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事件 令和 4年 (ワ) 22517号 特許権侵害差止等請求事件
5
原告 日本製紙クレシア株式会社
同 訴 訟代理人弁護士堀籠佳典
同 牧野知彦 10 同平井佑希
同 升村紀章
同 訴 訟代理人弁理士片山健一
同 補佐人弁理士坂本智弘 15 被告大王製紙株式会社
同 訴訟代理人弁 護士片山英二
同 大月雅博
同 梶並彰一郎 20 同訴訟代理人弁理士 加藤志麻子
同 石原俊秀
同 永井義久
同 加藤和孝
同 永井望 25 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 12 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙物件目録記載の各製品を製造し、譲渡し、又は譲渡の申出をして 5 はならない。 2 被告は、その占有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、3300万円及びこれに対する令和4年9月21日から 支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 10 本件は、原告が、被告による別紙物件目録記載の各製品の製造、譲渡及び譲渡の 申出が、原告が有する特許権を侵害し、原告はこれにより損害を被ったと主張して、
被告に対し、差止請求権及び廃棄請求権(特許法100条1項及び2項)に基づき、 当該各製品の製造、譲渡及び譲渡の申出の差止め並びに当該各製品の廃棄を求める とともに、不法行為による損害賠償請求権(民法709条、特許法102条2項) 15 に基づき、3300万円及びこれに対する不法行為より後の日である令和4年9月 21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅 延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実等。証 拠等は括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。また、西 20 暦で表記されている場合も含めすべて和暦で記載する。以下同じ。) ? 当事者(乙8、裁判所に顕著な事実)
原告は、@ティッシュペーパー、紙及び紙製品、A保健衛生用品、医薬部外 品、医療用具及び化粧品、B不織布、不織布製品及びプラスチック包装用品の 製造、加工、販売及び輸出入を業とする株式会社である。 25 被告は、紙類、パルプ類、不織布類及びその副産物の製造加工並びに売買等 を業とする株式会社である。 2? 原告が保有する特許権について(甲1から4、6、7)
原告は、以下の各特許権(以下、順に「本件特許権1」などといい、これらを 併せて「本件各特許権」という。)を保有する。 ア 本件特許権1 5 (ア)登録番号 第6735251号 (イ) 発明の名称 トイレットロール (ウ) 出願日 平成29年4月20日 (エ) 原出願日 平成27年4月14日 (オ) 登録日 令和2年7月15日 10 イ 本件特許権2 (ア) 登録番号 第6590596号 (イ) 発明の名称 ロール製品パッケージ (ウ) 出願日 平成27年8月31日 (エ) 登録日 令和元年9月27日 15 ウ 本件特許権3 (ア) 登録番号 第6186483号 (イ) 発明の名称 トイレットロール (ウ) 出願日 平成28年10月13日 (エ) 登録日 平成29年8月4日 20 ? 特許請求の範囲について(甲1から7) 本件で問題となる本件各特許権に係る特許(以下、3つの特許を前記?の本 件各特許権の順に「本件特許1」などといい、各特許の願書に添付した明細書 及び図面を併せて、特許の番号に応じて「本件明細書1」などという。)の請求 項の特許請求の範囲は、以下のとおりである。なお、本件特許2の請求項1の 25 下線部分は、本件特許2に対する特許異議申立事件(異議2020−7002 69。以下「本件異議申立事件」という。)における決定の予告後に原告による 3訂正申立てが認められたことにより訂正された部分である(以下、この訂正を 「本件訂正」という。)。 ア 本件特許1の請求項1(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明1」 という。) 5 「2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール状 に巻き取ったトイレットロールであって、前記エンボスのエンボス深さが0. 05〜0.40mm、巻固さが0.3〜1.4mm、巻長が63〜103m、 巻直径が105〜134mm、巻密度が1.2〜2.0m/cm 2 であり、前 記トイレットペーパーの比容積が、4.0〜6.5cm3/gであり、前記エ 10 ンボス1個当たりの面積が、 5〜6. 2. 0mm2であるトイレットロール。」 イ 本件特許2 (ア) 請求項1(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明2−1」とい う。) 「フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いた 15 ロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージであって、前記ロ ール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて前記包装 袋に包装してなり、前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、前記ロ ール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺のうち、互いに 対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びて接合された 20 把持部と、を有し、前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有す るほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有し て横方向に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、前記ロール製品 の巻長が63〜103m、コアを含む1個の前記ロール製品の質量が20 0〜370gであり、(前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/ 25 (前記フィルムの坪量)が25〜80(g/(g/m2))であり、前記長 辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角 θ が25〜45度であり、前 4記長辺同士の間隔Wが105〜134mmであるロール製品パッケージ。」 (イ) 請求項2(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明2−2」とい う。) 「前記ロール製品の巻き硬さが1.0〜3.0mmである請求項1記載 5 のロール製品パッケージ。」 (ウ) 請求項3(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明2−3」とい う。) 「前記フィルムの坪量が13〜39g/m2である請求項1又は2記載の ロール製品パッケージ。」 10 (エ) 請求項4(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明2−4」とい い、本件発明2−1から本件発明2−4までを総称して「本件発明2」と いう。) 「(前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.0 35〜0.13(mm/(g/m2))である請求項1〜3のいずれか一項 15 記載のロール製品パッケージ。」 ウ 本件特許3の請求項1(以下、同請求項に記載された発明を「本件発明3」 といい、本件発明1から本件発明3までを併せて「本件各発明」という。) 「2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレッ トロールであって、前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、前 20 記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、巻直径が105mm 以上140mm以下、ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下であ り、前記エンボスパターンの深さが、0.01mm以上0.40mm以下で あるトイレットロール。」 ? 本件各発明の分説について 25 本件各発明を分説すると、以下のとおりとなる(以下、本件各発明の各構成 を本件各発明の数字と分説後の符号に従い、「構成要件1A」などという。)。 5ア 本件発明1について 1A 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール 状に巻き取ったトイレットロールであって、 1B 前記エンボスのエンボス深さが0.05〜0.40mm、 5 1C巻固さが0.3〜1.4mm、 1D 巻長が63〜103m、 1E 巻直径が105〜134mm、 1F 巻密度が1.2〜2.0m/cm2であり、 1G 前記トイレットペーパーの比容積が、4.0〜6.5cm3/gであり、 10 1H 前記エンボス1個当たりの面積が、2.5〜6.0mm2である 1I トイレットロール。 イ 本件発明2−1について 2A フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いた ロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージであって、 15 2B 前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ね て前記包装袋に包装してなり、 2C 前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、 2D 前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺のう ち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びて 20 接合された把持部と、を有し、 2E 前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一 つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向に沿っ て並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、 2F 前記ロール製品の巻長が63〜103m、 25 2G コアを含む1個の前記ロール製品の質量が200〜370gであり、 2H (前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量) (前記フィルムの坪 / 6量)が25〜80(g/(g/m2))であり、 2I 前記長辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角 θ が25〜45度 であり、 2J 前記長辺同士の間隔Wが105〜134mmである 5 2Kロール製品パッケージ。 ウ 本件発明2−2について 2L 前記ロール製品の巻き硬さが1.0〜3.0mmである請求項1記載の ロール製品パッケージ。 エ 本件発明2−3について 10 2M 前記フィルムの坪量が13〜39g/m 2である請求項1又は2記載の ロール製品パッケージ。 オ 本件発明2−4について 2N (前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.03 5〜0.13(mm/(g/m2))である請求項1〜3のいずれか一項記 15 載のロール製品パッケージ。 カ 本件発明3について 3A 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレ ットロールであって、 3B 前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、 20 3C 前記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、 3D 巻直径が105mm以上140mm以下、 3E ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下であり、 3F 前記エンボスパターンの深さが、0.01mm以上0.40mm以下で ある 25 3G トイレットロール。 ? 被告の行為について(甲8、争いがない事実) 7
被告は、令和4年春頃から、別紙物件目録記載1から3までの各製品(以 下、冒頭の符号に従い被告製品1などといい、被告製品1から被告製品3まで を併せて「各被告製品」という。)を業として、製造し、販売し、又は販売の 申出をしている。各被告製品は、トイレットティッシュをロール状に巻き取 5 り、ダブル(2枚重ね。「2プライに重ねた」などともいう。)のトイレット ロールであり、ロール長さ約75から80メートルの長尺ロール製品であっ て、ダブルエンボス(トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ 表面に凹凸をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側 にして2プライにするもの)のものである。 10 また、被告製品1のトイレットロールの包装袋の上部は、別紙写真目録記載 1の写真(以下、同目録記載の写真を番号に従い「写真1」などという。)の 左側のトイレットロールの包装袋の上部のとおりであり、被告製品3のトイレ ットロールの包装袋の上部は、写真1の右側のトイレットロールの包装袋の上 部のとおりである。被告製品1の包装袋の上部のスリットは、写真2の左側の 15 写真の赤破線で示されたとおりのものであり、被告製品3の包装袋の上部のス リットは、写真2の右側の写真の赤破線で示されたとおりのものである。それ らのスリットの上部には、いずれも写真3、4のとおり、上に凸の円弧状の熱 融着部が存在する。 ? 各被告製品の構成 20 本件各発明の構成に対応する各被告製品の構成のうち、本件各発明の構成要 件の充足性について当事者間に争いがない構成は以下のとおりである(なお、 充足性について争いがない各被告製品の各構成のうちには、原告主張の数値と
被告主張の数値に一部相違があるものがあるが、本件の判断を左右しないの で、原告主張の構成を記載する。)。 25 ア 本件発明1関係 (ア) 被告製品1 81a 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロー ル状に巻き取ったトイレットロールであって、 1c 巻固さが0.6mmであり、 1d 巻長が80.5mであり、 5 1e巻直径が118mmであり、 1f 巻密度が1.66m/cm2であり、 1g 前記トイレットペーパーの比容積が、5.9cm3/gである、 1i トイレットロール。 (イ) 被告製品2 10 1a 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロー ル状に巻き取ったトイレットロールであって、 1c 巻固さが0.5mmであり、 1d 巻長が80.7mであり、 1e 巻直径が119mmであり、 15 1f 巻密度が1.64m/cm2であり、 1g 前記トイレットペーパーの比容積が、5.6cm3/gである、 1i トイレットロール。 (ウ) 被告製品3 1a 2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロー 20 ル状に巻き取ったトイレットロールであって、 1c 巻固さが0.7mmであり、 1d 巻長が75.2mであり、 1e 巻直径が118mmであり、 1f 巻密度が1.56m/cm2であり、 25 1g 前記トイレットペーパーの比容積が、5.9cm3/gである 1i トイレットロール。 9イ 本件発明2関係 (ア) 被告製品1 2a フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻い たロール製品を4個収納してなるロール製品パッケージであって、 5 2b前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重 ねて前記包装袋に包装されており、 2c 前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、 2d 前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺の うち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延 10 びて接合された把持部とを有し、 2e 前記把持部には、ほぼ中央に、スリット状の指掛け穴が形成され、 2f 前記ロール製品の巻長が80.5mであり、 2g コアを含む1個の前記ロール製品の重量が225gであり、 2h (前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルム 15 の坪量)が32.1(g/(g/m2))であり、 2i 前記長辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角 θ が35.0度 であり、 2j 前記長辺同士の間隔Wが112mmである、 2k ロール製品パッケージ。 20 (イ) 被告製品3 2a フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻い たロール製品を4個収納してなるロール製品パッケージであって 2b 前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重 ねて前記包装袋に包装されており、 25 2c 前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、 2d 前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺の 10 うち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延 びて接合された把持部とを有し、 2e 前記把持部には、スリット状の指掛け穴が形成され、 2f 前記ロール製品の巻長が75.2mであり、 5 2gコアを含む1個の前記ロール製品の重量が210gであり、 2h (前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルム の坪量)が29.4(g/(g/m2))であり、 2i 前記長辺から前記把持部までの前記包装袋の傾斜角 θ が27.3度 であり、 10 2j 前記長辺同士の間隔Wが111mmである、 2k ロール製品パッケージ。 ウ 本件発明3関係 (ア) 被告製品1 3a 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイ 15 レットロールであって、 3c 前記トイレットロールの巻長が80.5mであり、 3d 巻直径が118mmであり、 3e ロール柔らかさが1.2mmである 3g トイレットロール。 20 (イ) 被告製品2 3a 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイ レットロールであって、 3c 前記トイレットロールの巻長が80.7mであり、 3d 巻直径が119mmであり、 25 3e ロール柔らかさが0.9mmである 3g トイレットロール。 11 (ウ) 被告製品3 3a 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイ レットロールであって、 3c 前記トイレットロールの巻長が75.2mであり、 5 3d巻直径が118mmであり、 3e ロール柔らかさが1.4mmである 3g トイレットロール。 2 争点 ? 本件発明1について 10 ア 各被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1−1) (ア) 構成要件1Aの充足性(争点1−1−1) (イ) 構成要件1Bの充足性(争点1−1−2) (ウ) 構成要件1Hの充足性(争点1−1−3) イ 無効理由の有無(争点1−2) 15 (ア) 特開2014−188342号公報(以下「乙17公報」という。)に 記載された発明、特表2006−524093号公報(以下「乙21公報」 という。)に記載された構成に基づく本件発明1の進歩性欠如 (争点1−2−1) (イ) 本件発明1の特許法36条6項1号適合性(争点1−2−2) 20 ? 本件発明2について ア 被告製品1及び被告製品3が、特許請求の範囲の記載の文言上、本件発明 2の技術的範囲に属するか(争点2−1) (ア) 構成要件2Eの充足性(争点2−1−1) (イ) 構成要件2Iの充足性(争点2−1−2) 25 イ 被告製品1及び被告製品3が、特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものとして本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2−2) 12 ウ 無効理由の有無(争点2−3) (ア) 特開2011−189965号公報(以下「乙24公報」という。)に 記載された発明、特開2015−101388号公報(以下「乙25公報」 という。)に記載された構成に基づく本件発明2の進歩性欠如(争点2− 5 3−1) (イ) 本件発明2の特許法36条6項1号適合性(争点2−3−2) ? 本件発明3について ア 各被告製品が本件発明3の技術的範囲に属するか(争点3−1) (ア) 構成要件3Aの充足性(争点3−1−1) 10 (イ) 構成要件3Bの充足性(争点3−1−2) (ウ) 構成要件3Fの充足性(争点3−1−3) イ 無効理由の有無(争点3−2) (ア) 乙17公報に記載された発明に基づく本件発明3の新規性欠如(争点3 −2−1) 15 (イ) 公然実施された発明に基づく本件発明3の新規性欠如(争点3−2−2) (ウ) 本件発明3の特許法36条6項1号適合性(争点3−2−3) ウ 訂正の再抗弁の成否(争点3−3) ? 原告の損害額(争点4) 3 争点に対する当事者の主張 20 ? 本件発明1について ア 各被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1−1) (ア) 構成要件1Aの充足性(争点1−1−1) (原告の主張) 各被告製品は、いずれも、2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレ 25 ットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであり、構成要件1 Aを充足する。本件明細書1によれば、「坪量を下げない」という課題は巻 13 長、巻直径、エンボスパターン、ロール柔らかさ等を特定することによって 解決していることは明らかであり、 「坪量を下げない」との課題に関連して、 本件発明1がその「坪量」まで特定しなければならないものではなく、本件 発明1の発明特定事項として坪量の限定はないといえるから、坪量が13g 5 /m2を超えていなくとも構成要件1Aを充足する。また、エンボス形状につ いての限定は特許請求の範囲に記載されておらず、本件明細書1にも、エン ボスの形状を楕円形に限定する記載は一切なく、エンボスの形状が楕円形で なくとも構成要件1Aを充足する。 (被告の主張) 10 a 本件発明1は、トイレットペーパーの坪量を13g/m2よりも高くした 長巻のトイレットロールにおける従来技術の問題点を解決しようとするも のである。そうすると、本件発明1は、トイレットペーパーの坪量が13 g/m2を超えることを前提とする。 また、本件発明1において、形状測定レーザマイクロスコープを用いた 15 評価に基づいて、エンボス深さが0.05〜0.40mm、エンボス1個 当たりの面積が、 5〜6. 2. 0mm2であるとし(構成要件1B及び1H)、 これらを発明の課題を解決するための構成とするということは、本件発明 1が、付与された後のエンボスの深さ及び形状が明確に測定することがで き、かつ、当該物性を規定することで、何らかの課題解決に寄与し得るも 20 のであることを意味する。トイレットペーパーのエンボス加工に係る技術 常識からすると、そのような加工は、2枚のプライを重ねた後に、エンボ スを施すシングルエンボスしか当てはまらない。 さらに、本件明細書1の段落【0024】に記載されたエンボス面積の 求め方からすると、本来であれば、計算式に「π/4」が含まれるところ、 25 これを丸めて算出するという計算方法を採用しているのであるから、エン ボス形状は円形あるいは楕円形のものに限定される。 14 したがって、構成要件1Aは、「2プライに重ねられ、円形あるいは楕 円形シングルエンボスを有し、坪量が13g/m2を超えるトイレットペー パーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、」と解釈される べきである。 5b 各被告製品は、「2プライに重ねられ、略四角錐台形状のエンボスパタ ーンが付与されたエンボスロールによりダブルエンボスを付した、坪量が 11.9、12.0、12.1、12.3、12.4あるいは12.5g/ m2であるトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロール」 であり、「円形あるいは楕円形シングルエンボスを有する、坪量が13g 10 /m2を超えるトイレットペーパーをロール状に巻き取った」ものではない。 したがって、各被告製品は、構成要件1Aを充足しない。 (イ) 構成要件1Bの充足性(争点1−1−2) (原告の主張) 各被告製品は、エンボスのエンボス深さが0.09mm(被告製品1)、 15 0.08mm(被告製品2)、0.08mm(被告製品3)である。よっ て、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足する。 本件明細書1の【0019】、【0025】に記載されているとおり、本 件発明1のエンボスは、ダブルエンボスであってもよい。また、紙の表面 に高速でエンボスローラーを当ててエンボスを施しているため、無数にあ 20 るエンボスの全てが寸分違わず同一の深さであるということはありえない。 そのことはシングルエンボスでも、ダブルエンボスでも変わらないから、 各エンボス間にばらつきがあることをもって、本件発明1が、ダブルエン ボスを除外しているとは解釈し得ない。 シートの紙厚などを調整し、シートの柔らかさを向上させ、美粧性を高 25 めるというエンボスを設ける目的に照らせば、シート全体としてどのよう にエンボスが設けられているかに意味があるのであって、一つ一つのエン 15 ボスを個別に比較して、厳密な均一さを要求することは無意味である。本 件明細書1でも、一つ一つのエンボスを個別に見れば一定のばらつきがあ ることを当然の前提として、エンボス深さについて、10個のエンボスを 用いて、その平均値を採用している。 5 エンボス深さDは、断面曲線から「最大値Max−最小値Min」で求 まるものであるところ、底部に盛り上がりが存在しようと、最小値Min を求めることができる(最も高さが低いところが最小値Minである。) のである。 (被告の主張) 10 a 上記(ア)の(被告の主張)のとおり、本件発明1は、2プライに重ねられ、 円形あるいは楕円形シングルエンボスを有するトイレットペーパーをロー ル状に巻き取ったトイレットロールに限定される。そして、トイレットペ ーパーとしてのエンボス深さを規定することも、エンボスが均一に付与さ れるシングルエンボスであってこそ意味のあるものになる。したがって、 15 構成要件1Bにおける、エンボス深さは、シングルエンボスの深さと解す るのが相当である。 b 本件発明1において、エンボス深さを規定する技術的意義に照らすと、 ダブルエンボスという深さが不規則なエンボスを有し、エンボスの付与に より一定の嵩高さを得ようとする技術的思想のない各被告製品のエンボス 20 深さを測定して、構成要件1Bの充足性を判断すること自体、理にかなっ ていない。 また、製造方法からすると、ダブルエンボスにおいて、表面と裏面のシ ートのエンボスを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、エ ンボスの干渉が存在するということは、エンボスが潰れていることを意味 25 し、エンボス深さを測定することができない。実際、各被告製品のエンボ スの周縁は、ワンショット3D測定マイクロスコープではそのほとんどの 16 エンボスにおいて認識できない(測定不可能)。本件発明1においては、 エンボスにより、一律かつ均一にかさ高さを得るための指標としてエンボ ス深さが規定されているところ、各被告製品において、エンボス深さの測 定の基礎となるエンボスの周縁が認識できないから、各被告製品が、構成 5 要件1Bを充足しない。
原告によるエンボスの断面曲線による測定は、エンボスの最長部a、最 長部bを基準として測定を行っておらず、エンボスの中心から大きくはず れた位置で、断面曲線を取得している。また、曲率極大点P1、P2を基 準として深さを測定していない。原告が証拠として提出した測定結果では、 10 断面曲線で緑色の枠内を決定し、「この位置における、変曲点(P1、P 2)を決定すると「×」で示した箇所となる」としているが、このような測 定方法は、本件明細書1に記載された測定方法ではない。その上、断面曲 線の取得画面のスケールが、画面によって異なっている。したがって、原 告の上記測定結果は信用できない。 15 (ウ) 構成要件1Hの充足性(争点1−1−3) (原告の主張) 各被告製品は、エンボス1個当たりの面積が4.4mm2 (被告製品1)、 3.8mm2(被告製品2)、3.9mm2(被告製品3)である。よって、 各被告製品は、いずれも構成要件1Hを充足する。 20 エンボスの面積は、小さすぎるとエンボスがよく見えず美粧性が良くな いし、大きすぎると大雑把な印象を与え、美粧性が良くないことから、本 件発明1では、エンボス面積を所定の範囲としているものであり、本件発 明1には、エンボス形状の限定はない。 また、適切な条件であれば、各被告製品のエンボスの周縁を観察するこ 25 とは可能であるし、そもそもワンショット画像のみから、エンボス深さや エンボス面積を求める基準位置を一義的に特定しなければならないもので 17 はない。そのうえ、トイレットペーパーに施される個々のエンボスの形状 は、完全に均一なものではなく、その形状を厳密に幾何学的に表すことは できないことが多い。本件明細書1の【0024】に記載されているエン ボス面積Sの求め方というのは、エンボスの面積を幾何学的に、厳密に求 5 めているというわけではなく、【図4】で模式的に描かれているエンボス でいえば、aの箇所を縦の長さ、aと垂直な方向のbの箇所を横の長さと 定め、それぞれの平均値を求め、それら平均値同士を乗じたものをエンボ ス面積Sとしている。これを略正方形の各被告製品のエンボスでみれば、
原告が提出した証拠(甲10)で示したa、bの箇所を縦と横方向の長さ 10 とし、その平均値同士を乗じるというのが、本件明細書1の【0022】 〜【0024】に記載された求め方であって、原告のエンボス面積の求め 方は、この記載に沿うものである。 (被告の主張) a 上記(ア)の(被告の主張)で述べたとおり、本件発明1は、2プライに重 15 ねられ、円形あるいは楕円形シングルエンボスを有するトイレットペーパ ーをロール状に巻き取ったトイレットロールに限定され、また、トイレッ トペーパーとしてのエンボス面積を規定する技術的意義が、美粧性の向上 にあること(【0024】)や、【0024】に記載されたエンボス面積の 求め方(丸め方)からすると、そのエンボスの形状は、円形あるいは楕円 20 形に限られる。 b 各被告製品は、略四角錐台形状のエンボスパターンにより付与されたダ ブルエンボスを有するものである。よって、このような各被告製品のエン ボスの面積を測定して、構成要件1Hの充足性を判断すること自体、理に かなっていない。したがって、各被告製品は、構成要件1Hを充足しない。 25 また、実際、上記(イ)の(被告の主張)で述べたとおり、各被告製品のエ ンボス形状は、ワンショット3D測定マイクロスコープでは測定不可能で 18 ある。 イ 無効理由の有無(争点1−2) (ア) 乙17公報に記載された発明、乙21公報に記載された構成に基づく本 件発明1の進歩性欠如(争点1−2−1) 5 (被告の主張) a 乙17公報には、2枚の衛生薄葉紙を重ねられ、エンボスを有する積 層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、巻長が74〜 93m、巻直径が100〜130mm、巻密度が1.29〜1.67m /cm 2 、前記衛生薄葉紙の比容積が4.0〜6.5cm3 /gである、 10 衛生薄葉紙ロールという発明(以下「乙17発明1」という。)が記載さ れている。 本件発明1と乙17発明1を対比すると、以下の相違点1から相違点 3までにおいて相違し、その余の点については一致している。 ? 相違点1:本件発明1においては、エンボス深さが0.05〜0. 15 40mmであるのに対し、乙17発明1では、エンボス深さについて 明示的な記載がない点(構成要件1Bに関連)。 ? 相違点2:本件発明1においては、トイレットロールの巻固さが0. 3〜1.4mmであるのに対し、乙17発明1では、巻固さについて 明示的な記載がない点(構成要件1Cに関連)。 20 ? 相違点3:本件発明1においては、エンボス1個当たりの面積が2. 5〜6.0mm2であるのに対し、乙17発明1では、エンボス面積に ついて明示的な記載がない点(構成要件1Hに関連)。 b 本件発明1における巻固さは、圧縮試験機の「圧縮子の押し込み深さ」 を基準としたものであり、トイレットロールに対する「圧縮子の押し込 25 み深さ」は、トイレットロールの密度(紙自体の密度+紙の巻き方、エ ンボスに由来する密度)に影響されると理解される。本件発明1で明ら 19 かにされている物性のうち、巻固さを決定付ける物性としては、(A) トイレットペーパーの坪量(紙自体の密度に関係)、(B)トイレットペ ーパーの比容積(紙自体の密度に関係)、(C)巻密度(紙の巻き方に関 係)及び(D)エンボス前の紙厚(あるいはエンボス後の紙厚)と紙厚差 5 ΔE(紙の巻き方、エンボスに関係)が挙げられ、これらの値が一致し ていれば、巻固さの値も一致すると推測される。本件特許1の明細書の 実施例、比較例を見ると、上記(A)の坪量と(B)の比容積が一致してい れば、巻固さと(C)の巻密度には、強い相関があると考えられる。 本件明細書1の実施例14と乙17公報の実施例3は、上記(A)から 10 (D)までだけではなく他の条件もすべて一致しており、本件明細書1の 実施例14は、巻固さが0.8mmであるから乙17発明1の実施例3 の巻固さも0.8mmと推測される。これ以外でも、本件発明1と乙1 7発明1は、巻固さを決定付ける上記(A)から(D)までの物性が広く一 致している。よって、相違点2は実質的な相違点ではない。 15 c 本件明細書1の実施例14と、乙17公報の実施例3では、巻固さを 決定付ける(A)から(D)までの物性が広く一致している。そして、上記 (A)から(C)までの物性を満たした上で、さらにエンボスに関係のある
上記(D)の物性が一致しているということは、エンボス深さも広く一致 していることの証左であり、乙17発明1は、本件発明1のエンボス深 20 さの要件を満たす。よって、相違点 1 も実質的な相違点ではない。 d 本件明細書1には、エンボス面積を規定する意義に関して、「エンボ ス面積Sは、好ましくは0.4〜7.0mm 2、より好ましくは1.5〜 6.5mm2、更に好ましくは2.5〜6.0mm 2、・・・。エンボス 面積Sが0.4mm2 未満であるとエンボスが小さすぎて美粧性が劣る場 25 合がある。一方、エンボス面積Sが7.0mm 2を超えるとエンボスが大 きすぎて、同様に美粧性が劣る場合がある。」(【0024】)と記載さ 20 れているが、「2.5〜6.0mm2」の範囲が、なぜ、「更に好ましい」 のかについては一切説明されていない。本件明細書1の実施例、比較例 においては、どのようなエンボス面積のエンボスが付されているかどう かすら把握することができない。そうすると、本件発明1における、「エ 5 ンボス1個当たりの面積が、2.5〜6.0mm2」の要件は、技術的意 義及びその数値範囲の臨界的意義を欠くものである。他方、乙21公報 には、エンボスパターンを有するロール状のティッシュ製品(請求項1) において、エンボスパターンの形状を「約0.03インチから約0.1 0インチの最大直径」(約0.0762cmから約0.254cmの最 10 大直径)とすることが記載されており、本件発明1でいうところの0. 58〜6.45mm2 の範囲のエンボス面積が記載されている。 数値限定の要件について、格別の技術的意義がない場合において、当 該数値範囲が、容易想到と判断されることは過去の裁判例においても判 示されており、相違点3については、乙21公報に記載された構成に基 15 づいて当業者が容易に想到し得るものである。 (原告の主張) a 本件発明1はロールが硬いと、シートも硬いと思われてしまい、購入を 促すことができないという問題があることに着眼し、巻固さを一定の範 囲とすることによって、ロールの柔らかさを確保しつつ、フィルムでの 20 包装後に潰れたり、ロールの巻直径が大きくなったりすることを防止す ることとしているのに対して、乙17公報では、ロールの巻固さについ ては一切言及されておらず、ロールの柔らかさが購入を促進するという 課題にすら着眼していないのであって、まして巻固さを一定の範囲に調 整しようなどという技術的思想は一切開示も示唆もされていない。被告 25 は、巻固さは被告が指摘する(A)から(D)までの4つの要素で決定され る旨主張しているが、その根拠は何も示していない。巻固さは被告が指 21 摘する(A)から(D)までの4つの要素のみによって決定されるものでは ないことは、被告自身の出願に係る明細書にも示されている。 したがって、相違点2は実質的な相違点である。 b 乙17公報にはエンボス深さについての記載はなく、エンボス深さに 5 ついて、一切開示も示唆もされていない。乙17公報の「エンボス条件」 の「紙厚差ΔE」は、衛生薄葉紙ロールとする前の衛生薄葉紙に関する ものであり、これが一致しているからといって、トイレットロールのエ ンボス深さが一致しているとはいえない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 10 c 本件発明1は、シート及びソールの特性を所定の範囲に収めることに よって、シート及びロールの柔らかさに優れると共に1ロール当りの巻 長を長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に優れ たトイレットロールの提供を目的とするものあるから、その1つの特性 であるエンボス面積のみを個別に抜き出して、臨界的意義があるか否か 15 を論じても全く無意味である。 「2.5〜6.0mm2」の範囲がさらに好ましいというのは、本件特 許明細書1に「エンボス面積Sが0.4mm 2未満であるとエンボスが小 さすぎて美粧性が劣る場合がある。一方、エンボス面積Sが7.0mm2 を超えるとエンボスが大きすぎて、同様に美粧性が劣る場合がある。」 20 (【0024】)と記載されていることからすれば、シートの美粧性が 増すためであることは明らかである。 乙17公報や乙21公報に記載された発明は、シートの美粧性を高め るために、エンボス面積を一定の範囲に収めるという技術的思想は有し ていない。エンボス面積のレンジ(上限と下限の差)についてみても、 25 乙21公報では5.87mm2(=6.45mm2−0.58mm 2)にも 及び、本件発明1のレンジである3.5mm 2(=6.0mm2−2.5 22 mm2)よりも1.5倍以上も広範にわたっており、乙21公報はエンボ ス面積に着目すらしていないのであるから、広範なレンジの中から、あ えて本件発明1のレンジ又はそれに収まるレンジにエンボス面積を選択 する技術的思想など開示も示唆もされているとはいえない。 5 したがって、乙21公報には本件発明1の構成要件1Hに相当する構 成は開示も示唆もされておらず、仮に構成が開示されているとしても、 エンボス面積や美粧性に着目すらしていない乙17公報にエンボス面積 に関する構成を組み合わせる動機付けも認められない。 (イ) 本件発明1の特許法36条6項1号適合性(争点1−2−2) 10 (被告の主張) a 本件発明1は、従来技術において、坪量を13g/m2より高くして風 合い、使用感を向上させた巻長の長いトイレットロールが存在していた ところ、当該ロールが「トイレットペーパーの坪量を高くしながら、風 合いを向上させているが、ロールの柔らかさについては検討されていな 15 い」ものであったことに基づいて、当該技術と同様に「坪量を下げず」 にシート及びロールの柔らかさに優れると共に、1ロール当りの巻長を 長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に優れたト イレットロールを提供することを、発明の課題とするものである。 ところが、本件発明1においては、坪量が規定されていない。 20 本件発明1における上記発明の課題からすると、本件発明1の坪量が 13g/m2より高いことは、課題を解決しようとするトイレットロール が有するべき構成であり大前提であるから、「坪量が13g/m2 より高 い」との要件を欠く場合には、発明の課題を解決できないことになる。 b 本件発明1においては、本件特許1の明細書の段落【0021】から 25 【0025】までに記載された方法により測定されたエンボス深さが0. 05〜0.40mmであることを発明の解決手段の1つとして記載して 23 いるが、エンボスの付与方法(シングルエンボス、ダブルエンボス)に ついては、限定がされていない。 「エンボス深さ」を一定の数値範囲とすることを発明の解決手段にで きるということは、原紙をカレンダー処理である程度薄くしたシートに 5 対して、エンボスを付け、その高低差を付けることにより、一律かつ均 一にシートの嵩高さを確保し、それにより、シートを変形しやすくする ことにより、シートの柔らかさを向上させるという効果を生じせしめる (段落【0018】、【0020】)シングルエンボスにしかあてはまら ない。ダブルエンボスにおいては、エンボス凸部を形成することにより 10 一律かつ均一に高低差を生じせしめて、シートの柔らかさを向上させる ことはできないから、当業者であれば、エンボス深さを規定したところ で、発明の解決課題を解決できないと認識する。 c 本件発明1の解決課題の中には「ロールの柔らかさに優れる」トイレ ットロールの提供が含まれるところ、本件特許1の請求項1には、「ロ 15 ールの柔らかさに優れる」トイレットロールの提供のための解決手段が 十分に示されておらず、当業者であれば、本件発明1により、発明の解 決課題を解決できるとは認識しない。 本件発明1の構成は、エンボスを付した長巻の2プライのトイレット ロールであることを規定する前提条件(構成要件1A、1D及び1E) 20 以外の要件は、(A)ロール柔らかさとの関係:巻固さが0.3〜1.4 mm、巻密度が1.2〜2.0m/cm 2(構成要件1C及び1F)(B) 、 トイレットペーパーの比容積 4. : 0〜6.5cm3/g(構成要件1G)、 (C)エンボスとの関係:エンボス深さが0.05〜0.40mm、エン ボス1個当たりの面積が、 5〜6. 2. 0mm 2(構成要件1B及び1H) 25 とするものと整理されるが、上記(A)、(B)は、本件発明1に係るト イレットロールについて達成された物性を記載しているだけであり解決 24 手段ではないから、 「ロールの柔らかさ」の解決手段になりうるものは、 エンボス深さのみである。そして、本件明細書1の「エンボス等を付与 してシートを柔らかくしても、ロールを固く巻きすぎると、ロールの柔 らかさが低下する。」(【0005】)との記載から明らかなように、エ 5 ンボス深さのみを規定しても、「ロールの柔らかさ」が達成されるわけ ではない。 (原告の主張) a 本件明細書1において「坪量を下げない」と記載しているのは、坪量 を下げるという手段とは別の手段である、本件発明1が規定している各 10 特性を備えるという手段によって、シート及びロールの柔らかさに優れ ると共に1ロール当りの巻長を長くし、販促効果を高めるなどしたトイ レットロールを提供するという課題を解決したものであることを説明し たものである。本件発明1において、坪量の点を発明特定事項として特 定していないことをもって、サポート要件を欠くことにはならない。 15 b 本件発明1がシングルエンボスに限定されないことは、本件明細書1 の【0010】、【0019】及び【0025】の各記載から明らかであ る。ダブルエンボスにおいても一律かつ均一に高低差を生じさせること ができる。ダブルエンボスのトイレットペーパーにおいて、エンボス深 さの測定ができることは、被告自身の特許出願の明細書においても説明 20 されており、被告の主張は、自らしていた説明と矛盾する。 c 本件発明1が規定するシート及びロールの各特性は相互に関係してお り、本件発明1は、そのそれぞれを規定されている範囲に収めることに よって、シート及びロールの柔らかさに優れると共に1ロール当りの巻 長を長くし、販促効果を高めるなどしたトイレットロールを提供するこ 25 とを目的としているのであるから、その1つ1つを個別に抜き出して、 それ自体は解決手段ではないと論じても無意味である。 25 ? 本件発明2について ア 被告製品1及び被告製品3が、特許請求の範囲の記載の文言上、本件発明 2の技術的範囲に属するか(争点2−1) (ア) 構成要件2Eの充足性(争点2−1−1) 5 (原告の主張) 構成要件2Eの「指掛け穴」の構成要素を分説して示すと、@指掛け穴 はほぼ長円の形状である、A指掛け穴は把持部のほぼ中央に設けられてい る、B指掛け穴は上向きに非切抜部を有している、C指掛け穴は一つのス リット状の指掛け穴である、となる。 10 写真3に示されているとおり、被告製品1及び被告製品3ではスリット の上部に円弧が形成されている。この円弧は、指掛け穴に手を入れて持ち 上げる際に、スリット部との間がめくりかえり非切抜部の端部に力がかか るため、めくりかえった部分が「片部」(本件明細書2の【0012】)に なる。そして、写真4のとおり、被告製品1及び被告製品3では、スリッ 15 ト部と、熱融着部などによって形成される非切抜部によって、ほぼ長円の 形状の指掛け穴が形成されているから、上記@を備え、指掛け穴は上向き に非切抜部を有しているから、上記Bを充足している。さらに、写真1の とおり、指掛け穴は把持部のほぼ中央に設けられているから、被告製品1 及び被告製品3は上記Aを充足する。そして、各写真が示すとおり、被告 20 製品1及び被告製品3は指掛け穴が一つの製品であり、その指掛け穴は、 完全に切り取らず非切抜部を設けて片部を残したスリット状のものである から、上記Cを充足する。 本件異議申立事件においては、原告は、実施例(【図1】等)の上位概念 を記載している本件明細書2の【0012】に基づいて訂正を行った。構 25 成要件2E前段は、字句どおり、「ほぼ中央に上向きに非切抜部を有する ほぼ長円のスリット状の指掛け穴」を規定したものと解すべきであって、 26 【図1】に示された具体的な形態に限られない。 (被告の主張) 本件発明2の「ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つの スリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜き部を有して横方向に並ぶ二 5 個の指掛け穴が形成されており、」の下線部分の文言は、本件異議申立事 件において、指掛け用の穴の形状や数には種々のものが考えられ、指掛け 穴に指を引っかけた際の破れにくさはこれらの条件に影響を受けるところ、 訂正前の請求項1から請求項5までには、指掛け用の穴の形状、数につい て特定がない旨の審決の予告で通知されたサポート要件違反の取消理由を 10 回避するためにされた本件訂正により追加されたものである。
原告は、審決の予告に対する意見書において、「本意見書と同時に提出 した訂正請求では、上記認定に鑑みて本件請求項1の指掛け穴を、上記官 能評価を実際に行った「ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の スリット状の指掛け穴」に限定した。」と釈明しており、このような経緯 15 からすると、構成要件2Eにおける指掛け穴は、本件明細書2の【図1】 に記載されるとおりの「指掛け穴2」の形状、すなわち、「ほぼ長円のスリ ットが形成され、その長円の上部の一部が非切抜部となっている指掛け穴」 であると解釈すべきである。
被告製品1及び被告製品3のパッケージは、ロール製品を2個、2段(計 20 4個)重ねて前記包装袋に包装してなるものであり、写真3の形状の指掛 け穴(赤の点線部)が把持部に形成されている。そうすると、被告製品1 及び被告製品3における指掛け穴は、「ほぼ中央に下向きの円弧を有し、 かつ、その円弧の両端が下向きに小さい略円弧を形成している形状のスリ ット状の指掛け穴」であり、「ほぼ長円のスリットが形成され、その長円 25 の上部の一部が非切抜部となっている指掛け穴」ではない。 (イ) 構成要件2Iの充足性(争点2−1−2) 27 (原告の主張) 本件明細書2の【0024】に記載されているとおり、傾斜角θは「5 個のロール製品パッケージ200についてそれぞれ別個に行い、これら5 つの値の平均値を傾斜角θとして採用する。」ものである。 5 原告は、被告製品1については、入手段階から公証人を同行し、被告製 品3については、ネット通販によって16個入りの1箱を購入し、これを 公証役場に直接配送してもらい、この中から公証人が任意に5個を選択し、 これを測定した。その結果は、上記被告製品のごく一部に構成要件2Iの 数値範囲を下回るものがあるもの、平均値はこれを充足している。 10 (被告の主張)
被告の実験結果において、被告製品1については、1つの製品が本件発 明2におけるθの数値範囲を満足せず、被告製品3については、いずれも θの数値範囲をいずれも満足しない。 どこが切妻屋根部になるかは、包装袋自体で決まらず、上段に置かれた 15 ロールの上辺の位置を一定の位置にすることによって、傾斜角θが決まる ことになる。被告は、上段に置かれたロールの上辺の位置を、フィルムの 位置に対して一定の位置にするような制御は行っておらず、この点は構成 要件2Iの充足性の判断において考慮されるべきである。 構成要件2Iで規定される包装袋の傾斜角θは、cosθ=(W÷2) 20 /PLで求められる。Wが同じであれば、PLが大きいほどθは大きくな り、PLが小さいほどθが小さくなる。PLは、「パネル部の長さ」、すな わち、「DR1、DR2を測定した位置から把持部までの長さ(距離)」で あるが、原告の測定結果をみると、当該パネル部の長さが正確に測定され ているかについて疑問がある。 25 イ 被告製品1及び被告製品3が、特許請求の範囲に記載された構成と均等な ものとして本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2−2) 28 (原告の主張) 仮に、構成要件2Eの「スリット状」が、指掛け穴の有するスリットが内 側に回り込んだ形状である必要があり、この点において、被告製品1及び被 告製品3と本件発明2が相違するとしても、均等侵害が成立する。 5 (ア)a本件発明2は、一定のロールの性状や配置を前提として、そのような ロール状の製品を収納するのに適したパッケージの構造を特定した点を、 従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とする発 明であり、指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいることを従 来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とするもの 10 ではない。構成要件2Eは、持ち運ぶ際に指が痛くならない、という従 たる効果に関係する構成要素であるから、上記相違点は、非本質的部分 における相違である。 b 被告製品1及び被告製品3は、本件発明2における「長巻のロール製 品をガゼットタイプの包装袋に収納したロール製品パッケージにおいて、 15 持ち運び易く、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品を包装した場合 にロール製品が潰れ難く、さらに持ち運ぶ際にフィルムが破れにくく包 装袋内でロール製品を安定して保持できるロール製品パッケージ」を提 供するとの作用効果を奏する。したがって、置換可能性の要件も充足す る。 20 c 本件発明2と被告製品1及び被告製品3との相違点は、スリット部分 の長さをどの程度にするかという問題にすぎないのであるから、相違部 分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等 の時点において容易に想到できたことは明らかである。 (イ) 被告製品1及び被告製品3が、特許発明の出願時における公知技術と同 25 一、又は公知技術から容易に推考できたものとはいえない。また、本件訂 正の理由は上記ア(ア)で主張したとおりであり、原告は、本件発明2の出願 29 経過において、被告製品1及び被告製品3のような構成を意識的に除外し たことはない。 (被告の主張)
被告製品1及び被告製品3に形成された指掛け穴の形状を「長円」とい 5 う文言で表現するのは、不自然かつ不適当である。また、本件発明2と被 告製品1及び被告製品3の異なる部分は、構成要件2Eだけではないから、 構成要件2Eの関係のみで均等侵害を主張したとしても、均等侵害は成立 しない。 また、構成要件2Eで規定される1つ穴態様の指掛け穴は、「ほぼ中央 10 に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」で あり、長円の一つのスリットを設けることを基本とし、その上側の円弧の 一部に非切抜部にしたものであるから、長円のスリットを基本としない被 告製品1及び被告製品3とはスリットの形状が全く異なる。したがって、
被告製品1及び3の指掛け穴は、被告製品1及び被告製品3の製造時にお 15 いて、本件発明2の指掛け穴に基づいて当業者が容易に想到することがで きたものではない。
原告は、上記ア(ア)の(被告の主張)のとおり、本件異議申立事件の決定 の予告に対して、「上記認定に鑑みて本件請求項1の指掛け穴を、上記官 能評価を実際に行った「ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほぼ長円の 20 スリット状の指掛け穴」に限定した。」と説明して本件訂正を行ったので あり、「上記官能評価を実際に行った」指掛け穴は、【図1】に記載されて いる指掛け穴である。本件異議申立事件における経緯に照らせば、原告は、 外形的に見て、把持部に設けられる指掛け穴を、【図1】に明示されてい る形状のものが1つあるいは2つ並んだものに限定し、他の形状の指掛け 25 穴は、本件発明2に含まれないと理解される行動を取ったことになる。よ って、本件には、被告製品1及び被告製品3の構成を意識的に除外したと 30 いう特段の事情が存在するから、均等侵害を主張することはできない。 ウ 無効理由の有無(争点2−3) (ア) 乙24公報に記載された発明、乙25公報に記載された構成に基づく本 件発明2の進歩性欠如(争点2−3−1) 5 (被告の主張) a 乙24公報には、「フィルムからなる包装袋に、トイレットペーパー のロール製品を複数個収納してなる包装体であって、前記ロール製品を 複数収納(図4の実施態様では上下に縦横2個並べた段を2段)し前記 包装袋に包装してなり、前記包装袋は筒状のガゼット袋から構成され、 10 前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺のうち、 互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びるパ ネル部と把持部と、を有し、前記把持部には、横方向Sに沿って延びる スリット主部2aと、スリット主部2aの両端からそれぞれ持手部4の 上端(図3の上方)に向かい、外側に凸状に膨らむ略半円状をなすと共 15 に内側に延びる終端2cを有する弧状スリット部2bと、両弧状スリッ ト部2bの終端2c同士の間が上向きの非切抜部をなしている指掛け穴 が形成されており、前記パネル部の傾斜角θが20〜50度である、包 装体」という発明(以下「乙24発明」という。)が記載されている。 本件発明2と乙24発明を対比すると、以下の相違点1から相違点3 20 までにおいて相違し、その余の点については一致している。 ? 相違点1:本件発明2においては、パッケージに封入するロール製 品が衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いたものであり、巻長を63 〜103m、1個あたりの質量(コア含む)200〜370gとし、 これを、一列に2個2段並べて収納し、(前記包装袋内の4個の前記 25 ロール製品の質量)/(前記フィルムの坪量)を25〜80(g/(g /m2))とするのに対し、乙24発明においては、この点について記 31 載がない点(構成要件2B、2F〜Hに関連)。 ? 相違点2:本件発明2においては、前記長辺から前記把持部までの 前記包装袋の傾斜角θが25〜45度であるのに対し、乙24発明で は、パネル部の傾斜角θが20〜50度である点(構成要件2Iに関 5 連)。 ? 相違点3:本件発明2においては、長辺同士の間隔Wが105〜1 34mmであるのに対し、乙24発明では、パネル部山折り稜線45 と55の間隔(長辺同士の間隔)が不明である点(構成要件2Jに関 連)。 10 b 他方、乙25公報には、以下の?から?までの記載があるところ、乙 25公報の実施例1〜6においては、2plyのトイレットロールを図 2のように一列に2個2段並べて収納したものが記載されており、これ らの実施例においては、トイレットロールが潰れにくく、フィルム強度 にも優れ、かつゴワゴワ感も少なかったことが記載されている。なお、 15 乙25公報には、コアを含むトイレットロールの質量については記載が ないが、本件明細書2によれば、コアの質量は約4gであり、トイレッ トロールのコアの外形(長さ、直径)は、トイレットロールのホルダー により制限されるから、いずれのロールも質量は大きく変わらないと考 えられる。 20 乙25公報の記載に触れた当業者であれば、トイレットロールが潰れ にくく、フィルム強度にも優れ、かつゴワゴワ感が少ないという利点を 得るべく、乙24発明の包装体に対して、乙25公報に記載された具体 的なロール巻長、質量、ロールの収納形態(一列に2個2段並べて収納 すること)及びフィルムの坪量を組み合わせて適用することを動機付け 25 られる。 したがって、相違点1は、乙25公報に記載された構成に基づいて、 32 当業者が容易に想到し得るものである。 ? 【請求項1】:フィルムからなる包装袋に、衛生薄葉紙のシートを 巻いたロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージであっ て、前記ロール製品が2plyの場合、巻長が65〜95m、コアを 5 除く1ロールの質量が200〜350g、巻き硬さが1.0〜3.0 mmであり、・・・、前記フィルムの坪量が25〜45g/m 2である ロール製品パッケージ。 ? 【0004】・・・本発明は、長巻のロール製品を包装袋に収納し たロール製品パッケージにおいて、持ち運ぶ際に破れにくくてゴワゴ 10 ワせず、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品を包装した場合にロ ール製品が潰れ難いロール製品パッケージの提供を目的とする。 ? 【0015】上記した巻長、質量、巻き硬さを有する長巻のトイ レットペーパーは、通常のトイレットペーパーに比べて1ロールの重 量が重いため、通常のトイレットペーパー用のフィルムで包装すると、 15 フィルムが破れやすい。一方、フィルムの坪量を高めて強度を高くす ると、ロール製品を締め付ける力が強くなり、ロール製品が潰れやす くなる。そこで、本発明はフィルムの強度(坪量)を適正な範囲に規定 している。特に、ロール製品の巻き硬さ/フィルムの坪量をコントロ ールすると、ロール製品がさらに潰れにくく、かつ、フィルムの強度 20 を適正にすることができる。 c また、乙24発明におけるパネル部の傾斜角θは20〜50度であり、 本件発明2における傾斜角θ(25〜45度)と広く重複している。傾 斜角θが大きいと、ロール製品の潰れにつながる負荷である、パネル部 の端部にかかる力F/sinθとの関係で有利であるが、角度を大きく 25 しすぎると、パネル部の高さが高くなり、全体のパッケージが縦方向に 長くなる。したがって、ガゼット包装のパネル部を、パネル部の端部に 33 係る力F/sinθと、パッケージの大きさのバランスを適度にとるよ うに設計することは当業者であれば適宜なし得ることにすぎず、本件発 明2における25〜45度という傾斜角も、そのような考え方に基づい て、当業者が適宜選択し得る範囲のものにすぎない。 5 また、長巻のロールはロールの密度が高く通常のロールよりも硬いか ら、ガゼット包装の切妻屋根部の端部に係る負荷によりロールの潰れが 生じるという問題は、むしろ、通常のロールよりも生じにくい。よって、 当業者であれば、通常のロールが潰れない程度の傾斜角θであれば、長 巻のロールについても、十分に当該問題は解決し得ると理解する。 10 したがって、相違点2についても当業者が容易に想到し得るものであ る。 d 乙25公報に記載されたロール製品の巻直径は、100〜135mm (段落【0017】)であり、実施例1から実施例12までにおいては、 120mmあるいは133mmである。乙25公報には、パッケージの 15 長辺同士の間隔Wについての直接の記載はないが、同間隔Wは、通常ロ ール製品の巻直径と同等かやや大きい程度であるから、乙25公報には、 本件発明2の間隔W(105〜134mm)についても記載されている に等しい。 したがって、相違点3についても当業者が容易に想到し得るものであ 20 る。 (原告の主張) a 本件発明2では、構成要件2A、2B、2F、2G、及び2Jにおい て、パッケージに包装するロール製品の性状と配置を定め、そのような ロール製品を包装するパッケージに適した構成要素として、構成要件2 25 C、2D、2E、2H(その前提となるフィルムの坪量も含む。)、2I を定め、ロール製品を持ち運びやすく、かつ、潰れ難いようにしつつ、 34 持ち運ぶ際にフィルムが破れにくくしており、さらに、そのような形状 において構成要件2Jとすることで、包装袋内でロール製品を安定して 保持できるようにしている(段落【0016】、【0019】から【00 25】まで)。これに対し、乙24発明は、「前記ロール製品が上下に縦 5 横2個並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装」した状態において、「複 数本の指を挿通しても指の痛みが生じず、持手部の破損を防止したスリ ットを有する包装体」を提供することを目的とする発明であり、本件発 明2とは前提とする技術的思想が異なる。このような乙24発明におい て、本件発明2が規定する各要素を採用する動機付けは生じない。 10 仮に、乙25公報に「包装体の内容量(個数、質量)に応じて、適切な 坪量のフィルムを選択するという技術的事項が記載」されているとして も、そのような技術的事項を乙24発明に採用すべき理由(動機付け) や、ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個並べた段を2段重ねて 収納する構成を採用する動機付けが不明である。乙24発明の技術的思 15 想は「複数本の指を挿通しても指の痛みが生じず、持手部の破損を防止 したスリットを有する包装体」であるところ、その際にはフィルムの固 さなども影響するはずであるが、被告の主張によれば、そのフィルムま で変更してしまうことになるから、このような変更は、もはや乙24発 明の技術的思想に反するとさえいえ、乙24発明に乙25公報記載のフ 20 ィルムの坪量を適用することには阻害事由がある。 したがって、相違点1は、乙25公報の記載に基づいて、当業者が容 易に想到し得るものであるとはいえない。 b 傾斜角とロール製品の潰れに関係があることについての着想のない当 業者にとっては、「傾斜角θが大きいと、ロール製品の潰れにつながる 25 負荷である、パネル部の端部にかかる力F/sinθとの関係で有利で ある」ことに思いをはせることができない。乙24公報における傾斜角 35 の技術的意義は、ロール製品を上下に縦横2個並べた段を2段重ねる構 成(合計8個のロール)を前提に、山折り稜線43、53の掴み難さと 包装がルーズになることによる運搬のしがたさを調整することにある。 一方、本件発明2の傾斜角の技術的意義は、ロール製品が軸方向を上下 5 にして一列に2個並べた段を2段重ねて包装袋に包装される(合計4個 のロール)ことを前提に、長辺45、55に接するロール製品50の端 部にかかる負担を小さく、ロール製品50が動いて安定性が劣ったり、 包装袋100のサイズが大きくなりコストが高くならないようにするこ とである。このような技術的意義の相違を無視して、単に数値の重なり 10 の程度を問題にする被告の主張には理由がない。 したがって、相違点2は、当業者が容易に想到し得るものであるとは いえない。 c 本件発明のロール製品は「長巻のロール製品」であるから、乙24発 明のような「従来のロール製品」とは異なる。このような乙24発明の 15 包装体に対して、乙25公報に記載された収容対象(長巻のロール製品)、 ロールの収容形態(2個2段並べて収納したもの)及びフィルムの坪量 を組み合わせて適用することの動機付けはない。 したがって、相違点3も、当業者が容易に想到し得るものであるとは いえない。 20 (イ) 本件発明2の特許法36条6項1号適合性(争点2−3−2) (被告の主張) 本件発明2の課題は、「長巻のロール製品をガゼットタイプの包装袋に 収納したロール製品パッケージにおいて、持ち運び易く、かつ適度な巻き 硬さを有するロール製品を包装した場合にロール製品が潰れ難く、さらに 25 持ち運ぶ際にフィルムが破れにくく包装袋内でロール製品を安定して保持 できるロール製品パッケージの提供」(【0005】)である。 36 これに対し、本件発明2では、長辺同士の間隔Wが規定されているが、 「ロール製品を包装した場合にロール製品が潰れ難」い、あるいは、「包 装袋内でロール製品を安定して保持できる」という課題との関係では、ロ ールの巻直径との関係が示されていなければ、間隔Wを規定しても、当該 5 課題を解決することができないことは明らかである。傾斜角θの規定につ いても同様である。 したがって、本件発明2は、発明の課題を解決する手段を明らかに欠い ているから、当業者が、本件発明2によって、発明の課題を解決できると は認識しない。 10 (原告の主張) 本件明細書2には、「なお、間隔Wの測定は次のように行う。まず、図6 に示すように、包装した状態のまま、最上段の各ロール製品50の巻直径 DR1、DR2を定規で測定し、この値(合計2カ所)を平均し、これを長 辺45、55同士の間隔Wとする。」(【0022】)、「・・・なお、間 15 隔Wは、ロール製品50の巻直径と同一とみなすことができるので、 ・・ ・」 (【0025】)と記載されているから、本件発明2には、実質的にロール 製品の巻直径の記載があるといえる。 ? 本件発明3について ア 各被告製品が本件発明3の技術的範囲に属するか(争点3−1) 20 (ア) 構成要件3Aの充足性(争点3−1−1) (原告の主張) 各被告製品は、いずれも、2プライ積層したトイレットペーパーをロー ル状に巻き取ったトイレットロールであり、構成要件3Aを充足する。 本件明細書3によれば、「坪量を下げない」という課題は、巻長、巻直 25 径、エンボスパターン、ロール柔らかさ等を特定することによって解決し ていることは明らかであるから、 「坪量を下げない」との課題に関連して、 37 本件発明3がその「坪量」まで特定しなければならないものではなく、本 件発明3の発明特定事項として坪量の限定が要求されるものではない。 (被告の主張) a 本件発明3は、トイレットペーパーの坪量を従来技術の13g/m2より 5 も下げないこと前提として、シート及びロールの柔らかさと長巻の両立を 図るものである。そうすると、本件発明3は、トイレットペーパーの坪量 が13g/m2を超えることを前提とすると理解される。 よって、構成要件3Aは、「2プライ積層した坪量を13g/m 2を超え るトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであっ 10 て、」と解釈されるべきである。 b 実験結果報告書に記載されているとおり、各被告製品は、「2プライ積 層した、坪量が11.9、12.1、12.3、12.4あるいは12.5 g/m 2 であるトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロ ール」であって、「2プライ積層した坪量が13g/m 2を超えるトイレッ 15 トペーパーをロール状に巻き取った」ものではない。 よって、各被告製品は、構成要件3Aを充足しない。 (イ) 構成要件3Bの充足性(争点3−1−2) (原告の主張) 各被告製品は、いずれもエンボスパターンを有している。 20 各被告製品に付されているエンボスはダブルエンボスであるが、紙の表 面に高速でエンボスローラーを当ててエンボスパターンを施しているため、 無数にあるエンボスパターンの全てが寸分違わず同一の深さであるという ことはありえない。そのことはシングルエンボスでも、ダブルエンボスで も変わらないから、各エンボス間にばらつきがあることをもって、本件発 25 明3が、ダブルエンボスを除外しているとは解釈し得ない。 (被告の主張) 38 a 本件発明3において、形状測定レーザマイクロスコープを用いて測定し た、エンボスパターンの深さが0.01mm以上0.40mm以下である こと(構成要件3F)を規定し、当該構成を発明の課題を解決するための 構成としているということは、本件特許3においては、付与された後のエ 5 ンボスパターンの深さ及び形状が明確に測定することができることを前提 とし、かつ、当該物性を規定することで、何らかの課題解決に寄与し得る ということを意味する。したがって、トイレットペーパーに係る技術常識 からすると、そのようなエンボスパターンは、2枚のプライを重ねた後に、 エンボスを施すシングルエンボスしか当てはまらない。 10 よって、構成要件3Bは、「前記トイレットペーパーにシングルエンボ スによるパターンを設け」と理解されるべきである。 b 各被告製品は、「トイレットペーパーにダブルエンボスによるパターン を設け」たものであり、シングルエンボスによるパターンを設けたもので はない。 15 よって、各被告製品は、構成要件3Bを充足しない。 (ウ) 構成要件3Fの充足性(争点3−1−3) (原告の主張) 各被告製品は、エンボスのエンボスパターンの深さが0.09mm(被 告製品1)、0.08mm(被告製品2)、0.08mm(被告製品3)で 20 ある。よって、各被告製品はいずれも構成要件3Fを充足する。
上記(イ)の(原告の主張)のとおり、本件発明3が、ダブルエンボスを除 外しているとは解釈し得ない。シートの紙厚などを調整し、シートの柔ら かさを向上させ、美粧性を高めるというエンボスパターンを設ける目的に 照らせば、シート全体としてどのようにエンボスパターンが設けられてい 25 るかが大事なのであって、1つ1つのエンボスパターンを個別に比較して、 厳密な均一さを要求すること自体無意味である。本件明細書3でも、1つ 39 1つのエンボスパターンを個別に見れば一定のばらつきがあることを当然 の前提として、エンボスパターンの深さについて、10個のエンボスを用 いて、その平均値を採用している。 エンボスパターンの深さDは、断面曲線から「最大値Max−最小値M 5 in」で求まるものであるところ、底部に盛り上がりが存在しようと、最 小値Minは求まる(最も高さが低いところが最小値Minである。)の である。 (被告の主張) a 上記(イ)の(被告の主張)のとおり、本件発明3は、トイレットペーパー 10 にシングルエンボスによるパターンを設けたものに限定される。そして、 トイレットペーパーとしてのエンボス深さを規定する技術的意義も、エン ボスが均一に付与されるシングルエンボスであってこそ意味のあるものに なる。 したがって、構成要件3Fにおける、エンボスパターンの深さは、シン 15 グルエンボスの深さと解するのが相当である。 b 各被告製品は、ダブルエンボスという深さが不規則なエンボスパターン を有するものであって、エンボスパターンの付与によりトイレットペーパ ーの一定のかさ高さを得ようとする技術的思想がなく、また、エンボスパ ターンの深さが一定しない。本件発明3において、エンボスパターンの深 20 さを定める技術的意義に照らすと、各被告製品のエンボスパターンの深さ を測定して、構成要件3Fに当てはめようとすること自体、理にかなって いない。 よって、各被告製品は、構成要件3Fを充足しない。 c また、実際、各被告製品のエンボスパターンの周縁は、ワンショット3D 25 測定マイクロスコープではそのほとんどのエンボスにおいて認識できない (測定不可能)。本件発明3においては、エンボスパターンにより、一律 40 かつ均一にかさ高さを得るための指標としてエンボスパターンの深さが定 められているところ、各被告製品において、エンボスパターンの深さの測 定の基礎となるエンボスパターンの周縁が認識できないから、各被告製品 は、構成要件3Fを充足しない。 5 原告によるエンボスの断面曲線による測定は、エンボスの最長部a、最 長部bを基準として測定を行っておらず、エンボスの中心から大きくはず れた位置で、断面曲線を取得している。また、曲率極大点P1、P2を基 準として深さを測定していない。測定結果では、断面曲線で緑色の枠内を 決定し、「この位置における、変曲点(P1、P2)を決定すると「×」で 10 示した箇所となる」としているが、このような測定方法は、本件明細書3 に記載された測定方法ではない。その上、断面曲線の取得画面のスケール が、画面によって異なっており、意図的である。 したがって、原告の測定結果は信用できない。 イ 無効理由の有無(争点3−2) 15 (ア) 乙17公報に記載された発明に基づく本件発明3の新規性欠如(争点3 −2−1) (被告の主張) a 乙17公報には、「2枚の衛生薄葉紙を積層した積層体をロール状に 巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記積層体にエンボスパターン 20 を設け、前記衛生薄葉紙ロールの巻長が74〜93m、巻直径が100 〜130mm、衛生薄葉紙ロール。」という発明(以下「乙17発明2」 という。)が記載されている。 本件発明3と乙17発明2を対比すると、以下の相違点1〜3におい て相違し、その余の点については一致している。 25 ? 相違点1:本件発明3においては、ロール柔らかさが0.4mm以 上1.9mm以下であるのに対し、乙17発明2では、ロール柔らか 41 さについて明示的な記載がない点(構成要件3Eに関連)。 ? 相違点2:本件発明3においては、エンボスパターンの深さが、0. 01mm以上0.40mm以下であるのに対し、乙17発明2では、 エンボス深さについて明示的な記載がない点(構成要件3Fに関連)。 5b 前記?イ(ア)(争点1−2−1)の(被告の主張)cで述べたとおり、 本件発明1と、乙17発明1の物性が広く一致していることからすると、 乙17発明1及び乙17発明2のエンボス深さは、本件発明1のエンボ ス深さの値(0.05〜0.40mm)と広く一致する。そうすると、本 件発明3のエンボスパターンの深さの値(0.01〜0.40mm)と 10 乙17発明2のエンボス深さも広く一致するといえる。 よって、相違点2は実質的な相違点ではない。 c また、本件発明3における「ロール柔らかさ」は、本件発明1におけ る「巻固さ」の試験を、単に、アクリルパイプをロール芯に挿入して行 うようにしたものであり、「圧縮子の押し込み深さ」を基準としている 15 という点では、当該「巻固さ」と同じである。そして、トイレットロール に対する圧縮子の押し込み深さは、トイレットロールの密度(紙自体の 密度+紙の巻き方、エンボスに由来する密度)に影響されると理解され る。本件発明3で明らかにされている物性のうち、ロール柔らかさを決 定付ける物性としては、(A)トイレットペーパーの坪量(紙自体の密度 20 に関係)(B)トイレットペーパーの比容積(紙自体の密度に関係)(C) 巻密度(紙の巻き方に関係)(D)ロール密度(紙の巻き方に関係)(E) エンボスパターンの深さ(エンボスに関係)が挙げられ、これらの値が 一致していれば、ロール柔らかさの値も一致すると推測される。 本件明細書3の実施例、比較例を見ると、上記(A)の坪量と(B)の比 25 容積が一致していれば、ロール柔らかさと(C)の巻密度あるいは(D) ロール密度には、強い相関があると考えられる。そして、前記bで述べ 42 たとおり、上記(E)のエンボスパターンの深さは、本件発明3と乙17 発明2で一致している。また、本件発明3と乙17発明2は、ロール柔 らかさを決定付ける上記(A)から(D)までの物性が広く一致している そうすると、相違点1も実質的な相違点ではない。 5 (原告の主張) a 乙17公報において、エンボス条件は「エンボス処理後の紙厚及び比 容積、エンボス処理前後の紙厚差」との関係で言及されているにすぎず、 エンボス自体の深さを特定の範囲に収めることは、開示も示唆もされて いない。そうすると、乙17公報は、エンボスパターンの深さについて 10 は検討すらしておらず、エンボスパターンの深さを所定の範囲内に収め るという技術的思想もない。 したがって、相違点2は実質的な相違点である。 b また、前記?イ(ア)(争点1−2−1)の(原告の主張)bで述べたと おり、乙17公報にはエンボスパターンの深さについての記載はなく、 15 乙17公報にはエンボスパターン深さについて一切開示も示唆もされて いない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 公然実施された発明に基づく本件発明3の新規性欠如(争点3−2−2) (被告の主張) 20 a 本件特許3の出願日前である平成28年3月8日付け確定日付のある 新居浜公証役場作成の公正証書(以下「本件公正証書」という。)には、
原告の製品である「スコッティフラワーパック3倍長持ちダブル6ロー ル」 (以下「先行原告製品」という。)の記載及び写真があり、先行原告製 品が平成27年10月21日に発注されていることからすれば、先行原 25 告製品は、同日には、不特定多数の者が入手し得る状態であった。 b 先行原告製品の商品名、パッケージの記載及び本件公正証書の記載内 43 容からすると、先行原告商品は、「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体を ロール状に巻き取ったトイレットロールであって、前記積層体にエンボ スパターンを設け、前記トイレットロールの巻長が75.6又は75. 4m、巻直径が117.8mm、ロール柔らかさが1.7mmであり、前 5 記エンボスパターンの深さが0.08mmであるトイレットロール。」 との構成を有する。この構成は、本件発明3と異ならない。 (原告の主張) a 本件公正証書に示されている先行原告製品の測定に用いられたロール のパッケージには印字されたロット番号が記載されていない上、先行原 10 告製品が保管されていたとされる段ボール内に、当該製品の納入日が平 成27年10月27日であるにもかかわらず、同年8月11日付の紙質 試験データ記入用紙が封入されており、測定に用いられた先行原告製品 が、本件特許3の出願前に公然と実施(販売)されたものであるのかは、 本件公正証書からは不明である。 15 b また、本件公正証書の写真や、ダンボールの梱包が平成28年3月8 日に封印されたものであることからすれば、被告が測定に用いた先行原 告製品は、ダンボールに入れて横向きに寝かせた状態で5年半もの長期 間にわたって保管されていたことになる。本件公正証書には、このダン ボールがどのような環境で保管されていたのかについては記載されてお 20 らず、適切な環境で保管されていたかどうかは不明である。空気の湿度 や温度などの影響で、紙中の水分量が変化し、紙が伸縮するなど、その 性質が変化することは技術常識であるから、約6年間もの長期間にわた って保管されているうちに、シートやロールの特性が変化してしまって いる可能性は極めて高い。実際、写真No.30を見ると、被告が測定 25 に用いたロール(測定対象ロール)は潰れて大きく変形してしまってお り、測定する箇所によってはエンボスが潰れてしまっている可能性があ 44 り、エンボスパターンの深さが変化している可能性がある。これらから すると、先行原告製品を令和3年9月の時点で測定した結果は、当該先 行原告製品が製造、販売時に備えていた特性を反映しているとはいえな い。 5 また、写真No.30のとおり大きく変形しているロール1のロール 柔らかさは、どの方向で測定するのかによって測定結果が異なる可能性 があるところ、本件公正証書の20枚目には、ロール1をどの方向で測 定したのかが記載されておらず、本件明細書3の【0027】のように 測定に当たってアクリルパイプを挿入したことも記載されていない。 10 以上によれば、本件公正証書により、被告が主張する発明は認定でき ない。 本件発明3の特許法36条6項1号適合性(争点3−2−3) (被告の主張) 本件発明3の構成のうち、エンボスを付した長巻の2プライのトイレッ 15 トロールであることを規定する前提条件(構成要件3A〜3D)以外の要 件は、(ア)ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下(構成要件3 E)(イ)エンボスパターンの深さが0.01mm以上0.40mm以下 (構成要件3F)である。 本件発明3の課題は、坪量を下げずにシート及び「ロールの柔らかさに 20 優れる」トイレットロールを提供すること(【0008】)であり、上記 (ア)の「ロール柔らかさ」は、本件発明3のトイレットロールにおいて 達成された物性であって、発明の解決手段ではないから、発明の解決手段 といえるものはエンボスパターンの深さのみであるが、本件明細書3には、 エンボスパターンの深さのみを規定すれば、上記発明の課題を解決し得る 25 と理解できる記載はない。 また、本件発明3は、本件発明1と同様に、当該発明の前提となる、坪 45 量を13g/m2より高くするという要件を欠いており、かつ、シングルエ ンボスであるとの特定がない。 (原告の主張) 前記?イ(イ)(争点1−2−2)の(原告の主張)で述べたのと同様に、 5 本件発明3において、坪量の点を発明特定事項として特定していないこと をもって、サポート要件を欠くことにはならない。 ウ 訂正の再抗弁の成否(争点3−3) (原告の主張) (ア) 原告は、無効審判手続において、訂正請求を行った。訂正後の請求項1 10 (以下「本件訂正発明3−1」という。)は以下のとおりである(下線部が 訂正請求部分)。 3A 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイ レットロールであって、 3B 前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、 15 3C 前記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、 3D 巻直径が105mm以上140mm以下、 3E’ ロール柔らかさが0.8mm以上1.5mm以下であり、 3F 前記エンボスパターンの深さが、0.01mm以上0.40mm以 下であり、 20 3K CIE(国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペー パーの表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度U V−inと、波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介 して、前記C光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射したとき のISO 2470に準拠した白色度UV−cutとの差Δが0.0 25 ポイント以上2.5ポイント以下である 3G トイレットロール。 46 (イ) 本件訂正発明3−1に関する訂正内容のうち、構成要件3E’に係る訂 正は、訂正前に規定されていたロール柔らかさの範囲を減縮するものであ る。また、本件訂正発明3−1に関する訂正内容のうち、構成要件3Kに 係る「CIE(国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペー 5 パーの表面側に照射したときのISO2470に準拠した白色度UV− inと、波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介して、前 記C光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射したときのISO 2 470に準拠した白色度UV−cutとの差 Δ が0.0ポイント以上2. 5ポイント以下である」という訂正(以下、この差 Δ を「白色度差」とい 10 う。)は、訂正前に規定されていなかった白色度差に関する限定を新たに 加えるものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 本件訂正発明3−1と被告が主張する公然実施発明とは、ロール柔らか さについて、本件訂正発明3−1のロール柔らかさが0.8mm以上1. 5mm以下であるのに対し、公然実施発明のロール柔らかさが1.7mm 15 である点において相違する。以上のとおりの相違点が存在することから、 本件訂正発明3−1は、被告が主張する公然実施発明とは異なる。 各被告製品のロール柔らかさは、被告製品1が1.2mm、被告製品2 が0.9mm、被告製品3が1.4mmであり、いずれも訂正後の構成要 件3E’が規定する「0.8mm以上1.5mm以下」の範囲内である。ま 20 た、白色度差は、被告製品1が0.06ポイント、被告製品2が0.04ポ イント、被告製品3が0.05ポイントであり、いずれも訂正後の構成要 件3Kが規定する「0.0ポイント以上2.5ポイント以下」の範囲内で ある。したがって、各被告製品は、本件訂正発明3−1の技術的範囲に属 する。 25 (ウ) また、訂正後の請求項5(以下「本件訂正発明3−2」という。)は以下 のとおりである。(なお、原告は、本件訂正発明3−1と本件訂正発明3 47 −2は、ロール柔らかさの範囲及びエンボスパターンの面積率の限定の有 無のみで異なり、その余に関する主張、判断が共通することから、本件発 明3に関する主張、反論をもって、請求項5に記載された発明に基づく主 張、反論も同様にされたものとして、訂正の再抗弁として本件訂正発明3 5 −2に基づく主張をするものと解される。)。 3A 2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイ レットロールであって、 3B 前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、 3C 前記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、 10 3D 巻直径が105mm以上140mm以下、 3E ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下であり、 3F 前記エンボスパターンの深さが、0.01mm以上0.40mm以 下であり、 3L エンボスパターンの面積率が、7%以上45%以下であり、 15 3K CIE(国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペー パーの表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度U V−inと、波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介 して、前記C光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射したとき のISO 2470に準拠した白色度UV−cutとの差 Δ が0.0 20 ポイント以上2.5ポイント以下である 3G トイレットロール。 (エ) 本件訂正発明3−2に関する訂正内容のうち、訂正前の請求項1の発明 特定事項を導入することを内容とするものは、訂正前において請求項5が 請求項1を引用していたものを、引用しないものとするものであり、特許 25 法126条1項4号記載の引用関係の解消を目的とするものである。構成 要件3Lに係る訂正は、訂正前において規定されていなかったエンボスパ 48 ターンの面積率に関する限定を新たに加えるものであって、特許請求の範 囲の減縮を目的とするものである。 本件訂正発明3−2と被告が主張する公然実施発明とは、本件訂正発明 3−2のエンボスパターンの面積率が7%以上45%以下であるのに対し、 5 公然実施発明のエンボスパターンの面積率が47.2%である点において 相違する。したがって、本件訂正発明3−2は被告が主張する公然実施発 明ではなく、争点3−2−2に係る被告が主張する無効理由は訂正により 解消している。 前記(イ)のとおり、各被告製品の白色度差は、被告製品1が0.06ポイ 10 ント、被告製品2が0.04ポイント、被告製品3が0.05ポイントで あり、いずれも訂正後の構成要件3Kが規定する「0.0ポイント以上2. 5ポイント以下」の範囲内である。また、各被告製品のエンボスパターン の面積率は、被告製品1が33.2%、被告製品2が32.2%、被告製品 3が30.4%であり、いずれも訂正後の構成要件3Lが規定する「7% 15 以上45%以下」の範囲内である。したがって、各被告製品は、本件訂正 発明3−2の技術的範囲に属する。 (被告の主張) (ア) 前記ア(ア)(争点3−1−1)、同(イ)(争点3−1−2)及び同(ウ)(争 点3−1−3)の各(被告の主張)で述べたとおり、各被告製品は、いずれ 20 も構成要件3A、構成要件3B及び構成要件3Fを充足しない。また、各
被告製品はエンボス面積が測定できないから、当然エンボスパターンの面 積率も算出できず、本件訂正発明3−2の構成要件3Lも充足しない。 したがって、各被告製品は、本件訂正発明3−1及び本件訂正発明3− 2の技術的範囲に属しない。 25 (イ) また、本件訂正発明3−1と乙17発明2には、以下の相違点がある。 a 相違点1’:本件訂正発明3−1においては、ロール柔らかさが「0. 49 8mm以上1.5mm以下」であるのに対し、乙17発明2においては、 乙17にロール柔らかさについての記載がなく不明である点(構成要件 3E’)。 b 相違点2:本件訂正発明3−1においては、エンボスパターンの深さ 5 が0.01mm以上0.40mm以下であるのに対し、乙17発明2で は、エンボスパターンの深さについて明示的な記載がない点(構成要件 3F)。 c 相違点3:本件訂正発明3−1においては、白色度UV−inと白色 度UV−cutの差Δが0.0ポイント以上2.5ポイント以下である 10 のに対し、乙17発明2に差Δの記載がなく不明である点(構成要件3 K)。 (ウ) 相違点2は、前記イ(ア)の(被告の主張)のとおり、実質的な相違点では ない。 また、乙17発明2の実施例3のエンボス深さは0.12mmであり、 15 これは本件訂正発明3−1のエンボス深さの範囲に含まれ、本件訂正発明 3―1と乙17発明2は、ロール柔らかさを決定付ける各物性が広く一致 している。そうすると、乙17発明2には、「0.8mm以上1.5mm以 下」のロール柔らかさを有するものが含まれると強く推認できるから、相 違点1’は実質的な相違点ではない。また、白色度差を生じる要因は、脱 20 墨パルプに含まれる蛍光染料であり、脱墨パルプを含まなければ白色度差 は0に近い値になるところ、乙17公報には、実施例で製造された衛生薄 葉紙の原材料について蛍光染料を含む脱墨パルプを含んでいないことが記 載されているといえる。したがって、乙17公報の実施例で製造された衛 生薄葉紙における白色度差は実質的に0であり、乙17発明2は、白色度 25 差が0.0ポイント以上2.5ポイント以下であるとの要件も実質的に備 えているから、相違点3は、実質的な相違点にはならない。 50 したがって、本件訂正発明3−1は、乙17公報に記載された発明であ る。 (エ) 本件訂正発明3−2と乙17発明2には、上記(ウ)に記載したものに加え て、次の相違点がある。 5a 相違点3:本件訂正発明3−2においては、白色度UV−inと白色 度UV−cutの差Δが0.0ポイント以上2.5ポイント以下である のに対し、乙17に差Δの記載がなく不明である点(構成要件3K) b 相違点4:本件訂正発明3−2においては、エンボスパターンの面積 率が7%以上45%以下であるのに対し、乙17発明2には、同面積率 10 について記載がない点(構成要件3L) (オ) しかし、上記(ウ)のとおり、相違点3は、実質的な相違点ではない。 また、本件明細書3には、エンボスパターンの面積率のみを特定するこ とにどのような技術的意義があるのかは記載されておらずエンボスパター ンの面積率を特定することに技術的意義はない。そして、乙21公報には、 15 エンボスパターンの面積率が、19.3%、20.4%である構成が記載 されている。そうすると、本件訂正発明3−2におけるエンボスパターン の面積率は、公知の範囲のものであり、本件訂正発明3−2におけるエン ボスパターンの面積率の要件は、明らかに技術的意義及びその数値範囲の 臨界的意義を欠いているから、エンボスパターンの面積率を本件訂正発明 20 3−2の数値範囲とすることは、当業者が適宜なし得るものである。 したがって、本件訂正発明3−2は、乙17公報に記載された発明及び 乙21公報に記載された構成に基づいて、当業者が容易に発明をすること ができたものである。 (カ) 上記ウの(原告の主張)(イ)のとおり、本件訂正発明3−1と被告が主張 25 する公然実施発明とは、ロール柔らかさについて、本件訂正発明3−1の ロール柔らかさが0.8mm以上1.5mm以下であるのに対し、公然実 51 施発明のロール柔らかさが1.7mmである点において相違するが、被告 が測定したサンプルが1.7mmであるとしても、サンプルによっては、 0.8mm以上1.5mm以下に収まる蓋然性が高く、この点は実質的相 違点ではないか、当業者が適宜調整できるものである。したがって、本件 5 訂正発明3−1は、公然実施された発明であるか、公然実施発明に基づい て、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、上記ウの (原告の主張)(エ)のとおり、本件訂正発明3−2と被告が主張する公然実 施発明とは、本件訂正発明3−2のエンボスパターンの面積率が7%以上 45%以下であるのに対し、公然実施発明のエンボスパターンの面積率が 10 47.2%である点において相違するが、上記(オ)のとおり、エンボスパタ ーンに技術的意義はないし、本件訂正発明3−2におけるエンボスパター ンの面積率は既に従来技術によって公知のものである。したがって、本件 訂正発明3−2は、公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ とができたものである。 15 (キ) 本件訂正発明3−1及び本件訂正発明3−2は、坪量が規定されておら ず、また、エンボスの種類についても何ら規定されていない。そうすると、 坪量及びエンボスの種類の観点から、課題を解決できない部分を依然とし て含むものであり、サポート要件を充足せず、無効事由は解消されていな い。 20 ? 原告の損害額(争点4) (原告の主張)
被告による現在までの各被告製品の売上合計は1億円を下らず、これによる
被告の利益の額は、3000万円を下らない。また、本件における弁護士費用 は300万円を下らない。 25 (被告の主張) 争う。 52 第3 当裁判所の判断 1 本件発明1について ? 本件明細書1には、別紙本件明細書1(抜粋)のとおりの記載がある。 ? 上記によれば、本件発明1の意義は次のとおりである。 5ア 本件発明1は、2プライに重ねられたトイレットペーパーを巻き取ったト イレットロールに関するものである(【0001】。 ) イ トイレットペーパーは、主に4ロール又は12ロール等を単位として包装 されたものが市販されている。これらの包装体はかさ張るため、購入時に持 ち運べる量は限られており、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、 10 家庭や職場、公共施設などにおいても保管スペースが限られている。このよ うなことから、トイレットペーパーのシート1枚当りの坪量を14g/m2以 下に低減し、巻長を長くしたトイレットロールが開発されているが、紙の坪 量を下げると、強度が低下すると共に使用感やかさ高さが低下する。一方、 これらの不具合を補うべく紙のかさを高くするため、カレンダー処理を弱め 15 ると、滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホ ルダーに収まり難くなる問題がある(【0002】〜【0004】 。) また、トイレットペーパーの坪量を高くしながら風合いを向上させた従来 技術においては、ロールの柔らかさについては検討されていない。ロールの 柔らかさとは、店頭でトイレットロールを手に持ったときの触感であり、仮 20 にシート自体が柔らかくてもロールが硬いと、シートも硬いと思われてしま い、購入を促すことができないという問題がある(【0004】。 ) ウ 本件発明1は、以上のような課題を前提として、坪量を下げずにシート及 びロールの柔らかさに優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、販促効果 を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に優れたトイレットロールの提供 25 を目的とするものであり、このような課題を解決する手段として、トイレッ トペーパーのシートの柔らかさについては、例えばエンボスを付与して適度 53 な凹凸状にすることで向上させ、さらにロールの柔らかさと巻長を確保する ため、巻固さ、巻密度について着目したものである 【0004】 0005】。 (、【) 2 構成要件1Bの充足性(争点1−1−2)について ? 構成要件1Bは、「前記エンボスのエンボス深さが0.05〜0.40mm、」 5 というものであり、本件発明1のトイレットペーパーのエンボスのエンボス深 さを定めている。 本件発明1のトイレットペーパーのエンボスのエンボス深さについては、本 件明細書1の【0020】から【0025】までにその測定方法に関する記載 があり、そこでは、 【図4】【図5】 、 (a)(b)が参照されている。それらによ、 10 れば、構成要件1Bのエンボス深さは、おおむね、以下のように測定されたも のである。 ア 本件発明1のエンボス深さDは、形状測定レーザマイクロスコープを用い て、エンボスの高低差を測定することで求める。形状測定レーザマイクロス コープは、点光源であるレーザ光源を、対物レンズを介して観察視野内のX 15 −Y平面を複数に分割したピクセルにスキャンし、各ピクセルの反射光を受 光素子で検出する。形状測定レーザマイクロスコープとしては、KEYEN CE社製の製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ VR−3100」 を使用することができ、レーザマイクロスコープの画像の観察・測定・画像 解析ソフトウェアとしては、製品名「VR−H1A」を使用することができ 20 る。【0021】。このように形状測定レーザマイクロスコープにより測定 () された高さプロファイルは図5(a)のようなものであり、その濃色部位が 個々のエンボスを示す(【0022】。 ) 54 【図5】(a) イ 個々のエンボスについて、図4に示すような、周縁frの最長部である最 長部aと、最長部aに垂直な方向での最長部bとを求める(【0022】【0 、 024】。 ) 5 【図4】 55 ウ 図5aの濃色部が個々のエンボスを示し、X−Y平面画像の色の濃淡でエ ンボスの凸部(非エンボス部)と凹部が分かるので、エンボスの最長部aを 見分けることができ、凸部と凹部が隣接している部分を横切るように線分A −Bを引くと、図5(b)に示すようにエンボスの高さ(測定断面曲線)プロ 5 ファイルが得られる。【0022】 () 【図5】(b) エ 図5(b)の高さプロファイルは、実際のトイレットぺーパーの試料表面 の凹凸を示す(測定)断面曲線Sであるが、トイレットペーパーの表面にあ 10 る繊維塊などのノイズも含んでいるから、図6に示すように、高さプロファ イルの断面曲線Sから、λc:800μm(ただし、λc は JIS-B0601「3.1.1.2」 に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」)より短波長 の表面粗さの成分を低減フィルタによって除去して輪郭曲線Wを計算する。 この輪郭曲線Wのうち、上に凸となる2つの変曲点P1、P2と、変曲点P 15 1、P2ではさまれる最小値を求め、これを深さの最小値Minとする。変 曲点P1、P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。そして、 エンボス深さD=最大値Max−最小値Minとする。また、変曲点P1と P2のX−Y平面上の距離(長さ)を最長部aの長さとする。 (【0023】。 ) 56 【図6】 オ 最長部aに垂直な方向での最長部bについても、上記ウ及びエと同様の方 法で、エンボス深さDを測定し、最長部aと最長部bの各エンボス深さDの 5 うち、大きい方の値をエンボス深さDとして採用する。【0025】() カ 上記ウからオまでの測定を、トイレットペーパーの表面の任意の10個の エンボスについて行い、その平均値を最終的なエンボス深さDとして採用す る。【0025】 () キ エンボス深さDを測定する際、シングルエンボスパターンであっても、ダ 10 ブルエンボスパターンであっても、測定面はトイレットペーパーの表面側と する。エンボス深さDで任意の10個のエンボスを選定する際には、トイレ ットロールの外巻の端部(トイレットペーパーを使用し始める位置)から、 トイレットロールの巻長の20%に当たる部分で測定する。巻長の20%の 部分がミシン目に当たる場合は、ミシン目の外巻側を測定する。 (【0025】) 15 ? 本件明細書1には、エンボスの深さの測定方法が記載されており、上記?エ のとおり、輪郭曲線のP1、P2を「変曲点」とした上で、P1とP2ではさま れる最小値や、P1とP2の深さの平均値を求め、その平均値と最小値の差を エンボス深さとしている。その「変曲点」とされるP1、P2は、 「上に凸とな る」ものである。ここで、図6でP1、P2として示されている点の位置に照 20 らせば、それらP1、P2は、輪郭曲線において「上に凸となる曲率極大点」で あると認められる。上記「変曲点」と呼ばれている点が、 「上に凸となる曲率極 大点」であることは、本件において、両当事者間に実質的に争いがないと認め 57 られる。なお、原告が出願、保有する特許第6150843号に関し、トイレ ットペーパーのエンボス深さの測定について本件明細書1と同様の記載があっ たところ、「上に凸となる2つの変曲点P1、P2」の記載が、「エンボス内側 に向かって上に凸となる2つの曲率極大点P1、P2」の誤記であるとして、 5 訂正が認められた(訂正2017−390145。乙69ないし71)そこで、 。 以下、上記「変曲点」は、 「上に凸となる曲率極大点」であると扱い、上記「変 曲点」について、適宜、P1、P2などという。 ? 原告は、各被告製品について、エンボス深さD、エンボス面積を測定した結 果として実験結果報告書(甲10。以下「甲10報告書」という。 を提出する。 ) 10 甲10報告書には、KEYENCE社製の「ワンショット3D測定マイクロス コープVR−3100」を用いて、エンボスの高低差を測定して求めること、 トイレットペーパー表面の高さが濃淡で表される形状測定レーザマイクロスコ ープによるX−Y平面上の高さプロファイルによりエンボスの形状が略正方形 であることを確認し、その略正方形の横方向の辺の長さをaとすること、該略 15 正方形を水平方向に横切る線で、エンボスの高さ(測定断面曲線)プロファイ ルを得ること、X−Y平面上の高さプロファイルの断面曲線Sから輪郭曲線W を計算し、その輪郭曲線Wのうち、上に凸となる二つの曲率極大点P1、P2 を求め、P1、P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとすること、曲 率極大点P1、P2ではさまれる最小値を求めて、深さの最小値Minとする 20 こと、得られた最大値Maxと最小値Minの差をエンボス深さとすること、
同様に、該略正方形をaに垂直な方向に横切る線でエンボス深さを測定するこ と、これらの二つのエンボス深さのうち大きいほうをエンボス深さDとするこ と、別のエンボスにおいて、以上の作業を繰り返し、10個のエンボスの深さ を測定することが記載されている。そして、そのような測定の結果、エンボス 25 深さの平均は、被告製品1が0.09mm、被告製品2が0.08mm、被告製 品3が0.08mmであったことが記載されている。また、別の実験結果報告 58 書(甲19)には、甲10報告書で測定したエンボスが、全巻長の外巻端から 20%の位置にあり、シートの幅方向の一列に並んでいるエンボス10個であ ったことが記載されている。
原告は、甲10報告書の測定結果に基づき、各被告製品が、構成要件1Bを 5 充足する旨主張する。 ? 甲10報告書には、測定方法の説明の部分において輪郭曲線の図が1枚掲載 され、その曲線上にP1、P2が示されているが、その図がどの製品に関する ものであるかの記載はなく、甲10報告書記載の各測定において、それぞれど のような輪郭曲線が得られ、そのうちのどの点をP1、P2としたかを示す図 10 などはない。
原告は、甲10報告書の提出後、甲10報告書の測定において断面曲線上の P1、P2をどのように特定したかについての記載や、甲10報告書で測定し たデータに基づく、測定対象の各エンボスが写っているX−Y平面画像(以下、 「ワンショット画像」という。 とそれに対応する断面曲線の図が示され、 ) また、 15 その断面曲線でのP1、P2の位置が示されている報告書(甲51。以下「甲 51報告書」という。)を提出した。 甲51報告書では、P1、P2の特定について、 「なお、ワンショット画像を 見るとエンボスの位置やおおよその幅が確認できる。そこで、ワンショット画 像やワンショット画像上に重ねて表示される断面曲線とを見ながら、断面曲線 20 を観察することで、断面曲線のどこがエンボスに対応しているのかが理解でき る。例えば、以下のワンショット画像の黄色の枠内にあるエンボスのエンボス 深さを測定する場合、黄色の枠内に測定対象のエンボスがあり、これが断面曲 線でいえば緑色の枠内の部分に対応することが理解できる。そこで、この位置 における変曲点(P1、P2)を決定すると、「×」で示した箇所となる(各断面 25 写真で示した「×」はこのようにして決定している。)。」と記載されている。そ して、甲51報告書には、各被告製品の測定対象とした10個のエンボスにつ 59 いて、ワンショット画像と、水平方向と垂直方向の断面曲線上の2点に「×」 が付された図が示されている(以下、このような甲51報告書で示された原告 による測定方法を「原告測定方法」ということがある。。 ) ? 本件明細書1では、【図4】が示され、最長部aとそれと垂直な方向での最長 5 部bを求めることとし、X−Y平面画像の色の濃淡でエンボスの凸部と凹部が 分かるので、最長部aを見分けることができ、凸部と凹部が隣接している部分 を横切るように線分A−Bを引き、断面曲線で上に凸となる曲率極大点をP1、 P2として、エンボスの深さDを求めている。 他方、甲10報告書では、各被告製品のエンボスの形状が略正方形であるこ 10 とを確認したとして、その略正方形の横方向の辺の長さをaとしたうえで、該 略正方形を水平方向に横切る線及びその線を垂直に横切る線で、エンボスの高 さ(測定断面曲線)プロファイルを取得している。 仮にエンボスの形状が略正方形であるとしても、本件明細書1でいう最長部 aが、その横方向の辺の長さとなるとは必ずしもいえず(被告は、甲51報告 15 書のワンショット画像に照らし、甲51報告書記載の測定では、略正方形を水 平方向に横切る線がエンボスの中心から外れた位置で断面曲線を取得している と指摘する。、原告測定方法におけるエンボスの深さを測定するための測定断 ) 面曲線の取得位置は、本件明細書1で示された位置であるとは必ずしもいえな い。また、本件明細書1では、断面曲線で上に凸となる曲率極大点をP1、P 20 2としているのに対し、原告測定方法では、断面曲線上のP1、P2の具体的 位置はワンショット画像によって決められたものである。このようなP1、P 2の決定方法は、本件明細書1に記載された測定方法とはいえない。なお、後 記?で示すとおり、原告測定方法によってP1、P2とされた点の中には、各
被告製品について、上に凸となる曲率極大点でない点が相当数存在する。 25 そうすると、以上に述べた点で、原告測定方法で測定されたエンボスの深さ Dは、本件明細書1に記載された方法で測定されたものとはいえない。 60 ? 甲51報告書において示された、被告製品1のエンボス@、Aのワンショッ ト画像及びこれを白黒の画像にさせたものは以下のようなものである。 ≪ワンショット画像≫ 5 ≪白黒にしたワンショット画像≫ また、甲51報告書において示された、被告製品1のエンボス@、A、Fと される2点の「×」が付された断面曲線は、次のとおりである。 61 これらの断面曲線をみると、上記エンボス@及びAの水平方向の点について は、原告がP1、P2として選択した赤字の×マークの間に凸部がみられるの 5 であり、この凸部の点にそのプロファイル中「上に凸となる曲率極大点」が認 62 められるにもかかわらず、この点をP1又はP2として特定していない。また、 エンボスFの水平方向では、「上に凸」ですらない点をP1、P2としている。 そして、そのように本件明細書1の測定方法に従ったP1、P2とはいえな い点をP1、P2として特定しているといえるのは、被告製品2のエンボス@、 5 A及びE、被告製品3のエンボスB、C、D、F、G、H及びIにおいても、同 様である。 これらの点で、甲10報告書でエンボス深さDとされているのは、本件明細 書1記載の測定方法によるエンボス深さDであるということはできないもので ある。 10 そして、そもそも、本件明細書1では、本件発明1のエンボス深さDの測定 に当たり、X−Y平面上の高さプロファイルの濃淡によりエンボスの凸部、凹 部が分かることでエンボスの周縁の位置が特定できることを前提として、個々 のエンボスについて、エンボスの周縁frの最長部aを求めるとしている。と ころが、各被告製品のワンショット画像(X−Y平面上の高さプロファイル) 15 は、被告製品1のエンボス@、Aについて上に示したものと同様のものであり、 各被告製品のエンボスは、エンボス周縁の位置が明確に特定できるようなもの ではない。前記?のとおり、原告測定方法において、略正方形とされるエンボ スの横方向の辺の長さをaとすることが本件明細書1記載の測定方法によると は必ずしもいえないことに加え、各被告製品においては、本件発明1が前提と 20 するようなエンボスの周縁frが認められるとは必ずしもいえない。
被告は、トイレットペーパーの表面、裏面の各シートをそれぞれ表面に凹凸 をつけるエンボス処理した後、それぞれのシートの凸部同士を内側にして2プ ライにするようなダブルエンボスでは、表面と裏面のシートのエンボスが干渉 し、これらを常に干渉しないようにすることはほぼ不可能であり、付与された 25 後のエンボスの形状、深さを明確に測定することができないので、本件発明1 は、シングルエンボスのトイレットロールのみに限定されると主張する。 63 しかしながら、本件明細書1記載の方法でエンボス深さDを測定することが でき、そこで測定されたエンボス深さDに本件発明1の技術的意味があるもの であれば、本件発明1のトイレットロールが、シングルエンボスのトイレット ロールに限定されるとは認められない。また、トイレットロールにおけるエン 5 ボスであるという性質上、各エンボスの形状については一定のばらつきがある ことが想定されているといえる。 もっとも、本件発明1のエンボス深さDは、X−Y平面上のエンボスの高さ プロファイルを得ることができ(【図5】(a)、エンボスの周縁frやその最 ) 長部aがどこに位置するのかを特定できるトイレットロールについて、【図5】 10 (b)、 【図6】のような断面曲線を得た上で、測定されたものであり、そのよう にして測定されたものであるエンボス深さDが一定の数値のトイレットロール について本件発明1の効果を奏するとしているものといえる。各被告製品は、 各シートのエンボスの凹凸の位置関係を特に調整しないまま、プライボンディ ングした通常の2プライのダブルエンボスである(弁論の全趣旨)。このような 15 ダブルエンボスのトイレットロールにおいては、表面と裏面にそれぞれ付され たエンボスが重なるとは限らず、エンボスの周縁が一致することが保証されて いないことから、エンボスの周縁が明確にならず、また、エンボスの凹凸の位 置がずれることにより干渉し、その形状が明瞭でないエンボスが生じ得る。そ して、甲51報告書によれば、各被告製品については、原告がエンボスとして 20 特定した部分の中央に、断面曲線で上に凸の曲率極大点が認められるなど、そ のエンボスが本件発明1のエンボス深さDを測定する際に想定されていた凹部 形状のものであるかが必ずしも明らかではないほか、X−Y平面上のエンボス の高さプロファイルによって、エンボスの周縁frやその最長部aがどこに位 置するのかを確定できるものとは必ずしもいえない。そうすると、そのような 25 エンボスが付された各被告製品のトイレットロールについてエンボスを10個 選んで測定を行い、それらの平均値として一定の深さDを求めたとしても、本 64 件発明1におけるエンボス深さDが測定できたということはできない。 ? 以上によれば、原告測定方法は、本件明細書1に記載されたエンボス深さの 測定方法とはいえず、原告測定方法に基づいた甲10報告書によって、各被告 製品が構成要件1Bを充足するとは認めることはできない。甲51報告書その 5 他の証拠によっても、各被告製品について、本件発明1におけるエンボス深さ Dが明らかであってその数値が構成要件1Bを充足するということを認めるに 足りない。 したがって、各被告製品はいずれも構成要件1Bを充足するとはいえない。 3 本件発明3について 10 争点の内容に鑑み、次に、本件発明3及び争点3−1−3を検討する。 ? 本件明細書3には、別紙本件明細書3(抜粋)のとおりの記載がある。 ? 上記によれば、本件発明3の意義は次のとおりである。 ア 本件発明3は、2プライ積層したトイレットペーパーを巻き取ったトイレ ットロールに関するものである。【0001】 () 15 イ トイレットロールは、主に4ロール、12ロール等を単位として包装され たものが市販されている。これらの包装体はかさばるため、購入時に持ち運 べる量は限られており、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、家 庭や職場、公共施設などにおける保管時においては、保管スペースが限られ ているため、保管できる量にも限度がある(【0002】。そして、紙の坪量 ) 20 を下げると、強度が低下すると共に使用感やかさ高さが低下する。また、こ れらの不具合を補うため、カレンダー処理を弱め紙のかさを高くすると、滑 らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに 収まり難くなったりする問題がある(【0006】。 ) また、トイレットペーパーの坪量を高くしながら、風合いを向上させ、シ 25 ートの柔らかさを確保した従来技術においては、ロールの柔らかさについて は検討されていない。ロールの柔らかさとは、店頭でトイレットロールを手 65 に持ったときの触感であり、店頭でロールを巻きほぐしてシートの柔らかさ を確認することができないため、ロールが硬いと、仮にシート自体が柔らか くてもシートも硬いと思われてしまい、購入を促すことができないという問 題がある。【0004】【0007】 (、) 5ウ 本件発明3は、1ロールあたりの巻長を長くし、坪量を下げずにシート及び ロールの柔らかさを良好にすることで、持ち運べる量や保管時の省スペース 性に優れると共に、良好な柔らかさによる販促効果を高めたトイレットロー ルの提供を目的とするものである(【0008】。 ) 4 構成要件3Fの充足性(争点3−1−3)について 10 ? 構成要件3Fは、「前記エンボスパターンの深さが0.01mm以上0.40 mm以下である」というものであり、本件発明3のトイレットペーパーのエン ボスパターンの深さを定めている。 本件発明3のトイレットペーパーのエンボスパターンの深さについては、本 件明細書3の【0045】〜【0053】にその測定方法に関する記載があり、 15 そこでは、 【図4】【図5】(a)、(b)、 、 【図6】【図7】が参照されている。それ、 らによれば、構成要件3Fのエンボスパターンの深さは、以下のように測定さ れたものである。 ア 本件発明3のトイレットロールにおけるトイレットペーパーのエンボスパ ターンの深さDは、マイクロスコープを用いてエンボスパターンの高低差を 20 測定して求める。マイクロスコープとしては、KEYENCE社製の製品名 「ワンショット3D測定マクロスコープ VR−3100」を使用すること ができ、マイクロスコープの画像の観察・測定・画像解析ソフトウェアとし ては、製品名「VR−H1A」を使用することができる。【0045】【00 (、 46】) 25 イ 個々のエンボスについて、図4に示すような、周縁frの最長部である最 長部aと、最長部aに垂直な方向での最長部bとを求める(【0047】【0 、 66 051】。 ) 【図4】 ウ 図5(a)は、マイクロスコープによるX−Y平面上の高さプロファイル 5 であり、トイレットペーパー表面の高さが濃淡で表され、図5(a)の濃色 部位が個々のエンボスパターンを示し、図5(a)から1つのエンボスパタ ーンの最長部aを見分けることができる。この最長部aを横切る線分A−B を引くと、図5(b)に示すようにエンボスパターンの高さ(測定断面曲線) プロファイルが得られる。ここで、X−Y平面画像の色の濃淡で、エンボス 10 パターンの凸部(非エンボスパターン部)と凹部がわかるので、凸部と凹部 が隣接している部分を横切るように線分A−Bを決めればよい。 (【0047】) 67 【図5】 エ 図5(b)の高さプロファイルは、実際のトイレットペーパーの試料表面 の凹凸を表す(測定)断面曲線Tであるが、トイレットペーパーの表面にあ 5 る繊維塊などのノイズも含んでいるから、図6に示すように、高さプロファ イルの断面曲線Tから「輪郭曲線」Uを計算し、この輪郭曲線Uのうち、上 に凸となる2つの変曲点P1とP2を求めて、変曲点P1とP2で挟まれる 最小値を求めることによって、深さの最小値Minとする。なお、 輪郭曲線」 「 68 は、断面曲線から λc:800μm(ただし、λcはJIS−B0601「3. 1. 2」 1. に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」) より短波長の表面粗さの成分を低域フィルタによって除去して得られる曲線 である。 5 さらに、変曲点P1、P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとす る。 そして、エンボスパターンの深さD=最大値Max−最小値Minとする。 また、変曲点P1、P2のX−Y平面上の距離(長さ)を最長部aの長さと 規定する。【0048】【0049】 【0050】 (、、) 10 【図6】 オ 図5(a)において最長部aに垂直な方向での最長部bについても、上記 ウ及びエと同様の方法で、エンボスパターンの深さDを測定し、最長部aと bの各エンボスパターンの深さDのうち、大きい方の値をエンボスパターン 15 の深さDとして採用する。【0051】 () カ 上記ウからオまでの測定を、トイレットペーパーの表面側の任意の10個 のエンボスパターンについて行い、その平均値を最終的なエンボスパターン の深さDとして採用する。ただし、図7に示すように、エンボスパターンが 流れ方向(MD方向)につながっている場合、最長部aが巻長と同じになっ 20 てしまい、高低差が得られず、凹部の深さDを測定できない。そこで、エン ボスパターンがつながる方向(MD方向)に直交する幅W方向に、エンボス パターンを跨ぐように線分A−Bを引き、凹部の深さDを測定することがで 69 きる。同様に、エンボスパターンが幅W方向(CD方向)につながっている 場合、流れ方向(MD方向)に、エンボスパターンをまたぐように線分A− Bを引き、凹部の深さDを測定する。【0051】 () 【図7】 5 キ エンボスパターンの深さDの測定において任意の10個のエンボスパター ンを選定する際には、トイレットロールの外巻の端部(トイレットペーパー を使用し始める位置)から、トイレットロールの巻長の20%に当たる部分 で測定する。巻長の20%の部分がミシン目に当たる場合は、ミシン目の外 10 巻側を測定する。エンボスパターンの深さDを測定する際、シングルエンボ スパターンであっても、ダブルエンボスパターンであっても、測定面はトイ レットペーパーの表面側とする。【0052】【0053】 (、) ? 本件明細書3には、エンボスパターンの深さの測定方法が記載されており、
上記?エのとおり、輪郭曲線のP1、P2を「変曲点」としている。しかし、 15 本件発明1において前記2 で述べたのと同じ理由により、本件発明3におい ても、上記「変曲点」は、「上に凸となる曲率極大点」であると認められる。 ? 原告は、甲10報告書を提出し、測定の結果、エンボスパターンの深さの平 均が、被告製品1が0.09mm、被告製品2が0.08mm、被告製品3が 0.08mmであったことに基づき、各被告製品が構成要件3Fを充足する旨 20 主張する。また、前記のとおり、甲51報告書を提出した。 本件明細書3に記載のエンボスパターンの深さDの測定方法は、基本的に、 70 本件発明1に記載のエンボス深さDの測定方法と同一といえる。 そして、本件発明3との関係の甲10報告書、甲51報告書の各記載は、本 件発明1について前記2?及び?で述べたところと同じである。 そうすると、前記2?及び?で述べたのと同様の理由により、各被告製品は 5 いずれも構成要件3Fを充足するとはいえない。 5 本件発明2について ? 本件明細書2には、別紙本件明細書2(抜粋)のとおりの記載がある。 ? 上記によれば、本件発明2の意義は次のとおりである。 ア 本件発明2は、長巻のトイレットペーパーなどの薄葉紙のロール製品を複 10 数個包装袋に収納したロール製品パッケージに関するものである(【000 1】。 ) イ トイレットペーパー等の包装袋として、ポリエチレン等の筒状フィルムに ガゼット(ガセット)を対称的に折り込んで本体とし、その上部を平面状に 折り畳んで把持部を構成したものが用いられており、その把持部には購入者 15 が運搬するための指掛け穴が備えられている。また、上記した包装袋の本体 と別体の帯状の把持部を、包装袋の上面をまたいで、両端部をそれぞれ本体 の対向する側面に接合したものが用いられている。 近年、トイレットペーパー等のロール製品を従来に比べてより長く巻き取 り、1個のロール当りの有効使用量を多くし、持ち運び時及び保管時のコン 20 パクト化を図ったものが販売されている。しかし、長巻のロール製品は1個 のロール当りの重量が大きいため、ロール製品を包装したパッケージを消費 者が持ち運ぶ際、持ち手部や包装袋の底面に荷重がかかる。そこで、包装袋 の本体や持ち手部等の強度を確保するために、包装袋を厚くすることが考え られる。しかし、包装袋を厚くして強度を高くすると、ロール製品を包装し 25 た際、ロール製品を締め付ける力が増してロールが潰れやすくなったり、フ ィルムがゴワゴワしてフィルムの触感が悪くなるという問題がある。また、 71 ロールが潰れにくくなるようにロールを固く巻くと、ロールを持った時の柔 らかさが劣るという問題がある。また、包装袋の対向する上辺から上方に向 かって切妻屋根型に延びて接合される把持部を設けたガゼットタイプに長 巻のロール製品を包装すると、包装袋の上辺と把持部の間に荷重がかかり、 5 この部位のロール製品の端部が潰れる場合があった。【0002】【000(、 3】【0005】 、) ウ 本件発明2は、以上のような課題を前提として、長巻のロール製品をガゼ ットタイプの包装袋に収納したロール製品パッケージにおいて、持ち運びや すく、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品を包装した場合にロール製品 10 が潰れ難く、さらに持ち運ぶ際にフィルムが破れにくく包装袋内でロール製 品を安定して保持できるロール製品パッケージの提供を目的とするもので ある(【0005】。 ) 6 構成要件2Eの充足性(争点2−1−1)について ? 構成要件2Eは、「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ 15 ぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向 に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、 というものであり、 」 本件では、 一つのスリット状の指掛け穴に関する構成が問題となる。
上記の特許請求の範囲の記載によれば、形成される指掛け穴は、把持部のほ ぼ中央に形成され、「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状」 20 のものである。 本件明細書2には、本件発明2の実施例として【図1】が示され、その説明 において、 「把持部4のほぼ中央に、上向きに非切抜部を有するほぼ長円のスリ ット状の指掛け穴2が設けられている。そして、購入者がロール製品パッケー ジ200を運搬する際に指掛け穴2のスリットを切抜き、非切抜部を固定端と 25 する片部を上方に折り返すと、折り返し部がU字形に屈曲するので鋭い端面が 生じず、指が痛くならない。但し、指掛け穴2の形状はこれに限定されない。」 72 (【0012】)との記載がある。
上記段落では把持部のほぼ中央に設けられた「上向きに非切抜部を有するほ ぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」の構成の説明がされており、これは、 文言からも、構成要件2Eの指掛け穴の構成についての説明であると認められ 5 る。そして、その指掛け穴について、指掛け穴2のスリットを切り抜いた際、 非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されること及び折り返し部がU字 形に屈曲することで鋭い端面が生じないことが記載されている。 構成要件2Eは、 「前記把持部には、ほぼ中央に上向きに非切抜部を有するほ ぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴、又は上向きに非切抜部を有して横方向 10 に沿って並ぶ二個の指掛け穴が形成されており、」というものであり、特許請求 の範囲の「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」 との文言は、その「指掛け穴」が既に「形成」されているものであることから も、その「形成」されている「指掛け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」で あり、また、そのほぼ長円の上部輪郭が非切抜部であると理解することができ 15 るものであるところ、本件明細書2の上記部分には、そのような理解に沿う構 成が記載されているということができ、そのような理解を前提として、その「ス リット状のほぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの 切り抜きにより上方に折り返されるものであることが記載されているといえる。 また、 【図1】に記載された指掛け穴も上記の理解に沿ったものである。そうす 20 ると、構成要件2Eの「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット 状の指掛け穴」とは、同構成について本件明細書2において記載されている、
上記に述べたとおりの構成のものであると認められる。 ? 被告製品1の包装袋のスリットは、写真2の左側の写真の赤破線で示された とおりのものであり、被告製品3の包装袋のスリットは、写真2の右側の写真 25 の赤破線で示されたとおりのものである。 前記?のとおり、構成要件2Eについては、その「指掛け穴」が「ほぼ長円の 73 一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭の 非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きにより上方に折り返される ものであり、その非切抜部は、 「スリット状」の「ほぼ長円」の一部を構成する ものである。そして、非切抜部を固定端とする片部が上方に折り返されるため 5 には、その非切抜部の固定端が、「スリット状」の「ほぼ長円」の上部輪郭にあ る必要がある。
被告製品1及び被告製品3の包装袋のスリットをみると、その両端部はそれ ぞれ外側に湾曲して下方に向かい、終端が内側に位置しているから、このよう なスリットの両端部の終端の位置を考慮すると、被告製品1及び被告製品3に 10 おいては、形成されている「スリット状」の「指掛け穴」の下部輪郭が「非切抜 部」であるともいえ、その非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜き により上方に折り返されるものではない。また、原告主張の熱融着部(写真3 参照)とスリットとを見ると、スリットは、その中央が、その上方に対しては、 弧状であるとしても、その左右には、上方への折り返しとなる頂点が存在せず、 15 それ自体「ほぼ長円」を形成しているとはいえず、 「スリット状」 「ほぼ長円」 の が形成されていないから、原告主張の上記熱融着部の円弧が「スリット状」の 「ほぼ長円」の上部輪郭にあるとはいえず、そこを構成要件2Eの「非切抜部」 であるということはできない。そうすると、被告製品1及び被告製品3には、 「上向きに非切抜部を有するほぼ長円の一つのスリット状の指掛け穴」に相当 20 する構成があるとはいえない。 ? 原告は、被告製品1及び被告製品3のスリットが切り抜かれることで把持部 に下に凸の円弧が生じ、スリットと熱融着部などによって形成される非切抜部 によって、ほぼ長円の形状の指掛け穴が形成されると主張する。 しかし、前記?のとおり、構成要件2Eにおいては、形成されている「指掛 25 け穴」が「ほぼ長円の一つのスリット状」であって、その「スリット状」の「ほ ぼ長円」の上部輪郭の非切抜部を固定端とする片部がスリットの切り抜きによ 74 り上方に折り返されるのであり、その非切抜部は、 「スリット状」 「ほぼ長円」 の の一部を構成するものである。被告製品1及び被告製品3においては、 「スリッ ト状」の「ほぼ長円」が形成されているとはいえず、被告製品1及び被告製品 3において、スリットの上方の熱融着部などによって形成される部分が構成要 5 件2Eの非切抜部であるとする原告の主張は採用できない。 ? 以上によれば、被告製品1及び被告製品3は、いずれも、構成要件2Eを充 足せず、本件発明2(本件発明2−1から本件発明2−4まで)の技術的範囲 に属するということはできない。 7 被告製品1及び被告製品3が、特許請求の範囲に記載された構成と均等なもの 10 として本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2−2)について
原告は、本件発明2では指掛け穴の有するスリットが内側に回り込んでいるの に対し、被告製品1及び被告製品3ではスリットが内側に回り込んでいない点で、
被告製品1及び被告製品3が本件発明2と文言上相違するとした上で、この点に ついて均等侵害が成立する旨主張する。 15 しかしながら、被告製品1及び被告製品3においては、スリットは、その中央 部分のみが上方に対して弧状であり、本件発明2の構成とは基本的な形状が異な るといえるものなのであって、これが直ちに被告製品1及び被告製品3の製造時 において本件発明2から容易に想到することができたとは認めるに足りず、また、
原告は、本件異議申立事件の決定の予告後に、指掛け穴を構成要件2Eの構成に 20 限定したと述べて構成要件2Eの構成を加えて、他の構成の指掛け穴の形状を意 識的に除外したといえる。したがって、均等侵害をいう原告の主張には理由がな い。 以上によれば、被告製品1及び被告製品3は、いずれも、特許請求の範囲に記 載された構成と均等なものとして本件発明2(本件発明2−1から本件発明2− 25 4まで)の技術的範囲に属するということはできない。 第4 結論 75 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由が ないから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判官 杉田時基 裁判長裁判官柴田義明及び裁判官仲田憲史は、転補のため署名押印できない。 裁判官 杉田時基 76 (別紙) 物件目録 1 エリエールi:na(イーナ)トイレットティシュー3.2 倍巻(4ロール入り) 52 エリエールi:na(イーナ)トイレットティシュー3.2 倍巻(8ロール入り) 3 エリエールi:na (イーナ)トイレットティシュー3.2 倍巻 フラワープリント(4 ロール入り) 77 (別紙) 写真目録 1 5 2 10 3 15 4 20 25 78 別紙 本件明細書1(抜粋) 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 5 【0001】 この発明は、2プライに重ねられたトイレットペーパーを巻き取ったトイレットロ ールに関するものである。 【背景技術】 【0002】 10 トイレットペーパーは、主に4ロール又は12ロール等を単位として包装されたも のが市販されている。これらの包装体は嵩張るため、購入時に持ち運べる量は限ら れており、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、家庭や職場、公共施設 などにおいても保管スペースが限られている。 このようなことから、トイレットペーパーのシート1枚当りの坪量を14g/m2以 15 下に低減し、巻長を長くしたトイレットロールが開発されている(特許文献1、 。2) 又、本願出願人は、トイレットペーパーの1枚当りの坪量を13g/m 2より高くし て風合い、使用感を向上させながら、巻長を長くしたトイレットロールを開発した (特許文献3)。 【発明の概要】 20 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下 する。一方、これらの不具合を補うべく紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を 弱めると、滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホル 25 ダーに収まり難くなる問題がある。 また、特許文献3記載の技術は、トイレットペーパーの坪量を高くしながら、風合 79 いを向上させているが、ロールの柔らかさについては検討されていない。 ここで、ロールの柔らかさとは、店頭でトイレットロールを手に持ったときの触感 であり、直接シートの柔らかさを反映するものではない。しかしながら、店頭でロ ールを巻きほぐしてシートの柔らかさを確認することができないため、仮にシート 5 自体が柔らかくてもロールが硬いと、シートも硬いと思われてしまい、購入を促す ことができないという問題がある。 従って本発明は、坪量を下げずにシートおよびロールの柔らかさに優れると共に1 ロール当りの巻長を長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性に 優れたトイレットロールの提供を目的とする。 10 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、トイレットペーパーのシートの柔らかさについては、例えばエンボ スを付与して適度な凹凸状にすることで向上させ、さらにロールの柔らかさと巻長 を確保するため、巻固さ、巻密度について着目した。 15 つまり、エンボス等を付与してシートを柔らかくしても、ロールを固く巻きすぎる と、ロールの柔らかさが低下する。一方、ロールを弱く巻きすぎると、ロールの柔 らかさは向上するが、巻直径が大きくなって巻長が短くなるのである。 【0006】
上記課題を解決するため、本発明のトイレットロールは、2プライに重ねられ、エ 20 ンボスを有するトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであ って、前記エンボスのエンボス深さが0.05〜0.40mm、巻固さが0.3〜 1.4mm、巻長が63〜103m、巻直径が105〜134mm、巻密度が1. 2〜2.0m/cm2 であり、前記トイレットペーパーの比容積が、4.0〜6.5 cm3/gであり、前記エンボス1個当たりの面積が、2.5〜6.0mm 2である。 25 【0007】 前記エンボスがシングルエンボスであることが好ましい。 80 前記トイレットペーパーは、クラフトパルプを40〜100質量%含有することが 好ましい。 ミルクカートン由来の古紙パルプを0質量%を超え60質量%以下含有することが 好ましい。 5 CIE(国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射 したときのISO 2470に準拠した白色度 UV-in と、波長420nm以下の紫 外光をカットするフィルタを介して、前記C光源を前記トイレットペーパーの表面 側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度 UV-cut との差 Δ が0.0 〜2.5ポイントであることが好ましい。 10 【発明の効果】 【0008】 この発明によれば、坪量を下げずにシートおよびロールの柔らかさに優れると共に 1ロール当りの巻長を長くし、販促効果を高め、持ち運びや保管時の省スペース性 に優れたトイレットロールを得ることができる。 15 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下に本発明の好ましい実施形態につき説明するが、これらは例示の目的で掲げた ものでこれらにより本発明を限定するものではない。 図1に示すように、本発明の実施形態に係るトイレットロール10は、2プライに 20 重ねられたトイレットペーパー10xをロール状に巻き取ったトイレットロールで あって、巻固さが0.3〜1.4mm、巻長(巻き取り長さ)が63〜103m、巻 直径DR(ロールの外径)が105〜134mm、巻密度が1.2〜2.0m/c m2である。 トイレットペーパー10xのロール外側の表面をロール表面(又はトイレットペー 25 パーの表面)10aとし、ロール内側の表面をロール裏面(又はトイレットペーパ ーの裏面)10bとする。 81 トイレットロールの巻固さ、巻密度を上記範囲に調整する方法としては、坪量及び 紙厚を所定範囲に調整しつつ、ロールワインダー(特にサーフェイス式)でロール を巻く強さを調整する方法がある。 【0011】 5 トイレットロール10の巻固さが0.3mm未満の場合、ロールの柔らかさが劣る。 一方、巻固さが1.4mmを超えると、ロールが柔らかくなり過ぎて、トイレット ロール10のフィルムでの包装後に潰れたり、ロールの巻直径DRが大きくなって トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。巻固さは、好ましくは0.4〜 1.2mm、より好ましくは0.5〜0.9mmである。 10 ここで、エンボス等を付与してシートを柔らかくしても、ロールを固く巻きすぎる と、ロールの柔らかさが低下する。一方、ロールを弱く巻きすぎると、ロールの柔 らかさは向上するが、巻直径DRが大きくなって巻長が短くなる。このようなこと から、ロールの柔らかさと巻長を両立するための因子として、巻固さ、巻密度を規 定した。 15 トイレットロール10の巻固さは、圧縮試験機(カトーテック株式会社製のハンデ ィー圧縮試験機KES−G5)を用いて、次のように測定する。まず、トイレット ロール10を軸心が水平になるよう硬い台上に横に置く。次に、トイレットロール 10のロール表面の中央部に上記KES−G5の圧縮子(面積2.0cm 2)を、速 度10mm/分の条件で上から押し込む。圧縮子がロールを押す圧力が0.5gf 20 /cm2のときの押し込み深さをT0、圧力が50gf/cm 2のときの押し込み深 さをTmとして、 (Tm−T0)を巻固さとする。測定は5回行い、測定結果を平均 する。 【0012】 トイレットロール10の巻長が63m未満であると、1ロール当りの巻長が短くな 25 り、保管時の省スペースが図れない。ロールの巻長が103mを超えるものは、巻 直径DRが134mmを超えてしまい、トイレットペーパーホルダー等に収まり難 82 くなる。 巻長は、好ましくは70〜85m、より好ましくは73〜78mである。 【0013】 巻直径DRが105mm未満であると、巻長も63m未満に短くなる。巻直径DR 5 が134mmを超えると、トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。 巻直径DRは、好ましくは108〜125mm、より好ましくは113〜119m mである。 【0014】 巻密度は、 (巻長×プライ数) (ロールの断面積) ÷ で表される。ロールの断面積は、 10 {ロールの外径(巻直径DR)部分の断面積}−(コア外径部分の断面積)で表さ れる。コア外径DI(図1参照)は、ロールの中心孔の直径である。 巻密度が1.2m/cm 2未満であると、巻直径DRが134mmを超えてしまい、 トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。巻密度が2.0m/cm2を超え ると、シートの柔らかさが劣ったり、ロールの柔らかさが劣る。 15 巻密度は、好ましくは1.4〜1.8m/cm 2、より好ましくは1.5〜1.7m /cm2である。 【0015】 トイレットペーパー10xのシート1枚当りの坪量が13g/m 2 を超え17g/ m2以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であると、 20 巻固さ、巻長、巻直径DR、巻密度を上記範囲に調整し易くなるので好ましい。 1枚当りのトイレットペーパー10xの坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法と しては、原紙ウェブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積、カレ ンダー処理前後の紙厚差)及びエンボス条件を規定する。 【0016】 25 トイレットペーパー10xのシート1枚当りの坪量が13g/m 2以下であるか、又 は紙厚が0.6mm/10枚以下であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ) 83 も低下する場合がある。トイレットペーパー10xの1枚当りの坪量が17g/m 2を超えるか、又は紙厚が1.1mm/10枚を超えると、トイレットペーパーが厚 くなり、これを63m以上巻いたロールの巻直径DRが134mmを超え、トイレ ットペーパーホルダーに収まり難くなる場合がある。 5 トイレットペーパー10xのシート1枚当りの坪量がより好ましくは13.5〜1 6.5g/m2であり、さらに好ましくは14.1〜16.0g/m 2である。トイ レットペーパー10xの紙厚がより好ましくは0.65〜0.90mm/10枚で あり、さらに好ましくは0.71〜0.83mm/10枚である。 【0017】 10 <エンボス> 本発明のトイレットロール10(トイレットペーパー10x)に深さが0.05〜 0.40mmのエンボスが施されてなると好ましい。特に、シングルエンボスが好 ましい。 シングルエンボスは、図3に示すように、シートを2プライに重ねたトイレットペ 15 ーパー10xの一方の面からのみ、エンボスロール151のエンボス凸部を押し当 てて形成される。 図2は、トイレットロール10(トイレットペーパー10x)に設けられたシング ルエンボス2を示す断面図である。なお、図2の例では、トイレットペーパー10 xはシートを2プライに重ねてなり、図2の上部がロール表面10a側に対応する。 20 トイレットペーパー10xのエンボスロール151を押し当てた面(図2の表面) に凹部2R、裏面に凸部2Pが現れるエンボス(シングルエンボス)2が形成され る。 なお、図2(a)はエンボス深さが深い場合、図2(b)はエンボス深さが浅い場合 である。 25 【0018】 この場合、エンボス処理後のトイレットペーパー10xの紙厚t2(この紙厚は、 84 トイレットペーパー10xの表面の非エンボス部と、裏面のエンボスの凸部2Pの 間の距離を反映する)が同一であっても、原紙をカレンダー処理で紙厚t1まで薄 くしたシートを、エンボス深さDが深くなるようにエンボスを付けた図2(a)の 方が、シートが柔らかく風合いに優れる。これは、エンボスの凹凸が顕著な図2(a) 5 の方が、原紙の紙厚に対する嵩が高くなり(密度が低くなり)、変形し易くなってシ ートの柔らかさが向上するためと考えられる。 又、図2(a)の場合、エンボス深さDを深くするには、その分だけシート1枚当 りの紙厚t1を薄くして凹凸を顕著にする必要があることから、原紙のカレンダー 処理を強く行うことに起因してシートの柔らかさが向上する。 10 一方、トイレットペーパー10xの表面にエンボスを設けずに平滑にすると、滑ら か過ぎて表面がパリパリに感じ、シートの柔らかさが劣る。なお、トイレットペー パー10xのうち、温水洗浄便座の使用時等に水が付着し易いロール外側(ロール 表面10a側)に、エンボスの凹部2Rを設けると、凹部2Rは凸部より触感が良 いため、シートの柔らかさが向上する。 15 図8は、ロール表面10a側のエンボス凹部2Rの撮影画像を示す。 【0019】 なお、図2のシングルエンボスの代わりにダブルエンボスを施した場合、トイレッ トペーパー10xの表面、裏面側の各シートをそれぞれエンボス処理した後、それ ぞれのシートのエンボスの凸面同士を内側にしてプライアップして2プライにする。 20 そのため、トイレットペーパー10xの紙厚t2が高くなり過ぎ、巻密度が低くな って、巻長を確保することが難しくなる場合がある。ダブルエンボスでもエンボス 深さDを浅くすれば紙厚t2は低くなるが、シートの柔らかさが劣る場合がある。 従って、シングルエンボスが好ましい。 又、トイレットペーパー(シート)10xの柔らかさを確保する手段としては、表 25 面に凹凸を付与するものであれば、エンボスに限らず、例えば、凹凸ファブリック を用いて抄紙時にウェブに凹凸を付けてもよい。又、この場合、凹凸の深さは、後 85 述するエンボス深さDに相当する範囲とすると良い。 【0020】 <エンボス深さD> エンボス深さDは好ましくは0.05〜0.40mmであり、より好ましくは0. 5 09〜0.35mm、更に好ましくは0.13〜0.30mmである。エンボス深 さDが上記範囲より小さいと、エンボスの凹凸の度合いが小さくなって嵩が低くな り(密度が高くなり)、シートの柔らかさを向上させることが困難な場合がある。エ ンボス深さDが上記範囲を超えると、エンボスの凹凸が顕著になり過ぎて嵩が高く なり過ぎ(密度が低くなり過ぎ)、巻直径DRが134mmを超えてしまい、ペーパ 10 ーホルダーにトイレットロール10を装着し難くなる。 【0021】 又、エンボス深さDは、形状測定レーザマイクロスコープを用いてエンボスの高低 差を測定して求める。形状測定レーザマイクロスコープは、点光源であるレーザ光 源を、対物レンズを介して観察視野内のX−Y平面を複数に分割したピクセルにス 15 キャンし、各ピクセル毎の反射光を受光素子で検出する。そして、対物レンズを高 さ(Z 軸)方向に駆動し、最も反射光量の高い Z 軸位置を焦点として、高さ情報と反 射光量を検出する。このようにしてスキャンを繰り返すことにより、全体に焦点の 合った光量超深度画像と高低画像(情報)が得られる。レーザ光源は、ピンホール 共焦点光学系であるので、測定精度が高い。 20 形状測定レーザマイクロスコープとしては、KEYENCE 社製の製品名「ワンショット3 D測定マクロスコープ VR−3100」を使用することができる。レーザマイク ロスコープの画像の観察・測定・画像解析ソフトウェアとしては、製品名「VR− H1A」を使用することができる。又、測定条件は、倍率12倍、視野面積24m m×18mmの条件で測定する。なお、測定倍率と視野面積は、求めるエンボスの 25 大きさによって、適宜変更しても良い。 【0022】 86 まず、図4に示すように、エンボスの周縁frの最長部aを求める。図5(a)は、 形状測定レーザマイクロスコープによるX−Y平面上の高さプロファイルを示し、 トイレットペーパー表面の高さが濃淡で表されることがわかる。図5(a)の濃色 部位が個々のエンボス2を示し、図5(a)から1つのエンボス2の最長部aを見 5 分けることができる。この最長部aを横切る線分A−Bを引くと、図5(b)に示 すようにエンボス2の高さ(測定断面曲線)プロファイルが得られる。ここで、X −Y平面画像の色の濃淡で、エンボスの凸部(非エンボス部)と凹部がわかるので、 凸部と凹部が隣接している部分を横切るように線分A−Bを決めればよい。 【0023】 10 ここで、図5(b)の高さプロファイルは、実際のトイレットペーパーの試料表面 の凹凸を表す(測定)断面曲線Sであるが、ノイズ(トイレットペーパーの表面に 繊維塊があったり、繊維がヒゲ状に伸びていたり、繊維のない部分に起因した急峻 なピーク)をも含んでおり、凹凸の高低差の算出に当たっては、このようなノイズ ピークを除去する必要がある。 15 そこで、図6に示すように、高さプロファイルの断面曲線Sから「輪郭曲線」Wを 計算し、この輪郭曲線Wのうち、上に凸となる2つの変曲点P1、P2と、変曲点 P1、P2で挟まれる最小値を求め、深さの最小値Minとする。さらに、変曲点 P1、P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。 このようにして、エンボス深さD=最大値Max−最小値Minとする。又、変曲 20 点P1、P2のX−Y平面上の距離(長さ)を最長部aの長さと規定する。なお、 「輪郭曲線」は、断面曲線から λc:800μm(但し、λc は JIS-B0601「3.1.1.2」に 記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」)より短波長の表面粗 さの成分を低域フィルタによって除去して得られる曲線である。なお、λc を、隣接 するエンボス同士のP1の間隔(これを、エンボスピッチという)以上に設定する 25 と、ピークをノイズと認識してしまう可能性があるので、λc をエンボスピッチ未満 とする。例えば、エンボスピッチが 800μm 以下の場合、例えば λc:250μm に設定 87 する。隣接するエンボス同士のP1の間隔は、図6の左又は右に繋がる次のエンボ スについて同様にP1、P2を求め、隣接するエンボス同士でP1、P2、P1と 並ぶときの2つのP1の間隔である。 【0024】 5 同様にして、図5(a)において最長部aに垂直な方向での最長部bについてもエ ンボス深さDを測定し、最長部aとbの各エンボス深さDのうち、大きい方の値を エンボス深さDとして採用する。以上の測定を、トイレットペーパー10xの表面 10aの任意の10個のエンボス2について行い、その平均値を最終的なエンボス 深さDとして採用する。 10 又、最長部aと最長部bの積(a×b)をエンボス2の面積Sとして求める。最長 部aと最長部bは、上記したトイレットペーパー10xの表面10aの10個のエ ンボス2についての個々のa、bの値を平均した値を用いる。 エンボス面積Sは、好ましくは0.4〜7.0mm 2、より好ましくは1.5〜6. 5mm2、更に好ましくは2.5〜6.0mm 2、最も好ましくは3.5〜5.5m 15 m2である。エンボス面積Sが0.4mm2 未満であるとエンボスが小さすぎて美粧 性が劣る場合がある。一方、エンボス面積Sが7.0mm2を超えるとエンボスが大 きすぎて、同様に美粧性が劣る場合がある。 【0025】 なお、エンボス深さDを測定する際、シングルエンボスであっても、ダブルエンボ 20 スであっても、測定面は表面10a側とする。 また、エンボス深さDとエンボス面積Sで任意の10個のエンボス2を選定する際 には、トイレットロール10の外巻の端部(トイレットペーパーを使用し始める位 置)から、トイレットロール10の巻長の20%に当たる部分で測定する。例えば、 巻長が75mの場合、端部から75m×20%=15mの部分で測定する。なお、 25 巻長の20%の部分がミシン目に当たる場合は、ミシン目の外巻側を測定する。 【0026】 88 図3はロール巻取り加工機150の一例を示す。原紙ロールは、予めプライマシン で2プライにされると共にカレンダー処理され、原反4(各シートの紙厚t1)と なる。この原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット (エンボスロール)151によってシングルエンボス処理された後、巻取り機構1 5 53によって上記の巻直径の幅広のトイレットペーパー原ロール10Wに巻き取ら れる。その後、この原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、トイレット ロール10となる。 ロール巻取り加工機150は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種 類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支 10 持しながら巻取る方法であり、巻取られたトイレットロール10は、巻き径のコン トロールがし易く、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中 心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られたトイレットロール10 は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。 本発明においては、いずれの方法でも巻き取ることができるが、好ましくはサーフ 15 ェイス方式である。 なお、ロール巻取り加工機150にマシンワインダー100を組み込み、ロール巻 取り加工機にてプライアップ、カレンダー処理、エンボス処理をこの順で行っても よい。又、1枚ずつの衛生薄葉紙をそれぞれカレンダー処理後にプライアップし、 エンボス処理してもよい。 20 【0027】 エンボス深さDは、エンボスロール151と対向するゴムロール(図3参照)のニ ップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によって も異なるが、好ましくは20〜45mm、より好ましくは25〜42mm、さらに 好ましくは30〜39mmである。ニップ幅が45mmを超えると、エンボスが強 25 くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大 きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm未満であると、エンボスが弱くなっ 89 てシートの柔らかさが劣る場合がある。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定する ことができる。測定方法としては、まず、エンボスロールのニップを逃がし、カー ボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロールにニップ をかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボ 5 スロールでニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写される ので、ニップ幅を測定することができる。 なお、エンボスロールの凹凸が深ければニップ幅を狭くし、エンボスロールの凹凸 が浅ければニップ幅を広くすることで、エンボス深さDを調整できる。 【0028】 10 ロール巻取り加工機にて同時に、印刷、エンボス付与、ミシン目加工、テールシー ル、所定幅(114mm等)のカットを行うことができ、トイレットロール10を 製造することができる。さらに、その後、フイルム包装加工してトイレットロール の包装体を製造することができる。 【0029】 15 トイレットペーパーの比容積が4.0〜6.5cm3/gであることが好ましい。 比容積が4.0cm 3/g未満であると、シートの柔らかさが乏しくなったり、バル ク(嵩高さ)が低下して水分の吸収性に劣る場合がある。一方、比容積が6.5c m3/gを超えると、シートのバルク(嵩高さ)は高くなるが、エンボス後の紙厚が 高くなって巻径が大きくなる場合がある。上記比容積は、好ましくは4.3〜6. 20 1cm3/g、より好ましくは4.7〜5.6cm 3/gである。 【0030】 トイレットペーパー(2枚重ねのシート)のJIS P8113に基づく乾燥時の 縦方向の引張強さをDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)、乾燥時 の横方向の引張強さをDCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)とした 25 とき、DMDTが好ましくは2.2〜5.0N/25mm、より好ましくは2.5 〜4.5N/25mm、更に好ましくは2.7〜4.0N/25mm、DCDTが 90 好ましくは0.80〜2.2N/25mm、より好ましくは0.9〜1.9N/2 5mm、更に好ましくは1.0〜1.6N/25mmである。 DMDT及びDCDTが上記値未満であると、やぶれ易くて実用に適さないことが ある。DMDT及びDCDTが上記値より高いと硬くなり、シートの柔らかさが損 5 なわれることがある。 なお、トイレットペーパーの抄紙の流れ方向を「縦方向」とし、流れ方向に直角な 方向を「横方向」とする。 【0031】 トイレットペーパーの(2枚重ねのシート)の旧JIS S3104に基づく吸水 10 度は、7.0秒以下が好ましく、5.0秒以下がより好ましく、3.0秒以下が更に 好ましい。吸水度は、速い方がよいが、上記範囲を超えると、吸水性に劣る場合が ある。 トイレットペーパーを1枚に剥がした時のJIS-P4501に基づくほぐれ易さ は、60秒以下が好ましく、50秒以下がより好ましく、40秒以下が更に好まし 15 い。ほぐれ易さは、速い方がよいが、上記範囲を超えると、トイレでの水解性に劣 る場合がある。 【0032】 トイレットペーパーは木材パルプ100質量%から成っていてもよく、古紙パルプ、 非木材パルプ、脱墨パルプを含んでも良い。目標とする品質を得るためには、NB 20 KP(針葉樹晒クラフトパルプ)の含有率が好ましくは0〜30質量%、より好ま しくは0〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。また、LBKP (広葉樹晒クラフトパルプ)の含有率が好ましくは30〜90質量%、より好まし くは40〜80質量%、さらに好ましくは50〜70質量%である。 また、ミルクカートン(牛乳パック)由来の古紙パルプの含有率が好ましくは0〜 25 60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜40質量% であり、クラフトパルプの含有率としては、好ましくは40〜100質量%、より 91 好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは60〜80質量%である。 ミルクカートン(牛乳パック)由来の古紙パルプは、針葉樹パルプが主体であり、 トイレットペーパーの強度を確保しやすいメリットがある一方、品質的バラツキが 大きく、含有割合が高すぎると製品の品質に影響するので、上記の範囲の含有率に 5 することが好ましい。
上記LBKPの材種としてユーカリ属グランディス、及びユーカリグロビュラスに 代表される、フトモモ科ユーカリ属から製造されるパルプが好ましい。 【0033】 また、このNBKP、LBKP、ミルクカートン由来の古紙のパルプ100質量部 10 に対して、新聞や雑誌古紙等由来の脱墨パルプを25質量部以下、配合することが できる。なお、脱墨パルプを25質量部配合したときの、トイレットペーパー(シ ート)中の脱墨パルプの含有率は、25質量部/(100質量部+25質量部)× 100=20質量%となる。脱墨パルプの含有率は0〜20質量%、好ましくは0 〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。 15 脱墨パルプも古紙であるため、品質にばらつきが大きくなる。また、脱墨パルプは 通常、蛍光染料を含んでおり、その含有率が20質量%を超えると蛍光染料を多く 含むことになり、好ましくない。 なお、脱墨パルプが蛍光染料を含むと、トイレットペーパー(シート)の UV-in 条 件下での白色度の値と、UV-cut 条件下での白色度の値の差 Δ が大きくなる。ここ 20 で、UV-in とは、CIE(国際照明委員会)が規定するC光源(紫外光を含む)をシー ト表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度である。UV-cut とは、 波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介して、C光源をシート表面 側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度である。 Δ= 差 (白色度UV- in)−(白色度 UV-cut)である。 25 差Δ は、好ましくは0.0〜2.5ポイント、より好ましくは0.0〜1.5ポイ ント、さらに好ましくは0.0〜1.0ポイント、最も好ましくは0.0〜0.5ポ 92 イントである。白色度は、ISO 2470に準拠して、株式会社村上色彩技術研 究所社製 高速分光光度計CMS−35SPXを用いて測定できる。 【0034】 なお、トイレットペーパーに適正な強度を確保するために、通常の手段で原料配合 5 し、パルプ繊維の叩解処理にて強度調整を行うことができる。目標の品質を得るた めの叩解としては、市販のバージンパルプに対して、JIS-P8121で測定され るカナダ標準ろ水度で0〜150ml、より好ましくは0〜100ml、更に好ま しくは10〜50ml濾水度を低減させる。又、湿潤紙力増強剤は使用しないこと が好ましい。 10 【0035】 トイレットペーパーは、紙料にバージン系原料を使用する場合は一定範囲の繊維長 及び繊維粗度を有する針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプを特定の範囲 で配合して抄紙することができる。紙料への添加剤としては最終製品の要求品質に 応じ、デボンダー柔軟剤を含めた柔軟剤、嵩高剤、染料、分散剤、乾燥紙力増強剤、 15 濾水向上剤、ピッチコントロール剤、吸収性向上剤などを用いることができる。 トイレットペーパーとして古紙原料を使用する場合も、上記バージン系の場合と同 様の処理を行う。 トイレットペーパーの製造方法の詳細については後述する。 【0036】 20 トイレットペーパーは、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2) マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、 (3)エンボス処理及び ロール巻取り加工、の順で製造することができる。このうち、 (3)については既に 説明したので省略する。 【0037】 25 (1)抄紙及びクレーピング、 まず、公知の抄紙機のワイヤーパート上で上記紙料からウェブを抄紙し、プレスパ 93 ートのフェルトへ移動させる。ワイヤーパートの方式としては、丸網式、長網(フ ォードリニアー)式、サクションブレスト式、短網式、ツインワイヤー式、クレセ ントフォーマー式などが挙げられる。 そして、ウェブに対し、サクションプレッシャーロール又はサクションなしのプレ 5 ッシャーロール又はプレスロールなどで機械的に圧縮をしたり、あるいは熱風によ る通気乾燥などの脱水方法により脱水を続ける。また、サクションプレッシャーロ ール又はサクションなしのプレッシャーロールは、プレスパートからヤンキードラ イヤーにウェブを移動させる手段としても使用される。 【0038】 10 ヤンキードライヤーに移動されたウェブは、ヤンキードライヤー及びヤンキードラ イヤーフードで乾燥された後、クレーピングドクターによりクレーピング処理され、 リールパートで巻き取られる。 クレーピング(クレープと言われる波状の皺をつけること)は、紙を縦方向(抄紙 機上のシート走行方向)に機械的に圧縮することである。そして、トイレットペー 15 パーのウェブの製造の際、クレーピングドクターによりヤンキードライヤー上のウ ェブが剥がされ、リールパートで巻き取られるが、ヤンキードライヤーとリールパ ートの速度差(リールパートの速度≦ヤンキードライヤーの速度)によりクレーピ ングドクターにてクレープ(皺)が形成される。 トイレットペーパーに必要な品質、すなわち嵩(バルク感)、柔らかさ、吸水性、表 20 面の滑らかさ、美観(クレープの形状)などは上記速度差で左右される。上記速度 差等の条件にもよるが、クレーピング後のリール上のウェブの坪量は概略14〜2 0g/m 2 となり、クレーピング前のヤンキードライヤー上のウェブの坪量より重く なる。上記坪量は、好ましくは14〜18g/m 2 である。上記範囲を超えると、強 度が高くなって紙がゴワゴワする場合があり、上記範囲未満であると、強度が弱く 25 て破れやすくなる場合がある。 【0039】 94 ここで、ヤンキードライヤーとリールのスピード差に基づくクレープ率は次式によ り定義される。 クレープ率(%)=100×(ヤンキードライヤー速度(m/分)−リール速度(m /分))÷リール速度(m/分) 5 品質や操業性の良し悪しはこのクレーピングの条件で大方決まり、クレーピング条 件を最適とする操業条件が当業者にとって重要な事項となる。本発明においてトイ レットペーパーを製造する際のクレープ率は好ましくは10〜50%、より好まし くは15〜40%、最も好ましくは20〜35%である。 【0040】 10 (2)マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理 図7はマシンワインダー100の一例を示す。上述のようにクレープ後にリールパ ートで巻き取られたリール1がマシンワインダー100に2本セットされ、ヤンキ ー面が外側になるように2枚に重ね合わされてプライアップされ、原反ロール4と なる。この際、プライアップ後に1スタック目のカレンダー機101、2スタック 15 目のカレンダー機102の順で2段階でカレンダー処理される。但し、プライアッ プ前、又はオンマシンカレンダーでカレンダー処理することも可能である。 エンボス処理前(カレンダー処理後)のトイレットペーパーの紙厚を好ましくは0. 55〜1.15mm/10枚、より好ましくは0.60〜0.80mm/10枚と する。又、エンボス処理前(カレンダー処理後)の原反ロール4におけるトイレッ 20 トペーパーの比容積を好ましくは3.4〜6.5cm3/g、より好ましくは3.7 〜6.0cm3/g、さらに好ましくは4.0〜5.5cm 3/gとする。 【0041】 なお、エンボス処理前のトイレットペーパーの紙厚は、図7ではカレンダー処理後 の原反ロール4における紙厚であり、図2の紙厚t1に相当する。但し、後述する 25 ように、紙厚は測定荷重3.7kPaで測定した値であるため、図2の紙厚t1を 正確に反映したものではない。 95 又、表1、2に示したエンボス処理後のトイレットペーパーの紙厚は図2の紙厚t 2に相当するが、測定荷重3.7kPaで測定した値であるため、紙厚t2を正確 に反映したものではない。 一方、エンボス深さDはエンボスを圧縮しない生成りの状態での値を測定している。 5 従って、エンボス深さDは紙厚t1、t2から計算される値(この値は、エンボス を測定荷重3.7kPaで圧縮した値である)よりは大幅に大きい。 【0042】 各カレンダー機101、102は、それぞれ2本の金属ロールからなることが好ま しいが、2本のロールのうち、1本を弾性ロールとし、ソフトカレンダー処理を行 10 えるようにしてもよい。 カレンダーの線圧は、好ましくは3.0〜8.0kgf/cm、より好ましくは4. 0〜7.0kgf/cmとすることが好ましい。線圧が上記範囲を超えると、嵩が 小さくなり、柔らかさが劣ることがある。また、線厚が上記範囲未満であると、嵩 が大きくなり、ロールの巻直径DRが大きくなる。また、線圧は、1スタック目よ 15 り2スタック目を高くすることが好ましい。 カレンダー処理時、ドローを適宜調整することができる。プライアップ前のリール 1からカレンダー処理後の原反4の間のドローは、100〜110%とすることが 好ましい。 カレンダー処理とドロー調整により、坪量を13g/m2を超え17g/m2以下に 20 維持しつつ、紙厚を0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下に管理でき る。 【0043】 カレンダー処理後でエンボス処理前の原反4のウェブの坪量を1枚当たり13.5 〜18.0g/m2とすることが好ましい。後述するロール巻取り加工においてウェ 25 ブは若干伸びて坪量も低くなるので、最終形態のトイレットロール10の目標坪量 より若干高い13.5〜18.0g/m2 とすると好ましく、より好ましくは14. 96 5〜17.5g/m2とする。なお、ロール巻取り加工においてウェブが若干伸びる ため、巻取り前後で坪量と同様に紙厚も低くなるが、エンボス処理によって、最終 形態のトイレットロール10の目標紙厚に調整できる。 【0044】 5 カレンダー処理後の原反4を、例えば図3のロール巻取り加工機150によってエ ンボス処理し、トイレットロール10を得る。 【0045】 本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変 形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。 10 【実施例】 【0046】 パルプ組成の含有率が(質量%)NBKP10%、LBKP60%、ミルクカート ン由来の古紙30%となるようにし、脱墨パルプは含有させず、図3、図7に示す 装置により、表1に示すトイレットペーパー及びトイレットロールを製造した。 15 【0047】 以下の評価を行った。 乾燥時の縦方向引張り強さDMDTと乾燥時の横方向引張り強さDCDT:JIS P8113に基づいて、トイレットペーパー(2枚重ね)につき、破断までの最大 荷重をN/25mmの単位で測定した。 20 坪量:JIS P8124に基づいて測定し、シート1枚当たりに換算した。 紙厚:シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACO CK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30m mで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下 ろしたときのゲージを読み取った。なお、カレンダー処理前のウェブについては、 25 シートを10枚重ねて測定を行い、カレンダー処理後(プライアップ後)およびロ ールについては、シートを2プライに重ねたトイレットペーパーを5枚(5組)重 97 ねて行った。又、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた 1回当りの平均値を枚数で割ってシート1枚当りの紙厚とした。 【0048】 比容積:シート1枚当たりの厚さを1枚当たりの坪量で割り、単位gあたりの容積 5 cm3で表した。 ロールの巻直径DR:ムラテックKDS株式会社製ダイヤメータールールを用いて 測定した。測定は、10個のロールを測定し、測定結果を平均した。 ロールの巻固さ、巻密度、エンボス深さは上述の方法で測定した。 【図4】エンボス深さの測定方法を示す図である。 10 15 98 【図5】エンボス深さの測定方法を示す別の図である。 【図6】図5に続く図である。 5 99 別紙 本件明細書2(抜粋) 【発明の詳細な説明】 5 【技術分野】 【0001】 この発明は、長巻のトイレットペーパーなどの薄葉紙のロール製品を複数個包装袋 に収納したロール製品パッケージに関する。 【背景技術】 10 【0002】 トイレットペーパー等の包装袋として、ポリエチレン等の筒状フィルムにガゼット (ガセット)を対称的に折り込んで本体とし、その上部を平面状に折り畳んで把持 部を構成したものが用いられている(特許文献1)。把持部には購入者が運搬するた めの指掛け穴が備えられている。又、上記した包装袋の本体と別体の帯状の把持部 15 を、包装袋の上面を跨いで、両端部をそれぞれ本体の対向する側面に接合したもの が用いられている(特許文献2)。 一方、近年、トイレットペーパー等のロール製品を従来に比べてより長く巻き取り、 1個のロール当りの有効使用量を多くし、持ち運び時及び保管時のコンパクト化を 図ったものが販売されている。 20 しかしながら、上記した長巻のロール製品は1個のロール当りの重量が大きいため、 ロール製品を包装したパッケージを消費者が持ち運ぶ際、持ち手部や包装袋の底面 に荷重がかかる。そこで、包装袋の本体や持ち手部等の強度を確保するために、包 装袋を厚くすることが考えられる。ところが、包装袋を厚くして強度を高くすると、 ロール製品を包装した際、ロール製品を締め付ける力が増してロールが潰れやすく 25 なったり、フィルムがゴワゴワしてフィルムの触感が悪くなるという問題がある。 また、ロールが潰れにくくなるようにロールを固く巻くと、ロールを持った時の柔 100 らかさが劣るという問題がある。 【0003】 このようなことから、本出願人は、ロール製品の巻長、質量、巻き硬さ、及び包装 袋をなすフィルムの坪量を規定し、持ち運ぶ際にフィルムが破れにくく、かつロー 5 ル製品が潰れ難いロール製品パッケージを開発した(特許文献3)。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、上記した特許文献3記載の技術は、包装袋と別体の帯状の把持部を接合 10 したタイプに関するものであるが、包装袋の対向する上辺から上方に向かって切妻 屋根型に延びて接合される把持部を設けたガゼットタイプに長巻のロール製品を包 装すると、包装袋の上辺と把持部の間に荷重が掛かり、この部位のロール製品の端 部が潰れる場合があった。 従って、本発明は、長巻のロール製品をガゼットタイプの包装袋に収納したロール 15 製品パッケージにおいて、持ち運び易く、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品 を包装した場合にロール製品が潰れ難く、さらに持ち運ぶ際にフィルムが破れにく く包装袋内でロール製品を安定して保持できるロール製品パッケージの提供を目的 とする。 【課題を解決するための手段】 20 【0006】
上記課題を解決するため、本発明のロール製品パッケージは、フィルムからなる包 装袋に、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いたロール製品を複数個収納してなる ロール製品パッケージであって、前記ロール製品が軸方向を上下にして一列に2個 並べた段を2段重ねて前記包装袋に包装してなり、前記包装袋は筒状のガゼット袋 25 から構成され、前記ロール製品を囲む略直方体状の本体部と、前記本体部の上辺の うち、互いに対向する長辺から上方に向かってそれぞれ切妻屋根型に延びて接合さ 101 れた把持部と、を有し、前記把持部には指掛け穴が形成されており、前記ロール製 品の巻長が63〜103m、コアを含む1個の前記ロール製品の質量が200〜3 70gであり、 (前記包装袋内の4個の前記ロール製品の質量)/(前記フィルムの 坪量)が25〜80(g/(g/m 2))であり、前記長辺から前記把持部までの前 5 記包装袋の傾斜角θが25〜45度であり、前記長辺同士の間隔Wが105〜13 4mmである。 【0007】 前記ロール製品の巻き硬さが1.0〜3.0mmであることが好ましい。 前記フィルムの坪量が13〜39g/m2 であることが好ましい。 10 (前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m 2))が0.035〜0.1 3(mm/(g/m2 ))であることが好ましい。 前記シートの1枚当たりの坪量が13g/m 2 を超え17g/m2 以下であること が好ましい。 【発明の効果】 15 【0008】 この発明によれば、長巻のロール製品をガゼットタイプの包装袋に収納したロール 製品パッケージにおいて、持ち運び易く、かつ適度な巻き硬さを有するロール製品 を包装した場合にロール製品が潰れ難く、包装袋内でロール製品を安定して保持で きるロール製品パッケージが得られる。 20 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、包装袋100 の把持部4側を「上端」側とし、その反対側を「下端」側とする。 図1は、本発明の実施形態に係るロール製品パッケージ200の斜視図を示す。ロ 25 ール製品パッケージ200は、フィルムからなる包装袋100に、後述するロール 製品50を軸方向を上下にして一列に2個並べた段を、2段重ねて収納してなる。 102 なお、ロール製品50が2個並ぶ方向を長手方向Lとする。 包装袋100は、本体部6と、本体部6の上端側の把持部4を備えている。断面図 2に示すように、包装袋100は、チューブ状(筒状)フィルムの左右両側をガゼ ット8として内側に対称的に折り込み、各ガゼット8の折り込み端縁8aが包装袋 5 100の長手方向L(図1参照)中央付近で近接するように平面状に折り畳み、上 端で折り畳み部分の適所をヒートシール等で接合して形成されている。このように してヒートシールで一体化され固定された矩形の扁平部分が把持部4をなしている。 本体部6は下端が開口し、下端側からロール製品を収納し、開口端をヒートシール して封止部201が形成されている。又、ロール製品を収納した際に本体部6のガ 10 ゼットが展開され、本体部6は4つの側面6a〜6dを有する矩形断面で略直方体 を構成するようになっている。 【0011】 把持部4は、本体部6の上辺のうち、互いに対向する長辺45、55から上方に向 かってそれぞれ切妻屋根型に延びて接合されてなり、長辺45、55と把持部4と 15 の間に、それぞれ切妻屋根状のパネル部41、51が傾斜して形成されている パネル部41は、長辺45と、パネル部山折り稜線43とを有し、パネル部山折り 稜線43は長手方向Lに垂直で、パネル部41の妻側の端縁を構成している。同様 に、パネル部51は、長辺55と、パネル部山折り稜線53とを有し、パネル部山 折り稜線53は長手方向Lに垂直で、パネル部51の妻側の端縁を構成している。 20 なお、パネル部山折り稜線43、53は同じ向きに位置する。 【0012】 又、把持部4のほぼ中央に、上向きに非切抜部を有するほぼ長円のスリット状の指 掛け穴2が設けられている。そして、購入者がロール製品パッケージ200を運搬 する際に指掛け穴2のスリットを切抜き、非切抜部を固定端とする片部を上方に折 25 り返すと、折り返し部がU字形に屈曲するので鋭い端面が生じず、指が痛くならな い。但し、指掛け穴2の形状はこれに限定されない。例えば、特許文献1のように、 103 指掛け穴2を2個にするなど、公知の方法を採用できる。 【0013】 ロール製品6は、衛生薄葉紙の2plyのシートを巻いてなり、例えばトイレット ペーパーのロール体である。ロール製品6の巻長が63〜103m、コア(芯)を 5 含む質量が200〜370gである。 【0014】 ロール製品6の巻長が上記下限値未満であると、1ロール当りの巻長が短くなり、 ロールの交換頻度が多くなったり、保管時の省スペース化が図れない。ロール製品 6の巻長が上記上限値を超えるものは、巻直径(ロールの外径)が従来のロール製 10 品より大きくなり過ぎ、トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。巻長は 70〜85mであることが好ましく、73〜78mであることがより好ましい。 ロール製品6のコアを含む質量が上記下限値未満のものは、1ロール当りの巻長が 短くなり、ロールの交換頻度が多くなったり、保管時の省スペース化が図れない。 ロール製品6のコアを含む質量が上記上限値を超えるものは、巻長が長すぎて巻直 15 径(ロールの外径)が従来のロール製品より大きくなり過ぎ、トイレットペーパー ホルダー等に収まり難くなる。ロール製品6のコアを含む質量が230〜330g であることが好ましく、250〜290gであることがより好ましい。 なお、コアの質量は、通常は4〜7g程度である。また、通常の2plyのトイレ ットペーパーの1ロール当りの巻長は25m程度、質量は90g程度である。 20 【0015】 ロール製品の巻き硬さが1.0〜3.0mmであることが好ましい。ロール製品6 の巻き硬さが上記下限値未満であると、トイレットロールが固すぎて、ロールの触 感(柔らかさ)が劣る。ロール製品6の巻き硬さが上記上限値を超えるものは、ロ ールをフィルムで包装する際、ロールが潰れて見た目が悪くなる。 25 ロール製品の巻き硬さは、好ましくは1.1〜2.5mm、より好ましくは1.3 〜2.2mmである。 104 なお、巻き硬さは圧縮試験機(カトーテック株式会社製のハンディー圧縮試験機K ES−G5)を用いて、次のように測定する。まず、ロール製品6を軸心が水平に なるよう硬い台上に横に置く。ロールの上面にアクリル板(幅4cm、長辺の長さ 12cm、厚さ2mm)を、アクリル板の長辺が、ロール幅方向(一般的には11 5 0〜115mm程度)と平行になるように置く。この際、アクリル板の重量でロー ルが潰れないよう、アクリル板の重量は約11gとする。次に、アクリル板の中心 に上記KES−G5の圧縮子(面積2.0cm2)を、速度0.01cm/秒の条件 で押し込む。圧縮子がアクリル板を押す圧力が0.5gf/cm2 のときの押し込み 深さをT0、圧力が500gf/cm 2のときの押し込み深さをTmとして、Tmと 10 T0の差(Tm−T0)を巻き硬さとする。圧縮子で直接ロールを圧縮せず、アク リル板を使用することで、ロールの幅全体にわたって押し込むことができ、フィル ムで包装した時のロールの潰れやすさを評価することができる。測定は、10個の ロールを測定し、測定結果を平均する。 【0016】 15 (包装袋100内の4個のロール製品6の質量)/(包装袋100を構成するフィ ルムの坪量)が25〜80(g/(g/m2 ))である。
上記比が25(g/(g/m 2))未満であると、フィルムの強度が高くなり過ぎ、 ロール製品を包装した際、ロール製品を締め付ける力が増してロール製品が潰れや すくなったり、フィルムがゴワゴワする。 20 上記比が80(g/(g/m 2))を超えると、フィルムの強度が低下し、パッケー ジの運搬時等に包装袋が破れる。
上記比は、好ましくは30〜65(g/(g/m 2)、 ) より好ましくは36〜50(g /(g/m2))である。 【0017】 25 包装袋100を構成するフィルムの坪量が13〜39g/m2であることが好ましい。 フィルムの坪量が13g/m2未満であると、強度が低下し、パッケージの運搬時等 105 に包装袋が破れる場合がある。フィルムの坪量が39g/m2を超えると、強度が高 くなり過ぎ、ロール製品を包装した際、ロール製品を締め付ける力が増してロール 製品が潰れやすくなったり、フィルムがゴワゴワする場合がある。フィルムの坪量 は、好ましくは18〜33g/m2、より好ましくは22〜27g/m 2である。 5 フィルムの材質は制限されないが、破れにくい(伸びやすい)ポリエチレンを含む 組成が好ましい。また、フィルムの片面が印刷されていても良く、印刷面(印刷層) は包装袋100の外面(消費者が手で触る面)側でもよく、内面(包装袋100内 のトイレットロール等に接する面)側にあってもよい。但し、印刷層が包装袋10 0の外面側に位置すると、ロール製品パッケージの商品を陳列する場合、擦れ等に 10 より印刷層が傷ついたり剥がれるおそれがあることから、印刷層を包装袋100の 内面に向けることが好ましい。なお、フィルムを積層(ラミ)構造とすると、印刷 層の両面をフィルムで挟む構造となり、印刷層を内外面のどちらに向けても傷が付 き難いが、コストアップになる。 【0018】 15 上記した巻長、質量、巻き硬さを有する長巻のトイレットペーパーは、通常のトイ レットペーパーに比べて1ロールの重量が重いため、通常のトイレットペーパー用 のフィルムで包装すると、フィルムが破れやすい。一方、フィルムの坪量を高めて 強度を高くすると、ロール製品を締め付ける力が強くなり、ロール製品が潰れやす くなる。そこで、本発明は、上記比として、包装袋100内のロール製品6の合計 20 質量と、フィルムの強度(坪量)との相対値を適正な範囲に規定している。 【0019】 さらに、ガゼットタイプの包装袋100に長巻のロール製品50を包装すると、包 装袋100の長辺45、55と把持部4の間に荷重が掛かり、この部位の(長辺4 5、55に接する)ロール製品50の端部が潰れ易くなる。そこで、図3に示すよ 25 うに、本発明においては、長辺45、55から把持部4までのパネル部41、51 の傾斜角 θ を25〜45度とし、長辺45、55同士の間隔Wを105〜134m 106 mとする。これにより、長辺45、55に接するロール製品50の端部にかかる負 荷が小さくなるので、ガゼットタイプの包装袋に収納したロール製品を潰れ難くす ることができる。 なお、傾斜角 θ は、図3に示すように、パネル部41が水平面に対してなす角度で 5 ある。 【0020】 この理由について、図4を参照して説明する。図4において、ロール製品パッケー ジ200を把持部4で持ち上げるのに必要な力を2Fとする。この力2Fは、長辺 45、55にそれぞれ接するロール製品50の端部では、その半分の力Fとなって 10 作用する。力Fは、パネル部41、51方向にはそれぞれ(F/sinθ)の分力と して作用するから、θ が大きくなるほど(F/sinθ)が小さくなり、長辺45、 55に接するロール製品50の端部にかかる負荷が小さくなる。そこで、θ を25 度以上に規定する。 このようなことからは、θ が大きいほど好ましいが、θ が大きくなり過ぎると、パ 15 ネル部41、51が立ち上がり過ぎ、パネル部41、51とロール製品50の上端 との隙間Gが大きくなる。その結果、包装袋100内でロール製品50が動いて安 定性が劣ったり、θ を過剰に大きくするために包装袋100のサイズが大きくなっ てコストが高くなるので好ましくない。そこで、θ を45度以下に規定する。 【0021】 20 次に、図5を参照し、ロール製品50を一列に並べて包装する理由について説明す る。図5は、ロール製品50を二列に並べてガゼット折りで包装した態様を示す。 図5においても、図4と同様に、 が大きくなるほど θ (F/sinθ)が小さくなり、 長辺45、55に接するロール製品50の端部にかかる負荷を小さくすることがで きる。ところが、ロール製品50を二列に並べると、長辺45、55同士の間隔が 25 一列の場合の間隔Wの約2倍(2W)となり、それに比例してパネル部41、51 とロール製品50の上端との隙間も2倍(2G)となってしまうので、包装袋10 107 0内でロール製品50が動き易くなってしまう。 このようなことから、パネル部41、51とロール製品50の上端との隙間を小さ くするため、図5の鎖線で示すように、パネル部51x(パネル部41も同様)の 傾斜角 φをθ よりも小さくしなければならず、その結果、パネル部41、51方 5 向にそれぞれ作用する分力(F/sinφ)が大きくなり、ロール製品が潰れ易くな る。 【0022】 なお、間隔Wの測定は次のように行う。まず、図6に示すように、包装した状態の まま、最上段の各ロール製品50の巻直径DR1、DR2を定規で測定し、この値 10 (合計2カ所)を平均し、これを長辺45、55同士の間隔Wとする。ここで、ロ ール製品パッケージ200の短辺方向で、包装袋100は各ロール製品50の外周 に密着するようになっているため、ロール製品パッケージ200の短辺方向で各ロ ール製品50の最大径となる部分を巻直径DR1、DR2とみなす。又、巻直径D R1、DR2としては、包装袋100の厚みを含めた値とする。 15 なお、巻直径DR1、DR2の測定箇所の包装袋100が印刷されていて、包装内 部のロール製品50が明瞭に見えず、巻直径の測定が困難な場合は、フィルムを剥 がしてから測定してもよい(但し、この場合、以下の傾斜角 θ を測定する際には、 別のロール製品パッケージ200を使用する)。 【0023】 20 次に、ロール製品パッケージ200の把持部4を静かに持ち上げる。この際、把持 部4に指掛け穴2がある場合は、指掛け穴2を使用する。持ち上げてから10秒後 に、図6に示すようにして、持ち上げたままパネル部41の長さPL1、PL2、 及びパネル部51の長さPL3、PL4を定規で順次測定する。ここで、 「パネル部 の長さ」とは、各長辺45、55から把持部4までの長さ(距離)である。又、上述 25 のように包装袋100は各ロール製品50の外周に密着するようになっているため、 各長辺45、55の位置によってもパネル部の長さが変わる。そこで、各長辺45、 108 55のうち巻直径DR1、DR2を測定した位置から把持部4までの長さ(距離) をパネル部の長さとする。なお、図6では、巻直径DR1、DR2を表す線分と区 別するため、PL1、PL2、PL3、PL4は、幅方向に対して斜めに記載して いる。しかし、実際には、各長辺45、55のうち巻直径DR1、DR2を測定し 5 た位置を中心として把持部4までの長さを幾つか測定し、そのうち最短距離をパネ ル部の長さとする。 【0024】 そして、各パネル部41、51の長さPL1〜PL4の4つの値を平均し、これを パネル部の長さPLとする。次に、cosθ=(W÷2)/PLから、傾斜角 θを 10 算出する。
上記した傾斜角 θ の算出を、5個のロール製品パッケージ200についてそれぞれ 別個に行い、これら5つの値の平均値を傾斜角 θ として採用する。 【0025】 傾斜角 θ が28〜42度であると好ましく、31〜39度であるとより好ましい。 15 間隔Wが108〜125mmであると好ましく、113〜119mmであるとより 好ましい。 なお、間隔Wは、ロール製品50の巻直径と同一とみなすことができるので、巻直 径は105〜134mmであることが好ましく、108〜125mmであることが より好ましく、113〜119mmであることが最も好ましい。 20 そして、間隔Wが105mm未満であるものは、ロール製品の巻長と質量を上述の 範囲内にするために固く巻く必要が生じ、ロールが固すぎて、ロールの触感(柔ら かさ)が劣る。間隔Wが134mmを超えるものは、ロール製品の巻長と質量を上 述の範囲内にするために柔らかく巻く必要が生じ、ロールをフィルムで包装する際、 ロールが潰れて見た目が悪くなると共に、ペーパーホルダーへの装着性も劣る。 25 【0026】 又、長辺45、55方向に沿う把持部4の長さは、好ましくは巻直径×2の72% 109 以上、より好ましくは巻直径×2の77%以上、更に好ましくは巻直径×2の82% 以上、最も好ましくは巻直径×2の87%以上とする。なお、把持部4の長さの上 限は、巻直径×2である。 把持部4の長さが巻直径×2の72%未満であると、長辺45、55方向に沿う把 5 持部4の両端がロール製品50よりも著しく内側に位置するため、把持部4の両端 と長辺45、55に挟まれる短辺側の包装袋100との間で長さに余裕がなく、短 辺側の包装袋100が引っ張られる。このため、短辺側に接するロール製品50の 端部にかかる負荷が大きくなり、ガゼットタイプの包装袋に収納したロール製品5 0が潰れることがある。 10 【0027】 なお、図7に示すようにして、把持部4の長さを調整できる。図7において、ロー ル製品50の巻直径を118mmとすると、ロール製品50を一列に2個並べたと きの外周長さは607mmと計算され、若干の余裕を持たせた筒状の包装袋100 の周長の一例を610mmとする。この際、ロールの巻き硬さの値が大きいと、ロ 15 ールが柔らかくて若干潰れ、外周長さが610mmより短くなる。このため、ロー ルの巻き硬さと巻直径に合わせて、図7のように計算される包装袋11の周長を適 宜調整するとよい。 図7(a)の包装袋100では、長手方向の長さ(=把持部の長さ)を215mm とし、ガゼット部の長さを45mmとするので、把持部4の長さは、(巻直径×2) 20 の92%(=215mm÷234mm)となる。 一方、図7(a)の包装袋100では、長手方向の長さ(=把持部の長さ)を165 mmと短くし、ガゼット部の長さを70mmとするので、把持部4の長さは、 (巻直 径×2)の71%(=165mm÷234mm)となる。 【0028】 25 特に、ロール製品の巻き硬さ/フィルムの坪量をコントロールすると、ロール製品 がさらに潰れにくく、かつ、フィルムの強度を適正にすることができる。 110 (巻き硬さ(mm)/フィルムの坪量(g/m 2) 具体的には、 )を好ましくは0.0 35〜0.13(mm/(g/m 2)、より好ましくは0.043〜0.11(mm ) /(g/m2)、最も好ましくは0.050〜0.090(mm/(g/m 2) ) )とす る。 5 巻き硬さを一定とした場合、フィルムの坪量を高くすると、(巻き硬さ/フィルムの 坪量)の値は小さくなり、フィルムがロールを締め付ける強さが大きくなることを 意味する。逆に、 (巻き硬さ/フィルムの坪量)の値が大きくなると、フィルムの強 度が弱くなることを意味する。 一方、フィルムの坪量を一定とした場合、ロールを柔らかくして巻き硬さの値が大 10 きくなると、 (巻き硬さ/フィルムの坪量)の値は大きくなり、ロールが潰れやすく なることを意味する。逆に、 (巻き硬さ/フィルムの坪量)の値が小さくなると、フ ィルムの強度が弱くなることを意味する。 従って、 (巻き硬さ/フィルムの坪量)の値を適正な範囲にすることで、ロール製品 がさらに潰れにくく、かつ、フィルムの強度を適正にすることができる。 15 【0029】 ロール製品のシートの1枚当たりの坪量を好ましくは13g/m 2 を超え17g/ m2以下、より好ましくは13.5〜16.5g/m2、最も好ましくは14.1〜 16.0g/m2とする。 シートの坪量が上記下限値未満であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ) 20 も低下することがある。シートの坪量が上記上限値を超えると、シートが固く感じ て使用感が低下したり、これを長く巻いたときに巻直径が大きくなって、ペーパー ホルダーに装着しにくくなることがある。 又、シートの紙厚は好ましくは0.60〜1.10mm/10枚、より好ましくは 0.65〜0.90mm/10枚、最も好ましくは0.65〜0.83mm/10 25 枚である。 シートの坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、衛生薄葉紙の原紙ウェ 111 ブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積)及びエンボス条件(エ ンボス処理後の紙厚及び比容積)を規定する方法が挙げられる。 【0030】 シートの強度として、JIS P8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さをD 5 MDT(DryMachine Direction Tensile strength)、乾燥時の横方向の引張強さを DCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)を規定する。 シート(2ply)のDMDTが好ましくは2.2〜5.0N/25mm、より好 ましくは2.5〜4.5N/25mm、最も好ましくは2.7〜4.0N/25m mである。シート(2ply)のDCDTが好ましくは0.8〜2.2N/25m 10 m、より好ましくは0.9〜1.8N/25mm、最も好ましくは1.0〜1.5N /25mmである。 DMDT及びDCDTが上記値未満であると、やぶれ易くて実用に適さないことが ある。DMDT及びDCDTが上記値より高いと硬くなり、柔らかさが損なわれる ことがある。 15 なお、衛生薄葉紙の抄紙の流れ方向を「縦方向」とし、流れ方向に直角な方向を「横 方向」とする。 【0031】 シートの比容積は好ましくは4.0〜6.5cm3/g、より好ましくは4.3〜6. 1cm3/g、最も好ましくは4.7〜5.6cm 3/gである。 20 比容積が上記範囲未満であると、使用感が乏しくなったり、バルク(嵩高さ)が低 下して水分の吸収能力に劣る場合がある。一方、比容積が上記範囲を超えると、バ ルク(嵩高さ)は高くなるが、滑らかさが劣ったり、触感が悪くなる場合がある。 【0032】 包装袋100を構成するフィルムの厚さが15〜43μmであることが好ましい。 25 フィルムの厚さが15μm未満であると、強度が低下し、パッケージの運搬時等に 包装袋が破れることがある。フィルムの厚さが43μmを超えると、強度が高くな 112 り過ぎ、ロール製品を包装した際、ロール製品を締め付ける力が増してロールが潰 れやすくなることがある。フィルムの厚さはより好ましくは20〜36μm、さら に好ましくは25〜30μmである。 又、フィルムの密度は、0.5〜1.3g/cm 3が好ましく、より好ましくは0. 5 6〜1.2g/cm3、さらに好ましくは0.7〜1.1g/cm 3である。 包装袋100には開封用のミシン目を設けても良い。ミシン目は、ロール製品パッ ケージの上下方向、横方向のどちらに延びるように形成しても良いが、好ましくは 上下方向に形成する。 【0033】 10 本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及 び均等物に及ぶことはいうまでもない。 113 【図1】本発明の実施形態に係るロール製品パッケージの斜視図である。 114 別紙 本件明細書3(抜粋) 【発明の詳細な説明】 5 【技術分野】 【0001】 本発明は、2プライ積層したトイレットペーパーを巻き取ったトイレットロールに 関するものである。 【背景技術】 10 【0002】 トイレットロールは、主に4ロール、12ロール等を単位として包装されたものが 市販されている。これらの包装体は嵩張るため、購入時に持ち運べる量は限られて おり、一度に購入できる量は自ずと限度がある。また、家庭や職場、公共施設など における保管時においては、保管スペースが限られているため、保管できる量にも 15 限度がある。 【0003】 このようなことから、トイレットペーパーのシート1枚当りの坪量を14g/m2以 下に低減し、巻長を長くしたトイレットロールが開発されている(特許文献1、 。2) 【0004】 20 また、本出願人は、トイレットペーパーの1枚当りの坪量を13g/m2より高く して風合い、使用感を向上させながら、巻長を長くしたトイレットロールを開発し た(特許文献3)。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 25 【0006】 しかしながら、紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下 115 する。一方、これらの不具合を補うべく紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を 弱めると、滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホル ダーに収まり難くなったりする問題がある。 【0007】 5 また、特許文献3に記載の発明は、トイレットペーパーの坪量を高くしながら、風 合いを向上させており、シートの柔らかさを確保しているが、ロールの柔らかさに ついては検討されていない。ここで、ロールの柔らかさとは、店頭でトイレットロ ールを手に持ったときの触感であり、直接シートの柔らかさを反映するものではな い。これは、トイレットロールの使用時にはシートの柔らかさが重要となるものの、 10 店頭でロールを巻きほぐしてシートの柔らかさを確認することができないためであ る。そのため、ロールが硬いと、仮にシート自体が柔らかくてもシートも硬いと思 われてしまい、購入を促すことができないという問題がある。 【0008】 したがって、本発明は、1ロールあたりの巻長を長くし、坪量を下げずにシート及 15 びロールの柔らかさを良好にすることで、持ち運べる量や保管時の省スペース性に 優れると共に、良好な柔らかさによる販促効果を高めたトイレットロールの提供を 目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 20 本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、2プライ積層した トイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールにおいて、前記トイ レットペーパーにエンボスパターンを設け、前記トイレットロールの巻長、巻直径 及びロール柔らかさを所定の値に調整することにより、上記課題を解決できること を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供す 25 る。 (1)本発明の第一の態様は、2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に 116 巻き取ったトイレットロールであって、前記トイレットペーパーにエンボスパター ンを設け、前記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、巻直径が10 5mm以上140mm以下、ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下とす るトイレットロールである。 5 (2)前記(1)に記載のトイレットロールにおいて、前記エンボスパターンの深 さは、0.01mm以上0.40mm以下であってもよい。 (3)前記(1)又は(2)に記載のトイレットロールにおいて、前記エンボスパタ ーンは、シングルエンボスパターンであってもよい。 (4)前記(1)から(3)のいずれかに記載のトイレットロールにおいて、前記ト 10 イレットペーパーは、クラフトパルプを40質量%以上100質量%以下含有して もよい。 (5)前記(1)から(4)のいずれかに記載のトイレットロールにおいて、前記ト イレットペーパーは、ミルクカートン由来の古紙パルプを0質量%より多く60質 量%以下含有してもよい。 15 (6)前記(1)から(5)のいずれかに記載のトイレットロールにおいて、CIE (国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射し たときのISO 2470に準拠した白色度UV−inと、波長420nm以下の 紫外光をカットするフィルタを介して、前記C光源を前記トイレットペーパーの表 面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度UV−cutとの差 Δ 20 が0.0ポイント以上2.5ポイント以下であってもよい。 【発明の効果】 【0010】 本発明によると、トイレットロールの巻長、巻直径を所定の値に調整することで、 1ロール当りの巻長を良好なものにする。また、トイレットペーパーにエンボスパ 25 ターンを設け、トイレットロールのロール柔らかさを所定の値に調整することで、 トイレットペーパーの坪量を下げずにトイレットペーパー及びトイレットロールの 117 柔らかさを良好なものにする。そのため、持ち運べる量や保管時の省スペース性に 優れると共に、良好な柔らかさによる販促効果を高めたトイレットロールを得るこ とができる。 【発明を実施するための形態】 5 【0012】 以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、これらは例示の目的で掲げた ものでこれらにより本発明を限定するものではない。 【0013】 [トイレットロール] 10 図1に示すように、本発明の実施形態1に係るトイレットロール1は、トイレット ペーパーが2プライ積層され、ロール状に巻き取られたものである。 【0014】 <巻長> 本発明のトイレットロール1の1ロールの巻長、すなわちトイレットロール1を展 15 開したときの全長は、63m以上105m以下であり、68m以上95m以下であ ることが好ましく、73m以上85m以下であることがより好ましい。上記の数値 範囲内の長さに巻取ったロールは、所定の幅に切断されて1ロールのトイレットロ ール1が製造される。 【0015】 20 <巻直径> 図1に示すように、本発明のトイレットロール1における巻直径DRは、105m m以上140mm以下であり、110mm以上132mm以下であることが好まし く、115mm以上123mm以下であることがより好ましい。 【0016】 25 本発明のトイレットロール1において、巻長と巻直径を上記の数値範囲内のものと することにより、持ち運べる量と保管時の省スペース性が良好であり、さらに、ト 118 イレットペーパーホルダーへの装着性も良好なトイレットロール1とすることがで きる。 【0017】 <巻密度> 5 トイレットロール1における巻密度は、(巻長×プライ数)÷(ロールの断面積)で 表される。ロールの断面積は、 {ロールの外径(巻直径DR)部分の断面積}−(コ ア外径部分の断面積)で表される。例えば、巻長75m、2プライ、巻直径117 mm、コアの外径39mmの場合、巻密度=(75m×2)÷{3.14×(117 mm÷2÷10)2−3.14×(39mm÷2÷10)2}=1.57m/cm2とな 10 る。 【0018】 ここで、コアとはトイレットロールの巻芯をいい、コア外径とは、ロールの中心孔 の直径である。 【0019】 15 本発明のトイレットロール1における巻密度は、1.1m/cm 2以上2.0m/c m2以下であることが好ましく、1.2m/cm2以上1.8m/cm2以下であるこ とがより好ましく、1.5m/cm2以上1.7m/cm2以下であることが更に好 ましい。 【0020】 20 <ロール密度> 本発明のトイレットロール1のロール密度は、 (コアを含まないロール質量)÷(ロ ール体積)で表される。ロール質量は、ロール幅Wが114mmあたりに換算した トイレットロールの質量である。ロール体積は[{ロールの外径(巻直径)部分の断 面積}−(コア外径部分の断面積)]×ロール幅(114mmあたりに換算する)で 25 表される。例えば、ロール幅114mmあたりのロール質量が270g、巻直径1 17mm、コアの外径が39mmの場合、ロール密度=270g÷[{3.14×(1 119 17mm÷2÷10)2−3.14×(39mm÷2÷10)2}×(114mm÷10)] =0.25g/cm 3となる。なお、トイレットロールにコアが無い場合は、中心孔 の直径をコア外径とする。 【0021】 5 本発明のトイレットロール1のロール密度は、0.17g/cm3以上0.32g/ cm3以下であることが好ましく、0.20g/cm 3以上0.29g/cm 3以下で あることがより好ましく、0.22g/cm 3以上0.27g/cm3以下であるこ とが更に好ましい。 【0022】 10 <ロール質量> 本発明のトイレットロール1のロール質量は、ロール幅Wが114mmあたりのコ ア(巻芯)を含まないロール質量である。ロール幅Wが114mmと異なる場合は、 Wを114mmに換算してロール質量を求める。例えば、ロール幅Wが105mm の場合、そのロール質量に係数(114/105)を乗じた質量を、Wが114m 15 mあたりのロール質量とする。 【0023】 本発明のトイレットロール1のロール質量は、200g以上400g以下であるこ とが好ましく、230g以上350g以下であることがより好ましく、250g以 上330g以下であることが更に好ましい。本発明のトイレットロール1において、 20 ロール質量も上記の数値範囲内のものとすることにより、1ロールあたりの巻長と 巻直径と質量も良好なトイレットロール1とすることができる。 【0024】 <コア外径> 本発明のトイレットロール1のコアの外径は、25mm以上48mm以下であるこ 25 とが好ましく、35mm以上46mm以下であることがより好ましく、37mm以 上43mm以下であることが更に好ましい。本発明のトイレットロール1において、 120 コア外径も上記の数値範囲内のものとすることにより、トイレットペーパーホルダ ーへの装着性と製造時のトイレットロールの取扱性が良好なトイレットロール1と することができる。また、トイレットロール1のコアの質量は3.0g以上5.7 g以下であることが好ましく、3.7g以上5.2g以下であることがより好まし 5 く、4.2g以上4.8g以下であることが更に好ましい。コア質量を上記の数値 範囲内にすることにより、本願のような長尺のトイレットペーパーに適したコアの 強度とコアのコストを良好にすることができる。コアの質量は、ロール質量と同様、 ロール幅114mmの質量とする。 【0025】 10 <ロール柔らかさ> 本発明のトイレットロール1においては、上述のように巻長の長いトイレットロー ル1のため、トイレットロール1の柔らかさを評価する場合、次に述べるロール柔 らかさを評価することで、ロールを手に持った時の柔らかを評価することが好まし い。 15 【0026】 トイレットロール1のロール柔らかさは、圧縮試験機(カトーテック株式会社製の ハンディー圧縮試験機KES−G5)を用いて、次のように測定する。なお、トイ レットロール1の軸心と平行な方向を高さ方向、トイレットロール1の円周の接線 と垂直な方向を半径方向とする。 20 【0027】 まず、トイレットロール1のコアに、アクリルパイプを挿入する。アクリルパイプ の肉厚は2mmとする。アクリルパイプの長さは、トイレットロール1のロール幅 より10mm長くする(トイレットロール1のロール幅が114mmの場合、アク リルパイプの長さは124mmとする。 。アクリルパイプの外径は、トイレットロ ) 25 ール1のコアの内径よりわずかに小さく、かつ、アクリルパイプを挿入した後にト イレットロール1の軸心が垂直になるように置いたとき、トイレットロール1が自 121 重で動かないサイズとする。コアにアクリルパイプを挿入しにくく、アクリルパイ プの外径をわずかに小さくする場合は、耐水ペーパー等で肉厚をわずかに削っても よい。アクリルパイプの質量は、長さが125mm、外径が38mmの場合、31 g程度である。アクリルパイプをトイレットロール1のコアに挿入することで、巻 5 長の長いトイレットロール1において、巻密度も高いものとなった場合に、コアの 硬さによらずにトイレットロール1のロール柔らかさを評価することができる。 【0028】 次に、トイレットロール1を軸心が水平になるよう硬い台上に横に置く。そして、 トイレットロール1の高さ方向の中心部に上記KES−G5の圧縮子(面積2.0 10 cm2)を、速度10mm/分の条件で半径方向に上から押し込む。圧縮子がロール を押す圧力が5gf/cm2のときの押し込み深さをT0、圧力が150gf/cm 2のときの押し込み深さをTmとして、(Tm−T0)をロール柔らかさとする。測 定は5回行い、測定結果を平均する。なお、上記圧縮子をトイレットロール1に押 し込む際の高さ方向は、高さ方向の両端部を除けば、高さ方向の中心部でなくても 15 よい。本発明のトイレットロール1のロール柔らかさの測定においては、トイレッ トロール1の高さ方向の中心部と端部との中間付近に上記圧縮子を押し込んで測定 する。 【0029】 本発明のトイレットロール1のロール柔らかさは、0.4mm以上1.9mm以下 20 であり、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.6mm以上1. 1mm以下であることがより好ましい。 【0030】 [トイレットペーパー] 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーは木材パルプ100質 25 量%からなっていてもよく、古紙パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを含んでもよ い。ただし、目標とする品質を得るためには、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ) 122 の含有率は、0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0質量%以上2 0質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であること が更に好ましい。また、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)の含有率は、30質 量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下で 5 あることがより好ましく、50質量%以上70質量%以下であることがさらに好ま しい。 【0031】 また、ミルクカートン(牛乳パック)由来の古紙パルプの含有率は、0質量%より 多く60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下である 10 ことがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。 また、クラフトパルプの含有率としては、40質量%以上100質量%以下である ことが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60 質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。 【0032】 15 ミルクカートン(牛乳パック)由来の古紙パルプは、針葉樹パルプが主体であり、 トイレットペーパーの強度を確保し易いメリットがある一方、品質的バラツキが大 きく、含有割合が高過ぎると製品の品質に影響するので、上記の数値範囲内の含有 率にすることが好ましい。 【0033】 20 上記LBKPの材種としてユーカリ属グランディス、及びユーカリグロビュラスに 代表される、フトモモ科ユーカリ属から製造されるパルプが好ましい。 【0034】 また、このNBKP、LBKP、ミルクカートン由来の古紙のパルプ100質量部 に対して、新聞や雑誌古紙等由来の脱墨パルプを25質量部以下、配合することが 25 できる。なお、脱墨パルプを25質量部配合したときの、トイレットペーパー(シ ート)中の脱墨パルプの含有率は、25質量部/(100質量部+25質量部)× 123 100=20質量%となる。脱墨パルプの含有率は、0質量%以上20質量%以下 であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、 0質量%以上5質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に 好ましい。脱墨パルプも古紙であるため、品質にバラツキが大きくなる。また、脱 5 墨パルプは通常、蛍光染料を含んでおり、その含有率が20質量%を超えると蛍光 染料を多く含むことになり、好ましくない。 【0035】 なお、トイレットペーパーに適正な強度を確保するために、通常の手段で原料配合 し、パルプ繊維の叩解処理にて強度調整を行うことができる。目標の品質を得るた 10 めの叩解としては、市販のバージンパルプに対して、JIS−P8121で測定さ れるカナダ標準ろ水度を低減させることが好ましく、叩解前後におけるカナダ標準 ろ水度の差は0mL以上150mL以下であることが好ましく、10mL以上10 0mL以下であることがより好ましく、20mL以上70mL以下であることが更 に好ましい。 15 【0036】 トイレットペーパーは、紙料にバージン系原料を使用する場合は一定範囲の繊維長 及び繊維粗度を有する針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプを特定の範囲 で配合して抄紙することができる。紙料への添加剤としては最終製品の要求品質に 応じ、デボンダー柔軟剤を含めた柔軟剤、嵩高剤、染料、分散剤、乾燥紙力増強剤、 20 濾水向上剤、ピッチコントロール剤、吸収性向上剤などを用いることができる。ま た、湿潤紙力増強剤は使用しないことが好ましい。 【0037】 なお、トイレットペーパーとして古紙原料を使用する場合も、バージン系の場合と
同様の処理を行う。 25 【0038】 <エンボスパターン> 124 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの第1のプライ及び第2 のプライにエンボスパターンを設けることが好ましく、シングルエンボスパターン 2であることが好ましい。なお、エンボスパターンは、エンボス加工によって形成 された凹凸の形状をいう。 5 【0039】 図2は、トイレットロール1におけるトイレットペーパーの表面側のシングルエン ボスパターン2のエンボスパターンの凹部2Rの撮影画像を示す。なお、本発明に 係るトイレットロール1において、トイレットペーパーの表面側とは、トイレット ロール1の外側を構成する面を意味し、トイレットペーパーの裏面側とは、トイレ 10 ットロール1の紙管側である内側を構成する面を意味する。 【0040】 シングルエンボスパターン2の代わりにダブルエンボスパターンを施した場合、ト イレットペーパーの表面側及び裏面側の各シートをそれぞれエンボス処理した後、 それぞれのシートのエンボスパターンの凸面同士を内側にしてプライアップして2 15 プライ積層するため、トイレットペーパーの紙厚が高くなり過ぎ、巻密度が低くな って、巻長を確保することが難しくなる場合がある。また、ダブルエンボスパター ンでもエンボスパターンの深さを浅くすれば紙厚は低くなるが、シートの柔らかさ が劣る場合がある。そのため、シングルエンボスパターン2とすることで、良好な 柔らかさによる販促効果を高めつつ、持ち運べる量や保管時の省スペース性に優れ 20 たトイレットロール1を得ることができる。ダブルエンボスパターンの場合、2プ ライ積層する際には、プライボンドグルー(糊)を用いたり、ナーリング(エッジ エンボス)を用いたりする。しかし、シングルエンボスパターン2は、プライボン ドグルーやナーリングを用いなくても2プライ積層できるため、好ましい。 【0041】 25 (エンボスパターンの深さ) 図3は、トイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーに設け 125 られたシングルエンボスパターン2を示す断面図である。図3の上部がロール表面 側に対応し、図3(a)はエンボスパターンの深さDが深い場合、図3(b)はエン ボスパターンの深さDが浅い場合である。なお、エンボス処理後のトイレットペー パーの紙厚t2(この紙厚は、トイレットペーパーの表面側の非エンボスパターン 5 部と、裏面側のエンボスパターンの凸部2Pの間の距離を反映する。は同一である。 ) だだし、トイレットペーパーの紙厚t2が同一の場合であっても、エンボスパター ンの深さDが深くなるようにエンボスパターンを付けた図3(a)の方が、シート が柔らかく風合いに優れる。これは、エンボスパターンの凹凸が顕著な図3(a) の方が、原紙の紙厚に対する嵩が高くなり(密度が低くなり)、変形し易くなってシ 10 ートの柔らかさが向上するためと考えられる。また、トイレットペーパーの表面側 にエンボスパターンを設けずに平滑にすると、滑らか過ぎて表面がパリパリに感じ、 シートの柔らかさが劣る。 【0042】 そこで、本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのシングルエン 15 ボスパターン2のエンボスパターンの深さDは、0.01mm以上0.40mm以 下であることが好ましく、0.04mm以上0.35mm以下であることがより好 ましく、0.09mm以上0.30mm以下であることが更に好ましい。 【0043】 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのエンボスパターンの深 20 さDを上記の数値範囲内のものとすることにより、嵩高さと密度の高さが良好で、 柔らかさに優れたトイレットロール1とすることができる。 【0044】 なお、トイレットペーパーにおいて、温水洗浄便座の使用時等に水が付着し易い表 面側に、エンボスパターンの凹部2Rを設けると、凹部2Rは凸部2Pより触感が 25 良いため、シートの柔らかさが向上する。 【0045】 126 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのエンボスパターンの深 さDは、マイクロスコープを用いてエンボスパターンの高低差を測定して求める。 【0046】 マイクロスコープとしては、KEYENCE社製の製品名「ワンショット3D測定 5 マクロスコープVR−3100」を使用することができる。マイクロスコープの 画像の観察・測定・画像解析ソフトウェアとしては、製品名「VR−H1A」を使 用することができる。また、測定条件は、倍率12倍、視野面積24mm×18m mの条件で測定する。なお、測定倍率と視野面積は、求めるエンボスパターンの大 きさによって、適宜変更してもよい。 10 【0047】 まず、図4に示すように、エンボスパターンの周縁frの最長部aを求める。図5 (a)は、マイクロスコープによるX−Y平面上の高さプロファイルを示し、トイ レットペーパー表面の高さが濃淡で表されることがわかる。図5(a)の濃色部位 が個々のエンボスパターンを示し、図5(a)から1つのエンボスパターンの最長 15 部aを見分けることができる。この最長部aを横切る線分A−Bを引くと、 (b) 図5 に示すようにエンボスパターンの高さ(測定断面曲線)プロファイルが得られる。 ここで、X−Y平面画像の色の濃淡で、エンボスパターンの凸部(非エンボスパタ ーン部)と凹部がわかるので、凸部と凹部が隣接している部分を横切るように線分 A−Bを決めればよい。 20 【0048】 ここで、図5(b)の高さプロファイルは、実際のトイレットペーパーの試料表面 の凹凸を表す(測定)断面曲線Tであるが、ノイズ(トイレットペーパーの表面に 繊維塊があったり、繊維がヒゲ状に伸びていたり、繊維のない部分に起因した急峻 なピーク)をも含んでおり、凹凸の高低差の算出に当たっては、このようなノイズ 25 ピークを除去する必要がある。 【0049】 127 そこで、図6に示すように、高さプロファイルの断面曲線Tから「輪郭曲線」Uを 計算し、この輪郭曲線Uのうち、上に凸となる2つの変曲点P1とP2を求めて、 変曲点P1とP2で挟まれる最小値を求めることによって、深さの最小値Minと する。さらに、変曲点P1、P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。 5 【0050】 このようにして、エンボスパターンの深さD=最大値Max−最小値Minとする。 また、変曲点P1、P2のX−Y平面上の距離(長さ)を最長部aの長さと規定す る。なお、 「輪郭曲線」は、断面曲線から λc:800μm(但し、λcはJIS− B0601「3.1.1.2」に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義する 10 フィルタ」 より短波長の表面粗さの成分を低域フィルタによって除去して得られる ) 曲線である。なお、λcを、隣接するエンボスパターン同士のP1の間隔(これを、 エンボスピッチという)以上に設定すると、ピークをノイズと認識してしまう可能 性があるので、λcをエンボスピッチ未満とする。例えば、エンボスピッチが80 0μm以下の場合、例えばλc:250μmに設定する。隣接するエンボスパター 15 ン同士のP1の間隔は、図6の左又は右に繋がる次のエンボスパターンについて同 様にP1、P2を求め、隣接するエンボスパターン同士でP1、P2、P1と並ぶ ときの2つのP1の間隔である。 【0051】
同様にして、図5(a)において最長部aに垂直な方向での最長部bについてもエ 20 ンボスパターンの深さDを測定し、最長部aとbの各エンボスパターンの深さDの うち、大きい方の値をエンボスパターンの深さDとして採用する。以上の測定を、 トイレットペーパーの表面側の任意の10個のエンボスパターンについて行い、そ の平均値を最終的なエンボスパターンの深さDとして採用する。ただし、図7に示 すように、エンボスパターンが流れ方向(MD方向)につながっている場合、最長 25 部aが巻長と同じになってしまい、高低差が得られず、凹部の深さDを測定できな い。そこで、エンボスパターンが繋がる方向(MD方向)に直交する幅W方向に、 128 エンボスパターンを跨ぐように線分A−Bを引き、凹部の深さDを測定することが できる。同様に、エンボスパターンが幅W方向(CD方向)につながっている場合、 流れ方向(MD方向)に、エンボスパターンを跨ぐように線分A−Bを引き、凹部 の深さDを測定する。 5 【0052】 また、エンボスパターンの深さDの測定において任意の10個のエンボスパターン を選定する際には、トイレットロール1の外巻の端部(トイレットペーパーを使用 し始める位置)から、トイレットロール1の巻長の20%に当たる部分で測定する。 例えば、巻長が75mの場合、端部から75m×20%=15mの部分で測定する。 10 なお、巻長の20%の部分がミシン目に当たる場合は、ミシン目の外巻側を測定す る。 【0053】 なお、エンボスパターンの深さDを測定する際、シングルエンボスパターン2であ っても、ダブルエンボスパターンであっても、測定面はトイレットペーパーの表面 15 側とする。 【0054】 (エンボスパターンの面積) 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのそれぞれのエンボスパ ターンの面積は、最長部aと最長部bの積(a×b)をエンボスパターンの面積S 20 として求める。最長部aと最長部bは、上記したトイレットペーパーの表面側の1 0個のエンボスパターンについての個々のa、bの値を平均した値を用いる。エン ボスパターンの面積についての測定方法については、上記のエンボスパターンの深 さDの測定方法を用いることができる。 【0055】 25 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのシングルエンボスパタ ーン2のそれぞれのエンボスパターンの面積Sは、0.2mm2以上9.0mm2以 129 下であることが好ましく、1.0mm2以上7.0mm2以下であることがより好ま しく、1.8mm2以上5.0mm2以下であることが更に好ましい。また、エンボ スパターンの面積率(トイレットペーパーのうち、エンボスパターンのある部分の 割合)は、3%以上60%以下であることが好ましく、7%以上45%以下である 5 ことがより好ましく、10%以上30%以下であることが更に好ましい。トイレッ トペーパーのエンボスパターンの面積率を求めることが難しい場合、エンボスロー ル111の凸部の面積率をエンボスパターンの面積率とすることができる。エンボ スパターンの面積及び面積率を上記の数値範囲内とすることにより、美粧性と巻密 度を良好なものとすることができる。 10 【0056】 なお、エンボスパターンの形状は、長方形、正方形等、丸形、長丸形等、特に制限は ない。また、上記に示したエンボスパターンの大きさおよびエンボスパターンの面 積率(個数)を適宜調整して、巻直径や巻密度を調整することができる。 【0057】 15 <白色度> 脱墨パルプが蛍光染料を含むと、トイレットペーパー(シート)のUV−in条件 下での白色度の値と、UV−cut条件下での白色度の値の差 Δ が大きくなる。こ こで、UV−inとは、CIE(国際照明委員会)が規定するC光源(紫外光を含 む)をシート表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度である。 20 UV−cutとは、波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介して、 C光源をシート表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度である。 差 Δ=(白色度UV−in)−(白色度UV−cut)である。白色度は、ISO 2470に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所社製 高速分光光度計CMS− 35SPXを用いて測定できる。 25 【0058】 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの表面側の白色度UV− 130 inと白色度UV−cutとの差 Δ は、0.0ポイント以上2.5ポイント以下で あることが好ましく、0.0ポイント以上1.5ポイントポイント以下であること がより好ましく、0.0ポイント以上1.0ポイント以下であることが更に好まし く、0.0ポイント以上0.5ポイント以下であることが特に好ましい。 5 【0059】 <坪量> 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの坪量は、1プライあた り、13.0g/m2 以上19.0g/m2 以下であることが好ましく、13.5g /m2以上17.0g/m2以下であることがより好ましく、14.1g/m 2以上1 10 6.0g/m2以下であることが更に好ましい。 【0060】 <紙厚> 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの紙厚は、0.45mm /10枚以上1.20mm/10枚以下であることが好ましく、0.55mm/1 15 0枚以上1.05mm/10枚以下であることがより好ましく、0.65mm/1 0枚以上0.90mm/10枚以下であることが更に好ましい。 【0061】 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパー1プライあたりの坪量と 紙厚を上記の数値範囲内のものとすることにより、巻密度及びロール密度を調整し 20 易くすることができ、強度が良好であり、使用感や嵩高さも良好なトイレットロー ル1とすることができる。 【0062】 <比容積> 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積は、シート1枚 25 あたりの紙厚を1枚あたりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm 3で表した。 【0063】 131 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積は、3.0cm 3/g以上7.5cm 3/g以下であることが好ましく、3.3cm3/g以上6.7 cm3/g以下であることがより好ましく、3.6cm 3/g以上6.4cm3/g以 下であることが更に好ましい。 5 【0064】 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの比容積を上記の数値範 囲内のものとすることにより、シートの柔らかさと吸水性が良好であり、エンボス 処理の嵩高さを良好なトイレットロール1とすることができる。 【0065】 10 <強度> 本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーの強度 は、JIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さをDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)、乾 燥時の横方向の引張強さをDCDT(Dry Cross Direction 15 Tensile strength)とする。なお、本発明に係るトイレットロー ル1において、製品の抄紙の流れ方向を縦方向とし、流れ方向に直角な方向を横方 向とする。 【0066】 本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーのDM 20 DTは、2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下であることが好ましく、 3.0N/25mm以上5.8N/25mm以下であることがより好ましく、3. 5N/25mm以上4.5N/25mm以下であることが更に好ましい。また、本 発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーのDCD Tは、0.7N/25mm以上2.2N/25mm以下であることが好ましく、0. 25 8N/25mm以上1.8N/25mm以下であることがより好ましく、1.0N /25mm以上1.5N/25mm以下であることが更に好ましい。なお、引張強 132 さの測定は、引張速度300mm/minの条件で行う。また、引張強さは、公知 の方法で調整することができる。 【0067】 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーのDMDT及びDCDT 5 を上記の数値範囲内のものとすることにより、強度と柔らかさが良好なトイレット ロール1とすることができる。 【0068】 <吸水度> 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーの吸水度は、旧JIS 10 S3104に基づいて、測定する。 【0069】 本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーの吸水 度は、7.0秒以下であることが好ましく、5.0秒以下であることがより好まし く、3.0秒以下であることが更に好ましい。上記の数値範囲内のものとすること 15 により、吸水性と吸水度が良好なトイレットロール1とすることができる。なお、 水を滴下する際は、トイレットペーパーの表面側に滴下する。 【0070】 <ほぐれ易さ> 本発明のトイレットロール1におけるトイレットペーパーを1枚に剥がした時のほ 20 ぐれ易さは、JIS P4501に基づいて測定する 【0071】 本発明のトイレットロール1における2プライ積層したトイレットペーパーを1枚 に剥がした時のほぐれ易さは、8秒以上60秒以下であることが好ましく、15秒 以上50秒以下であることがより好ましく、20秒以上40秒以下であることが更 25 に好ましい。上記の数値範囲内のものとすることにより、ほぐれ易さと水解性及び 温水洗浄便座使用におけるトイレットペーパーが水に濡れた時の耐水性が良好なト 133 イレットロール1とすることができる。 【図4】エンボスパターンの深さの測定方法を示す図である。 134 【図5】エンボスパターンの深さの測定方法を示す図である。 【図6】エンボスパターンの深さの測定方法を示す図である。 135 【図7】エンボスパターンの深さの測定方法を示す図である。 136
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2024/08/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容