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事件 |
令和
5年
(行ケ)
10107号
審決取消請求事件
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5 原告トクデン株式会社 同訴訟代理人弁理士 西村竜平 同 齊藤真大 10 被告鈴木工業株式会社 同訴訟代理人弁理士 南島昇 同 榊原毅 15 主文 1 特許庁が無効2022−800026号事件について令和5年8 月17日にした審決において審判の請求は成り立たないとした部分 のうち、特許第6114435号の請求項1及び4から6までに係 る部分を取り消す。 20 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2022−800026号事件について令和5年8月17日に 25 した審決のうち、審判の請求は成り立たないとした部分を取り消す。 第2 事案の概要 11 本件は、被告が特許権者である特許についての特許無効審判請求に対する審 決について、請求人である原告が、同審決のうち審判請求は成り立たないとし た部分の取消しを求める事案である。争点は、特許発明と引用発明との相違点 の有無及び相違点について容易想到性が認められるか否かである。 52 特許庁における手続の経緯等 被告は、発明の名称を「誘導加熱コイルユニット、及び誘導加熱システム」 とする特許(特許第6114435号。以下「本件特許」といい、本件特許の 願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)の特許権者 である。 10 原告は、令和4年3月31日、被告を被請求人として、本件特許につき特許 無効審判(以下「本件無効審判」という。)を請求し、特許庁は、これを無効 2022−800026号事件として審理した。被告は、令和5年3月3日付 け訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲の記載の訂正(以下「本件 訂正」という。)を求めた。 15 特許庁は、令和5年8月17日、「特許第6114435号の特許請求の範 囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項 〔1、5、6〕について訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」 との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月25日原告に 送達された。 20 原告は、令和5年9月21日、本件審決のうち、審判の請求は成り立たない とした部分の取消しを求めて訴えを提起した。 3 特許請求の範囲の記載等 本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1から6まで)の記載は、次のとおり である(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に応じて「本件発明1」な 25 どといい、本件発明1から6までを併せて「本件各発明」という。)。 【請求項1】(本件発明1) 2加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、 電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加熱コイルを収容す るケースと、を備え、 前記ケースは、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給 5 される冷却用気体を前記ケース内に供給するためのものであって供給側のエア 配管が接続される供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前記供給口か ら前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの外部へ排出する ためのものであって排出側のエア配管が接続される排出口と、前記ケースと前 記加熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷却経路と、 10 を有し、 前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と前記ケース との間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため の第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記 加熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため 15 の第2冷却経路と、を含んでいる、 誘導加熱コイルユニット。 【請求項2】(本件発明2) 加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、 前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、 20 前記ケースは、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給 される冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内 部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気 体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイ ルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷却経路と、を有し、 25 前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と前記ケース との間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため 3の第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記 加熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため の第2冷却経路と、を含んでおり、 前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加熱コイルの中心部を頂点 5 とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂点と前記排出口とを結ぶ線との 成す角度が鋭角となる位置に設けられており、 前記第2冷却経路中において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と前記排 出口との間を仕切る仕切り部を更に備えている、 誘導加熱コイルユニット。 10 【請求項3】(本件発明3) 加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、 前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、 前記ケースは、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給 される冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内 15 部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気 体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイ ルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷却経路と、を有し、 前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と前記ケース との間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため 20 の第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記 加熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため の第2冷却経路と、を含んでおり、 前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加熱コイルの中心部を挟ん で直線上に設けられており、 25 前記第2冷却経路中における前記供給口及び前記排出口に対応する位置に前記 第2冷却経路を流れる前記冷却用気体を分岐又は合流させるように整流する整 4流部を更に備えている、 誘導加熱コイルユニット。 【請求項4】(本件発明4) 加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、 5 前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、 前記ケースは、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給 される冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内 部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気 体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイ 10 ルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷却経路と、を有し、 前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と前記ケース との間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため の第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記 加熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため 15 の第2冷却経路と、を含んでおり、 前記ケースは、前記加熱コイルの中央部に対応して設けられ前記ケースを前記 加熱コイルの厚み方向に貫く穴部を有している、 誘導加熱コイルユニット。 【請求項5】(本件発明5) 20 前記供給口と前記排出口とをそれぞれ2つ以上ずつ備えている、 請求項1から4のいずれか一項に記載の誘導加熱コイルユニット。 【請求項6】(本件発明6) 請求項1から5のいずれか一項に記載の誘導加熱コイルユニットと、 前記加熱コイルの温度を検出可能な温度検出手段と、 25 前記冷却経路に冷却用気体を供給可能な冷却用気体供給手段と、 前記温度検出手段の検出結果が予め設定した閾値以上である場合に前記冷却用 5気体供給手段により前記冷却経路に冷却用気体を供給し、前記温度検出手段の 検出結果が前記閾値未満である場合に前記冷却用気体供給手段による前記冷却 用気体の供給を停止する冷却制御を行うことが可能な制御装置と、 を備える誘導加熱システム。 54 本件審決の理由の要旨 本件審決における判断のうち、本件訴訟において取消事由として主張されて いるのは、本件各発明の進歩性に関する判断部分であり、その判断の理由の要 旨は、別紙「審決の理由の要旨」記載のとおりである。当該判断の前提とされ た主引用例等は、別紙1「引用発明等」記載のとおりであり、本件審決が認定 10 した引用発明等の内容は、別紙2「引用発明等の認定」記載のとおりである。 第3 原告の主張する審決取消事由とこれに対する被告の反論 1 原告の主張する審決取消事由は、次のとおりである(取消事由の番号は、本 件審決において判断された無効理由の番号に対応している。) ? 本件発明1について 15 取消事由1−1−2(無効理由1−1−2の判断の誤り〔甲1発明を主引 用発明とする本件発明1の進歩性欠如〕)、取消事由1−2(無効理由1− 2の判断の誤り〔甲2発明を主引用発明とする本件発明1の進歩性欠如〕)、 取消事由1−3(無効理由1−3の判断の誤り〔甲4発明を主引用発明とす る本件発明1の進歩性欠如〕) 20 ? 本件発明2について 取消事由2−1−2(無効理由2−1−2の判断の誤り〔甲4発明を主引 用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕)、取消事由2−2(無効理由2− 2の判断の誤り〔甲5発明を主引用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕) ? 本件発明3について 25 取消事由3−1−2(無効理由3−1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引 用発明とする本件発明3の進歩性欠如〕)、取消事由3−2(無効理由3− 62の判断の誤り〔甲4発明を主引用発明とする本件発明3の進歩性欠如〕) ? 本件発明4について 取消事由4−1−2(無効理由4−1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引 用発明とする本件発明4の進歩性欠如〕) 5? 本件発明5について 取消事由5−3(無効理由5−3の判断の誤り〔甲1発明から甲5発明ま でのいずれかを主引用発明等とする本件発明5の進歩性欠如〕) ? 本件発明6について 取消事由6−1(無効理由6−1の判断の誤り〔甲1発明から甲5発明ま 10 でのいずれかを主引用発明等とする本件発明6の進歩性欠如〕) 2 取消事由1(本件発明1の進歩性欠如) ? 取消事由1−1−2(無効理由1−1−2の判断の誤り〔甲1発明を主引 用発明とする本件発明1の進歩性欠如〕) (原告の主張) 15 ア 本件審決は、特段の事情がないのに恣意的に特許発明の意義を限定し、 本件発明1の「ケース」の「全て」が「電気絶縁性を有するセラミックま たは樹脂で構成される」と解釈しているが、請求項1には「ケースの全て」 に限定する記載はないから、「ケース」の「一部」が前記構成のものも含 まれると解される。 20 イ 相違点1につき判断すべきは、本件発明1の「ケースの少なくとも一部 が電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成される」点が、甲 1発 明から容易に想到し得たか否かであるところ、甲1発明において、ケース の一部であるソールプレ−トの材料として磁束を透過させ、対象物を加熱 する目的から「電気絶縁性を有する素材」を用いることは記載されている 25 に等しく、その材料として「セラミックまたは樹脂」を用いることは設計 事項である。 7よって、相違点1は、甲1発明から容易想到であり、相違点2から相違 点4までは実質的な相違点ではない。 (被告の主張) ア 本件発明1に係る請求項1の記載によれば「ケースの全て」又は「ケー 5 スの一部」の解釈がされる余地はない。本件審決は、本件発明1の「ケー ス」に相当するのは甲1発明の「コアおよびソールプレート」であるとの 認定に基づき、材質の異なる甲1発明の「フェライト材料または粉末鉄で 作られたコア」を本件発明1の「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹 脂」に置き換えられるか否かを判断しているだけであり、判断に誤りはな 10 い。 イ 本件発明1と甲1発明の相違点1についての原告の主張は、前提となる 解釈等に誤りがある。本件審決は、仮に「電気絶縁性を有するセラミック または樹脂」にソールプレートの材料を変更したとしても、コアの材料を これに変更することに阻害要因がある以上、本件発明1の「電気絶縁性を 15 有するセラミックまたは樹脂で構成され」る「ケース」は得られないと判 断しているのであり、ソールプレートの材料の変更が設計事項であること を認めるものではない。 ? 取消事由1−2(無効理由1−2の判断の誤り〔甲2発明を主引用発明と する本件発明1の進歩性欠如〕) 20 (原告の主張) ア 本件発明1と甲2発明の相違点1については、前記?(原告の主張)の とおり、本件発明1には「ケース」の「少なくとも一部」が「電気絶縁性 を有するセラミックまたは樹脂」で構成されるものも含まれると解すべき である。「ケース」の「全て」と解したとしても、誘導加熱装置の技術分 25 野では、ケースの設置状況等に応じて電気絶縁性についても考慮しなけれ ばならないことは当業者が当然に把握している潜在する普遍的な課題であ 8る上、甲2発明には、その課題を把握することができる示唆があるから (段落【0027】等)、その課題を動機付けとして、甲2発明から本件 発明1に想到することは容易である。 イ 本件発明1と甲2発明の相違点2については、配管の接続が可能な流体 5 の供給口及び排出口をケースに設けるという構成は周知・慣用技術(甲1、 3)である。また、温められた冷却エアによって再度ケース等が温められ ることなどを防ぐことは、当業者に一般的な課題であり、これに基づき、 甲2発明の排出口にダクト(配管)を取り付ける動機付けがあり、周知の 配管部材(甲11から甲13まで)を用いることに技術的困難性もない。 10 ウ 本件発明1と甲2発明の相違点4については、本件明細書(段落【00 78】の記載によれば、本件発明1の誘導加熱コイルユニットは、全体で ある金型装置の一部を構成するものであって、同様に金型装置の一部を構 成する金型に取り付けられて、この金型を加熱するものであるから、誘導 加熱装置の一部を構成するものではない。また、甲2発明では、全体であ 15 る誘導加熱ロールの構成要素として、ロール本体とこれを誘導加熱する誘 導加熱装置が示されている。よって、本件発明1の誘導加熱ユニットと、 甲2発明の誘導加熱装置は実質的な相違点ではない。 (被告の主張) ア 本件発明1と甲2発明の相違点1については、本件発明1の請求項には 20 「ケースの少なくとも一部」又は「ケースの全て」の記載はないから、原 告の主張する解釈には誤りがある。ケースの材料の選択は設計事項である という原告主張の技術水準を裏付ける証拠の提出もない。甲2発明には、 「導電性を有するアルミニウム材」で構成された「略直方体形状のケース」 の「正面板13」「背面板15」「天板10」につき、電気絶縁性を有す 25 る材料で構成することについて示唆はなく、置換えの動機付けはない。潜 在的普遍的な課題が認識されるのは、特許発明による顕在化後である。 9イ 本件発明1と甲2発明の相違点2については、甲3記載事項に、原告の 主張する、配管を後付けすることができるようにすることの記載・示唆は ない。原告が主張する、温められた冷却エアによって再度ケース等が温め られることなどを防ぐことが当業者に一般的な課題であることも、何ら根 5 拠はない。甲2発明では、長手方向全体にいき渡った冷却用気体を、簡易 な構造で外部に排出することが可能な構造が明記され、一方、甲2発明に 部品点数を増やしてまで排出口に配管を接続する動機付けは見当たらない。 ウ 本件発明1と甲2発明の相違点4については、本件審決では、加熱コイ ルと冷却構造とを、それが組み込まれた誘導加熱装置全体から切り離して 10 一体的に扱えるかを論じ、甲2の明細書の記載(甲2の段落【0029】、 図3)等から、誘導加熱装置2につき、これが組み込まれた誘導加熱ロー ル1から切り離して一体的に取り扱うものではないと判断したものである。 原告の主張は、甲2発明について、開示されていない構成を備えるものか ら検討するものであり、後知恵である。 15 ? 取消事由1−3(無効理由1−3の判断の誤り〔甲4発明を主引用発明と する本件発明1の進歩性欠如〕) (原告の主張) ア 本件発明1と甲4発明の相違点1については、前記?(原告の主張)の とおり、本件発明1には「ケース」の「少なくとも一部」が「電気絶縁性 20 を有するセラミックまたは樹脂」で構成されるものも含まれると解される から、甲4発明の誘導加熱調理器のケース(筐体10)の一部を、磁束を 効率よく透過させるべく「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」を 用いることは設計事項にすぎない。 イ 本件発明1と甲4発明の相違点2については、供給口から導入され、排 25 出口から排出されたエアが再度還流すれば、冷却効率が著しく悪化するか ら、甲4発明の電磁加熱調理器の排出口及び供給口にエア配管を取り付け 10 る動機付けは一般的な課題として十分にある。 ウ 本件発明1と甲4発明の相違点3については、甲4発明では、水平に流 れるエアがコイルベース外周壁にぶつかり、コイルベース下方を流れると ともに、一部は乱流等による圧力差でコイルベース内に進入し、誘導加熱 5 コイル外側周面と外周壁間の空間、誘導加熱コイルの被加熱側面とトップ プレート間の空間を流れ、コイルベースの下面から出ていくのであるから、 誘導加熱コイルの被加熱側面とトッププレート間の空間に冷却用空気が進 入しないことはなく、本件審決の判断には誤りがある。 エ 本件発明1と甲4発明の相違点4については、前記ウのとおり本件審決 10 の判断には誤りがある。 オ 本件発明1と甲4発明の相違点5については、前記?(原告の主張)ウ のとおり、本件発明1の「誘導加熱コイルユニット」と甲4発明の誘導加 熱調理器の間で「ユニット」と「器」の語句の違いによる実質的な相違点 は存在しない。 15 (被告の主張) ア 本件発明1と甲4発明の相違点1については、前記?(被告の主張)の とおり、原告の主張する解釈には誤りがある。 イ 本件発明1と甲4発明の相違点2については、本件審決は、筐体10内 にファン14が設けられているため、外部から強制的に冷却風を筐体10 20 内に供給する必要性はなく、したがって甲4発明の「吸気側通気口17」 及び「排気側通気口17」に「エア配管」接続する動機付けは存在しない ことを判断しているのであり、妥当である。 ウ 本件発明1と甲4発明の相違点3については、甲4(明細書及び図面) から理解することができるのは、コイルベース12がトッププレートと密 25 着している点のみであり、誘導加熱コイル11とコイルベース12の外周 壁との間、誘導加熱コイル11とトッププレートとの間に各隙間が存在す 11 るかは明らかでない。甲4(明細書及び図面)には、筐体内に取り込んだ 空気によって誘導加熱コイルを冷却することの記載はあるが、冷却用空気 がどのように流れるかは示されておらず、誘導加熱コイルの下面側を流れ るかも不明である。前記各隙間が存在するとしても、隙間に積極的に空気 5 を取り込む構造を読み取ることはできないから、誘導加熱コイルの被加熱 側の面とトッププレートの間の空間内に、誘導加熱コイルを冷却できるほ どの空気が進入することはあり得ない。 エ 本件発明1と甲4発明の相違点4については、前記ウのとおり本件審決 の判断は妥当である。 10 オ 本件発明1と甲4発明の相違点5については、前記?(被告の主張)ウ のとおり、甲4発明の誘導加熱調理器100は、それ自体が完成品の誘導 加熱装置であるため、ここから誘導加熱コイル11と冷却構造を切り出し て一つの単位部分として扱うことはできず、そのように扱うことについて 積極的な記載もない。このため、誘導加熱調理器100は、本件発明1の 15 誘導加熱コイルユニットには該当せず、甲4発明の誘導加熱調理器100 をユニットとして扱うことを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 3 取消事由2(本件発明2の進歩性欠如) ? 取消事由2−1−2(無効理由2−1−2の判断の誤り〔甲4発明を主引 用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕) 20 (原告の主張) 本件発明2と甲4発明の相違点1から相違点3までについては、前記2? (原告の主張)ウからオまでのとおり、本件審決の判断には誤りがある。 (被告の主張) 本件発明2と甲4発明の相違点1から相違点3までについては、前記2? 25 (被告の主張)ウからオまでのとおり、本件審決の判断は妥当である。 ? 取消事由2−2(無効理由2−2の判断の誤り〔甲5発明を主引用発明と 12 する本件発明2の進歩性欠如〕) (原告の主張) ア 本件発明2と甲5発明の相違点4については、供給口及び排出口を近傍 に配置するか対向位置に配置するかの違いであり、加熱コイルを冷却する 5 ための冷却経路において冷却用気体をどこから入れ・出すかは、当該技術 分野において冷却効率を最大化させるべく適宜算出される設計事項であり、 飛躍的な効果も見られない。 イ 本件発明2と甲5発明の相違点5については、前記2?(原告の主張) ウと同様、本件発明2の「誘導加熱コイルユニット」と甲5発明の電気調 10 理器の間で「ユニット」と「器」の語句の違いによる実質的な相違点は存 在しない。 (被告の主張) ア 本件発明2と甲5発明の相違点4については、原告は、証拠を提示する ことなく設計事項であると主張するにとどまる。 15 イ 本件発明2と甲5発明の相違点5については、前記2?(被告の主張) ウと同様であり、本件審決の判断は妥当である。 4 取消事由3(本件発明3の進歩性欠如) ? 取消事由3−1−2(無効理由3−1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引 用発明とする本件発明3の進歩性欠如〕) 20 (原告の主張) ア 本件発明3と甲5発明の相違点4については、本件明細書(段落【00 86】から【0089】まで)には、整流部が「ケースの内部」において 冷却用気体を整流するとの記載はない。本件発明3における「前記冷却用 気体を分岐又は合流させるように整流する整流部」は、文言どおり、「対 25 向方向からきた冷却用気体を、概略同一方向を向くように整流し、その後、 合流する際に不測の向きに進むことがないようにする」ものと解されなけ 13 ればならず、冷却用気体が排気孔42を出た直後に合流することからする と、甲5発明の仕切板41がこれに当たるから、甲5発明の仕切板41は 本件発明3の「整流部」に該当し、相違点4は実質的な相違点ではない。 イ 本件発明3と甲5発明の相違点5については、前記2?(原告の主張) 5 ウのとおり、本件発明3の「誘導加熱コイルユニット」と甲5発明の電気 調理器の間で「ユニット」と「器」の語句の違いによる実質的な相違点は 存在しない。 (被告の主張) ア 本件発明3と甲5発明の相違点4については、本件発明3の記載(第2 10 冷却経路は、冷却経路の一部であり、冷却経路はケース内部に存在してい る。図14も参照)から、整流部がケースの内部に設けられていることは 明らかである。また、甲5発明の仕切板41は、冷却用空気を「ケース2 5」内部で合流させるものではなく、甲5発明は、排出口に配管をつなぐ ものでもないから、甲5発明には、一度分岐した冷却用気体を合流させ整 15 流させる動機がない。原告は、相違点4を埋める証拠も提示していない。 イ 本件発明3と甲5発明の相違点5については、前記2?(被告の主張) ウと同様、本件審決の判断は妥当である。 ? 取消事由3−2(無効理由3−2の判断の誤り〔甲4発明を主引用発明と する本件発明3の進歩性欠如〕) 20 (原告の主張) ア 本件発明3と甲4発明の相違点1及び相違点2については、前記2? (原告の主張)ウ及びエのとおり、本件審決の判断には誤りがある。 イ 本件発明3と甲4発明の相違点3については、供給口及び排出口を近傍 に配置するか、対向位置に配置するかの違いにすぎない。そして、冷却経 25 路において冷却用気体をどこから入れ・出すかは、当該技術分野において 冷却効率を最大化させるべく適宜算出される設計事項であり、飛躍的な効 14 果も見られない。 ウ 本件発明3と甲4発明の相違点4については、前記2?(原告の主張) ウのとおりであり、本件審決の判断には誤りがある。 (被告の主張) 5ア 本件発明3と甲4発明の相違点1及び相違点2については、前記2? (被告の主張)ウ及びエのとおり、本件審決の判断は妥当である。 イ 本件発明3と甲4発明の相違点3については、原告は、証拠を提示する ことなく設計事項であると主張するにとどまる。 ウ 本件発明3と甲4発明の相違点4については、前記2?(被告の主張) 10 ウと同様、本件審決の判断は妥当である。 5 取消事由4(本件発明4の進歩性欠如) 取消事由4−1−2(無効理由4−1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引用 発明とする本件発明4の進歩性欠如〕) (原告の主張) 15 本件発明4と甲5発明の相違点4については、前記2?(原告の主張)ウの とおりであり、本件審決の判断には誤りがある。 (被告の主張) 本件発明4と甲5発明の相違点4については、前記2?(被告の主張)ウの とおりであり、本件審決の判断は妥当である。 20 6 取消事由5(本件発明5の進歩性欠如) 取消事由5−3(無効理由5−3の判断の誤り〔甲1発明から甲5発明まで のいずれかを主引用発明等とする本件発明5の進歩性欠如〕) (原告の主張) 本件発明5は、本件発明1から本件発明4までのいずれかを前提とし「前記 25 供給口と前記排出口とをそれぞれ2つ以上ずつ備えている」という発明特定事 項をさらに有するものであるところ、当該発明特定事項は周知・慣用技術(甲 15 4、5)であるから、本件発明5は、進歩性を欠く本件発明1から本件発明4 までに、周知・慣用技術又は甲4発明若しくは甲5発明を適用したにすぎない。 (被告の主張) 本件発明5は、本件発明1から本件発明4までのいずれかを前提とし、これ 5 らに係る原告の主張は失当であるから、本件発明5に対する審決の判断は妥当 である。 7 取消事由6(本件発明6の進歩性欠如) 取消事由6−1(無効理由6−1の判断の誤り〔甲1発明から甲5発明まで のいずれかを主引用発明等とする本件発明6の進歩性欠如〕) 10 (原告の主張) 本件発明6は、本件発明1から本件発明5までのいずれかを前提とし「前記 加熱コイルの温度を検出可能な温度検出手段と、前記冷却経路に冷却用気体を 供給可能な冷却用気体供給手段と、前記温度検出手段の検出結果が予め設定し た閾値以上である場合に前記冷却用気体供給手段により前記冷却経路に冷却用 15 気体を供給し、前記温度検出手段の検出結果が前記閾値未満である場合に前記 冷却用気体供給手段による前記冷却用気体の供給を停止する冷却制御を行うこ とが可能な制御装置と、を備える誘導加熱システム。」という発明特定事項を さらに有するものであるところ、当該発明特定事項は周知・慣用技術(甲8、 9等)であるから、本件発明6は、進歩性を欠く本件発明1から本件発明5ま 20 でに、周知・慣用技術を適用したにすぎない。 (被告の主張) 本件発明6は、本件発明1から本件発明5までのいずれかを前提とし、これ らに係る原告の主張は失当であるから、本件発明6に対する審決の判断は妥当 である。 25 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所は、本件発明1及び4から6までについて進歩性を認めた審決の判 16 断は誤りであり、原告の主張する本件審決の取消事由のうち、本件発明1に係 る取消事由1−1−2(無効理由1−1−2の判断の誤り〔甲1発明を主引用 発明とする本件発明1の進歩性欠如〕)、本件発明4に係る取消事由4−1− 2(無効理由4−1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引用発明とする本件発明 5 4の進歩性欠如〕)、本件発明5に係る取消事由5−3(無効理由5−3の判 断の誤り〔甲1発明から甲5発明までのいずれかを主引用発明等とする本件発 明5の進歩性欠如〕)及び本件発明6に係る取消事由6−1(無効理由6−1 の判断の誤り〔甲1発明から甲5発明までのいずれかを主引用発明等とする本 件発明6の進歩性欠如〕)は認められると判断する。 10 他方、本件発明2に係る取消事由2−1−2(無効理由2−1−2の判断の 誤り〔甲4発明を主引用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕)及び取消事由 2−2(無効理由2−2の判断の誤り〔甲5発明を主引用発明とする本件発明 2の進歩性欠如〕)並びに本件発明3に係る取消事由3−1−2(無効理由3 −1−2の判断の誤り〔甲5発明を主引用発明とする本件発明3の進歩性欠 15 如〕)及び取消事由3−2(無効理由3−2の判断の誤り〔甲4発明を主引用 発明とする本件発明3の進歩性欠如〕)は認められない。 したがって、当裁判所は、本件審決において審判の請求は成り立たないとし た部分のうち、本件特許の請求項1及び4から6までに係る部分を取り消すの が相当と判断する。 20 その理由は、以下のとおりである。 2 本件各発明について ? 本件明細書には、別紙3特許公報(特許第6114435号)のとおりの 記載がある。 ? 本件各発明の概要 25 本件明細書の記載によると、本件各発明は、誘導加熱コイルユニット、及 び誘導加熱システムに関するものである(【0001】。以下、特に断らな 17 い限り、【 】内の段落番号は本件明細書のものを指す。)。 誘導加熱方式では、加熱コイルに高出力の高周波電流を流すことで、加熱 対象物を高速で高温に加熱することができ、この場合、加熱コイルの自己発 熱や加熱対象物から受ける輻射熱の影響によって加熱コイル自身の温度が上 5 昇するため、加熱コイルを冷却する必要がある(【0003】)。しかし、 従来構成のうち、冷却ファンを用いた冷却方式では、冷却ファンからの冷却 風が加熱対象物に当たるため加熱対象物も冷却されてしまい、また、水冷管 を用いた冷却方式では、銅管をコイル状に加工しなければならず、加熱コイ ルを加熱対象物に合わせた形状にすることが難しいため、加熱対象物を均一 10 に加熱することが難しく、さらに、水を用いて冷却するため漏電の危険性が 高まるなどの問題があった(【0004】)。加えて、加熱コイルは、装置 に一体的に組み込まれているため、装置から加熱コイルを取り外して加熱コ イルのメンテナンスをしたり、取り外した加熱コイルを他の装置に流用した りすること等が難しいという課題があった(【0005】)。 15 本件各発明の目的は、これらの課題を解決し、加熱対象物を冷却すること なく加熱コイルを効率良く冷却することができ、更には取扱いが容易な誘導 加熱コイルユニット及びその誘導加熱コイルユニットを用いた誘導加熱シス テムを提供することにある(【0007】)。 本件各発明の実施形態による誘導加熱コイルユニットは、加熱対象物を誘 20 導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルを収容するケースと、 を備え、前記ケースは、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外 部から供給される冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前 記ケースの内部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給され た前記冷却用気体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケー 25 スと前記加熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷却 経路と、を有し、前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物 18 側の面と前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケース の内面を冷却するための第1冷却経路と、前記第1冷却経路に連通し前記加 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿 って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路と、を 5 含んでいる(【0008】)。そして、本件各発明のうち、本件発明1では、 前記加熱コイルを収容するケースは、電気絶縁性を有するセラミックまたは 樹脂で構成され、本件発明2では、前記供給口及び前記排出口は、平面視に おいて前記加熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線 と前記頂点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けら 10 れ、前記第2冷却経路中において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と 前記排出口との間を仕切る仕切り部を更に備えており、本件発明3では、前 記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加熱コイルの中心部を挟ん で直線上に設けられており、前記第2冷却経路中における前記供給口及び前 記排出口に対応する位置に前記第2冷却経路を流れる前記冷却用気体を分岐 15 又は合流させるように整流する整流部を更に備えており、本件発明4では、 前記ケースは、前記加熱コイルの中央部に対応して設けられ前記ケースを前 記加熱コイルの厚み方向に貫く穴部を有している。 下記の図面中、1、2、3 は誘導加熱コイルユニット、 20 141は仕切り部、142は 分流部(仕切り部、整流 部)、143は合流部(仕切 り部、整流部)、151は供 給口、152は排出口、20は 本件発明1【図2】 25 加熱コイル、30、30A、30Bはケース、341は第1冷却経路(冷却 経路)、342、342A、342Bは第2冷却経路(冷却経路)、37は 19 ケース穴部(穴部)を示す(【0115】)。 本件発明2【図1】 本件発明3【図14】 本件発明4【図10】 3 本件発明1に係る取消事由1−1−2(無効理由1−1−2の判断の誤り 5 〔甲1発明を主引用発明とする本件発明1の進歩性欠如〕)について ? 本件発明1は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 項1に記載された発明である。そして、特許発明の要旨認定は、特段の事情 のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきところ(最高裁判 所昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決〔以下「平成 10 3年判例」という。〕参照)、本件特許の特許請求の範囲の請求項1におい ては、ケースの構成につき「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構 成され前記加熱コイルを収容するケース」と記載されるにとどまり、ケース が電気絶縁性を有するセラミック又は樹脂という要素「のみ」により構成さ れることを表すような文言は記載されていない。なお、本件明細書の発明の 15 詳細な説明の記載を参酌しても、特許請求の範囲に記載されたケースが前記 の要素のみから構成される趣旨であることを示唆するような記載は見当たら ない。 そうすると、本件発明1のケースが前記の要素のみにより構成されるもの 20 に限定されるものと解することはできないから、本件発明1の「電気絶縁性 を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加熱コイルを収容するケース」 は、前記の要素を含む構成のものであれば足りると解するのが相当である。 次に、本件発明1の「誘導加熱コイルユニット」は、本件特許の特許請求 5 の範囲の請求項1においても、文言上、「ユニット」に特別な意味があるこ とを示すような記載はされていない。本件明細書の発明の詳細な説明の記載 を参酌しても、「誘導加熱コイルユニット」の構成に何らかの限定がされる ことを示唆するような記載は見当たらない。したがって、本件発明1の「誘 導加熱コイルユニット」とは、単に「誘導加熱コイルを含む構成単位」(ユ 10 ニットとは、構成単位を意味する。)を意味するものと解するのが相当であ る(以下、本件発明2から6までの「誘導加熱コイルユニット」の解釈も同 様である。) ? 甲1文献の記載事項 ア 甲1文献は、平成12年(2000年)7月25日再発行の米国特許発 15 明(第36787号)明細書であり、次の記載がある。 22 24 13 AA 20 図1 図4 図6 【発明の詳細な説明】 図1を参照すると、本発明に係る誘導加熱コイルの断面図が示されてい る。コア部材10は、コイルが巻かれた円形状のEコアである。コアはフ 25 ェライト材料または粉末鉄で作られている。コア10は中心軸A−Aを規 定し、中心を通って延び円形のコイル空間13を形成する中央部12を有 21 する。コア10は、第1の表面11と、コアの中心を通って第1の表面1 1から間隔をあけた第2の表面15とを含み、そこには冷却剤通路14が 設けられている。この通路は、図示しない冷却剤の供給源に接続される冷 却剤の入口フィッティング22に取り付けられる。冷却剤の入口フィッテ 5 ィングに隣接して、冷却剤の出口フィッティング24がある。このフィッ ティングは、導管23によってコイル空間13に接続される。コイル16 はゆるく形成され、数ターン分のリッツ線を含んでいる。(中略)ソール プレート26はアセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属複合 アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電流を 10 印加するために設けられる。 図4は、図1の実施形態の線A−Aに沿って描かれた断面図である。円 形コア10は、その中央部12がその中を通る冷却剤通路14を有するよ うに示される。(中略) 動作時には、コイルの両端は適切な周波数の電力源に接続され、コイル 15 によってサセプタに渦電流による加熱が生じるようにする。冷却剤の入口 フィッティング及び出口フィッティングは冷却剤源に接続され、冷却剤は コアの中央部を通って流れ、ゆるく形成されたコイルを通って冷却剤源に 戻ることで、コイル及びコアを冷却してコイルの過熱を防止する。(中略) ある用途では、ソールプレートをできるだけ均一に加熱させることが望 20 まれる。(中略) 図6は、製造作業で便利に使用できるようにコイルアセンブリの上に位 置することができる簡単なハウジングを示す。ソールプレート26は、装 置の複合構造体に適用される部分である。簡単なハウジング36は、コイ ル及び入出力クーラント管に電力を運ぶための接続導管38に接続される。 25 (以下略)(甲1訳文2頁36行目から4頁2行目まで) イ 甲1発明 22 以上によれば、甲1文献には、別紙2「引用発明等の認定」1記載の甲 1発明が記載されているものと認められる(甲1発明の認定につき、当事 者において特段争うものではないものと認められる。)。 ? 本件発明1と甲1発明の対比 5ア 本件発明1と甲1発明を比較すると、別紙「審決の理由の要旨」の1? イで本件審決が認定したとおりの一致点と相違点があることが認められる。 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ ルと、前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記 ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却剤を 10 前記ケース内に供給するためのものであって供給側の配管が接続される供 給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの 内に供給された前記冷却剤を前記ケースの外部へ排出するためのものであ って排出側の配管が接続される排出口と、前記ケースと前記加熱コイルと の間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有し、前記空 15 間は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と前記ケースとの間 に形成された第1空間と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間に あって前記加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間と、を含んで いる、加熱コイルを有する組立体。」であることである。 ウ また、相違点は、次のとおりである。 20 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明1では「電気絶縁性を有するセラミック または樹脂で構成され」るのに対して、甲1発明では「フェライト材料ま たは粉末鉄で作られたコア10と、ソールプレート26」である点。 (相違点2) 25 「冷却剤」及び「配管」に関して、本件発明1では「冷却用気体」が用 いられ、「供給口」及び「排出口」には「エア配管」が接続されているの 23 に対し、甲1発明における冷却剤である「クーラント」は、気体であるか 不明であり、また「入出力クーラント管」が「エア配管」とはされていな い点。 (相違点3) 5 「前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出 口とを繋ぐ空間」に関して、本件発明1では「空間」が「冷却経路」であ って「加熱コイルの表面及びケースの内面を冷却するための第1冷却経路」 と「加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」とを含むのに対 し、甲1発明では「第1空間」及び「第2空間」がそれぞれそのような冷 10 却経路となっているか不明である点。 (相違点4) 「加熱コイルを有する組立体」に関して、本件発明1は「誘導加熱コイ ルユニット」であるのに対し、甲1発明は「ユニット」とはされていない 点。 15 ? 相違点1についての判断 各相違点のうち、相違点1以外の相違点2から4までについては、本件審 決はいずれも実質的な相違点ではないか、又は容易想到性が認められると判 断しており、本件訴訟においてこれを覆すに足りる主張立証もない。したが って、本件審決の取消事由1−1−2との関係で判断する必要があるのは、 20 本件審決が容易想到性を認めず、進歩性が肯定された相違点1である。そこ で、相違点1について判断する。 ア 誘導加熱の原理の説明(甲39) 誘導加熱とは、変動磁束中に存在する被加熱物に電位差が生じて発生す る電流(誘導電流)によって加熱対象部が加熱されることをいう。すなわ 25 ち、磁束の変化によって被加熱物に渦上の誘導電流が生じるが、その際、 被加熱物の電気抵抗によって熱(ジュール熱)が発生し、これにより被加 24 熱物が加熱される。この誘導電流は、被加熱物が金属などの導電性材料で あれば、須らく生じる(磁性材か非磁性材により磁束の経路や加熱効率に 違いが生じる。)。他方、電気絶縁性の非磁性材では、磁束が通り抜けて も電圧は誘起されず、ジュール熱も発生しない。電気絶縁性の非磁性材は、 5 磁束に何ら影響を与えることなく、磁束を通過させる。 イ 各文献の記載事項 甲41文献は、平成28年3月24日公開された発明の名称を「ゴムパ ッキンの成形・加硫用電磁誘導加熱式金属装置」とする特許出願の公開公 報(特開2016−40081号)である。甲41文献には、同装置にお 10 いて一種の筐体を構成する絶縁体層が、非磁性材又は弱磁性の絶縁体から 構成され、絶縁体がセラミック材や樹脂等から選択されることなどが記載 されている(甲41の段落【0032】【0033】【0040】【図 2】)。 甲42文献は、平成15年9月12日公開された発明の名称を「内径面 15 誘導加熱コイル」とする特許出願の公開公報(特開2003−25761 1号)である。甲42文献には、同発明の実施形態の概念構成説明図にお いて「絶縁体(例えば、プラスチックなどである。)よりなる中空のケー ス12」が記載されている(甲42の段落【0026】【0027】【図 3】)。 20 甲43文献は、平成25年1月10日公開された発明の名称を「高周波 誘導加熱コイル、高周波誘導加熱ユニット、高周波誘導加熱装置」とする 特許出願の公開公報(特開2013−8518号)である。甲43文献に は、誘導加熱コイル本体57aを「エポキシ樹脂のような非磁性体のケー ス57b」内に収容しているなどの記載がある(甲43の段落【0005】 25 【図15】)。 すなわち、各文献には、誘導加熱の技術において、電気絶縁性の非磁性 25 材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが記載されている。 ウ 以上を踏まえ、相違点1について検討する。前記?のとおり、甲1発明 において、「加熱コイルを収容するケース」は、「コア10とソールプレ ート26」から構成されるものと認められるところ、このうち「ソールプ 5 レート26」は、「アセンブリの底部に適用され、溶接されるべき非金属 複合アセンブリに含まれる金属サセプタに、コイルによって発生した渦電 流を印加するために設けられる」(甲1文献・訳文3頁)ものとされてい ることからすると、「ソールプレート26」は、コイルを収容するケース としてコイルと加熱対象物との間に置かれ、コイルによって発生した磁束 10 を加熱対象物である金属サセプタに届かせるため、当該磁束を通過させる 材料で構成されているものと理解される。そして、前記の誘導加熱の原理 からすると、電気絶縁性の非磁性材は、磁束に何ら影響を与えることなく、 磁束を通過させる性質を有するものであり、前記各文献によれば、電気絶 縁性の非磁性材の構成材料としてはセラミックや樹脂があったことが周知 15 であったと認められる。 そうすると、甲1発明の「ケース」を構成する「コア10とソールプレ ート26」のうち「ソールプレート26」について、磁束を通過させる性 質を有する電気絶縁性の非磁性材として周知のセラミック又は樹脂を選択 し、「コア10と電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂」で構成され 20 る「ケース」とすることは、当業者にとって容易想到であったというべき である。 エ この点に関し、被告は、本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の 記載によれば「ケースの全て」や「ケースの一部」などの解釈がされる余 地はなく、本件審決は、フェライト材料又は粉末鉄で作られたコアを請求 25 項1のケースの構成に置き換えられるかを判断しているだけであるなどと 主張する。 26 しかしながら、前記?のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の請 求項1には「電気絶縁性を有するセラミックまたは樹脂で構成され前記加 熱コイルを収容するケース」と記載されているにとどまるから、ケースの 構成が前記の要素「のみ」からなるものに限定されるものと解することは 5 困難である。 よって、被告の主張は前提となる本件発明1の特許請求の範囲の解釈を 異にしており、これを採用することはできない。 ? 小括 以上によれば、本件発明1と甲1発明の相違点1については容易想到であ 10 ったというべきであり、相違点2から4までについては、前記のとおり進歩 性は否定されるから、結局、本件発明1は、甲1発明に基づいて出願前に当 業者が容易に発明することができたとものと認めるのが相当である。 したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、出願前に当業者が容易 に発明することができたとは認められないとした本件審決の判断には誤りが 15 ある。よって、取消事由1−2(甲2発明を主引用発明とするもの)及び取 消事由1−3(甲4発明を主引用発明とするもの)について判断するまでも なく、本件審決のうち、本件発明1について無効審判請求が成立しないとし た部分の取消しは免れない。 4 本件発明2に係る取消事由2−1−2(無効理由2−1−2の判断の誤り 20 〔甲4発明を主引用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕について ? 本件発明2は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 項2に記載された発明である。 ? 甲4文献の記載事項 ア 甲4文献は、平成19年7月26日公開された発明の名称を「誘導加熱 25 調理器」とする特許出願の公開公報(特開2007−187411号)で あり、次の記載がある(以下、?までに記載した【 】内の段落番号は、 27 特に断らない限り、いずれも甲4文献の段落番号を指す。)。 【発明の詳細な説明】 【0001】 本発明は、誘導加熱調理器に関し、特に 5 吸排気を後方で行なう誘導加熱調理器に関 するものである。 【0012】 本発明は(略)冷却風のショートサイク ルの発生を防止する(略)ことのできる誘 10 導加熱調理器を提供するものである。 図1 【0017】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づ いて説明する。(略)図1は、本発明の実 施の形態1に係る誘導加熱調理器100の 15 内部構成を示す斜視図である。この誘導加 熱調理器100は、誘導加熱による調理鍋 載置部を左右に二口、ラジエントヒータ(R 図2 H)加熱による調理鍋載置部を奥中央に一口設けた、ビルトイン型(シス テムキッチン一体型)IHクッキングヒータである場合を例に説明するも 20 のとする。(略) 【0018】 図1に示すように、誘導加熱調理器100は、筐体10内にコイルベー ス12と、ファン14と、ラジエントヒータ20とが設けられている。ま た、コイルベース12には、鍋やフライパン等の被加熱物を加熱するため 25 の誘導加熱コイル11が載置されるようになっている。なお、コイルベー ス12及びファン14は、二口の誘導加熱に対応して備えられている。 28 (略) 【0019】 この誘導加熱調理器100の背面には、実施の形態1の特徴部分である 吸排気カバー50が備えられている。この吸排気カバー50は、下面に誘 5 導加熱コイル11や制御基板15等の発熱部品を冷却するための空気を筐 体10の内部に取り込む吸気口60(図2)が、上面に発熱部品を冷却し た空気を筐体10から排出する排気口70が形成されている。(略) 【0020】 筐体10内には、吸気口60から取り込まれる空気の風路と、排気口7 10 0から排出される空気の風路とを形成するために2つの仕切り板18が設 けられている。(略) 【0021】 誘導加熱コイル11は、電流によって発生する磁力線によって、誘導加 熱コイル11の上方に載置される被加熱物に渦電流が生じ、被加熱物自体 15 を発熱させるようになっている。コイルベース12は、誘導加熱コイル1 1を載置して保持する役目を果たす。(略) 【0022】 ファン14は、誘導加熱コイル11を冷却する空気を送風するものであ る。(略) 20 【0023】 (略)なお、コイルベース12は、図示省略の支持部材で下方から支持 されており、図示省略のトッププレートに密着するように押し付けられる ようになっている。(略) 【0025】 25 ここでは、筐体10の背面に複数の通気孔17が形成されている場合を 例に示している。つまり、筐体10の背面に吸排気カバー50を設けるこ 29 とで、吸気と排気とを筐体10の背面で行なうようになっている。筐体1 0内で発生する音は、吸気口60や排気口70から外部に漏洩するが、吸 排気カバー50を設けることで筐体10の前面から音が漏れるということ がなくなる。つまり、ユーザが不快に感じるような誘導加熱調理器100 5 から発生する騒音を低減することが可能になる。(略) 【0026】 図2は、誘導加熱調理器100を筐体10と吸排気カバー50とに分割 した状態を示す分解図である。図2に基づいて、実施の形態1に係る吸排 気カバー50について説明する。この吸排気カバー50は、筐体10との 10 接触面(正面)が開口されている。つまり、吸排気カバー50は、上面、 下面、側面及び背面を有した箱状体で構成されている。また、この吸排気 カバー50には、下面に発熱部品を冷却するための空気を取り込む吸気口 60が、上面に発熱部品を熱交換で冷却した空気を排出する排気口70が 形成されている。 15 【0029】 また、吸排気カバー50には、吸気口60に取り込まれた空気と、排気 口70から排出する空気とが混ざり合わないように、隔壁51が形成され ている。(略) 【0030】 20 さらに、吸気口60と排気口70とを上下に分けて形成しているために、 ショートサイクルが発生することがない。(略) 【0031】 次に、誘導加熱コイル11や制御基板15等の発熱部品の冷却について 簡単に説明する。 25 まず、ファン14は、吸排気カバー50の吸気口60から通気孔17を 経由して空気を取り込む。そのとき、空気はフィン16を経由して制御基 30 板15を冷却する。それから、この空気は、誘導加熱コイル11に送風さ れ誘導加熱コイル11を冷却する。誘導加熱コイル11を冷却した空気は、 ラジエントヒータ20を冷却する。そして、誘導加熱コイル11及びラジ エントヒータ20との熱交換により温度が上昇した空気は、ラジエントヒ 5 ータ20後方の通気孔17を経由して排気口70から外部に排出される。 【0032】 このように、吸排気カバー50の隔壁51に対応する仕切り板18を筐 体10内に設けているので、筐体10内に取り込む発熱部品を冷却するた めの空気と、筐体10内から排出する発熱部品を冷却した空気とが混ざり 10 合うことがないのである。また、吸排気カバー50の吸気口60と排気口 70とを上下に分けて形成しているので、ショートサイクルが発生するこ ともないのである。したがって、筐体10内の発熱部品のみならず、筐体 10自体も十分に冷却することが可能である。 イ 甲4発明 15 以上によれば、甲4文献には、別紙2「引用発明等の認定」4記載の甲 4発明が記載されているものと認められる。 この点に関し、被告は、甲4発明において、誘導加熱コイル11とトッ ププレートとの間及び誘導加熱コイル11とコイルベース12の外周壁と の間に各隙間が存在するかは明らかではないなどと主張する。 20 しかしながら、前記のとおり、甲4文献の明細書において「コイルベー ス12には、鍋やフライパン等の被加熱物を加熱するための誘導加熱コイ ル11が載置されるようになっている」ものとされ(【0018】)、図 面上も、誘導加熱コイル11の上面はコイルベース12の側周板の上端よ りも低い位置にあること、また、誘導加熱コイル11の周囲は、これを載 25 置するコイルベース12の側周板が隙間をもって取り囲む態様であること (【図1】、甲25・5頁以下参照)がそれぞれ認められる。そして、甲 31 4文献の明細書においても「コイルベース12は、図示省略の支持部材で 下方から支持されており、図示省略のトッププレートに密着するように押 し付けられるようになっている」(【0023】)とされるにとどまり、 誘導加熱コイル11の上面についての言及はされていないことなどからす 5 ると、誘導加熱コイル11における被加熱物側の面とトッププレートとの 間及び誘導加熱コイル11とコイルベース12の外周壁との間には、それ ぞれ空間が存在するものと認めるのが相当である。よって、被告の主張を 採用することはできない。 ? 本件発明2と甲4発明の対比 10 ア 本件発明2と甲4発明を比較すると、別紙「審決の理由の要旨」の2? イで本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があることが認められ る。 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ ルと、前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記 15 ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気 体を前記ケース内に供給するためのものである供給口と、前記ケースの内 部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却 用気体を前記ケースの外部へ排出するためのものである排出口と、を有し、 前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面の上に形成された空間と、 20 前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外 周部に沿って形成された空間が存在し、前記供給口及び前記排出口は、平 面視において前記加熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口と を結ぶ線と前記頂点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位 置に設けられており、前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と前記排出 25 口との間を仕切る仕切り部を更に備えている、誘導加熱装置」であること である。 32 ウ また、相違点は、次のとおりである。 (相違点1) 「加熱コイルにおける加熱対象物側の面の上に形成された空間」に関し て、本件発明2では、「前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と 5 前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面 を冷却するための第1冷却経路」が存在するのに対し、甲4発明では、そ のような冷却経路が存在するか不明である点。 (相違点2) 「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル 10 の外周部に沿って形成された空間」に関して、本件発明2では、「前記加 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に 沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」 が存在するのに対し、甲4発明では、そのような冷却経路が存在するか不 明である点。 15 (相違点3) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明2は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲4発明は、「ユニット」とはされていない点。 ? 相違点1及び相違点2についての判断 ア 原告は、甲4発明では、水平に流れるエアがコイルベース外周壁にぶつ 20 かり、コイルベース下方を流れるとともに、一部は乱流等による圧力差で コイルベース内に進入し、誘導加熱コイル外側周面と外周壁間の空間、誘 導加熱コイルの被加熱側面とトッププレート間の空間を流れ、コイルベー スの下面から出ていくのであるから、誘導加熱コイルの被加熱側面とトッ ププレート間の空間に冷却用空気が進入しないことはなく、本件審決の判 25 断には誤りがあるなどと主張する。 この点について、前記?のとおり、甲4発明の誘導加熱コイル11にお 33 ける被加熱物側の面とトッププレートとの間及び誘導加熱コイル11とコ イルベース12の外周壁との間には、それぞれ空間が存在することが認め られ、また、甲4文献の明細書によれば、甲4発明において、ファン14 は、吸排気カバー50の吸気口60から通気孔17を経由して空気を取り 5 込み、フィン16を経由して制御基板15を冷却した後「この空気は、誘 導加熱コイル11に送風され誘導加熱コイル11を冷却する」(【003 1】)ものと認められる。しかしながら、甲4文献においては、冷却用の 空気が、甲4発明の誘導加熱コイル11における被加熱物側の面とトップ プレートとの間及び誘導加熱コイル11とコイルベース12の外周壁との 10 間の各空間を通過し、誘導加熱コイル11における被加熱物側の面及び誘 導加熱コイル11の外周部を冷却するという「冷却経路」についての記載 はされていない。原告は、水平に流れるエアがコイルベース外周壁にぶつ かり、コイルベース下方を流れるとともに、一部は乱流等による圧力差で コイルベース内に進入するなどの主張をするが、甲4文献にその記載がさ 15 れているものと認めることはできず、他に原告の主張を認めるに足りる証 拠もない。よって、原告の主張を採用することはできない。 イ したがって、甲4発明については、その冷却経路の構造が明らかではな く、甲4発明に基づき、相違点1(第1冷却経路)及び相違点2(第2冷 却経路)の構成とすることが当業者にとって容易想到であったと認めるに 20 足りない。 ? 小括 別紙「審決の理由の要旨」の2?ウのとおり、本件審決は、本件発明2と 甲4発明の相違点1から相違点3までは容易想到でなかったとしているとこ ろ、前記のとおり、相違点1及び相違点2について容易想到であったと認め 25 ることができない以上、相違点3について判断するまでもなく、本件発明2 は、甲4発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明することができたもの 34 とはいえない。 したがって、本件発明2は、甲4発明に基づいて、出願前に当業者が容易 に発明することができたとは認められないとした本件審決の判断に誤りはな い。 55 本件発明2に係る取消事由2−2(無効理由2−2の判断の誤り〔甲5発明 を主引用発明とする本件発明2の進歩性欠如〕)について ? 本件発明2は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 項2に記載された発明である。 ? 甲5文献の記載事項 10 ア 甲5文献は、平成14年2月26日公開された発明の名称を「電気調理 器」とする特許出願の公開公報(特開2002−58600号)であり、 次の記載がある(以下、?までに記載した【 】内の段落番号は、特に断 らない限り、いずれも甲5文献の段落番号を指す。)。 【発明の詳細な説明】 15 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は調理中に発生する油煙の除去ができる除煙焼肉機能を具備した 誘導加熱を利用した電気調理器に関する。 【0010】 本発明は(略)高火力で料理できると共に、油煙が漏れても調理する使 20 用者に油煙が当たらずに調理できる電気調理器を提供することを目的とし ている。 【0012】【課題を解決するための手段】 (略)本発明の電気調理器は、加熱源として誘導加熱方式を用い、除煙 手段として実質的にボデー全体から空気を吹き出し、プレートの中央に設 25 けた除煙塔の吸い込み口より吸い込む循環風用の空気通路を設ける構成と した。この構成では、誘導加熱用のコイルを冷却する冷却風用の空気通路 35 と循環風用の空気通路とが交叉する部分には吹き出し口を設けられないの で、冷却風用の空気通路を複数の通路に分割し、かつ分割した各々の空気 通路の間にも循環風用の吹き出し口を設けるようにした。この構成により、 吹き出し口のない冷却風用の空気通路の巾が狭くなったため、近くの吹き 5 出し口から出た循環風が拡がり、吹き出し口のない部分も覆い、実質的に 全体から一様に吹き出したようにすることができる。 【0027】 (実施例1)図1は、本発明の第1の実施例における電気調理器の縦断 面図、(略)図3は同電気調理器の横断面図である。 10 【0028】 図1において、19は調理を行うプレートであり、その中央には吸煙塔 20が設けてあり、21は吸煙塔20の吸い込み口である。22はプレー ト裏面に設けた鉄製の発熱板である。23はプレート19を着脱自在に載 置する耐熱性のトッププレートであり、セラミックや耐熱性の結晶化ガラ 15 ス等からなる。24はトッププレート23の下方に設けたコイルであり、 25はコイル24の下方と側方を覆ったケースである。26はケース25 の下方に設けたモータであり、先端の軸に除煙ファン27が設けてある。 28はケース25と除煙ファン27の側方と下部を覆う本体外郭の下部を 形成する下ボデーであり、29は本体外郭の上部を形成する上ボデーであ 20 る。30はプレート19外周部と上ボデー29の上部フランジとから構成 された吸煙塔20に向う循環風の吹き出し口であり、上ボデーのほぼ全周 にわたって設けられている。31は吸煙塔20の吸い込み口21から本体 に吸引された直後の位置に設けたフィルタであり、32は吸い込み口21 から除煙ファン27に至る空気通路Aであり、33はケース25の下ボデ 25 ー28と上ボデー29との間の空気通路Bである。34はコイル24に至 る空気通路Cであり、35はコイル24から本体外に至る空気通路Dであ 36 る。mはプレート19上空と空気通路A32及び空気通路B33を循環す る循環風である。36は冷却ファンであり、37は制御回路装置である。 【0029】 (略)図3において、40は冷却ファン36近傍の下ボデー28に設け 5 た開口孔であり、nは本体内に吸引される外気である。41はケース25 内に設けた仕切板であり、42は下ボデー28及び上ボデー29に設けた 排気孔である。 【0031】 ここでモータ26を駆動させると、モータ26に取り付けた除煙ファン 10 27により、プレート19中央の吸煙塔20の吸い込み口21からプレー ト19上面の空気が本体内の空気通路A32に吸い込まれ、フィルタ31 を通過する。フィルタ31を通過する際に油煙はフィルタ31に吸着され、 空気だけが通過し、ついで除煙ファン27よりに吹き出される。そして空 気通路B33を通過してプレート19外周部の上ボデー29のほぼ全周に 15 設けた吹き出し口30からプレート19の吸煙塔20に向かって吹き出さ れ、プレート19上面の空気は循環風mを形成する。 【0032】 (略)また、コイル24は電磁誘導を発生する際に自己発熱し、さらに 高温になったプレート19からの輻射熱を受け、温度上昇する。この温度 20 上昇を放っておくと高温となり機能障害を起こすが、冷却ファン36を駆 動すると開口孔40から外気nが先ず制御回路装置37内を流れ、制御回 路装置37の部品を冷却する。その後、空気通路C34を通り、仕切板4 1により2方向に分流されてコイル24上を流れる際にコイル24を冷却 して、空気通路D35を通り、排気孔42から本体の外に放出する。 25 【0033】 これにより、誘導加熱で高温でおいしく調理ができると共に、循環風m 37 により油煙除去ができる。(略)本実施例では熱効率のよい電磁誘導を用 いているために被調理物を集中して加熱することができるので高温で調理 することができる。さらに本実施例のように加熱を必要とする部分にのみ 電磁誘導で発熱する発熱板22を設けると、発熱板22への供給の電力密 5 度を高くでき、循環風により熱が幾らか奪われてもプレートの温度を高温 に維持することができる。(略) 【0034】 さらに、除煙性能を維持するには、プレート19上で調理時に発生する 油煙を吸煙塔20内にムラなく吸引するには吹き出し口から均一にかつ一 10 定の空気が吹き出さなくてはならない。そのために本実施例では、冷却フ ァンによる送風が循環送風の妨げにならないように、空気通路Cと空気通 路Dを複数の通路に分割し、分割した各通路の巾を狭くするとともに、分 割した各通路の間からも循環送風ができるように通路間に吹き出し口30 を設けた。(略)これにより、循環風は冷却風用の通路である空気通路C 15 34と空気通路D35との分割した通路により妨げられるが、通路の巾が 狭いため吹き出し口30より吹き出した循環風はすぐに拡がりあたかも通 路がなかったかのように均一となる。すなわち、吹き出しが実質的に均一 となり、除煙の高性能を維持できる。 図1 図3 20 38 イ 甲5発明 以上によれば、甲5文献には、別紙2「引用発明等の認定」5記載の甲 5発明が記載されているものと認められる。 ? 本件発明2と甲5発明の対比 5ア 本件発明2と甲5発明とを比較すると、別紙「審決の理由の要旨」の2 ?イで本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があることが認めら れる。 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ ルと、前記加熱コイルの下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケース 10 は、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される 冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内部 と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用 気体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加 熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有 15 し、前記空間は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成 され前記加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コ イルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿っ て形成された第2空間と、を含んでいる、誘導加熱装置。」であることで ある。 20 ウ また、相違点は、次のとおりである。 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明2は、「加熱コイルを収容する」のに対 し、甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だ けであり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」 25 を収容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件 発明2では、「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、 39 甲5発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24 との間」に存在する点。 (相違点2) 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 5 明2は、「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」 のものであるのに対し、甲5発明では、「コイル24」の表面が冷却され るものの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 (相違点3) 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 10 明2では、「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加 熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するた めの第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明では、そのような冷却 経路が存在するか不明である点。 (相違点4) 15 本件発明2では、「前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記 加熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂 点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けられてお り、前記第2冷却経路中において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口 と前記排出口との間を仕切る仕切り部を更に備えている」のに対し、甲5 20 発明は、そのような構成を備えていない点。 (相違点5) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明2は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」とはされていない点。 ? 相違点4についての判断 25 各相違点のうち、相違点1から3までについては、本件審決はいずれも実 質的な相違点ではないと判断しており、本件訴訟においてこれを覆すに足り 40 る主張立証もない。したがって、本件審決の取消事由2−2との関係で判断 する必要があるのは、本件審決が容易想到性を認めず、進歩性が肯定された 相違点4及び相違点5である。そこで、まず、相違点4について判断する。 ア 原告は、相違点4について、供給口及び排出口を近傍に配置するか対向 5 位置に配置するかの違いであり、加熱コイルを冷却するための冷却経路に おいて冷却用気体をどこから入れ・出すかは、当該技術分野において冷却 効率を最大化させるべく適宜算出される設計事項であり、飛躍的な効果も 見られないから、当業者にとって容易想到であると主張する。 イ この点について、甲5発明の明細書及び図面によれば、甲5発明の「図 10 3において、40は冷却ファン36近傍の下ボデー28に設けた開口孔で あり、nは本体内に吸引される外気である。41はケース25内に設けた 仕切板であり、42は下ボデー28及び上ボデー29に設けた排気孔であ る」(【0029】)ところ、「コイル24は電磁誘導を発生する際に自 己発熱し、さらに高温になったプレート19からの輻射熱を受け、温度上 15 昇する。この温度上昇を放っておくと高温となり機能障害を起こすが、冷 却ファン36を駆動すると開口孔40から外気nが先ず制御回路装置37 内を流れ、制御回路装置37の部品を冷却する。その後、空気通路C34 を通り、仕切板41により2方向に分流されてコイル24上を流れる際に コイル24を冷却して、空気通路D35を通り、排気孔42から本体の外 20 に放出する」(【0032】)とされ、「これにより、誘導加熱で高温で おいしく調理ができると共に、循環風mにより油煙除去ができる」(【0 033】)、「さらに、除煙性能を維持するには、プレート19上で調理 時に発生する油煙を吸煙塔20内にムラなく吸引するには吹き出し口から 均一にかつ一定の空気が吹き出さなくてはならない。そのために本実施例 25 では、冷却ファンによる送風が循環送風の妨げにならないように、空気通 路Cと空気通路Dを複数の通路に分割し、分割した各通路の巾を狭くする 41 とともに、分割した各通路の間からも循環送風ができるように通路間に吹 き出し口30を設けた」(【0034】)とされていることからすると、 甲5発明においては、コイル24が高温となり機能障害とならないよう、 冷却用気体である外気nにより冷却するが、冷却ファンによる送風が循環 5 送風の妨げにならないよう、空気通路C及び空気通路Dを複数の通路に分 割したことから、外気nが、各空気通路C34を通り、仕切板41により 2方向に分流されてコイル24上を流れる際にコイル24を冷却した後、 各空気通路D35を通り、排気孔42から本体の外に放出される構成とし たものであり、各空気通路Cを通り、仕切板41により分流され、コイル 10 24を冷却した後は各空気通路Dを通り放出される各冷却経路は、概ね同 等に分割されていることが認められる。 ウ 各文献の記載事項 甲4文献には、前記4?の記載があり、別紙2「引用発明等の認定」4 記載の甲4発明が記載されているものと認められる。 15 甲6文献は、平成17年1月27日公開された発明の名称を「加熱調理 器の熱処理システム」とする特許出願の公開公報(特開2005−261 24号)である。である。甲6文献には、IHクッキングヒータの発熱部 品から熱を奪う吸熱部の構造例に関し、「図2から図4は、発熱部品であ るIHコイル5の熱を奪うコイル吸熱部131の構造を示す一実施例であ 20 る(甲6の段落【0029】)。」「図2はコイル吸熱部131をIHコ イル5の上面に取り付けた例で、22はIHクッキングヒータ2の鍋4を 載せる天板、23はIHコイル5を保持するコイルベースを示している。 (中略)(甲6の段落【0030】)。」「図3はコイル吸熱部131の 内部構造で、密封容器を構成する母材131aは熱伝導率の良好なアルミ 25 ニウムや銅等の金属類で構成するのが最も望ましいが、誘導加熱によりコ イル吸熱部131自体も発熱する恐れがある場合は熱伝導の良い樹脂等で 42 構成すればよい。(中略)(甲6の段落【0031】)。」「コイル吸熱 部131の内部には仕切り板24が設けられて液状冷媒25の流路を構成 しており、流入配管16から流入した液状冷媒25は母材131a内を一 周することによりIHコイル5から熱を吸熱し、温度上昇した液状冷媒2 5 5が流出配管15から流出する。ここで、母材131a内の流路の途中に 複数の突起物を設けたり、流路を複数路に分割するリブを設け、熱伝達率 向上や吸熱性能向上を図ってもよい(甲6の段落【0032】)。」「液 状冷媒25としては、冷却水でもよいが、高絶縁性液や不凍液等であって もよい。(中略)(甲6の段落【0033】)。」「図4は他の実施例で、 10 図2との違いは、コイル吸熱部131がIHコイル5の上面ではなく下面 に取り付けられた例で、コイルベース23を介してIHコイル5の発熱を 吸熱する方法である(甲6の段落【0034】)。」などの記載があり、 これによれば甲6文献には、「加熱対象物を誘導加熱により加熱するIH コイル5と、前記IHコイル5と加熱対象物が載置される天板22との間 15 に配置されたコイル吸熱部131と、を備え、前記コイル吸熱部131は、 前記コイル吸熱部131の外部から供給される液状冷媒を前記コイル吸熱 部131内に供給するための供給口と、前記供給口から前記コイル吸熱部 131の内に供給された前記液状冷媒を前記コイル吸熱部131の外部へ 排出するための排出口と、前記供給口と前記排出口とを繋ぐ流路と、を有 20 し、前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記IHコイル5の中 心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂点と前記排出口 とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けられており、前記流路中 において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と前記排出口との間を仕 切る仕切り板24を更に備えている、誘導加熱式調理器」の技術事項が記 25 載されているものと認められる。 43 図2 図3 図4 甲7文献は、平成24年5月9日 発行された発明の名称を「加熱調理 器」とする特許公報(特許第492 5 7790号)である。甲7文献には 「実施の形態2.(中略)実施の形 態2は、天板2と誘導加熱コイル1 0〜12の間に吸熱手段を設けたも のであり、以下、図5を用いて説明 10 する。図5は実施の形態2における 吸熱手段の構成を示す断面及び上面 図である。 (中略) (甲7の段落 【0018】)。」「図5におい て、 本 実施の 形態の 吸熱手 段40 15 は、天板2と誘導加熱コイル10〜 12の間にそれぞれ配置された平面 円形状のタンク40aであり、各タ ンク40a内に流入する上水道の水 Wに天板2の熱を吸収させる。タン 20 ク40aは、中央部に天板2の温度 図11 を検出する温度センサ13〜15を挿入するための孔が設けられ、外周部 に給水管30と排水管31とが接続されている。また、内部には、前記孔 44 を中心として先端部側が互いに対向する2枚の案内板40bが設けられて いる。(中略)(甲7の段落【0019】)。」「以上のように実施の形 態2によれば、天板2と誘導加熱コイル10〜12の間にそれぞれ吸熱手 段40を配置したので、加熱口周辺部の熱吸収に加え、加熱口3a〜3c 5 の熱も吸収し、このため、加熱口周辺部から放射状に伝導される熱をさら に抑えることができ、本調理器の使用中や使用直後でも加熱口3a〜3c を触れたとしても安全な加熱調理器を提供することができる。(中略) (甲7の段落【0020】)。」「実施の形態7における吸熱手段67は、 例えば天板2と分割コイル50の間に設置され、図11に示すように、平 10 面円形状に形成されたタンク67aを有し、このタンク67a内に流入す る水Wに天板2の熱を吸収させる構造になっている。タンク67aは、外 周部に給水管30と排水管31とが接続され、その内部には、中心軸が分 割コイル50と略同一であって、外コイル52の外径に凡そ対応して設け られたリング状の仕切板67bが設置されている。この仕切板67bによ 15 りリング状の外流路67dと円形状の内流路67eとが形成されている。 また、外流路67dの周方向に閉塞し、内流路67eの一部を除いて中心 軸を交差する板状の仕切板67cが設けられている。内流路67e内には、 仕切板67cを境にして流入口67fと流出口67gが設けられている。 流入口67fは、図示していないが、分割コイル50の内コイル51と外 20 コイル52の間に配管された給水管30と接続され、流出口67gは内コ イル51と外コイル52の間に配管された排水管30と接続されている。 また、流入口67fと給水管30の間には流量制御弁(図示せず)が挿入 されている(甲7の段落【0040】)。」などの記載があり、これによ れば甲7文献には、「被加熱体を誘導加熱により加熱する分割コイル50 25 と、前記分割コイル50と被加熱体が載置される天板2との間に配置され た吸熱手段67と、を備え、前記吸熱手段67は、前記吸熱手段67の外 45 部から供給される水を前記吸熱手段67内に供給するための供給口と、前 記供給口から前記吸熱手段67の内に供給された前記水を前記吸熱手段6 7の外部へ排出するための排出口と、前記供給口と前記排出口とを繋ぐ冷 却経路と、を有し、前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記分 5 割コイル50の中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記 頂点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けられて おり、前記冷却経路中において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と 前記排出口との間を仕切る仕切り板67cを更に備えている、誘導加熱調 理器。」の技術事項が記載されているものと認められる。 10 以上の各文献には「コイルと天板との間に吸熱手段を配置し、吸熱手段 を循環する液体冷媒の供給口及び排出口を、平面視においてコイルの中心 部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂点と前記排出口と を結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設け、前記鋭角側の領域に前記 供給口と前記排出口との間を仕切る仕切り板を設ける誘導加熱装置の冷却 15 装置」の周知技術が記載されているものと認められる。 エ 以上を踏まえ、相違点4について検討すると、前記のとおり、供給口及 び排出口を、平面視においてコイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供 給口とを結ぶ線と前記頂点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角と なる位置に設け、前記鋭角側の領域に前記供給口と前記排出口との間を仕 20 切る仕切り板を設けることは周知技術と認められるが、甲5発明において、 複数の空気通路C及び空気通路Dは、仕切板41により、冷却経路として 概ね同等に分割された上、分割された各冷却経路に対応して、各排出口は、 平面視においてプレートの中心部を挟んで供給口に対向する位置に設けら れている。そのような同等の二つの冷却経路を有する構成と対比し、一つ 25 の冷却経路しか設けず、かつ、「前記供給口及び前記排出口は、平面視に おいて前記加熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ 46 線と前記頂点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設 けられ」る構成とした場合に、冷却機能が一層向上する等の効果が得られ ることを認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常識があるとも認め られないから、このような構成とすることの動機付けは認められない。甲 5 4発明、甲6記載事項、甲7記載事項及び周知技術では、冷却経路が分割 されていないものであり、これを甲5発明に適用して概ね同等に分割され た複数の冷却経路を設計変更して一つの冷却経路とし、供給口の位置の反 対側にある排出口を供給口側に近づけ、供給口側の空気通路Cと排出口側 の空気通路Dを分ける仕切り板を設けることが容易想到ということはでき 10 ない。 オ したがって、甲5発明について、相違点4の構成とすることが当業者に とって容易想到であったということはできない。 ? 小括 別紙「審決の理由の要旨」の2?ウのとおり、本件審決は、本件発明2と 15 甲5発明の相違点4及び相違点5は容易想到でなかったとしているところ、 前記のとおり、相違点4について容易想到であったとは認められない以上、 相違点5について判断するまでもなく、本件発明2は、甲5発明に基づいて 出願前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 したがって、本件発明2は、甲5発明に基づいて、出願前に当業者が容易 20 に発明することができたとは認められないとした本件審決の判断に誤りはな い。 6 本件発明3に係る取消事由3−1−2(無効理由3−1−2の判断の誤り 〔甲5発明を主引用発明とする本件発明3の進歩性欠如〕)について ? 本件発明3は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 25 項3に記載された発明である。そして、特許発明の要旨認定は、特段の事情 のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきところ(平成3年 47 判例参照)、本件特許の特許請求の範囲の請求項3においては、本件発明3 は「前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口 とを繋ぐ冷却経路」を有し、前記冷却経路は、「前記加熱コイルの外周部と 前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成され前記加 5 熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路を含むものとされている。 そして「整流部」の位置については、「前記第2冷却経路中における前記供 給口及び前記排出口に対応する位置に前記第2冷却経路を流れる前記冷却用 気体を分岐又は合流させるように整流する整流部を更に備えている」と記載 されているのであるから、「整流部」は、本件発明3の「前記加熱コイルの 10 外周部と前記ケースとの間」にある「前記第2冷却経路中における前記供給 口及び前記排出口に対応する位置」に備えられていることになる。そうする と、本件発明3の「整流部」は、ケース内部(加熱コイル外周部とケースの 間)に存在するものと解するのが相当である。原告は、本件明細書(段落 【0086】から【0089】まで)の記載中には、整流部が「ケース内部」 15 にある旨の記載はない等と主張するが、本件においては、本件明細書の記載 を参照するまでもなく、特許請求の範囲の記載自体により「整流部」がケー ス内部に存在するものと解することができるのであるから、原告の主張は理 由がない。 ? 甲5文献には、前記5?の記載があり、別紙2「引用発明等の認定」5記 20 載の甲5発明が記載されているものと認められる。 ? 本件発明3と甲5発明の対比 ア 本件発明3と甲5発明とを比較すると、別紙「審決の理由の要旨」の3 ?イで本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があることが認めら れる。 25 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ ルと、前記加熱コイルの下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケース 48 は、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される 冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内部 と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用 気体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加 5 熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有 し、前記空間は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成 され前記加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コ イルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿っ て形成された第2空間と、を含んでおり、前記供給口及び前記排出口は、 10 平面視において前記加熱コイルの中心部を挟んで直線上に設けられており、 前記第2空間中における前記供給口に対応する位置に前記第2空間を流れ る前記冷却用気体を分岐させるように整流する整流部を更に備えている、 誘導加熱装置。」であることである。 ウ また、相違点は、次のとおりである。 15 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明3は「加熱コイルを収容する」のに対し、 甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だけで あり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」を収 容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件発明 20 3では「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、甲5 発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24との 間」に存在する点。 (相違点2) 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 25 明3は「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」の ものであるのに対し、甲5発明では「コイル24」の表面が冷却されるも 49 のの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 (相違点3) 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 明3では「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱 5 コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため の第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明ではそのような冷却経路 が存在するか不明である点。 (相違点4) 「整流部」に関して、本件発明3は「前記第2冷却経路を流れる前記冷 10 却用気体を分岐又は合流させるように整流する」のに対し、甲5発明の 「仕切板41」は冷却用空気を合流させるように整流するものではない点。 (相違点5) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明3は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」であるか不明である点。 15 ? 相違点4についての判断 各相違点のうち、相違点1から3までについては、本件審決はいずれも実 質的な相違点ではないと判断しており、本件訴訟においてこれを覆すに足り る主張立証もない。したがって、本件審決の取消事由3−1−2との関係で 判断する必要があるのは、本件審決が容易想到性を認めず、進歩性が肯定さ 20 れた相違点4及び相違点5である。そこで、まず、相違点4について判断す る。 ア 原告は、本件発明3の「整流部」は「対向方向からきた冷却用気体を、 概略同一方向に向くように整流し、その後、合流する際に不測の向きに進 むことがないようにする」ものと解すべきであり、冷却用気体が排気孔4 25 2を出た直後に合流することから、甲5発明の仕切板41がこれに該当し、 相違点4は実質的な相違点ではないなどと主張する。 50 しかしながら、以下に述べるとおり、甲5発明の仕切板41は、ケース 内で冷却用気体を合流させるものではないから、本件発明3の「整流部」 に該当しない。すなわち、甲5発明の明細書及び図面によれば、甲5発明 において冷却用気体である外気nは、冷却ファン36を駆動すると、開口 5 孔40から制御回路装置37内を流れた後、分割された複数の各空気通路 C34(供給口)を通り、ケース25内のコイル24に至ることになるが、 ケース25内に設けられた仕切板41は、外気nを分岐させるように整流 する。そして、コイル24の外周部とケース25の間(第2冷却経路)を 通った外気nは、仕切板41により分岐したまま合流することなく、分割 10 された各空気通路D35(排気孔42、排出口)から本体の外に放出され る(段落【0012】【0028】【0029】【0032】【003 4】、図1、図3)。 そうすると、甲5発明においては、外気nは、分割された各空気通路C 34を通った後、仕切板41により分岐されるが、コイル24の外周部と 15 ケース25の間(第2冷却経路)を通った後も、ケース25内の仕切板4 1による分岐は維持されたままであり、合流されることなく分割された複 数の空気通路D35から本体の外に放出されるものである。ケース外に放 出された後の冷却用気体が事実上合流することがあったとしても、それは 仕切板による整流作用とは無関係である。他方、本件発明3の「整流部」 20 は「ケース内部」に備えられているものと解され、また、当該「整流部」 は「前記第2冷却経路を流れる前記冷却用気体を分岐又は合流させるよう に整流する」ものである(請求項3参照)。したがって、甲5発明の仕切 板41は、「前記第2冷却経路を流れる前記冷却用気体を」「合流させる ように整流する」「整流部」に該当するものとはいえない。 25 よって、相違点4が実質的相違点ではないとする原告の主張を採用する ことはできない。 51 イ そこで、相違点4の容易想到性の有無について検討すると、前記アのと おり、甲5発明において、冷却風用の空気通路D35を複数の通路に分割 しているのは、ケース25の外側にある循環風用の空気通路B33が、冷 却風用の空気通路C34及び空気通路D35と交叉する部分に循環風用の 5 吹き出し口を設けられないことによるものである。また、甲5発明の明細 書及び図面においても「さらに、除煙性能を維持するには、プレート19 上で調理時に発生する油煙を吸煙塔20内にムラなく吸引するには吹き出 し口から均一にかつ一定の空気が吹き出さなくてはならない。そのために 本実施例では、冷却ファンによる送風が循環送風の妨げにならないように、 10 空気通路Cと空気通路Dを複数の通路に分割し、分割した各通路の巾を狭 くするとともに、分割した各通路の間からも循環送風ができるように通路 間に吹き出し口30を設けた。」「これにより、循環風は冷却風用の通路 である空気通路C34と空気通路D35との分割した通路により妨げられ るが、通路の巾が狭いため吹き出し口30より吹き出した循環風はすぐに 15 拡がりあたかも通路がなかったかのように均一となる。すなわち、吹き出 しが実質的に均一となり、除煙の高性能を維持できる。」(段落【003 4】)とされる。そうすると、甲5発明において、複数の空気通路D35 の分割を解消し、単一の空気通路D35として設計変更すると、冷却風用 の通路である空気通路D35によって循環送風が妨げられることとなり、 20 除煙性能の維持が困難となるものといえる。 したがって、甲5発明の仕切板41を、外気nを合流させるように設計 変更することには阻害要因があり、甲5発明について、相違点4(整流部) の構成とすることが当業者にとって容易想到であったということはできな い。 25 ? 小括 別紙「審決の理由の要旨」の3?ウのとおり、本件審決は、本件発明3と 52 甲5発明の相違点1から相違点5までのうち、相違点4及び相違点5は容易 想到でなかったとしているところ、前記のとおり、相違点4については、容 易想到であったとはいえないから、相違点5について判断するまでもなく、 本件発明3は、甲5発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明することが 5 できたものとはいえない。 したがって、本件発明3は、甲5発明に基づいて出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。 7 本件発明3に係る取消事由3−2(無効理由3−2の判断の誤り〔甲4発明 を主引用発明とする本件発明3の進歩性欠如〕)について 10 ? 本件発明3は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 項3に記載された発明である。 ? 甲4文献には、前記4?の記載があり、別紙2「引用発明等の認定」4記 載の甲4発明が記載されているものと認められる。 ? 本件発明3と甲4発明の対比 15 ア 本件発明3と甲4発明とを比較すると、別紙「審決の理由の要旨」の3 ?イで本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があることが認めら れる。 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ ルと、前記加熱コイルを収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記 20 ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気 体を前記ケース内に供給するためのものである供給口と、前記ケースの内 部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却 用気体を前記ケースの外部へ排出するためのものである排出口と、を有し、 前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面の上に形成された空間と、 25 前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外 周部に沿って形成された空間が存在する、誘導加熱装置。」であることで 53 ある。 ウ また、相違点は、次のとおりである。 (相違点1) 「加熱コイルにおける加熱対象物側の面の上に形成された空間」に関し 5 て、本件発明3では、「前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と 前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面 を冷却するための第1冷却経路」が存在するのに対し、甲4発明では、そ のような冷却経路が存在するか不明である点。 (相違点2) 10 「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル の外周部に沿って形成された空間」に関して、本件発明3では、「前記加 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に 沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」 が存在するのに対し、甲4発明では、そのような冷却経路が存在するか不 15 明である点。 (相違点3) 本件発明3は「前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加熱 コイルの中心部を挟んで直線上に設けられており、前記第2冷却経路中に おける前記供給口及び前記排出口に対応する位置に前記第2冷却経路を流 20 れる前記冷却用気体を分岐又は合流させるように整流する整流部を更に備 えている」のに対し、甲4発明は、そのような構成を備えていない点。 (相違点4) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明3は「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲4発明は「ユニット」であるか不明である点。 25 ? 相違点1及び相違点2についての判断 相違点1及び相違点2については、前記4?と同様の理由により、甲4 54 発明について、相違点1(第1冷却経路)及び相違点2(第2冷却経路)の 構成とすることが当業者にとって容易想到であったことを認めるに足りない。 ? 相違点3についての判断 念のため、相違点3についても判断する。 5 原告は、相違点3について、供給口及び排出口を近傍に配置するか、対向 位置に配置するかの違いにすぎず、冷却経路において冷却用気体をどこから 入れ・出すかは適宜算出される設計事項であるなどと主張する。 しかしながら、甲4発明の明細書及び図面では、「筐体10の背面に複数 の通気孔17が形成されている場合を例に示している。つまり、筐体10の 10 背面に吸排気カバー50を設けることで、吸気と排気とを筐体10の背面で 行なうようになっている。筐体10内で発生する音は、吸気口60や排気口 70から外部に漏洩するが、吸排気カバー50を設けることで筐体10の前 面から音が漏れるということがなくなる。つまり、ユーザが不快に感じるよ うな誘導加熱調理器100から発生する騒音を低減することが可能になる。」 15 (甲4の段落【0025】、図1)とされていることからすると、甲4発明 においては、筐体10の前面から漏れる騒音を低減するために、吸気と排気 を筐体10の背面で行うこととしたものと認められる。 そして、 甲4発明に、供給口及び排出口が平面視において加熱コイルの中心部を挟ん で直線上に設けられている構成を採用する甲5発明又は周知・慣用技術を適 20 用し、甲4発明の吸気口60及び排気口70を、平面視において誘導加熱コ イル11の中心部を挟んで直線上に設けた場合には、筐体10の前面から漏 れる騒音が増大することが認められるから、甲4発明に甲5発明又は周知・ 慣用技術を適用することには阻害要因があるというべきである。 したがって、甲4発明について、相違点3の構成とすることが当業者にと 25 って容易想到であったということはできない。 ? 小括 55 別紙「審決の理由の要旨」の3?ウのとおり、本件審決は、本件発明3と 甲4発明の相違点1から相違点4までは容易想到でなかったとしているとこ ろ、前記したところによれば、相違点1から相違点3までについては、やは り容易想到性は否定されるべきであるから、相違点4について判断するまで 5 もなく、本件発明3は、甲4発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明す ることができたものとはいえない。 したがって、本件発明3は、甲4発明に基づいて出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。 8 本件発明4に係る取消事由4−1−2(無効理由4−1−2の判断の誤り 10 〔甲5発明を主引用発明とする本件発明4の進歩性欠如〕)について ? 本件発明4は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 項4に記載された発明である。 ? 甲5文献には、前記5?の記載があり、別紙2「引用発明等の認定」5記 載の甲5発明が記載されているものと認められる。 15 ? 本件発明4と甲5発明の対比 ア 本件発明4と甲5発明とを比較すると、別紙「審決の理由の要旨」4? イで本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があることが認められ る。 イ すなわち、一致点は、「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイ 20 ルと、前記加熱コイルの下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケース は、前記ケースの内部と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される 冷却用気体を前記ケース内に供給するための供給口と、前記ケースの内部 と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用 気体を前記ケースの外部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加 25 熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有 し、前記空間は、前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成 56 され前記加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コ イルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿っ て形成された第2空間と、を含んでおり、前記ケースは、前記加熱コイル の中央部に対応して設けられ前記ケースを前記加熱コイルの厚み方向に貫 5 く穴部を有している、誘導加熱装置。」であることである。 ウ また、相違点は、次のとおりである。 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明4は、「加熱コイルを収容する」のに対 し、甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だ 10 けであり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」 を収容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件 発明4では、「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、 甲5発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24 との間」に存在する点。 15 (相違点2) 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 明4は、「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」 のものであるのに対し、甲5発明では、「コイル24」の表面が冷却され るものの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 20 (相違点3) 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 明4では、「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加 熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するた めの第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明では、そのような冷却 25 経路が存在するか不明である点。 (相違点4) 57 「誘導加熱装置」に関して、本件発明4は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」であるか不明である点。 ? 相違点4についての判断 各相違点のうち、相違点1から3までについては、本件審決は、いずれも 5 実質的な相違点ではないと判断しており、本件訴訟においてこれを覆すに足 りる主張立証もない。したがって、本件審決の取消事由4−1−2との関係 で判断する必要があるのは、本件審決が容易想到性を認めず、進歩性が肯定 された相違点4である。 そこで、相違点4について検討すると、前記のとおり、本件発明4の「誘 10 導加熱コイルユニット」は、その文言に照らし、「誘導加熱コイルを含む構 成単位」を意味するものと解され、特許請求の範囲の記載上、「誘導加熱コ イルユニット」の語がこれと異なる特別の意味で用いられているとは認めら れない。そして、本件明細書の【0007】に、本件発明の目的として、 「取り扱いが容易な誘導加熱コイルユニット及び、その誘導加熱コイルユニ 15 ットを用いた誘導加熱システムを提供すること」にあると記載されているこ とに照らすと、何らかの誘導加熱システムの構成単位として用いることがで きるような誘導加熱コイルの構成単位である限り、本件発明4における「誘 導加熱コイルユニット」に該当するのであり、本件発明において「ユニット」 である旨の限定は、それ以上の意味は持たないというべきである。しかると 20 ころ、甲5文献の明細書及び図面によれば、甲5発明の「電気調理器」につ いては、それ自体で調理器具として使用可能な完成品であることが認められ る一方、およそ他の誘導加熱システムの構成単位とすることができないもの とは認められない。完成品となるのか、他のシステムの構成単位となるかは、 使用目的等により決まる相対的な問題である(例えば、完成品であるネジは、 25 それが使用される機械との関係では部品であり、構成単位である。)。甲5 発明は、それが調理器具として完成品であったとしても、他の誘導加熱シス 58 テムの構成単位として使用することも可能である以上、本件発明4の「誘導 加熱コイルユニット」に該当するものと認めることは妨げられないというべ きである。したがって、相違点4は、実質的な相違点ではないというべきで ある。これに反する被告の主張は採用することができない。 5? 小括 別紙「審決の理由の要旨」の4?ウのとおり、本件審決は、相違点1から 相違点3までは実質的な相違点でないとした上で、相違点4については実質 的な相違点であることを前提に容易想到でなかったとしているところ、前記 したところによれば、相違点4は実質的相違点ではないというべきであるか 10 ら、結局、本件発明4は、甲5発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明 することができたとものと認められる。 したがって、本件発明4は、甲5発明に基づいて、出願前に当業者が容易 に発明することができたとは認められないとした本件審決の判断には誤りが ある。よって、本件審決のうち、本件発明4について無効審判請求が成立し 15 ないとした部分の取消しは免れない。 9 本件発明5に係る取消事由5−3(無効理由5−3の判断の誤り〔甲1発明 から甲5発明までのいずれかを主引用発明等とする本件発明5の進歩性欠如〕) について ? 本件発明5は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 20 項5に記載された発明であり、本件発明1から本件発明4までのいずれかを 引用している。そして、前記のとおり、本件発明1及び本件発明4は出願前 に当業者が容易に発明することができたとものと認められる。 ? したがって、本件発明1から本件発明4のすべてについて進歩性が認めら れることを前提に本件発明5の進歩性を肯定した本件審決の判断は、その前 25 提を欠くものである。よって、本件審決のうち、本件発明5について無効審 判請求が成立しないとした部分の取消しは免れない。 59 10 本件発明6に係る取消事由6−1(無効理由6−1の判断の誤り〔甲1発 明から甲5発明までのいずれかを主引用発明等とする本件発明6の進歩性欠 如〕)について ? 本件発明6は、前記第2の3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求 5 項6に記載された発明であり、本件発明1から本件発明5までのいずれかを 引用している。そして、前記のとおり、本件発明1、本件発明4及び本件発 明5は出願前に当業者が容易に発明することができたとものと認められる。 ? したがって、本件発明1から本件発明5のすべてについて進歩性が認めら れることを前提に本件発明6の進歩性を肯定した本件審決の判断は、その前 10 提を欠くものである。よって、本件審決のうち、本件発明6について無効審 判請求が成立しないとした部分の取消しは免れない。 第5 結論 以上の次第であるから、本件審決には、本件発明1及び本件発明4から本件 発明6までの進歩性に係る判断に誤りがある。よって、主文のとおり判決する。 15 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水響 20 裁判官 菊池絵理 25 60 裁判官 5頼晋一 61 (別紙) 審決の理由の要旨 (注 取消事由として主張されている判断に関する部分に限る。なお、当裁判所が 異なる判断を示した部分については下線を付した。) 51 本件発明1について ? 無効理由1−1−2(甲1発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲1文献には、別紙2 「引用発明等の認定」1記載の発明(甲1発明)が記載されている。 イ 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点 10 (一致点) 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル を収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部と外部と を連通し前記ケースの外部から供給される冷却剤を前記ケース内に供給す るためのものであって供給側の配管が接続される供給口と、前記ケースの 15 内部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷 却剤を前記ケースの外部へ排出するためのものであって排出側の配管が接 続される排出口と、前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成され前記供 給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有し、前記空間は、前記加熱コイル における前記加熱対象物側の面と前記ケースとの間に形成された第1空間 20 と、前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル の外周部に沿って形成された第2空間と、を含んでいる、加熱コイルを有 する組立体。」 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明1では「電気絶縁性を有するセラミック 25 または樹脂で構成され」るのに対して、甲1発明では「フェライト材料ま たは粉末鉄で作られたコア10と、ソールプレート26」である点。 62 (相違点2) 「冷却剤」及び「配管」に関して、本件発明1では「冷却用気体」が用 いられ、「供給口」及び「排出口」には「エア配管」が接続されているの に対し、甲1発明における冷却剤である「クーラント」は、気体であるか 5 不明であり、また「入出力クーラント管」が「エア配管」とはされていな い点。 (相違点3) 「前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成され前記供給口と前記排出 口とを繋ぐ空間」に関して、本件発明1では「空間」が「冷却経路」であ 10 って「加熱コイルの表面及びケースの内面を冷却するための第1冷却経路」 と「加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」とを含むのに対 し、甲1発明では「第1空間」及び「第2空間」がそれぞれそのような冷 却経路となっているか不明である点。 (相違点4) 15 「加熱コイルを有する組立体」に関して、本件発明1は「誘導加熱コイ ルユニット」であるのに対し、甲1発明は「ユニット」とはされていない 点。 ウ 本件発明1と甲1発明の相違点についての判断 相違点1については、甲1発明に、そのコア10を「電気絶縁性を有す 20 るセラミックまたは樹脂」で構成する特段の事情や動機付けは存在せず、 かえってそのように構成した場合には、本来の機能を発揮できなくなると いう阻害要因が存在する。相違点2については、甲1発明の「クーラント」 につき気体を排除できる事情はないから、液体又は気体のいずれを採用す るかは、当業者が採用する実施形態に応じて決定すべき事項にすぎない。 25 相違点3については、甲1発明の「第1空間」において、コイル16の表 面とソールプレート26の内面が冷却され、「第2空間」において、コイ 63 ル16の外周部が冷却されることが明らかであるため、実質的な相違点で はなく、仮にそうであるとしても容易に想到し得た。相違点4については、 甲1発明は、完成品の中における単位部分として加熱コイルとその冷却構 造とを一体的に扱うことができるので、「誘導加熱コイルユニット」とい 5 うことができ、相違点4は実質的な相違点ではなく、仮にそうであるとし ても容易に想到し得た。 エ よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 ? 無効理由1−2(甲2発明を主引用発明とする進歩性欠如) 10 ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲2文献には、別紙2 「引用発明等の認定」2記載の発明(甲2発明)が記載されている。 イ 本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点 (一致点) 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル 15 を収容するケースと、を備え、前記ケースは、ケースの外部から前記ケー ス内に供給された冷却用気体が、前記ケースの外部へ排出される際に流れ る冷却経路を有し、前記冷却経路は、前記加熱コイルにおける前記加熱対 象物側の面と前記ケースとの間に形成された第1冷却経路と、前記加熱コ イルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿っ 20 て形成された第2冷却経路と、を含んでいる、誘導加熱装置。」 (相違点 1) 「ケース」に関して、本件発明1では「電気絶縁性を有するセラミック または樹脂で構成され」るのに対して、甲2発明では「アルミニウム材か らなる正面板13、アルミニウム材からなる背面板15、日光化成株式会 25 社製の”ロスナボード”からなる左右側板12、14、アルミニウム材か らなる天板10、日光化成株式会社製の”ロスナボード”からなる底板1 64 6からなる」ものである点。 (相違点2) 本件発明1は、「ケース」が、「前記ケースの内部と外部とを連通し前 記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケース内に供給するため 5 のものであって供給側のエア配管が接続される供給口」と、「前記ケース の内部と外部とを連通し前記供給口から前記ケースの内に供給された前記 冷却用気体を前記ケースの外部へ排出するためのものであって排出側のエ ア配管が接続される排出口」とを有しているのに対して、甲2発明は、そ のような構成を備えているか不明である点。 10 (相違点3) 「冷却経路」に関して、本件発明1の「第1冷却経路」は、加熱コイル の表面及びケースの内面を冷却するためのものであり、「第2冷却経路」 は、加熱コイルの外周部を冷却するためのものであるのに対し、甲2発明 の冷却エアーの経路は、そのような冷却を行うためのものであるか不明で 15 ある点。 (相違点4) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明1は「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲2発明は「ユニット」とはされていない点。 ウ 本件発明1と甲2発明の相違点についての判断 20 相違点1については、甲2発明の「正面板13」、「背面板15」及び 「天板10」に用いられる「アルミニウム材」に代えて、「電気絶縁性を 有するセラミックまたは樹脂で構成され」るものを採用することは、当業 者にとって容易に想到し得たものとはいえない。相違点2については、甲 2発明には、冷却用気体の供給側及び排出側において、エア配管を接続す 25 る動機付けがなく、周知・慣用技術(筐体の四角形状の開口部にエア配管 を接続する構造。甲11記載事項から甲13記載事項まで)を甲2発明に 65 適用すること、また、同様に、甲1発明のような入出力クーラント管をケ ースに接続する構造や、甲3記載事項のような導入管部23及び排出管部 24をケースに接続する構造を甲2発明に適用することは、当業者が容易 に想到し得るとは認められない。相違点3については、甲2発明の冷却エ 5 アーは、経路を通過する際に、高周波コイル20の表面、底板16の内面、 及び高周波コイル20の外周部を冷却することは明らかであるから、実質 的な相違点ではない。相違点4については、甲2発明の「誘導加熱装置」 は、装置の一部とされ、加熱コイルとその冷却構造とを一つの単位部分と して扱ったものではないため、「誘導加熱コイルユニット」とはいえず、 10 完成品である甲2発明の「誘導加熱装置」を装置の一部である「ユニット」 として扱う動機も存在しないため、当業者が容易に想到し得るとは認めら れない。 エ よって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 15 ? 無効理由1−3(甲4発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲4文献には、別紙2 「引用発明等の認定」4記載の発明(甲4発明)が記載されている。 イ 本件発明1と甲4発明の一致点及び相違点 (一致点) 20 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル を収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部と外部と を連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケース内に供 給するためのものである供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前 記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの 25 外部へ排出するためのものである排出口と、を有し、前記加熱コイルにお ける前記加熱対象物側の面の上に形成された空間と、前記加熱コイルの外 66 周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成さ れた空間が存在する、誘導加熱装置。」 (相違点1) 本件発明1では、「ケース」が「電気絶縁性を有するセラミックまたは 5 樹脂で構成され」るものであるのに対して、甲4発明では、「筐体10」 がどのような材料で構成されるものであるか不明である点。 (相違点2) 本件発明1の「供給口」及び「排出口」には、それぞれ「エア配管」が 接続されるのに対して、甲4発明の「吸気側通気口17」及び「排気側通 10 気口17」には、「エア配管」が接続されていない点。 (相違点3) 「加熱コイルにおける加熱対象物側の面の上に形成された空間」に関し て、本件発明1では、「前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と 前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面 15 を冷却するための第1冷却経路」が存在するのに対し、甲4発明では、そ のような冷却経路が存在するか不明である点。 (相違点4) 「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル の外周部に沿って形成された空間」に関して、本件発明1では、「前記加 20 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に 沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」 が存在するのに対し、甲4発明では、そのような冷却経路が存在するか不 明である点。 (相違点5) 25 「誘導加熱装置」に関して、本件発明1は「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲4発明は「ユニット」とはされていない点。 67 ウ 本件発明1と甲4発明の相違点についての判断 相違点1については、誘導加熱コイルを収容するケースに、「電気絶縁 性を有するセラミックまたは樹脂で構成され」るものを用いることが周知 であるとしても、甲4発明の「筐体10」の材料を、「電気絶縁性を有す 5 るセラミックまたは樹脂」に置き換える動機付けは何らないから、これを 採用することは当業者にとって容易想到ではない。相違点2については、 筐体10の内部にファン14を備える甲4発明において、その「吸気側通 気口17」及び「排気側通気口17」に「エア配管」を接続する動機付け は存在しないから、配管によって冷却剤をケース内に導出入するという周 10 知・慣用技術又は甲1発明・甲3記載事項を甲4発明に適用することは容 易想到ではない。甲4発明と異なり、甲1発明はクーラントとして気体を 採用することを開示しておらず、また、甲4発明は、甲3記載事項のよう にパージガスを導出入する必要性の開示がないため、これらの発明を適用 することは想定し難い。相違点3については、甲4発明の誘導加熱コイル 15 11における被加熱物側の面とトッププレートとの間の空間に冷却用の空 気が流入したとしても、構造上空気が滞ってしまうため、当該空間を冷却 経路として機能させることは、容易想到ではない。相違点4については、 甲4発明の誘導加熱コイル11の外周部とコイルベース12との間に存在 する空間に冷却用の空気が流入したとしても、構造上空気が滞ってしまう 20 ため、当該空間を冷却経路として機能させることは、容易想到ではない。 相違点5については、甲4発明の「誘導加熱調理器100」は、それ自体 が完成品の誘導加熱装置であり、一つの単位部分「ユニット」として扱う ことはできないから、容易想到ではない。 エ よって、本件発明1は、甲4発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 25 発明することができたとは認められない。 2 本件発明2について 68 ? 無効理由2−1−2(甲4発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲4文献には、別紙2 「引用発明等の認定」4記載の発明(甲4発明)が記載されている。 イ 本件発明2と甲4発明の一致点及び相違点 5 (一致点) 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル を収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部と外部と を連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケース内に供 給するためのものである供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前 10 記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの 外部へ排出するためのものである排出口と、を有し、前記加熱コイルにお ける前記加熱対象物側の面の上に形成された空間と、前記加熱コイルの外 周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成さ れた空間が存在し、前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加 15 熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂点 と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けられており、 前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口と前記排出口との間を仕切る仕切 り部を更に備えている、誘導加熱装置。」 (相違点1) 20 「加熱コイルにおける加熱対象物側の面の上に形成された空間」に関し て、本件発明2では、「前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と 前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面 を冷却するための第1冷却経路」が存在するのに対し、甲4発明では、そ のような冷却経路が存在するか不明である点。 25 (相違点2) 「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル 69 の外周部に沿って形成された空間」に関して、本件発明2では、「前記加 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に 沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」 が存在するのに対し、甲4発明では、そのような冷却経路が存在するか不 5 明である点。 (相違点3) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明2は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲4発明は、「ユニット」とはされていない点。 ウ 本件発明2と甲4発明の相違点についての判断 10 相違点1、相違点2及び相違点3については、それぞれ本件発明1と甲 4発明の相違点3、相違点4及び相違点5についてと同様、容易想到では ない。 エ よって、本件発明2は、甲4発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 15 ? 無効理由2−2(甲5発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲5文献には、別紙2 「引用発明等の認定」5記載の発明(甲5発明)が記載されている。 イ 本件発明2と甲5発明の一致点及び相違点 (一致点) 20 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル の下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部 と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケー ス内に供給するための供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前記 供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの外 25 部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成 され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有し、前記空間は、前記 70 加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成され前記加熱コイルの 表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケ ースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間 と、を含んでいる、誘導加熱装置。」 5 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明2は、「加熱コイルを収容する」のに対 し、甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だ けであり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」 を収容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件 10 発明2では、「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、 甲5発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24 との間」に存在する点。 (相違点2) 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 15 明2は、「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」 のものであるのに対し、甲5発明では、「コイル24」の表面が冷却され るものの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 (相違点3) 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 20 明2では、「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加 熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するた めの第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明では、そのような冷却 経路が存在するか不明である点。 (相違点4) 25 本件発明2では、「前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記 加熱コイルの中心部を頂点とし前記頂点と前記供給口とを結ぶ線と前記頂 71 点と前記排出口とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けられてお り、前記第2冷却経路中において前記鋭角側の領域に設けられ前記供給口 と前記排出口との間を仕切る仕切り部を更に備えている」のに対し、甲5 発明は、そのような構成を備えていない点。 5 (相違点5) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明2は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」とはされていない点。 ウ 本件発明2と甲5発明の相違点についての判断 相違点1については、甲5発明の「ケース25」及び「トッププレート 10 23」が、本件発明2の「ケース」に相当すると認定することもできるた め、相違点1は実質的な相違点ではない。相違点2については、上記認定 をする場合、ケースの一部である「トッププレート23」が、冷却用空気 により冷却されているといえるため、相違点2は実質的な相違点ではない。 相違点3については、甲5発明の構造上、「前記コイル24の外周部と前 15 記ケース25との間にあって前記コイル24の外周部に沿って形成された 第2空間」において、「コイル24」の外周部が冷却されることが明らか であるから、相違点3は実質的相違点ではない。相違点4については、コ イルと天板との間に吸熱手段を配置し、吸熱手段を循環する液体冷媒の供 給口及び排出口を、平面視においてコイルの中心部を頂点とし角度が鋭角 20 となる位置に設け、前記鋭角側の領域に仕切り板を設ける誘導加熱装置の 冷却装置は周知技術(甲6記載事項、甲7記載事項)であるが、コイルと 天板との間に配置した吸熱手段を介してコイルを冷却するものであり、本 件発明や甲5発明とは基本構成が異なるため、これを甲5発明に適用して も本件発明2には至らない。また、甲4発明(2つのコイル11を共通す 25 る筐体10に収容している。)は、甲5発明(ケース25内に1つのコイ ル24しか有さない。)と構造が異なるため、前提となる構造を無視して、 72 吸排気口の位置関係だけを適用することは容易想到ではない。相違点5に ついては、甲5発明の「電気調理器」は、それ自体が完成品の誘導加熱装 置であり、一つの単位部分「ユニット」として扱うことはできないから、 容易想到ではない。 5エ よって、本件発明2は、甲5発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 3 本件発明3について ? 無効理由3−1−2(甲5発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲5文献には、別紙2 10 「引用発明等の認定」5記載の発明(甲5発明)が記載されている。 イ 本件発明3と甲5発明の一致点及び相違点 (一致点) 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル の下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部 15 と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケー ス内に供給するための供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前記 供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの外 部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成 され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有し、前記空間は、前記 20 加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成され前記加熱コイルの 表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケ ースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間 と、を含んでおり、前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加 熱コイルの中心部を挟んで直線上に設けられており、前記第2空間中にお 25 ける前記供給口に対応する位置に前記第2空間を流れる前記冷却用気体を 分岐させるように整流する整流部を更に備えている、誘導加熱装置。」 73 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明3は「加熱コイルを収容する」のに対し、 甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だけで あり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」を収 5 容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件発明 3では「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、甲5 発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24との 間」に存在する点。 (相違点2) 10 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 明3は「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」の ものであるのに対し、甲5発明では「コイル24」の表面が冷却されるも のの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 (相違点3) 15 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 明3では「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱 コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するため の第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明ではそのような冷却経路 が存在するか不明である点。 20 (相違点4) 「整流部」に関して、本件発明3は「前記第2冷却経路を流れる前記冷 却用気体を分岐又は合流させるように整流する」のに対し、甲5発明の 「仕切板41」は冷却用空気を合流させるように整流するものではない点。 (相違点5) 25 「誘導加熱装置」に関して、本件発明3は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」であるか不明である点。 74 ウ 本件発明3と甲5発明の相違点についての判断 相違点1、相違点2及び相違点3については、本件発明2と甲5発明の 相違点1、相違点2及び相違点3についてと同様、実質的相違点ではない。 相違点4については、甲5発明において一度分岐した冷却用気体を、合流 5 させ、かつ整流させる動機付けがないから、容易想到ではない。相違点5 については、本件発明2と甲5発明の相違点5についてと同様、容易想到 ではない。 エ よって、本件発明3は、甲5発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 10 ? 無効理由3−2(甲4発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲4文献には、別紙2 「引用発明等の認定」4記載の発明(甲4発明)が記載されている。 イ 本件発明3と甲4発明の一致点及び相違点 (一致点) 15 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル を収容するケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部と外部と を連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケース内に供 給するためのものである供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前 記供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの 20 外部へ排出するためのものである排出口と、を有し、前記加熱コイルにお ける前記加熱対象物側の面の上に形成された空間と、前記加熱コイルの外 周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成さ れた空間が存在する、誘導加熱装置。」 (相違点1) 25 「加熱コイルにおける加熱対象物側の面の上に形成された空間」に関し て、本件発明3では、「前記加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面と 75 前記ケースとの間に形成され前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面 を冷却するための第1冷却経路」が存在するのに対し、甲4発明では、そ のような冷却経路が存在するか不明である点。 (相違点2) 5 「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイル の外周部に沿って形成された空間」に関して、本件発明3では、「前記加 熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に 沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するための第2冷却経路」 が存在するのに対し、甲4発明では、そのような冷却経路が存在するか不 10 明である点。 (相違点3) 本件発明3は「前記供給口及び前記排出口は、平面視において前記加熱 コイルの中心部を挟んで直線上に設けられており、前記第2冷却経路中に おける前記供給口及び前記排出口に対応する位置に前記第2冷却経路を流 15 れる前記冷却用気体を分岐又は合流させるように整流する整流部を更に備 えている」のに対し、甲4発明は、そのような構成を備えていない点。 (相違点4) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明3は「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲4発明は「ユニット」であるか不明である点。 20 ウ 本件発明3と甲4発明の相違点についての判断 相違点1、相違点2及び相違点4については、本件発明1と甲4発明の 相違点3、相違点4及び相違点5についてと同様、容易想到ではない。本 件発明3と甲4発明の相違点3については、甲4発明は、騒音を低減する 目的から、吸排気カバー50を背面に設けることを前提とした発明である 25 から、前後に吸排気口をもうけるような構成を採用することについて明確 な阻害要因が存在する。 76 エ よって、本件発明3は、甲4発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 4 本件発明4について ? 無効理由4−1−2(甲5発明を主引用発明とする進歩性欠如) 5ア 本件特許の特許出願前に頒布された刊行物である甲5文献には、別紙2 「引用発明等の認定」5記載の発明(甲5発明)が記載されている。 イ 本件発明4と甲5発明の一致点及び相違点 (一致点) 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する加熱コイルと、前記加熱コイル 10 の下方と側方を覆うケースと、を備え、前記ケースは、前記ケースの内部 と外部とを連通し前記ケースの外部から供給される冷却用気体を前記ケー ス内に供給するための供給口と、前記ケースの内部と外部とを連通し前記 供給口から前記ケースの内に供給された前記冷却用気体を前記ケースの外 部へ排出するための排出口と、前記ケースと前記加熱コイルとの間に形成 15 され前記供給口と前記排出口とを繋ぐ空間と、を有し、前記空間は、前記 加熱コイルにおける前記加熱対象物側の面上に形成され前記加熱コイルの 表面を冷却するための第1冷却経路と、前記加熱コイルの外周部と前記ケ ースとの間にあって前記加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間 と、を含んでおり、前記ケースは、前記加熱コイルの中央部に対応して設 20 けられ前記ケースを前記加熱コイルの厚み方向に貫く穴部を有している、 誘導加熱装置。」 (相違点1) 「ケース」に関して、本件発明4は、「加熱コイルを収容する」のに対 し、甲5発明の「ケース25」は、「コイル24の下方と側方を覆う」だ 25 けであり、「ケース25」及び「トッププレート23」が「コイル24」 を収容しており、かつ、「供給口と排出口とを繋ぐ空間」に関して、本件 77 発明4では、「前記ケースと前記加熱コイルとの間」に存在するのに対し、 甲5発明では、「ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24 との間」に存在する点。 (相違点2) 5 「加熱コイルの表面を冷却するための第1冷却経路」に関して、本件発 明4は、「前記加熱コイルの表面及び前記ケースの内面を冷却するため」 のものであるのに対し、甲5発明では、「コイル24」の表面が冷却され るものの、「ケース25」の内面は冷却されない点。 (相違点3) 10 「加熱コイルの外周部に沿って形成された第2空間」に関して、本件発 明4では、「前記加熱コイルの外周部と前記ケースとの間にあって前記加 熱コイルの外周部に沿って形成され前記加熱コイルの外周部を冷却するた めの第2冷却経路」が存在するのに対し、甲5発明では、そのような冷却 経路が存在するか不明である点。 15 (相違点4) 「誘導加熱装置」に関して、本件発明4は、「誘導加熱コイルユニット」 であるのに対し、甲5発明は、「ユニット」であるか不明である点。 ウ 本件発明4と甲5発明の相違点についての判断 相違点1、相違点2及び相違点3については、本件発明2と甲5発明の 20 相違点1、相違点2及び相違点3についてと同様、実質的相違点ではない。 本件発明4と甲5発明の相違点4については、本件発明2と甲5発明の相 違点5についてと同様、容易想到ではない。 エ よって、本件発明4は、甲5発明に基づいて、出願前に当業者が容易に 発明することができたとは認められない。 25 5 本件発明5について ? 無効理由5−3(甲1発明、甲2発明、甲3記載事項、甲4発明及び甲5 78 発明のいずれかを主引用発明等とする進歩性欠如) ア 本件発明5は、本件発明1から本件発明4までのいずれかの発明特定事 項を全て含むものであるところ、前記からすると、甲1発明、甲2発明、 甲4発明及び甲5発明のいずれを主引用発明とする場合でも、本件発明5 5 の進歩性を否定することはできない。 イ よって、本件発明5は、甲1発明から甲5発明までのいずれか1つ以上 に基づいて、又はそれらに周知・慣用技術を適用して、出願前に当業者が 容易に発明することができたとは認められない。 6 本件発明6について 10 ? 無効理由6(甲1発明、甲2発明、甲3記載事項、甲4発明及び甲5発明 のいずれかを主引用発明等とする進歩性欠如) ア 本件発明6は、本件発明1から本件発明5までのいずれかの発明特定事 項を全て含むものであるところ、前記からすると、甲1発明、甲2発明、 甲4発明及び甲5発明のいずれを主引用発明とする場合でも、本件発明6 15 の進歩性を否定することはできない。 イ よって、本件発明6は、甲1発明から甲5発明までのいずれか1つ以上 に基づいて、又はそれらに周知・慣用技術を適用して、出願前に当業者が 容易に発明することができたとは認められない。 79 (別紙1) 引用発明等 5 主引用例等として、以下の各文献に記載された発明(ただし、甲3文献につい ては記載された技術事項。以下「甲1発明」「甲3記載事項」などという。) 甲1文献(米国再発行特許発明第36787号明細書)(甲1発明) 甲2文献(特開2009−272295号公報)(甲2発明) 甲3文献(特許5258852号公報)(甲3記載事項) 10 甲4文献(特開2007−187411号公報)(甲4発明) 甲5文献(特開2002−58600号公報)(甲5発明) 80 (別紙2) 引用発明等の認定 1 甲1発明 「溶接されるべき非金属複合アセンブリに含まれる金属サセプタに渦電流を印加す 5 るためのコイル16と、 前記コイル16を収容するフェライト材料または粉末鉄で作られたコア10と、 ソールプレート26と、を備え、 前記コア10は、前記コア10及び前記ソールプレート26に囲まれたコイル空 間13の内部と外部とを連通し前記コイル空間13の外部から供給されるクーラ 10 ントを前記コイル空間13に供給する供給口と、前記コイル空間13と外部とを 連通し前記供給口から前記コイル空間13に供給された前記クーラントを前記コ イル空間13の外部へ排出する排出口と、を有し、 前記供給口には入口フィッティング22を介して入出力クーラント管が接続され、 前記排出口には出口フィッティング24を介して入出力クーラント管が接続され、 15 前記コア10及びソールプレート26と、前記コイル16との間には、前記供給 口と前記排出口とを繋ぐ空間が形成され、 前記空間は、前記コイル16における前記ソールプレート26側の面と前記ソー ルプレート26との間に形成された第1空間と、前記コイル16の外周部と前記 コア10との間にあって前記コイル16の外周部に沿って形成された第2空間と、 20 を含んでいる、 誘導加熱のための装置。」 22 24 13 AA 25 81 2 甲2発明 「ロール本体3を誘導加熱により加熱する高周波コイル20と、 前記高周波コイル20を収容する、アルミニウム材からなる正面板13、アルミ ニウム材からなる背面板15、日光化成株式会社製の”ロスナボード”からなる 5 左右側板12、14、アルミニウム材からなる天板10、日光化成株式会社製の ”ロスナボード”からなる底板16からなる略直方体形状のケースと、 冷却エアー用パイプ30と、を備え、 前記高周波コイル20は、前記正面板13、前記背面板15、前記左右側板12、 14、底板16とは接しないように、天板10に固定され、 10 前記冷却エアー用パイプ30は、前記天板10よりも下方で、かつ、高周波コイ ル20の長手方向に沿うように前記ケース内を挿通し、その一端が左側板12に 固定され、その長手方向の下部に冷却エアーを放出するための穴30aを複数有 し、 複数の前記穴30aから放出された冷却エアーは、前記高周波コイル20と前記 15 正面板13との空間、前記高周波コイル20と前記底板16との空間、前記高周 波コイル20と前記背面板15との空間を順に流れて、前記天板10側から前記 ケース外に排出される、 誘導加熱装置。」 20 図4 82 3 甲3記載事項 「加熱対象物を誘導加熱により加熱する一次コイル5と、 前記一次コイル5を収容するケース2と、を備え、 前記ケース2には、 5 前記ケース2の内部と外部とを連通し、パージガスを前記ケース2の外部から前 記ケース2内に供給する導入管部23と、 前記ケース2の内部と外部とを連通し、前記ケース2内に供給された前記パージ ガスを前記ケース2の外部へ排出するための排出管部24が接続され、 前記パージガスは、前記一次コイル5を冷却する機能を有しており、前記ケース 10 2と前記一次コイル5との間に前記パージガスが流れる経路が存在する、 電磁誘導加熱装置。」 4 甲4発明 「被加熱物を誘導加熱により加熱する誘導加熱コイル11と、 前記誘導加熱コイル11を収容する筐体10及びトッププレートと、を備え、 15 前記筐体10は、 前記筐体10の内部と外部とを連通し前記筐体10の外部から供給される冷却用 の空気を前記筐体10内に供給するための吸気側通気口17と、前記筐体10の 内部と外部とを連通し前記吸気側通気口17から前記筐体10の内に供給された 前記空気を前記筐体10の外部へ排出するための排気側通気口17と、を有し、 20 前記誘導加熱コイル11は、コイルベース12に載置されており、 前記誘導加熱コイル11における前記被加熱物側の面と前記トッププレートとの 間には空間が存在し、 前記誘導加熱コイル11の外周部と前記コイルベース12との間には空間が存在 し、当該空間は、前記誘導加熱コイル11の外周部と前記筐体10との間に位置 25 し、 前記吸気側通気口17及び前記排気側通気口17は、平面視において前記加熱コ 83 イル11の中心部を頂点とし前記頂点と前記吸気側通気口17とを結ぶ線と前記 頂点と前記排気側通気口17とを結ぶ線との成す角度が鋭角となる位置に設けら れており、 前記筐体10内の前記鋭角側の領域に設けられ前記吸気側通気口17と前記排気 5 側通気口17との間を仕切る仕切り板18を更に備えている、 誘導加熱調理器100。」 10 5 甲5発明 15 「調理を行うプレート19の裏面に設けた鉄製の発熱板22を誘導加熱により加熱 するコイル24と、 前記コイル24の下方と側方を覆うケース25と、 前記ケース25上に配置されるトッププレート23と、を備え、 前記コイル24は、前記ケース25及び前記トッププレート23に収容されてお 20 り、 前記ケース25は、外部から供給される冷却用空気を前記ケース25内に供給す るための空気通路C(34)と、前記空気通路C(34)から前記ケース25内 に供給された前記冷却用空気を前記ケースの外部へ排出するための空気通路D (35)と、 25 前記ケース25及びトッププレート23と、前記コイル24との間には、前記空 気通路C(34)と前記空気通路D(35)とを繋ぐ空間が存在し、前記空間は、 84 前記コイル24における前記発熱板22側の面と前記トッププレート23との間 に形成された第1空間と、前記コイル24の外周部と前記ケース25との間にあ って前記コイル24の外周部に沿って形成された第2空間と、を含んでおり、 前記空気通路C(34)から流入した空気が前記第1空間を流れる際にコイル2 5 4が冷却され、 前記空気通路C(34)及び空気通路D(35)は、平面視において前記コイル 24の中心部を挟んで直線上に設けられており、 前記第2空間中における前記空気通路C(34)及び前記空気通路D(35)に 対応する位置に前記第2空間を流れる前記冷却用空気を分岐させる仕切板41を 10 更に備えており、 前記ケース25は、前記コイル24の中央部に対応して設けられ前記ケース25 を前記コイル24の厚み方向に貫く穴部を有している、 電気調理器。」 15 85 (別紙3 特許公報省略) 86 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/08/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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