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事件 |
令和
5年
(行ケ)
10103号
審決取消請求事件
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5 原告 スリーエムイノベイティブ プロパティズ カンパニー 10 同訴訟代理人弁理士 藤井憲 野村和歌子 佃誠玄 浅村敬一 15 被告特許庁長官 同 指定代理人齋藤卓司 秋田将行 吉野三寛 冨澤武志 20 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための 付加期間を30日と定める。 25 事実及び理由 第1 請求 1特許庁が不服2021−13694号事件について令和5年4月24日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 5 (1)原告は、名称を「光フェルール及び光フェルール金型」とする発明について 平成28年(2016年)10月11日(パリ条約による優先権主張 平成27年 10月12日(以下「本件優先日」という。 、米国)を国際出願日とする特許出願 ) (特願2018−538529号、以下「本願」という。甲2)をした。 (2) 原告は、本願につき、令和3年6月23日付け拒絶査定を受けたので、同年 10 10月8日、拒絶査定不服審判(不服2021−13694)を請求した(甲4)。 (3) 特許庁は、令和5年4月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とす る審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年5月16日、原告に送 達された(出訴期間90日附加)。 (4) 原告は、同年9月13日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 15 2 特許請求の範囲の記載 本願に係る特許請求の範囲は、令和3年2月18日に手続補正された請求項1〜 10からなり、その請求項1の記載は、次のとおりである(甲3。以下、同補正後 の本願の請求項1に係る発明を「本願発明」といい、下記のとおり本願発明にA〜 Gの記号を付して分説した。また、各構成要件のうち、例えばAに係る構成要件を 20 「構成要件A」などという。さらに、本願の願書に添付された明細書及び図面を併 せて「本願明細書」という。 。) 【請求項1】 A 成型された一体状の光フェルールであって、 B 前記一体状の光フェルールの外周面を略一回りする分割線加工物を含む1つ 25 以上の分割線加工物であり、前記光フェルールの面を厚さ軸に沿って第1のセク ションと反対側の第2のセクションとに区分する1つ以上の分割線加工物を備え、 2C 前記第1のセクションは、 D 光導波路を受け入れ固定するために構成された1つ以上の要素と、 E 前記一体状の光フェルール内に光を伝搬させながら前記光導波路からの前記 光の1つ以上の特性に作用を及ぼすために構成された1つ以上の要素と、 5F 前記光フェルールが接合用フェルールと接合されるときに、前記厚さ軸と直 交する第1の横軸に沿う前記光フェルールの平行移動、前記厚さ軸及び前記第1の 横軸の両方と直交する第2の横軸に沿う前記光フェルールの平行移動、並びに前記 厚さ軸の周りの前記光フェルールの回転を制御する1つ以上の第1の位置合わせ特 徴と、を備え、 10 G 前記第2のセクションは、前記光フェルールが前記接合用フェルールと接合 されるときに、前記厚さ軸に沿う前記光フェルールの平行移動、並びに前記第1の 横軸及び前記第2の横軸の周りの前記光フェルールの回転を制御する少なくとも1 つの第2の位置合わせ特徴を含む、光フェルール。 3 本件審決の理由 15 (1) 理由の要旨 本件審決の理由の要旨は、以下の(2)〜(4)の認定・判断によると、本願発明は、 その本件優先日前に頒布された甲1(国際公開第2015/038941号)に記 載された発明(以下「引用発明」という。)であるか、若しくは甲1に記載された発 明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項 20 3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 (2) 引用発明の認定 甲1には、 「コア直径を有する対応する光導波路723に光学的に結合され、光導波路72 3から現れる光を方向付けるように構成されており、もって、この方向付けられた 25 光ビームが、光導波路723のコア直径を超える直径を有するようになっている光 方向転換素子730と、 3複数の光導波路723を保持するように構成されたV溝731と、 トランシーバー光結合ユニット702の適合するインターロック機構732と インターロックするように構成されるインターロック機構713と、 先細形状となっており、嵌合面719bを有する機械的結合部材719と、を備 5 え、 複数の導波路723と複数の光方向転換素子730との間で光を結合するよう に構成され、 機械的支持部材719の先細形状は、トランシーバー光結合ユニット702の機 械的支持部材718の嵌合面718a上に配設された、第1及び第2の位置合わせ 10 機構721に対応し、 機械的結合部材719の嵌合面719bは、機械的結合部材718の嵌合面71 8aと嵌合するように構成されており、 一体の構成であってもよく、一体構造又は構成は、単一の形成ステップ、例えば 機械加工、鋳造、又は成形で形成されることができる、 15 コネクタ光結合ユニット701。」の発明(引用発明)が記載されていると認めら れる。 (3) 本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明は、次の一致点と相違点を有する。 (一致点) 20 「成型された一体状の光フェルールであって、 光導波路を受け入れ固定するために構成された1つ以上の要素と、 前記一体状の光フェルール内に光を伝搬させながら前記光導波路からの前記光 の1つ以上の特性に作用を及ぼすために構成された1つ以上の要素と、 前記光フェルールが接合対象と接合されるときに、前記厚さ軸と直交する第1の 25 横軸に沿う前記光フェルールの平行移動、前記厚さ軸及び前記第1の横軸の両方と 直交する第2の横軸に沿う前記光フェルールの平行移動、並びに前記厚さ軸の周り 4の前記光フェルールの回転を制御する1つ以上の第1の位置合わせ特徴と、 前記光フェルールが前記接合対象と接合されるときに、前記厚さ軸に沿う前記光 フェルールの平行移動、並びに前記第1の横軸及び前記第2の横軸の周りの前記光 フェルールの回転を制御する少なくとも1つの第2の位置合わせ特徴を含む、光 5 フェルール。」である点。 (相違点1) 本願発明が「前記一体状の光フェルールの外周面を略一回りする分割線加工物を 含む1つ以上の分割線加工物であり、前記光フェルールの面を厚さ軸に沿って第1 のセクションと反対側の第2のセクションとに区分する1つ以上の分割線加工物」 10 を備えているのに対し、引用発明は、分割線加工物」 「 を備えているか不明である点。 (相違点2) 本願発明が、その第1セクションに「光導波路を受け入れ固定するために構成さ れた1つ以上の要素」 「前記一体状の光フェルール内に光を伝搬させながら前記光 、 導波路からの前記光の1つ以上の特性に作用を及ぼすために構成された1つ以上の 15 要素」および「1つ以上の第1の位置合わせ特徴」を備えているのに対し、引用発 明は、 「分割線加工物」を備えているか不明であるため、そのような構成を備えるか どうか不明である点。 (相違点3) 本願発明が、その第2のセクションに「少なくとも1つの第2の位置合わせ特徴」 20 を備えているのに対し、引用発明は、 「分割線加工物」を備えているか不明であるた め、そのような構成を備えるかどうか不明である点。 (相違点4) 接合対象につき、本願発明が「接合用フェルール」であるのに対し、引用発明は、 「トランシーバー光結合ユニット702」である点。 25 (4) 判断 ア 相違点1〜3について 5引用発明は、「一体の構成であってもよく、一体構造又は構成は、単一の形成ス テップ、例えば機械加工、鋳造、又は成形で形成されることができる」のであるか ら、引用発明には、 「成形で形成される一体構造のもの」が含まれることになる。そ して、このようなものを作成するにあたっては金型が必要になることは当然である。 5 引用発明の「コネクタ光結合ユニット701」は、その形状から見て、「光方向転 換素子730」 「V溝731」 「インターロック機構713」 「先細形状の機械的 、、、 結合部材719の嵌合面719b以外の部分」の型に対応した金型と、 「先細形状の 機械的結合部材719の嵌合面719bの部分」の型に対応した金型の二つの金型 (以下「引用発明特定金型」という。)を用いればよいこと、二つの金型を用いる場 10 合にはその他の形状の金型(例えば、 「V溝731」の型に対応した金型と「インター ロック機構713」の型に対応した金型を別体にしたもの)を用いることが不可能 であることが当業者には明らかである。 そうすると、成形で形成される一体構造のコネクタ光結合ユニット701の作成 にあたっては、引用発明特定金型もしくはそれを分割したものを使用することとな 15 り、作成されたコネクタ光結合ユニット701の二つの金型の境界に対応する部分 には、自然に「分割線加工物」が形成されることになる。(相違点1) ここで、引用発明特定金型の形状に照らせば、分割線加工物の一方の側には、 「光 方向転換素子730」 「V溝731」 「インターロック機構713」 「先細形状の 、、、 機械的結合部材719の嵌合面719b以外の部分」が形成され、他方の側には、 20 「先細形状の機械的結合部材719の嵌合面719bの部分」が形成されることに なる。そして、 「インターロック機構713」及び「機械的支持部材719の先細形 状」は、本願発明の「1つ以上の第1の位置合わせ特徴」に相当し、 「機械的結合部 材719の嵌合面719b」は、本願発明の「少なくとも1つの第2の位置合わせ 特徴」に相当し、上記分割線加工物の一方の側は、本願発明の「第1のセクション」 25 に、他方の側は本願発明の「第2のセクション」に相当するといえる。(相違点2、 3) 6そうすると、引用発明には、相違点1〜3に係る本願発明の構成を満足するもの が含まれているといえるから、相違点1〜3は実質的な相違点とはいえない。 イ 相違点4について 本願発明は、 「光フェルール」という物の発明であると認められるところ、接合対 5 象が何であるかは「光フェルール」という物を何ら特定するとは認められず、そう すると、相違点4は実質的な相違点であるとは認められない。 ウ 小括 そうすると、本願発明は、甲1に記載された発明であり、仮にそうでないとして も、甲1に記載された発明より、当業者が容易に想到し得る発明である。 10 第3 当事者の主張 1 原告の主張 (1) 相違点の認定の誤り ア 本願発明について 本願発明では、成型された一体状の光フェルールの外周面を略一回りする分割線 15 加工物であって、光フェルールの面を厚さ軸に沿って第1のセクションと反対側の 第2のセクションとに区分する1つ以上の分割線加工物を備えることを技術的特徴 の1つとしている。 一般的に、金型側部の位置合わせ誤差は、約10μm以上のオーダー程度に大き くなることがあるため、受け入れ要素、光作用要素及び位置合わせ特徴が、金型の 20 単一側部により成型されない場合、受け入れ要素及び光作用要素は、位置合わせ特 徴との位置合わせ不良を伴うことがある。そして、光フェルールが当該位置合わせ 不良を伴っているか否かは、通常、その判別が容易ではない。 このような課題に対して、分割線加工物をあえて備える本願発明によると、ユー ザは、例えば、分割線加工物を感知(視認又は指先で触って確認)することで、受 25 け入れ要素、光作用要素及び位置合わせ特徴が、金型の単一側部により成型される ような、金型側部の位置合わせ誤差に影響を受けにくい製造方法により製造されて 7いることを容易に知ることができる。 被告は、分割線加工物の位置及び大きさについて、本願明細書の【0017】、 【0 036】及び【0046】の記載から、 「分割線加工物の大きさは、当該分割線加工 物が、光フェルールが接合用フェルールと接合される箇所に生じたものであっても、 5 適切な接合が可能な程度の間隔(10μm未満)に収まる、位置合わせに支障がな い程度のサイズであるといえる。」と主張するが、【0017】の記載は、金型側部 の位置合わせ誤差が約10μm以上のオーダーなど著しくなり得ることを示してい るにすぎず、分割線加工物の大きさに関連するものではないことは明らかであるし、 【0036】の記載をみても、上記被告の主張の根拠が不明である。 10 本願明細書からは、分割線加工物という名称を有する部位が存在することが明ら かであり、本願発明においては、成型時に生じた小さな段差又は成型ばりを除去す ることなく、あえて分割線加工物を残していることから、その大きさが有意である ことは、当業者であれば容易に理解できる。 イ 相違点1〜3の認定について 15 甲1の「(仮訳:いくつかの実施形態では、コネクタ光結合ユニット220および /または相手側トランシーバ光結合ユニット290は、光結合ユニットが内部イン タフェース、接合部、または継ぎ目を有さないことを意味する一体構造であり得る。 場合によっては、一体構造または構造は、機械加工、鋳造、または成形などの単一 の形成ステップで形成することが可能である。 」との記載から、引用発明において ) 20 は、製品上の不要なマーキングや特徴を排除する意図があると解釈することができ る。一般的に、一体型構造の目的は、製品の強度、耐久性及び品質を最大化するこ とにあり、これには製品の外観も含まれるためである。 特に、光学部品や精密機器などにおいては、製品上の不要なマーキングや特徴が 性能に直接影響を及ぼす可能性があるため、一体型構造の製品では、製品上の不要 25 なマーキングや特徴を管理し、最小化することが重要となることが多く、少なくと も引用発明においては、分割線加工物を残すような意図はない。 8そうすると、引用発明が「分割線加工物」を備えていないことは明らかであるか ら、本件審決が相違点1〜3について、「引用発明は、「分割線加工物」を備えてい るか不明である」と認定したことは誤りである。 (2) 容易想到性の判断の誤り 5 前記(1)のとおり、本件審決は、「引用発明は「分割線加工物」を備えているか不 明である」と認定を誤っており、これに起因して、 「相違点1〜3は実質的な相違点 とはいえない」と判断を誤っているから、本願発明を容易に発明できるとした点も 誤りである。 さらに、甲1の記載によると、引用発明は分割線加工物の適用を排斥しており、 10 何らかの先行技術文献などを組み合わせるなどして分割線加工物を採用することは 到底あり得ない。 したがって、甲1から出発して本願発明の構成に至ることには阻害事由があり、 甲1から出発して本願発明の構成に至ることは容易に想到可能であるということは できない。 15 2 被告の主張 (1) 本件審決の相違点の認定に誤りがないことについて ア 本願発明について 本願発明の分割線加工物は、金型の側部同士の位置合わせ不良又は接触不良によ り生じるものであり(本願明細書【0020】 【0021】 、分割線加工物の大きさ ) 20 は、当該分割線加工物が、光フェルールが接合用フェルールと接合される箇所に生 じたものであっても、位置合わせに支障がない程度のサイズの小さな段差又は成型 ばりの形をとるものといえる(同【0017】【0036】【0046】 。) また、射出成形技術においては、金型を用いて部材を形成する際に、金型の合わ せ目(パーティングライン)に起因するばり状ラインや微小段差のラインが成形品 25 にできること、パーティングラインの段差やばりを極小化したり、目立たなくする ように対処されることは、いずれも技術常識であり(乙1)、また、光フェルールの 9技術分野において射出成形により樹脂で光フェルールを成形する場合にも、パー ティングラインにばりや段差が生じることは技術常識である(乙2)ところ、本願 発明の分割線加工物は、金型の側部同士の位置合わせ不良又は接触不良により生じ る小さな段差又は成型ばりの形をとるものであるから、上記技術常識として理解さ 5 れているばりや段差にほかならず、本願発明の光フェルールを射出成形により形成 する際には、金型のパーティングラインに分割線加工物が生じるといえる。そして、 上記のとおり、金型のパーティングラインに形成されるばりや段差のラインを極小 化したり、目立たなくするように対処されることが技術常識であるところ、本願明 細書には、上記技術常識とは異にするような、分割線加工物をユーザーが感知しや 10 すいように形成することは記載も示唆もされていないし、分割線加工物が形成され れば、当該分割線加工物の大きさにかかわらずユーザーが分割線加工物を感知でき ることが技術常識であるということはできないから、光フェルールを金型で形成す れば、必然的にユーザーが認識可能な分割線加工物を備えることになるともいえな い。 15 そうすると、分割線加工物が二つのセクションを区分するという本願明細書の記 載に接した当業者は、当該分割線加工物は、本願発明の光フェルールを射出成形に より形成する際に金型のパーティングラインに生じる分割線加工物にすぎず、単に 二つのセクションを区別して分けるように存在することを意味すると理解するにと どまる。したがって、当該分割線加工物が二つのセクションを「区分する」ことが、 20 ユーザーに対して、受け入れ要素、光作用要素及び位置合わせ特徴が、金型の単一 側部により成型されるような、金型側部の位置合わせ誤差に影響を受けにくい製造 方法により製造されていることを認識できるようにする識別機能を備えることを意 味するものであると解することはできない。 イ 相違点1〜3の認定について 25 本件審決が認定した引用発明には、形成方法として「成形」が含まれており、引 用発明は成形により形成され得るものといえる。 10 一般的に、成形の主要な技術である射出成形では、金型の基本構造として、2枚 構成金型(2プレート)を用いることは技術常識であり(乙1)、フェルールを成形 する際に2分割の金型を用いて形成することも知られており(乙4) 金型加工費や 、 寸法精度などを考慮して、なるべく単純なパーティングラインとするように成形品 5 の設計が行われることも技術常識である(乙1)。 そして、一般的に、上下2分割の金型は、キャビティとコアという二つの金型か ら構成されるものであり、キャビティは、製品が成形される空間を備え、製品の外 側を成形する機能を有するものであり、一方、コアは、製品の裏側の面を成形する ものである(乙7)。 10 そして、金型の合わせ目であるキャビティとコアの金型が接する箇所には、パー ティングラインが形成される(乙1)ところ、甲1のコネクタ光結合ユニット70 1の外観に照らすと、ユニット701の本体は、キャビティ(上側の金型)で成形 され、 「先細形状の機械的結合部材719の嵌合面719bの部分」は、コア(下側 の金型)で成形されることが理解される。この場合、上下二つの金型のパーティン 15 グラインは、嵌合面719bの外縁に位置することになる。 そして、甲1を詳細に見た場合(以下に引用する図7A〜図7Cについては別紙 1のとおりであり、被告の主張する図面上の線や着色部分は別紙2のとおりであ る。、図7Cにおけるインターロック機構713の上側に形成される傾斜部と下側 ) に形成される傾斜部との間に引かれている実線は、インターロック機構713を構 20 成する平面のうち、図7Cにおいて紙面に平行な平面(以下「平面1」という。)と 当該平面1に対して傾斜する傾斜部の面が交差する稜線(以下「稜線1」という。) を示すとともに、図7Cの左側において紙面と直交する平面(以下「平面2」とい う。)と平面1の間の平面(以下「平面3」という。)と当該平面3に対して傾斜す る下側の傾斜部の面が交差する稜線(以下「稜線3」という。)を示していると解す 25 ることができる。 さらに、図7Aにおいて前記平面2に対して傾斜する下側の傾斜部の面が交差す 11 る稜線(以下「稜線2」という。)がみてとれる。 そして、金型を設計する上で、パーティングラインに形成される段差やばりを極 小化したり、目立たなくするように対処することは技術常識である(乙1)ところ、 甲1のコネクタ光結合ユニット701を形成するために用いる上下二つの金型の 5 パーティングラインを、前記稜線1〜3の位置にパーティングラインにより形成さ れる段差やばりが位置するように設計することが最も合理的である。 これを甲1の図7において、分割線加工物(パーティングライン)が具体的にど こに生じるのか、図に着色して具体的に示せば、別紙2の図の上に緑線で表示する 部分である。 10 フェルールを金型で成形する際に発生するばりに対して、作業の効率化や生産性 向上を目的として、ばりを除去する際に位置合わせに支障がない程度に、ばりを残 すことは技術常識である(乙2、乙6)。 以上のとおり、引用発明は成形により形成され得るものであり、成形で形成され る際には、当業者は単純な上下2分割の金型を使用するといえる。そして、当該上 15 下2分割の金型で引用発明を成形するときにはパーティングラインに分割線加工物 が生じることが技術常識であり、当該分割線加工物は位置合わせに支障がない程度 に残され得るものといえるから、引用発明は分割線加工物を備え得るものであると いえる。 したがって、本件審決が相違点1〜3について、分割線加工物が明記されていな 20 い甲1に基づき、引用発明は分割線加工物を備えているか不明であると認定した上 で、実質的な相違点ではないと判断した点に誤りはない。 (2) 本件審決の容易想到性の判断に誤りがないことについて 前記(1)のとおり、引用発明の認定及び相違点の認定に誤りはない。 また、仮に引用発明として分割線加工物を備えないものが認定されるとしても、 25 甲1には、コネクタ光結合ユニット220は一体の構成であってもよいこと、そし て、一体構造又は構成は、単一の形成ステップ、例えば成形(molding)で形成され 12 ることができることが記載され、図7A及び図7Cのインターロック機構713の 上側に形成される傾斜部と下側に形成される傾斜部との間にパーティングラインを 形成する上下二つの金型を用いた場合には、アンダーカットは生じないと解するこ とができるから、当業者は、引用発明を成形で形成し、その際に成形品に必ず形成 5 される小さいばりや段差等の分割線加工物を残したものとして構成することは、当 業者が容易に想到し得たことである。そして、上記上下二つの金型を用いたときに は、その一方に、成形されたコネクタ光結合ユニットにおけるV溝731、光方向 転換素子730、インターロック機構713及び機械的支持部材719の先細形状 が形成されることとなるから、 「金型の第1の側部201は、第1の金型特徴を成型 10 するように構成された単一の一体状の金型インサートであり、それにより、成型さ れたフェルールにおける受け入れ固定要素、光作用要素、及び第1の位置合わせ特 徴の安定した正確な位置合わせを確実にする」 (【0025】 という本願発明の効果 ) は、分割線加工物をユーザーが感知できるかどうかにかかわらず、引用発明の効果 として当業者が甲1から予測し得る範囲のものである。 15 したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発 明をすることができたものであるといえる。 第4 当裁判所の判断 1 本願発明について (1) 本願明細書(甲2)の記載 20 本願明細書には、別紙3のとおりの記載がある。 (2) 本願発明の内容 以上の本願明細書の記載によると、本願発明は、次のとおりのものということが できる。 本願発明は、光フェルールに関するものである(【0001】 。) 25 各種用途の光通信のために光コネクタを用いることができ、コネクタには、汚染 による影響を受け難く、位置合わせ許容誤差を緩和できる光接続を可能にするため 13 に、拡大光ビームを用いることがあり、拡大ビーム光コネクタを含む光コネクタは、 光フェルールを含むことができ、光導波路を受け入れ固定するための要素と、光導 波路からの光に作用を及ぼすための要素と、光フェルールを接合用フェルールに位 置合わせするための特徴とを含む(【0002】 。) 5 フェルールの成型は、二つの主要金型パーツの使用を伴い、金型の二つの半体は、 「分割軸」に沿って組み合わされ、一体状の光フェルールを成型するためのキャビ ティを形成し、流動性の成型材料が、キャビティ内に注入されて冷却によって、硬 化して一体状のフェルールが形成され、次いで、金型の半体は、分割軸に沿って分 離されてフェルールの取り出しを可能にする(【0012】 。また、光フェルールの ) 10 位置合わせは、3次元における六つの機械的自由度を制御することにより実現され る(【0015】 。) しかしながら、金型側部の位置合わせ誤差は、例えば、約10μm以上のオーダー など著しくなることがあり、受け入れ固定要素、光作用要素及び機械的位置合わせ 特徴が、金型の単一側部により成型されない場合、受け入れ固定要素及び作用要素 15 は、位置合わせ特徴との位置合わせ不良を伴うことがあるところ、そのような欠陥 フェルールが接合用フェルールと接合されると、不適切に位置合わせさせることに より、コネクタの光挿入損失を大きくする(【0017】 。) そこで、上記課題を解決するために、上記第2の2の本願発明の構成とした(【0 003】 。) 20 本願発明の分割線加工物は、金型の側部同士の位置合わせ不良又は接触不良によ り分割線に生じた特徴であって、小さな段差又は成型ばりの形をとることができ、 面の第1のセクションを面の第2のセクションから隔てるものであって(【002 0】、金型の第1の側部201は、第1の金型特徴を成型するように構成された単 ) 一の一体状の金型インサートであり、それにより、成型されたフェルールにおける 25 受け入れ固定要素、光作用要素及び第1の位置合わせ特徴の安定した正確な位置合 わせを確実にする(【0025】 。) 14 (3) 本願発明の要旨認定について ア 「分割線加工物」について 本願発明の「光フェルール」は、「成型された一体状」(構成要件A)のものであ り、 「分割線加工物」は、 「前記一体状の光フェルールの外周面を略一回りする」 (構 5 成要件B)のものであることが理解できる。 ここで、金型を用いた成型における「分割線」 (パーティングライン)とは、金型 の合わせ目のことを意味し、かかる金型の合わせ目に起因して、成型品上に必ずラ イン(微小段差・バリ)が発生することが技術常識(乙1)であることを踏まえる と、本願発明の「分割線加工物」とは、成型品上に生じる金型の合わせ目に起因す 10 る段差状ライン又はバリ状ラインのことを意味するものと解される。この理解は、 本願明細書の「分割線加工物は、成型されたパーツにおいて金型の側部同士の位置 合わせ不良又は接触不良により分割線に生じた特徴である。加工物は、小さな段差 又は成型ばりの形をとることができる。 (」 【0020】)との記載とも整合する。 他方、本願発明は、 「分割線加工物」によって光フェルールの面を二つのセクショ 15 ンに区分すること(構成要件B)及び各セクションにおける要素及び特徴の存在(構 成要件C〜G)が特定されるにすぎないから、本願発明においては、分割線加工物」 「 について、かかる解釈を超えて具体的な大きさ等、何らかの特定がされていると解 することはできない。 イ 本願発明の作用効果について 20 原告は、本願発明では、受け入れ固定要素、光作用要素及び機械的位置合わせ特 徴が、金型の単一側部により成型されていることを保証するための分割線加工物を 有することにより、ユーザは、光フェルールが金型側部の位置合わせ誤差に影響を 受けにくい製造方法により製造されていることを容易に知ることができ、上記本願 発明の課題の発生を未然に防止することが可能となると主張するが、本願明細書の 25 「発明の効果」にはそのような記載はなく、かつ、本願明細書を全体としてみても 記載されていない効果であるから、原告の上記主張は採用することができない。 15 他方、前記(2)の本願発明の内容については、ユーザが分割線加工物を感知できる かどうかによって左右されるものではないし、成形品の設計においては、金型のパー ティングラインが成形品の外観や機能に障害を起こさないように設計する必要があ ること(乙1)を踏まえると、本願発明が備える第1のセクションと第2のセクショ 5 ンとの間に分割線加工物が存することで、前記(2)の本願発明の内容に基づく効果 を奏することは、当業者が容易に理解し得ることである。 2 原告主張に係る相違点の認定の誤りについて (1) 引用発明の認定について 甲1によると、分割線加工物の点を除く引用発明の認定については、前記第2の 10 3(2)のとおりの引用発明を認定することができる。この点、原告は、引用発明が分 割線加工物を備えていないことは明らかであるから、本件審決が相違点の認定にお いて、 「引用発明は分割線加工物を備えているか不明である」と認定したことは誤り であると主張するので、引用発明(甲1)における分割線加工物の有無について以 下検討する。 15 (2) 分割線加工物について ア 金型による成形で形成されたものとすること 引用発明の「コネクタ光結合ユニット701」は、 「一体の構成であってもよく、 一体構造又は構成は、単一の形成ステップ、例えば機械加工、鋳造、又は成形で形 成されることができる」ものであり、一体の構成として、成形で形成されることが 20 できるものである(甲1訳文【0030】【0038】〜【0041】 。) ここで、引用発明における「成形」とは、甲1記載の「molding」の訳文であり、 「molding」とは、「型で作ること、塑(そ)造、鋳造(法)(ジーニアス英和大辞 」 典)「型で作ること、鋳造、塑造;形作ること」 、 (ランダムハウス英和大辞典)を意 味する用語である。そして、引用発明において、 「成形」 「機械加工 は、 (machining)」 25 や「鋳造(casting)」とは区別して記載されていることを踏まえると、引用発明にお ける「成形」は、「型で作ること」を意味するものと認められる。 16 また、光フェルールを型により成形する場合に、金型により成形することは、乙 2の「上記のフェルール1の樹脂成形は一般にトランスファー成形や射出成形で行 われ、その成形金型は・・・」 【0003】 、乙4の「前記フェルール120の製 () 造は、通常、図13に示すように、フェルール120の後部を成形する上型140 5 と、レンズ部122を前端とするフェルール120の前部を成形する下型141か らなる射出成形金型を用いて樹脂成形されている。 (」 【0007】)及び乙6の「前 記光コネクタ用フェルール1の成形は、成形樹脂に応じてトランスファー成形や射 出成形で行われるが、その成形金型において、・・・」 【0003】 ( )と記載される とおり、技術常識であるといえる。 10 そうすると、引用発明にいう「成形で形成されることができる」とは、金型によ る成形も当然に含まれるものと認められる。 イ 金型による成形とした場合の分割線加工物の位置 ここで、金型の基本構成として、2枚構成金型(2プレート)は、典型的な構成 (乙1の「表4.15」、乙4の図7、乙7)というべきものであって、その具体的 15 な構成は、キャビティとコアと呼ばれる二つの金型からなり、キャビティは、製品 が成形される空間を備え、製品の外側を成形する機能を有し、コアは、製品の裏側 の面を成形する機能を有するものである(乙7)。 また、金型の合わせ目(パーティングライン)に起因して、成形品にバリ状ライ ンができることは技術常識(乙1、乙2の【0003】)である。 20 そして、金型を設計する上で、成形品を取り出すときに、ひっかかりとなるよう な部分(アンダーカット)が存在しないようにすることも技術常識(乙5)である ことを踏まえると、引用発明の「コネクタ光結合ユニット701」を、金型による 成形で形成する場合、甲1の図7に示される「コネクタ光結合ユニット701」の 外形からみて、ユニット701の本体をキャビティで成形し、 「先細形状の機械的結 25 合部材719の嵌合面719bの部分」をコアで成形することが自然であり、この 場合、二つの金型のパーティングラインは、コネクタ光結合ユニット701の嵌合 17 面719bの外縁に位置することになる。 さらに、金型を設計する上で、金型のパーティングライン部分に発生する成型品 上のライン(微小段差・バリ)を極小化したり、目立たなくするように対処したり することは技術常識(乙1の252〜254頁)であることを踏まえると、甲1の 5 図7A及び図7Cのインターロック機構713部分における金型のパーティングラ インの位置は、図7A及び図7Cにおけるインターロック機構713の上側に形成 される傾斜部と下側に形成される傾斜部との間にある稜線と重複する位置とするこ とが、アンダーカットを発生させずに、かつ、製品上のラインを目立たなくする上 で、最も合理的ということができる。 10 以上のとおり、引用発明の「コネクタ光結合ユニット701」を、金型による成 形で形成する場合、金型のパーティングラインの位置は、 「コネクタ光結合ユニット 701」の外形形状から、必然的に、コネクタ光結合ユニット701の嵌合面71 9bの外縁の位置及びインターロック機構713の上側に形成される傾斜部と下側 に形成される傾斜部との間にある稜線の位置となり、金型のパーティングラインに 15 起因してできる分割線加工物の位置も同位置となるものと認められる。 ウ 分割線加工物の有無について 以上によると、 1 には分割線加工物が明記されていないものの、甲 引用発明の「成 形で形成されることができる」とは、金型による成形も当然に含まれるものであり、 その場合、金型のパーティングラインに起因して生じる分割線加工物の位置を、相 20 違点1〜3に係る本願発明の位置とすることは、引用発明の「コネクタ結合光ユニッ ト701」の外形形状から必然的に決定されることといえる。 また、本願発明の効果も、前記1(3)に判断したとおり、本願発明が備える第1の セクションと第2のセクションとの間に分割線加工物が存することで奏する効果と いうべきものであって、引用発明及び技術常識から、当業者が予測し得た程度のも 25 のである。 そうすると、本件審決が、引用発明は分割線加工物を備えているか不明であると 18 認定した点に誤りがあるとはいえず、相違点1〜3を認定した点に誤りがあるとは いえない。 この点、原告は、本願発明が分割線加工物を感知することで、金型側部の位置合 わせ誤差に影響を受けにくい製造方法により製造されていることを知ることができ 5 るものであるのに対して、引用発明にはそのような目的はなく、むしろ、一般的に、 一体型構造の目的は、製品の強度、耐久性及び品質を最大化することにあり、これ には製品の外観も含まれるから、引用発明においては、製品上の不要なマーキング や特徴を排除する意図があると解釈することができる旨を主張する。しかしながら、 本願発明の特許請求の範囲には「分割線加工物」の大きさは記載されておらず、本 10 願明細書にも原告の上記主張に沿う課題、効果、機能は記載されていないし、その 他、技術常識等も認められない。また、光フェルールにおいて、作業の効率化や生 産性向上を目的として、位置合わせに支障がない程度にバリを残すことは一般的に 行われていること(乙2の【0011】、乙6の【0030】)と認められるから、 引用発明においても、分割線加工物を排除する意図があるものと解釈することはで 15 きない。したがって、原告の上記主張は理由がない。 3 原告主張に係る容易想到性の判断の誤りについて 原告の主張は、相違点1〜3の認定が誤りであることを前提として、本願発明を 容易に発明できるとした点が誤りであると主張するものであるところ、上記2のと おり、相違点1〜3の認定が誤りであるとはいえないから、原告の主張は理由がな 20 い。 第5 結論 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすること ができたものであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、本願発明につき、特 許法29条2項に基づき特許を受けることができないとした本件審決に結論の誤り 25 があるとはいえず、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 よって、原告の請求は棄却されるべきものであるから、主文のとおり判決する。 19 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 5本多知成 10 裁判官 遠山敦士 15 裁判官 天野研司 20 別紙1 甲1の図面 【図7A】 【図7B】 21 【図7C】 22 別紙2 甲1の図7A〜Cにおける被告の主張 【図7A】 嵌合面719bの外縁 平面1 稜線1 傾斜部 平面3 稜線3 平面2 稜線2 5 拡大図 23 【図7C】 平面3 平面2 稜線2 平面1 稜線1 稜線3 傾斜部 【拡大図】 5 24 別紙3 本願明細書の記載(抄) (下記記載中に引用する図のうち図1A、図1B、図1C、図1D、図2A、図2 B、図3A及び図3Bについては別紙4のとおりである。 。) 5 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本開示は、概して、光フェルール及び光フェルールを作るための金型に関する。 【背景技術】 10 【0002】 電気通信ネットワーク、ローカルエリアネットワーク、データセンターリンク、及 びコンピュータデバイスの内部リンクを含む各種用途の光通信のために、光コネク タを用いることができる。コネクタには、ダスト及び他の形態の汚染による影響を 受け難く、位置合わせ許容誤差を緩和できる光接続を可能にするために、拡大光ビー 15 ムを用いることがある。一般に拡大ビームは、関連する光導波路(通常は光ファイ バーであり、例えばマルチモード通信システム用のマルチモードファイバーである) のコアよりも大きな直径のビームである。コネクタは一般に、接続点に拡大ビーム がある場合、拡大ビームコネクタとみなされる。拡大ビームは典型的に、光源又は 光ファイバーからの光ビームを発散させることにより得られる。多くの場合、発散 20 したビームは、例えばレンズ又はミラーなどの光学素子により、略コリメートされ た拡大ビームに処理される。拡大ビームは次いで、別のレンズ又はミラーによりビー ムを集束させることによって受け入れられる。拡大ビーム光コネクタを含む光コネ クタは、光フェルールを含むことができ、光導波路を受け入れ固定するための要素 と、光導波路からの光に作用を及ぼすための要素と、光フェルールを接合用フェルー 25 ルに位置合わせするための特徴とを含む。 【発明の概要】 25 【0003】 いくつかの実施形態は、1つ以上の分割線加工物を含む成型された一体状の光フェ ルールを対象とし、1つ以上の分割線加工物は、一体状のフェルールの外周面を略 一回りする分割線加工物を含む。分割線加工物は、光フェルールの面を厚さ軸に沿っ 5 て第1のセクションと反対側の第2のセクションとに区分する。面の第1のセク ションは、光導波路を受け入れ固定するために構成された1つ以上の要素と、一体 状のフェルール内に光を伝搬させながら光導波路からの光の1つ以上の特性に作用 を及ぼすために構成された1つ以上の要素と、フェルールが接合用フェルールと接 合されるときに、厚さ軸と直交する第1の横軸に沿うフェルールの平行移動、厚さ 10 軸及び第1の横軸の両方と直交する第2の横軸に沿うフェルールの平行移動、並び に厚さ軸の周りのフェルールの回転を制御する1つ以上の第1の位置合わせ特徴と を含む。第2のセクションは、フェルールが接合用フェルールと接合されるときに、 厚さ軸に沿うフェルールの平行移動、並びに第1の横軸及び第2の横軸の周りの フェルールの回転を制御する少なくとも1つの第2の位置合わせ特徴を含む。 15 【発明を実施するための形態】 【0012】 拡大ビーム光コネクタを含む光コネクタは、成型された一体状の構造体として形成 された光フェルール(本明細書では「光結合ユニット」又は「LCU」とも呼ばれ る)を含むことができる。本明細書に記述されるいくつかの実施形態は、成型され 20 た光フェルール、及び光フェルールを作るための金型に関係する。フェルールの成 型は、本明細書では「第1の金型側部」及び「第2の金型側部」と呼ばれる2つの 主要金型パーツの使用を伴う。第1の金型側部は、光フェルールの第1の特徴セッ トを成型するように構成された第1の金型特徴を含む。第2の金型側部は、光フェ ルールの第2の特徴セットを成型するように構成された第2の金型特徴を含む。金 25 型が操作されるときに、2つの半体は、本明細書では「分割軸」と呼ばれるものに 沿って組み合わされ、第1の側部及び第2の側部は、一体状の光フェルールを成型 26 するためのキャビティを形成する。流動性の成型材料が、キャビティ内に注入され るか、そうでなければ配置され、例えば、成型材料の冷却によって、硬化して一体 状のフェルールを形成する。金型の半体は次いで、分割軸に沿って分離されてフェ ルールの取り出しを可能にする。成型されたフェルールに有用ないくつかの材料と 5 しては、熱可塑性及び熱硬化性のポリマー、セラミック、金属、ガラスなどが挙げ られる。 【0015】 接合用光フェルールとの光フェルール100の位置合わせは、3次元における6つ の機械的自由度を制御することにより実現され、6つの機械的自由度は、3つの直 10 交軸121、122、123のそれぞれに沿う平行移動及びそれぞれの周りの回転 である。議論のために、本明細書では軸121が第1の横軸と呼ばれ、本明細書で は軸122が第2の横軸と呼ばれ、軸123が厚さ軸と呼ばれる。軸121はフェ ルール接合用軸とすることができる。フェルールを接合用フェルールに接合させた 後に制御される6つの機械的自由度は、第1の横軸121に沿う平行移動、第2の 15 横軸122に沿う平行移動、厚さ軸123に沿う平行移動、第1の横軸121の周 りの回転、第2の横軸122の周りの回転、及び厚さ軸123の周りの回転を含む。 図1A及び図1Bに示される例では、フェルール100が接合用フェルールと接合 されるときに、前方ストッパ111が接合用フェルールの前方ストッパに接触して 第1の横軸121に沿う平行移動を制御し、フェルール100のピン112が接合 20 用フェルールのソケットと係合し、フェルール100のソケット113が、接合用 フェルールのピンと係合して、第2の横軸122に沿うフェルール100の平行移 動を制御する。前方ストッパ111、及び/又はピン112及びソケット113は、 厚さ軸123の周りのフェルールの回転を制御するために用いることができる。 フェルール100が接合用フェルールと接合されるときに、フェルール100の面 25 114は、接合用フェルールの面と係合して、厚さ軸122に沿うフェルール10 0の平行移動、第1の横軸121の周りのフェルールの回転、横122軸の周りの 27 フェルールの回転を制御する。いくつかの実施形態では、ソケット113は、フェ ルール100の厚みを貫通する穴の少なくともの一部分により形成される。 【0017】 金型側部の位置合わせ誤差は、例えば、約10μm以上のオーダーなど著しくなる 5 ことがある。受け入れ固定要素、光作用要素、及び機械的位置合わせ特徴が、金型 の単一側部により成型されない場合、受け入れ固定要素及び作用要素は、位置合わ せ特徴との位置合わせ不良を伴うことがある。そのような欠陥フェルールが接合用 フェルールと接合されると、位置合わせ特徴は、受け入れ固定要素及び光作用要素 を接合用フェルールと不適切に位置合わせさせることにより、コネクタの光挿入損 10 失を大きくする。 【0018】 本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、光フェルールを成型するための金型 に関係しており、金型は、一体状の光フェルールを成型するためのキャビティを形 成するように組み合わさる第1の金型側部と第2の金型側部を含む。一体状の光 15 フェルールは、金型の分割軸と平行する厚さ軸を伴って成型される。いくつかの実 施形態では、第1の金型側部は、光導波路を受け入れ固定するために構成された1 つ以上の要素と、一体状のフェルール内に光を伝搬させながら光導波路からの光の 特性に作用を及ぼすために構成された1つ以上の要素とを成型するように構成され た第1の金型特徴を含む単一の金型インサートを備えることができる。第1の金型 20 特徴は、フェルールが接合用フェルールと接合されるときに、厚さ軸と直交する横 軸に沿うフェルールの平行移動、及び厚さの周りのフェルールの回転を主に制御す る1つ以上の第1の位置合わせ特徴も成型するように構成される。第2の金型側部 は、フェルールが接合用フェルールと接合されるときに、厚さ軸に沿うフェルール の平行移動、及び横軸の周りのフェルールの回転を主に制御する1つ以上の第2の 25 位置合わせ特徴を成型するように構成された第2の金型特徴を含む。 【0019】 28 いくつかの実施形態では、第2の位置合わせ特徴は、金型の分割軸と直角な平坦面 を含む。これらの実施形態では、成型されたフェルールは、金型側部の僅かな位置 合わせ不良の影響を受けないことができる。いくつかの実施形態では、横軸の一方 がフェルールの接合用軸である。 5 【0020】 本明細書に開示されるいくつかの実施形態は、上で議論された金型側部により作ら れた一体状の光フェルールを対象としており、光フェルールは、金型分割軸と平行 する厚さ軸を伴って成型されており、光導波路を受け入れ固定するために構成され た1つ以上の要素と、一体状のフェルール内に光を伝搬させながら光導波路からの 10 光の1つ以上の特性に作用を及ぼすための1つ以上の要素とを含む。光フェルール は、フェルールが接合用フェルールと接合されるときに、厚さ軸と直交する横軸に 沿うフェルールの平行移動、及び厚さ軸の周りのフェルールの回転を制御する1つ 以上の第1の位置合わせ特徴を含む。光フェルールは、フェルールが接合用フェルー ルと接合されるときに、厚さ軸に沿うフェルールの平行移動、横軸の周りのフェルー 15 ルの回転を制御する少なくとも1つの第2の位置合わせ特徴を含む。光フェルール の面は、厚さ軸に沿って、面の第1のセクションと面の第2のセクションとに区分 することができる。フェルールの第1のセクションは、受け入れ固定要素、光作用 要素、及び第1の位置合わせ特徴を含み、フェルールの第2のセクションは、第2 の位置合わせ特徴、及び接合されたフェルールに結合される光を通す光透過領域を 20 含む。いくつかの実施形態では、第1のセクションは、金型の第1の側部により成 型され、第2のセクションは、金型の第2の側部により成型され、金型分割線加工 物が、面の第1のセクションを面の第2のセクションから隔てる。分割線加工物は、 成型されたパーツにおいて金型の側部同士の位置合わせ不良又は接触不良により分 割線に生じた特徴である。加工物は、小さな段差又は成型ばりの形をとることがで 25 きる。 【0021】 29 図1Cは、金型の第1の側部161及び第2の側部162、並びに第1の金型側部 161と第2の金型側部162の間にある成型された材料170の断面図の一部分 を示している。成型された材料170が金型側部161、162の間の小さな隙間 に貫入した箇所に、ばり分割線加工物171が生じる。図1Dは、第1の金型側部 5 181と第2の金型側部182との間の成型材料190とともに、金型180の第 1の側部181及び第2の側部182の断面図の一部分を示している。成型材料1 90が金型側部181、182の間の小さな隙間に貫入した箇所に、ばり分割線加 工物191が生じる。金型の第2の側部が、第1の側部の垂直壁との僅かな位置合 わせ不良を伴う垂直壁を含み、成型された材料が金型側部181、182の間の小 10 さな隙間に貫入する箇所に、段差分割線加工物192が生じる。 【0025】 いくつかの実施形態では、金型の第1の側部201は、第1の金型特徴を成型する ように構成された単一の一体状の金型インサートであり、それにより、成型された フェルールにおける受け入れ固定要素、光作用要素、及び第1の位置合わせ特徴の 15 安定した正確な位置合わせを確実にする。 【0026】 第2の金型側部202は、フェルール300が接合用フェルールと接合されるとき に、厚さ軸123に沿うフェルール300の平行移動、第1の横軸121の周りの フェルール300の回転、及び第2の横軸122の周りのフェルール300の回転 20 を制御する少なくとも1つの第2の位置合わせ特徴314を成型するように構成さ れた少なくとも1つの金型特徴214bを含む。図3A〜図3Dに示されるフェ ルール300の例では、位置合わせ特徴314は、光フェルールの3つの機械的自 由度を制御する平坦面である。フェルール300を作るときに、金型側部201及 び202は、分割軸125に沿う金型側部201、202の相対運動により組み合 25 わされる。面214bは、第1及び第2の金型側部の相対運動の方向(分割軸12 5)と直角にし、平坦とし、金型側部同士の横位置合わせ不良の影響を受けないこ 30 とが好ましい。 【0029】 金型の分割線は、金型の第1及び第2の側部が組み合わさる、金型の縁の箇所であ る。成型工程中、金型の2つの側部の分割線が成型材料と接触する箇所で成型パー 5 ツの面に、分割線加工物が形成される。再び図2A及び図2Bを参照すると、第1 の金型側部201の面231aの縁が第2の金型側部202の面231bと接触す る箇所に、第1の分割線が生じる。この分割線は、面214aの縁が面214bに 接触する箇所まで連続する。第1の側部201の面232aの縁が第2の側部20 2の面231bに接触する箇所に、二次的な分割線が生じる。第1の分割線は、金 10 型の周面を一回りし、金型の半体同士を隔てており、周面分割線と呼ばれる。図2 A及び図2Bに示される2パーツ金型は、1つの周面分割線を有しており、周面分 割線内に配設された1つ以上の二次的な分割線を有することができる。 【0030】 面231aと面231bの間の分割線は、光フェルール300の周面の周りの分割 15 線加工物331を形成する。隔離プラグの面232aと面231bの間に、第2の 分割線加工物332が形成される。この例では、第2の分割線加工物332は、周 面分割線加工物331内に配設される。 【0031】 成型済みフェルールでは、各分割線加工物を閉じた形状とすることができるが、次 20 の加工又は成型済みフェルールの損傷によって、分割線加工物が部分的に除去され、 分割線加工物に隙間が生じることがある。例えば、図3A及び図3Bに示される成 型済みフェルール300並びに図5A及び図5Bに示される成型済みフェルール5 00は、成型材料の注入のために設けられるとともに成型後の次の加工工程で除去 されるランナー395、595を含む。概ね、周面分割線加工物は、一般にゲート 25 と呼ばれる注入位置を除いて、成型済みフェルール300、500の周面を取り囲 む。ランナー395、595の除去によって、周面分割線加工物に小さな隙間が生 31 じる。1つ以上の分割線加工物が、閉じた形状であるか又は開いた形状であるかに かかわらず、フェルールの面をフェルールの面の第1のセクションと、第1のセク ションとは反対側の第2のセクションとに区分する。 【0036】 5 いくつかの実施形態では、金型の第1の側部201は、フェルール300の接合端 にスペード部分318を形成するように構成された金型特徴218を含むことがで きる。スペード318は、光フェルール300が接合用フェルールと接合されると きに、スペード318が機械的自由度を著しく制御しないような十分な間隔を伴っ て、接合用光フェルールに対する光フェルール300の接合を容易にするように構 10 成することができる。いくつかの実施形態では、図3A〜図3Dに示すように、ピ ン312はスペード318から延びる。十分な間隔は、接合用フェルールのピン及 びソケットを受け入れるように構成された特徴313a、312の縁にあるばりを それぞれ許容するように、金型特徴213a、212によっても提供することでき る。いくつかの実施形態では、スペードの接合端はピンを含まなくてもよい(例え 15 ば、図5A〜図5Dを参照)。 【0046】 いくつかの実施形態では、金型特徴418が、光フェルール500のスペード51 8を成型するように構成される。スペード518は、光フェルール500が接合用 フェルールと接合されるときにスペード518が機械的自由度を著しく制御しない 20 ような十分な間隔を伴って、接合用光フェルールに対する光フェルール500の接 合を容易にするように構成することができる。十分な間隔は、接合用フェルールの スペードについて金型の第2の側部402の特徴419により提供することができ、 スペードの縁のばりを許容する。 32 別紙4 本願明細書の図面 【図1A】 【図1B】 33 【図1C】 【図1D】 34 【図2A】 【図2B】 35 【図3A】 【図3B】 36 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/07/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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