫外波長,及び赤外波長の3つの波長を選択的に利用すると,半導体を完壁に処理することが可能になるという効果を奏すると主張する。しかしながら,本件発明1は,前示のごとく,出力ビームのために3つ以上の選択可能な波長を含むことを規定するのみで,波長領域を特定するものではないから,原告の主張する効果は,本件発明1の奏する効果とはいえない。
ウ 以上のとおり,原告の上記主張はいずれも理由がない。
(2) 原告は,刊行物1は,「顕微鏡つき,簡易型レーザトリミング装置」の特徴等と,簡単な標準構成図を開示する製品パンフレットにすぎず,他方,刊行物2においても,レーザ加工装置の選択可能な波長を3つ以上にすることや,同装置を顕微鏡にマウントするようなコンパクトな大きさにすることは開示されていないから,刊行物1発明と刊行物2発明とは組み合わせる動機付けを有していないし,また,組み合わせたとしても,顕微鏡に搭載できるような極めてコンパクトな大きさのレーザ加工装置にすることは,不可能である旨主張する。
しかしながら,刊行物1(甲3)には,小型YAGレーザを超長作動距離対物レンズのついた顕微鏡に搭載した簡易型のレーザトリミング装置が開示されており,したがって,刊行物1発明と刊行物2発明とは,ともにレーザ加工を行う装置である点で共通しており,両者は技術分野を共通にするから,両者を組み合わせる動機付けは存するというべきである。
また,本件発明1は,3つ以上の波長の光を供給できるレーザを顕微鏡と共にベースにマウントするものであるが,特許請求の範囲にレーザをコンパクトにするための具体的な構成要件は規定されておらず,さらに,本件明細書(甲2)には,レーザシステムはNd:YAGレーザと複数の高調波発生器を含むものであることが記載されており,刊行物2(甲5)にも,「上記励起ヘッド2の他方の端面と出力透過ミラー4との間にはβ-BaB204結晶からなり,上記基本波の一部分を波長が375nmの第2高調波に変換する波長変換素子5が位相整合を満たす角度で設置されている。」(2頁左下欄7〜11行),「なお,上記1実施例ではアレキサンドライトレーザについて述べたが,波長が1.064μmのNd:YAGレーザの基本波を波長が0.532μmの第2高調波に変換する場合にもこの発明は適用することができ,レーザの種類に制限を受けるものではない。」(3頁左下欄14〜18行)と記載され,Nd:YAGレーザと高調波発生器を使用することが示唆されているから,刊行物2記載のレーザ照射装置を刊行物1発明のレーザとしてマウントすることができないということはできない。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件発明2に関する進歩性判断の誤り)について 原告は,取消事由1と同様の理由により,本件決定の本件発明2に関する進歩性判断には誤りがある旨主張するが,取消事由1に理由がないことは前記1に説示したとおりであり,したがって,取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(本件発明3と刊行物2発明との一致点の認定誤り及び本件発明3に関する進歩性判断の誤り)について (1) 本件決定は,相違点8(本件発明3は単一のビーム経路内の複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器を有しているが,刊行物2発明はこのような可変減衰器を有していない点)を本件発明3と刊行物2発明との相違点の1つとして挙げるが,原告は,刊行物3発明の可変減衰器は,本件発明3の可変減衰器とは異なるものであるから,これを刊行物2発明に適用しても,相違点8に係る本件発明3の構成にはならない旨主張する。
(2)ア そこで,検討するに,刊行物3(甲6)には次の記載がある。
(ア) 「第1図は全体としてレーザ加工装置を示すもので,1はレーザであ り,例えばNd:YAGレーザが用いられ,レーザ光2(波長1.06[μm])が可変減衰器3に送られる。可変減衰器3は,レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御することによって出力レーザ光6のエネルギーを制御するもので,第2図及び第3図に示すように,平行平面板状の第2高調波発生器17と,光軸補正板20と,ダイクロイックミラー19とからなる。」(2頁左下欄9〜18行) (イ) 「第2高調波発生器17は,非線形光学効果を有する結晶体,例えば透明なKDP(リン酸二水素カリウム)からなり,基本波(波長1.06[μm])のレーザ光が入射したとき,基本波成分と第2高調波(波長0.53[μm])成分とでなる出射光18が得られる。」(2頁左下欄18行〜右下欄4行) (ウ) 「第2高調波発生器17の出射光18のエネルギー強度は,KDP結晶子の方位と電場ベクトルの方向との位相整合条件に応じた値になり,位相整合がとれたとき最大値を呈するようになされている。第2高調波発生器17は,第2図,第3図の仮想軸38を中心にして入射光2に対して前後方向に回動し得るように回動自在に設けられ,かくして第2高調波発生器17の結晶と入射光との間の相対的位相関係を連続的に変更し得るようになされている。ここで,第2高調波発生器17を仮想軸38を中心に回動させると,第4図に示すようにある回動角の範囲内では回動角θが入射光2と結晶との間の位相整合がとれたマッチング回動角θ。
になったとき出射光18のエネルギー強度が最大になり,回動角がこのマッチング回動角θ。からずれて行くに従って出射光18のエネルギー強度が低下して行く関係がみられる。その結果,第2高調波発生器17の出射光18のエネルギー強度は,回動角をマッチング回動角θ。を中心にして調整することにより制御することができる。」(2頁右下欄5行〜3頁左上欄6行) (エ) 「かくして第2高調波発生器17から得られる出射光18のエネルギ ー強度が制御されるが,その際に回動角に応じた量だけ光軸が平行に位置ずれする(第3図参照)。この光軸の位置ずれは,ガラス材料でなる光軸補正板20によって補正され,その出射光39がダイクロイックミラー19に送出される。ダイクロイックミラー19は,光軸補正板20を通過したレーザ光39のうち,基本波を抜き出してトラップ4に導いて吸収させ,これにより,第2高調波成分だけを可変減衰器3の出力光6として送出する。」(3頁左上欄10行〜右上欄1行) (オ) 第3図には,レーザ光2が傾斜した第2高調波発生器17に入射し,基本波と第2高調波とでなる出射光18が下方に光軸がずれて出射し,第2高調波発生器17と逆方向に傾斜したガラス材料でなる光軸補正板20に入射して,元の光軸に戻ったレーザ光39が出射することが示されている。
イ 上記認定の刊行物3の記載によれば,刊行物3の可変減衰器は第2高調波発生器等で構成され,第2高調波発生器の非線形光学結晶体を傾斜させることにより位相整合条件を変化させ,発生する第2高調波の強度を制御するものであると認められる。そうすると,上記可変減衰器は,非線形光学結晶体を傾斜させることにより第2高調波を減衰させた上,これを出力ビームとして使用するものであるとはいえるが,元来基本波である入射光自体の強度を減衰させることを目的とするものではないというべきである。また,上記記載及び技術常識に照らせば,刊行物3の可変減衰器は,基本波のみを受信し,位相整合条件を変化させることにより,基本波から第2高調波に波長変換する割合を変化させるものであるから,第2次高調波の出力が減衰すれば,基本波の出力は増強し,逆に,第2高調波の出力が増強すれば,基本波の出力は減衰するのであって,基本波と第2高調波の両者を減衰することができるものではないと認められる。
ウ 他方,本件発明3における可変減衰器は,「単一のビーム経路内の前記複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器」であり,単一のビーム経路内の複数の高調波を受信して,その受信した複数の高調波自体を減衰することができるものと解されるから,前記刊行物3記載の可変減衰器と異なるものであることは明らかである。
(3) 被告は,レーザの分野において,複数の波長のレーザに対応する可変減衰器も,本件出願前に周知となっていたと主張して,乙5(特開平7-124764号公報)及び乙6の(1)(特開平2-5063号公報),(2)(「『新版 レーザーハンドブック』編集者・矢島達夫他3名,1989年6月15日発行,発行所・株式会社朝倉書店」の238頁〜239頁)を提出する。しかしながら,乙5は,平成7年5月16日に公開された公開公報であるから,本件出願前公知の文献ではなく,また,波長可変レーザから出力された1波長のレーザ光を減衰するものである。また,乙6の(1)には,フリーエレクトロン形のレーザであるパルス化光源からの1波長のレーザ光を可変減衰するものが記載されており,乙6の(2)には,フリーエレクトロン形のレーザが,波長可変のレーザであることが示されている。してみると,これらの刊行物には,1波長のレーザ光を入射させて可変減衰する減衰器が開示されているにすぎず,複数の波長のレーザ光を入射させて,該複数の波長のレーザ光を減衰させる減衰器は開示されていない。
被告は,請求項3には,可変減衰器と切替可能な光学系の配置上の前後関係は規定されていないから,切替可能な光学系により波長を選択した後に,複数の高調波の1つを減衰するものも含まれると主張する。しかしながら,本件発明3における可変減衰器は,単一のビーム経路内の複数の高調波を受信して,その受信した複数の高調波自体を減衰することができるものと解されることは前示のとおりであり,切替可能な光学系が前置されるのであれば,「前記複数の高調波を受信し減衰することができる可変減衰器」とは記載せず,単に「可変減衰器」と記載するものと認められる。
被告の上記主張はいずれも理由がない。
(4) 以上のとおり,刊行物3発明に係る可変減衰器は,本件発明3に係る可変減衰器とは異なるものであるから,これを刊行物2発明に適用しても,相違点8に係る本件発明3の構成とはならず,また,本件発明3の可変減衰器が周知であるとの証拠も見出せないから,原告のその他の主張を検討するまでもなく,取消事由3は理由がある。
4 取消事由4(本件発明4と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明4に関する進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件決定は,本件発明4と刊行物3発明とは,@「制御可能な減衰を伴う複数の波長を供給するためのレーザシステム」である点,A「前記複数の波長のうち少なくとも1つの特定波長のウォークオフを生じさせる非線形光学系」と,B「複数の波長のそれぞれが,選択されたときに単一のビームライン上に供給されるようにウォークオフを補償する手段」を具備する点で一致しているとするが,この認定は誤りである旨主張する。
(2) そこで,まず,上記A,Bの点を一致点とした本件決定の認定の当否について検討する。
ア 刊行物3の前記3(2)アの記載によれば,刊行物3発明の可変減衰器においては,基本波が入射される第2高調波発生器17は,その回動角に応じた量だけ,基本波と第2高調波とでなる出射光18の光軸を平行に位置ずれさせ,この光軸の位置ずれを,ガラス材料でなる光軸補正板20を逆方向に回動させることによって補正する構成が採用されていると認められる。そして,刊行物3(甲6)の第3図には,第2高調波発生器17からの出射光18には,基本波と第2高調波とが同一光軸にあり,また,光軸補正板20からの出射光39においても,基本波と第2高調波とが同一光軸にあることが示されている。そうすると,刊行物3発明において,第2高調波発生器17からの出射光18の光軸が入射光2の光軸とずれているのは,非線形光学結晶体の複屈折によるものではなく,非線形光学結晶体が平行平面板であり,回動により傾斜したことに起因するものであることは明らかである。
イ これに対し,本件明細書(甲2)の「可変減衰器112からの減衰されたビームは,切替可能なフィルタ機構116を通って経路105に供給される。切替可能なフィルタ機構には,該システムの出力波長を選択するために用いる複数のフィルタが装着されている。複数の波長選択フィルタのうちの1つをビーム経路へ移動させることによって,出力波長が選択される。次いで,3次高調波または4次高調波を発生させるための非線形結晶109が高調波波長のウォークオフを生じ,約0.5ミリメータだけビーム経路105からづれる。顕微鏡がマウントされたレーザシステムにおいて,全ての選択された波長について,出力ビームが同一のビームラインに沿って顕微鏡の視野の中に進まなければならない場合,このウォークオフは極めて重大である。」(7頁右欄17〜29行),「3次高調波または4次高調波を選択するために用いるフィルタ117を傾けることによって,このウォークオフは修正される。」(7頁右欄30〜32行),「本発明による切替可能な光学系の単純化した図面が,図3Aおよび図3Bに与えられており,これらの図面は,複数のフィルタ201,202,203および204が装着されるホイール200を例示している。それぞれのフィルタは,特定の出力波長を選択するように設計されたカラーガラスフィルタからなっている。」(8頁左欄43〜48行),「ウォークオフを修正するために,3次高調波または4次高調波を選択するフィルタ201は,傾斜してマウントされる。」(8頁右欄8〜10行)と記載されており,これらの記載からすれば,本件発明4における「ウォークオフ」は,非線形結晶の複屈折により,異常光である高調波と常光である基本波とが分離し,高調波の光軸のみが位置ずれするものであると認められる。
ウ したがって,刊行物3には,本件発明4における「ウォークオフ」についての開示はなく,当該ウォークオフについて,「ウォークオフを生じさせる非線形光学系」及び「ウォークオフを補償する手段」も記載されていないから,これらを本件発明4と刊行物3発明との一致点とした本件決定の認定は誤りである。
(3) 本件決定は前記(2)に説示したとおり一致点の認定を誤り,その結果,相違点を看過したものというべきところ,かかる相違点に係る構成の容易想到性の有無が本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって,原告のその他の主張について検討するまでもなく,取消事由4は理由がある。
5 取消事由5(本件発明5と刊行物3発明との一致点の認定誤り及び本件発明5に関する進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明5の可変減衰器は,基本波長,2次高調波,3次及び4次高調波の少なくとも3つ以上の波長を発生することができるものであるが,刊行物3発明の可変減衰器は2次高調波のみを出力するものであるから,本件発明5と刊行物3発明とは「レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長,2次高調波の少なくとも1つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器」を具備する点で一致するとした本件決定の認定は誤りである旨主張するので,以下検討する。
ア 本件発明5について,請求項5には,「レーザによって発生されたビームを受信し,基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができる単一のビーム経路内の可変減衰器」を具備すると記載されているところ,ここにいう「基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つを発生する」との記載が,3つ以上の波長を発生するものに限られるか,1つの波長を発生するものを含むのかが問題となる。
しかしながら,請求項5には,本件発明5は「基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するための切替可能な光学系」を具備していることが記載されており,この記載箇所における「基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つ」が3つ以上の波長を意味することは明らかであり,また,可変減衰器が1つの波長しか発生しないのであれば,切替可能な光学系は不要であることを考慮すれば,上記可変減衰器は,3つ以上の波長を発生するものに限られると解するのが相当である。
被告は,可変減衰器について「基本波長,2次高調波ならびに3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができる可変減衰器」とした請求項5記載の構成要件は,3つ以上の波長光の内の1つの波長光を発生させるものも含むものである旨主張するが,このような解釈は本件発明5の他の構成要件と整合しないものであり,採用できない。
イ したがって,本件決定の上記一致点の認定は誤りである。
(2) 原告は,本件決定は,刊行物3発明において相違点12(本件発明5は,可変減衰器が,更に,3次および4次高調波の少なくとも1つを発生することができるのに対して,刊行物3発明は,このようになっていない点)に係る本件発明5の構成を想到することは容易であるとしたが,この判断は誤りである旨主張する。
そこで検討するに,本件決定は,相違点12に関し,「刊行物3に,レーザ光2に対する結晶の位相整合条件を制御する可変減衰器が記載されており,しかも2次高調波,3次及び4次高調波の発生は何れも非線形結晶によっているので,これらの結晶の位相整合条件を制御して,本件発明5のごとく基本波長,2次高調波並びに3次及び4次高調波の少なくとも1つの中から,出力ビームの波長を選択するようにすることは,当業者であれば容易である」と判断している(前記第2の3(5)イ(ウ)のとおり)ところ,この判断は,本件発明5の可変減衰器が,基本波長,2次高調波,3次及び4次高調波のうちいずれか1つを発生するものを含むことを前提にしたものである。
しかしながら,前記(1)に説示のとおり,本件決定の前記(1)記載の一致点の認定は誤りであり,本件発明5の可変減衰器は,基本波長と2次高調波と3次又は4次高調波のいずれか1つの3つ以上の波長を発生するものに限られるから,本件決定は上記判断の前提において誤っているといわざるを得ない。
(3) 以上のとおりであるから,原告のその他の主張について検討するまでもなく,取消事由5は理由がある。
6 取消事由6(本件発明6に関する進歩性判断の誤り)について 原告は,本件決定は,相違点14(本件発明6が,「前記レーザが,ビーム経路に沿って基本波長のビームを発生する固体レーザと;前記基本波長の複数の高調波を発生するビーム経路内の1以上の非線形光学系と;前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器と;前記複数の高調波および前記基本波長の中から,前記出力ビームの波長を選択する切替可能な光学系とを具備」しているのに対し,刊行物1発明はそのようになっていない点)に係る本件発明6の構成を想到することは容易であったとするが,この判断は誤りである旨主張する。
上記「前記複数の波長のためのビーム経路内の可変減衰器」は,基本波及び複数の高調波が入射され,それらを減衰する可変減衰器と解すべきであることは,請求項6の記載に照らし明らかである。そして,刊行物3記載の可変減衰器は基本波が入射され,2次高調波を減衰させるものであること,複数の波長のレーザに対応する可変減衰器が本件出願前に周知であるとの証拠がないことも前記3に説示のとおりであるから,相違点14に係る本件発明6の構成は,刊行物1発明に刊行物2及び刊行物3記載の事項を適用しても,当業者が容易に想到できないものと認められる。
上記のとおり,本件決定の相違点14に関する進歩性判断には誤りがあるから,取消事由6は理由がある。
7 取消事由7(本件発明7に関する進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1ないし3は進歩性を有するから,請求項1ないし3を引用する本件発明7も進歩性を有すると主張する。
しかしながら,本件発明1及び本件発明2が進歩性を有しないとした本件決定の判断に誤りがないことは前記1及び2に説示したとおりであるから,これらの発明が進歩性を有することを前提にして,請求項1及び2を引用する本件発明7が進歩性を有するとする原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 原告は,本件決定は,相違点15(本件発明7は,「前記レーザが,空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザ」を備えているのに対し,刊行物1発明はこれを備えているか否か不明である点)に関する判断において,相違点15に係る本件発明7の構成は,刊行物1発明に刊行物8に記載の周知のレーザを適用することにより,当業者が容易に想到できた旨判断するが,この判断も誤りである旨主張する。
しかしながら,刊行物8(甲9)には,冷却系を備え,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザが記載されており,また,刊行物8の226頁の表16・7には,Nd:YAGレーザによる加工例として,ジャイアントパルスを出力することにより半導体のトリミングを行うことが記載されている。そして,本件発明7は,Nd:YAGレーザをベースにマウントするものであるところ,請求項7には,Nd:YAGレーザをコンパクトにする構成要件は規定されていないから,刊行物8に記載のNd:YAGレーザを刊行物1発明のプローブステーションシステムに装着できないとする理由はない。
なお,本件明細書の「このレーザシステムには,電子光学的にQスイッチされたNd:YAGレーザ100,例えば,この出願の譲受人であるカリフォルニア州サンニバル(Sunnyvale,California)所在のニューウエーブリサーチInc.(New Weve Research Inc.)から入手可能な,市販のACL-1空冷レーザが含まれている。このシステムには,インバールで安定化された,電子光学的にQスイッチされ受動的に空冷されるレーザ共振器が含まれている。」(6頁右欄47行〜7頁左欄5行)と記載されており,この記載からすれば,空冷され,電子-光学的にQスイッチされるNd:YAGレーザは公知のものであると認められる。
(3) 以上のとおり,本件発明1及び本件発明2を引用する本件発明7の進歩性の判断に誤りはないから,取消事由7は理由がない。
8 取消事由8(本件発明8に関する進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1ないし3は進歩性を有するから,請求項1ないし3を引用する本件発明8も進歩性を有する旨主張する。
しかしながら,本件発明1及び2が進歩性を有しないとする本件決定の判断に誤りがないことは前記1及び2に説示したとおりであるから,これらの発明が進歩性を有することを前提にして,請求項1及び2を引用する本件発明8が進歩性を有するとする原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 原告は,本件決定は,相違点16(本件発明8が,前記複数の波長が,赤外領域の少なくとも1つの波長,可視領域の少なくとも1つの波長,および紫外領域の少なくとも1つの波長を含んでいるという構成を採用しているのに対し,刊行物1発明はこのような構成が不明である点)に関する判断において,刊行物4ないし6に開示の周知技術を適用することにより,相違点16に係る構成は当業者が容易に想到することができた旨判断するが,この判断も誤りである旨主張する。
ア そこで検討するに,刊行物4(甲7の(1)。特開平2-126242号),刊行物5(甲7の(2)。特開平2-301178号)及び刊行物6(甲7の(3)。特開昭64-64280号)には,次のとおり記載されている。 (ア) 刊行物4 「従来,第6図に示すように,Nd-YAGレーザ発振器(1)から1064nmのレーザ光を第1の非線形光学結晶(2)に入射すると,この基本波の第2高調波である532nmの光が発生し,さらにこの第2高調波と基本波を第2の非線形光学結晶(3)に入射させて第3高調波である355nmの光が発生する現象は第3高調波発生装置として知られている。」(2頁左上欄2〜8行) (イ) 刊行物5 @ 「一方,固体レーザは,・・・波長が1.06μmのNd:YAGレーザであり,」(1頁右下欄17〜20行) A 「第17図に,従来の波長変換の1例の光路図を示す。図において,レーザ装置は,基本波長ω=1.06μm用の反射鏡6a及び6bよりなる共振器内に,レーザ物質からなる固体ロッドと励起用ランプを配置したランプハウス1を置いて構成されている。通常,反射鏡6bは,反射率として50%程度のものが用いられる。反射鏡6bより出射した基本波長ω=1.06μmのレーザ光は,第2高調波2ωへの波長変換素子4により波長2ω=0.53μmの光に変換され,更に第4高調波4ωへの波長変換素子5により波長4ω=0.266μmの光に変換される。変換効率は,10〜20ns.0.5Jのレーザ光の場合に,第2高調波で60%,第4高調波では20%程度である。又,第5高調波5ω=0.2128μmの,更に短波長の光を必要とする場合は,残りのω=1.06μmの光と4ω=0.266μmの光とを,第5高調波5ωへの波長変換素子8に通し,第5高調波5ω=0.2128μmの光へと変換する。この場合,波長変換効率は10%程度である。」(2頁左上欄4行〜右上欄4行) B 「第1図は,本発明の第1実施例を示す光路図である。本実施例において,レーザ装置の共振器は反射鏡2a及び2bにより構成され,この共振器内に1つのランプハウス1を置いて,レーザ装置が構成されている。前記ランプハウス1としては,固体ロッド1本と励起ランプ1本とからなる装置を用い,又,第1実施例には簡単のため記入していないが,Qスイッチをかけ,パルス幅を10〜20nsと短くしている。」(2頁右下欄9〜18行) (ウ) 刊行物6 @ 「アレキサンドライトをレーザ媒質としたレーザ発振器と,このレーザ発振器から放出されたレーザ光の光路上に所定の間隔をおいて対向しかつ上記レーザ光の各波長に対して位相整合する角度で上記光路の進行方向に従って順次設置された第1,第2の非線形光学素子と,これら非線形光学素子間に位置し上記第2の非線形光学素子に上記レーザ光の基本波と第2高調波との和周波発生のための偏光が整合するように設置された旋光性物質とを備えた構成とし,旋光性物質によって偏光を揃えて再度非線形光学素子を通過させ3倍高調波を得るようにしたものである。」(2頁右上欄7〜18行) A 「第1図は本発明の1実施例で,第2図に示した要素と同一のものには同一符号が付してある。すなわち,レーザ発振器(1)を有し,このレーザ発振器(1)から放出されたレーザ光(L)の光路に第1の非線形光学素子(2),水晶からなる旋光性物質(10)および第2の非線形光学素子(8)をレーザ光の進行に従って順次同軸的に配置した構成としたものである。」(2頁左下欄2〜8行) 上記刊行物4ないし6の各記載によれば,刊行物4ないし6には,基本波及び複数の高調波の発生に関する技術が開示されており,この技術は本件出願当時周知であったと認められる。そして,本件決定の認定するとおり,刊行物4ないし6の,基本波(ω=1064nm),基本波の2次高調波(2ω=532nm)が,それぞれ「赤外領域の少なくとも1つの波長」,「可視領域の少なくとも1つの波長」に相当し,3次高調波(3ω=355nm及び4次高調波(4ω=266nm)が,「紫外領域の少なくとも1つの波長」にそれぞれ相当するものというべきである。
イ また,「出力ビームのための3つ以上の選択可能な波長を含むこと」に進歩性が認められないこと,刊行物2(甲5)には,レーザ照射装置において,Nd:YAGレーザを使用し,1064nmと532nmの波長を使用することが示唆されていることは,前記1において検討したとおりである。
ウ そうすると,刊行物1発明に刊行物2発明を適用し,3つの波長を出力させる際に,Nd:YAGレーザ(基本波,1064nm,赤外光)を使用し,非線形光学素子を複数用いて,2次高調波(532nm,可視光),3次高調波(355nm,紫外光)又は4次高調波(266nm,紫外光)を発生させるようにすることに格別の困難性は認められないというべきである。
エ 原告は,半導体欠陥分析において,最も普遍的な波長である緑色,紫外波長,及び赤外波長の3つの波長を選択的に利用すると,半導体を完壁に処理することが可能になるという効果を奏すると主張する。
しかしながら,本件発明8に係る請求項8においては,「前記複数の波長が,赤外領域の少なくとも1つの波長,可視領域の少なくとも1つの波長,および紫外領域の少なくとも1つの波長を含んでいる」と規定されているのみで,可視領域の波長が緑色とするものとの特定はされていないし,本件発明8に係るシステムについてこれが半導体欠陥分析に使用することの特定もされていない。そうすると,原告の上記主張は,本件発明8の効果を主張するものではなく失当である。
(3) 以上のとおり,請求項1及び2を引用する本件発明8の進歩性の判断に誤りはないから,取消事由8は理由がない。
9 取消事由9(本件発明10に関する進歩性判断の誤り)について 前記4に説示したとおり,本件発明4が進歩性を有しないとした本件決定の判断は誤りであり,また,本件決定は,本件発明9の進歩性を肯定しているから,相違点17に関する本件決定の判断の適否を検討するまでもなく,請求項4及び請求項9を引用する本件発明10が進歩性を有しないとした本件決定の判断も誤りである。
したがって,取消事由9は理由がある。
10 取消事由10(本件発明14に関する進歩性判断の誤り)について 前記3及び4に説示したとおり,本件発明3及び本件発明4が進歩性を有しないとした本件決定の判断は誤りであるから,相違点18に関する本件決定の判断の適否を検討するまでもなく,請求項3及び4を引用する本件発明14が進歩性を有しないとした本件決定の判断も誤りというべきである。
したがって,取消事由10は理由がある。
11 以上の次第で,原告の主張する取消事由3ないし取消事由6,取消事由9及び取消事由10は理由があるが,取消事由1,取消事由2,取消事由7及び取消事由8には理由がない。
よって,原告の本件請求のうち,本件決定中,本件特許の請求項3ないし6,10及び14に係る部分の取消しを求める部分は理由があるから,これを認容し,その余の部分は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 清水節